説明

新規トロンビン機能性化合物およびそれらに基づいた医薬組成物

本発明は、新規の化学化合物、これら化合物のトロンビン阻害剤としての利用、およびそれらを基にした医薬組成品に関し、トロンビン依存血栓塞栓症の治療および予防、並びに研究に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の化学化合物、これら化合物のトロンビン阻害剤としての応用、およびそれらを基にした医薬組成品に関し、トロンビン依存血栓塞栓症(thromboembolic events)の治療および予防に使用することができ、また研究目的にも使用することができる。
【0002】
トロンビンは、血液凝固系の主要な酵素であり、可溶性の血漿タンパク質、フィブリノゲンを、不溶性のフィブリン塊に転換する。フィブリン重合を引き起こす過程であるトロンビン形成とトロンビン阻害、すなわちトロンビン活性を抑制する過程の間には、不安定な平衡が存在する。過剰なトロンビン形成は、血栓症となる。
【0003】
直接トロンビン阻害剤は、 活性酵素中心に直接強く結合し、天然基質であるフィブリノゲンをその活性中心から遮断するする阻害剤の名称である。この遮断によって、トロンビンが触媒するフィブリノゲンからフィブリンへの転換が阻止される。その結果、フィブリン凝固を防ぎ、血液凝固を遅らせるか、完全に予防する。よって、強力な抗トロンビン活性を有するには、直接トロンビン阻害剤は、最大限に可能な強度で活性トロンビン中心と結合しなければならない。このため、直接トロンビン阻害剤は、トロンビン分子の活性中心の構造のよって決定づけられる、いくつかの条件を満たさなければならない。
【0004】
一般に、活性トロンビン中心は、アミド分解反応が起こる部位(point)の近傍の、フィブリノゲン基質の異なるアミノ酸を受ける数個のキャビティまたはポケットに、便宜上分けられる。ポケットS1は、疏水性アミノ酸残基によって形成される壁を有する深くて狭いキャビティであり、実際にそのキャビティの底部に、アミノ酸Asp189のカルボキシル基の存在下で作られた負に帯電する源(source)である。ポケットS1は、フィブリノゲン中の主要アミノ酸残基(リシンまたはアルギニン)に、(リシンまたはアルギニンのC末端における)ペプチド結合の分離部分(breakup point)に直接結合する役割をもつ。主要アミノ酸の長い非分岐炭化水素残基は、ポケットS1の全長にわたって伸びている。一方で、炭化水素残基の末端で正に帯電した主要断片は、ポケットSlの底部で負に帯電したアスパラギン酸残基に塩架橋を形成している。従って、ポケットS1は、フィブリノゲンのポリペプチド鎖中の主要アミノ酸残基を識別するのに最も適している。
【0005】
別のポケット、S2は、ポケットS1のすぐ傍に隣接する非極性アミノ酸残基によって形成され、(そのN末端において)ポケットS1に受けられた主要アミノ酸の後方で(behind)、フィブリノゲンのアミノ酸配列中の主要でない(minor)疏水性アミノ酸 (バリン、イソロイシンおよびロイシン)を認識する役割をもつ。ポケットS2は、ポケットSlより、やや小さい容積で、いかなる帯電したアミノ酸基をももたない。従って、ポケットS2は、非極性脂肪族アミノ酸の小さな炭化水素残基との結合に、理想的に適している。
【0006】
さらに別のポケット、S3は、トロンビン表面上でポケットS2の隣に見られる。これも、疏水性ポケットであるが、むしろ大きい容積をもち、その大部分が、外に向かっており、直接溶媒にさらされているため、はっきりと特徴付けられていない。ポケッS3は、ペプチド鎖の分裂から2つまたは3つの結合離れた、フィブリノゲンの脂肪族および芳香族の疏水性アミノ酸断片を受ける役目をしている。
【0007】
直接トロンビン阻害剤は、トロンビン分子の活性中心のこれら3つのポケットを、最適の様式で埋めなければならない。例えば、周知のトリペプチド阻害剤、D−Phe−Pro−Argは、活性トロンビン中心と次のように反応することが、X線構造解析により見出された。アルギニン残基が、ポケットS1を埋め、プロリン残基がポケットS2を塞ぎ、D−フェニルアラニンがポケットS3を占める。
【0008】
血栓症をコントロールするために、現在、臨床で使用されている薬剤は、血液中で既に形成された過剰のトロンビンを阻害するのに必ずしも適しているわけではない。医師たちは、多量に未分画ヘパリン、低分子量ヘパリン及びビタミンK拮抗剤(ワルファリン)などの間接トロンビン阻害剤を使用する傾向にある。これらの全ての薬剤が、それ自身で、系に蓄積する過剰のトロンビンを阻害することができるわけではない。種々のヘパリンは、血漿中に存在する天然のトロンビン阻害剤、アンチトロンビン III(ATIII)の効果を阻害することを迅速に促すのみである。そのため、なんらかの理由で、患者の血漿中のATIII含有量が非常に低い場合、ヘパリンは弱い抗凝血効果しかもたない。ビタミンK拮抗剤は、肝臓での凝固因子の前駆体合成を抑制することによって、凝固速度を減じる。明らかに、ヘパリンは、血中に存在するトロンビンを早急に抑制する必要がある重篤な状況では有用であり得ない、比較的時間を要する選択肢である。
【0009】
間接凝固剤療法には、制限があるので、製薬会社は、強力で選択的な直接トロンビン阻害剤の開発に努力してきた。現在まで、そのようなトロンビン阻害剤が数多く開発されてきた。しかし、その大部分は、薬剤に要求される性質をすべて示すわけではない。実効時間、低毒性、水溶性、経口での生体利用効率(bioavailability)など薬理学的性質を向上すべく、研究が続けられている。理想的なトロンビン阻害剤は、血塊に固定されたトロンビンに対しても効果がなければならない。理想的なトロンビン阻害剤は、線維素溶解に係るプロテアーゼを阻害することなく、トロンビンに選択的で、長時間血中に残存し、肝臓内の酵素やシトクロムP450の影響に耐性があり、水溶液媒体で保持され、血中タンパク質と混ざらず(または、ほんの僅かに混ざり)、無毒でなければならない。しかしながら、化合物の予備試験は、これら要件を満たす化合物の適性について結論に到達していない。多くの効果的な低分子量トロンビン阻害剤がすでに合成されてきたが、唯一、日本で合成されたアルガトロバン(Argatroban)(米国特許第5,214,052号1993)のみが、必要な臨床試験全てを通り、今日、使用されている。しかしながら、アルガトロバンは、溶液中での安定性が低く(その血漿中のT1/2は36分)理想的な阻害剤でない。このことは、効果的で安全な新しい合成トロンビン阻害剤を開発する要求は、引き続き課題であることを意味する。
【0010】
今日入手可能な公になっている特許および科学研究には、多数のトロンビン阻害剤が記述されている。これら公表文献の要約を下に示す。
【0011】
米国特許出願第2006/0014699号(Astra Zeneca AB)、2006、および米国特許第5,795,896号(Astra Aktiebolag)、1998、は、メラガトラン阻害剤を含む抗血栓症医薬化合物を記載している。
【0012】
また、米国特許第5,510,369号(メルク社)、1996 に記載されているピロリジントロンビン阻害剤や、米国特許第5,792,779号(メルク社)、1998で記載されているものなどのピリジントロンビン阻害剤も公知である。
【発明の概要】
【0013】
