説明

異常検出装置およびブレーキ装置

【課題】大気圧センサの固着異常の有無を、従来の方法とは異なった方法で検出する。
【解決手段】車両周辺の大気圧はエンジンの作動状態に基づいて推定される。推定値である本推定値は、更新条件が満たされると更新されるのであり、段階的に変化させられる。そして、車両周辺の大気圧が低下する傾向にある場合において、異常検出開始条件が成立してから、本推定値が更新されるまでの間に、本推定値が大気圧センサによる検出値より小さい場合に、この間の大気圧センサの検出値の最大変化幅が固着異常判定しきい値以上の場合には大気圧センサは正常であるとされ(a)、変化量の絶対値が固着異常判定しきい値より小さい場合には固着異常であるとされる(b)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧センサの異常の有無を検出する異常検出装置および異常検出装置を備えたブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、車両周辺の大気圧を検出する大気圧センサの異常の有無を検出する異常検出装置が記載されている。これら異常検出装置においては、大気圧センサの検出値と、エンジンの状態に基づいて推定された推定値との差の絶対値が異常判定しきい値より大きい場合に、大気圧センサが異常であると判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−174501号公報
【特許文献2】特開2008−199769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、大気圧センサの異常を、特許文献1,2に記載の方法とは別の方法で検出することである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
請求項1に記載の異常検出装置は、車両に設けられ、その車両周辺の大気圧を検出する大気圧センサの異常の有無を検出する異常検出装置であって、(a)前記車両周辺の大気圧を推定する大気圧推定装置と、(b)その大気圧推定装置によって推定された推定大気圧の設定期間の間の変化量の絶対値が設定値以上である場合に、前記大気圧センサの検出値の前記設定期間の間の変化量の絶対値が予め定められた固着異常判定しきい値より小さい場合に、その大気圧センサが固着異常であると検出する固着異常検出部とを含むものである。
請求項1に記載の異常検出装置においては、設定期間の間において、推定大気圧の変化量の絶対値が設定値以上であるにもかかわらず、大気圧センサの検出値の変化量の絶対値が固着異常判定しきい値より小さい場合に、大気圧センサが固着異常であると検出される。実際の大気圧が変化し、それによって、推定大気圧が設定値以上変化したと推定された場合に、大気圧センサの検出値の変化量の絶対値が固着異常判定しきい値より小さい場合に異常であると判定されるのであり、特許文献1,2に記載のように、推定大気圧とセンサ値との差の絶対値が異常判定しきい値以上である場合に大気圧センサが異常であると判定されるのではない。
設定期間は、固定期間であっても、可変期間であってもよく、(i)異常検出開始条件が成立した時から設定時間以上が経過するまでの期間としたり、(ii)異常検出開始条件が成立した時から推定大気圧の変化量の絶対値が設定値以上になった時までの期間としたり、(iii)異常検出開始条件が成立した時から異常検出条件が成立する時までの期間としたりすることができる。
異常検出開始条件は、例えば、(i)車両のイグニッションスイッチがOFFからONに切り換えられたこと、(ii)車両の走行速度が停止状態ではないとみなし得る設定速度以上になったこと、(iii)推定大気圧が更新されたこと等とすることができる。
例えば、異常検出開始条件が、(i)車両のイグニッションスイッチがOFFからONに切り換えられたこと、あるいは、(ii)車両の走行速度が設定速度以上になった場合になったこととした場合において、設定期間を、(x)エンジンの状態が安定したとみなし得る期間とすることができる。また、異常検出開始条件が、(iii)推定大気圧が更新されたこととした場合には、設定期間を、推定大気圧が次に更新されるまでの間とすることができる。
推定大気圧の変化量の絶対値とは、設定期間の間の推定大気圧の最大値から最小値を引いた値としたり、異常検出開始条件が満たされた時の推定大気圧と設定期間が終了した時の推定大気圧との差の絶対値としたりすること等ができる。同様に、大気圧センサの検出値の変化量の絶対値には、設定期間の間の最大値から最小値を引いた値としたり、異常検出開始条件が満たされた時の検出値と設定時間が終了した時の検出値との差の絶対値としたりすること等ができる。
なお、車両は、駆動装置にエンジンを含むガソリン駆動車であっても、エンジンおよび駆動用電動モータを含むハイブリッド車であってもよい。
【特許請求可能な発明】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組を、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0007】
(1)車両に設けられ、その車両周辺の大気圧を検出する大気圧センサの異常の有無を検出する異常検出装置であって、
前記車両周辺の大気圧を推定する大気圧推定装置と、
その大気圧推定装置によって推定された推定大気圧の設定期間の間の変化量の絶対値が設定値以上である場合に、前記大気圧センサの検出値の前記設定期間の間の変化量の絶対値が予め定められた固着異常判定しきい値より小さい場合に、その大気圧センサが固着異常であると検出する固着異常検出部と
を含むことを特徴とする異常検出装置。
(2)前記固着異常検出部が、前記設定期間の間に、(a)前記大気圧推定装置によって推定された推定大気圧が前記大気圧センサによる検出値より小さいこと、(b)前記大気圧推定装置によって推定された推定大気圧が前記設定値以上低下したこと、(c)前記大気圧センサによる検出値の変化量の絶対値が前記固着異常判定しきい値より小さいことの3つの条件が満たされた場合に、前記大気圧センサが固着異常であると検出する第1異常検出手段を含む(1)項に記載の異常検出装置。
推定大気圧が大気圧センサによる検出値より大きい状態から低下した場合には、車両周辺の大気圧が変化したことによって低下した場合と、推定大気圧が車両周辺の大気圧の実際値に近づけられた、すなわち、推定値と実際値との誤差を小さくするために低下した場合とが考えられる。
それに対して、推定大気圧が大気圧センサによる検出値より小さい状態からさらに低下した場合には、「車両周辺の大気圧が実際に低下した」と推定することができる。換言すれば、車両周辺の大気圧が実際に低下し、推定大気圧が低下したと推定されるのである。
そのため、推定大気圧が大気圧センサによる検出値より小さい状態から、さらに、低下した場合において、大気圧センサによる検出値が殆ど変化しない場合には、大気圧センサの固着異常であるとすることができる。
