説明

排気ガス再循環を用いた大型ターボチャージャ搭載2ストローク・ディーゼル・エンジン

【課題】ターボチャージャ搭載2ストローク・ディーゼル・エンジンにおいて、ターボチャージャのエンジンへの適合を損なうことなく、可変排気ガス再循環率で動作可能する。
【解決手段】作動、停止、または可変排気ガス再循環率で動作させることができる、排気ガス再循環システム30、32を装備している、クロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク・ディーゼル・エンジン1に関おいて、ターボチャージャ16を、特にターボチャージャ16のコンプレッサ18をすべての動作条件に適正に適合させるために、制御式バルブ42を含むシリンダバイパス流路40によって、排気ガス再循環を用いるまたは用いない動作モードのエンジン1にターボチャージャ16を適合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク内燃ピストンエンジン、好ましくは排気ガス浄化システムを備えたディーゼルエンジン、特に排気ガス再循環システムを備えたクロスヘッド型大型2ストローク・ディーゼル・エンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロスヘッド型大型2ストロークエンジンは通例、大型船舶の推進システムでまたは発電所のエンジンとして使用される。排気要件は、特に窒素酸化物(NO)レベルに関して満足することが困難であったし、ますます困難になるであろう。
【0003】
排気ガス再循環は、燃焼エンジンのNO低減を補助することが公知である対策である。
国際海事機関(IMO)第II階層および第III階層排気規格などの各種の排気要件を満足するために、スイッチのオンおよびオフが可能であるまたは排気ガス再循環率が可変である、クロスヘッド型大型2ストローク・ディーゼル・エンジン中の排気ガス再循環システムを用いて動作できることが好都合であろう。
【0004】
クロスヘッド型大型2ストロークエンジンのターボチャージャは、ターボチャージャがいずれのエンジン動作環境下でもチョークまたはサージしないようにするために、およびターボチャージャが要求される掃気圧力および掃気効率を提供するために動作するように、エンジンに適合させる必要がある。コンプレッサの特徴によってターボチャージャがその最大効率近くで動作するか否かが決定されるが、十分なサージマージンによってコンプレッサの安定性が確保される。サージマージンは過渡的な、たとえば高速のエンジン負荷軽減の間に、または異常状況の間に、ターボチャージャ動作点がコンプレッサマップのサージラインに接近可能なときに必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし大型2ストローク・ディーゼル・エンジンの排気ガス再循環率がたとえば40%から0%に変化したとき、ターボチャージャのタービンへの入口における排気ガスの質量流は約30から40%増加するであろう。このようにしてターボチャージャが40%排気ガス再循環率でエンジンに適合している場合、排気ガス再循環が停止されたときに掃気圧力にミスマッチが生じる。今日使用されているターボチャージャの羽根付きコンプレッサは、動作が排気ガス再循環を用いた動作から排気ガス再循環を用いない動作に切換えられたときに発生する流量および掃気圧力の変化を扱うために必要であるフルレンジを有していないだけである。
【0006】
このようにして、ターボチャージャのエンジンへの適合を損なうことなく、可変排気ガス再循環率で動作可能であるターボチャージャ搭載2ストローク・ディーゼル・エンジンに対する要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本背景において、本発明の目的は、可変排気ガス再循環率でおよび/または作動しているもしくは停止している排気ガス再循環システムを用いて動作可能である、大型ターボチャージャ搭載2ストローク・ディーゼル・エンジンを提供することである。
【0008】
