説明

炭化珪素基板の製造方法

【課題】炭化珪素基板中を貫通して流体が漏出することを防止することができる炭化珪素基板の製造方法を提供する。
【解決手段】炭化珪素から作られた第1および第2の被支持部11、12の各々と、炭化珪素から作られた支持部30とが互いに対向し、かつ第1および第2の被支持部11、12の間に隙間GPが設けられるように、第1および第2の被支持部11、12、および支持部30が配置される。支持部30の炭化珪素を昇華および再結晶させることで、第1および第2の単結晶基板11、12の各々に支持部30が接合される。この際、隙間GPにつながるように支持部30に貫通孔THが形成されることで、隙間GPおよび貫通孔THを通って流体が通過し得る経路PTが形成される。この経路PTを塞ぐことで、炭化珪素基板中を貫通して流体が漏出することを防ぐことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化珪素基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の製造に用いられる半導体基板として炭化珪素基板の採用が進められつつある。炭化珪素は、より一般的に用いられているシリコンに比べて大きなバンドギャップを有する。そのため炭化珪素基板を用いた半導体装置は、耐圧が高く、オン抵抗が低く、また高温環境下での特性の低下が小さい、といった利点を有する。
【0003】
半導体装置を効率的に製造するためには、ある程度以上の基板の大きさが求められる。米国特許第7314520号明細書(特許文献1)によれば、76mm(3インチ)以上の炭化珪素基板を製造することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7314520号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭化珪素基板の大きさは工業的には100mm(4インチ)程度にとどまっており、このため大型の基板を用いて半導体装置を効率よく製造することができないという問題がある。特に六方晶系の炭化珪素において、(0001)面以外の面の特性が利用される場合、上記の問題が特に深刻となる。このことについて、以下に説明する。
【0006】
欠陥の少ない炭化珪素基板は、通常、積層欠陥の生じにくい(0001)面成長で得られた炭化珪素インゴットから切り出されることで製造される。このため(0001)面以外の面方位を有する炭化珪素基板は、成長面に対して非平行に切り出されることになる。このため基板の大きさを十分確保することが困難であったり、インゴットの多くの部分が有効に利用できなかったりする。このため、炭化珪素の(0001)面以外の面を利用した半導体装置は、効率よく製造することが特に困難である。
【0007】
上記のように困難をともなう炭化珪素基板の大型化に代わって、炭化珪素からなる支持部と、この上の互いに異なる位置に配置された複数の炭化珪素単結晶(被支持部)とを有する炭化珪素基板を用いることを検討している。支持部は結晶欠陥密度が低くても差し支えないことが多く、よって大型のものを比較的容易に準備することができる。そして支持部の上に配置される被支持部の数を増やすことで、必要に応じて炭化珪素基板を大きくすることができる。
【0008】
本発明者らは、上記の支持部と各被支持部とを接合する方法として、支持部の炭化珪素を昇華させた後に各被支持部の上で再結晶させる方法を用いることができることを見出した。またこの方法によると、隣り合う被支持部の間の隙間につながる貫通孔が支持部中に形成されることがあるという課題も見出した。このような貫通孔が形成されると、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造において、上述した貫通孔および隙間からなる経路を経由した流体の漏出が生じることがあった。このような漏出としては、たとえば、フォトレジスト液の漏出、または真空チャックの真空部への気体の漏出が考えられる。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、炭化珪素基板中を貫通して流体が漏出することを防止することができる炭化珪素基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の炭化珪素基板の製造方法は、以下の工程を有する。互いに対向する第1および第2の主面を有し、炭化珪素から作られた支持部が準備される。互いに対向する第1の裏面および第1の表面と、第1の裏面および第1の表面をつなぐ第1の側面とを有し、炭化珪素から作られた第1の被支持部が準備される。互いに対向する第2の裏面および第2の表面と、第2の裏面および第2の表面をつなぐ第2の側面とを有し、炭化珪素から作られた第2の被支持部が準備される。第1および第2の裏面の各々が第1の主面に対向し、かつ第1および第2の側面が隙間を介して互いに対向するように、支持部と第1および第2の被支持部とが配置される。支持部の炭化珪素を昇華させることで形成されたガスを第1および第2の裏面の各々の上で再結晶させることによって、第1および第2の裏面の各々に支持部の第1の主面が接合される。接合する工程において、隙間につながるように第1および第2の主面の間を貫通する貫通孔が支持部に形成されることで、隙間および貫通孔の各々を通って流体が通過し得る経路が形成される。次にこの経路が塞がれる。
【0011】
本製造方法によれば、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造において、上記経路を経由した流体の漏出に起因した障害が生じることを防止することができる。
【0012】
好ましくは、経路を塞ぐ工程は、貫通孔を埋める工程を含む。これにより、経路を貫通孔の内部で塞ぐことができる。
【0013】
好ましくは、貫通孔を埋める工程は、以下の工程を含む。貫通孔にシリコンを主成分とする融液が導入される。融液が導入された貫通孔中において、貫通孔を塞ぐように炭化珪素が成長させられる。これにより、貫通孔をより確実に埋めることができる。
【0014】
好ましくは、炭化珪素を成長させる工程は、融液の融点以上の温度で所定の時間にわたって支持部を加熱する工程を含む。これにより、貫通孔中において、より確実に炭化珪素を成長させることができる。
【0015】
好ましくは、上記の炭化珪素基板の製造方法において、炭化珪素が成長させられた後に、融液の固化物が除去される。これにより、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造において、融液の固化物に起因した障害が生じることを防止することができる。
【0016】
好ましくは、固化物を除去する工程は、エッチング液を用いたウエットエッチングによって行われる。これにより固化物の除去を容易に行うことができる。
【0017】
