説明

無段変速機の制御装置

【課題】車両の発進性能を向上させた無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】車両の停車中に、非回転状態のプライマリプーリ2、セカンダリプーリ3と、Vベルト4と、の接触半径によって決まる変速比を最Lowへ向けて変更するLow戻し制御時に、セカンダリプーリ圧Psecに基づいて推定変速比icを算出する。そして、Low戻し制御を行っている途中に車両の発進要求がされた場合には、推定変速比icに基づいて、プライマリプーリ圧Ppriとセカンダリプーリ圧Psecとを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無段変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無段変速機を搭載した車両においては、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間にベルトを掛け渡し、プライマリプーリとセカンダリプーリとにおけるベルトの回転半径を変えることで変速を行う。車両の制動時、減速時には、停車後の次回の発進に備えて、変速比を最Lowまで戻し、その後に停車するように変速制御を行う。また、急制動、急減速時に変速比が最Lowに戻る前に車両が停車した場合には、次回の発進時には発進に適した変速比となるように、発進後に変速比をLow側に戻す制御を行っているが、このような制御時に、ベルトに滑りが生じないように、Low側への変速比の変更速度を規制するものが特許文献1に開示されている。
【0003】
また、特許文献2に開示されるように、車両の起動時にプライマリプーリ圧が所定時間経過しても所定圧以上にならない場合、記憶されたプーリ情報と実際の変速比がずれを生じていると判定して、ステップモータをHigh変速比に対応する操作位置に徐々に変位させてプライマリプーリ圧を上昇するか否かを検出し、適正な操作位置に設定することで発進を可能とするような制御がある。
【特許文献1】特開昭63−074736号公報
【特許文献2】特開2004−125037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記発明では、比較的高い変速比から、Low側へ変速比を変更する場合には、発進時にベルトにかかる負荷が大きくなり、ベルトに劣化が生じるといった問題点がある。
【0005】
上記問題は、例えば停車中、且つクラッチを完全解放している状態でプライマリプーリ圧をドレンし、セカンダリプーリ圧を増加させ、これらプーリが非回転状態のままベルトの巻き掛け位置を最Lowの位置となるように変位させることで解決することができるが、このような制御を行っている間に、最Lowまで戻りきらない状態で運転者の発進要求が生じた場合、ベルトに滑りが生じないようにクラッチの締結前にプライマリプーリ室に作動油を充填する必要がある。
【0006】
特許文献2のようにステップモータの駆動位置とプライマリプーリの可動円錐板との位置関係によりプライマリプーリ室への作動油の給排を行うような無段変速機では、ステップモータの駆動位置を最Low位置よりもLow側に対応する位置に変位させることでプライマリプーリ室の作動油をドレンする状態にしているため、プライマリプーリ室に作動油を導入する状態に切り替えるためには、現在の変速比に対応する位置よりもHigh側にステップモータの駆動位置を変位させる必要がある。
【0007】
但し、プーリの非回転状態においては、プライマリプーリの回転速度とセカンダリプーリの回転速度の関係に基づいて変速比を演算することができないため、これらのパラメータによって現在の変速比を検知することは不可能である。
【0008】
このとき、特許文献2の無段変速機のようにプライマリプーリ圧を検出するセンサが設けられていれば、現在の変速比が分からない場合であっても、プライマリプーリ圧が所定値以上となるまでステップモータの駆動位置をHigh側に変位させていくことで、プライマリプーリ室に作動油を充填することが可能である。
【0009】
しかしながら、プライマリプーリ圧を検出するセンサを設けていない無段変速機においては、プライマリプーリ圧が上昇しているか否かを判定することができず、現在の変速比に対してプライマリプーリ圧を供給できる位置に的確にステップモータを変位させることができないため、車両の発進性を損なうという問題点がある。
【0010】
