説明

機能性フィルムの製造方法

【課題】真空中において長尺な基材フィルムを長手方向に搬送しつつ、基材フィルムへの無機膜の成膜、無機膜を保護するための保護フィルムの積層、積層体の巻取りを行う機能性フィルムの製造において、無機膜と保護フィルムとの間に存在する気泡に起因する無機膜の損傷を防止することを目的とする。
【解決手段】保護フィルムの積層に先立ち、無機膜の加熱処理を行うことにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空中において、基材フィルムに成膜を行い、保護フィルムと積層して、この積層体をロール状に巻き取る機能性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に、ガスバリア膜、光反射膜、光反射防止膜、表面保護など、目的とする機能を発現する膜を成膜してなる機能性フィルムが、各種の用途に利用されている。また、このような機能膜としては、各種の無機膜(無機化合物からなる膜)が知られている。
例えば、ガスバリアフィルムであれば、基材フィルム(以下、単に基材とする)に、窒化ケイ素膜や酸化ケイ素膜を成膜してなるガスバリアフィルムが知られている。
【0003】
このような機能性フィルムの製造において、機能を発現するための無機膜は、プラズマCVD、スパッタリング、真空蒸着等の気相成長法によって成膜される。
また、このような無機膜の成膜を連続的に行って、機能性フィルムを、高い生産性や生産効率で製造できる方法として、長尺な基材を、ロール状に巻回してなる基材ロールから送り出し、長手方向に搬送しつつガスバリア膜の成膜等を行って、成膜済みの基材を、再度、ロール状に巻き取る、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll 以下、RtoRともいう)による成膜を行なう装置が知られている。
【0004】
このような機能性フィルムの製造において、搬送ローラ対による搬送や、他の部材との接触等に起因して無機膜が損傷すると、目的とする性能を有する機能性フィルムが製造できなくなってしまう可能性が生じる。
特に、前述のRtoRによる装置では、長尺な基材を搬送するための搬送ローラ対によって、無機膜が損傷する場合が有る。また、RtoRによる装置では、基材の巻回によって、無機膜の表面と基材の裏面とが摺接するので、成膜する無機膜の強度や基材裏面の表面粗度等によっては、無機膜を損傷してしまう場合が有る。
さらに、高品質な製品を製造するためには、無機膜の表面は、なるべく、清浄に保つのが好ましい。
【0005】
そのため、ガスバリアフィルム等の機能性フィルムの製造においては、特許文献1に示されるように、成膜したガスバリア膜などを保護するために、基材に無機膜を成膜した後、成膜した無機膜の表面に保護フィルムを積層/貼着して、無機膜を保護することが行われている。
【0006】
このような保護フィルムを利用する機能性フィルムの製造においては、保護フィルムは、あくまで製造過程における無機膜の保護を目的とするものである。
そのため、この機能性フィルムが最終的な製品となる段階では、保護フィルムは剥離される。あるいは、無機膜を成膜された機能性フィルム(最終製品の中間体)は、保護フィルムを剥離した後に、表面処理や、さらに上層への無機膜の成膜などの次工程での処理に供される。
【0007】
例えば、前記特許文献1に記載されるRtoRの装置では、真空蒸着による成膜を行った後に、基材に保護フィルムを積層して搬送し、基材の巻取り直前に、保護フィルムを剥離して、基材の巻取りを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−185836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、このような機能性フィルムの製造では、保護フィルムを用いない場合には、目的とする性能を有する製品を製造できるにも関わらず、保護フィルムを用い、かつ、巻き取った場合に、目的とする性能を有する製品を製造できない場合が有る。
【0010】
すなわち、基材に無機膜を成膜した後、保護フィルムを積層せず、また、保護フィルムを積層しても巻取りを行わない場合には、無機膜に接触することなく搬送や取り扱いを行えば、何の問題も無く適正な製品が得られる場合も多い。
これに対して、真空中において、全く同様の基材に同じ無機膜を成膜し、保護フィルムを積層し、積層体の巻取りを行うと、無機膜が損傷してしまい、この無機膜の損傷に起因して、機能性フィルムが目的とする性能を発揮できない場合が有る。
【0011】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、真空中において、基材フィルムに目的とする機能を発現する無機膜を成膜して、無機膜を保護するための保護フィルムを積層して、この積層体をロール状に巻き取る機能性フィルムの製造方法において、無機膜の損傷を好適に防止して、目的とする性能を発揮する機能性フィルムを、安定して製造することを可能にする機能性フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の機能性フィルムの製造方法は、真空中において長尺な基材フィルムを長手方向に搬送しつつ、気相成長法によって前記基材フィルムの表面に無機膜を成膜し、前記無機膜を加熱処理した後、保護フィルムを前記無機膜に当接して積層し、この基材フィルムと保護フィルムとの積層体をロール状に巻き取ることを特徴とする機能性フィルムの製造方法を提供することにある。
【0013】