より好ましくは、エッチング液はフッ硝酸を含む。これにより、シリコンを主成分とする固化物をエッチングすると同時に、炭化珪素からなる部分へのダメージを避けることができる。
【0018】
好ましくは、上記の炭化珪素基板の製造方法において、固化物が除去された後に、第1および第2の被支持部および支持部を有する炭化珪素基板の表面の少なくとも一部が研磨される。これにより、炭化珪素基板を用いて炭化珪素が成長させられる際の、上記の固化物以外の望ましくない形成物を除去することができる。
【0019】
好ましくは、上記の炭化珪素基板の製造方法において、炭化珪素が成長させられた後に、第1および第2の被支持部および支持部を有する炭化珪素基板の表面の少なくとも一部が研磨される。これにより、炭化珪素が成長させられる際に形成された、望ましくない形成物を除去することができる。
【0020】
好ましくは、融液を導入する工程は、隙間を経由して行われる。これにより、隙間を介して融液を貫通孔へ導くことができる。
【0021】
好ましくは、融液を導入する工程は、第2の主面から行われる。これにより第1および第2の表面から融液を供給する必要がなくなるので、第1および第2の表面へのダメージの発生を抑えることができる。
【0022】
好ましくは、融液を導入する工程は、以下の工程を有する。第1および第2の被支持部および支持部を有する炭化珪素基板の上に、シリコンを主成分とする固体からなる材料部が設けられる。材料部を材料部の融点以上に加熱することによって融液が生成される。これにより、貫通孔に導入するための融液を、炭化珪素基板上に容易に生成することができる。
【0023】
好ましくは、材料部を設ける工程は、炭化珪素基板上に材料部としての材料片を載せることによって行われる。これにより、より容易に融液を生成することができる。
【0024】
好ましくは、材料部を設ける工程は、炭化珪素基板上に材料部としての材料膜を成膜することによって行われる。これにより、材料膜の厚さを調整することによって、生成される融液の量を精度よく調整することができる。
【0025】
好ましくは、経路を塞ぐ工程は、経路の少なくとも一端を蓋する工程を含む。これにより微細な貫通孔の内部を埋めなくても、経路を介した流体の漏出を防止することができる。
【0026】
好ましくは、蓋する工程は、第1および第2の表面の間を塞ぎ、かつ第1および第2の表面の各々の少なくとも一部を露出する蓋を形成する工程を含む。これにより、蓋する工程において形成される蓋を、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造において障害になりにくい位置に配置することができる。
【0027】
好ましくは、蓋する工程は、第2の主面上に蓋を形成する工程を含む。これにより貫通孔を直接蓋することができる。
【0028】
好ましくは、蓋する工程は、TaC、TiC、WC、VC、ZrC、NbC、MoC,HfC、TiNよりなる群から選ばれた1つ以上の材料を用いて行われる。これにより、蓋する工程によって形成される蓋が、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造において与える悪影響を小さくすることができる。
【0029】
好ましくは、蓋する工程は、スパッタ法および蒸着法の少なくともいずれかを用いて行われる。これにより、蓋する工程を容易に行うことができる。
【0030】
なお上記において第1および第2の被支持部について言及しているが、このことは第1および第2の被支持部に加えてさらに1つ以上の被支持部を有する形態を除外することを意味するものではない。
【発明の効果】
【0031】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、炭化珪素基板中を貫通して流体が漏出することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の構成を概略的に示す平面図である。
【図2】図1の線II−IIに沿う概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第1工程を概略的に示す上面図である。
【図4】図3の概略底面図である。
【図5】図3および図4の線V−Vに沿う概略断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第2工程を概略的に示す部分断面図である。
【図7】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図8】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第4工程を概略的に示す部分断面図である。
【図9】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第5工程を概略的に示す断面図である。
【図10】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第6工程を概略的に示す断面図である。
【図11】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第7工程を概略的に示す断面図である。
【図12】本発明の実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法の第1工程を概略的に示す断面図である。
【図13】図12の部分拡大図である。
【図14】本発明の実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法の第2工程を概略的に示す断面図であり、炭化珪素が移動する様子を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法の第2工程を概略的に示す断面図であり、炭化珪素が移動する様子を示す図である。
【図16】図15の断面において空隙が移動する様子を示す図である。
【図17】本発明の実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法の第1工程を概略的に示す断面図である。
【図18】本発明の実施の形態3における炭化珪素基板の第2工程を概略的に示す断面図である。
【図19】本発明の実施の形態3における炭化珪素基板の第3工程を概略的に示す断面図である。
【図20】本発明の実施の形態3における炭化珪素基板の第4工程を概略的に示す断面図である。
【図21】本発明の実施の形態3における炭化珪素基板の第5工程を概略的に示す断面図である。
【図22】本発明の実施の形態4における炭化珪素装置の製造方法の第1工程を概略的に示す平面図である。
【図23】図22の線XXIII−XXIII線に沿う概略断面図である。
【図24】本発明の実施の形態5における炭化珪素装置の製造方法の一工程を概略的に示す部分断面図である。
【図25】本発明の実施の形態6における半導体装置の構成を概略的に示す部分断面図である。
