説明

波長可変干渉フィルター、光モジュール、及び電子機器

【課題】所望の波長の光を精度よく取り出せる波長可変干渉フィルター、光モジュール、及び電子機器を提供する。
【解決手段】波長可変干渉フィルター5は、固定基板51と、可動基板52と、固定基板51の可動基板52に対向する面に設けられた固定反射膜54と、可動基板52の固定基板51に対向する面に設けられ、反射膜間ギャップG1を介して固定反射膜54と対向する可動反射膜55と、固定基板51の可動基板52に対向する面に設けられた固定電極561と、を備え、固定基板51は、固定反射膜54が設けられる反射膜固定面512Aと、固定電極561が設けられ、可動基板52からの距離が反射膜固定面512Aとは異なる固定電極面511Aと、を有し、反射膜固定面512Aよりも可動基板52からの距離が大きい固定電極面511Aに、固定反射膜54及び固定電極561が積層された積層部57が設けられた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長可変干渉フィルター、この波長可変干渉フィルターを備える光モジュール、及びこの光モジュールを備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の基板の互いに対向する面に、それぞれ反射膜を所定のギャップを介して対向配置した波長可変干渉フィルターが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の波長可変干渉フィルターでは、2枚の光学基板の相対する面にそれぞれ反射層を設け、更に、これらの光学基板の相対する面に、反射層の径外側に容量電極を設けている。この波長可変干渉フィルターでは、互いに対向する容量電極が静電アクチュエーターとして作用し、これらの容量電極間に電圧を印加することで、静電引力により反射層間のギャップを変動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−277758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような波長可変干渉フィルターでは、反射層上に電荷が溜まることがあり、互いに対向する反射層上がそれぞれ帯電した場合、静電力が発生する。このため、反射層間のギャップを設定値に設定するために静電アクチュエーターに所定の設定電圧を印加した場合でも、反射層の帯電による静電力により、ギャップが所望の設定値に設定されない場合がある。この場合、波長可変干渉フィルターから所望の波長の光を取り出すことが困難となるという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、所望の波長の光を精度よく取り出せる波長可変干渉フィルター、光モジュール、及び電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の波長可変干渉フィルターは、第一基板と、前記第一基板に対向する第二基板と、前記第一基板の前記第二基板に対向する面に設けられた第一反射膜と、前記第二基板の前記第一基板に対向する面に設けられ、前記第一反射膜と反射膜間ギャップを介して対向する第二反射膜と、前記第一基板の前記第二基板に対向する面に設けられた第一電極と、を備え、前記第一基板は、前記第一反射膜が設けられる第一反射膜固定面と、前記第一電極が設けられ、前記第二基板からの距離が前記第一反射膜固定面とは異なる第一電極面と、を有し、前記第一反射膜固定面及び前記第一電極面のうち、前記第二基板からの距離が大きい面に、前記第一反射膜及び前記第一電極が積層された積層部が設けられることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、第一基板の第一反射膜固定面及び第一電極面のうち第二基板からの距離が大きい面に、第一反射膜及び第一電極が積層することで形成される積層部が設けられ、この積層部により、第一反射膜及び第一電極が面接触して電気的に導通される。これにより、第一反射膜が帯電した場合でも、滞留した電荷を第一電極から逃がすことができ、第一反射膜及び第二反射膜間での帯電による静電力の発生を防止できる。
ここで、第一電極の端縁と、第一反射膜の端縁とを接触させることで導通させることも考えられる。しかしながら、この場合、接触面積が小さく、導通信頼性も低くなるため、第一反射膜の電荷を第一電極に確実に逃がすことができない恐れがある。これに対して、上述のように、第一電極と第一反射膜とを積層して積層部を設けることで、第一電極及び第一反射膜が確実に面接触して電気的に導通させることができる。
さらに、本発明では、この積層部は、第一反射膜固定面及び第一電極面のうち、第二基板からの距離が大きい一方の面に設けられる。このため、積層部により、反射膜間ギャップや電極間ギャップの変動可能量が抑制されることがない。したがって、波長可変干渉フィルターにより取り出すことが可能な波長域が狭帯域化する不都合をも防止できる。
【0009】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記第二基板の前記第一基板に対向する面に設けられ、前記反射膜間ギャップよりも大きい電極間ギャップを介して、前記第一電極と対向する第二電極を備え、前記積層部は、前記第一反射膜固定面から前記第一電極面に亘って延出した前記第一反射膜と、前記第一電極の外周縁とが積層されて構成されることが好ましい。
波長可変干渉フィルターでは、第一反射膜及び第二反射膜の間の反射膜間ギャップにより透過または反射して取り出される波長が決定される。したがって、波長可変干渉フィルターにおいて、より広い範囲の波長域に対応して透過または反射波長を取得するためには、反射膜間ギャップの変動範囲を大きくする必要がある。ここで、第一電極及び第二電極間に電圧を印加して、静電引力により反射膜間ギャップを変動させる場合、反射膜間ギャップよりも電極間ギャップの方が小さいと、電極間ギャップの間のみでしか反射膜間ギャップを変動させることができない。このような構成では、反射膜間ギャップの変動範囲が小さくなり、波長可変干渉フィルターにより取り出すことが可能な波長域が狭くなる。
これに対して、本発明では、電極間ギャップが反射膜間ギャップよりも大きく形成されているため、反射膜間ギャップをより大きい変動範囲で変化させることができ、波長可変干渉フィルターにより取り出すことが可能な波長域を広帯域化することができる。
また、一般に電極間に作用する静電引力は、距離の二乗に反比例するため、電極間ギャップが小さくなると、静電引力の制御が困難となり、反射膜間ギャップの調整が困難となる。これに対して、本発明では、電極間ギャップが反射膜間ギャップよりも大きく形成されるため、静電引力の制御が容易であり、反射膜間ギャップを精度よく所望の値に設定することができる。
【0010】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記積層部は、前記第一電極上に前記第一反射膜が積層されて構成されることが好ましい。
