説明

熱可塑性樹脂成形体の製造方法

【課題】リングマークの発生を抑制し、外観良好な熱可塑性樹脂成形体を製造する方法を提供する。
【解決手段】キャビティ40を形成するキャビティ面31を有する一対の金型10を開放状態とし、前記キャビティへ熱可塑性樹脂51の供給を行う供給工程と、前記熱可塑性樹脂の供給が完了するまでに、前記金型の型締めを開始し、型締めを行う型締め工程を有する成形体の製造方法であって、前記金型の型開き及び型締めを行う駆動装置の駆動源は、電動機であり、前記型締め工程開始時における前記装置の型締め速度の加速度は、35mm/sec2以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂成形体は、経済性、軽量性、良好な賦形性から自動車の内装部品や外装部品、家電製品、住設関連製品等の分野で幅広く使用されている。
【0003】
このような熱可塑性樹脂成形体は、射出成形や圧縮成形などの成形方法により製造されることが知られている。例えば、型締め動作を途中で停止又は減速してキャビティ空間に溶融樹脂を供給し、前記溶融樹脂の供給は金型の底面部の主要部の間隔が50mm以下で成形品の対応部分の肉厚プラス0.1mm以上の間に行い、溶融樹脂の供給が完了すると同時、又は直前に型締めを再開又は再増速し、かつ、溶融樹脂の供給完了後速やかに供給口を閉鎖して製品厚みまでプレス成形することを特徴とする成形品の製造方法が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭61−22917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の方法によれば、低圧力で外観の良好な成形体を得ることができるが、成形条件によってはリングマークが形成されてしまうことがある。そのため、このリングマークの発生を抑制することが求められている。
以上の課題に鑑み、本発明は、リングマークの発生を抑制し、外観良好な熱可塑性樹脂成形体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、以下のような構成を採用することにより本発明の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、キャビティを形成するキャビティ面を有する一対の金型を開放状態とし、前記キャビティへ熱可塑性樹脂の供給を行う供給工程と、前記熱可塑性樹脂の供給が完了するまでに、前記金型の型締めを開始し、型締めを行う型締め工程を有する成形体の製造方法であって、前記金型の型開き及び型締めを行う駆動装置の駆動源は、電動機であり、前記型締め工程開始時における前記装置の型締め速度の加速度は、35mm/sec2以下である熱可塑性樹脂成形体の製造方法を提供するものである。
本発明において、「型締め」とは、所定寸法のキャビティが各金型のキャビティ面により形成されるまで一対の金型を相対的に接近させること、又は、形成されたキャビティの寸法が変化しないように金型を保持することをいう。そして「型開き」とは、一対の金型を相対的に離隔させることをいう。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、リングマークの発生を抑制し、外観良好な熱可塑性樹脂成形体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図を用いて詳細に説明する。なお、同じ符号は同じ部材を示し、その説明を省略する。
【0008】
〔金型〕
まず、本発明に係る熱可塑性樹脂成形体(以下、単に成形体ともいう)の製造方法において使用する金型について説明する。金型は、通常の射出成形やプレス成形に用いられる金型であれば、その形状は特に限定されるものではない。
【0009】
図1は本発明で好ましく使用される金型を示した図である。金型10は、雌型20及び雄型30の雌雄一対からなり、雌型20と雄型30を閉じた状態で、その内部にキャビティ40が形成される。
【0010】
雄型30は、キャビティ40を形成するキャビティ面31と反対側の面には、当該キャビティ面31を加熱又は冷却するための複数の温度調節通路310が形成され、この温度調節通路310には、熱交換媒体供給装置(図示せず)が接続されている。そして、そのキャビティ面31には、溶融状熱可塑性樹脂をキャビティ40内に供給するための樹脂供給ゲート320が少なくとも1つ設けられている。この樹脂供給ゲート320は、雄型30に形成された樹脂供給通路32に連通している。また、樹脂供給通路32には、熱可塑性樹脂を溶融し所定量だけ射出することのできる射出装置50の射出ノズルが接続されることで、キャビティ40内に溶融状熱可塑性樹脂を供給することができる。
【0011】
同様に雌型20は、キャビティ40を形成するキャビティ面21と反対側の面には、当該キャビティ面21を加熱又は冷却するための複数の温度調節通路220が形成され、この温度調節通路220には、熱交換媒体供給装置(図示せず)が接続されている。
【0012】
以上の雌型20及び雄型30からなる一対の金型10は、雄型30をプレス装置(図示せず)の固定盤に固定し、雌型20を可動盤に固定し、駆動装置により可動盤を固定盤の方向に移動することで金型10の型開き及び型締めを行うことができる。なお、雌型20を固定盤に固定し、雄型30を可動盤に固定してもよく、また、固定盤を可動盤に変更して、雌型20及び雄型30を双方とも可動できるようにしてもよい。金型10の型開き及び型締めを行う駆動装置の駆動源は、電動機である。
【0013】
〔供給工程〕
次いで、本発明に係る成形体の製造方法について説明する。
