説明

成膜方法及び成膜装置

【課題】成膜装置の構成を複雑化させることなく、モフォロジーの良好な膜を形成可能で、かつ成膜装置の稼働効率を向上可能な成膜方法及び成膜装置を提供する。
【解決手段】成膜原料堆積チャンバー17内において、半導体基板28の表面に、成膜原料を溶媒中に溶解させることで形成される液状の成膜原料液を供給し、成膜原料液に含まれる溶媒を液体から気体に相変化させることにより、溶媒中に溶解している成膜原料を半導体基板28の表面に堆積させ、その後、成膜原料堆積チャンバー17とは異なる反応チャンバー18内において、加熱或いは反応試薬の添加により、半導体基板28の表面に形成された成膜原料を反応させることで、半導体基板28の表面に膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置(具体的には、半導体デバイス)の製造工程においては、半導体基板(被処理基板)上に絶縁膜等を堆積させる成膜方法が多用されている。該成膜方法では、一般に、成膜原料を搬送媒体(例えば、窒素等のキャリアガス)と共に反応チャンバー内に導入し、加熱等の手段による成膜原料の反応現象を利用して、膜の形成が行われる。
【0003】
従来の成膜方法では、成膜反応を半導体基板の成膜面のみに制限することは困難であり、成膜プロセス中に成膜装置の成膜チャンバー内でパーティクルと呼ばれる微粒子状態となって、半導体基板の成膜面に形成された膜上に突起状に付着したり、成膜チャンバーの内壁に付着したりする現象が発生していた。
【0004】
このようなパーティクルは、半導体基板の成膜面に形成された膜の表面の凹凸状態(「モフォロジー」という)を悪化させる原因となる。また、成膜チャンバーの内壁に付着したパーティクルは塊となって剥れて半導体基板上に付着することで、半導体装置の歩留まりの低下を引き起こす原因となっていた。
そこで不要なパーティクルの発生の抑制や、成膜チャンバー内壁の状態のモニター方法等が提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−293466号公報
【特許文献2】特開2007−129020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の成膜装置を用いて成膜する場合、成膜チャンバーの内壁に付着するパーティクルを減少させることは可能であるが、成膜装置が複雑化するため、コストが上昇してしまうという問題があった。
また、特許文献2に記載の成膜装置を用いて成膜する場合、成膜装置が成膜チャンバーの内壁の付着物(パーティクル)の状況を計測する光学的手段等を備えているため、装置が複雑化して、成膜装置のコストが上昇してしまうという問題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載の成膜装置及び成膜方法では、成膜チャンバーの内壁にパーティクルが付着するため、形成した膜上に粒子状の突起物等が形成され、該膜のモフォロジーが低下してしまうという問題があった。
さらに、特許文献2に記載の成膜装置及び成膜方法では、付着したパーティクルのクリーニングを、成膜装置を停止して定期的に実施する必要があるため、成膜装置の稼働効率が低下してしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、第1のチャンバー内において、被処理基板の成膜面に、成膜原料を溶媒中に溶解させることで形成される液状の成膜原料液を供給し、前記成膜原料液に含まれる前記溶媒を液体から気体に相変化させることにより、前記溶媒中に溶解している前記成膜原料を前記被処理基板の成膜面に堆積させる工程と、前記第1のチャンバーとは異なる第2のチャンバー内において、加熱或いは反応試薬の添加により、前記被処理基板の成膜面に形成された前記成膜原料を反応させることで、前記被処理基板の成膜面に膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする成膜方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の成膜方法によれば、成膜装置の構成を複雑化させることなく(言い換えれば、成膜装置のコストを増加させることなく)、モフォロジーの良好な膜を形成できる。
【0010】
