説明

炭化珪素単結晶の製造装置および炭化珪素単結晶の製造方法

【課題】種結晶を坩堝の中心軸からずらして配置しなくても、種結晶およびSiC単結晶の成長途中の表面形状を制御することで、異種多形や異方位結晶の発生を抑制できるようにする。
【解決手段】種結晶となるSiC単結晶基板3に対向配置される遮蔽板6aを有する遮蔽部6を備える。そして、遮蔽部6の遮蔽板6aに備えたガス供給孔6bを通じて螺旋転位発生可能領域3aに選択的に昇華ガスが供給されるようにする。これにより、SiC単結晶基板3の中心よりも螺旋転位発生可能領域3a側において最も成長量が大きくなった凸形状とすることが可能となり、台座1cの厚みを非対称にして成長途中表面4aに温度分布を設けたりしなくても良くなって、異種多形や異方位結晶の発生を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーMOSFET等の素材に利用することができる炭化珪素(以下、SiCという)単結晶の製造装置およびSiC単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、SiC単結晶を成長させる方法として、昇華再結晶法が広く用いられている。この昇華再結晶法は、黒鉛製の坩堝内に配置した黒鉛台座に種結晶を接合すると共に、坩堝底部に配したSiC原料を加熱昇華させ、その昇華ガスを種結晶に供給することによって種結晶上にSiC単結晶を成長させるものである。このような昇華再結晶法を用いたSiC単結晶の製造方法として、例えば特許文献1〜4に示される手法がある。
【0003】
特許文献1に記載の製造方法では、C面成長において、{0001}面にオフ角(1°〜15°)をもった種結晶を用いて、低密度螺旋転位領域と螺旋転位発生可能領域に分け、特に{0001}面の上流側を螺旋転位発生可能領域として凸形状でSiC単結晶を成長させている。これにより、C面ファセット、つまり原子配列で段差(ステップ)のない面に螺旋転位を形成し、ステップ成長を促進することで異種多形の発生を抑制している。
【0004】
通常のSiC単結晶の製造プロセスでは、種結晶は円筒状の坩堝の中央に設置される。このため、抵抗加熱や高周波により加熱された場合は、熱伝導および熱輻射により、図8に示すような温度分布となり、中央の温度が低く円対称に加熱される。そのため、図9のSiC単結晶成長時の断面模式図および図10の種結晶位置と成長量との関係を示したグラフに表されるように、結晶中央で成長レートが大きくなり、SiC単結晶J1が凸形状になる。その際、SiC単結晶J1を長尺成長させると、C面ファセットJ2がSiC単結晶基板J3の中央に移動し、螺旋転位発生可能領域J4から外れ、異種多形J5が発生して結晶欠陥を増加させるという問題が起こる。
【0005】
このため、特許文献1では、種結晶を貼り付ける台座のうち、螺旋転位発生可能領域の台座の厚みを低密度螺旋転位領域の台座の厚みに対して薄くすることで、SiC単結晶の成長表面の温度分布を坩堝の中心に対して非対称にすることを提案している。これにより、螺旋転位発生可能領域の放熱性を上げ、温度を低くし成長量を大きくすることで螺旋転位発生可能領域にC面ファセットを留めることが可能となる。
【0006】
また、特許文献2でも、SiC単結晶の成長表面の温度分布を坩堝の中心軸に対して非対称にする方法が提案されている。具体的には、種結晶を坩堝内の中心に設置するのではなく、非対称な位置に設置している。このようにしても、螺旋転位発生可能領域の方が低密度螺旋転位領域よりも温度が低くなるため、螺旋転位発生可能領域の方で成長量を大きくでき、螺旋転位発生可能領域にC面ファセットを留めることが可能となる。
【0007】
また、特許文献3では、SiC単結晶の成長表面の一部の成長が他の部位よりも速くなるように、成長を偏向させるようにしている。具体的には、SiC原料とSiC単結晶の成長面との間に絞りを設け、昇華した原料ガスの質量流がSiC単結晶の一方側において他方側よりも多くなるようにし、SiC単結晶が一方側で多く析出するようにしている。
【0008】
また、特許文献4では、SiC単結晶の成長を行うための坩堝内にSiCガスの流れを偏向させる突起部を備え、突起部が形成されている部分においてSiCガスの供給量を低減することで、オフ基板の表面上において一定方向に向かった結晶成長が生じるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−323348号公報
【特許文献2】特開平8−245299号公報
【特許文献3】特表2002−537209号公報
【特許文献4】特開平4−357824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の手法では、種結晶を貼り付ける台座の厚みが非対称で部分的に変わるために、貼り付けによって種結晶に加わる応力に差ができてしまい、成長後にウェハの格子面に反りが発生して割れの原因になる。また、種結晶の周辺のみ黒鉛台座と貼り付けて応力の低減をする構造(以下、擬似フリー構造という)には適用できない。
【0011】
一方、特許文献2の手法では、種結晶が坩堝の中心にないので、種結晶を設置したときの坩堝の重心が坩堝中心から移動する。このため、種結晶や成長したSiC単結晶が大きく重い場合は、自転させながらSiC単結晶を成長させる際に坩堝全体が偏心し易くなり、坩堝を支える棒と炉体の間でリークの原因になる。また、中心に設置した場合に比べて種結晶の大きさに対して十分に坩堝径を大きくする必要がある。そのため、成長炉も大きな炉体が必要となり、断熱材も大きくなるため、温度制御も困難になる。よって、種結晶を中心からずらして配置する手法では、坩堝回転時に炉内に温度ムラが存在した場合、種結晶に急峻な温度変化が生じ、結晶の温度差で発生する応力により結晶が割れる恐れや低密度螺旋転位領域にファセットが発生することで異種多形や異方位結晶を発生させる可能性がある。