本目的はクロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク燃焼エンジンを提供することによって達成され、該エンジンは一列に配列された複数のシリンダと、排気ガスレシーバであって、個々のシリンダの排気からの圧力パルスを均等にして排気ガスレシーバ出口で実質的定圧を提供するための大容量を備えた排気ガスレシーバと、排気ガスレシーバ出口をターボチャージャのタービンに連結する排気コンジットと、タービンによって駆動されるターボチャージャのコンプレッサであって、掃気冷却器を含む掃気路を介して掃気を掃気レシーバまで送達するコンプレッサと、低エンジン負荷条件でタービンを補助するための、掃気路と結合された補助ブロワと、該掃気レシーバはシリンダに連結され、個々のシリンダへの入口流によって引き起こされる圧力サージを低下させるために大容量を有し、排気ガスの一部を掃気中に給送するためのブロワまたはコンプレッサを含む排気ガス再循環流路と、高温掃気の一部を掃気冷却器の前からターボチャージャのタービンに給送するためのシリンダバイパス流路であって、シリンダバイパス流路を通じて流量を制御するための制御可能なバルブを含むシリンダバイパス流路とを備える。
【0009】
動作の間にターボチャージャのコンプレッサからの高温掃気をターボチャージャのタービンに直接流すシリンダバイパス流路に、さもなければ空気冷却器内で失われるであろう排気ガス再循環付加エネルギを提供することにより、質量流がターボチャージャのタービンおよびタービンのみに提供され、このことがターボチャージャの動作点を排気ガス再循環が作動していないときの動作点に向かって(すなわちより高い掃気圧力に向かって)移動させる。このことによりターボチャージャは排気ガス再循環を用いた動作モードおよび排気ガス再循環を用いない動作モードの両方でエンジンと良好に適合して、両方の動作モードで許容される掃気圧力を提供する。
【0010】
所望の効果を得るためには、シリンダ・バイパス・ラインにおけるガス流の比エネルギは、ガス流がタービンに達する前に一定のままであることが必須であるか、または上昇することさえ必須である。エネルギのいかなる消失も、所望の効果を低下させるか、または所望の効果を完全に排除さえするであろう。
【0011】
実施形態において、電子制御ユニットは排気ガス再循環率の上昇と共に前記バルブの開口を増大させるように、またはその反対となるように構成されているので、ターボチャージャはエンジンが動作するすべてのEGR率においてエンジンに適合している。
【0012】
実施形態において、排気ガス再循環流路を作動または停止させることができる。
好ましくはシリンダバイパス流路内のバルブは、排気ガス再循環路が作動しているときに開いているか、または部分的に開いている。
【0013】
実施形態において、シリンダバイパス流路内のバルブは、排気ガス再循環路が作動しているときに開いているか、または部分的に開いている。
別の実施形態において、クロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク燃焼エンジンは、排気ガス循環率を制御するように構成された電子制御ユニットを備えているので、排気ガス再循環流路内のブロワを制御することによって循環率を変化させることができ、該電子制御ユニットは、排気ガス再循環率、エンジン負荷および燃焼チャンバ構成要素に対する許容される熱負荷に対してバルブの開口を制御するように構成されている。シリンダ・バイパス・バルブの許容される開口は、3つの要素を両立させることとなるであろう。
【0014】
好ましくは、電子制御ユニットは、排気ガス再循環率の上昇と共にバルブの開口を増大させるようにおよびその反対となるように、ならびにエンジン負荷の低下と共にバルブの開口を増大させるように構成されているのは、許容される熱負荷までのマージンが上昇し、より低いエンジン負荷においてシリンダ・バイパス・バルブにわたる駆動圧の差が減少するためである。上の組合せは、各種の動作モードについてこのことを考慮するために、シリンダバイパスの開口が事前にプログラムされる必要がある、および事前にプログラムされていることを意味する。
【0015】
実施形態において、クロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク燃焼エンジンは、排気ガス再循環率を制御するように構成された電子制御ユニットをさらに備え、該電子制御ユニット(50)は、排気ガス循環率に関しておよびエンジン負荷に関して、シリンダバイパス流路(40)を通じての流量を制御するように構成されている。
【0016】
実施形態において、排気ガス再循環路およびシリンダバイパス流路は、熱交換器を介して熱を交換する。このように最大利用可能エネルギは回収されて、タービンに伝達される。
【0017】
上の目的は、シリンダ・バイパス・コンジットおよび排気ガス再循環システムを有するクロスヘッド型大型2ストロークターボチャージャ搭載ディーゼルエンジンを動作させる方法を提供することによっても達成され、該方法は、排気ガスが再利用されるときに掃気をシリンダにバイパスさせて、排気ガスが再利用されないときに掃気をシリンダにバイパスさせないことを備える。
【0018】
