説明

核酸と蛋白質の相互作用の検出方法及び装置

【課題】蛍光分子による試料の標識や金属薄膜上への試料の固着を要することなく、核酸と蛋白質の相互作用を容易にかつ高感度で検出する。
【解決手段】試料S中での核酸と蛋白質との相互作用の発生の有無を光学的に検出する。具体的には、試料Sに対して励起光Leを照射するとともに、この励起光Leの照射により試料S内に生ずる光熱効果を測定するための測定光L2を照射する。この測定光L2の位相変化から、励起光Leによる試料Sの光熱効果を測定し、その測定信号の時間変化に基づいて核酸と蛋白質相互作用の発生の有無を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば癌マーカー蛋白の検出や転写因子探索等を目的として、試料中における核酸とそのリガンド蛋白質との相互作用の有無を検出するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、前記のような核酸と蛋白質との相互作用を検出するための方法として、下記特許文献1に記載されるようないわゆる蛍光法が知られている。この方法は、核酸と蛋白質の双方を互いに異なる蛍光色素で標識し、これらの蛍光色素が互いに作用して蛍光を変化させ得るようにした上で、その実際の変化の有無を測定することにより前記核酸と蛋白質の相互作用を検出するようにしたものである。
【特許文献1】特開2004−16132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記の蛍光法では、前記蛍光分子によって核酸及び蛋白質を特異的に染色するために数段階の前処理工程が必要である。従って、実際の測定工程に至るまでに多大な手間を要する。また、蛍光分子が活性部位に与える影響も懸念される。
【0004】
なお、前記蛍光分子等による標識が不要な分子間相互作用検出方法として、SPR(表面局在プラズモン共鳴)センサを用いる方法が考えられる。この方法は、基板上に形成された金属薄膜上に試料を固相結合し、この試料に所定のレーザ光を入射したときの前記試料の吸着度合いをSPRセンサによって検出するものである。
【0005】
しかしながら、この方法を前記核酸−蛋白質相互作用の検出に利用することは実用上困難である。すなわち、この方法では、前記金属薄膜の膜厚についてナノメートルオーダーでの制御が求められるとともに、その薄膜表面にアナライトと呼ばれる目的分子捕獲用の分子(例えば抗原に対する抗体)を吸着させる必要があり、このような事情から、再現性の高い基板を作成することはきわめて困難である。特に、機能性分子については、基板表面付近に活性部位を置いての計測となるため、当該活性部位が基板の影響を受ける可能性は否定できない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、蛍光分子による試料の標識や金属薄膜上への試料の固着を要することなく、核酸と蛋白質の相互作用を容易にかつ高感度で検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するための手段として、前記核酸及び蛋白質を含む試料の光熱効果、すなわち、当該試料に所定の励起光を入射した時にこの励起光を前記試料が吸収して発熱する効果に着目し、この光熱効果と、試料中での核酸と蛋白質との相互作用の有無との間に著しい相関関係があることを見出した。具体的に、前記光熱効果は一般に時間が経過するに従って減少するのであるが、核酸と蛋白質との相互作用が生じている試料では少なくとも光熱効果の立上り直後において前記光熱効果の時間減少がほとんどないことを見出した。これは、前記核酸の断片の構造がリガンド蛋白質との相互作用によって安定化することによるものであると推察される。
【0008】
本発明は、このような点に着目してなされたものであり、試料中での核酸と蛋白質との相互作用の発生の有無を検出するための方法であって、前記試料に対して励起光を照射するステップと、前記励起光の照射により前記試料内に生ずる光熱効果を測定するステップと、前記光熱効果の時間変化に基づいて核酸と蛋白質相互作用の発生の有無を判断するステップとを含むものである。
【0009】
