説明

機能性フィルムの製造方法および機能性フィルム

【課題】安価な支持体を用いて、低コストかつ高い生産性で、高いガスバリア性能を有するガスバリアフィルムなど、高性能な機能性フィルムを提供する。
【解決手段】塗布による有機層と、気相堆積法による無機層とを積層してなる機能性フィルムにおいて、有機層のガラス転移温度が100℃以上、厚さが0.05〜3μmであり、かつ、この有機層を、塗料を5cc/m2以上の塗布量で塗布して、減率乾燥状態での粘度が20cP以上、表面張力が34dyn/cm以下となるようにして形成し、この有機層の表面に、プラズマの生成を伴う気相成膜法によって無機層を形成することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体の上に有機層および無機層を形成してなる、ガスバリアフィルムなどの機能性フィルム、および、この機能性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、各種の半導体装置、太陽電池等の各種装置において防湿性が必要な部位や部品、食品や電子部品等を包装する包装材料などガスバリアフィルムが利用されている。
ガスバリアフィルムは、一般的に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のプラスチックフィルムを支持体(基板)として、その上に、ガスバリア性を発現する膜(以下、ガスバリア膜とも言う)を成膜してなる構成を有する。また、ガスバリアフィルムに用いられるガスバリア膜としては、例えば、窒化珪素、酸化珪素、酸化アルミニウム等の各種の無機化合物からなる膜が知られている。
【0003】
このようなガスバリアフィルムにおいて、より高いガスバリア性が得られる構成として、支持体の表面に有機化合物からなる有機層(有機化合物層)を下地層(アンダーコート層)として有し、この有機層の上に、ガスバリア性を発現する無機化合物からなる無機層(無機化合物層)を有する有機/無機積層型のガスバリアフィルムが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、透明なプラスチックフィルムを支持体として、支持体の表面に紫外線硬化性樹脂あるいは電子線硬化性樹脂を硬化してなる、三次元網目構造を有する有機層を有し、その上に、無機層を有するガスバリアフィルム(透明ガスバリア性積層フィルム)が記載されている。
また、特許文献2には、支持体の上に、所定のアクリレート構造を2つ有するモノマーと、同じアクリレート構造を3つ以上有するモノマーとを含む混合物を重合してなる有機層を有し、その上に、無機層を有するガスバリアフィルム(バリア性フィルム基板)が記載されている。
【0005】
特許文献1や特許文献2にも示されるように、有機/無機積層型のガスバリアフィルムでは、支持体上に形成した有機層によって無機層の形成面を平坦化することにより、高いガスバリア性を得ている。
一般的に、有機層は、塗料を用いる塗布法によって形成できるので、形成の際における自己レベリング性が高く、容易に平滑な面を得ることができる。そのため、このような有機層を有することにより、支持体表面の凹凸を埋没して、表面を平滑な平坦面にすることができる。
このような平坦な有機層の上にガスバリア性を発現する無機層を形成することにより、有機層の平滑性を、そのまま維持して無機層を形成できる。そのため、ヒビ、割れ、剥離等の無い、全面に渡って均一な無機層を形成することができ、これにより、優れたガスバリア性能を得ることができる。
【0006】
ところが、特許文献3〜5に示されるように、このようなガスバリアフィルムにおいて、主に支持体として利用されるプラスチックフィルムの表面には、大量の異物が付着している。この異物の大半は、支持体形成時の残存オリゴマーや、空気中に浮遊するパーティクルの帯電付着物等である。また、異物の大半は、数μm前後のサイズのものである。
このようなサイズの異物を完全に包埋して(埋め込んで)、表面が平坦な有機層を形成するためには、支持体表面に付着している異物等、支持体表面の状態に対して、十分に厚い有機層を形成する必要が有る場合が、大半となる。すなわち、数μm前後の異物を包埋して、表面が平坦な有機層を得るためには、10μmを超える厚さの有機層を形成する必要が有る。
【0007】
しかしながら、有機層を厚くすると、有機層のクラック等が発生し易くなってしまう。また、支持体が薄い物である場合には、有機層を厚くするとカール等が発生してしまう。
さらに、有機層を厚くすると、ガスバリアフィルムのフレキシビリティも失われてしまい、フィルムを用いることの本来の目的も達成できなくなってしまう。加えて、前記クラックやカールの発生も、フレキシビリティの低下を大きくする。
しかも、生産性や原料コストの点でも、有機層の厚膜化は不利である。
【0008】
有機層を形成する前に支持体の表面を洗浄することで、このような不都合の発生を、大幅に減少することができる。また、得られるガスバリアフィルムの品質を考えても、支持体の表面は清浄である方が好ましいのは、言うまでもない。
そのため、特許文献3〜5にも示されるように、従来のガスバリアフィルムでは、支持体表面に目的とする膜を形成する前に、粘着ローラ等を用いて支持体表面のクリーニングを行って支持体表面の異物を除去し、その後、支持体の表面に目的とする機能を発現するための膜を形成している。
特に特許文献2に示されるような、水蒸気透過率が1.0×10-3[g/(m2・day)]未満の高いガスバリア性能を有する有機/無機積層型のガスバリアフィルムでは、同文献に有機層の形成(成膜)をクリーンルームで行うのが好ましいことが記載されている点からも明らかなように、より高い有機層の表面平滑性を確保するために、有機層を形成する支持体の表面が清浄であることは重要であると考えられている。そのため、有機/無機積層型のガスバリアフィルムでは、支持体表面への有機層の形成に先立ち、粘着ローラ等を用いて支持体表面のクリーニングを行って、支持体表面の異物を除去した後に有機層等の形成を行うことにより、表面が平坦な有機層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−264274号公報
【特許文献2】特開2009−172986号公報
【特許文献3】特開2007−277631号公報
【特許文献4】特開2003−13020号公報
【特許文献5】特開2007−21871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、実際にガスバリアフィルムを大量生産する事を考えると、生産現場でクリーニング等を行い、支持体表面を十分に清浄化した状態で有機層を形成して、薄く、かつ表面平坦性に優れた有機層を得ることには、様々な困難が伴う。
【0011】
前述のように、ガスバリアフィルムの支持体として用いられる一般的なプラスチックフィルムには、多量の異物が付着している。
そのため、高い生産効率が要求される生産設備において、インラインで支持体表面に付着する多量の異物を、平坦な有機層が形成可能なレベルまで除去するためには、高性能なクリーニング装置(異物の除去装置)が必要になる。加えて、前述のように、これらの異物は数μm前後のサイズである。そのため、従来、生産ラインの監視用等に用いられているCCDカメラ等を用いて、インラインで異物を検出することも困難であり、やはり、高性能な設備が必要になる。
【0012】
しかも、有機層の形成は、一般的に、大気圧下での塗布法によって行われる。そのため、支持体が塗布装置に供給され、塗料が塗布されるまでの間にも、装置の設置環境内に存在する異物が付着してしまう。同様に、支持体の保管中や輸送中にも、異物は付着する。
このような不都合を回避するためには、支持体の保管をクリーンルームで行い、かつ、特許文献2に示されるように、有機層の形成をクリーンルームで行う等、支持体の管理環境や有機層の形成環境の雰囲気の清浄化手段が必要となる。
【0013】
また、高度に環境を管理された製造設備で製造され、クリーンルームのように清浄化された環境下で保存された、表面に付着する異物が極めて少ない支持体を用いることができれば、このような支持体表面のクリーニングは不要にできる可能性は有る。
しかしながら、このような支持体は、当然、非常に高価であり、原料コストが大幅に向上してしまう。また、この場合でも、有機層の形成環境等の環境管理は必要である。
【0014】
すなわち、生産性を要求される生産現場において、表面に異物等の無い支持体に有機層を形成して、表面が平坦な有機層を形成するためには、非常に高価な、高性能かつ大がかりな装置や、高価な原料が必要であり、設備コストや設備管理等のランニングコスト等を考えれば、多くの困難を伴う。
また、基板表面のクリーニングや、有機層形成環境の制御を行うことによって、ライン速度の低下など、生産効率が低下してしまう可能性も有る。
【0015】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、支持体の上に、下地層としての有機層を有し、この有機層の上にガスバリア性等の目的の機能を発現する無機層を有するガスバリアフィルム等、有機/無機積層型の機能性フィルムにおいて、表面に多くの異物が付着している一般的な支持体を用い、高度な支持体表面のクリーニングや有機層形成環境の清浄化等を行わずに、かつ、有機層を不要に厚くする必要なく、高いガスバリア性能等を有する高性能な製品を、低コストかつ高い生産性で得ることができる機能性フィルム、および、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の機能性フィルムの製造方法は、支持体の上に有機層を有し、この有機層の上に無機層を有する機能性フィルムを製造するに際し、有機溶剤とガラス転移温度が100℃以上の前記有機層となる有機化合物とを含有する塗料を調整し、この塗料を、5cc/m2以上の塗布量で、前記有機層の厚さが0.05〜3μmとなるように、前記支持体の表面に塗布し、前記支持体の表面に塗布した塗料を、減率乾燥状態において粘度が20cP以上で表面張力が34dyn/cm以下となるように乾燥した後、前記有機化合物を硬化させて有機層を形成し、形成した前記有機層の表面に、プラズマの生成を伴う気相成膜法によって前記無機層を形成することを特徴とする機能性フィルムの製造方法を提供する。