本出願人は、現存の阻害剤の構造や阻害剤とトロンビン分子間の反応の機序に関する情報を含む数多くの科学論文や記事を調査してきた。表1に示されているように、調査した文献は、トロンビン阻害剤として知られているほとんどすべての種類の化学化合物を網羅している。表1にある文献のリストは、完璧でないにしても、十分に足りるものである。我々が、独自のトロンビン阻害剤を開発するにあたって、これら文献にすでに記述されている構造を慎重に避けた。これらの我々が参照した文献には、発明として特許権を請求した新規化合物を特徴づける要素を有するトロンビン阻害剤に関する情報はなかった。
【0014】
本発明の実際の目的(practical task)は、直接トロンビン阻害剤として働き得る新規の化合物を開発することである。これらの阻害剤は、様々な病変(pathologies)の影響で生物に発現する急性の血栓症(thrombotic conditions)の治療に用いることができる。生物における非常に多くの異なった病態(pathological conditions)が、止血系障害に関連している。心筋梗塞、脳卒中、深部静脈血栓症または肺動脈血栓塞栓症などの疾患の結果として起こる血栓塞栓性合併症は、世界中で、主な死因に入っている。よって、効果的で安全な臨床薬として働き得る薬剤の開発に長期にわたり鋭意努力が重ねられてきたことは、驚きに値しない。とりわけ、これら薬剤は、抗凝血性質を示す抗血栓症剤である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】様々な濃度の化合物HC−019s−IOC(表4を参照のこと)がある場合のトロンビンの効果のあるもとでの発色物質クロモザイム(Chromozim)TH(CTH)に対する、特徴ある動態(kinetic)加水分解曲線の例を示す図である。
【図2】CTH加水分解阻害の程度と、非常に効果的なトロンビン阻害剤である、新規に合成された他の化合物(HC−018s−IOC)の系内での濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
特に他に指示がない限り、次の定義が、本明細書において用いられる。
【0017】
活性中心とは、生化学反応において鍵となる役割を果たすタンパク質高分子の領域である。
【0018】
タンパク質とは、タンパク質高分子を意味する。
【0019】
標的タンパク質とは、結合過程に係るタンパク質高分子を意味する。
【0020】
リガンドとは、低分子量の化学構造物の集団(collections)を意味する。
【0021】
結合過程とは、リガンドと標的タンパク質の活性中心との間の、ファン・デル・ワールス力または共有結合による複合体の形成を意味する。
【0022】
スクリーニングとは、タンパク質高分子の特定の領域に選択的に反応する化学的構造物の集団の中で、化合物の集まり(set)を同定することを意味する。
【0023】
位置修正(correct positioning)とは、リガンド−タンパク質複合体の最小の自由エネルギーに対応する位置にリガンドを置くために位置調整をすることである。
【0024】
選択的リガンドとは、特定の標的タンパク質に特異的方法で結合しているリガンドを意味する。
【0025】
検証(validation)とは、施されている系の質、および所与の標的タンパク質に確実に結合しているリガンドの任意の集まり(random set)からリガンドを選択する効率を評価する一連の計算および比較のやり法を意味する。
【0026】
参照タンパク質とは、実験データを踏まえて、または施されている系の検証の際に、モデル計算(スコア)のパラメータを調整するために、若しくは、特定の阻害剤の結合特異性を評価するために用いられるタンパク質を意味する。
【0027】
特異的に結合するリガンドとは、特定のタンパク質にのみ結合し、他のタンパク質には結合しないリガンドを意味する。
【0028】
阻害剤とは、特定の標的タンパク質の活性中心に結合し、生化学反応の通常の進行を妨げるリガンドを意味する。
【0029】
ドッキングとは、タンパク質の活性中心において、リガンドの位置を調整することを意味する。
【0030】
スコアリングとは、リガンドをタンパク質に結合するために要する自由エネルギーを評価するため算出することを意味する。
【0031】
結合自由エネルギー(ΔG binding)とは、リガンドを標的タンパク質に結合するのに要する、結果として生じる(resulting)自由エネルギーの(SOLソフトウェアを用いて)計算された正の変化値(calculation gain)を意味する。
【0032】
C1〜C6アルキル基とは、炭素数が1から6の非分岐または分岐炭化水素鎖を含むアルキル基を意味する。例えば、メチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、イソブチル、tert‐ブチルなどが挙げられる。
【0033】
C1〜C6アルコキシ基とは、炭素数が1から6の非分岐または分岐の炭化水素鎖を含むアルコキシ基を意味する。例えば、メトキシ、エトキシ、n‐プロポキシ、イソプロポキシなどが挙げられる。
【0034】
ハロゲンとは、塩素、臭素、ヨウ素あるいはフッ素を意味する。
【0035】
薬理学的に許容される塩とは、毒性を呈したり、活性化合物の吸収および薬効を阻害する場合を除き、構造式(I)の活性化合物により作られた任意の塩を意味する。このような塩は、構造式(I)の化合物、および、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、メチルアミン、エチルアミンなどの有機または無機塩基との間の反応によって作られる。
【0036】
溶媒和物とは、構造式(I)の活性化合物の結晶形態であり、その結晶格子が、水の分子、または構造式(I)の活性化合物が結晶化する他の溶媒の分子を含む結晶形態を意味する。
【0037】
薬理学的に許容される担体とは、組成物の他の成分と混合可能で、受け手に害を及ぼさない、すなわち、その使用量や使用濃度において細胞または哺乳類に対して無毒でなければならない担体を意味する。しばしば、薬理学的に許容される担体は、水性のpHバッファー溶液である。生理学的(physiologically)に許容される担体として、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、その他の有機酸塩、アスコルビン酸、低分子量(10残基未満)のポリペプチドを含む抗酸化剤、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジンなどのアミノ酸、グルコース、マンノースまたはデキストリンなどの単糖類、二糖類および他の炭水化物、EDTAなどのキレート剤、並びに、マンニトールまたはソルビトールなどの糖アルコールを基にした溶液などのバッファーが挙げられる。
【0038】
治療有効量とは、哺乳類生物において、所望の程度のトロンビン阻害を達成するために必要な量を意味する。
【0039】
ここで用いられる意味において、哺乳類は、霊長類(例えば、人間、類人猿、非類人猿およびより下等な猿)、捕食動物(例えば、猫、犬および熊)、げっ歯動物(例えば、マウス、ラットおよびリス)、食虫類(例えば、トガリネズミとモグラ)などを含む。
【0040】
出願人が定めた実際の目的(practical task)は、一般構造式(I)の化合物、(その薬理学的に許容される塩または溶媒和物を含む)を、開発することによって達成される。
A−B−C (I)
式中、Cは、次の構造を含む群から選ばれる、
【0041】
【化1】

