説明

皮膚外用剤

【課題】 本発明は、バリア機能向上、及び表皮水分保持能に優れた構造組成物である保湿剤、及びこれを含有する皮膚外用剤提供することを課題とするものである。
【解決手段】 分岐脂肪酸フィトステリルと、炭素数が10〜22の脂肪酸の1種又は2種以上、脂肪酸トリグリセリドの1種又は2種以上、スクワラン、ミツロウ及びホホバ油にて調製された構造組成物である保湿剤が、表皮水分保持能及びバリア機能向上に優れることを見出し、さらにこの保湿剤を皮膚外用剤に配合することにより、保水性が飛躍的に向上し、皮膚状態を健やかに保つことができることを見出したというもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア機能向上、及び表皮水分保持能に優れた構造組成物である保湿剤、及びこれを含有する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肌の最外層にある角質層は、水分保持機能と、バリア機能とよばれる肌内部からの水分蒸散を防いで、外部刺激から肌を守るという2つの働きをもつことが知られている。皮膚炎や乾癬、アトピー性皮膚炎等に見られる数々の皮膚疾患の肌荒れ症状においては、皮膚からの水分消失が、健常な皮膚に比べて盛んであることが知られており、いわゆる経表皮水分損失量(TEWL)の増加は、表皮で水分保持機能やバリア機能を担っている成分の減少が関係するものと考えられている。
【0003】
従来より、皮膚疾患や肌荒れに対して改善・予防効果を有する有効成分として、水分保持機能や皮膚バリア機能を担う表皮内成分を皮膚に補充するという観点から、NMF(Natural Moisturizing Factor)としてのアミノ酸や、セラミドなどの表皮角質細胞間脂質を外部から供給する目的で、化粧料や皮膚外用剤に配合し、これを皮膚に継続的に適用することにより、角質水分保持能が回復し、皮膚の状態を健やかに保つことはよく知られている。
【0004】
表皮角質細胞間脂質は、脂質ニ重層が幾重にも重なり、規則正しく整列したラメラ構造を形成していることから、生体内でバリア機能を発揮するものであり、このようなラメラ構造を有するものであれば、生体成分でなくても同様の作用を有することはわかっている。もともと肌荒れ症状は、皮膚からの水分の損失が健常皮膚に対し大きいために生じるもので、水分を長時間保持することで、肌荒れは改善に向かう。そこで、表皮角質細胞間脂質と同様の機能を発揮する成分が求められてきた。
【0005】
自己ラメラ形成能のあるステロール脂肪酸エステル類が、角質水分含量保持能に優れた保湿性能を有し、これを配合することにより保湿作用に優れ、かつ使用感の良好な化粧料や、乾燥に起因する皮膚疾患の治療薬が得られる(特許文献1参照)ことが知られている。また特定の混合分岐脂肪酸コレステリルと水素添加レシチンとジアルキルエーテルを配合とを配合することで(特許文献2参照)、分岐脂肪酸コレステリルを安定に製剤中に配合するとともに、この三者が相乗的に皮膚に作用して、皮膚の乾燥を予防することにより、肌目(きめ)を細かなかつしっかりとした皮膚にする(美肌効果)と共に、優れた皮膚老化防止効果等、顕著な効果を表すことも知られている。ステロール脂肪酸エステルの中で、分岐脂肪酸フィトステリルは、単独でラメラ液晶構造体を形成することができ、単独で水分保持機能を有することはよく知られている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−132512号公報
【特許文献2】特開2000−212020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、表皮水分保持能及びバリア機能向上に優れた、保湿作用を有する保湿剤、およびそれを含む皮膚外用剤を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、こうした実状を鑑みて、上記課題を解決すべく検討を行った結果、分岐脂肪酸フィトステリルと、炭素数が10〜22の脂肪酸の1種又は2種以上、脂肪酸トリグリセリドの1種又は2種以上、スクワラン、ミツロウ及びホホバ油にて調製された構造組成物である保湿剤が、表皮水分保持能及びバリア機能向上に優れることを見出し、さらにこの保湿剤を皮膚外用剤に配合することにより、保水性が飛躍的に向上し、皮膚状態を健やかに保つことができることを見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、分岐脂肪酸フィトステリルと、炭素数が10〜22の脂肪酸の1種又は2種以上、脂肪酸トリグリセリドの1種又は2種以上、スクワラン、ミツロウ及びホホバ油にて調製された構造組成物である保湿剤を配合することにより、表皮水分保持能及びバリア機能向上に優れた皮膚外用剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
