説明

曲面状部材、曲面状部材の製造方法および金型の製造方法

【課題】本発明は、多品種少量生産に適した曲面状部材および曲面状部材の製造方法と、この曲面状部材を用いた金型の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】曲面状部材(レンズ4)の製造方法は、基板に凹凸パターンを形成して型を製造する型製造工程と、前記型の凹凸パターンを樹脂膜(熱可塑性樹脂膜22)に転写させる転写工程と、前記樹脂膜を加工対象物(レンズ本体40)の曲面41に貼り付ける貼着工程と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面に凹凸パターンを有する曲面状部材と、曲面状部材の製造方法と、曲面状部材を形成するための金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズのような曲面状部材の曲面に微細な凹凸パターンを形成する方法としては、金型を用いて射出成型する方法がある。このような微細な凹凸パターンを金型に形成する方法としては、従来、金型の凹状の製品形成面にフォトレジスト層を形成する工程と、フォトレジスト層を所定パターンで露光する工程と、フォトレジスト層のうち露光した部分を現像液で除去して複数の穴部を形成する工程と、複数の穴部が形成されたフォトレジスト層をマスクとしてエッチングする工程と、フォトレジスト層を除去する工程とを備えた方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−268331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した方法は、製造するレンズの種類や仕様(例えばレンズの径や曲率等)が多いと、種類や仕様ごとに金型を製作しなければならないため、コストが高くなり、多品種少量生産には適さないといった問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、多品種少量生産に適した曲面状部材および曲面状部材の製造方法と、この曲面状部材を用いた金型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係る曲面状部材は、凹凸パターンが形成された樹脂膜が、曲面上に貼り付けられていることを特徴とする。
【0007】
このように構成される曲面状部材は、以下に示すような製造方法で製造することができるため、多品種少量生産に適している。
【0008】
本発明に係る曲面状部材の製造方法は、型に形成された凹凸パターンを樹脂膜に転写させる転写工程と、前記樹脂膜を加工対象物の曲面に貼り付ける貼着工程と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る曲面状部材の製造方法によれば、型に形成された凹凸パターンを樹脂膜に転写し、その樹脂膜を加工対象物の曲面に貼り付けるだけで、曲面状部材が製造される。そのため、例えば径の異なる複数種類のレンズを形成する場合であっても、型や樹脂膜を前記複数種類のレンズのうち最大の径のものに合わせた大きさで作っておけば、型を1つ製造するだけで、複数種類のレンズに対して同じ樹脂膜を貼り付けた後、適宜カットするだけで、複数種類のレンズを製造することができる。そのため、従来のように樹脂成型用の型を、製品の種類や仕様に応じて複数製造する方法に比べ、1つの型を製造するだけで済むため、コストを低くすることができ、多品種少量生産を良好に行うことができる。
【0010】
なお、このようにして製造した曲面状部材を原版として、金型を製造してもよい。具体的に、本発明に係る金型の製造方法は、型に形成された凹凸パターンを樹脂膜に転写させる転写工程と、前記樹脂膜を加工対象物の曲面に貼り付ける貼着工程と、前記加工対象物に貼り付けられた樹脂膜上に、導電層を形成して電気メッキするメッキ工程と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
これによれば、従来技術では製品の種類や仕様に応じた金型ごとに凹凸パターンの形成を行わなければならないのに対し、1つの型に凹凸パターンを形成するだけで、製品の種類や仕様に応じた複数種類の曲面状部材を製造でき、これらの各曲面状部材に対して電気メッキするだけで簡単に複数種類の金型を複数製造することができる。そのため、本発明に係る金型の製造方法によれば、従来に比して、コストを低くすることができる。
【0012】
また、本発明に係る曲面状部材の製造方法および金型の製造方法では、前記貼着工程において、前記樹脂膜を張った状態で前記曲面に押し付けていくのが望ましい。
【0013】