上の目的は、排気ガス再循環率およびエンジン負荷について、掃気の流量がシリンダをバイパスするように制御することを含む、シリンダ・バイパス・コンジットおよび排気ガス再循環システムを有するクロスヘッド型大型2ストロークターボチャージャ搭載ディーゼルエンジンを動作させる方法を提供することによっても達成される。
【0019】
本発明による大型2ストローク内燃ディーゼルエンジンおよび大型2ストロークターボチャージャ搭載ディーゼルエンジンを動作させる方法のさらなる目的、特色、利点および特性は、詳説された記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本記載の以下の詳細な部分において、本発明は、図面で示した例示的な実施形態を参照して、より詳細に説明されるであろう。
【図1】本発明の例示的な実施形態の概略図である。
【図2】図1の実施形態によるエンジンの別の概略図である。
【図3】本発明によるエンジンの別の例示的な実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明によるクロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク・ディーゼル・エンジンおよびクロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク・ディーゼル・エンジンを動作させる方法は、以下の例示的な実施形態によって記載されるであろう。
【0022】
図1および2は、大型2ストローク・ディーゼル・エンジン1の第1の例示的な実施形態を示す。エンジン1はたとえば、外航船の主エンジンとしてまたは発電所の発電機を動作させるための定置エンジンとして使用され得る。エンジンの総出力はたとえば2,000から110,000kWの範囲であり得る。
【0023】
エンジン1は、相互に隣接して一列に配列された複数の(通例は5から14の間の)シリンダ2を装備している。各シリンダ2は往復ピストン3を装備している。ピストン3は、ピストンロッド5クロスヘッド6および連結ロッド7を介してクランクシャフト4に連結されている。クロスヘッド6は、誘導面の間を誘導されるクロスヘッド軸受を含む。
【0024】
各シリンダ2は、そのシリンダカバーと結合された排気バルブ10を装備している。排気チャネルは、排気バルブ10によって開閉することができる。排気ベンド11は、排気ガスレシーバ12に連結している。排気ガスレシーバ12は、シリンダ2の列上部の付近に平行に配置された大型細長円筒状容器である。排気ガスレシーバ12は大容量を有して、排気バルブ12の開口部にて個々のシリンダ2から排気ガスの周期的な流入によって引き起こされる圧力パルスを排気ガスレシーバが均等化できるようにする。排気ガスレシーバ12の均等化効果によって、排気ガスレシーバ12の出口で実質的定圧が提供される。排気ガスレシーバ12の出口での定圧が要求されるのは、大型2ストローク・ディーゼル・エンジンで使用される1個または複数の排気ガス駆動式ターボチャージャまたはターボチャージャ16が給送定圧から恩恵を受けるためである。
【0025】
排気ガスレシーバ12からの排気ガスは、ターボチャージャ16のタービン17に向かって排気コンジット14を介して誘導される(複数のターボチャージャ16が存在できる)。排気ガスは、タービン17下流の大気中に放出される。ターボチャージャ16は定圧ターボチャージャである、すなわちターボチャージャ16は、排気ガス中での圧力パルスを用いた動作のためには構成されていない。ターボチャージャ16は軸流または半径流タービンを有し、約500から550℃までの排気ガス温度のために構成されている。
【0026】
ターボチャージャ6は、タービン17によって駆動されるコンプレッサ18も含む。コンプレッサ18は空気取入口に連結されている。コンプレッサ18は、掃気冷却器22および逆止バルブ24が結合された補助ブロワ23を含む掃気コンジット21を介して、高圧掃気を掃気レシーバ20に送達する。補助ブロワ23は通例、電気モータによって駆動され(油圧モータによっても駆動できる)、低負荷条件(通例、最大連続エンジン定格の40%以下)にて始動して、コンプレッサ18による十分な掃気の維持を補助する。補助ブロワ23が使用されないとき(通例、最大連続エンジン定格の40%超)、補助ブロワは逆止バルブ24を介してバイパスされる。
【0027】