本発明は、このような問題点を解決するために為されたもので、車両の停車状態において、プライマリプーリ、セカンダリプーリが非回転状態のまま変速比をLow側に向けて変化させる制御中であっても的確に現在の変速比を推定可能とすること、及び同制御中に車両に発進要求がされた場合に、ベルト滑りを防止し、車両の発進性能を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、溝幅を第1の油圧によって変化させる入力側のプライマリプーリと、溝幅を第2の油圧によって変化させる出力側のセカンダリプーリと、プライマリプーリとセカンダリプーリとに巻き掛けられ、溝幅に応じてプーリとの接触半径が変化するベルトと、を有し、車両のエンジンの出力側から摩擦締結要素を介して伝達された回転力をプライマリプーリからセカンダリプーリにベルトを介して伝達すると共に、接触半径の関係で定まる変速比が無段階に変化する無段変速機を制御する無段変速機の制御装置において、変速アクチュエータと、プライマリプーリの可動フランジの位置と変速アクチュエータの位置の物理的な位置関係に応じて、プライマリプーリに第1の油圧を供給する位置、第1の油圧を排出する位置、中立位置に切り替え、第1の油圧を制御する変速制御弁と、第2の油圧を制御するセカンダリプーリ圧制御手段と、車両の停止状態で摩擦締結要素が解放している場合に、第1の油圧を略ゼロとするように変速制御弁を制御し、第2の油圧を所定油圧まで高くするようにセカンダリプーリ圧制御手段を制御して、プライマリプーリ及びセカンダリプーリの非回転状態でベルトのプライマリプーリとの接触半径を縮小方向に、且つセカンダリプーリとの接触半径を拡大方向に変位させて記変速比を最Lowに向かって変化させる変速比制御手段と、停車直前の変速比を直前変速比として記憶する直前変速比記憶手段と、第2の油圧を検出するセカンダリプーリ圧検出手段と、変速比制御手段による制御中に、検出された第2の油圧に基づいて求められる変速比変化量を積算する変速比変化量積算手段と、直前変速比と積算された変速比変化量とに基づいて、変速比制御手段による制御中の変速比を推定する変速比推定手段と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、車両の停車状態において、プライマリプーリ、セカンダリプーリが非回転状態のまま変速比をLow側に向けて変化させる制御中に、現在の変速比を的確に推定することができ、また同制御中に車両に発進要求があった場合に、推定された現在の変速比に基づいてプライマリプーリ圧を供給することができるので、ベルトの滑りを防止し、車両の発進性能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、Vベルト式無段変速機(以下、無段変速機とする)1の概略を示し、この無段変速機1はプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3を両者のV溝が整列するよう配して備え、これらプーリ2、3のV溝にVベルト(ベルト)4を掛け渡す。プライマリプーリ2に同軸にエンジン5を配置し、このエンジン5およびプライマリプーリ2間にエンジン5の側から順次ロックアップクラッチを備えたトルクコンバータ6および前後進切り替え機構(摩擦締結要素)7を設ける。
【0014】
前後進切り替え機構7は、ダブルピニオン遊星歯車組7aを主たる構成要素とし、そのサンギヤを、トルクコンバータ6を介してエンジン5に結合し、キャリアをプライマリプーリ2に結合する。前後進切り替え機構7は更に、ダブルピニオン遊星歯車組7aのサンギヤおよびキャリア間を直結する前進クラッチ7b、およびリングギヤを固定する後進ブレーキ7cを備え、前進クラッチ7bの締結時にエンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転をそのままプライマリプーリ2に伝達し、後進ブレーキ7cの締結時にエンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転を逆転させプライマリプーリ2へ伝達する。
【0015】
プライマリプーリ2の回転はVベルト4を介してセカンダリプーリ3に伝達され、セカンダリプーリ3の回転はその後、出力軸8、歯車組9およびディファレンシャルギヤ装置10を経て車輪に伝達される。
【0016】
