説明

潤滑剤供給体

【課題】環境に悪影響がない潤滑剤供給体を提供する。
【解決手段】生分解性を有する潤滑剤を含有したポリマを備え、潤滑を必要としている被潤滑部材に、このポリマから前記生分解性潤滑剤を供給するように構成されたことを特徴とする潤滑剤供給体であって、前記ポリマの合成樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系合成樹脂であることを特徴とする、潤滑剤供給剤により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑剤を供給するための部材に係わり、特に、互いに転動、あるいは摺接される関係にある複数の部材間に置かれて、これらの部材間へ潤滑剤を与えるために使用される潤滑剤供給体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種の供給体としては、例えば、実願平5−33341(実開平7−4952号)のマイクロフィルム(以下、「第1従来例」と称する。)に記載されたもの、さらに、特開平6−346919号公報(以下、「第2従来例」と称する。)に記載されたものがある。
【0003】
第1従来例のものは、ボールねじのナットの端部に、ねじ軸のねじ溝と摺接可能に潤滑剤含有ポリマ部材がシ−ル部材を兼ねて装着された構成を有し、経時的にポリマから徐々に滲み出す潤滑剤がねじ溝を経てからボールヘと自動的に供給されて長期間にわたりボールねじの潤滑作用を発揮できるように構成されている。
【0004】
第2従来例のものは、リニアガイド装置のスライダに装着されるサイドシール等のシール部材を、潤滑剤を含有するゴム又は合成樹脂により形成している。そして、シールリップ部が接触する案内レールの側面の転動体転動溝面に、含有潤滑剤が経時的に徐々に滲み出されて転動体へと自動的に供給される。この結果、第2の従来例に係わる潤滑剤含有部材も、長期間にわたり潤滑作用を発揮できるようになる。
【特許文献1】実願平5−33341(実開平7−4952号)のマイクロフィルム
【特許文献2】特開平6−346919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のこの種の潤滑剤供給体には以下のような問題点がある。潤滑剤供給体が建設機械、農業機械、港湾設備機械、排水処理装置等で使用されると、それらの機械の使用箇所にある土壊、河川及び海などの水資源に、潤滑剤供給体から滲み出してくる潤滑剤が混入する可能性がある。勢い、潤滑剤の漏洩が完全に無い構成を潤滑剤供給システムに実現しようとすると、潤滑剤に対するシール機構の構造が複雑となり実現が困難となる。一方、このまま潤滑剤が環境に漏洩することを放置すると、環境汚染の要因にもなりかねない。
【0006】
そこで、本発明は、環境汚染を防ぐことに対して有効である新規な潤滑剤供給体を提供とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明は、潤滑剤供給体において、生分解性を有する潤滑剤を含有したポリマを備え、潤滑を必要としている被潤滑部材に、当該ポリマから前記生分解性潤滑剤を供給するように構成されたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明において、「生分解性」とは、潤滑剤が土壌などの環境に置かれたときに、環境自体の力で分解される性質を持つことをいう。この種の「生分解性」の中には、たとえば、土壌中や河川・湖沼、海などの水中の微生物の作用によって分解されることがある。本発明の潤滑剤には、グリース潤滑、油潤滑のいずれの場合も含まれる。
【0009】
さらに、本発明における被潤滑部材とは、後述の実施例に示されるような、互いに、転がり接触或いは摺接する2部材であり、具体的には、リニアガイドのサイドシール装置等である。
【0010】
