説明

樹脂成形体及びその製造方法

【課題】電気・電子機器又は光学機器の部品として有用であり、表面パーティクル(異物)発生を防止し得る樹脂成形体を提供する。
【解決手段】液晶性高分子と繊維状フィラーとを含む樹脂成形体であって、表面テープ剥離試験を行った前後の表面粗さRa値の上昇幅が0.4μm以下である樹脂成形体、ならびに前記液晶性高分子と前記繊維状フィラーからなる組成物ペレットを特定の溶融温度で成形する前記樹脂成形体の製造方法を提供し、併せて前記製造方法を用いて得られる液晶性高分子及び繊維状フィラーからなるカメラモジュール用部品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品用又は光学部品用の基体として有用な樹脂成形体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料は、その成形加工の容易さと軽量性から、構造材料や電気絶縁材料として広範に利用されている。とりわけ、熱可塑性高分子材料は、リサイクル加工ができること、生産性の高い溶融成形加工(押し出し成形や射出成形)が可能であることから、環境負荷が小さく、かつ、エネルギー効率の高い材料として有用である。近年は、金属やセラミックスを代替し得る高性能高分子材料(エンジニアリング材料)が、電気、電子、機械、光学機器、自動車、航空機、医療分野と様々な分野で利用されている。
【0003】
これらの中でも、電気・電子用部品においては、より軽薄短小化する流れの中、当該部品のより一層の小型化が進められており、さらに当該部品は鉛フリーはんだを適用する表面実装技術に適合する程度の耐熱性も求められている。それにより、適用されるエンジニアリング材料は、高耐熱性であり、薄肉成形が可能な絶縁材料に対する要求が高まってきた。加えて、昨今の環境負荷低減を重要視する観点から、前記表面実装技術での適合性を向上させるために、従来のハロゲン系難燃剤のような環境負荷が高い添加剤の使用は困難な状況にある。
一方、光学機器用基体の分野では、ハイパワー光源周辺に使用される部材は、耐熱性の要求や光軸安定性のために求められる寸法安定性など、より高度の性能が要求される傾向にある。
これらの要求を満たす観点からは、前記エンジニアリング材料の中でも、液晶性高分子は特に優れた材料といえる。液晶性高分子は、成形加工性(薄肉流動性や低バリ性能)が良好であり、高耐熱性、高機械強度、又は絶縁性に優れた材料であり、環境負荷が高い添加剤を用いることなく、高い難燃性を有している。これらの特徴点を活かして、液晶性高分子は、例えば、スイッチ、リレー、イメージセンサー、他各種センサー、発光ダイオード(LED)、光学機構系の各種筐体(鏡筒や鏡胴)等、機構部品や素子収納用ケース、又は光路等の部材に適用されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、表面実装が可能なカメラモジュールが提案され、そのレンズホルダーやイメージセンサーボードに表面実装に耐え得る耐熱性材料として液晶性高分子が例示されている。
【0005】
また、特許文献2には、成形性が良好であるとともに、強度などの機械特性に優れ、かつ成形品の真円度等の寸法精度に優れたカメラ鏡筒に適用される材料として液晶性高分子が使用されている。
【特許文献1】特開2006−246461号公報(段落[0006])
【特許文献2】特開平9−297256号公報(実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液晶性高分子からなる樹脂成形体は、通常、特性向上を求めて添加剤やフィラーが、特に機械強度向上のために強化フィラーが用いられる。しかしながら、このような強化フィラーを用いてなる樹脂成形体によって、電気・電子用部品(以下、「電気・電子部品」と呼ぶ。)又は光学機器用部品(以下、「光学部品」と呼ぶ。)を製造すると、その組立工程での歩留まりが低下したり、当該部品を用いた電気・電子機器や光学機器がその経時使用により、誤作動を引き起こしたりするといった問題があった。
かかる状況下、本発明の目的は、電気・電子部品又は光学部品の用途において、機械強度向上に寄与する強化フィラーを用いた液晶性高分子からなる樹脂成形体であって、前記のような問題を解消し得る樹脂成形体、並びにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決し得る樹脂成形体について鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は[1]を提供するものである。
[1]液晶性高分子と繊維状フィラーとを含む樹脂成形体であって、下記の表面テープ剥離試験により求められる表面粗さRa値の上昇幅が0.4μm以下となる平面部を有することを特徴とする樹脂成形体。
[表面テープ剥離試験]
前記平面部にJIS B0601−1994で規定されている中心線平均粗さ測定を用いて初期表面粗さRa1を測定する。Ra1を測定した平面部に、粘着力4.0N/mmのテープを貼って剥がす。このテープを貼って剥がす操作を同一の平面部に30回繰返した後、前記と同様にして表面粗さRa2を測定し、Ra2とRa1の差分(Ra2−Ra1)を表面粗さRaの上昇幅として求める。
【0008】
また、本発明は前記[1]に係る好適な実施形態として、下記[2]〜[9]を提供する。
[2]前記樹脂成形体が液晶性高分子100重量部に対し、繊維状フィラー5〜250重量部を含むことを特徴とする[1]の樹脂成形体。
[3]前記液晶性高分子が、下記の(a)、(b)及び(c)から選ばれる少なくとも1種の液晶性高分子であることを特徴とする、[1]〜[3]の何れかの樹脂成形体。
(a)構造単位(I)及び/又は構造単位(II)からなるポリエステル、ポリエステルアミド又はポリアミド
(b)構造単位(I)及び構造単位(II)から選ばれる構造単位と、構造単位(III)と、構造単位(IV)からなるポリエステル又はポリエステルアミド
(c)構造単位(I)及び構造単位(II)から選ばれる構造単位と、構造単位(III)と、構造単位(IV)、構造単位(V)及び構造単位(VI)から選ばれる構造単位とからなる、ポリエステル又はポリエステルアミド


(式中、Ar1、Ar2、Ar5及びAr6は、それぞれ独立に2価の芳香族基を表し、Ar3及びAr4はそれぞれ独立に2価の芳香族基、2価の脂環基及び2価の脂肪族基から選ばれる基を表す。なお、該芳香族基にある芳香環上の水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基又は炭素数6〜10のアリール基で置換されていてもよい。また、該脂環基にある水素原子の一部又は全部が、炭素数1〜10のアルコキシ基又は炭素数6〜10のアリール基で置換されていてもよく、該脂肪族基にある水素原子の一部又は全部が、炭素数1〜10のアルコキシ基又は炭素数6〜10のアリール基で置換されていてもよい。)
[4]前記液晶性高分子が、前記(a)のポリエステル、ポリエステルアミド又はポリアミドであるか、下記の(b’)又は(c’)のポリエステル又はポリエステルアミドであることを特徴とする、[3]の樹脂成形体。
(b’)前記(b)の構造単位の組合わせにおいて、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の総和を100モル%としたとき、2価の芳香族基の総和が60モル%以上である、ポリエステル又はポリエステルアミド
(c’)前記(c)の構造単位の組合わせにおいて、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5及びAr6の総和を100モル%としたとき、2価の芳香族基の総和が60モル%以上である、ポリエステル又はポリエステルアミド
[5]前記液晶性高分子が、下記の(I−1)及び/又は(I−2)の芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位と、下記の(III−1)、(III−2)及び(III−3)から選ばれる少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位と、下記の(IV−1)、(IV−2)、(IV−3)及び(IV−4)から選ばれる少なくとも1種の芳香族ジオールから誘導される構造単位とからなるポリエステルであることを特徴とする[1]又は[2]の樹脂成形体。

