無電解めっき浴およびそれを用いた高温装置部材の製造方法
【課題】Ni基合金の表面に、製品の形状や寸法に拘らず、比較的簡単な方法により、均一な膜厚のRe基合金からなる拡散バリア層を形成する。
【解決手段】この無電解めっき浴は、基材上に50at%以上のReを含むNi−Re−B合金を無電解めっき処理により形成するためのものであって、Ni2+とReO4−をそれぞれ0.01〜0.5mol/Lの範囲で等当量ずつを含む金属供給源成分と、クエン酸と少なくとも一種の他の有機酸を含む錯化剤成分であって、Ni2+とReO4−の合計に対するクエン酸のモル濃度比が1/20〜1/5であり、Ni2+とReO4−の合計に対する前記クエン酸と前記少なくとも一種の他の有機酸の総有機酸量のモル濃度比が1/2〜10である錯化剤成分と、ジメチルアミンボランをNi2+とReO4−の合計に対してモル濃度比で1/4〜2含む還元剤成分とを含み、pHを6〜8に調整したものである。
【解決手段】この無電解めっき浴は、基材上に50at%以上のReを含むNi−Re−B合金を無電解めっき処理により形成するためのものであって、Ni2+とReO4−をそれぞれ0.01〜0.5mol/Lの範囲で等当量ずつを含む金属供給源成分と、クエン酸と少なくとも一種の他の有機酸を含む錯化剤成分であって、Ni2+とReO4−の合計に対するクエン酸のモル濃度比が1/20〜1/5であり、Ni2+とReO4−の合計に対する前記クエン酸と前記少なくとも一種の他の有機酸の総有機酸量のモル濃度比が1/2〜10である錯化剤成分と、ジメチルアミンボランをNi2+とReO4−の合計に対してモル濃度比で1/4〜2含む還元剤成分とを含み、pHを6〜8に調整したものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ガスタービンやジェットエンジン、マイクロガスタービン、エンジン、熱交換器、燃焼器など高温で用いられる高温装置部材の製造方法およびこの製造方法に好適な無電解めっき浴に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ガスタービン翼や、燃焼器などの高温装置部材は、耐熱性および耐食性を向上させるために、表面にコーティングを施して使用する場合が多い。
耐食性を向上させるには、基材(装置部材)に保護性皮膜を形成するためにCrあるいはAlの拡散浸透処理や、高Ni−高Cr合金の溶射などが施されている。しかし、保護性皮膜を有した装置部材の使用される環境が800〜1200℃程度の超高温であると、耐食性に寄与する元素の拡散が著しく速く、反応性も大きいため、安定な保護性皮膜を長時間維持することができない。また、500〜800℃の温度域においても、ClやSなどを含んだ強腐食性環境であると、保護性皮膜を形成するCrやAlなどの元素の消耗速度が大きいため、安定な保護性皮膜を長時間維持することができず、装置寿命が著しく短いことが大きな問題となっている。そのため、現状では、装置の性能を犠牲にして、使用温度を下げることで装置部材の寿命の延伸を図るなどの方策が採られている。
【0003】
一方、近年、耐熱コーティング層の寿命を延伸する技術として“拡散バリア”型のコーティングが提案されている。これは、基材とコーティング層間の元素の相互拡散を抑制して、コーティング層および基材の長期相安定性を実現しようとするものである。
【0004】
例えば、特許文献1では、Re基合金皮膜が拡散バリアとして好適であることが開示されている。すなわち、ガスタービンの動翼や静翼材として用いられるNi基合金の表面に、Reを高い濃度で含む合金皮膜を被覆した後、Niめっきを施し、更にアルミニウム拡散浸透のための熱処理を施すことにより、基材とアルミニウム拡散相の間にReを20at%(原子%)以上含むNi−Cr−Re三元系合金である合金皮膜を形成することが記載されている。
【0005】
特許文献1では、Reを高い濃度で含む合金皮膜をマグネトロンスパッタリング法によって基材表面に被覆している。しかしながら、スパッタリング法または物理蒸着法は、膜厚や組成の制御が容易である一方、a)基材の大きさや形状に制限が多い、b)装置が大掛かりで、操作も複雑である、c)欠陥やき裂の多い皮膜が形成される、などの問題点が有り、実機での使用には向いていない。
【0006】
そこで、これらの欠点が少ない電解めっき法によってReを高濃度で含む合金皮膜を形成する方法が考えられる。めっきの場合には、熱拡散処理によってめっき皮膜の相を安定化する必要があり、相安定化後にReの濃度(20at%以上)を確保するためには、めっき完了時には、最低50at%のReが必要である。そこで、発明者等は、特許文献2において、電解めっき法を用いて合金皮膜中のReの量を、原子組成で98at%まで制御することができる手法を開示した。
【0007】
しかしながら、電解めっき法は、被めっき材の形状に依存して、電流密度分布が変化するので、凸部には電流が集中してめっきが厚くなり、逆に凹部には電流が流れにくくめっきが薄くなってしまう。そのため、例えば、マイクロガスタービンの燃焼器やスルーホールの多いガスタービン翼など、複雑な形状の部材では、めっき膜厚に不均一が生じてしまう。めっき皮膜が厚すぎると、めっき皮膜剥離の原因になり、逆に薄すぎるとコーティング(拡散バリア)としての性能が低下してしまう。この問題を是正するために、従来から電極の配置を工夫したり、補助電極を使用することが行われている。しかしながら、これには試行錯誤を繰り返す必要があり、特殊形状の高価な物品に対して適用するには、多くの費用と時間を費やさなければならない。
【0008】
そこで、このような被めっき材の形状に起因する不均一さがより小さいとされる無電解めっきの採用が考えられる。無電解めっきは、めっき浴中に、めっきする金属イオンのほかに還元剤を添加しておき、還元剤の還元力で目的の金属イオンを還元してめっきを行う方法であるが、溶液中では酸化還元反応が起こらず、被めっき品表面でのみ酸化還元反応が起こるような溶液系でなければならないため、必ずしも全ての化学種に適用できるとは限らない。
【0009】
特許文献3には、表1に示すように、還元剤として次亜リン酸ナトリウム(NaH2PO2)を、錯化剤としてクエン酸を用いためっき浴によって、Ni−47.7at%Re−3.8at%P合金がめっきされたことが記載されている。しかしながら、この技術においては、めっき皮膜中のRe濃度が未だ不十分であるとともに、還元剤として次亜リン酸ナトリウムを使用しているため、めっき皮膜中にリン(P)が取り込まれ、他の元素と低融点の化合物を形成する可能性があるので、耐熱コーティングの形成方法としては好ましくない。