この発明では、積層部は、第一電極上に第一反射膜が積層される構成である。すなわち、第一基板上に、第一電極が形成された後に、第一反射膜が形成される。ここで、第一電極を形成する前に第一反射膜を第一基板に形成すると、第一電極の形成時に当該第一反射膜が劣化しやすく、波長可変干渉フィルターの分解能が低下してしまうなどの問題が発生する。これに対して、第一基板に第一電極を先に形成した後、第一反射膜を形成することで、製造工程における第一反射膜の劣化を抑制できる。したがって、反射特性が良好な第一反射膜を形成することができ、波長可変干渉フィルターにおける分解能の低下を抑えられる。
【0011】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記第二反射膜と接続された反射膜接続電極を備えることが好ましい。
この発明では、第二反射膜に反射膜接続電極が接続されているため、この反射膜接続電極から第二反射膜に滞留した電荷を逃がすことができ、第一反射膜及び第二反射膜の間での静電力の発生をより確実に防止することができる。したがって、第一電極及び第二電極に印加する電圧を制御することで、反射膜間ギャップを高精度に制御することができる。
また、反射膜接続電極と第一電極とを同電位に設定することもでき、この場合でも、第一反射膜及び第二反射膜間に静電引力が発生することがないため、反射膜間ギャップの制御を容易に、かつ高精度に実施することができる。
【0012】
本発明の光モジュールは、上述したような波長可変干渉フィルターと、前記波長可変干渉フィルターにより取り出される光を検出する検出部と、を備えることを特徴とする。
上述したように、本発明の波長可変干渉フィルターは、第一反射膜が帯電した場合でも、その電荷を第一電極から逃がすことができるので、反射膜間ギャップに静電力が発生せず、正確に反射膜間ギャップの寸法を制御することができる。これにより、波長可変干渉フィルターでは、高精度に所望波長の光を透過または反射させて取り出すことができる。そして、このような波長可変干渉フィルターを備えた光モジュールでは、波長可変干渉フィルターにより取り出された所望波長の光の光量を検出部で検出することで、当該所望波長の光の光量を正確に検出することができる。
【0013】
本発明の光モジュールでは、前記波長可変干渉フィルターは、前記第二反射膜に接続された反射膜接続電極を備え、当該光モジュールは、前記反射膜接続電極と、前記第一電極とを同電位にする電圧制御部を備えることが好ましい。
この発明では、電圧制御部は、第二反射膜に接続された反射膜接続電極と、第一電極とを同電位に設定する。これにより、第一反射膜及び第二反射膜の間の電位差が0となるため、第一反射膜及び第二反射膜間に静電引力が発生せず、反射膜間ギャップの寸法を精度よく制御することができる。
【0014】
本発明の電子機器は、上述の光モジュールを備えることを特徴とする。
本発明によれば、電子機器は、上述した波長可変干渉フィルターを有する光モジュールを備えるので、高精度に検出された所望波長の光の光量に基づいて、電子機器における各種電子処理を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る一実施形態の測色装置の概略構成を示すブロック図。
【図2】本実施形態の波長可変干渉フィルターの平面図。
【図3】本実施形態の波長可変干渉フィルターの断面図。
【図4】他の実施形態の波長可変干渉フィルターの概略構成を示す断面図。
【図5】他の実施形態の波長可変干渉フィルターの概略構成を示す断面図。
【図6】本発明の電子機器の他の例であるガス検出装置の概略図。
【図7】図6のガス分析装置のブロック図。
【図8】本発明の電子機器の他の例である食物分析装置の構成を示すブロック図。
【図9】本発明の電子機器の他の例である分光カメラの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る一実施形態を図面に基づいて説明する。
〔1.測色装置の概略構成〕
図1は、本実施形態の測色装置1(電子機器)の概略構成を示すブロック図である。
測色装置1は、図1に示すように、検査対象Aに光を射出する光源装置2と、測色センサー3(光モジュール)と、測色装置1の全体動作を制御する制御装置4とを備える。そして、この測色装置1は、光源装置2から射出される光を検査対象Aにて反射させ、反射された検査対象光を測色センサー3にて受光し、測色センサー3から出力される検出信号に基づいて、検査対象光の色度、すなわち検査対象Aの色を分析して測定する装置である。
【0017】
〔2.光源装置の構成〕
光源装置2は、光源21、複数のレンズ22(図1には1つのみ記載)を備え、検査対象Aに対して白色光を射出する。また、複数のレンズ22には、コリメーターレンズが含まれてもよく、この場合、光源装置2は、光源21から射出された白色光をコリメーターレンズにより平行光とし、図示しない投射レンズから検査対象Aに向かって射出する。なお、本実施形態では、光源装置2を備える測色装置1を例示するが、例えば検査対象Aが液晶パネルなどの発光部材である場合、光源装置2が設けられない構成としてもよい。
【0018】
〔3.測色センサーの構成〕
測色センサー3は、図1に示すように、波長可変干渉フィルター5と、波長可変干渉フィルター5を透過する光を受光する検出部31と、波長可変干渉フィルター5で透過させる光の波長を可変する電圧制御部32とを備える。また、測色センサー3は、波長可変干渉フィルター5に対向する位置に、検査対象Aで反射された反射光(検査対象光)を、内部に導光する図示しない入射光学レンズを備えている。そして、この測色センサー3は、波長可変干渉フィルター5により、入射光学レンズから入射した検査対象光のうち、所定波長の光を分光し、分光した光を検出部31にて受光する。
検出部31は、複数の光電交換素子により構成されており、受光量に応じた電気信号を生成する。そして、検出部31は、制御装置4に接続されており、生成した電気信号を受光信号として制御装置4に出力する。
【0019】
(3−1.波長可変干渉フィルターの構成)
図2は、波長可変干渉フィルター5の概略構成を示す平面図であり、図3は、波長可変干渉フィルター5の概略構成を示す断面図である。
波長可変干渉フィルター5は、図2に示すように、平面正方形状の板状の光学部材である。この波長可変干渉フィルター5は、図3に示すように、本発明の第一基板である固定基板51、および本発明の第二基板である可動基板52を備えている。これらの固定基板51及び可動基板52は、それぞれ例えば、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラスなどの各種ガラスや、水晶などにより形成されている。そして、これらの固定基板51及び可動基板52は、外周部近傍に形成される第一接合面513、第二接合面523が、例えばシロキサンを主成分とするプラズマ重合膜などにより構成された接合膜53により接合されることで、一体的に構成されている。
【0020】