本発明の他の形態は、前記潤滑剤供給体を備え、潤滑を必要とする箇所にこの潤滑剤供給体からの潤滑剤を供給するように構成された潤滑システム、潤滑方法及び、リニアガイド、ボールネジ、転がり軸受等の転がり部材である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、潤滑剤供給体が含有する潤滑剤が生分解性であることから、土壌や水資源等に潤滑剤が混入しても、微生物によって分解され、環境汚染を防止することが可能となる。したがって、本発明に係わる潤滑剤供給体を、建設機械、農業機械、港湾設備機械、排水処理施設等で使用される被潤滑部材に適用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本発明の潤滑剤供給部材の潤滑剤の含有量は、30〜90重量%である。これ未満の含有量では、被潤滑部材への潤滑が十分期待できない可能性があり、上限を越える含有量では、潤滑剤に対するポリマの相対量が少なくなり、潤滑剤供給部材、すなわち成形製品としての機械的強度特牲が低下してしまう可能性がある。被潤滑部材への潤滑剤供給量と潤滑部材の機械的強度とを考慮すると、より好ましい潤滑剤の含有量は、40〜80重量%である。
【0013】
次に、本発明の潤滑剤供給体の組成について説明する。潤滑剤供給体を成すための潤滑剤としては、グリース潤滑の場合も油潤滑の場合もともに生分解性が高いことが要求される。油潤滑剤としては、次のものがある。脂肪酸ジエステル、ポリオールエステルが好適である。脂肪酸ジエステルとしては、具体的には、アジピン酸ジイソデシル、アゼライン酸ジイソデシル、セバチン酸ジオクチル等である。ポリオールエステルとしては、具体的には、ネオペンチルグリコールジエステル(炭素鎖:n−C9,br−C9,オレイル等),トリメチロールプロパントリエステル(炭素鎖:n−C6,n−C7,br−C8,イソステアリル,オレイル等),ペンタエリスリトールテトラエステル(炭素鎖:n−C6,n−C8,br−C8,イソステアリル,オレイル等),ジペンタエリスリトールヘキサエステル(炭素鎖:n−C6等)等である。
【0014】
上記のエステルの他に、常温で液体の菜種油・ヒマシ油等の脂肪油(脂肪酸のグリセリンエステル)あるいはその構造に類似する構造の脂肪酸トリグリセライド(炭素鎖:n−C8,n−C12,オレイル等)も使用できる。
【0015】
グリース潤滑の場合は次のとおりである。上記のエステル類を基油とし、リチウム石鹸・ヒドロキシリリチウム石鹸・カルシウム石鹸・ヒドロキシリチウム石鹸・(カルシウム+リチウム)石鹸・複合リチウム石鹸・有機化ベントナイト等を増ちょう剤とするグリースも使用可能である。
【0016】
上記潤滑剤には、酸化防止剤、防錆剤、摩耗防止剤が添加してあるものでもよいが、添加剤にはZnなどの重金属が含有されずに潤滑剤の生分解性を妨げないものが良い。
【0017】
潤滑剤の生分解性は高いことが好適であり、具体的にはCECL−33−T−82の生分解性試験による生分解性で80パーセント以上、好ましくは、90パーセント以上であることが、いわゆる「環境に優しい」ために好適である。ここで、「CEC」とは、Co-ordinating European Councilの略称である。また、L−33−T−82は、欧州規格諮問委員会での、2ストロークサイクル船外機エンジンオイルについての生分解性試験法である。作動油、グリース等の不水溶性のサンプルにも応用できる。具体的な試験法は、試料を微生物源と共に25℃×21日間振とう培養し、四塩化炭素抽出分を赤外分光分析し、残油量より生分解率(%)を算出する。
【0018】
本発明の潤滑剤に望まれる耐熱性は、グリースの場合、酸化安定度(摂氏99度、100時間)が50kPa以下、好ましくは、30kPa以下が適している。基油がペンタエリスリトールテトラエステルの場合、増ちょう剤がリチウムコンプレックス石けんのグリースで25kPa程度である。
【0019】
酸化安定度試験は、JISK2220 5.8で定められており、試料を酸素圧0.76Mpaのボンベ中で摂氏99度に加熱し、一定時間毎に圧力降下を記録して100時間後の酸素圧の減少を測定することによって行われる。
【0020】
