説明

直流電源装置

【課題】リアクトルの出力を短絡するスイッチ素子の導通・遮断タイミングを適正に設定して高調波の発生を抑制することのできる直流電源装置を提供する。
【解決手段】スイッチ素子の導通タイミングから制御周期の初期において前記リアクトルからの出力電流が零である第1のオフ期間を求めると共に、前記スイッチ素子を遮断した後に前記リアクトルから出力される電流が零となるタイミングから前記周期の終期において前記リアクトルからの出力電流が零である第2のオフ期間を求め(第1の手段)、第2のオフ期間に基づいて設定される目標オフ期間に前記第1のオフ期間が近付くように前記スイッチ素子の導通タイミングを修正して前記第1の手段を再起動して、前記第1のオフ期間と前記目標オフ期間とが一致するように前記スイッチ素子の導通タイミングを決定する(第2の手段)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトル入力型の直流電源装置に係り、特にリアクトルの出力を短絡制御するスイッチ素子の動作タイミングを、交流電力の仕様の違い等に拘わりなく適正に設定することのできる直流電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リアクトル入力型の直流電源装置は、基本的には図1に示すように交流電力を全波整流する整流器1と、この整流器1の一方の出力端に接続された誘導性素子であるリアクトル2と、このリアクトル2からの出力を平滑化して負荷RLに供給するコンデンサ3を主体として構成される。またこの種の直流電源装置における高調波の発生を抑制するべく、前記リアクトル2と前記コンデンサ3との間に逆流防止用のダイオード4を直列に介装すると共に、前記リアクトル2と前記整流器1の他方の出力端との間にIGBTやMOSトランジスタ等のスイッチ素子5を設け、その動作周期に同期させて上記スイッチ素子5を導通(オン)させて前記リアクトル2の出力を短絡することも提唱されている[例えば特許文献1等を参照]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2763479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで前述したスイッチ素子5は、前記リアクトル2の出力の短絡制御によって前記リアクトル2からダイオード4を介してコンデンサ3に出力される電流波形を正弦波に近付け、これによって高調波の発生を抑制する役割を担う。しかしながら前記電流波形を正弦波に近付け得るか否かは前記スイッチ素子5の導通・遮断タイミングに大きく左右される。しかも前記スイッチ素子5の最適な導通・遮断タイミングは、交流電源の仕様(電圧・周波数)や負荷の状況等によって変化する。これ故、予めこの種の直流電源装置の使用条件を想定して前記スイッチ素子5の幾つかの導通・遮断タイミングを求めておき、これを選択的に用いて前記スイッチ素子5を導通・遮断制御しても、種々の使用条件に応じて動作条件の最適化を図ることが困難であった。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、交流電力の仕様の違いや負荷の状態等に拘わりなく、リアクトルの出力を短絡するスイッチ素子の導通・遮断タイミングを適正に設定して高調波の発生を抑制することのできる直流電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するべく本発明に係る直流電源装置は、リアクトルから出力されてダイオードを介して負荷に供給される電流、およびスイッチ素子にて短絡される電流に着目し、電流が流れない期間に基づく演算処理によって前記スイッチ素子を導通・遮断する適正なタイミングを決定することで、交流電力の仕様の違いや負荷の状態等に拘わりなく高調波の発生を効果的に抑制するようにしたものである。
【0007】
即ち、本発明に係る直流電源装置は、整流器にて全波整流された電力をリアクトルに入力し、このリアクトルからの出力電流を逆流防止用ダイオードを介してコンデンサに導いて平滑化した後に負荷に供給する手段、および前記全波整流された電力の周期に同期して前記リアクトルの出力を短絡して高調波の発生を抑制するスイッチ素子を備えたものであって、特に