固定基板51には、本発明の第一反射膜を構成する固定反射膜54が設けられ、可動基板52には、本発明の第二反射膜を構成する可動反射膜55が設けられている。ここで、固定反射膜54は、固定基板51の可動基板52に対向する面に固定され、可動反射膜55は、可動基板52の固定基板51に対向する面に固定されている。また、これらの固定反射膜54および可動反射膜55は、反射膜間ギャップG1を介して対向配置されている。
さらに、波長可変干渉フィルター5には、固定反射膜54および可動反射膜55の間の反射膜間ギャップG1の寸法を調整するのに用いられる静電アクチュエーター56が設けられている。この静電アクチュエーター56は、固定基板51側に設けられる本発明の第一電極としての固定電極561と、可動基板52側に設けられる本発明の第二電極としての可動電極562とを備えている。ここで、固定電極561及び可動電極562は、それぞれ固定基板51及び可動基板562の基板表面に直接設けられる構成であってもよく、他の膜部材を介して設けられる構成であってもよい。
また、波長可変干渉フィルター5を固定基板51(可動基板52)の基板厚み方向から見た図2に示すような平面視(以降、フィルター平面視と称す)において、固定基板51及び可動基板52の平面中心点Oは、固定反射膜54及び可動反射膜55の中心点と一致し、かつ後述する可動部521の中心点と一致する。
【0021】
(3−1−1.固定基板の構成)
固定基板51は、厚みが例えば500μmに形成されるガラス基材を加工することで形成される。具体的には、図3に示すように、固定基板51には、エッチングにより電極形成溝511および反射膜固定部512が形成されている。この固定基板51は、可動基板52に対して厚み寸法が大きく形成されており、固定電極561および可動電極562間に電圧を印加した際の静電引力や、固定電極561の内部応力による固定基板51の撓みはない。
【0022】
電極形成溝511は、フィルター平面視で、固定基板51の平面中心点Oを中心とした環状に形成されている。反射膜固定部512は、前記平面視において、電極形成溝511の中心部から可動基板52側に突出して形成される。ここで、電極形成溝511の溝底面が本発明の第一電極面である固定電極面511Aとなり、反射膜固定部512の突出先端面が本発明の反射膜固定面512Aとなる。
また、固定基板51には、電極形成溝511から、固定基板51の外周縁の各頂点C1,C2,C3方向に向かって延出する3つの電極引出溝(図示略)が設けられている。
【0023】
固定基板51の固定対向面51Aには、平面中心点Oを中心とした環状の固定電極561が形成されている。ここで、固定電極561の環状形状として、より好ましくは円環状に形成されることが好ましい。また、この円環形状としては、当該円環形状の一部から固定引出電極563が突出する構成や、円環の一部が欠けている構成、円環の一部が分断されている略C字状となる構成をも含む。
なお、これらの固定電極561上には、固定電極561および可動電極562の間の放電を防止するための絶縁膜が積層される構成としてもよい。
また、固定基板51には、固定電極561の外周縁から延出する固定引出電極563が形成されている。具体的には、この固定引出電極563は、固定電極561の外周縁のうち頂点C1に最も近接する位置から、頂点C1に向かう方向に延出する電極形成溝上に沿って、頂点C1まで形成されている。そして、固定引出電極563の先端部(固定基板51の頂点C1に位置する部分)は、固定電極パッド563Pを構成する。
【0024】
また、固定基板51には、電極形成溝511から固定基板51の頂点C2,C3に向かう方向に形成された電極引出溝に、それぞれ、第一対向電極581,第二対向電極582が設けられている。これらの第一対向電極581及び第二対向電極582は、固定電極561とは絶縁されている。また、これらの第一対向電極581及び第二対向電極582の先端部(固定基板51の頂点C2、C3に位置する部分)は、それぞれ、第一対向電極パッド581P及び第二対向電極パッド582Pを構成する。
【0025】
反射膜固定部512は、上述したように、電極形成溝511と同軸上で、電極形成溝511よりも小さい径寸法となる略円柱状に形成され、当該反射膜固定部512の可動基板52に対向する面(突出先端面)が本発明の反射膜固定面512Aとなる。
ここで、この反射膜固定部512は、上述のように、電極形成溝511から可動基板52側に突出して形成されている。したがって、反射膜固定面512Aは、固定電極面511Aよりも可動基板52に近接して位置している。すなわち、本実施形態では、電極間ギャップG2の寸法は、反射膜間ギャップG1の寸法よりも大きく形成される。
【0026】
また、電極形成溝511及び反射膜固定部512は、固定基板51の一面側をエッチング(ウェットエッチング)することで形成されるため、反射膜固定部512の外周側面512Bは、固定基板51の基板厚み方向と平行な面とはならず、反射膜固定面512Aから固定電極面511Aに向かって緩やかにカーブする曲面形状となる。
そして、固定反射膜54は、反射膜固定面512A、外周側面512B、さらに固定電極面511A上に設けられたリング状の固定電極561の内周部分までを覆うように設けられている。ここで、固定反射膜54及び固定電極561が積層される部分により積層部57を構成する。この固定反射膜54は、図2に示すように、フィルター平面視において、平面中心点Oを中心とした円形状に形成される。したがって、積層部57も平面中心点Oを中心とした仮想円に沿うリング状となる。
この固定反射膜54としては、導電体を用いることができる。導電体の膜としては、例えばAgやAg合金の単層膜を用いることができる。誘電体多層膜の場合は、例えば高屈折層をTiO、低屈折層をSiOとした誘電体多層膜を用いることができる。
このような固定反射膜54は、積層部57により固定電極561と面接触し、固定電極561と電気的に導通する。これにより、固定反射膜54が帯電した場合でも、滞留した電荷を固定電極561に逃がすことが可能となる。また、固定反射膜54として、絶縁体である誘電体膜及びその多層膜を金属膜に積層して用いる場合は、少なくとも積層部57における固定電極561との面接触部においては、金属膜と固定電極561とを直接接触させて電気的に導通させる。これにより、固定反射膜54が帯電した場合でも、金属膜及び金属膜と絶縁膜との界面近傍に滞留した電荷を、固定電極561に逃がすことが可能となる。
【0027】
さらに、固定基板51は、可動基板52とは反対側の面において、固定反射膜54に対応する位置に図示略の反射防止膜が形成されている。この反射防止膜は、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成され、固定基板51の表面での可視光の反射率を低下させ、透過率を増大させる。
【0028】
(3−1−2.可動基板の構成)
可動基板52は、厚みが例えば200μmに形成されるガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。
