説明

熱可塑性樹脂成形体の製造方法

【課題】 成形サイクルの短縮化を図りつつ、良好な外観の熱可塑性樹脂成形体を製造することができる熱可塑性樹脂成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明に係る熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、第1の金型2及び第1の金型2との間にキャビティを形成する第2の金型3のうち、少なくとも一方の金型におけるキャビティ面6aを金型の外部に配置される加熱手段17により加熱する加熱工程と、キャビティ内に溶融状熱可塑性樹脂を供給する供給工程と、供給された溶融状熱可塑性樹脂を冷却する冷却工程と、を備え、少なくとも一方の金型は、キャビティ面6aを有する金属板6と、金属板6におけるキャビティ面6aに対して裏面側に設けられる断熱部材11とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂成形体は、経済性、軽量性、賦形性等が良好であることから、自動車の内装部品や外装部品、家電製品、住設関連製品等の広い分野で使用されている。このような熱可塑性樹脂成形体は、射出成形や圧縮成形等の成形方法により製造できるが、開口部があるような複雑な形状の成形体を製造する場合や、複数の樹脂供給ゲートを有する金型を使用する場合には、得られる成形体にウエルド等の外観不良が発生することがある。
【0003】
このような外観不良を抑制するために、熱可塑性樹脂を射出成形するにあたり、金型のキャビティ面を予め加熱しておき射出成形する熱可塑性樹脂成形体の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公昭58−40504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された熱可塑性樹脂成形体の製造方法においては、金型キャビティ面を高周波誘導加熱した後、金型を閉じて溶融樹脂を供給するが、従来の金型(図10を参照)を用いるために、金型の冷却に時間を要し熱可塑性樹脂成形体の成形サイクルの短縮化を図ることが困難である。
【0005】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、成形サイクルの短縮化を図りつつ、良好な外観の熱可塑性樹脂成形体を製造することができる熱可塑性樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、第1の金型及び第1の金型との間にキャビティを形成する第2の金型のうち、少なくとも一方の金型におけるキャビティを形成するキャビティ面を金型の外部に配置される加熱手段により加熱する加熱工程と、キャビティ内に溶融状熱可塑性樹脂を供給する供給工程と、供給された溶融状熱可塑性樹脂を冷却する冷却工程と、を備え、少なくとも一方の金型は、キャビティ面を有する金属板と、金属板におけるキャビティ面に対して裏面側に設けられる断熱部材とを有するものである。
【0007】
本発明に係る熱可塑性樹脂成形体の製造方法によれば、金型の外部に配置される加熱手段によりキャビティ面が加熱された金型で形成されるキャビティ内に溶融状熱可塑性樹脂を供給する。このため、所望の位置を容易に加熱することができると共に、成形体にウエルド等の外観不良が発生しにくくなる。加えて、加熱される金型は、キャビティ面を有する金属板と、金属板におけるキャビティ面に対して裏面側に設けられる断熱部材とを有している。このため、金属板のみを効果的に加熱してキャビティ面の温度を上げることができるので、金型全体を加熱してキャビティ面の温度を上げる従来の製造方法に比べて、加熱される金型部分の熱容量を小さくすることができる。その結果、加熱時間を短縮することができると共に、冷却時間も短縮することができる。したがって、成形サイクルの短縮化を図りつつ、良好な外観の熱可塑性樹脂成形体を得ることができる。
【0008】
ここで、本発明に係る熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、金属板が、電鋳により形成されてなることが好ましい。キャビティ面を細かな凹凸形状とすることができるので、様々な模様の意匠面の熱可塑性樹脂成形体を製造することができる。
【0009】
また、本発明に係る熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、加熱手段が、高周波誘導加熱をすることのできる加熱コイルであることが好ましい。これにより、キャビティ面を効率的に加熱することがでる。
【0010】