(3)前記固着異常検出部が、前記設定期間の間に、(a)前記大気圧推定装置によって推定された推定大気圧が前記大気圧センサによる検出値より大きいこと、(b)前記大気圧推定装置によって推定された推定大気圧が前記設定値以上上昇したこと、(c)前記大気圧センサによる検出値の上昇量が前記固着異常判定しきい値より小さいことの3つの条件が満たされた場合に、前記大気圧センサが固着異常であると検出する第2異常検出手段を含む(1)項または(2)項に記載の異常検出装置。
推定大気圧が大気圧センサによる検出値より大きい状態からさらに上昇した場合には、車両周辺の大気圧が実際に上昇して、推定大気圧が上昇したと推定される。そのため、推定大気圧が大気圧センサによる検出値より大きい状態からさらに上昇した場合において、大気圧センサによる検出値が殆ど変化しない場合には、大気圧センサの固着異常であるとすることができる。
(4)前記大気圧推定装置が、(a)予め定められた推定条件が成立する毎に、前記車両に設けられたエンジンの状態に基づいて、前記大気圧を暫定的に推定する暫定的推定部と、(b)予め定められた更新条件が成立する毎に、少なくとも、前記暫定的推定部によって推定された大気圧である暫定的推定大気圧に基づいて本推定大気圧を更新する本推定部とを含む(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の異常検出装置。
暫定的推定大気圧は、エンジン回転数、スロットル開度、燃焼室の吸気側を流れる空気量等に基づいて取得することができる。推定条件は、(i)予め定められた設定時間が経過する毎に成立する条件としたり、(ii)エンジンの状態が予め定められた状態に達する毎に成立する条件としたりすることができる。
本推定大気圧は、過去の本推定大気圧の値や変化状態、暫定的推定大気圧の変化状態、暫定的推定大気圧のデータを統計的処理をした結果等に基づいて取得される。例えば、暫定的推定大気圧が確実に上昇傾向あるいは低下傾向にあると検出された場合に、今回の本推定大気圧と前回の本推定大気圧との差の絶対値が上限値を超えないように、今回の本推定大気圧値が決定されるようにすることができる。更新条件は、暫定的推定大気圧の変化状態やエンジンの状態等に基づいて決まり、これらに基づいて成立するか否かが判定される。
(5)前記固着異常検出部が、前記車両周辺の大気圧が低下傾向にあると推定された場合に前記第1異常検出手段を選択し、前記車両周辺の大気圧が上昇傾向にあると推定された場合に前記第2異常検出手段を選択する手段選択部を含む(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の異常検出装置。
第1異常検出手段と第2異常検出手段とのいずれか一方を選択することは不可欠ではないが、予め選択しておけば便利である。
例えば、ナビ情報(地図情報、現在位置および目的地)に基づけば、車両が標高が高くなる向きに走行しているか標高が低くなる向きに走行しているかがわかる。
また、天気情報に基づけば、低気圧が近づくか高気圧が近づくかがわかる。
さらに、暫定的推定大気圧の変化傾向に基づけば、車両周辺の大気圧が低下傾向にあるか上昇傾向にあるかを取得することができる。
(6)(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の異常検出装置と、
ブレーキ操作部材と、
車輪に設けられたブレーキのブレーキシリンダと、
そのブレーキシリンダに接続されたマスタシリンダと、
前記ブレーキ操作部材に連携させられた入力ロッドに加えられた力を、変圧室と負圧室との間の差圧により倍力して前記マスタシリンダに出力するバキュームブースタと、
そのバキュームブースタが助勢限界に達した場合の前記マスタシリンダの液圧である助勢限界時マスタシリンダ液圧を取得する助勢限界時マスタシリンダ液圧取得部と
を含むとともに、
前記助勢限界時マスタシリンダ液圧取得部が、
(e)前記異常検出装置によって前記大気圧センサが正常であるとされた場合に、その大気圧センサによって検出された圧力を前記バキュームブースタが助勢限界に達した場合の変圧室の圧力として、前記助勢限界時マスタシリンダ液圧を取得する正常時取得手段と、
(f)前記異常検出装置によって前記大気圧センサが固着異常であるとされた場合に、前記大気圧推定装置によって推定された推定大気圧を前記バキュームブースタが助勢限界に達した場合の前記変圧室の圧力として、前記助勢限界時マスタシリンダ液圧を取得する異常時取得手段と
を含むことを特徴とするブレーキ装置。
負圧室の圧力であるブースタ負圧が同じである場合には、助勢限界に達した場合の変圧室の圧力が高い場合は低い場合より、バキュームブースタが出力可能な最大助勢力が大きくなり、助勢限界時マスタシリンダ液圧が高くなる。そのため、助勢限界に達した場合の変圧室の圧力に基づけば、助勢限界時マスタシリンダ液圧を取得することができる。また、助勢限界に達した場合の変圧室の圧力は大気圧であるため、大気圧に基づけば助勢限界時マスタシリンダ液圧を取得することができる。そして、大気圧センサが正常である場合には大気圧センサによって大気圧が取得され、大気圧センサが異常である場合には、推定大気圧が用いられる。
(7)前記異常時取得手段が、前記大気圧センサが固着異常であると検出された場合における前記推定大気圧を前記変圧室の圧力とする手段を含む(6)項に記載のブレーキ装置。
助勢限界時の変圧室の圧力として、大気圧センサの固着異常が検出された場合の推定大気圧の値が用いられる。推定大気圧は本推定大気圧とすることができる。
なお、直近の推定大気圧を助勢限界時の変圧室の圧力とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1に係る液圧ブレーキ装置およびエンジンを概念的に示す図である。液圧ブレーキ装置には、本発明の実施例1に係る異常検出装置が含まれる。
【図2】上記液圧ブレーキ装置のバキュームブースタ周辺を示す図である。
【図3】上記液圧ブレーキ装置のブレーキ回路を示す図である。
【図4】上記液圧ブレーキ装置に含まれる圧力制御弁を概念的に示す図である。
【図5】上記液圧ブレーキ装置が搭載された車両が山登りをする場合の、車両周辺の大気圧の変化と、大気圧推定値の変化とを比較して示す図である。
【図6】上記液圧ブレーキ装置が搭載された車両が山下りをする場合の、車両周辺の大気圧の変化と、大気圧推定値の変化とを比較して示す図である。
【図7】上記異常検出装置における実行(異常検出)を示す図である。
【図8】図7の場合とは別の状態における上記異常検出装置における実行を示す図である。
【図9】上記異常検出装置に含まれるエンジンECUの記憶部に記憶された大気圧推定プログラムを表すフローチャートである。
【図10】上記エンジンECUの記憶部に記憶された異常検出(山登り)プログラムを表すフローチャートである。
【図11】上記エンジンECUの記憶部に記憶された異常検出(山下り)プログラムを表すフローチャートである。
【図12】上記液圧ブレーキ装置において実行される助勢限界後アシスト制御の内容を概念的に示す図である。
【図13】(a)上記液圧ブレーキ装置に含まれるブレーキECUの記憶部に記憶された助勢限界時液圧決定テーブルを示すマップである。(b)上記液圧ブレーキ装置におけるマスタシリンダ液圧と踏力との関係を示す図である。