また、膜の形成を行うチャンバー内に、成膜原料や膜自体の付着(残渣)が発生することを回避できるので、成膜装置内を常に清浄に保つことができる。これにより、成膜装置を停止して行うクリーニングの頻度を大幅に減らすことが可能となるので、成膜装置の稼働効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る成膜装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】図1に示す成膜原料堆積チャンバーの内部の構成を説明するための断面図である。
【図3A】本発明の第1の実施の形態に係る成膜方法を説明するための断面図(その1)である。
【図3B】本発明の第1の実施の形態に係る成膜方法を説明するための断面図(その2)である。
【図3C】本発明の第1の実施の形態に係る成膜方法を説明するための断面図(その3)である。
【図4】二酸化炭素の各相状態の温度と圧力の依存性を模式的に示した図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る成膜装置に設けられた原料堆積チャンバー及び基板加熱用ヒーターの断面図である。
【図6】二酸化炭素の圧力を変化させた際の二酸化炭素の密度の変化を測定した結果を示す図である。
【図7】二酸化炭素の温度を変化させた際の二酸化炭素の密度の変化を測定した結果を示す図である。
【図8】比較例の成膜装置に設けられた原料堆積チャンバー内の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の実施形態の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の成膜装置の寸法関係とは異なる場合がある。
【0013】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る成膜装置の概略構成を示す平面図である。
図1を参照するに、第1の実施の形態の成膜装置10は、成膜原料液調整器11と、除害手段12と、反応試薬供給器13と、基板投入機構14と、基板搬送手段15と、第1のチャンバーである成膜原料堆積チャンバー17と、図1には図示していない加熱手段である基板加熱用ヒーター(図2に示す基板加熱用ヒーター26)と、図1には図示していないシャワープレート(図2に示すシャワープレート31)と、第2のチャンバーである反応チャンバー18と、を有する。
【0014】
成膜原料液調整器11は、成膜原料を溶媒(液体)中に溶解させて濃度を調整するためのものである。成膜原料液調整器11は、成膜原料堆積チャンバー17と接続されており、成膜原料堆積チャンバー17に、成膜原料を所定の濃度に溶解した溶媒である成膜原料液を供給する。
除害手段12は、成膜原料堆積チャンバー17及び反応チャンバー18と接続されている。除害手段12は、成膜原料堆積チャンバー17及び反応チャンバー18から排出される余剰の溶媒や反応試薬等を成膜装置10の外部に排出する。
【0015】
反応試薬供給器13は、反応チャンバー18と接続されている。反応試薬供給器13は、反応チャンバー18に反応試薬の供給を行う。反応試薬としては、例えば、各種触媒、高分子化(重合)の開始剤、各種ガス(例えば、水素や酸素)等を用いることができる。
基板投入機構14は、複数枚の半導体基板(被処理基板)が入ったFOUP(Front Opening Unified Pod)等の密閉式容器を載置する部分である。
基板搬送手段15は、FOUP内に収納された半導体基板28を成膜原料堆積チャンバー17内に搬送したり、成膜原料堆積チャンバー17内の半導体基板28を反応チャンバー18に搬送したり、反応チャンバー18内に載置された半導体基板28をFOUP内に回収したりするためのロボットアームである。
【0016】
図2は、図1に示す成膜原料堆積チャンバー内部の構成を説明するための断面図である。図2において、図1に示す成膜装置10と同一構成部分には同一符号を付す。
図2を参照するに、成膜原料堆積チャンバー17は、成膜原料液供給孔22と、排気孔23とを有する。
成膜原料液供給孔22は、成膜原料堆積チャンバー17のうち、成膜原料堆積チャンバー17内に形成された空間21に露出された底面17aを構成する部分を貫通するように形成されている。成膜原料液供給孔22は、成膜原料液を成膜原料堆積チャンバー17内に形成された空間21に供給するための孔である。
【0017】
排気孔23は、成膜原料堆積チャンバー17の側壁を貫通するように形成されている。排気孔23は、成膜原料堆積チャンバー17内に導入された溶媒を成膜原料堆積チャンバー17の外部に排出するための孔である。成膜原料堆積チャンバー17は、大気圧以上の高圧状態に耐えられるような肉厚のステンレス鋼等で形成されている。