【0017】
このような本発明の機能性フィルムの製造方法において、前記塗料が、前記塗料が、前記有機溶剤を除いた濃度で0.005〜7重量%の界面活性剤を含むのが好ましい。
また、前記支持体への塗料の塗布を、ダイコート法で行うのが好ましい。
また、前記支持体に塗布する塗料の粘度が0.8〜10cPであるのが好ましい。
また、前記有機層を形成した支持体を、所定の方向に搬送しつつ、前記プラズマの生成を伴う気相成膜法によって無機層を形成するのが好ましい。
また、長尺な前記支持体をロール状に巻回してなる支持体ロールから、前記支持体を引き出して、この引き出した支持体を長手方向に搬送しつつ、前記支持体への塗料の塗布、乾燥、および、有機化合物の硬化を行って有機層を形成し、この有機層を形成した支持体を、再度、ロール状に巻回して支持体/有機層ロールとし、前記支持体/有機層ロールから有機層を形成された支持体を引き出して、この支持体を長手方向に搬送しつつ、前記無機層の形成を行い、この無機層を形成した支持体を、再度、ロール状に巻回するのが好ましい。
【0018】
また、前記塗料が含有する有機化合物が、光重合反応によって架橋する(メタ)アクリレート系の有機化合物であるのが好ましい。
さらに、前記無機層が、窒化珪素、酸化珪素、酸窒化珪素、および、酸化アルミニウムのいずれかで形成されるのが好ましい。
【0019】
また、本発明の機能性フィルムは、支持体と、前記支持体の上に形成された有機層と、この有機層の上に形成された無機層とを有する機能性フィルムであって、前記支持体は、その表面に、1cm2当たり10個以上の異物を有するものであり、前記有機層は、ガラス転移温度が100℃以上の有機化合物を主成分とするものであり、さらに、膜厚が0.05〜3μmで、かつ、膜厚が前記支持体表面の異物の少なくとも1つの膜厚方向の大きさよりも小さいことを特徴とする機能性フィルムを提供する。
【0020】
このような本発明の機能性フィルムにおいて、前記有機層が、0.005〜7重量%の界面活性剤を含有するのが好ましい。
また、前記有機層が、この有機層となる成分を含有する塗料の塗布によって形成されたものであるのが好ましい。
【0021】
また、最上層に、保護有機層を有するのが好ましい。
また、前記無機層の上に、下層の中間有機層と上層の中間無機層との組み合わせを、1以上有するのが好ましい。
【0022】
また、前記有機層あるいはさらに中間有機層が、(メタ)アクリレート系の有機化合物を重合反応によって架橋したものであるのが好ましい。
さらに、前記無機層が、窒化珪素、酸化珪素、酸窒化珪素、および、酸化アルミニウムのいずれかで形成されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
上記構成を有する本発明の機能性フィルムの製造方法によれば、支持体表面の高度なクリーニングや有機層の形成環境の清浄化等を不要にして、通常の安価な支持体を用いて、かつ、有機層を不要に厚くすることなく、高いガスバリア性を有するガスバリアフィルム等の高性能な機能性フィルムを、低コストかつ高い生産性で製造することができる。
また、このような本発明の機能性フィルムの製造方法で製造される本発明の機能性フィルムは、薄く十分な可撓性を有し、かつ、高性能で安価な機能性フィルムである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(A)〜(C)は、本発明の製造方法で製造する機能性フィルムの一例を概念的に示す図である。
【図2】(A)および(B)は、本発明の機能性フィルムの製造方法を実施する製造装置の一例を概念的に示す図で、(A)は有機層の形成装置、(B)は無機層の形成装置である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の機能性フィルムの製造方法および機能性フィルムについて、添付の図面に示される好適実施例を基に、詳細に説明する。
【0026】
図1(A)に、本発明の機能性フィルムを利用するガスバリアフィルムの一例を概念的に示す。
このガスバリアフィルム10は、基本的に、後述する本発明の機能性フィルムの製造方法によって製造されるものであり、支持体Bの上(表面)に有機層12を有し、この有機層12の上(表面)に、無機層14を有するものである。
【0027】
なお、本発明の機能性フィルムは、ガスバリアフィルムに限定はされない。
すなわち、本発明は、光学フィルタや光反射防止フィルムなどの各種の光学フィルム等、公知の機能性フィルムに、各種、利用可能である。しかしながら、後述するが、本発明によれば、破断部や被形成部などの空隙を大幅に減少した無機層14を形成することができる。そのため、本発明は、無機層14の空隙による性能劣化が大きい、ガスバリアフィルムには、好適に利用される。
【0028】
また、本発明の機能性フィルムは、支持体Bの上に後述する有機層12を有し、その上に、後述する無機層14を有するものであれば、図1(A)に示される構成に限定はされず、各種の層構成が利用可能である。
例えば、図1(B)に示す機能性フィルム20のように、無機層14の上(最上層)に、主に無機層14を保護するための、保護有機層24を有する構成であってもよい。
さらに、より高い性能を発現できる構成として、図1(B)に示す機能性フィルム26ように、無機層14の上に、下層の中間有機層12mと上層の中間無機層14mとの組み合わせ(無機層および有機層の交互積層構造)を、1以上、有し、あるいはさらに、最上層に保護有機層24を有してもよい。
【0029】
これらの機能性フィルムにおいて、中間有機層12mおよび保護有機層24は、いずれも、前記特許文献1や特許文献2等の公知の有機/無機積層型の機能性フィルムで形成される有機層と同様に形成すればよい。また、中間無機層14mは、後述する無機層に準ずるものとすればよい。
さらに、有機層および/または無機層を、複数層、有する場合には、各有機層および無機層は、互いに同じ材料で形成されても異なる材料で形成されてもよい。
【0030】
本発明の製造方法において、支持体(基板/基材)Bには、特に限定はなく、ガスバリアフィルム等の機能性フィルムの支持体として利用されている、公知のシート状物が、各種、利用可能である。
好ましくは、後述するロール・ツー・ロールでの有機層および無機層の形成が可能なように、長尺なシート状の支持体B(ウエブ状の支持体B)が利用される。
【0031】
支持体Bとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの、各種のプラスチック(高分子材料)からなるプラスチックフィルムが、好適に例示される。
また、支持体Bは、このようなプラスチックフィルムの表面に、保護層、接着層、光反射層、反射防止層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等の、各種の機能を得るための層(膜)が形成されているものであってもよい。
【0032】
ここで、本発明のガスバリアフィルム10においては、基板Bは、表面に、1cm2当たり10個以上の異物16を有する。
【0033】
前述のように、支持体Bとなる一般的なプラスチックフィルムには、多量の異物16が付着している。これらの異物16の大半は、支持体形成時の残存オリゴマーや、空気中に浮遊するパーティクルの帯電付着物等である。また、異物16の大半は、数μm前後のサイズのものである。このような異物を包埋して、平坦な表面を有する有機層14を形成するためには、有機層14の膜厚を、例えば10μmを超える膜厚とする必要が有る。この有機層14の厚膜化は、ガスバリアフィルムのフレキシビリティの低下などの、様々な不都合を招くのは、前述のとおりである。
従って、高いガスバリア性を有するガスバリアフィルムなど、高性能な機能性フィルムを得るためには、このような支持体Bの表面の異物16は、少ない方が好ましい。
【0034】
しかしながら、前述のように、実際の生産設備において異物の無い支持体Bに有機層14を形成して、表面が平坦な有機層14を得るためには、高性能な支持体表面のクリーニング装置や、クリーンルームなどの有機層の保管/形成環境の雰囲気清浄化手段が必要である。そのため、生産設備のコストやランニングコストが大幅に向上する結果となり、実際には、大きな困難を伴う。
また、異物の少ない、高度に管理された支持体Bを用いれば、クリーニング等は不要にできる可能性は有るが、このような支持体Bは、非常に高価であり、また、この場合でも、環境管理は必要である。
【0035】
これに対して、本発明のガスバリアフィルム10では、支持体Bは、その表面に、1cm2当たり10個以上の異物16を有する。特に、支持体Bは、その表面に、有機層12の膜厚方向のサイズ(高さ)が3μm以上の異物16を1cm2当たり10個以上有するのが好ましい。すなわち、本発明においては、一般的に流通している通常のプラスチックフィルム等をクリーニング(清浄化)などを行わずに支持体Bとして用い、かつ、雰囲気の清浄化等を行わない通常の環境で、この支持体Bに有機層14を形成する。
【0036】
そのため、本発明によれば、水蒸気透過率が1×10-3[g/(m2・day)]未満の高いガスバリア性能を有するガスバリアフィルム10など、高性能な機能性フィルムを、低コストかつ高い生産性で製造することができる。
言い換えれば、本発明では、支持体Bの表面に、1cm2当たり10個以上の異物16を有することが、設備コストや原料コストの低下を実現した低コストなガスバリアフィルム10(機能性フィルム)であることを示しており、その上で、高性能なガスバリアフィルムを高い生産性で得ている。
この点に関しては、後に詳述する。
【0037】
支持体Bの表面には、有機層12が形成される。
有機層12は、有機化合物からなる層(有機化合物を主成分とする層(膜))で、基本的に、モノマーおよび/またはオリゴマーを、架橋(重合)して硬化(硬膜)したものである。この有機層12は、後述する、ガスバリア性等の目的とする機能を発現する無機層14を適正に形成するための、下地層として機能する。
【0038】
ここで、本発明において、有機層12は、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上の有機化合物からなる層であり、さらに、厚さが0.05〜3μmで、かつ、膜厚が、支持体Bの表面に付着した前記異物16の少なくとも1つの高さより、小さい。