潤滑油の場合は、JIS K2514で規定される潤滑油の酸化安定度試験で全酸価の増加量が80mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下が好適である。潤滑油或いはグリースの基油としては、ペンタエリスリトールテトラエステルベースのものが、JISK 2514における全酸価15〜20mgKOH/gであり、好ましい。
【0021】
本発明の潤滑剤は生分解性を有するとともに、ポリマに含有されかつポリマから被潤滑部材に向けて円滑にポリマから滲み出されることが要求され、一方、ポリマは、この潤滑剤を十分含有でき、しかも潤滑を必要とする箇所に円滑に放出できることが要求される。本発明者が生分解性を有する潤滑剤とポリマとの好適な組合せを検討したところ、耐熱性にも優れたペンタエリストールテトラエステルと、極性が高い樹脂特に後述のポリウレア系エラストマー、ポリウレタン、ポリエステル系エラストマーのうちの少なくとも1種以上との組合せが、好ましいものであるとの知見を得るに至った。したがって、これらの組合せから成る潤滑剤供給部材は、被潤滑部材に対する潤滑性能を向上しながら、生分解性の高い潤滑剤を使用できるために好ましい。
【0022】
本発明の潤滑剤供給体を形成する潤滑剤含有ポリマの合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系合成樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレア系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン等を使用することができる。
【0023】
ポリウレタンの場合は、潤滑剤としてグリースを用いて反応原料となる、イソシアネート基を含有するウレタンプレポリマとアミン系硬化剤をそれぞれ、あるいはどちらか一方をグリースに均−に混合した後、2つの混合物をさらに混合し軸受に充墳して、必要に応じて加熱して反応させ、グリースを含有させた状態で硬化させる。
【0024】
ポリウレア系エラストマーの場合は、分子鎖にソフトセグメントを含有する芳香族ポリアミン化合物及び芳香族ジアミンの混合物からなるアミン成分を、それと相溶性のある潤滑油或いはその潤滑油を基油とするグリースと均一に混合した混合物に、更にポリイソシアナート成分を加えて混合し目的の形状の金型に充墳して、必要に応じて加熱して反応させ、潤滑剤を含有させた状態で硬化させる。
【0025】
ポリウレアエラストマーについて更に詳細に説明する。前記ポリウレアエラストマーは、(1)ポリイソシアナート成分と
(2)
【化1】

(式中,Aはソフトセグメントであり、平均分子量で200以上のポリアルキレンエーテル)
【0026】
で表される分子鎖にソフトセグメントを含有する芳香族ポリアミン化合物と、芳香族ジアミンとの混合物からなるアミン成分とを反応させる(NCOindexが0.9〜1.2の範囲)ことによって得られ、その反応時に潤滑剤(前記アミン成分と相溶性を有する潤滑油あるいはその潤滑油を基油とするグリース、具体的には説明したような生分解性潤滑剤)を混入すれば、潤滑剤を含有した状態で硬化させることができる。
【0027】
また、潤滑剤を含む潤滑材含有部材の機械的強度を向上させるために、潤滑材含有部材に充墳材が添加されても良い。例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウムウィスカーやホウ酸アルミニウムウィスカー等の無機ウィスカー類、或いはガラス繊維や金属繊維等の無機繊維類及びこれらを布状に編組したもの、また有機化合物ではカーボンブラック、黒鉛粉末、カーボン繊維、アラミド繊維やポリエステル繊維等が添加されてもよい。
【実施例】
【0028】
図1から図3は、本発明の潤滑剤供給部材をリニアガイド装置のサイドシールに組み込んだ場合を示している。このリニアガイド装置は、図1の斜視図に示すように、外面に転動体転動溝3,3'を有して軸方向に延びる案内レール1と、その案内レール1を跨いで組み付けられるスライダ2とを備えている。スライダ2はスライダ本体2Aと、その両端部4の側面に案内レール1の転動体転動溝3,3'に対向する図示されない転動体転動溝を有するとともに、袖部の肉厚部分を軸方向に貫通する図外の転動体戻し路を有している。