[6]前記樹脂成形体が、液晶性高分子と繊維状フィラーとを含む組成物ペレットを成形して得られる樹脂成形体であることを特徴とする、[1]〜[5]の何れかに記載の樹脂成形体。
[7]前記組成物ペレットが、繊維径5〜15μm、数平均繊維長30〜200μmの繊維状フィラーを含むことを特徴とする、[6]の樹脂成形体。
[8]前記繊維状フィラーが、表面コーティング処理されていない繊維状フィラーであることを特徴とする、[1]〜[7]の何れかの樹脂成形体。
[9][1]〜[8]の何れかの樹脂成形体からなるカメラモジュール用部品。
【0009】
また、本発明は前記何れかの樹脂成形体を製造する方法として下記[10]を提供する。
[10]前記何れかの樹脂成形体の製造方法であって、下記の(A)及び(B)で表される工程を有することを特徴とする製造方法。
(A)液晶性高分子と繊維状フィラーとを含有し、流動開始温度FT[℃]の組成物ペレットを作製する工程
(B)前記(A)で得られた組成物ペレットを、[FT+30]℃以上[FT+80]℃以下の温度で溶融せしめ、80℃以上の温度に設定された金型に射出成形して樹脂成形体を得る工程
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液晶性高分子に機械強度を付与する強化(繊維状)フィラーを用いたとしても、樹脂成形体製造時の歩留まり低下や、該樹脂成形体を用いてなる電気・電子部品又は光学機器用基体の経時的に生じる誤作動を、極めて良好に防止できる樹脂成形体を得ることができる。本発明の樹脂成形体は、電気・電子機器又は光学機器に適用される部品に好適であり、具体的には、スイッチ、リレー、イメージセンサー他各種センサー、発光ダイオード(LED)、光学機構系等のケースや構造体部品として好適に使用することができ、特にカメラモジュール用部品に好適である。また、本発明の樹脂成形体は、液晶性高分子自身が有する高耐熱性、高剛性及び寸法安定性等の優れた性能を維持している点からも電気・電子機器又は光学機器に適用される部品に好適であり、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を、必要に応じて図を参照して説明する。
【0012】
本発明の樹脂成形体は、液晶性高分子と繊維状フィラーとを含む樹脂成形体であって、前記の表面テープ剥離試験を行った前後の表面粗さRa値の上昇幅が0.4μm以下の平面部を有するものである。
本発明者等は、前述したような、電気・電子部品又は光学部品に係る問題について詳細に検討したところ、このような部品の表面から微粒子異物(パーティクル)が発生して、そのパーティクルが前記歩留まり低下を引き起こしたり、このようなパーティクルが、製造時に発生するものだけではなく、機器の経時使用によっても徐々に発生して、当該機器の誤作動を引き起こしたり、するといった考えを得た。そして本発明者らは、このような考えに基づき検討を進めた結果、前述の表面テープ剥離試験で得られる表面粗さRa値の上昇幅が0.4μm以下の樹脂成形体が、製造時のパーティクル発生だけでなく、経時劣化によりパーティクル発生を極めて良好に防止し得ることを見出したものである。
【0013】
前記表面テープ剥離試験について、さらに詳述する。該表面テープ剥離試験は、成形体の平面部に対してテープを貼り合わせて引き剥がすといった所定の操作を所定回繰り返し、当該平面部の表面粗さRaの増加度合いを求めるものである。
ここでは、より説明を簡単にするために、平面部を有する平板状成形体の例にとって、表面テープ剥離試験について記す。図1の(1)は、該平板状成形体を成形する際の要部を表す摸式図である。空隙部2Aは金型(図示はしない。)中にある前記平板状成形体を形成する空隙部である。金型には空隙部2Aに溶融樹脂を送り込むフィルムゲート3が配され、該フィルムゲート3には、空洞部を有するランナー5及びスプルー4が各々連結するように備えられており、該スプルー4は溶融樹脂の射出装置に接続されている。該射出装置から溶融樹脂を射出すると、スプルー4及びランナー5を通じて1Aの方向に、溶融樹脂がフィルムゲート3に供給される。フィルムゲート3は、空隙部2Aに対し、該フィルムゲート3の溶融樹脂出口部の対辺側に向かう方向1Bに、溶融樹脂が流れる。空隙部2Aに溶融樹脂が充填された後、必要に応じて冷却処理を行ってから金型を分解すれば、平板状成形体10は、フィルムゲート3、ランナー5及びスプルー4と一体になって金型から分離される。この状態を図1の(2)で表す。次いで、平板状成形体10とフィルムゲート3との間を分断して、フィルムゲート3、ランナー5及びスプルー4を除去すれば、平板状成形体10が得られる。
【0014】
このようにして成形された平板状成形体の平面部に対して、表面粗さRa値を測定する。この値を初期表面粗さRa1[μm]とする。該表面粗さとは、JIS B0601−1994で規定されている中心線平均粗さRa値である。次いで、初期表面粗さRa1を求めた面にテープ剥離試験を実施する。テープとしては、その粘着力は4.0N/10mmのものを使用する。かかるテープとして本発明ではニチバン株式会社製セロテープ(登録商標)CT-18を使用している。
図2は成形体にテープを貼った状態を表す、テープ主面側から見た模式図である。テープ20を平板状成形体10の主面に、テープ20と平板状成形体10の表面の間に、気泡が入らないようにして貼る。テープを張る平面部は、表面粗さRaを測定できる程度の面積を有していればよいが、平板状成形体10を成形したときに、樹脂が溶融流動した方向(流動方向)1Bに沿って貼ることが好ましい。次にテープ20を張った平板状成形体10からテープ20を剥がす。図3はテープを剥がす際の要部を表す摸式斜視図である。テープ20を剥がす際には、平板状成形体10の面に対し、ほぼ45°の角度となる方向1Cに沿って、素早く引き剥がす。該平板状成形体にテープを張ってから、テープを剥がすまでの滞留時間は1分以内とし、このようにして、平板状成形体10にテープを張って、剥がすといった操作を、該平板状成形体の同一の平面部に対して、30回繰り返す。なお、テープを素早く引き剥がすとは、この引き剥がしに要する時間を0.5〜1秒程度とすることを意味する。引き剥がしに要する時間や貼ってから剥がすまでの滞留時間が、前記の範囲において表面粗さRaの上昇幅の値は影響されない。
その後、テープを貼って剥がすといった操作を施した平面部に対し、前記と同様にして、表面粗さRa値を測定する。この表面粗さをRa2[μm]とし、先に求めておいた初期表面粗さRa1に対する差分(Ra2−Ra1)[μm]を表面粗さRaの上昇幅として求める。
【0015】
本発明の樹脂成形体を得るには、前記のような簡便な操作によって求められる表面粗さRaの上昇幅(以下、「Ra上昇幅」と呼ぶ)が0.4μm以下となるような成形条件を求めればよい。該上昇幅が0.4μmを超える成形条件では、パーティクル発生を十分抑制できないため、前記に例示した部品において、製造歩留まりの低下や経時使用での誤作動を生じさせるといった問題が生じる。なお、該上昇幅は低ければ低いほどパーティクル発生を抑制できるので、0.3μm以下であるとさらに好ましく、0.2μm以下であると特に好ましい。このように、従来、経時で発生するパーティクル発生の度合いを求めるには、前記部品の長期耐久試験を必要とするものであったが、本発明の表面テープ剥離試験によれば簡便な操作で、長時間を要する耐久試験を行わなくとも、該部品の経時のパーティクル発生を十分防止し得る樹脂成形体の成形条件を最適化することができ、該部品を安定的に生産する上で極めて有用である。
成形条件を求めるには、前記平板状成形体、例えば、64mm×64mm×1mmの寸法形状を有する平板状成形体を標準成形体とし、該標準成形体が得られるような金型を用いて予備実験を行えばよい。そして、標準成形体を用いて求められた成形条件に基づき、金型を、標準成形体(平板状成形体)を成型し得るものから、所望の形状を成型し得るものに変更して、同じ成形条件により成形を行えば、得られた樹脂成形体は、標準成形体のRa上昇幅と同等のものとなる。そして、このような予備実験によれば、より容易に本発明の樹脂成形体を得ることができる。
【0016】
次に、この樹脂成形体に係る構成成分及び成形条件を求める手段について説明する。
【0017】
<液晶性高分子>