このような本発明の機能性フィルムの製造方法において、前記無機膜を成膜した際の基材フィルムの温度を基準温度として、前記基材フィルムの温度が、この基準温度より5℃低い温度以上となるように、前記加熱処理を行うのが好ましい。
また、前記基材フィルムの最高温度が、この基材フィルムに皺を生じる温度以上にならないように、前記加熱処理を行うのが好ましい。
さらに、前記基材フィルムの温度を、設定した目的温度以上に1秒以上保持するように、前記加熱処理を行うのが好ましい。
【0014】
また、前記基材フィルムと保護フィルムとの積層の前で、かつ、前記加熱処理の後に、前記基材フィルムを冷却するのが好ましい。
また、前記無機膜が、ガスバリア性を有する膜であるのが好ましく、特に、前記ガスバリア性を有する膜が、窒化ケイ素膜、酸化ケイ素膜、酸化アルミニウム膜のいずれかであるのが好ましい。
また、基材フィルムと保護フィルムとの積層体の巻き取りを行う空間の圧力が、前記無機膜の成膜空間の圧力以下であるのが好ましい。
さらに、前記無機膜の加熱処理を、無機膜に接触しない加熱手段によって行うのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
前述のように、本発明の機能性フィルムの製造方法は、真空中において、気相成長法によって基材フィルムに所定の機能を発現する無機膜(無機化合物の膜)を成膜して、この無機膜を保護するための保護フィルムを積層し、この積層体をロール状に巻回する、ロール・ツー・ロールによる機能性フィルムの製造方法において、保護フィルムを無機膜に当接して積層する前に、無機膜を加熱処理する。
【0016】
後に詳述するが、機能性フィルムの製造において、保護フィルムの積層および積層体の巻き取り行う際に、無機膜が損傷する原因は、成膜中に無機膜に混入したガスが、無機膜と保護フィルムとの間で気泡になってしまい、この気泡が、搬送ローラ対による挟持搬送や巻取りによって押圧され、その衝撃や、気泡が押しつぶされた際における不自然な保護フィルムとの当接等によって、無機膜が損傷してしまうことに有る。
これに対して、本発明の製造方法によれば、保護フィルムの積層に先立ち、無機膜を加熱処理することにより、成膜中に無機膜に混入した、無機膜の損傷の原因である気泡となるガスを排出する。
【0017】
従って、本発明によれば、無機膜の損傷が無い所定の性能を発揮する機能性フィルムを、保護フィルムによって無機膜を保護した状態で、かつ、高い生産性を得られるロール・ツー・ロールによって、安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の機能性フィルムの製造方法の一例を利用する成膜装置の一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の機能性フィルムの製造方法について、添付の図面に示される好適例を基に、詳細に説明する。
【0020】
図1に、本発明の機能性フィルムの製造方法の一例を実施する成膜装置の一例の概念図を示す。
図1に示す成膜装置10は、真空中において、基材フィルムZ(以下、基材Zとする)の表面に、目的とする機能を発現する無機膜を成膜し、無機膜を加熱処理した後、無機膜を保護するための保護フィルムGを積層し、この成膜済の基材Zと保護フィルムGとの積層体をロール状に巻き取るものである。
【0021】
成膜装置10は、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll 以下、RtoRともいう)によって、基材Zに成膜を行って機能性フィルム(機能性フィルムの中間製品)を製造する装置で、長尺な基材Z(ウエブ状の基材Z)は、ロール状に巻回されて基材ロール12として成膜装置10に装填される。
成膜装置10においては、真空中において、この基材ロール12から基材Zを引き出して、長手方向に搬送しつつ、基材Zの表面に無機膜を成膜し、加熱処理を行い、保護フィルムGと積層して、この積層体を巻取り軸14によって、ロール状に巻き取る。
【0022】
図示例の成膜装置10は、一例として、真空チャンバ16と、この真空チャンバ16内に形成される、搬送室18および成膜室20とを有する。
また、搬送室18には、基材ロール12が装着される回転軸24と、ガイドローラ26と、ドラム28と、加熱手段30と、保護フィルムGを巻回してなるフィルムロール32が装着される第2回転軸34と、積層ローラ38と、真空排気手段42と、前述の巻取り軸14とが設けられている。
他方、成膜室20には、成膜電極28と、ガス供給手段48と、真空排気手段50と、高周波電源52とが設けられている。また、ドラム28は、その一部が成膜室20に収容される。
【0023】
なお、成膜装置10には、これらの部材以外にも、基材Zの搬送ガイド、各種のセンサ、テンションコントローラなど、真空中において、基材ロールから長尺な基材Zを引き出し、長手方向に搬送しつつ、成膜、保護フィルムの積層、積層体の巻取り等を行う、RtoRによる成膜装置に配置される、各種の部材を有してもよい。
【0024】
本発明の製造方法において、利用可能な基材(基板)Zには、特に限定はなく、真空中での気相成長法による無機膜の成膜が可能なものであれば、各種のシート状物が利用可能である。
具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの有機物からなるプラスチック(樹脂)フィルムや、アルミニウム、ステンレスなどの金属シート状物等が、基材Zとして、好適に利用可能である。
【0025】
また、本発明においては、このようなプラスチックフィルム等を支持体として、その上に、保護層、貼着層、光反射層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層、ガスバリア膜等の、各種の機能を得るための膜(層)が成膜されているものを、基材Zとして用いてもよい。