掃気レシーバ20は、シリンダ2の列下部の付近に平行に配置された大型細長円筒状容器である。掃気レシーバ20は大容量を有して、掃気ポート26の開口部にて個々のシリンダ2への掃気の周期的流出によって引き起こされる圧力降下を、掃気レシーバ20が補償できるようにする。掃気レシーバ26の補償効果によって、掃気レシーバに実質的定圧が提供されるので、各シリンダ2では実質的に同じ掃気圧力が利用できる。掃気レシーバ26内に定圧が要求されるのは、大型2ストローク・ディーゼル・エンジンで使用される1個または複数のターボチャージャ16が給送定圧で動作されて、給送定圧を送達するため、すなわち個々のシリンダ2の掃気に利用できる圧力パルスがないためである。
【0028】
掃気は、掃気レシーバ20から個々のシリンダ2の掃気ポート26まで通過する。
エンジン1は、排気ガス再循環システムを装備している。排気ガス再循環システムは、NO排出物を減少させるために、排気ガスの一部を掃気中に輸送するように構成されている。排気ガス再循環システムは作動もしくは停止可能であり、または可変排気ガス再循環率で動作することができるタイプであり得る。排気ガス再循環システムは、排気ガスレシーバ12または排気ガスコンジット14から掃気コンジット21または掃気レシーバ20への流路を含む。また、排気ガスはシリンダ2から直接またはバルブもしくはポート(図示せず)から採取され得る。
【0029】
図1および2の例示的な実施形態において、排気ガス再循環コンジット32は、排気ガスコンジット14を掃気コンジット21に連結する。
図1および2に示す実施形態において、排気ガス再循環コンジット32は、排気ガスレシーバの下流位置の排気ガスコンジット14から分岐して、掃気冷却器22の下流位置の掃気コンジット21に連結する。
【0030】
排気ガス再循環コンジット32は、排気ガスシステムの各種構成要素を含む。これらの構成要素は、洗浄装置またはフィルタなどのクリーニング機器、吸引ブロワ33(電気モータによってまたは油圧モータによって駆動)、冷却器および一個以上のバルブを含むことができる。
【0031】
ブロワ33およびバルブ、すなわち排気ガス再循環ユニット30の構成要素は、電子制御ユニット50に連結されている。電子制御ユニット50は、運転条件および運転者からの入力に基づいて、排気ガス再循環システムの動作を制御する。電子制御ユニット50は、排気ガス再循環システムを作動および停止することが可能であり、必要な場合には、排気ガス再循環率、すなわち空気と排気ガスとの比率を可変制御することが可能である。
【0032】
エンジン1は、掃気コンジット21を排気ガスコンジット14に連結するシリンダ・バイパス・コンジット40を装備している。
シリンダ・バイパス・コンジット40の一端は、コンプレッサ18の下流であり、排気ガス再循環コンジット32が掃気コンジット21に連結する位置の上流である位置にて、掃気コンジット21に連結される。代替的に、シリンダ・バイパス・コンジット40の一端は、図2の破線によって示されるように、掃気レシーバ20に連結している。掃気コンジット21に沿った他の連結位置も可能である。
【0033】
シリンダ・バイパス・コンジット40の他端は、排気ガス再循環コンジット32が排気ガスコンジット14に連結する位置の下流であり、タービン12入口の上流である位置にて排気ガスコンジット14に連結されている。排気ガスコンジット14に沿ったまたは排気ガスレシーバ12における他の連結位置も可能である。
【0034】
シリンダ・バイパス・コンジット40は、電子制御ユニット50の指令の下で掃気流路21から排気コンジット14への掃気の流量を調節する、電子制御バルブ42を含む。電子制御バルブ42は、バルブを通る流量に対して、可変性で制御可能な制限度を有する。
【0035】
実施形態において、バルブ42は電子制御ユニット50によって制御されるオン/オフ型である。本実施形態において、電子制御ユニット50は、排気ガス再循環システムの作動時にバルブ42を開くように構成され、排気ガス再循環システムの停止時にまたは排気ガス再循環システムの低い排気ガス再循環率での動作時にバルブ42を閉じるように構成されている。
【0036】
所望の効果を得るためには、シリンダ・バイパス・ラインにおけるガス流の比エネルギは、ガス流がタービンに達する前に一定のままであることが必須であるか、または上昇することさえ必須である。エネルギのいかなる消失も、所望の効果を低下させるか、または所望の効果を完全に排除さえするであろう。
【0037】
別の実施形態において、電子制御バルブ42は比例バルブである。本実施形態において、電子制御ユニットは、排気ガス再循環率に関しておよびエンジン負荷に関して電子制御バルブ42の開口を制御するように構成されている。
【0038】
実施形態において、電子制御バルブ42の開口度は排気ガス再循環率のレベルに反比例する。