上記の動力伝達中にプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3間における回転伝動比(変速比)を変更可能にするために、プライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3のV溝を形成する円錐板のうち一方を固定円錐板2a、3aとし、他方の円錐板2b、3bを軸線方向へ変位可能な可動円錐板(可動フランジ)とする。これら可動円錐板2b、3bはライン圧を元圧として作り出したプライマリプーリ圧(第1の油圧)Ppriおよびセカンダリプーリ圧(第2の油圧)Psecをプライマリプーリ室2cおよびセカンダリプーリ室3cに供給することにより固定円錐板2a、3aに向け附勢され、これによりVベルト4を円錐板に摩擦係合させてプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3間での動力伝達を行う。
【0017】
変速に際しては、目標変速比I(o)に対応させて発生させたプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psec間の差圧により両プーリ2、3のV溝幅を変化させ、プーリ2、3に対するVベルト4の巻き掛け円弧径を連続的に変化させることで実変速比ipを変更し、目標変速比I(o)を実現する。
【0018】
プライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecは、前進走行レンジの選択時に締結する前進クラッチ7b、および後進走行レンジの選択時に締結する後進ブレーキ7cの締結油圧の出力と共に変速制御油圧回路11により制御される。変速制御油圧回路11は変速機コントローラ12からの信号に応答して制御を行う。
【0019】
変速機コントローラ12には、プライマリプーリ回転速度Npriを検出するプライマリプーリ回転センサ(プライマリプーリ回転速度検出手段)13からの信号と、セカンダリプーリ回転速度Nsecを検出するセカンダリプーリ回転センサ(セカンダリプーリ回転速度検出手段、車速検出手段)14からの信号と、セカンダリプーリ圧Psecを検出するセカンダリプーリ圧センサ(セカンダリプーリ圧検出手段)15からの信号と、アクセルペダル踏み込み量APOを検出するアクセル開度センサ16からの信号と、インヒビタスイッチ17からの選択レンジ信号と、変速作動油温TMPを検出する油温センサ18からの信号と、エンジン5の制御を司るエンジンコントローラ19からの入力トルクTiに関した信号(エンジン回転速度や燃料噴時間)と、加速度センサ20からの信号と、が入力される。
【0020】
次に変速制御油圧回路11および変速機コントローラ12について図2の概略構成図を用いて説明する。先ず変速制御油圧回路11について以下に説明する。
【0021】
変速制御油圧回路11は、エンジン駆動されるオイルポンプ21を備え、オイルポンプ21によって油路22に供給する作動油の圧力をプレッシャレギュレータ弁23により所定のライン圧PLに調圧する。プレッシャレギュレータ弁23は、ソレノイド23aへの駆動デューティーに応じてライン圧PLを制御する。
【0022】
油路22のライン圧PLは、一方で減圧弁(セカンダリプーリ圧制御手段)24により調圧されセカンダリプーリ圧Psecとしてセカンダリプーリ室3cに供給され、他方で変速制御弁25により調圧されプライマリプーリ圧Ppriとしてプライマリプーリ室2cに供給される。減圧弁24は、ソレノイド24aへの駆動デューティーに応じてセカンダリプーリ圧Psecを制御する。
【0023】
変速制御弁25は、中立位置25aと、増圧位置25bと、減圧位置25cと、を有し、これら弁位置を切り換えるために変速制御弁25を変速リンク26の中程に連結する。変速リンク26は一方の端に、変速アクチュエータとしてのステップモータ27を連結し、もう一方の端にプライマリプーリ2の可動円錐板2bを連結する。
【0024】
ステップモータ27は、基準位置から目標変速比I(o)に対応したステップ数Stepだけ進んだ操作位置にされ、ステップモータ27の操作により変速リンク26が可動円錐板2bとの連結部を支点にして揺動することにより、変速制御弁25を中立位置25aから増圧位置25bまたは減圧位置25cへ移動させる。これにより、プライマリプーリ圧Ppriがライン圧PLを元圧として増圧され、またはドレンにより減圧され、セカンダリプーリ圧Psecとの差圧が変化することでHigh側変速比へのアップシフトまたはLow側変速比へのダウンシフトを生じ、実変速比(以下、変速比とする)ipが目標変速比I(o)に追従して変化する。
