説明

炭素繊維補強熱硬化性樹脂放熱材

【課題】高い熱伝導率を有し、三次元的な、殊に厚さ方向の熱伝導性が改善され、しかも機械的特性に優れる炭素繊維強化複合材料を開発すること。
【解決手段】ピッチ系炭素繊維からなる平均繊維径(D1)が5〜15μmで、かつD1に対する繊維直径分布(S1)の比(CV1)が5〜15%の範囲にあり、平均繊維長(L1)が10μm〜100μm、平均繊維直径(D1)に対するアスペクト比が1〜20である短繊維Aと、ピッチ系炭素繊維からなる繊維平均直径(D2)が5〜15μmで、かつD2に対する繊維直径分布(S2)の比(CV2)が5〜15%の範囲にあり、平均繊維長(L2)が0.1〜1mmである短繊維Bとを、重量比1対99乃至99対1の比率で混合してなる炭素繊維集合体であって、該炭素繊維集合体の六角網面の成長方向に由来する微結晶サイズは10nm以上であるピッチ系炭素繊維集合体に熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂前駆体を含浸させて得たことを特徴とする炭素繊維強化複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピッチ系炭素繊維からなる炭素短繊維と炭素長繊維とを混用した炭素繊維原料に熱硬化性高分子材料を母材として使用してなる炭素繊維強化複合材料及びその製造方法に関わるものである。さらに詳しくはピッチ系炭素繊維の短繊維と繊維長を異にする短繊維との組合せにより、炭素繊維の充填率が高く、機械特性及び熱伝導性に優れたピッチ系炭素繊維強化複合材料を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
高性能の炭素繊維は鎖状高分子であるセルローズ、ポリビニルアルコール、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、ポリアクリロニトリル(PAN)等を原料とする繊維形状の鎖状高分子に由来する炭素繊維と、環状炭化水素からなる石油・石炭等のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。前者の鎖状高分子由来の炭素繊維は、炭化処理を施すのみで強靭な繊維として利用できる。
【0003】
そして、殊にPAN系炭素繊維は強度・弾性率が通常の合成高分子に比較して著しく高い性能を有効的に利用し、航空・宇宙機材用途、建築・土木資材用途、スポーツ・レジャー用具などに広く用いられている。これに対し、後者のピッチ系炭素繊維は、高温度の熱処理である黒鉛化処理を経た際に、その特性が発揮され、黒鉛結晶の性能が発現する。
【0004】
つまり、前者の炭化繊維と後者の黒鉛化繊維とを比較すると、後者は、いわゆる黒鉛結晶に代表される六角網面層の成長方向、および厚み方向に大きな結晶サイズを有するため、黒鉛化(結晶化)が充分に進むと、この黒鉛化繊維の方が炭化繊維よりも電気伝導率、熱伝導率が高く、機械的特性も優れてくる。
【0005】
そこで、単に強化材料としての炭素繊維複合材料の役割から、黒鉛化繊維、即ちピッチ系炭素繊維としての熱伝導性をも利用し、複合材料としての蓄熱性や放熱性を利用することによって、この炭素繊維複合材料の総合的利用の途が拓ける期待がある。
【0006】
昨今、一方で、省エネルギーに代表されるエネルギーの効率的使用方法が注目されているが、畜熱性を応用して暖房、保温等に炭素繊維を適用し得る可能性がある。また、他方で、高速化に伴う電子計算機のCPUの発熱や集積回路のジュール熱による発熱が問題になっているが、これらを解決するためには、熱を効率的な伝達経路により処理することや有効な放熱手段を開発する必要がある。つまり、これらの課題に対し、所謂ヒートマネジメントを達成する要請がある。
【0007】
かような観点から、炭素繊維を見直すと、一般に炭素繊維は、通常の有機合成高分子に比較しての熱伝導率が高いが、さらなる熱伝導の向上が検討されている。ところが、市販されているPAN系炭素繊維の熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さくヒートマネジメントの観点からは必ずしも好適な材料であるとは言えない。これに対して、ピッチ系炭素繊維はPAN系炭素繊維に較べて高熱伝導率を達成しやすい長所を潜在的に備える。
【0008】
ところで、炭素繊維の高い熱伝導率を効果的に利用するためには、炭素繊維集合体の間隙を充填できる何らかの母材樹脂(マトリックス樹脂)となる材料を介在させ、しかる状態において、炭素繊維が高充填率でかつ熱伝導を維持するためのネットワーク構造を形成していることが好ましい。ネットワーク構造が三次元的に形成されている場合には、成形体の面内方向のみならず厚さ方向に対しても炭素繊維固有の高い熱伝導が達成されるため、例えば放熱板の用途には非常に効果的であると考えられる。ところが、従来から用いられている炭素繊維を織物状にしてマトリックス樹脂と複合材化した複合材は、面内の熱伝導率は向上しているものの、厚さ方向の熱伝導は、炭素繊維のネットワーク形成が充分にできないことから、熱伝達が不充分であり、放熱性が良好であるとは言い難い。
【0009】
このような背景のため、抜本的に炭素繊維の熱伝導率を改善しようとする試みが多数なされている。例えば、特許文献1には、一方向に引揃えた炭素繊維に黒鉛粉末と熱硬化性樹脂を含浸した機械的強度の高い熱伝導性成形品が開示されている。また、特許文献2においては、炭素繊維の物性を向上せしめるべく、熱伝導度等の物性を改良させることが開示されているものの、成形体の熱物性の明確な性能向上が果たされているか否かの点に関しては検討が充分に成されておらず、詳細は不明としか言えない。
【0010】