これによれば、張った状態の樹脂膜を曲面に押し付けていくことで、樹脂膜を曲面に貼り付けていく際に常に樹脂膜に所定の張力をかけて樹脂膜を部分的に伸ばすことができるので、樹脂膜に皺が寄ることを抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係る曲面状部材の製造方法および金型の製造方法では、前記貼着工程を減圧下で行うのが望ましい。
【0015】
ここで、「減圧下」とは、大気圧よりも低い状態を意味する。
【0016】
これによれば、貼着工程を減圧下で行うので、曲面と樹脂膜との間に気泡が混入するのを抑えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、樹脂膜に凹凸パターンを形成する型を1つ製造するだけで、複数種類の曲面状部材を形成することができるので、多品種少量生産を良好に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明に係る曲面状部材の製造方法および金型の製造方法の一実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。参照する図面において、図1は、プレス型を示す断面図(a)と、プレス型と樹脂シートを示す断面図(b)と、樹脂シートにプレス型を押し付けた状態を示す断面図(c)と、プレス型の凹凸パターンが転写された樹脂シールを示す断面図(d)である。また、図2は、レンズ本体の上方に熱可塑性樹脂膜をセットした状態を示す断面図(a)と、熱可塑性樹脂膜がレンズ本体の頂部に当接した状態を示す断面図(b)と、レンズ本体の曲面全体に熱可塑性樹脂膜を貼り付けた状態を示す断面図(c)と、レンズ本体の側面に熱可塑性樹脂膜を貼り付けた状態を示す断面図(d)である。なお、本実施形態においては、曲面状部材として球面の一部のような形状となる凸状の曲面を有するレンズを採用することとする。
【0019】
<レンズの製造方法>
まず、レンズの製造方法について説明する。本実施形態に係るレンズの製造方法は、型製造工程、転写工程および貼着工程を備えて構成されている。
【0020】
[型製造工程]
図1(a)に示すように、基板10上にサブミクロンオーダの微細な凹部11を複数形成することで、所定の凹凸パターン1Aが形成されたプレス型1を1つだけ製造する。ここで、基板10の材料としては、Si、ガラス、金属などを採用できる。
【0021】
なお、基板10上への凹凸パターン1Aの形成方法としては、様々な方法を採用できる。例えば、レーザ光や電子線の走査により物性が変化するフォトレジスト層を基板10上に形成し、レーザ光等の走査によりフォトレジスト層に所定パターンを露光した後、露光部分を現像液で除去することでフォトレジスト層に所定パターンの穴部を形成し、このフォトレジスト層をマスクとしてエッチングを行うことで基板10上に凹凸パターン1Aを形成することができる。また、機械切削によっても基板10上に凹凸パターン1Aを形成することができる。さらには、例えば、ヒートモードの形状変化が可能なフォトレジスト層を基板10上に形成し、このフォトレジスト層にレーザ光を所定パターンで走査することでフォトレジスト層に穴部を形成した後、このフォトレジスト層をマスクとしてエッチングを行うことで基板10上に凹凸パターン1Aを形成することができる。なお、ヒートモードの形状変化が可能なフォトレジスト層の材料や塗布方法などは、後で詳述する。また、前述したように穴部が形成されたフォトレジスト層上に導電膜を形成して電気メッキすることでプレス型1を製造してもよい。
【0022】
[転写工程]
図1(b)に示すように、支持体21上に熱可塑性樹脂膜22を形成した樹脂シート20を用意する。熱可塑性樹脂膜22は、加熱により化学反応することなく軟化するとともに冷却により硬化する樹脂の膜である。ここで、熱可塑性樹脂膜22の材料としては、付加重合系ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等を採用でき、後述するレンズ本体40(図2参照)の屈折率や熱膨張率に近い屈折率や熱膨張率となる材料を選択するのが好ましい。また、支持体21の材料としては、熱可塑性樹脂膜22が容易に剥離可能となるような材料、例えば、シリコーン系やフッ素系の樹脂や、表面を剥離処理したSiやガラス基板等を選択するのが好ましい。また、支持体なしで転写してもよい。
【0023】
そして、図1(c)に示すように、熱可塑性樹脂膜22を加熱して軟化させた後、この熱可塑性樹脂膜22にプレス型1を押し付けることで、図1(d)に示すように、プレス型1に形成されている凹凸パターン1Aに対応した凹凸パターン2Aが熱可塑性樹脂膜22に転写される。
【0024】
[貼着工程]