具体的には、可動基板52は、図2に示すようなフィルター平面視において、平面中心点Oを中心とした円形の可動部521と、可動部521と同軸であり可動部521を保持する保持部522と、を備えている。
また、可動基板52には、図2に示すように、固定基板51の各頂点C1,C2,C3に対応して、切欠部524が形成されており、波長可変干渉フィルター5を可動基板52側から見た面に固定電極パッド563P、第一対向電極パッド581P、及び第二対向電極パッド582Pが露出する。
【0029】
可動部521は、保持部522よりも厚み寸法が大きく形成され、例えば、本実施形態では、可動基板52の厚み寸法と同一寸法である200μmに形成されている。また、可動部521は、フィルター平面視において、少なくとも固定電極561の外周縁の径寸法よりも大きい径寸法に形成される。そして、可動部521の固定基板51に対向する面は、反射膜固定面512Aに平行な可動面521Aとなり、この可動面521Aには、固定反射膜54と反射膜間ギャップG1を介して対向する可動反射膜55、及び固定電極561と電極間ギャップG2を介して対向する可動電極562が固定される。
【0030】
可動反射膜55は、上述した固定反射膜54と同一の構成の反射膜が用いられる。また、可動基板52には、可動反射膜55の外周縁から延出する反射膜接続電極551が形成されている。この反射膜接続電極551は、可動反射膜55の外周縁のうち頂点C2に最も近接する位置から、頂点C2に向かって延出する。この反射膜接続電極551としては、導電性を有するものであればよく、例えば可動反射膜55が銀合金等の導電性の金属である場合、可動反射膜55と同様の素材を用い、可動反射膜55の形成時に反射膜接続電極551をパターン形成することができる。また、可動反射膜55と異なる部材であってもよく、この場合、例えば可動電極562と同じ素材により反射膜接続電極551を形成することで、可動電極562の形成時に反射膜接続電極551をパターン形成することができる。
そして、この反射膜接続電極551は、可動基板52の外周縁の近傍において、例えばAgペースト等の導電性部材58により、固定基板51の頂点C2の位置に形成された第一対向電極581(第一対向電極パッド581P)に電気的に接続される。これにより、固定基板51の頂点C2に位置する第一対向電極パッド581Pから可動反射膜55の帯電を除去することが可能となる。
【0031】
また、可動面521Aに設けられた可動電極562は、フィルター平面視において、固定電極561と重なる領域で、かつ頂点C2に対応する部分が開口するC字状に形成され、このC字開口部分に、反射膜接続電極551が頂点C2に向かって形成される。また、可動電極562の幅寸法は、固定電極561のリング幅寸法(内周縁の半径と外周縁の半径との差)と同寸法に形成されている。
そして、可動基板52には、可動電極562の外周縁から延出する可動引出電極564が形成されている。この可動引出電極564は、可動電極562の頂点C3に最も近接する位置から、頂点C3に向かって延出する。そして、この可動引出電極564は、可動基板52の外周縁の近傍において、例えばAgペースト等の導電性部材により、固定基板51の頂点C3の位置に形成された第二対向電極582(第二対向電極パッド582P)に電気的に接続される。
【0032】
さらに、可動部521は、固定基板51とは反対側の面において、図示略の反射防止膜が形成されている。この反射防止膜は、固定基板51に形成される反射防止膜と同様の構成を有し、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成される。
【0033】
保持部522は、可動部521の周囲を囲うダイアフラムであり、例えば厚み寸法が50μmに形成され、可動部521よりも厚み方向に対する剛性が小さく形成されている。
このため、保持部522は可動部521よりも撓みやすく、僅かな静電引力により固定基板51側に撓ませることが可能となる。この際、可動部521は、保持部522よりも厚み寸法が大きく、剛性が大きくなるため、静電引力により可動基板52を撓ませる力が作用した場合でも、可動部521の撓みはほぼなく、可動部521に形成された可動反射膜55の撓みも防止できる。
なお、本実施形態では、ダイアフラム状の保持部522を例示するが、これに限定されず、例えば、平面中心点Oを中心として、等角度間隔で配置された梁状の保持部が設けられる構成などとしてもよい。
【0034】
(3−2.電圧制御手段の構成)
電圧制御部32は、固定電極パッド563P、第一対向電極パッド581P、第二対向電極パッド582Pに接続され、制御装置4からの入力される制御信号に基づいて、これらの固定電極パッド563P、第一対向電極パッド581P、及び第二対向電極パッド582Pを所定の電位に設定することで、静電アクチュエーター56に電圧を印加して駆動させる。
具体的には、電圧制御部32は、第一対向電極パッド581P及び固定電極パッド563Pを接地し、第二対向電極パッド582Pに対して、反射膜間ギャップG1を所定の寸法に設定するための電位を設定する。これにより、固定電極パッド563Pに接続された固定電極561と、第二対向電極パッド582Pに接続された可動電極562との間に電圧が印加され、静電引力により可動部521が固定基板51側に移動して、反射膜間ギャップG1の寸法が所定値に設定される。この時、第一対向電極パッド581P及び固定電極パッド563Pの双方が接地されるため、固定反射膜54及び可動反射膜55が帯電していたとしても、電荷を逃がすことができ、固定反射膜54及び可動反射膜55間に帯電による静電力が作用することがない。したがって、反射膜間ギャップG1の設定に当たり、固定反射膜54及び可動反射膜55間に作用する静電力を考慮することなく、固定電極561及び可動電極562間の電圧を設定するだけで精度よく反射膜間ギャップG1を所望の目標値に設定することができる。
なお、本実施形態では、第一対向電極パッド581P,固定電極パッド563Pを接地する構成とするが、所定の電位を設定可能な構成としてもよく、この場合、第二対向電極パッド582Pの設定電位と固定電極パッド563Pの設定電位との電位差が駆動電圧として静電アクチュエーター56に印加されて、反射膜間ギャップG1の寸法を制御することができる。また、この場合でも、第一対向電極パッド581P及び固定電極パッド563Pを同電位に設定することで、固定反射膜54及び可動反射膜55が同電位となり、反射膜間ギャップG1間での静電引力をなくすことができる。
また、電圧制御部32は、第二対向電極パッド582Pを接地し、第一対向電極パッド581P及び固定電極パッド563Pに、静電アクチュエーター56を駆動するための電位を設定する構成としてもよい。この場合でも、電圧制御部32は、第一対向電極パッド581P及び固定電極パッド563Pに設定された電位に基づいた印可電圧により静電アクチュエーター56を駆動させることができる。加えて、第一対向電極パッド581P,固定電極パッド563Pに同電位が設定されることで、固定反射膜54、及び可動反射膜55間で静電引力が作用せず、第一対向電極パッド581P及び固定電極パッド563Pに設定した電位により、反射膜間ギャップG1を精度よく制御することができる。