本発明の樹脂成形体を構成する液晶性高分子について説明する。該液晶性高分子は、溶融時に光学異方性を示し、500℃以下の温度で異方性溶融体を形成する高分子である。この光学的異方性は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査法によって確認することができる。液晶性高分子は、その分子形状が細長く、扁平で分子の長鎖に沿って剛性が高い分子鎖(以下、剛性が高い分子鎖を「メソゲン基」と呼ぶことがある)を有するものであり、かかるメソゲン基は高分子主鎖又は側鎖のいずれか一方又は両方に有する高分子であってもよいが、より高耐熱性を求めるならば高分子主鎖にメソゲン基を有するものが好ましい。
該液晶性高分子の具体例としては、液晶ポリエステル(以下、「ポリエステル」と略す。)、液晶ポリエステルアミド(以下、「ポリエステルアミド」と略す。)、液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルカーボネート、液晶ポリエステルイミド、液晶ポリアミド(以下、「ポリアミド」と略す。)等が挙げられるが、これらの中でも、高強度の樹脂成形体が得られる観点からはポリエステル、ポリエステルアミド又はポリアミドが好ましい。
【0018】
前記の好適な液晶性高分子としては、下記の(a)、(b)及び(c)(以下、場合により「(a)〜(c)」と呼ぶことがある。)から選ばれる少なくとも1種の液晶性高分子が好ましい。
(a)構造単位(I)及び/又は構造単位(II)からなるポリエステル、ポリエステルアミド又はポリアミド
(b)構造単位(I)及び構造単位(II)から選ばれる構造単位と、構造単位(III)と、構造単位(IV)からなるポリエステル又はポリエステルアミド
(c)構造単位(I)及び構造単位(II)から選ばれる構造単位と、構造単位(III)と、構造単位(IV)、構造単位(V)及び構造単位(VI)から選ばれる構造単位とからなる、ポリエステル又はポリエステルアミド


(式中、Ar1、Ar2、Ar5及びAr6は、それぞれ独立に2価の芳香族基を表し、Ar3及びAr4はそれぞれ独立に2価の芳香族基、2価の脂環基及び2価の脂肪族基から選ばれる基を表す。なお、該芳香族基にある芳香環上の水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基又は炭素数6〜10のアリール基で置換されていてもよい。また、該脂環基にある水素原子の一部又は全部が、炭素数1〜10のアルコキシ基又は炭素数6〜10のアリール基で置換されていてもよく、該脂肪族基にある水素原子の一部又は全部が、炭素数1〜10のアルコキシ基又は炭素数6〜10のアリール基で置換されていてもよい。)
【0019】
前記の構造単位において、Ar1、Ar2、Ar5及びAr6に係る芳香族基としては、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニレン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン、ジフェニルケトン、ジフェニルスルフィド、ジフェニルメタン等の、単環芳香族化合物、縮合環芳香族化合物及び複数の芳香環が2価の連結基(単結合を含む)で連結された芳香族化合物からなる群から選ばれる芳香族化合物の芳香環に結合している水素原子を2つ取り去って得られる基である。好適には、ビスフェニル−2,2−プロピリデン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基及び4,4’−ビフェニリレン基から選ばれる2価の芳香族基である。このような基を、Ar1、Ar2、Ar5及びAr6に係る芳香族基として有する液晶性高分子は、より機械強度に優れる傾向にあるため好ましい。
【0020】
構造単位(I)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位であり、該芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシビフェニル−4−カルボン酸、又はこれらの芳香族ヒドロキシカルボン酸にある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。
なお、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基などの、炭素数1〜10の直鎖、分岐又は脂環状のアルキル基が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロピオキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基などの、炭素数1〜10の直鎖、分岐又は脂環状のアルコキシ基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基やナフチル基などの炭素数6〜10のアリール基が挙げられる。また、ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子から選ばれる。
【0021】
構造単位(II)は、芳香族アミノカルボン酸から誘導される構造単位であり、該芳香族アミノカルボン酸としては、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸、又はこれら芳香族アミノカルボン酸にある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族アミノカルボン酸が挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸で例示したものと同じである。
【0022】
構造単位(V)は、芳香族ヒドロキシアミンから誘導される構造単位であり、4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシジフェニル、又はこれら芳香族ヒドロキシアミンにある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ヒドロキシアミンが挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸で例示したものと同じである。
【0023】
構造単位(VI)は、芳香族ジアミンから誘導される構造単位であり、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノフェニルスルフィド(チオジアニリンともいう。)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(オキシジアニリン)、又はこれらの芳香族ジアミンにある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族アミノカルボン酸、前記に例示した芳香族ジアミンの1級アミノ基に結合している水素原子がアルキル基に置換されてなる芳香族ジアミンが挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸で例示したものと同じである。
【0024】
前記の構造単位(III)におけるAr3と、構造単位(IV)におけるAr4は、Ar1、Ar2、Ar5又はAr6で説明した芳香族基に加えて、炭素数1〜10程度の飽和脂肪族化合物から水素原子を2個取り去って得られる2価の脂肪族基や2価の脂環基から選ばれる基である。
【0025】
構造単位(III)は、芳香族ジカルボン酸あるいは脂肪族ジカルボン酸から誘導される基であり、該芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、フタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’’−トリフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテル−3,3’−ジカルボン酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)[ビスフェノールA]又はこれら芳香族ジカルボン酸にある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
該脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸;及びトランス−1,4−(1−メチル)シクロヘキサンジカルボン酸、トラシス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸あるいはこれらの脂肪族ジカルボン酸にある脂肪族基又は脂環基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
なお、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸で例示したものと同じである。
【0026】
構造単位(IV)は、芳香族ジオールあるいは脂肪族ジオールから誘導される基であり、該芳香族ジオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレン−2,6−ジオール、4,4’−ビフェニレンジオール、3,3’−ビフェニレンジオール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン又はこれら芳香族ジオールにある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ジオールが挙げられる。
該脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、トランス−1,4−シクロヘキサンジオール、シス−1,4−シクロヘキサンジオール、トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、トランス−1,3−シクロヘキサンジオール、シス−1,2−シクロヘキサンジオール、トランス−1,3−シクロヘキサンジメタノール又はこれらの脂肪族ジオールにある脂肪族基又は脂環基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる脂肪族ジオールが挙げられる。
なお、アルコキシ基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸で例示したものと同じである。
【0027】
前記の好適な液晶性高分子において、(b)又は(c)は、構造単位(III)と構造単位(IV)に脂環基及び/又は脂肪族基を有する場合もあるが、かかる脂環基及び/又は脂肪族基の液晶性高分子に対する導入量は、該液晶性高分子が液晶性を発現し、さらにはその耐熱性を著しく損なわない範囲で選択される。その観点から芳香族基がより多いほど、耐熱性が向上するので好ましい。
具体的には、本発明に適用する液晶性高分子としては、前記(a)のポリエステル、ポリエステルアミド又はポリアミドであるか、下記の(b’)又は(c’)のポリエステル又はポリエステルアミドであると好ましい。
(b’)前記(b)の構造単位の組合わせにおいて、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の総和を100モル%としたとき、2価の芳香族基の総和が60モル%以上である、ポリエステル又はポリエステルアミド
(c’)前記(c)の構造単位の組合わせにおいて、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5及びAr6の総和を100モル%としたとき、2価の芳香族基の総和が60モル%以上である、ポリエステル又はポリエステルアミド
【0028】
前記(b’)又は(c’)において、2価の芳香族基の含有比は高いほど好ましく、総和が60モル%以上であると好ましく、75モル%以上であるとさらに好ましく、90モル%以上であるとより好ましく、2価の芳香族基の総和が100モル%である全芳香族液晶性高分子が特に好ましい。
【0029】
前記の好適な全芳香族液晶性高分子の中でも、前記(a)におけるポリエステル又は前記(b)におけるポリエステルが好ましく、特に前記(b)におけるポリエステルが好ましい。かかる好適なポリエステルの中でも、下記の(I−1)及び/又は(I−2)の芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位と、下記の(III−1)、(III−2)及び(III−3)から選ばれる少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位と、下記の(IV−1)、(IV−2)、(IV−3)及び(IV−4)から選ばれる少なくとも1種の芳香族ジオールから誘導される構造単位とからなるポリエステルは、成形性、耐熱性、高機械強度及び難燃性といった特性がいずれも高水準となり得る成形体が得られやすいといった利点がある。

【0030】
次に、好適な液晶性高分子を製造する方法について説明する。
該液晶性高分子の製造方法としては、前記(a)においては芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/又は芳香族アミノカルボン酸をモノマーとして用いればよく、前記(b)においては、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/又は芳香族アミノカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸と、芳香族ジオール及び/又は脂肪族ジオールとをモノマーとして用いればよく、前記(c)においては、芳香族カルボン酸及び/又は芳香族アミノカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、脂肪族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンから選ばれる少なくとも1種の化合物をモノマーとして用いればよく、これらのモノマーを公知の重合方法を適用することで製造し得る。
より好適な液晶性高分子であるポリエステルについては、前記(b)においては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオールとをモノマーとして用い重合することで得ることができる。
【0031】
液晶性高分子を製造するには、前記に示したモノマーを直接重合してもよいが、より重合を容易にする観点からエステル形成性誘導体・アミド形成性誘導体(以下、「エステル・アミド形成性誘導体」と呼ぶ。)を用いることが好ましい。該エステル・アミド形成性誘導体とは、エステル生成反応又はアミド生成反応を促進するような基を有するモノマーを示し、具体的に例示すると、モノマー分子内のカルボキシル基を、ハロホルミル基、酸無水物、低級アルコールとのエステル基に転換したエステル・アミド形成性誘導体、モノマー分子内のフェノール性水酸基、フェノール性アミノ基を、それぞれエステル基、アミド基にしたエステル・アミド形成性誘導体などが挙げられる。
【0032】
液晶性高分子の中でも好適な、前記(b)のポリエステルについて詳述する。該ポリエステルとしては、例えば、特開2002−146003号公報に記載のアシル化物をエステル形成性誘導体(前記エステル・アミド形成性誘導体において、ポリエステルを生成させる場合は、アミド基を生成させることがないので、「エステル形成性誘導体」と呼ぶ。)として用いる重合方法で製造し得る。まず、酸無水物、好ましくは無水酢酸を用いて、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールのフェノール性水酸基をアシル基に転換したアシル化物を得、該アシル化物のアシル基と芳香族ジカルボン酸のカルボキシル基とが、エステル交換を起こすようにして脱酢酸重合させ、ポリエステルを製造する。脱酢酸重合は、アシル化物と芳香族ジカルボン酸とを反応温度150〜400℃で、反応時間0.5〜8時間程度溶融重合させる。なお、このような溶融重合を行って得られる、比較的低分子量のポリエステル(以下、「プレポリマー」と略記する。)を得、次いで、このプレポリマーを粉末とし、この粉末を固相状態で加熱するといった固相重合を、溶融重合に続いて行ってもよい。このような固相重合を用いると、重合がより進行して、ポリエステルの高分子量化を図ることができる。
【0033】
<繊維状フィラー及び組成物ペレット>
次に繊維状フィラーについて説明する。
繊維状フィラーを構成する材質としては、より高強度の樹脂成形体が得られる観点から無機物質が好ましく、具体的に例示すると、ガラス繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、シリカアルミナ繊維が挙げられ、成形加工時の装置に与える摩耗負荷や入手性も考慮すると、ガラス繊維がより好ましい。
