説明

水晶振動子およびその製造方法

【課題】導電性接合材が励振電極へ拡散する事の悪影響をなくし、金属サポートと水晶振動板を接合する際の接合性が良好な水晶振動子の提供。
【解決手段】金属サポート13,14が設けられた2本の金属リード端子11,12が貫通植設されてなるベース1と、金属サポート13,14に搭載されかつ導電性接合材3を介して電気的機械的接合の板状水晶振動板2とからなる水晶振動子に於いて、前記水晶振動板2はその主面に励振電極25,26と引出電極27,28と接続電極とが形成され、前記接続電極は水晶振動板2の少なくとも2点の端部のみに形成され、前記金属サポート13,14の水晶振動板保持部132,142と前記水晶振動板2の接続電極とが前記導電性接合材3により接合されて、前記金属サポート13,14の水晶振動板保持部132,142の外部表面と前記水晶振動板2の励振電極25,26とを接続する引出電極27,28を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水晶振動子の保持構造とその製造方法に関するものであり、水晶振動板を保持する金属サポートの構造を改善するとともにそのサポートを用いた製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子は共振特性に優れることから、周波数、時間の基準源として広く用いられており、水晶振動板の表面に金属薄膜電極を形成し、この金属薄膜電極を外気から保護するため、パッケージ体により気密封止されている。
【0003】
このうちOCXOと称される恒温槽型水晶発振器に用いられる水晶振動子では、金属性のパッケージ体が用いられているのが現状である。具体的には、金属ベースにはガラスなどの絶縁材を介して一対の金属リード端子が植設されており、当該金属リード端子のインナーリード部分には、一対の金属平板のサポート部材が対向して取り付けられている。水晶振動板は、例えば、厚みすべり振動してなるATカット水晶振動板であり、表裏面には励振電極と、各励振電極からの引出電極が形成されている。そして、前記金属サポートの上に水晶振動板が搭載され、導電接合材により電気的機械的に接続されるとともに、前記金属ベースに金属製の蓋を被せて気密封止する構成となっている。
【0004】
なお、OCXOは外部の温度変化に影響することなく、水晶振動子を恒温槽内で温度制御することにより周波数の高安定化を行ったものであり、周波数安定度として1×10-7〜1×10-10程度の水晶振動子で得られる最高水準の周波数安定度を得ることができるため、無線基地局や伝送ラインなどの基準周波数として利用されている。
【0005】
特許文献1では、このようなOCXOに用いられる良好なエージング特性が得られるAuGe(金―ゲルマニウム)などの金属ろう材が用いられた高安定向け水晶振動子の保持構造に対する改善構成を提案している。
【0006】
【特許文献1】特開2006−186839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
AuGeなどの金属ろう材を用いて接合する場合、固形状の金属ろう材ペレットや金属ろう材ボールなどを用いて金属サポートと水晶振動板の間に介在させながら、それぞれを位置決め固定した状態で加熱し前記金属ろう材を溶融して接合する。しかしながら、上記特許文献1の構成では、金属サポートの水晶振動板保持部と水晶振動板の接続電極を金属ろう材を介してお互いに溶融接合する際に、加熱の状態により金属ろう材が励振電極に向かって拡散して金属サポートの水晶振動板保持部と前記水晶振動板の接続電極に介在する金属ろう材が過少状態となることがあった。このため金属サポートと水晶振動板の電気的機械的な接合不良が生じることがあった。また励振電極に金属ろう材が拡散することで水晶振動子の電気的特性の低下を招くという問題点もあった。特に高安定向けの水晶振動子では水晶振動板に形成される電極が金を主成分とする電極材料からなり、AuGeなどの金系合金ろう材を用いるため、このような金属ろう材が拡散することによる悪影響が大きい。
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、金属ろう材などの導電性接合材が励振電極へ拡散することの悪影響をなくし、金属ろう材などの導電性接合材を用いて金属サポートと水晶振動板を接合する際の接合性が良好で、エージング特性が良好なより信頼性の高い高安定向け水晶振動子とその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明の水晶振動子は、少なくとも2本の金属リード端子が絶縁材を介して貫通植設されてなるベースと、前記金属リード端子のインナー側に設けられた金属サポートと、当該金属サポートに搭載されかつ導電性接合材を介して電気的機械的に接合される板状の水晶振動板とからなる水晶振動子であって、前記水晶振動板はその主面に励振電極と引出電極とが形成され、前記金属サポートの水晶振動板保持部と前記水晶振動板の少なくとも2点の端部とが前記導電性接合材により接合されてなり、前記金属サポートの水晶振動板保持部の外部表面または前記導電性接合材の外部表面のいずれか少なくとも一方と、前記水晶振動板の励振電極とを接続する引出電極が形成されたことを特徴とする。