【0018】
上記構成とされた成膜原料堆積チャンバー17は、半導体基板28を収容し、かつ成膜原料を溶媒中に溶解させることで形成される液状の成膜原料液が供給され、成膜原料液に含まれる溶媒を液体から気体に相変化させることにより、溶媒中に溶解している成膜原料を半導体基板28の表面28a(成膜面)に堆積させるためのチャンバーである。半導体基板28の表面28a(成膜面)は、成膜原料堆積チャンバー17内において、下向きになるように載置される。
【0019】
図2を参照するに、基板加熱用ヒーター26は、半導体基板28を固定するためのステージの機能を有し、空間21に露出された成膜原料堆積チャンバー17の天井部分17bに設けられている。
基板加熱用ヒーター26は、半導体基板28の裏面28bと接触する基板配置面26aを有する。基板配置面26aに固定された半導体基板28の表面28a(成膜面)は、成膜原料液供給孔22と対向するように配置される。基板加熱用ヒーター26は、基板配置面26aに固定された半導体基板28を所定の温度に加熱するためのものである。
基板加熱用ヒーター26は、基板配置面26a以外の側面および上面には断熱材や冷却媒体の循環チューブ等を配置し、成膜原料堆積チャンバー17の内壁に熱が伝わるのを防止する構成となっている。
【0020】
シャワープレート31は、半導体基板28の表面28aと対向するように、成膜原料堆積チャンバー17の底面17aと半導体基板28の表面28aとの間に配置されている。
半導体基板28の表面28aには、シャワープレート31を介して、成膜原料液が供給される。
【0021】
反応チャンバー18は、除害手段12及び反応試薬供給器13と接続されている。反応チャンバー18は、成膜原料堆積チャンバー17とは異なるチャンバーであり、加熱或いは反応試薬の添加により、半導体基板28の表面28aに形成された成膜原料(成膜原料堆積チャンバー17内で形成される成膜原料)を反応させることで、半導体基板28の表面28aに膜を形成する。
【0022】
図3A、図3B、及び図3Cは、本発明の第1の実施の形態に係る成膜方法を説明するための断面図である。なお、図3A、図3B、及び図3Cでは、図2に示す半導体基板28の上下を反転させた状態で図示する。
ここで、図3A、図3B、及び図3Cを参照して、図2に示す成膜原料堆積チャンバー17、基板加熱用ヒーター26、及びシャワープレート31を備えた成膜装置10を用いて行なう第1の実施の形態の成膜方法について説明する。
【0023】
始めに、図3Aに示す工程では、反応工程において形成される膜39(図3C参照)が所望の厚さとなるように、溶媒34(液体)中に所定の濃度で成膜原料35を溶解させた成膜原料液33を準備し、次いで、成膜原料液33を半導体基板28の表面28aに接触させる。
成膜原料35を溶解する溶媒34(液体)としては、二酸化炭素(CO)を用いることができる。二酸化炭素は、三重点(−56.6℃、0.52MPa) 以上の温度及び圧力において、液体化することが知られている(後述する図4参照)。
【0024】
成膜原料35としては、例えば、スチレンモノマーを例示できる。溶媒34が液状の二酸化炭素の場合、成膜原料液33に含まれる成膜原料35の濃度は、モル分率で5〜50%に設定することが好ましい。
具体的な成膜原料35の溶媒中の濃度は、成膜速度や堆積したい膜厚に応じて最適となるように設定すればよい。成膜原料35を溶媒34に高濃度で溶解させることで、後述する図3Bに示す工程において、半導体基板28の表面28aに所望の厚さの成膜原料35を短時間で堆積させることができる
【0025】
図4は、二酸化炭素の各相状態の温度と圧力の依存性を模式的に示した図である。
ここで、図4を参照して、溶媒34となる二酸化炭素について説明する。
図4を参照するに、図3において黒丸(図3に示すA)で示す液体状態の二酸化炭素は、温度変化或いは圧力変化に伴い、液体状態から気体状態に相変化する。これに伴い、二酸化炭素の密度は急激に変化することになる。
【0026】
成膜原料35の媒体(溶媒34も含む)への溶解度は、該媒体の密度と相関がある。このため、急激な密度変化は、急激な溶解度の変化を引き起こし、媒体中に溶解していた成膜原料35を一気に(かつ瞬時に)析出させることを可能にする。
ここで、相変化する前の溶媒34は、通常、高い溶解能力を有しているため、成膜原料35の溶媒34中でのモル分率は、気体を媒体とした場合よりはるかに高い。
