説明

炭素繊維強化プラスチック製管状体及びその製造方法

【課題】 特に斜め方向に炭素繊維糸を配列したプリプレグを巻回積層して管状体を成形する場合において、従来よりも裁断作業量・材料ロスを軽減し、簡便で正確な角度設定を可能とする、炭素繊維強化プラスチック製管状体及びその製造方法の提供。
【解決手段】 複数の炭素繊維強化プラスチック層を積層してなる管状体であって、管状体軸方向に対して+α°、−α°、及び0°の配向角度で引き揃えた炭素繊維糸を、それぞれ上下に交錯させることなく積層して形成した多層積層プリプレグを含んで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフシャフトや釣竿ロッド等、複数の炭素繊維強化プラスチック層を積層してなる炭素繊維強化プラスチック製管状体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、強化繊維と合成樹脂からなる繊維強化複合材料により成形された管状体は、軽量で力学特性に優れるため、ゴルフシャフトや釣竿ロッド等のスポーツ用途をはじめ、さまざまな用途に用いられている。
ゴルフシャフトや釣竿ロッド等の管状体は、真円、均質、軽量、高強度(引張、圧縮、曲げ)等の特性を要求するものであり、強化繊維として炭素繊維を使用した炭素繊維強化プラスチックが用いられることが多い。
【0003】
このような管状体の製造においては、図6(a)に示すように、低目付(20〜200g/m2)の炭素繊維糸(51)を一方向に引き揃え、これにエポキシ樹脂等を含浸させてシート状に形成した一方向プリプレグ(50)が用いられている。
さらに、曲げや捩れに対する強度を高めるためには、強化繊維が管状体軸方向に対して斜め方向に配列されたプリプレグを用いることが行われているが、このようなプリプレグの形成は、図6(a)のような一方向プリプレグ(50)から、図6(b)(c)のような斜め裁断した一方向プリプレグ(51)(52)を切り出し加工することによって行われている。
そして例えば、図6(d)のように、個別に裁断された上記一方向プリプレグ(50)(51)(52)を、マンドレル(18)と呼ばれる芯金の外側に、順番に巻回積層・硬化せしめることによって管状体が成形されている。
【0004】
プリプレグの巻回積層によって形成される管状体としては、管状体全長にわたってプリプレグを巻回積層するものの他、管状体長さ方向の適所に、必要に応じて所定範囲に補強プリプレグを配設するものが考案されている。
例えば、ゴルフシャフト細径側の先端部に補強プリプレグを最適な配列角度で配設し、先端部の曲げ剛性を低減等してゴルフシャフトの耐久性向上を図ったものとして、特許文献1がある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−57642号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、個別に裁断して形成した一方向プリプレグを芯金に順次巻き付ける、という従来の方法によれば、プリプレグの裁断に要する作業量が多く、材料ロスも多く発生するという問題があった。
また、特に45°や−45°等、斜め方向に強化繊維を配列する場合には、正確に角度設定して裁断・積層するという作業の難度が高いため、人手による熟練度の高さが要求され、製造コストが高くなるという問題があった。
さらに、裁断・積層角度不良等による製品不良率が、工員の熟練度に依存し、製品の品質管理を確実に行うことが困難であるという問題があった。
上記特許文献1にあっても、斜め方向に強化繊維を配列する場合に、強化繊維が所定の角度で配列されるように一方向プリプレグを裁断形成する点では従来の方法と同じであり、上記問題を解消することはできなかった。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、特に斜め方向に炭素繊維糸を配列したプリプレグを巻回積層して管状体を成形する場合において、従来よりも裁断作業量・材料ロスを軽減し、簡便で正確な角度設定を可能とする、炭素繊維強化プラスチック製管状体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、請求項1記載の炭素繊維強化プラスチック製管状体は、複数の炭素繊維強化プラスチック層を積層してなる管状体であって、