【0025】
変速の進行は、プライマリプーリ2の可動円錐板2bを介して変速リンク26の対応端にフィードバックされ、変速リンク26がステップモータ27との連結部を支点にして、変速制御弁25を増圧位置25bまたは減圧位置25cから中立位置25aに戻す方向へ揺動する。これにより、目標変速比I(o)が達成される時に変速制御弁25が中立位置25aに戻され、変速比ipを目標変速比I(o)に保つことができる。
【0026】
プレッシャレギュレ一夕弁23のソレノイド駆動デューティー、減圧弁24のソレノイド駆動デューティー、およびステップモータ27への変速指令(ステップ数)は、図1に示す前進クラッチ7bおよび後進ブレーキ7cへ締結油圧を供給するか否かの制御と共に変速機コントローラ12により行われる。変速機コントローラ12は圧力制御部12aおよび変速制御部12bによって構成する。
【0027】
圧力制御部12aは、プレッシャレギュレ一夕弁23のソレノイド駆動デューティー、および減圧弁24のソレノイド駆動デューティーを決定し、変速制御部12bは到達変速比DsrRTO、目標変速比I(o)を算出する。
【0028】
車両が停車する場合には、車速の低下に伴って到達変速比DsrRTOを演算し、当該到達変速比DsrRTOに基づいて目標変速比I(o)を求める。
【0029】
車両が停車する場合には、車速の低下に伴って到達変速比DsrRTOがLow側に設定され、これに応じて目標変速比I(o)もLow側に設定され、ステップモータ27が目標変速比I(o)に対応する位置、具体的には、変速比制御弁25を減圧位置25cとするような位置に変位される。これにより、ダウンシフトを行って変速比ipが最終的に最Lowとなるようにして車両を停車させる。
【0030】
また、走行中は、一定の演算サイクル(例えば10ms毎)で、プライマリプーリ回転センサ13により検出されるプライマリプーリ回転速度Npriをセカンダリプーリ回転センサ14により検出されるセカンダリプーリ回転速度Nsecで除算して変速比ipを求めている。車速が所定値(第1の所定値、例えば3km/h)未満となるか、あるいはプライマリプーリ回転速度Npriが所定値(第2の所定値、例えば200rpm)未満となったとき、停車直前と判定し、その直前の演算サイクル(所定サイクル前)で求められた変速比ipを停車直前変速比ipsとして記憶する。なお、停車直前変速比ipsは、直前サイクルの変速比ipの演算値に代えて、複数サイクル前の演算値を記憶してもよい。
【0031】
変速比ipが最Lowとなる前に、車両が停止する場合があるが、このような場合には、車両の停車中にクラッチを完全に解放状態として、プライマリプーリ圧Ppriを完全にドレンし、セカンダリプーリ圧Psecを所定圧力まで高くするLow戻し制御を行う。これにより、プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3とが回転していない場合でも、可動円錐板2b、3bが移動し、プライマリプーリ2においてはVベルト4の巻き掛け円弧径が小さくなり、セカンダリプーリ3においては、Vベルト4の巻き掛け円弧径が大きくなる。このように、プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3との相対的な位置を変化させて、プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3との巻き掛け円弧径の関係で定まる変速比をLow側へ変更する。
【0032】
以上のように、変速比ipが最Lowとなる前に車両が停車した場合には、無段変速機1の変速比ipを最LowとするLow戻し制御を行うことで、次回の発進時に、変速比ipが最Lowとなった状態から発進させることが可能である。
【0033】
また、Low戻し制御を行っている途中で、車両に発進要求がされた場合には、特許文献2の構成のようにプライマリプーリ圧Ppriを検出することが可能であれば、現在の変速比を推定することができるので、発進に適した油圧をプライマリプーリ2に供給するために必要な位置にステップモータ27を変位させることが可能であるが、プライマリプーリ圧センサを設けていない無段変速機においては、変速比を推定することができないため、ステップモータ27を適切な位置に変位させることが出来なくなる。ステップモータ27を適切な位置に変位できないと、Low戻し制御によってプライマリプーリ圧Ppriがドレンされている状態で、前後進切り替え機構7がエンジン5からの動力を伝達してしまうことになりVベルト4が滑るおそれがある。以下において、このような問題を解決するLow戻し制御について、図3のフローチャートを用いて詳しく説明する。以下の制御については所定時間毎に行われる。