【0012】
また、特許文献3、4の手法では、SiC単結晶の成長を遅くする側のみ坩堝の側壁を突出させた突起部を設けるなど、部分的にしか突起部や絞りを形成するための壁面が形成されていない。この際、部分的に側面から形成されている側の種結晶は原料からの輻射熱が遮られるため、温度が低くなり、温度分布に急峻な偏りが生じる。このときの結晶内の温度差で発生する応力により結晶が割れる恐れがある。
【0013】
本発明は上記点に鑑みて、貼り付けによって種結晶に加わる応力に差ができることを抑制でき、かつ、自転させながらSiC単結晶を成長させる際に坩堝を支える棒と炉体の間でリークが発生することを抑制できると共に、坩堝回転時に炉内に温度ムラが存在した場合でも、種結晶に急峻な温度変化が生じず、割れを抑制し、かつ、異種多形や異方位結晶の発生も抑制できるSiC単結晶の製造装置およびSiC単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、坩堝(1)のうち種結晶(3)の螺旋転位発生可能領域(3a)が配置される場所と対応する位置に、昇華ガスの供給を行うガス供給孔(6b)が形成された遮蔽板(6a)を有する遮蔽部(6)を備え、遮蔽板(6a)を種結晶(3)が配置される台座(1c)に対向配置すると共に、該遮蔽板(6a)にて台座(1c)を囲みつつSiC単結晶(4)の成長空間を覆うことを特徴としている。
【0015】
このような構造のSiC半導体装置の製造装置によれば、遮蔽部(6)の遮蔽板(6a)に備えたガス供給孔(6b)を通じて螺旋転位発生可能領域(3a)に選択的に昇華ガスが供給されるようにできる。これにより、種結晶(3)の中心よりも螺旋転位発生可能領域(3a)側において最も成長量が大きくなった凸形状とすることが可能となる。
【0016】
したがって、台座(1c)の厚みを非対称にしなくても良いため、台座(1c)に種結晶である種結晶(3)を貼り付けることによって種結晶(3)に加わる応力に差ができることを抑制できる。また、種結晶(3)の中心を坩堝(1)の中心からずらした場合のように、自転させながら成長する際に坩堝全体が偏心し易くならないため、坩堝(1)を支える棒と炉体の間でのリークの発生を抑制できる。さらに、種結晶(3)の大きさに対して十分に坩堝径を大きくする必要もなく、成長炉として大きな炉体が不要であるため、温度制御も容易に行える。このため、坩堝(1)の回転時に炉内に温度ムラが存在した場合でも、種結晶(3)に急峻な温度変化が生じず、温度差で発生する応力による結晶の割れを抑制でき、低密度螺旋転位領域にファセットの発生が無いため異種多形や異方位結晶の発生を抑制できる。
【0017】
さらに、遮蔽板(6a)によって成長空間を覆っているため、一部にのみ遮蔽板(6a)が形成されている場合と比較して対称性を保つことで、種結晶(3)及び成長結晶の温度分布の偏りを抑制し、温度差で発生する応力による結晶の割れを低減し、SiC単結晶(4)を良好に成長させることが可能となる。

例えば、請求項2に記載したように、遮蔽部(6)に、一端が坩堝本体(1a)の底面に固定されると共に、他端に遮蔽板(6a)が配置される支持部(6c)を備え、該支持部(6c)により遮蔽板(6a)を支持した構造とすることができる。
【0018】
この場合、請求項3に記載したように、蓋材(1b)に、台座(1c)を囲みつつ、一端側が蓋材(1b)の端面に結合されて一体化されたリング部材(5)を備え、遮蔽部(6)に備えられた遮蔽板(6a)の外側面が、リング部材(5)の内壁面に対向配置され、該外側面と内壁面との間隔が1mm以下とされるようにすると好ましい。
【0019】
このようにすれば、遮蔽板(6a)の外側面とリング部材(5)の内壁面との間の隙間を通じて原料ガスが供給されることを極力抑制して、主に、ガス供給孔(6b)を通じて昇華ガスが種結晶(3)側に供給されるようにすることができる。
【0020】
また、請求項4に記載したように、蓋材(1b)に、台座(1c)を囲みつつ、一端側が蓋材(1b)の端面に結合されて一体化されたリング部材(5)を備え、遮蔽部(6)に備えられた遮蔽板(6a)が、リング部材(5)における蓋材(1b)に結合された一端と反対側の端部において、リング部材(5)に結合されて一体化された構造とすることもできる。
【0021】
さらに、請求項5に記載したように、坩堝本体(1a)の内壁に遮蔽部(6)に備えられる遮蔽板(6a)が固定され、遮蔽部(6)によって坩堝本体(1a)内の空間をSiC原料(2)が配置される空間側と、蓋材(1b)や種結晶(3)が配置される空間側とに区画するような構造とすることもできる。
【0022】
請求項6に記載の発明では、ガス供給孔(6b)の大きさを直径1mm以上でかつ螺旋転位発生可能領域(3a)以下にすることを特徴としている。このようにすることで、低密度螺旋転位領域(3b)に比べて螺旋転位発生可能領域3aに到達する原料ガスを多く供給することができ、螺旋転位発生可能領域(3a)側において最も成長量が大きくなった凸形状とすることが可能となる。
【0023】
請求項7に記載の発明では、種結晶(3)が配置される前記台座(1c)と昇華ガスの供給を行うガス供給孔(6b)が形成された遮蔽板(6a)を有する遮蔽部(6)と分離して移動可能にすることを特徴としている。このようにすることで、成長中に移動させ、常にガス供給孔(6b)と種結晶の距離を一定に保つことにより、低密度螺旋転位領域(3b)に比べて螺旋転位発生可能領域3aに到達する原料ガスを多く供給することができ、螺旋転位発生可能領域(3a)側において最も成長量が大きくなった凸形状とすることが可能となる。