【0010】
上記構成により、水晶振動板の少なくとも2点の端部のみに導電性接合材が接合されるので、導電性接合材が端部以外の領域に向かって拡散することがなくなり、金属サポートの水晶振動板保持部と前記水晶振動板に介在する導電性接合材が過少状態となるのを回避し、金属サポートと水晶振動板の機械的な接合不良が生じることがなくなる。また前記金属サポートの水晶振動板保持部の外部表面または前記導電性接合材の外部表面のいずれか少なくとも一方と、前記水晶振動板の励振電極とを接続する引出電極が形成されているので、金属サポートと励振電極との電気的接続性が確実になる。結果として、導電性接合材を用いて金属サポートと水晶振動板を接合する際の接合性が良好で、エージング特性が良好なより信頼性の高い高安定向け水晶振動子を提供することができる。
【0011】
また、上述の構成において、前記水晶振動板はその主面の少なくとも2点の端部に導電性接合材により接合される接続電極が形成され、前記金属サポートの水晶振動板保持部には前記水晶振動板の接続電極の一部が当該金属サポートの外部表面に露出される切欠部や穴部などの窓部が形成されており、前記金属サポートの窓部から露出した接続電極の上面部分または前記導電性接合材の外部表面のいずれか少なくとも一方と、前記水晶振動板の励振電極とを接続する引出電極が形成されてもよい。この構成により、上述の作用効果に加えて、導電性接合材が接続電極以外の領域に向かって拡散することがなくなり、接続電極の上面のみで導電性接合材が充填される。このため金属サポートの水晶振動板保持部と前記水晶振動板の接続電極に介在する導電性接合材が過少状態となるのを回避し、金属サポートと水晶振動板の機械的な接合不良が生じることがなくなる。また、前記金属サポートの窓部から露出した接続電極の上面部分または前記導電性接合材の外部表面のいずれか少なくとも一方と、前記水晶振動板の励振電極とを接続する引出電極が形成されているので、金属サポートの水晶振動板保持部の陰に接続電極が配置されたり、金属サポートと水晶振動板の間に生じる隙間が影響することで引出電極による電気的な接続が不安定になることがなくなる。金属サポートと励振電極との電気的接続性がより確実になる。また導電性接合材が窓部にも回り込むので接合強度の向上につながる。導電性接合材の接合状態が窓部を介して認識できるので接合不良や導通不良を防止するのに有効な構成となる。
【0012】
また、上述の構成において、前記導電性接合材がAuGe、AuSn、Auなどの金系合金ろう材からなり、かつ前記水晶振動板の表裏主面に形成される励振電極が金を主成分とする電極材料が好ましい。この構成により、上述の作用効果に加えて、加熱により溶融接合する際に電極上面での拡散の悪影響が生じやすい金系合金ろう材と金を主成分とする電極材料の組合せたとしても、水晶振動板の少なくとも2点の端部、あるいは接続電極から励振電極に対して拡散が生じることがなくなり、金属サポートの水晶振動板保持部と前記水晶振動板に介在する金系合金ろう材が過少状態となるのを回避し、金属サポートと水晶振動板の機械的な接合不良が生じることがなくなる。さらに励振電極材料や金属ろう材が酸化等の電気的特性の劣化が生じにくい安定した材料となるので、エージング特性もさらに高められた高安定向けの水晶振動子に好ましい構成とできる。
【0013】
また、本発明の水晶振動子の製造方法は、少なくとも2本の金属リード端子が絶縁材を介して貫通植設されてなるベースと、前記金属リード端子のインナー側に設けられた金属サポートと、当該金属サポートに搭載されかつ金属ろう材を介して電気的機械的に接合される板状の水晶振動板とからなる水晶振動子の製造方法であって、前記水晶振動板の少なくとも2点の端部のみに接続電極を形成し、前記金属サポートの水晶振動板保持部と、前記水晶振動板の接続電極が近接した状態で金属サポートの水晶振動板保持部に対して水晶振動板を搭載して封止前水晶振動子を構成し、雰囲気加熱により前記封止前水晶振動子全体を加熱することで前記金属ろう材を溶融して前記金属サポートと水晶振動板を電気的機械的に接合し、前記金属サポートの水晶振動板保持部の外部表面または前記導電性接合材の外部表面のいずれか少なくとも一方と、前記水晶振動板の励振電極とを接続する引出電極を形成してなることを特徴とする。
