説明

熱可塑性樹脂射出発泡成形体の製造方法

【課題】 外観不良がないため表面美麗で、かつ、非発泡層が薄く、均一微細な発泡層を持ち、さらに高発泡倍率を有する射出発泡成形体の製造方法を提供すること
【解決手段】 最終製品形状位置のキャビティクリアランスt2より小さいクリアランスt0に可動型を設定された金型クリアランス中に、熱可塑性樹脂と発泡剤を含んでなる溶融混合物を射出して、金型クリアランス中への前記溶融混合物が充填完了した直後に可動型を所定の速度でキャビティクリアランスt1まで移動させる第1型開工程、キャビティクリアランスt1からキャビティクリアランスt2まで可動型を移動させる第2型開工程を含んでなり、少なくとも溶融混合物の射出開始時点で金型表面温度を前記熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上の温度とし、充填完了から第2型開工程完了時の何れかの時点で冷却を開始することを特徴とする射出発泡成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂射出発泡成形体の製造方法及び射出発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形分野において、軽量化、コストダウンなどを目的に金型内で発泡させる方法として固定型と任意の位置に前進および後退が可能な可動型とから構成される金型を使用し、発泡剤を含む熱可塑性樹脂を射出完了後に可動型を後退させて発泡させる、いわゆるコアバック法(Moving Cavity法)がある。この方法によれば表面に非発泡層が形成され、内部の発泡層が高倍率で均一気泡になりやすく、軽量性、外観に優れた射出発泡成形体が得られ易い。
【0003】
前記コアバック法による射出発泡成形体を製作する際に充填樹脂から出るガスが原因でできるシルバーストリークを抑制する方法として、金型内の空間を発泡が生じない圧力に加圧しておくカウンタプレッシャ法も従来から知られている(特許文献1)。
【0004】
コアバック法とカウンタプレッシャ法の組み合わせによりシルバーストリークは改善されるが、射出完了後に成形空間内のガスを十分排気できていない場合、射出完了直前の状態では金型クリアランス内でカウンタプレッシャのガスが圧縮され、高い圧力を持った状態で残存する。これによって射出発泡成形体表面に残存ガスに起因する凹みが発生する場合があった。また射出充填時の金型表面温度が充填樹脂の荷重たわみ温度よりも低温状態であるために樹脂表面の冷却が進行することによって非発泡層が成長し、高倍率の発泡成形体ができない傾向にあった。
【0005】
また特許文献2によると、熱可塑性樹脂の融点±50℃の範囲に加熱された加熱ガスを0.1〜5MPaの圧力でキャビティに充填した状態で発泡性樹脂を射出充填し、充填完了後に一旦キャビティを圧縮し、その後キャビティを拡大、それと同時にキャビティ内のガスを排気する工法がある。この工法により、樹脂がキャビティ内に充填された後キャビティ表面は高温状態を保持できることから非発泡層の成長が促進されず、結果非発泡層が薄くなり高発泡倍率が得られる。発泡剤を含んだ混合物をキャビティ内に充填する際に発生するフローフロントでのガス破泡による表面外観の粗悪化は、圧縮・拡大工程でキャビティ表面における樹脂の粘度が低下している状態にて圧縮され押しつぶされることにより改善された。しかし、キャビティ内に充填するガスは、熱可塑性樹脂の融点±50℃の範囲、最大5MPaと高温高圧であり、大型成形体などには大掛かりな装置が必要でコストがかかるため実用性に乏しいなどの問題があった。また、樹脂を充填する際にキャビティ内にガスを充満させると、そのガスはキャビティ内から抜けにくく、一般的には残存ガスによる凹みなどの外観不良が発生しやすいことが言われており、このようなカウンタプレッシャ法を採用すると、排気能力の高いガス除去施設なども必要となりさらに設備費用が必要となると想定される。
【0006】
一方、特許文献3では、樹脂の発泡を利用してひけなどの不良を防ぎ、金型の転写が良好でウエルドマークなどの不良も防止でき、しかも表面において破泡を防いで、表面状態が良好な発泡樹脂成形品を製造することを目的として、溶融状態の樹脂の射出時には金型の表面温度を樹脂の熱変形温度以上に保ち、所定量の樹脂の金型内への充填が完了した後、直ちに金型を冷却して樹脂を冷却固化することが提案されている。
【0007】
特許文献4には、成形品内に均一な大きさの気泡を均一に形成したり、肉厚の中心部の気泡を大きく、スキン層側においては小さく形成したり、スキン層を薄く形成することを目的として、発泡剤を添加した溶融樹脂を用いて射出成形する際、金型内のキャビティの容積を最終目標とする容積以下に設定すると共に、この金型の表面温度を樹脂のガラス転移温度(例えば、ポリプロピレン系樹脂のガラス転移温度は、樹脂種にもよるが、約−20℃〜約0℃)以上に加熱し、続いて金型内に樹脂を充填し、続いて金型をキャビティ内の容積が最終目標容積になるまで開き、続いて金型を段階的に冷却することにより、成形品のスキン層を薄く形成すると共に、このスキン層間の肉厚内に均一に気泡層を形成することが開示されている。特許文献4のような発泡成形方法(コアバック法)によってできた発泡成形体は、スキン層間に存在する発泡層において、比較的均一な気泡径を形成することはできたが、気泡径が大きい推定される。
【0008】
以上のように、射出発泡成形において、樹脂を充填する際の金型温度を予め加熱しておく技術であっても、その冷却の速度によって、外観が美麗な成形体が得られたり、成形体内の気泡を調整したりすることは知られているが、非発泡層が薄く形成され、発泡層において均一微細な気泡径をもち、かつ射出発泡成形体の表面が美麗であり、高発泡倍率の発泡成形体をつくることはこれまでになかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭51−27266号公報