したがって、多量の成膜原料35を析出物として半導体基板28の表面28aへ堆積させることができる。
【0027】
このような多量の成膜原料35を一気に半導体基板28の表面28aに堆積させることは、気体状態や超臨界状態での媒体を用いた原料供給では不可能であり、最も溶解度の高い液体状態から最も溶解度の低い気体状態へ媒体を相変化させることによってのみ可能となる。
本発明では、この液体状態から気体状態への媒体の相変化を利用して、半導体基板28の表面28aへの成膜原料35の付着を行う。なお、以下の説明では、溶媒34として液状の二酸化炭素を用い、加熱によって相変化を起こす場合を例に挙げて説明する。
【0028】
次いで、図3Bに示す工程では、液体状態とされた二酸化炭素中に所定の濃度で成膜原料35を溶解させた成膜原料液33を基板加熱用ヒーター26によって加熱することによって相変化させ、成膜原料液33中に溶解していた成膜原料35を一気に析出させる。これにより、半導体基板28の表面28aに所望の厚さに応じた成膜原料35を堆積させる。
これにより、成膜原料液33は、半導体基板28の表面28aに堆積した成膜原料35と、成膜原料35と接触する気体37である二酸化炭素とに分離される。
【0029】
本発明では、成膜原料堆積チャンバー17内において、半導体基板28の成膜面(表面28a)が下向きになるように天井側に載置されている。この構成にすることにより、加熱されて気体状態となった二酸化炭素を半導体基板の成膜面近傍にのみ留めることが可能となる。これにより、析出した成膜原料が成膜原料堆積チャンバーの内壁に付着することを抑制しつつ、半導体基板上に選択的に堆積することが可能となる。
【0030】
なお、本発明における「成膜原料35を堆積させる」とは、従来の一般的な成膜装置(例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置)等で実施される、成膜原料の熱反応等に伴う最終的な膜の堆積ではなく、反応前の状態での成膜原料35の付着を意味している。
したがって、次の作業用の半導体基板28を成膜原料堆積チャンバー17内に載置して、成膜原料35を含有した溶媒を供給した時点で、析出によって成膜原料堆積チャンバー17の内壁にわずかに付着している成膜原料35も再度溶解して回収される。すなわち成膜原料堆積チャンバー17の内壁のクリーニングが同時に実施されることになる
【0031】
次いで、図3Cに示す工程(反応工程)では、半導体基板28の表面28aに成膜原料35を堆積させた後、成膜原料35が堆積した半導体基板28を成膜原料堆積チャンバー17から取り出し、その後、取り出した半導体基板28を反応チャンバー18内に移動させる。
その後、反応試薬の添加、或いは加熱によって、堆積させた成膜原料35を半導体基板28の表面28aで反応させることで、半導体基板28の表面28aに膜39を形成する。上記図3Cに示す工程の処理は、反応チャンバー18内の圧力が大気圧状態または減圧下で行うことができる。
【0032】
本実施の形態における成膜方法は、図1に示す成膜装置10を用い、成膜反応を互いに独立した原料堆積工程(図3Bに示す工程)と、反応工程(図3Cに示す工程)との2段階の工程に分けて行うことを特徴とする。
【0033】
本実施の形態の成膜装置を用いた成膜方法によれば、成膜原料堆積チャンバー17内において、半導体基板28の表面28aにのみ成膜原料35を堆積させ、その後、反応チャンバー18内において、半導体基板28の表面28aに堆積した成膜原料35を半導体基板28上のみで反応させる。これにより、成膜装置10の構成を複雑化させることなく(言い換えれば、成膜装置10のコストを増加させることなく)、成膜原料堆積チャンバー17及び反応チャンバー18内におけるパーティクルの発生を抑制することが可能となり、モフォロジーの良好な膜39を形成できる。
【0034】
また、膜39の形成を行う反応チャンバー18内には、成膜原料がすでに堆積した状態の半導体基板28が移動および載置されるので、成膜原料35や膜39自体の付着(残渣)が発生することを回避できるので、反応チャンバー18内を常に清浄に保つことができる。
また、成膜原料堆積チャンバー17の天井側に成膜面を下にして半導体基板28を載置する構造により、成膜原料堆積チャンバー17の内壁に析出した成膜原料35の付着を抑制できる。さらに、成膜原料堆積チャンバー17の内壁にわずかに付着した成膜原料35も、次の作業の際に溶媒中に再溶解させて除去することができる。
これにより、成膜装置10を停止して行うクリーニングの頻度を大幅に減らすことが可能となるので、成膜装置10の稼働効率を向上させることができる。