【0029】
一方、エンドキャップ28は、スライダ本体2Aの転動体転動溝とこれに平行な転動体戻し路とを連通させる図示されない湾曲路を有しており、それらの転動体転動溝と転動体戻し路と両端の湾曲路とによって転動体の循環回路が形成されている。
【0030】
その転動体の循環回路内には、例えば鋼球からなる多数の転動体が装填されている。案内レール1に組み込まれたスライダ2は、対向する両転動体転動溝内の転動体の転動を介して案内レールに沿って滑らかに移動し、その移動中、転動体はスライダ内の転動体循環路を無限循環するようになっている。スライダ2の前後両端の各エンドキヤップ2Bの端面には、案内レール1との間の隙間の開口をシールするサイドシール10が取り付けてある。
【0031】
そして、このサイドシール10に重ねて、図2の分解斜視図に示すように、潤滑剤供給部材としての潤滑剤含有ポリマ部材11が、補強板20との間に狭んで組み付けられている。尚、符号7は必要に応じてスライダ2の内部の転動体にグリースを供給するためのグリースニップルである。
【0032】
前記サイドシール10は、エンドキャップ2Bの外形に合せたほぼコ字形状の鋼板と、この鋼板と類似の形状を有してその外面に一体的に成形されたニトリルゴムとから構成されている。そして、案内レール1と接触するシールリップ部Lは、スライダ2と案内レール1との隙間をシールできるように、その案内レール1の断面形状に合せて案内レール1の上面1a及び外側面1bに摺接可能な形状、より具体的には、転動体転動溝3,3'にも摺接可能な形状に成形されている。また、このサイドシール10の両袖部に、取付ネジ貫通用の貫通孔10a,10bが形成されるとともに、両袖部を連結する連結部には、グリースニップル用の貫通孔10cが形成されている。
【0033】
前記潤滑剤含有ポリマの成形品からなる潤滑剤含有ポリマ部材11は、例えば、イソシアネート基を含有するウレタンプレポリマとアミン系硬化剤の反応生成物であるポリウレタンに、潤滑剤としてペンタエリスリトールテトラエステルを基油とし、リチウムコンプレックスを増ちょう剤とする生分解性グリース(生分解率:CECL33ーTー82の生分解性試験で、98%)を45重量%を含有させた状態で硬化させたものである。硬化前に、液体状のウレタンプレポリマと、アミン系硬化剤を混合したグリースをさらに混ぜあわせたグリース状原料とし、これを所定の金型に注入して必要に応じて加熱、加圧等を行い、目的の形状に成形した。その形状は、図3の拡大斜視図に示すように、エンドキヤップ28の外形に合せた略コ字形状で所定の厚みを有している。その内面の形状は案内レール1の横断面の外形形状に一致させてあり、案内レール1の上面1a及び側画1bに沿う形状に形成されるとともに、案内レール1の上の転動体転動溝3に対応する突部12a、12b下の転動体転動溝3に対応する突部13a,13bがそれぞれ形成されて、案内レール1の横断面外形形状に整合させてある。
【0034】
また、潤滑剤含有ポリマ部材11の両袖部に、スライダのエンドキヤップ28への取付ネジの貫通用の一部が軸方向に切開された貫通孔11a,11bが形成されているとともに、それら両袖都を連結する連結部には、グリースニップル用の一部が軸方向に切閉された貫通孔11cが形成されている。
【0035】
そして,これらの貫通孔11a,11b及び11cのそれぞれには、図2に示されるように、リング状スリーブ部材11A,11B及び11Cがはめ込まれるようになっている。このリング状スリーブ部材11A,11B及び11Cは、潤滑剤含有ポリマ部材11の厚みより若干長い長さとされた短い円筒形状の部材であり、その外径は、貫通孔11a,11b及び11cに容易に嵌め込める程度の寸法となっており、潤滑剤含有ポリマ部材11の装着時にねじの締め付けで圧縮されて含有潤滑剤が絞り出されることがないようにしている。
【0036】