また本発明は、試料中での核酸と蛋白質との相互作用の発生の有無を検出するための装置であって、前記試料を収容する試料収容部と、前記試料収容部に収容された試料に対して励起光を照射する励起光照射系と、前記励起光の照射により前記試料内に生ずる光熱効果の測定信号を生成する測定装置とを含み、この測定装置は、前記測定信号の時間変化に関するデータを作成し、その作成したデータに基づいて前記相互作用の有無を判断する信号処理装置を含むものである。
【0010】
以上の構成によれば、前記試料に励起光を照射してそのときの光熱効果を測定し、その光熱効果の時間変化を監視することにより、前記試料中での核酸と蛋白質の相互作用の発生の有無を的確に判断することができる。従って、試料中の核酸及び蛋白質の標識や金属薄膜への試料の固着を要することなく、前記相互作用の有無を容易にかつ高感度で検出することができる。また、前記検出装置では、前記信号処理装置が前記相互作用の有無の判断に有用なデータを作成してそのデータに基づいて相互作用の有無を自動的に判断する。
【0011】
前記検出方法は、例えば、DNAまたはRNAからなる機能性高分子(いわゆるアプタマー)と、そのリガンド蛋白質との相互作用の有無を検出するのに好適である。
【0012】
また、前記検出方法において前記光熱効果を測定するステップとしては、前記試料に前記励起光とは別の測定光を透過させてこの透過した測定光の位相変化を測定する操作を含むものが、好適である。同様に、前記検出装置における測定装置は、前記試料に前記励起光とは別の測定光を透過させてこの透過した測定光の位相変化を測定するものが、好適である。前記試料が光熱効果により発熱すると、当該試料での光の屈折率が変化するので、この試料に測定光を透過させてその位相変化を測定することにより、前記試料の光熱効果を容易にかつ的確に把握することができる。
【0013】
この場合、前記測定装置は、測定用光源と、この測定用光源から発せられる測定光を前記試料収容部に収容された試料に透過させ、この透過した測定光と参照光とを干渉させる光学系と、その干渉した光の強度を検出する光検出器とを含むものが、好適である。
【0014】
この測定装置によれば、前記測定光と参照光とを干渉させてその干渉光の強度を検出するだけの簡単な構成で、前記試料を透過する測定光の位相変化を容易に計測することができる。
【0015】
一方、前記試料収容部は、前記試料を収容する試料収容器と、この試料収容器内の試料を前記核酸と蛋白質の反応温度に調節する温度調節機構と、その加熱された試料を前記励起光の照射位置まで移送する移送手段とを含むものが、好ましい。
【0016】
この構成によれば、前記試料収容器内で、前記試料中における核酸と蛋白質との反応(相互作用)を行わせ、かつ、そのまま当該試料に対して励起光の照射を行うことができる。
【0017】
より具体的に、前記移送手段としては、前記試料収容器を、この試料収容器内に前記試料を注入するための注入位置と、その注入された試料の温度を前記温度調節機構により調節するための温度調節位置と、前記励起光の照射位置の順に移送するものが、好適である。
【0018】
また、前記試料収容器が、前記試料を流すための流路を有し、この流路は、その上流側から順に、前記核酸及び前記蛋白質がそれぞれ導入される導入部と、その導入された核酸と蛋白質とを合流させて混合する混合部と、その混合液の温度を前記温度調節機構により調節して前記反応を行わせるための反応部と、前記励起光が照射される励起光照射部とを有するものであってもよい。この構成によれば、前記試料収容部内で前記試料の移送を行うことができる。
【0019】
また、前記励起光照射部が、その試料の流れ方向に並ぶ複数の位置に前記励起光が照射されるものであれば、その各位置で光熱効果を測定することによって、当該光熱効果の時間変化を適正に検出することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、試料に励起光を照射して当該試料における光熱効果を測定するだけで、当該光熱効果の時間変化に基づいて前記試料における核酸−蛋白質相互作用の有無を容易にかつ高感度で検出することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の第1の実施の形態を、図1〜図5を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、この実施の形態に係る検出装置の全体構成を示したものである。図示の検出装置は、励起光照射系(以下、単に「励起系」と称する。)10と、測定系(測定装置)20と、試料収容部40とを備える。そして、この試料収容部40に後述の試料が収容される。
