説明

材料供給装置

【課題】材料元素の供給温度を上げることができ、材料元素の安定供給を行うことができる材料供給装置を提供する。
【解決手段】
材料供給装置の容器10は、坩堝1とオリフィス3とで構成されている。坩堝1は、円筒型や角柱型等の形状で、かつ中空の形状に構成されている。坩堝1の周囲にヒータ等の熱源2が配置されており、坩堝1の材料元素供給方向には、開口部3aを有するオリフィス3が設けられている。オリフィス3は材料元素供給側に向かって伸びている管部3cを備えており、管部3cの先端には開口部3aが形成されている。また、管部3cの開口面積は、材料元素供給側、すなわち開口部3aの方向に向かって、次第に小さくなって行くように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に所定の薄膜等を形成する薄膜形成装置等に用いられる材料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクスといえばシリコンを筆頭とする半導体材料が活躍する分野であるが、近年、要求される機能に対して、シリコン材料自身の物性限界から、その機能を満足するようなデバイス構成ができなくなってきている。例えば、150℃以上の高温動作、シリコン自身の強い強度の発火等である。
【0003】
その一方でその物質種の多さと機能の多様性から、高温超伝導体のYBCO、紫外発光材料ZnO、有機EL等に代表される酸化物や有機物質が次世代を担う材料として注目を集めている。これらがシリコンという材料に制約され、発現できなかった機能を実現する可能性がある。
【0004】
例えば、ZnOはその多機能性、発光ポテンシャルの大きさなどが注目されているが、高純度化の観点から、Znは金属Znを昇華させ、酸素はプラズマクラッキングして酸素ラジカルとして共給するというプラズマアシストMBE法で行われていることが多い。しかし、酸素を化学活性の高い状態にして積極的に供給しているため、Zn材料が酸化しやすく、Zn材料供給を安定化させるのが難しい。
【0005】
Zn元素をMBE装置内の成長室に供給する場合は、MOCVDのようなバブリング方式ではなく、例えば、クヌーセンセル、Kセルと呼ばれる分子線セル等に代表される原材料の昇華によって材料元素を供給するタイプの材料供給装置が用いられる(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平2005−276952号公報
【特許文献2】特開平7−14765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、Znのように、蒸気圧が高く、常時使用温度が400℃以下であるような物質の元素を供給する場合、セルの温度を低温で安定して維持する必要がある。しかし、低温度というのは少しの環境変化で温度変動し、制御が難しいため、目的とする物質の安定した供給が難く、歩留まり悪化等を招く。そこで、材料元素を昇華によって供給する場合には、温度をできるだけ高くしたいという要求がある。
【0007】
一方、ZnO等の酸化物を作製する場合には、材料供給装置から供給される元素だけではなく、非常に化学活性の高い酸素も同時に使用されるので、材料供給装置を構成する坩堝内に酸素が侵入して、坩堝内の原材料が酸化してしまい、材料供給が不安定になるもしくは供給できなくなるという問題があった。
【0008】
上記のいずれの問題も、材料供給装置における材料元素が放出される開口部の面積を狭くして内圧を上げれば防ぐことができる。この開口部の面積を狭くする手段として、最適化の改造がしやすいことや、入れる材料の形が制約されにくい等の理由により、坩堝の形状を変えずに、開口面積を絞るオリフィスをつけることが考えられている。
【0009】
例えば、ZnOのプラズマアシストMBE法による成長を例にとって説明する。図9のように、材料供給装置は、円柱形状の坩堝11内に原材料(Zn)14を入れて、熱源12により坩堝11内を温める。ZnO結晶薄膜を形成するには蒸気圧にして10−6Torr台のZn供給が必要だが、円柱型の普通の坩堝11では大きく開いた開口から酸素ラジカルが侵入し、内部の原材料14が酸化しやすい。図8(a)は坩堝11内の原材料14であるZnのうち、酸化したZnと酸化していないZnを示す。このように、原材料14の上部が酸化してしまうと、この酸化膜に阻まれてZn蒸気が生成されなくなり、Zn蒸気が不安定になる。また、通常、Znが入れられた坩堝11は、260℃〜280℃の範囲で加熱されるが、低温領域なので温度制御が難しい。
【0010】
これらの問題を解決するために、狭い開口部13aを有するオリフィス13を図のように挿入し、坩堝11の途中で開口面積を絞るようにすると、坩堝11の内圧は上がるので、従来よりも高温で加熱することができ、原材料14の酸化は抑制されるが、図8(b)のようにオリフィス13にZnが成長し、開口部13aが詰まってしまう。このように、開口面積を絞るオリフィスを装着した場合、坩堝の温度を上げることができ、原材料の酸化は防げるものの、新たな問題が発生し、材料元素を安定的に供給することができない。