【0042】
式中、R、R、R、およびRは、互いに独立して、水素または、C〜Cのアルキル基であり、Bは、−(CH−、nは1〜5の整数であり、Aは、次の構造を含む群から選ばれる、
【0043】
【化2】

【0044】
式中、Rは、水素、C〜Cのアルコキシ基、CHNR1011、およびCH(CH)NR1011を含む群から選ばれ、
【0045】
【化3】

【0046】
式中、RおよびRは、互いに独立して、水素または、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基またはハロゲンであり、
R8は、水素または、C〜Cのアルキル基であり、
R9は、次からなる群から選ばれる、
【0047】
【化4】

【0048】
式中、R10およびR12は、互いに独立して、水素、C〜Cのアルキル基、(CHCOOR13、および(CHCON(R13からなる群から選ばれ、
【0049】
【化5】

【0050】
式中、mは、1から4の整数であり、
13は、水素またはC〜Cのアルキル基
11は、C〜Cのアルキル基、またはAr
Arは、水素、C〜Cアルキル基、C〜Cアルコキシ基、ハロゲン,N(R13、OH、NO、CN、COOR13、CON(R13およびSO13の群から選ばれた1から5つの置換基をもつ、フェニル、ピリジル、オキサゾリル、チアゾリル、チエニル、フラニル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、インドリル、ベンゾフラニル、またはベンゾチオフェニルである。
次は、例外とする。
【0051】
【化6】

【0052】
この羅列(List)から除かれた化合物は、既に知られており、特に、4−アミノ−l−[3−[(2−メチルフェニル)アミノ]−3−オキソプロピル]ピリジニウムクロライドは、Journal of Medicinal Chemistry, 17(7), 739-744, 1974, in "Carbocyclic Derivatives Related to Indoraminに記載されており、4−アミノ−l−(2−フェノキシエチル)−ピリジニウムブロマイドは、Journal of Organic Chemistry, 26, 2740-7, 1961, in "Application of Sodium Borohydride Reduction to Synthesis of Substituted Aminopiperidines, Aminopiperazines, Aminopyridines And Hydrazinesに記載されている。しかし、これらの出典が、記載された化合物がトロンビン阻害剤として使用できるかどうかに触れていないことは、特筆に値する。
【0053】
本発明の好ましい実施態様は、次の請求項1の化合物、および薬理学的に許容される塩または溶媒和物を記載する。
【0054】
【化7】