【0014】
上記製造方法により、前記水晶振動板の少なくとも2点の端部のみに接続電極を形成し、前記金属サポートの水晶振動板保持部と、前記水晶振動板の接続電極が近接した状態で金属サポートの水晶振動板保持部に対して水晶振動板を搭載して封止前水晶振動子を構成し、前記金属ろう材を溶融して前記金属サポートと水晶振動板を電気的機械的に接合しているので、水晶振動板の少なくとも2点の端部のみに形成された接続電極に対して金属ろう材が接合され、金属ろう材が接続電極以外の領域に向かって拡散することがなくなり、接続電極の上面のみで金属ろう材が充填される。このため金属サポートの水晶振動板保持部と前記水晶振動板の接続電極に介在する金属ろう材が過少状態となるのを回避し、金属サポートと水晶振動板の機械的な接合不良が生じることがなくなる。このような状態で金属サポートの水晶振動板保持部に対して水晶振動板が接合された封止前水晶振動子に対して、前記金属サポートの水晶振動板保持部の外部表面または前記導電性接合材の外部表面のいずれか少なくとも一方と、前記水晶振動板の励振電極とを接続する引出電極が形成されているので、金属サポートと励振電極との電気的接続性が確実になる。
【0015】
また、雰囲気加熱により前記封止前水晶振動子全体を加熱することで、前記金属ろう材の溶融のための加熱のみならず、金属サポートが取り付けられた少なくとも2本の金属リード端子を有するベースと水晶振動板を含み同時に加熱することができるので、各部材の歪み除去や脱ガスするためのアニーリングも同時に実施できるので、金属ろう材を用いて金属サポートと水晶振動板を接合する際の接合性をより一層高めることができ、エージング特性もさらに高めることができる。特に雰囲気加熱として高真空アニール炉で行うことが好ましく、各部材の酸化や劣化をなくした全体加熱を実施することができる。
【0016】
結果として、導電性接合材を用いて金属サポートと水晶振動板を接合する際の接合性が良好で、エージング特性が良好なより信頼性の高い高安定向け水晶振動子の製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、金属ろう材などの導電性接合材が励振電極へ拡散することの悪影響をなくし、金属ろう材などの導電性接合材を用いて金属サポートと水晶振動板を接合する際の接合性が良好で、エージング特性が良好なより信頼性の高い高安定向け水晶振動子とその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明による実施の形態を、水晶振動子を例にとり、図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態を示す分解斜視図であり、図2は図1を組み立てた状態の第1形態を示す正面図とこの正面図のX−X線に沿う断面図であり、図3は第1形態における製造工程を示す模式図である。図4は図1を組み立てた状態の第2形態を示す正面図とこの正面図のY−Y線に沿う断面図であり、図5は第2形態における製造工程を示す模式図である。図6は本発明の実施形態の水晶振動板を示す正面図であり、図7と図8は本発明の他の実施形態の水晶振動板を示す正面図である。図9は本発明の他の実施形態を示す分解斜視図である。なお、各形態において同様の部分については同番号を付すとともに特に必要がなければ説明の一部を割愛している。
【0019】
ベース1は全体として低背の長円柱形状であり、金属製のシェルを主とするベース本体10に金属リード端子11,12が貫通して植設された構成であり、絶縁ガラスGがベース本体の一部に充填されることにより、これら金属リード端子11,12は電気的に独立して一体形成されている。
【0020】
金属リード端子11,12は細長い円柱形状であり、例えばベース上部のインナー側の先端部11a,12aは幅広で上部が平らな釘頭形状に形成されている。このインナーリードの先端部には、後述する金属サポート13,14が溶接の手法(レーザー溶接、スポット溶接等)により対向して取り付けられている。このため、前記金属サポートを金属リード端子に搭載する場合に傾く事なく水平に安定し搭載でき、溶接面積も拡大するので、接合強度が向上し、金属サポートを金属リード端子溶接する際の信頼性が飛躍的に向上する。
【0021】