また、有機層12は、図1に示すように、異物16の表面も含めた支持体Bの表面を、空隙無く覆って(支持体Bの表面を覆う有機層12の空隙(非形成部)が非常に少ない状態で)、形成される。
【0039】
すなわち、本発明のガスバリアフィルム10において、有機層12は、支持体の表面に存在する凹凸を包埋(埋没/埋め込む)して、無機層14の形成面(成膜面)を平坦化するために形成されるものではない。
言い換えれば、本発明において、有機層12は、異物16も含めて支持体Bの表面を全面的に覆って形成される、表面に凹凸を有し、かつ、有機/無機積層型のガスバリアフィルム(機能性フィルム)に形成される有機層として、必要以上の厚さを有さないものである。
この点に関しては、後に詳述する。
【0040】
前述のように、有機層12は、Tgが100℃以上の有機化合物で形成される(Tgが100℃以上の有機化合物を主成分とする)。
【0041】
本発明において、有機層12は、無機層14を適正に形成するための下地層として形成されるものであり、後に詳述するが、主に、無機層14の形成の際に発生するプラズマから、支持体Bおよび異物16を保護するために形成される。
有機層12を形成する有機化合物のTg(以下、単に『有機層12のTg』とも言う)が100℃未満では、無機層14の形成時に、有機層12がプラズマの熱によってエッチングされてしまい、無機層14の形成を阻害してしまう。また、有機層12がエッチングされると、エッチングされた有機層12の有機化合物が、異物として有機層12や無機層14の表面に付着してしまう。
この点を考慮すると、有機層12のTgは、120℃以上が好ましく、特に、150℃以上が好ましい。
【0042】
また、有機層12は、厚さ(膜厚)が0.05〜3μmで、かつ、膜厚が、支持体Bの表面に付着した前記異物16の少なくとも1つの高さ(支持体表面に付着した異物16の有機層12の膜厚方向のサイズ)よりも、小さいものである。
なお、本発明において、有機層12の厚さとは、異物16が存在しない領域における有機層12の厚さである。
有機層12の厚さが0.05μm未満では、異物16を有機層12で覆うことが困難であり、さらに、無機層14の形成時に、有機層12が支持体B等の保護層として十分に機能しない可能性が有る。
逆に、有機層12の厚さが3μm超の場合、および、有機層12の膜厚が全ての異物16の高さよりも厚い場合の、少なくとも一方を満たすと、有機層12が厚すぎ、十分なガスバリアフィルム10のフレキシビリティが得られず、さらに、有機層12のクラックや、ガスバリアフィルム10のカールの発生等の問題が生じる。
以上の点を考慮すると、有機層12の厚さは、0.1〜2.5μmが好ましく、特に、0.5〜2μmが好ましい。
【0043】
また、前述のように、本発明のガスバリアフィルム10は、支持体Bの表面に1cm2当たり10個以上の異物16を有する。本発明のガスバリアフィルム10において、有機層12は、この異物16を包埋した平坦な表面ではなく、異物16に起因する凹凸を表面に有する。そのため、本発明のガスバリアフィルム10では、好ましくは、有機層12の表面は、1cm2当たりの高低差が300nm以上、特に、500nm以上となる。
前述の支持体表面の異物16と同様、本発明においては、有機層12が、このような表面の高低差を有することが、すなわち、設備コストの低下や原料コストの低下を実現した低コストなガスバリアフィルム10であることを示している。本発明は、このような低コスト化を実現した上で、高性能なガスバリアフィルムを高い生産性で得ている。
【0044】
なお、有機層12の1cm2当たりの表面の高低差とは、支持体表面の1cm2に対応する有機層12の表面(支持体Bに投影した1cm2の有機層12)において、最も支持体Bからの距離が短い位置(通常は異物16の無い部分)と、最も支持体Bからの距離が長い位置(通常は異物16の上)との、距離の差である。
従って、有機層12の表面の1cm2当たりの高低差が300nm以上とは、例えば、有機層12(ガスバリアフィルム10)の表面を1cm2の正方形のマス目状に分割して、全てのマスにおいて、有機層12の表面の高低差(支持体Bから有機層表面までの距離が最も短い位置と最も長い位置との距離差)が300nm以上、ということである。
【0045】
本発明のガスバリアフィルム10において、有機層12の形成材料には、特に、限定はなく、Tgが100℃以上のものであれば、公知の有機化合物(樹脂/高分子化合物)が、各種、利用可能である。
具体的には、ポリエステル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル、アクリロイル化合物、などの熱可塑性樹脂、あるいはポリシロキサン、その他の有機珪素化合物の膜が好適に例示される。
【0046】
中でも、Tgや強度に優れる等の点で、ラジカル重合性化合物および/またはエーテル基を官能基に有するカチオン重合性化合物の重合物から構成された有機層12は、好適である。
中でも特に、上記Tgや強度に加え、屈折率が低い、光学特性に優れる等の点で、アクリレートおよび/またはメタクリレートのモノマーやオリゴマーの重合体を主成分とするアクリル樹脂やメタクリル樹脂は、有機層12として好適に例示される。
その中でも特に、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(DPGDA)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTA)、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート(DPHA)などの、2以上の官能基を有するアクリレートおよび/またはメタクリレートのモノマーやオリゴマーの重合体を主成分とするアクリル樹脂やメタクリル樹脂は、好適に例示される。
【0047】
本発明のガスバリアフィルム10において、有機層12は、0.005〜7重量%の界面活性剤を含有するのが好ましい。すなわち、後述する本発明の製造方法では、有機溶剤を除いた濃度で、0.005〜7重量%となる界面活性剤を含有する塗料を用いて、有機層12を形成するのが好ましい。
この点に関しては、後に詳述する。
【0048】
無機層14は、無機化合物からなる層(無機化合物を主成分とする層(膜))である。ガスバリアフィルム10において、無機層14は、目的とするガスバリア性を、主に発現するものである。すなわち、本発明の機能性フィルムにおいて、無機層は、ガスバリア性、所定帯域波長光の透過や遮蔽などの光学的なフィルタ特等など、目的とする機能を主に発現するものである。
前述のように、本発明によれば、有機層12の上を空隙無く覆って(有機層12の上を、空隙(非形成部)が非常に少ない状態で覆って)、適正に無機層14を形成できる。そのため、無機層14は、無機層14の空隙等に起因する性能劣化が大きい、窒化珪素等のガスバリア性を発現する無機化合物からなる層は、好適である。
【0049】
無機層14としては、ガスバリア性を発現する各種の無機化合物が利用可能である。
具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化インジウムスズ(ITO)などの金属酸化物; 窒化アルミニウムなどの金属窒化物; 炭化アルミニウムなどの金属炭化物; 酸化珪素、酸化窒化珪素、酸炭化珪素、酸化窒化炭化珪素などの珪素酸化物; 窒化珪素、窒化炭化珪素などの珪素窒化物; 炭化珪素等の珪素炭化物; これらの水素化物; これら2種以上の混合物; および、これらの水素含有物等の、無機化合物からなる膜が、好適に例示される。
特に、窒化珪素、酸化珪素、酸窒化珪素、酸化アルミニウムは、優れたガスバリア性を発現できる点で、ガスバリアフィルムには、好適に利用される。
【0050】
なお、本発明をガスバリアフィルム以外の機能性フィルムに利用する場合には、所定波長帯域の光を透過して、それ以外の波長帯域の光を遮蔽するフィルタ特性や、所定の屈折率など、目的とする機能を発現する無機化合物を、適宜、選択して、無機層14として形成すればよい。
また、本発明の機能性フィルムは、無機層14が目的とする機能を主に発現するものに限定はされず、有機層12と無機層14との組み合わせによって、目的とする機能を発現するものであってもよい。
【0051】
本発明において、無機層14の厚さには、特に限定はない。すなわち、無機層14の膜厚は、形成材料に応じて、目的とするガスバリア性(機能)を発現できる厚さを、適宜、決定すればよい。なお、本発明者の検討によれば、無機層14の厚さは、10〜200nmとするのが好ましい。
無機層14の厚さを10nm以上とすることにより、十分なガスバリア性能を安定して発現する無機膜14が形成できる。また、無機層14は、一般的に脆く、厚過ぎると、割れやヒビ、剥がれ等を生じる可能性が有るが、無機層14の厚さを200nm以下とすることにより、割れが発生することを防止できる。
また、このような点を考慮すると、無機層14の厚さは、15〜100nmにするのが好ましく、特に、20〜75nmとするのが好ましい。
【0052】
図2に、本発明の機能性フィルムの製造方法によって、本発明の機能性フィルムを製造する製造装置の一例を、概念的に示す。
この製造装置は、有機層12を形成(成膜)する有機成膜装置30と、無機層を形成する無機成膜装置32とを有する。なお、図2において、(A)は、有機成膜装置30であり、(B)は、無機成膜装置32である。
また、図1(B)や図1(C)に示される層構成のガスバリアフィルム(機能性フィルム)を製造する場合には、中間有機層12mおよび保護有機層24は有機成膜装置30で、中間無機層14mは無機成膜装置32で、それぞれ、形成すればよい。
【0053】
図2に示す有機成膜装置30および無機成膜装置32は、共に、長尺な被成膜材料(ウエブ状の被成膜材料)をロール状に巻回してなる材料ロールから、被成膜材料を送り出し、被成膜材料を長手方向に搬送しつつ成膜を行い、成膜済の被成膜材料を、再度、ロール状に巻回する、いわゆる、ロール・ツー・ロール(Roll to Roll 以下、RtoRとも言う)によって、成膜を行なう装置である。
【0054】
本発明の製造方法においては、好ましい態様として、このようなRtoRを利用することにより、効率のよい機能性フィルムの製造が可能になる。