図1(d)に示す支持体21から熱可塑性樹脂膜22を剥がした後、図2(a)に示すように、熱可塑性樹脂膜22の周縁を2つの枠状部材3で挟み込むことで、熱可塑性樹脂膜22を張った状態で枠状部材3に保持させる。なお、2つの枠状部材3は、ねじによる締結など公知の方法によって固定される。また、枠状部材3は、多角形や円形等どのような形状に形成してもよいが、熱可塑性樹脂膜22を貼り付ける対象となる加工対象物の外形に対応した形状にするのがよい。すなわち、本実施形態のように加工対象物として平面視円形のレンズ本体40を採用する場合には、枠状部材3を円形にするのがよい。これによれば、熱可塑性樹脂膜22に皺が発生するのを抑制することができる。
【0025】
そして、減圧下(大気圧よりも低い環境下)となる室内において、球面の一部のような形状となる凸状の曲面41を有する樹脂製のレンズ本体40を図示せぬ固定台上にセットするとともに、このレンズ本体40の上方に熱可塑性樹脂膜22を支持した枠状部材3を配置する。その後、レンズ本体40および熱可塑性樹脂膜22の少なくとも一方を加熱する。続いて、枠状部材3を下に下げていき、図2(b),(c)に示すように、張った状態の熱可塑性樹脂膜22を、曲面41の頂部41aから外周縁41bに向けて順に貼り付けていく。この際、熱可塑性樹脂膜22は、曲面41の頂部41aに貼り付けられた後は、頂部41aと枠状部材3との間で徐々に延ばされつつ、曲面41全体に貼り付けられていく。
【0026】
その後、図2(d)に示すように、さらに枠状部材3を下に下げるとともに、レンズ本体40の側面42に熱可塑性樹脂膜22を治具Jにより擦り付けるようにして貼り付ける。そして、最後に、熱可塑性樹脂膜22をレンズ本体40の下面43に合わせてカットすることで、凹凸パターン2Aが形成された熱可塑性樹脂膜22がレンズ本体40の曲面41に貼り付けられて構成される反射防止機能を有するレンズ4が製造される。
【0027】
<金型の製造方法>
次に、前述した方法で製造されたレンズ4を原版とする金型の製造方法について説明する。参照する図面において、図3は、レンズに導電層を形成する工程を示す断面図(a)と、電気メッキする工程を示す断面図(b)と、レンズを金属板から剥離させる工程を示す断面図(c)と、金属板の外形を機械加工した状態を示す断面図(d)である。
【0028】
[メッキ工程]
図3(a)に示すように、レンズ4の凹凸パターン2Aが形成された面4aと側面4bとに電気メッキを行うための前処理として、スパッタリングや真空蒸着などの方法により厚さ数十nm程度の金属薄膜51を導電層として形成する。これにより、レンズ4の面4a,4bに導電性が付与される。なお、金属薄膜51の材質としては、Ni、FeおよびCoのうち1つを主成分とする材料を用いることができる。
【0029】
次に、金属薄膜51が形成されたレンズ4を、スルファミン酸ニッケルを主成分とするメッキ液(温度55℃)に入れ、図3(b)に示すように、金属を所定の厚さに電気メッキして電気メッキ層52を形成する(メッキ工程)。この電気メッキ層52の材質は、金属薄膜51と同じものを用いることができる。
【0030】
[剥離工程]
次に、図3(c)に示すように、金属薄膜51と電気メッキ層52とからなる金属板5からレンズ4を剥離する。この剥離の際には、レンズ4を、メッキ工程で用いたメッキ液とほぼ同じ温度、例えばメッキ液の温度に対して±5℃以内の液体に漬け、メッキ液を洗い流しつつ、金属板5とレンズ4の間に純温水を浸入させるとよい。このときの液体としては、純水(純温水)を用いることができる。
【0031】
[仕上げ工程]
そして、作製した金属板5の外形を機械加工することによって、レンズ4の凹凸パターン2Aに対応した凹凸パターン6Aが形成された金型6が製造される。
【0032】
以上によれば、本実施形態において以下のような効果を得ることができる。
基板10に凹凸パターン1Aを形成してプレス型1を製造した後、プレス型1の凹凸パターン1Aを熱可塑性樹脂膜22にインプリントにより転写し、その熱可塑性樹脂膜22をレンズ本体40の曲面41に貼り付けるだけで、レンズ4が製造される。そのため、例えば径の異なる複数種類のレンズを形成する場合であっても、プレス型1や熱可塑性樹脂膜22を前記複数種類のレンズのうち最大の径のものに合わせた大きさで作っておけば、プレス型1を1つ製造するだけで、複数種類のレンズに対して同じ熱可塑性樹脂膜22を貼り付けた後、適宜カットするだけで、複数種類のレンズを製造することができる。そのため、従来のように樹脂成型用の型を製品の種類や仕様に応じて複数製造する方法に比べ、1つのプレス型1を製造するだけで済むため、コストを低くすることができ、多品種少量生産を良好に行うことができる。
【0033】