【0034】
ステップS100では、Low戻し制御開始条件を満たすかどうか判定する。そして、Low戻し制御開始条件を満たす場合には、記憶された停止直前変速比ipsを読み出し、ステップS101へ進み、Low戻し制御開始条件を満たさない場合には、本制御を終了する(ステップS100が直前変速比記憶手段を構成する)。
【0035】
Low戻し制御開始条件を満たす場合とは、車両が完全に停車している状態で、且つシフトレンジがNレンジであって、変速比ipが所定値(例えば2.0)よりもHigh側である場合、つまり変速比ipが発進可能な程度のLow側変速比に変更される前に車両が停車し、エンジン5から動力が伝達されていない場合である。なお、車両の完全停車は、ブレーキが作動しており、アクセル操作がなく、車速が所定車速(例えば1km/h)未満等のパラメータに基づいて判定すれば良い。また、エンジン5からの動力が伝達されていないことを満たすために、前進クラッチ7b(後退ブレーキ7c)の締結が完全に解放されていることを条件としても良い。車速は、セカンダリプーリ回転速度Nsecに基づいて算出される。
【0036】
ステップS101では、ステップモータ27の操作位置を最Lowとなる位置よりも機械的にLow側となる位置に設定し、プライマリプーリ圧Ppriのドレンを開始する。この実施形態では、プライマリプーリ圧Ppriが略ゼロとなるまでドレンする。
【0037】
ステップS102では、セカンダリプーリ室3cへ油を供給し、セカンダリプーリ圧Psecを高くする。この実施形態では、セカンダリプーリ圧Psecは予め設定される所定圧力P1まで高くする。所定圧力P1はVベルト4の強度限界となる圧力とする。ステップS101によってプライマリプーリ圧Ppriのドレンを開始し、ステップS102によってセカンダリプーリ圧Psecを高くすることで、プーリ2、3は非回転状態ではあるが、変速比ipは次第に最Lowに向かって変更される(ステップS101とステップS102とが変速比制御手段を構成する)。
【0038】
ステップS103では、セカンダリプーリ圧センサ15によって、セカンダリプーリ圧Psecを検出する。
【0039】
ステップS104では、ステップS103で検出したセカンダリプーリ圧Psecから図4を用いて、変速比変化率dipを算出する。図4は、プライマリプーリ圧Ppriをドレンし、セカンダリプーリ圧Psecを高くした場合のセカンダリプーリ圧Psecと変速比変化率(変速比変化量)dipとの関係を示すマップであり、セカンダリプーリ圧Psecが高くなると、変速比変化率dipは大きくなる。
【0040】
ステップS105では、前回算出した推定変速比icにステップS104によって算出した変速比変化率dipを加え、現在の推定変速比icを算出する。Low戻し制御を開始した直前の変速比ip、すなわち記憶された停車直前変速比ipsにステップS104によって算出した変速比変化率dipを加算し、推定変速比icを算出する(ステップS105が変速比変化量積算手段と変速比推定手段を構成する)。
【0041】
ステップS106では、Low戻し制御完了条件を満たすかどうか判定する。そしてLow戻し制御完了条件を満たさない場合には、ステップS107へ進み、Low戻し制御完了条件を満たす場合には、ステップS108へ進む。
【0042】
Low戻し制御完了条件を満たす場合とは、プライマリプーリ圧Ppriを完全にドレンし、かつセカンダリプーリ圧Psecが所定圧力P1となった状態が所定時間継続した場合、または推定変速比icが最Lowとなった場合である。
【0043】
ステップS107では、Low戻し制御中止条件を満たすかどうか判定する。そしてLow戻し制御中止条件を満たす場合には、ステップS109へ進み、Low戻し制御中止条件を満たさない場合には、ステップS101へ戻り、上記制御を繰り返す。
【0044】
Low戻し制御中止条件を満たす場合とは、シフトレバーがDレンジ、またはRレンジに操作され、アクセルペダルが踏み込まれた場合、車速が所定車速よりも大きくなった場合などであり、車両に発進要求がされた場合である。
【0045】