【0024】
この場合、請求項8に記載したように ガス供給孔(6b)と該炭化珪素基板の距離を螺旋転位発生可能領域(3a)の幅以下にすると、低密度螺旋転位領域(3b)に比べて螺旋転位発生可能領域3aに到達する原料ガスを多く供給することができ、螺旋転位発生可能領域(3a)側において最も成長量が大きくなった凸形状とすることが可能となる。
【0025】
請求項9に記載の発明では、坩堝(1)に対して、昇華ガスの供給を行うガス供給孔(6b)が形成された遮蔽板(6a)を有する遮蔽部(6)を配置する工程と、台座(1c)に対して種結晶(3)を貼り付けたのち、種結晶(3)における螺旋転位発生可能領域(3a)とガス供給孔(6b)の位置とが一致するようにして、蓋材(1b)と共に種結晶(3)を坩堝本体(1a)に設置する工程と、坩堝(1)内のSiC原料(2)を加熱して昇華ガスを発生させ、ガス供給孔(6b)を通じて昇華ガスを選択的に螺旋転位発生可能領域(3a)に供給しながら、SiC単結晶(4)を成長させる工程と、を含んでいることを特徴としている。
【0026】
このように、遮蔽部(6)の遮蔽板(6a)に備えたガス供給孔(6b)を通じて螺旋転位発生可能領域(3a)に選択的に昇華ガスが供給されるようにしている。これにより、種結晶(3)の中心よりも螺旋転位発生可能領域(3a)側において最も成長量が大きくなった凸形状とすることが可能となる。これにより、請求項1と同様の効果を得ることができる。
【0027】
この場合、請求項10に記載したように、炭化珪素単結晶(4)を成長させる工程において、ガス供給孔(6b)と炭化珪素単結晶(4)成長表面との距離を1mm以上で螺旋転位発生可能領域(3a)の最大の幅以下に保つように蓋体(1b)に設けられた台座(1c)を移動させることで、成長中に常に低密度螺旋転位領域(3b)に比べて螺旋転位発生可能領域3aに到達する原料ガスを多く供給することができ、螺旋転位発生可能領域(3a)側において最も成長量が大きくなった凸形状とすることが可能となる。
【0028】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置を用いてSiC単結晶を成長させるときの様子を示した断面図である。
【図2】図1のA−A矢視断面図である。
【図3】図1に示す結晶成長装置を用いて成長させたSiC単結晶近傍の拡大図である。
【図4】種結晶となるSiC単結晶基板3の中心(つまり黒鉛製坩堝1の中心軸)からの距離に対する成長量を表したグラフである。
【図5】本発明の第2実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置を用いてSiC単結晶を成長させるときの様子を示した断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置を用いてSiC単結晶を成長させるときの様子を示した断面図である。
【図7】他の実施形態で説明するSiC単結晶の製造装置を用いてSiC単結晶を成長させるときの様子を示した断面図である。
【図8】種結晶の位置に対する温度分布を示したグラフである。
【図9】SiC単結晶成長時の様子を示した断面模式図である。
【図10】種結晶位置と成長量との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0031】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置を用いてSiC単結晶を成長させるときの様子を示した断面図である。図2は、図1のA−A矢視断面図である。また、図3は、図1に示すSiC単結晶の製造装置を用いて成長させたSiC単結晶近傍の拡大図である。
【0032】
図1に示すように、SiC単結晶の製造装置の容器として円筒状の黒鉛製坩堝1が用いられている。黒鉛製坩堝1は、黒鉛製坩堝1の底部に備えられたSiC原料粉末(SiC原料)2を加熱処理によって昇華させ、種結晶であるSiC単結晶基板3上にSiC単結晶4を結晶成長させるものである。
【0033】
この黒鉛製坩堝1は、上面が開口している有底円筒状の坩堝本体1aと、坩堝本体1aの開口部を塞ぐ円盤状の蓋材1bとを備えて構成されている。また、黒鉛製坩堝1を構成する蓋材1bの中央部において突き出した部分を台座1cとして、台座1c上にSiC単結晶基板3が図示しない接着剤等を介して接合される。台座1cは、接合されるSiC単結晶基板3とほぼ同等の寸法とされている。本実施形態では、SiC単結晶基板3を円形もしくは正方形としており、台座1cもSiC単結晶基板3と同じく円形もしくは正方形とされている。そして、台座1cの中心が黒鉛製坩堝1の中心軸上に配置されることで、SiC単結晶基板3もその中心軸上に配置されるようにしている。なお、SiC単結晶基板3および台座1cの形状は任意であり、円形や四角形に限らず、六角形、八角形など、他の多角形状であっても構わない。
【0034】
SiC単結晶基板3には、螺旋転位発生可能領域3aと低密度螺旋転位領域3bを有するC面{0001}面に1〜15°のオフ角が有る基板を用いている。このような基板は、例えば、螺旋転位をほとんど含有しないSiC単結晶からなる種結晶を準備したのち、この種結晶の成長面の一部に表面処理を施すことにより螺旋転位発生可能領域3aを形成して製造される。
【0035】