また、リング状スリーブ部材11A,11B及び11Cの外径は、貫通孔11a,11b及び11cの外径よりも大きく成されている。このようにスリーブ径を大きくすると、潤滑剤含有ポリマ部材11の内面を絶えず案内レール1の外面に押し付けて密着させることができ、滲み出してくる潤滑剤を安定的に供給することができる。
【0037】
前記補強板20は、エンドキャップ28の外形に合せたほぼコ字形状の鋼板または合成樹脂板であり、その両袖部に取付ネジ21a,21bの貫通用の貫通孔22a,22bが形成されるとともに、それら両袖部を連結する連結部にば、グリースニップル7用の貫通孔22cが形成されている。尚、この補強板20は、案内レール1とは非接触である。
【0038】
上記潤滑剤含有ポリマ部材11は、通常、サイドシール10及び補強板20に重ねてサンドイッチ状に狭むように組み付けられる。しかし、潤滑剤含有ポリマ部材11は案内レールの外面に密着してサイドシール10と同様のシール機能をも果たし得るから、場合によっては、サイドシール10の代わりに補強板20を使用してもよく、又は、補強板20を潤滑剤含有ポリマ部材11の表面のみに重ね、背面はエンドキヤップ28の端面に直接当てるようにして装着しても良い。
【0039】
この実施形態では、これらサイドシール10,潤滑剤含有ポリマ部材11,補強板20の三者が、取付用ネジ21a,21bを、サイドシール10の貫通孔10a,10bと潤滑剤含有ポリマ部材11のスリーブ部材11A,11Bと補強板20の貫通孔20a,20b及びエンドキヤップ28のネジ貫通孔をしてスライダ本体2Aの取付用ネジ穴に螺合することにより、エンドキヤップ28と一体に重ねて本体2Aに固定される。
【0040】
このリニアガイド装置には、スライダ2の内部にグリースが充填されてあっても良く、その場合には潤滑剤含有ポリマ部材11が含有する生分解性グリースと同様なものが使用される。
【0041】
図4は第二の実施例を示すものであり、本発明の潤滑剤供給部材を、オイルシール装置のシールリップ部への潤滑剤供給用に組み込んだものである。すなわち、軸受30で支持されている回転軸31の端都に、ハウジング32を介してオイルシール装置33が装着されている。このオイルシール装置33の内周面のゴム製のシールリップ33aが回転軸31の外周面に摺接してシール機能を発揮するが、そのシール性能及び寿命を維持するには回転軸31とシールリップ33aとの摺接部に潤滑剤を継続的に供給する必要がある。そのための潤滑剤供給部材としての潤滑剤含有ポリマ部材41がオイルシール装置33に隣接して、ハウジング32の先端部に装着されてねじ34で固定されている。
【0042】
この場合の潤滑剤含有ポリマ部材41は、例えばイソシアネート基を含有するウレタンプレポリマとアミン系硬化剤の反応生成物であるポリウレタンに、潤滑剤としてペンタエリスリトールテトラエステルを基油とし、ヒドロキシリチウム石ケンを増ちょう剤とする生分解性グリース(生分解率:CECL−33−T−82の生分解性試験、99%)を45重量パーセントを含有させた状態で硬化させたものである。硬化前に液体状のウレタンプレポリマと、アミン系硬化剤を混合したグリースをさらに混ぜあわせたグリース状原料とし、これを所定の金型に注入して必要に応じて加熱、加圧等を行い、目的の形状に成形した。形状は肉厚の円環形状であり、その内周面が回転軸31との摺接面になっている。
【0043】
回転軸31が回転すると、端部の澗滑剤含有ポリマ部材41が回転軸31に接蝕しつつ摺動し、その摺動の摩擦熱の影響も加わって、初めのうちは潤滑剤含有ポリマ部材41の組織内に含有されている潤滑剤が経時的に徐々に滲み出す。滲み出した潤滑剤は回転軸31を経てオイルシール装置33へと供給され、そのシールリップ33aに均一にくまなく行き渡って長時間にわたり安定したシールが行われる。
【0044】
尚、潤滑剤含有ポリマ部材41は、転がり軸受30の端部を密封するシール部材としても機能して、ハウジング32の内部をオイルシール装置33と共にダブルシールとして外部の雰囲気から遮断する。これにより,外部雰囲気気が水や粉塵などの悪環境下でも、転がり軸受30の内部はそれらの水や粉塵等に対して保護され、長時間にわたり円滑な潤滑作用を維持することができる。