【0010】
【特許文献1】特許第3857689号公報
【特許文献2】特開2003−277972号公報
【特許文献3】特開平4−297001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、Ni基合金の表面に、製品の形状や寸法に拘らず、比較的簡単な方法により、均一な膜厚のRe基合金からなる拡散バリア層を形成することができる無電解めっき浴およびそれを用いた高温装置用部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の無電解めっき浴は、基材上に50at%以上のReを含むNi−Re−B合金を無電解めっき処理により形成するための無電解めっき浴であって、Ni2+とReO4−をそれぞれ0.01〜0.5mol/Lの範囲で等当量ずつを含む金属供給源成分と、クエン酸と少なくとも一種の他の有機酸を含む錯化剤成分であって、Ni2+とReO4−の合計に対するクエン酸のモル濃度比が1/20〜1/5であり、Ni2+とReO4−の合計に対する前記クエン酸と前記少なくとも一種の他の有機酸の総有機酸量のモル濃度比が1/2〜10である錯化剤成分と、ジメチルアミンボランをNi2+とReO4−の合計に対してモル濃度比で1/4〜2含む還元剤成分とを含み、pHを6〜8に調整したことを特徴とする。なお、上記において、「等当量」とは±10%の許容範囲を含むものである。
ここで、少なくとも一種の他の有機酸は、Reに対する錯化力がクエン酸より弱い有機酸とすることができ、例えば、コハク酸、リンゴ酸、乳酸およびグリシンが挙げられる。
【0013】
このめっき浴の特徴は以下の点である。
a)皮膜中にPを含まないように、還元剤として次亜リン酸ナトリウムではなくジメチルアミンボランを用いた。
b)NiおよびReが共析することによってRe析出量を増大させる効果を意図して、Ni及びRe金属成分を等当量とした。
c)クエン酸はReを錯化する力が非常に強く、クエン酸が多いと、ReがNiと共析しにくくなるのではないかと考え、クエン酸の量を減らし、クエン酸の代わりにReに対する錯化力が弱い有機酸を使用した。
【0014】
請求項4に記載の高温装置部材の製造方法は、Ni基合金からなる基材上に、請求項1に記載の無電解めっき浴を用いて温度60〜80℃で無電解めっきを行い、Ni−(50〜60)at%Re−B合金からなるRe含有皮膜を形成する工程と、700℃以上の熱処理を施すことによって基材表面にNi−(20〜50)at%Re−(10〜40)at%Cr−(0.1〜10)at%B系合金からなる拡散バリア層を形成する工程とを有することを特徴とする。
このような構成により、無電解めっきという簡便な方法で、拡散防止機能の高い拡散バリア層を形成することができた。
【0015】
請求項5に記載の高温装置部材の製造方法は、Ni基合金からなる基材上に、請求項1に記載の無電解めっき浴を用いて無電解めっきを行い、Ni−(50〜60)at%Re−B合金からなるRe含有皮膜を形成する工程と、前記Re含有皮膜の上に、少なくとも1層のNi基合金からなる最外皮膜を形成する工程と、700℃以上においてアルミニウム拡散熱処理を施すことによって、基材に近接するNi−(20〜50)at%Re−(10〜40)at%Cr−(0.1〜10)at%B系合金からなる拡散バリア層と、前記拡散バリア層の外側のアルミニウム拡散耐食層とを形成する工程とを有することを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載の高温装置部材の製造方法は、Ni基合金からなる基材上に、請求項1に記載の無電解めっき浴を用いて無電解めっきを行い、Ni−(50〜60)at%Re−B合金からなるRe含有皮膜を形成する工程と、前記Re含有皮膜の形成工程の前又は後に、W供給源となるW含有皮膜を形成する工程と、前記Re含有皮膜および前記W含有皮膜を形成した後に、少なくとも1層のNi基合金からなる最外皮膜を形成する工程と、700℃以上においてアルミニウム拡散熱処理を施すことによって、基材に近接するNi−(20〜50)at%Re−(10〜40)at%Cr−(5〜10)at%W−(0.1〜10)at%B系合金からなる拡散バリア層と、前記拡散バリア層の外側のアルミニウム拡散耐食層とを形成する工程とを有することを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載の高温装置部材の製造方法は、請求項6に記載の発明において、前記W含有皮膜を形成する工程において、Ni2+を0.03〜0.2mol/L、WO42−を0.03〜0.4mol/L、クエン酸あるいはクエン酸ナトリウムを0.03〜0.4mol/L、ジメチルアミンボランを0.03〜0.4mol/L含有し、pHを水酸化ナトリウムで6〜8に調整したNa含有浴を用いて無電解めっきを施すことにより、Ni−(10〜15)at%W−(0.1〜10)at%B皮膜を形成することを特徴とする。
【0018】
上述の高温装置部材の製造方法において、必要に応じて前記Re含有皮膜に対してCr源を供給するための工程を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、Ni基合金の表面に、製品の形状や寸法に拘らず、比較的簡単な方法により、均一な膜厚のRe基合金からなる拡散バリア層を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
図1は、この発明を適用するのに好適なマイクロガスタービンの燃焼器ライナ1の燃料噴射ノズル2を示すもので、これらのノズルは燃焼器ライナの内面から突出して設けられている。燃料噴射ノズル2は、図2に断面を模式的に示すように、パイプ状のNi基合金基材10の内外壁面において、素地表面に、例えば、約7μmの厚さのNi−25at%Re−20at%Cr−8at%W−1at%B系合金からなる拡散バリア層12が形成されており、また拡散バリア層12の外側(表面側)には例えば約20μmのNi−Al(B)合金からなるアルミニウム拡散耐食層14が形成されている。
【0021】
このような燃料噴射ノズルの製造方法を図3を参照して説明する。まず、基材の表面に、無電解めっきを施して、Ni−Re−B系合金からなるRe含有皮膜を形成する(ステップ1)。目標とする拡散バリア層のRe含有量が20at%以上である場合には、皮膜中のRe含有量は50at%以上であることが望ましい。また、Re含有皮膜の厚さは、3〜10μm、好ましくは5〜8μmである。このRe含有皮膜は熱処理後に拡散バリア層となるが、3μm未満では、拡散バリア層の拡散防止能が小さくてこれを挿入する効果がでない。一方、Re含有皮膜の厚さが10μmより厚いと、割れやすく、実際の使用を考えた場合不都合が出る。Re含有皮膜の厚さが5〜8μmでは、拡散バリア層の拡散防止能、耐割れ性共に良好となる。