【特許文献2】特開2007−130826号公報
【特許文献3】特開2005−7589号公報
【特許文献4】特開2000−210969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、凹みやフローマーク、射出発泡特有のシルバーストリークなどの外観不良がないため表面美麗で、かつ、非発泡層が薄く、均一微細な発泡層を持ち、さらに高発泡倍率を有する射出発泡成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、固定型と、前進及び後退が可能な可動型とから構成される金型を用いた射出発泡成形体の製造方法において、多段階で可動型を所定の速度で移動させて金型を開き、かつ、所定の金型表面温度とすることで、カウンタプレッシャ法を使用せずともシルバーストリークを解消でき、そのため、カウンタプレッシャ法に起因する凹みも発生しないため表面美麗であり、かつ、非発泡層が薄くなり、非発泡層以外の発泡層が均一微細な気泡径を有し、より高発泡倍率の射出発泡成形体が得られることを見いだし、本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明は、次の構成からなる。
〔1〕 固定型と、前進及び後退が可能な可動型とから構成される金型を用いた射出発泡成形体の製造方法において、該製造方法が、最終製品形状位置のキャビティクリアランスt2より小さいクリアランスt0に可動型を設定された金型クリアランス中に、熱可塑性樹脂と発泡剤を含んでなる溶融混合物を射出して、金型クリアランス中への前記溶融混合物が充填完了した直後に可動型を5mm/秒以上100mm/秒以下の速度で最終製品形状位置未満の所定キャビティクリアランスt1まで移動させる第1型開工程、最終製品形状位置未満の所定キャビティクリアランスt1から最終製品形状位置のキャビティクリアランスt2まで可動型を移動させる第2型開工程を含んでなり、
少なくとも溶融混合物の射出開始時点で金型表面温度を前記熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上の温度とし、充填完了から第2型開工程完了時の何れかの時点で冷却を開始することを特徴とする射出発泡成形体の製造方法。
〔2〕 第1型開工程における最終製品形状位置未満の所定のキャビティクリアランスt1が、キャビティクリアランスt1の1.1倍以上5.0倍以下であることを特徴とする〔1〕記載の射出発泡成形体の製造方法。
〔3〕 第2型開工程における可動型の移動速度が0.05mm/秒以上50mm/秒以下であることを特徴とする〔1〕または〔2〕記載の射出発泡成形体の製造方法。
〔4〕 少なくとも溶融混合物の射出開始時点で金型表面温度を熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上荷重たわみ温度+100℃以下とすることを特徴とする〔1〕〜〔3〕何れかに記載の射出発泡成形体の製造方法。
〔5〕 前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする〔1〕〜〔4〕何れかに記載の射出発泡成形体の製造方法。
〔6〕 前記ポリプロピレン系樹脂が(A)メルトフローレートが10g/10分以上100g/10分以下、メルトテンションが2cN以下である線状ポリプロピレン系樹脂50重量部以上95重量部以下と、(B)メルトフローレートが0.1g/10分以上10g/10分未満、メルトテンションが5cN以上で、かつ歪硬化性を示す改質ポリプロピレン系樹脂5重量部以上50重量部以下(ただし、線状ポリプロピレン系樹脂(A)と改質ポリプロピレン系樹脂(B)の合計は100重量部)を含んでなることを特徴とする〔5〕記載の射出発泡成形体の製造方法。
〔7〕 前記改質ポリプロピレン系樹脂(B)が、線状ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合開始剤、共役ジエン化合物を溶融混合して得られた改質ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする〔6〕記載の射出発泡成形体の製造方法。
〔8〕 〔1〕〜〔7〕何れかに記載の製造方法によって製造される射出発泡成形体。
〔9〕 平均気泡径が500μm以下の発泡層と、該発泡層の少なくとも片側の表面に形成される厚み50μm以上300μm以下の非発泡層とを有する、発泡倍率が2倍以上12倍以下であることを特徴とする〔8〕記載の射出発泡成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明の射出発泡成形体の製造方法によれば、これまでカウンタプレッシャ法を適用した場合に発生していた凹みや、樹脂流動性不足によるフローマークなどの外観不良が解消され、また非発泡層が薄くなり、均一微細な発泡層を持ち、かつ高発泡倍率を有する射出発泡成形体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で使用した金型構造の断面図である。
【図2】比較例3で使用したカウンタプレッシャ法仕様の金型構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、固定型と、前進及び後退が可能な可動型とから構成される金型を用いた射出発泡成形体の製造方法に関するものであるが、第1の特徴は、最終製品形状位置のキャビティクリアランスt2より小さいクリアランスt0に可動型を設定された金型クリアランス中に、熱可塑性樹脂と発泡剤を含んでなる溶融混合物を射出して、金型クリアランス中への前記溶融混合物が充填完了した直後に可動型を5mm/秒以上100mm/秒以下の速度で最終形状位置未満の所定キャビティクリアランスt1まで移動させる第1型開工程と、最終形状位置未満の所定キャビティクリアランスt1から最終製品形状位置のキャビティクリアランスt2まで可動型を移動させる第2型開工程を含んでなることである。