【図26】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の概略的なフロー図である。
【図27】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
【図28】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の第2工程を概略的に示す部分断面図である。
【図29】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図30】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の第4工程を概略的に示す部分断面図である。
【図31】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の第5工程を概略的に示す部分断面図である。
【図32】本発明の実施の形態7における半導体装置の製造方法の一工程を概略的に示す部分断面図である。
【図33】本発明の実施の形態8における半導体装置の製造方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
【図34】本発明の実施の形態8における半導体装置の製造方法の第2工程を概略的に示す部分断面図である。
【図35】本発明の実施の形態8における半導体装置の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図36】本発明の実施の形態8における半導体装置の製造方法の第4工程を概略的に示す部分断面図である。
【図37】本発明の実施の形態8における半導体装置の製造方法の第5工程を概略的に示す部分断面図である。
【図38】本発明の実施の形態9における半導体装置の製造方法の一工程を概略的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
(実施の形態1)
図1および図2に示すように、本実施の形態の炭化珪素基板81は、支持基板30(支持部)と、支持基板30によって支持された単結晶基板11〜19(被支持部)とを有する。単結晶基板11〜19は、単結晶基板群10とも称する。
【0034】
支持基板30は、単結晶基板11〜19の裏面(図1に示される面と反対の面)を互いにつないでおり、これにより単結晶基板11〜19は互いに固定されている。単結晶基板11〜19のそれぞれは同一平面上において露出した表面を有し、たとえば単結晶基板11および12のそれぞれは、表面F1およびF2(第1および第2の表面)を有する。これにより炭化珪素基板81は、単結晶基板11〜19の各々に比して大きな表面を有する。よって単結晶基板11〜19の各々を単独で用いる場合に比して、炭化珪素基板81を用いる場合の方が、半導体装置をより効率よく製造することができる。
【0035】
支持基板30は、炭化珪素から作られており、互いに対向する主面P1(第1の主面)および主面P2(第2の主面)を有する。
【0036】
単結晶基板11〜19の各々は、炭化珪素から作られており、互いに対向する裏面および表面と、この裏面および表面をつなぐ側面とを有する。たとえば、単結晶基板11(第1の被支持部)は、互いに対向する裏面B1(第1の裏面)および表面F1(第1の表面)と、裏面B1および表面F1をつなぐ側面S1(第1の側面)とを有し、単結晶基板12(第2の被支持部)は、互いに対向する裏面B2(第2の裏面)および表面F2(第2の表面)と、裏面B2および表面F2をつなぐ側面S2(第2の側面)とを有する。
【0037】
また単結晶基板11〜19の各々は支持基板30上に配置されている。単結晶基板11〜19の各々の裏面(裏面B1、B2など)は支持基板30の主面P1に接合されている。また単結晶基板11〜19のうち隣り合うものの間には隙間GPが形成されている。よって、たとえば側面S1およびS2は、隙間GPを介して互いに対向している。なお隙間GPが単結晶基板11〜19の間を完全に分離する必要はなく、たとえば側面S1の一部と側面S2の一部とが互いに接触していてもよい。
【0038】
支持基板30中には、隙間GPにつながるように主面P1、P2の間を貫通する閉塞部TRが形成されている。閉塞部TRの少なくとも一部は、支持基板30における後述する炭化珪素の再成長によって、貫通孔であった領域が埋められた部位である。このように炭化珪素基板81の支持基板30は、貫通孔であった領域の少なくとも一部が埋められており、これにより、この貫通孔を経由する流体の通過が防止されている。
【0039】
次に炭化珪素基板81の製造方法について説明する。
図3〜図5を参照して、まず炭化珪素基板80が準備される。炭化珪素基板80は、未だ埋められていない貫通孔THを有する支持基板30を含むものである。貫通孔THは、支持基板30中において、隙間GPにつながるように主面P1およびP2の間を貫通している。これにより、炭化珪素基板81中には、隙間GPおよび貫通孔THの各々を通って流体が通過し得る経路PTが形成されている。このため、たとえば、炭化珪素基板81を用いた半導体装置の製造において、フォトレジスト液が経路PTを経由して漏出したり、炭化珪素基板81の真空チャッキングにおいて真空部へのリークが生じたりし得る。
【0040】
なお炭化珪素基板80の製造方法、および貫通孔THの発生原因は、実施の形態2において説明する。また図中、貫通孔THの大きさは誇張されており、貫通孔THは一般に目視では観察しにくい。貫通孔THの存在は、たとえば、炭化珪素基板80の支持基板30側と単結晶基板群10側との間に圧力差を設け、かつその一方側に液体をかけることによって確認され得る。すなわちその存在は、貫通孔THおよび隙間GPによって構成された経路PTを通って他方側へと漏出する液体の存在によって間接的に確認され得る。
【0041】
図6を参照して、炭化珪素基板80(図5)の上に、シリコン片21a(材料片)が載せられる。シリコン片21aは、その底部の少なくとも一部が隙間GPに面するように載せられる。隙間GPの存在は貫通孔THの存在に比して容易に特定され得るので、隙間GPに面する位置、すなわちシリコン片21aを載せるべき位置は、容易に特定され得る。シリコン片21aは、炭化珪素の昇華温度(1800℃〜2500℃程度)よりも低い融点を有するものであればよく、たとえば純粋なシリコン、また添加物を含むシリコンからなる。たとえば、シリコン片21aは、厚さ100〜400μmのシリコン基板から切り出された部材であり、1mm程度の幅と、隙間GP(図5)の平面視(図3)における長さに対応する長さとを有する。
【0042】
図7を参照して、シリコン片21aがその融点以上に加熱される。この加熱の条件を例示すると、加熱温度は1500℃、加熱時間は10分、加熱雰囲気は、Ar雰囲気、Si雰囲気、またはH2−Si−C雰囲気とされる。これによりシリコン片21aから融液21bが生成される。融液21bは、隙間GPに侵入し、支持基板30の主面P1に達する。支持基板30の材料、すなわち炭化珪素のシリコン融液に対する濡れ性は良好であり、このため主面P1に達した融液21bは貫通孔THに容易に侵入する。