また、本発明に係る熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、加熱工程において、キャビティ面の一部を部分的に加熱することが好ましい。これにより、ウエルド等の外観不良が発生しやすい部分を効果的に加熱することができる。
【0011】
また、本発明に係る熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、供給工程において、キャビティ内に溶融状熱可塑性樹脂の供給を開始するときにおけるキャビティ面の温度が、熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上であることが好ましい。これにより、より一層良好な外観の熱可塑性樹脂成形体を得ることができる。
【0012】
また、本発明に係る熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、供給工程において、前記溶融状熱可塑性樹脂を供給しながら第1の金型及び第2の金型を型締めすることが好ましい。これにより、射出圧力や型締め圧力を低圧化することができ、装置の小型化や品質の優れた成形体を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、成形サイクルの短縮化を図りつつ、良好な外観の熱可塑性樹脂成形体を製造することができる熱可塑性樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の知見は、例示のみのために示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解することができる。引き続いて、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0015】
まず、本発明に係る熱可塑性樹脂成形体の製造方法に用いられる金型の一例ついて説明する。図1に示されるように、熱可塑性樹脂成形用金型(以下、「金型」とする)1は、雌型(第1の金型)2及び雄型(第2の金型)3の雌雄一対からなり、雌型2及び雄型3を閉じた状態で、その内部にキャビティ4が形成される。
【0016】
雌型2は、断面凹形状をなし、キャビティ4側には金属板6が設けられている。金属板6は、厚さが2〜6mm程度であり、例えば鋼やSUS等の他、アルミ合金、亜鉛合金、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金等の金属が用いられている。金属板6におけるキャビティ4を形成する面(以下、「キャビティ面」とする)6aは、成形される熱可塑性樹脂成形体の意匠面の模様に対応するような凹凸形状に形成されている。なお、金属板6は種々の公知の手法を用いて形成され得るが、電鋳法により形成されることが好ましい。電鋳法は製品意匠面の形状を忠実に再現でき、様々な模様の意匠面の熱可塑性樹脂成形体を製造することができるからである。
【0017】
金属板6におけるキャビティ面6aの裏面6bには、キャビティ面6aの温度を調節するための複数の温度調節管7が配設されている。温度調節管7は、例えば銅等からなる円筒状の金属管であり、冷却媒供給装置(図示せず)に接続されることで、内部に液体又は気体からなる媒体を流動させて、キャビティ面6aを冷却させることができる。
【0018】
図2に示されるように、温度調節管7は、金属板6の裏面6bに金属部材8を用いて溶接、ロウ付等により固定されている。この金属部材8は、温度調節管7と金属板6との伝熱効率を上げるために、例えば、銀、銅等の熱伝導性の高い材料からなることが好ましい。
【0019】
また、互いに隣接する複数の温度調節管7の間隔(一の温度調節管と、これに隣接する温度調節管との互いに対向する各側端の距離W)は、温度調節管7の外径D1(温度調節管7の裏面6bに沿う方向の外径)に対して5倍以下であることが好ましい。これにより、裏面6bと温度調節管7との接触面積が大きくなり、金属板6を均一に冷却させることができる。
【0020】
また、図3に示されるように、金属部材8は、固定させる温度調節管7からこれに隣接する他の温度調節管7にわたって裏面6bに接合されていることが好ましい。互いに隣接する各温度調節管7,7の間にわたって、金属部材8が裏面6bに接触されていることから、温度調節管7,7と金属板6との熱的な接触面積が大きくなり、キャビティ面6aをより一層均一に冷却することができる。さらに、図4に示されるように、温度調節管7、金属部材8及び裏面6bを裏面6b側から覆うように、金属被覆部材9を設けてもよい。ここで金属被覆部材9は、金属の薄板、多数の網目が形成された金網、多数の貫通孔が形成された金属板等を用いることができる。この金属被覆部材9を設けることで、キャビティ面6aをより一層均一に冷却することができる。