また、RtoRのように、被成膜材料を所定方向に搬送しつつ、連続で成膜を行う装置(成膜方法)では、被成膜材料の搬送によって成膜時間が制限される。ここで、有機層12で異物16を含む支持体Bの表面を間隙無く覆う本発明においては、後述するように、支持体Bや異物16のエッチングを抑制して、所定時間内に適正な無機層14を形成できる。この点でも、本発明の製造方法では、基板を搬送しつつ無機層14を形成する成膜装置は好適であり、特に、RtoRを利用する無機層12の成膜は、好適に利用される。
【0055】
なお、本発明の製造方法は、長尺な支持体Bを用いてRtoRによってガスバリアフィルム等の機能性フィルムを製造するのに限定はされず、カットシート状の支持体Bを用いて、いわゆる枚葉式(バッチ式)の成膜方法を用いて、機能性フィルムを製造するものであってもよい。
カットシート状の支持体Bを用いた場合でも、有機層12および無機層14、ならびに、最上層の有機層である保護有機層16の形成方法は、基本的に、以下に説明するRtoRによる製造方法と、同様である。
【0056】
図2(A)に示す有機成膜装置30は、長尺な支持体B(被成膜材料)を長手方向に搬送しつつ、有機層12となる塗料を塗布し、乾燥した後、光照射によって塗膜に含まれる有機化合物を架橋して硬化し、有機層12を形成する装置である。
有機成膜装置30は、一例として、塗布手段36と、乾燥手段38と、光照射手段40と、回転軸42と、巻取り軸46と、搬送ローラ対48および50とを有する。
なお、有機成膜装置30は、図示した部材以外にも、搬送ローラ対、支持体Boのガイド部材、各種のセンサなど、長尺な被成膜材料を搬送しつつ塗布による成膜を行なう公知の装置に設けられる各種の部材を有してもよい。
【0057】
有機成膜装置30において、長尺な支持体Bを巻回してなる支持体ロールBRは、回転軸42に装填される。
回転軸42に支持体ロールBRが装填されると、支持体Bは、支持体ロールBRから引き出され、搬送ローラ対48を経て、塗布手段36、乾燥手段38および光照射手段40の下部を通過して、搬送ローラ対50を経て、巻取り軸46に至る、所定の搬送経路を通される(通紙される)。
【0058】
有機成膜装置30では、支持体ロールBRからの支持体Bの送り出しと、巻取り軸46における有機層12を形成した支持体Boの巻き取りとを同期して行なって、長尺な支持体Bを所定の搬送経路で長手方向に搬送しつつ、塗布手段36によって有機層12となる塗料を塗布し、乾燥手段38によって乾燥し、光照射手段40によって硬化することによって、有機層12を形成する。
【0059】
塗布手段36は、支持体Bの表面に、予め調整した、有機層12を形成する塗料を塗布するものである。また、乾燥手段38は、塗布手段36が塗布した有機層12を形成する塗料を、乾燥するものである。
ここで、本発明の製造方法においては、有機層12を形成する塗料は、架橋して重合することによってTgが100℃以上の有機層12(有機層12を形成する有機化合物)となる有機化合物と、有機溶剤とを含有する。塗布手段36は、このような塗料を、5cc/m2以上の塗布量で、前述のように、硬化後(架橋後)の有機層12の厚さが0.05〜3μmとなるように、塗布するものである。なお、ガスバリアフィルム10において、有機層12の膜厚は、前述のように、0.05〜3μmで、かつ、支持体Bの表面に存在する異物の少なくとも1つの高さよりも薄い。また、好ましくは、有機層12は、その表面の1cm2当たりの高低差が300nm以上である。
乾燥手段38は、塗布手段36が塗布した有機層12を形成する塗料を、減率乾燥状態において、粘度が20cP以上で、かつ、表面張力が34dyn/cm以下となるように乾燥するものである。
【0060】
本発明は、このような構成を有することにより、一般的なプラスチックフィルム等を支持体Bとして用い、かつ、支持体表面のクリーニング(異物除去)等を不要にし、さらに、雰囲気の清浄化を行わない通常の環境下で支持体Bの保管や有機層12の形成を行って、さらに、十分な可撓性を有し、カールや有機層12の割れ等が無く、しかも高いガスバリア性能(高い機能)を有する、高性能なガスバリアフィルム10(機能性フィルム)を、低コストかつ高い生産性で得ることを可能にしている。
【0061】
特許文献1や特許文献2に示されるように、プラスチックフィルム等を支持体として、その表面に有機層を形成し、この有機層の上に無機層を形成してなる、従来の有機/無機積層型のガスバリアフィルム(機能性フィルム)が知られている。この有機/無機積層型のガスバリアフィルムにおいて、支持体表面に形成される有機層は、支持体の凹凸や、支持体表面に付着した異物や滑剤等を埋没して、無機層の形成面を平坦化するために設けられている。
すなわち、従来の有機/無機積層型のガスバリアフィルムにおいては、平坦な有機層の表面を無機層の形成面(成膜面)とすることにより、形成面の凹凸等に起因する無機層のヒビ、割れ、剥離等を防止して、有機層の表面全面に、均一な無機層を形成し、これにより、優れたガスバリア性が得られていると考えられている。
【0062】
ところが、前述のように、主に支持体Bとなるプラスチックフィルムの表面には、通常、数μmを超える大きさの異物が多量(少なくとも1cm2当たり10個以上)に付着している。また、支持体Bの保管環境や、有機層12の形成環境でも、異物は付着する。
そのため、このままの状態で有機層の表面を平坦化するためには、支持体表面に付着した数μm超える異物も含めて、支持体表面の凹凸を埋没できる、厚い有機層12を形成する必要が有る。
しかしながら、このような厚い有機層12を形成すると、有機層のクラック、ガスバリアフィルムのカール発生やフレキシビリティの低下等の問題が生じる。加えて、有機層は、UV光や電子線の照射等によって架橋、硬化して作製されるが、厚い有機層では、硬化時に、十分な光や電子線を照射することができず、架橋密度が低くなってしまう。その結果、有機層の耐エッチング性が不十分になり、先と同様に、適正な無機層の形成が出来ない等の問題が生じる。また、ガスバリアフィルムの品質等の点でも、支持体Bの表面に付着する異物は、少ない方が好ましい。
【0063】
そのため、従来の積層型のガスバリアフィルムでは、有機層の形成に先立ち、特許文献3〜5に示されるように、粘着テープ等を用いて支持体の表面のクリーニングを行って、支持体表面の異物を除去した後に、有機層の形成を行っている。
特に、特許文献2に示されるような、水蒸気透過率が1.0×10-3[g/(m2・day)]未満の高いガスバリア性能を有する有機/無機積層型のガスバリアフィルムでは、より高い有機層の表面平滑性を確保するために、有機層を形成する支持体の表面が清浄であることは重要であると考えられていた。
【0064】
ところが、前述のように、高い生産効率が要求される生産設備において、支持体表面に付着する多量の異物16を、インラインで平坦な有機層12が形成可能なレベルまで除去するためには、高性能で高価なクリーニング装置(異物の除去装置)が必要になる。また、クリーニングのために、生産性が低下する可能性も有る。
また、有機層12の形成は、通常、大気圧下での塗布法で行われるため、有機層12の形成装置においても、支持体Bの表面に異物16が付着する。同様に、支持体Bの保管中や輸送中にも、異物16は付着する。このような不都合を解消するためには、クリーンルームなど、支持体Bの管理環境や輸送環境、有機層12の形成装置の設置環境など、各種の環境雰囲気を清浄化する手段が必要になり、やはり、設備コストやランニングこすとが高くなってしまう。
表面が高度に清浄化されたプラスチックフィルム等が有れば、これを支持体Bとして用いることで、クリーニングが不要になる可能性も有る。しかしながら、このようなプラスチックフィルム等は、当然、高価であり、原料コストが大幅に向上してしまう。しかも、このような支持体Bを用いた場合でも、有機層12の形成装置などの環境雰囲気の清浄化手段は、必要である。
【0065】
以上のように、生産性や低コスト化を強く要求される実際の生産設備において、表面の異物16が極めて少ない支持体Bに有機層12を形成して、表面が平坦な有機層12を得るのは、コスト等を考慮すれば、多くの困難を伴う。特に、図示例のRtoRを利用する有機成膜装置30のように、より生産性が高い生産設備では、異物16が極めて少ない支持体Bを用いて、表面が平坦な有機層12を形成するのは、より困難になる。
すなわち、大量生産を行う生産設備において高性能なガスバリアフィルムを製造するためには、設備コスト、原料コスト、ランニングコスト等の生産コスト面や、生産性等も踏まえて、一般的なプラスチックフィルムを支持体Bとして用い、かつ、支持体表面のクリーニングを行わず、かつ、環境雰囲気の清浄化を行わない通常の環境で有機層12を形成し、その上で、高いガスバリア性を実現する必要が有る。
【0066】
ここで、本発明者の検討によれば、被成膜面における凹凸は、無機層12を形成するために被成膜面に着膜する無機化合物に比して、非常に大きい。すなわち、着膜する無機化合物にとっては、均一な成膜のために平坦である必要が有るのは、自身の大きさに応じた着膜部分であり、従って、被成膜面の凹凸は、着膜する無機化合物にとって問題にはならないほど大きい。
そのため、有機層12の表面に凹凸が有っても、着膜する無機化合物にとっては、平坦面に着膜して無機層14を形成しているのと同じであり、支持体表面の全ての凹凸を埋没して、有機層12の表面を平坦化する必要は、無い。
すなわち、本発明者の検討によれば、有機/無機積層型のガスバリアフィルムにおいて、優れたガスバリア性を得るためには、必ずしも、有機層12の表面すなわち無機層14の形成面を平坦化する必要はなく、最も重要なのは、非形成部や割れ等の空隙の無い無機層14を形成することである。
【0067】
また、本発明者の検討によれば、この空隙の発生メカニズムは、支持体表面における有機層12で覆われていない部分が、無機層14を形成する際のプラズマによってエッチングされて消失すること、および、このエッチングの発生中は、無機層14となる無機化合物が適正に被成膜面に着膜できず、この部分が無機層14の空隙(孔)となってしまうことにある。