【特許文献1】特開平5−17593号公報
【特許文献2】特開平2−242919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、炭素繊維の高熱伝導率化という観点では開発が進みつつある。しかし、ヒートマネジメントの観点からは成形体としての熱伝導性が高くなっていることが必要とされてきた。そこで、適切な熱伝導率を有し、さらに成形体中の炭素繊維含有率を高めることができる炭素繊維強化材、および熱伝導性が向上し機械特性に優れる炭素繊維強化複合材料が強く望まれていた。
【0012】
そこでピッチ由来の炭素繊維を選択し、比較的高温度で焼成処理及び黒鉛化処理を施して結晶化状態を改善することにより、10nmを超える大きさの結晶成長を促し、結果的に黒鉛化炭素繊維の高熱伝導率化をもたらすという、黒鉛結晶成分の多い炭素繊維の開発が可能となる。もっとも、ヒートマネジメントの観点からは成形体としての熱伝導性が高く、しかもその熱伝導性が維持されることが必要である。
【0013】
そして、適切な熱伝導率を有し、さらに成形体中の炭素繊維含有率を高めることができるように、炭素繊維強化材を改良すること、並びに、三次元的な環境条件下で熱伝導性を高め、しかも機械的特性に優れる炭素繊維強化複合材料を開発することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、炭素繊維強化複合材料の面内方向および厚さ方向の熱伝導度を向上させることを試み、炭素繊維の繊維長に着目し、特定の繊維形状および高結晶性に起因する熱伝導性を有する炭素繊維を用いた炭素繊維を用いることによって、複合材料中の炭素繊維の充填率を向上させ、しかも面内だけでなく、この面に垂直な厚さ方向においても、その熱伝導率が著しく改善されることを見出し、本発明に到達したのである。
【0015】
即ち、請求項1の本発明は、短繊維Aと短繊維Bとを混用してなる炭素繊維集合体に関わり、繊維平均直径(D1)が5〜15μmの範囲であり、平均繊維長(L1)が10〜100μm、平均繊維直径(D1)に対するアスペクト比が1〜20である短繊維Aと、繊維平均直径(D2)が5〜15μmの範囲であり、平均繊維長(L2)が0.1〜1mmである短繊維Bとを、重量比1対99乃至99対1の比率で混合してなるピッチ系炭素繊維集合体に熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂前駆体を含浸させて得た炭素繊維強化複合材料であって、該炭素繊維集合体に占める六角網面の成長方向に由来する微結晶サイズが10nm以上である。
【0016】
本発明は、このように混合された繊維長の異なるピッチ系炭素繊維による強化材、及び該ピッチ系炭素繊維強化材にマトリックス樹脂を含浸させて得られる炭素繊維強化複合材料によって達成される。本発明では、黒鉛化率の高い結晶構造を有する炭素繊維を用いて、熱伝導率を向上させたうえに、異なる繊維長を混用したことから、面内及び面間(厚さ)方向において熱伝達が確実に維持されている。
【0017】
また、請求項2の発明は、本発明を更に特定したものであって、炭素繊維集合体は、ピッチ系炭素繊維の真密度が1.8〜2.5g/ccの範囲であり、繊維軸方向の熱伝導率が400W/(m・K)以上である。
【0018】
また、請求項3の発明は、請求項1又は2のいずれかに記載のピッチ系炭素繊維の灰分が0.1重量%以下である性質を備える。
【0019】
請求項4の発明は、シート状のピッチ系炭素繊維集合体がマトリックス樹脂に対して体積分率において10〜80体積%を含有することを特徴とするものである。
【0020】
そして、請求項5の発明は、平板状に成形した状態における厚さ方向の熱伝導率が2W/(m・K)以上となる。
【0021】
請求項6の発明は、炭素繊維強化複合材料のアスカーC硬度が70以下であることを特徴とするものである。
【0022】
加えて、請求項7に特定された発明は、ピッチ系炭素繊維集合体に含浸せしめる母材(マトリックス)樹脂が熱硬化性樹脂前駆体であるか又は熱硬化性樹脂であり、前駆体の場合では硬化反応によって得られるところの、熱硬化性シリコーン系エラストマー、不飽和ポリエステル系エラストマー、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂及び熱硬化型ポリエーテルエーテルケトン樹脂の群より選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含むものである。
【0023】
また請求項8,9ではピッチ系炭素繊維集合体に母材樹脂を含浸させる工程を含む炭素繊維強化複合材料の製造方法を特定している。
【0024】
また更に、本発明の炭素繊維強化複合材料はその利用面において、電子部品用放熱板、熱交換器、湿式太陽電池用対向電極材、電磁波遮蔽用基材又は固体研磨材に供し得ることも明示している。
【発明の効果】
【0025】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、繊維長を異にするピッチ系炭素短繊維Aとピッチ系炭素短繊維Bとを効果的に併用・混用することによって、シート状物又は含浸された熱硬化性樹脂存在下の成形体において、熱伝導率の分布が集合体平面(成形体)の面内のみならず、成形体(シート状物)厚さ方向にもほぼ同等になることから、電子部品用放熱板や熱交換器等の熱伝導効率を高めるとともに、筐体などに必要となる機械的強度を高め、成形体としての軽量化を達成できる。繊維長及び/又は繊維径を異にする広い分布を備えた繊維が相互に充填率が高まり、しかも短繊維Aは微細であるため、結果的に繊維同士が相互に接触機会を増大でき、熱伝導率を増長させるものと推測できる。また、本発明の熱伝導・熱伝達に異方性のない成形材料は、成形が容易で、格別な条件設定や注意が不要となる利点を有する。成形体としても部材としても、均質で互換性に富む利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