図2は、開放状態にある雌雄一対の金型10で形成するキャビティ40内に、雄型30に形成された樹脂供給通路32を介して、樹脂供給ゲート320から溶融状の熱可塑性樹脂51を供給開始したところを示している。このように開放状態にある金型を用いることにより、金型にかかる圧力を低くすることが可能となる。
【0014】
この時の金型キャビティクリアランスは図3のC1に示すように、製品厚みC4より大きければ特に制限はないが、表皮材を使用しない場合には、製品の厚み+20mm以下とすることが成形品の外観の観点から好ましい。
本発明における供給工程は、予め金型のキャビティクリアランスを所望の値に設定してから熱可塑性樹脂の供給を開始する場合と、一度金型を所定位置まで閉じ、金型を開きながら熱可塑性樹脂の供給を開始する場合のどちらであってもよい。
【0015】
なお、溶融状の熱可塑性樹脂の供給は、供給速度は600cc/sec以上であることが好ましく、800cc/sec以上であることがより好ましい。この供給速度は途中で変更してもよい。供給速度を600cc/sec以上とすることにより、金型キャビティ表面を流動する時の流動速度の低下を防止し、型締め時の流動速度との差を小さくすることが可能となる。このため、金型表面の転写状態の差が大きくなって転写ムラが発生してしまうことを防止することが可能となる。
本発明における溶融状熱可塑性樹脂の「供給速度」とは、射出装置から射出される樹脂容量と、その射出時間から、算出された単位時間当りの射出容量をいう。
【0016】
〔型締め工程〕
溶融状熱可塑性樹脂を供給開始した後、全樹脂量の供給が完了する前に、型締めを開始し、溶融状熱可塑性樹脂の供給が完了した(図3C3参照)後に型締めを完了する(図3C4参照)。
熱可塑性樹脂の供給が完了する前に型締めを開始することで、溶融状熱可塑性樹脂の流動を停止させることなく、賦形を行うことができ、リングマークの発生を抑制できる。また、溶融状熱可塑性樹脂の供給が完了後に型締めを完了することで、低圧での樹脂供給が可能となる。型締めを開始するタイミングは溶融状熱可塑性樹脂の供給が完了する前であれば特に制限はない。
雌雄金型を型締めする時の型締め速度は、特に制限はないが、その最大値が30mm/secを超え、300mm/sec以下であることが好ましい。30mm/secを超えることにより、型締めに要する力を小さくすることが可能となる。また、300mm/sec以下とすることにより型締め時に金型に係る衝撃を小さくすることが可能となる。
【0017】
型締めを開始する時の装置の型締め速度の加速度は35mm/sec2以下であることが必要であり、30mm/sec2以下であることがより好ましい。
加速度を35mm/sec2以下とすることにより、溶融状の熱可塑性樹脂が金型キャビティ表面を流動する時の流動速度の急激な変化を抑制することが可能となり、金型キャビティ表面の転写状態の差を目立ち難くすることができる。その結果、成形体のリングマークの発生を抑制し、外観良好な成形体を提供することが可能となる。特にその表面にシボ等の凹凸形状を有しており、その溝深さが50μm以下の成形体ではリングマーク抑制の効果が大きく、シボ等の凹凸形状のない成形体ではリングマーク抑制効果がより大きい。
本発明における「加速度」とは、型締め速度を、金型を停止状態から所定の型締め速度に達するまでに要した時間で除した値をいう。
【0018】
なお、型締め速度は途中で変更してもよいが、増速する場合は加速度が35mm/sec2以下、減速する場合は減速度が25mm/sec2以下とすることが好ましい。
このことにより、金型キャビティ表面を流動する流動速度の急激な変化をできるだけ小さくし、リングマークの発生を抑制することができる。
【0019】
〔冷却工程〕
本発明では、型締め工程後に供給された熱可塑性樹脂を冷却する冷却工程を有していてもよい。
各キャビティ面21,31の具体的な冷却方法としては、図1に記載の雌型20内に設けられた温度調節通路220及び雄型30内に形成された温度調節通路310内に、例えば水のような冷却媒体を流通させて、キャビティ面21,31をそれぞれ冷却する方法が挙げられる。
なお、冷却時間としては、成形体を取り出したときに、変形しない温度となっていることが好ましい。具体的には、1秒〜60秒であることが好ましく、1秒〜40秒であることがより好ましい。冷却時間を上記の範囲とすることにより生産性の低下を防止することが可能となる。
【0020】
上記のような工程を経た後は装置の可動盤を動かし、キャビティを開き、中から得られた成形体を取り出す。
以上の工程により本発明に係る成形体を得ることが可能となる。
なお、図では1、2では縦方向に型締めする例を示しているが、型締め方向は縦方向であっても横方向であってもよい。
【0021】
ここで、本発明に係る製造方法において使用可能な熱可塑性樹脂としては、圧縮成形、射出成形、押出成形等で通常使用される熱可塑性樹脂が挙げられる。このような樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエンブロック共重合体、ポリスチレン、ナイロン等のポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、スチレン−ブタジエンブロック共重合体等の一般的な熱可塑性樹脂、エチレン・プロピレンゴム(EPM、EPDM)等の熱可塑性エラストマー、これらの混合物、及びこれらを用いたポリマーアロイ等が挙げられる。
【0022】
また、これらの熱可塑性樹脂は、必要に応じて通常使用される無機、有機フィラー等の充填材等を含有していてもよい。また、通常使用される各種の顔料、滑材、帯電防止剤、安定剤等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0023】
