説明

無段変速装置

【課題】トロイダル型無段変速機の変速比制御の基準となるステッピングモータのステップ位置に関する学習値の信頼性を確保できる構造を実現する。
【解決手段】制御器により、無段変速装置を構成するケーシング内の潤滑油の温度が、ステッピングモータのステップ位置を安定して学習できる温度(設定下限温度以上且つ設定上限温度以下)であるか否かを判定する。そして、潤滑油の温度が、設定下限温度よりも低い場合又は設定上限温度よりも高い場合には、制御器による学習制御が実行される事を禁止する。これにより、得られる学習値が出力軸を停止させるのに不適正となる事を防止できて、ステップ位置に関する学習値の信頼性を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両(自動車)用自動変速装置、建設機械(建機)用自動変速装置、航空機(固定翼機、回転翼機、飛行船等)等で使用されるジェネレータ(発電機)用の自動変速装置等として利用する、トロイダル型無段変速機を組み込んだ無段変速装置の改良に関する。具体的には、トロイダル型無段変速機の変速比制御の基準となる調整部材の位置(例えばステッピングモータのステップ位置)に関する学習値の信頼性を確保できる構造を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用自動変速機として使用されるトロイダル型無段変速機が、特許文献1や非特許文献1等の多くの刊行物に記載され、且つ、一部で実施されていて周知である。この様なトロイダル型無段変速機は、互いに対向する軸方向側面をトロイド曲面とした入力側ディスクと出力側ディスクとの間に複数個のパワーローラを挟持して成る。運転時には、この入力側ディスクの回転が、これら各パワーローラを介して上記出力側ディスクに伝達される。これら各パワーローラは、それぞれトラニオン等の支持部材に回転自在に支持されており、これら各支持部材は、それぞれ上記両ディスクの中心軸に対し捩れの位置にある枢軸を中心とする揺動変位を自在に支持されている。上記両ディスク同士の間の変速比を変える場合は、油圧式のアクチュエータにより上記各支持部材を上記枢軸の軸方向に変位させる。この様なアクチュエータへの圧油の給排は、制御弁により制御すると共に、上記支持部材の動きをこの制御弁にフィードバックする様に構成している。
【0003】
上記アクチュエータへの圧油の給排に基づき上記各支持部材を上記枢軸の軸方向に変位させると、上記各パワーローラの周面と上記入力側、出力側各ディスクの側面との転がり接触部(トラクション部)に作用する、接線方向の力の向きが変化(転がり接触部にサイドスリップが発生)する。そして、この力の向きの変化に伴って上記各支持部材が上記枢軸を中心に揺動(傾斜)し、上記各パワーローラの周面と上記入力側、出力側各ディスクの側面との接触位置が変化する。これら各パワーローラの周面を、上記入力側ディスクの側面の径方向外寄り部分と、上記出力側ディスクの側面の径方向内寄り部分とに転がり接触させれば、上記両ディスク同士の間の変速比が増速側になる。これに対して、上記各パワーローラの周面を、上記入力側ディスクの側面の径方向内寄り部分と、上記出力側ディスクの側面の径方向外寄り部分とに転がり接触させれば、上記両ディスク同士の間の変速比が減速側になる。
【0004】
又、上述の様なトロイダル型無段変速機を実際の自動車用自動変速機に組み込む場合、遊星歯車機構等の歯車式の差動ユニットと組み合わせて無段変速装置を構成する事が、従来から提案されている。例えば特許文献2には、入力軸を一方向に回転させたまま、出力軸の回転状態を、停止状態(所謂ギヤードニュートラル状態)を挟んで正転、逆転に切り換えられる無段変速装置が記載されている。この様な無段変速装置の場合、所謂低速モード状態では、無段変速装置全体としての変速比が、無限大に変化する。即ち、トロイダル型無段変速機の変速比を調節する事により、入力軸を一方向に回転させた状態のまま出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで、正転、逆転の変換自在となる。この様な、所謂無限大の変速比を実現できる無段変速装置の場合、トロイダル型無段変速機の変速比に関して、上記出力軸の停止状態を実現できる値(ギヤードニュートラルポイント、GN値)の近傍では、この変速比が僅かに変化しただけでも、この出力軸に伝わる動力の状態が大きく変化する。この為、トロイダル型無段変速機の変速比制御を高精度で行う必要がある。
【0005】
例えば車両を停止させた状態で、シフトレバーをPレンジ(パーキング位置)やNレンジ(ニュートラル位置)等の非走行状態から、Dレンジ(通常前進位置)、Lレンジ(高駆動前進位置)やRレンジ(後退位置)等の走行状態に切り換える場合、素早く前方或いは後方への適切な駆動力を生じさせられる様にしつつ、ブレーキペダルの操作に基づく制動力により車両の停止状態を維持できる様にする必要がある。この為、シフトレバーが非走行状態に選択されている状態で、トロイダル型無段変速機の変速比を変速比無限大の状態を実現できる値(範囲)に厳密に制御しておく必要がある。仮に、トロイダル型無段変速機の変速比が、変速比無限大の状態を実現できる値から大きくずれていると、シフトレバーが走行状態に選択された場合に、予想以上の駆動力(クリープ力)が伝達され、車両が動き出したり、運転者の意図とは逆方向の駆動力が伝達される可能性がある。
【0006】
一方、トロイダル型無段変速機に組み込まれる部品数は多く、しかも、そのうちの多くの部品の寸法精度及び組み付け精度が、トロイダル型無段変速機の変速比に影響を及ぼす。この為、設計計算により求められる変速比無限大の状態を実現できるトロイダル型無段変速機の変速比に、個体差が生じる事が考えられる。又、変速比無限大の状態を実現できるトロイダル型無段変速機の変速比は、長期間に亙る使用による構成部品の経時変化(僅かな塑性変形)等により、その特性が変化する事も考えられる。
【0007】
この様な事情に鑑みて、例えば特許文献3には、シフトレバーが非走行状態に選択されている事を条件に、入力軸を回転させたまま出力軸を停止させられる、ステッピングモータのステップ位置を学習する(制御器に第三の機能を持たせた)発明が記載されている。具体的には、シフトレバーが非走行状態に選択されている事を条件に、トロイダル型無段変速機を構成する入力側ディスクの回転速度と、出力側ディスクの回転速度とを、それぞれ回転センサにより検出する。そして、これら各ディスクの回転速度から求められる実際の変速比(入力側ディスクの回転速度/出力側ディスクの回転速度)と、遊星歯車式変速機の変速比とに基づいて、非走行状態時の出力軸の回転速度を求める。そして、この出力軸の回転速度を0にすべく、ステッピングモータのステップ位置(駆動量)を調整し、トロイダル型無段変速機の変速比を調節する。そして、上記出力軸の回転速度が0になった状態でのステップ位置を学習し、制御器のメモリに記憶する(学習制御を完了する)。そして、調整されたステップ位置(学習値)を基準に、トロイダル型無段変速機の変速比制御を行う。従って、この様な特許文献3に記載された発明によれば、トロイダル型無段変速機の構成部品の個体差や経時変化等に関係なく、変速比制御を高精度に行う事が可能になる。
【0008】
但し、上述した様な特許文献3に記載された発明を含め、従来から考えられているステップ位置の学習に関する制御方法の場合には、無段変速装置内の潤滑油(トラクションオイル)の温度による影響を考慮しておらず、ステップ位置を正しく学習できない可能性がある。
例えば、潤滑油の温度(油温)が低温状態(例えば0℃よりも低温)である場合、常温(トロイダル型無段変速機が定常運転されている状態での温度を言う。気温等の場合に一般的に言われる常温よりも温度範囲が広い。)時に比べて潤滑油の粘度は高くなる。この為、攪拌抵抗並びに引き摺り抵抗(特にクラッチ部分での引き摺り抵抗)が増大し、トロイダル型無段変速機には常温時よりも大きな負荷がかかる(ドラッグトルクが大きくなる)。又、押圧装置内の遠心油圧が上昇する事により、この押圧装置が発生する押圧力が大きくなる為、例えばシフトレバーが非走行状態から走行状態に操作された際の、トロイダル型無段変速機の変速比の変化量(トルクシフト量)が大きくなる可能性がある。更に、ステッピングモータや押圧装置等の各部の可動部の動作がスムーズに行われにくくなる為、変速比の調節に要する時間が長く(変速レスポンスが悪く)なったり、調節された変速比の精度が僅かに低下する可能性もある。この様に、潤滑油の温度が低温である場合には、常温時に比べて、トロイダル型無段変速機を含む無段変速装置を構成する各部の機械的特性が変化する。従って、この様な潤滑油の低温状態でステップ位置に関する学習を実行すると、得られた学習値が常温状態で得られる学習値と不一致になる可能性があるばかりか、機械的特性の変化の度合いによっては、得られた学習値が再現性のないものになる(出力軸を停止させるのに適正な位置から外れる)可能性がある。
【0009】
例えば、ステップ位置に関する学習を潤滑油の低温状態で実行し、得られた学習値を利用して車両を発進させた場合、潤滑油の温度は、その後上昇し、常温状態(更には高温状態)になる。但し、潤滑油の温度が常温状態であっても、シフトレバーにより非走行状態が選択されている等の学習許可条件が全て満たされていない限り、ステップ位置に関する学習を新たに実行できない。この為、低温状態で学習した学習値を基準として変速比制御を続ける事になる。従って、ステッピングモータのステップ位置が、出力軸を停止させるのに適正な位置から外れた状態で、変速比制御が実行される可能性があり、変速フィーリングが損なわれるばかりか、最悪の場合には、車両を一旦停止させてから再発進する際に、シフトレバーの選択位置とは逆方向に車両が動き出す可能性もある。
【0010】
これに対して、潤滑油の温度が高温状態(例えば120℃よりも高温)である場合には、常温時に比べて潤滑油の粘度は低くなる。この為、攪拌抵抗並びに引き摺り抵抗が低下し、トロイダル型無段変速機に加わる負荷が、常温時よりも小さくなる(ドラッグトルクが小さくなる)。又、押圧装置内の遠心油圧が低下する事により、この押圧装置が発生する押圧力が小さくなる為、トルクシフト量も常温時よりも小さくなる可能性がある。更に、ステッピングモータや押圧装置等の各部の可動部の動作が過度に円滑になる為、変速比の調節に要する時間が短くなる(変速レスポンスが過敏になる)可能性もある。この様に、潤滑油の温度が高温である場合にも、常温時に比べて、トロイダル型無段変速機を含む無段変速装置を構成する各部の機械的特性が変化する。従って、この様な潤滑油の高温状態でステップ位置に関する学習を実行する場合も、得られた学習値が、常温状態で得られる学習値と不一致になったり、再現性のないものになる可能性がある。