【0022】
次に、Re含有皮膜に無電解めっきを施して、Wを10〜15at%含むNi−W−B系合金からなるW含有皮膜を形成する(ステップ2)。W含有皮膜の厚さは、3〜10μm、好ましくは5〜8μmである。そして相安定化のための熱処理を例えば1100℃で4時間行い(ステップ3)、さらに、従来のNi−Bめっきを施して、厚さ10〜50μm、好ましくは15〜30μmの最外皮膜を形成する(ステップ4)。その後、皮膜を形成したノズル基材を処理容器に入れ、Al+Al2O3+NH4Cl粉末で被覆し、Ar不活性雰囲気中で、例えば850℃で4時間Al拡散浸透処理を施す(ステップ5)。これにより、基材の表面に拡散バリア層とアルミニウム拡散耐食層が形成されたノズルが製造される(ステップ6)。このように形成された拡散バリア層とアルミニウム拡散耐食層の厚さは、燃料噴射ノズルの内外面で均等である。
【0023】
Re含有皮膜を形成するために用いた無電解めっき浴は、Ni2+とReO4−をそれぞれ0.01〜0.5mol/Lの範囲で等当量ずつを含む金属供給源成分と、クエン酸と少なくとも一種の他の有機酸を含む錯化剤成分であって、Ni2+とReO4−の合計に対するクエン酸のモル濃度比が1/20〜1/5であり、Ni2+とReO4−の合計に対する前記クエン酸と前記少なくとも一種の他の有機酸の総有機酸量のモル濃度比が1/2〜10である錯化剤成分と、ジメチルアミンボランをNi2+とReO4−の合計に対してモル濃度比で1/4〜2含む還元剤成分とを含み、pHを6〜8に調整したものである。また、W含有皮膜を形成するために用いた無電解めっき浴は、Ni2+を0.03〜0.2mol/L、WO42−を0.03〜0.4mol/L、クエン酸あるいはクエン酸ナトリウムを0.03〜0.4mol/L、ジメチルアミンボランを0.03〜0.4mol/L含有し、めっき浴のpHを水酸化ナトリウムで6〜8に調整したものである。
【0024】
以下、Re含有皮膜を形成するための無電解めっき方法について詳しく説明する。
本発明の無電解めっき浴の組成を表1に、特許文献3の無電解めっき浴と比較して示す。
本発明の無電解めっき浴の特徴点は以下の通りである。
a)皮膜中にPを含まないように、還元剤として次亜リン酸ナトリウムではなくジメチルアミンボランを用いた。
b)NiおよびReが共析することによってRe析出量を増大させる効果を意図して、Ni及びRe金属成分を等当量とした。
c)クエン酸はReを錯化する力が非常に強く、クエン酸が多いと、ReがNiと共析しにくくなるのではないかと考え、クエン酸の量を減らし、クエン酸の代わりにReに対する錯化力が弱い有機酸を使用した。
【0025】
【表1】
【実施例】
【0026】
この発明の無電解めっき浴を用いてNi基合金基材にRe含有皮膜を形成した実施例について、比較例とともに、表2を参照しつつ説明する。表2に示すように、実施例1〜3においては、NiおよびReの濃度を0.05〜0.1mol/Lの範囲で変え、クエン酸のNiおよびReの総量に対するモル濃度比(以下、「クエン酸比」と言う。)は1/10とした。比較例1ではNi量(モル濃度)をRe量の1/10に、クエン酸比は1/5.5にした。比較例2では錯化剤としてクエン酸のみを用い、クエン酸比を1とした。比較例4はクエン酸比を1/4とした。なお、比較例5は、特許文献3の成分のうち還元剤を次亜リン酸ナトリウムからジメチルアミンボランに変えたもので、クエン酸比は約4で、浴温度が90℃と高い。
【0027】
実施例及び比較例において形成された皮膜の組成を、試料の断面のEPMA(電子線プローブマイクロアナリシス)によって測定した。結果を表2にまとめて示す。実施例1〜3ではいずれもReを50at%以上含む皮膜が形成された。一方、比較例1では析出が起こらず、比較例2,3ではReを含まない皮膜が形成され、比較例4ではReを25at%含む皮膜が形成された。比較例5では、Reを29at%含む皮膜が形成されたが、浴温が高いために、浴の減量が多かった。
【0028】
次に、実施例1のめっき浴を用いて、基材に図3で説明した工程を以下の条件で施し、最終製品とした(製品実施例1)。
(ステップ1)実施例1のNi−Re−Bめっき浴を用いてNi−Re−Bめっきを10μm
(ステップ2)Ni−12at%W−Bめっきを8μm
(ステップ3)真空中、1100℃×4時間の熱処理
(ステップ4)Ni−Bめっきを30μm
(ステップ5)Al+Al2O3+NH4Cl混合粉末中、850℃×4時間のAl拡散処理
【0029】
また、実施例1のめっき浴を用いて、基材に図4の工程を以下の条件で施し、最終製品とした(製品実施例2)。図4の工程は、図3のステップ2(10〜50μm膜厚のW含有皮膜形成)とステップ4(最外皮膜形成)を一体化することにより、ステップ3(相安定化熱処理)とステップ4を省いたものである。
(ステップ1)実施例1のNi−Re−Bめっき浴を用いてNi−Re−Bめっきを8μm
(ステップ2)Ni−12at%W−Bめっきを30μm
(ステップ3)Al+Al2O3+NH4Cl混合粉末中、1000℃×2時間のAl拡散処理
【0030】
これらの製品実施例1および製品実施例2の断面のSEM(走査電子顕微鏡)写真を図5および図6に示す。図5および図6に示すように、いずれの場合も、均一な厚さの拡散バリア層とAl拡散耐食層が得られている。また、図5に示すように、製品の角部においても、層は均一である。各層の組成を表3に示す。
また、製品比較例として、基材表面にNi−70at%Re合金皮膜を電解めっき法により形成し、その上にNi電気めっきを施してNiめっき層を形成したものの断面のSEM写真を、図7に示す。図7に示すように、角部で、めっき層が厚くなっていることが分かる。
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
以上、この発明を実施例に即して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に、熱処理を含めた各層の形成の工程は、図3,および図4に限られるものではないので、以下に説明する。拡散バリア層およびAl拡散耐食層を形成するための本発明の方法は、以下の工程要素のいくつか又は全てを含むことができる。
(工程要素1)Reの供給:Ni−Re−Bめっき浴による無電解めっき(厚さ:3〜10μm、好ましくは5〜8μm)