1つのプレス型1で製造される複数種類のレンズを原版として、電気メッキするだけで複数種類の金型を製造できるので、従来のように製品の種類や仕様に応じた金型ごとに凹凸パターンを形成する必要がなくなる。そのため、従来よりもコストを抑えて金型を製造することができる。
【0034】
さらに、例えば試供品として少量生産していたレンズを、市場のニーズによって大量生産する場合において、簡単にそのレンズの金型を製造することができる。すなわち、従来のような射出成型用の金型に凹凸パターンを形成する方法では、試供品として複数種類のレンズを少量だけ製造する場合であっても製品の種類や仕様に応じて複数金型を製造しなければならない。これに対し、本発明では、1つのプレス型1を作るだけで試供品として複数種類のレンズを製造でき、市場の動向を見ながら、必要に応じて大量生産用の金型を製造することができる。
【0035】
枠状部材3によって張った状態に保持した熱可塑性樹脂膜22を曲面41に押し付けていくことで、熱可塑性樹脂膜22を曲面41に貼り付けていく際に常に熱可塑性樹脂膜22に所定の張力をかけることができるので、熱可塑性樹脂膜22に皺が寄ることを抑制することができる。
【0036】
貼着工程を減圧下で行ったので、曲面41と熱可塑性樹脂膜22との間に気泡が混入するのを抑えることができる。
【0037】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。
前記実施形態では、樹脂膜として熱可塑性樹脂膜22を採用したが、本発明はこれに限定されず、例えば、光硬化性樹脂膜などを採用してもよい。なお、光硬化性樹脂としては、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレートなどのアクリレート樹脂またはエポキシ樹脂等を採用できる。
【0038】
前記実施形態では、プレス型1を熱可塑性樹脂膜22に押し付ける方法(いわゆるインプリント)によって熱可塑性樹脂膜22に凹凸パターンを転写したが、本発明はこれに限定されず、凹凸パターンが形成された射出成型用の型に液体状の熱可塑性樹脂等の樹脂を注入することで、射出成型により樹脂膜に凹凸パターンを転写してもよい。
【0039】
前記実施形態では、インプリント後に熱可塑性樹脂膜22を枠状部材3に取り付けたが、本発明はこれに限定されず、インプリント前に熱可塑性樹脂膜22を支持体21から剥がして枠状部材3に取り付け、この状態においてインプリントを行ってもよい。
【0040】
前記実施形態では、熱可塑性樹脂膜22をレンズ本体40の曲面41および側面42に密着させただけだが、本発明はこれに限定されず、熱可塑性樹脂膜22を貼り付けたレンズ本体40の側面42に、リング状の枠体を嵌め込むことで、熱可塑性樹脂膜22とレンズ本体40とを強固に固定させてもよい。
【0041】
前記実施形態では、曲面状部材として、片面が凸となるレンズ4を採用したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、両面が凸となるレンズや、LED(発光ダイオード)のカバー(光が透過する面)や、凹レンズ成型用の金型や、円筒型ディスプレイなどを採用することができる。なお、両面が凸となるレンズの場合は、両面に樹脂膜を貼り付けてもよい。また、曲面は、前記実施形態のように球面の一部のような形状に限定されず、円筒面の一部のような形状などであってもよい。
【0042】
前記実施形態では、プレス型1を熱可塑性樹脂膜22に押し付けたが、本発明はこれに限定されず、逆に、熱可塑性樹脂膜22をプレス型1に押し付けてもよい。
前記実施形態では、プレス型1を平板状に形成したが、本発明はこれに限定されず、円筒面を有するロール状(円柱または円筒状)に形成してもよい。これによれば、熱可塑性樹脂で形成される大きな1枚のシートの全体に対してロール状のプレス型を回転させながら、プレス型の凹凸パターンをシートに転写させた後、シートを複数に分断することで、製造を効率良く行うことができる。
【0043】
ここで、微細なパターンを付けたプレス型を製作する方法について述べる。例としては、ヒートモード型のフォトレジスト材料を用いたレーザによる加工方法を挙げる。ヒートモード型のフォトレジスト材料の具体例や、フォトレジスト層の加工条件等は、以下に示す通りである。
【0044】
ヒートモード型のフォトレジスト材料は、従来、光記録ディスクなどの記録層に多用されている記録材料、たとえば、シアニン系、フタロシアニン系、キノン系、スクワリリウム系、アズレニウム系、チオール錯塩系、メロシアニン系などの記録材料を用いることができる。
【0045】
本発明におけるフォトレジスト層は、色素をフォトレジスト材料として含有する色素型とすることが好ましい。