【0016】
第1型開工程における最終製品形状位置未満の所定キャビティクリアランスt1については、第2型開工程で最終製品形状まで可動型を移動させる際に、内部の気泡が破裂しない程度の厚みであることが好ましい。理由としては、第1型開完了後非発泡層以外の発泡が進み、自身が断熱層の役割を果たし金型表面からの冷却を受け難く、次の第2型開工程において、より厚い発泡層の確保に繋がるためと考えられる。また第1型開工程において、前記条件の範囲内で可動型を移動させておくことで、内部の気泡を成長させることができ、非発泡層の成長を阻害することができると思われる。
【0017】
具体的に、t1としては、使用する樹脂によって異なるが、キャビティクリアランスt0の1.1倍以上5.0倍以下であることが好ましく、より好ましくは1.2倍以上4.0倍以下である。さらに好ましくは、1.5倍以上3倍以下である。この範囲内にあることで、ボイドの発生も少なくかつ金型からの冷却を最小限に抑え、非発泡層の成長も阻害しやすい傾向がある。
【0018】
また第1型開工程における可動型の移動速度は5mm/秒以上100mm/秒以下である。上記範囲内にあることで、内部に多くの気泡を発生させる事ができ、かつ表面に凹凸模様が発現しない。さらにこの傾向が顕著に現れるという観点から、10mm/秒以上70mm/以下であることが好ましい。当該範囲のような可動型の移動速度にて、型開きをすることで、内部に多くの気泡ができる理由として断言できないが、発泡性ガスが溶解している樹脂が存在し、かつ樹脂圧が上がっているキャビティ内の状態から、高速で型開きを行いキャビティ内の圧力開放速度を大きくすることで、溶融樹脂内における圧力差が大きい箇所が多量に存在することになり、そのために、初期気泡核の発生率が増加し、気泡密度が増加する。そのため、気泡径が小径となると考えられる。発泡層内部の気泡密度が増大した結果、第2型開工程においてキャビティクリアランスを最終製品厚みまで型開きを行っても、発泡層内部には小径の気泡が多数存在することにより、それぞれの気泡が延伸されにくいと推定される。
【0019】
第1型開工程完了後、直ちに第2型開工程を行ってもよいが、第1型開工程完了後、キャビティクリアランスt1のままの状態で所定の保持時間をとった後、第2型開工程を行うことが好ましい。第1型開工程と第2型開工程のあいだに所定の保持時間をとることによって、樹脂内部の温度の均一化が進み、非発泡層付近と発泡層の中心部との気泡径に差が生じにくくなる傾向があり、また後の第2型開工程でより厚みのある射出発泡成形体を得ることができる傾向がある。この保持時間は、後の第2型開工程において最終製品厚みまで問題なく発泡させることができれば、特に制限はないが、概ね20秒以内が好ましい。より好ましくは、15秒以内である。さらに好ましいのは10秒以内である。下限値は、1秒以上が好ましく、より好ましくは3秒以上である。この保持時間が1秒未満であると、内部にボイドが発生しやすい傾向にある。
【0020】
第2型開工程では、最終製品形状位置未満の所定キャビティクリアランスt1から最終製品形状位置のキャビティクリアランスt2まで可動型を移動させることで、内部の気泡を成長させる。第2型開工程における可動型の移動速度は0.05mm/秒以上50mm/秒以下であることが好ましく、0.1mm/秒以上25mm/秒以下の範囲であることがさらに好ましい。当該範囲にあることで、所定の厚みの射出発泡成形体を得ることができ、また金型と非発泡層の剥離による表面荒れを防止することができる傾向がある。
【0021】
上記のように熱可塑性樹脂と発泡剤を含んでなる溶融混合物を金型内に射出充填完了直後に2段階で型開き動作を終了しても良いし、3段階、4段階で型開き動作を終了しても良い。
【0022】
本発明における第2の特徴は、少なくとも溶融混合物の射出開始時点で金型表面温度を熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上の温度、好ましくは、荷重たわみ温度以上荷重たわみ温度+100℃以下とし、充填完了から第2型開工程完了時の何れかの時点で冷却を開始することである。
【0023】
ここでいう熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度とは、JIS K7191−2に準拠し、試験片を熱変形温度試験機の油槽中に入れ、試験片の中央部に荷重を加え、特定曲げ応力を与えた状態において一定速さで油温を上昇させ、試験片に生じたたわみ量が規定たわみ量となった時、試験片に接触させてあるダイアルインジケーターで読み取り、その時の油温をもって荷重たわみ温度(℃)とするものである。
【0024】
具体的には金型表面温度を、例えば射出開始時点から充填完了まで、あるいは例えば、射出開始時点から第2型開工程完了時点までの間、熱可塑性樹脂組成物の荷重たわみ温度以上の温度を保持することが好ましい。金型表面温度を当該温度に保持することで、充填完了直後において、製品表面はさほど冷却が進んでおらず、徐冷状態となっている。このため、非発泡層の成長が阻害されることで、非発泡層が薄くなり発泡層となり得る厚みが増加することとなる。発泡層となりうる厚みが増加し、第1型開工程の可動型の移動速度が比較的高速の状態で型開きすることで微細な気泡径の数が増大する。この状態にて、第2型開工程にて最終製品の厚みまで可動型を移動させ型開きする際に、発泡層の中心部の気泡への延伸が抑制され、均一微細な発泡層が形成される。それと同時に、得られる射出発泡成形体の非発泡層は薄くなる。
【0025】
上記のような理由から、金型表面温度の冷却は、射出完了から第2型開工程完了時の何れかの時点で開始すれば良い。好ましくは、第1型開工程開始時から第1型開工程完了時までの何れかの時点で冷却を開始することが好ましい。
【0026】