【0055】
式中、Yは、水素、ハロゲン、COOR13、CON(R13およびSO13からなる群から選ばれ、
rは、2から5の整数である。
【0056】
本出願人は、構造式A−B−Cの化合物、およびその薬理学的に許容される塩または溶媒和物が、トロンビンを阻害することができることを見出した。
【0057】
従って、新規化合物およびその薬理学的に許容される塩または溶媒和物を、トロンビン阻害剤として実際に用いることができる。
【0058】
トロンビン阻害剤として、実際の利用に向けて興味深くあり得る化合物、すなわち、顕著な阻害効果を示し得る化合物を、次のように選択する。我々は、一般構造式(I)で表わされる構造を中心とする仮想ライブラリーから、分子の三次元モデルを構築した。次の工程において、得られた構造を、トロンビン阻害剤の活性中心にドッキングし、トロンビン阻害剤の可能性のある分子構造から受け取ったドッキング結果を、最も見込みのあるもの、すなわち、−5.0kcal/molより悪くない(ドッキング過程において測定された)スコアリング関数値を示す分子を選択するのに用いた。そのような分子に対して、ドッキング過程によって提案された位置調整の方法を想定した(visualized)。もし、これらの位置調整の方法が、活性トロンビン中心に結合する阻害剤についての上記の仮説を満たす場合、そのような分子を、「バーチャルヒット(virtual hits)」とみなし、合成および阻害活性の実験測定に向けて見込みのある分子として受け入れた。合成を始めるか否かは、推定される合成の複雑さを評価することにより最終的に決定された。
【0059】
本発明のトロンビン阻害剤は、トロンビンの活性中心との効果的な反応について上記の要件を最適に満足する。式(I)の阻害剤の正に帯電した化学基Cは、アミノ酸残基Asp189に塩架橋を形成しているポケットSlの底部に位置している。化学基Bは、ポケットSlの残りの空間を占め、ポケットの壁と最適な疏水性反応を可能にしている。式(I)の化学基Aは、ポケットS2に位置し、下記のR基は、疏水性の断片であり、分子の別の部分に結合し、溶媒にさらされたリンカーは、ポケットS3に位置する。活性トロンビン中心に結合するという観点からすれば、リンカーは、親水性および疏水性の分子グループどちらでもあり得るが、有益な薬物動態特性を阻害剤分子に付与するために、疏水性リンカーを選択することで、阻害剤分子全体として疏水性性質をある程度バランスすることが望ましい。この目的からも、ポケットS3に位置する疏水性断片は、溶媒にさらされた側面において、ポケットに位置する疏水性残基で改変し得る。ここで述べたトロンビン阻害剤は、完全に上記の要件をみたす。
【0060】
この請求範囲は、下に述べられる手順に従って、本発明のトロンビン阻害剤の活性トロンビン中心への選択的な位置調整(ドッキング)によって、明示されている。ドッキングは、阻害剤分子の全エネルギーの大域的最小化によって、達成される。全阻害剤エネルギーは、活性トロンビン中心に結合している阻害剤から成る配座での活性トロンビン中心における阻害剤の内部テンションエネルギー(internal tension energy)およびトロンビン場(thrombin field)における阻害剤エネルギーを含む。続いて、トロンビン場は、阻害剤との、静電、ファンデルワールス反応、並びにトロンビン分子の各部やリガンドの溶媒和および脱溶媒和により起こる多くの反応を促す。これらの反応は、数多くの文献で記述され、当分野の研究者に良く知られている。大域的最小化は、遺伝的(genetic)アルゴリズムを用いて、数回繰り返される。最小化プログラムは、この酵素の活性中心におけるトロンビン阻害剤の幾何学的位置調整、およびここに述べられたトロンビン阻害剤とトロンビン分子との複合体を形成するのに用いられた自由エネルギーの推定値としての役割をもつスコアリング関数値に結果としてとなる。ここに述べられた阻害剤において、スコアリング関数は、常に−5kcal/molより小さく、これは、マイクロモル以下の範囲の阻害定数と合致する。スコアリング関数を用いた予測の信頼性は、当分野の専門家の知られている様々な方法で検討することができる。具体的に、スコアリング関数値に基づいた任意の分子中での公知の活性トロンビン阻害剤の選択性を示す、いわゆるトロンビン阻害剤増強係数(enhancement coefficient)は、0.85であり、これは、十分に信頼できる予測である証拠である。ここで述べた、阻害剤の幾何学的位置は、前記のドッキング手順により達成され、トロンビン阻害剤の活性トロンビン中心への結合の最適条件を満足し、その位置で、トロンビンにより触媒されるフィブリノゲンアミド分解反応に関して、阻害剤生来の阻害活性が示される。
【0061】
特許権が請求された化合物は、有機化学の専門家に公知の一般的な方法で得ることができる。
【0062】
生物の様々な病態(pathological conditions)の多くは、止血系において進行する障害に関連している。血栓塞栓性心筋梗塞、脳卒中、深部静脈血栓症、肺動脈血栓塞栓症といった疾病で起こる血栓塞栓性の合併症は、世界中で、主な死因になっている。
【0063】
本発明は、トロンビンに依存する血栓塞栓症(thromboembolic events)の治療および予防(prophylactic prevention)のための医薬組成物も含む。それは、請求項1の化合物、若しくは、その薬理学的に許容される塩または溶媒和物、および薬理学的に許容される担体の治療有効量を含む。
【0064】
本発明の化合物は、血中に生体蓄積がおこるように、任意の適切なやり方で投与される。投与は、静脈、筋肉、皮内、皮下、また腹腔内注射といった非経口投与の方法でなされる。適切な組成物を経口で服用することによる、消化管を通した吸収など、他の投与方法も用いられ得る。使用が簡単なため、経口服用が好ましい。或いは、この薬剤は、膣および肛門筋肉組織を通して投与し得る。さらに、本発明の化合物は、皮膚を通して(例えば、経皮的に)注入、または、吸入することによって投与し得る。好適な投与方法は、患者の病状、年齢、感受性によることは、当然である。
【0065】
経口服用用に、医薬組成品を、結合剤(例えば、解膠トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリジノンまたはヒドロキシプロピル メチルセルロース)、賦形剤(例えば、乳糖、微結晶セルロース、リン酸水素カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、トーク酸化物(talk oxide)あるいは酸化シリコン、ジャガイモデンプンまたはでんぷん質のグリコール酸ナトリウム)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの薬理学的に許容される添加物とともに、例えば、錠剤またはカプセル剤に包み込むことができる。錠剤を、コートしてもよい。液体経口組成物は、溶液、シロップ、または懸濁液の形に、調製することができる。そのような液体組成物は、懸濁剤(例えば、セルロース誘導体)、乳化剤(例えば、レシチン)、希釈剤(精製植物油)および保存料(例えば、メチルまたはプロピル−n−ヒドロキシベンゾエート、ソルビン酸)などの薬理学的に許容される添加物を用いる一般的な方法により得ることができる。組成物は、また、適当な緩衝塩、香料、色素および甘味料も含み得る。
【0066】
これら組成物中の活性成分の含有量は、組成物重量の0.1%から99.9%の間にわたり、好ましくは、5%から90%である。
【0067】
これらトロンビン阻害剤の毒性を、実験動物で、標準的な製薬学的手順を用い、LD50(個体群の50%に対する致死量)で測定した。本発明の好ましい化合物に対して、LD50量は、367mg/kgを超えており、これは、臨床試験を終えたアルガトロバン(LD50=475mg/kg)の致死量と矛盾がない(consistent)。
【0068】
本発明の主題を、より理解可能にするように、次に、新規化合物およびその合成の中間生成物である材料の合成を説明するいくつかの例を、発明として請求された新規化合物の抗血栓症活性を検討するのに用いられた方法の説明とともに示す。
【0069】
実施例は、例示であり、本発明の発想(idea)を下記の例の範囲に制限するものではない。
【0070】
実施例1
中間生成物である3−(3−クロロプロポキシ)−5−メチルフェノールの合成
【0071】
【化8】