具体的には、まず、{1−100}面を露出させた種結晶を用いて、その成長面である{1−100}面上に、SiC単結晶を成長させる。続いて、この炭化ケイ素単結晶から{11−20}面を露出する種結晶を作製する。次に、この種結晶の成長面である{11−20}面上に、SiC単結晶を成長させる。続いて、このSiC単結晶より、{0001}面から8°傾く面を成長面として露出させた種結晶を作製する。この種結晶は、いわゆるa面成長結晶から作製された種結晶であるため、螺旋転位をほとんど含有していない。その後、種結晶における一方の端部を機械加工により研削し、{0001}面から8°傾く成長面に対して、さらに10〜20°傾く研削面を設ける。このようにして、一端側に螺旋転位発生可能領域3aが形成され、残りの領域が低密度螺旋転位領域3bとされたSiC単結晶基板3を準備することができる。
【0036】
なお、本明細書において、{0001}、{1−100}、及び{11−20}は、SiC結晶面の面指数を表している。
【0037】
また、黒鉛製坩堝1の蓋材1bには、台座1cを囲むように、スカート状、すなわち中空部を有する円環状のリング部材5が固定されている。すなわち、リング部材5の一端側が蓋材1bの端面に貼り付け等によって結合されることで蓋材1bと一体化されている。このリング部材5は、SiC単結晶基板3の周辺の径方向温度分布を小さくし、SiC単結晶4の成長空間を均熱にする役割を果たす。また、このリング部材5により、SiC単結晶基板3やSiC単結晶4の成長表面が他の部位よりも低温となる。
【0038】
具体的には、本実施形態では、リング部材5を外周側に配置された炭素リング5aとその内壁面を覆うように配置されたTaCリング5bにて構成している。TaCリング5bは、例えば、炭素リング5aよりも若干小さめの寸法とされたTaリングを用意したのち、それを炭化することで形成され、炭化時に膨張することから、炭素リング5aの内壁面に密着して固定される。
【0039】
これら炭素リング5aおよびTaCリング5bにて構成されるリング部材5からSiC単結晶基板3までの距離は、任意であるが、図3に示すように、SiC単結晶基板3の表面に成長するSiC単結晶4の拡大する幅Lとして想定される長さ、例えば3mmよりもその距離が長くなるようにするのが好ましい。このようにすれば、SiC単結晶4の横方向の拡大を阻害しないようにできる。
【0040】
なお、本実施形態では、リング部材5を円環状の炭素リング5aおよびTaCリング5bにて構成したが、例えば、リング部材5の形状を四角枠状のように適宜変更したり、TaCリング5bを無くしても構わない。ただし、TaCリング5bをなくすと、炭素リング5a内の炭素粉が成長したSiC単結晶4に混入するインクルージョンを発生させ易くするため、これを抑制するために、TaCリング5bを備えるのが好ましい。
【0041】
さらに、黒鉛製坩堝1の内部には、遮蔽部6が備えられている。遮蔽部6は、SiC単結晶基板3へのSiC原料粉末2の昇華ガスの供給を制御するためのものであり、遮蔽板6aとガス供給孔6bおよび支持部6cにて構成されている。
【0042】
遮蔽板6aは、SiC単結晶基板3および台座1cと対向配置された例えば円盤状の板部材であり、黒鉛もしくは表面をTaC(炭化タンタル)でコーティングした黒鉛などによって構成されている。遮蔽板6aの外側面(外周面)は、リング部材5と接しないように所定間隔(例えば、1mm以下の間隔)離間させられつつ、リング部材5の一方の端部側の内壁面に対向するように配置され、台座1cおよび台座1c上のSiC単結晶基板3を囲み、かつ、リング部材5によって構成されるSiC単結晶4の成長空間を覆っている。このように、遮蔽板6aの外側面とリング部材5の内壁面との間を短い間隔とすることで、これらの間の隙間を通じて昇華ガスが種結晶3側に供給されることを極力抑制しつつ、主に、ガス供給孔6bを通じて昇華ガスが供給されるようにしている。
【0043】
ガス供給孔6bは、遮蔽板6aを黒鉛製坩堝1の中心軸方向に貫通させることで形成されており、黒鉛製坩堝1の中心軸から偏心した位置に形成されている。このガス供給孔6bが形成された位置と螺旋転位発生可能領域3aとが一致するように、SiC単結晶基板3が台座1cに対して固定されている。このガス供給孔6bの寸法は、例えば直径1mm以上、かつ、螺旋転位発生可能領域3aの幅(SiC単結晶基板3の中心から径方向に延ばしたときの螺旋転位発生可能領域3aの寸法)以下とされている。ガス供給孔6bの寸法を直径1mm以上としたのは、あまり小さすぎるとSiC単結晶基板3上への結晶成長速度が遅くなるからと遮蔽板6aの外側面(外周面)と、リング部材5との所定間隔(例えば、1mm以下の間隔)以上にすることで供給量を制御することができるためである。また、ガス供給孔6bの寸法を螺旋転位発生可能領域3aの幅以下としたのは、螺旋転位発生可能領域3a以外にもガス供給が行われることで、螺旋転位発生可能領域3a側において最も成長量が大きくすることができなくならないようにするためである。また、この際のガス供給孔6bと種結晶の距離は成長量以上にする必要がある。
【0044】
支持部6cは、遮蔽板6aを支持する部材であり、一端が坩堝本体1aの底面に固定されることで、他端に配置された遮蔽板6aを支持する。このような遮蔽部6が備えられることにより、SiC原料粉末2の昇華ガスが主にガス供給孔6bを通じてSiC単結晶基板3に供給させられる構成としてある。
【0045】
また、黒鉛製坩堝1は、回転装置7に搭載されている。具体的には、回転装置7は、黒鉛製坩堝1の中心軸を中心として回転する。このため、回転装置7を回転させると、その上に搭載された黒鉛製坩堝1も中心軸を中心として回転させられる。これにより、台座1cに接合されたSiC単結晶基板3も黒鉛製坩堝1の中心軸を中心として回転させることができる。
【0046】