即ち、請求項1に特定した本発明は、ピッチ系炭素繊維からなる繊維平均直径(D1)が5〜15μmの範囲であり、平均繊維長(L1)が10〜100μm、平均繊維直径(D1)に対するアスペクト比が1〜20である短繊維Aと、ピッチ系炭素繊維からなる繊維平均直径(D2)が5〜15μmの範囲であり、平均繊維長(L2)が0.1〜1mmである短繊維Bとを、重量比1対99乃至99対1の比率で混合してなるピッチ系炭素繊維集合体であって、該炭素繊維集合体に占める六角網面の成長方向に由来する結晶サイズが10nm以上であるピッチ系炭素繊維の含有率が80重量%以上を占めるものである。
【0027】
また、請求項2および3の発明は、本発明を更に特定したものであって、炭素繊維集合体は、ピッチ系炭素繊維の真密度が1.8〜2.5g/ccの範囲であり、繊維軸方向の熱伝導率が400W/(m・K)以上であり、かつピッチ系炭素繊維の灰分が0.1重量%以下である。
【0028】
このように本発明の課題は、短繊維Bと短繊維Aとを混合したピッチ系炭素繊維強化材及び該ピッチ系炭素繊維強化材にマトリックス樹脂を含浸させて得られた炭素繊維強化複合材料によって達成される。
【0029】
本発明の繊維長を異にする長短2種類の炭素繊維を得る原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンの如き縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチの如き縮合複素環化合物等を挙げることができる。なかんずく、ナフタレンやフェナントレンのような縮合多環炭化水素化合物が好ましく、光学的異方性を呈するピッチ、すなわちメソフェーズピッチが特に好ましい。これらは、その1種を単独で用いても、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよいが、メゾフェースピッチを単独で用いることが熱伝導性の高い炭素繊維を得るうえで望ましい。
【0030】
原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることができる。原料ピッチとしては軟化点が250℃以上350℃以下の範囲のピッチが好ましい。軟化点が250℃より低いと、不融化の際に繊維同士の融着や大きな熱収縮が発生するので好ましくない。また、軟化点が350℃より高いものはピッチの熱分解が生じやすく、繊維状に成形し難く,したがって紡糸・製糸に適さない。
【0031】
原料ピッチはメルトブロー法により紡糸され、その後不融化処理、さらに焼成加工よって、三次元ランダムシート(マット)状の炭素繊維集合体とすることができる。要すれば、さらに高温度において黒鉛化(結晶化)できる。
【0032】
以下夫々の工程について説明する。
本発明においては、前述の適切な軟化点を備えたメソフェーズピッチの如き好ましいピッチ原料から紡糸ノズルを用いてピッチ繊維を得る。このピッチ繊維は不融化処理、焼成処理及び黒鉛化処理が施されておらず、言わば炭素繊維前駆体である。
【0033】
この工程において使用される紡糸ノズルの形状については格別な制約はないものの、ノズル孔のラウンド長と孔径の比(いわゆるL/D)が20以下のものが好ましく用いられ、更に好ましくは15よりもさらに小さいものが用いられる。
【0034】
本発明のように、炭素繊維の繊維長を変えるためには、或いは同様に、繊維径を変えるにも、このノズル孔のラウンド長と孔径の比を変えることによって達成できる。また、紡糸時のノズルの温度を適宜変化させても長短の繊維長の異なる繊維を容易に得ることができる。さらに後述する加熱ガスの吹き付け速度を変えることによっても、ピッチ繊維の繊維長と繊維径を変えることが可能である。ノズルの形状、ピッチの溶融粘度、細化条件等を含め、これら紡糸条件は試行錯誤により好適条件を決定でき、原料ピッチの選択と共に経験的に条件設定が可能である。
【0035】
一般には、紡糸温度についても特段の制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる温度、即ち、紡糸ピッチの粘度が2〜80Pa・s、好ましくは5〜30Pa・sになる温度であればよい。
【0036】
ノズル孔から出糸されたピッチ繊維(即ち、炭素繊維の前駆体に該る)は、100〜450℃に加温された毎分100〜10000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって細化・繊維化される。吹き付けるガスは空気又は窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガスを用いることができるが、コストパフォーマンスの点から空気で充分である。
【0037】
繊維化(細化)のガスは加熱空気以外に燃焼ガス(二酸化炭素)が利用できることは言うもでもない。この加温ガスはその温度、吹き付け速度等を適宜選んで長短の繊維長を持つピッチ繊維とすることもできる。この場合の細化条件も試行錯誤法により条件が設定できる。
【0038】
かくして得られたピッチ繊維は、金網ベルト上に捕集され、連続的な三次元ランダム形状を有するシート状物になり、さらにクロスラッピングなどを施してシート状物をランダムに積層することも可能である。
【0039】