【0034】
なお、本発明の樹脂成形体を得るには、予め液晶性高分子と、繊維状フィラーとを溶融混練して、ペレット状の組成物(以下、「組成物ペレット」と呼ぶ。)にしておくことが好ましい。なお、後述するような液晶性高分子、繊維状フィラー以外の添加剤等を用いる場合は、液晶性高分子及び繊維状フィラーとともに、添加剤等も合わせて溶融混練して組成物ペレットとすればよい。そして、樹脂成形体の表面粗さRa値の上昇幅を、より低減化させることに加え、樹脂成形体の強度向上を実現するためには、組成物ペレット中の繊維状フィラーは、その繊維径が5〜15μmであり、且つその数平均繊維長が30〜200μmであると好ましい。繊維状フィラーの繊維径及び数平均繊維長が、このような範囲であると、得られる樹脂成形体の強度、とりわけ、流動末端同士の接合面の強度を表すウエルド強度がより向上するといった効果や、得られる樹脂成形体の表面粗度が増加しにくく、パーティクルがより発生しにくいという利点がある。さらに表面粗さRa上昇幅を低減したり樹脂成形体の強度バランスを良好にしたりするためには、該繊維状フィラーの繊維径は6〜12μmであり、且つその数平均繊維長が50〜150μmであると、一層好ましい。
【0035】
繊維状フィラーの繊維径と数平均繊維長は、組成物ペレット中にある繊維状フィラーの外観形状で求めるものである。
具体的に、これらの測定方法について説明する。
繊維状フィラーの外観形状は、前記組成物ペレットを600℃以上で灰化させ、その残渣をメタノールに分散させてスライドガラス上に展開させた状態で顕微鏡写真をとり、その写真から繊維状フィラーの形状を直接的に読み取って、その平均値を算出して求められるものである。なお、平均値の算出にあたっては母数を400以上とする。
【0036】
また、繊維状フィラーは、得られる樹脂成形体からの発生ガスをより低減化させて、樹脂成形体の化学的安定性を向上させることや、電気・電子機器又は光学機器を組み立てた際に、発生ガスが周辺部材を汚染することが少ないといった観点から、表面コーティング処理を施していないものが好ましい。表面コーティング処理とは、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等のカップリング剤による表面コーティング処理や、各種熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂による表面コーティング処理が挙げられる。
【0037】
前記組成物ペレットについて詳述する。該組成物ペレットにおいては、液晶性高分子100重量部に対して繊維状フィラーが5〜250重量部とするのが好適である。繊維状フィラーが250重量部を越えると成形性が低下しやすくなり、また機械強度も低下して脆くなる傾向がある。一方、繊維状フィラーが5重量部を下回ると、樹脂成形体の寸法安定性が低下して所望の寸法の樹脂成形体が得られにくく、液晶性高分子の異方性が強く発現して、樹脂成形体に反り等が発生する恐れがある。また、繊維状フィラーが少ないと、機械強度向上の効果が低下するといった弊害も生じる。
【0038】
組成物ペレットにおける繊維状フィラーの使用量は、前記の特性のバランスを考慮すると、前記液晶性高分子100重量部に対して、繊維状フィラーが10〜150重量部であるとより好ましく、25〜100重量部であるとさらに好ましく、40〜70重量部であると一層好ましい。
【0039】
前記組成物ペレットには、本発明の企図する目的を損なわない範囲で、その他の成分(添加剤等)が含まれても構わない。そのような添加剤としては、板状フィラー、ウイスカー、着色成分、潤滑剤、各種安定剤等が挙げられる。ただし、このような第3の成分を用いる場合、前記繊維状フィラーにおいて説明したとおり、樹脂成形体の化学的安定性あるいは周辺部品への汚染性も考慮して適用する必要がある。また、このような添加剤等を使用した場合においては、得られる樹脂成形体の表面粗さRa値の上昇幅が0.4μm以下になるようにして、該添加剤の種類及びその配合量を決定する必要があり、前述のようにして平板状成形体を用いた予備実験が有効である。
【0040】
<組成物ペレットの作製方法>
前記組成物ペレットは、種々の慣用の方法によって作製することができるが、使用した繊維状フィラーが切断されて著しく短繊維長化しないようにすることが好ましい。溶融混練は、一般的には、押出機で液晶性高分子を、予め加熱溶融させてから、繊維状フィラーや必要に応じて加えられる成分を投入して混練することにより、組成物ペレットにする作製方法や、液晶性高分子、繊維状フィラー、さらに必要に応じて加えられる添加剤等を、ヘンシェルミキサーやタンブラー等を用いて混合し、混合物を得た後、さらにその混合物を、押出機を用いて溶融混練し、組成物ペレットにする作製方法が採用される。ここで、繊維状フィラーを著しく短繊維長化させないためには、混合時の温度条件、溶融混練時の温度条件及びせん断力を適宜最適化することが必要である。その好適な条件について記すと、混合時においては、0℃から使用した液晶性高分子の流動開始温度FT0(℃)以下の温度条件から選択される。この温度条件が、前記流動開始温度FT0(℃)を超えると、得られる組成物ペレット中に繊維状フィラーが均一に混合されにくく、当該繊維状フィラーが偏在した組成物ペレットとなる恐れがある。また、組成物ペレット調製に添加剤等を使用した場合は、該添加剤も組成物ペレット中で偏在し易くなるので好ましくない。より実用的な温度条件としては、20〜200℃程度から選択される。なお、混合に係る時間は、0.001〜5時間程度であり、0.01〜3時間であるとさらに好ましい。一方、溶融混練においては、前記の流動開始温度FT0(℃)を基点として、[FT+10]℃以上[FT+80]℃以下の温度条件から選択される。なお、溶融混連に係るせん断力、特に押出機に係るせん断力は、使用した押出機の種類やスケールによって適宜最適化される。このような、混合時及び溶融混練時の条件を種々変更した予備実験により、繊維状フィラーの短繊維長化の度合いを、前記の方法で求めて、繊維状フィラーの数平均繊維長を前記の範囲とすればよい。一方、その逆に予め繊維長が比較的長い繊維状フィラーを用い、溶融混練に係るせん断力を強力にし、繊維状フィラーをより切断するようにして、組成物ペレット中の繊維状フィラーの数平均繊維長を前記の範囲とすることもできる。しかしながら、溶融混練機を著しく損傷させないことと、低コストの面を勘案すると、前者の組成物ペレット作製法が好ましく、数平均繊維長が50〜500μmの繊維状フィラーを用い、その繊維長が著しく短繊維長化しないようにして、組成物ペレットを作製することが好ましい。短繊維長化しにくいことと、操作性が良好である観点から、前記押出機としては、2軸の混練押出機を用いることがより好ましい。
なお、該繊維状フィラーの繊維径においては、組成物ペレットの作製過程で、繊維径を損なう可能性は極めて低いため、組成物ペレットを得る前の繊維状フィラーとして、繊維径5〜15μmのフィラーを選択すればよい。
また、液晶性高分子の流動開始温度FT0(℃)の好適な範囲は、200℃を超えて、500℃以下であると好ましい。この範囲であれば、得られる樹脂成形体の耐熱性が良好になるので、好ましい。
このようにして、組成物ペレットを得ると、該組成物ペレットから樹脂成形体を製造するに際し、後述する射出成形等の成形において取り扱いが容易になるため好ましい。
【0041】
<樹脂成形体の成形方法>
前記のようにして得られた組成物ペレットを射出成形して、樹脂成形体を得る。
まず、該組成物ペレットの流動開始温度FT(℃)を求める。ここで、流動開始温度とは射出成形機の可塑化装置内で組成物ペレットが溶融する温度を表し、通常液晶性高分子自身の流動開始温度である。なお、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用いて、9.81MPa(100kgf/cm2)の荷重下、4℃/分の昇温速度で加熱溶融体を昇温しながらノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度であり、当技術分野で周知の液晶性高分子の分子量を表す指標である(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照、本発明においては、流動開始温度を測定する装置として、株式会社島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500D」を用いる。)。