【0035】
〔4.制御装置の構成〕
制御装置4は、測色装置1の全体動作を制御する。
この制御装置4としては、例えば汎用パーソナルコンピューターや、携帯情報端末、その他、測色専用コンピューターなどを用いることができる。
そして、制御装置4は、図1に示すように、光源制御部41、測色センサー制御部42、および本発明の分析処理部を構成する測色処理部43などを備えて構成されている。
光源制御部41は、光源装置2に接続されている。そして、光源制御部41は、例えば利用者の設定入力に基づいて、光源装置2に所定の制御信号を出力し、光源装置2から所定の明るさの白色光を射出させる。
測色センサー制御部42は、測色センサー3に接続されている。そして、測色センサー制御部42は、例えば利用者の設定入力に基づいて、測色センサー3にて受光させる光の波長を設定し、この波長の光の受光量を検出する旨の制御信号を測色センサー3に出力する。これにより、測色センサー3の電圧制御部32は、制御信号に基づいて、利用者が所望する光の波長のみを透過させるよう、静電アクチュエーター56への印加電圧を設定する。
測色処理部43は、検出部31により検出された受光量から、検査対象Aの色度を分析する。
【0036】
〔5.実施形態の作用効果〕
上述したように、本実施形態に係る波長可変干渉フィルター5では、固定基板51は、可動基板52からの距離が異なる固定電極面511A及び反射膜固定面512Aを有し、固定電極面511Aに固定電極561が設けられ、反射膜固定面512Aから固定電極面511Aの一部に亘って固定反射膜54が設けられている。そして、固定反射膜54の外周部は、固定電極561の内周部に積層され、これらの積層体により積層部57が形成されている。このため、積層部57において、固定反射膜54と固定電極561とが面接触することで、固定反射膜54と固定電極561とが電気的に導通し、固定反射膜54が帯電した場合でも、固定電極561から電荷を逃がすことができる。したがって、固定反射膜54及び可動反射膜55の帯電による静電力の発生を防止でき、電圧制御部32による反射膜間ギャップG1の寸法の調整を容易、かつ高精度に実施することができる。
この時、積層部57において、固定反射膜54と固定電極561とが面接触することで、確実に固定反射膜54及び固定電極561の導通を確保でき、固定反射膜54の電荷を固定電極561に逃がすことができる。また、固定反射膜54及び固定電極561を積層することで積層部57の厚み寸法が、固定反射膜54や固定電極561よりも大きくなるが、積層部57は、可動基板52からの距離が大きい固定電極面511A上に設けられているため、積層部57の厚みにより反射膜間ギャップG1の変動可能範囲が阻害されることがなく、反射膜間ギャップG1の変動可能領域を十分に確保することができる。
【0037】
また、固定基板51において、反射膜固定面512Aは、固定電極面511Aから可動基板52側に突出して形成され、電極間ギャップG2の寸法は、反射膜間ギャップG1の寸法よりも大きくなる。このため、反射膜間ギャップG1の変動可能領域を大きくでき、測色装置1の測定可能波長域を広域化することができる。また、固定電極561,可動電極562間での静電引力の制御が容易となり、反射膜間ギャップG1の寸法をより精度よく、所望の値に設定することができる。
【0038】
更に、積層部57において、固定反射膜54は、固定電極561上に積層されている。このような波長可変干渉フィルター5は、製造時において、固定電極561を成膜した後、固定反射膜54を成膜することで容易に形成することができ、また、固定反射膜54が固定電極561の後に成膜されるため、製造時における固定反射膜54のダメージを抑制することができる。
【0039】
そして、可動反射膜55には、反射膜接続電極551が接続され、反射膜接続電極551は、第一対向電極パッド581Pから電圧制御部32に接続されて接地されている。このため、可動反射膜55が帯電した場合でも、反射膜接続電極551から電荷を逃がすことができ、固定反射膜54及び可動反射膜55間での静電力の発生をより確実に防止することができる。
また、第一対向電極パッド581P及び固定電極パッド563Pに設定される電位としては接地による0電位に限られず、電圧制御部32により第一対向電極パッド581P及び固定電極パッド563Pが同電位に設定されていればよい。の場合でも、固定反射膜54及び可動反射膜55が同電位となるため、固定反射膜54及び可動反射膜55間での静電引力の発生を防止することができる。
【0040】
[実施形態の変形]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上記実施形態では、第一基板を固定基板51とし、固定基板51に異なる高さ位置に形成された固定電極面511A及び反射膜固定面512Aが設けられる例を示したが、図4に示すように、第一基板を可動基板52とする構成としてもよい。
図4は、他の実施形態における波長可変干渉フィルター5Aの概略構成を示す断面図である。
【0041】
図4に示すように、波長可変干渉フィルター5Aは、固定基板51と可動基板52とを備えている。
固定基板51は、固定電極面511Aを有する電極形成溝511と、反射膜固定面512Aを有する反射膜固定部512と有している。ここで、上記実施形態とは異なり、固定電極561及び反射膜54は、それぞれ、固定電極面511A上及び反射膜固定面512A上に独立して設けられている。また、図示は省略するが、固定電極561は、フィルター平面視において、略C字状に形成され、C字開口部において、固定反射膜54に接続された反射膜接続電極が固定基板51の測色装置1の頂点(例えば、図2における頂点C2)に向かって延出して形成されている。
【0042】
一方、可動基板52は、可動部521から固定基板51側に突出する突出部525と、電極形成凹部526とを備えている。ここで、突出部525の突出先端面(突出面525A)は、本発明の第一反射膜固定面を構成し、電極形成凹部526の底面526Aは、本発明の第一電極面を構成し、底面526Aは、突出面525Aよりも固定基板51からの距離が大きく形成されている。
そして、底面526Aには、フィルター平面視において、固定電極561と重なる位置に、固定電極561に電極間ギャップG2を介して対向する可動電極562が設けられている。また、突出面525Aには、固定反射膜54に反射膜間ギャップG1を介して対向する可動反射膜55が設けられ、この可動反射膜55は、突出面525Aから底面526Aの一部に亘って設けられている。そして、可動反射膜55の外周部は、固定電極561の内周部に積層され、積層部57Aを構成する。
【0043】