【0021】
また、温度調節管7の断面形状は、図3に示される円形状に制限されるものではない。すなわち、温度調節管7は、金属板6の裏面6bに沿う方向の外径が裏面6bに沿う方向に交わる方向の外径よりも大きい断面形状を有することが好ましい。例えば、図5に示されるように、裏面6bに沿う方向に交わる方向の外径をD2としたとき、温度調節管7は、D1/D2が1よりも大きい断面矩形状とすることが好ましく、D1/D2が1.5以上の断面矩形状とすることが特に好ましい。このような断面形状とすることで、温度調節管7と裏面6bとの接触面積が大きくなり伝熱効率を向上させることができる。なお、断面形状は、矩形状に限らず楕円形状や三角形状等であってもよい。
【0022】
なお、温度調節管7は、2系統以上の複数の回路に分離して、別々に制御するように構成してもよい。
【0023】
図1に戻って、雌型2には、裏面6b及び温度調節管7を覆うように断熱部材11が設けられている。この断熱部材11は、例えば熱伝導性の低いエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂材料、セメント等のセラミックス等からなり、雌型2の加熱時においては、加熱手段からの熱が、雌型2全体に伝熱することを抑制し、効率的に金属板6(キャビティ面6a)を加熱させることができる。また、冷却時においては、金属板6からの熱を効率的に温度調節管7に向けて伝熱等させることができ、効率的に金属板6(キャビティ面6a)を冷却させることができる。
【0024】
また、雌型2には、この断熱部材11を外側から覆うように枠部材12が設けられている。この枠部材12は、金属板6、温度調節管7及び断熱部材11を保持するものであり、その材質は、金属板6、温度調節管7及び断熱部材11を保持できれば特に制限されない。
【0025】
雄型3は、断面凸形状をなし、そのキャビティ面3aには、溶融状熱可塑性樹脂をキャビティ4内に供給するための2つの樹脂供給ゲート13,14が設けられている。なお、樹脂供給ゲートは1つでもよく、3つ以上設けてもよい。この樹脂供給ゲート13,14は、雄型3に形成された樹脂供給通路15に連通している。また、樹脂供給通路15には、熱可塑性樹脂を溶融し所定量だけ射出することのできる射出装置50の射出ノズルが接続されることで、キャビティ内に溶融状熱可塑性樹脂を供給することができる。さらに、雄型3には、キャビティ面3aを冷却するための複数の温度調節通路16が形成されている。
【0026】
なお、雄型3にもキャビティ側に金属板6を設け、金属板6におけるキャビティ面3aの裏面側に温度調節管を配設し、さらに断熱部材を設けてもよい。
【0027】
以上の雌型2及び雄型3からなる一対の金型1は、雄型3をプレス装置(図示せず)の固定盤に固定し、雌型2を可動盤に固定し、駆動装置により可動盤を固定盤の方向に移動することで型締めをすることができる。なお、雌型2を固定盤に固定し、雄型3を可動盤に固定してもよく、また、固定盤を可動盤に変更して、雌型2及び雄型3を双方とも可動できるようにしてもよい。
【0028】
続いて、図6〜9を参照して本発明に係る製造方法の好適な実施形態について説明する。まず、熱可塑性樹脂を射出装置に投入して熱可塑性樹脂成形体の基材となる溶融状熱可塑性樹脂を用意する。
【0029】
ここで、熱可塑性樹脂としては、圧縮成形、射出成形、押出成形等で通常使用される熱可塑性樹脂がそのまま適用される。このような樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエンブロック共重合体、ポリスチレン、ナイロン等のポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、スチレン−ブタジエンブロック共重合体等の一般的な熱可塑性樹脂、EPM、EPDM等の熱可塑性エラストマー、これらの混合物、これらを用いたポリマーアロイ等が挙げられる。
【0030】
また、これらの熱可塑性樹脂には、必要に応じて通常使用されるガラス繊維、各種の無機、有機フィラー等の充填材等が含有されてもよい。また、通常使用される各種の顔料、滑材、帯電防止剤、安定剤等の各種添加材が含有されてもよい。
【0031】
また、上記熱可塑性樹脂は、非発泡性であっても発泡性であってもく、発泡剤を含有してもよい。発泡剤としては、化学発泡剤を添加してもよく、液状又はガス状の二酸化炭素や窒素を直接溶融状樹脂中に圧入してもよい。
【0032】