さらに、黒鉛製坩堝1の外部には、黒鉛製坩堝1の外周を囲むようにヒータ等の加熱装置8が備えられている。加熱装置8の中心は黒鉛製坩堝1や回転装置7の中心軸と同心軸とされている。このように配置された加熱装置8のパワーを制御することにより、黒鉛製坩堝1内の温度が適宜調整される。例えば、SiC単結晶4を結晶成長させる際には、この加熱装置8のパワーを調節することによって種結晶であるSiC単結晶基板3の温度がSiC原料粉末2の温度よりも100℃程度低温に保たれるようにすることができる。なお、図示しないが、黒鉛製坩堝1や回転装置7等は、アルゴンガスが導入できる真空容器の中に収容されており、この真空容器内で加熱できるようになっている。
【0047】
このように構成されたSiC単結晶の製造装置を用いたSiC単結晶の製造工程について説明する。
【0048】
まず、上記のように準備したSiC単結晶基板3を台座1cに貼り付ける。このとき、蓋材1bを坩堝本体1aに設置したときに、SiC単結晶基板3の螺旋転位発生可能領域3aの位置が坩堝本体1a側に備えられる遮蔽部6の遮蔽板6aのガス供給孔6bと一致するように、SiC単結晶基板3の貼り付け位置を決定する。そして、坩堝本体1a内にSiC原料粉末2を配置すると共に遮蔽部6を設置したのち、蓋材1bと共にSiC単結晶基板3を坩堝本体1aに設置する。
【0049】
続いて、黒鉛製坩堝1を加熱装置8内に配置することで、回転装置7上に設置する。そして、真空容器に備えられた図示しない排気機構を用いてガス排出を行うことで、黒鉛製坩堝1内を含めた真空容器内を真空にする。そして、加熱装置8にて黒鉛製坩堝1を加熱することで黒鉛製坩堝1内を所定温度にする。例えば、黒鉛製坩堝1を約1〜10Torr(1.3×102〜1.3×103Pa)の雰囲気圧で2100〜2300℃に加熱し、昇華再結晶法によりSiC原料粉末2の昇華ガスに含まれるSiC原料をSiC単結晶基板3上に堆積させることで、SiC単結晶4を作製する。
【0050】
これにより、図3に示すように、SiC単結晶4の成長途中表面4aには、{0001}面と略平行なC面ファセット4bが形成される。SiC単結晶基板3は、{0001}面より8°傾いた面を成長面としているため、成長と共に形成されるC面ファセット4bは、成長途中表面4aの端部に形成される。
【0051】
一方、SiC単結晶基板3の螺旋転位発生可能領域3aでは、成長中のSiC単結晶4中に螺旋転位4cが継承される。
【0052】
このとき、上述したように、仮に、黒鉛製坩堝1の中心軸が最も低温で、中心軸からの距離に応じて温度が高くなるような温度分布になっていると、SiC単結晶を長尺成長させたときに、C面ファセット4bがSiC単結晶基板3の中央に移動し、螺旋転位発生可能領域3aから外れ、異種多形が発生して結晶欠陥を増加させるという問題が起こる。
【0053】
しかしながら、本実施形態では、遮蔽板6aに対して黒鉛製坩堝1の中心軸から偏心した位置であって、SiC単結晶基板3における螺旋転位発生可能領域3aと一致する位置にガス供給孔6bを設け、このガス供給孔6bを通じて昇華ガスがSiC単結晶基板3に供給されるようにしている。このため、SiC単結晶4の成長途中表面4aでの成長レートに偏りが生じる。具体的には、昇華ガスが選択的に螺旋転位発生可能領域3aに対して流されるため、SiC単結晶4の成長レートが螺旋転位発生可能領域3a側において低密度螺旋転位領域3b側よりも大きくなる。
【0054】
図4は、種結晶となるSiC単結晶基板3の中心(つまり黒鉛製坩堝1の中心軸)からの距離に対する成長量を表したグラフである。この図に示されるように、成長途中表面4aのうち螺旋転位発生可能領域3aにおいて成長量が最も多く、低密度螺旋転位領域3bの端部において成長量が最も小さくなる。このため、種結晶の中心を黒鉛製坩堝1の中心と一致させても、SiC単結晶基板3の中心よりも螺旋転位発生可能領域3a側において最も成長量が大きくなった凸形状とすることが可能となる。
【0055】
したがって、図3に示すごとく、SiC単結晶4の成長中に、常にC面ファセット4bが螺旋転位発生可能領域3a側に位置し、C面ファセット4b内には螺旋転位4c(または貫通欠陥)が存在し続け、4H多形のステップ供給源として機能させられる。その結果、SiC単結晶4に、異種多形結晶の二次元核生成が発生することを抑制でき、異方位結晶が生じないようにすることが可能となる。
【0056】
これにより、SiC単結晶4における低密度螺旋転位領域3bを螺旋転位が少なく、SiC半導体などの用途に適したものとすることが可能となる。
【0057】
以上説明したように、本実施形態では、遮蔽部6の遮蔽板6aに備えたガス供給孔6bを通じて螺旋転位発生可能領域3aに選択的に昇華ガスが供給されるようにしている。これにより、SiC単結晶基板3の中心よりも螺旋転位発生可能領域3a側において最も成長量が大きくなった凸形状とすることが可能となる。
【0058】
したがって、台座1cの厚みを非対称にして成長途中表面4aに温度分布を設けたりしなくても良いため、台座1cに種結晶であるSiC単結晶基板3を貼り付けることによってSiC単結晶基板3に加わる応力に差ができることを抑制できる。また、SiC単結晶基板3の中心を黒鉛製坩堝1の中心からずらした場合のように、自転させながら成長する際に黒鉛製坩堝全体が偏心し易くならないため、黒鉛製坩堝1を支える棒と炉体の間でのリークの発生を抑制できる。さらに、種結晶の大きさに対して十分に黒鉛製坩堝径を大きくする必要もなく、成長炉として大きな炉体が不要であるため、温度制御も容易に行える。このため、黒鉛製坩堝1の回転時に炉内に温度ムラが存在した場合でも、種結晶に急峻な温度変化が生じず、温度差で発生する応力による結晶の割れを抑制でき、かつ低密度螺旋転位領域にファセットの発生をないため異種多形や異方位結晶の発生を抑制できる。