【図14】上記ブレーキECUの記憶部に記憶された助勢限界後アシスト制御を表すフローチャートである。
【図15】実施例2に係る異常検出装置のエンジンECUの記憶部に記憶された異常検出(山登り)プログラムを表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態である異常検出装置について図面に基づいて詳細に説明する。異常検出装置によって得られた結果は、ブレーキの助勢限界後アシスト制御に利用したり、エンジンの制御に利用したり、ハイブリッド車両のコンバータの制御に利用したりすることができる。以下の実施例においては、助勢限界後アシスト制御に利用される場合について、すなわち、異常検出装置が本発明の一実施形態であるブレーキ装置の一部である場合について説明する。
【実施例1】
【0010】
〔液圧ブレーキ装置およびエンジンの構成〕
実施例1に係るブレーキ装置としての液圧ブレーキ装置において、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル10に加えられた踏力がバキュームブースタ12により倍力され、その倍力された踏力に応じた液圧がマスタシリンダ14に発生させられる。この液圧は、車輪に設けられたブレーキ16のブレーキシリンダ18に供給され、ブレーキシリンダ18が液圧により作動させられて車輪の回転が抑制される。また、ブレーキシリンダ18とマスタシリンダ14との間には、ブレーキシリンダ18の液圧を制御するアクチュエータである液圧制御ユニット20が設けられている。液圧制御ユニット20は、電子制御ユニット24(以下、ブレーキECU24と称する)により制御される。
【0011】
バキュームブースタ(以下、単にブースタと略称する)12は、負圧室30と変圧室31との圧力差に応じた助勢力を加えることによって、ブレーキペダル10に加えられた踏力を倍力して、マスタシリンダ14に出力する。
負圧室30にはエンジン32のインテークマニホルド33が接続されており、負圧が供給される。インテークマニホルド33は燃焼室の吸気側にあり、エアクリーナ34、電子制御式のスロットルバルブ36を介して大気に連通させられる。
ブースタ12とインテークマニホルド33との間にはチェック弁37が設けられている。チェック弁37は、インテークマニホルド33からブースタ12への負圧の供給(ブースタ12の空気がインテークマニホルド33側へ吸引されること)は許容するが、ブースタ12からインテークマニホルド33への負圧の流出(インテークマニホルド33内の空気がブースタ12へ吸引されること)は阻止するように設けられている。チェック弁37とブースタ12との間にはタンク38が設けられ、負圧が蓄えられる。タンク38は容量の小さいものとされている。
【0012】
また、液圧ブレーキ装置が搭載された車両のエンジン32において、スロットルバルブ36の開度,インジェクタ39からの燃料噴射量,タイミング等が、電子制御ユニット40(以下、エンジンECU40と称する)により制御される。エンジンECU40には、スロットルバルブ36の開度を検出するスロットルポジションセンサ44,エンジン32の回転数を検出するエンジン回転数センサ46,エアフローメータ48、車両周辺の大気圧を検出する大気圧センサ50等が接続されており、それらの検出値に基づいてエンジン32の作動状態が検出され、スロットルバルブ36,インジェクタ39等が制御される。また、後述するように、車両周辺の大気圧が推定され、大気圧センサ50の異常の有無が検出される。
なお、ブレーキECU24とエンジンECU40とは、CAN(Car Area Network)56を介して接続され、種々の情報の通信が行われる。
【0013】
マスタシリンダ14は、図2に示すように、タンデム式のものであり、ハウジングに、直列に摺動可能に嵌合された2つの加圧ピストン60a,60bを含む。加圧ピストン60a,60bの前方には、それぞれ、2つの加圧室61a,61bが形成される。
ブースタ12は、中空のハウジング64と、ハウジング64内に設けられたパワーピストン66とを含み、パワーピストン66によりマスタシリンダ14の側の負圧室30とブレーキペダル10の側の変圧室31とに仕切られる。
パワーピストン66は、ブレーキペダル10側において、バルブオペレーティングロッド71を介してブレーキペダル10と連携させられ、マスタシリンダ14側において、リアクションディスク72を介してブースタピストンロッド74と連携させられている。ブースタピストンロッド74はマスタシリンダ14の加圧ピストン60aに連携させられ、パワーピストン66の作動力を加圧ピストン60aに伝達する。
【0014】
負圧室30と変圧室31との間に弁機構76が設けられている。弁機構76は、バルブオペレーティングロッド71とパワーピストン66との相対移動に基づいて作動するものであり、コントロールバルブ76aと、エアバルブ76bと、バキュームバルブ76cと、コントロールバルブスプリング76dとを備えている。エアバルブ76bは、コントロールバルブ76aと共同して変圧室31の大気に対する連通・遮断を選択的に行うものであり、バルブオペレーティングロッド71に一体的に移動可能に設けられている。コントロールバルブ76aは、バルブオペレーティングロッド71にコントロールバルブスプリング76dによりエアバルブ76bに着座する向きに付勢される状態で取り付けられている。バキュームバルブ76cは、コントロールバルブ76aと共同して変圧室31の負圧室30に対する連通・遮断を選択的に行うものであり、パワーピストン66に一体的に移動可能に設けられている。
【0015】
このように構成されたブースタ12において、非作動状態では、コントロールバルブ76aが、エアバルブ76bに着座する一方、バキュームバルブ76cから離間し、それにより、変圧室31が大気から遮断されて負圧室30に連通させられる。したがって、この状態では、負圧室30も変圧室31も共に等しい高さの圧力(大気圧以下の圧力)とされる。これに対して、作動状態では、バルブオペレーティングロッド71がパワーピストン66に対して相対的に接近し、やがてコントロールバルブ76aがバキュームバルブ76cに着座し、それにより、変圧室31が負圧室30から遮断される。その後、バルブオペレーティングロッド71がパワーピストン66に対してさらに相対的に接近すれば、エアバルブ76bがコントロールバルブ76aから離間し、それにより、変圧室31が大気に連通させられる。この状態で、変圧室31の圧力が大気圧に近づき、負圧室30と変圧室31との間に差圧が発生し、その差圧によってパワーピストン66が前進させられ、ブースタ12により倍力されたブレーキ操作力に応じた液圧がマスタシリンダ14に発生させられる。
【0016】