【0023】
前記励起系10は、前記試料収容部40の所定位置に収容される試料に励起光を照射するためのものであり、励起光源12と、分光機構14と、変調器構16と、ダイクロイックミラー17と、集光レンズ18とを備える。
【0024】
前記励起光源12としては、例えば白色光を出力するキセノンランプや紫外光を出力する水銀ランプが好適である。この励起光源12から発せられる光は前記分光機構14で分光され、前記変調機構16で周期的に変調されて測定に好適な励起光Leとなる。
【0025】
前記ダイクロイックミラー17は、前記測定系20と前記試料収容部40との間に位置し、後述のように前記測定系20から送られてくる測定光はそのまま透過させる一方、前記励起光源12から送られてくる励起光Leを90°反射させて前記測定光と同軸で前記試料収容器40側に導く。前記集光レンズ18は、前記ダイクロイックミラー17で反射した後の励起光Leを特定領域内に集光して前記試料収容部40に収容された試料に照射する。この励起光を前記試料が吸収して発熱することにより、その温度変化分だけ当該試料の屈折率が変化する。
【0026】
前記測定系20は、前記試料の屈折率を測定するための測定光L2を当該試料に照射し、かつ、その測定光の位相変化によって前記屈折率を測定するものである。この実施の形態では、前記測定系20は、測定光源22と必要な光学系、さらには光検出器36及び信号処理装置38を備えている。
【0027】
前記測定光源22は、例えば出力1mWのHe−Neレーザ発生器からなり、この測定光源22から照射される測定光は、図1に示されるように、λ/2波長板23で偏光面の調節を受けた後、偏光ビームスプリッタ24によって、互いに直交する2つの偏光、すなわち、参照光L1と測定光L2とに分光される。
【0028】
前記参照光L1は、音響光学変調器25Aによって光周波数のシフト(周波数変換)を受けた後、ミラー26Aで反射して偏光ビームスプリッタ28に入力される。また、前記測定光L2は、音響光学変調器25Bによって光周波数のシフト(周波数変換)を受けた後、ミラー26Bで反射して前記偏光ビームスプリッタ28に入力され、このスプリッタ28で前記参照光L1と合成される。
【0029】
前記参照光L1は、前記偏向ビームスプリッタ30をそのまま透過してミラー34で180°反射することにより前記偏光ビームスプリッタ30に戻る。このとき、前記偏光ビームスプリッタ30と前記ミラー34との間には1/4波長板33が介在していてこの1/4波長板33を前記測定光L2が往復で通過するため、この参照光L1の偏光面は90°回転する。従って、前記偏光ビームスプリッタ30に戻った参照光L1は前記試料収容部40と反対の側に90°反射する。この参照光L1は、偏光板35を通じて光検出器36に入力される。
【0030】
一方、前記測定光L2は、前記偏光ビームスプリッタ30で前記試料収容部40側に90°反射され、1/4波長板32、前記ダイクロイックミラー17、及び前記集光レンズ18を通じて試料収容部40へ導かれる。この測定光L2は後述のように試料に入射され、さらに180°反射して、前記1/4波長板32を通じて前記偏光ビームスプリッタ30に戻る。この測定光L2は、前記1/4波長板32の往復透過によってその偏光面が90°回転した状態にあるので、今度は当該偏光ビームスプリッタ30をそのまま透過して前記参照光L1と合流し、前記偏光板35および前記光検出器36へ向かう。
【0031】
前記偏光板35では、前記参照光L1と前記測定光L2とが互いに干渉し、その干渉光の光強度が前記光検出器36によって電気信号(測定信号)に変換される。
【0032】
前記信号処理装置38は、前記測定信号を特定のサンプリング周期をおいてサンプリングし、その測定信号に基づいて前記測定光L2(測定光)の位相変化を演算する。さらに、この信号処理装置38は、前記位相変化の時間的変化に関するデータを作成し、かつ、後述のように、当該データに基づいて前記試料S内における相互作用の有無を自動的に判断する。