【0042】
樹脂成形体のパーティクル発生を抑制する上で、好適な射出成形方法としては、組成物ペレットの流動開始温度FT(℃)に対して、[FT+30]℃以上[FT+80]℃以下の温度で該組成物ペレットを溶融せしめて、80℃以上の温度に設定された金型に射出成形する方法が挙げられる。なお、該組成物ペレットは射出成形する前に乾燥させておくことが好ましい。
本発明者等は、パーティクルの発生要因の一つとして成形時の樹脂溶融温度や金型温度も起因することを見出している。樹脂溶融温度が、[FT+30]℃よりも低い温度で射出成形すると、得られる樹脂成形体の表面強度が低下してパーティクルの発生を助長する傾向があり、さらには成形流動性が著しく低下することからも好ましくない。一方、樹脂溶融温度が、[FT+80]℃よりも高い温度で射出成形すると、成形機内で滞留する液晶性高分子の分解が生じて、その結果得られる樹脂成形体は脱ガス等が発生しやすくなり、電気・電子部品や光学部品の用途に適用することが困難になることがある。また、射出成形後、金型を開いて樹脂成形体を取り出す際にノズルから溶融樹脂が流れ出るような弊害が生じやすいことから、樹脂成形体の生産性が低下するといった問題も生じるため、好ましくない。樹脂成形体の安定性と成形性を考慮すると、樹脂溶融温度は[FT+30]℃以上[FT+60]℃以下であることがさらに好ましい。
【0043】
一方、金型温度は80℃以上が好適である。該金型温度が80℃を下回ると、得られる樹脂成形体の表面平滑性が損なわれ、パーティクル発生量を助長する傾向がある。なお、パーティクル発生量を低減する観点からは、金型温度は高いほど有利であるが、高すぎると冷却効果が低下して冷却工程に要する時間が長くなるために生産性が低下したり、離型性の低下により成形体が変形したりするなどの問題が生じるため好ましくない。さらにいえば、金型温度を上げすぎると金型どうしの噛み合いが悪くなり、金型開閉時に成形体が破損しやすいといった弊害もある。該金型温度の上限も、前記組成物ペレットに含まれる液晶性高分子の分解を防止するために、適用する組成物ペレットの種類に応じて適宜最適化することが好ましい。なお、前記に例示したような、特に好適な液晶性高分子である全芳香族液晶性高分子のポリエステルである場合、金型温度は100℃以上220℃以下が好ましく、130℃以上200℃以下がより好ましい。
【0044】
より実用的な射出成形条件を決定するためには、前記のように、成形条件を変えて種々予備実験を行う。具体的には、前述のような平板状成形体を標準成形体として用い、表面テープ剥離試験を行って、Ra上昇幅を求めるといった一連の操作の予備実験を行ない、このようにして射出成形条件を最適化することができる。一例を挙げると、まず組成物ペレットを、予め求めておいた流動開始温度FTに対して、好適な樹脂溶融温度のほぼ中心値[FT+40]〜[FT+50]℃の範囲で溶融させ、80℃に設定された金型に射出成形して標準成形体を得し、得られた標準成形体に表面テープ剥離試験を行って、Ra上昇幅を求める。次いで、金型温度を徐々に上げていって、それぞれ標準成形体を成形し、同様にRa上昇幅を求める。さらに、樹脂溶融温度を順次下げることで同様にRa上昇幅を求めていけば、金型温度と樹脂溶融温度を各々最適化することができる。また、併せて得られる標準成形体において、前記表面テープ剥離試験に加えて、ウェルド強度等の機械強度測定を実施すれば、より好適な射出成形条件を求めることも可能である。
なお、その際の射出速度は、使用する成形機によって種々好適な範囲に設定すればよいが、通常50mm/sec以上である。かかる射出速度はより速い方が、生産性を高めることができるので好ましく、100mm/sec以上であればより好ましく、200mm/sec以上であるとさらに好ましい。
【0045】
前記のようにして標準成形体を成形する予備実験で射出成形条件を最適化し、金型を、標準成形体を成形するものから、目的とする樹脂成形体を成形し得る金型に変更して成形を行う。このようにすることで、パーティクル発生を極めて良好に防止し得る樹脂成形体を得ることができる。かかる樹脂成形体は電気・電子用機器あるいは光学機器用の部品に好適に使用することができる。
なお、前述の射出成形においては、標準成形体を用いた予備実験を行う例について説明したが、目的とする形状の樹脂成形体において、その平面部に対して表面テープ剥離試験を実施し、表面粗さRaを求めるといった手段で成形条件を最適化できることはいうまでもない。
【0046】
<樹脂成形体の用途>
ここで具体的に本発明の樹脂成形体が適用可能である、好適な部材について例示する。例えば、コネクター、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップ、発振子、プリント配線板、 回路基板、半導体パッケージ、コンピュータ関連部品、等の電気・電子部品;ICトレー、ウエハーキャリヤー、等の半導体製造プロセス関連部品;VTR、テレビ、アイロン、エアコン、ステレオ、掃除機、冷蔵庫、炊飯器、照明器具、等の家庭電気製品部品;ランプリフレクター、ランプホルダー等照明器具部品;コンパクトディスク、レーザーディスク、スピーカー、等の音響製品部品;光ケーブル用フェルール、電話機部品、ファクシミリ部品、モデム等の通信機器部品;分離爪、ヒータホルダー、等の複写機、印刷機関連部品;インペラー、ファン歯車、ギヤ、軸受け、モーター部品及びケース、等の機械部品;自動車用機構部品、エンジン部品、エンジンルーム内部品、電装部品、内装部品等の自動車部品、マイクロ波調理用鍋、耐熱食器、等の調理用器具;床材、壁材などの断熱、防音用材料、梁、柱などの支持材料、屋根材等の建築資材、または土木建築用材料;航空機、宇宙機、宇宙機器用部品;原子炉等の放射線施設部材、海洋施設部材、洗浄用治具、光学機器部品、バルブ類、パイプ類、ノズル類、フィルター類、膜、医療用機器部品及び医療用材料、センサー類部品、サニタリー備品、スポーツ用品、レジャー用品が挙げられる。
【0047】
このように、様々な用途に本発明の樹脂成形体を使用することができるが、当該成形品はパーティクルの発生量が極めて少ないという特長を有することから、スイッチ、リレー、イメージセンサー他各種センサー、発行ダイオード(LED)、光学機構系に有用であり、とりわけ、スイッチ、イメージセンサー、カメラモジュールに適用する部品に有用であり、特にカメラモジュール用部品に有用である。
【0048】
以下、好適な用途であるカメラモジュール用部品について詳述する。
図4は、カメラモジュール100の要部を示す模式断面図である。基板110上に光学素子111が配され、基板とリード配線113で電気的に結合している。該基板110に対し、光学素子111を覆うようにして、頂部に空隙部のあるホルダー120が配され、該空隙部には螺旋が備えられている。一方、レンズ114を付したバレル121が、ホルダー120頂部の螺旋と螺合するように配されてカメラモジュールが形成される。さらに該カメラモジュールにおいて、レンズ114を通過した光が光学素子111に到達する光路の間となるように、IRフィルター112がホルダー120に結合している。該カメラモジュールでは、そのフォーカス調整において、レンズ114と光学素子111間の距離を、螺合しているバレル121とホルダー120の螺旋部を摺動させて調整することから、経時の使用でバレル121及び/又はホルダー120が磨耗しやすい。この磨耗によってホルダー120又はバレル121からパーティクルが発生すると、発生したパーティクルがIRフィルターあるいは光学素子に付着して、カメラモジュールの誤作動を発生させることがある。さらには、使用時の振動等により摩耗が進行したり、ホルダー120又はバレル121の表面が粗化するなどして、よりパーティクルが発生しやすくなることもある。
本発明の樹脂成形体は、かかるカメラモジュール100のホルダー120又はバレル121に適用すると、磨耗によるパーティクル発生を防止又は著しく低減化することができるので、カメラモジュール100の誤作動を防止して長寿命化を達成することを可能とする。また、近年のデジタル機器の小型化により、該カメラモジュールの小型化や構成部材の薄肉化が進んでいるが、本発明の樹脂成形体を与える樹脂組成物は薄肉成形性にも優れているので、小型化が必要な部材も容易に得ることを可能とする。
【0049】
図5は、図4に示したカメラモジュールの構成の要部を表す斜視図である。
