説明

樹脂射出成形品

【課題】外力が作用した際に、射出成形によりゲートに残留した樹脂固化物を樹脂射出成形品から切除した切除跡に引張応力が作用しないようにする。
【解決手段】第1板部11と、第1板部11の端縁から裏面側に第1板部11の板面と交差する方向へ一体に突出する第2板部13とからなる加飾パネル9において、第2板部13の突出端部に形成され射出成形によりゲートに残留した樹脂固化物を加飾パネル9から切除した切除跡23の片側に、スリット25を第2板部13の突出端部側に開口するように形成する。第1板部11に表面側から外力が作用した際、樹脂固化物の切除跡23に引張応力が作用しないようにスリット25の開口幅Wを第2板部13の突出端部端縁に沿う方向に拡げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂射出成形品の改良に関し、詳しくは、射出成形によりゲートに残留した樹脂固化物の樹脂射出成形品からの切除跡に起因するクラック防止対策に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂射出成形品を射出成形する場合、溶融樹脂を金型のゲートからキャビティ内に射出充填する。このため、射出成形直後の樹脂射出成形品には、射出成形によりゲートに残留した樹脂固化物が一体に連続しており、この樹脂固化物は、樹脂射出成形品を金型から脱型した後に樹脂射出成形品から切除される。したがって、樹脂射出成形品には、上記樹脂固化物の切除跡が形成されている。この切除跡は、外観見栄えに悪影響を及ぼすことから、一般には人目に晒されないように奥まった位置に設定される。
【0003】
例えば、図6に示すような樹脂射出成形品101は、第1板部103と、該第1板部103の長辺側両端縁から裏面側に該第1板部103の板面と直角に交差する方向へ一体に突出する上下2つの第2板部105とからなり、射出成形によりゲートに残留した樹脂固化物を樹脂射出成形品101から切除した切除跡107が、上側の第2板部105の突出端部端面に僅かに盛り上がって形成されている。図6中、109は、樹脂射出成形品101を図示しない相手部品に取り付けるための係止片である。この図6で示す樹脂射出成形品101は、この発明の実施形態として後述するインストルメントパネル本体(相手部品)に取り付けられる加飾パネルを例示している。
【0004】
このような第2板部105の突出端部端面に樹脂固化物の切除跡107が形成された樹脂射出成形品101は、特許文献1の図2に示すような金型を用いて射出成形される。特許文献1の図2では、ゲートの位置が第2板部105の突出端部端縁に対応する位置に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−173848号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のように、第2板部105の突出端部端面又は端縁に樹脂固化物の切除跡107が形成されていると、図7に示すように、樹脂射出成形品101の第1板部103に外力(衝突等の衝撃)Fが作用すると、樹脂射出成形品101は、弓形に反って湾曲変形する(図6仮想線参照)。この際、樹脂固化物の切除跡107にクラックCが発生し、第2板部105が破断する。
【0007】
このように切除跡107にクラックCが発生するのは、樹脂固化物には射出成形時の残留応力が残っているため、切除跡107が亀裂開始点となるのである。また、樹脂固化物を切除する際に、切除跡107に切り傷が生ずると、第2板部の突出端部端縁が弓形に湾曲変形した際に発生する引張応力が上記切り傷に集中して、クラックが発生し易くなる。さらに、樹脂射出成形品101の成形材料が靱性に乏しい素材である場合等、樹脂物性が要因でクラックが発生し易くなることもある。
【0008】
この発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、外力が作用した際に、射出成形によりゲートに残留した樹脂固化物を樹脂射出成形品から切除した切除跡に引張応力が作用しないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、この発明は、ゲートに残留した樹脂固化物の樹脂射出成形品からの切除跡近傍にスリットを形成したことを特徴とする。
【0010】
具体的には、この発明は、第1板部と、該第1板部の端縁から裏面側に該第1板部の板面と交差する方向へ一体に突出する第2板部とからなり、射出成形によりゲートに残留した樹脂固化物を樹脂射出成形品から切除した切除跡を上記第2板部の突出端部に有し、上記第1板部の板面が相手部品の表面に略沿うように該相手部品に取り付けられる樹脂射出成形品を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0011】