この際においては、支持体の上に1層のみが成膜されたものを基材Zとして用いてもよく、あるいは、支持体の複数層が成膜されたものを基材Zとして用いてもよい。また、基材Zが、支持体の上に複数層の膜が成膜されたものである場合には、同じ層を複数層有してもよく、例えば、平坦化層とガスバリア膜との組み合わせを複数回繰り返し積層した構成のように、2層以上を組み合わせてなる膜を、複数回、繰り返し積層したものであってもよい。
【0026】
このような基材Zを巻回してなる基材ロール12は、搬送室18に配置される回転軸24に装填され、回転可能に軸支される。基材Zは、基材ロール12から引き出され、長手方向(矢印a方向)に搬送されて、ガイドローラ26によって案内され、ドラム28によって成膜室20に搬送される。
また、後に詳述するが、成膜室20において無機膜を成膜された基材Zは、再度、搬送室18に搬送され、加熱手段30によって無機膜を加熱処理され、保護フィルムGを積層されて、巻取り軸14によって巻き取られる。
【0027】
真空排気手段42は、このような基材ロール12からの基材Zの送り出し、成膜室20への搬送、無機膜の加熱処理、保護フィルムGの積層、基材Zと保護フィルムGとの積層体の巻回を行う、搬送室18を排気して、所定の圧力にするものである。
真空排気手段42には、特に限定はなく、ターボポンプ、メカニカルブースターポンプ、ドライポンプ、ロータリーポンプなどの真空ポンプ、さらには、クライオコイル等の補助手段、到達真空度や排気量の調整手段等を利用する、真空成膜装置に用いられている公知の(真空)排気手段が、各種、利用可能である。この点に関しては、後述する成膜室の真空排気手段50も同様である。
【0028】
搬送室18の圧力には、特に、限定はなく、無機膜を成膜する成膜室20の圧力(成膜圧力)に応じて、適宜、設定すればよい。
また、搬送室18の圧力は、成膜室20よりも低圧力でも、成膜室20と同じ圧力でも、成膜室20よりも高圧力でもよい。
なお、必要に応じて、搬送室18と成膜室20とを圧力的に分離する、差圧を取るための真空排気手段を有する隔室ゾーン(差圧室)を、搬送室18と成膜室20との間に設けてもよい。
【0029】
なお、成膜する無機膜が、ガスバリア膜(ガスバリア性を有する膜)のように、外部から成膜空間への不純物の混入によって性能が低下する可能性を有する場合には、搬送室18から成膜室20へのガス混入を防止するのが好ましい。また、後に詳述するが、成膜室20は、ガスを原料として成膜を行うプラズマCVDによって無機膜を成膜するので、圧力が隣接する空間に比して高くなりがちである。
以上の点を考慮すると、搬送室18の圧力は、成膜室20の圧力以下の圧力とするのが好ましい。また、後に詳述するが、搬送室18の圧力が、成膜室20の圧力以下の場合には、保護フィルムGを用いることに起因する基板Zの損傷が、より生じ易く、すなわち、基材Zの基板Zの損傷を防止するという本発明の効果が、より好適に発現できる等の点でも、好ましい。特に、搬送室18と成膜室20との間に隔室ゾーンを設け、搬送室18の圧力を、成膜室20の圧力の1/10以下とするのが好ましい。
【0030】
前述のように、基材ロール12から引き出された基材Zは、ガイドローラ26によって案内され、ドラム28に搬送される。
ドラム28は、円筒状の部材で、中心線を基材Zの幅方向(基材Zの搬送方向と直交する方向)と一致し、かつ、周面の一部を成膜室20に収容して配置される。
【0031】
このドラム28は、基材Zを所定の領域(巻き掛け角)で巻き掛けて、中心線を中心に回転(図1に示す例では、半時計方向に回転)することにより、基材Zを所定位置に位置しつつ、長手方向に搬送する。
ここで、前述のように、ドラム28は、周面の一部を成膜室20に収容した状態で、配置される。従って、基材Zは、成膜室20内において、ドラム28によって所定の成膜位置に位置されて、長手方向に搬送されつつ、無機膜を成膜される。
【0032】
図示例の成膜装置10において、成膜室20は、一例として、CCP−CVD(Capacitively Coupled Plasma−CVD 容量結合型プラズマCVD)によって無機膜を成膜するもので、ドラム28は、CCP−CVDにおける対向電極としても作用する。すなわち、成膜室20においては、ドラム28と後述する成膜電極28とで、CCP−CVDによる成膜を行う電極対を形成する。
そのため、ドラム28は導電性を有する。また、ドラム28には、バイアス電源を接続してもよく、あるいは、接地してもよい。あるいは、ドラム28と、バイアス電源との接続および接地とが、切り換え可能であってもよい。
【0033】
また、成膜装置10において、ドラム28は、成膜中の基材Zの温度を調節する温度調整手段を有してもよい。
ドラム28の温度調節手段には、特に限定はなく、ドラム内部に冷媒や温媒等を循環する温度調節手段等、各種の温度調節手段が、全て利用可能である。
【0034】
成膜室20は、基材Zの表面に無機膜(無機化合物の膜)を成膜するもので、隔壁54とドラム28とによって、搬送室18と略気密に分離される。
図示例において、成膜室20は、CCP−CVDによって無機膜の成膜を行うものであり、前述のように、成膜電極28と、ガス供給手段48と、真空排気手段50と、高周波電源52とが設けられている。また、成膜装置10では、基材Zを巻き掛けて搬送するドラム28が周面の一部を成膜室20に収容されており、成膜電極28と共にCCP−CVDにおける電極対を構成する。
【0035】
なお、本発明の製造方法において、無機膜の成膜は、CCP−CVDに限定はされず、公知のCVD(化学気相成長法)による成膜が、各種、利用可能である。