管状体軸方向に対して+α°と−α°の配向角度で引き揃えた炭素繊維糸を、互いに上下に交錯させることなく積層して形成した多層積層プリプレグを含んでなることを要旨とする。
【0009】
請求項2記載の炭素繊維強化プラスチック製管状体は、複数の炭素繊維強化プラスチック層を積層してなる管状体であって、
管状体軸方向に対して+α°、−α°、及び0°の配向角度で引き揃えた炭素繊維糸を、
それぞれ上下に交錯させることなく積層して形成した多層積層プリプレグを含んでなることを要旨とする。
【0010】
請求項3記載の炭素繊維強化プラスチック製管状体は、請求項1又は2に記載の構成において、12K又は24Kの太さの炭素繊維糸をあらかじめ開繊処理した開繊糸を使用し、各プリプレグの炭素繊維目付を40〜100g/m2としたことを要旨とする。
【0011】
請求項4記載のゴルフシャフトは、請求項1乃至3のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック製管状体を用いてなることを要旨とする。
【0012】
請求項5記載の釣竿ロッドは、請求項1乃至3のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック製管状体を用いてなることを要旨とする。
【0013】
請求項6記載の管状体製造方法は、複数の炭素繊維強化プラスチック層を積層してなる管状体の製造方法であって、管状体軸方向に対して+α°、−α°、及び0°の配向角度で炭素繊維糸を引き揃え、
それぞれ上下に交錯させることなく積層して、多層積層ドライファブリックを形成し、
該ドライファブリックに樹脂を含浸させて、多層積層プリプレグを形成し、
該多層積層プリプレグを含む各プリプレグを、マンドレルに巻回積層し、
加熱硬化させた後に、該マンドレルを引き抜いて成形することを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、管状体軸方向に対して+α°と−α°の配向角度で引き揃えた炭素繊維糸を、互いに上下に交錯させることなく積層して多層積層プリプレグを形成したため、従来のようにプリプレグを斜めに裁断する作業が不要となり、裁断作業量・材料ロスを軽減することができる。
また、+α°、−α°の配向角度で炭素繊維糸を予め引き揃えるため、プリプレグ積層時の角度不良がなくなり、積層人件費・製品不良の大幅な削減が可能となる。
【0015】
特に本発明によれば、炭素繊維糸を互いに上下に交錯させることなく積層して、多層積層プリプレグを形成するため、3軸織物によってプリプレグを形成する場合に比べて、製造が容易であり、製造コストを抑制できる上、仕上げ表面をより平滑にできるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る管状体は、複数の炭素繊維強化プラスチック層を積層して構成される。管状体は、ゴルフシャフトや釣竿ロッド等のスポーツ用途の他、船体や飛行機の機体等に至るまで、軽量性や強度を要求される種々の産業分野での用途に使用可能なものである。
【0017】
炭素繊維強化プラスチック層は、炭素繊維糸を引き揃えたドライファブリックに、樹脂を含浸させることによって形成したプリプレグを管状に巻回してなる。炭素繊維は、軽量かつ高耐久性の成形品を得るのに適したものであり、本発明では強化繊維として炭素繊維を用いている。
炭素繊維糸としては、引張弾性率が230Gpa以上、引張強度が3700MPa以上のものを用いることが好ましい。
炭素繊維糸の太さや形状はどのようなものでも使用可能であるが、軽量化・積層性等の点から、各プリプレグの炭素繊維目付は40〜100g/m2とすることが好ましい。
従来、特に炭素繊維目付を100g/m2以下とするためには、高価な1K、3K、6Kの太さの糸が使用されていたが、12K又は24K(1K=7μm×1000本)の太さの炭素繊維糸を開繊処理した開繊糸を用いることとすれば、原料費のコストダウンが可能となる上に、樹脂含浸性が向上し、製品の強度アップにも繋がり好ましい。