【0045】
図5,図6は、第三の実施例を示すもので、本発明の潤滑剤供給部材50をボールねじ装置のシール兼潤滑剤供給部材としてのナット端面に装着したものである。その形状は軸方向の長さがやや長い半リング状であり、内周面はねじ軸51の外径とほぼ同−の形状を有すると共に、2つのリングを組み合せることによって一対の部材になる。潤滑剤供給部材50の外周画には、ガータスプリング53が嵌合される環状の周溝54が形成されている。更に、周溝54と干渉しない位置に、円筒状の補強部材55が嵌着されている。
【0046】
この潤滑剤供給部材50は、切割52を開いてリングを拡開させてねじ軸51に嵌め合わせた後、ボールねじナット56の端面の凹部57に嵌入され、ナット側面からねじ込んだ取付けねじ58の先端を補強部材55に係合させることにより固定されている。切割52で拡開されて取り付けられた潤滑剤供給部材50を、ガータスプリング53で弾性的に締めつけることにより、ねじ軸51の外径部と潤滑剤供給部材50の内周部の嵌合隙間がゼロ以下に保たれる。そして、ねじ軸51の外周面に設けた螺旋状のねじ溝21aと、ボールねじナット56の内周面に設けた螺旋状のねじ溝56aと、その両溝間に装填された複数のボール58との接触面に、潤滑剤供給部材50から徐々に滲み出る潤滑剤が自動的に供給されて、摩擦抵抗の増大を抑制するとともに、その潤滑剤がボールねじ自体の潤滑にも寄与する。このボールねじには、ボールねじナット56の内部にグリースが充填されてあっても良く、その場合は生分解性グリースが使用される。また、補強部材55があることから、取付けねじ58からかかる力が直接潤滑剤供給部材50に加わらないので、多量の潤滑剤を含有させた軟らかい潤滑剤供給ポリマからなる潤滑剤供給部材50を使用することが可能である。
【0047】
前記潤滑剤含有ポリマの成形品からなる潤滑剤含有ポリマ部材50は、例えば粉末状の超高分子ポリエチレンを所定の金型中で粉末成形したポーラス状のものに、潤滑剤として生分解性潤滑油であるペンタエリスリトールテトラエステル(生分解率:CECL−33−T−82の生分解性試験で、99%)を50重量パーセントを含有するように真空含浸させたものである。前記潤滑剤供給部材50には、カバーとシールを兼ねたポリアセタール製の外殻部材57が周りを覆うようについており、ねじ軸51にあたる部分は僅かに隙間があるラビリンスシールになっている。
【0048】
次に、第4の実施例を図7に基づいて説明する。潤滑剤含有ポリマを潤滑剤供給部材として、軸受の内輪と外輪の内部空間に充墳した。潤滑剤含有ポリマは、例えば分子鎖にソフトセグメントを有する芳香族ポリアミン化合物及び芳香族ジアミン化合物の混合物からなるアミン成分とポリイソシアナート成分の反応生成物であるポリウレアエラストマーに、潤滑剤としてペンタエリスリトールテトラエステルを基油とし、リチウムコンプレックスを増ちょう剤とする生分解性グリース(生分解率:CECL−33−T−82の生分解性試験で、98%)を60重量%を含有させた状態で硬化させたものである。
【0049】
軸受への充填は、以下のようにして行った。液体状のアミン成分・ポリイソシアナート成分をそれぞれグリースに混ぜあわせた後、更にそれらを混合したグリース状原料を、軸受空間に注入してから、必要に応じて加熱、加圧等を行い、完全に硬化させた。
【0050】
図7に示すように、本実施例に係わる潤滑剤含有ポリマを充墳した転がり軸受71は、内輸72及び外輸73との間に介装される転動休である複数の円すいころ74と、転動体74を保持する保持器75とを備えた円すいころ軸受である。この円すいころ軸受の内輸72、外輸73、円すいころ74及び保持器75により形成される空間内には、保持器を被う潤滑剤含有ポリマが充填・固化(硬化)されている。
【0051】