【0011】
例えば、真夏の炎天下の高速道路で渋滞に巻き込まれ、潤滑油の高温状態でステップ位置に関する学習が実行された場合、渋滞が解消し、車両を一定速度で高速走行させる事により(或いは気温の低下等により)、潤滑油の温度が常温状態になった場合にも、学習許可条件が全て満たされていない限り、ステップ位置に関する学習を新たに実行できない。この為、高温状態で学習した学習値を基準として変速比制御を続ける事になる。従って、低温時に学習を実行した場合と同様の問題を生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−317601号公報
【特許文献2】特開2003−307266号公報
【特許文献3】特開2004−308853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、無段変速装置内の潤滑油の温度に拘わらず、トロイダル型無段変速機の変速比制御の基準となる調整部材の位置に関する学習値の信頼性を確保できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の無段変速装置は何れも、入力軸と、出力軸と、トロイダル型無段変速機と、複数の歯車を組み合わせて成る歯車式の差動ユニットと、このトロイダル型無段変速機の変速比を制御する為の制御器とを備える。
上記トロイダル型無段変速機は、入力側ディスクと、出力側ディスクと、複数個のパワーローラと、複数個の支持部材と、アクチュエータと、制御ユニットとを備える。
このうちの入力側ディスクは、上記差動ユニットの第一の入力部と共に上記入力軸により回転駆動される。
又、上記出力側ディスクは、上記入力側ディスクと同心に、且つ、この入力側ディスクに対する相対回転を自在として支持され、上記差動ユニットの第二の入力部に接続されている。
又、上記各パワーローラは、上記両ディスク同士の間に挟持されている。
又、上記各支持部材(例えばトラニオン)は、上記各パワーローラを回転自在に支持している。
又、上記アクチュエータは、例えば油圧式のもので、圧油の給排状態に基づいて、上記各支持部材を変位させ、上記入力側ディスクと上記出力側ディスクとの間の変速比を変えるものである。
又、上記制御ユニットは、上記変速比を所望値にする為に、上記アクチュエータの変位方向及び変位量を制御するものであり、後述する調整部材の他、例えばローディング圧制御用の電磁弁、モード切換制御用の電磁弁、及び、これらにより作動状態を切り換えられる制御弁装置等から構成される。
又、上記差動ユニットは、上記第一、第二の入力部同士の間の速度差に応じた回転を取り出して上記出力軸に伝達するもので、例えば遊星歯車式変速機が相当する。
又、上記制御器は、次の第一〜第三の機能を有する。
第一の機能は、上記トロイダル型無段変速機の変速比を調節して上記差動ユニットを構成する複数の歯車の相対的変位速度を変化させる事により、上記入力軸を一方向に回転させた状態のまま上記出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで、正転及び逆転に変換する機能である。
第二の機能は、例えば上記入力側ディスクの回転速度或いはエンジンの回転数(回転速度)と上記出力側ディスクの回転速度とを利用して、上記トロイダル型無段変速機の変速比を算出する機能である。
第三の機能は、所定の学習許可条件が満たされている事を条件に、上記出力軸の回転速度が0(ゼロ)となる状態に、上記トロイダル型無段変速機の変速比を調節し、この状態での上記制御ユニットを構成する調整部材の位置(例えばステッピングモータのステップ位置)を、上記入力軸を回転させたまま上記出力軸を停止させられる位置として学習し記憶する、学習制御を行う機能である。
【0015】
特に、請求項1に係る発明の場合には、上記第三の機能による学習制御を実行する為の学習許可条件に、無段変速装置(を構成するケーシング)内に存在する潤滑油の温度が設定下限温度(例えば0℃)以上である事を含む。
言い換えれば、請求項1に係る発明の場合には、潤滑油の温度が設定下限温度よりも低い場合に、学習制御の実行を禁止する。
尚、「設定下限温度」とは、調整部材の位置に関する学習値を安定して得られる(複数回の学習によって得られる学習値がほぼ一致する)最低温度であり、使用する潤滑油の粘度等の特性に基づき適宜決定できる(チューニング値である)。
例えば、設定下限温度として、寒冷地を除いては通常出現し易い最低気温(例えば0℃)や、暖気運転が終了する際の潤滑油の温度(例えば約30℃)、車両を通常走行させた際の潤滑油の最低温度(例えば約60〜80℃)等を設定できる。
【0016】
これに対して、請求項2に係る発明の場合には、上記第三の機能による学習制御を実行する為の学習許可条件に、無段変速装置内に存在する潤滑油の温度が設定上限温度(例えば120℃)以下である事を含む。
言い換えれば、請求項2に係る発明の場合には、潤滑油の温度が設定上限温度よりも高い場合に、学習制御の実行を禁止する。この様な請求項2に係る発明は、単独で実施する事もできるが、好ましくは上述した請求項1に係る発明と同時に実施する。
尚、「設定上限温度」とは、調整部材の位置に関する学習値を安定して得られる(複数回の学習によって得られる学習値がほぼ一致する)最高温度であり、使用する潤滑油の粘度等の特性に基づき適宜決定できる(チューニング値である)。
例えば、設定上限温度として、潤滑油の製品保証の最高温度(例えば約140℃)や、車両を高負荷走行させた際の潤滑油の最高温度(約130℃)、通常走行させた際の潤滑油の最高温度(約100〜120℃)等を設定できる。
【0017】
又、請求項3に係る発明の場合には、前記第三の機能による学習制御を実行する為の学習許可条件に、無段変速装置内に存在する潤滑油の温度が設定学習許可温度の範囲内(例えば80〜100℃)である事を含む。
言い換えれば、請求項3に係る発明の場合には、潤滑油の温度が設定学習許可温度の範囲から外れていた場合には、学習制御の実行を禁止する。
尚、「設定学習許可温度」とは、調整部材の位置に関する学習値を安定して得られる(複数回の学習によって得られる学習値がほぼ一致する)温度を言い、使用する潤滑油の粘度等の特性に基づき適宜決定できる(チューニング値である)。
【0018】
又、上述した請求項1〜3に記載した発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項4に記載した発明の様に、前記第三の機能による学習制御を実行する為の学習許可条件が満たされていない場合には、それ以前に一度でも学習制御が実行され完了している事を条件に、上記制御器に記憶されている、以前に(例えば直前に)学習した調整部材の位置を、現在の潤滑油の温度に応じて補正する機能(第四の機能)を、上記制御器に併せ持たせる。
尚、具体的には、予め制御器中に記憶させておいた潤滑油の温度と調整部材の位置の補正量との関係を表したマップ等を利用して補正を行う。例えば、このマップには、設定学習許可温度の範囲内(設定下限温度以上、設定上限温度以下)で学習した、以前の学習値を基準にした補正量を規定しておく。
【0019】
又、上述した請求項1〜4に記載した発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項5に記載した発明の様に、上記第三の機能による学習制御を実行する為の学習許可条件のうち、潤滑油の温度に関する学習許可条件以外の全ての学習許可条件が満たされている場合には、それ以前に一度も学習制御が完了していない事を条件に、潤滑油の温度に関する学習許可条件を満たしているか否かに拘わらず、第三の機能に基づく学習制御の実行を許可する機能(第五の機能)を、上記制御器に併せ持たせる。
【0020】
更に、上述した請求項5に記載した発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項6に記載した発明の様に、上記第五の機能に基づき学習を許可され学習された調整部材の位置を、現在の潤滑油の温度に応じて補正する機能(第六の機能)を、上記制御器に併せ持たせる。
尚、具体的には、予め制御器中に記憶させておいた潤滑油の温度と調整部材の位置の補正量との関係を表したマップ等を利用して補正を行う。例えば、このマップには、設定学習許可温度の範囲内(設定下限温度以上、設定上限温度以下)での学習値に対する補正量を0として、この設定学習許可温度から外れた油温に関する補正量を規定しておく。
【0021】
又、前述した請求項1〜4に記載した発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項7に記載した発明の様に、上記第三の機能による学習制御を実行する為の学習許可条件のうち、潤滑油の温度に関する学習許可条件が満たされていない事により、上記第三の機能に基づく学習制御の実行が禁止された場合には、それ以前に一度も学習制御が完了していない事を条件に、上記潤滑油の温度に関する学習許可条件が満たされて学習制御が完了するまでの間、警報を発する(ランプの点灯やブザーの発音等のウォーニング、未学習警報を実行する)機能(第七の機能)を併せ持たせる。
【発明の効果】
【0022】
上述の様に構成する本発明の無段変速装置によれば、無段変速装置内に存在する潤滑油の温度に拘わらず、変速比制御の基準となる調整部材の位置に関する学習値の信頼性を確保できる。
先ず、請求項1に係る発明によれば、無段変速装置内の潤滑油の温度が、安定した学習値を得られない程に低い温度(設定下限温度よりも低い温度)である場合に、調整部材の位置に関する学習が実行される事を禁止できる。
又、請求項2に係る発明によれば、無段変速装置内の潤滑油の温度が、安定した学習値を得られない程に高い温度(設定上限温度よりも高い温度)である場合に、調整部材の位置に関する学習が実行される事を禁止できる。
更に、請求項3に係る発明によれば、無段変速装置内の潤滑油の温度が、安定した学習値を得られる温度(設定学習許可温度の範囲)から外れている場合に、調整部材の位置に関する学習が実行される事を禁止できる。