金属サポート13,14は、例えばニッケル鉄系の低熱膨張性の合金で、水晶の熱膨張係数の半分ぐらいから熱膨張係数がゼロに近いもの、あるいは水晶の熱膨張係数に近似している金属材料を用いている。具体的に三菱マテリアル株式会社製のものであれば、MA―INV36<Fe-36Ni>(通称:インバー/アンバー)、MA−S−INVER<Fe-32Ni-5Co>(通称:スーパーインバー)、MA902<Fe-42Ni-Cr-Ti>(通称:NI−SPAN−C)等があげられる。このような金属サポート13,14は、前記金属リード端子と接合されるリード接続部131,141と、断面略コ字形状で後述する水晶振動板を挟み込んだ状態で保持する水晶振動板保持部132,142とを有している。
【0022】
前記金属サポートの水晶振動板保持部132,142には後述する固形状の金属ろう材3が溶接などにより予め取り付けられ、かつ溶融後の金属ろう材が溜まる金属サポートの金属ろう材溜まり部133,143が形成されている。本形態では金属サポートの金属ろう材溜まり部133,143の形状を例えば中央に凸部その周囲に凹部を有した凹凸形状により構成した。なお金属サポートの金属ろう材溜まり部133,143はこのような凹凸形状に限定されるものではなく、金属ろう材ペレットや金属ろう材ボールなど各固形状の金属ろう材3の形状に応じてお互いに係止でき、かつ溶融後の金属ろう材3が溜まるような形状であればよく、凹部のみや凸部のみ、穴部、あるいはこれらの組み合わせ形状であってもよい。
【0023】
また金属サポートの水晶振動板保持部132,142の一部には窓部134,144が形成されている。この窓部134,144は切欠部や穴部などにより構成することができ、後述する水晶振動板の凹部21,22、接続電極23,24、または金属ろう材3の一部が外部表面に露出されるよう形成されている。
【0024】
水晶振動板2は例えばATカット水晶振動板からなり、片面プラノ研磨加工された円盤形状に構成されている。前記水晶振動板の主面の中心点Oを通過するZ’軸に対して当該中心点から板面が+30°回転させた回転軸と当該水晶振動板の端部が交差し、対向する2点の交差点A,Bにはそれぞれ側端部に凹部21,22がハーフエッチングなどの手法により形成されている。この凹部21,22は後述する溶融後の金属ろう材3が溜まる金属ろう材溜まり部として構成されており、お互いの凹部21,22が同形状同体積で形成することがより好ましい。この凹部21,22の上面には後述する金属ろう材3が接続される接続電極23,24も形成されている。この接続電極23,24は金を主成分とする電極材料により構成されており、例えばクロムやニッケルの下地電極層の上面に金電極層が形成されている。なお金属ろう材3が溜まる金属ろう材溜まり部は凹部21,22に限定されるものではなく、溶融した後の金属ろう材が溜まることができるような形状であればよく、穴部、溝部、凸部、あるいはこれらの組み合わせ形状であってもよい。
【0025】
金属ろう材3(導電性接合材)は例えばAuGe、AuSn、Auなどの金系合金ろう材ペレットからなり、前記金属サポートの金属ろう材溜まり部133,143に対して予め溶接などで取り付けられている。
【0026】
−第1形態−
以下、第1形態の水晶振動子の構成とその製造方法について、図2、図3とともに説明する。図3(a)に示すように、固形状の金属ろう材3が取り付けられた金属サポート13,14に対して前記凹部21,22と接続電極23,24のみが形成された水晶振動板2が搭載される。この際前記金属サポートの固形状の金属ろう材3が取り付けられた部分の水晶振動板保持部、例えば金属ろう材溜まり部133,143に対して前記水晶振動板の凹部21,22が近接した状態で配置搭載する。
【0027】
次に、図3(b)に示すように、上記金属ろう材溜まり部と凹部が近接した状態で金属サポートの水晶振動板保持部132,142に対して金属ろう材3と水晶振動板2が取り付けられた気密封止前のベース1(封止前水晶振動子)を加熱炉に搬入する。加熱炉は例えば高真空アニール炉が用いられており、真空雰囲気中で前記封止前水晶振動子全体(ベース)を加熱する。そして例えば金属ろう材3の融点以上の温度に加熱することで、前記水晶振動板の凹部21,22に溶融した金属ろう材3が留まった状態で前記金属サポートの水晶振動板保持部132,142と前記水晶振動板の金属ろう材接続電極23,24とが溶融した金属ろう材3により接合される。
【0028】
次に、図3(c)に示すように、前記金属サポートの水晶振動板保持部132,142と前記水晶振動板の金属ろう材接続電極23,24とが接合された気密封止前のベース1(封止前水晶振動子)であって水晶振動板2の表裏主面上に、図示しないマスク部材を配置しながら励振電極25,26(裏面の26については図示せず)と引出電極27,28が真空蒸着法やスパッタリング等の手段にて設けられている。これら励振電極25,26と引出電極27,28は一体で同時に形成され、金を主成分とする電極材料により構成されており、例えばクロムやニッケルの下地電極層の上面に金電極層が形成されている。