特に、支持体Bの表面に付着している異物の大半は、支持体形成時の残存オリゴマーや、空気中に浮遊するパーティクルの帯電付着物等であり、熱に耐する耐性が低い。そのため、異物16の表面が有機層12に覆われずに露出していると、異物16がエッチングされてしまい、このエッチングによって、この部分に無機層14が形成されずに、空隙となってしまう。
【0068】
また、有機層のTgが低い場合にも、軟性の高い有機層と同様、無機層の形成時にプラズマによる有機層のエッチングが発生し、同様に、無機層が適正に形成されずに、無機層の空隙が多量に生じてしまう。
【0069】
すなわち、本発明者らは、有機/無機積層型のガスバリアフィルム10において、優れたガスバリア性を得るためには、薄くても良いので、異物16を含む支持体Bの表面を、100℃以上のTgを有する有機層14によって、隙間無く、全面的に被覆することが重要で有ることを見出した。言い換えれば、有機層12の表面に異物16に起因する凹凸が有っても、異物16を含む支持体Bの表面を、高Tgの有機層14によって隙間無く全面的に被覆できれば、無機層14を有機層12の表面に空隙無く形成して、優れたガスバリア性が得られることを見出した。
さらに、有機/無機積層型のガスバリアフィルムにおいて、一般的なプラスチックフィルムを支持体Bとして用い、かつ、表面クリーニングを行わず、さらに、有機層12の形成装置の環境雰囲気の清浄化を行わない支持体B、すなわち、表面に異物16を1cm-2当たり10個以上有する支持体Bに、有機層12を形成する際に、支持体Bの表面を空隙無く有機層12で被覆するためには(異物16を含む支持体表面における有機層12の空隙(非形成部)を大幅に低減するためには)、有機層12のTg、有機層12を形成する塗料の塗布量、ならびに、塗布した塗膜の減率乾燥状態における粘度および表面張力が重要であることも見出した。
【0070】
本発明は、上記知見を得ることによって成されたものであり、前述のように、有機溶剤と、Tgが100℃以上の前記有機層12となる有機化合物とを含有する塗料を用い、この塗料を、5cc/m2以上の塗布量で、有機層12の厚さが0.05〜3μmとなるように、支持体Bの表面に塗布し、この塗料を、減率乾燥状態において粘度が20cP以上で表面張力が34dyn/cm以下となるように乾燥した後、前記有機化合物を硬化(架橋/重合)させて有機層12を形成する。
【0071】
本発明は、このような構成を有することにより、一般的なプラスチックフィルム等を支持体Bとして用い、支持体Bのクリーニングを行わず、かつ、通常の保管環境下や有機層12の形成環境下において、塗布法によって有機層12を形成して、異物16を含んで支持体Bの表面全面を不要に厚くない有機層12によって空隙無く覆って、高性能なガスバリアフィルムを得ることができる。
また、塗布法で有機層を形成するので、高い生産性が得られる。しかも、クリーニング等を行うことに起因する生産性の低下も無い。
【0072】
前述のように、有機層12は、塗料を用いて形成される。
この有機層12となる塗料は、架橋して重合することによってTgが100℃以上の有機層12となる有機化合物(モノマー/オリゴマー)と、有機溶剤とを含有する。
【0073】
架橋して重合することによってTgが100℃以上の有機層12となる有機化合物としては、このような有機層12(Tgが100℃以上の有機化合物)を形成できる公知のものが各種、利用可能である。
中でも、前記有機層12の形成材料の説明で述べたように、ラジカル重合性化合物および/またはエーテル基を官能基に有するカチオン重合性化合物は、好適であり、中でも特にアクリレートおよび/またはメタクリレートのモノマーやオリゴマーは、好適であり、その中でも特に、2以上の官能基を有するアクリレートおよび/またはメタクリレートのモノマーやオリゴマーは、好適に例示される。
なお、有機層12のTgに関しては、先に述べたとおりである。
【0074】
有機層12を形成する塗料には、必要に応じて、界面活性剤、シランカップリング剤、および、光重合開始剤等、有機層12を形成する際に用いられる各種の添加剤を、適宜、添加してもよい。
【0075】
ここで、有機層12を形成する塗料は、有機溶剤を除いた濃度(有機溶剤を除いた成分の合計を100重量%とした場合の濃度)で0.005〜7重量%の界面活性剤を含有するのが好ましい。
界面活性剤を0.005重量%以上含有することにより、減率乾燥状態における塗料の表面張力を、より適正に制御することができ、より確実に間隙無く支持体表面を有機層12で覆うことができる、等の点で好ましい。
また、界面活性剤の含有量を7重量%以下とすることにより、塗料の相分離を好適に抑制できる、主モノマーの比率を下げることが可能となり、これによりエッチング耐性に影響を及ぼす可能性を低減できる、等の点で好ましい。
以上の点を考慮すると、塗料中の界面活性剤の含有量は、0.05〜3重量%が好ましい。
【0076】
有機層12を形成する塗料は、このような有機層12となる有機化合物、界面活性剤等の必要に応じて添加される各種の添加剤等を、公知の方法で有機溶剤に溶解(分散)して、公知の方法で調製すればよい。
塗料の調製に用いる有機溶剤には、特に限定はなく、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、イソプロピルアルコール、アセトン等、有機/無機積層型の機能性フィルムにおける有機層の形成に用いられている有機溶剤が、各種、利用可能である。ここで、後に詳述するが、塗料は、5cc/m2以上の塗布量で、目的とする厚さの有機層12を得られるように、固形分濃度等を調整して、調製される。
【0077】
また、異物16の表面を含んで支持体Bの表面を有機層12で空隙なく被覆するためには、非塗布部が生じないように支持体Bに塗料を塗布する必要がある。すなわち、支持体Bの表面(成膜領域)を、隙間無く、塗料に浸す必要がある。また、塗布液での固形分濃度が高すぎると、粘度が高くなり、スジ故障を引き起こし、その結果、有機層の欠落を起こし易くなる。
この点を考慮すると、支持体Bに塗布する塗料の粘度は、0.8〜10cPであるのが好ましく、特に、1〜7cPであるのが好ましい。従って、これを満たすように、塗料の固形分濃度等を調整するのが好ましい。
【0078】
前述のように、有機成膜装置30においては、長尺な支持体Bを長手方向に搬送しつつ、塗布手段36によって支持体Bの表面に前記塗料を塗布し、乾燥手段38によって塗料を乾燥し、光照射手段40によって硬化することによって、有機層12を形成する。
【0079】
塗布手段36は、5cc/m2以上の塗布量で、硬化後の有機層12の厚さが0.05〜3μmとなるように、前記塗料を塗布する。また、有機層12の膜厚は、少なくとも1つの異物の高さよりも薄い。
塗料の塗布量が5cc/m2未満では、例えば塗料の塗布をダイコート法で行う際に、ダイコーターにおけるダイと支持体間クリアランスである、リップクリアランスが50μm以下となり、異物に対して液を被せるという行為自体が困難になる、等の不都合が生じ、異物16を含む支持体Bの表面全面を塗膜で覆うことができなくなってしまう。
この点を考慮すると、塗料の塗布量は、7cc/m2以上が好ましい。
なお、形成する有機層12の厚さ、すなわち硬化後の有機層12の厚さに関しては、先に述べた通りである。
【0080】
塗布手段36において、支持体Bへの塗料の塗布方法には、特に限定は無い。
従って、塗料の塗布は、ダイコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法等の公知の塗料の塗布方法が、全て利用可能である。
中でも、非接触で塗料を塗布できるので支持体Bを損傷しない、ビード(液溜まり)の形成により異物の大きさ以上の液体を支持体上に載せることのできるという観点から前記異物の16の包埋性に優れる、等の理由で、ダイコート法は、好適に利用される。
【0081】
前述のように、支持体Bは、次いで、乾燥手段38に搬送され、塗布手段36が塗布した塗料を乾燥される。
前述のように、異物16の表面を含んで、支持体Bの表面を隙間なく覆う有機層12を形成するためには、減率乾燥状態における塗料の粘度および表面張力が重要である。乾燥手段38は、減率乾燥状態において、粘度が20cP以上で、かつ、表面張力が34dyn/cm以下となるように、有機層12となる塗料を乾燥する。
【0082】
減率乾燥状態における塗料の粘度が20cP未満では、乾燥状態になる前に塗料が移動することによる異物16の突出等で有機層12に隙間(支持体表面に有機層12の非形成部)ができてしまう、等の不都合を生じる。特に、異物16の上は、有機層12となる塗膜の厚さが、異物16の無い正常部よりも異物分だけ薄くなるので、塗料の動き易さが、より顕著になり、減率乾燥状態における粘度が20cP未満では、有機層12の隙間が生じ易い。
以上の点を考慮すると、減率乾燥状態における塗料の粘度は、50cP以上が好ましく、特に、100cP以上が好ましい。
なお、減率乾燥状態における塗料の粘度の上限には、特に限定はなく、溶剤での希釈によって塗布性が確保できる粘度であればよい。ここで、この塗布性を考慮すると、減率乾燥状態における塗料の粘度は、10000cP以下であるのが好ましい。
【0083】
また、減率乾燥状態における塗料の表面張力が34dyn/cmを超えると、支持体Bとの表面張力差によって、同様に乾燥状態となる前に塗料が移動して、異物16の突出等で有機層12に隙間ができてしまう、等の不都合を生じる。この点に関しても、先と同様、異物16の上は、有機層12となる塗膜の厚さが、異物16の無い正常部よりも異物分だけ薄くなるので、塗料の動き易さが、より顕著になり、減率乾燥状態における表面張力が34dyn/cmを超えると、有機層12の隙間が生じ易い。
以上の点を考慮すると、減率乾燥状態における塗料の表面張力は、30dyn/cm以下が好ましく、特に、28dyn/cm以下が好ましい。
減率乾燥状態における塗料の表面張力にも、特に限定はなく、粘度と同様、塗布時における塗布性が確保できる表面張力であればよい。ここで、この塗布性を考慮すると、減率乾燥状態における表面張力は、23dyn/cm以上であるのが好ましい。
【0084】
塗料の乾燥方法には、特に限定はなく、ヒータによる加熱乾燥、温風による加熱乾燥等、支持体Bの搬送速度等に応じて、支持体Bが光照射手段40に至る前に、塗料を乾燥(有機溶剤を除去)して、架橋が可能な状態にできるものであれば、公知の乾燥手段が全て利用可能である。