【0043】
図8を参照して、上記の融液21bの進入によって、貫通孔TH(図7)であった領域の少なくとも一部は、貫通孔TH中において融液21bが導入された部分である融液部TSとなる。
【0044】
図9を参照して、融液部TS、すなわち融液21bが導入された貫通孔THにおいて、貫通孔THを塞ぐように炭化珪素が成長させられる。具体的には、融液部TS中において支持基板30の液相エピタキシャル成長が生じ、この結果、貫通孔THが埋められることによって塞がれる。なお貫通孔TH中において炭化珪素をより確実に成長させるためには、融液21bの融点以上の温度で所定時間にわたって支持基板30が加熱される。この所定時間は、貫通孔THの大きさが大きいほど長くされることが好ましい。
【0045】
図10を参照して、融液21b(図9)の温度が下げられることによって融液21bが固化することで、固化物21cが形成される。
【0046】
図11を参照して、容器28中にエッチング液29が溜められる。エッチング液29は、固化物21cを十分な速度で溶かすことができるものであり、かつ炭化珪素へのダメージが小さいものであり、たとえばフッ硝酸を含むエッチング液である。次にエッチング液29中に固化物21cが浸漬される。これにより固化物21cがウエットエッチングによって除去される。
【0047】
以上により炭化珪素基板81(図2)が得られる。好ましくは、さらに単結晶基板群10の表面(表面F1、F2など)が研磨される。これにより、表面が平坦化されるだけでなく、表面上に上記の加熱工程の際に成長した炭化珪素が除去される。また必要に応じて支持基板30の主面P2も研磨される。
【0048】
本実施の形態によれば、貫通孔TH(図5)が塞がれて閉塞部TRとなっている。よって炭化珪素基板81を用いた半導体装置の製造において、経路PT(図5)を経由した液体の漏出が防止される。したがって、この漏出に起因した障害が生じることを防止することができる。
【0049】
上記のように経路PTは貫通孔THの内部で塞がれるので、炭化珪素基板81(図2)の外面は、炭化珪素基板80の外面とほぼ同様とし得る。すなわち炭化珪素基板80の外面上に何らかの部材を付加する必要がない。
【0050】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、実施の形態1における炭化珪素基板81の製造方法において用いられた炭化珪素基板80(図3〜図5)の製造方法について説明する。なお実施の形態1の要素と同一または対応する要素については、同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。また、以下において説明を簡略化するために単結晶基板11〜19のうち単結晶基板11および12に関してのみ言及する場合があるが、単結晶基板13〜19も単結晶基板11および12と同様に扱われる。
【0051】
図12および図13を参照して、支持基板30と、単結晶基板11〜19すなわち単結晶基板群10と、加熱装置とが準備される。
【0052】
単結晶基板11〜19の各々は、たとえば、六方晶系における(0001)面で成長したSiCインゴットを(03−38)面に沿って切断することによって準備される。この場合、好ましくは、(03−38)面側が裏面として用いられ、(0−33−8)面側が表面として用いられる。
【0053】
加熱装置は、第1および第2の加熱体91、92と、断熱容器40と、ヒータ50と、ヒータ電源150とを有する。断熱容器40は、断熱性の高い材料から形成されている。ヒータ50は、たとえば電気抵抗ヒータである。第1および第2の加熱体91、92は、ヒータ50からの放射熱を吸収して得た熱を再放射することによって、支持基板30および単結晶基板群10を加熱する機能を有する。第1および第2の加熱体91、92は、たとえば、空隙率の小さいグラファイトから形成されている。
【0054】
次に、第1の加熱体91、単結晶基板群10、支持基板30、第2の加熱体92が、この順に積み重なるように配置される。具体的には、まず第1の加熱体91上に、単結晶基板11〜19がマトリクス状に配置される。たとえば単結晶基板11および12は、側面S1およびS2が隙間GPを介して対向するように載置される。次に単結晶基板群10の表面上に支持基板30が載置される。次に支持基板30上に第2の加熱体92が載置される。次に、積層された、第1の加熱体、単結晶基板群10、支持基板30、第2の加熱体が、ヒータ50が設けられた断熱容器40内に収められる。
【0055】
次に断熱容器40内の雰囲気が、大気雰囲気の減圧によって得られた雰囲気、または不活性ガス雰囲気とされる。不活性ガスとしては、たとえば、He、Arなどの希ガス、窒素ガス、または希ガスと窒素ガスとの混合ガスを用いることができる。また断熱容器40内の圧力は、好ましくは50kPa以下とされ、より好ましくは10kPa以下とされる。
【0056】
次にヒータ50によって、第1および第2の加熱体91、92のそれぞれを介して、単結晶基板群10と支持基板30とが、昇華再結晶反応が生じる程度の温度、たとえば1800℃以上2500℃以下の温度に加熱される。この加熱は、支持基板30の温度が単結晶基板群10の温度よりも高くなるような温度差が形成されるように行われる。このような温度差は、断熱容器40内に温度勾配を設けることによって得ることができ、この温度勾配は、たとえば0.1℃/mm以上100℃/mm以下である。
【0057】
図14を参照して、上記の加熱が開始される段階では、支持基板30は単結晶基板11および12の各々の上に載置されているだけであって、接合はされていない。このため単結晶基板11および12の裏面(図13:裏面B1およびB2)の各々と、支持基板30の主面P1との間には、ミクロ的には空隙GQが存在する。空隙GQの平均高さ(図14における縦方向の寸法)は、たとえば数十μmである。
【0058】
上述したように、単結晶基板11および12の各々の温度に比して支持基板30の温度が高くされると、この温度差に起因して、昇華および再結晶による炭化珪素の物質移動が生じる。具体的には、支持基板30から炭化珪素の昇華ガスが形成され、このガスは単結晶基板11および12の各々の上で再結晶する。つまり空隙GQにおいて図中矢印Mcに示すように支持基板30から単結晶基板11および12の各々への物質移動が生じ、また図中矢印Mbに示すように支持基板30から隙間GPに向かって物質移動が生じる。
【0059】
さらに図15を参照して、矢印MbおよびMc(図14)のそれぞれに示す物質移動は、逆に言えば、隙間GPおよび空隙GQに存在する空洞の、矢印H1bおよびH1c(図15)に示す空洞移動に対応する。ここで空隙GQの高さ(図中の縦方向の寸法)には大きな面内ばらつきがあり、このばらつきに起因して、空隙GQに対応する空洞の移動(図中矢印H1c)の速度に大きな面内ばらつきが生じる。