【0018】
本発明に係る管状体は、複数のプリプレグを積層するものであるが、管状体軸方向に対して少なくとも+α°と−α°(0<α<90)の配向角度で引き揃えた炭素繊維糸を、互いに上下に交錯させることなく積層して形成した多層積層プリプレグを含んで構成する。
このように、斜め方向の配向角度であらかじめ炭素繊維糸を引き揃えた多層積層プリプレグを形成することで、品質の安定・工程の合理化を実現することが可能となる。
+α°と−α°というように、管状体軸方向に対して左右対称の角度設定としているのは、強度等のバランスを考慮したためである。+45°と−45°の配向角度(α=45)とすれば、強度等の等方性が発揮されて好ましい。
【0019】
炭素繊維糸を引き揃えたドライファブリックに含浸させる、プリプレグ形成用樹脂としては、力学特性、耐熱性等の観点から、エポキシ樹脂を使用することが好ましい。
所定の角度に引き揃えられた炭素繊維糸は、樹脂によって繊維の方向が固定されるため、角度を正確に保ったまま、巻回積層することが可能となる。
【0020】
多層積層ドライファブリックの繊維の配向をより正確に保つためには、ステッチ糸を用いる。ステッチ糸は樹脂が硬化するまでの間、炭素繊維糸の積層状態を保ち、糸の所定の配向を乱さないものであれば、どのようなものでもよいが、表面の平滑さを出すためには、なるべく細いものを用いることが好ましい。そのため、例えばポリエステル繊維、ガラス繊維、炭素繊維などを用いることができるが、特にポリエステル長繊維が適している。またステッチ糸による縫合方法はチェーン編み、或いはトリコット編みが適している。
【実施例1】
【0021】
本発明の第1の実施例を図面を参照しながら説明する。本実施例は、複数の炭素繊維強化プラスチック層を巻回積層して形成されるゴルフシャフトに関する。
図1に示すように、本実施例に係るゴルフシャフト(1)は、長手方向にシャフト軸(2)を有する管状体として提供され、多層積層プリプレグを含んで構成されるものである。
【0022】
図2に示すように、本実施例に係る多層積層プリプレグを形成するための多層積層ドライファブリック(5)は、シャフト軸(2)方向に対して+α°、−α°、0°の配向角度でそれぞれ引き揃えられた炭素繊維糸(6)(7)(8)を、それぞれ上下に交錯させることなく順次積層して構成される。本実施例ではα=45となるように構成されている。
本実施例では、多層積層ドライファブリック(5)の樹脂含浸性を考慮して、各層の炭素繊維糸束を略隙間無く引き並べて構成している。
また、炭素繊維糸(6)(7)(8)の所定の配向角度を保持するため、ドライファブリック(5)はステッチ糸(9)によって一体的に縫合されている。ステッチ糸(9)としては合繊長繊維糸が使用されているが、合繊長繊維糸は、一定程度の強度、伸度を有するためにステッチ糸に適したものである。
【0023】
なお、炭素繊維糸(6)(7)(8)の積層順序は上記に限るものではなく、またシャフト軸(2)に対して90°の配向角度で(シャフト軸に垂直に)引き揃えた炭素繊維糸を、0°の配向角度を持つ炭素繊維糸(8)に替えて、あるいは炭素繊維糸(8)上にさらに積層して多層積層ドライファブリック(5)を形成することとしてもよい。このような積層構成は、求められるゴルフシャフトの性能によって適宜設計変更が可能なものである。
一方向プリプレグを斜め裁断することによる裁断作業量・材料ロス、正確な角度設定等の観点からは、少なくとも+α°と−α°の炭素繊維糸層を配列しておけば効果が得られるが、さらに本実施例のように0°や90°の炭素繊維糸層をあらかじめ配列して多層積層ドライファブリックを形成しておけば、一層の合理化が図られる。
【0024】
上記のような多層積層ドライファブリック(5)を用いて、図1に示すゴルフシャフト(1)を製造する工程について説明する。
図3に示すように、本実施例に係るゴルフシャフト(1)は、第1層目、第3層目にはシャフト軸に平行な従来の一方向プリプレグ(16)(17)を、第2層目には上記多層積層ドライファブリック(5)により形成した多層積層プリプレグ(15)を、マンドレル(18)に巻回積層して製造されるものである。