ここで、減率乾燥状態における塗膜の粘度および表面張力は、塗料の組成のみならず、乾燥温度等の乾燥条件によっても変動する。そのため、乾燥手段38は、塗料の組成、支持体Bの搬送速度や塗布量等に応じて、減率乾燥状態における塗料(塗膜)の粘度および表面張力が上記条件を満たすように、乾燥温度等の乾燥条件を調整(設定)する。
【0085】
支持体Bは、次いで、光照射手段40に搬送される。光照射手段40は、塗布手段36が塗布し乾燥手段38が乾燥した塗料に紫外線(UV光)や可視光などを照射して、塗料に含まれる有機化合物(有機化合物のモノマーやオリゴマー)を架橋(重合)して硬化し、有機層12とするものである。
ここで、光照射手段40による塗膜の硬化時には、必要に応じて、支持体Bにおける光照射手段40による光照射領域を、窒素置換等による不活性雰囲気(無酸素雰囲気)とするようにしてもよい。また、必要に応じて、裏面に当接するバックアップローラ等を用いて、硬化時に支持体Bすなわち塗膜の温度を調整するようにしてもよい。
【0086】
なお、本発明において、有機化合物の架橋は、光重合に限定はされず、加熱重合、電子ビーム重合、プラズマ重合等、有機層12となる有機化合物に応じた、各種の方法が利用可能である。
ここで、本発明においては、前述のように、有機層12としてアクリル樹脂やメタクリル樹脂などのアクリル系樹脂が好適に利用されるので、光重合が好適に利用される。
【0087】
このようにして有機層12を形成された支持体B(以下、有機層12を形成された支持体Bを、『支持体Bo』とする)は、搬送ローラ対50に挟持搬送されて巻取り軸46に至り、巻取り軸46によって、再度、ロール状に巻き取られ、支持体Boを巻回してなる支持体ロールBoRとされる。
この支持体ロールBoRは、図2(B)に示す無機成膜装置32(その供給室56)に供給される。
【0088】
無機成膜装置32は、有機層12の表面に、プラズマの生成を伴う気相堆積法によって無機層14を成膜(形成)するもので、供給室56と、成膜室58と、巻取り室60とを有する。
なお、無機成膜装置32は、図示した部材以外にも、搬送ローラ対や、支持体Boの幅方向の位置を規制するガイド部材、各種のセンサなど、長尺な被成膜材料を搬送しつつ気相堆積法による成膜を行なう公知の装置に設けられる各種の部材を有してもよい。
【0089】
供給室56は、回転軸64と、ガイドローラ68と、真空排気手段70とを有する。
無機成膜装置32において、支持体Boを巻回した支持体ロールBoRは、供給室56の回転軸64に装填される。
回転軸64に支持体ロールBoRが装填されると、支持体Boは、供給室56から、成膜室58を通り、巻取り室60の巻取り軸58に至る所定の搬送経路を通される(通紙される)。無機成膜装置32においても、支持体ロールBoRからの支持体Boの送り出しと、巻取り軸58での無機層成膜済の支持体Bo(すなわちガスバリアフィルム10)の巻き取りとを同期して行なって、支持体Boを長手方向に搬送しつつ、成膜室58において、支持体Boに連続的に無機層14の成膜を行なう。
【0090】
供給室56においては、図示しない駆動源によって回転軸64を図中時計方向に回転して、支持体ロールBoRから支持体Boを送り出し、ガイドローラ68によって所定の経路を案内して、隔壁72に形成されたスリット72aから、成膜室58に送る。
【0091】
なお、図示例の無機成膜装置32には、好ましい態様として、供給室56に真空排気手段74を、巻取り室60に真空排気手段76を、それぞれ設けている。無機成膜装置32においては、成膜中は、それぞれの真空排気手段によって、供給室56および巻取り室60の圧力を、後述する成膜室58の圧力(成膜圧力)に応じた、所定の圧力に保つ。これにより、隣接する室の圧力が、成膜室58の圧力(成膜室58での成膜)に影響を与えることを防止している。
真空排気手段70には、特に限定はなく、ターボポンプ、メカニカルブースターポンプ、ドライポンプ、ロータリーポンプなどの真空ポンプ等、真空での成膜装置に用いられている公知の(真空)排気手段が、各種、利用可能である。この点に関しては、後述する他の真空排気手段74および76も同様である。
【0092】
成膜室58は、支持体Boの表面(すなわち有機層12の表面)に、真空成膜法によって無機層14を形成(成膜)するものである。図示例において、成膜室58は、ドラム80と、成膜手段82と、ガイドローラ84と、ガイドローラ86と、前述の真空排気手段74とを有する。
【0093】
成膜室58に搬送された支持体Boは、ガイドローラ84によって所定の経路に案内され、ドラム80の所定位置に巻き掛けられる。支持体Boは、ドラム80によって所定位置に位置されつつ長手方向に搬送され、成膜手段82によってプラズマの生成を伴う気相成膜法によって、無機層14を形成される。
【0094】
真空排気手段74は、成膜室58内を真空排気して、気相堆積法による無機層14の形成に応じた真空度とするものである。
【0095】
ドラム80は、中心線を中心に図中反時計方向に回転する円筒状の部材である。
供給室56から供給され、ガイドローラ84によって所定の経路に案内され、ドラム80の所定位置に巻き掛けられた支持体Boは、ドラム80の周面の所定領域に掛け回されて、ドラム80に支持/案内されつつ、所定の搬送経路を搬送され、成膜手段82によって表面に無機層14を形成される。
【0096】
成膜手段82は、真空成膜法によって、支持体Bo(有機層12)の表面に無機層14を成膜するものである。
本発明の製造方法において、無機層14の形成方法は、プラズマの生成を伴う気相堆積法(真空成膜法)であれば、プラズマCVDやスパッタリングなど、公知の方法が、各種、利用可能である。
【0097】
従って、成膜手段82は、実施する気相堆積膜法に応じた、各種の部材で構成される。
例えば、成膜室58がICP−CVD法(誘導結合型プラズマCVD)によって無機層14の成膜を行なうものであれば、成膜手段82は、誘導磁場を形成するための誘導コイルや、成膜領域にガスを供給するためのガス供給手段等を有して構成される。
成膜室58が、CCP−CVD法(容量結合型プラズマCVD)によって無機層14の成膜を行なうものであれば、成膜手段82は、中空状でドラム80に対向する面に多数の小孔を有し反応ガスの供給源に連結される、高周波電極およびガス供給手段として作用するシャワー電極、シャワー電極にガスを供給する手段、高周波電源、バイアス電源等を有して構成される。
さらに、成膜室58が、スパッタリングによって無機層14の成膜を行なうものであれば、成膜手段82は、ターゲットの保持手段や高周波電極、ガスの供給手段等を有して構成される。
【0098】
なお、何れの成膜方法であっても、本発明においては、異物16を含んで支持体表面に空隙無く有機層12が形成されているので、無機層14の成膜におけるプラズマによる異物16のエッチング等を大幅に抑制して、有機層12の表面に空隙無く無機層14を形成することができる。
【0099】
ドラム80に支持/搬送されつつ、成膜手段82によって無機層14を成膜された支持体Boすなわちガスバリアフィルム10は、ガイドローラ86によって所定経路に案内されて、隔壁74に形成されたスリット74aから、巻取り室60に搬送される。
【0100】
図示例において、巻取り室60は、ガイドローラ90と、巻取り軸92と、前述の真空排気手段76とを有する。
巻取り室60に搬送されたガスバリアフィルム10は、巻取り軸92によってロール状に巻回され、ガスバリアフィルム10を巻回してなるロールFRとして、次工程に供給される。
【0101】
このようにして作製されたガスバリアフィルム10は、一般的な支持体Bを用い、支持体Bが表面に1cm2当たり10個以上の異物16を有し、かつ、有機層12の表面に異物16に起因する凹凸を有し、さらに、有機層12が必要以上の厚さを有さないものであるが、有機層14が異物16を含む支持体Bの表面を空隙無く覆っている。そのため、ガスバリアフィルム10では、無機層14の空隙が無く(無機層14の空隙が非常に少なく)、これにより、水蒸気透過率が1×10-3[g/(m2・day)]未満の高いガスバリア性能を有するガスバリアフィルムなど、高性能なガスバリアフィルム10が得られる。
また、表面が高度に清浄化された物では無い一般的な支持体Bを用い、また、高度な支持体Bのクリーニングが不要で、さらに、通常の環境化で支持体Bの保管や有機層12の形成を行えるので、このような高性能なガスバリアフィルム10を低コストで、高い生産性で得ることができる。さらに、有機層12が不要に厚く無いので、塗料使用量の低減によるコストダウンや生産性の向上、硬化時間の短時間化による生産性の向上等も図ることができる。
さらに、支持体表面の有機層12が不要に厚く無いので、有機層12の割れおよびこれに起因する機能低下も防止でき、かつ、不要に厚い有機層12に起因する機能性フィルムのフレキシビリティの低下やカール発生等も防止できる。
【0102】
なお、図1(B)に示すように、最上層に保護有機層24を有する機能性フィルム26を作製する場合には、このロールFRを、再度、有機成膜装置30に装填して、公知の方法で保護有機層24を形成すればよい。
また、図1(C)に示すように、中間有機層12mおよび中間無機層14mの組み合わせを1以上有する機能性フィルムを製造する場合には、形成する中間有機層12mおよび中間無機層14mの組み合わせ数(有機層/無機層の繰り返し数)に応じて、順次、有機成膜装置30および無機成膜装置32に対応するロールを装填して、公知の方法で中間有機層12mおよび中間無機層14mを形成し、所定の層数を形成したら、最後に、必要に応じて、有機成膜装置30によって保護有機層24を形成すればよい。
【0103】
以上、本発明の機能性フィルムの製造方法および機能性フィルムについて詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0104】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。
【0105】
[実施例1]
機能性フィルムとして、図1(A)に示すような、支持体Bの表面に有機層12および無機14を有するガスバリアフィルム10を作成した。
【0106】
支持体Bは、幅が1000mmで厚さが100μmの長尺なPETフィルム(ポリエチレンテレフタレート)を用いた。