【0060】
さらに図16を参照して、上記ばらつきのために空隙GQ(図15)に対応する空洞は、その形状を保ちつつ移動することができず、代わりに複数のボイドVc(図16)を生成する。ボイドVcは、上記温度差に起因して矢印H2c(図16)に示すように移動し、やがて支持基板30の主面P2(図13)に達して消失する。
【0061】
またH1b(図15)に示す、隙間GPに対応する空洞の移動によって、隙間GPにつながる空洞Vbが、矢印H2b(図16)に示すように、主面P1から支持基板30内部へと延びていく。空洞Vbは、空隙GQの高さに比してはるかに大きい高さを有する隙間GPから生成されるため、より継続的に生成され続け、この結果、貫通孔TH(図3〜図5)が形成される。
【0062】
以上のようにして、裏面B1、B2の各々に支持基板30の主面P1が接合されることで、貫通孔THを有する炭化珪素基板80が得られる。
【0063】
好ましくは、支持基板30の不純物濃度は、単結晶基板11〜19の各々の不純物濃度よりも高くされる。すなわち相対的に、支持基板30の不純物濃度は高く、また単結晶基板11〜19の不純物濃度は低くされる。支持基板30の不純物濃度が高いことによって支持基板30の抵抗率を小さくすることができるので、炭化珪素基板81を流れる電流に対する抵抗が低減される。また単結晶基板11〜19の不純物濃度が低いことによって、その結晶欠陥をより容易に低減することができる。なお不純物としては、たとえば窒素またはリンを用いることができる。
【0064】
単結晶基板11の炭化珪素の結晶構造は六方晶系であることが好ましく、4H型または6H型であることがより好ましい。また好ましくは、単結晶基板11の{0001}面に対する表面F1のオフ角は50°以上65°以下である。より好ましくは、表面F1のオフ方位と単結晶基板11の<1−100>方向とのなす角は5°以下である。さらに好ましくは、単結晶基板11の<1−100>方向における{03−38}面に対する表面F1のオフ角は−3°以上5°以下である。このような結晶構造が用いられることによって、炭化珪素基板80を用いた半導体装置のチャネル移動度を高くすることができる。なお「<1−100>方向における{03−38}面に対する表面F1のオフ角」とは、<1−100>方向および<0001>方向の張る射影面への表面F1の法線の正射影と、{03−38}面の法線とのなす角度であり、その符号は、上記正射影が<1−100>方向に対して平行に近づく場合が正であり、上記正射影が<0001>方向に対して平行に近づく場合が負である。また表面F1の好ましいオフ方位として、上記以外に、単結晶基板11の<11−20>方向とのなす角が5°以下となるようなオフ方位を用いることもできる。また上記において単結晶基板11の炭化珪素の結晶構造の好ましい例について説明したが、他の単結晶基板12〜19についても同様である。
【0065】
(実施の形態3)
本実施の形態においても実施の形態1とほぼ同様の炭化珪素基板81が得られる。よって実施の形態1の要素と同一または対応する要素については、同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。本実施の形態における製造方法について、以下に説明する。
【0066】
まず実施の形態2で説明した方法によって、炭化珪素基板80(図3〜図5)が準備される。
【0067】
図17を参照して、支持基板30の主面P2上に、シリコン膜21x(材料膜)が成膜される。シリコン膜21xの材料としては、シリコン片21aと同様のものを用いることができる。シリコン膜21xの厚さは貫通孔THの大きさが大きいほど厚くすることが好ましく、たとえば10nm〜10μmである。
【0068】
図18を参照して、シリコン膜21xがその融点以上に加熱される。これによりシリコン膜21xから融液21yが生成される。融液21yは主面P2から貫通孔THに侵入する。なお好ましい加熱条件は実施の形態1と同様である。
【0069】
図19を参照して、上記の融液21yの進入によって、貫通孔TH(図18)であった領域の少なくとも一部は、貫通孔TH中において融液21yが導入された部分である融液部TSとなる。
【0070】
図20を参照して、融液部TS、すなわち融液21bが導入された貫通孔THにおいて、貫通孔THを塞ぐように炭化珪素が成長させられる。具体的には、融液部TS中において支持基板30の液相エピタキシャル成長が生じ、この結果、貫通孔THが埋められることによって塞がれる。なお貫通孔TH中において炭化珪素をより確実に成長させるためには、融液21yの融点以上の温度で所定の時間にわたって支持基板30が加熱される。
【0071】
図21を参照して、融液21y(図20)の温度が下げられることによって融液21yが固化することで、固化物21zが形成される。この時点で、炭化珪素基板81の支持基板30の主面P2上に固化物21zが付加された構成を有する炭化珪素基板81pが得られる。次に、必要に応じて、固化物21zが、たとえば研磨または上述したウエットエッチングによって除去される。これにより実施の形態1とほぼ同様の炭化珪素基板81(図2)が得られる。
【0072】
本実施の形態によれば、融液21yを導入する工程(図18)は、主面P2から行われる。これにより表面F1、F2から融液21yを供給する必要がなくなるので、融液21yとの接触に起因する表面F1、F2へのダメージの発生を抑えることができる。
【0073】
またシリコン膜21x(図17)を融点以上に加熱することによって、貫通孔THに導入するための融液21y(図18)を、主面P2上に容易に生成することができる。
【0074】
また生成される融液21y(図18)の量は、シリコン膜21x(図17)の厚さを調整することによって、精度よく調整することができる。
【0075】
なお貫通孔TH(図18)全体が炭化珪素で埋められずに、貫通孔THの一部に融液21yの固化物が残留してもよい。この固化物は、炭化珪素基板81を用いた半導体装置の製造において高温加熱されることで再度溶融し得る。この際にも貫通孔TH内で炭化珪素が成長し得る。
【0076】
(実施の形態4)
図22および図23に示すように、本実施の形態の炭化珪素基板82は、炭化珪素基板80(図3〜図5)にキャップ膜22(蓋)が付加された構成を有する。キャップ膜22は、表面F1およびF2の間を塞ぐことによって隙間GPの開口を蓋している。これにより経路PTの一端が塞がれている。またキャップ膜22は、表面F1およびF2の各々を部分的に露出している。キャップ膜22の材料は、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造において悪影響を生じにくいものが好ましく、具体的には、耐熱性および対薬品性の高いものが好ましい。このような材料としては、たとえば、TaC、TiC、WC、VC、ZrC、NbC、MoC,HfC、またはTiNがある。