すなわち、本発明の製造方法においては、目的とする機能を発現する無機膜が成膜可能なものであれば、ICP(Inductively Coupled Plasma 誘導結合型プラズマ)−CVD、マイクロ波CVD、ECR(Electron Cyclotron Resonance 電子サイクロトン共鳴)−CVD等、各種のプラズマCVDが利用可能である。
また、CCP−CVDによる成膜も、図示例の成膜室20の構成に限定はされず、反応ガスの供給孔を有さない成膜電極と、電極対の間に反応ガスを供給するノズルを用いるCCP−CVD、平板状の成膜電極を用いるCCP−CVD等、公知のCCP−CVDによる成膜手段が、各種、利用可能である。
さらに、本発明の製造方法は、CVDによって無機膜を成膜するのに限定はされず、スパッタリングや真空蒸着など、真空中で無機膜を成膜可能なものであれば、各種の気相成長法(真空成膜法/気相堆積法)が、全て、利用可能である。
【0036】
成膜電極28は、基材Zの対向面から反応ガスを噴射する、CCP−CVDによる成膜に利用される公知のシャワー電極(シャワープレート)である。
図示例において、成膜電極28は、一例として、一面がドラム28(すなわち基材Z)に対面して配置される、中空の略直方体形状を有するものである。この成膜電極28のドラム28と対向する面は、ドラム28と周面と平行になるように(すなわち、ドラム28との対向面は、ドラム28との間隔が全面的に均一になるように)、曲面となっている。
【0037】
成膜電極28のドラム28との対向面には、多数のガス供給孔が形成されている。このガス供給孔は、成膜電極28の内部の空間に連通している。また、後述するガス供給手段48は、この成膜電極28の内部の空間に反応ガスを供給する。
従って、ガス供給手段48から供給された反応ガスは、成膜電極28のガス供給孔から、ドラム28(基材Z)と成膜電極28との間に供給される。
【0038】
ガス供給手段48は、プラズマCVD装置等の真空成膜装置に用いられる、公知のガス供給手段である。
なお、ガス供給手段48が供給する反応ガス(プロセスガス/成膜ガス)は、基材Zの表面に成膜する膜に応じた、公知のものでよい。例えば、基材Zの表面に窒化ケイ素膜を成膜する場合であれば、ガス供給手段48は、反応ガスとして、シランガス、アンモニアガスおよび窒素ガスの組み合わせや、シランガス、アンモニアガスおよび水素ガスの組み合わせ等を供給すればよい。
【0039】
高周波電源52は、成膜電極46に、プラズマ励起電力を供給する電源である。高周波電源54も、13.56MHzの高周波電力を供給する電源等、各種のプラズマCVD装置で利用されている、公知の高周波電源が、全て利用可能である。
【0040】
真空排気手段50は、CCP−CVDによる無機膜の成膜のために、成膜室内を排気して、所定の成膜圧力に保つものであり、前述のように、真空成膜装置に利用されている、公知の真空排気手段である。
【0041】
本発明の製造方法において、基材Zに成膜する無機膜には、製造する機能性フィルムが目的とする機能を発現する、無機化合物からなる膜が、全て、利用可能である。
例えば、機能性フィルムとして、ガスバリアフィルム(水蒸気バリアフィルム)を製造する際には、無機膜として、窒化ケイ素膜、酸化アルミニウム膜、酸化ケイ素膜等を成膜すればよい。
また、機能性フィルムとして、有機ELディスプレイや液晶ディスプレイのような表示装置など、各種のデバイスや装置の保護フィルムを製造する際には、無機膜として、酸化ケイ素膜等を成膜すればよい。
また、機能性フィルムとして、透明な導電性フィルムを製造する際には、無機膜としてITO(酸化インジウム錫)膜や酸化錫膜等を成膜すればよい。
さらに、機能性フィルムとして、光反射防止フィルム、光反射フィルム、各種のフィルタ等の光学フィルムを製造する際には、目的とする光学特性を有する、あるいは発現する材料からなる無機膜を成膜すればよい。
【0042】
中でも特に、無機膜の損傷による性能低下が大きく、すなわち、無機膜の損傷防止による効果が大きい等の点で、ガスバリア膜(ガスバリア性を有する膜)は好適であり、具体的には、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の成膜は、好適に利用される。
すなわち、本発明の製造方法は、ガスバリアフィルム(その中間製品を含む)の製造には、好適に利用される。
【0043】
なお、本発明の製造方法において、反応ガスの供給量やプラズマ励起電力の強さなど、無機膜の成膜条件には、特に限定はない。
すなわち、成膜条件は、通常のプラズマCVDによる成膜と同様、成膜する無機膜の種類、無機膜に要求される性能や品質、要求される成膜速度、成膜する膜厚、基材Zの種類等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0044】
成膜室20において無機膜を成膜された基材Z(すなわち機能性フィルム)は、ドラム28によって成膜室20から、再度、搬送室18に搬送される。
搬送室18に搬送された基材Zは、ドラム28から積層ローラ38に搬送され、この積層ローラ38によって、無機膜の表面に保護フィルムGを当接して積層/貼着され、さらに、無機膜を成膜された基材Zと保護フィルムGとの積層体が、巻取り軸14によってロール状に巻き取られる。
【0045】
ここで、本発明の製造方法を利用する成膜装置10においては、ドラム28と積層ローラ38との間に加熱手段30が配置されており、成膜室20から搬送室18に搬送された基材Zに成膜された無機膜を、加熱処理する。