金型表面を加熱・冷却する方法の種類としては、特に制限は無く、例として油温調機を使用することが挙げられる。例えば、加熱専用と冷却専用それぞれに油温調を使用し、熱媒体専用の流路を持つ加熱専用の油温調機によって樹脂の荷重たわみ温度以上に金型表面温度を昇温すればよく、充填完了後から発泡完了までの何れかの時点に冷媒体専用の流路を持つ冷却専用の油温調機と切換え、冷却を行う方法でも良い。また、熱媒体流路と冷媒体流路を併用しても良い。加熱から冷却への切換方法としては、型内に圧力センサーなどを設置し、発泡工程が完了するある圧力パターンの信号などを読み取ることで、自動切換えが可能なように制御機構を設けても良い。また、熱媒体として他に温水、加熱蒸気を使用し、冷媒体として冷水を使用する場合は、上記油温調の例のように実施すれば良い。これら他の加熱、冷却方法においても、熱媒体と冷媒体それぞれ流路を持つような金型構造、又は熱媒体流路と冷媒体流路を併用可能な金型構造として良い。また加熱手段として、金型表面にヒーターを設置することで、金型表面温度を樹脂の荷重たわみ温度以上とする方法を用いても良い。金型表面温度は、金型表面に温度センサーを設置し温度制御すれば良く、簡易的に当該成形を実施する際には、温度計による簡易測定でも良い。
【0027】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては、特に制限は無く、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、全芳香族ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリアミド系樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンなどが挙げられ、いずれも好適に使用することが出来るが、なかでもポリオレフィン系樹脂であることが、その効果が顕著に発揮できると言う観点から好ましく、特にはポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
【0028】
また、ポリプロピレン系樹脂の中でも、(A)メルトフローレートが好ましくは10g/10分以上100g/10分以下、より好ましくは15g/10分以上50g/10分以下であり、メルトテンションが好ましくは2cN以下、より好ましくは1cN以下である線状ポリプロピレン樹脂50重量部以上95重量部以下と、(B)メルトフローレートが好ましくは0.1g/10分以上10g/10分未満、より好ましくは0.3g/10分以上5g/10分以下であり、メルトテンションが好ましくは5cN以上、より好ましくは8cN以上で、かつ歪硬化性を示す改質ポリプロピレン5重量部以上50重量部以下(ただし、線状ポリプロピレン系樹脂(A)と改質ポリプロピレン系樹脂(B)の合計は100重量部)からなることが好ましい。
【0029】
線状ポリプロピレン樹脂(A)のメルトフローレートが10g/10分未満では、射出発泡成形体を製造する際に、金型キャビティのクリアランスが1〜2mm程度の薄肉部分を有する射出発泡成形においてはショートショットになる場合があり、連続して安定した射出発泡成形が困難となる場合がある。メルトフローレートが100g/10分を越える場合には、発泡時に気泡が破壊されやすく、高発泡倍率が得られない場合や、射出発泡成形体の剛性も低下する場合がある。一方、メルトテンションが2cNを越える場合には金型面への転写性が悪くなる傾向にあり、外観美麗な射出発泡成形体を得にくい。
【0030】
メルトフローレートとは、ASTM D−1238に準拠し、230℃、2.16kg荷重下で測定したものを言い、メルトテンションとは、メルトテンション測定用アタッチメントを付けたキャピログラフ(東洋精機製作所製)を使用して、230℃でφ1mm、長さ10mmの孔を有するダイスから、ピストン降下速度10mm/分で降下させたストランドを1m/分で引き取り、安定後に40m/分で引き取り速度を増加させたとき、破断したときのロードセル付きプーリーの引き取り荷重を言う。
【0031】
ここでいう線状ポリプロピレン系樹脂とは、線状の分子構造を有しているポリプロピレン系樹脂であり、通常の重合方法、例えば担体に担持させた遷移金属化合物と有機金属化合物から得られる触媒系(例えばチーグラー・ナッタ触媒)の存在下の重合で得られる。具体的には、プロピレンの単独重合体、ブロック共重合体およびランダム共重合体であって、結晶性の重合体があげられる。プロピレンの共重合体としては、プロピレンを75重量%以上含有しているものが、ポリプロピレン系樹脂の特徴である結晶性、剛性、耐薬品性などが保持されている点で好ましい。共重合可能なα−オレフィンは、エチレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどの炭素数2または4〜12のα−オレフィン、シクロペンテン、ノルボルネン、テトラシクロ[6,2,11,8,13,6]−4−ドデセンなどの環状オレフィン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンなどのジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどのビニル単量体などが挙げられる。これらのうち、エチレン、1−ブテンが耐寒脆性向上、安価等という点で好ましい。
【0032】
改質ポリプロピレン系樹脂(B)は、メルトフローレートが0.1g/10分未満では、線状ポリプロピレン系樹脂(A)への分散性が悪くなる場合があり、発泡倍率や気泡が不均一となり、表面性が悪くなる場合がある。メルトフローレートが10g/10分以上では、射出発泡成形体表面での改質ポリプロピレン系樹脂(B)の濃度が高くなりすぎて、美麗な表面外観を得にくい傾向がある。一方、メルトテンションが5cN未満の場合には発泡倍率2倍以上の射出発泡成形体が得られにくく、均一微細な気泡になりにくい。