図3に示すように、マスタシリンダ14の加圧室61bには右前輪FRおよび左後輪RLのブレーキ16のブレーキシリンダ18が接続され、加圧室61aには左前輪FLおよび右後輪RRのブレーキ16のブレーキシリンダ18が接続される。共通の実施例において、ブレーキ装置6は、X配管の液圧ブレーキ回路を含むものとされる。以下、加圧室61b,右前輪FR,左後輪RLのブレーキシリンダ18を含む系統について説明し、加圧室61b,左前輪FL,右後輪RRのブレーキシリンダ18を含む系統については構造は同じであるため、説明を省略する。
【0017】
加圧室61bには、右前輪FRのブレーキシリンダ18と左後輪RLのブレーキシリンダ18とが、それぞれ、主通路80と個別通路82とによって接続される。個別通路82には増圧弁84が設けられ、ブレーキシリンダ18の各々とリザーバ86とを接続するリザーバ通路には、それぞれ、減圧弁88が設けられる。
リザーバ86にはポンプ通路90が接続され、主通路80の増圧弁84の上流側に接続される。ポンプ通路90には、ポンプ92、逆止弁93,94、96等が設けられる。ポンプ92はポンプモータ98によって駆動される。また、マスタシリンダ14が補給通路100を介して逆止弁93,94の間に接続され、補給通路100には、補給弁102が設けられる。
前記主通路80のポンプ通路90の接続部とマスタシリンダ14との間に圧力制御弁110が設けられる。圧力制御弁110は、ブレーキシリンダ18側の液圧とマスタシリンダ14側の液圧との差圧を制御するものであり、ブレーキシリンダ18の液圧をマスタシリンダ14の液圧に対して、制御差圧だけ高くする。
【0018】
圧力制御弁110は、図4に示すように、図示しないハウジングと、弁子120および弁座122と、弁子120を弁座122から離間させる向きに付勢するスプリング126とを含む常開弁であり、主通路80に、弁子120に、ブレーキシリンダ18の液圧からマスタシリンダ14の液圧を引いた大きさの差圧が作用する姿勢で設けられる。ソレノイド128に電流が供給されると、弁子120を弁座122に接近させる向きの電磁力が作用する。
この圧力制御弁110において、ソレノイド128が励磁されない非作用状態(OFF状態)では開状態にある。ブレーキ操作が行われれば、ブレーキシリンダ液圧はマスタシリンダ液圧と同じとなり、マスタシリンダ液圧の増加に伴って増加させられる。
ソレノイド128が励磁される作用状態(ON状態)では、弁子120に、ブレーキシリンダ液圧とマスタシリンダ液圧との差に基づく力F2 とスプリング126の弾性力F3 との和と、ソレノイド128の電磁力に基づく吸引力F1 とが互いに逆向きに作用する。ブレーキシリンダ液圧とマスタシリンダ液圧との差圧F2 は、弾性力F3 が同じ場合に、吸引力F1 が大きい場合は小さい場合より大きくなるのであり、ソレノイド128への供給電流の制御によって、これらの差圧が制御される。
なお、図3に示すように、圧力制御弁110と並列に逆止弁134、リリーフ弁136が設けられている。逆止弁134により、圧力制御弁110が異常であっても、マスタシリンダ14からブレーキシリンダ18へ向かう作動液の流れが許容される。また、リリーフ弁136により、ブレーキシリンダ側の液圧、すなわち、ポンプ92による吐出圧が過大となることを回避する。
本実施形態においては、圧力制御弁110,ポンプ92,ポンプモータ98等により液圧制御ユニット20が構成される。
【0019】
ブレーキECU24の入力部には、ブレーキペダル10が操作されているか否かを検出するブレーキスイッチ150,マスタシリンダ14の液圧を検出するマスタシリンダ圧センサ152、車輪の回転を検出する車輪速センサ154等が接続される。ブレーキスイッチ150は、ブレーキペダル10の操作状態においてON信号を出力する。
ブレーキECU24の出力部には、ポンプモータ98が図示しない駆動回路を介して接続されるとともに、圧力制御弁110のソレノイド128、増圧弁84、減圧弁88および補給弁102のソレノイド160,162,164が、それぞれ、駆動回路を介して接続される。
また、ブレーキECU24において、車輪速センサ29によって検出された各輪の車輪速度に基づいて車両の走行速度が取得される。
なお、ブレーキECU24の記憶部には、複数のプログラム、テーブル等が記憶されている。
【0020】
エンジンECU40において、インジェクタ39の制御等によって空燃比が制御される。しかし、空燃比は大気圧の影響を受ける。そのため、燃料噴射量が所望の空燃比となるように、大気圧センサ50による検出値が利用される。
また、車両の駆動装置がエンジン32と図示しない電動モータとを含む場合(車両がハイブリッド車両である場合)において、バッテリとインバータとの間に設けられた昇圧コンバータの制御において大気圧センサ50による検出値が用いられる。放電の状態は大気圧の影響を受けるからである。
さらに、液圧ブレーキ装置において行われる助勢限界後アシスト制御にも大気圧センサ50による検出値が利用される。助勢限界後アシスト制御については後述する。
このように、大気圧センサ50の検出値は、駆動装置の制御、ブレーキ装置の制御において使用されるのであり、本実施例においては、大気圧センサ50の異常の有無が検出される。
【0021】
〔大気圧センサの異常検出〕
i)大気圧の推定
エンジンECU40において、スロットルポジションセンサ44によって検出されたスロットル開度、エアフローメータ48によって検出された空気量、エンジン回転数センサ46によって検出されたエンジン回転数等に基づいて、大気圧(エンジン外部の圧力であり、車両が存在する空間の大気圧のことである)が推定される。例えば、エンジン回転数が一定であり、スロットル開度が一定である場合において、エンジン外部の大気圧とエンジン内部の圧力(インテークマニホールド33の圧力)との差が大きい場合は小さい場合より、エンジン内部に流入する空気量が大きくなる。この事情に基づいて、大気圧が暫定的に推定されるのであり、暫定推定大気圧である暫定推定値が予め定められた推定条件が成立する毎に取得される。推定条件は、設定時間が経過する毎に満たされるようにしたり、エンジン32の状態が暫定的推定値を取得するのに適した状態である場合に満たされるようにしたりすること等ができる。
そして、暫定推定大気圧等に基づいて最終的な大気圧の推定値(以下、本推定値と称する。本推定値は本推定大気圧である)が決定される。例えば、取得された複数の暫定推定値が処理される(例えば、暫定推定値の変化状態等が取得されたり、統計的な処理が行われたりする)。暫定推定値が低下傾向にあると判定された場合には本推定値が小さくされ、暫定推定値が上昇傾向にあると判定された場合には本推定値が大きくされるのであるが、その場合に、過去の本推定値も考慮される。例えば、今回の本推定値が前回の本推定値に対して急激に変化しないように(勾配に制限を加えつつ)、本推定値の今回値が決定されるのである。なお、本推定値は学習値と称することもできる。
また、本推定値は、予め定められた更新条件が満たされた場合に更新される(変更される)。例えば、暫定推定値が低下傾向あるいは上昇傾向にあり、かつ、エンジン32の状態が安定している場合に満たされる条件とすることができる(例えば、エンジン回転数がほぼ一定に保たれていること、スロットル開度がほぼ一定に保たれていること等とすることができる)。
【0022】