(工程要素2)Wの供給:Ni−W−Bめっき浴による無電解めっき(厚さ:3〜10μm、好ましくは5〜8μm)
(工程要素3)Crの供給
(a)合金素地からのCr拡散
(不活性あるいは還元性ガス中で熱処理:700〜1300℃×1〜10h、好ましくは1000〜1200℃×2〜4h)
(b)Cr蒸気拡散処理(700〜1300℃×1〜10h、好ましくは1000〜1200℃×2〜4h)
(工程要素4)Niの供給:Ni−B無電解めっき(厚さ:10〜50μm、好ましくは15〜30μm)
(工程要素5)Alの供給:Al蒸気拡散処理(700〜1300℃×1〜10h、好ましくは900〜1000℃×2〜4h)
【0034】
これらの工程要素を適宜に組み合わせることで、本発明の目的が達成される。
例えば、下記、1〜9の(いずれかの)方法で拡散バリア層およびAl拡散耐食層を形成することが可能である。
工程1:(1)→(2)→(3)−(a)→(4)→(5)
工程2:(1)→(2)→(3)−(b)→(4)→(5)
工程3:(1)→(2)→(4)→(5)
工程4:(1)→(3)−(b)→(4)→(5)
工程5:(1)→(4)→(5)
工程6:(1)→(2)→(5)
工程7:(2)→(1)→(3)−(a)→(4)→(5)
工程8:(2)→(1)→(3)−(b)→(4)→(5)
工程9:(2)→(1)→(4)→(5)
【0035】
すなわち、本発明のプロセスでは、熱処理によってAl拡散耐食層を形成する際に拡散バリア層ができれば良いので、拡散バリア層への成分供給源がどこにあるかは問わない。なお、Al拡散処理後の膜厚はいずれも、拡散バリア層が3〜20μm、好ましくは5〜10μmであり、Al拡散耐食層が10〜50μm、好ましくは15〜30μmである。また、図3の方法は、上の工程1に該当し、図4の方法は、上の工程6に該当する。
【0036】
上記の各工程によって、概略、以下の表4に示すような組成の拡散バリア層とAl拡散耐食層が形成される。
【表4】
【0037】
なお、本発明を適用するのに好適な高温装置部材として、図8〜図11に示すようなガスタービンの動翼や静翼が有る。製造工程は先に説明したものと同様であるので説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態であるマイクロガスタービン燃焼器の燃料噴射ノズルの斜視図である。
【図2】図1のマイクロガスタービン燃焼器の燃料噴射ノズルの断面図である。
【図3】本発明の高温装置部材の製造方法の実施の形態を示す図である。
【図4】本発明の高温装置部材の製造方法の他の実施の形態を示す図である。
【図5】本発明の高温装置部材の製造方法による製品実施例1の断面組織を示すSEM写真図である。
【図6】本発明の高温装置部材の製造方法による製品実施例2の断面組織を示すSEM写真図である。
【図7】製品比較例の断面組織を示すSEM写真図である。
【図8】本発明の実施の形態であるガスタービン動翼の斜視図である。
【図9】図8のガスタービン動翼の断面図である。
【図10】本発明の実施の形態であるガスタービン静翼の斜視図である。
【図11】図10のガスタービン静翼のA−A断面を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 燃焼器ライナ
2 燃料噴射ノズル
10 基材
12 拡散バリア層
14 アルミニウム拡散耐食層
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ガスタービンやジェットエンジン、マイクロガスタービン、エンジン、熱交換器、燃焼器など高温で用いられる高温装置部材の製造方法およびこの製造方法に好適な無電解めっき浴に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ガスタービン翼や、燃焼器などの高温装置部材は、耐熱性および耐食性を向上させるために、表面にコーティングを施して使用する場合が多い。
耐食性を向上させるには、基材(装置部材)に保護性皮膜を形成するためにCrあるいはAlの拡散浸透処理や、高Ni−高Cr合金の溶射などが施されている。しかし、保護性皮膜を有した装置部材の使用される環境が800〜1200℃程度の超高温であると、耐食性に寄与する元素の拡散が著しく速く、反応性も大きいため、安定な保護性皮膜を長時間維持することができない。また、500〜800℃の温度域においても、ClやSなどを含んだ強腐食性環境であると、保護性皮膜を形成するCrやAlなどの元素の消耗速度が大きいため、安定な保護性皮膜を長時間維持することができず、装置寿命が著しく短いことが大きな問題となっている。そのため、現状では、装置の性能を犠牲にして、使用温度を下げることで装置部材の寿命の延伸を図るなどの方策が採られている。
【0003】
一方、近年、耐熱コーティング層の寿命を延伸する技術として“拡散バリア”型のコーティングが提案されている。これは、基材とコーティング層間の元素の相互拡散を抑制して、コーティング層および基材の長期相安定性を実現しようとするものである。
【0004】
例えば、特許文献1では、Re基合金皮膜が拡散バリアとして好適であることが開示されている。すなわち、ガスタービンの動翼や静翼材として用いられるNi基合金の表面に、Reを高い濃度で含む合金皮膜を被覆した後、Niめっきを施し、更にアルミニウム拡散浸透のための熱処理を施すことにより、基材とアルミニウム拡散相の間にReを20at%(原子%)以上含むNi−Cr−Re三元系合金である合金皮膜を形成することが記載されている。
【0005】
特許文献1では、Reを高い濃度で含む合金皮膜をマグネトロンスパッタリング法によって基材表面に被覆している。しかしながら、スパッタリング法または物理蒸着法は、膜厚や組成の制御が容易である一方、a)基材の大きさや形状に制限が多い、b)装置が大掛かりで、操作も複雑である、c)欠陥やき裂の多い皮膜が形成される、などの問題点が有り、実機での使用には向いていない。
【0006】
そこで、これらの欠点が少ない電解めっき法によってReを高濃度で含む合金皮膜を形成する方法が考えられる。めっきの場合には、熱拡散処理によってめっき皮膜の相を安定化する必要があり、相安定化後にReの濃度(20at%以上)を確保するためには、めっき完了時には、最低50at%のReが必要である。そこで、発明者等は、特許文献2において、電解めっき法を用いて合金皮膜中のReの量を、原子組成で98at%まで制御することができる手法を開示した。
【0007】