前記リアクトルから出力される電流を逐次検出する電流検出手段を備え、
前記スイッチ素子を導通・遮断制御するスイッチ制御手段は、
前記スイッチ素子の導通タイミングから前記周期の初期において前記リアクトルからの出力電流が零である第1のオフ期間を求めると共に、前記スイッチ素子を遮断した後に前記リアクトルから出力される電流が零となるタイミングから前記周期の終期において前記リアクトルからの出力電流が零である第2のオフ期間を求める第1の手段と、
前記第2のオフ期間に基づいて設定される目標オフ期間に前記第1のオフ期間が近付くように前記スイッチ素子の導通タイミングを修正して前記第1の手段を再起動して、前記第1のオフ期間と前記目標オフ期間とが一致するように前記スイッチ素子の導通タイミングを決定する第2の手段とを具備したことを特徴としている。
【0008】
ちなみに前記目標オフ期間は、例えば前記第2のオフ期間に所定の係数を乗じて設定される。また前記スイッチ制御手段は、前記整流器に入力される交流テ電源における交流電圧の零クロス点の検出タイミングを開始点として前記スイッチ素子の導通・遮断タイミングを制御するように構成される。
尚、前記スイッチ素子の遮断タイミングについては、例えば前記リアクトルから出力される電流が、予め設定された電流閾値を越えるタイミングとして設定するようにし、好ましくは前記電流閾値を、例えば前記リアクトルから1動作周期に亘って負荷に出力される電流量に基づいて等価的に求めた前記1動作周期分の目標電流波形(正弦波)に、所定の係数を乗じた電流波形(正弦波)として求めておくようにすれば良い。或いは前記スイッチ素子の遮断タイミングを、前記負荷に供給される直流電圧が、予め設定された目標直流電圧となるように調整して決定するようにしても良い。
【発明の効果】
【0009】
このような構成の直流電源装置によれば、リアクトルから出力される電流、特にダイオードを介してコンデンサに供給される電流が零となる期間に基づいて、所定の演算処理によって前記スイッチ素子を導通タイミングを適正に設定し、また前記スイッチ素子の遮断タイミングについても前記スイッチ素子にて短絡される電流に基づいて適正に設定することができる。即ち、スイッチ素子の導通・遮断タイミングを、交流電源の仕様や直流電源装置の使用状況等に応じて適切に、しかも簡易に設定することができる。従って交流電源の仕様の違いや負荷の状態等に拘わりなく高調波の発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0010】
またスイッチ素子の導通・遮断タイミングを予め標準的に設定しておいても、本装置の使用状況に応じて実際にリアクトルから出力される電流に応じて前記スイッチ素子の導通タイミングおよび遮断タイミングが徐々に修正されてその適正化が行われるので、種々の使用環境に応じて高調波の発生を効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る直流電源装置の概略構成図。
【図2】直流電源装置の基本的な動作を説明するための動作波形図。
【図3】本発明に係る直流電源装置におけるスイッチ素子の導通・遮断に伴う動作を説明するための図。
【図4】本発明の一実施形態に係る直流電源装置における初期設定処理手順の一例を示す図。
【図5】本発明の一実施形態に係る直流電源装置におけるスイッチ素子の導通タイミングおよび遮断タイミングの設定処理手順の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る直流電源装置について説明する。
この直流電源装置は、いわゆるリアクトル入力型のものであって、基本的には図1に示すように交流電力を全波整流する整流器1と、この整流器1の一方の出力端[+]に一端を接続した誘導性素子であるリアクトル2と、このリアクトル2の他端と前記整流器1の他方の出力端[−]との間に接続されて該リアクトル2からの出力電流を平滑化して負荷RLに供給するコンデンサ3を主体として構成される。また前記リアクトル2の他端と前記コンデンサ3との間には逆流防止用のダイオード4が直列に介装されており、更に前記リアクトル2の他端と前記整流器1の他方の出力端[−]との間には、リアクトル2を短絡して前記負荷側への電流供給を遮断するスイッチ素子5が接続されている。このスイッチ素子5は、スイッチ制御部(スイッチ制御手段)6によって導通・遮断制御(オン・オフ制御)されるIGBTやMOSトランジスタからなる。