また、本発明に係る製造方法においては、予め雌雄一対の金型間に表皮材を供給し、表皮材を貼合した成形体を得ることができるが、この時に使用可能な表皮材としては、例えば、モケットやトリコット等の織物や編み物、ニードルパンチカーペット等の不織布、金属フォイル、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーのシートやフィルム等が挙げられる。
【0024】
不織布を構成する繊維としては、例えば、綿、毛、絹、麻等の天然繊維、ポリアミド、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維が挙げられる。不織布は、単一種の繊維から構成されていても、2種以上の繊維から構成されていてもよい。
合成樹脂のシートやフィルムとしては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂やポリオレフィン系熱可塑性エラストマーのシートやフィルムが挙げられ、基材樹脂として使用される熱可塑性樹脂との融着性が良好なものが好ましく使用される。
【0025】
これらの表皮材は、発泡層や裏打ち層を有する多層表皮材であってもよい。
発泡層としては、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン発泡体、ポリ塩化ビニル発泡体、軟質又は半硬質のポリウレタン発泡体等が挙げられる。また、裏打ち層としては、例えば、不織布、合成樹脂シートやフィルム等が挙げられる。
なお、これらの多層表皮材は、熱可塑性樹脂からなる基材部分との接着性の観点から、熱可塑性樹脂との熱融着性が良好なものや表皮材裏面に溶融状熱可塑性樹脂が含浸して基材樹脂との接着が可能なもの等が好ましく使用される。
【0026】
本発明に係る方法により得られた成形体は、自動車のドアトリムやインストルメントパネル等の内装部品や外装部品、家電製品の内外装部品、浴室パネルやフロア等の住設関連部品等に好適に用いることが可能である。
【0027】
[実施例1]
成形装置として商品名SLIM1016(佐藤鉄工所製、型締め力980kN、射出容量1600cc)を、熱可塑性樹脂として商品名住友ノーブレン(住友化学社製、MFR=30g/10分)を用いて、400×600mm、厚み2.5mmの寸法の成形体を成形した。得られた成形体のリングマーク発生状況を目視で確認した結果を表1に示す。表中、○は、リングマークの発生が目視で確認できなかったことを示し、×はリングマークの発生が目視で確認できたことを示す。
<成形条件>
樹脂温度:230℃
金型温度:50℃
溶融状熱可塑性樹脂を供給開始するキャビティクリアランス:20mm
型締め速度:30mm/sec
溶融状熱可塑性樹脂を供給完了するキャビティクリアランス:5mm
型締めを開始する時の加速時間設定値:5sec
加圧面圧:4MPa
冷却時間:30sec
【0028】
[実施例2]
成形条件を、型締め速度:50mm/sec、型締めを開始する時の加速時間設定値:5secとした以外は実施例1と同様に成形した。
【0029】
[比較例1]
成形条件を、型締めを開始する時の加速時間設定値:3sec、とした以外は実施例1と同様に成形した。
【0030】
[比較例2]
成形条件を、型締めを開始する時の加速時間設定値:3sec、とした以外は実施例2と同様に成形した。
【0031】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る成形体の製造方法で好ましく使用される金型の断面を示した図である。
【図2】本発明に係る成形体の製造方法における供給工程を示した図である。
【図3】供給工程において、金型キャビティクリアランスと供給時間との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0033】
10 金型
20 雌型
21、31 キャビティ面
30 雄型
32 樹脂供給通路
220、310 温度調節通路
320 樹脂供給ゲート
40 キャビティ
50 射出装置
51 熱可塑性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティを形成するキャビティ面を有する一対の金型を開放状態とし、前記キャビティへ熱可塑性樹脂の供給を行う供給工程と、
前記熱可塑性樹脂の供給が完了するまでに、前記金型の型締めを開始し、型締めを行う型締め工程を有する成形体の製造方法であって、
前記金型の型開き及び型締めを行う駆動装置の駆動源は、電動機であり、
前記型締め工程開始時における前記装置の型締め速度の加速度は、35mm/sec2以下である熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記型締め工程における前記装置の型締め速度の最大値は、30mm/sec2以上300mm/sec2以下である請求項1に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記供給工程における熱可塑性樹脂の供給速度は、600cc/sec以上である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−58422(P2010−58422A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228047(P2008−228047)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】