【0029】
なお、図2に示すように、引出電極27,28が前記金属サポートの水晶振動板保持部132,142の外部表面および前記金属ろう材3の外部表面と、前記水晶振動板の励振電極25,26とを接続するように形成しているので、金属サポート13,14と励振電極25,26との電気的接続性が確実になる。特に本発明の実施形態では、金属サポートの水晶振動板保持部132,142の一部には窓部134,144が形成され、水晶振動板の接続電極23,24、または金属ろう材3の一部が外部表面に露出されるよう形成されているので、金属サポートと水晶振動板との隙間部分で引出電極27,28が断線したとしても、接続電極23,24、または金属ろう材3が存在する上面領域に確実に引出電極27,28が形成することができ、電気的接続性がより確実なものとなる。
【0030】
以上のように構成された封止前水晶振動子は、ベースに図示しない蓋を被覆し気密封止することで第1形態の水晶振動子が完了する。
【0031】
−第2形態−
以下、第2形態の水晶振動子の構成とその製造方法について、図4、図5とともに説明する。図5(a)に示すように、金属ろう材3が取り付けられた金属サポート13,14に対して前記凹部21,22と接続電極23,24と励振電極25,26(裏面の26については図示せず)が形成された水晶振動板2が搭載される。この際前記金属サポートの固形状の金属ろう材3が取り付けられた部分の水晶振動板保持部、例えば金属ろう材溜まり部133,143に対して前記水晶振動板の凹部21,22が近接した状態配置搭載する。なおこの時の水晶振動板の励振電極25,26と接続電極23,24とはお互いに断線状態となっている。
【0032】
次に、図5(b)に示すように、上記金属ろう材溜まり部と凹部が近接した状態で金属サポートの水晶振動板保持部132,142に対して金属ろう材3と水晶振動板2が取り付けられた気密封止前のベース1(封止前水晶振動子)を加熱炉に搬入する。加熱炉は例えば高真空アニール炉が用いられており、真空雰囲気中で前記封止前水晶振動子全体(ベース)を加熱する。そして例えば金属ろう材3の融点以上の温度に加熱することで、前記水晶振動板の凹部21,22に溶融した金属ろう材3が留まった状態で前記金属サポートの水晶振動板保持部132,142と前記水晶振動板の金属ろう材接続電極23,24とが溶融した金属ろう材3により接合される。
【0033】
次に、図5(c)に示すように、前記金属サポートの水晶振動板保持部132,142と前記水晶振動板の金属ろう材接続電極23,24とが接合された気密封止前のベース1(封止前水晶振動子)であって水晶振動板2の表裏主面上に、図示しないマスク部材を配置しながら引出電極27,28が真空蒸着法やスパッタリング等の手段にて設けられている。これら励振電極25,26と引出電極27,28は別々に形成されるが、金を主成分とする電極材料により構成されており、例えばクロムやニッケルの下地電極層の上面に金電極層が形成されている。
【0034】
なお、図4に示すように、引出電極27,28が前記金属サポートの水晶振動板保持部132,142の外部表面および前記金属ろう材3の外部表面と、前記水晶振動板の励振電極25,26の一部上面とを接続するように形成しているので、金属サポート13,14と励振電極25,26との電気的接続性が確実になる。特に本発明の実施形態では、金属サポートの水晶振動板保持部132,142の一部には窓部134,144が形成され、水晶振動板の接続電極23,24、または金属ろう材3の一部が外部表面に露出されるよう形成されているので、金属サポートと水晶振動板との隙間部分で引出電極27,28が断線したとしても、接続電極23,24、または金属ろう材3が存在する上面領域に確実に引出電極27,28が形成することができ、電気的接続性がより確実なものとなる。
【0035】
以上のように構成された封止前水晶振動子は、ベースに図示しない蓋を被覆し例えば真空雰囲気中で気密封止することで第2形態の水晶振動子が完了する。
【0036】