【0013】
尚、前記スイッチ制御部6は、基本的には零クロス検出器7にて検出される前記交流電源の零クロス点を同期基準タイミングとして前記スイッチ素子5を所定のタイミングで導通・遮断制御する役割を担う。ちなみに従来の直流電源装置におけるスイッチ制御部6においては、一般的には前記スイッチ素子5の導通・遮断(オン・オフ)タイミングを、その電源仕様に合わせて固定的に設定したり、或いは予め準備した複数種の導通・遮断(オン・オフ)タイミングの中の1つを、負荷の仕様や電源装置の使用状況に応じて選択的に設定するものとなっている。
【0014】
この点、この実施形態に係る直流電源装置においては、前記整流器1の他方の出力端[−]側にシャント抵抗8が直列に介挿されており、前記スイッチ制御部6は上記シャント抵抗8を介して検出される前記リアクトル2の出力電流に応じて、後述するように前記スイッチ素子5の導通タイミングTonおよび遮断タイミングToffをそれぞれ適正に設定するものとなっている。尚、シャント抵抗8を介して検出される電流Iは、前記スイッチ素子5の導通時には該スイッチ素子5を介して短絡された前記リアクトル2からの出力電流であり、前記スイッチ素子5の遮断時には前記リアクトル2から前記ダイオード4を介してコンデンサ3に、ひいては負荷RL側に供給された電流である。
【0015】
ここで先ず前記直流電源装置の基本的な動作について説明すると、整流器1を介して全波整流されて前記リアクトル2に入力される入力電圧Vinは、図2に示すように交流電源の零クロス点を節目(基準点)とする半周期の正弦波(プラス成分)であり、その周期Tは交流電圧波形の周期の1/2倍となる。そしてスイッチ素子5が定常的に遮断状態であるとすると、前記リアクトル2を介して流れ込む入力電流Iinは、図2に示すように入力電圧Vinがコンデンサ3の充電電圧(平滑化された出力電圧Vout)を上回る時点から該コンデンサ3を充電するように徐々に増加した後、入力電圧Vinの低下に伴って減少して該入力電圧Vinが前記コンデンサ3の充電電圧まで低下したときに零となる。
【0016】
これに対して前記スイッチ素子5を予め設定したタイミングで導通・遮断制御すると、リアクトル2を介して流れ込む入力電流Iinは、図3に示すようにスイッチ素子5が導通した時点Tonから流れ始めて徐々に増大し、前記スイッチ素子5が遮断した時点Toffから前記ダイオード4を介してコンデンサ3を充電するように流れ込む。尚、スイッチ素子5が導通状態にある場合(オン期間)には、入力電流Iinの全てがスイッチ素子5を介して短絡されるので、前記ダイオード4を介してコンデンサ3(負荷RL側)に供給されることはない。この際、リアクトル2を介して流れ込む入力電流Iinが、できる限り正弦波に近くなるようにすれば高調波の発生を抑制することができ、従ってこのような正弦波に近い入力電流Iinを得るには前述したスイッチ素子5の導通タイミングTonと遮断タイミングToffとをそれぞれ適正に設定することが重要となる。
【0017】
そこで本発明においては、前記リアクトル2から出力される電流Iの前記周期Tに亘る平均的な電流Iaveに着目して前記スイッチ素子5の遮断タイミングToffを設定すると共に、前記スイッチ素子5を遮断した後に前記電流Iが零となるタイミングに基づいて前記スイッチ素子5の導通タイミングTonを適正設定するようにしている。ちなみに前記リアクトル2から出力される電流Iの周期Tに亘る平均的な入力電流Iaveとは、図2に示すように周期T内におけるリアクトル2からの出力電流Iの積分値である電流量ΣIが、その入力電圧Vinに応じてリアクトル2に平均的に入力する電流(半周期の正弦波)として定義されるもので、その電流量ΣIaveは前記電流量ΣI等しく定められる。
【0018】