以上の様に、請求項1〜3に係る何れの発明の場合にも、潤滑油の温度が安定した学習値を得られる温度から外れた状態で、調整部材の位置に関する学習が実行される事を禁止できる。従って、得られた学習値が出力軸を停止させるのに不適正となる事を有効に防止できる。この結果、変速比制御の基準となる調整部材の位置に関する学習値の信頼性を確保(向上)できる。
【0023】
又、請求項4に係る発明によれば、現在の潤滑油の温度が低温状態や高温状態にあり、学習制御を実行できない(学習制御が禁止される)場合にも、変速比制御に移行する事が可能になる。特に、請求項4に係る発明の場合には、潤滑油の温度に関する学習許可条件(を含む全ての学習許可条件)を満たす状態で学習した以前の学習値を利用し、この学習値を現在の潤滑油温度に応じて補正した値を変速比制御の基準とする。この為、潤滑油の温度に関する学習許可条件を満たさない状態(例えば低温状態や高温状態)で学習した学習値を利用した場合に問題となる、無段変速装置の機械的特性の変化等の影響を排除できる。従って、変速比制御の実行性を確保できるだけでなく、変速比制御の信頼性も確保できる。
【0024】
又、請求項5に記載した発明の場合、例えば車両の組立完了後の初期状態時等、学習制御が一度も完了していない(調整部材の位置に関する学習値を得られていない)場合に、潤滑油の温度に関係なく、学習制御の実行が可能になる。この為、潤滑油の温度に関する学習許可条件のみが満たされない事に起因して、学習制御の実行が禁止され、変速比制御に移行できなくなる事を防止できる(車両の走行性を確保できる)。
更に、請求項6に記載した発明によれば、現在の潤滑油の温度が低温状態や高温状態にある場合にも、現在の潤滑油の温度に応じた適正な調整部材の位置を基準として変速比制御を行える。従って、無段変速装置の初期動作時(例えば車両の初期発進時からそれに続く走行時)等に於ける変速比制御の信頼性を確保できる。
これに対して、請求項7に記載した発明によれば、例えば車両の組立完了後の初期状態時等に於いて、運転者等に、潤滑油温度が適正ではなく(低温或いは高温状態にあり)学習制御を行えない旨を知らせる事ができて、早急な学習制御の実行を促す事ができる。従って、運転者等は現在の車両の状況を把握する事が可能になり、暖気或いはクーリングを行う等の学習制御の実行に必要な適切な措置を早急に取る事が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、無段変速装置のブロック図。
【図2】同じく無段変速装置に組み込むトロイダル型無段変速機の変速比を調節する為の機構を示す油圧回路図。
【図3】同じく本例の動作を示すフローチャート。
【図4】同じく本例の特徴となる動作を抜き出して示すフローチャート。
【図5】同じく図4のステップ8−2−1及びステップ9−2で参照する、ステッピングモータのステップ位置を補正する際に利用する油温と補正ステップ数との関係の1例を示す図(マップ)。
【図6】本発明の実施の形態の第2例の特徴となる動作を示すフローチャート。
【図7】本発明の実施の形態の第3例の特徴となる動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[実施の形態の第1例]
図1〜5は、請求項1〜6に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、無段変速装置を構成するケーシング内に存在する潤滑油(トラクションオイル)の温度が、ステッピングモータ24のステップ位置を安定して学習できない(複数回の学習によって得られる学習値が一定にならない)温度である場合に、制御器11が備える第三の機能による学習制御が実行される事を禁止する点にある。この制御器11が備える第一、第二の機能に就いては、前述した特許文献3等に詳しく記載されており、従来から広く知られているものであるから、ここでは説明を省略若しくは簡略にし、以下、本例の無段変速装置の全体構成及び特徴部分に就いて説明する。
【0027】
先ず、図1のブロック図により、本例の無段変速装置に就いて説明する。この図1中、太矢印は動力の伝達経路を、実線は油圧回路を、破線は電気回路を、それぞれ示している。エンジン1の出力は、ダンパ2を介して、入力軸3に入力される。この入力軸3に伝達された動力は、トロイダル型無段変速機4を構成する油圧式の押圧装置5から入力側ディスク6に伝達され、更にパワーローラ7を介して出力側ディスク8に伝達される。これら両ディスク6、8のうち、入力側ディスク6の回転速度は入力側回転センサ9により、出力側ディスク8の回転速度は出力側回転センサ10により、それぞれ測定して、制御器11に入力し、上記両ディスク6、8間の(トロイダル型無段変速機4の)変速比を算出する。
【0028】
又、上記入力軸3に伝達された動力は、直接又は上記トロイダル型無段変速機4を介して、差動ユニットである遊星歯車式変速機12に伝達される。そして、この遊星歯車式変速機12の構成部材の差動成分が、クラッチ装置13を介して出力軸14に取り出される。尚、このクラッチ装置13は、後述する図2に示した低速用クラッチ15及び高速用クラッチ16を表すものである。又、本例の場合には、出力軸回転センサ17により、上記出力軸14の回転速度を検出して、上記入力側回転センサ9及び上記出力側回転センサ10の故障の有無を判定する為のフェールセーフを可能としている。
【0029】
一方、上記ダンパ2部分から取り出した動力によりオイルポンプ18を駆動し、このオイルポンプ18から吐出した圧油を、上記押圧装置5と、上記パワーローラ7を支持した支持部材であるトラニオンを枢軸(図示省略)の軸方向に変位させる為のアクチュエータ19(図2参照)の変位量を制御する為の制御弁装置20とに、送り込み自在としている。この制御弁装置20を構成する制御弁21(図2参照)は、上記アクチュエータ19への圧油の給排を制御するものである。又、このアクチュエータ19に設けた1対の油圧室22a、22b(図2参照)内の油圧を、油圧センサ23(図2に示す1対の油圧センサ23a、23b)により検出して、その検出信号を上記制御器11に入力している。この制御器11は、上記油圧センサ23(油圧センサ23a、23b)からの信号に基づいて、上記トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク)を算出する。
【0030】
又、上記制御弁装置20は、調整部材であるステッピングモータ24と、ローディング圧制御用電磁開閉弁25と、モード切換制御用電磁開閉弁26(図2に示す低速クラッチ用電磁弁27、高速クラッチ用電磁弁28)とにより、その作動状態を切り換えられる。そして、これらステッピングモータ24と、ローディング圧制御用電磁開閉弁25と、モード切換制御用電磁開閉弁26とは、何れも上記制御器11からの制御信号に基づいて切り換えられる。
【0031】
又、上記制御器11には、上記各回転センサ9、10、17及び上記油圧センサ23からの信号の他、油温センサ29の検出信号と、ポジションスイッチ30の位置信号と、アクセルセンサ31の検出信号と、ブレーキスイッチ32の信号と、イグニッションスイッチ33の信号等とを入力している。このうちの油温センサ29は、無段変速装置を構成するケーシング内の潤滑油の温度を検出するものである。又、上記ポジションスイッチ30は、後述する図2に記載した手動油圧切換弁34を切り換える為の、運転席に設けられたシフトレバー(操作レバー)の操作位置(選択位置)を表す信号を発するものである。又、上記アクセルセンサ31は、アクセルペダルの開度を検出する為のものである。又、上記ブレーキスイッチ32は、ブレーキペダルが踏まれた事を検出して、その事を表す信号を発するものである。更に、上記イグニッションスイッチ33は、前記エンジン1を始動及び停止する為のもので、イグニッションキーの作動状態(選択位置)を検出し、その事を表す信号(オン/オフ状態を表す信号)を発するものである。
【0032】
又、上記制御器11は、上記各スイッチ30、32、33及び上記各センサ9、10、17、23、31からの信号に基づいて、上記ステッピングモータ24と、上記ローディング圧制御用電磁開閉弁25と、上記モード切換制御用電磁開閉弁26とに、上記制御信号を送る他、上記エンジン1を制御する為の制御信号を送る。そして、前記入力軸3と前記出力軸14との間の変速比を制御したり、或いは、停止時若しくは低速走行時に、前記トロイダル型無段変速機4を通過して上記出力軸14に加えられるトルク(通過トルク)を制御する。
【0033】
図2は、上述の様な無段変速装置を制御する油圧回路を示している。この油圧回路では、油溜35から吸引されてオイルポンプ18により吐出された圧油を、調圧弁36a、36bで所定圧に調整自在としている。又、これら両調圧弁36a、36bのうち、手動油圧切換弁34側に送る油圧を調整する為の調圧弁36aによる調整圧を、ローディング圧制御用電磁開閉弁25の開閉に基づいて調節自在としている。そして、上記両調圧弁36a、36bにより圧力を調整された圧油を、制御弁21を介してアクチュエータ19に送り込み自在としている。
【0034】
又、この圧油は、上記手動油圧切換弁34と、減圧弁と、低速クラッチ用電磁弁27又は高速クラッチ用電磁弁28とを介して、低速用クラッチ15又は高速用クラッチ16の油圧室内に送り込み自在としている。このうちの低速用クラッチ15は、減速比を大きくする(変速比無限大を含む)低速モードを実現する際に接続されると共に、減速比を小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる。これに対して、上記高速用クラッチ16は、低速モードを実現する際に接続を断たれると共に高速モードを実現する際に接続される。又、上記低速用クラッチ15及び上記高速用クラッチ16への油圧の導入状態は、油圧センサ23c、23dによりそれぞれ検出して、検出信号を上記制御器11に入力している。
【0035】
特に本例の場合は、この制御器11により、無段変速装置のケーシング内に存在する潤滑油の温度が、前記ステッピングモータ24のステップ位置を安定して学習できない(複数回の学習によって得られる学習値が一定にならない)温度であると判定した場合には、このステップ位置に関する学習制御を禁止する。上記制御器11が備えるこの様な機能に就いて、図3及び図4のフローチャートを参照しつつ説明する。