【0059】
さらに、本実施形態では、リング部材5の内部に形成される成長空間を覆うように遮蔽板6aを形成し、その一部のみを穴開けすることでガス供給孔6bを形成している。このため、基本的には、遮蔽板6aをSiC単結晶基板3に対して対向配置した状態となり、一部のみがSiC単結晶基板3に対して対向配置された状態となる訳ではない。このため、一部にのみ遮蔽板6aが形成されている場合と比較して対称性を保つことができ、温度分布の偏りを抑制できるため、温度差で発生する応力による結晶の割れを低減でき、SiC単結晶4を良好に成長させることが可能となる。
【0060】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態のSiC単結晶の製造装置は、第1実施形態に対してリング部材5および遮蔽部6の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0061】
図5は、本実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置に対してSiC単結晶基板3を配置した様子を示した断面図である。
【0062】
図5に示されるように、本実施形態では、リング部材5の先端部に遮蔽部6を備えた構造とし、リング部材5と遮蔽部6とを一体化させている。遮蔽部6は、遮蔽板6aとガス供給孔6bとによって構成されており、リング部材5と一体的に形成されること、もしくはリング部材5の一端に貼り付けられることによりリング部材5に結合されている。遮蔽板6aは、円盤状をなしており、例えば種結晶となるSiC単結晶基板3の表面から30〜50mm離れた位置に配置されている。ガス供給孔6bは、遮蔽板6aを黒鉛製坩堝1の中心軸方向に貫通させることで形成され、黒鉛製坩堝1の中心軸から偏心した位置に形成されている。
【0063】
このように、遮蔽部6をリング部材5と一体化した構造とした場合であっても、ガス供給孔6bが形成された位置と螺旋転位発生可能領域3aとが一致するようにして、SiC単結晶基板3の上にSiC単結晶4を成長させることで、第1実施形態と同様に、SiC原料粉末2の昇華ガスが螺旋転位発生可能領域3aに選択的に供給されるようにできる。
【0064】
したがって、第1実施形態と同様、図3に示したように、SiC単結晶4の成長中に、常にC面ファセット4bが螺旋転位発生可能領域3a側に位置し、C面ファセット4b内には螺旋転位4c(または貫通欠陥)が存在し続け、4H多形のステップ供給源として機能させられる。その結果、SiC単結晶4に、異種多形結晶の二次元核生成が発生することを抑制でき、異方位結晶が生じないようにすることが可能となる。よって、第1実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。
【0065】
なお、このように構成される遮蔽部6もしくは炭素リング5および遮蔽部6の全域をTaCでコーティングするようにしても良い。このようにすれば、炭素リング5aや遮蔽部6内の炭素粉が成長したSiC単結晶4に混入するインクルージョンを発生させ難くすることができるため、結晶欠陥増加を抑制することが可能となる。
【0066】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態のSiC単結晶の製造装置は、第1実施形態に対して遮蔽部6の構成を変更すると共にリング部材5を無くしたものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0067】
図6は、本実施形態にかかるSiC単結晶の製造装置に対してSiC単結晶基板3を配置した様子を示した断面図である。
【0068】
図6に示されるように、本実施形態では、坩堝本体1aの内壁に遮蔽部6を固定し、遮蔽部6によって坩堝本体1a内の空間をSiC原料2が配置される空間側と、蓋材1bや種結晶3が配置される空間側とに区画した構造としている。遮蔽部6は、遮蔽板6aとガス供給孔6bとによって構成されている。遮蔽板6aは、坩堝本体1aの内径と同等以上の径を有する円盤板にて構成され、ガス供給孔6bは、遮蔽板6aを黒鉛製坩堝1の中心軸方向に貫通させることで形成され、黒鉛製坩堝1の中心軸から偏心した位置に形成されている。
【0069】
また、蓋材1bを有底円筒状とし、蓋材1bの内側に坩堝本体1aの開口部側の先端が入り込むようにし、蓋材1bの外周に設けたフランジ部1dを持ち上げることで、蓋材1bを坩堝本体1aに対して紙面上方にスライドさせられる構造としている。つまり、台座1cが遮蔽板6aと分離して移動可能な構造とされている。このような構造とすることで、蓋材1bと共にSiC単結晶基板3およびSiC単結晶4の引き上げが行え、遮蔽部6からSiC単結晶4の成長表面までの距離をSiC単結晶4の成長レートに合せて移動させることで一定距離(例えば2〜10mm)に保つことができる。こうすることで、成長中でも常に低密度螺旋転位領域3bに比べて螺旋転位発生可能領域3aに到達する原料ガスを多く供給することができる。
【0070】
このガス供給孔6bと種結晶との距離は例えば1mm以上、かつ、螺旋転位発生可能領域3aの幅(SiC単結晶基板3の中心から径方向に延ばしたときの螺旋転位発生可能領域3aの寸法)以下とした方が良い。ガス供給孔6bの寸法を直径1mm以上としたのは、あまり小さすぎるとSiC単結晶基板3上への結晶成長速度がガス供給孔6bの移動の速度に比べて速くなり過ぎた場合にガス供給孔6bの移動に成長結晶が到達して結晶が割れたり結晶欠陥が発生するためである。反対にガス供給孔6bと種結晶との距離を螺旋転位発生可能領域3aの幅以下としたのは、昇華ガスが螺旋転位発生可能領域3a以外にもガス供給が行われることで、螺旋転位発生可能領域3a側において最も成長量が大きくすることができなくならないようにするためである。