従って、フォトレジスト層に含有されるフォトレジスト材料としては、色素等の有機化合物が挙げられる。なお、フォトレジスト材料としては、有機材料に限られず、無機材料または無機材料と有機材料の複合材料を使用できる。ただし、有機材料であると、成膜をスピンコートやスプレー塗布により容易にでき、転移温度が低い材料を得易いため、有機材料を採用するのが好ましい。また、有機材料の中でも、光吸収量が分子設計で制御可能な色素を採用するのが好ましい。
【0046】
ここで、フォトレジスト層の好適な例としては、メチン色素(シアニン色素、ヘミシアニン色素、スチリル色素、オキソノール色素、メロシアニン色素など)、大環状色素(フタロシアニン色素、ナフタロシアニン色素、ポルフィリン色素など)、アゾ色素(アゾ金属キレート色素を含む)、アリリデン色素、錯体色素、クマリン色素、アゾール誘導体、トリアジン誘導体、1−アミノブタジエン誘導体、桂皮酸誘導体、キノフタロン系色素などが挙げられる。中でも、メチン色素、オキソノール色素、大環状色素、アゾ色素が好ましい。
【0047】
かかる色素型のフォトレジスト層は、露光波長領域に吸収を有する色素を含有していることが好ましい。特に、光の吸収量を示す消衰係数kの値は、その上限が、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましく、1以下であることが最も好ましい。その理由は、消衰係数kが高すぎると、フォトレジスト層の光の入射側から反対側まで光が届かず、不均一な穴が形成されるからである。また、消衰係数kの下限値は、0.0001以上であることが好ましく、0.001以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましい。その理由は、消衰係数kが低すぎると、光吸収量が少なくなるため、その分大きなレーザパワーが必要となり、加工速度の低下を招くからである。
【0048】
なお、フォトレジスト層は、前記したように露光波長において光吸収があることが必要であり、かような観点からレーザ光源の波長に応じて適宜色素を選択したり、構造を改変することができる。
例えば、レーザ光源の発振波長が780nm付近であった場合、ペンタメチンシアニン色素、ヘプタメチンオキソノール色素、ペンタメチンオキソノール色素、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン色素などから選択することが有利である。この中でも、フタロシアニン色素またはペンタメチンシアニン色素を用いるのが好ましい。
また、レーザ光源の発振波長が660nm付近であった場合は、トリメチンシアニン色素、ペンタメチンオキソノール色素、アゾ色素、アゾ金属錯体色素、ピロメテン錯体色素などから選択することが有利である。
さらに、レーザ光源の発振波長が405nm付近であった場合は、モノメチンシアニン色素、モノメチンオキソノール色素、ゼロメチンメロシアニン色素、フタロシアニン色素、アゾ色素、アゾ金属錯体色素、ポルフィリン色素、アリリデン色素、錯体色素、クマリン色素、アゾール誘導体、トリアジン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、1−アミノブタジエン誘導体、キノフタロン系色素などから選択することが有利である。
【0049】
以下、レーザ光源の発振波長が780nm付近であった場合、660nm付近であった場合、405nm付近であった場合に対し、フォトレジスト層(フォトレジスト材料)としてそれぞれ好ましい化合物の例を挙げる。ここで、以下の化学式1,2で示す化合物(I-1〜I-10)は、レーザ光源の発振波長が780nm付近であった場合の化合物である。また、化学式3,4で示す化合物(II-1〜II-8)は、660nm付近であった場合の化合物である。さらに、化学式5,6で示す化合物(III-1〜III-14)は、405nm付近であった場合の化合物である。なお、本発明はこれらをフォトレジスト材料に用いた場合に限定されるものではない。
【0050】
<レーザ光源の発振波長が780nm付近である場合のフォトレジスト材料例>
【化1】

【0051】
<レーザ光源の発振波長が780nm付近である場合のフォトレジスト材料例>
【化2】

【0052】
<レーザ光源の発振波長が660nm付近である場合のフォトレジスト材料例>
【化3】

【0053】
<レーザ光源の発振波長が660nm付近である場合のフォトレジスト材料例>
【化4】

【0054】
<レーザ光源の発振波長が405nm付近である場合のフォトレジスト材料例>
【化5】

【0055】
<レーザ光源の発振波長が405nm付近である場合のフォトレジスト材料例>
【化6】

【0056】