【0033】
ここでいう歪硬化性は、溶融物の延伸歪みの増加に伴い粘度が上昇することとして定義され、通常は特開昭62−121704号公報に記載の方法、すなわち市販のレオメーターにより測定した伸長粘度と時間の関係をプロットすることで判定することができる。また、例えばメルトテンション測定時の溶融ストランドの破断挙動からも歪硬化性を判定できる。すなわち、引き取り速度を増加させたときに急激にメルトテンションが増加する場合は歪硬化性を示す場合である。改質ポリプロピレン系樹脂(B)が歪硬化性を示すものでない場合は、メルトテンションが高くても発泡倍率が2倍を越える高発泡倍率の射出発泡成形体が得られにくい。
【0034】
このような改質ポリプロピレン系樹脂(B)としては、例えば線状ポリプロピレン系樹脂に放射線を照射するか、または線状ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合開始剤、共役ジエン化合物を溶融混合するなどの方法により得られる分岐構造あるいは高分子量成分を含有する改質ポリプロピレン系樹脂が挙げられる。これらの中で、本発明においては、線状ポリプロピレン樹脂、ラジカル重合開始剤および共役ジエン化合物を溶融混合して得られる改質ポリプロピレン系樹脂が、高価な放射線照射設備を必要としない点から安価に製造できる点から好ましい。この改質ポリプロピレン系樹脂(B)の製造に用いられる原料ポリプロピレン系樹脂としては、前記線状ポリプロピレン系樹脂(A)と同じものが例示できる。
【0035】
前記共役ジエン化合物としては例えばブタジエン、イソプレン、1,3−ヘプタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンなどがあげられるが、これらを単独または組み合わせ使用してもよい。これらの中では、ブタジエン、イソプレンが安価で取り扱いやすく、反応が均一に進みやすい点からとくに好ましい。
【0036】
前記共役ジエン化合物の添加量としては、線状ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上20重量部以下が好ましく、0.05重量部以上5重量部以下がさらに好ましい。0.01重量部未満では改質の効果が得られにくい場合があり、また20重量部を越える添加量においては効果が飽和してしまい、経済的でない場合がある。
【0037】
前記共役ジエン化合物と共重合可能な単量体、たとえば塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸金属塩、メタクリル酸金属塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸エステルなどを併用してもよい。
【0038】
ラジカル重合開始剤としては、一般に過酸化物、アゾ化合物などが挙げられるが、ポリプロピレン系樹脂や前記共役ジエン化合物からの水素引き抜き能を有するものが好ましく、一般にケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステルなどの有機過酸化物が挙げられる。これらのうち、とくに水素引き抜き能が高いものが好ましく、たとえば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレートなどのパーオキシエステルなどの1種または2種以上が挙げられる。
【0039】
ラジカル重合開始剤の添加量としては、線状ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上10重量部以下が好ましく、0.05重量部以上2重量部以下がさらに好ましい。0.01重量部未満では改質の効果が得られにくい場合があり、また10重量部を越える添加量では、改質の効果が飽和してしまい経済的でない場合がある。
【0040】
線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、およびラジカル重合開始剤を反応させるための装置としては、ロール、コニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダー、単軸押出機、2軸押出機などの混練機、2軸表面更新機、2軸多円板装置などの横型撹拌機、ダブルヘリカルリボン撹拌機などの縦型撹拌機、などが挙げられる。これらのうち、混練機を使用することが好ましく、とくに押出機が生産性の点から好ましい。
【0041】
線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、およびラジカル重合開始剤を混合、混練(撹拌)する順序、方法にはとくに制限はない。線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、およびラジカル重合開始剤を混合したのち溶融混練(撹拌)してもよいし、ポリプロピレン系樹脂を溶融混練(撹拌)したのち、共役ジエン化合物あるいはラジカル開始剤を同時にあるいは別々に、一括してあるいは分割して混合してもよい。混練(撹拌)機の温度は130〜300℃が、線状ポリプロピレン系樹脂が溶融し、かつ熱分解しないという点で好ましい。またその時間は一般に1〜60分が好ましい。このようにして、本発明に用いる改質ポリプロピレン系樹脂(B)を製造することができる。ポリプロピレン系樹脂(A)、(B)の形状、大きさに制限はなく、ペレット状でもよい。
【0042】
線状ポリプロピレン系樹脂(A)と改質ポリプロピレン系樹脂(B)の混合方法は特に限定はなく、公知の方法で行うことが出来、例えば、ペレット状の樹脂をブレンダー、ミキサー等を用いてドライブレンドする、溶融混合する、溶剤に熔解して混合する等の方法が挙げられる。本発明においてはドライブレンドした上で射出発泡成形に供する方法が、熱履歴が少なくて済み、メルトテンションの低下が少なくなる為、好ましい。