即ち、この実施形態においては,前記スイッチ素子5の導通によってリアクトル2から出力される電流Iが、前記平均電流Iaveに所定の係数α(>1)を乗じて設定された図3に示すように閾値電流Ithを上回るタイミングを前記スイッチ素子5の遮断タイミングToffとして設定するものとなっている。即ち、スイッチ素子5の導通によってリアクトル2からの電流Iの出力が開始され、その出力電流Iが徐々に増大する。そして或る程度の電流Iが大きくなった時点で前記スイッチ素子5を遮断すれば、その後はリアクトル2からダイオード4を介してコンデンサ3に流れ込む電流Iが継続して出力されることに着目し、リアクトル2から出力される電流Iの大きさに基づいて前記スイッチ素子5に遮断タイミングToffを設定するものとなっている。
【0019】
また前記スイッチ素子5の導通タイミングTonを適正に設定するべく、先ず仮に設定した前記スイッチ素子5の導通タイミングTonから前記周期Tの初期時に入力電流Iinが零のまま維持される第1のオフ期間T1を求めると共に、前記スイッチ素子5を遮断した後に前記入力電流Iin(ダイオード4を介してコンデンサ3に供給される電流)が零となるタイミングTendから前記周期Tの終期時において入力電流Iinが零となる第2のオフ期間T2を求めている[第1の手段]。
【0020】
そして上述した如く求めた第2のオフ期間T2に基づいて初期時の目標オフ期間T3を設定し、この目標オフ期間T3に近付くように前記第1のオフ期間T1を、具体的には前記スイッチ素子5の導通タイミングTonを変更する[第2の手段]。するとスイッチ素子5の導通タイミングTonの変更に伴って前記リアクトル2から出力される電流Iが前述した閾値電流Ithを上回るタイミングが変化し、これによってスイッチ素子5の遮断タイミングToffも変化する。この結果、前記スイッチ素子5を遮断した後に前記リアクトル2からダイオード4を介してコンデンサ3に供給される電流(出力電流I)が零となるタイミングTendも変化し、これに伴って前記第2のオフ期間T2も変化する。
【0021】
そこでスイッチ素子5の導通タイミングTonを変更した条件下において前述した第1の手段での処理を再度実行させ[第2の手段]、前記第2のオフ期間T2を求め直して新たな目標オフ期間T3を設定する。そして上述した処理を繰り返し実行することで、前記第1のオフ期間T1を新たに求められる目標オフ期間T3に徐々に収束させ、これによって前記スイッチ素子5の導通タイミングTonの適正化を図り、同時に前記スイッチ素子5の遮断タイミングToffの適正化を図るものとなっている。
【0022】
図4はこのようにして前記スイッチ素子5の導通タイミングTonおよび遮断タイミングToffを図るように構成された本発明に係る直流電源装置での初期設定処理手順の一例を示している。この初期設定処理は、交流電圧波形の周期に基づいて前記スイッチ素子5の制御周期Tを決定すると共に、リアクトル2からの出力電流Iに基づいて該リアクトル2に入力される前述した平均電流Iaveを算出し、更にこの平均電流Iaveに基づいて前記スイッチ素子5の遮断タイミングToffを決定するための閾値電流Ithを設定する処理手続からなる。
【0023】
スイッチ素子5の制御周期Tは、基本的には前述した零クロス検出器7によって検出される交流電圧の零クロス点の周期として決定される。ちなみに交流電源の周波数は長期的には略一定に保たれるが、短期化的には多少の揺らぎ(変動)があり、換言すれば交流電圧の周期自体、多少の揺らぎ(変動)がある。また直流電源装置を使用する地域や国によって交流電源の周波数自体が異なることもあり、電源周波数の安定度も一様であるとは言い難い。
【0024】
そこでこの実施形態においては、先ず交流電源の周期の変動に左右されることなく前記スイッチ素子5の制御周期Tを安定的に設定するべく、前記零クロス検出器7によりN回(例えば50回)に亘って検出される零クロス点の周期の平均値として前記スイッチ素子5の制御周期Tを決定している。具体的には周期検出のパラメータnを零[0]に初期設定し〈ステップS1〉、この制御パラメータnを歩進(インクリメント)しながら〈ステップS2〉、前記零クロス検出器7にて検出される交流電圧の零クロス点間の期間Tn(n=1〜N)を検出する〈ステップS3〉。そして検出した期間(零クロス周期)Tnが予め定めた範囲Tmin〜Tmaxの範囲内に含まれるか否かを判定し〈ステップS4〉、上記範囲を逸脱する場合には取得したデータ(検出した期間Tn)を廃棄する〈ステップS5〉。この処理をN個のデータ(検出した期間Tn)が得られるまで繰り返し実行し〈ステップS6〉、これらのN個のデータの平均値を前記スイッチ素子5の制御周期Tとして設定する〈ステップS7〉。