分岐脂肪酸フィトステリルとしては、化粧品で一般に用いられるイソステアリン酸フィトステリルが好ましい。
【0012】
炭素数が10〜22の脂肪酸としては、デカン酸(カプリン酸),ウンデカン酸,ドデカン酸(ラウリン酸),テトラデカン酸(ミリスチン酸),ペンタデカン酸,ヘキサデカン酸(パルミチン酸),ヘプタデカン酸(マルガリン酸),オクタデカン酸(ステアリン酸),エイコサン酸(アラキン酸),ドコサン酸(ベヘン酸)等の直鎖飽和脂肪酸、9−デセン酸(カプロレイン酸),9−ウンデセン酸(9−ウンデシレン酸),10−ウンデセン酸(10−ウンデシレン酸),2−ドデセン酸(2−ラウロレイン酸),5−ドデセン酸(5−ラウロレイン酸),11−ドデセン酸(11−ラウロレイン酸),5−テトラデセン酸(5−ミリストレイン酸),9−テトラデセン酸(9−ミリストレイン酸),2−ヘキサデセン酸(2−パルミトレイン酸),cis−7−ヘキサデセン酸(7−パルミトレイン酸),cis−6−オクタデセン酸(ペトロセリン酸),trans−6−オクタデセン酸(ペトロセエライジン酸),cis−9−オクタデセン酸(オレイン酸),trans−9−オクタデセン酸(エライジン酸),cis−13−ドコセン酸(エルカ酸),trans−13−ドコセン酸(ブラシン酸)等の直鎖モノエン酸、cis−9−,cis−12−オクタデカジエン酸(リノール酸),trans−9−,trans−12−オクタデカジエン酸(リノエライジン酸)等のジエン酸、cis−9−,cis−12−,cis−15−オクタデカトリエン酸(リノレン酸),trans−9,trans−12,trans−15−オクタデカトリエン酸(リノレンエライジン酸)等のトリエン酸、イソパルミチン酸,イソステアリン酸等の分岐鎖を有する脂肪酸等が挙げられ、化粧品,医薬品用原料として市販されているものを利用することができる。本発明においては、これらより1種又は2種以上を選択して用いる。この中でも直鎖飽和脂肪酸であるドデカン酸(ラウリン酸),テトラデカン酸(ミリスチン酸),ヘキサデカン酸(パルミチン酸),オクタデカン酸(ステアリン酸)が好ましい。
【0013】
本発明において用いる脂肪酸トリグリセリドとしては、トリアセチルヒドロキシステアリン酸グリセリル,トリアセチルリシノール酸グリセリル,トリイソステアリン酸グリセリル,トリウンデカン酸グリセリル,トリヒドロキシステアリン酸グリセリル,トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル,トリオレイン酸グリセリル,トリ(カプリル・カプリン・イソステアリン・アジピン酸)グリセリル,トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル,トリ(カプリル・カプリン・ミリスチン・ステアリン酸)グリセリル,トリ(カプリル・カプリン・ラウリン酸)グリセリル,トリ(カプリル・カプリン・リノール酸)グリセリル,トリカプリル酸グリセリル,トリカプリン酸グリセリル,トリ牛脂脂肪酸グリセリル,トリ(牛脂脂肪酸・ミンク油脂肪酸・タラ肝油脂肪酸)グリセリル,トリステアリン酸グリセリル,トリパルミチン酸グリセリル,トリ2−ヘプチルウンデカン酸グリセリル,トリベヘン酸グリセリル,トリミリスチン酸グリセリル,トリ(ミンク油脂肪酸・パルミチン酸)グリセリル,トリヤシ油脂肪酸グリセリル,トリラウリン酸グリセリル,トリラノリン脂肪酸グリセリル,トリ(リシノレイン・カプロン・カプリル・カプリン酸)グリセリル,トリリノール酸グリセリル等が挙げられ、化粧品,医薬品用原料として市販されているものを利用することができる。本発明においては、これらより1種又は2種以上を選択して用いる。このうちトリパルミチン酸グリセリル,トリ2−ヘプチルウンデカン酸グリセリル,トリベヘン酸グリセリル,トリミリスチン酸グリセリル,トリヤシ油脂肪酸グリセリル,トリラウリン酸グリセリル等が所望の効果を得る上で好ましい。
【0014】