【0035】
(第2の実施の形態)
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る成膜装置に設けられた成膜原料堆積チャンバー及び基板加熱用ヒーターの断面図である。
第2の実施の形態の成膜装置は、図2に示す構造体(具体的には、枚葉式の成膜原料堆積チャンバー17、及び基板加熱用ヒーター26)の替わりに、図5に示す構造体(具体的には、成膜原料堆積チャンバー41、及び基板加熱用ヒーター42)を設けた以外は、第1の実施の形態の成膜装置10と同様な構成とされている。
【0036】
成膜原料堆積チャンバー41は、バッチ式のチャンバーであり、鉛直方向に複数の半導体基板28が所定の間隔で載置されている。成膜原料堆積チャンバー41には、成膜原料液供給孔22が形成されており、成膜原料堆積チャンバー41の上部には、排気孔23が形成されている。
基板加熱用ヒーター42は、成膜原料堆積チャンバー41の外周に配置されている。基板加熱用ヒーター42は、成膜原料堆積チャンバー41を介して、成膜原料堆積チャンバー41内に収容された複数の半導体基板28を所定の温度に加熱する。
【0037】
上記バッチ式の成膜原料堆積チャンバー41を使用して成膜を行う場合、個々の半導体基板28の表面28a近傍の温度のみを変化させることが困難になるだけでなく、成膜原料堆積チャンバー41全体の温度を急速かつ正確に変化させることも困難となる。
そこで、温度変化に基づく相変化によって成膜原料を堆積させるのでなく、図6に示すような圧力変化に基づいた密度変化を利用して、成膜原料を堆積させる。
【0038】
図6は、二酸化炭素の圧力を変化させた際の二酸化炭素の密度の変化を測定した結果を示す図である。
図6を参照するに、温度が20℃の液体状態の二酸化炭素は、圧力が5.8MPa近傍で気体状態に変化し、それに伴い、密度が急激に減少する。同様に、温度が25℃の液体状態の二酸化炭素は、圧力が6.5MPa近傍で気体状態に変化し、それに伴い、密度が急激に減少する。
【0039】
したがって、所定の温度(例えば、20℃)で高圧状態(例えば、6MPa)に維持した二酸化炭素の圧力を少し下降(例えば、5.5MPaまで減圧)させて、液体から気体への相変化を引き起こすことで、半導体基板28の表面28aに成膜原料を堆積させることができる。
【0040】
この場合、成膜原料堆積チャンバー41内全体で成膜原料の析出が起こるので、半導体基板28の表面28a以外の部分への付着も発生することになる。半導体基板28の表面28a以外に付着した成膜原料は、次の作業時に液体状態の二酸化炭素を導入した時点で再溶解が発生するため、成膜原料堆積チャンバー41の内壁がクリーニングされると共に、成膜原料の再利用が可能となる。
【0041】
つまり、第2の実施の形態の成膜方法及び成膜装置によれば、反応チャンバー18において成膜原料の反応を別途実施するために、成膜原料堆積チャンバー41の内壁に付着するのは未反応状態の成膜原料であり、このような成膜原料堆積チャンバー41の内壁のクリーニングと、成膜原料の回収が可能となる。
なお、半導体基板28の表面28aへの成膜原料の堆積後には、別途設けたバッチ式の反応チャンバー(図示せず)に半導体基板28を移送し、重合反応を実施することで所定の膜を形成する。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0043】
(実施例)
次に、主に、図1〜図3を参照して、第1の実施の形態で説明した成膜装置10を用いて、半導体基板28上にポリマー膜(図3Cに示す膜39の一例)を形成する場合を例に挙げて、より具体的な成膜方法について説明する。なお、ポリマー膜の用途は層間絶縁膜であり、絶縁性に加えて、低誘電率性を有する膜の場合には、配線間での寄生容量の低減効果が得られる。
【0044】
始めに、図1に示す成膜装置10の基板投入機構14に半導体基板28をセットし、その後、基板搬送手段15によって、成膜原料堆積チャンバー17の内部(空間21)に搬送した。
本実施例では、成膜装置10として枚葉式の成膜原料堆積チャンバー17を用いるため、成膜原料堆積チャンバー17内には1枚の半導体基板28を、成膜面(表面28a)が下向きになるようにセットした。
【0045】
これにより、図2に示すように、成膜原料堆積チャンバー17内において、半導体基板28の裏面28bが基板加熱用ヒーター26の基板載面26aと接触すると共に、シャワープレート31を介して、半導体基板28の表面28aと成膜原料堆積チャンバー17の底面17aとが対向する。