エンジンECU40においては、図9のフローチャートで表される大気圧推定プログラムが予め定められた設定時間毎に実行される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、スロットル開度、空気量、エンジン回転数等が検出され、S2において、推定条件が満たされるか否かが判定される。推定条件が満たされない場合には、暫定推定値は取得されない。推定条件が満たされた場合には、S3において、暫定推定値が取得されて、処理が行われる。
そして、S4において、予め定められた更新条件が成立するか否かが判定される。更新条件が成立しない場合には、S5が実行されないため本推定値は前回値のままである。更新条件が満たされるまで、S1,S2あるいはS1〜4が繰り返し実行される。そのうちに、更新条件が成立した場合には、S5において、本推定値が更新されるのであり、今回の本推定値が取得される。
【0023】
ii)異常検出について
例えば、車両が標高の低い低地から標高の高い高地に向かって走行している場合(山登り)には、図5の一点鎖線が示すように実際の大気圧は低下傾向にあり、本推定値は、実線PA1,PA2が示すように段階的に低下する(更新条件が成立する毎に変更される)。図5においては、本推定値と実際値との変化の差が明確になるように、本推定値と実際値との誤差を大きめに記載した。
【0024】
大気圧センサ50は、以下の(x)〜(z)の条件が成立した場合に固着異常であると判定される。実際の大気圧が変化して、本推定値が変化したと推定された場合に、大気圧センサ50による検出値が殆ど変化していない場合に、大気圧センサ50の固着異常であると判定される。
また、スロットルポジションセンサ44,エンジン回転数センサ46,エアフローメータ48、エンジンECU40等は正常であり、本推定値は正常に取得されることが前提である。
(x)予め定められた異常検出開始条件が満たされた時点から本推定値PSが予め定められた設定値ΔPth以上低下(ΔPS>ΔPth)した時まで、予め定められた設定時間T0以上が経過したこと、
(y)少なくとも、異常検出開始条件が満たされた時から本推定値PSが設定値ΔPth以上低下した時までの間(特許請求の範囲の「設定期間」に対応する。以下、設定期間と称する)、本推定値PSが大気圧センサ50による検出値(以下、センサ値と称する場合がある)PXより小さいこと(PS<PX)
の2つの条件が満たされた場合に、車両周辺の大気圧が実際に低下したため、本推定値PSが設定値以上低下したと推定することができる。
そして、(z)設定期間の間のセンサ値PXの最大値MAXP(MAX値と称することがある)から最小値MINP(MIN値と称することがある)を引いた値(設定期間の間の最大変化幅に対応する)が固着判定しきい値Thより小さい(MAXP−MINP<Th)場合に、大気圧センサ50が固着異常であるとされる。
【0025】
(x)の条件は、異常検出開始条件が成立した時から本推定値が更新された時{本推定値PSが設定値ΔPth以上低下(ΔPS>ΔPth)した時}までの時間が設定時間T0以上であることである。ΔPthは、実際に本推定値が変化したと考えられる大きさに設定される。
異常検出開始条件は、(i)車両の図示しないイグニッションスイッチがOFFからONに切り換わったこととしたり、(ii)車両の走行速度が走行しているとみなし得る設定速度以上になったこととしたりすることができる。そして、設定時間T0は、エンジン32の状態が安定しており、本推定値の信頼性が高いと考えられる時間とすることができる。設定時間T0は、(i)の場合と(ii)の場合とで異なる時間としても、同じ時間としてもよい。
【0026】
(y)の条件は、本推定値が図5の破線が示すように変化した場合には(z)の判定が行われないようにするための条件である。上述のように、本推定値は、複数の暫定推定値のデータ等に基づいて取得される。また、実際の大気圧に近い値に更新されるのが普通である。そのため、車両周辺の大気圧が低くなる傾向にある場合において、本推定値PSが実際の大気圧より大きい場合には、破線が示すように、実際の大気圧の変化が小さくても、本推定値PSが更新されて、設定値以上低下させられるおそれがある。この場合に、(z)の条件が満たされると、大気圧センサ50が正常であるにもかかわらず、固着異常であると判定されるおそれがある。
それに対して、実線PA2に示すように、本推定値PSが実際の値より小さく、さらに、低下した場合には、実際の大気圧が真に低下したと推定することができる。
以上の事情を考慮して(y)の条件を設けたのであり、図5の実線PA2に示すように、本推定値PSがセンサ値PX(実際の大気圧の値に対応)より小さい場合に(z)の判定が行われ、実線PA1が示すように、本推定値PSがセンサ値PXより大きい場合には行わないようにしたのである。
【0027】
(z)の条件は、大気圧センサ50の固着の有無を直接的に検出する条件であり、(x)、(y)の条件が成立した場合に成立するか否かが判定される。設定期間の間に、実際の大気圧が変化したにもかかわらずセンサ値PXが殆ど変化していない場合、すなわち、設定期間の間の大気圧センサ50による検出値の最大変化幅が0近傍の設定値以下の値である固着判定しきい値Thより小さい場合に、大気圧センサ50の固着異常であると判定することができる。
【0028】
また、車両が高地から低地に向かって走行している場合(山下り)には、図6の一点鎖線が示すように、実際の大気圧は上昇傾向にあり、本推定値PSは、実線PB1,PB2が示すように段階的に上昇する。
そして、山登りの場合と同様に、大気圧センサ50の固着異常の有無が検出される。(x)、(z)の条件は同じであるが、(y)の条件の代わりに(y)´の条件が用いられる。(y)´の条件は、異常検出開始条件が満たされた時から本推定値PSが設定値ΔPth以上上昇した時(ΔPS>ΔPth)までの間(以下、設定期間と称する)に、本推定値PSがセンサ値PXより大きい(PS>PX)ことである。(y)´の条件は、図6の破線が示すように本推定値PSが変化した場合には(z)の条件を満たすか否かの判断が行われないようにするための条件である。
山登りの場合と同様に、高地から低地に向かって走行している場合において、本推定値PSがセンサ値PXより小さい場合には、破線が示すように、実際の大気圧の変化が小さくても、本推定値PSが設定値以上上昇するおそれがある。それに対して、本推定値PSがセンサ値PXより大きい場合に、設定値以上上昇したのは、実際の大気圧が真に上昇したと推定される。
そこで、本実施例においては、本推定値PSが図6の実線PB1が示すように変化する場合に、(z)の条件が成立するか否かの判定が行われ、実線PB2が示すように、本推定値PSがセンサ値PXより小さい場合には、行われないようにしたのである。
【0029】
エンジンECU40において、予め定められた設定時間毎に、図10のフローチャートで表される異常検出プログラム(山登り)、図11のフローチャートで表される異常検出プログラム(山下り)が実行される。
図10のフローチャートにおいて、S11において異常検出中であるか否かが判定される。