次に、本実施例に係わる潤滑剤含有ポリマ充墳転がり軸受71の製造方法について説明する。このための治具は、図8及び図9に示すように、下側治具81と、上側治具82とから構成されている。下側治具81は、内輪72の幅が広い側を嵌めいれる凹部91が形成されており、外周部には、外輸73の幅が狭い側の端画13Aに対向する部分92が形成されている。また、凹部91と顎部92との間には、円すいころ74と保持器75を収容する凹部93が形成されている。この下側治具81は、円すいころ軸受を載置した際に内輪72の広い方の端面12Aが凹部91の底面に接触し、かつ外輪73の端面13Aと、顎部92の上面との間に隙間77が形成される構造を有している。
【0052】
上側治具82は、内輪73の狭い側を嵌めいれる凹部101が形成されており、外周部に、外輪73の幅が広い側の端面13Bと接触する接触部102が形成されている。また、凹部101と接触部102との間には、円すいころ74と保持器75を収容する凹部103が形成されている。この上側治具82は、円すいころ軸受上に載置した際に、外輸73の幅が広い方の端面13Bが接触部102に接触し、かつ内輪72の端面12Bと凹部101との間、及び保持器75と凹部103との間に隙間78が形成される構造を有している。
【0053】
潤滑剤含有ポリマ充墳転がり軸受71を製造するには、先ず、円すいころ軸受を通常の方法で組み立てた後、通常の脱脂洗浄を行う。その後、内輸72の外周面、外輪内周面、円すいころ74の表面、及び保持器の表面に離型剤あるいは生分解性グリースを塗布し、離型剤あるいは生分解性グリースの塗膜(被膜)を形成する。この離型剤の塗膜は、例えば、フッ素系離型剤をそのまま、あるいは適当な希釈剤(例えば、水、イソオクタン、HCFC−141b等)で希釈して、前記各部位にスプレーや刷毛により塗布するか、あるいは、円すいころ軸受を、前記離型剤を含む溶媒または分散液中に浸浸する等の方法で行われる。この時,離型剤の塗布量には特に限定はないが、0.1〜1.0μm程度の膜厚となるよう均一に塗布されることが好ましい。
【0054】
また、生分解性グリースの被膜(塗膜)を形成する方法にも特に制限は無いが、例えば、軸受中に生分解性グリースを少量充墳後、軸受を回転させて、外輪の内周面、内輪の外周面、円すいころ74の表面、及び保持器の表面にグリースの被膜を形成する方法がある。その他の方法としては、生分解性グリースを基油が溶解し、増ちょう剤が均一に分散するような溶剤に適当な濃度で溶かしてから、その溶液中に浸漬させた後、乾燥させて溶剤を除去することで被膜を形成させることもできる。生分解性グリースの被膜の膜厚は、10〜1000μmにすることが好ましい。
【0055】
次に本発明の第5の実施例について説明する。この実施例は図10に示す深溝玉軸受に係わるものであり、この軸受は、外輪111、内輪112及び外輪と内輪との間に保持器113によって転動自在に保持された複数個の転動体114とから構成されている。さらに、外輪111の内周面及び内輪112の外周面にある角部111a,112aにはR面取りがされている。
【0056】
また、外輪111と内輪112及び転動体114により形成される空間内には潤滑剤含有ポリマ115が充填されているが、潤滑剤含有ポリマの側端面115aが外輪111及び内輪112の側端面111b,112bにより内側にへこむように潤滑剤含有ポリマ115が充填されている。
【0057】
潤滑剤含有ポリマは、次のものが使用される。例えば、イソシアネート基を含有するウレタンプレポリマとアミン系硬化剤の反応生成物であるポリウレタンに、潤滑剤としてペンタエリスリトールテトラエステルを基油とし、リチウムコンプレックスを増ちょう剤とする生分解性グリース(生分解率:CECL−33−T82の生分解性試験で、98%)を45重量パーセント含有させた状態で硬化させたものである。硬化前に、液体状のウレタンプレポリマとアミン系硬化剤を混合したグリースをさらに混ぜあわせたグリース状原料とし、これを軸受空間に注入して必要に応じて加熱、加圧等を行い、空間内で硬化した。
【0058】