【0043】
本発明で使用できる発泡剤は、化学発泡剤、物理発泡剤など射出発泡成形に通常使用できるものであればとくに制限はない。化学発泡剤は、前記樹脂組成物と予め混合してから射出成形機に供給され、シリンダ内で分解して炭酸ガス等の気体を発生するものである。化学発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の無機系化学発泡剤や、アゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタテトラミン等の有機系化学発泡剤があげられる。物理発泡剤は、成形機のシリンダ内の溶融樹脂にガス状または超臨界流体として注入され、分散または溶解されるもので、金型内に射出後、圧力開放されることによって発泡剤として機能する物である。物理発泡剤としては、プロパン、ブタン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素類、クロロジフルオロメタン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、窒素、炭酸ガス、空気等の無機ガスがあげられる。これらは単独または2種以上混合して使用してよい。
【0044】
これらの発泡剤の中では、通常の射出成形機が使用でき、均一微細な気泡が得られやすい無機系化学発泡剤が好ましい。これらの無機系化学発泡剤には、発泡成形体の気泡を安定的に均一微細にするために必要に応じて、例えばクエン酸のような有機酸等の発泡助剤やタルクのような無機微粒子等の造核剤を添加してもよい。通常、上記無機系化学発泡剤は取扱性、貯蔵安定性、熱可塑性樹脂への分散性の点から、10〜50重量%濃度のポリオレフィン系樹脂のマスターバッチとして使用されるのが好ましい。
【0045】
上記無機系化学発泡剤の添加量は種類、マスターバッチ中の濃度および所望の発泡倍率によって異なるが、一般に本発明の熱可塑性樹脂100重量部に対して好ましくは0.1重量部以上20重量部以下、更に好ましくは0.5重量部以上10重量部以下の範囲で使用される。この範囲で使用することにより、経済的に発泡倍率が2倍以上、且つ均一微細気泡の射出発泡成形体が得られやすい。
【0046】
さらに必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、金属不活性剤、燐系加工安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、蛍光増白剤、金属石鹸、制酸吸着剤などの安定剤、架橋剤、連鎖移動剤、核剤、滑剤、可塑剤、充填材、強化材、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤を併用してもよい。必要に応じて用いられるこれらの添加剤は、本発明の効果を損なわない範囲で使用されるのはもちろんであるが、一般に本発明の熱可塑性樹脂100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上10重量部以下使用される。
【0047】
以上の製造方法によって得られた本発明の射出発泡成形体は、好ましくは平均気泡径が500μm以下の発泡層と、該発泡層の少なくとも片側の表面に形成される厚みが好ましくは50μm以上300μm以下の非発泡層とを有する、好ましくは、発泡倍率が2倍以上12倍以下である。
【0048】
非発泡層の厚みは、得られた射出発泡成形体から表面の非発泡層を含めた試験片を切り出し、DMS(デジタルマイクロスコープ:)を使用し、倍率20倍にて断面を観察し、観察面中、任意の3箇所について計測し、平均値を非発泡層厚みとした。
【0049】
平均気泡径は、非発泡層の厚みの測定にて得られた射出発泡成形体の断面画像において非発泡層と発泡層に対して垂線を引き、その垂線線上に存在する気泡の最大径を測定し平均値をとって平均気泡径とした。
【0050】
発泡倍率は、射出発泡成形体から、表面の非発泡層も含めた試片を切り出し、別途作製した同じ肉厚の非発泡成形体との比重の比から求める。
【実施例】
【0051】
以下に実施例によって本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0052】
実施例および比較例において、各種の評価方法に用いられた試験法および判定基準は次の通りである。
【0053】
(1)メルトフローレート:ASTM1238に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定した。
【0054】
(2)メルトテンション:メルトテンション測定用アタッチメントを付けたキャピログラフ(東洋精機製作所製)を使用した。230℃でφ1mm、長さ10mmの孔を有するダイスから、ピストン降下速度10mm/分で降下させたストランドを1m/分で引き取り、安定後に40m/分2で引き取り速度を増加させたとき、破断したときのロードセル付きプーリーの引き取り荷重をメルトテンションとした。
【0055】
(3)歪硬化性:上記メルトテンション測定時、引き取り速度を増加させたときに急激に引き取り荷重が増加し、破断に至った場合を「歪硬化性を示す」、そうでない場合を「歪硬化性を示さない」とした。
【0056】
(4)荷重たわみ温度:JIS K7191−2に準拠し、サイズが長手方向100mm、幅方向10mm、厚み方向4mmの試験片を熱変形温度試験機の油そう中に入れ、試験片の中央部に一定の曲げ応力1.80MPaを与えた状態において一定速さで油温を上昇させ、試験片に生じた一定量のたわみ0.32mmとなった時、試験片に接触させてあるダイアルインジケーターで読み取ったときの温度とした。
【0057】
(5)気泡の状態:射出発泡成形体中央の断面を観察し、以下基準で○、×で評価した。
内部に延伸された気泡無く、気泡は均一・・・・・・・○
内部に延伸された気泡がある、或いは気泡は均一でない・・×