このような波長可変干渉フィルター5Aにおいても、上述した波長可変干渉フィルター5と同様に、可動反射膜55が帯電した場合でも、可動電極562に電荷を逃がすことができる。また、固定反射膜54が帯電した場合でも、反射膜接続電極により電荷を逃がすことができる。したがって、固定反射膜54及び可動反射膜55間に静電引力が作用せず、固定電極561及び可動電極562間に印加する電圧を制御することで精度よく反射膜間ギャップG1の寸法を設定することができる。
【0044】
また、上記実施形態及び図4に示す例では、互いに対向する一対の電極(固定電極561及び可動電極562)により静電アクチュエーター56が構成される例を示したが、図5に示すように、複数の電極により静電アクチュエーター56が形成される構成としてもよい。図5は、他の実施形態の波長可変干渉フィルター5Bの概略構成を示す断面図である。
図5に示す波長可変干渉フィルター5Bは、内側可動電極562Aと、外側可動電極562Bとにより、可動電極562が構成される。このような波長可変干渉フィルター5Bでは、内側可動電極562A及び固定電極561間に印加する電圧と、外側可動電極562B及び固定電極561間に印加する電圧をそれぞれ個別に制御することで、可動部521の変位量をより精度よく設定することができる。
【0045】
さらに、上記実施形態では、図3に示すように、反射膜固定部512の可動基板52に対向する反射膜固定面512Aが、固定電極面511Aよりも可動基板52に近接して形成され、電極間ギャップG2の寸法が反射膜間ギャップG1の寸法より大きくなる例を示すが、これに限らない。固定電極面511Aおよび反射膜固定面512Aの高さ位置は、当該波長可変干渉フィルター5により透過させる光の波長域(測定波長域)、すなわち反射膜間ギャップG1の変化可能範囲や、電極間ギャップG2の寸法、固定反射膜54や可動反射膜55の厚み寸法等、により適宜設定される。したがって、例えば、固定電極面511Aの中心部に、円柱凹溝上の反射膜固定溝が形成され、この反射膜固定溝の底面に反射膜固定面が形成される構成などとしてもよい。この場合、可動基板52からの距離が大きくなる反射膜固定溝の底面部において、固定反射膜54及び固定電極561が積層される積層部57を設けることで、積層部57の厚み寸法により、電極間ギャップG2の変動可能量が規制される不都合を回避することができる。
【0046】
また、上記実施形態において、第一電極として、静電アクチュエーター56を構成する固定電極561を例示したが、これに限定されない。例えば、固定基板51の固定電極面511Aに固定反射膜54の電荷を除去するための帯電除去電極が設けられ、固定反射膜54は、この帯電除去電極に積層されることで、帯電を除去してもよい。
また、図4に示す例においても、固定反射膜54は、図示しない反射膜接続線に接続されて、この反射膜接続線から帯電が除去されるとしたが、例えば固定基板51の固定電極面511A上に、帯電除去電極を形成し、この帯電除去電極上で固定反射膜54を積層させる構成としてもよい。この場合、反射膜固定面512Aよりも、可動基板52から距離が大きい固定電極面511A上で、帯電除去電極と固定反射膜54との積層体が形成されることになるため、この積層体の厚みにより反射膜間ギャップG1の変動可能範囲が狭まることがなく、かつ、帯電除去電極と固定反射膜54とを面接触させることで、固定反射膜54が帯電した場合でもより確実に電荷を逃がすことができる。
【0047】
なお、上記実施形態、及び図4、図5に示す例では、電極間ギャップG2が反射膜間ギャップG1より大きくなる構成を例示したが、例えば電極間ギャップG2が反射膜間ギャップG1より小さくなる構成としてもよい。この場合、反射膜間ギャップG1の変動可能範囲が電極間ギャップG2により規制されることになるが、測定対象となる波長域に対して、十分な寸法が確保されている場合などであれば問題にならない。ただし、上述したように、静電引力は、距離の二乗に反比例して大きくなるため、電極間ギャップG2の距離が小さくなれば、反射膜間ギャップG1の制御が困難となる。
【0048】
また、積層部57は、固定電極561上に固定反射膜54が積層されることで構成されたが、固定反射膜54上に固定電極561が積層される構成としてもよい。
この場合、固定反射膜54として、例えば銀合金等の劣化しやすい素材を用いると、固定反射膜54の形成後の固定電極561の形成時に劣化が発生するおそれがあるが、例えば形成された固定反射膜54をマスキング等することで、工程数が増大するが、劣化を抑えることもできる。また、固定反射膜54が劣化する場合、通常、外周縁から劣化が進行するが、固定反射膜54の外周縁が固定電極561により覆われる構成であれば、固定反射膜54の劣化の進行を抑制することができる。
【0049】
本発明の電子機器として、測色装置1を例示したが、その他、様々な分野により本発明の波長可変干渉フィルター、光モジュール、電子機器を用いることができる。
例えば、特定物質の存在を検出するための光ベースのシステムとして用いることができる。このようなシステムとしては、例えば、本発明の波長可変干渉フィルターを用いた分光計測方式を採用して特定ガスを高感度検出する車載用ガス漏れ検出器や、呼気検査用の光音響希ガス検出器などのガス検出装置を例示できる。
このようなガス検出装置の一例を以下に図面に基づいて説明する。
【0050】
図6は、波長可変干渉フィルターを備えたガス検出装置の一例を示す概略図である。
図7は、図6のガス検出装置の制御系の構成を示すブロック図である。
このガス検出装置100は、図6に示すように、センサーチップ110と、吸引口120A、吸引流路120B、排出流路120C、および排出口120Dを備えた流路120と、本体部130と、を備えて構成されている。
本体部130は、流路120を着脱可能な開口を有するセンサー部カバー131、排出手段133、筐体134、光学部135、フィルター136、波長可変干渉フィルター5、および受光素子137(検出部)等を含む検出装置(光モジュール)と、検出された信号を処理し、検出部を制御する制御部138、電力を供給する電力供給部139等から構成されている。また、光学部135は、光を射出する光源135Aと、光源135Aから入射された光をセンサーチップ110側に反射し、センサーチップ側から入射された光を受光素子137側に透過するビームスプリッター135Bと、レンズ135C,135D,135Eと、により構成されている。なお、波長可変干渉フィルター5を用いる構成を例示するが、上述した波長可変干渉フィルター5A,5Bを用いる構成としてもよい。
また、図7に示すように、ガス検出装置100の表面には、操作パネル140、表示部141、外部とのインターフェイスのための接続部142、電力供給部139が設けられている。電力供給部139が二次電池の場合には、充電のための接続部143を備えてもよい。
さらに、ガス検出装置100の制御部138は、図7に示すように、CPU等により構成された信号処理部144、光源135Aを制御するための光源ドライバー回路145、波長可変干渉フィルター5を制御するための電圧制御部146、受光素子137からの信号を受信する受光回路147、センサーチップ110のコードを読み取り、センサーチップ110の有無を検出するセンサーチップ検出器148からの信号を受信するセンサーチップ検出回路149、および排出手段133を制御する排出ドライバー回路150などを備えている。