また、特開平4−74690号公報、特開平8−127174号公報、同11−53758号公報、同11−334204号公報、同11−334205号公報、同11−334206号公報、同11−334207号公報、特開2000−43423号公報、同2000−108513号公報、及び同2000−158818号公報等に記載されている色素も好適に用いられる。
【0057】
このような色素型のフォトレジスト層は、色素を、結合剤等と共に適当な溶剤に溶解して塗布液を調製し、次いで、この塗布液を、基板上に塗布して塗膜を形成した後、乾燥することにより形成できる。その際、塗布液を塗布する面の温度は、10〜40℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは、下限値が、15℃以上であり、20℃以上であることが更に好ましく、23℃以上であることが特に好ましい。また、上限値としては、35℃以下であることがより好ましく、30℃以下であることが更に好ましく、27℃以下であることが特に好ましい。このように被塗布面温度が上記範囲にあると、塗布ムラや塗布故障の発生を防止し、塗膜の厚さを均一とすることができる。
なお、上記の上限値及び下限値は、それぞれが任意で組み合わせることができる。
ここで、フォトレジスト層は、単層でも重層でもよく、重層構造の場合、塗布工程を複数回行うことによって形成される。
塗布液中の色素の濃度は、一般に0.01〜15質量%の範囲であり、好ましくは0.1〜10質量%の範囲、より好ましくは0.5〜5質量%の範囲、最も好ましくは0.5〜3質量%の範囲である。
【0058】
塗布液の溶剤としては、酢酸ブチル、乳酸エチル、セロソルブアセテート等のエステル;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン;ジクロルメタン、1,2−ジクロルエタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素;ジメチルホルムアミド等のアミド;メチルシクロヘキサン等の炭化水素;テトラヒドロフラン、エチルエーテル、ジオキサン等のエーテル;エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールジアセトンアルコール等のアルコール;2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール等のフッ素系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;等を挙げることができる。なお、フッ素系溶剤、グリコールエーテル類、ケトン類が好ましい。特に好ましいのはフッ素形溶剤、グリコールエーテル類である。更に好ましいのは、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルである。
上記溶剤は使用する色素の溶解性を考慮して単独で、或いは二種以上を組み合わせて使用することができる。塗布液中には、更に、酸化防止剤、UV吸収剤、可塑剤、潤滑剤等各種の添加剤を目的に応じて添加してもよい。
【0059】
塗布方法としては、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法等を挙げることができる。なお、生産性に優れ膜厚のコントロールが容易であるという点でスピンコート法を採用するのが好ましい。
フォトレジスト層は、スピンコート法による形成に有利であるという点から、有機溶媒に対して0.3wt%以上30wt%以下で溶解することが好ましく、1wt%以上20wt%以下で溶解することがより好ましい。特にテトラフルオロプロパノールに1wt%以上20wt%以下で溶解することが好ましい。また、フォトレジスト材料は、熱分解温度が150℃以上500℃以下であることが好ましく、200℃以上400℃以下であることがより好ましい。
塗布の際、塗布液の温度は、23〜50℃の範囲であることが好ましく、24〜40℃の範囲であることがより好ましく、中でも、25〜30℃の範囲であることが特に好ましい。
【0060】
塗布液が結合剤を含有する場合、結合剤の例としては、ゼラチン、セルロース誘導体、デキストラン、ロジン、ゴム等の天然有機高分子物質;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン等の炭化水素系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル・ポリ酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂、ポリビニルアルコール、塩素化ポリエチレン、エポキシ樹脂、ブチラール樹脂、ゴム誘導体、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂等の熱硬化性樹脂の初期縮合物等の合成有機高分子;を挙げることができる。フォトレジスト層の材料として結合剤を併用する場合に、結合剤の使用量は、一般に色素に対して0.01倍量〜50倍量(質量比)の範囲にあり、好ましくは0.1倍量〜5倍量(質量比)の範囲にある。