スクワランは、2,6,10,15,19,23−ヘキサメチルテトラコサンで、市販の化粧品,医薬品用原料を利用できるが、深海鮫の肝臓、オリーブの果実及び米糠から抽出されるスクワレンに水素添加して得られるものが好ましく使用できる。
【0015】
ミツロウは、トウヨウバチ(Apis indica Radoszkowski),ヨーロッパミツバチ(Apis melliferaL.)等のミツバチの分泌物で、蜜を除いた巣を煮沸して分離した粗ロウ分を化学的に、又は日光により精製漂白して製造される。本発明においては、化粧品,医薬品用原料として市販されている脱臭,精製品もしくは超精製品を用いることが好ましい。
【0016】
ホホバ油は、ホホバ(Simmondsia chinensis又はSimmondsia californica Nuttall)の種子から抽出される液状のロウである。化粧品,医薬品用原料として市販されているものを用いることができる。
【0017】
本発明の保湿剤は、そのまま適用してもよく、皮膚外用剤等に配合して適用することもできる。その配合量は、皮膚外用剤の形態によって調整することができ、皮膚外用剤中で0.1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がさらに好ましい。水中油型乳化系における内油相や油中水型乳化系における外油相として用いるのが最も扱いやすい。1質量%より少ない場合は、十分な表皮水分保持能を示すことができず、30質量%より多い場合は、ぬるぬるした感触により、使用感を著しく損なうおそれがある。
【実施例】
【0018】
次に、本発明の保湿剤の作用を評価するための試験、これを配合した皮膚外用剤の処方例についてさらに詳細に説明する。本発明の技術的範囲はこれらによりなんら限定されるものではない。保湿効果の評価は、表皮水分保持作用をもって試験した。試験としては経表皮水分損失量(TEWL)の測定及び水分負荷試験による保水力の測定を行った。
【0019】
[試料]
表1に示す実施例1及び比較例1〜6を試料として試験を行う。
【0020】
【表1】

【0021】
[経表皮水分損失量(TEWL)]
(a)試験方法
試験は前腕部内側の3×4cm2の範囲で行なった。まず、使用前のTEWLはTewameter TM210を用いて測定し、その後表1に記載の各サンプルを24mgずつ範囲内に塗布した。塗布後15、30、60、120分にTEWLを測定した。このとき、室温20℃±1℃、湿度40〜50%の環境下で測定を行なった。測定は各範囲無作為に抽出した2ポイントを測定し、その平均をTEWLとして算出し、比較した。また、各塗布前のTEWLを1とし、塗布後の変化を相対的に比較した。
(b)試験結果
試験結果を表2及び図1に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
[水分負荷試験による保水力の測定]
(a)試験方法
試験は前腕部内側の3×4cm2の範囲で行なった。まず、使用前の水分量はSKICON−200を用いて測定し、その後表1に記載の各サンプルを24mgずつ範囲内に塗布した。サンプル塗布直後、水分負荷後15、30、60、120秒に電気伝導率を測定した。このとき、室温20℃±1℃、度40〜50%の環境下で測定を行なった。測定は各範囲無作為に抽出した2ポイントを測定し、その平均を電気伝導率として算出し、比較した。また、各サンプル塗布直後の電気伝導率を1とし、水分負荷後の変化を相対的に比較した。
(b)試験結果
試験結果を表3及び図2に示す。
【0024】
【表3】

【0025】
以上の結果より、本発明の実施例の試料を用いた場合は、比較例を試料とした場合に比べて、経表皮水分損失量(TEWL)が極めて少ないことが確認された。また水分負荷後の変化を見ても、保水力は実施例において最も高く、相対的に比較しても優れたものであった。
【0026】
次に本発明を実施したその他実施例を示す。
【0027】
[実施例2]保湿クリーム
(1)イソステアリン酸フィトステリル 8.0(質量%)
(2)スクアラン 5.0
(3)ステアリン酸 0.8
(4)サラシミツロウ 1.0
(5)ホホバ油 1.0
(6)トリヤシ油脂肪酸グリセリル 3.0
(7)セタノール 3.6
(8)親油型モノステアリン酸グリセリン 2.0
(9)グリセリン 10.0
(10)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(11)アルギニン(20質量%水溶液) 15.0
(12)精製水 35.5