次に本発明の第6の実施例を、図11に示した自動調心ころ軸受に基づいて説明する。内輪122の外周面に設けた複列の内輪軌道122b,122bと、外輪125の内周面に設けた外輪軌道124bとの間にはそれぞれ複数個ずつの球面ころ120,120を、それぞれ保持器127cにより転動自在に保持した状態で、複列に亙り設けている。そして、上記各内輪軌道122b,122bと外輪軌道124bとの間の環状空間内に、潤滑剤含有ポリマ121aを充填している。尚、この潤滑剤含有ポリマ121aを充填した状態で、上記保持器127cは、この潤滑剤含有ポリマ121a内に包埋されて、外部には露出しない。
【0059】
潤滑剤含有ポリマを充填したころ軸受を造るには、先ず、内輪軌道122b,122bと上記外輪軌道124bとの間で上記複数個の球面ころ120,120を設けた環状空間内に未硬化の潤滑剤含有ポリマを充填してから、この潤滑剤含有ポリマを硬化させる。ここで使用される潤滑剤含有ポリマは、図10に示された実施例で使用されたものと同様である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係わる潤滑剤供給体が適用されたリニアガイド装置の全体斜視図。
【図2】そのサイドシール部の分解斜視図。
【図3】サイドシール部に適用される潤滑剤供給体の全体斜視図。
【図4】本発明に係わる潤滑剤供給体が適用されたオイルシール装置のシールリップ部の断面図。
【図5】ボールねじ装置に適用される本発明に係わる潤滑剤供給体の一部断面側面図。
【図6】そのボールねじ装置の断面図。
【図7】本発明に係わる潤滑剤供給体が適用された円すいころ軸受の断面図。
【図8】この円すいころ軸受と製造用治具とを含む両者の断面図。
【図9】図8の一部の詳細断面図。
【図10】本発明に係わる潤滑剤供給体が適用された深溝玉軸受の断面図。
【図11】本発明に係わる潤滑剤供給体が適用された自動調心ころ軸受の断面図。
【符号の説明】
【0061】
案内レール:1
スライダ:2
潤滑剤供給体(潤滑剤含有ポリマ):11,41,50,76,115,121a


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性を有する潤滑剤を含有したポリマを備え、潤滑を必要としている被潤滑部材に、このポリマから前記生分解性潤滑剤を供給するように構成されたことを特徴とする潤滑剤供給体であって、
前記ポリマの合成樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系合成樹脂であることを特徴とする、
潤滑剤供給剤。
【請求項2】
生分解性を有する潤滑剤と、合成樹脂と、を含有したポリマを備え、潤滑を必要としている被潤滑部材に、前記ポリマから前記生分解性潤滑剤を供給するように構成されたことを特徴とする潤滑剤供給体であって、
前記潤滑剤が、ペンタエリストールテトラエステルであり、
前記合成樹脂が、ポリウレア系エラストマー、ポリウレタン、ポリエステル系エラストマーからなる群から選択された少なくとも1種以上である、
潤滑剤供給剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の潤滑剤供給体を備えたことを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の潤滑剤供給体を備えたことを特徴とするオイルシール装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載の潤滑剤供給体を備えたことを特徴とするボールねじ装置。
【請求項6】
請求項1又は2の潤滑剤供給体を備えたことを特徴とする軸受装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−188691(P2006−188691A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374540(P2005−374540)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【分割の表示】特願平11−70128の分割
【原出願日】平成11年3月16日(1999.3.16)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】