しかしながら、電解めっき法は、被めっき材の形状に依存して、電流密度分布が変化するので、凸部には電流が集中してめっきが厚くなり、逆に凹部には電流が流れにくくめっきが薄くなってしまう。そのため、例えば、マイクロガスタービンの燃焼器やスルーホールの多いガスタービン翼など、複雑な形状の部材では、めっき膜厚に不均一が生じてしまう。めっき皮膜が厚すぎると、めっき皮膜剥離の原因になり、逆に薄すぎるとコーティング(拡散バリア)としての性能が低下してしまう。この問題を是正するために、従来から電極の配置を工夫したり、補助電極を使用することが行われている。しかしながら、これには試行錯誤を繰り返す必要があり、特殊形状の高価な物品に対して適用するには、多くの費用と時間を費やさなければならない。
【0008】
そこで、このような被めっき材の形状に起因する不均一さがより小さいとされる無電解めっきの採用が考えられる。無電解めっきは、めっき浴中に、めっきする金属イオンのほかに還元剤を添加しておき、還元剤の還元力で目的の金属イオンを還元してめっきを行う方法であるが、溶液中では酸化還元反応が起こらず、被めっき品表面でのみ酸化還元反応が起こるような溶液系でなければならないため、必ずしも全ての化学種に適用できるとは限らない。
【0009】
特許文献3には、表1に示すように、還元剤として次亜リン酸ナトリウム(NaH2PO2)を、錯化剤としてクエン酸を用いためっき浴によって、Ni−47.7at%Re−3.8at%P合金がめっきされたことが記載されている。しかしながら、この技術においては、めっき皮膜中のRe濃度が未だ不十分であるとともに、還元剤として次亜リン酸ナトリウムを使用しているため、めっき皮膜中にリン(P)が取り込まれ、他の元素と低融点の化合物を形成する可能性があるので、耐熱コーティングの形成方法としては好ましくない。
【0010】
【特許文献1】特許第3857689号公報
【特許文献2】特開2003−277972号公報
【特許文献3】特開平4−297001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、Ni基合金の表面に、製品の形状や寸法に拘らず、比較的簡単な方法により、均一な膜厚のRe基合金からなる拡散バリア層を形成することができる無電解めっき浴およびそれを用いた高温装置用部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の無電解めっき浴は、基材上に50at%以上のReを含むNi−Re−B合金を無電解めっき処理により形成するための無電解めっき浴であって、Ni2+とReO4−をそれぞれ0.01〜0.5mol/Lの範囲で等当量ずつを含む金属供給源成分と、クエン酸と少なくとも一種の他の有機酸を含む錯化剤成分であって、Ni2+とReO4−の合計に対するクエン酸のモル濃度比が1/20〜1/5であり、Ni2+とReO4−の合計に対する前記クエン酸と前記少なくとも一種の他の有機酸の総有機酸量のモル濃度比が1/2〜10である錯化剤成分と、ジメチルアミンボランをNi2+とReO4−の合計に対してモル濃度比で1/4〜2含む還元剤成分とを含み、pHを6〜8に調整したことを特徴とする。なお、上記において、「等当量」とは±10%の許容範囲を含むものである。
ここで、少なくとも一種の他の有機酸は、Reに対する錯化力がクエン酸より弱い有機酸とすることができ、例えば、コハク酸、リンゴ酸、乳酸およびグリシンが挙げられる。
【0013】
このめっき浴の特徴は以下の点である。
a)皮膜中にPを含まないように、還元剤として次亜リン酸ナトリウムではなくジメチルアミンボランを用いた。
b)NiおよびReが共析することによってRe析出量を増大させる効果を意図して、Ni及びRe金属成分を等当量とした。
c)クエン酸はReを錯化する力が非常に強く、クエン酸が多いと、ReがNiと共析しにくくなるのではないかと考え、クエン酸の量を減らし、クエン酸の代わりにReに対する錯化力が弱い有機酸を使用した。
【0014】
請求項4に記載の高温装置部材の製造方法は、Ni基合金からなる基材上に、請求項1に記載の無電解めっき浴を用いて温度60〜80℃で無電解めっきを行い、Ni−(50〜60)at%Re−B合金からなるRe含有皮膜を形成する工程と、700℃以上の熱処理を施すことによって基材表面にNi−(20〜50)at%Re−(10〜40)at%Cr−(0.1〜10)at%B系合金からなる拡散バリア層を形成する工程とを有することを特徴とする。
このような構成により、無電解めっきという簡便な方法で、拡散防止機能の高い拡散バリア層を形成することができた。
【0015】
請求項5に記載の高温装置部材の製造方法は、Ni基合金からなる基材上に、請求項1に記載の無電解めっき浴を用いて無電解めっきを行い、Ni−(50〜60)at%Re−B合金からなるRe含有皮膜を形成する工程と、前記Re含有皮膜の上に、少なくとも1層のNi基合金からなる最外皮膜を形成する工程と、700℃以上においてアルミニウム拡散熱処理を施すことによって、基材に近接するNi−(20〜50)at%Re−(10〜40)at%Cr−(0.1〜10)at%B系合金からなる拡散バリア層と、前記拡散バリア層の外側のアルミニウム拡散耐食層とを形成する工程とを有することを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載の高温装置部材の製造方法は、Ni基合金からなる基材上に、請求項1に記載の無電解めっき浴を用いて無電解めっきを行い、Ni−(50〜60)at%Re−B合金からなるRe含有皮膜を形成する工程と、前記Re含有皮膜の形成工程の前又は後に、W供給源となるW含有皮膜を形成する工程と、前記Re含有皮膜および前記W含有皮膜を形成した後に、少なくとも1層のNi基合金からなる最外皮膜を形成する工程と、700℃以上においてアルミニウム拡散熱処理を施すことによって、基材に近接するNi−(20〜50)at%Re−(10〜40)at%Cr−(5〜10)at%W−(0.1〜10)at%B系合金からなる拡散バリア層と、前記拡散バリア層の外側のアルミニウム拡散耐食層とを形成する工程とを有することを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載の高温装置部材の製造方法は、請求項6に記載の発明において、前記W含有皮膜を形成する工程において、Ni2+を0.03〜0.2mol/L、WO42−を0.03〜0.4mol/L、クエン酸あるいはクエン酸ナトリウムを0.03〜0.4mol/L、ジメチルアミンボランを0.03〜0.4mol/L含有し、pHを水酸化ナトリウムで6〜8に調整したNa含有浴を用いて無電解めっきを施すことにより、Ni−(10〜15)at%W−(0.1〜10)at%B皮膜を形成することを特徴とする。