異常検出中でない場合には、S12において異常検出開始条件が満たされるか否かが判定される。異常検出開始条件が満たされない場合には、S13において、タイマがリセットされ、MAX値,MIN値がクリアされる。異常検出開始条件が満たされるまでの間は、S11,S12,S13が繰り返し実行される。
異常検出開始条件が満たされた場合には、S14において、タイマがスタートされて、S15において大気圧センサ50によって大気圧が検出される。そして、S16において、この時点において記憶されている本推定値PSがセンサ値PXより小さいか否かが判定される(PS<PX)。本推定値PSがセンサ値PXより小さい場合には、S17において、センサ値のMAX値、MIN値が、それぞれ求められる。MAX値、MIN値は、S17が実行される毎に、適宜、更新されて、記憶される。
S18において、本推定値PSがΔPth以上低下したか否かが判定され、低下しない場合には、S19において、本推定値PSがΔPth以上増加したか否かが判定される。本推定値PSが一定である場合(更新されない場合)には、S11に戻される。
前回の実行で、異常検出開始条件が成立したため、現在は異常検出中である。S11の判定がYESとなり、S15以降が実行される。本推定値PSが更新されるまでの間、S11,S15〜19が繰り返し実行される。
【0030】
そのうちに、本推定値PSがΔPth以上低下した場合(更新された場合)には、S18の判定がYESとなり、S20において、タイマにより設定時間T0が経過したか否かが判定される。設定時間T0が経過した場合には、(x)、(y)の条件が満たされたことになる。S21において、MAX値からMIN値を引いた値(MAXP−MINP)が、固着判定しきい値Thより小さいか否かが判定される。固着判定しきい値Th以上である場合には、S22において大気圧センサ50は正常であるとされ、固着判定しきい値Thより小さい場合には、S23において、大気圧センサ50が固着異常であると検出される。固着異常であると検出された場合には、S24において、更新後の本推定値PS0(今回値)が記憶される。この更新後の本推定値PS0は、後述するように助勢限界後アシスト制御に利用される。また、いずれにしても、その後、S13において、タイマがリセットされて、MAX値、MIN値がクリアされる。
それに対して、S20の判定がNOの場合、すなわち、設定時間T0が経過する前に、本推定値PSが更新された場合には、S13が実行される。(x)の条件が成立しないため、(z)の判定が行われないのであり、異常判定が行われないのである。
また、S16の判定がNOである場合(すなわち、本推定値PSがセンサ値PXより小さい場合)、あるいは、S19の判定がYESである場合(すなわち、本推定値PSが増加した場合)にも、S13が実行される。
【0031】
具体的には、図7(a)、(b)に示すように、本推定値PSが更新された時点tcにおいて、条件(x)、(y)が満たされたために、(z)の条件が成立するか否かが判定される。図7(a)が示す場合には、異常検出開始条件が満たされてから時点tcまでの間(設定期間の間)の、センサ値PXの変化量の絶対値(本実施例においては、最大変化幅である)が固着判定しきい値Th以上であるため、大気圧センサ50は正常であると判定される。
それに対して、図7(b)の場合には、センサ値PXの変化量の絶対値が固着判定しきい値Thより小さいため、固着異常であると検出される。
なお、本プログラムが、山下りの場合に実行された場合において、図6の実線PB2が示すように推定値が変化する場合に、本推定値PSがセンサ値PXより小さくなるため、S16の判定がYESとなる。しかし、山下りの場合(車両周辺の大気圧が上昇傾向にある場合)には、本推定値PSは上昇するのが普通であるため、S19の判定がYESとなり、S13が実行される。また、本推定値PSが図5の実線PA1が示すように変化した場合、図6の実線PB1が示すように変化した場合には、S16の判定がNOとなるため、これらの場合に、(z)の条件が成立するか否かが判定されることはない。
このように、本プログラムの実行により、本推定値PSが、図5の実線PA1、図6の実線PB1,PB2が示すように変化する場合に、誤って、異常検出が実行されることがない{(z)の判定は実行されない}。図5の実線PA2が示すように変化した場合に(z)の判定が行われるのであり、大気圧センサ50の異常の有無を正確に検出することができる。
【0032】
図10のフローチャートと図11のフローチャートとを比較すると、図10のS16,S18,S19が図11のS16´,S18´,S19´に代わるが、その他のステップの実行は同じであるため、同じステップ番号を付して説明を省略する。
S16´において、本推定値PSがセンサ値PXより大きいか否か(PX<PS)が判定され、大きい場合に、S17以降が実行される。S18´において、本推定値PSが設定値ΔPth以上上昇したか否かが判定され、S19´において、本推定値PSが設定値ΔPth以上低下したか否かが判定される。本推定値PSがほぼ一定である場合には、S18´、S19´の判定がNOとなり、S11、S15〜19´が繰り返し実行される。
そのうちに、本推定値PSが設定値ΔPth以上上昇した場合には、S20において、設定時間T0が経過したか否かが判定される。設定時間が経過した後に、本推定値PSが設定値ΔPth以上上昇した場合には、S21〜23において、大気圧センサ50の固着異常の有無が検出される。
【0033】
図8(a)、(b)に示すように、推定値が更新された時点tdにおいて、条件(x)、(y)´が満たされたために、(z)の条件が成立するか否かが判定される。図8(a)の場合には、センサ値の最大変化幅が固着判定しきい値以上であるため、大気圧センサ50は正常であると検出される。それに対して、図8(b)の場合には、センサ値の最大変化幅が固着判定しきい値より小さいため、固着異常であると検出される。
なお、山を登っていた場合に、本プログラムが実行された場合において、本推定値PSが図5の実線PA1が示すように変化した場合には、S16′の判定がYESとなる。しかし、この場合には、更新によって本推定値が低下するのが普通であるため、S18´の判定はNOとなり、S19´の判定がYESとなり、S13が実行される。誤って、(z)の条件が成立するか否かが判定されることはない。
また、本推定値PSが図5の実線PA2、図6の実線PB2が示すように変化した場合には、S16´の判定がNOとなり、S13が実行されるため、(z)の判定が行われることはない。
【0034】
このように、本実施例においては、車両が走行を開始してから、最初に、本推定値が更新された時点で、大気圧センサ50の固着異常の有無を検出できる。できる限り早期に大気圧センサ50の固着異常の有無を検出できるのであり、それ以降の制御において、誤ったセンサ値が利用されないようにすることができる。
実施例1においては、エンジンECU40の図9のフローチャートで表される大気圧推定プログラムを記憶する部分、実行する部分等により、大気圧推定装置が構成される。本気圧推定装置のうち、S1,S2を記憶する部分、実行する部分等により暫定的推定部が構成され、S4,S5を記憶する部分、実行する部分等により本推定部が構成される。