すなわち、第1の発明は、上記第2板部における上記樹脂固化物の切除跡の少なくとも片側には、スリットが上記第2板部の突出端部側に開口するように形成され、該スリットは、上記第1板部に表面側から外力が作用した際、上記樹脂固化物の切除跡に引張応力が作用しないように開口幅が上記第2板部の突出端部端縁に沿う方向に拡がるようになっていることを特徴とする。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、上記スリットの反開口側奥部は、角部のない湾曲形状をなしていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、第1板部に外力が作用して第1板部が弓形に反って湾曲変形すると、これに追従して第2板部も弓形に反って湾曲変形する。この際、第2板部の突出端部端縁は、スリットを境に両側に分断されているため、射出成形によりゲートに残留した樹脂固化物を樹脂射出成形品から切除した切除跡がないスリット外側の第2板部の突出端部端縁は、弓形に湾曲変形して引張応力が発生するが、その引張応力によりスリットの開口幅が第2板部の突出端部端縁に沿う方向に拡がるだけで、上記変形動作は切除跡がある第2板部の突出端部端縁に及ばない。したがって、上記切除跡には引張応力が作用せず、クラックが発生しない。
【0014】
第2の発明によれば、外力の作用に起因する引張応力により、スリットの開口幅が第2板部の突出端部端縁に沿う方向に拡がっても、角部のない湾曲形状をなすスリットの反開口側奥部に上記引張応力は集中せず、クラックの発生が確実に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係る加飾パネルが取り付けられた自動車のインストルメントパネルの略左側半分を示す正面図である。
【図2】図1のII−II線における断面図である。
【図3】実施形態に係る加飾パネルをゲートに残留した樹脂固化物の切除跡を中心に裏面側から見た斜視図である。
【図4】実施形態に係る加飾パネルが外力の作用により湾曲変形した状態をゲートに残留した樹脂固化物の切除跡を中心に示す平面図である。
【図5】ゲートに残留した樹脂固化物の切除跡を中心とした実施形態に係る加飾パネルの平面図であり、(a)は変形例1の加飾パネルに外力が作用する前の状態を実線で、加飾パネルが外力の作用により湾曲変形した状態を仮想線でそれぞれ示し、(b)は変形例2の加飾パネルに外力が作用する前の状態を実線で、加飾パネルが外力の作用により湾曲変形した状態を仮想線でそれぞれ示す。
【図6】従来例の図3相当図である。
【図7】従来例の図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0017】
図1及び図2は自動車の樹脂製インストルメントパネル1を示す。このインストルメントパネル1はその主体をなすインストルメントパネル本体3を備え、該インストルメントパネル本体3の車幅方向左側(助手席側)には、アウタリッド5aとインナリッド5bとからなるリッド5を備えたグローブボックス7が開閉可能に装着されている。
【0018】
上記インストルメントパネル本体3のグローブボックス7上方には、車幅方向に帯状に延びる横長矩形状の凹部3aが形成され、該凹部3aにこの発明の実施形態に係る樹脂射出成形品としての横長矩形状の加飾パネル9が収容されて、インストルメントパネル本体3に取り付けられている。つまり、本例では、上記インストルメントパネル本体3を加飾パネル9が取り付けられる相手部品としている。
【0019】
上記加飾パネル9は、図3にも示すように、上記凹部3aに対応して車幅方向に帯状に延びる横長矩形状の第1板部11と、該第1板部11の長辺側の両端縁から裏面側に該第1板部11の板面と直角に交差する方向へ一体に突出する上下2つの第2板部13とからなり、表面には、図示しないが、例えば水圧転写等により意匠被膜が形成されている。
【0020】
上記加飾パネル9の裏面には、複数個(図2及び図3にそれぞれ1つ表れる)の係合爪15が、台形状の台座部17を介して長手方向に所定の間隔をあけて一体に突設されている。上記係合爪15には、片面に爪部19aを有する舌片部19がコ字状のスリット21に囲まれて可撓可能に形成されている。一方、上記凹部3aの底面には、係合孔3bが上記係合爪15に対応するように車幅方向に所定の間隔をあけて貫通形成されている。
【0021】
そして、上記加飾パネル9をインストルメントパネル本体3の凹部3aに対応させて表側から押し付けることにより、上記係合爪15の舌片部19を撓ませながら爪部19aを係合孔7bに挿入して該係合孔7b周縁に係合させ、加飾パネル9がインストルメントパネル本体3の凹部3aに収容されて、インストルメントパネル本体3に取り付けられる。この取付け状態で、上記第1板部11の板面がインストルメントパネル本体3の表面に略沿っていて、インストルメントパネル本体3の表面と、加飾パネル9の第1板部11板面と、閉状態のグローブボックス7のリッド5表面との三者がほぼ面一になっている。
【0022】
上記両第2板部13のうち上側の第2板部13の突出端部端面には、図3に示すように、射出成形によりゲートに残留した樹脂固化物を加飾パネル9から切除した切除跡23が矩形状に僅かに盛り上がって形成されている。つまり、射出成形されて金型から脱型した直後の加飾パネル9には、ゲートに残留して固化した樹脂固化物が一体に連続しており、この樹脂固化物は不要物であるため、加飾パネル9から切除され、加飾パネル9の第2板部13の突出端部端面に切除跡23が残存するのである。