【0018】
上述の高温装置部材の製造方法において、必要に応じて前記Re含有皮膜に対してCr源を供給するための工程を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、Ni基合金の表面に、製品の形状や寸法に拘らず、比較的簡単な方法により、均一な膜厚のRe基合金からなる拡散バリア層を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
図1は、この発明を適用するのに好適なマイクロガスタービンの燃焼器ライナ1の燃料噴射ノズル2を示すもので、これらのノズルは燃焼器ライナの内面から突出して設けられている。燃料噴射ノズル2は、図2に断面を模式的に示すように、パイプ状のNi基合金基材10の内外壁面において、素地表面に、例えば、約7μmの厚さのNi−25at%Re−20at%Cr−8at%W−1at%B系合金からなる拡散バリア層12が形成されており、また拡散バリア層12の外側(表面側)には例えば約20μmのNi−Al(B)合金からなるアルミニウム拡散耐食層14が形成されている。
【0021】
このような燃料噴射ノズルの製造方法を図3を参照して説明する。まず、基材の表面に、無電解めっきを施して、Ni−Re−B系合金からなるRe含有皮膜を形成する(ステップ1)。目標とする拡散バリア層のRe含有量が20at%以上である場合には、皮膜中のRe含有量は50at%以上であることが望ましい。また、Re含有皮膜の厚さは、3〜10μm、好ましくは5〜8μmである。このRe含有皮膜は熱処理後に拡散バリア層となるが、3μm未満では、拡散バリア層の拡散防止能が小さくてこれを挿入する効果がでない。一方、Re含有皮膜の厚さが10μmより厚いと、割れやすく、実際の使用を考えた場合不都合が出る。Re含有皮膜の厚さが5〜8μmでは、拡散バリア層の拡散防止能、耐割れ性共に良好となる。
【0022】
次に、Re含有皮膜に無電解めっきを施して、Wを10〜15at%含むNi−W−B系合金からなるW含有皮膜を形成する(ステップ2)。W含有皮膜の厚さは、3〜10μm、好ましくは5〜8μmである。そして相安定化のための熱処理を例えば1100℃で4時間行い(ステップ3)、さらに、従来のNi−Bめっきを施して、厚さ10〜50μm、好ましくは15〜30μmの最外皮膜を形成する(ステップ4)。その後、皮膜を形成したノズル基材を処理容器に入れ、Al+Al2O3+NH4Cl粉末で被覆し、Ar不活性雰囲気中で、例えば850℃で4時間Al拡散浸透処理を施す(ステップ5)。これにより、基材の表面に拡散バリア層とアルミニウム拡散耐食層が形成されたノズルが製造される(ステップ6)。このように形成された拡散バリア層とアルミニウム拡散耐食層の厚さは、燃料噴射ノズルの内外面で均等である。
【0023】
Re含有皮膜を形成するために用いた無電解めっき浴は、Ni2+とReO4−をそれぞれ0.01〜0.5mol/Lの範囲で等当量ずつを含む金属供給源成分と、クエン酸と少なくとも一種の他の有機酸を含む錯化剤成分であって、Ni2+とReO4−の合計に対するクエン酸のモル濃度比が1/20〜1/5であり、Ni2+とReO4−の合計に対する前記クエン酸と前記少なくとも一種の他の有機酸の総有機酸量のモル濃度比が1/2〜10である錯化剤成分と、ジメチルアミンボランをNi2+とReO4−の合計に対してモル濃度比で1/4〜2含む還元剤成分とを含み、pHを6〜8に調整したものである。また、W含有皮膜を形成するために用いた無電解めっき浴は、Ni2+を0.03〜0.2mol/L、WO42−を0.03〜0.4mol/L、クエン酸あるいはクエン酸ナトリウムを0.03〜0.4mol/L、ジメチルアミンボランを0.03〜0.4mol/L含有し、めっき浴のpHを水酸化ナトリウムで6〜8に調整したものである。
【0024】
以下、Re含有皮膜を形成するための無電解めっき方法について詳しく説明する。
本発明の無電解めっき浴の組成を表1に、特許文献3の無電解めっき浴と比較して示す。
本発明の無電解めっき浴の特徴点は以下の通りである。
a)皮膜中にPを含まないように、還元剤として次亜リン酸ナトリウムではなくジメチルアミンボランを用いた。
b)NiおよびReが共析することによってRe析出量を増大させる効果を意図して、Ni及びRe金属成分を等当量とした。
c)クエン酸はReを錯化する力が非常に強く、クエン酸が多いと、ReがNiと共析しにくくなるのではないかと考え、クエン酸の量を減らし、クエン酸の代わりにReに対する錯化力が弱い有機酸を使用した。
【0025】
【表1】
【実施例】
【0026】
この発明の無電解めっき浴を用いてNi基合金基材にRe含有皮膜を形成した実施例について、比較例とともに、表2を参照しつつ説明する。表2に示すように、実施例1〜3においては、NiおよびReの濃度を0.05〜0.1mol/Lの範囲で変え、クエン酸のNiおよびReの総量に対するモル濃度比(以下、「クエン酸比」と言う。)は1/10とした。比較例1ではNi量(モル濃度)をRe量の1/10に、クエン酸比は1/5.5にした。比較例2では錯化剤としてクエン酸のみを用い、クエン酸比を1とした。比較例4はクエン酸比を1/4とした。なお、比較例5は、特許文献3の成分のうち還元剤を次亜リン酸ナトリウムからジメチルアミンボランに変えたもので、クエン酸比は約4で、浴温度が90℃と高い。
【0027】
実施例及び比較例において形成された皮膜の組成を、試料の断面のEPMA(電子線プローブマイクロアナリシス)によって測定した。結果を表2にまとめて示す。実施例1〜3ではいずれもReを50at%以上含む皮膜が形成された。一方、比較例1では析出が起こらず、比較例2,3ではReを含まない皮膜が形成され、比較例4ではReを25at%含む皮膜が形成された。比較例5では、Reを29at%含む皮膜が形成されたが、浴温が高いために、浴の減量が多かった。
【0028】
次に、実施例1のめっき浴を用いて、基材に図3で説明した工程を以下の条件で施し、最終製品とした(製品実施例1)。
(ステップ1)実施例1のNi−Re−Bめっき浴を用いてNi−Re−Bめっきを10μm
(ステップ2)Ni−12at%W−Bめっきを8μm
(ステップ3)真空中、1100℃×4時間の熱処理
(ステップ4)Ni−Bめっきを30μm
(ステップ5)Al+Al2O3+NH4Cl混合粉末中、850℃×4時間のAl拡散処理
【0029】
また、実施例1のめっき浴を用いて、基材に図4の工程を以下の条件で施し、最終製品とした(製品実施例2)。図4の工程は、図3のステップ2(10〜50μm膜厚のW含有皮膜形成)とステップ4(最外皮膜形成)を一体化することにより、ステップ3(相安定化熱処理)とステップ4を省いたものである。