【0033】
ここで、前記干渉光強度S1は、次の(1)式で表される。
【0034】
S1=C1+C2・cos(2π・fb・t+φ) …(1)
同式において、C1、C2は前記偏光ビームスプリッタ等の光学系や試料Sの透過率により定まる定数、φは前記参照光L1と前記測定光L2の光路長差による位相差、fbは前記参照光L1と前記測定光L2の周波数差である。この(1)式より、前記干渉光強度S1の変化(前記励起光を照射しない或いはその光強度が小さいときとその光強度が大きいときとの差)から、前記位相差φの変化が求まることがわかる。前記信号処理装置38は、(1)式に基づいて前記位相差φの変化を算出する。
【0035】
なお、前記励起光Leの強度が例えばチョッパの回転により周波数fで周期的に強度変調されていると、試料Sの屈折率も前記周波数fで変化し、測定光L2の光路長も前記周波数fで変化し(参照光L1の光路長は一定)、前記位相差φも周波数fで変化する。従って、前記位相差φの変化を前記周波数fの成分(前記励起信号の強度変調周期と同周期成分)について測定(算出)すれば、周波数fの成分を有しないノイズの影響を除去しつつ試料Sの屈折率変化のみを測定することが可能である。この測定は、前記位相差φの測定のS/N比を向上させる。
【0036】
また、前記励起光源12にレーザダイオードやLEDなどが用いられる場合、その励起光源12の電源を電気回路でコントロールすることにより前記変調を行うことも可能である。
【0037】
前記試料収容部40は、図2に示すように、基台41と、試料収容器であるマイクロアレイ42と、移送手段であるマニピュレータ44とを備え、前記基台41上には、自動分注装置46、ヒータ47、及びミラー48が設置されている。
【0038】
前記マイクロアレイ42は、前記自動分注装置46から分注される試料を収容するものであり、図2〜図4に示すような平坦な基板により構成される。このマイクロアレイ42の上面部には、縦横に並ぶ複数(図4(a)に示す例では5×5=25個)の試料収容凹部42aが形成され、各試料収容凹部42a内に図4(b)に示すような試料Sが分注される。本発明では試料収容器の具体的な材質を問わないが、この実施の形態に係るマイクロアレイ42は、前記励起光Le及び測定光L2を透過させる材質を有する必要がある。具体的には、合成石英、石英、PDMSなどが好適である。
【0039】
前記マニピュレータ44は、前記マイクロアレイ42の外形に対応する形状の窓44aを有し、この窓44a内に前記マイクロアレイ42が嵌まり込んだ状態で同アレイ42を保持する。換言すれば、このマイクロアレイ42を上下に開放した状態で同アレイ42を四方外側から保持する。
【0040】
前記自動分注装置46は、前記基台41上に立設され、前記試料Sを適量(すなわち前記各試料収容凹部42aを満たす量)だけ滴下する。
【0041】
前記ミラー48は、前記自動分注装置46から水平方向に離れた位置で前記基台41上に設置され、前記測定系20から下向きに導入される測定光L2を上向きに180°反射させる。
【0042】
前記ヒータ47は、本発明の温度調節機構を構成するもので、前記ミラー48のすぐ上に配設され、このヒータ47上に移送されるマイクロアレイ42を所定温度まで加熱する。この加熱温度は、前記試料Sにおける核酸と蛋白質との相互作用を促進させる温度(反応温度)に設定されている。このヒータ47において前記励起光Le及び前記測定光L2が照射される位置には切欠部47aが形成され、この切欠部47aにおいて前記ミラー48が上方に開放されている。
【0043】
なお、本発明に係る温度調節機構は、前記ヒータ47に限らない。逆に試料の温度を低下させる冷却器も含まれ得る。
【0044】
前記マニピュレータ44は、前記自動分注装置46による分注位置、前記ヒータ47上の加熱位置、及び前記ミラー48上の励起光Le及び測定光L2の照射位置の順に前記マイクロアレイ42を搬送する。
【0045】
次に、この検出装置の作用を説明する。
【0046】