また、図10のフローチャートで表される固着異常検出プログラムを記憶する部分、実行する部分等により第1異常検出手段が構成され、図11のフローチャートで表される固着異常検出プログラムを記憶する部分、実行する部分等による第2異常検出手段が構成される。これら第1異常検出手段と第2異常検出手段等により固着異常検出部が構成される。
【0035】
〔助勢限界後アシスト制御〕
図12(a)のグラフで表されているように、同じブレーキ操作力Fに対応するブレーキシリンダ液圧P Wの高さは、ブースタ12の助勢限界後には、助勢限界がないと仮定した場合におけるブレーキシリンダ液圧PWの高さより低下する。そのため、ブースタ12の助勢限界後においては、ブースタ12の助勢限界の前後で、踏力とブレーキシリンダ18の液圧との関係が一定となるように、ブレーキシリンダ18の液圧をマスタシリンダ14の液圧に対して増加させる助勢限界後アシスト制御が実行される。実際のマスタシリンダ14の液圧が、ブースタ12が助勢限界に達した場合のマスタシリンダ液圧(以下、助勢限界時液圧と称する)に達した場合に、ブレーキシリンダ18の液圧が大きくされるのである。
助勢限界後アシスト制御においては、図12(b)のグラフで表されているように、ポンプ92を作動させてマスタシリンダ液圧PM より差圧ΔPcだけ高い液圧をブレーキシリンダ18に供給する。ここに、差圧ΔPc(目標差圧)とマスタシリンダ液圧PM との関係を表すテーブルは、予めROMに記憶されており、例えば、図12(c)のグラフで表されるものとされる。
尚、図12(d)のグラフは、圧力制御弁110のソレノイド134への供給電流と目標差圧ΔPaとの関係を示し、この関係を表すテーブルが予めROMに記憶されている。
【0036】
ブースタ12において、変圧室31と負圧室30との差圧に応じた助勢力が得られるが、大気圧が低くなると、ブースタ12が助勢限界に達した場合の変圧室31の圧力が低くなり、最大助勢力が小さくなる。そのため、図13(b)に示すように、負圧室30の圧力が標準値である場合において、大気圧が低い場合は高い場合よりブースタ12が助勢限界に達した場合の助勢限界時液圧(折れ点)が小さくなる。これらの間は、図13(a)に示すように直線で表される関係があることが知られている。図13(a)に示す、負圧室30の圧力が標準値であると仮定した場合の大気圧とブースタ12が助勢限界に達した場合のマスタシリンダの液圧PMB との関係であるテーブルが予め記憶されている。
本実施例においては、大気圧センサ50が正常である場合には検出値に基づいて助勢限界時液圧が取得され、異常である場合には大気圧センサ50の異常が検出された時点の本推定値PS0に基づいて助勢限界後液圧が取得される。この本推定値PS0が、S24において記憶された値である。
【0037】
助勢限界後アシスト制御において、ブレーキペダル10の非操作状態において、大気圧が取得され、その取得された大気圧値PBと図13(a)に示す関係とに基づいて、助勢限界液圧PMBが取得され、マスタシリンダ液圧センサ152によって検出された実際のマスタシリンダ液圧PMが助勢限界時液圧PMBに達した場合に、ブースタ12が助勢限界に達したとされて、ポンプ92が作動させられ、圧力制御弁110が制御されるのである。
【0038】
図14のフローチャートで表される助勢限界後アシスト制御は、予め定められた設定時間毎に実行される。本プログラムはブレーキECU24において実行されるが、大気圧センサ50が異常であるか否か、大気圧センサ50による検出値、本推定値PSを表す情報等は、CAN56を介して供給される。
S51において、ブレーキSWがONであるか否かが判定され、OFFである場合には、S52において、大気圧センサ50が異常であるか否かの判定結果が取得され、正常である場合には、S53において、大気圧センサ50によって大気圧が検出され、実際の検出値P0が大気圧値PBとされて、S54において、大気圧室PBと図13(a)のテーブルとに基づいて助勢限界時液圧PMBが取得される。それに対して、大気圧センサ50が異常である場合には、S55において、記憶されている本推定値(大気圧センサ50の固着異常が検出された時点の本推定値)PS0が大気圧値PBとされ、S54において、大気圧値PBとテーブルとに基づいて助勢限界時液圧PMBが取得される。このように、大気圧センサ50が異常であっても、実際の大気圧に近い値を取得することができ、それに基づいて助勢限界時液圧PMBを取得することができる。
そして、ブレーキスイッチ150がONになると、S56において、マスタシリンダ液圧PMが検出され、S57において、助勢限界時液圧PMBより大きいか否かが判定される。助勢限界時液圧PMBより小さい間は、助勢限界後アシスト制御は実行されないのであり、S58において、ポンプ92が停止させられ、圧力制御弁110はOFFとされる(開状態)。
それに対して、助勢限界時液圧を超えると、S59、S60において、図12(c)、(d)のテーブルに基づき、差圧ΔPc、圧力制御弁110への供給電流IPMが取得され、S61において、それに応じて圧力制御弁110が制御される。ポンプ92も作動状態とされる。
【0039】
このように、大気圧センサ50の異常の有無が早期に検出され、大気圧センサ50の異常時には本推定値PSが大気圧値PBとして用いられるため、適正な助勢限界時液圧を取得することができ、適正な助勢限界後アシスト制御が行われるようにすることができる。また、大気圧が低くして、助勢限界後アシスト制御の遅れを抑制することができ、制動力不足を抑制することができる。
【0040】
以上のように、実施例1において、図14のフローチャートで表される助勢限界後アシスト制御プログラムのS52〜55を記憶する部分、実行する部分、図13(a)のマップで表されるテーブルを記憶する部分等により助勢限界時マスタシリンダ液圧取得部が構成され、そのうちの、S53,55を記憶する部分、実行する部分、図13(a)のマップで表されるテーブルを記憶する部分等により正常時取得部が構成され、S54,S55を記憶する部分、実行する部分、図13(a)のマップで表されるテーブルを記憶する部分等により異常時取得部が構成される。
なお、実施例1においては、エンジンECU40の異常検出プログラムを記憶する部分、実行する部分等は、液圧ブレーキ装置に含まれる。
【0041】
なお、大気圧センサ50の固着異常が検出された場合には、S52の判定がYESとなった時点の本推定値PSを大気圧値PBとすることもできる。
また、大気圧センサ50の固着異常検出の結果が、ブレーキ制御(助勢限界後アシスト制御)に利用される場合について説明したが、ブレーキ制御に利用されるようにすることは不可欠ではなく、車両の駆動装置(エンジン32,駆動用電動モータ)の制御に利用されるようにすることもできる。