本発明は、このような成膜後で、かつ、保護フィルムGとの積層前に無機膜の加熱処理を行うことにより、真空中において基材Zを長手方向に搬送しつつ、CVDによって無機膜を成膜し、無機膜を保護する保護フィルムGを積層し、この積層体をロール状に巻き取る機能性フィルムの製造において、無機膜の損傷を大幅に低減して、RtoRによって、所定の性能を有する機能性フィルムを、安定して製造することを可能にしている。
【0046】
特許文献1等にも示されるように、基材の表面に、目的とする機能を発現する無機膜を製造する機能性フィルムの製造においては、無機膜の成膜後、成膜した無機膜を保護するために、保護フィルムを積層することが行われている。
また、特許文献1では、巻取り前に、保護フィルムを剥離しているが、RtoRによる装置では、保護フィルムが無い状態で、無機膜を成膜した基材(機能性フィルム)を巻き取ると、基材の裏面(非成膜面)と無機膜とが摺接するため、無機膜の強度や基材裏面の強度や粗さによっては、巻取りによって無機膜が損傷してしまう。そのため、無機膜を成膜した基材と保護フィルムとを積層した状態で、この積層体をロール状に巻き取る場合も多い。
なお、この保護フィルムは、成膜した無機膜を保護するためのものであって、次工程や最終製品として使用される場合には、剥離されるのは、前述のとおりである。
【0047】
ここで、本発明者の検討によれば、このような機能性フィルムの製造においては、保護目的で用いる保護フィルムを積層して、巻取りを行った場合に限って、無機膜が損傷してしまう場合が、多々、生じた。
すなわち、真空中でのCVDによって長尺な基材に無機膜を成膜した後、保護フィルムを用いない場合や、長尺な基材に同様に無機膜を成膜した後、保護フィルムを真空中で積層して巻取りを行わなかった場合は、無機膜(製品領域)に接触することなく搬送や取り扱いを行えば、適正な性能を発現する機能性フィルムが製造できる。
これに対して、同じ基材を用い、真空中において全く同じように、無機膜を成膜し、また、保護フィルムを積層して、真空中で、この積層体の巻取りを行うと、無機膜が損傷してしまい、この無機膜の損傷に起因して、機能性フィルムが目的とする性能を発揮できない場合が、多々、生じた。
【0048】
本発明者は、この原因について、鋭意検討を重ねた結果、無機膜と保護フィルムGとの間に気泡が存在し、この気泡が潰れることに、原因が有ることを見いだした。
【0049】
すなわち、無機膜の成膜は真空中で行われているにも関わらず、CVDによる成膜では、成膜中に、反応ガス等が無機膜中に混入してしまう。
大気中であれば、圧力によってガスが無機膜に押し込められるため、気泡は問題にならない。しかしながら、成膜後、真空中で無機膜の上に保護フィルムを積層すると、無機膜中のガスが無機膜と保護フィルムとの間に放出されて気泡になってしまう。また、この気泡は、成膜室20の圧力より、搬送室18(成膜室の下流の室)の圧力が低い場合には、大きく、かつ、多くなる傾向にある。
【0050】
真空中において、無機膜と保護フィルムGとの間に気泡が存在する状態で、積層体の巻取りを行うと、巻取りによって気泡が押しつぶされて、その衝撃によって、無機膜が損傷してしまう。また、巻取りによって気泡が押しつぶされると、保護フィルムGの浮いた部分が捩れ等を有した状態で無機膜に当接して、この当接によっても無機膜が損傷してしまう。さらに、同様の問題は、真空中において、無機膜と保護フィルムGとの間に気泡が存在する状態で、積層体を搬送ローラ対等で挟持搬送する場合など、積層体を押圧した場合にも生じる。
このような無機膜の損傷は、高性能なガスバリア膜(ガスバリアフィルム)のように、僅かな膜の損傷でも性能劣化に繋がる用途では、特に問題となる。
【0051】
本発明の製造方法は、上記知見を得ることによって成されたものであり、真空中で長尺な基材Zを長手に搬送しつつ、無機膜の成膜、保護フィルムの積層/貼着、および、積層体の巻取りを行う機能性フィルムの製造において、保護フィルムを無機膜に当接して積層する前に、無機膜を加熱処理する。
この加熱によって、保護フィルムの積層前に、無機膜中のガスを放出することができるので、基材Zと保護フィルムGとを積層した後に、無機膜と保護フィルムとの間に気泡が生じることを抑制して、この気泡に起因する無機膜の損傷を、大幅に低減できる。
従って、本発明の製造方法によれば、無機膜の損傷が無い、所定の性能を発揮する機能性フィルムを、保護フィルムGによって無機膜を保護した状態で、かつ、高い生産性を得られるRtoRによって、安定して製造することができる。
【0052】
本発明の製造方法において、加熱処理の温度には、特に限定はなく、若干でも、無機膜の加熱処理を行えば、無機膜中のガスを放出して、気泡による無機膜の損傷低減効果を得ることができる。
【0053】
ここで、本発明者の検討によれば、成膜時における基材Zの温度(成膜中に基板Zが到達した最高温度)を基準温度として、基材Zの温度(最高到達温度)が、この基準温度よりも5℃低い温度以上となるように、加熱処理を行うのが好ましい。すなわち、『基準温度−5℃≦基材温度』となるように、加熱処理を行うのが好ましい。
特に、基材Zの温度が、基準温度以上(『基準温度≦基材温度』)となるように加熱処理を行うのが好ましく、中でも特に、基材Zの温度が、基準温度よりも5℃高い温度以上『基準温度+5℃≦基材温度』となるように、加熱処理を行うのが好ましい。
このような加熱処理を行うことにより、保護フィルムGの積層に先立って、無機膜中に混在するガスを好適に放出させて、良好な無機膜の損傷防止効果を得ることができる。
【0054】
なお、無機膜の成膜時における基材Zの温度(最高温度)すなわち基準温度は、一例として、基材Zの表面にサーモラベル等の温度測定手段を貼り付け、必要に応じてカプトンテープ等で保護して、無機膜の成膜を行うことにより、測定すればよい。