前記試料収容部40では、マイクロアレイ42を保持するマニピュレータ44が同アレイ42をまず分注位置に移送する。そして、前記マイクロアレイ42の各試料収容凹部42aが順に前記自動分注装置46の直下に位置するように同アレイ42を走査する。これらの分注位置で、前記自動分注装置46から各試料収容凹部42a内に試料Sが分注される。
【0047】
全ての試料収容凹部42aへの試料Sの分注が完了した後、前記マニピュレータ44は前記マイクロアレイ42を前記ヒータ47上の加熱位置へ移送する。この加熱位置は、前記マイクロアレイ42が前記ヒータ47に直接接触する位置であってもよいし、当該ヒータ47から若干離間する位置であってもよい。この加熱位置に前記マイクロアレイ42が所定時間保持されることにより、各試料収容凹部42a内の試料Sにおける反応(核酸と蛋白質との相互作用)が促される。
【0048】
その後、前記マニピュレータ44は、前記マイクロアレイ42を図4(b)に示すような前記励起光Le及び前記測定光L2の照射位置(前記ヒータ47の切欠部47aに対応する位置であって前記ミラー48の直上位置)へ移送する。そして、前記マイクロアレイ42の各試料収容凹部42a内の試料Sに対して順に前記励起光Le及び前記測定光L2が照射されるように、前記マイクロアレイ42を走査する。
【0049】
この照射位置では、前記励起系10から前記試料収容部40に導かれる励起光Leが前記試料Sに入射され、透過する。このとき、試料Sが前記励起光Leを吸収して発熱する(光熱効果)。一方、前記測定系20から試料収容部40に導入される測定光L2は、前記励起光Leと同軸で前記各試料収容凹部42aに入射され、その凹部42a内の試料Sを透過する。さらに、この測定光L2はミラー48で上向きに反射して前記試料Sをさらに透過する。このとき、前記光熱効果による発熱の量に応じて前記試料Sでの屈折率が変わり、該屈折率に応じて前記位相差φが変わっているので、当該発熱の量に応じて前記測定系20に戻る測定光L2とこの測定系20における前記参照光L1との干渉光強度が変わる。この干渉光強度に対応する測定信号が前記測定系20の光検出器36により生成され、信号処理装置38に入力される。
【0050】
この信号処理装置38は、前記測定信号を所定のサンプリング周期で取り込み、この測定信号の時間変化を示すデータ、例えば図5に示すように経過時間と信号強度との関係を示すグラフを作成する。ここで、前記試料S中で核酸と蛋白質との相互作用が生じていない場合は、時間経過とともに前記信号強度が低下していくのに対し、前記相互作用が生じていると時間経過にかかわらず信号強度はほぼ一定値を維持する。そこで、この信号処理装置38は、前記信号強度の時間減衰率を求め、その時間減衰率が一定以下の場合に前記相互作用が存在していると判断する。
【0051】
この時間減衰率は、前記グラフに基づいて測定者が判定することも可能であるが、この実施の形態では前記信号処理装置38が自動的に前記時間減衰率を演算して前記相互作用の有無を判定する。その具体例としては、前記信号処理装置38がサンプリング周期毎に取り込んだ信号強度に基づいて当該信号強度の時間変化を表す直線近似式を演算し、その直線の傾きが一定以下の場合に前記相互作用が生じていると判断することが考えられる。また、前記直線近似式からの各サンプリング信号のばらつきが過度に大きい場合に測定不良と判断するようにしてもよい。
【0052】
このような方法及び装置によれば、前記試料Sにおける核酸及び蛋白質の標識や、金属薄膜への前記試料Sの固着を行うことなく、当該試料Sにおける核酸−蛋白質相互作用の有無を検出することができる。
【0053】
次に、第2の実施の形態を図6及び図7を参照しながら説明する。なお、装置全体の構成は前記図1に示したものと同等であるので、ここでは省略する。
【0054】
この第2の実施の形態では、前記第1の実施の形態のように試料収容器であるマイクロアレイ42そのものを移送する手段に代え、図6に示されるように試料を特定方向に流すための流路60をもったマイクロリアクタ50が使用される。すなわち、このマイクロリアクタ50は、試料収容器としての役割と、試料を移送方向に案内する手段としての役割を兼ねる。
【0055】
このマイクロリアクタ50は、下側基板52と、その上に重ねられる上側基板54とを備える。これらの基板52,54は、前記マイクロアレイ42と同様に前記励起光Le及び前記測定光L2を透過する材料により形成されている。