なお、基板加熱用ヒーター26と成膜原料堆積チャンバー17との間には、断熱材や冷却水の循環手段(図示せず)等を設けることで、基板加熱用ヒーター26の熱が成膜原料堆積チャンバー17に伝導しないようにした。
【0046】
次いで、成膜原料を溶解させる溶媒(液体)として液状の二酸化炭素を準備し、該液状の二酸化炭素に、ポリマー膜の成膜原料となるモノマー及び重合開始剤を溶解させた。成膜原料の二酸化炭素中の濃度は、モル分率で5〜50%の範囲とすることが好ましい。
上記モノマーとしては、例えば、ビニル基またはエチニル基を含み、ビアダマンタン、ジアマンタン等のカゴ構造を有するものを用いることができる。また、上記モノマーとしては、市販品を用いることが可能であるが、公知の方法で合成したモノマーを用いてもよい。
【0047】
モノマーは、重合開始剤がビニル基またはエチニル基と反応(重合反応)することで、最終的なポリマー膜が形成される。重合反応としては、例えば、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、開環重合、重縮合等を挙げることが可能であるが、これらの重合に限定はされない。
【0048】
使用するモノマーおよび重合開始剤は所定の濃度(例えばモル分率で30%)となるように、成膜原料液調整器11内で液体状態の二酸化炭素に溶解させた。
これにより、成膜原料液33として所定の濃度のモノマー及び重合開始剤を溶解した液体状態の二酸化炭素を形成した。以下、「所定の濃度のモノマー及び重合開始剤を溶解した液体状態の二酸化炭素」を、単に「成膜原料液33」ということがある。
【0049】
次いで、成膜原料液供給孔22を介して、成膜原料堆積チャンバー17内(空間21)に、成膜原料液33を導入し、成膜原料堆積チャンバー17内の二酸化炭素の圧力を所定の値(本実施の形態の場合、6.5MPa)に調整した。このときの二酸化炭素の温度は、20℃(室温状態)に設定した。
このとき、成膜原料堆積チャンバー17内に導入された成膜原料液33は、成膜原料堆積チャンバー17の底面17a側から、シャワープレート31を介して、半導体基板28の表面28aに供給される(図3Aに示す工程)。
【0050】
その後、成膜原料堆積チャンバー17の二酸化炭素の圧力が所定の値(この場合、6.5MPa)で安定した後、基板加熱用ヒーター26により、半導体基板28の温度が30℃となるように加熱した。このときの、二酸化炭素の温度変化に対する二酸化炭素の密度を測定した結果を図7に示す。
【0051】
図7は、二酸化炭素の温度を変化させた際の二酸化炭素の密度の変化を測定した結果を示す図である。
図7を参照するに、液体状態の二酸化炭素は、温度が約25℃以上となったところで気体状態に変化し、それに伴い、密度が急激に減少する。この相変化によって、液状の二酸化炭素に溶解していたモノマー及び重合開始剤の一部は、半導体基板28の表面28aに付着する(図3Bに示す工程)。
また、この温度変化に伴う密度変化は、基板加熱用ヒーター26により加熱された半導体基板28の表面28a近傍でのみ生じる(図2参照)。
【0052】
本実施例の成膜装置10では、成膜原料堆積チャンバー17の天井部分17aに、半導体基板28の表面が成膜原料堆積チャンバー17の底面17aと対向するように配置している。
このため、図2に示すように、半導体基板28の表面28a近傍の気体状態の二酸化炭素Bと、半導体基板28から少し離れた位置での液体状態の二酸化炭素C(相変化温度以下の領域)とが相分離した状態となる。
【0053】
なお、実際には、気体状態の二酸化炭素Bと液体状態の二酸化炭素Cとの境界領域D(図2参照)では密度が段階的に変化しているため、気体状態の二酸化炭素Bと液体状態の二酸化炭素Cとの明確な界面は定義しにくい。成膜原料35の析出は、気体状態の二酸化炭素Bの部分のみで発生する(図3Bに示す工程)ことになるので、半導体基板28の表面28a以外の部分への不必要な成膜原料35の析出を最低限に抑えることができる。
【0054】
図8は、比較例の成膜装置に設けられた成膜原料堆積チャンバー内の概略構成を示す断面図である。図8において、図2に示す構造体と同一構成部分には、同一符号を付す。
ここで、図8を参照して、本実施例との比較のために、図8に示す従来の構成、具体的には、基板加熱用ヒーター26が成膜原料堆積チャンバー45の底面45aに設置された従来の成膜装置(例えば、従来のCVD装置)を用いて成膜した場合について説明する。半導体基板28は成膜面(表面28a)を上にして、基板加熱用ヒーター26上に載置される。