【0077】
キャップ膜22の炭化珪素基板80への付加は、炭化珪素基板80(図5)の単結晶基板群10側の面の一部の上に、キャップ膜22の材料を成膜することにより行われ得る。部分的な成膜は、たとえば開口部を有するメタルマスクを用いることによって行われ得る。成膜法は、たとえばスパッタ法または蒸着法である。
【0078】
本実施の形態によれば、微細な貫通孔THを埋める必要なく、経路PTを塞ぐことができる。またキャップ膜22は、表面F1およびF2の間およびその近傍の位置、すなわち、炭化珪素基板82を用いた半導体装置の製造において障害になりにくい位置に配置することができる。またキャップ膜22はダイシングの際に同時に除去することができ、この場合、キャップ膜22を除去するためだけの工程を設ける必要がない。また炭化珪素基板82の製造方法は、炭化珪素基板80上に部分的な成膜を行うのみでよい。
【0079】
(実施の形態5)
図24に示すように、本実施の形態の炭化珪素基板83は、炭化珪素基板80(図3〜図5)にキャップ層23(蓋)が付加された構成を有する。キャップ層23は、支持基板30の主面P2上に形成されており、貫通孔THの開口を蓋している。これにより経路PTの一端が塞がれている。キャップ層23は主面P2の全体を覆っていてよい。キャップ層23の材料としては、キャップ膜22(図23)と同様のものを用いることができる。キャップ膜の形成方法としては、たとえば、スパッタ法または蒸着法を用いることができる。
【0080】
本実施の形態によれば、微細な貫通孔THを埋める必要なく、経路PTを塞ぐことができる。また実施の形態4と異なり、キャップ層23は開口部を有する必要がなく、よってより容易に形成され得る。
【0081】
(実施の形態6)
本実施の形態においては、炭化珪素基板81(図1および図2)を用いた半導体装置の製造について説明する。なお実施の形態6〜9において説明を簡単にするために炭化珪素基板81が有する単結晶基板11〜19のうち単結晶基板11にのみ言及する場合があるが、他の単結晶基板12〜19の各々もほぼ同様に扱われる。
【0082】
図25を参照して、本実施の形態の半導体装置100は、縦型DiMOSFET(Double Implanted Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)であって、支持基板30、単結晶基板11、バッファ層121、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、p+領域125、酸化膜126、ソース電極111、上部ソース電極127、ゲート電極110、およびドレイン電極112を有する。半導体装置100の平面形状(図25の上方向から見た形状)は、たとえば、2mm以上の長さの辺からなる長方形または正方形である。
【0083】
ドレイン電極112は支持基板30上に設けられ、またバッファ層121は単結晶基板11上に設けられている。この配置により、ゲート電極110によってキャリアの流れが制御される領域は、支持基板30ではなく単結晶基板11の上に配置されている。
【0084】
支持基板30、単結晶基板11、およびバッファ層121は、n型の導電型を有する。バッファ層121におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3である。またバッファ層121の厚さは、たとえば0.5μmである。
【0085】
耐圧保持層122は、バッファ層121上に形成されており、また導電型がn型のSiCからなる。たとえば、耐圧保持層122の厚さは10μmであり、そのn型の導電性不純物の濃度は5×1015cm-3である。
【0086】
この耐圧保持層122の表面には、導電型がp型である複数のp領域123が互いに間隔を隔てて形成されている。p領域123の内部において、p領域123の表面層にn+領域124が形成されている。また、このn+領域124に隣接する位置には、p+領域125が形成されている。複数のp領域123の間から露出する耐圧保持層122上には酸化膜126が形成されている。具体的には、酸化膜126は、一方のp領域123におけるn+領域124上から、p領域123、2つのp領域123の間において露出する耐圧保持層122、他方のp領域123および当該他方のp領域123におけるn+領域124上にまで延在するように形成されている。酸化膜126上にはゲート電極110が形成されている。また、n+領域124およびp+領域125上にはソース電極111が形成されている。このソース電極111上には上部ソース電極127が形成されている。
【0087】
酸化膜126と、半導体層としてのn+領域124、p+領域125、p領域123および耐圧保持層122との界面から10nm以内の領域における窒素原子濃度の最大値は1×1021cm-3以上となっている。これにより、特に酸化膜126下のチャネル領域(酸化膜126に接する部分であって、n+領域124と耐圧保持層122との間のp領域123の部分)の移動度を向上させることができる。
【0088】
次に半導体装置100の製造方法について説明する。まず基板準備工程(ステップS110:図26)にて、炭化珪素基板81(図1および図2)が準備される。
【0089】
図27を参照して、エピタキシャル層形成工程(ステップS120:図26)により、バッファ層121および耐圧保持層122が、以下のように形成される。
【0090】
単結晶基板群10の表面上にバッファ層121が形成される。バッファ層121は、導電型がn型のSiCからなり、たとえば厚さ0.5μmのエピタキシャル層である。またバッファ層121における導電型不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3とされる。
【0091】
次にバッファ層121上に耐圧保持層122が形成される。具体的には、導電型がn型のSiCからなる層が、エピタキシャル成長法によって形成される。耐圧保持層122の厚さは、たとえば10μmとされる。また耐圧保持層122におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1015cm-3である。
【0092】
図28を参照して、注入工程(ステップS130:図26)により、p領域123と、n+領域124と、p+領域125とが、以下のように形成される。
【0093】
まずp型の導電性不純物が耐圧保持層122の一部に選択的に注入されることで、p領域123が形成される。次に、n型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってn+領域124が形成され、またp型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってp+領域125が形成される。なお不純物の選択的な注入は、たとえば酸化膜からなるマスクを用いて行われる。