製造に際しては、まず、図2に示すような多層積層ドライファブリック(5)を形成し、これにエポキシ樹脂を含浸させて、多層積層プリプレグ(15)を形成する。
一方で、炭素繊維糸を一方向に引き揃え、これにエポキシ樹脂を含浸させて形成した、一方向プリプレグ(16)(17)を用意しておく。
そして、これらを所定の寸法に整えて、図3に示すように、マンドレル(18)に順次巻き付け、さらにラッピングテープにて巻き締める。これを硬化炉等で加熱硬化した後、マンドレル(18)を引き抜いてラッピングテープを除去し、仕上げ研磨・塗装を施せば、図1に示すゴルフシャフト(1)の完成品を得ることができる。
【0025】
なお、一方向プリプレグ(16)(17)は、斜め裁断が不要なものであればよく、シャフト軸(2)方向に対して90°の配向角度で配列されたものでもよい。
また、一方向プリプレグ(16)(17)、多層積層プリプレグ(15)の積層順序や各プリプレグの積層数は、図3のものに限られず、任意に設定可能であり、多層積層プリプレグ(15)を複数層含むこととしたり、一方向プリプレグ(16)(17)を使用せず、全て多層積層プリプレグ(15)のみによって形成することとしてもよい。
【0026】
本実施例によれば、予め斜め方向(+α°、−α°)に炭素繊維糸を配列して形成した多層積層プリプレグを用いているため、裁断作業量を軽減することができ、材料ロスをほぼ皆無とすることが可能である。さらに、所定の配向角度を容易に保ったまま各プリプレグを巻回積層できるため、人件費・製造コストの削減のみならず、製品の品質向上等に多大な効果がある。
【実施例2】
【0027】
本発明の第2の実施例について説明する。本実施例は、複数の炭素繊維強化プラスチック層を巻回積層して形成される釣竿ロッドに関する。
【0028】
本実施例に係る釣竿ロッドも、実施例1と同様に、多層積層プリプレグを含んでなるものであるが、特に炭素繊維糸にあらかじめ開繊処理を施した開繊糸を用いるものである。
多層積層プリプレグは、ロッド軸方向に対して+α°、−α°、0°の配向角度でそれぞれ引き揃えられた炭素繊維糸を、それぞれ上下に交錯させることなく順次積層して構成した多層積層ドライファブリックに、エポキシ樹脂を含浸せしめて形成する(図2参照)。
積層される各炭素繊維糸は、あらかじめ開繊処理されて薄く扁平化された開繊糸であり、これを一定の目付となるように引き揃えて、積層形成している。
本実施例では、12K又は24Kの太さの炭素繊維糸を開繊処理した開繊糸を用い、多層積層プリプレグの目付が40〜100g/m2の範囲となるように構成している。
【0029】
なお、多層積層プリプレグと従来の一方向プリプレグとを複合積層させる場合であっても、一方向プリプレグの炭素繊維糸として、上記開繊処理された開繊糸を用いることとすれば、釣竿ロッド全体の製造コストを一層低減することが可能となる。
【0030】
本実施例のように、あらかじめ開繊処理した開繊糸を用いてプリプレグを形成することとすれば、各プリプレグの厚みを非常に薄くすることができ、何層にも重ねて用いることが可能となる。
また、炭素繊維糸が重なり合って極端な凹凸が生じることがなく、表面平滑性・樹脂含浸性が格段に向上することとなる。
【実施例3】
【0031】
本発明の第3の実施例について図面に基づいて説明する。本実施例は、本発明の多層積層ドライファブリックを製造するための製造機及びその製造工程に関する。
本実施例に係る製造機は、管状体軸方向に対して+α°、−α°の配向角度で炭素繊維糸を引き揃えてなる+α°層、−α°層を、互いに上下に交錯させることなく積層して形成した多層積層ドライファブリックを製造するものであり、図4に示すように、機械の進行方向に沿って順次、ドライファブリックを製造するものである。
【0032】
図4に示すように、最初に、+α°層製造装置(26)によって+α°層が形成される。+α°層製造装置(26)は、クリールスタンド(27)、挿入装置(28)、グリッパー(29)、グリッパーガイド(30)を備えており、まずは糸掛け装置であるクリールスタンド(27)から、炭素繊維糸束(20)が挿入装置(28)に入れられる。そして、糸掴み装置であるグリッパー(29)が挿入装置(28)に入れられた該炭素繊維糸束(20)を掴んで、対角方向まで運ぶ。運ばれた炭素繊維糸束(20)は、機上に降ろされると同時に、図5に示すごとくのピン(40)に引っ掛けて固定される。