排気ガス再循環システムは各種の理由で停止し得る。理由の一つは、排気ガス再循環システムの欠陥または誤動作であり得る。排気ガス再循環システムの停止の別の理由は、第II階層NO排出レベルに関してエンジンの給油および最適化を行う機会であろう。排気ガス再循環率はたとえば0%とおよそ45%の間で変化し得る。
【0039】
ターボチャージャ16は、サージまたはチョークのためにエンジン1に良好に適合していないときには良好に動作しないか、または全く動作しない。代表的なコンプレッサの特徴において、圧力比が質量流量および回転速度の関数としてプロットされ、効率曲線が重ね合される。ターボチャージャをエンジンに適合させるときに、目的はエンジンの動作点を最高効率の曲線の付近または曲線内に、しかしサージラインまで安全マージンを取って配置することである。
【0040】
排気ガス再循環システムが作動状態から停止状態に変わるときに、ターボチャージャの動作条件は実質的に変化する。ターボチャージャ16はすなわち、排気ガス再循環システム作動中の動作についてエンジン1と適合している(すなわち、およそ20と45%の間の排気ガス再循環率を有し、ターボチャージャ16と良好に適合した動作)。対策がなければ、排気ガス再循環システムが停止しているときにターボチャージャ16が良好に適合しないのは、掃気圧力および流量がおよそ25%上昇して、このことが高いエンジン負荷では許容されず、ターボチャージャのチョークおよび過速度ならびに低い効率をもたらし得るからである。
【0041】
IMO第III階層排出法を満たす排気ガス再循環エンジンまたは排気ガス再循環なしで(または少量のEGR)動作する第II階層エンジンにターボチャージャ16を適合させることは、エンジン1のコンプレッサ安定性(サージマージン)とコンプレッサ/ターボチャージャ効率/燃料消費とを両立させることである。ターボチャージャのコンプレッサが排気ガス再循環なしで動作するときの最適レイアウトに適合している場合、排気ガス再循環がコンプレッサ18を通じて流量を減少させる(エンジン動作点がサージラインに向かって移動する)ため、必要以上に大きいサージマージンがある。従来のターボチャージャまたは可変タービン・エリア・ターボチャージャは、掃気圧力(ブースト圧)およびエンジン効率を損なうことなく二つのモード間での切換え時に流量の変化を扱うために要求される、流量範囲を有していない。
【0042】
実施形態において、ターボチャージャ16のコンプレッサ18は、排気ガス再循環動作および開いたシリンダバイパス流路40に適合している。非排気ガス再循環モードに切換えると、シリンダバイパス流路40は閉じて、ターボチャージャ16のコンプレッサ18がチョークするのを回避するために流量および掃気圧力の上昇が低減されるようになり、コンプレッサ特徴の最適運転条件(マップ)が得られる。別の効果は、シリンダバイパス流路40が開いているときにシリンダ2を通じての気流が減少するので、想定されたNO低減を達成するために、より小さい絶対排気ガス再循環質量流が要求されることである。また別の効果は、より小さい吸引ブロワ出力および循環排気ガス量が必要とされるために、排気ガス再循環システム自体の容量を低減できることである。このように制御50は、排気ガス再循環率の上昇と共に前記バルブ42の開口を増大させるように、またはその反対にとなるように構成されているので、ターボチャージャ16はエンジンが動作するすべてのEGR率においてエンジンに適合している。
【0043】
シリンダバイパス流の負の効果は、シリンダ2を通過する掃気ガスの量の減少によって生じる、エンジンに対する熱負荷の増大である。実施形態により、ターボチャージャ16およびエンジン動作の適合は、以下の通りである。
【0044】
エンジン動作モードがIMO第II階層に変更されると、シリンダバイパス流路40は電子制御ユニット50の指令の下でバルブ42によって閉じられ、排気ガス再循環路は連続最大定格のおよそ90%の全エンジン負荷で停止される。
【0045】
IMO第II階層モードの掃気圧力は、排気ガス再循環が作動しているIMO第III階層モードと比べて実質的に上昇するが、掃気圧力は適合圧を超えない。部分負荷条件での掃気圧力の上昇自体は、より少ない排出物をもたらすが、比燃料消費率(SFOC)を最適化する広範な可能性を与えるであろう。
【0046】
掃気圧力はおよそ90%のエンジン負荷において、適合圧と近くなるであろう。この時点でターボチャージャ16は適合掃気圧力に到達して、エンジン負荷のさらなる増加により、排気ガス再循環率は徐々に上昇し、このようにして100%の適合圧にて掃気圧力を維持する。このようにして、エンジン1は第II階層モードで、部分負荷に対する高い掃気圧力およびおよそ90%エンジン負荷での掃気圧力中のベンドによって動作する。100%エンジン負荷にて掃気圧力を適合レベルで維持するために、適合に使用されたおよそ30%の排気ガス再循環率が要求される。このようにして90%のエンジン負荷において少量の排気ガス再循環があり、この再循環はNO排出物のさらなるおよび十分な低減を提供するであろう。