図6は、バレル121の開口部にある平面部にテープを貼った状態を示す模式図である。このようにして、テープを貼り、前述のようにして剥がすといった一連の操作から、表面テープ剥離試験を行うことで、表面粗さRaの上昇幅を求めることができる。
ホルダー120の場合は、側壁を表面テープ剥離試験の平面部として用いることができる。図7は、ホルダー120の側壁の平面部にテープを貼った状態を示す模式図である。バレル121の開口部や、ホルダー120の側壁部に対して、表面テープ剥離試験を行う際には、これらの部品の形状に合わせて、適宜使用するテープの幅を最適化してもよい。
【0050】
本発明の樹脂成形体は、前記カメラモジュール等において、経時の使用でのパーティクル発生を低減化することを可能とするが、下記のような加速試験で該パーティクル発生の度合いを確認することもできる。
すなわち、樹脂成形品のゲートを切断し、切断部位を熱カシメにより封止した後、500ccの純水中で緩やかに1分間攪拌して表面を洗浄し、攪拌をとめて10分間放置した後、リオン株式会社製液中パーティクルカウンターシステムを用い、洗浄水中に分散されたパーティクル数を計数する。この液中パーティクルカウンターシステムは、シリンジサンプラーKZ−30W1(パーティクル分散液を採取)、パーティクルセンサーKS−65、コントローラーKL−11Aから構成され、試料10ml中の2μm〜100μmサイズのパーティクルを個/ml単位で計数する。測定はサンプル毎に5回行う。カウント数が100個/ml以上であると、その樹脂成形体はパーティクルの発生頻度が大きく、電気・電子部品や光学機器の動作不良を起こす可能性が高い。
本発明の樹脂成形体は、このような計数方法で求められたパーティクル数は100個/ml未満であり、このような加速試験によってもパーティクルが著しく発生しにくいことから、前記カメラモジュールの如き、経時の使用で磨耗等を受けたとしても動作不良の発生を防止することを可能とする。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
製造例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸 994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル 446.9g(2.4モル)、テレフタル酸 299.0g(1.8モル)、イソフタル酸 99.7g(0.6モル)及び無水酢酸 1347.6g(13.2モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.194gを添加し、室温で15分間攪拌して反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。
【0053】
その後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了としてプレポリマーを得た。プレポリマーの流動開始温度は261℃であった。
【0054】
得られたプレポリマーは室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕して、液晶ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持し、固層で重合反応を進めた。得られたポリエステルの流動開始温度は327℃であった。このようにして得られたポリエステルをLCP1とする。
【0055】
製造例2
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸 994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル 446.9g(2.4モル)、テレフタル酸 365.4g(2.2モル)、イソフタル酸 33.2g(0.2モル)及び無水酢酸 1347.6g(13.2モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.194gを添加し、室温で15分間攪拌して反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。
【0056】
その後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了としてプレポリマーを得た。プレポリマーの流動開始温度は263℃であった。
【0057】
得られたプレポリマーは室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕して、液晶ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から300℃まで5時間かけて昇温し、300℃で3時間保持し、固層で重合反応を進めた。得られたポリエステルの流動開始温度は361℃であった。このようにして得られたポリエステルをLCP2とする。
【0058】
実施例1〜6、比較例1〜11
製造例1又は製造例2で得られた、液晶性高分子LCP1又はLCP2、及び下記の成分を、表1、表2又は表3に示す組成で二軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM−30)を用いて、シリンダー温度340℃で造粒し、組成物ペレットを得た。得られた組成物ペレットの流動開始温度(FT:フロー温度)を、前記に示す方法により測定した。
<繊維状フィラー>
mGF(ミルドガラスファイバー):
セントラル硝子株式会社製ミルドファイバー・ガラスパウダー EFH75−01
(メーカー公表サイズ:繊維径10μmφ×繊維長75μm)
cGF(チョップドガラスファイバー):
旭ファイバーグラス株式会社製
グラスロンチョップドストランド CS03 JA PX−1
(メーカー公表サイズ:繊維径10μmφ×繊維長3mm)
<その他の充填剤>
二酸化チタン:石原産業株式会社製 二酸化チタンタイペークCR−60
(平均粒径:0.2μm)
タルク:日本タルク株式会社製 タルクX−50
(板状充填剤 中心粒径:14.5μm)
ポリテトラフロロエチレン:セントラル硝子株式会社製 セフラルルーブI
(中心粒径:3〜8μm)
BAW(ホウ酸アルミニウムウィスカ)
株式会社製
(メーカー公表サイズ:繊維径0.5〜1.0μmφ
×繊維長10〜30μm)
【0059】
<繊維状フィラーの数平均繊維長の測定>
前記のようにして得られた組成物ペレットの一部を該ペレット中にある繊維状フィラーの数平均繊維長測定用に供した。
ペレット1gをるつぼにとり、電気炉内600℃で6時間処理して灰化させ、その残渣をメタノールに分散させてスライドガラス上に展開させた状態で顕微鏡写真をとり、その写真から無機フィラーの長さを直接的に読み取り平均値を算出した。平均の算出にあたっては、母数を400とした。
【0060】
前記のようにして得られた組成物ペレットを乾燥後、日精樹脂工業(株)製のPS40E−5ASE型射出成形機を用い、表1に記載した樹脂温度、金型温度で射出成形を行い、下記寸法を有する標準成形体(標準試験片)を得た。
表面テープ剥離試験用標準試験片:64×64×1mm
ウエルド強度評価標準試験片:64×64×3mm ピン系6mmφ
【0061】
<表面テープ剥離試験>
前記標準試験片に対し、明伸工機株式会社製表面形状解析装置SAS−2010を用いて、初期表面粗さRa1を測定した。なお、同装置は、Perthen GmbH製光学非接触式ミクロトレーサーfocodynと、同作動システムperthometer C5Dから構成されているものである。
次いで、初期表面粗さRa1を測定した平面部に、ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標)CT-18を、標準試験片の流動方向に沿って試験片の全長にわたり貼り、素早く引き剥がすといった一連の操作を30回繰り返し行った。
【0062】
前記のテープを貼って剥がす操作を実施した標準試験片の平面部に対して、前記と同様にして表面粗さRa2を測定し、Ra上昇幅(Ra2−Ra1)を求めた。
【0063】
<ウエルド強度の評価>
ウエルド強度評価標準試験片からウエルド部を含む試験片を切り出して、A&D社製テンシロンUTM−500を用いてASTM D790に準拠した測定条件で3点曲げ強度を測定した。
【0064】
<電子部品ケース用筒状成形体の成形>