ステップS106によって、Low戻し制御完了条件を満たすと、プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3との相対的な位置は、変速比ipが最Lowとなった場合の位置、または最Lowよりもさらに機械的にLow側の変速比となった場合の位置となる。ステップS108では、ステップモータ27の操作位置を変速比ipが最Lowとなる位置として、セカンダリプーリ圧Psecを変速比ipが最Lowとなる場合の圧力とする。これにより、次回の発進時に変速比ipが最Lowとなった状態から車両を発進させることができ、車両の発進性能を向上することができる。
【0046】
ステップS109では、ステップS107によって、Low戻し中止条件を満たす、つまりLow戻し制御中に、発進要求があったので、ステップモータ27の操作位置を、ステップ105によって算出した推定変速比icに対応する位置よりも所定量だけHigh側となる位置(所定位置)とする。またセカンダリプーリ圧Psecを推定変速比icを実現するための圧力とする(ステップS109が変速アクチュエータ制御手段を構成する)。
【0047】
これにより、変速制御弁25を増圧位置25aとしてプライマリプーリ圧Ppriを確実に供給することができ、エンジン5からの動力が伝達されたとしても、Vベルト4を滑ることなく保持し、車両の発進性を確保することができる。
【0048】
以上の制御によって、Low戻し制御中に、セカンダリプーリ圧Psecに基づいて推定変速比icを算出することで、Low戻し制御を行っている途中で、車両の発進要求があった場合でも、推定変速比icに基づいてプライマリプーリ圧Ppriを制御することができる。そのためLow戻し制御中に、車両に発進要求があった場合でも、推定変速比icに応じて、プライマリプーリ圧Ppriとセカンダリプーリ圧Psecを適切に制御し、車両を素早く発進させることができる。
【0049】
なお、トルクコンバータ2を用いずに、発進クラッチを用いて車両についても本制御を用いることができ、発進クラッチを用いた場合には、Low戻し制御を素早く行うことが望ましい。
【0050】
また、推定変速比icの算出を、プライマリプーリ圧Ppriが完全にゼロとなってから開始しても良い。これにより、推定変速比icは実際のプーリ比よりもHigh側を推定することになり、Low戻し制御が中止され、推定変速比icに基づいてステップモータ27の操作位置を設定した場合に、プライマリプーリ圧Ppriを確実に供給することができ、Vベルト4の滑りを抑制することができる。
【0051】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0052】
この実施形態では、車両の停車中に、プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3とを回転させずに、プライマリプーリ圧Ppriとセカンダリプーリ圧Psecとを制御して、プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3との巻き掛け円弧径の関係で定まる変速比をLow側へ変更する場合に、セカンダリプーリ圧Psecに基づいて推定変速比icを算出する。これによって、プライマリプーリ圧センサを用いずに、Low戻し制御中の変速比を推定することができ、Low戻し制御中に車両に発進要求がされた場合でも、推定変速比icに基づいてプライマリプーリ圧Ppriを供給することができる。そのため、Low戻し制御中に車両に発進要求がされた場合に、Vベルト4を滑ることなく保持し、車両の発進性を確保することができる。
【0053】
プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3とのプーリ比をLow側へ変更する場合に、プライマリプーリ圧Ppriを完全にドレンし、セカンダリプーリ圧Psecを所定圧力P1まで高くすることで、停車中に変速比を素早く変化させることができる。
【0054】
Low戻し制御中に車両に発進要求がされた場合に、ステップモータ27の操作位置を、推定変速比icよりもHigh側へ変位させることで、プライマリプーリ圧Ppriを確実に供給することができ、Vベルト4を滑ることなく保持し、車両の発進性を確保することができる。
【0055】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態の無段変速機の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態の変速制御油圧回路および変速機コントローラの概略構成図である。