【0058】
(6)表面平滑性:得られた射出発泡成形体の外観から評価した。
凹みが無い・・・・○
凹みが有る・・・・×
【0059】
(7)フローマーク:得られた射出発泡成形体の外観から評価した。
フローマークが無い・・・・○
フローマークがある・・・・×
【0060】
(8)シルバーストリーク:得られた射出発泡成形体の外観から評価した。
シルバーストリークが無い・・・・○
シルバーストリークがある・・・・×
【0061】
(9)発泡倍率:発泡倍率は、発泡成形体から表面の非発泡層も含めた試片を切り出し、別途作製した肉厚3mmの非発泡成形体(参考例1)との比重の比から求めた。
【0062】
(10)非発泡層厚み:非発泡層厚みは、得られた射出発泡成形体から表面の非発泡層を含めた試験片を切り出し、DMS(デジタルマイクロスコープ:)を使用し、倍率20倍にて断面を観察し観察面中、任意の3箇所についてそれぞれ計測し平均値を非発泡層厚み、発泡層厚みとした。
【0063】
(11)平均気泡径の測定方法:(10)非発泡層厚みの測定にて得られた射出発泡成形体の断面において非発泡層と発泡層に対して垂線を引き、その垂線線上に存在する気泡の最大径を測定し平均値をとって平均気泡径とした。
【0064】
次に、実施例、比較例で前記改質ポリプロピレン系樹脂の他に使用したポリプロピレン系樹脂と、発泡剤を以下に示す。
(A)線状ポリプロピレン系樹脂
PP−1:プライムポリマー社製J708UG(プロピレン・エチレン・ブロックコポリマー、メルトフローレート45g/10分、メルトテンション1cN以下)
(B)改質ポリプロピレン系樹脂
MP−1:線状ポリプロピレン系樹脂としてメルトフローレート3g/10分のポリプロピレンホモポリマー100重量部と、ラジカル重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.3重量部の混合物を、44mmφ二軸押出機(L/D=38)のホッパーから50kg/時で供給し、途中に設けた導入部よりイソプレンモノマーを定量ポンプを用いて0.25kg/時の速度で供給し、ストランドを水冷、細断することにより得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート0.5g/10分、メルトテンション12cN、歪硬化性を示す)
(C)発泡剤
B−1:化学発泡剤マスターバッチ(永和化成社製ポリスレンEE275、発泡剤濃度27%、分解ガス量40ml/g)
【0065】
(実施例1)
射出成形機はシリンダ先端にシャットオフノズル機構を有した宇部興産機械(株)製「MD350S−IVDP型」を使用し、金型はピンポイントゲートを有し、図1に示すような縦330mm×横250mm×高100mmで箱形状のキャビティを有する内面鏡面光沢仕上げのものを使用した。線状ポリプロピレン系樹脂(A)としてPP−1を80重量部、改質ポリプロピレン系樹脂(B)としてMP−1を20重量部、発泡剤としてB−1を5重量部、をドライブレンドして得た射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂混合物を樹脂温度220℃、射出速度100mm/秒、射出時間1.2秒にて、前記金型クリアランスt0:1.3mm、金型表面温度が固定型温度120℃、可動型110℃と制御されている射出成形機付属の金型に供給した。射出開始から充填完了後までの金型表面温度はあらかじめ金型温調機(通水ラインは図中に指示しない)によって金型温度を制御した。
【0066】
第1型開工程完了と同時に30℃の冷水ラインと切換えて金型に供給し、冷却を開始し冷却時間40秒、という条件下にて、充填完了後直ちに第1型開工程により型開速度50mm/秒にてキャビティクリアランスt1を2.5mmまで拡大し、キャビティクリアランスt1を2.5mmに拡大したまま、8秒間保持した。次いで、第2型開工程により型開速度5mm/秒でキャビティクリアランスt2を5.2mmまで拡大して、所定の成形品厚みの射出発泡成形体を得た。また、この時使用したポリプロピレン系樹脂混合物中の発泡剤を排除したポリプロピレン系樹脂の荷重たわみ温度を測定したところ、95℃(一定曲げ応力1.80MPa下)であった。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
その結果、得られた射出発泡成形体は、凹み無くフローマークも消失し、寸法精度も良好で非発泡層厚みが100μm、平均気泡径200μmで発泡層における気泡も延伸されず、均一微細な発泡層を形成していた。また発泡倍率は4倍であった。
【0071】
(実施例2)
射出開始から充填完了までの金型表面温度をそれぞれ固定型温度100℃、可動型95℃とした以外は実施例1と同様に射出発泡成形した。結果、樹脂の充填中における金型表面温度が実施例1に比べて低い為、非発泡層が若干厚くなった。
【0072】
(比較例1)
第1型開工程の型開速度を1mm/秒とする以外は実施例1と同様に射出発泡成形した。結果、圧力開放速度が小さいために、第1型開工程において気泡密度が低下し、気泡が大径となり、さらに第2型開工程によって気泡がさらに延伸されボイドが発生した。そのため平均気泡径が550μmと大きくなった。
【0073】
(比較例2)
射出開始から充填完了までの金型表面温度をそれぞれ固定型温度60℃、可動型50℃とし、充填完了後の金型温度も固定型温度60℃、可動型50℃とした以外実施例1と同様に発泡成形した。シルバーストリークが射出発泡成形体表面の全面に見られ、外観悪いものとなっていた。また、非発泡層が成長したことによって、発泡層となり得る層厚みが減少し、発泡層は均一微細ではあるが、発泡倍率は3.0倍であった。
【0074】
(比較例3)