【0051】
次に、上記のようなガス検出装置100の動作について、以下に説明する。
本体部130の上部のセンサー部カバー131の内部には、センサーチップ検出器148が設けられており、このセンサーチップ検出器148でセンサーチップ110の有無が検出される。信号処理部144は、センサーチップ検出器148からの検出信号を検出すると、センサーチップ110が装着された状態であると判断し、表示部141へ検出動作を実施可能な旨を表示させる表示信号を出す。
【0052】
そして、例えば利用者により操作パネル140が操作され、操作パネル140から検出処理を開始する旨の指示信号が信号処理部144へ出力されると、まず、信号処理部144は、光源ドライバー回路145に光源作動の信号を出力して光源135Aを作動させる。光源135Aが駆動されると、光源135Aから単一波長で直線偏光の安定したレーザー光を射出される。また、光源135Aには、温度センサーや光量センサーが内蔵されており、その情報が信号処理部144へ出力される。そして、信号処理部144は、光源135Aから入力された温度や光量に基づいて、光源135Aが安定動作していると判断すると、排出ドライバー回路150を制御して排出手段133を作動させる。これにより、検出すべき標的物質(ガス分子)を含んだ気体試料が、吸引口120Aから、吸引流路120B、センサーチップ110内、排出流路120C、排出口120Dへと誘導される。
【0053】
また、センサーチップ110は、金属ナノ構造体が複数組み込まれ、局在表面プラズモン共鳴を利用したセンサーである。このようなセンサーチップ110では、レーザー光により金属ナノ構造体間で増強電場が形成され、この増強電場内にガス分子が入り込むと、分子振動の情報を含んだラマン散乱光、およびレイリー散乱光が発生する。
これらのレイリー散乱光やラマン散乱光は、光学部135を通ってフィルター136に入射し、フィルター136によりレイリー散乱光が分離され、ラマン散乱光が波長可変干渉フィルター5に入射する。そして、信号処理部144は、電圧制御部146を制御し、波長可変干渉フィルター5に印加する電圧を調整し、検出対象となるガス分子に対応したラマン散乱光を波長可変干渉フィルター5で分光させる。この後、分光した光が受光素子137で受光されると、受光量に応じた受光信号が受光回路147を介して信号処理部144に出力される。
信号処理部144は、上記のようにして得られた検出対象となるガス分子に対応したラマン散乱光のスペクトルデータと、ROMに格納されているデータとを比較し、目的のガス分子か否かを判定し、物質の特定をする。また、信号処理部144は、表示部141にその結果情報を表示させたり、接続部142から外部へ出力したりする。
【0054】
なお、上記図6及び図7において、ラマン散乱光を波長可変干渉フィルター5により分光して分光されたラマン散乱光からガス検出を行うガス検出装置100を例示したが、ガス検出装置として、ガス固有の吸光度を検出することでガス種別を特定するガス検出装置として用いてもよい。この場合、センサー内部にガスを流入させ、入射光のうちガスにて吸収された光を検出するガスセンサーを本発明の光モジュールとして用いる。そして、このようなガスセンサーによりセンサー内に流入されたガスを分析、判別するガス検出装置を本発明の電子機器とする。このような構成でも、本発明の波長可変干渉フィルターを用いてガスの成分を検出することができる。
【0055】
また、特定物質の存在を検出するためのシステムとして、上記のようなガスの検出に限られず、近赤外線分光による糖類の非侵襲的測定装置や、食物や生体、鉱物等の情報の非侵襲的測定装置等の、物質成分分析装置を例示できる。
以下に、上記物質成分分析装置の一例として、食物分析装置を説明する。
【0056】
図8は、波長可変干渉フィルター5を利用した電子機器の一例である食物分析装置の概略構成を示す図である。なお、ここでは波長可変干渉フィルター5を用いているが、波長可変干渉フィルター5A,5Bを用いる構成としてもよい。
この食物分析装置200は、図8に示すように、検出器210(光モジュール)と、制御部220と、表示部230と、を備えている。検出器210は、光を射出する光源211と、測定対象物からの光が導入される撮像レンズ212と、撮像レンズ212から導入された光を分光する波長可変干渉フィルター5と、分光された光を検出する撮像部213(検出部)と、を備えている。
また、制御部220は、光源211の点灯・消灯制御、点灯時の明るさ制御を実施する光源制御部221と、波長可変干渉フィルター5を制御する電圧制御部222と、撮像部213を制御し、撮像部213で撮像された分光画像を取得する検出制御部223と、信号処理部224と、記憶部225と、を備えている。
【0057】
この食物分析装置200は、システムを駆動させると、光源制御部221により光源211が制御されて、光源211から測定対象物に光が照射される。そして、測定対象物で反射された光は、撮像レンズ212を通って波長可変干渉フィルター5に入射する。波長可変干渉フィルター5は電圧制御部222の制御により所望の波長を分光可能な電圧が印加されており、分光された光が、例えばCCDカメラ等により構成される撮像部213で撮像される。また、撮像された光は分光画像として、記憶部225に蓄積される。また、信号処理部224は、電圧制御部222を制御して波長可変干渉フィルター5に印加する電圧値を変化させ、各波長に対する分光画像を取得する。
【0058】
そして、信号処理部224は、記憶部225に蓄積された各画像における各画素のデータを演算処理し、各画素におけるスペクトルを求める。また、記憶部225には、例えばスペクトルに対する食物の成分に関する情報が記憶されており、信号処理部224は、求めたスペクトルのデータを、記憶部225に記憶された食物に関する情報を基に分析し、検出対象に含まれる食物成分、およびその含有量を求める。また、得られた食物成分および含有量から、食物カロリーや鮮度等をも算出することができる。さらに、画像内のスペクトル分布を分析することで、検査対象の食物の中で鮮度が低下している部分の抽出等をも実施することができ、さらには、食物内に含まれる異物等の検出をも実施することができる。
そして、信号処理部224は、上述のようにした得られた検査対象の食物の成分や含有量、カロリーや鮮度等の情報を表示部230に表示させる処理をする。
【0059】
また、図8において、食物分析装置200の例を示すが、略同様の構成により、上述したようなその他の情報の非侵襲的測定装置としても利用することができる。例えば、血液等の体液成分の測定、分析等、生体成分を分析する生体分析装置として用いることができる。このような生体分析装置としては、例えば血液等の体液成分を測定する装置として、エチルアルコールを検知する装置とすれば、運転者の飲酒状態を検出する酒気帯び運転防止装置として用いることができる。また、このような生体分析装置を備えた電子内視鏡システムとしても用いることができる。