【0071】
このように、遮蔽部6によって坩堝本体1a内の空間をSiC原料2が配置される空間側と蓋材1bや種結晶3が配置される空間側とに区画した構造としても、ガス供給孔6bが形成された位置と螺旋転位発生可能領域3aとが一致するようにして、SiC単結晶基板3の上にSiC単結晶4を成長させることができる。これにより、第1実施形態と同様に、SiC原料粉末2の昇華ガスが螺旋転位発生可能領域3aに選択的に供給されるようにできる。
【0072】
したがって、第1実施形態と同様、図3に示したように、SiC単結晶4の成長中に、常にC面ファセット4bが螺旋転位発生可能領域3a側に位置し、C面ファセット4b内には螺旋転位4c(または貫通欠陥)が存在し続け、4H多形のステップ供給源として機能させられる。その結果、SiC単結晶4に、異種多形結晶の二次元核生成が発生することを抑制でき、異方位結晶が生じないようにすることが可能となる。よって、第1実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。
【0073】
なお、このように構成される遮蔽部6についてもTaCでコーティングすることができる。このようにすれば、遮蔽部6内の炭素粉が成長したSiC単結晶4に混入するインクルージョンを発生させ難くすることができるため、結晶欠陥増加を抑制することが可能となる。
【0074】
さらに、本実施形態でも、遮蔽板6aよりも上側に形成される成長空間を遮蔽板6aによって覆い、その一部のみを穴開けすることでガス供給孔6bを形成している。このため、基本的には、遮蔽板6aをSiC単結晶基板3に対して対向配置した状態となり、一部のみがSiC単結晶基板3に対して対向配置された状態となる訳ではない。このため、一部にのみ遮蔽板6aが形成されている場合と比較して対称性を保つことができ、温度分布の偏りを抑制できるため、SiC単結晶4を良好に成長させることが可能となる。
【0075】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、リング部材5や遮蔽部6などの構成例について説明したが、これらの形状や材質などは一例を示したに過ぎない。例えば、遮蔽部6のガス供給孔6bは、螺旋転位発生可能領域3aと対応する位置に形成されていれば良いため、螺旋転位発生可能領域3aを黒鉛製坩堝1の中心軸上に備えるようにする場合には、ガス供給孔6bが黒鉛製坩堝1の中心軸に位置する構造であっても良い。
【0076】
また、上記各実施形態では、台座1cがSiC単結晶基板3の裏面全体に配置されるような構造とされる場合について説明したが、上記各実施形態に示したSiC単結晶の製造装置に対して擬似フリー構造を採用することもできる。
【0077】
さらに、上記第3実施形態では、蓋材1bと共にSiC単結晶基板3およびSiC単結晶4の引き上げを行える構造について説明したが、第1、第2実施形態についても、蓋材1bを第3実施形態と同様の構造とすることで、SiC単結晶4の成長表面と遮蔽部6との距離を一定に保つことができる。例えば、図7は、第1実施形態の構造に対して、第3実施形態のように蓋材1bと共にSiC単結晶基板3およびSiC単結晶4の引き上げを行える構造を適用したときの断面図である。この図に示すように、第1実施形態のような遮蔽部6が遮蔽板6aとガス供給孔6bおよび支持部6cにて構成されるものについても、引き上げ構造を適用できる。このような構造により、遮蔽部6からSiC単結晶4の成長表面までの距離をSiC単結晶4の成長レートに合せて移動させられるため、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0078】
また、第1実施形態の構造において、リング部材5を円環状の炭素リング5aおよびTaCリング5bにて構成したが、リング部材5をテーパ形状の炭素リング5aおよびTaCリング5bで構成しても良い。この際、遮蔽部6の大きさを種結晶との距離に応じてTaCリング5bとの隙間を一定にするように適宜選択することで第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0079】
なお、結晶の方位を示す場合、本来ならば所望の数字の上にバー(−)を付すべきであるが、パソコン出願に基づく表現上の制限が存在するため、本明細書においては、所望の数字の前にバーを付すものとする。
【符号の説明】
【0080】
1 黒鉛製坩堝
1a 坩堝本体
1b 蓋材
1c 台座
2 SiC原料粉末
3 SiC単結晶基板
3a 螺旋転位発生可能領域
3b 低密度螺旋転位領域
4 SiC単結晶
4a 成長途中表面
4b C面ファセット
4c 螺旋転位
5 リング部材
5a 炭素リング
5b TaCリング
6 遮蔽部
6a 遮蔽板
6b ガス供給孔
6c 支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒状の容器本体(1a)と当該容器本体(1a)を蓋閉めするための蓋体(1b)とを有した中空状の円柱形状をなす坩堝(1)を備え、前記容器本体(1a)に炭化珪素原料(2)を配置すると共に、C面{0001}面にオフ角がある炭化珪素基板にて構成され、該炭化珪素基板の一部が螺旋転位発生可能領域(3a)となり、前記螺旋転位発生可能領域(3a)ではない部分が低密度螺旋転位領域(3b)となった種結晶(3)を用意し、前記蓋体(1b)に設けられた台座(1c)に対して前記種結晶(3)の中心を該台座(1c)の中心に一致させて配置し、前記炭化珪素原料(2)を加熱して発生させた昇華ガスを供給することにより、前記種結晶(3)上に炭化珪素単結晶(4)を成長させる炭化珪素単結晶の製造装置において、