射出開始から充填完了までの金型表面温度をそれぞれ固定型温度60℃、可動型50℃とし、充填完了後の金型温度も固定型温度60℃、可動型50℃として冷媒を供給せず、また射出開始する前から、一定温度50℃に制御され、図2に示すような金型構造に設置される圧力計9aにて確認されるキャビティ圧力P1を0.9MPaとなるように、ガスが予めキャビティ内に充満された状態にて射出を開始し、ポリプロピレン系樹脂混合物の充填完了と同時にガスを排気した以外は実施例1と同様に発泡成形した。カウンタプレッシャ法を適用することでシルバーストリークは消失したが、残存ガスの影響で凹みが発生しており、また樹脂の流動性不足によるフローマークが消失せず、外観悪いものとなっていた。これについても、発泡層は均一微細であったが、非発泡層が厚く、発泡倍率は3.0倍であった。
【0075】
(参考例1)
比較例1において発泡剤を使用せず、キャビティクリアランス3.0mmの金型に射出充填し、射出充填完了後に型後退動作を行わずに60秒間冷却して非発泡成形体を取り出した。このようにして得られた成形体の厚みは3.0mmであった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の射出発泡成形用金型、該金型を使用する製造方法で得られる射出発泡成形体はシルバーストリーク、フローマークなどの外観不良が解消され、外観に優れかつ高発泡倍率であることから、ドアトリム、ラゲージボックスなどの自動車内装材をはじめ、パレット、コンテナ、食品包装用容器や家電、建材用途に広く使用できる。
【符号の説明】
【0077】
1 射出装置
2 可動型
3 固定型
4 金型クリアランス
5 エジェクトピン
6 エジェクト盤
7 ゲート
8 ベント
9a 圧力計(P2:MPa)
9b 圧力計(P1:MPa)
10 ガス注入口
11 O−リング
12 ガス供給路
13 圧力確認用ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と、前進及び後退が可能な可動型とから構成される金型を用いた射出発泡成形体の製造方法において、該製造方法が、最終製品形状位置のキャビティクリアランスt2より小さいクリアランスt0に可動型を設定された金型クリアランス中に、熱可塑性樹脂と発泡剤を含んでなる溶融混合物を射出して、金型クリアランス中への前記溶融混合物が充填完了した直後に可動型を5mm/秒以上100mm/秒以下の速度で最終製品形状位置未満の所定キャビティクリアランスt1まで移動させる第1型開工程、最終製品形状位置未満の所定キャビティクリアランスt1から最終製品形状位置のキャビティクリアランスt2まで可動型を移動させる第2型開工程を含んでなり、
少なくとも溶融混合物の射出開始時点で金型表面温度を前記熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上の温度とし、充填完了から第2型開工程完了時の何れかの時点で冷却を開始することを特徴とする射出発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
第1型開工程における最終製品形状位置未満の所定のキャビティクリアランスt1が、キャビティクリアランスt1の1.1倍以上5.0倍以下であることを特徴とする請求項1記載の射出発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
第2型開工程における可動型の移動速度が0.05mm/秒以上50mm/秒以下であることを特徴とする請求項1または2記載の射出発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
少なくとも溶融混合物の射出開始時点で金型表面温度を熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上荷重たわみ温度+100℃以下とすることを特徴とする請求項1〜3何れか一項に記載の射出発泡成形体の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする請求項1〜4何れか一項に記載の射出発泡成形体の製造方法。
【請求項6】
前記ポリプロピレン系樹脂が(A)メルトフローレートが10g/10分以上100g/10分以下、メルトテンションが2cN以下である線状ポリプロピレン系樹脂50重量部以上95重量部以下と、(B)メルトフローレートが0.1g/10分以上10g/10分未満、メルトテンションが5cN以上で、かつ歪硬化性を示す改質ポリプロピレン系樹脂5重量部以上50重量部以下(ただし、線状ポリプロピレン系樹脂(A)と改質ポリプロピレン系樹脂(B)の合計は100重量部)を含んでなることを特徴とする請求項5記載の射出発泡成形体の製造方法。
【請求項7】
前記改質ポリプロピレン系樹脂(B)が、線状ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合開始剤、共役ジエン化合物を溶融混合して得られた改質ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする請求項6記載の射出発泡成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7何れか一項に記載の製造方法によって製造される射出発泡成形体。
【請求項9】
平均気泡径が500μm以下の発泡層と、該発泡層の少なくとも片側の表面に形成される厚み50μm以上300μm以下の非発泡層とを有する、発泡倍率が2倍以上12倍以下であることを特徴とする請求項8記載の射出発泡成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−269530(P2010−269530A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123978(P2009−123978)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】