このようにして得られた三次元ランダムなピッチ繊維シート状物は、公知の方法で不融化を実施できる。即ち、不融化工程は、空気のみで処理するか、又は空気に少量の第三成分であるオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素若しくは臭素等を添加したガスを用いて処理するものであり、不融化温度を150〜400℃に設定することにより達成される。ピッチ系繊維の不融化では、安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。
【0040】
この不融化工程に継いで、ピッチ繊維シート状物は500〜3500℃で焼成・黒鉛化処理されて、黒鉛化(炭素)繊維として安定する。つまり、三次元ランダム形状を有するピッチ系炭素繊維集合体となる。この不融化ピッチ繊維の焼成工程は、真空中又は窒素、アルゴン若しくはクリプトン等の不活性ガス中で実施される。通常は常圧の窒素中で実施することが望ましく、コストの安い窒素が常用される。
【0041】
ピッチ系繊維の焼成(黒鉛化)温度は、炭素繊維として高い熱伝導率を得るためには、2300〜3500℃の高温度を選択して黒鉛化を高めることが好ましい。さらに好ましくは2500〜3500℃の温度にする。焼成処理の際に黒鉛製容器に入れ黒鉛化すると、外部からの物理的、化学的作用の影響を遮断できるので好適な態様となる。黒鉛製容器は不融化処理を終えたピッチ繊維集合体を所定量収納することができる容量であれば、その大きさ、形状に特に制約はない。もっとも、焼成処理中、又はその後の冷却中に、炉内の酸化性のガス又は炭素蒸気との反応によるピッチ系炭素繊維集合体の損傷を防ぐために、蓋付きの気密性の高いものを使用することが好ましい。
【0042】
ここで、本発明で得られるピッチ系炭素繊維集合体は繊維長の異なるピッチ系炭素繊維の混合されたものであるため、あらゆる方向(全方向)に等価に炭素繊維のネットワークを発現させやすく、本発明の課題を達成でき、好ましい実施形態となる。
【0043】
これに対し、各々の繊維が特定の方向に配向した炭素繊維束(UD材)を用いて炭素繊維強化複合材料を製造した場合には、特定の方向には熱伝導しやすいが、それ以外の方向については熱伝導率が低いという問題が生じるので、このような炭素繊維集合物は熱伝導性の観点からは好ましいとは云えない。もっとも、かような異方性炭素繊維集合体は機械的強度においても方向性を有しているため、この性能を活かすように重用されることは言うまでもない。
【0044】
本発明で用いるピッチ系炭素繊維集合体を構成する炭素繊維は、六角網面の成長方向に由来する微結晶サイズが5nm以上である。黒鉛結晶の大きさ、即ち六角網面の成長方向に由来する微結晶サイズは、公知の方法によって求めることができ、例えばX線回折法によって得られる炭素結晶の(110)面からの回折線によって求めることができる。微結晶のサイズが重要になるのは、熱伝導が主としてフォノンによって担われており、フォノンを発生する場所がこの黒鉛結晶であることに起因している。六角網面の微結晶サイズは、望ましくは25nm以上であり、さらに望ましくは30nm以上である。
【0045】
ピッチ系炭素繊維集合体を構成する炭素短繊維の繊維径は5〜15μmである。繊維径が5μm以下の場合には、繊維の形状が保持できにくくなることがあり生産性が低くなる。逆に、繊維径が15μm以上になると、紡糸や細化の工程で、冷却ムラなどが発生し、それが原因となって、加熱条件が同一であっても不融化工程での繊維自体の温度ムラが大きく増幅され、部分的に繊維同士の融着が惹起される懸念が増大する。したがって、繊維径は好ましくは7〜12μmである。
【0046】
本発明の炭素短繊維の形状について補説する。直径及び径の分散率は紡糸工程によってほぼ一意的に決定される。そして、炭素繊維の直径は紡糸された際のピッチ繊維(原糸)の繊維直径より1〜2μm小さい値となる。これは不融化及び焼成処理に起因して繊維が少量痩せるためである。
【0047】
次に、ピッチ系炭素繊維集合体を構成する炭素短繊維Bの繊維長は1mm以下である。A・B両繊維とも繊維長が0.01mmを下回ると繊維としてのハンドリングが困難になる。一方、繊維長が1mmを超えると繊維の交絡が起こりはじめるため、やはりハンドリング性が低下する。好ましくは1mm以下、さらに好ましくは0.8mm程度である。
【0048】
ピッチ系炭素短繊維Bとピッチ系炭素短繊維Aの混合比は、重量で1:99〜99:1の範囲とすることができるが、より好ましくは、20:80〜80:20である。ピッチ系炭素繊維集合体における長短各繊維の混合比が5wt%以下であると厚さ方向の熱伝導性が充分に発現できず、95wt%以上であると炭素繊維自体の充填率を高められないため好ましくない。
【0049】
ピッチ系炭素繊維の真密度は、焼成・黒鉛化温度に依存するが、1.8〜2.5g/ccの範囲のものが好ましい。より好ましくは、2.0〜2.5g/ccである。また、ピッチ系炭素繊維集合体を構成するピッチ系炭素繊維の繊維軸方向の熱伝導率は400W/(m・K)以上であり、より好ましくは、500W/(m・K)以上である。本発明で使用するピッチ系炭素繊維はその繊維に含まれる灰分が0.1重量%以下である。ピッチ系炭素繊維に含まれる灰分が0.1重量%を超えると、本発明の第二の課題であるピッチ系炭素繊維集合体に熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂前駆体を含浸させて炭素繊維強化複合材料を製造する際に、得られる炭素繊維強化複合材料の特性を低減させたり、また熱硬化性樹脂前駆体中の触媒成分を不活性化させたりするなどするため好ましくない。
【0050】