化学発泡剤としては、熱可塑性樹脂の発泡体を製造する際に使用される公知の化学発泡剤を使用することができる。具体的には、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等の無機系発泡剤、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ベンゼンスルホニルヒドラジド、トルエンスルホニルヒドラジド、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホニルヒドラジド等のスルホニルヒドラジド類、p−トルエンスルホニルセミカルバジド等の発泡剤を使用することができる。さらに、必要に応じてサリチル酸、尿素又はこれらを含む発泡助剤を添加することが好ましい。
【0033】
なお、上記の発泡剤の種類は、使用する熱可塑性樹脂の溶融温度や目的とする発泡倍率等を考慮して適宜選択される。またその添加量は、目的とする成形品の強度、密度等を考慮して調整されるが、一般的に樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部程度である。
【0034】
<加熱工程>
次に、図6の(a)に示されるように、図1に示される金型1を使用して、雌型2を上方に移動させ雌型2及び雄型3を開き、その間に、加熱手段として高周波電磁誘導加熱が可能な加熱コイル17を搬送装置18を用いて外部から挿入する。そして、図6の(b)に示されるように、加熱コイル17を雌型2のキャビティ面6aに近づくように移動させて、高周波電磁誘導により雌型2のキャビティ面6aを加熱する。加熱手段を外部に配置することで、所望の位置を容易に加熱することができる。また、加熱手段として加熱コイルを用いることで、効率的にキャビティ面6aを加熱することができる。ここで、加熱は、キャビティ面6aの全面に対して行ってもよく、一部に対して部分的に行ってもよいが、成形サイクルの短縮化、コストの観点から部分的な加熱が好ましい。
【0035】
キャビティ面6aの一部を部分的に加熱する場合は、未加熱で成形するとウエルド、シルバーストリーク、フローマーク等の不良が発生しやすい成形体の部位に対応するキャビティ面6aの部分を含む領域を加熱することが好ましい。例えば、ウエルドの発生しやすい部位は、キャビティ4内において、溶融状熱可塑性樹脂の2つ以上の流れが合流する部分になる。図1に示される2つの樹脂供給ゲート13,14を有する金型1を使用して、図7に示されるような熱可塑性樹脂成形体19Aを成形する場合は、各樹脂供給ゲート13,14に対応する位置13a,14aの中間部L1付近にウエルドが発生しやすい。このため、キャビティ面6aにおいて、各樹脂供給ゲート13,14の中間部を含んだ領域を加熱することが好ましい。また、図1とは異なる金型(図示せず)を使用して、図8に示されるような開口部21を有する熱可塑性樹脂成形体19Bを成形する場合は、樹脂供給ゲートから供給された溶融状態の樹脂が開口部を回りこんで合流するために、樹脂供給ゲートに対応する位置13bに対して開口部21の後方端縁中間部L2にウエルドが発生しやすい。このため、キャビティ面において、開口部21の後方端縁中間部L2に対応する位置を含んだ領域を加熱することが好ましい。
【0036】
加熱されるキャビティ面6aの温度は、キャビティ4内に溶融状熱可塑性樹脂を供給する時点において、加熱される前の温度よりも20℃以上高い温度であることが好ましい。温度が20℃よりも低いとウエルド等の外観不良が発生しやすくなる傾向がある。また、加熱されるキャビティ面6aの温度は、供給される熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上であることが特に好ましい。キャビティ面6aの温度を熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度とすることで、外観不良の発生を効果的に抑制することができる。なお、この荷重たわみ温度は、JIS K7191−2のB法に従い測定することができる。
【0037】
また、キャビティ面6aの一部を部分的に加熱する場合、加熱されるキャビティ面6aの温度は、キャビティ4内に溶融状熱可塑性樹脂を供給する時点において、加熱される前の温度よりも20〜60℃高い温度であることが好ましい。60℃よりも高い温度であると、加熱部分と非加熱部分との温度差が大きくなり、成形体の表面に光沢ムラ等の不良が発生しやすくなる傾向がある。また、加熱前における金型温度を予め50℃以上とすることが好ましく、60℃以上とすることが特に好ましい。金型温度が50℃以下であると、成形体の表面の光沢ムラ等の不良が発生しやすくなる傾向がある。
【0038】
なお、加熱コイル17は、キャビティ面6aを均一に加熱するために、加熱コイル17を形成する銅管をキャビティ面6aの形状に対応する形状とすることが好ましい。また、この加熱コイル17を電気ヒータ等の加熱手段に変更することもできる。