【0033】
図5に示すように、ピン(40)は支持片(41)の上に設けられており、機上に降ろされた炭素繊維糸束(20)を挿入貫通し、その端部を支持片(41)と抑え片(42)とで挟み込んで固定するようになっている。これらのピン(40)、支持片(41)、抑え片(42)は搬送チェーン(32)と一体的に設置され、かつ搬送チェーン(32)の進行方向に沿って同様のピン(40)、支持片(41)、抑え片(42)が連続的に複数設置されている。さらに抑え片(42)は、図5に示すように、搬送チェーン(32)上で進行方向に対して垂直方向に往復直線運動するようになっている。
【0034】
このようにして一端を固定される炭素繊維糸束(20)は、同時に挿入装置(28)部分においてカッター切断され、挿入装置(28)側の搬送チェーン(32)上に設けられた上記同様の構成のピン(40)、支持片(41)、抑え片(42)によって他端も固定される。このとき、炭素繊維糸束(20)は、炭素繊維の繊維方向に沿って両端から引張応力が与えられた状態で固定されつつ、搬送チェーン(32)によって進行方向に運ばれていくこととなる。
なお、炭素繊維糸としては、実施例2のような予め開繊処理された開繊糸を用いることもできるが、上記両端からの引張応力により、開繊幅をさらに大きくすることが可能となる。
以上のような工程で、+α°層を形成する炭素繊維糸束(20)が配列されていく。
【0035】
空になったグリッパー(29)は、挿入装置(28)の位置まで戻り、再び上記工程を繰り返して+α°層を形成していく。このとき、グリッパー(29)は定置されたグリッパーガイド(30)に沿って対角方向に往復運動を行っており、炭素繊維糸束(20)が配列されるごとに搬送チェーン(32)によって進行方向に運ばれて、炭素繊維糸束(20)が連続して配列されるようになっている。グリッパー(29)は、進行方向に対してα°の角度で往復運動を行うようになされている。
【0036】
形成された+α°層が搬送チェーン(32)によって−α°層製造装置(26’)のところまで運ばれると、同様の手順で−α°層が形成される。−α°層製造装置(26’)においては、グリッパー(29’)が進行方向に対して−α°の角度で往復運動を行い、また、−α°層は+α°層の上に積層するように形成されていく。
このようにして、+α°層と−α°層が積層形成されると、さらに搬送チェーン(32)によって進行方向に運ばれ、ステッチ装置(31)によって、積層状態にある+α°層と−α°層が、ステッチ糸(21)を用いて一体的に縫合されて多層積層ドライファブリックが完成する。
出来上がった多層積層ドライファブリックは、カッター(37)によってファブリック端部がピン(40)の内側で切り落とされるとともに、集塵装置(39)につながれたバキュームホース(39)によって切れ端、切り屑が吸い取られた後、巻き取りローラー(34)によって巻き取られる。
【0037】
多層積層ドライファブリック製造機(25)は、制御装置(35)によってコンピュータ制御されており、ファブリック全体の厚みや目付け等を所定の数値に保つように制御されている。また、制御装置(35)においてグリッパー(29)(29’)の進行方向に対する角度を設定変更することで、炭素繊維糸束(20)(20’)の進行方向(長さ方向)に対する配置角度を任意の数値に設定することもできる。
【0038】
なお、上記では、+α°と−α°の二層を積層形成する例について示したが、同様にして0°層製造装置、90°層製造装置(図示せず)を機械(25)の進行方向に沿って備えることとすれば、0°層、90°層をさらに積層形成することが可能となる。積層順序は、各層製造装置の配置を変更することで、任意に設定可能である。
【0039】
本実施例のような多層積層ドライファブリック製造機によれば、機械の進行方向に沿って、+α°層及び−α°層が順次積層形成されるため、あらかじめ裁断によって所定の方向に配列するといった面倒な準備作業が不要であり、製造が非常に容易であり、製造コストの大幅な削減となる。