成膜条件が同一であれば、この方法で測定した成膜時の基材温度は、殆ど変動しない。
【0055】
また、本発明において、加熱処理は、基材Zが熱変形や熱損傷しないように行うのが好ましい。
ここで、本発明の製造方法においては、加熱処理時の基材Zは、無機膜を成膜されることにより、若干、強度が高くなっていると考えられる。そのため、加熱処理は、基材Zの最高温度が、基材Zに皺が生じる温度を以上にならないように(基材Zに皺が生じない温度未満となるように)行うのが好ましい。これにより、基材Zの変形等の無い、高品質な機能性フィルムを、安定して製造することができる。
【0056】
加熱処理の時間にも、特に、限定は無い。
ここで、基材Zを搬送しつつ加熱処理を行う本発明においては、加熱処理の時間が長いと、加熱処理領域が長尺になり、装置や設備の大型化を招く。従って、無機膜の加熱処理時間は、目的とする基材Zの温度、基材Zの搬送速度、装置規模、加熱処理に利用できる領域の大きさ等に応じて、適宜、設定すればよい。
本発明者の検討によれば、基材Zが、適宜、設定した目的温度以上の温度に、1秒以上、好ましくは、3秒以上、保持されるように、加熱処理を行うようにするのが好ましい。これにより、無機膜中のガスを好適に放出させ、良好な無機膜の損傷防止効果を得ることができる。
【0057】
すなわち、本発明においては、基材Zが、基準温度よりも5℃低い温度以上で、適宜、設定した目標温度以上に、1秒以上保持され、かつ、基材Zの最高温度が、基材Zが皺が生じない温度未満となるように、無機膜の加熱処理を行うのが好ましい。
また、加熱処理で設定する目標温度は、基準温度以上であるのが、より好ましく、基準温度より5℃高い温度以上であるのが特に好ましいのは、前述のとおりである。
【0058】
本発明の製造方法において、無機膜の加熱処理手段30には、特に、限定はなく、目的とする無機膜の加熱処理を行うことができるものであれば、各種のヒータ等の公知のシート状物の加熱手段が、全て、利用可能である。但し、無機膜側から加熱処理を行う場合には、接触による無機膜の損傷を防止するために、加熱処理手段30は、無機膜には、非接触で加熱する加熱手段を利用するのが好ましい。
また、図1に示される例のように、加熱処理は、無機膜側から加熱するのにも限定はされず、基材Zの裏面側から非接触で、あるいは、基材Zの裏面に当接して、無機膜を加熱する加熱手段も、利用可能である。
【0059】
前述のように、加熱手段30によって無機膜を加熱された基材Zは、積層ローラ38において、無機膜に当接して保護フィルムGと積層/貼着される。
【0060】
なお、成膜室20から積層ローラ38までの間に、搬送ローラ対を配置する場合には、無機膜に接触する側の搬送ローラは、端部のみで基材Zを保持するように中央部を凹型にくり抜いた(両端が中央より大径な)、いわゆる段付きローラを用いるのが好ましい。
【0061】
また、基材Zと保護フィルムGとの積層を行う前に、好ましくは、基材Zを冷却するのが好ましい。特に、基材Zと保護フィルムGとを、同じ温度にして、積層を行うのが、より好ましい。このような構成を有することにより、温度差に起因する熱膨張/収縮の違いに起因して、積層体がカール(湾曲)してしまい、このカールによって無機膜等が劣化してしまうことを防止できる。
なお、基材Zの冷却手段には、特に限定はなく、裏面に当接する冷却ロール等、無機膜に当接する方法で無ければ、公知シート状物の冷却手段が、全て、利用可能である。
【0062】
保護フィルム(ラミネートフィルム)Gは、基材Zに成膜した無機膜を保護するものであり、前述のように、無機膜に当接して、基材Zに積層/貼着される。
【0063】
本発明において、保護フィルムGには、特に、限定はなく、機能性フィルムの製造において利用されている、粘着性を有する保護フィルムが、各種、利用可能である。
従って、保護フィルムGは、無機膜や基材Zに応じて、無機膜を確実に保護できるシート状物を、適宜、選択すればよい。なお、無機膜の保護を、より確実に行うために、保護フィルムGは、基材Zや無機膜よりも剛性や硬度の低い物を用いるのが、一般的である。
また、保護フィルムGは、PETフィルム等の支持体の表面に貼着剤層(粘着剤層/接着剤層)が形成されたものであっても、保護フィルムG自身が粘着性を有する材料で形成されたものであってもよい。
【0064】
図示例の成膜装置10において、保護フィルムGも長尺なものであり、ロール状に巻回されて、フィルムロール36として第2回転軸34に装着される。
保護フィルムGは、フィルムロール36から引き出されて、矢印bに示すように長手方向に搬送されて、積層ローラ38において無機膜に当接して基材Zと積層/貼着される。なお、積層ローラ38は、2枚のシート状物の積層に利用される、公知のローラである。
【0065】
積層ローラ38で積層された基材Zと保護フィルムGとの積層体は、矢印c方向に示すように長手方向に搬送されて、前述のように、巻取り軸14によってロール状に巻き取られる。
【0066】
以下、図1に示す成膜装置10の作用を説明する。
前述のように、長尺な基材Zは、ロール状に巻回されて基材ロール12として供給される。また、保護フィルムGも、長尺なものであり、ロール状に巻回されたフィルムロール36として供給される。
成膜装置10において、基材ロール12は回転軸24に、フィルムロール36は第2回転軸34に、それぞれ、装填される。
【0067】
基材ロール12を回転軸24に装填したら、基材ロール12から基材Zを引き出し、ガイドローラ26に案内され、ドラム28の所定領域に巻き掛けられ、積層ローラ38に至る所定の経路で通紙する。また、フィルムロール36を第2回転軸34に装填したら、フィルムロール36から保護フィルムGを引き出し、積層ローラ38まで所定の経路で通紙する。