ピッチ系炭素繊維である短繊維A、短繊維Bは商業生産では次の製造方法が適切である。繊維長に拘泥せずに、先ず適当量のピッチ繊維を紡糸し、金網ベルト上に捕集され、連続的な三次元ランダム形状を有するシート状とする。そして、不融化及び焼成処理を実施したピッチ繊維シート状物は、短繊維化するためにミリングされ、必要により篩分けすることにより所望の平均繊維長を有するピッチ系炭素繊維前駆体となる。このミリングはピンミル、ビクトリーミル、ジェットミル、高速回転ミル等の粉砕機、切断機等が使用される。
【0051】
ミリングを効率よく行うためには、ブレードを取付けたロータを高速に回転させることにより、繊維軸に対して直角方向に繊維を寸断する方法が適切である。ミリングによって生じるピッチ繊維の平均繊維長は、ロータの回転数、ブレードの角度等を調整することにより制御される。篩分けは篩の目の粗さを組み合わせることによって所望のサイズを得ることができる。炭素繊維の平均繊維径や平均繊維長のサイズの調整は篩の目の粗さを組み合わせることによって達成することも好ましく実施しうる。
【0052】
本発明のピッチ系炭素繊維は、上記処理を終えたピッチ系炭素繊維前駆体を非酸化性雰囲気下において黒鉛化することにより最終的なピッチ系炭素繊維となる。
黒鉛化温度は、炭素繊維としての熱伝導率を高くするためには、2300〜3500℃にすることが好ましい。より好ましくは2500〜3500℃にする。
ミリングされたピッチ系炭素繊維前駆体を予め黒鉛化し、ピッチ系炭素繊維とした後に篩い分けし、所望の平均繊維長を有する短繊維A及び短繊維Bを得ることもできる。
【0053】
ピッチ系炭素繊維集合体は上述で記載した短繊維Aと短繊維Bを公知の混合手段で乾式ブレンドすることで得ることが出来る。もしくは不融化及び焼成処理した連続的な三次元ランダム形状を有するシート状物に短繊維Aの前駆体炭素繊維を混合し、黒鉛化処理することでも得ることが出来る。
【0054】
次に、本発明では炭素短繊維と炭素長繊維とを混用したシート状物に、熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂前駆体を含浸させて炭素繊維強化複合材料とする。
ピッチ系炭素繊維集合体に含浸せしめるマトリックス樹脂として熱硬化性樹脂前駆体であるか熱硬化性樹脂であり、前駆体(モノマー、重合触媒、等)の場合には含浸させた後に重合させる。
【0055】
熱硬化性樹脂の例として、熱硬化性シリコーン系エラストマー、不飽和ポリエステル系エラストマー、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂及び熱硬化型ポリエーテルエーテルケトン樹脂の群より選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含む。これらは、1種で用いても、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよく、たとえば、2種類以上の高分子材料からなるポリマーアロイを使用することもできる。
【0056】
ピッチ系炭素繊維集合体が母材樹脂に対して占める体積分率は通常10〜95体積%程度である。本発明における炭素繊維強化複合材料中のピッチ系炭素繊維強化材の割合としては、3〜60体積%、好ましくは5〜50体積%である。ピッチ系炭素繊維強化材の割合が3%以下であると所望の熱伝導率を得ることができず、60%以上であると成型が困難となるため好ましくない。
【0057】
本発明において炭素繊維以外の熱伝導性フィラーも必要に応じて使用する事もできる。具体的には酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、銀、金、銅、アルミニウムなどの金属もしくは合金、グラファイト、膨張黒鉛、ダイヤモンドなどの炭素材料などが挙げられる。
【0058】
本発明で用いられる樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、ガラスフレーク、セラミックビーズ、炭化珪素およびシリカなどの非繊維状充填材が挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれらを2種類以上併用することも可能である。
【0059】
このようにして得られる炭素繊維強化複合材は平板状に成形した状態における厚さ方向の熱伝導率が2W/(m・K)以上となる。本発明における炭素繊維強化複合材料は、複合材料としての熱伝導率が高いものが望ましいが、表裏への熱拡散より算出される熱伝導率が2W/(m・K)以上である。より望ましくは2.5W/(m・K)以上である。
【0060】
本発明における炭素繊維強化複合材料は、そのアスカーC硬度が70以下であることが好ましい。該硬度が70を超えると、可とう性が損なわれるため好ましくない。一方、該硬度が20を下回ると、引き裂きに対して著しく弱くなり、実用上問題になる。炭素繊維強化複合材料のアスカーC硬度の好ましい範囲は25〜65である。
【0061】
本発明では、炭素短繊維Bを炭素短繊維Aの中へ分散せしめる方法としては特に限定はない。ドライブレンドする方法、液体分散材中に分散させた後に前記液体分散材を乾燥等のウェットブレンド手段により得ることができる。
【0062】
本発明における炭素繊維集合体にマトリックス樹脂を浸漬させる方法としては特に限定はないが、マトリックス樹脂が常温で液状の場合にはミキサー等の混練装置により実施し得る。またマトリックス樹脂が常温で固体の場合には加温により溶融状態として二軸押出機等の混練装置により実施し得る。
【0063】
本発明において炭素繊維強化複合材料を得るための成形方法としては特に限定はなく、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、押出成形法、注型成形法、ブロー成形法などが挙げられる。が、下記の2つの方法で実施することができる。