【0094】
このような注入工程の後、活性化アニール処理が行われる。たとえば、アルゴン雰囲気中、加熱温度1700℃で30分間のアニールが行われる。
【0095】
図29を参照して、ゲート絶縁膜形成工程(ステップS140:図26)が行われる。具体的には、耐圧保持層122と、p領域123と、n+領域124と、p+領域125との上を覆うように、酸化膜126が形成される。この形成はドライ酸化(熱酸化)により行われてもよい。ドライ酸化の条件は、たとえば、加熱温度が1200℃であり、また加熱時間が30分である。
【0096】
その後、窒化処理工程(ステップS150)が行われる。具体的には、一酸化窒素(NO)雰囲気中でのアニール処理が行われる。この処理の条件は、たとえば加熱温度が1100℃であり、加熱時間が120分である。この結果、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、およびp+領域125の各々と、酸化膜126との界面近傍に、窒素原子が導入される。
【0097】
なおこの一酸化窒素を用いたアニール工程の後、さらに不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスを用いたアニール処理が行われてもよい。この処理の条件は、たとえば、加熱温度が1100℃であり、加熱時間が60分である。
【0098】
図30を参照して、電極形成工程(ステップS160:図26)により、ソース電極111およびドレイン電極112が、以下のように形成される。
【0099】
まず酸化膜126上に、フォトリソグラフィ法を用いて、パターンを有するレジスト膜が形成される。このレジスト膜をマスクとして用いて、酸化膜126のうちn+領域124およびp+領域125上に位置する部分がエッチングにより除去される。これにより酸化膜126に開口部が形成される。次に、この開口部においてn+領域124およびp+領域125の各々と接触するように導体膜が形成される。次にレジスト膜を除去することにより、上記導体膜のうちレジスト膜上に位置していた部分の除去(リフトオフ)が行われる。この導体膜は、金属膜であってもよく、たとえばニッケル(Ni)からなる。このリフトオフの結果、ソース電極111が形成される。
【0100】
なお、ここでアロイ化のための熱処理が行なわれることが好ましい。たとえば、不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスの雰囲気中、加熱温度950℃で2分の熱処理が行なわれる。
【0101】
図31を参照して、ソース電極111上に上部ソース電極127が形成される。また、酸化膜126上にゲート電極110が形成される。また、炭化珪素基板81の裏面上にドレイン電極112が形成される。
【0102】
次に、ダイシング工程(ステップS170:図26)により、破線DCに示すようにダイシングが行われる。これにより複数の半導体装置100(図25)が切り出される。
【0103】
本実施の形態の半導体装置100の製造方法によれば、炭化珪素基板80の貫通孔TH(図3〜図5)が塞がれることで得られた炭化珪素基板81が用いられるので、炭化珪素基板81中を貫通して流体が漏出することが防止される。たとえば、フォトレジスト液の漏出、または真空チャックの真空部への気体の漏出が防止される。
【0104】
(実施の形態7)
本実施の形態においては、炭化珪素基板81p(図21)を用いた半導体装置100(図25)の製造について説明する。
【0105】
図32を参照して、実施の形態6と同様に、エピタキシャル層形成工程S120、注入工程S130、ゲート絶縁膜形成工程S140、および窒化処理工程S150(図26)が行われる。またソース電極111、上部ソース電極127、およびゲート電極110が形成される。次に、たとえば半導体装置の低抵抗化を目的として、バックグラインド工程、すなわち、支持基板30の厚さを低減する研磨が行われる。本実施の形態においては支持基板30上に固化物21zが形成されているので、まず固化物21zが研磨によって除去され、その後に支持基板30の厚さが低減される。次に支持基板30の裏面上にドレイン電極112が形成され、その後ダイシング工程S170(図26)が行われる。以上により半導体装置100(図25)が得られる。
【0106】
本実施の形態の半導体装置100の製造方法によれば、炭化珪素基板81p中を貫通して流体が漏出することが防止される。またバックグラインド工程の際に固化物21zを除去することができる。
【0107】
(実施の形態8)
本実施の形態の半導体装置100(図25)の製造方法は、実施の形態6とほぼ同様であるが、炭化珪素基板81(図27)の代わりに炭化珪素基板82(図33)が用いられる。これ以外は実施の形態6とほぼ同様の工程が、図33〜図37に示すように行われる。
【0108】
本実施の形態の半導体装置100の製造方法によれば、炭化珪素基板82中を貫通して流体が漏出することが防止される。またダイシング工程(ステップS170:図26、破線DC:図37)においてキャップ膜22を除去することができる。
【0109】
(実施の形態9)
本実施の形態の半導体装置100(図25)の製造方法は、実施の形態6とほぼ同様であるが、炭化珪素基板81(図27)の代わりに炭化珪素基板83(図38)が用いられる。
【0110】
図38を参照して、実施の形態6と同様に、エピタキシャル層形成工程S120、注入工程S130、ゲート絶縁膜形成工程S140、および窒化処理工程S150(図26)が行われる。またソース電極111、上部ソース電極127、およびゲート電極110が形成される。次に、たとえば半導体装置の低抵抗化を目的として、バックグラインド工程、すなわち、支持基板30の厚さを低減する研磨が行われる。本実施の形態においては支持基板30上にキャップ層23が形成されているので、まずキャップ層23が研磨によって除去され、その後に支持基板30の厚さが低減される。次に支持基板30の裏面上にドレイン電極112が形成され、その後ダイシング工程S170(図26)が行われる。以上により半導体装置100(図25)が得られる。
【0111】
なお上記の各実施の形態において、導電型が入れ替えられた構成、すなわちp型とn型とが入れ替えられた構成を用いることもできる。また縦型DiMOSFETを例示したが、本発明の半導体基板を用いて他の半導体装置が製造されてもよく、たとえばRESURF−JFET(Reduced Surface Field-Junction Field Effect Transistor)またはショットキーダイオードが製造されてもよい。
【0112】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0113】