【0025】
尚、前述した零クロス周期Tnの判定範囲については、交流電源の周波数が標準的に50Hzまたは60Hzであることを考慮して、例えば電源周波数が65Hzを越えるときの最小周期15.385mSec、および電源周波数が45Hzに満たないときの最大周期22.222mSecとして設定すれば十分である。また前述したようにして零クロス入力の平均値を求めることに代えて、フィルタリング処理により平均的な零クロス周期Tnを求め、これを前記スイッチ素子5の制御周期Tとして設定するようにしても良い。
【0026】
しかる後、前記スイッチ素子5の遮断タイミングToffを規定する為の閾値電流Ithを設定する。この処理は、前記スイッチ素子5を定常的に遮断状態に設定し(導通・遮断制御なし)、リアクトル2からの出力電流Iの全てがダイオード4を介してコンデンサ3(負荷RL側)に供給されるような理想的条件を設定して行われる〈ステップS11〉。そしてこの状態において前述した如く設定された周期Tに亘って出力電流I(ダイオード4を介して流れる電流Id)を前記シャント抵抗8を介して逐次検出する〈ステップS12〉。この電流検出は、例えば100〜200μSecのサンプリング周期で実行される。
【0027】
次いで、周期Tに亘って検出した出力電流I(ダイオード4を介して流れる電流Id)の積分値ΣIに基づいて、入力電圧Vinに応じて前記周期Tに亘って正弦波を描いて前記リアクトル2に平均的に入力される平均電流Iaveを求める〈ステップS13〉。尚、出力電流Iの積分値ΣIを求めることに代えて、周期Tに亘る出力電流Iの平均値を求め、この出力電流Iの平均値に基づいて前記周期Tに亘って正弦波を描いて前記リアクトル2に平均的に入力される平均電流Iaveを求めることも可能である。
【0028】
そしてこの平均電流Iaveに基づいて、前記スイッチ素子5の遮断タイミングToffを規定する為の閾値電流Ithを、例えば
Ith = α・Iave
として設定する〈ステップS14〉。但し、上記係数αは、スイッチ素子5の導通・遮断制御に伴って前記ダイオード4を介してコンデンサ3に供給されることなく、該スイッチ素子5を介して短絡される電流Is分を見込んで、例えば[1.1]〜[1.3]程度の値として設定される。
【0029】
以上のようにして初期設定処理を終了したならば、次に図5に示す処理手順に従って前記スイッチ素子5を導通させるタイミングTonおよび該スイッチ素子5を遮断するタイミングToffを設定する。具体的には先ず前記スイッチ素子5を導通させるタイミングTonを仮設定し〈ステップS21〉、前述した零クロスの周期Tに同期させて上記タイミングTonにてスイッチ素子5を導通させる〈ステップS22〉。つまり周期Tの初期時においてリアクトル2からの出力電流Iを零とする第1のオフ期間T1が経過した後、スイッチ素子5を導通させる。上記仮設定する導通タイミングTon(第1のオフ期間T1)については、従来一般的な直流電源装置において固定的(標準的)に設定される導通タイミングとして定めても良いが、交流電圧の零クロス点として設定することも可能である。
【0030】
そしてこのときに前記リアクトル2から出力される電流I(スイッチ素子5を介して流れる短絡電流Is)を前記シャント抵抗8を介して検出し〈ステップS23〉、この電流Iが前述した閾値電流Ithを越えるか否かを判定する〈ステップS24〉。この判定処理は、シャント抵抗8を介して検出される電流Iが前記閾値電流Ithを越えるまで繰り返し行われる。そして電流Iが前記閾値電流Ithを越えたときに前記スイッチ素子5の遮断すると共に〈ステップS25〉、その検出タイミングを前記スイッチ素子5の遮断タイミングToffとして仮設定する〈ステップS26〉。
【0031】