上記実施形態により、水晶振動板の2点の端部のみに形成された金属ろう材接続電極23,24に対して金属ろう材3が接合されるので、金属ろう材3が金属ろう材接続電極23,24以外の領域に向かって拡散することがなくなり、金属ろう材接続電極23,24の上面のみで金属ろう材3が充填される。このため金属サポートの水晶振動板保持部132,142と前記水晶振動板の金属ろう材接続電極23,24に介在する金属ろう材3が過少状態となるのを回避し、金属サポート13,14と水晶振動板2の機械的な接合不良が生じることがなくなる。特に上記実施形態では前記金属ろう材3がAuGe、AuSn、Auなどの金系合金ろう材からなり、かつ前記水晶振動板2の表裏主面に形成される金属ろう材接続電極23,24、励振電極25,26および引出電極27,28が金を主成分とするクロムやニッケルの下地電極層の上面に金電極層が形成されている。このため、加熱により溶融接合する際に電極上面での拡散の悪影響が生じやすい金系合金ろう材と金を主成分とする電極材料の組合せたとしても、金属ろう材接続電極23,24から励振電極25,26に対して拡散が生じることがなくなり、金属ろう材接続電極23,24の上面のみで金系合金ろう材3が充填される。加えて励振電極25,26や金属ろう材3が酸化等の電気的特性の劣化が生じにくい安定した材料となるので、エージング特性もさらに高めることができる。また前記金属サポートの水晶振動板保持部132,142の外部表面または前記金属ろう材3の外部表面のいずれか少なくとも一方と、前記水晶振動板の励振電極25,26とを接続する引出電極27,28が形成されているので、金属サポート13,14と励振電極25,26との電気的接続性が確実になる。結果として、金属ろう材3を用いて金属サポート13,14と水晶振動板2を接合する際の接合性が良好で、エージング特性が良好なより信頼性の高い高安定向け水晶振動子を提供することができる。
【0037】
また、前記金属サポートの窓部134,144から露出した金属ろう材接続電極23,24の上面部分または前記金属ろう材3の外部表面のいずれか少なくとも一方と、前記水晶振動板の励振電極25,26とを接続する引出電極27,28が形成されているので、金属サポートの水晶振動板保持部132,142の陰に金属ろう材接続電極23,24が配置されたり、金属サポート13,14と水晶振動板2の間に生じる隙間が影響することで引出電極27,28による電気的な接続が不安定になることがなくなる。また金属ろう材3が窓部134,144にも回り込むので接合強度の向上につながる。金属ろう材3の接合状態が窓部134,144を介して認識できるので接合不良や導通不良を防止するのに有効な構成となる。
【0038】
また、本発明の第1形態、第2形態では、前記金属サポートの水晶振動板保持部132,142の外部表面または前記金属ろう材3の外部表面のいずれか少なくとも一方と、前記水晶振動板2の励振電極25,26とを接続する引出電極27,28が後工程で形成されている。つまり第1形態では、水晶振動板2の端部には金属ろう材接続電極23,24のみが形成されており、前記金属サポート13,14と水晶振動板2を金属ろう材3で加熱炉により溶融接合した後に、前記金属サポートの水晶振動板保持部132,142の外部表面または前記金属ろう材3の外部表面のいずれか少なくとも一方を含み前記水晶振動板の励振電極25,26と引出電極27,28を一体で形成している。また第2形態では、水晶振動板2の中央に励振電極25,26、水晶振動板2の端部に金属ろう材接続電極23,24が予め断線した状態で形成されており、前記金属サポート13,14と水晶振動板2を金属ろう材3で加熱炉により溶融接合した後に、前記金属サポートの水晶振動板保持部132,142の外部表面または前記金属ろう材3の外部表面のいずれか少なくとも一方を含み前記水晶振動板の励振電極25,26とを接続する引出電極27,28を形成している。
【0039】
このように引出電極27,28等を後工程で形成することで、金属ろう材3が励振電極25,26に向かって拡散することがなくなり、金属ろう材接続電極23,24の上面のみで金属ろう材3が充填される。このため金属サポートの水晶振動板保持部132,142と前記水晶振動板の金属ろう材接続電極23,24に介在する金属ろう材3が過少状態となるのを回避し、金属サポート13,14と水晶振動板2の電気的機械的な接合不良が生じることがない。さらに金属サポート13,14と励振電極25,26との電気的接続性が確実になる。特にAuGeなどのエージング特性が非常に高安定であるものの融点が高く溶融時間が長くなる金属ろう材3を用い、金を主成分とする励振電極25,26を有する水晶振動板2に対して加熱炉を用いて雰囲気加熱により接合する場合には、金が拡散しやすいという問題があるが、金属ろう材3は接続電極23,24の範囲内のみでしか拡散しないので、接合性を高めながら励振電極には金属ろう材3が拡散することが一切なくなる。以上のように本発明の実施形態による製造方法では雰囲気加熱による金属ろう材3の接合が容易に行え、アニーリングによる特性向上も同時に行えるものである。
【0040】