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、材料元素の供給温度を上げることができ、材料元素の安定供給を行うことができる材料供給装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、原材料を容器内で昇華させることによって材料元素を供給する材料供給装置であって、前記容器は、開口面積が所定の位置から材料元素を放出する開口部に向かって小さくなるように形成されている管部を有し、該管部は材料元素供給側に向かって伸びていることを特徴とする材料供給装置である。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、前記材料元素を供給して形成される物質は、酸化物であることを特徴とする請求項1記載の材料供給装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の材料供給装置によれば、原材料を配置する容器は、開口面積が所定の位置から材料元素を放出する開口部に向かって小さくなるように形成された管部を有し、かつ管部は、材料元素供給側に向かって伸びているので、原材料を容器内で昇華させた場合、容器の途中で開口部を絞るように構成した装置と比較して昇華した材料元素が開口部を覆って塞ぐことがなくなり、材料元素を安定して供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図1は本発明の材料供給装置の構造を示す。
【0016】
材料供給装置の容器10は、坩堝1とオリフィス3とで構成されている。図では、坩堝1とオリフィス3とは分離しているが、これらを一体に形成した容器10を用いることもできる。坩堝1は、円筒型や角柱型等の形状で、かつ中空の形状に構成されている。また、坩堝1は、PBN(窒化硼素)や石英等で形成される。坩堝1の周囲にヒータ等の熱源2が配置されており、坩堝1の材料元素供給方向には、開口部3aを有するオリフィス3が設けられている。
【0017】
図に示す材料元素供給方向とは、材料供給装置が用いられる薄膜形成装置(例えばMBE装置等)内の成長室側を指し示しており、より具体的には、成長室内に配置された半導体薄膜成長用の基板方向に向けられている。
【0018】
図1のようにオリフィス3は材料元素供給側に向かって伸びている管部3cを備えており、管部3cの先端には開口部3aが形成されている。また、管部3cの開口面積は、材料元素供給側、すなわち開口部3aの方向に向かって、次第に小さくなって行くように形成されている。
【0019】
オリフィス3のより具体的な構成を図2に示す。オリフィス3は、上部に設けられた縁部3bと縁部3bに接続された管部3cから構成されており、管部3cには開口部3aが形成されている。管部3cは粒子が通過できるように、孔が開けられた形状となっている。そして、図2の形状のオリフィスを上下逆にして坩堝1に装着すると、図1のようになる。
【0020】
坩堝1内には原材料4が挿入されており、熱源2の熱によって昇華される。昇華された材料元素は坩堝1の出口に向かって進み、開口部3aから薄膜形成装置の成長室に配置された成長用基板に向かって放出される。
【0021】
本発明の図1の構成は、図9と比較すると、実質的にオリフィスを外向きに装着したのと同じである。本発明の構成とした場合の効果を図9のようにオリフィスを内向きに装着した場合と比較して以下に説明する。
【0022】
まず、図1のように外向きのオリフィスを装着した場合と、図9のように内向きにオリフィスを装着した場合とで、坩堝温度(セル温度)と坩堝内部から放出されるビームフラックスとの関係を調べた。一例としてMgZnO薄膜をプラズマアシストMBE法によって形成した。そのときの、Mg元素を供給する装置として、図1の材料供給装置と図9の材料供給装置を用いてMgセル(坩堝)温度とMgフラックスとの関係を比較した。フラックスの測定には水晶振動子を用いた。MgもZn同様、蒸気圧が高く、通常セル温度は350℃程度に設定される。Mgは一旦酸化し、表面にMgOが形成されると、全く材料供給ができなくなる。その点では、Znの方が材料供給ができなくなることがない分、まだましで、Mgは最も材料供給の制御が難しい材料のうちの1つである。
【0023】
上記の比較結果が、図4である。Xが図1の構成の場合のMgセル温度とビームフラックスとの関係を示し、Yが図9の構成の場合のMgセル温度とビームフラックスとの関係を示す。また、Xのグラフで白丸(○)はセル温度上昇を、黒丸(●)はセル温度降下を示す。一方、Yのグラフで白三角(△)はセル温度上昇を、黒三角(▲)はセル温度降下を示す。このグラフからわかるように、外向きオリフィス構造(図1の構成)の方が、温度に対してフラックスが安定しているのがわかる。また、所望のフラックスを得るための温度も低い。すなわち、材料元素を放出するオリフィスの開口部が塞がっていないためである。図1の構成とすると、図7に示すように、オリフィス3の周辺にZnは付着するが、開口部3aはふさがらず、開いたままになる。