【0039】
<供給工程>
続いて、図9の(a)に示されるように、加熱された雌型2及び雄型3を閉じてキャビティ4を形成し、これら雌雄一対の金型1で形成するキャビティ4内に、雄型3に形成された樹脂供給通路15を介して、2つの樹脂供給ゲート13,14から溶融状熱可塑性樹脂22を供給する。なお、各樹脂供給ゲート13,14から供給された溶融状熱可塑性樹脂22はキャビティ4内を流動し、各樹脂供給ゲート13,14の中間点付近で合流し、この付近でウエルド等の不良が発生しやすくなる。しかしながら、この合流部付近のキャビティ面6aは予め加熱コイル17で加熱されているために、冷却する際に固化する速度が遅くなり、ウエルド等の外観不良の発生を抑制することができる。
【0040】
そして、溶融状熱可塑性樹脂22の供給を開始した時点での金型1のキャビティ4は、目的の成形体厚さよりも大きなクリアランスとし、供給開始後にクリアランスが小さくなるように雌型2を下降させる、いわゆる型締めを行う(図9の(b)参照)。型締めを行うことで、射出圧力や型締め圧力を低圧化することができ、装置の小型化や品質の優れた成形体を得ることができる。この型締めを行うタイミングは、溶融状熱可塑性樹脂を供給中又は供給が完了した後のいずれでもよいが、供給完了後に型締めを行う場合には、供給完了後速やかに型締めを開始することが好ましい。なお、図中では縦方向に型締めする例を示しているが、型締め方向は縦方向であっても横方向であってもよい。また、熱可塑性樹脂成形体の用途や形状、大きさ等によっては、キャビティ4のクリアランスは、熱可塑性樹脂成形体の厚さと略同一寸法に調整した状態で溶融状熱可塑性樹脂を供給してもよい。さらに、溶融状熱可塑性樹脂の供給を開始した時点では、目的の成形体厚さよりも小さなクリアランスとし、供給量に応じてクリアランスが大きくなるように雌型2を上昇させてもよい。
【0041】
<冷却・成形工程>
キャビティ内に充填された溶融状熱可塑性樹脂22を所定時間冷却して固化させる。溶融状熱可塑性樹脂22の固化は、雌型2内に設けられた温度調節管7内及び雄型3に形成された温度調節通路16内に冷却媒体を流動させて、キャビティ面6a,3aを冷却することで行う。図9の(c)に示されるように、溶融状熱可塑性樹脂22が固化されたらプレス装置の可動盤を上昇させて雌型2及び雄型3を開き熱可塑性樹脂成形体23を取り出す。その後所定の処理を施して製品としての成形体が完成する。
【0042】
以上の本実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、金型の外部に配置される加熱手段によりキャビティ面6aが加熱された雌型2で形成されるキャビティ4内に溶融状熱可塑性樹脂22を供給する。このため、所望の位置を容易に加熱することができると共に、熱可塑性樹脂成形体23にウエルド等の外観不良が発生しにくくなる。加えて、加熱される雌型2は、キャビティ面6aを形成する金属板6と、金属板6におけるキャビティ面6aに対して裏面6b側に設けられる断熱部材11とを有している。このため、金属板6のみを効果的に加熱してキャビティ面6aの温度を上げることができるので、金型全体を加熱してキャビティ面の温度を上げる従来の製造方法に比べて、加熱される金型部分の熱容量を小さくすることができる。その結果、加熱時間を短縮することができると共に、冷却時間も短縮することができる。したがって、成形サイクルの短縮化を図りつつ、良好な外観の熱可塑性樹脂成形体23を得ることができる。
【0043】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
図1に示される金型1を使用して、以下の手順で図7に示される形状の幅600mm、長さ800mm、厚さ2.5mmの熱可塑性樹脂成形体を成形した。まず、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(住友化学(株)社製、商品名:住友ノーブレンAZ864E4、MFR:30g/10分)を準備した。次に、雌型2のキャビティ面6aの中央部付近を含む幅400mmの範囲を、高周波誘導加熱装置(高周波発信周波数20kHz、出力50kW)を用いて加熱した。続いて、雌型2及び雄型3からなる金型1を所定のキャビティクリアランスになるまで閉じ、その後キャビティ4内に、予め溶融した溶融状可塑性樹脂を供給し充填した。金型1を型開きして熱可塑性樹脂成形体を得た。加熱条件及び成形条件は以下のとおりである。
<加熱条件>
金型キャビティの中央部付近の加熱温度:160℃
溶融状熱可塑性樹脂の供給開始時の金型キャビティ表面温度:120℃
<成形条件>
樹脂温度:230℃