【0055】
この場合、半導体基板28の表面28aの近傍で、相変化して気体状態になった二酸化炭素Bは、密度が低いため、成膜原料堆積チャンバー45の天井部分45bへ向かって上昇した。これに伴い、熱も成膜原料堆積チャンバー45の天井部分45bへ移動するため、半導体基板28の表面28a近傍のみを高温に保つことが困難になった。
【0056】
この結果、基板加熱用ヒーター26の基板配置面26aに置いた半導体基板28の表面28aのみならず、成膜原料堆積チャンバー45の天井部分45bと半導体基板28との間に配置されたシャワープレート31の表面等の領域でも成膜原料35(図3B参照)が析出してしまった。
これにより、成膜原料堆積チャンバー45内において、析出した成膜原料が成膜原料堆積チャンバー41の内壁に付着すると共に、剥れ等によって半導体基板の成膜面(表面28a)にも付着してモフォロジーの悪化することが確認できた。
【0057】
一方、本実施例では、半導体基板28の表面28a(成膜面)が下向きになるように、成膜原料堆積チャンバー17の天井部分17b側に半導体基板28を配置することにより(図2参照)、成膜原料35が析出する領域を半導体基板28の表面28a近傍に限定することができる。
【0058】
なお、本実施例において、わずかながら半導体基板28の表面28a以外の部分へ付着した成膜原料35は、次の半導体基板28の成膜作業時に液体状態の二酸化炭素を導入した時点で再溶解が発生するため、クリーニングされると共に、成膜原料35の再利用が可能となる。
【0059】
本実施例では、成膜原料の反応を成膜原料堆積チャンバー17とは異なる別のチャンバー(反応チャンバー18)を用いて別途実施するため、成膜原料堆積チャンバー17内に付着するのは未反応状態の成膜原料であるので、このようなクリーニングと、成膜原料35の回収が可能となる。
また、半導体基板28の表面28aに成膜原料35を堆積させる工程では、反応工程が実施されていないので、成膜原料堆積チャンバー17内では反応に起因したパーティクルは生じない。
【0060】
次いで、半導体基板28の表面28aへの成膜原料35(この場合、モノマー及び重合開始剤)の付着の完了後に、基板加熱用ヒーター26による加熱を停止させると共に、成膜原料堆積チャンバー17からモノマー及び重合開始剤を溶解した液状の二酸化炭素を排出させて、成膜原料堆積チャンバー17内の圧力を大気圧まで減圧した。
モノマー及び重合開始剤が表面28aに付着した半導体基板28は、その後、基板搬送手段15により反応チャンバー18に搬送した。
次いで、反応チャンバー18内で、所定の温度(例えば、50〜150℃)に半導体基板28を加熱させて、モノマーを重合させることで、半導体基板28の表面28aにポリマー膜を形成した(図3Cに示す工程)。
【0061】
このとき、反応チャンバー18内は酸素による重合開始剤の不活性化を抑制するために、不活性ガス(例えば、窒素やアルゴン等)の雰囲気下とすることが好ましい。
ただし、使用するモノマーや重合開始剤の種類によっては、通常の空気雰囲気化で反応させてもよい。
また、このとき、反応試薬供給系から反応(本実施例の場合、ポリマー化)を促進させるような試薬(例えば、AIBN:アゾビスイソブチロニトリル)をさらに添加してもよい。
【0062】
本実施例の成膜方法及び成膜装置によって形成したポリマー膜は、表面のモフォロジーが良好(粒子状の突起物等が無い状態)であり、また、膜形成を行った後の反応チャンバー18の内壁には、ポリマーの付着(残渣)が見られなかった。
すなわち、本発明の成膜方法及び成膜装置を実施することにより、半導体基板上28の表面29aに付着した成膜原料35のみの反応が進行して、ポリマー膜が形成され、成膜原料堆積チャンバー17内でのパーティクルの発生を防止できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、被処理基板の成膜面への成膜方法及び成膜装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