【0056】
前記流路60は、前記下側基板52の上面部に形成された溝により構成されている。そして、この下側基板52の上に前記上側基板54が載せられて接合されることにより、前記流路60が封止されている。
【0057】
この流路60は、その上流側から順に、核酸供給部61N及び蛋白質供給部61Pと、各供給部61N,61Pの下流側の供給流路62N,62Pと、これらの供給流路62N,62Pが合流する合流流路64と、合流して混合された核酸と蛋白質とを反応させるための反応部65と、前記励起光Le及び前記測定光L2が基板厚み方向に照射される光照射部66と、試料排出部68とを有する。
【0058】
前記核酸供給部61N及び蛋白質供給部61Pは、試料を構成する核酸、蛋白質がそれぞれ供給される部分であり、これら供給部61N,61Pに対応して前記上側基板54に同基板54を厚み方向に貫通する供給孔57が形成されている。同様に、前記試料排出部68に対応して前記上側基板54に排出孔58が形成されている。
【0059】
前記供給孔57には、それぞれ、試料移送手段としての核酸供給用シリンジ及び蛋白質供給用シリンジが接続される。これらのシリンジは、前記供給孔57を通じて前記核酸供給部61N及び蛋白質供給部61Pにそれぞれ核酸及び蛋白質を供給する。
【0060】
前記上側基板54には、前記反応部65の上方に位置するようにヒータ56が組み込まれている。このヒータ56は、前記核酸と蛋白質とが混合された試料をその反応温度まで加熱する。また、この加熱時間すなわち反応時間を十分に確保するために(例えば10分)、前記反応部65が蛇行してその流路長を稼いでいる。
【0061】
前記光照射部66は、直線状をなし、その長手方向(すなわち試料の流れ方向)に並ぶ複数の位置(図例では3つの位置A,B,C)に前記励起光Le及び前記測定光L2の照射位置が設定されている。そして、これらの照射位置に対して順に前記励起光Le及び前記測定光L2が照射されるように、当該光Le,L2の照射位置またはマイクロリアクタ50が動かされる。
【0062】
また、下側基板52の底面には、前記測定光L2を180°反射させるための反射膜(例えば誘電多層膜)がコーティングされている。この反射膜は、前記測定光L2の反射によって当該測定光L2に前記試料S内を往復させる。
【0063】
なお、前記流路60の寸法は適宜設定可能であるが、一般には幅200μm程度、深さ100μm程度が好適である。試料の送液は比較的ゆっくりとした速度であることが好ましく、例えば0.5mm/sec程度が好適である。
【0064】
このマイクロリアクタ50では、前記核酸及び蛋白質の供給、混合、反応、及びその光熱効果の測定が全て行われる。従って、コンパクトな構成で核酸−蛋白質相互作用の検出を効率よく行うことが可能となる。
【0065】
この第2の実施の形態での信号処理は例えば次のようにして行われる。前記試料中で核酸と蛋白質との相互作用が生じていない場合、前記励起光Leの照射による光熱効果は時間経過とともに減衰していくため、測定開始位置である位置Aからその下流側の位置Bさらには位置Cに向かうに従って検出信号の強度は低下していく。しかしながら、前記試料中に前記相互作用が生じた部分が存在している場合、その部分については光熱効果の減衰がほとんどないため、当該部分が位置B及び位置Cを通過した時に信号強度が一時的に高くなる。すなわち、その信号強度の時間変化は例えば図7(a)のようになる。
【0066】
ただし、各位置A〜Cでの検出信号には時間的なずれがあるので、そのずれ分を補正して各位置A〜Cでの検出信号を同図(b)に示すように重ね合わせると、前記相互作用が生じた部分(同図D)においてのみ信号強度が著しく高くなる。従って、この局所的に信号強度が高い部分で相互作用が生じていることを把握することができる。
【0067】
前記信号処理装置38は、前記図7(b)に示されるような重ね合わせデータの出力に加え、その重ね合わせデータでのピーク値の大小から相互作用の有無を自動的に判定する。なお、この第2の実施の形態においても、前記第1の実施の形態と同様に励起光Le及び測定光L2の照射位置を単一の位置にのみ設定し、その時間変化を監視するようにしてもよい。あるいは、前記光照射部66での試料の流れ速度と同等の速度で前記励起光Le及び測定光L2の照射位置を追従させるようにしてもよい。