前記坩堝(1)には、前記種結晶(3)における前記螺旋転位発生可能領域(3a)が配置される場所と対応する位置に前記昇華ガスの供給を行うガス供給孔(6b)が形成された遮蔽板(6a)を有する遮蔽部(6)が備えられ、前記遮蔽板(6a)を前記種結晶(3)が配置される前記台座(1c)に対向配置していると共に、該遮蔽板(6a)にて前記台座(1c)を囲みつつ前記炭化珪素単結晶(4)の成長空間を覆っていることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項2】
前記遮蔽部(6)には、一端が前記坩堝本体(1a)の底面に固定されると共に、他端に前記遮蔽板(6a)が配置される支持部(6c)が備えられ、該支持部(6c)により前記遮蔽板(6a)が支持されていることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項3】
前記蓋材(1b)には、前記台座(1c)を囲みつつ、一端側が前記蓋材(1b)の端面に結合されて一体化されたリング部材(5)が備えられ、
前記遮蔽部(6)に備えられた前記遮蔽板(6a)の外側面は、前記リング部材(5)の内壁面に対向配置されており、該内壁面との間隔が1mm以下とされていることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項4】
前記蓋材(1b)には、前記台座(1c)を囲みつつ、一端側が前記蓋材(1b)の端面に結合されて一体化されたリング部材(5)が備えられ、
前記遮蔽部(6)に備えられた前記遮蔽板(6a)は、前記リング部材(5)における前記蓋材(1b)に結合された一端と反対側の端部において、前記リング部材(5)に結合されて一体化されていることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項5】
前記坩堝本体(1a)の内壁に前記遮蔽部(6)に備えられる前記遮蔽板(6a)が固定され、前記遮蔽部(6)によって前記坩堝本体(1a)内の空間を前記炭化珪素原料(2)が配置される空間側と、前記蓋材(1b)や前記種結晶(3)が配置される空間側とに区画していることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項6】
前記ガス供給孔(6b)の大きさは直径1mm以上でかつ螺旋転位発生可能領域(3a)以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項7】
前記種結晶(3)が配置される前記台座(1c)は前記昇華ガスの供給を行うガス供給孔(6b)が形成された遮蔽板(6a)を有する遮蔽部(6)と分離して移動可能であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項8】
前記ガス供給孔(6b)と前記炭化珪素基板の距離は螺旋転位発生可能領域(3a)の幅以下であることを特徴とする請求項7に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項9】
有底円筒状の容器本体(1a)と当該容器本体(1a)を蓋閉めするための蓋体(1b)とを有した中空状の円柱形状をなす坩堝(1)を備え、前記容器本体(1a)に炭化珪素原料(2)を配置すると共に、C面{0001}面にオフ角がある炭化珪素基板にて構成され、該炭化珪素基板の一部が螺旋転位発生可能領域(3a)となり、前記螺旋転位発生可能領域(3a)ではない部分が低密度螺旋転位領域(3b)となった種結晶(3)を用意し、前記蓋体(1b)に設けられた台座(1c)に対して前記種結晶(3)の中心を該台座(1c)の中心に一致させて配置し、前記炭化珪素原料(2)を加熱して発生させた昇華ガスを供給することにより、前記種結晶(3)上に炭化珪素単結晶(4)を成長させる炭化珪素単結晶の製造方法において、
前記坩堝(1)に対して、前記昇華ガスの供給を行うガス供給孔(6b)が形成された遮蔽板(6a)を有する遮蔽部(6)を配置する工程と、
前記台座(1c)に対して前記種結晶(3)を貼り付けたのち、前記種結晶(3)における前記螺旋転位発生可能領域(3a)と前記ガス供給孔(6b)の位置とが一致するようにして、前記蓋材(1b)と共に前記種結晶(3)を前記坩堝本体(1a)に設置する工程と、
前記坩堝(1)内の前記炭化珪素原料(2)を加熱して前記昇華ガスを発生させ、前記ガス供給孔(6b)を通じて前記昇華ガスを選択的に前記螺旋転位発生可能領域(3a)に供給しながら、前記炭化珪素単結晶(4)を成長させる工程と、を含んでいることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項10】
前記炭化珪素単結晶(4)を成長させる工程において、前記ガス供給孔(6b)と炭化珪素単結晶(4)成長表面との距離を1mm以上で螺旋転位発生可能領域(3a)の最大の幅以下に保つように前記蓋体(1b)に設けられた台座(1c)を移動させることを特徴とする請求項9に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−20893(P2012−20893A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158838(P2010−158838)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】