10…成膜装置、11…成膜原料液調整器、12…除害手段、13…反応試薬供給器、14…基板投入機構、15…基板搬送手段、17,41,45…成膜原料堆積チャンバー、17a,45a…底面、17b,45b…天井部分、18…反応チャンバー、21…空間、22…成膜原料液供給孔、23…排気孔、26,42…基板加熱用ヒーター、26a…基板配置面、28…半導体基板、28a…表面、28b…裏面、31…シャワープレート、33…成膜原料液、34…溶媒、35…成膜原料、37…気体、39…膜、B…気体状態の二酸化炭素、C…液体状態の二酸化炭素、D…境界領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のチャンバー内において、被処理基板の成膜面に、成膜原料を溶媒中に溶解させることで形成される液状の成膜原料液を供給し、前記成膜原料液に含まれる前記溶媒を液体から気体に相変化させることにより、前記溶媒中に溶解している前記成膜原料を前記被処理基板の成膜面に堆積させる工程と、
前記第1のチャンバーとは異なる第2のチャンバー内において、加熱或いは反応試薬の添加により、前記被処理基板の成膜面に形成された前記成膜原料を反応させることで、前記被処理基板の成膜面に膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記溶媒は、液状の二酸化炭素であることを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記相変化は、前記成膜原料液を加熱、或いは前記第1のチャンバー内の圧力を減圧させることで行なうことを特徴とする請求項1または2記載の成膜方法。
【請求項4】
前記第1のチャンバーの底面と前記被処理基板の成膜面とが対向するように、前記第1のチャンバーの天井部分に前記被処理基板を固定し、
前記第1のチャンバーの底面側から前記被処理基板の成膜面に、前記成膜原料液を供給することを特徴とする請求項1ないし3のうち、いずれか1項記載の成膜方法。
【請求項5】
前記成膜原料を反応させる際の前記第2のチャンバー内の圧力は、大気圧或いは減圧であることを特徴とする請求項1ないし4のうち、いずれか1項記載の成膜方法。
【請求項6】
前記溶媒中には、モル分率で5〜50%の濃度範囲の前記成膜原料が溶解されていることを特徴とする請求項1ないし5のうち、いずれか1項記載の成膜方法。
【請求項7】
成膜面を有した被処理基板を収容し、成膜原料を溶媒中に溶解させることで形成される液状の成膜原料液が供給され、前記成膜原料液に含まれる前記溶媒を液体から気体に相変化させることにより、前記溶媒中に溶解している前記成膜原料を前記被処理基板の成膜面に堆積させる第1のチャンバーと、
前記第1のチャンバーとは異なるチャンバーであり、加熱或いは反応試薬の添加により、前記被処理基板の成膜面に形成された前記成膜原料を反応させることで、前記被処理基板の成膜面に膜を形成する第2のチャンバーと、
を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
前記第1のチャンバーの底面と前記被処理基板の成膜面とが対向するように、前記被処理基板が前記第1のチャンバーの天井部分に固定され、
前記第1のチャンバーは、該第1のチャンバーの底面側に、前記第1のチャンバー内に配置された前記被処理基板の成膜面に対して、前記成膜原料液を供給する成膜原料液供給孔を有することを特徴とする請求項7記載の成膜装置。
【請求項9】
前記第1のチャンバーの天井部分に、前記被処理基板を加熱する加熱手段を設け、
前記被処理基板は、前記第1のチャンバーの底面と前記被処理基板の成膜面とが対向するように前記加熱手段に固定されることを特徴とする請求項8記載の成膜装置。
【請求項10】
前記被処理基板の成膜面と前記第1のチャンバーの底面との間に、シャワープレートを設けたことを特徴とする請求項8または9記載の成膜装置。
【請求項11】
前記第1のチャンバー内には、所定の間隔で鉛直方向に複数の前記被処理基板が配置されており、
前記第1のチャンバーの下部に、前記成膜原料液を供給する成膜原料液供給孔を有することを特徴とする請求項7記載の成膜装置。
【請求項12】
前記第1のチャンバーの外側に、前記第1のチャンバーを介して、複数の前記被処理基板を加熱する加熱手段を設けたことを特徴とする請求項11記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−71257(P2012−71257A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218133(P2010−218133)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(500174247)エルピーダメモリ株式会社 (2,599)
【Fターム(参考)】