さらには、鉱物の成分分析を実施する鉱物分析装置としても用いることができる。
【0060】
さらには、本発明の波長可変干渉フィルター、光モジュール、電子機器としては、以下のような装置に適用することができる。
例えば、各波長の光の強度を経時的に変化させることで、各波長の光でデータを伝送させることも可能であり、この場合、光モジュールに設けられた波長可変干渉フィルターにより特定波長の光を分光し、受光部で受光させることで、特定波長の光により伝送されるデータを抽出することができ、このようなデータ抽出用光モジュールを備えた電子機器により、各波長の光のデータを処理することで、光通信を実施することもできる。
【0061】
また、電子機器としては、本発明の波長可変干渉フィルターにより光を分光することで、分光画像を撮像する分光カメラ、分光分析機などにも適用できる。このような分光カメラの一例として、波長可変干渉フィルターを内蔵した赤外線カメラが挙げられる。
図9は、分光カメラの概略構成を示す模式図である。分光カメラ300は、図9に示すように、カメラ本体310と、撮像レンズユニット320と、撮像部330(検出部)とを備えている。
カメラ本体310は、利用者により把持、操作される部分である。
撮像レンズユニット320は、カメラ本体310に設けられ、入射した画像光を撮像部330に導光する。また、この撮像レンズユニット320は、図9に示すように、対物レンズ321、結像レンズ322、及びこれらのレンズ間に設けられた波長可変干渉フィルター5を備えて構成されている。
撮像部330は、受光素子により構成され、撮像レンズユニット320により導光された画像光を撮像する。
このような分光カメラ300では、波長可変干渉フィルター5により撮像対象となる波長の光を透過させることで、所望波長の光の分光画像を撮像することができる。
【0062】
さらには、本発明の波長可変干渉フィルターをバンドパスフィルターとして用いてもよく、例えば、発光素子が射出する所定波長域の光のうち、所定の波長を中心とした狭帯域の光のみを波長可変干渉フィルターで分光して透過させる光学式レーザー装置としても用いることができる。
また、本発明の波長可変干渉フィルターを生体認証装置として用いてもよく、例えば、近赤外領域や可視領域の光を用いた、血管や指紋、網膜、虹彩などの認証装置にも適用できる。
【0063】
さらには、光モジュールおよび電子機器を、濃度検出装置として用いることができる。この場合、波長可変干渉フィルターにより、物質から射出された赤外エネルギー(赤外光)を分光して分析し、サンプル中の被検体濃度を測定する。
【0064】
上記に示すように、本発明の波長可変干渉フィルター、光モジュール、および電子機器は、入射光から所定の光を分光するいかなる装置にも適用することができる。そして、本発明の波長可変干渉フィルターは、上述のように、1デバイスで複数の波長を分光させることができるため、複数の波長のスペクトルの測定、複数の成分に対する検出を精度よく実施することができる。したがって、複数デバイスにより所望の波長を取り出す従来の装置に比べて、光モジュールや電子機器の小型化を促進でき、例えば、携帯用や車載用の光学デバイスとして好適に用いることができる。
【0065】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更できる。
【符号の説明】
【0066】
1…測色装置(電子機器)、3…測色センサー(光モジュール)、5,5A,5B…波長可変干渉フィルター、31…検出部、32…電圧制御部、51…固定基板(第一基板)、52…可動基板(第二基板)、54…固定反射膜(第一反射膜)、55…可動反射膜(第二反射膜)、57,57A…積層部、511A…固定電極面(第一電極面)、512A…反射膜固定面(第一反射膜固定面)、551…反射膜接続電極、561…固定電極(第一電極)、562…可動電極(第二電極)、G1…反射膜間ギャップ、G2…電極間ギャップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一基板と、
前記第一基板に対向する第二基板と、
前記第一基板の前記第二基板に対向する面に設けられた第一反射膜と、
前記第二基板の前記第一基板に対向する面に設けられ、前記第一反射膜と反射膜間ギャップを介して対向する第二反射膜と、
前記第一基板の前記第二基板に対向する面に設けられた第一電極と、
を備え、
前記第一基板は、
前記第一反射膜が設けられる第一反射膜固定面と、
前記第一電極が設けられ、前記第二基板からの距離が前記第一反射膜固定面とは異なる第一電極面と、を有し、
前記第一反射膜固定面及び前記第一電極面のうち、前記第二基板からの距離が大きい面に、前記第一反射膜及び前記第一電極を積層した積層部が設けられる
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項2】
請求項1に記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記第二基板の前記第一基板に対向する面に設けられ、前記反射膜間ギャップよりも大きい電極間ギャップを介して、前記第一電極と対向する第二電極を備え、
前記積層部は、前記第一反射膜固定面から前記第一電極面に亘って延出した前記第一反射膜と、前記第一電極の外周縁とが積層されて構成される
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の波長可変干渉フルターにおいて、
前記積層部は、前記第一電極上に前記第一反射膜が積層されて構成される
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記第二反射膜と接続された反射膜接続電極を備えた
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターと、
前記波長可変干渉フィルターにより取り出される光を検出する検出部と、
を備えたことを特徴とする光モジュール。
【請求項6】
請求項5に記載の光モジュールにおいて、
前記波長可変干渉フィルターは、前記第二反射膜に接続された反射膜接続電極を備え、
当該光モジュールは、前記反射膜接続電極と、前記第一電極とを同電位にする電圧制御部を備える
ことを特徴とする光モジュール。
【請求項7】
請求項5または請求項6の記載の光モジュールを備えた
ことを特徴とする電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−220765(P2012−220765A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87225(P2011−87225)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】