尚、これら各フローチャートに示した動作は、上記制御器11に通電されているか、この制御器11中の電圧が(コンデンサや二次電池の存在に基づいて)保持されている間、自動的に繰り返し(開始→各ステップ→終了→開始→・・・)行う。つまり、学習制御が一度も実行されていない場合(イグニッションスイッチ33をオンした直後)は勿論、学習制御の実行中(ステップ位置を調節している状態)、更には学習制御が完了した後(出力軸14を停止させられるステップ位置を一度学習した後)も、上記各フローチャートに示した動作を繰り返し行う。
【0036】
先ず、上記制御器11は、ステップ1で、車両の走行速度が0であるか否かを判定する。この判定は、前記出力軸回転センサ17、或いは、図示しない速度センサからの信号に基づいて行う。そして、車両の走行速度が0でない限り、次のステップ2には進まずに、後述するステップ9に進む。
【0037】
これに対して、車両の走行速度が0である場合には、続くステップ2に進み、非走行状態が選択されているか否かを判定する。この判定は、前記ポジションスイッチ30からの信号に基づいて行う。このポジションスイッチ30からの信号に基づき、運転席に設けられたシフトレバーの操作位置が、Pレンジ又はNレンジである場合には、非走行状態が選択されていると判定し、それ以外の場合には非走行状態が選択されていないと判定する。そして、非走行状態が選択されていない限り、次のステップ3には進まずに、後述するステップ9に進む。
【0038】
これに対して、非走行状態が選択されている場合には、続くステップ3に進み、アクセルペダルが全閉の状態にあるか否かを判定する。この判定は、前記アクセルセンサ31からの信号に基づいて行う。このアクセルセンサ31からの信号に基づき、アクセルペダルの開度が0%である場合には、アクセルペダルが全閉であると判定し、それ以外の場合には全閉でないと判定する。そして、アクセルペダルが全閉でない限り、次のステップ4には進まずに、後述するステップ9に進む。この様なステップ3は、単純にアクセル開度が0%ではない(アクセルペダルが踏み込まれている)場合のみを、ステップ位置に関する学習制御の対象から除外する。この為、アクセルペダルの踏み込み量を変化(増加或いは減少)させる等により、前記エンジン1の回転数を変動させている場合は勿論、アクセルペダルの踏み込み量を一定として上記エンジン1の回転数に変動を生じさせない(生じにくい)場合も、ステップ位置に関する学習制御の対象から除外する。但し、アクセルペダルを開放した直後の様に、アクセル開度が0%であるにも拘らず、上記エンジン1の回転数が低下している状態は、学習制御の対象からは除外しない(できない)。
【0039】
上述の様なステップ3で、アクセルペダルが全閉であると判定された場合には、続くステップ4に進み、上記エンジン1の回転数が、上記制御器11により設定される目標アイドル回転数よりも高い値に設定された、設定上限回転数{ENG GN=目標アイドル回転数(TRGET IDLE)+X}よりも低いか否かを判定する。ここで、「目標アイドル回転数」とは、エンジンの冷却水の温度、吸気温度、補機の回転状態等に応じて制御器により設定されるエンジンの回転数であり、暖機運転時等には通常運転時に比べて高値に設定される。又、上記設定上限回転数(ENG GN)を目標アイドル回転数(TRGET IDLE)よりも高くする程度(Xの値)は、エンジンの特性等に基づき適宜決定する事ができる(チューニング値)。このチューニング値Xの値は、例えばエンジン回転数が目標アイドル回転数に収束する過程で通過する、上記エンジンの始動直後の高回転状態から比較的短時間経過した状態で達する、上記目標アイドル回転数よりも少し高い程度の回転数に見合う値を設定できる。本例の場合には、X=400min-1に設定し、上記エンジン1の回転数が、目標アイドル回転数+400min-1よりも低いか否かを判定する。この判定は、入力側回転センサ9(エンジン1のクランクシャフトの回転がそのまま入力軸3並びに入力側ディスク6に伝達される場合)、或いは、運転席のタコメータにエンジンの回転数(回転速度)を表示させる為の信号に基づいて行う。そして、上記エンジン1の回転数が目標アイドル回転数+400min-1よりも低くない限り、次のステップ5には進まずに、後述するステップ9に進む。この様な判定を行うステップ4では、上述したステップ3では学習制御の対象から除外する事のできない、アクセル開度が0%であるにも拘らず、上記エンジン1の回転数が低下する様な、アクセルペダルが開放された直後の状態等を学習制御の対象から除外する。
【0040】
続くステップ5では、上記エンジン1の回転数が、上記制御器11により設定される目標アイドル回転数よりも低い値に設定された、設定下限回転数(ENG ON)よりも高いか否かを判定する。この設定下限回転数は、エンジンの特性等に基づき適宜決定する事ができ(チューニング値であり)、例えば目標アイドル回転数の約50〜70%程度の回転数を設定できる。本例の場合には、上記設定下限回転数を500min-1に設定し、上記エンジン1の回転数が、500min-1よりも高いか否かを判定する。この判定に関しても、上述したステップ4の場合と同様に、上記入力側回転センサ9、或いは、運転席のタコメータにエンジンの回転数を表示させる為の信号に基づいて行う。そして、上記エンジン1の回転数が設定下限回転数である500min-1よりも高くない限り、次のステップ6には進まずに、後述するステップ9に進む。この様なステップ5では、単純に上記エンジン1の回転数が500min-1以下である場合を、ステップ位置に関する学習制御の対象から除外する。但し、後述するステップ6によって、前記イグニッションスイッチ33がオフに操作された後の状態は学習制御の対象から除外される為、本ステップ5では、上記イグニッションスイッチ33がオンの状態で、上記エンジン1の回転数が500min-1以下である場合を学習制御の対象から除外する。例えば、上記イグニッションスイッチ33がオンに操作されスタータが稼動し始めてから、上記エンジン1の回転数が500min-1に達するまでの間を、ステップ位置に関する学習制御の対象から除外する。
【0041】
続くステップ6では、上記制御器11により、上記イグニッションスイッチ33がオンの状態にあるか否かを判定する。そして、オンの状態にある場合には、次のステップ7に進む。これに対して、オフの状態にある場合には、次のステップ7には進まずに、後述するステップ9に進む。この様な判定を行うステップ6では、上記イグニッションスイッチ33がオフに操作された直後から、次にこのイグニッションスイッチ33がオンに操作されるまでの間を、学習制御の対象から除外する。尚、イグニッションスイッチ33のオン/オフ状態の判定は、このイグニッションスイッチ33からの信号を上記制御器11に直接入力して、この制御器11により直接判定しても良いし、エンジンコントローラからの信号を利用して判定しても良い。
【0042】
上述の様なステップ6で、上記イグニッションスイッチ33がオンの状態にあると判定された場合には、続くステップ7で、無段変速装置内に存在する潤滑油の温度が、所定の温度範囲に収まっているか否かを判定する。この判定は、前記油温センサ29による信号を利用して行う事もできるし、その他の手段により検出した温度を利用して行っても良い。何れにしても、本例の場合には、この様な潤滑油の温度の判定及びその後の制御(バックアップ制御)を、図4に示したフローチャートに従って行う。
【0043】
先ず、ステップ7−1で、これまでに学習制御が一度でも完了しているか否かを判定する。この判定は、学習完了フラグの有無を確認する事により行う。そして、学習完了フラグが立てられていれば(F GN FINISH=1)、続くステップ7−2に進む。これに対して、学習完了フラグが立てられていなければ(F GN FINISH=0)、ステップ7−2には進まずに、後述するステップ8−2に進む。
【0044】
続くステップ7−2では、無段変速装置内に存在する潤滑油の現在の温度が、ステップ位置に関する学習値を安定して得られる(複数回の学習によって得られる学習値がほぼ一致する)最低温度である、設定下限温度(GN LOW)以上であるか否かを判定する。そして、現在の温度が設定下限温度以上であれば、続くステップ7−3に進む。これに対して、現在の温度が設定下限温度よりも低ければ、ステップ7−3には進まずに、後述するステップ9に進む。尚、この設定下限温度は、使用する潤滑油の粘度等の特性に基づき適宜決定できる(チューニング値である)。例えば、上記設定下限温度として、寒冷地を除いては最低気温(例えば0℃)や、暖気運転が終了する際の潤滑油の温度(例えば約30℃)、車両を通常走行させた際の潤滑油の最低温度(例えば約60〜80℃)等を設定できる。
【0045】
続くステップ7−3では、無段変速装置内に存在する潤滑油の現在の温度が、ステップ位置に関する学習値を安定して得られる(複数回の学習によって得られる学習値がほぼ一致する)最高温度である、設定上限温度(GN HIGH)以下であるか否かを判定する。そして、現在の温度が設定上限温度以下であれば、続くステップ8−1に進む。これに対して、現在の温度が設定上限温度よりも高ければ、ステップ8−1には進まずに、後述するステップ9に進む。尚、この設定上限温度も、使用する潤滑油の粘度等の特性に基づき適宜決定できる(チューニング値である)。例えば、上記設定上限温度として、潤滑油の製品保証の最高温度(例えば約140℃)や、車両を高負荷走行させた際の潤滑油の最高温度(約130℃)、通常走行させた際の潤滑油の最高温度(約100〜120℃)等を設定できる。
尚、上述したステップ7−2及びステップ7−3に代えて、無段変速装置内に存在する潤滑油の現在の温度が、ステップ位置に関する学習値を安定して得られる温度である、設定学習許可温度の範囲内(GN LOW≦潤滑油温度≦GN HIGH)にあるか否かを一度のステップで判定する事もできる。
【0046】
上記ステップ7−3で、現在の温度が設定上限温度以下であると判定された場合には、続くステップ8−1(図3ではステップ8)に進み、変速比無限大の状態を実現する為のステップ位置に関する学習制御を許可し、学習制御を実行する。具体的には、前記ステッピングモータ24を駆動する事により、前記トロイダル型無段変速機4の変速比を、前記出力軸14の回転速度を0にする変速比(ギヤードニュートラル変速比)±α(閾値)の範囲に調節する。このギヤードニュートラル変速比は、前記遊星歯車式変速機12を構成する各歯車の変速比により計算によって求められ、例えば1.306前後の値になる。又、閾値として±0.01を設定し、上記トロイダル型無段変速機4の変速比を1.306±0.01の範囲内に調節する。