さらに、積層ローラ38において、基材Zと保護フィルムGとを積層して、この積層体を巻取り軸14で巻き取るように、所定の経路で通紙する。
【0068】
基材Zおよび保護フィルムGの通紙を終了したら、真空チャンバ16を閉塞して、真空排気手段42を駆動して、搬送室18の排気を開始する。並行して、真空排気手段50を駆動して、成膜室20の排気を開始し、かつ、ガス供給手段48から成膜電極46への反応ガスの供給を開始する。
【0069】
搬送室18および成膜室20が所定の圧力で安定したら、巻取り軸14による積層体の巻取り、基材ロール12からの基材Zの送り出し、ドラム28による基材Zの搬送、および、フィルムロール36からの保護フィルムGの送り出しを同期して行って、基材Zおよび保護フィルムGの搬送、両者の積層、ならびに、積層体の巻取りを開始する。
同時に、加熱処理手段30を駆動して、加熱を開始する。
【0070】
基材Z等の搬送、および、加熱処理手段30による加熱が安定したら、高周波電源52から成膜電極46にプラズマ励起電力の供給を開始する。
これにより、基材ロール12から送り出された基材Zは、ガイドローラ26からドラム28に搬送され、ドラム28に巻き掛けて長手方向に搬送されつつ、成膜室20においてCCP−CVDによって窒化ケイ素膜等の無機膜を成膜され、加熱処理手段30によって無機膜の加熱処理が行われる。
さらに、無機膜の加熱処理を行われた基材Z(機能性フィルム)は、積層ローラ38において、無機膜と当接して保護フィルムGと積層/貼着され、この基材Zと保護フィルムGとの積層体が、巻取り軸14によって巻き取られる。
【0071】
ここで、本発明の製造方法を実施する成膜装置10においては、無機膜を成膜した後、加熱処理手段によって無機膜の加熱処理を行っているので、基材Zと保護フィルムGとの積層体において、保護フィルムGと無機膜との間に気泡が生じるのを抑制でき、積層体の巻取りによって気泡が潰れることに起因する無機膜の損傷を、好適に防止できる。
従って、本発明による機能性フィルムは、保護フィルムGを剥離して、機能性フィルムとして使用される際に、目的とする性能を適正に発揮する。すなわち、本発明の製造方法によれば、無機膜の損傷を抑制し、目的とする性能を発揮する高品質な機能性フィルムを、RtoRによって高効率かつ高い生産性で、無機膜を保護フィルムで保護した状態で、安定して製造できる。
【0072】
以上、本発明の機能性フィルムの製造方法について詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
例えば、図1に示す成膜装置10は、本発明の製造方法を、ドラム28に基材を巻き掛けて長手方向に搬送しつつ、無機膜の成膜を行う装置(ドラム成膜の装置)に利用した例であるが、本発明は、これに限定はされない。例えば、本発明は、搬送ローラ対等を用いて、長尺な積層体を長手方向に直線状に搬送しながら、無機膜の成膜を行う装置にも、好適に利用可能である。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。
[実施例1]
図1に示す成膜装置10を用いて、基材Zに無機膜として厚さ50nmの窒化ケイ素膜を成膜して機能性フィルム(ガスバリアフィルム)を作製し、さらに、保護フィルムGを積層/貼着し、この積層体を巻き取ったロールを作製した。
なお、本例にいては、成膜装置10の、基材Z搬送経路の成膜室20と搬送室18との間には、真空排気手段を有する隔室ゾーン(図示省略)を設け、成膜室20と搬送室18とを圧力的に分離した。
【0074】
基材Zは、厚さ100μm、幅400mmのPENフィルムを用いた。
また、保護フィルムGは、幅400mmで、50μm厚のPETフィルムを支持体とする粘着性シート(サンエー化研社製 PAC−2−50TH)を用いた。
【0075】
反応ガスは、シランガス(SiH4)、アンモニアガス(NH3)、および窒素ガス(N2)および水素ガス(H2)を用いた。供給量は、シランガスが200sccm、アンモニアガスが300sccm、窒素ガスが2500sccmとした。
成膜室20の圧力(成膜圧力)は50Pa、搬送室18の圧力は5Paとした。
高周波電源52から成膜電極46に供給するプラズマ励起電力は、周波数13.5MHzで、1.5kWとした。
【0076】
なお、予め、基材Zにサーモラベルを貼り付け、上記条件で窒化ケイ素膜の成膜を行ったところ、成膜温度(成膜中の基材Zの最高温度)は65℃であった。すなわち、本例における基準温度は65℃である。
【0077】
また、加熱処理手段30は、パネルヒータを用いて、基材Zの最高温度(加熱による到達温度)が65℃となるように、無機膜の加熱処理を行った。
【0078】
積層体を巻き取ったロールから、ガスバリアフィルム(無機膜を成膜した基材Z)と保護フィルムGとの積層体を引き出し、保護フィルムGを剥離した。このガスバリアフィルムに付いて、5m間隔で4点のサンプリングを行い、モコン法によって水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定した。なお、水蒸気透過率がモコン法の測定限界を超えたサンプルについては、カルシウム腐食法(特開2005−283561号公報に記載される方法)によって、水蒸気透過率を測定した。
その結果、水蒸気透過率は、3.4×10-3[g/(m2・day)]であった。
【0079】
[実施例2]
加熱処理手段30を調節して、加熱処理における基材Zの最高温度を60℃とした以外は、実施例1と同様にして、ガスバリアフィルムを作製した。
実施例1と同様に水蒸気透過率を測定したところ、水蒸気透過率は、5.2×10-3[g/(m2・day)]であった。