尚、上述した判定に用いられる閾値電流Ithは、図3に示すように零クロス点に同期した周期T内において、その時間経過と共に正弦波を描いて変化する。従って前述した零クロス点に同期させて前記周期Tに亘って半周期の正弦波を描く閾値電流Ithを生成しながら、前記周期Tに亘って逐次検出される電流Iと比較し、その検出電流Iが閾値電流Ithを越えるか否かを判定するようにすれば良い。
【0032】
このようにしてスイッチ素子5を遮断したならば、次に前記リアクトル2から出力されて前記ダイオード4を通してコンデンサ3に供給される電流I(ダイオード4に流れる電流Id)を、前記シャント抵抗8を介して検出しながら〈ステップS26〉、その電流Iが零[0]になるか否かを繰り返し判定し〈ステップS27〉、ダイオード4を通して流れる電流Iが零[0]となるタイミングTendを検出する〈ステップS28〉。そしてこの検出タイミングTendに基づいて、前記周期Tの後期において前記リアクトル2から出力される電流Iが零となる第2のオフ期間T2を求め〈ステップS29〉、この第2のオフ期間T2に基づいて前記周期Tの初期時において前記リアクトル2からの出力電流Iを零としておくべき目標オフ期間T3を設定する〈ステップS30〉。
【0033】
この目標オフ期間T3は、周期T内におけるリアクトル2の出力電流Iが、なるべく半周期の正弦波に近くなるような期間として設定されるもので、例えば
T3 = β・T2
として設定される。但し、上記係数βは、スイッチ素子5の導通時に該スイッチ素子5を介して流れる前記リアクトル2からの出力電流Isの変化と、スイッチ素子5を遮断したときに前記ダイオード4を介して流れる前記リアクトル2からの出力電流Idの変化との違いを配慮して、例えば[0.5]〜[0.9]程度の値として設定される。
【0034】
そして前述した第1のオフ期間T1が上述した如く設定される目標オフ期間T3と等しいか否かを判定し〈ステップS31〉、これらの期間T1,T2が異なる場合には、前記第1のオフ期間T1を前記目標オフ期間T3に近付けるべく前記スイッチ素子5の導通タイミングTonを修正する〈ステップS32〉。そして修正した導通タイミングTonの下で前記スイッチ素子5を導通制御することで、再度、ステップS23からの処理を繰り返し実行する。上記スイッチ素子5の導通タイミングTonの修正については、先に設定されている導通タイミングTonを所定時間Δtずつシフトするようにすれば良い。
【0035】
このようにしてスイッチ素子5の導通タイミングTonを修正すると、これに伴ってリアクトル2からスイッチ素子5を介して電流が出力されるタイミングが変化するので、その出力電流Iが前述した閾値電流Ithを越えるタイミングも変化する。そしてこれに伴ってスイッチ素子5の遮断タイミングToffも変化するので、更にダイオード4を介して流れる電流Iが零[0]となるタイミングTendも変化する。従ってこれに伴って前述した第2のオフ期間T2が変化し、更には目標オフ期間T3も変化する。そして新たに設定された目標オフ期間T3の下で前述した如く設定したスイッチ素子5の導通タイミングTonが適正であるか否かの判定が行われ、第1の期間T1が目標オフ期間T3に収束するまで前述した処理が繰り返し実行される。
【0036】
そして第1の期間T1が目標オフ期間T3に収束したとき〈ステップS32〉、そのときに仮設定されているスイッチ素子5の導通タイミングTonと該スイッチ素子5の遮断タイミングToffとを、リアクトル2から出力電流Iをバランス良く半周期の正弦波に近付けて高調波の発生を効果的に抑制し得る制御タイミングとして決定し、これを定常的に出力する〈ステップS32〉。
【0037】
このようにしてスイッチ素子5の導通タイミングTonとその遮断タイミングToffとを設定する本直流電源装置によれば、リアクトル2から出力される電流波形をバランス良く半周期の正弦波に近付けることができるので、高調波の発生を効果的に抑制することができる。しかも交流電源の周波数(周期)が不明であっても、またその周波数(周期)の変動が大きい場合でも、或いは負荷RLの違いに起因してその動作条件が大きく変化するような場合であっても、スイッチ素子5の導通・遮断タイミングTon,Toffを簡易に、しかも効果的に適正設定することができる。従って種々の条件下で使用されるリアクトル入力型の直流電源装置における高調波の発生を抑える上で、その実用的利点が多大である。