【0064】
第1の方法としては、上記方法において、炭素繊維をマトリックス樹脂中へ分散し、その後炭素繊維が分散されたマトリックス樹脂をピッチ系炭素繊維集合体中へ炭素繊維とともに導入する方法である。
【0065】
マトリックス樹脂が常温で液状の場合には金型内にあらかじめ仕込まれたピッチ系炭素繊維集合体に対し、RIM法、RTM法などにて導入し、マトリックス樹脂を硬化させることにより、炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
【0066】
またマトリックス樹脂が常温で固体の場合には、上記方法で炭素繊維をマトリックス樹脂中への分散したのち、金型内にあらかじめ仕込まれたピッチ系炭素繊維集合体に対し射出成形することにより炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
【0067】
また炭素繊維の分散されたマトリックス樹脂をあらかじめ平面状などの形状に加工し、ピッチ系炭素繊維集合体と積層させた状態でプレス成形することにより、炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
なお、真空プレス成形時には、ボイド(空隙)の発生を抑制する目的で真空状態にて成形することが好ましい。
【0068】
第2の方法としては、上記方法で炭素短繊維をピッチ系炭素繊維集合体へ分散し、その後マトリックス樹脂をピッチ系炭素繊維シートの中へ導入する方法が挙げられる。マトリックス樹脂が常温で液状の場合には金型内にあらかじめ仕込まれた炭素繊維の分散されたピッチ系炭素繊維に対し、RIM法、RTM法などにて導入し、マトリックス樹脂を硬化させることにより、炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
【0069】
またマトリックス樹脂が常温で固体の場合には、金型内にあらかじめ仕込まれた炭素繊維の分散されたピッチ系炭素繊維集合体に対し射出成形することにより炭素繊維強化複合材料が得られる。
【0070】
またマトリックス樹脂をあらかじめ平面状などの形状に加工し、炭素繊維の分散されたピッチ系炭素繊維集合体と積層させた状態でプレス成形することによっても炭素繊維強化複合材料が得られる。
【0071】
また、この場合も、真空プレス成形時には、ボイドの発生を抑制する目的で真空状態にて成形することも第1の方法と同様である。
ピッチ系炭素繊維集合体及び/又は炭素短繊維は、表面処理したのちサイジング剤を添着させてもよい。
【0072】
表面処理の方法としては電解酸化などによる酸化処理やカップリング剤やサイジング剤で処理することで、表面を改質させたものでもよい。また、無電解メッキ法、電解メッキ法、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理的蒸着法、化学的蒸着法、塗装、浸漬、微細粒子を機械的に固着させるメカノケミカル法などの手段によって金属やセラミックスを表面に被覆させたものでもよい。
【0073】
サイジング剤はピッチ系炭素繊維集合体及び/又は炭素短繊維に対し0.1〜15重量%、好ましくは0.4〜7.5重量%サイジング剤としては通常用いられる任意のものが使用でき、具体的にはエポキシ化合物、水溶性ポリアミド化合物、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル、酢酸ビニル、水、アルコール、グリコール単独又はこれらの混合物を用いることができる。
【0074】
本発明の炭素繊維強化複合材料を主たる材料とする成形品の用途は、電子部品用放熱板であり、熱交換器である。
具体的には半導体素子や電源、光源などの電子部品が発生する熱を効果的に外部へ放散させるための放熱部材、伝熱部材あるいはそれらの構成材料等として、放熱板、半導体パッケージ用部品、ヒートシンク、ヒートスプレッダー、ダイパッド、プリント配線基板、冷却ファン用部品、ヒートパイプ、筐体等に成形加工して用いることができる。
【0075】
本発明の炭素繊維の熱伝導率は公知の方法によって測定することができるが、特に炭素繊維複合材料の厚み方向の熱伝導率を向上させることを目的としているので、レーザーフラッシュ法が望ましい。レーザーフラッシュ法では、比熱容量Cp(J/gK)と熱拡散率α(cm/sec)を測定し、別に測定した密度ρ(g/cc)から、熱伝導度λ(W/cmK)をλ=α・Cp・ρの式から求め、単位換算を実施する。一般に炭素繊維そのものの熱伝導度は数百W/(m・K)であるが、成形体にすると、欠陥の発生・空気の混入・予期せぬ空隙の発生により、熱伝導率は相当量低減する。よって、炭素繊維複合材料としての熱伝導率は実質的に1W/(m・K)を超えることが困難であるとされてきた。しかし、本発明では繊維長の異なる2種以上の炭素繊維を用いることによって、この問題を解決し、炭素繊維複合材料として1W/(m・K)以上のものが得られることを証している。そして、好ましくは、2W/(m・K)以上のものも得ることができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系炭素繊維の直径は、焼成を経た繊維を走査型電子顕微鏡下800倍で任意の10視野を抽出して、撮影し求めた。
(2)ピッチ系炭素繊維の繊維長は、焼成を経た繊維を抜き取り測長器で測定した。
(3)炭素繊維の熱伝導率は、焼成後の糸の抵抗率を測定し、特開平11−117143号公報に開示されている熱伝導率と電気比抵抗との関係を表す下記式(1)より求めた。
[数1]