【0023】
上記第2板部13における上記樹脂固化物の切除跡23の両側には、U字形状のスリット25が上記第2板部13の突出端部側に開口するようにそれぞれ形成され、該スリット25の反開口側奥部25aは、角部のない湾曲形状をなしている。そして、このスリット25は、図4に示すように、上記第1板部11に表面側から外力が作用した際、上記樹脂固化物の切除跡23に引張応力が作用しないように開口幅Wが上記第2板部13の突出端部端縁に沿う方向に拡がるようになっている。
【0024】
つまり、上記スリット25は、図3仮想線及び図4に示すように、上記第1板部11に表面側から、外力(衝突等の衝撃)Fが作用した際、上記第1板部11が弓形に反って湾曲変形し、これに追従して上記第2板部13の突出端部端縁が弓形に反って湾曲変形して引張応力が発生する。しかし、上記第2板部13の突出端部端縁は、スリット25を境に両側に分断されているので、上記引張応力によりスリット25の開口幅Wが第2板部13の突出端部端縁に沿う方向に拡がるだけで、上記変形動作は切除跡23がある第2板部13の突出端部端縁に及ばず、変形するのは切除跡23がないスリット外側の第2板部13の突出端部端縁である。したがって、上記切除跡23には引張応力が作用せず、発生したクラックC(図7参照)により加飾パネル9が割れて乗員が怪我をする事態を回避することができる。なお、上記切除跡23がない下側の第2板部13の突出端部端縁は、弓形に湾曲変形して引張応力が発生するが、上側の第2板部13の如き残留応力が残っていないことから、クラックCが発生し難い。
【0025】
また、上記スリット25の反開口側奥部25aは、角部のない湾曲形状をなしているので、外力の作用に起因する引張応力により、スリット25の開口幅Wが第2板部13の突出端部端縁に沿う方向に拡がっても、スリット25の反開口側奥部25aに上記引張応力は集中せず、クラックCを確実に発生しないようにできる。
【0026】
なお、上記の実施形態では、スリット25の形状がU字形状であったが、これに限らず、反開口側奥部25aが角部のない湾曲形状をなしていれば、例えば図5(a)に示すような略V字形状や、図5(b)に示すような鍵穴形状であってもよい。
【0027】
また、上記の実施形態では、スリット25を上側の第2板部13の切除跡23の両側に形成したが、加飾パネル9の形状や材質如何によっては片側であってもよく、さらには、図3仮想線で示すように、切除跡23のない下側の第2板部13にも形成してもよい。また、切除跡23も加飾パネル9の形状如何によっては上下の第2板部13にあってもよい。
【0028】
さらに、上記の実施形態では、樹脂射出成形品が自動車のインストルメントパネル1の加飾パネル9である場合を例示したが、ドアトリムのスイッチ取付部等のパネル類や、バンパーへの取付部品等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
この発明は、樹脂射出成形品において、射出成形によりゲートに残留した樹脂固化物を樹脂射出成形品から切除した切除跡に起因するクラック防止対策として有用である。
【符号の説明】
【0030】
3 インストルメントパネル本体(相手部品)
9 加飾パネル(樹脂射出成形品)
11 第1板部
13 第2板部
23 樹脂固化物の切除跡
25 スリット
25a 奥部
W 開口幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1板部(11)と、該第1板部(11)の端縁から裏面側に該第1板部(11)の板面と交差する方向へ一体に突出する第2板部(13)とからなり、射出成形によりゲートに残留した樹脂固化物を樹脂射出成形品から切除した切除跡(23)を上記第2板部(13)の突出端部に有し、上記第1板部(11)の板面が相手部品(3)の表面に略沿うように該相手部品(3)に取り付けられる樹脂射出成形品であって、
上記第2板部(13)における上記樹脂固化物の切除跡(23)の少なくとも片側には、スリット(25)が上記第2板部(13)の突出端部側に開口するように形成され、該スリット(25)は、上記第1板部(11)に表面側から外力が作用した際、上記樹脂固化物の切除跡(23)に引張応力が作用しないように開口幅(W)が上記第2板部(13)の突出端部端縁に沿う方向に拡がるようになっていることを特徴とする樹脂射出成形品。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂射出成形品において、
上記スリット(25)の反開口側奥部は、角部のない湾曲形状をなしていることを特徴とする樹脂射出成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−35217(P2013−35217A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173317(P2011−173317)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(390026538)ダイキョーニシカワ株式会社 (492)
【Fターム(参考)】