【0038】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。実施形態においては、リアクトル2からの出力電流Iから該リアクトル2に入力される平均電流Iaveを求め、この平均電流Iaveに基づいて設定した閾値電流Ithの下でスイッチ素子5の遮断タイミングToffを設定するようにしたが、コンデンサ3を介して平滑化された出力電圧Voutに着目してスイッチ素子5の遮断タイミングToffを設定することも可能である。具体的にはコンデンサ3にて平滑化されて負荷RLに出力される電圧Voutを検出し、この出力電圧Voutが前記負荷RLの仕様等によって定まる目標出力電圧に近付くように前記スイッチ素子5の遮断タイミングToffを修正する。そしてこの修正処理を繰り返し実行することで、該スイッチ素子5の遮断タイミングToffを最適なタイミングに収束させるようにすれば良い。その他、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 整流器
2 リアクトル
3 コンデンサ
4 ダイオード(逆流防止用)
5 スイッチ素子(IGBTやMOSトランジスタ)
6 スイッチ制御部
7 零クロス検出器
8 シャント抵抗(電流検出手段)
RL 負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
整流器にて全波整流された電力をリアクトルに入力し、このリアクトルからの出力電流を逆流防止用ダイオードを介してコンデンサに導いて平滑化した後に負荷に供給する手段、および前記全波整流された電源の周期に同期して前記リアクトルの出力を短絡して高調波の発生を抑制するスイッチ素子を備えた直流電源装置において、
前記リアクトルから出力される電流を逐次検出する電流検出手段を備え、
前記スイッチ素子を導通・遮断制御するスイッチ制御手段は、
前記スイッチ素子の導通タイミングから前記周期の初期において前記リアクトルからの出力電流が零である第1のオフ期間を求めると共に、前記スイッチ素子を遮断した後に前記リアクトルから出力される電流が零となるタイミングから前記周期の終期において前記リアクトルからの出力電流が零である第2のオフ期間を求める第1の手段と、
前記第2のオフ期間に基づいて設定される目標オフ期間に前記第1のオフ期間が近付くように前記スイッチ素子の導通タイミングを修正して前記第1の手段を再起動して、前記第1のオフ期間と前記目標オフ期間とが一致するように前記スイッチ素子の導通タイミングを決定する第2の手段と
を具備したことを特徴とする直流電源装置。
【請求項2】
前記目標オフ期間は、前記第2のオフ期間に所定の係数を乗じて設定されるものである請求項1に記載の直流電源装置。
【請求項3】
前記スイッチ制御手段は、前記整流器に入力される交流電源における交流電圧の零クロス点の検出タイミングから前記全波整流電源の周期を検出し、前記零クロス点の検出タイミングを動作周期の開始点として前記スイッチ素子の導通・遮断タイミングを制御するものである請求項1に記載の直流電源装置。
【請求項4】
前記スイッチ素子の遮断タイミングは、前記リアクトルから出力される電流が、予め設定された電流閾値を越えるタイミングとして設定されるものであって、
前記電流閾値は、前記リアクトルから1動作周期に亘って負荷に出力される電流量に基づいて等価的に求めた前記1動作周期分の目標電流波形に、所定の係数を乗じた電流波形として求められるものである請求項1に記載の直流電源装置。
【請求項5】
前記スイッチ素子の遮断タイミングは、前記負荷に供給される直流電圧が、予め設定された目標直流電圧となるように調整されるものである請求項1に記載の直流電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−233296(P2010−233296A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76171(P2009−76171)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】