【0080】
[実施例3]
加熱処理手段30を調節して、加熱処理における基材Zの最高温度を55℃とした以外は、実施例1と同様にして、ガスバリアフィルムを作製した。
実施例1と同様に水蒸気透過率を測定したところ、水蒸気透過率は、7.9×10-3[g/(m2・day)]であった。
【0081】
[比較例1]
保護フィルムGの積層を行わずに、巻取り軸14にガスバリアフィルム(無機膜を成膜した基材Z)のみを巻き取った以外は、実施例1と同様にして、ガスバリアフィルムを作製した。
実施例1と同様に水蒸気透過率を測定したところ、水蒸気透過率は、0.1[g/(m2・day)]であった。
【0082】
[比較例2]
加熱処理手段30を調節して、加熱処理を全く行わない以外は、実施例1と同様にして、ガスバリアフィルムを作製した。
実施例1と同様に水蒸気透過率を測定したところ、水蒸気透過率は、2.1×10-2[g/(m2・day)]であった。
【0083】
[比較例3]
加熱処理手段30を積層ローラ38と巻取り軸14との間に移動して、加熱処理をガスバリアフィルムと保護フィルムGとを積層した後とした以外は、実施例1と同様にしてガスバリアフィルムを作製した。なお、加熱処理は、実施例1と同様に、基材Zの最高温度が65℃となるように行った。
実施例1と同様に水蒸気透過率を測定したところ、水蒸気透過率は、2.3×10-2[g/(m2・day)]であった。
【0084】
結果を下記表にまとめて示す。
【表1】

以上のように、窒化ケイ素膜の成膜後、無機膜の加熱処理を行って、その後、保護フィルムGの積層を行った、本発明によるガスバリアフィルムは、保護フィルムGを用いない比較例1、加熱処理を行わない比較例2、保護フィルムGとの積層後に加熱処理を行った比較例3に比して、窒化ケイ素膜と保護フィルムGとの間に気泡が生じるのを抑制して、良好なガスバリア性が得られている。
特に、基材Zの温度が、基準温度(成膜温度)−5℃以上となるように加熱処理を行った実施例1および実施例2、中でも特に、基準温度以上となるように加熱処理を行った実施例1は、良好なガスバリア性が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0085】
基材の表面にガスバリア膜を成膜するガスバリアフィルムの製造など、基材の表面に所定の機能を発現する成膜する機能性フィルムの製造等に、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0086】
10 成膜装置
12 基材ロール
14 巻取り軸
16 真空チャンバ
18 搬送室
20 成膜室
24 回転軸
26 ガイドローラ
28 ドラム
30 加熱処理手段
34 第2回転軸
36 フィルムロール
38 積層ローラ
42,50 真空排気手段
46 成膜電極
48 ガス供給手段
52 高周波電源
Z 基材(フィルム)
G 保護フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中において長尺な基材フィルムを長手方向に搬送しつつ、
気相成長法によって前記基材フィルムの表面に無機膜を成膜し、前記無機膜を加熱処理した後、保護フィルムを前記無機膜に当接して積層し、この基材フィルムと保護フィルムとの積層体をロール状に巻き取ることを特徴とする機能性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記無機膜を成膜した際の基材フィルムの温度を基準温度として、前記基材フィルムの温度が、この基準温度より5℃低い温度以上となるように、前記加熱処理を行う請求項1に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記基材フィルムの最高温度が、この基材フィルムに皺を生じる温度以上にならないように、前記加熱処理を行う請求項1または2に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記基材フィルムの温度を、設定した目的温度以上に1秒以上保持するように、前記加熱処理を行う請求項1〜3のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記基材フィルムと保護フィルムとの積層の前で、かつ、前記加熱処理の後に、前記基材フィルムを冷却する請求項1〜4のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記無機膜が、ガスバリア性を有する膜である請求項1〜5のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ガスバリア性を有する膜が、窒化ケイ素膜、酸化ケイ素膜、酸化アルミニウム膜のいずれかである請求項6に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項8】
基材フィルムと保護フィルムとの積層体の巻き取りを行う空間の圧力が、前記無機膜の成膜空間の圧力以下である請求項1〜7のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記無機膜の加熱処理を、無機膜に接触しない加熱手段によって行う請求項1〜8のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−52170(P2012−52170A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194168(P2010−194168)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】