また、真空アニール炉を用いた雰囲気加熱により前記水晶振動子全体を加熱することで前記金属ろう材3を溶融して前記金属サポート13,14と水晶振動板2を電気的機械的に接合しているので、前記金属ろう材3の溶融のための加熱のみならず、金属サポート13,14が取り付けられた2本の金属リード端子11,12を有するベース1と水晶振動板2を含み同時に加熱することができるので、各部材の歪み除去や脱ガスするためのアニーリングも同時に実施できるので、金属ろう材3を用いて金属サポート13,14と水晶振動板2を接合する際の接合性をより一層高めることができ、エージング特性もさらに高めることができる。特に雰囲気加熱として高真空アニール炉で行うと、各部材の酸化や劣化をなくした全体加熱を実施することができる。
【0041】
結果として、金属ろう材3を用いて金属サポート13,14と水晶振動板2を接合する際の接合性が良好で、エージング特性が良好なより信頼性の高い高安定向け水晶振動子の製造方法を提供することができる。
【0042】
−その他の実施形態−
上記第1および第2の実施形態では、図6に示すように、前記水晶振動板の主面の中心点Oを通過するZ’軸に対して当該中心点から板面が+30°回転させた回転軸と当該水晶振動板の端部が交差し、対向する2点の交差点A,Bに対して凹部21,22と金属ろう材3が接続される接続電極23,24を構成したものを説明している。このため水晶振動板の端部のうち応力感度がない少なくとも2つのポイントに対する保持が行えるので、金属サポート13,14などの外部から水晶振動板2に対して受ける応力も安定したものとすることでき、経年変化に対する応力も抑制できる構成となっている。しかしながらこれらの2点の交差点のみに特定されるものではない。
【0043】
図7に示すように、前記水晶振動板の主面の中心点Oを通過するZ’軸に対して当該中心点から板面がー30°回転させた回転軸と当該水晶振動板の端部が交差し、対向する2点の交差点C,Dに対して金属ろう材溜まり部穴部211,221と金属ろう材3が接続される接続電極231,241を構成したものでもよい。
【0044】
また図8に示すように、前記水晶振動板の主面の中心点Oを通過するZ’軸に対して当該中心点から板面が+30°とー30°回転させた回転軸と当該水晶振動板の端部が交差し、それぞれ対向する4点の交差点A,B,C,Dに対して凹部213,223、および溝部212,222と金属ろう材3が接続される接続電極23,24,231,241を構成したものでもよい。
【0045】
また図9に示すように、金属サポート13,14は、例えばニッケル鉄系の低熱膨張性の合金で、水晶の熱膨張係数の半分ぐらいから熱膨張係数がゼロに近いもの、あるいは水晶の熱膨張係数に近似している金属材料を用いている。具体的に三菱マテリアル株式会社製のものであれば、MA―INV36<Fe-36Ni>(通称:インバー/アンバー)、MA−S−INVER<Fe-32Ni-5Co>(通称:スーパーインバー)、MA902<Fe-42Ni-Cr-Ti>(通称:NI−SPAN−C)等があげられる。またこのような金属サポート13,14の外部表面には当該金属サポートより熱伝導率の高い金属膜Mが形成されている。
【0046】
このような構成により、金属サポート13,14が環境温度の変化により熱膨張が生じることがほとんどなくなるか、水晶振動板2と金属サポート13,14の熱膨張差が生じることがほとんどなくなるため、金属サポート13,14から水晶振動板2に対して環境温度の変化による応力を与えることがなくなり、経年変化に対する応力もより一層抑制できる。つまりエージング特性もさらに高めることができる。また、熱伝導率の高い金属膜Mが金属サポート13,14の外部表面に形成されていることで、環境温度の変化による水晶振動子のパッケージ体(蓋と金属等)外部の温度に対して前記金属膜Mが遅れなく水晶振動板2に温度を伝え、温度差が生じることがほとんどなくなる。結果として、より安定した周波数温度特性を得ることができる。またOCXOとして水晶振動子を利用する場合、水晶振動子を恒温槽内で所定温度まで加熱し周波数が安定するまでの時間もより短時間で起動させることができる(起動特性の向上)。
【0047】
本形態では金属膜Mを金属サポート13,14の表裏主面に対して3〜10μmの銅メッキを施している。金属膜Mを金属サポートの表裏主面に形成することで金属サポート全体としての熱変形に偏りが生じることがなくなり、水晶振動板2に対して余分な応力をかけることがない上で好ましい。金属膜Mとして銅メッキを用いることで、汎用されるメッキ浴を用いて比較的安価かつ容易にメッキ形成することができ、伝熱性に優れた金属膜を形成することができる。銅メッキとして3〜10μmの厚みで形成することで、コストを抑えながら安定した伝熱性を維持し、サポート全体としての低熱膨張性能の維持や不要な熱応力の悪影響をなくすことができる。銅メッキとして3μmより薄く形成すると伝熱性が低下する。銅メッキとして10μmより厚く形成すると金属サポートの曲げ加工等によりメッキの割れの危険性が増したり、サポート全体としての熱膨張性能にも悪影響が生じ水晶振動板に対して不要な熱的な応力を加わりやすくなる危険性が高まる。