【0072】
3.8g(27mmol)のオルシン水和物、4.8g(30mmol)の1−ブロモ−3−クロロプロパンおよび4.0g(29mmol)の炭酸カリウムの混合物を、30mlのアセトニトリル中で攪拌しながら36時間、煮沸した。次に、この反応混合物を蒸発し、30mlのエーテルに溶解し、15mlの炭酸カリウムの飽和溶液で2回洗った。水層を捨て、エーテル層を、15mlの10%水酸化ナトリウム溶液で、3回抽出した。エーテル層を捨て、水層を注意深く濃HClで酸性にし、15mlのエステルで3回抽出した。エーテル抽出物を合わせ、少量の炭酸水素ナトリウムの飽和溶液で洗った。無水硫酸ナトリウムで乾燥し,約3分の1体積部のヘキサンで希釈し、シリカゲルの層を通してろ過した。蒸発することにより、1.7gの黄色の油、約70%のオルシン(Rf0.10)および約30%の3−(2−クロロプロポキシ)−5−メチルフェノール(Rf0.26、収量 約1.2g(純粋な基質あたり(per pure substance)22%)の混合物を得た。
【0073】
同様の方法を用いて、オルシン水和物およびl−ブロモ−2−クロロエタンから3−(2−クロロエトキシ)−5−メチルフェノール(Rf0.26、収量約1.1g(純粋な基質あたり(per pure substance)20%)を生成し、オルシン水和物およびl−ブロモ−4−クロロブタンから3−(4−クロロブトキシ)−5−メチルフェノールを得た。
【0074】
実施例2
中間生成物であるベンゼンスルホン酸の3−(3−クロロプロポキシ)−5−メチルフェニルエステルの合成
【0075】
【化9】

【0076】
3g(17mmol)のベンゼンスルホクロライドおよび2g(20mmol)のトリエチルアミンを、30mlの乾燥テトラヒドロフラン(THF)に1.6gの上の例の混合物の溶液に加えた。混合物を7時間攪拌し、トリエチルアミン塩酸塩の沈澱をろ過して除き、蒸発させた。得られた油を、20mlのエーテルに溶解し、10mlの10−12%アンモニア水溶液で数回洗い、過剰な未反応ベンゼンベンゼンスルホクロライドを分離し(薄層クロマトグラフィー(TLC)によってコントロール)、次に、10mlの約20%の塩酸で洗った。無水硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発することにより、(TLCに照らして)ほぼ同量のベンゼンスルホン酸の3−(3−クロロプロポキシ)−5−メチルフェニルエステル(Rf0.36)とオルシンのジベンゾイルスルホン酸エステル(Rf0.25)を含む黄色の油を1.94g得た。
【0077】
同様にして、3−(2−クロロエトキシ)−5−メチルフェノール、3−(3−クロロプロポキシ)−5−メチルフェノール、および3−(4−クロロブトキシ)−5−メチルフェノール並びに適当なアリルスルホクロリドから、次を得た。
2−クロロベンゼンスルホン酸の3−(3−クロロプロポキシ)−5−メチルフェニルエステル(純粋な基質あたり(per pure substance)77%)、
2−フルオロベンゼンスルホン酸の3−(3−クロロプロポキシ)−5−メチルフェニルエステル(88%)、
2−カルボメトキシベンゼンスルホン酸の3−(3−クロロプロポキシ)−5−メチルフェニルエステル(56%)、
ベンゼンスルホン酸の3−(2−クロロエトキシ)−5−メチルフェニルエステル(72%)、
2−クロロベンゼンスルホン酸の3−(2−クロロエトキシ)−5−メチルフェニルエステル(35%)、
2−フルオロベンゼンスルホン酸の3−(2−クロロエトキシ)−5−メチルフェニルエステル(34%)、
2−カルボメトキシベンゼンスルホン酸の3−(2−クロロエトキシ)−5−メチルフェニルエステル(37%)、
ベンゼンスルホン酸の3−(4−クロロブトキシ)−5−メチルフェニルエステル(45%)、
2−クロロベンゼンスルホン酸の3−(4−クロロブトキシ)−5−メチルフェニルエステル(27%)、
2−フルオロベンゼンスルホン酸の3−(4−クロロブトキシ)−5−メチルフェニルエステル(32%)、
2−カルボメトキシベンゼンスルホン酸の3−(4−クロロブトキシ)−5−メチルフェニルエステル(21%)を、生成した。
【0078】
実施例3
中間生成物である2−クロロベンゼンスルホン酸の3−(3−ヨードプロポキシ)−5−メチルフェニルエステルの合成
【0079】
【化10】