【0047】
このようにして、排気ガス再循環流路32が機能しないという、起こりそうもない事象においては、エンジン1の最大連続出力定格の90%が、コンプレッサ安定性の問題を伴わずになお利用可能であろう。ターボチャージャ16は頻繁に、非常動作時の圧力上昇を取り扱うことができ、このようにしてエンジン1の最大連続出力定格の100%が通例可能となる。
【0048】
また、高圧ボイラを排気ガスコンジット内に設置することができる。IMO第II階層動作モードにおいて。この場合、適合掃気圧力は、100%エンジン負荷にて排気ガス再循環を使用せずに得られる。また、タービンバイパスをタービンの周囲に設置することができる。バイパスは適合掃気圧力を得るために、100%エンジン負荷にて開いている。
【0049】
図3に示す実施形態は、熱交換器44が加えられたことを除いて、図1および2について記載した実施形態と本質的に同じである。熱交換器44は、再循環された排気ガスとバイパスされた掃気との間の熱交換を可能にする。このようにして、再循環された排気ガスは冷却され、バイパスされた掃気はなおさらにエネルギを得て、ターボチャージャ16のタービン17に送達されることができる。
【0050】
EGRモードで動作中にシリンダバイパスを使用することによって、ターボチャージャのタービンが逃した質量およびエネルギ流によって引き起こされた流速および掃気圧力の低下が大部分は補償され、すなわちコンプレッサマップ上のターボチャージャのコンプレッサの動作位置がサージラインから離れて、コンプレッサマップの安全で高効率の範囲に向かって移動する。
【0051】
本発明の他の利点は、排気ガス再循環システムおよびその構成要素の障害の場合に推進信頼性が著しく向上したことと、IMO第II階層および第III階層の両方でコンプレッサ安定性が同じことである。IMO第2階層モードにおける部分負荷での比較的高い掃気圧力によって、排気ガス再循環がないという事実にもかかわらず、低い比燃料消費率が確保される。
【0052】
本出願の教示が例証目的で詳細に記載されてきたが、このような詳細事項はこの目的のためだけであると理解するものであり、当業者によって本出願の教示の範囲から逸脱することなく、この中で変更を行うことができる。
【0053】
上記の実施形態は、エンジンの機能を改良するためのいずれの考えられる方法でも組合せられ得る。
本発明の教示の装置を実現する多くの代替方法があることにも注目すべきである。
【0054】
「備える」という用語は、請求項で使用される場合、他の要素またはステップを除外しない。「一つ」または「一つの」という用語は、請求項で使用される場合、複数を除外しない。
【符号の説明】
【0055】
1 エンジン
2 シリンダ
3 往復ピストン
4 クランクシャフト
5 ピストンロッド
6 クロスヘッド
7 連結ロッド
10 排気バルブ
11 排気ベンド
12 排気ガスレシーバ
14 排気コンジット
16 ターボチャージャ
17 タービン
18 コンプレッサ
20 掃気レシーバ
21 掃気コンジット
22 掃気冷却器
23 補助ブロワ
24 逆止バルブ
26 掃気ポート
30 排気ガス再循環ユニット30
32 排気ガス再循環コンジット32
33 吸引ブロワ
40 シリンダ・バイパス・コンジット
42 電子制御バルブ
50 電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク燃焼エンジン(1)であって、
一列に配列された複数のシリンダ(2)と、
大容量を備えた排気ガスレシーバ(12)であって、個々のシリンダ(2)の排気からの圧力パルスを均等にして排気ガスレシーバ出口で実質的定圧を提供するための排気ガスレシーバ(12)と、
該排気ガスレシーバ(12)出口をターボチャージャ(16)のタービン(17)に連結する排気コンジット(10)と、
該タービン(17)に駆動される該ターボチャージャ(12)のコンプレッサ(18)であって、掃気冷却器(22)を含む掃気路(21)を介して掃気を掃気レシーバ(20)に送達するコンプレッサ(18)と、
低エンジン負荷条件で該タービン(17)を補助するための、掃気路(16)と結合された補助ブロワ(23)と、
該掃気レシーバ(22)は該シリンダ(2)に連結され、該個々のシリンダへの入口流によって引き起こされた圧力サージを低下させるために大容量を有し、