【0024】
この理由については明確ではないが、以下のように考えられる。図5は図1の構成をより模式的に示した断面形状図であり、図1と同じ符号を使用する。一方、図6は図9の構成をより模式的に示した断面形状図であり、図9と同じ符号を使用する。なお、図1や図9では坩堝の形状で上部と下部の開口面積を同じように描いているが、実際には、図5、6に示すように、坩堝の下部よりも上部の方が拡がっており、分子線が放出されやすい形状となっている。
【0025】
ここで、内向きにオリフィスを配置すると、図6(b)のように、坩堝11とオリフィス13の間に狭くなるAの空間ができる。この空間Aはオリフィス13に原材料14の昇華により発生した材料元素が付着し始めると狭いため、直ぐにこの空間が埋まる。ここが埋まってしまうと、丈(長さ)の短い坩堝に小さい穴を開けたのと同じ状態になる。坩堝の実質的な丈が短くなってしまい、図6(b)に示すように、原材料14からAの領域の付着物までの距離が近くなるため、さらにA領域の付着物が成長して内側方向(図6(b)の矢印方向)に拡大し、破線で表されるB領域にまで大きくなり、最終的にはオリフィス13の開口部13aを塞ぐことになると考えられる。
【0026】
一方、図5のように外向きにオリフィスを配置すると、図6(b)のAで示されるような特異な狭い空間は現れない。したがって、原材料4の昇華により発生した材料元素が、オリフィス3の開口部3a付近に付着し始めて、図5(b)に示す領域Cに付着しても、付着物の成長方向は図5(b)の矢印方向のように内側に向かわないので、オリフィス3の開口は一定面積確保される。このために、図6で述べた現象が起こらず、実効的な坩堝の丈は、なかなか変わらないので、開口部3aが付着物で塞がれにくいと考えられる。
【0027】
以上のように、材料供給装置の原材料を設置する容器に、開口面積が所定の位置から材料元素を放出する開口部に向かって小さくなるように形成され、かつ、材料元素供給方向に向かって伸びている管部を設けることで、原材料を容器内で昇華させた場合、昇華した材料元素が開口部を塞ぐまで付着することがなくなり、材料元素を安定して供給することができる。
【0028】
また、オリフィス3の構造の変形例を図3に示す。図3の構成では、図2の構造に加えて、突起部3dが3箇所形成されている。材料供給装置を使用した後は、非常に熱くなるので、オリフィスの交換やオリフィスの外向き、内向きへの変換は機械で行われるが、そのときに、ワイヤー等を引っ掛けて移動させやすくするものである。本発明の構成で使用する場合には、図3のオリフィスの上下を逆にして坩堝1に装着する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の材料供給装置の構造を示す図である。
【図2】オリフィスの構造を示す図である。
【図3】オリフィスの構造の変形例を示す図である。
【図4】オリフィスを外向き、内向きに各々装着した場合、セル温度とビームフラックスとの関係を比較した図である。
【図5】図1の構造をより模式的に描いた断面図である。
【図6】図9の構造をより模式的に描いた断面図である。
【図7】図1の構造で材料元素を供給したときのオリフィス開口部を示す図である。
【図8】図9の構造で材料元素を供給したときの坩堝内部とオリフィス開口部を示す図である。
【図9】オリフィスを内向きに装着した材料供給装置の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 坩堝
2 熱源
3 オリフィス
3a 開口部
3b 縁部
3c 管部
3d 突起部
4 原材料
10 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原材料を容器内で昇華させることによって材料元素を供給する材料供給装置であって、
前記容器は、開口面積が所定の位置から材料元素を放出する開口部に向かって小さくなるように形成されている管部を有し、該管部は材料元素供給側に向かって伸びていることを特徴とする材料供給装置。
【請求項2】
前記材料元素を供給して形成される物質は、酸化物であることを特徴とする請求項1記載の材料供給装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−247673(P2008−247673A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91388(P2007−91388)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】