さらに、上記実施例においては、設定期間内のセンサ値の最大値から最小値を引いた値が固着判定しきい値より小さい場合に異常であると検出されたが、異常条件開始条件が成立した場合の大気圧センサ50による検出値(開始時センサ値)と設定期間が終了した場合の検出値(終了時センサ値)との差の絶対値が固着異常判定しきい値より大きい場合に、異常であると判定されるようにすることができる。
また、上記実施例においては、大気圧の推定値が、学習によって取得されたものであったが、学習によらないで取得されたものとすることもできる。さらに、連続的に変化する推定値を使用することもできる。
【実施例2】
【0042】
大気圧センサ50の固着異常の有無は、上記実施例における場合とは別の方法で検出することもできる。その場合の一例を図15のフローチャートに示す。本実施例においては、本推定値PSの隣接するエッジ間(図7の時間tc、te間)を設定期間として、この間の大気圧センサ50のセンサ値PXの変化が非常に小さい場合に固着異常であるとされる。
本実施例において、異常検出条件(y)、(z)については、実施例1における条件と同じであるが、条件(x)において、異常検出開始条件が、本推定値PSが更新されたこととされる。
本実施例においては山登りの場合について説明し、山下りの場合については説明を省略する。図15のフローチャートは、図10のフローチャートに対応するもので、図11のフローチャートに対応するフローチャートの図示は省略する。
図15のフローチャートにおいては、図10のフローチャートに設けられていたS14,S20のステップが不要となる。設定期間がエッジ間で定められるため、設定期間の長さがタイマで計測されない。また、S12´において異常検出開始条件が満たされるか否か(本推定値PSが設定値ΔPth以上低下したか否か)が判定される。異常検出開始条件が満たされてから、本推定値PSが、次に更新されるまでの間、S11、S15〜19が繰り返し実行され、センサ値の最大値、最小値が取得される。そして、本推定値PSが、次に更新されると、S18の判定がYESとなり、S21において、センサ値の最大変化幅が固着判定しきい値より小さいか否かが判定される。固着判定しきい値より小さい場合には、大気圧センサ50が固着異常であるとされる。異常検出後S13′において、MAX値,MIN値がクリアされる。
【0043】
具体的に、図7(a)、(b)において、時間tcにおいて異常検出開始条件が満たされ、時間teにおいて、本推定値が設定値ΔPth以上変化したため、(x)、(y)の条件が満たされ、(z)の条件を満たすか否かが判定されるのであり、異常検出が行われる。
このように、本推定値PSが2回更新される場合において、その間(設定期間)の、センサ値の最大変化幅に基づいて、固着異常の有無を検出することができる。
また、本発明は、上記に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0044】
12:バキュームブースタ 14:マスタシリンダ 16:ブレーキ 18:ブレーキシリンダ 20:液圧制御ユニット 24:ブレーキECU 30:負圧室 31:変圧室 32:エンジン 33:インテークマニホールド 36:スロットルバルブ 40:エンジンECU 46:エンジン回転数センサ 48:エアフローメータ 50:大気圧センサ 92:ポンプ 98:ポンプモータ 110:圧力制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられ、その車両周辺の大気圧を検出する大気圧センサの異常の有無を検出する異常検出装置であって、
前記車両周辺の大気圧を推定する大気圧推定装置と、
その大気圧推定装置によって推定された推定大気圧の設定期間の間の変化量の絶対値が設定値以上である場合に、前記大気圧センサの検出値の前記設定期間の間の変化量の絶対値が予め定められた固着異常判定しきい値より小さい場合に、その大気圧センサが固着異常であると検出する固着異常検出部と
を含むことを特徴とする異常検出装置。
【請求項2】
前記固着異常検出部が、(i)前記設定期間の間に、(a)前記大気圧推定装置によって推定された推定大気圧が前記大気圧センサによる検出値より小さいこと、(b)前記大気圧推定装置によって推定された推定大気圧が前記設定値以上低下したこと、(c)前記大気圧センサによる検出値の変化量の絶対値が前記固着異常判定しきい値より小さいことの3つの条件が満たされた場合に、前記大気圧センサが固着異常であると検出する第1異常検出手段と、(ii)前記設定期間の間に、(a)前記大気圧推定装置によって推定された推定大気圧が前記大気圧センサによる検出値より大きいこと、(b)前記大気圧推定装置によって推定された推定大気圧が前記設定値以上上昇したこと、(c)前記大気圧センサによる検出値の変化量の絶対値が前記固着異常判定しきい値より小さいことの3つの条件が満たされた場合に、前記大気圧センサが固着異常であると検出する第2異常検出手段とを含む請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項3】
前記大気圧推定装置が、(a)予め定められた推定条件が満たされる毎に、前記車両に設けられたエンジンの状態に基づいて、前記大気圧を暫定的に推定する暫定的推定部と、(b)予め定められた更新条件が成立する毎に、少なくとも、前記暫定的推定部によって推定された大気圧である暫定的推定大気圧に基づいて本推定大気圧を更新する本推定部とを含む請求項1または2に記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記請求項1ないし3のいずれか1つに記載の異常検出装置と、
ブレーキ操作部材と、
車輪に設けられたブレーキのブレーキシリンダと、
そのブレーキシリンダに接続されたマスタシリンダと、
前記ブレーキ操作部材に連携させられた入力ロッドに加えられた力を、変圧室と負圧室との間の差圧により倍力して前記マスタシリンダに出力するバキュームブースタと、
そのバキュームブースタが助勢限界に達した場合の前記マスタシリンダの液圧である助勢限界時マスタシリンダ液圧を取得する助勢限界時マスタシリンダ液圧取得部と
を含むとともに、
前記助勢限界時マスタシリンダ液圧取得部が、
(e)前記異常検出装置によって前記大気圧センサが正常であるとされた場合に、その大気圧センサによって検出された圧力を前記バキュームブースタが助勢限界に達した場合の変圧室の圧力として、前記助勢限界時マスタシリンダ液圧を取得する正常時取得手段と、
(f)前記異常検出装置によって前記大気圧センサが固着異常であるとされた場合に、前記大気圧推定装置によって推定された推定大気圧を前記バキュームブースタが助勢限界に達した場合の前記変圧室の圧力として、前記助勢限界時マスタシリンダ液圧を取得する異常時取得手段と
を含むことを特徴とするブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−106315(P2011−106315A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260940(P2009−260940)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】