【0047】
尚、本例の場合には、上記ステッピングモータ24を特定のステップ位置(決まった学習値)に駆動するのではなく、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が1.306±0.01の範囲に入った状態での、上記ステッピングモータ24のステップ位置を、変速比制御の基準値とする。従って、学習制御が実行されている間は、上記ステッピングモータ24の現在のステップ位置を表す値(REAL SMP)を、基準値を表す0に固定し(REAL SMP=0)、現在のステップ位置(REAL SMP)が変速比無限大の状態を得られる基準値であるとして取り扱う。又、上記ステッピングモータ24の出力ロッドのストローク位置を測定する為の位置センサ等は設けない。
【0048】
上記トロイダル型無段変速機4の変速比を実際に調節する作業は、前記入力側回転センサ9及び前記出力側回転センサ10の検出信号(入力側ディスク6の回転速度NID、出力側ディスク8の回転速度NOD)を観察しつつ(制御器11が有する第二の機能に基づき算出されるトロイダル型無段変速機4の変速比を観察しつつ)、上記ステッピングモータ24の出力ロッドを変位させる事で行う。そして、この出力ロッドを変位させるべく、このステッピングモータ24を駆動した方向と関連させつつ、このステッピングモータ24のステップ数をカウントする。例えば、このステッピングモータ24をLow側に1ステップ分だけ駆動した場合には、学習中のステッピングモータ24のステップ位置(ステップ数)を表す値(GN SMP、初期値0)を、1ステップ分だけカウントアップする(GN SMP=GN SMP+1)。これに対して、High側に1ステップ駆動した場合には、学習中のステッピングモータ24のステップ位置を表す値を、1ステップ分だけカウントダウンする(GN SMP=GN SMP−1)。
【0049】
そして、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が、1.306±0.01の範囲内に調節されているか否かを判定すると共に、この範囲内に所定時間(例えば3秒間)収まっているか否かを判定する。そして、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が、1.306±0.01の範囲内に調節されており、且つ、この範囲内に所定時間収まっていると判定された場合には、学習制御を完了し、その事を表す学習完了フラグを立てる(F GN
LEARN=0→1)。又、上記範囲内に調節した時点での、上記ステッピングモータ24のステップ位置(GN SMP)を、変速比無限大の状態を得られる基準位置として学習し、前記制御器11中のメモリに記憶する(GN SMP=REAL SMP=0)。そして、終了に進み、再度開始に戻る。
【0050】
これに対して、前述したステップ7−1で、これまでに学習制御が一度も完了していないと判定された場合(F GN FINISH=0)には、ステップ8−2に進み、上記制御器11が有する第五の機能(第四の機能に就いては後述する)により、変速比無限大の状態を実現する為のステップ位置に関する学習制御を許可し、学習制御を実行する。即ち、現在の潤滑油の温度に関係なく(低温、高温、常温を問わず)、上述したステップ8−1の場合と同様に、上記トロイダル型無段変速機4の変速比を、前記出力軸14の回転速度を0にする変速比(ギヤードニュートラル変速比)±α(閾値)の範囲に調節する。そして、この範囲内に調節した時点での、上記ステッピングモータ24のステップ位置(GN SMP)を、変速比無限大の状態を得られる基準位置として学習し、上記制御器11中のメモリに記憶する(GN SMP=REAL SMP=0)。
【0051】
そして、続くステップ8−2−1に進み、上記制御器11が有する第六の機能により、ステップ8−2で学習したステップ位置に関する学習値(以下、本明細書中で「初期学習値」と呼ぶ)を、現在の潤滑油の温度に応じて補正する。この補正は、例えば図5に示した様な、上記制御器11中のメモリ等に予め記憶しておいたマップ(或いは計算式)等に基づいて行う。尚、上記図5に示したマップは、現時点での油温と初期学習値(ステップ9−2では直前の学習値)に対する補正量との関係を表している。又、上記図5は、設定下限温度(GN LOW)を60℃とし、設定上限温度(GN HIGH)を100℃とした場合の補正量を示しており、前記ステッピングモータ24をプラス方向に駆動する事で、トロイダル型無段変速機の変速比を減速側に変速させ、同じくマイナス方向に駆動する事で増速側に変速させる場合に就いて示している。
【0052】
本ステップ8−2−1では、現在の潤滑油の温度が、設定下限温度(GN LOW=60℃)以上で且つ設定上限温度(GN HIGH=100℃)以下である場合には、上述のステップ8−2で学習した初期学習値は適正であるとして補正は行わない(補正量0として、そのまま変速比制御に利用可能とする)。これに対して、現在の潤滑油の温度が、設定下限温度(GN LOW)よりも低い場合又は設定上限温度(GN HIGH)よりも高い場合には、上記初期学習値を補正する。即ち、この初期学習値を、現在の潤滑油温度に応じた補正量(Z)だけ加減した値に補正する(初期学習値→初期学習値±Z)。具体的には、現在の潤滑油の温度が、設定下限温度(GN LOW)よりも低い場合には、上記初期学習値を、設定下限温度よりも低い程度に応じてHIGH側(マイナス方向)に補正する。例えば、現在の潤滑油の温度が−20℃の場合には、上記初期学習値を、この初期学習値よりも4ステップ分だけマイナス方向の位置(GN SMP=GN SMP−4)に補正する。一方、現在の潤滑油の温度が、設定上限温度(GN HIGH)よりも高い場合には、上記初期学習値を、設定上限温度よりも高い程度に応じてLOW側(プラス方向)に補正する。例えば、現在の潤滑油の温度が120℃の場合には、上記初期学習値を、この初期学習値よりも1ステップ分だけプラス方向の位置(GN SMP=GN SMP+1)に補正する。そして、この様にして、初期学習値をそのまま利用する場合、並びに、この初期学習値を補正する場合にも、終了に進み、再度開始に戻る。
【0053】
又、前述したステップ7−2で、現在の潤滑油の温度が設定下限温度よりも低い(低温状態である)と判定された場合、及び、前述したステップ7−3で、現在の潤滑油の温度が設定上限温度よりも高い(高温状態である)と判定された場合には、ステップ9に進む。同様に、前述した様な学習許可条件であるステップ1〜6が、運転者のシフトレバー操作或いはアクセルペダル操作、イグニッションキー操作等に基づいて、何れか1つでも条件を満たさなくなった場合(例えばイグニッションスイッチ33がオフに操作された場合やシフトレバーがPレンジからDレンジに切り換えられた場合)にも、ステップ9に進む。
【0054】
そして、このステップ9では、学習制御が実行中である場合には実行を中止して、学習制御の実行を禁止する。学習制御が実行中(トロイダル型無段変速機4の変速比を出力軸14の回転速度を0にする状態に調節中)であるか否かの判定は、学習中フラグの有無を確認する事により行い、学習中フラグが立てられていれば(F GN LEARN=1)、上記トロイダル型無段変速機4の変速比を1.306±0.01の範囲内に調節する為の、上記ステッピングモータ24の駆動及び判定等の動作を中止する。そして、学習中フラグを下げる(F GN LEARN=1→0)。
【0055】
又、ステップ9では、ステップ1〜6から直接ステップ9に進んだ場合を対象として、これまでに学習制御が一度でも完了しているか否かを判定し、一度も完了していない場合(F GN FINISH=0)には、車両の発進制御を禁止する。具体的には、上記制御器11から前記低速クラッチ用電磁弁27及び前記高速クラッチ用電磁弁28に対して、前記低速用クラッチ15及び前記高速用クラッチ16の接続を禁止する(接続を断つ)旨の信号を送り、これら低速用、高速用両クラッチ15、16の接続を断つ。そして、この場合には、続くステップ9−1及びステップ9−2による制御を行わずに、終了に進み、開始に戻る。即ち、ステップ1〜6の条件が全て満たされていない限り、前述のステップ8−2には進まない。これに対して、一度でも学習制御が完了していた場合(F GN FINISH=1)には、ステップ7−2又はステップ7−3を経由してステップ9に進んだ場合と同様に、続くステップ9−1に進む。尚、ステップ7−2又はステップ7−3を経由してステップ9に進んだ場合には、ステップ7−1を経由した事に基づき、必然的にそれ以前に一度は学習制御が完了している。
【0056】
ステップ9−1では、上記ステッピングモータ24のステップ位置を、上記制御器11中に記憶されている直前の学習値(GN SMP=0)に設定する。具体的には、学習制御の実行中ではない状態で学習制御が禁止された場合には、上記ステッピングモータ24のステップ位置は直前の学習値のままである為、このステッピングモータ24は駆動しない。一方、学習制御の実行中に学習制御が中止された場合には、このステッピングモータ24を駆動し、ステップ位置を学習中にカウントしていたステップ量だけ戻す(直前に学習した学習値に戻す)。例えば、学習制御が中止された時点でのステップ位置がGN SMP=+Yであった場合には、上記ステッピングモータ24を−Y分だけ駆動し、ステップ位置を直前の学習値(GN SMP=0)に戻す。
【0057】
そして、ステップ9−2に進み、上記制御器11が有する第四の機能により、上記ステップ9−1で設定された直前の学習値を、現在の潤滑油の温度に応じて補正する(必要に応じて補正する)。この様な補正に関しても、前記図5に示した様なマップを用いて行う。
【0058】