(ステップ1)実施例1のNi−Re−Bめっき浴を用いてNi−Re−Bめっきを8μm
(ステップ2)Ni−12at%W−Bめっきを30μm
(ステップ3)Al+Al2O3+NH4Cl混合粉末中、1000℃×2時間のAl拡散処理
【0030】
これらの製品実施例1および製品実施例2の断面のSEM(走査電子顕微鏡)写真を図5および図6に示す。図5および図6に示すように、いずれの場合も、均一な厚さの拡散バリア層とAl拡散耐食層が得られている。また、図5に示すように、製品の角部においても、層は均一である。各層の組成を表3に示す。
また、製品比較例として、基材表面にNi−70at%Re合金皮膜を電解めっき法により形成し、その上にNi電気めっきを施してNiめっき層を形成したものの断面のSEM写真を、図7に示す。図7に示すように、角部で、めっき層が厚くなっていることが分かる。
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
以上、この発明を実施例に即して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に、熱処理を含めた各層の形成の工程は、図3,および図4に限られるものではないので、以下に説明する。拡散バリア層およびAl拡散耐食層を形成するための本発明の方法は、以下の工程要素のいくつか又は全てを含むことができる。
(工程要素1)Reの供給:Ni−Re−Bめっき浴による無電解めっき(厚さ:3〜10μm、好ましくは5〜8μm)
(工程要素2)Wの供給:Ni−W−Bめっき浴による無電解めっき(厚さ:3〜10μm、好ましくは5〜8μm)
(工程要素3)Crの供給
(a)合金素地からのCr拡散
(不活性あるいは還元性ガス中で熱処理:700〜1300℃×1〜10h、好ましくは1000〜1200℃×2〜4h)
(b)Cr蒸気拡散処理(700〜1300℃×1〜10h、好ましくは1000〜1200℃×2〜4h)
(工程要素4)Niの供給:Ni−B無電解めっき(厚さ:10〜50μm、好ましくは15〜30μm)
(工程要素5)Alの供給:Al蒸気拡散処理(700〜1300℃×1〜10h、好ましくは900〜1000℃×2〜4h)
【0034】
これらの工程要素を適宜に組み合わせることで、本発明の目的が達成される。
例えば、下記、1〜9の(いずれかの)方法で拡散バリア層およびAl拡散耐食層を形成することが可能である。
工程1:(1)→(2)→(3)−(a)→(4)→(5)
工程2:(1)→(2)→(3)−(b)→(4)→(5)
工程3:(1)→(2)→(4)→(5)
工程4:(1)→(3)−(b)→(4)→(5)
工程5:(1)→(4)→(5)
工程6:(1)→(2)→(5)
工程7:(2)→(1)→(3)−(a)→(4)→(5)
工程8:(2)→(1)→(3)−(b)→(4)→(5)
工程9:(2)→(1)→(4)→(5)
【0035】
すなわち、本発明のプロセスでは、熱処理によってAl拡散耐食層を形成する際に拡散バリア層ができれば良いので、拡散バリア層への成分供給源がどこにあるかは問わない。なお、Al拡散処理後の膜厚はいずれも、拡散バリア層が3〜20μm、好ましくは5〜10μmであり、Al拡散耐食層が10〜50μm、好ましくは15〜30μmである。また、図3の方法は、上の工程1に該当し、図4の方法は、上の工程6に該当する。
【0036】
上記の各工程によって、概略、以下の表4に示すような組成の拡散バリア層とAl拡散耐食層が形成される。
【表4】
【0037】
なお、本発明を適用するのに好適な高温装置部材として、図8〜図11に示すようなガスタービンの動翼や静翼が有る。製造工程は先に説明したものと同様であるので説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態であるマイクロガスタービン燃焼器の燃料噴射ノズルの斜視図である。
【図2】図1のマイクロガスタービン燃焼器の燃料噴射ノズルの断面図である。
【図3】本発明の高温装置部材の製造方法の実施の形態を示す図である。
【図4】本発明の高温装置部材の製造方法の他の実施の形態を示す図である。
【図5】本発明の高温装置部材の製造方法による製品実施例1の断面組織を示すSEM写真図である。
【図6】本発明の高温装置部材の製造方法による製品実施例2の断面組織を示すSEM写真図である。
【図7】製品比較例の断面組織を示すSEM写真図である。
【図8】本発明の実施の形態であるガスタービン動翼の斜視図である。
【図9】図8のガスタービン動翼の断面図である。
【図10】本発明の実施の形態であるガスタービン静翼の斜視図である。
【図11】図10のガスタービン静翼のA−A断面を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 燃焼器ライナ
2 燃料噴射ノズル
10 基材
12 拡散バリア層
14 アルミニウム拡散耐食層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に50at%以上のReを含むNi−Re−B合金を無電解めっき処理により形成するための無電解めっき浴であって、
Ni2+とReO4−をそれぞれ0.01〜0.5mol/Lの範囲で等当量ずつを含む金属供給源成分と、クエン酸と少なくとも一種の他の有機酸を含む錯化剤成分であって、Ni2+とReO4−の合計に対するクエン酸のモル濃度比が1/20〜1/5であり、Ni2+とReO4−の合計に対する前記クエン酸と前記少なくとも一種の他の有機酸の総有機酸量のモル濃度比が1/2〜10である錯化剤成分と、ジメチルアミンボランをNi2+とReO4−の合計に対してモル濃度比で1/4〜2含む還元剤成分とを含み、pHを6〜8に調整したことを特徴とする無電解めっき浴。
【請求項2】
前記少なくとも一種の他の有機酸は、Reに対する錯化力がクエン酸より弱い有機酸である請求項1記載の無電解めっき浴。
【請求項3】
前記Reに対する錯化力がクエン酸より弱い有機酸は、コハク酸、リンゴ酸、乳酸およびグリシンのうち少なくとも一つからなる請求項2記載の無電解めっき浴。
【請求項4】
Ni基合金からなる基材上に、請求項1に記載の無電解めっき浴を用いて温度60〜80℃で無電解めっきを行い、Ni−(50〜60)at%Re−B合金からなるRe含有皮膜を形成する工程と、700℃以上の熱処理を施すことによって基材表面にNi−(20〜50)at%Re−(10〜40)at%Cr−(0.1〜10)at%B系合金からなる拡散バリア層を形成する工程とを有することを特徴とする高温装置部材の製造方法。