10 単結晶基板群、11〜19 単結晶基板(被支持部)、21a シリコン片(材料片)、21b,21y 融液、21c,21z 固化物、21x シリコン膜(材料膜)、22 キャップ膜(蓋)、23 キャップ層(蓋)、29 エッチング液、30 支持基板(支持部)、81,81p,82,83 炭化珪素基板、100 半導体装置、B1 裏面(第1の裏面)、B2 裏面(第2の裏面)、F1 表面(第1の表面)、F2 表面(第2の表面)、GP 隙間、GQ 空隙、P1 主面(第1の主面)、P2 主面(第2の主面)、PT 経路、S1 側面(第1の側面)、S2 側面(第2の側面)、TH 貫通孔、TR 平側部、TS 融液部、Vb 空洞、Vc ボイド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1および第2の主面を有し、炭化珪素から作られた支持部を準備する工程と、
互いに対向する第1の裏面および第1の表面と、前記第1の裏面および前記第1の表面をつなぐ第1の側面とを有し、炭化珪素から作られた第1の被支持部を準備する工程と、
互いに対向する第2の裏面および第2の表面と、前記第2の裏面および前記第2の表面をつなぐ第2の側面とを有し、炭化珪素から作られた第2の被支持部を準備する工程と、
前記第1および第2の裏面の各々が前記第1の主面に対向し、かつ前記第1および第2の側面が隙間を介して互いに対向するように、前記支持部と前記第1および第2の被支持部とを配置する工程と、
前記支持部の炭化珪素を昇華させた後に前記第1および第2の裏面の各々の上で再結晶させることによって、前記第1および第2の裏面の各々に前記第1の主面を接合する工程とを備え、
前記接合する工程において、前記隙間につながるように前記第1および第2の主面の間を貫通する貫通孔が前記支持部に形成されることで、前記隙間および前記貫通孔の各々を通って液体が通過し得る経路が形成され、さらに
前記経路を塞ぐ工程を備える、炭化珪素基板の製造方法。
【請求項2】
前記経路を塞ぐ工程は、前記貫通孔を埋める工程を含む、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項3】
前記貫通孔を埋める工程は、
前記貫通孔にシリコンを主成分とする融液を導入する工程と、
前記融液が導入された前記貫通孔中において前記貫通孔を塞ぐように炭化珪素を成長させる工程とを含む、請求項2に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項4】
前記炭化珪素を成長させる工程は、前記融液の融点以上の温度で所定の時間にわたって前記支持部を加熱する工程を含む、請求項3に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項5】
前記炭化珪素を成長させる工程の後に、前記融液の固化物を除去する工程をさらに備える、請求項3または4に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項6】
前記固化物を除去する工程は、エッチング液を用いたウエットエッチングによって行われる、請求項5に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項7】
前記エッチング液はフッ硝酸を含む、請求項6に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項8】
前記固化物を除去する工程の後に、前記第1および第2の被支持部および前記支持部を有する炭化珪素基板の表面の少なくとも一部を研磨する工程をさらに備える、請求項5〜7のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項9】
前記炭化珪素を成長させる工程の後に、前記第1および第2の被支持部および前記支持部を有する炭化珪素基板の表面の少なくとも一部を研磨する工程をさらに備える、請求項3または4に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項10】
前記融液を導入する工程は前記隙間を経由して行われる、請求項3〜9のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項11】
前記融液を導入する工程は前記第2の主面から行われる、請求項3〜9のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項12】
前記融液を導入する工程は、
前記第1および第2の被支持部および前記支持部を有する炭化珪素基板の上に、シリコンを主成分とする固体からなる材料部を設ける工程と、
前記材料部を前記材料部の融点以上に加熱することによって前記融液を生成する工程とを含む、請求項3〜11のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項13】
前記材料部を設ける工程は、前記炭化珪素基板上に前記材料部としての材料片を載せることによって行われる、請求項12に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項14】
前記材料部を設ける工程は、前記炭化珪素基板上に前記材料部としての材料膜を成膜することによって行われる、請求項12に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項15】
前記経路を塞ぐ工程は、前記経路の少なくとも一端を蓋する工程を含む、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項16】
前記蓋する工程は、前記第1および第2の表面の間を塞ぎ、かつ前記第1および第2の表面の各々の少なくとも一部を露出する蓋を形成する工程を含む、請求項15に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項17】
前記蓋する工程は、前記第2の主面上に蓋を形成する工程を含む、請求項15に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項18】
前記蓋する工程は、TaC、TiC、WC、VC、ZrC、NbC、MoC,HfC、TiNよりなる群から選ばれた1つ以上の材料を用いて行われる、請求項15〜17のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項19】
前記蓋をする工程は、スパッタ法および蒸着法の少なくともいずれかを用いて行われる、請求項15〜18のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2011−243848(P2011−243848A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116231(P2010−116231)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】