本ステップ9−2では、現在の潤滑油の温度が、設定下限温度(GN LOW=60℃)以上で且つ設定上限温度(GN HIGH=100℃)以下である場合には、上述のステップ9−1で設定された直前の学習は適正であるとして補正は行わない(補正量0として、そのまま変速比制御に利用可能とする)。これに対して、現在の潤滑油の温度が、設定下限温度(GN LOW)よりも低い場合又は設定上限温度(GN HIGH)よりも高い場合には、上記直前の学習値を補正する。即ち、この直前の学習値を、現在の潤滑油温度に応じた補正量(Z)だけ加減した値に補正する(直前の学習値→直前の学習値±Z)。具体的には、現在の潤滑油の温度が、設定下限温度(GN LOW)よりも低い場合には、上記直前の学習値を、設定下限温度よりも低い程度に応じてHIGH側(マイナス方向)に補正する。例えば、現在の潤滑油の温度が−20℃の場合には、上記直前の学習値を、この学習値よりも4ステップ分だけマイナス方向の位置(GN SMP=GN SMP−4)に補正する。一方、現在の潤滑油の温度が、設定上限温度(GN HIGH)よりも高い場合には、上記直前の学習値を、設定上限温度よりも高い程度に応じてLOW側(プラス方向)に補正する。例えば、現在の潤滑油の温度が120℃の場合には、上記直前の学習値を、この学習値よりも1ステップ分だけプラス方向の位置(GN SMP=GN
SMP+1)に補正する。そして、この様にして、直前の学習値をそのまま利用する場合、並びに、この直前の学習値を補正する場合にも、終了に進み、再度開始に戻る。
【0059】
以上の様な構成を有し、上述の様に動作する本例の無段変速装置によれば、無段変速装置内に存在する潤滑油の温度に拘わらず、前記トロイダル型無段変速機4の変速比制御の基準となる前記ステッピングモータ24のステップ位置に関する学習値の信頼性を確保できる。
即ち、本例の場合には、ステップ7で、潤滑油の現在の温度が、安定した学習値を得られる温度から外れている場合(ステップ7−1で低温状態にある場合、ステップ7−2で高温状態にある場合)を、ステップ位置に関する学習制御の対象から除外できる。この為、得られた学習値が前記出力軸14を停止させるのに不適正となる事を有効に防止できる。従って、変速比制御の基準となるステップ位置に関する学習値の信頼性を確保(向上)できる。
【0060】
又、本例の場合には、上記制御器11が備える第四の機能により、それ以前に学習制御が実行され完了していた場合には、現在の潤滑油の温度が設定下限温度(GN LOW、60℃)よりも低い場合又は設定上限温度(GN HIGH、100℃)よりも高い場合で、学習制御を実行できない(学習制御が禁止されている)場合にも、変速比制御に移行する事が可能になる。特に、本例の場合には、上記制御器11中に記憶されている、潤滑油の温度に関する学習許可条件を含む全ての学習許可条件を満たす状態で学習した直前の学習値を利用し、この学習値を現在の潤滑油温度に応じて補正した値を変速比制御の基準とする。この為、潤滑油の温度に関する学習許可条件を満たさない状態(例えば低温状態や高温状態)で学習した学習値を利用した場合に問題となる、無段変速装置の機械的特性の変化等の影響を排除できる。従って、変速比制御の実行性を確保できるだけでなく、変速比制御の信頼性も確保できる。
【0061】
又、本例の場合には、上記制御器11が備える第五の機能により、潤滑油の温度に関する学習許可条件(ステップ7−2、7−3)以外の全ての学習許可条件(ステップ1〜6)が満たされている場合には、それ以前に一度も学習制御が完了していない事を条件として、ステップ位置に関する学習制御の開始を許可する(ステップ8−2)。この為、例えば車両の組立完了後の初期状態時やコントローラの交換後等、何らかの理由により学習制御が一度も完了していない(ステップ位置に関する学習値を得られていない)場合には、潤滑油の温度に関係なく、学習制御の実行が可能になる。この為、冬場で潤滑油の温度が低すぎる等、潤滑油の温度に関する学習許可条件(ステップ7)のみが満たされない事に起因して、学習制御の実行が禁止され、変速比制御に移行できなくなる事を防止できる(車両の走行性を確保できる)。
【0062】
更に、本例の場合には、上記制御器11が備える第六の機能により、ステップ位置に関する初期学習値が、低温状態又は高温状態で求められたものである場合(設定下限温度よりも低い場合又は設定上限温度よりも高い場合)には、上記初期学習値を、現在の潤滑油の温度に応じたステップ位置に補正する(ステップ8−2−1)。この為、温度条件が整わないままで求めた初期学習値をそのまま使用する場合に比べて、その信頼性を十分に高くできる。従って、無段変速装置の初期動作時(例えば車両の初期発進時及びそれに続く走行時)等に於ける変速比制御の信頼性を確保できる。
【0063】
[実施の形態の第2例]
図6は、請求項1〜4、7に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の特徴は、現在の潤滑油の温度が設定下限温度(GN LOW)よりも低い又は設定上限温度(GN HIGH)よりも高い事により学習制御の実行が禁止された場合に、制御器11(図1参照)が有する第7の機能により、それ以前に一度も学習制御が完了していない事を条件に、潤滑油の温度が設定下限温度以上で且つ設定上限温度以下の範囲に収まり、学習制御が完了するまでの間、警報を発する点にある。その他の構成及び作用効果に就いては、上述した実施の形態の第1例の場合とほぼ同様である為、重複する図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0064】
本例の場合も、前述した実施の形態の第1例の場合と同様に、ステップ1で、車両の走行速度が0であるか否かを、ステップ2で、シフトレバーの操作位置が非走行状態に選択されているか否かを、ステップ3で、アクセルペダルが全閉であるか否かを、ステップ4で、エンジン1(図1参照)の回転数が設定上限回転数よりも低いか否かを、ステップ5で、このエンジン1の回転数が設定下限回転数よりも高いか否かを、ステップ6で、イグニッションスイッチ33(図1参照)がオンの状態にあるか否かを、それぞれ判定する。
【0065】
そして、続くステップ7(ステップ7−1、ステップ7−2)で、無段変速装置内に存在する潤滑油の温度が、所定の温度範囲に収まっているか否かを判定する。この判定は、油温センサ29(図1参照)による信号を利用して行う事もできるし、その他の手段により検出した温度を利用して行っても良い。何れにしても、本例の場合には、この様な潤滑油の温度の判定及びその後の制御(バックアップ制御)を、図6に示したフローチャートに従って行う。
【0066】
先ず、ステップ7−1で、無段変速装置内に存在する潤滑油の現在の温度が、ステップ位置に関する学習値を安定して得られる(複数回の学習によって得られる学習値がほぼ一致する)最低温度である、設定下限温度(GN LOW)以上であるか否かを判定する。そして、現在の温度が設定下限温度以上であれば、続くステップ7−2に進む。これに対して、現在の温度が設定下限温度よりも低ければ、ステップ7−2には進まずに、後述するステップ9に進む(尚、上記ステップ1〜6の何れかの学習許可条件が満たされないと判定された場合にも同様にステップ9に進む)。
【0067】
続くステップ7−2では、無段変速装置内に存在する潤滑油の現在の温度が、ステップ位置に関する学習値を安定して得られる(複数回の学習によって得られる学習値がほぼ一致する)最高温度である、設定上限温度(GN HIGH)以下であるか否かを判定する。そして、現在の温度が設定上限温度以下であれば、続くステップ8に進む。これに対して、現在の温度が設定上限温度よりも高ければ、ステップ8には進まずに、後述するステップ9に進む。
【0068】
続くステップ8では、変速比無限大の状態を実現する為のステップ位置に関する学習制御を許可し、学習制御を実行する。具体的な学習制御の方法に関しては、上述した実施の形態の第1例の場合(図4のステップ8−1、8−2)と同様である。
【0069】
これに対して、ステップ9では、学習制御が実行中である場合には実行を中止して、学習制御の実行を禁止する。学習制御が実行中(トロイダル型無段変速機4の変速比を出力軸14の回転速度を0にする状態に調節中)であるか否かの判定は、学習中フラグの有無を確認する事により行い、学習中フラグが立てられていれば(F GN LEARN=1)、上記トロイダル型無段変速機4の変速比を1.306±0.01の範囲内に調節する為の、ステッピングモータ24(図1参照)の駆動及び判定等の動作を中止する。そして、学習中フラグを下げる(F GN LEARN=1→0)。
【0070】
続くステップ9−1では、これまでに学習制御が一度でも完了しているか否か(以前の学習値が存在するか否か)を判定する。そして、学習制御が一度も完了していない場合には、車両の発進制御を禁止する。具体的には、前記制御器11から低速クラッチ用電磁弁27及び高速クラッチ用電磁弁28(図2参照)に対して、低速用クラッチ15及び高速用クラッチ16(図2参照)の接続を禁止する(接続を断つ)旨の信号を送り、これら低速用、高速用両クラッチ15、16の接続を断つ。
【0071】
又、本例の場合には、学習制御が一度も完了していない場合のうち、特に、潤滑油の温度に関する学習許可条件であるステップ7−2又はステップ7−3が満たされない事により、ステップ9に進んだ(学習制御が禁止された)場合には、上記制御器11が有する第七の機能により、潤滑油の温度が設定下限温度以上で且つ設定上限温度以下の範囲に収まり、学習制御が完了するまでの間、警報を発する(ランプの点灯やブザーの発音等のウォーニング、未学習警報を実行する)。そして、終了に進み、開始に戻る。これに対して、学習制御が一度も完了していない場合のうち、ステップ1〜6の何れかの学習許可条件が満たされない事により、ステップ9(ステップ9−1)に進んだものに関しては、警報を発する事なく、終了に進み、開始に戻る。
【0072】
一方、学習制御が一度でも完了していた場合には、続くステップ9−2に進み、上記ステッピングモータ24のステップ位置を、上記制御器11中に記憶されている直前の学習値(GN SMP=0)に設定する。具体的には、学習制御の実行中ではない状態で学習制御が禁止された場合には、上記ステッピングモータ24のステップ位置は直前の学習値のままである為、このステッピングモータ24は駆動しない。一方、学習制御の実行中に学習制御が中止された場合には、このステッピングモータ24を駆動し、ステップ位置を学習中にカウントしていたステップ量だけ戻す(直前に学習した学習値に戻す)。例えば、学習制御が中止された時点でのステップ位置がGN SMP=+Yであった場合には、上記ステッピングモータ24を−Y分だけ駆動し、ステップ位置を直前の学習値(GN