しかも、炭素繊維糸を斜め方向に配列するに際して、正確な角度設定ができ、製品の確実な品質管理を行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、ゴルフシャフトや釣竿ロッド等の炭素繊維強化プラスチック製管状体において、製造コストの削減、製品品質の向上等を図ることが可能な技術を提供するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例に係るゴルフシャフトの外観図である。
【図2】実施例に係る多層積層ドライファブリックの構成を示す平面図である。
【図3】実施例に係るゴルフシャフトの積層構成を示す斜視図である。
【図4】実施例に係る多層積層ドライファブリック製造機を示す平面図である。
【図5】実施例に係る多層積層ドライファブリック製造機の一部横断面拡大図である。
【図6】従来技術の製造工程を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 ゴルフシャフト
2 シャフト軸
5 多層積層ドライファブリック
6、7、8 炭素繊維糸
9 ステッチ糸
15 多層積層プリプレグ
16、17 プリプレグ
18 マンドレル
20、20’ 炭素繊維糸束
21 ステッチ糸
25 多層積層ドライファブリック製造機
26 +α°層製造装置
26’ −α°層製造装置
27、27' クリールスタンド
28、28’ 挿入装置
29、29’ グリッパー
30、30’ グリッパーガイド
31 ステッチ装置
32 搬送チェーン
33 搬送ローラー
34 巻き取りローラー
35 制御装置
36 架台フレーム
37 カッター
38 バキュームホース
39 集塵装置
40 ピン
41 支持片
42 抑え片
50 一方向プリプレグ
51、52 斜め裁断した一方向プリプレグ
53 炭素繊維糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭素繊維強化プラスチック層を積層してなる管状体であって、
管状体軸方向に対して+α°と−α°の配向角度で引き揃えた炭素繊維糸を、互いに上下に交錯させることなく積層して形成した多層積層プリプレグを含んでなる炭素繊維強化プラスチック製管状体。
【請求項2】
複数の炭素繊維強化プラスチック層を積層してなる管状体であって、
管状体軸方向に対して+α°、−α°、及び0°の配向角度で引き揃えた炭素繊維糸を、
それぞれ上下に交錯させることなく積層して形成した多層積層プリプレグを含んでなる炭素繊維強化プラスチック製管状体。
【請求項3】
12K又は24Kの太さの炭素繊維糸をあらかじめ開繊処理した開繊糸を使用し、各プリプレグの炭素繊維目付を40〜100g/m2としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素繊維強化プラスチック製管状体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック製管状体を用いてなるゴルフシャフト。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック製管状体を用いてなる釣竿ロッド。
【請求項6】
複数の炭素繊維強化プラスチック層を積層してなる管状体の製造方法であって、
管状体軸方向に対して+α°、−α°、及び0°の配向角度で炭素繊維糸を引き揃え、
それぞれ上下に交錯させることなく積層して、多層積層ドライファブリックを形成し、
該ドライファブリックに樹脂を含浸させて、多層積層プリプレグを形成し、
該多層積層プリプレグを含む各プリプレグを、マンドレルに巻回積層し、
加熱硬化させた後に、該マンドレルを引き抜いて成形することを特徴とする管状体製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−192727(P2006−192727A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7094(P2005−7094)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(501014991)丸紅インテックス株式会社 (6)
【Fターム(参考)】