K=1272.4/ER−49.4 (1)
ここで、Kは炭素繊維の熱伝導率W/(m・K)、ERは炭素繊維の電気比抵抗μΩmを表す。
(4)成形体の熱伝導率はレーザーフラッシュ法にて測定した。
(5)ピッチ系炭素繊維集合体における結晶サイズは、X線回折に現れる(110)面からの反射を測定し、学振法にて求めた。
(6)ピッチ系炭素繊維の真密度はマイクロメリティックス乾式密度計(アキュピック1330−03)を用いて気体置換法にて測定した。
(7)ピッチ系炭素繊維の灰分は750℃の電気炉にて酸素雰囲気中で10時間加熱灰化し、残留した灰分を重量測定した。
(8)炭素繊維強化複合材料の硬さはアスカーC硬度計によって求めた。
【0077】
[実施例1]
短繊維A及びBの製造:
生産コストを抑えて、合理的に長短2種類の繊維長を有する炭素繊維集合体を得るには、同一のピッチ原料を用い、ほぼ同一の条件でピッチ繊維を紡糸する。スピナレット、紡糸温度、時間当たりの吐出量、スリットからの加熱ガスの温度・噴出速度、噴出位置等の条件をほとんど変更しないで、金網ベルト上にピッチ繊維を捕集し、要すれば、クロスラッピングにより目付けを調整し、不融化処理して、さらに焼成処理を施してから、ミリング装置を用いてこのピッチ繊維を短繊維化して、所望の平均繊維長を有するピッチ系炭素繊維前駆体を得る。更に該ピッチ系炭素繊維前駆体を黒鉛化処理することで短繊維A,Bとなる。
【0078】
炭素繊維集合体の調製:
ついで短繊維Aと短繊維Bをブレンドすることでマトリックスと混用できる複合材料用炭素繊維集合体を得ることが出来る。もしくは先に金網ベルト上に捕集し、不融化及び焼成処理してあるピッチ繊維からなるシート状物に短繊維Aの前駆体炭素繊維を混合し、不融化そして炭素化・黒鉛化処理することでもマトリックスと混用できる複合化材料用炭素繊維集合体が得られる。
【0079】
具体的に実施例を示す。
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。その主原料は光学的異方性割合が100%で、軟化点が285℃であった。直径0.2mmの孔径を有する紡糸口金を使用し、スリットから加熱空気を毎分5000mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径11μmのピッチ系長繊維を紡出した。紡出された繊維をベルト上に捕集してマット状とし、さらにクロスラッピングを施し目付250g/mの三次元ランダム形状を有するピッチ繊維集合体に成形した。
【0080】
このピッチ繊維集合体の一部を次の処理を施して炭素短繊維Aを得る。即ち、このピッチ系繊維集合体を空気中において、170℃から300℃まで、平均昇温速度5℃/分で昇温して不融化を行った。不融化したピッチ繊維集合体を900℃で焼成処理し、その後粉砕装置にて短繊維化し、その後更に3000℃で焼成することによりピッチ系炭素短繊維Aを得た。ピッチ系炭素短繊維の平均直径(D1)は10μm、D1に対する繊維直径分散の比(CV1)は13%であった。平均繊維長(L1)は50μmであった。六角網面の成長方向の微結晶サイズは46nmであった。繊維軸方向の熱伝導率は590W/(m・K)であった。また、ピッチ系炭素短繊維Aの真密度は2.1g/ccであり、灰分は0.02重量%であった。
【0081】
残りのピッチ系繊維集合体を炭素短繊維Bとするため、不融化したピッチ繊維集合体を900℃で焼成処理し、その後粉砕装置にて短繊維化し、更に3000℃で焼成することによりピッチ系炭素短繊維を得た。ピッチ系炭素短繊維Bの平均直径(D2)は11μm、D2に対する繊維直径分散の比(CV2)は12%であった。平均繊維長(L2)は0.5mmであった。六角網面の成長方向の微結晶サイズは43nmであった。繊維軸方向の熱伝導率は580W/(m・K)であった。また、ピッチ系炭素短繊維Bの真密度は2.1g/ccであり、灰分は0.02重量%であった。
【0082】
次にピッチ系炭素短繊維A60重量部と前記短繊維B30重量部をドライブレンドの要領で分散させた。ついで、マトリックス樹脂として主剤と硬化剤からなる東レダウコーニング社製のSE1740と上述のピッチ系炭素繊維短繊維AとBの混合物が体積比で70:30に為るように、フラスコ内に仕込み、攪拌混合した。厚みが0.5mmに為るように、うちのり300mmの金型にセットした。100℃、1時間の保持後に炭素繊維強化複合材料を取り出し、アスカーC硬度計で硬度を測定したところ48であった。また、熱伝導率を測定したところ4.2W/(m・K)であった。
【0083】
[実施例2]
実施例1のピッチ系炭素繊維短繊維A60重量部とピッチ系炭素短繊維B30重量部と、バインダーとしてトワロンパルプ10重量部とを30℃の水浴を用いて抄紙し、その後窒素雰囲気下1500℃で焼成処理することにより平面状のピッチ系炭素繊維集合体を得た。
ピッチ系炭素繊維集合体の炭素含有率は99重量%、厚みは1.2mm、空隙率は85体積%であった。
【0084】
ついで、マトリックス樹脂として主剤と硬化剤からなる東レダウコーニング社製のSE1740を用いた。テフロン(登録商標)シートにドクターナイフにより、当該エラストマーを170g/mの目付けで塗工したものを2枚用意し、上述のピッチ系炭素繊維集合体を成形体の体積比率が30%になり、厚みが0.5mmに為るように、285g/mの目付け量で、うちのり300mmの金型にセットした。そして北側精機株式会社真空プレス機にて、プレス成形を実施した。100℃、1時間の保持後に炭素繊維強化複合材料を取り出し、アスカーC硬度計で硬度を測定したところ43であった。また、熱伝導率を測定したところ4.3W/(m・K)であった。
【0085】