SMP=0)に戻す。
【0073】
そして、ステップ9−3に進み、上記制御器11が有する第四の機能により、上記ステップ9−2で設定された直前の学習値を、現在の潤滑油の温度に応じて補正する(必要に応じて補正する)。この様な補正に関しては、前記図5に示した様なマップを用いて、前述した実施の形態の第1例の場合(図4のステップ9−2)と同様にして行う。
【0074】
以上の様な構成を有し、上述の様に動作する本例の無段変速装置の場合には、例えば車両の組立完了後の初期状態時等に於いて、潤滑油の温度に関する学習許可条件が満たされない事により学習制御の実行が禁止された場合に、潤滑油の温度に関する学習許可条件が満たされ学習制御が完了するまでの間、警告灯やブザー等による警報を発する事ができる。この為、運転者等に、潤滑油温度が適正ではない事により学習制御を行えない旨を知らせる事ができて、早急な学習制御の実行を促す事ができる。従って、運転者等は現在の車両の状況を把握する事が可能になり、暖気或いはクーリングを行う等の学習制御の実行に必要な適切な措置を早急に取る事が可能になる。
その他の構成及び作用効果に就いては、上述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0075】
[実施の形態の第3例]
図7は、請求項1〜6に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の特徴は、現在の潤滑油の温度が設定下限温度(GN LOW)よりも低い場合又は設定上限温度(GN HIGH)よりも高い場合に、それ以前に一度も学習制御が完了していない事を条件に、制御器11(図1参照)が有する第五の機能により、学習制御の実行を許可するが、潤滑油の温度が設定下限温度(GN LOW)以上で且つ設定上限温度(GN
HIGH)以下の範囲内に収まった状態で学習制御が完了するまでの間は、警報を発する点にある。その他の構成及び作用効果に就いては、前述した実施の形態の第1例の場合とほぼ同様である為、重複する図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0076】
本例の場合も、前述した実施の形態の第1例及び第2例の場合と同様に、ステップ1で、車両の走行速度が0であるか否かを、ステップ2で、シフトレバーの操作位置が非走行状態に選択されているか否かを、ステップ3で、アクセルペダルが全閉であるか否かを、ステップ4で、エンジン1(図1参照)の回転数が設定上限回転数よりも低いか否かを、ステップ5で、このエンジン1の回転数が設定下限回転数よりも高いか否かを、ステップ6で、イグニッションスイッチ33(図1参照)がオンの状態にあるか否かを、それぞれ判定する。
【0077】
そして、続くステップ7(ステップ7−1、ステップ7−2)で、無段変速装置内に存在する潤滑油の温度が、所定の温度範囲に収まっているか否かを判定する。この判定は、油温センサ29(図1参照)による信号を利用して行う事もできるし、その他の手段により検出した温度を利用して行っても良い。何れにしても、本例の場合には、この様な潤滑油の温度の判定及びその後の制御(バックアップ制御)を、図7に示したフローチャートに従って行う。
【0078】
先ず、ステップ7−1で、無段変速装置内に存在する潤滑油の現在の温度が、ステップ位置に関する学習値を安定して得られる(複数回の学習によって得られる学習値がほぼ一致する)最低温度である、設定下限温度(GN LOW)以上であるか否かを判定する。そして、現在の温度が設定下限温度以上であれば、続くステップ7−2に進む。これに対して、現在の温度が設定下限温度よりも低ければ、ステップ7−2には進まずに、後述するステップ9に進む(尚、上記ステップ1〜6の何れかの学習許可条件が満たされないと判定された場合にも同様にステップ9に進む)。
【0079】
続くステップ7−2では、無段変速装置内に存在する潤滑油の現在の温度が、ステップ位置に関する学習値を安定して得られる(複数回の学習によって得られる学習値がほぼ一致する)最高温度である、設定上限温度(GN HIGH)以下であるか否かを判定する。そして、現在の温度が設定上限温度以下であれば、続くステップ8に進む。これに対して、現在の温度が設定上限温度よりも高ければ、ステップ8には進まずに、後述するステップ9に進む。
【0080】
続くステップ8では、変速比無限大の状態を実現する為のステップ位置に関する学習制御を許可し、学習制御を実行する。具体的な学習制御の方法に関しては、前述した実施の形態の第1例の場合(図4のステップ8−1、8−2)と同様である。
【0081】
これに対して、ステップ9では、これまでに学習制御が一度でも完了しているか否か(以前の学習値が存在するか否か)を判定する。そして、学習制御が一度でも完了していれば、ステップ10に進み、学習制御が一度も完了していない場合には、ステップ11に進む。
【0082】
ステップ10では、学習制御が実行中である場合には実行を中止して、学習制御の実行を禁止する。学習制御が実行中(トロイダル型無段変速機4の変速比を出力軸14の回転速度を0にする状態に調節中)であるか否かの判定は、学習中フラグの有無を確認する事により行い、学習中フラグが立てられていれば(F GN LEARN=1)、トロイダル型無段変速機4の変速比を1.306±0.01の範囲内に調節する為の、ステッピングモータ24(図1参照)の駆動及び判定等の動作を中止する。そして、学習中フラグを下げる(F GN LEARN=1→0)。
【0083】
続くステップ10−1では、ステッピングモータ24のステップ位置を、上記制御器11中に記憶されている直前の学習値(GN SMP=0)に設定する。具体的には、学習制御の実行中ではない状態で学習制御が禁止された場合には、上記ステッピングモータ24のステップ位置は直前の学習値のままである為、このステッピングモータ24は駆動しない。一方、学習制御の実行中に学習制御が中止された場合には、このステッピングモータ24を駆動し、ステップ位置を学習中にカウントしていたステップ量だけ戻す(直前に学習した学習値に戻す)。例えば、学習制御が中止された時点でのステップ位置がGN SMP=+Yであった場合には、上記ステッピングモータ24を−Y分だけ駆動し、ステップ位置を直前の学習値(GN SMP=0)に戻す。
【0084】
そして、ステップ10−2に進み、上記制御器11が有する第四の機能により、上記ステップ10−1で設定された直前の学習値を、現在の潤滑油の温度に応じて補正する(必要に応じて補正する)。この様な補正に関しては、前記図5に示した様なマップを用いて、前述した実施の形態の第1例の場合(図4のステップ9−2)と同様にして行う。
【0085】
これに対して、ステップ9で、学習制御が一度も完了していないと判定された場合(F
GN FINISH=0)には、ステップ11に進む。そして、ステップ11に進んだもののうち、潤滑油の温度に関する学習許可条件以外のステップ1〜6の何れかの学習許可条件が満たされない事により、ステップ9を経由してステップ11に進んだ場合を対象として、車両の発進制御を禁止する。具体的には、上記制御器11から低速クラッチ用電磁弁27及び高速クラッチ用電磁弁28(図2参照)に対して、低速用クラッチ15及び高速用クラッチ16(図2参照)の接続を禁止する(接続を断つ)旨の信号を送り、これら低速用、高速用両クラッチ15、16の接続を断つ。そして、この場合には、学習制御の実行を許可せず(及びステップ10−2での補正は行わず)に、終了に進み、開始に戻る。
【0086】
これに対して、潤滑油の温度に関する学習許可条件(ステップ7−1又はステップ7−2)が満たされない事により、ステップ9を経由してステップ11に進んだ場合には、ステップ11で、上記制御器11が有する第五の機能により、変速比無限大の状態を実現する為のステップ位置に関する学習制御を許可し、学習制御を実行する。即ち、現在の潤滑油の温度に関係なく(低温、高温、常温を問わず)、上述したステップ8の場合と同様に、前記トロイダル型無段変速機4の変速比を、前記出力軸14の回転速度を0にする変速比(ギヤードニュートラル変速比)±α(閾値)の範囲に調節する。そして、この範囲内に調節した時点での、前記ステッピングモータ24のステップ位置(GN SMP)を、変速比無限大の状態を得られる基準位置として学習し、上記制御器11中のメモリに記憶する(GN SMP=REAL SMP=0)。特に、本例の場合には、上記制御器11が有する機能により、潤滑油の温度が設定下限温度(GN LOW)以上で且つ設定上限温度(GN HIGH)以下の範囲内に収まった状態で、学習制御が完了するまで(ステップ7−1及びステップ7−2の条件を満たしてステップ8による学習制御が完了するまで)の間は、警報を発する(ランプの点灯やブザーの発音等のウォーニング、未学習警報を実行する)。
【0087】
そして、ステップ10−2に進み、上記制御器11が有する第六の機能により、ステップ11で学習したステップ位置に関する初期学習値を、現在の潤滑油の温度に応じて補正する。この様な補正に関しても、前記図5に示した様なマップを用いて、前述した実施の形態の第1例の場合(図4のステップ8−2−1)と同様にして行う。尚、本例の場合には、本ステップ10−2で、上記初期学習値を補正した場合にも、潤滑油の温度に関する学習許可条件が満たされた状態で学習制御が完了するまでの間は、警報を発し続ける。
【0088】
以上の様な構成を有し、上述の様に動作する本例の無段変速装置の場合にも、上記制御器11が第五の機能を備える事により、例えば車両の組立完了後の初期状態時やコントローラの交換後等、何らかの理由により学習制御が一度も完了していない(ステップ位置に関する学習値を得られていない)場合に、潤滑油の温度に関係なく、学習制御の実行が可能になる。この為、冬場で潤滑油の温度が低すぎる等、潤滑油の温度に関する学習許可条件(ステップ7−1、7−2)のみが満たされない事に起因して、学習制御の実行が禁止され、変速比制御に移行できなくなる事を防止できる(車両の走行性を確保できる)。
【0089】