冷却水温度(温度調節管7用):5℃(加熱終了後に冷却水供給)
冷却水温度(温度調節通路16用):40℃(常時通水)
加圧面圧:2MPa
【0046】
得られた熱可塑性樹脂成形体は、ウエルドや転写ムラがなく外観良好であった。また、成形体が70℃となるまでに要した冷却時間は32秒であった。
【0047】
(比較例1)
図10に示される金型24、すなわち、内部に温度調節通路25が一体的に形成され、金属板や断熱部材を有さない雌型26を用いたこと以外は、実施例1と同様に熱可塑性樹脂成形体を成形した。得られた熱可塑性成形体は、中央部付近にウエルドや転写ムラがなく外観良好であったが、成形体が70℃となるまでに要した冷却時間は68秒であった。
【0048】
以上のことから、本発明に係る製造方法によれば、成形サイクルの短縮化を図りつつ、良好な外観の熱可塑性樹脂成形体が得られること確認された。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る熱可塑性樹脂成形体の製造方法に用いられる金型の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示した熱可塑性樹脂成形用金型の温度調節管と金属板との接合形態を示す断面図である。
【図3】温度調節管と金属板との他の接合形態を示す部分断面図である。
【図4】温度調節管と金属板との他の接合形態を示す部分断面図である。
【図5】温度調節管と金属板との他の接合形態を示す部分断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体の製造方法の製造工程の一部を示す図である。
【図7】熱可塑性樹脂成形体における外観不良の発生箇所の一例を示す外観斜視図である。
【図8】熱可塑性樹脂成形体における外観不良の発生箇所の一例を示す外観斜視図である。
【図9】本発明の実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体の製造方法の製造工程の一部を示す図である。
【図10】従来の熱可塑性樹脂成形用金型を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1…熱可塑性樹脂成形用金型、2…雌型、3…雄型、4…キャビティ、6…金属板、6a…キャビティ面、11…断熱部材、17…加熱コイル、22…溶融状熱可塑性樹脂、23…熱可塑性樹脂成形体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金型及び前記第1の金型との間にキャビティを形成する第2の金型のうち、少なくとも一方の金型における前記キャビティを形成するキャビティ面を前記金型の外部に配置される加熱手段により加熱する加熱工程と、
前記キャビティ内に溶融状熱可塑性樹脂を供給する供給工程と、
供給された前記溶融状熱可塑性樹脂を冷却する冷却工程と、を備え、
前記少なくとも一方の金型は、前記キャビティ面を有する金属板と、前記金属板における前記キャビティ面に対して裏面側に設けられる断熱部材とを有する、熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記金属板は、電鋳により形成されてなる請求項1記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記加熱手段は、高周波誘導加熱をすることのできる加熱コイルである請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程において、前記キャビティ面の一部を部分的に加熱する請求項1〜3のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記供給工程において、前記キャビティ内に前記溶融状熱可塑性樹脂の供給を開始するときにおける前記キャビティ面の温度は、前記熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上である請求項1〜4のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記供給工程において、前記溶融状熱可塑性樹脂を供給しながら前記第1の金型及び前記第2の金型を型締めする請求項1〜5のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−246781(P2008−246781A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89534(P2007−89534)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】