【0048】
なお、上述の実施形態の構成に限らず、前記リード端子のインナーリード先端部が、釘頭形状のもののみを例にしているが、通常のインナーリード形状のものにでも適用できる。ATカット水晶振動板に限らずSCカットなど他の水晶振動板であってもよい。金属膜Mを金属サポートの表裏のうち一主面に形成したり、部分的に形成してもよい。また銅メッキに限らず金、銀、アルミなどの金属膜で形成してもよい。
【0049】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施できので、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求範囲によって示すものであって、明細書本文に拘束されるものではない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態を示す分解斜視図。
【図2】図1を組み立てた状態の第1形態を示す図。
【図3】第1形態における製造工程を示す模式図。
【図4】図1を組み立てた状態の第2形態を示す図。
【図5】第2形態における製造工程を示す模式図。
【図6】本発明の実施形態の水晶振動板を示す正面図。
【図7】本発明の他の実施形態の水晶振動板を示す正面図。
【図8】本発明の他の実施形態の水晶振動板を示す正面図。
【図9】本発明の他の実施形態を示す分解斜視図。
【符号の説明】
【0051】
1 ベース
10 ベース本体
11,12 リード端子
13,14 金属サポート
2 水晶振動板
3 金属ろう材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2本の金属リード端子が絶縁材を介して貫通植設されてなるベースと、前記金属リード端子のインナー側に設けられた金属サポートと、当該金属サポートに搭載されかつ導電性接合材を介して電気的機械的に接合される板状の水晶振動板とからなる水晶振動子であって、
前記水晶振動板はその主面に励振電極と引出電極とが形成され、
前記金属サポートの水晶振動板保持部と前記水晶振動板の少なくとも2点の端部とが前記導電性接合材により接合されてなり、
前記金属サポートの水晶振動板保持部の外部表面または前記導電性接合材の外部表面のいずれか少なくとも一方と、前記水晶振動板の励振電極とを接続する引出電極が形成されたことを特徴とする水晶振動子。
【請求項2】
前記水晶振動板はその主面の少なくとも2点の端部に導電性接合材により接合される接続電極が形成され、前記金属サポートの水晶振動板保持部には前記水晶振動板の接続電極の一部が当該金属サポートの外部表面に露出される窓部が形成されており、前記金属サポートの窓部から露出した接続電極の上面部分または前記導電性接合材の外部表面のいずれか少なくとも一方と、前記水晶振動板の励振電極とを接続する引出電極が形成されたことを特徴とする特許請求項1記載の水晶振動子。
【請求項3】
前記導電性接合材が金系合金ろう材からなり、かつ前記水晶振動板の表裏主面に形成される励振電極が金を主成分とする電極材料からなることを特徴とする特許請求項1、または特許請求項2記載の水晶振動子。
【請求項4】
少なくとも2本の金属リード端子が絶縁材を介して貫通植設されてなるベースと、前記金属リード端子のインナー側に設けられた金属サポートと、当該金属サポートに搭載されかつ金属ろう材を介して電気的機械的に接合される板状の水晶振動板とからなる水晶振動子の製造方法であって、
前記水晶振動板の少なくとも2点の端部のみに接続電極を形成し、
前記金属サポートの水晶振動板保持部と、前記水晶振動板の接続電極が近接した状態で金属サポートの水晶振動板保持部に対して水晶振動板を搭載して封止前水晶振動子を構成し、
雰囲気加熱により前記封止前水晶振動子全体を加熱することで前記金属ろう材を溶融して前記金属サポートと水晶振動板を電気的機械的に接合し、
前記金属サポートの水晶振動板保持部の外部表面または前記導電性接合材の外部表面のいずれか少なくとも一方と、前記水晶振動板の励振電極とを接続する引出電極を形成してなることを特徴とする水晶振動子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−225427(P2009−225427A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320605(P2008−320605)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】