又、上記制御器11が第六の機能を備える事により、上記初期学習値を、現在の潤滑油の温度に応じたステップ位置に補正する(ステップ10−2)事ができる為、温度条件が整わないままで求めた初期学習値をそのまま使用する場合に比べて、その信頼性を十分に高くできる。従って、無段変速装置の初期動作時(例えば車両の初期発進時及びそれに続く走行時)等に於ける変速比制御の信頼性を確保できる。
【0090】
更に、本例の場合には、上記制御器11が備える第五及び第六の機能により、初期学習値(補正後の初期学習値)が得られた場合にも、潤滑油の温度が設定下限温度(GN LOW)以上で且つ設定上限温度(GN HIGH)以下の範囲内に収まった状態で、学習制御が完了するまでの間は、警報を発する。この為、車両の運転者に、適正でない温度で学習した初期学習値(或いは補正後の初期学習値)を利用して変速比制御が開始される可能性がある旨を知らせる事ができて、適正な油温での学習制御を早急に実行する事を促す事ができる。従って、車両の運転者は現在の車両の状況を把握する事が可能になり、暖気或いはクーリングを行う等の学習制御の実行に必要な適切な措置を早急に取る事が可能になる。
その他の構成及び作用効果に就いては、前述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【符号の説明】
【0091】
1 エンジン
2 ダンパ
3 入力軸
4 トロイダル型無段変速機
5 押圧装置
6 入力側ディスク
7 パワーローラ
8 出力側ディスク
9 入力側回転センサ
10 出力側回転センサ
11 制御器
12 遊星歯車式変速機
13 クラッチ装置
14 出力軸
15 低速用クラッチ
16 高速用クラッチ
17 出力軸回転センサ
18 オイルポンプ
19 アクチュエータ
20 制御弁装置
21 制御弁
22a、22b 油圧室
23、23a〜23d 油圧センサ
24 ステッピングモータ
25 ローディング圧制御用電磁開閉弁
26 モード切換制御用電磁開閉弁
27 低速用クラッチ用電磁弁
28 高速用クラッチ用電磁弁
29 油温センサ
30 ポジションスイッチ
31 アクセルセンサ
32 ブレーキスイッチ
33 イグニッションスイッチ
34 手動油圧切換弁
35 油溜
36a、36b 調整弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、出力軸と、トロイダル型無段変速機と、複数の歯車を組み合わせて成る歯車式の差動ユニットと、このトロイダル型無段変速機の変速比の変更を制御する為の制御器とを備え、
このトロイダル型無段変速機は、上記差動ユニットの第一の入力部と共に上記入力軸により回転駆動される入力側ディスクと、この入力側ディスクと同心に、且つ、この入力側ディスクに対する相対回転を自在として支持され、上記差動ユニットの第二の入力部に接続された出力側ディスクと、これら両ディスク同士の間に挟持された複数個のパワーローラと、これら各パワーローラを回転自在に支持した複数個の支持部材と、これら各支持部材を変位させて上記入力側ディスクと上記出力側ディスクとの間の変速比を変えるアクチュエータと、この変速比を所望値にする為にこのアクチュエータの変位方向及び変位量を制御する為の制御ユニットとを備えたものであり、
上記差動ユニットは、上記第一、第二の入力部同士の間の速度差に応じた回転を取り出して上記出力軸に伝達するものであり、
上記制御器は、
上記トロイダル型無段変速機の変速比を調節して上記差動ユニットを構成する複数の歯車の相対的変位速度を変化させる事により、上記入力軸を一方向に回転させた状態のまま上記出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転及び逆転に変換する第一の機能と、
上記トロイダル型無段変速機の変速比を算出する第二の機能と、
所定の学習許可条件が満たされている事を条件に、上記出力軸の回転速度が0となる状態に、上記トロイダル型無段変速機の変速比を調節し、この状態での上記制御ユニットを構成する調整部材の位置を、上記入力軸を回転させたまま上記出力軸を停止させられる位置として学習し記憶する、学習制御を行う第三の機能とを有するものである
無段変速装置に於いて、
上記第三の機能による学習制御を実行する為の学習許可条件に、無段変速装置内に存在する潤滑油の温度が設定下限温度よりも高い事を含む
事を特徴とする無段変速装置。
【請求項2】
入力軸と、出力軸と、トロイダル型無段変速機と、複数の歯車を組み合わせて成る歯車式の差動ユニットと、このトロイダル型無段変速機の変速比の変更を制御する為の制御器とを備え、
このトロイダル型無段変速機は、上記差動ユニットの第一の入力部と共に上記入力軸により回転駆動される入力側ディスクと、この入力側ディスクと同心に、且つ、この入力側ディスクに対する相対回転を自在として支持され、上記差動ユニットの第二の入力部に接続された出力側ディスクと、これら両ディスク同士の間に挟持された複数個のパワーローラと、これら各パワーローラを回転自在に支持した複数個の支持部材と、これら各支持部材を変位させて上記入力側ディスクと上記出力側ディスクとの間の変速比を変えるアクチュエータと、この変速比を所望値にする為にこのアクチュエータの変位方向及び変位量を制御する為の制御ユニットとを備えたものであり、
上記差動ユニットは、上記第一、第二の入力部同士の間の速度差に応じた回転を取り出して上記出力軸に伝達するものであり、
上記制御器は、
上記トロイダル型無段変速機の変速比を調節して上記差動ユニットを構成する複数の歯車の相対的変位速度を変化させる事により、上記入力軸を一方向に回転させた状態のまま上記出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転及び逆転に変換する第一の機能と、
上記トロイダル型無段変速機の変速比を算出する第二の機能と、
所定の学習許可条件が満たされている事を条件に、上記出力軸の回転速度が0となる状態に、上記トロイダル型無段変速機の変速比を調節し、この状態での上記制御ユニットを構成する調整部材の位置を、上記入力軸を回転させたまま上記出力軸を停止させられる位置として学習し記憶する、学習制御を行う第三の機能とを有するものである
無段変速装置に於いて、
上記第三の機能による学習制御を実行する為の学習許可条件に、無段変速装置内に存在する潤滑油の温度が設定上限温度よりも低い事を含む
事を特徴とする無段変速装置。
【請求項3】
入力軸と、出力軸と、トロイダル型無段変速機と、複数の歯車を組み合わせて成る歯車式の差動ユニットと、このトロイダル型無段変速機の変速比の変更を制御する為の制御器とを備え、
このトロイダル型無段変速機は、上記差動ユニットの第一の入力部と共に上記入力軸により回転駆動される入力側ディスクと、この入力側ディスクと同心に、且つ、この入力側ディスクに対する相対回転を自在として支持され、上記差動ユニットの第二の入力部に接続された出力側ディスクと、これら両ディスク同士の間に挟持された複数個のパワーローラと、これら各パワーローラを回転自在に支持した複数個の支持部材と、これら各支持部材を変位させて上記入力側ディスクと上記出力側ディスクとの間の変速比を変えるアクチュエータと、この変速比を所望値にする為にこのアクチュエータの変位方向及び変位量を制御する為の制御ユニットとを備えたものであり、
上記差動ユニットは、上記第一、第二の入力部同士の間の速度差に応じた回転を取り出して上記出力軸に伝達するものであり、
上記制御器は、
上記トロイダル型無段変速機の変速比を調節して上記差動ユニットを構成する複数の歯車の相対的変位速度を変化させる事により、上記入力軸を一方向に回転させた状態のまま上記出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転及び逆転に変換する第一の機能と、
上記トロイダル型無段変速機の変速比を算出する第二の機能と、
所定の学習許可条件が満たされている事を条件に、上記出力軸の回転速度が0となる状態に、上記トロイダル型無段変速機の変速比を調節し、この状態での上記制御ユニットを構成する調整部材の位置を、上記入力軸を回転させたまま上記出力軸を停止させられる位置として学習し記憶する、学習制御を行う第三の機能とを有するものである
無段変速装置に於いて、
上記第三の機能による学習制御を実行する為の学習許可条件に、無段変速装置内に存在する潤滑油の温度が設定学習許可温度の範囲内である事を含む
事を特徴とする無段変速装置。
【請求項4】
制御器は、第三の機能による学習制御を実行する為の学習許可条件が満たされていない場合には、それ以前に一度でも学習制御が実行され完了している事を条件に、上記制御器に記憶されている、以前に学習した調整部材の位置を現在の潤滑油の温度に応じて補正する機能を有する、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した無段変速装置。
【請求項5】
制御器は、第三の機能による学習制御を実行する為の学習許可条件のうち、潤滑油の温度に関する学習許可条件以外の全ての学習許可条件が満たされている場合には、それ以前に一度も学習制御が完了していない事を条件に、潤滑油の温度に関する学習許可条件を満たしているか否かに拘わらず、第三の機能に基づく学習制御の実行を許可する機能を有する、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載した無段変速装置。
【請求項6】
制御器は、第三の機能に基づき学習された調整部材の位置を現在の潤滑油の温度に応じて補正する機能を有する、請求項5に記載した無段変速装置。
【請求項7】
制御器は、第三の機能による学習制御を実行する為の学習許可条件のうち、潤滑油の温度に関する学習許可条件が満たされていない事により第三の機能に基づく学習制御の実行が禁止された場合には、それ以前に一度も学習制御が完了していない事を条件に、上記潤滑油の温度に関する学習許可条件が満たされて学習制御が完了するまでの間、警報を発する機能を有する、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載した無段変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−154346(P2012−154346A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11048(P2011−11048)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】