(13)カルボキシビニルポリマー(1質量%水溶液) 15.0
製法:(1)〜(8)の油相成分を80℃にて加熱溶解する。一方(9)〜(13)の水相成分を80℃にて加熱溶解する。これに前記油相成分を攪拌しながら加え、ホモジナイザーにより均一に乳化する。乳化終了後冷却する。
【0028】
[実施例3]美容液
(1)精製水 26.45(質量%)
(2)グリセリン 10.0
(3)ショ糖脂肪酸エステル 1.3
(4)カルボキシビニルポリマー(1質量%水溶液) 17.5
(5)アルギン酸ナトリウム(1質量%水溶液) 15.0
(6)モノラウリン酸ポリグリセリル 1.0
(7)ベヘニルアルコール 0.75
(8)N−ラウロイル−L−グルタミン酸
ジ(フィトステリル−2−オクチルドデシル) 2.0
(9)イソステアリン酸フィトステリル 3.0
(10)トリパルミチン酸グリセリル 3.0
(11)ステアリン酸 1.0
(12)スクワラン 5.0
(13)サラシミツロウ 1.0
(14)精製ホホバ油 1.0
(15)1、3−ブチレングリコール 10.0
(16)L−アルギニン(10質量%水溶液) 2.0
製法:(1)〜(6)の水相成分を混合し、75℃にて加熱溶解する。一方、(7)〜(13)の油相成分を混合し、75℃にて加熱溶解する。次いで、上記水相成分に油相成分を添加して予備乳化を行った後、ホモミキサーにて均一に乳化する。乳化終了後に冷却を開始し、50℃にて(14)〜(15)を加えて、さらに冷却する。
【0029】
[実施例4]油中水型エモリエントクリーム
(1)イソステアリン酸フィトステリル 5.0(質量%)
(2)スクワラン 13.0
(3)トリヤシ油脂肪酸グリセリル 1.5
(4)ステアリン酸 0.5
(5)サラシミツロウ 4.0
(6)精製ホホバ油 1.0
(7)ジグリセリンオレイン酸エステル 5.0
(8)塩化ナトリウム 1.3
(9)塩化カリウム 0.1
(10)プロピレングリコール 3.0
(11)1、3−ブチレングリコール 5.0
(12)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(13)精製水 50.4
(14)香料 0.1
製法:(1)〜(7)の油相を70℃にて加熱溶解する。これに予め70℃にて加熱溶解した(8)〜(13)を徐々に加え、均一に分散する。全て移送終了した後、ホモミキサーにて乳化する。乳化終了後に冷却を開始し、40℃にて(14)を加え、均一に混合する。
【0030】
[実施例5]オイル美容液
(1)イソステアリン酸フィトステリル 5.0(質量%)
(2)スクワラン 13.0
(3)トリパルミチン酸グリセリル 1.5
(3)トリ2−ヘプチルウンデカン酸グリセリル 2.9
(4)ステアリン酸 0.5
(5)サラシミツロウ 4.0
(6)精製ホホバ油 1.0
(7)2−エチルヘキサン酸セチル 28.0
(8)メドウフォーム油 25.0
(9)デカメチルシクロペンタシロキサン 5.0
(10)テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリトリット 14.0
(11)香料 0.1
製法:(1)〜(11)を均一に混合する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1と比較例1〜6の経表皮水分損失量を比較した表2の試験結果をグラフ化した画像である。
【図2】実施例1と比較例1〜6の水分負荷試験による保水力を比較した表3の試験結果をグラフ化した画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐脂肪酸フィトステリルと、炭素数が10〜22の脂肪酸の1種又は2種以上、脂肪酸トリグリセリドの1種又は2種以上、スクワラン、ミツロウ及びホホバ油からなる保湿剤。
【請求項2】
分岐脂肪酸フィトステリルと、炭素数が10〜22の脂肪酸の1種又は2種以上、脂肪酸トリグリセリドの1種又は2種以上、スクワラン、ミツロウ及びホホバ油からなる保湿剤を含有することを特徴とする皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−234920(P2009−234920A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78890(P2008−78890)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】