【0080】
2g(13mmol)のか焼(calcined)ヨウ化ナトリウムを、上記の例と同様に生成した2−クロロベンゼンスルホン酸の3−(3−クロロプロポキシ)−5−メチルフェニルエステルを30mlの乾燥アセトン中に含む混合物2.6gに加え、48時間煮沸した。次に、この反応混合物を、10mlのヘキサンに希釈し、蒸発した。その結果、ベンゼンスルホン酸の3−(2−ヨードエトキシ)−5−メチルフェニルエステル(Rf0.35)および個別の(respective)オルシンのジベンゾイルスルホン酸エステル(Rf0.25)を含む淡黄色の油を、2.45g得た。
【0081】
同様の技法を用いて、適当な塩化物を、
ベンゼンスルホン酸の3−(3−ヨードプロポキシ)−5−メチルフェニルエステル
2−フルオロベンゼンスルホン酸の3−(3−ヨードプロポキシ)−5−メチルフェニルエステル
2−カルボメトキシベンゼンスルホン酸の3−(3−ヨードプロポキシ)−5−メチルフェニルエステル
ベンゼンスルホン酸の3−(2−ヨードエトキシ)−5−メチルフェニルエステル
2−クロロベンゼンスルホン酸の3−(2−ヨードエトキシ)−5−メチルフェニルエステル
2−フルオロベンゼンスルホン酸の3−(2−ヨードエトキシ)−5−メチルフェニルエステル
2−カルボメトキシベンゼンスルホン酸の3−(2−ヨードエトキシ)−5−メチルフェニルエステル
ベンゼンスルホン酸の3−(4−ヨードブトキシ)−5−メチルフェニルエステル
2−クロロベンゼンスルホン酸の3−(4−ヨードブトキシ)−5−メチルフェニル エステル
2−フルオロベンゼンスルホン酸の3−(4−ヨードブトキシ)−5−メチルフェニルエステル
2−カルボメトキシベンゼンスルホン酸の3−(4−ヨードブトキシ)−5−メチルフェニルエステル
に加工した。
【0082】
実施例4
4−アミノ−l−(3−(3−メチル−5−(2−クロロベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)プロピル)−ピリジニウムイオダイド(HC_023s_IOC)の合成
【0083】
【化11】

【0084】
10mlの乾燥ジオキサン中に、0.55gの(前記の実施例からの)「未加工のヨウ化物(raw iodide)」(70%の活性物質に対して計算)と0.08g(0.85mmol)の4−アミノピリジンを混ぜたものを、20時間、煮沸した。混合物を冷却した後、溶液を蒸発し、得られた油を、固体になるまで、少量のエーテルで砕いた。固体沈澱をろ過し、ジオキサンとアセトニトリル(5:1)の混合物から、二度再結晶した。塩沈澱を、ろ過で取り、エステルで洗った。
真空乾燥することにより、0.35g(65%)白い塩を得た。
【0085】
【数1】

【0086】
同様の技法を用いて、適当なヨウ化物および複素環式化合物、チオ尿素およびチオ尿素誘導体を加工して、次を得た。
4−アミノ−1−(3−(3−メチル−5−(ベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)プロピル)−ピリジニウムイオダイド(HC_016s_IOC)
【0087】
【化12】

【0088】
【数2】

【0089】
2−アミノ−1−(3−(3−メチル−5−(ベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)プロピル)−チアゾリウムイオダイド(HC_017s_IOC)
【0090】
【化13】

【0091】
【数3】

【0092】
3−(3−メチル−5−(ベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)プロピル−イソチオウロニウムイオダイド(HC_018s_IOC)
【0093】
【化14】

【0094】
【数4】

【0095】
4−アミノ−1−(2−(3−メチル−5−(ベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)エチル)−ピリジニウムイオダイド(HC_019s_IOC)
【0096】
【化15】

【0097】
【数5】

【0098】
2−(3−メチル−5−(ベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)エチル−イソチオウロニウムイオダイド(HC_020s_IOC)
【0099】
【化16】

【0100】
【数6】

【0101】
2−(3−メチル−5−(2−クロロベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)エチル−イソチオウロニウムイオダイド(HC_024s_IOC)
【0102】
【化17】

【0103】
【数7】

【0104】
3−(3−メチル−5−(2−クロロベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)プロピル−イソチオウロニウムイオダイド(HC_026s_IOC)
【0105】
【化18】

【0106】
【数8】

【0107】
4−アミノ−1−(2−(3−メチル−5−(2−クロロベンゼンスルホニルオキシ)フェノキシ)エチル)−ピリジニウムイオダイド(HC_025s_IOC)
【0108】
【化19】

【0109】
【数9】

【0110】
同様の方法で、実施例1〜4に記載の技法によって、様々なアリールスルホニル塩化物および複素環式スルホニル塩化物から、化合物を合成した。合成した化合物の化学式、質量分析パラメーター、および算出したスコアリング関数を表2に示す。それら化合物は、ヨウ化物、臭化物、塩化物、または他の塩の形で得られる可能性がある。
【0111】
実施例5
化合物の合成
【0112】
【化20】

【0113】
1.4−クロロ−3−ニトロベンゼン−1−スルホニルクロライド
o−ニトロクロロアニリン(15g)を30mlのクロロスルホン酸に攪拌しながら加え、100°Cで2時間加熱した。引き続き、110°Cで2時間、さらに、127°Cで5時間加熱した。反応混合物を、室温まで冷却し、砕いた氷(140g)に注いだ。沈澱をろ過し、ろ過ケーキを氷水で洗い、風乾した。収穫物は、15gの4 クロロ−3−ニトロベンゼン−1 スルホニルクロライドであった。
2.4−クロロ−N−メチル−3−ニトロ−N−フェニルベンゼンスルホンアミド
【0114】
【化21】