なお、SEM(走査型電子顕微鏡)によって確認したところ、支持体Bの表面には、1cm2当たりに、高さが3μm以上の異物16が10個以上、付着していた。
【0107】
一方で、様々な膜厚の有機層12を、様々な塗料の塗布量で形成するように、塗料を調製した。
なお、有機層12の膜厚としては、0.03μm(比較例)、0.05μm(発明例)、0.5μm(発明例)、1μm(発明例)、3μm(発明例)、および、5μm(比較例)の6種の膜厚を設定した。
他方、塗料の塗布量としては、1cc/m2(比較例)、3cc/m2(比較例)、5cc/m2(発明例)、10cc/m2(発明例)、20cc/m2(発明例)、30cc/m2(発明例)の6種の塗布量を設定した。
有機化合物は、TMPTA(ダイセル・サイテック社製)を用いた。有機溶剤は、MEKを用いた。また、塗料には、有機溶剤を除いた濃度で、重量2%の光重合開始剤(チバケミカルズ社製 Irg184)および重量1%の界面活性剤(ビックケミージャパン社製 BYK378)を添加した(すなわち、有機化合物は97重量%)。
【0108】
有機層12の膜厚と、塗料の塗布量と、塗料の固形分濃度との関係を、下記表1−1に示す。
【表1】

【0109】
支持体Bを巻回してなる支持体ロールBRを、図2(A)に示す有機成膜装置30の回転軸42に装填して、支持体Bの表面に、調製した塗料を塗布/乾燥し、紫外線照射によって架橋/硬化して、有機層12を形成した支持体Bを巻回してなる支持体ロールBoRを得た。
塗布手段36は、ダイコータを用い、使用する塗料と設定した膜厚との組み合わせに応じて、設定した塗布量となるように塗布を制御した。
乾燥手段38は、温風を用い、塗料の塗布量と塗料中の固形分濃度とに応じて、適正な乾燥が行えるように、温風の温度を制御した。
さらに、光照射手段40は、紫外線照射装置を用い、設定した膜厚に応じて、有機層12が適正に硬化するように光量を制御した。
【0110】
乾燥手段38において、サンプリングを行って、減圧乾燥状態における塗膜の粘度をSV型粘度計によって、表面張力を表面張力計(共和界面科学社製 DY300)によって、それぞれ測定したところ、いずれの例も、粘度は90cP以上、表面張力は29dyn/cm以下であった。
さらに、形成した有機層12のTgを動的粘弾性測定装置(DMA)によって測定したところ、いずれの例も、250℃以上であった。
さらに、形成した有機層12の表面の高低差をAFMによって100μm角を100枚で測定したところ、いずれの例も、1cm2当たりの有機層12の表面の高低差が300nm以上であった。
【0111】
次いで、支持体ロールBoRを図2(B)に示す無機成膜装置32に装填して、有機層12を成膜した支持体Boの表面に、CCP−CVDによって、無機層14として膜厚50nmの窒化珪素膜を形成し、無機層14を形成したガスバリアフィルム10を巻回してなる、ロールFRを作製した。
【0112】
成膜手段82は、ドラム80に対面して配置されるシャワー電極と、シャワー電極にプラズマ励起電力を供給する高周波電源と、ドラム80にバイアス電力を供給するバイアス電源と、シャワー電極に原料ガスを供給する供給手段とで構成した。さらに、ドラム80はステンレス製として、シャワー電極の対向電極として作用させた。
【0113】
成膜ガスは、シランガス(SiH4)、アンモニアガス(NH3)、窒素ガス(N2)および水素ガス(H2)を用いた。供給量は、シランガスが100sccm、アンモニアガスが200sccm、窒素ガスが500sccm、水素ガスが500sccmとした。また、成膜圧力は50Paとした。
シャワー成膜電極には、高周波電源から、周波数13.5MHzで3000Wのプラズマ励起電力を供給した。さらに、ドラム80には、バイアス電源から、500Wのバイアス電力を供給した。また、成膜中は、ドラム80の温度を−20℃に調整した。
【0114】
作製したガスバリアフィルムの水蒸気透過率(バリア性)[g/(m2・day)]を、カルシウム腐食法(特開2005−283561号公報に記載される方法)によって、測定した。
また、水蒸気透過率が、1.0×10-4[g/(m2・day)]未満の場合を◎;
1.0×10-4[g/(m2・day)]以上、2.0×10-4[g/(m2・day)]未満の場合を○;
2.0×10-4[g/(m2・day)]以上、1.0×10-3[g/(m2・day)]未満の場合を△;
1.0×10-3[g/(m2・day)]以上の場合を×; と、評価した。
以上の結果を、下記表1−2および表1−3に示す。
【0115】
【表2】

【0116】
本発明は、有機層12の膜厚が0.05〜3μm、および塗料の塗布量が5cc/m2以上の両者を満たすものである。すなわち、本発明の発明例は、表中の太枠で囲んだ領域である。
上記表に示されるように、本発明によるガスバリアフィルムは、いずれも、評価が△以上であり、水蒸気透過率が1.0×10-3[g/(m2・day)]未満の優れたガスバリア性能を有している。
【0117】
これに対し、有機層の膜厚が0.05μm未満の例では、有機層12が異物16の表面を適正に覆うことができず、無機層14の形成時に、この部分でプラズマによる異物16のエッチング等が生じて無機層14が適正に形成できず、十分なガスバリア性能が得られなかったと考えられる。また、有機層の膜厚が3μmを超えた例では、有機層12の形成後、ロール状に巻回した際に、有機層12にクラック等の欠陥が発生し、無機層14の形成時に、この有機層12の欠陥部で異物16や支持体Bのエッチングが生じて無機層14が適正に形成できず、十分なガスバリア性能が得られなかったと考えられる。
さらに、塗料の塗布量が5cc/m2未満の例では、有機層12が異物16の表面を適正に覆うことができず、無機層14の形成時に、この部分でプラズマによる異物16のエッチング等が生じて無機層14が適正に形成できず、十分なガスバリア性能が得られなかったと考えられる。
【0118】
[実施例2]
支持体Bとして、実施例1と同じPETフィルム(ポリエチレンテレフタレート)を用いた。実施例1と同様に確認したところ、支持体Bの表面には、1cm2当たり、高さが3μm以上の異物16が10個以上、付着していた。
【0119】
一方、有機化合物として、TMPTAとA−NOD−N(新中村化学工業社製)とを用い、塗料を調製した。有機溶剤は、MEKを用いた。また、塗料には、実施例1と同様に、有機溶剤を除いた濃度で、含有量で光重合開始剤を2重量%、界面活性剤を1重量%、それぞれ添加した。なお、光重合開始剤および界面活性剤は、実施例1と同じ物を用いた
なお、塗料は、TMPTAとA−NOD−Nとの量比(有機溶剤を除いた重量%)を変更して、TMPTA/A−NOD−N=97/0; TMPTA/A−NOD−N=92/5; TMPTA/A−NOD−N=82/15; TMPTA/A−NOD−N=62/35; TMPTA/A−NOD−N=52/45; および、TMPTA/A−NOD−N=42/55; の計6種を調製した。
また、各塗料は、固形分濃度を5重量%とした。これにより、塗布量を10cc/m2とした際における有機層12の膜厚は、0.5μmとなる。
【0120】
このようにして調製した塗料を用い、実施例1と同様にして、支持体Bに有機層12および無機層14を形成して、ガスバリアフィルム10を6種類、作製した。
なお、有機成膜装置30において、塗布手段36での塗料の塗布量は10cc/m2に設定した。すなわち、本実施例における有機層12の膜厚は、0.5μmである。
また、有機成膜装置30において、乾燥手段38および光照射手段40は、塗料の固形分濃度および塗布量に応じて、適正な乾燥および硬化が行える固定条件とした。
【0121】
実施例1と同様に減圧乾燥状態における塗膜の粘度および表面張力を測定したところ、いずれの例も、粘度は90cP以上、表面張力は29dyn/cm以下であった。
また、実施例1と同様に有機層12のTgを測定したところ、それぞれ、TMPTA/A−NOD−Nが97/0である物は250℃以上(発明例2−1); 同92/5である物は250℃(発明例2−2); 同82/15である物は200℃(発明例2−3); 同62/35である物は120℃(発明例2−4); 同52/45である物は100℃(発明例2−5); さらに、同42/55である物は75℃(比較例2−1); であった。
さらに、形成した有機層12の表面の高低差を実施例1と同様に測定したところ、いずれの有機層12も、1cm2当たりの表面の高低差が300nm以上であった。
【0122】
作製したガスバリアフィルムについて、実施例1と同様に水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定し、また、同様に評価した。
結果を下記表に示す。
【表3】

【0123】
上記表に示されるように、有機層12のTgが100℃以上である本発明によるガスバリアフィルムは、いずれも、水蒸気透過率が1.0×10-3[g/(m2・day)]未満の優れたガスバリア性能を有している。
これに対し、有機層12のTgが100℃未満である比較例2−1のガスバリアフィルムでは、無機層14の形成時に有機層12がプラズマによってエッチングされ、これに起因して無機層14が形成できなかった為に、十分なガスバリア性能が得られなかったと考えられる。
【0124】
[実施例3]
支持体Bとして、実施例1と同じPETフィルム(ポリエチレンテレフタレート)を用いた。実施例1と同様に確認したところ、支持体Bの表面には、1cm2当たり、高さが3μm以上の異物16が10個以上、付着していた。
【0125】
一方、有機層12となる塗料として、有機溶剤としてMEKを用い、有機溶剤を除いた含有量で、TMPTAを97重量%、光重合開始剤を2重量%、界面活性剤を1重量%、それぞれ添加した塗料を調製した(前記発明例2−1と同)。なお、光重合開始剤および界面活性剤は、実施例1と同じ物を用いた。
また、実施例2と同様、塗料は、固形分濃度を5重量%とした。これにより、塗布量を10cc/m2とした際における有機層12の膜厚は、0.5μmとなる。
【0126】
このようにして調製した塗料を用い、乾燥手段38における乾燥温度を、それぞれ30℃; 80℃; 120℃; 140℃; に、それぞれ変更した以外は、実施例2と同様にして、支持体Bに有機層12および無機層14を形成して、各乾燥温度での4種類のガスバリアフィルム10を作製した。