組成物ペレットを乾燥した後、日精樹脂工業(株)製のPS40E−5ASE型射出成形機を用い、表1に記載した標準成形体で求めた成形条件と同じ成形条件にて、外径25.60mmφ、内径20.00mmφ、長さ19.85mmの筒状成形体を得た。
【0065】
得られた筒状成形体のゲートを切断し、そのゲート部位を熱カシメにより封止した後、500ccの純粋中で緩やかに1分間攪拌して表面を洗浄した。攪拌をとめて10分間放置した後、リオン株式会社製液中パーティクルカウンターシステムを用い、洗浄水中に分散されたパーティクル数を計数した。この液中パーティクルカウンターシステムは、シリンジサンプラーKZ−30W1(パーティクル分散液を採取)、パーティクルセンサーKS−65、コントローラーKL−11Aから構成され、試料10ml中の2μm〜100μmサイズのパーティクルを個/ml単位で計数した。測定はサンプル毎に5回行い、その平均値を分散されたパーティクル数として計数した。パーティクルカウント数が100個/ml未満を許容範囲として○、100個/ml以上は許容範囲外として×で示した。結果を標準成形体での結果と併せて表1、表2又は表3に示す。
【0066】
【表1】


※1 繊維状フィラーの繊維径は、フィラーメーカーのカタログデータである。
【0067】
【表2】


※2 繊維状フィラーの繊維径は、フィラーメーカーのカタログデータである。
【0068】
【表3】


※3 繊維状フィラーの繊維径は、フィラーメーカーのカタログデータである。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】標準成形体(平板状成形体)の成形を模式的に表す図である。
【図2】表面テープ剥離試験において、標準成形体に対するテープ貼合の状態を表す図である。
【図3】表面テープ剥離試験において、標準成形体からのテープ剥離を模式的に表す斜視図である。
【図4】本発明のカメラモジュールの要部を表す模式断面図である。
【図5】本発明のカメラモジュールの外観要部を表す斜視図である。
【図6】バレル平面部のテープ貼合の状態を表す図である。
【図7】ホルダー肩部のテープ貼合の状態を表す図である。
【符号の説明】
【0070】
1A,1B・・・溶融樹脂の流動方向、1C・・・テープの剥離方向,2A・・・金型中の空隙部,10・・・標準成形体,20・・・テープ,100・・・カメラモジュール部品,120・・・ホルダー,121・・・バレル,114・・・レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性高分子と繊維状フィラーとを含む樹脂成形体であって、下記の表面テープ剥離試験により求められる表面粗さRa値の上昇幅が0.4μm以下となる平面部を有することを特徴とする樹脂成形体。
[表面テープ剥離試験]
前記平面部にJIS B0601−1994で規定されている中心線平均粗さ測定を用いて初期表面粗さRa1を測定する。Ra1を測定した平面部に、粘着力4.0N/mmのテープを貼って剥がす。このテープを貼って剥がす操作を同一の平面部に30回繰返した後、前記と同様にして表面粗さRa2を測定し、Ra2とRa1の差分(Ra2−Ra1)を表面粗さRaの上昇幅として求める。
【請求項2】
前記樹脂成形体が液晶性高分子100重量部に対し、繊維状フィラー5〜250重量部を含むことを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項3】
前記液晶性高分子が、下記の(a)、(b)及び(c)から選ばれる少なくとも1種の液晶性高分子であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹脂成形体。
(a)構造単位(I)及び/又は構造単位(II)からなるポリエステル、ポリエステルアミド又はポリアミド
(b)構造単位(I)及び構造単位(II)から選ばれる構造単位と、構造単位(III)と、構造単位(IV)と、からなるポリエステル又はポリエステルアミド
(c)構造単位(I)及び構造単位(II)から選ばれる構造単位と、構造単位(III)と、構造単位(IV)、構造単位(V)及び構造単位(VI)から選ばれる構造単位とからなる、ポリエステル又はポリエステルアミド

(式中、Ar1、Ar2、Ar5及びAr6は、それぞれ独立に2価の芳香族基を表し、Ar3及びAr4はそれぞれ独立に2価の芳香族基、2価の脂環基及び2価の脂肪族基から選ばれる基を表す。なお、該芳香族基にある芳香環上の水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基又は炭素数6〜10のアリール基で置換されていてもよい。また、該脂環基にある水素原子の一部又は全部が、炭素数1〜10のアルコキシ基又は炭素数6〜10のアリール基で置換されていてもよく、該脂肪族基にある水素原子の一部又は全部が、炭素数1〜10のアルコキシ基又は炭素数6〜10のアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項4】
前記液晶性高分子が、前記(a)のポリエステル、ポリエステルアミド又はポリアミドであるか、下記の(b’)又は(c’)のポリエステル又はポリエステルアミドであることを特徴とする、請求項3記載の樹脂成形体。
(b’)前記(b)の構造単位の組合わせにおいて、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の総和を100モル%としたとき、2価の芳香族基の総和が60モル%以上である、ポリエステル又はポリエステルアミド
(c’)前記(c)の構造単位の組合わせにおいて、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5及びAr6の総和を100モル%としたとき、2価の芳香族基の総和が60モル%以上である、ポリエステル又はポリエステルアミド
【請求項5】
前記液晶性高分子が、下記の(I−1)及び/又は(I−2)の芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位と、下記の(III−1)、(III−2)及び(III−3)から選ばれる少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位と、下記の(IV−1)、(IV−2)、(IV−3)及び(IV−4)から選ばれる少なくとも1種の芳香族ジオールから誘導される構造単位とからなるポリエステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂成形体。

【請求項6】
前記樹脂成形体が、液晶性高分子と繊維状フィラーとを含む組成物ペレットを成形して得られる樹脂成形体であることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載の樹脂成形体。
【請求項7】
前記組成物ペレットが、繊維径5〜15μm、数平均繊維長30〜200μmの繊維状フィラーを含むことを特徴とする、請求項6記載の樹脂成形体。
【請求項8】
前記繊維状フィラーが、表面コーティング処理されていない繊維状フィラーであることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の樹脂成形体。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の樹脂成形体からなるカメラモジュール用部品。
【請求項10】
請求項1〜8の何れかに記載の樹脂成形体の製造方法であって、下記の(A)及び(B)で表される工程を有することを特徴とする製造方法。
(A)液晶性高分子と繊維状フィラーとを含有し、流動開始温度FT[℃]の組成物ペレットを作製する工程
(B)前記(A)で得られた組成物ペレットを、[FT+30]℃以上[FT+80]℃以下の温度で溶融せしめ、80℃以上の温度に設定された金型に射出成形して樹脂成形体を得る工程

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−239950(P2008−239950A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310076(P2007−310076)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】