【0068】
また、本発明において、前記励起光による試料の光熱効果を測定する方法は前記のような光干渉法に限られない。例えば、熱レンズ法のように、溶媒の屈折率の変化に伴う測定光の強度変化を測定する方法も利用可能である。
【実施例1】
【0069】
前記図1〜図4に示す装置により核酸−蛋白質相互作用の検出を行う。
【0070】
図4(a)(b)に示されるマイクロアレイ42には合成石英製のものを用い、その各試料収容凹部42aの形状は0.5mm×0.5mm×1.0mmの直方体とする(ただし、この形状は例えば直径0.5mmの円柱でも可。)。
【0071】
前記各試料収容凹部42aに、蛋白質トロンビンとこのトロンビンに特異的に反応する核酸であるアプタマー(DNAまたはRNAからなる機能性高分子)の混合溶液からなる試料を分注する。その比率は、トロンビンの最終濃度が70nM、アプタマーの最終濃度が175nMとなるようにする。
【0072】
分注後、前記試料をヒータ47により37℃まで加熱して15分間保持し、その後、励起光Le及び測定光L2の照射位置にセットしてその光熱効果の測定を行う。励起光Leの光源12には高圧水銀ランプを用い、その波長250nm付近の発光極大域をバンドパスフィルタで取り出してオプティカルチョッパーで80Hz程度に変調し、直径5mmの領域に集光して前記試料に照射する。さらに、この励起光Leと同軸で測定光L2を試料に照射し、この測定光L2と参照光L1との干渉光の強度を測定する。この測定信号を信号処理装置38に電圧値として表示させ、さらにデータロガーにより連続的に記録する。
【0073】
その測定結果を図8に示す。同図破線71に示されるように、試料がアプタマーのみの場合は測定信号の強度がその立上り後に時間経過とともに徐々に低下していく。また、同図一点鎖線72に示されるように、試料がトロンビンのみの場合は信号強度の立上りすら存しない。これに対し、試料がアプタマーとトロンビンの混合溶液である場合は、同図実線70に示されるように、信号強度が立ち上がってからその低下がほとんど見られない。
【0074】
従って、この測定信号の立上り後の低下速度を比較することにより、アプタマーとトロンビンとの相互作用の存在を判定することができる。具体的には、アプタマーと混合されるトロンビンの存在を40nM程度まで検出できることが確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る核酸と蛋白質との相互作用の検出装置の全体構成図である。
【図2】前記検出装置における試料収容部の一部断面正面図である。
【図3】前記試料収容部の要部を示す一部断面斜視図である。
【図4】(a)は前記試料収容部に用いられるマイクロアレイの平面図、(b)はその要部断面図である。
【図5】前記検出装置が生成する測定信号の強度の時間変化を示すグラフである。
【図6】(a)は本発明の第2の実施の形態で用いられるマイクロリアクタの平面図、(b)は(a)の6B−6B線断面図である。
【図7】(a)は本発明の第2の実施の形態において得られる各測定位置A〜Cでの測定信号の時間変化を示すグラフ、(b)はその測定信号を重ね合わせた信号の時間変化を示すグラフである。
【図8】前記第1の実施の形態に係る装置の実施により得られる測定信号を示すグラフである。
【符号の説明】
【0076】
L1 参照光
L2 測定光
Le 励起光
S 試料
10 励起系(励起光照射系)
12 励起光源
20 測定系(測定装置)
22 測定光源
26A ミラー
26B ミラー
28 偏光ビームスプリッタ
36 光検出器
38 信号処理装置
40 試料収容部
41 基台
42 マイクロアレイ(試料収容器)
44 マニピュレータ(移送手段)
46 自動分注装置
47 ヒータ(温度調節機構)
50 マイクロリアクタ(試料収容器)
56 ヒータ(温度調節機構)
60 流路
61N 核酸供給部
61P 蛋白質供給部
64 合流流路
65 反応部
66 光照射部