【0061】
また、フォトレジスト層には、フォトレジスト層の耐光性を向上させるために、種々の褪色防止剤を含有させることができる。
褪色防止剤としては、一般的に一重項酸素クエンチャーが用いられる。一重項酸素クエンチャーとしては、既に公知の特許明細書等の刊行物に記載のものを利用することができる。
その具体例としては、特開昭58−175693号公報、同59−81194号公報、同60−18387号公報、同60−19586号公報、同60−19587号公報、同60−35054号公報、同60−36190号公報、同60−36191号公報、同60−44554号公報、同60−44555号公報、同60−44389号公報、同60−44390号公報、同60−54892号公報、同60−47069号公報、同63−209995号公報、特開平4−25492号公報、特公平1−38680号公報、及び同6−26028号公報等の各公報、ドイツ特許350399号明細書、そして日本化学会誌1992年10月号第1141頁等に記載のものを挙げることができる。前記一重項酸素クエンチャー等の褪色防止剤の使用量は、色素の量に対して、通常0.1〜50質量%の範囲であり、好ましくは、0.5〜45質量%の範囲、更に好ましくは、3〜40質量%の範囲、特に好ましくは5〜25質量%の範囲である。
【0062】
なお、フォトレジスト層は材料の物性に合わせ、蒸着、スパッタリング、CVD等の成膜法によって形成することもできる。
【0063】
なお、色素は、穴部パターンの加工に用いるレーザ光の波長において、他の波長よりも光の吸収率が高いものが用いられる。
この色素の吸収ピークの波長は、必ずしも可視光の波長域内であるものに限定されず、紫外域や、赤外域にあるものであっても構わない。
【0064】
なお、穴部パターンを形成するためのレーザ光の波長λwは、大きなレーザパワーが得られる波長であればよく、例えば、フォトレジスト層に色素を用いる場合は、193nm、210nm、266nm、365nm、405nm、488nm、532nm、633nm、650nm、680nm、780nm、830nmなど、1000nm以下が好ましい。
【0065】
また、レーザ光は、連続光でもパルス光でもよいが、自在に発光間隔が変更可能なレーザ光を採用するのが好ましい。例えば、半導体レーザを採用するのが好ましい。レーザを直接オンオフ変調できない場合は、外部変調素子で変調するのが好ましい。
【0066】
また、レーザパワーは、加工速度を高めるためには高い方が好ましい。ただし、レーザパワーを高めるにつれ、スキャン速度(レーザ光でフォトレジスト層を走査する速度)を上げなければならない。そのため、レーザパワーの上限値は、スキャン速度の上限値を考慮して、100Wが好ましく、10Wがより好ましく、5Wがさらに好ましく、1Wが最も好ましい。また、レーザパワーの下限値は、0.1mWが好ましく、0.5mWがより好ましく、1mWがさらに好ましい。
【0067】
さらに、レーザ光は、発信波長幅およびコヒーレンシが優れていて、波長並みのスポットサイズに絞ることができるような光であることが好ましい。また、露光ストラテジ(穴部パターンを適正に形成するための光パルス照射条件)は、光ディスクで使われているようなストラテジを採用するのが好ましい。すなわち、光ディスクで使われているような、露光速度や照射するレーザ光の波高値、パルス幅などの条件を採用するのが好ましい。
【0068】
フォトレジスト層の厚さは、エッチングに用いるエッチングガスの種類や、フォトレジスト層に形成する穴部の深さに対応させるのがよい。
この厚みは、例えば、1〜10000nmの範囲で適宜設定することができ、厚さの下限は、好ましくは10nm以上であり、より好ましくは30nm以上である。その理由は、厚さが薄すぎると、エッチングマスクとしての効果が得難くなるからである。また、厚さの上限は、好ましくは1000nm以下であり、より好ましくは500nm以下である。その理由は、厚さが厚すぎると、大きなレーザパワーが必要になるとともに、深い穴を形成することが困難になるからであり、さらには、加工速度が低下するからである。
【0069】