【0127】
また、実施例1と同様にして、減圧乾燥状態における塗膜の粘度および表面張力を測定した。
その結果、表面張力は、いずれの例も29dyn/cm以下であった。
一方、粘度は、乾燥温度30℃の物が80cP(実施例3−1); 乾燥温度80℃の例が50cP(実施例3−2); 乾燥温度120℃の物が20cP(実施例3−3); 乾燥温度140℃の物が10cP(比較例3−1); であった。
また、実施例1と同様に形成した有機層12のTgを測定したところ、全ての有機層12で250℃以上であった。
さらに、形成した有機層12の表面の高低差を実施例1と同様に測定したところ、いずれの有機層12も、1cm2当たりの表面の高低差が300nm以上であった。
【0128】
作製したガスバリアフィルムについて、実施例1と同様に水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定し、また、同様に評価した。
結果を下記表に示す。
【0129】
【表4】

【0130】
上記表に示されるように、減率乾燥状態における塗膜の粘度が20cP以上である本発明によるガスバリアフィルムは、いずれも、水蒸気透過率が1.0×10-3[g/(m2・day)]未満の優れたガスバリア性能を有している。
これに対し、減率乾燥状態における塗膜の粘度が20cp未満である比較例3−1は、有機層12が異物16の表面を適正に覆うことができず、無機層14の形成時に、この部分でプラズマによるエッチング等が生じて無機層14が適正に形成できず、十分なガスバリア性能が得られなかったと考えられる。
【0131】
[実施例4]
支持体Bとして、実施例1と同じPETフィルム(ポリエチレンテレフタレート)を用いた。実施例1と同様に確認したところ、支持体Bの表面には、1cm2当たり、高さが3μm以上の異物16が10個以上、付着していた。
【0132】
一方、界面活性剤の添加量(有機溶剤を除いた含有量)を、8重量%; 7重量%; 1重量%; 0.5重量%; 0.25重量%; 0.1重量%; 0.005重量%; 0重量%; に変更した以外は、実施例2と同様にして、8種の塗料を調製した。
なお、各塗料は、界面活性剤の含有量が1重量%である発明例4−2を基準として、全ての例で光重合開始剤の含有量が2重量%となるように、界面活性剤の添加量に応じて有機化合物(TMPTA)の含有量を調整した。
また、実施例2と同様、各塗料は、固形分濃度を5重量%とした。これにより、塗布量を10cc/m2とした際における有機層12の膜厚は、0.5μmとなる。
【0133】
このようにして調製した塗料を用い、実施例2と同様にして、支持体Bに有機層12および無機層14を形成して、4種類のガスバリアフィルム10を作製した。
【0134】
また、実施例1と同様に、減圧乾燥状態における塗膜の粘度および表面張力を測定した。その結果、粘度は、いずれの例も、90cP以上であった。
一方、表面張力は、界面活性剤の含有量が8重量%の物は27dyn/cm(発明例4−1); 同7重量%の物が28dyn/cm(発明例4−2); 同1重量%の物が29dyn/cm(発明例4−3); 同0.5重量%の物が30dyn/cm(発明例4−4); 同0.25重量%の物が31dyn/cm(発明例4−5); 同0.1重量%の物が32dyn/cm(発明例4−6); 同0.005重量%の物が34dyn/cm(発明例4−7); 同0重量%(無添加)の物が37dyn/cm(比較例4−1); であった。
また、実施例1と同様に形成した有機層12のTgを測定したところ、全ての有機層12で250℃以上であった。
さらに、形成した有機層12の表面の高低差を実施例1と同様に測定したところ、いずれの有機層12も、1cm2当たりの表面の高低差が300nm以上であった。
【0135】
作製した各ガスバリアフィルムについて、実施例1と同様に水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定し、また、同様に評価した。
結果を下記表に示す。
【0136】
【表5】

【0137】
上記表に示されるように、減率乾燥状態における塗膜の表面張力が34dyn/cm以下である本発明によるガスバリアフィルムは、いずれも、水蒸気透過率が1.0×10-3[g/(m2・day)]未満の優れたガスバリア性能を有している。
これに対し、減率乾燥状態における塗膜の表面張力が34dyn/cm超である比較例4−2は、有機層12が異物16の表面を適正に覆うことができず、無機層14の形成時に、この部分でプラズマによるエッチング等が生じて無機層14が適正に形成できず、十分なガスバリア性能が得られなかったと考えられる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0138】
太陽電池や有機ELディスプレイ等に用いられるガスバリアフィルム、および、その製造に、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0139】
10 ガスバリアフィルム
12 有機層
14 無機層
16 異物
20,26 機能性フィルム
24 保護有機層
30 有機成膜装
32 無機成膜装置
36 塗布手段
38 乾燥手段
40 光照射手段
42,64 回転軸
46,92 巻取り軸
48,50 搬送ローラ対
56 供給室
58 成膜室
60 巻取り室
68,84,86,90 ガイドローラ
70,58,76 真空排気手段
72,74 隔壁
80 ドラム
82 成膜手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の上に有機層を有し、この有機層の上に無機層を有する機能性フィルムを製造するに際し、
ガラス転移温度が100℃以上の前記有機層となる有機化合物と有機溶剤とを含有する塗料を調整し、
この塗料を、5cc/m2以上の塗布量で、前記有機層の厚さが0.05〜3μmとなるように、前記支持体の表面に塗布し、
前記支持体の表面に塗布した塗料を、減率乾燥状態において粘度が20cP以上で表面張力が34dyn/cm以下となるように乾燥した後、前記有機化合物を硬化させて有機層を形成し、
形成した前記有機層の表面に、プラズマの生成を伴う気相成膜法によって前記無機層を形成することを特徴とする機能性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記塗料が、前記有機溶剤を除いた濃度で0.005〜7重量%の界面活性剤を含む請求項1に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記支持体への塗料の塗布を、ダイコート法で行う請求項1または2に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記支持体に塗布する塗料の粘度が0.8〜10cPである請求項1〜3のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記有機層を形成した支持体を、所定の方向に搬送しつつ、前記プラズマの生成を伴う気相成膜法によって無機層を形成する請求項1〜4のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項6】
長尺な前記支持体をロール状に巻回してなる支持体ロールから、前記支持体を引き出して、この引き出した支持体を長手方向に搬送しつつ、前記支持体への塗料の塗布、乾燥、および、有機化合物の硬化を行って有機層を形成し、この有機層を形成した支持体を、再度、ロール状に巻回して支持体/有機層ロールとし、
前記支持体/有機層ロールから有機層を形成された支持体を引き出して、この支持体を長手方向に搬送しつつ、前記無機層の形成を行い、この無機層を形成した支持体を、再度、ロール状に巻回する請求項5に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記塗料が含有する有機化合物が、光重合反応によって架橋する(メタ)アクリレート系の有機化合物である請求項1〜6のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記無機層が、窒化珪素、酸化珪素、酸窒化珪素、および、酸化アルミニウムのいずれかで形成される請求項1〜7のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項9】
支持体と、前記支持体の上に形成された有機層と、この有機層の上に形成された無機層とを有する機能性フィルムであって、
前記支持体は、その表面に、1cm2当たり10個以上の異物を有するものであり、
前記有機層は、ガラス転移温度が100℃以上の有機化合物を主成分とするものであり、さらに、膜厚が0.05〜3μmで、かつ、膜厚が前記支持体表面の異物の少なくとも1つの膜厚方向の大きさよりも小さいことを特徴とする機能性フィルム。
【請求項10】
前記有機層が、0.005〜7重量%の界面活性剤を含有する請求項9に記載の機能性フィルム。
【請求項11】
前記有機層が、この有機層となる成分を含有する塗料の塗布によって形成されたものである請求項9または10に記載の機能性フィルム。
【請求項12】
最上層に、保護有機層を有する請求項9〜11のいずれかに記載の機能性フィルム。
【請求項13】
前記無機層の上に、下層の中間有機層と上層の中間無機層との組み合わせを、1以上有する請求項9〜12のいずれかに記載の機能性フィルム。
【請求項14】
前記有機層あるいはさらに中間有機層が、(メタ)アクリレート系の有機化合物を重合反応によって架橋したものである請求項9〜13のいずれかに記載の機能性フィルム。
【請求項15】
前記無機層が、窒化珪素、酸化珪素、酸窒化珪素、および、酸化アルミニウムのいずれかで形成される請求項9〜14のいずれかに記載の機能性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−49019(P2013−49019A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188736(P2011−188736)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】