【図3】本発明の実施形態のLow戻し制御を説明するフローチャートである。
【図4】本発明のプライマリプーリ圧と変速比変化率との関係を示すマップである。
【符号の説明】
【0057】
1 無段変速機
2 プライマリプーリ
2b 可動円錐板(可動フランジ)
3 セカンダリプーリ
4 Vベルト(ベルト)
7 前後進切り替え機構(摩擦締結要素)
13 プライマリプーリ回転センサ(プライマリプーリ回転速度検出手段)
14 セカンダリプーリ回転センサ(セカンダリプーリ回転速度検出手段、車速検出手段)
15 セカンダリプーリ圧センサ(セカンダリプーリ圧検出手段)
24 減圧弁(セカンダリプーリ圧制御手段)
25 変速制御弁
27 ステップモータ(変速アクチュエータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝幅を第1の油圧によって変化させる入力側のプライマリプーリと、
溝幅を第2の油圧によって変化させる出力側のセカンダリプーリと、
前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとに巻き掛けられ、前記溝幅に応じてプーリとの接触半径が変化するベルトと、を有し、
車両のエンジンの出力側から摩擦締結要素を介して伝達された回転力をプライマリプーリからセカンダリプーリに前記ベルトを介して伝達すると共に、前記接触半径の関係で定まる変速比が無段階に変化する無段変速機を制御する無段変速機の制御装置において、
変速アクチュエータと、
前記プライマリプーリの可動フランジの位置と前記変速アクチュエータの位置の物理的な位置関係に応じて、前記プライマリプーリに前記第1の油圧を供給する位置、前記第1の油圧を排出する位置、中立位置に切り替えられ、前記第1の油圧を制御する変速制御弁と、
前記第2の油圧を制御するセカンダリプーリ圧制御手段と、
前記車両の停止状態で前記摩擦締結要素が解放している場合に、前記第1の油圧を略ゼロとするように前記変速制御弁を制御し、前記第2の油圧を所定油圧まで高くするように前記セカンダリプーリ圧制御手段を制御して、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリの非回転状態で前記ベルトの前記プライマリプーリとの前記接触半径を縮小方向に、且つ前記セカンダリプーリとの前記接触半径を拡大方向に変位させて前記変速比を最Lowに向かって変化させる変速比制御手段と、
停車直前の変速比を直前変速比として記憶する直前変速比記憶手段と、
前記第2の油圧を検出するセカンダリプーリ圧検出手段と、
前記変速比制御手段による制御中に、検出された前記第2の油圧に基づいて求められる変速比変化量を積算する変速比変化量積算手段と、
前記直前変速比と積算された前記変速比変化量とに基づいて、前記変速比制御手段による制御中の変速比を推定する変速比推定手段と、を備えることを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記変速比制御手段による制御中に当該制御が中止された場合には、前記変速アクチュエータの送り位置を、前記変速比推定手段により推定された変速比に対応する位置よりもHigh側の所定位置に変位させる変速アクチュエータ制御手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項3】
車速を検出する車速検出手段と、
前記プライマリプーリの回転速度を検出するプライマリプーリ回転速度検出手段と、
前記セカンダリプーリの回転速度を検出するセカンダリプーリ回転速度検出手段と、を備え、
前記直前変速比記憶手段は、所定サイクル毎に前記プライマリプーリ回転速度と前記セカンダリプーリ回転速度の関係から変速比を算出し、前記車速が第1の所定値以下となったとき、または前記プライマリプーリ回転速度が第2の所定値以下となったときの少なくとも一方が成立した場合に、所定サイクル前の変速比を前記直前変速比として記憶することを特徴とする請求項1または2に記載の無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−144774(P2008−144774A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329229(P2006−329229)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】