【0115】
4−クロロ−3−ニトロベンゼン−l−スルホニルクロライド(10.6g、0.041mol)を、トルエン(50ml)に溶解し、次いで、トリエチルアミン(4.14g、0.041mol)を加えた。得られた溶液に、N−メチルアニリン(4.4g、0.041mol)を攪拌しながら加えた。反応混合物を70〜80°Cで1時間、インキュベートした後、冷却した。冷した溶液を、30mlの水で2回洗い、真空下で濃縮した。残留物を、エタノールから再結晶化した。4−クロロ−N−メチル−3−ニトロ−N−フェニルベンゼン スルホンアミドの収量は、9.4g(61%)であった。
3.N−メチル−4−(メチルアミノ)−3−ニトロ−N−フェニルベンゼンスルホンアミド
【0116】
【化22】

【0117】
4−クロロ−N−メチル−3−ニトロ−N−フェニルベンゾイルスルホンアミド(9.4g、0.029mol)のエタノール溶液(50ml)を、25mlの40%メチルアミン水溶液と混ぜた。反応混合物を、70°Cに熱し、この温度で1時間攪拌した。冷却、ろ過した後、ろ過ケーキをエタノールで洗い、60°Cで乾燥した。N−メチル−4−(メチルアミノ)−3−ニトロ−N−フェニルベンゾイルスルホンアミドの収量は、9.0g(97%)であった。
4.3−アミノ−N−メチル−4−(メチルアミノ)−N−フェニルベンゼンスルホンアミド
【0118】
【化23】

【0119】
N−メチル−4−(メチルアミノ)−3−ニトロ−N−フェニルベンゾイルスルホンアミド(9g、0.028mol)をイソプロパノール(90ml)に溶解した。この溶液に、ヒドラジン水和物(11ml)、活性炭(2g)およびFeCl6HO(10mlのエタノール中に、0.5 g)を加えた。反応混合物を、8時間煮沸した。炭(charcoal)を、ろ過して除いた。ろ液を、蒸発乾固した。3−アミノ−N−メチル−4−(メチルアミノ)−N−フェニルベンゼンスルホンアミドの収量は、8.1g(99%)であった。
5.3−クロロ−N−(5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−2−(メチルアミノ)フェニル)プロパンアミド
【0120】
【化24】

【0121】
氷上で冷やした(〜5°C)、3−アミノ−N−メチル−4−(メチルアミノ)−N−フェニルベンゼンスルホンアミド(5.4g、0.018mol)およびトリエチルアミン(1.81g、0.018mol)のジメチルホルムアミド(16ml)溶液に、クロロプロピオニルクロライド(2.32g、0.018mol)を加えた。室温で、5時間、攪拌しながら反応した。その後すぐに、水(14ml)とアセトニトリル(5ml)を、5時間加えた。生じた沈澱をろ過した。3−クロロ−N−(5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−2−(メチルアミノ)フェニル)プロパンアミドの収量は、3.1g(45%)であった。
6.4−アミノ−1−(3−(5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−2−(メチルアミノ)フェニルアミノ)−3−オキソプロピル)ピリジニウムクロライド
【0122】
【化25】

【0123】
3−クロロ−N−(5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−2−(メチルアミノ)フェニル)プロパンアミド(1g、0.0026mol)および4−アミノピリジニウム(0.73g、0.0078mol)を、無水アセトン(50ml)中で50時間、煮沸した。残留物をろ過し、アセトニトリルとエタノールを10:1で混合したものから、結晶化した。
4−アミノ−1−(3−(5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−2−(メチルアミノ)フェニルアミノ)−3−オキソプロピル)ピリジニウムクロライドの収量は、0,54g(43%)であった。
7.4−アミノ−1−(2−(1−メチル−5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)エチル)ピリジニウムクロライド
【0124】
【化26】