排気ガスの一部を該掃気中に給送するためのブロワまたはコンプレッサ(33)を含む排気ガス再循環流路(32)と、
該掃気冷却器(22)の前で取り込まれた高温の掃気の一部を該ターボチャージャ(16)の該タービン(18)に給送するためのシリンダバイパス流路(40)と、
該シリンダバイパス流路(40)を通過する流量を制御する制御式バルブ(42)と、を備える、
クロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク燃焼エンジン(1)。
【請求項2】
前記排気ガス再循環流路(40)を作動または停止させることができる、請求項1に記載のクロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク燃焼エンジン(1)。
【請求項3】
該排気ガス再循環路(32)が作動しているときに前記シリンダバイパス流路(40)内の前記バルブ(42)が開いているまたは部分的に開いている、請求項2に記載のクロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク燃焼エンジン(1)。
【請求項4】
前記シリンダバイパス流路(40)の前記バルブ(42)が、バルブを通る流量に対して可変性で制御可能な制限度を有する、請求項3に記載のクロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク燃焼エンジン(1)。
【請求項5】
前記排気ガス再循環流路内のブロワを制御することによって排気ガス再循環率を変化させることができるようにするために、排気ガス再循環率を制御するように構成された電子制御ユニット(50)をさらに備え、該電子制御ユニットがエンジン負荷および燃焼チャンバ構成要素に対する許容される熱負荷を考慮して、排気ガス再循環率に対してバルブ(42)の開口を制御するように構成されている、請求項2に記載のクロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク燃焼エンジン。
【請求項6】
前記電子制御ユニット(50)が排気ガス再循環率の上昇と共に前記バルブ(42)の開口を増大させるように、またはその反対となるように構成されている、請求項5に記載のクロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク燃焼エンジン。
【請求項7】
該ターボチャージャ(16)が、エンジンが動作しているすべてのEGR率でエンジンに適合するために、前記電子制御ユニット(50)が排気ガス再循環率の上昇と共に前記バルブ(42)の開口を増大させるように、またはその反対となるように構成されている、請求項5に記載のクロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク燃焼エンジン。
【請求項8】
排気ガス再循環率を制御するように構成された電子制御ユニットをさらに備え、前記電子制御ユニットが排気ガス循環率に関しておよびエンジン負荷に関して、該シリンダバイパス流路を通じる流量を制御するように構成されている、請求項2に記載のクロスヘッド型大型ターボチャージャ搭載2ストローク燃焼エンジン。
【請求項9】
シリンダ・バイパス・コンジットおよび排気ガス再循環システムを有するクロスヘッド型大型2ストロークターボチャージャ搭載ディーゼルエンジンを動作させる方法であって、排気ガスが再利用されるときに掃気に該シリンダをバイパスさせて、排気ガスが再利用されないときに掃気に該シリンダをバイパスさせないことを特徴とする方法。
【請求項10】
シリンダ・バイパス・コンジットおよび排気ガス再循環システムを有するクロスヘッド型大型2ストロークターボチャージャ搭載ディーゼルエンジンを動作させる方法であって、流量が再循環率に関して該シリンダをバイパスするように制御することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−159079(P2012−159079A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−16992(P2012−16992)
【出願日】平成24年1月30日(2012.1.30)
【出願人】(594140904)マン・ディーゼル・アンド・ターボ,フィリアル・アフ・マン・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー,ティスクランド (22)
【住所又は居所原語表記】Center Syd,161 Stamholmen,DK−2650 HVIDOVRE,Denmark
【Fターム(参考)】