また、フォトレジスト層tと、穴部の直径dとは、以下の関係であることが好ましい。すなわち、フォトレジスト層の厚さtの上限値は、t<10dを満たす値とするのが好ましく、t<5dを満たす値とするのがより好ましく、t<3dを満たす値とするのがさらに好ましい。また、フォトレジスト層の厚さtの下限値は、t>d/100を満たす値とするのが好ましく、t>d/10を満たす値とするのがより好ましく、t>d/5を満たす値とするのがさらに好ましい。なお、このように穴部の直径dとの関係でフォトレジスト層の厚さtの上限値および下限値を設定する理由は、前記した理由と同様である。
【実施例】
【0070】
次に、本発明の効果を確認した一実施例について説明する。
[型製造工程]
基板として、40mm角のシリコン基板を用意した。そして、このシリコン基板に、ヒートモード型のフォトレジスト材料の膜を形成し、レーザ加工により、0.25μmピッチで深さ0.25μmのドットパターンを25mm角の範囲に形成した後、反応性イオンエッチングにより、シリコン表面にドットパターンを形成した。
【0071】
[転写工程]
アクリルシート(厚み100μm、30mm角)をシリコン基板に押し付けて、200℃でインプリントして、シリコン基板の凹凸パターンをアクリルシートの表面に転写した。
【0072】
[貼着工程]
アクリルシートの周縁を枠状部材に取り付けて、100℃に加熱した後、アクリル製レンズ(φ20mm)に押し付けて、アクリルシートをアクリル製レンズに貼り付けた。
【0073】
以上により、微細な凹凸パターンが形成されたアクリルシートを有するレンズが製造できることが確認された。
【0074】
[メッキ工程]
製造したレンズを用いてNi電鋳によって、金型を形成した。これにより、微細な凹凸パターンを有するアクリルシートが貼り付けられたレンズから、微細な凹凸パターンを有する金型を製造できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】プレス型を示す断面図(a)と、プレス型と樹脂シートを示す断面図(b)と、樹脂シートにプレス型を押し付けた状態を示す断面図(c)と、プレス型の凹凸パターンが転写された樹脂シールを示す断面図(d)である。
【図2】レンズ本体の上方に熱可塑性樹脂膜をセットした状態を示す断面図(a)と、熱可塑性樹脂膜がレンズ本体の頂部に当接した状態を示す断面図(b)と、レンズ本体の曲面全体に熱可塑性樹脂膜を貼り付けた状態を示す断面図(c)と、レンズ本体の側面に熱可塑性樹脂膜を貼り付けた状態を示す断面図(d)である。
【図3】レンズに導電層を形成する工程を示す断面図(a)と、電気メッキする工程を示す断面図(b)と、レンズを金属板から剥離させる工程を示す断面図(c)と、金属板の外形を機械加工した状態を示す断面図(d)である。
【符号の説明】
【0076】
1 プレス型
1A 凹凸パターン
2A 凹凸パターン
3 枠状部材
4 レンズ
6 金型
10 基板
20 樹脂シート
21 支持体
22 熱可塑性樹脂膜
40 レンズ本体
41 曲面
51 金属薄膜
52 電気メッキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸パターンが形成された樹脂膜が、曲面上に貼り付けられていることを特徴とする曲面状部材。
【請求項2】
型に形成された凹凸パターンを樹脂膜に転写させる転写工程と、
前記樹脂膜を加工対象物の曲面に貼り付ける貼着工程と、を備えたことを特徴とする曲面状部材の製造方法。
【請求項3】
前記貼着工程において、
前記樹脂膜を張った状態で前記曲面に押し付けていくことを特徴とする請求項2に記載の曲面状部材の製造方法。
【請求項4】
前記貼着工程を減圧下で行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の曲面状部材の製造方法。
【請求項5】
型に形成された凹凸パターンを樹脂膜に転写させる転写工程と、
前記樹脂膜を加工対象物の曲面に貼り付ける貼着工程と、
前記加工対象物に貼り付けられた樹脂膜上に、導電層を形成して電気メッキするメッキ工程と、を備えたことを特徴とする金型の製造方法。
【請求項6】
前記貼着工程において、
前記樹脂膜を張った状態で前記曲面に押し付けていくことを特徴とする請求項5に記載の金型の製造方法。
【請求項7】
前記貼着工程を減圧下で行うことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の金型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−279831(P2009−279831A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134018(P2008−134018)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】