【0125】
アセトニトリル(8ml)に4−アミノ−l−(3−(5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−2−(メチルアミノ)フェニルアミノ)−3−オキソプロピル)ピリジニウムクロライド(0.2g、0.00042mol)を入れた懸濁液に、塩化チオニル(0.2ml)を加えた。反応混合物を10分間煮沸した後、室温で24時間放置し、ジエチルエーテル(8ml)で希釈した。生じた沈澱を、ろ過して回収し、アセトニトリルと無水エタノールを10:1で混合したものから、結晶化した。4−アミノ−l−(2−(l−メチル−5−(N−メチル−N−フェニルスルファモイル)−lH−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)エチル)ピリジニウムクロライドの収量は、0,055g(26%)であった。
【0126】
同様にして、実施例5に記載の技法によって、様々な化合物を合成した。それらの化学式、質量分析のパラメーター、および算出したスコアリング関数を表3に示す。化合物は、ヨウ化物、臭化物、塩化物、その他の塩の形で得られる可能性がある。
【0127】
実施例6
試験化合物のトロンビン活性に対する効果の検討
合成物質のトロンビン活性への効果を、これら化合物が存在する水性バッファー溶液および存在しない水性バッファー溶液中で、トロンビンの特異的低分子量物質の加水分解速度を測定することにより、検討した。そのような物質のひとつは、発色物質クロモザイム(Chromozim)TH(CTH):N−(p−Tosyl)−Gly−Pro−Arg−pNA[Sonder SA, Fenton JW 2nd. Thrombin Specificity with Tripeptide Chromogenic Substrates: Comparison of Human and Bovine Thrombins with and without Fibrinogen Clotting Activities. Clin. Chem., 1986, 32(6):934-937]であった。多くの実験で用いられた他の基質は、蛍光物質BOC−Ala−Pro−Arg−AMC(S)(式中、BOCは、ブトキシカルボニル残基を、AMCは、7−アミノ−4−アリールメチルクマリルを表す)[Kawabata S, Miura T, Morita T, Kato H, Fujikawa K, Ivanaga S, Takada K, Kimura T, Sakakibara S. Highly Sensitive peptide-4-methylcoumaryl-7-amide Substrates for Blood-Clotting Proteases and Trypsin. Eur. J. Biochem., 1988, 172(1): 17- 25] であった。
【0128】
140mMのNaCl、20mMのHEPESおよび0.1%ポリエチレングリコール(Mw=6,000)を含むpH8.0のバッファーを、一般的な96穴ボード(board)の穴部に入れた。基質(穴部における最終濃度100mcM)、トロンビン(最終濃度190pM)、および異なる濃度(0.002mM〜3.3mM)の試験化合物(提案されたトロンビン阻害剤)を加えた。発色物質を用いた場合、有色の反応産物(パラニトロアニリン)の蓄積を、分光光度Molecular Devices プレートリーダー(board reader)(サーモマックス(Thermomax)、米国)で観察し、波長405nmでの光学濃度の増加を測定した。蛍光物質の場合、トロンビンは、加水分解中に、 遊離した形で著しく蛍光を発するアミノメチルクマリルを切り離す(励起波長380nmおよび放出波長440nm)。反応動態は、蛍光分析Titertek Fluoroskanプレートリーダー(board reader)(LabSystem, フィンランド)で記録される。
【0129】
初期反応速度は、直線区間(記録開始から10分〜15分)の反応速度曲線傾斜角度の正接として測定する。阻害剤が無い場合の反応速度を100%とした。2つの独立した測定の平均算術値を、最終結果として使用した。
【0130】
図1は、様々な濃度の化合物HC−019s−IOC(表4を参照のこと)がある場合のトロンビンの効果のあるもとでの発色物質クロモザイム(Chromozim)TH(CTH)に対する、特徴ある動態(kinetic)加水分解曲線の例を示す。阻害剤がない場合の速度論的加水分解曲を、コントロールとして用いた。
【0131】
図2は、CTH加水分解阻害の程度と、非常に効果的なトロンビン阻害剤である、新規に合成された他の化合物(HC−018s−IOC)の系内での濃度との関係を示す(表4を参照のこと)。
多数の新規に合成された化合物のトロンビン活性への阻害効果の程度に関するデータを、表4に示す。
従って、上記にように得られた結果は、新規に合成した化合物のすべてが、直接トロンビン阻害剤であることを示す。阻害の程度は、個々の化合物によって異なるが、新規化合物の大部分は、非常に効果的なトロンビン阻害剤であり、トロンビンに依存する血栓塞栓性症状を制御するのに用いる医薬組成品の基材として使用するにも、研究用に使用するにも適している。
【0132】
【表1−1】

【0133】
【表1−2】

【0134】
【表1−3】

【0135】
【表1−4】

【0136】
【表1−5】

【0137】
【表1−6】

【0138】
【表1−7】

【0139】
【表1−8】

【0140】
【表1−9】


【0141】
【表1−10】

【0142】
【表1−11】

【0143】
【表1−12】

【0144】
【表1−13】

【0145】
【表1−14】

【0146】
【表1−15】

【0147】
【表2−1】

【0148】
【表2−2】

【0149】
【表2−3】

【0150】
【表2−4】

【0151】
【表2−5】

【0152】
【表3−1】

【0153】
【表3−2】

【0154】
【表4−1】

【0155】
【表4−2】

【0156】
【表4−3】

【0157】
【表4−4】

【0158】
【表4−5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般構造式(I)の化合物、およびその薬理学的に許容される塩または溶媒和物であって、
A−B−C (I)
式中、Cは、次の構造を含む群から選ばれる、
【化1】

式中、R、R、R、およびRは、互いに独立して、水素または、C〜Cのアルキル基であり、Bは、−(CH−、nは1〜5の整数であり、Aは、次の構造から選ばれる、
【化2】

式中、Rは、水素、C〜Cのアルコキシ基、CHNR1011、およびCH(CH)NR1011を含む群から選ばれ、
【化3】

式中、RおよびRは、互いに独立して、水素または、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基またはハロゲンであり、
は、水素または、C〜Cのアルキル基であり、
は、次からなる群から選ばれる、
【化4】

式中、R10およびR12は、互いに独立して、水素、C〜Cのアルキル基、(CHCOOR13、および(CHCON(R13を含む群から選ばれ、
【化5】

式中、mは、1から4の整数であり、
13は、水素またはC〜Cのアルキル基
11は、C〜Cのアルキル基、またはAr
Arは、水素、C〜Cアルキル基、C〜Cアルコキシ基、ハロゲン,N(R13、OH、NO、CN、COOR13、CON(R13およびSO13の群から選ばれた1から5つの置換基をもつ、フェニル、ピリジル、オキサゾリル、チアゾリル、チエニル、フラニル、ピリミジニル、ピリダゾニル、ピラジニル、インドリル、ベンゾフラニル、またはベンゾチオフェニルであり、
次を、例外とする、
【化6】

一般構造式(I)の化合物、およびその薬理学的に許容される塩または溶媒和物。
【請求項2】
具体的に
【化7】

式中、Yは、水素、ハロゲン、COOR13、CON(R13およびSO13からなる群から選ばれ、
rは、2から5の整数である、
請求項1に記載の化合物、およびその薬理学的に許容される塩または溶媒和物。
【請求項3】
トロンビンを阻害する能力のある、請求項1に記載の化合物、およびその薬理学的に許容される塩または溶媒和物。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物、およびその薬理学的に許容される塩または溶媒和物の利用。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物、その薬理学的に許容される塩または溶媒和物の治療有効量、および薬理学的に許容される担体を含む、トロンビン依存血栓塞栓症の治療および予防に使用するための医薬組成品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−531352(P2010−531352A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514671(P2010−514671)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【国際出願番号】PCT/RU2008/000400
【国際公開番号】WO2009/002228
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(510002257)
【Fターム(参考)】