[比較例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が285℃であった。直径0.2mmの孔のスピナレットを使用し、スリットから加熱空気を毎分5000mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径10μmのピッチ系繊維を作製した。紡出された繊維をベルト上に捕集してマット状とし、さらにクロスラッピングで目付250g/mの三次元ランダム形状を有するピッチ繊維集合体を成形した。
【0086】
このピッチ繊維集合体を空気中で、170℃から295℃まで、平均昇温速度7℃/分で昇温して不融化処理を行った。不融化した三次元ランダムマットを800℃で焼成した。焼成後のピッチ系炭素繊維集合体を構成するピッチ系炭素繊維の単繊維径は平均で9μmであり、径の変動率CVは18%であった。繊維長は平均で40μmであった。微結晶サイズは3nmであった。熱伝導率は、35W/(m・K)であった。
【0087】
マトリクス樹脂として株式会社三洋化成製マレイン酸変性ポリプロピレンフィルムを用い、ピッチ系炭素繊維強化材を成形体の体積比率として30%になるように設定し、北川精機株式会社製真空プレス機にて、内のり650mmの金型で1mm厚さになるようにプレス成形を実施した。成形された炭素繊維強化複合材の熱伝導率を測定したところ、1W/(m・K)未満であり、熱伝導率の小さい値となった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
このようにして得られた炭素繊維強化複合材料は、ヒートマネジメントの用途に好適に用いることができる。具体的用途として電子部品用放熱板や熱交換器が例示できる。電子部品が発生する熱を効果的に外部へ放散させるための放熱部材、伝熱部材あるいはそれらの構成材料として、放熱板、半導体パッケージ用部品、ヒートシンク、ヒートスプレッダー、ダイパッド、プリント配線基板、冷却ファン用部品、ヒートパイプ、筐体の加工部材を挙げることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピッチ系炭素繊維からなる繊維平均直径(D1)が5〜15μmで、かつD1に対する繊維直径分布(S1)の比(CV1)が5〜15%の範囲にあり、平均繊維長(L1)が10μm〜100μm、平均繊維直径(D1)に対するアスペクト比が1〜20である短繊維Aと、
ピッチ系炭素繊維からなる繊維平均直径(D2)が5〜15μmで、かつD2に対する繊維直径分布(S2)の比(CV2)が5〜15%の範囲にあり、平均繊維長(L2)が0.1〜1mmである短繊維Bとを、
重量比1対99乃至99対1の比率で混合してなる炭素繊維集合体であって、
該炭素繊維集合体の六角網面の成長方向に由来する微結晶サイズが10nm以上であるピッチ系炭素繊維集合体に熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂前駆体を含浸させて得たことを特徴とする炭素繊維強化複合材料。
【請求項2】
ピッチ系炭素繊維の真密度が1.8〜2.5g/ccの範囲であり、繊維軸方向の熱伝導率が400W/(m・K)以上である請求項1に記載のピッチ系炭素繊維集合体からなる炭素繊維強化複合材料。
【請求項3】
ピッチ系炭素繊維の灰分が0.1重量%以下である請求項1又は請求項2のいずれかに記載のピッチ系炭素繊維集合体からなる炭素繊維強化複合材料。
【請求項4】
ピッチ系炭素繊維集合体が母材樹脂に対して体積分率において10〜80体積%を含有する請求項1〜3のいずれかにに記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項5】
平板状に成形した状態における厚み方向の熱伝導率が2W/(m・K)以上である請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項6】
アスカーC硬度が70以下である請求項1〜5のいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項7】
当該炭素繊維強化複合材料の母材樹脂が熱硬化性樹脂前駆体及び/または熱硬化性樹脂であり、熱硬化性シリコーン系エラストマー、不飽和ポリエステル系エラストマー、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂及び熱硬化型ポリエーテルエーテルケトン樹脂の群より選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含む前記請求項1乃至6のいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項8】
請求項1から3のいずれかに記載のピッチ系炭素繊維集合体に母材樹脂を含浸させる工程を含む炭素繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項9】
炭素繊維強化複合材が、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出成形法、注型成形法、ブロー成形法より選ばれる少なくもと1種の成形方法で作製される請求項8記載の炭素繊維強化複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2008−189866(P2008−189866A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27734(P2007−27734)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】