68 試料排出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中での核酸と蛋白質との相互作用の発生の有無を検出するための方法であって、
前記試料に対して励起光を照射するステップと、
前記励起光の照射により前記試料内に生ずる光熱効果を測定するステップと、
前記光熱効果の時間変化に基づいて核酸と蛋白質相互作用の発生の有無を判断するステップとを含むことを特徴とする核酸と蛋白質の相互作用の検出方法。
【請求項2】
請求項1記載の核酸と蛋白質の相互作用の検出方法であって、
DNAまたはRNAからなる機能性高分子とそのリガンド蛋白質との相互作用の有無を検出するものであることを特徴とする核酸と蛋白質の相互作用の検出方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の核酸−蛋白質相互作用の検出方法において、
前記光熱効果を測定するステップは、前記試料に前記励起光とは別の測定光を透過させてこの透過した測定光の位相変化を測定する操作を含むことを特徴とする核酸と蛋白質の相互作用の検出方法。
【請求項4】
試料中での核酸と蛋白質との相互作用の発生の有無を検出するための装置であって、
前記試料を収容する試料収容部と、
前記試料収容部に収容された試料に対して励起光を照射する励起光照射系と、
前記励起光の照射により前記試料内に生ずる光熱効果の測定信号を生成する測定装置とを含み、
前記測定装置は、前記測定信号の時間変化に関するデータを作成し、その作成したデータに基づいて前記相互作用の有無を判断する信号処理装置を含むことを特徴とする核酸と蛋白質の相互作用の検出装置。
【請求項5】
請求項4記載の核酸と蛋白質の相互作用の検出装置において、
前記測定装置は、前記試料に前記励起光とは別の測定光を透過させてこの透過した測定光の位相変化を測定することを特徴とする核酸と蛋白質の相互作用の検出装置。
【請求項6】
請求項5記載の核酸と蛋白質の相互作用の検出装置において、
前記測定装置は、測定用光源と、この測定用光源から発せられる測定光を前記試料収容部に収容された試料に透過させ、この透過した測定光と参照光とを干渉させる光学系と、その干渉した光の強度を検出する光検出器とを含むことを特徴とする核酸と蛋白質の相互作用の検出装置。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の核酸と蛋白質の相互作用の検出装置において、
前記試料収容部は、前記試料を収容する試料収容器と、この試料収容器内の試料を前記核酸と蛋白質の反応温度に調節する温度調節機構と、その加熱された試料を前記励起光の照射位置まで移送する移送手段とを含むことを特徴とする核酸と蛋白質の相互作用の検出装置。
【請求項8】
請求項7記載の核酸と蛋白質の相互作用の検出装置において、
前記移送手段は、前記試料収容器を、この試料収容器内に前記試料を注入するための注入位置と、その注入された試料の温度を前記温度調節機構により調節するための温度調節位置と、前記励起光の照射位置の順に移送することを特徴とする核酸と蛋白質の相互作用の検出装置。
【請求項9】
請求項7記載の核酸と蛋白質の相互作用の検出装置において、
前記試料収容器は、前記試料を流すための流路を有し、この流路は、その上流側から順に、前記核酸及び前記蛋白質がそれぞれ導入される導入部と、その導入された核酸と蛋白質とを合流させて混合する混合部と、その混合液の温度を前記温度調節機構により調節して前記反応を行わせるための反応部と、前記励起光が照射される励起光照射部とを有することを特徴とする核酸と蛋白質の相互作用の検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−333649(P2007−333649A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167898(P2006−167898)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15,16年度,経済産業省,新エネルギー・産業技術総合開発機構「先進ナノバイオデバイスプロジェクト」委託研究,産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】