【請求項5】
Ni基合金からなる基材上に、請求項1に記載の無電解めっき浴を用いて無電解めっきを行い、Ni−(50〜60)at%Re−B合金からなるRe含有皮膜を形成する工程と、前記Re含有皮膜の上に、少なくとも1層のNi基合金からなる最外皮膜を形成する工程と、700℃以上においてアルミニウム拡散熱処理を施すことによって、基材に近接するNi−(20〜50)at%Re−(10〜40)at%Cr−(0.1〜10)at%B系合金からなる拡散バリア層と、前記拡散バリア層の外側のアルミニウム拡散耐食層とを形成する工程とを有することを特徴とする高温装置部材の製造方法。
【請求項6】
Ni基合金からなる基材上に、請求項1に記載の無電解めっき浴を用いて無電解めっきを行い、Ni−(50〜60)at%Re−B合金からなるRe含有皮膜を形成する工程と、前記Re含有皮膜の形成工程の前又は後に、W供給源となるW含有皮膜を形成する工程と、前記Re含有皮膜および前記W含有皮膜を形成した後に、少なくとも1層のNi基合金からなる最外皮膜を形成する工程と、700℃以上においてアルミニウム拡散熱処理を施すことによって、基材に近接するNi−(20〜50)at%Re−(10〜40)at%Cr−(5〜10)at%W−(0.1〜10)at%B系合金からなる拡散バリア層と、前記拡散バリア層の外側のアルミニウム拡散耐食層とを形成する工程とを有することを特徴とする高温装置部材の製造方法。
【請求項7】
前記W含有皮膜を形成する工程において、Ni2+を0.03〜0.2mol/L、WO42−を0.03〜0.4mol/L、クエン酸あるいはクエン酸ナトリウムを0.03〜0.4mol/L、ジメチルアミンボランを0.03〜0.4mol/L含有し、pHを水酸化ナトリウムで6〜8に調整したNa含有浴を用いて無電解めっきを施すことにより、Ni−(10〜15)at%W−(0.1〜10)at%B皮膜を形成することを特徴とする請求項6に記載の高温装置部材の製造方法。
【請求項8】
必要に応じて前記Re含有皮膜に対してCr源を供給するための工程を行うことを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれかに記載の高温装置部材の製造方法。
【請求項1】
基材上に50at%以上のReを含むNi−Re−B合金を無電解めっき処理により形成するための無電解めっき浴であって、
Ni2+とReO4−をそれぞれ0.01〜0.5mol/Lの範囲で等当量ずつを含む金属供給源成分と、クエン酸と少なくとも一種の他の有機酸を含む錯化剤成分であって、Ni2+とReO4−の合計に対するクエン酸のモル濃度比が1/20〜1/5であり、Ni2+とReO4−の合計に対する前記クエン酸と前記少なくとも一種の他の有機酸の総有機酸量のモル濃度比が1/2〜10である錯化剤成分と、ジメチルアミンボランをNi2+とReO4−の合計に対してモル濃度比で1/4〜2含む還元剤成分とを含み、pHを6〜8に調整したことを特徴とする無電解めっき浴。
【請求項2】
前記少なくとも一種の他の有機酸は、Reに対する錯化力がクエン酸より弱い有機酸である請求項1記載の無電解めっき浴。
【請求項3】
前記Reに対する錯化力がクエン酸より弱い有機酸は、コハク酸、リンゴ酸、乳酸およびグリシンのうち少なくとも一つからなる請求項2記載の無電解めっき浴。
【請求項4】
Ni基合金からなる基材上に、請求項1に記載の無電解めっき浴を用いて温度60〜80℃で無電解めっきを行い、Ni−(50〜60)at%Re−B合金からなるRe含有皮膜を形成する工程と、700℃以上の熱処理を施すことによって基材表面にNi−(20〜50)at%Re−(10〜40)at%Cr−(0.1〜10)at%B系合金からなる拡散バリア層を形成する工程とを有することを特徴とする高温装置部材の製造方法。
【請求項5】
Ni基合金からなる基材上に、請求項1に記載の無電解めっき浴を用いて無電解めっきを行い、Ni−(50〜60)at%Re−B合金からなるRe含有皮膜を形成する工程と、前記Re含有皮膜の上に、少なくとも1層のNi基合金からなる最外皮膜を形成する工程と、700℃以上においてアルミニウム拡散熱処理を施すことによって、基材に近接するNi−(20〜50)at%Re−(10〜40)at%Cr−(0.1〜10)at%B系合金からなる拡散バリア層と、前記拡散バリア層の外側のアルミニウム拡散耐食層とを形成する工程とを有することを特徴とする高温装置部材の製造方法。
【請求項6】
Ni基合金からなる基材上に、請求項1に記載の無電解めっき浴を用いて無電解めっきを行い、Ni−(50〜60)at%Re−B合金からなるRe含有皮膜を形成する工程と、前記Re含有皮膜の形成工程の前又は後に、W供給源となるW含有皮膜を形成する工程と、前記Re含有皮膜および前記W含有皮膜を形成した後に、少なくとも1層のNi基合金からなる最外皮膜を形成する工程と、700℃以上においてアルミニウム拡散熱処理を施すことによって、基材に近接するNi−(20〜50)at%Re−(10〜40)at%Cr−(5〜10)at%W−(0.1〜10)at%B系合金からなる拡散バリア層と、前記拡散バリア層の外側のアルミニウム拡散耐食層とを形成する工程とを有することを特徴とする高温装置部材の製造方法。
【請求項7】
前記W含有皮膜を形成する工程において、Ni2+を0.03〜0.2mol/L、WO42−を0.03〜0.4mol/L、クエン酸あるいはクエン酸ナトリウムを0.03〜0.4mol/L、ジメチルアミンボランを0.03〜0.4mol/L含有し、pHを水酸化ナトリウムで6〜8に調整したNa含有浴を用いて無電解めっきを施すことにより、Ni−(10〜15)at%W−(0.1〜10)at%B皮膜を形成することを特徴とする請求項6に記載の高温装置部材の製造方法。
【請求項8】
必要に応じて前記Re含有皮膜に対してCr源を供給するための工程を行うことを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれかに記載の高温装置部材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−266788(P2008−266788A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85711(P2008−85711)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
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