説明

真空処理装置、真空処理装置の給電装置、製膜方法、および製膜時における給電方法

【課題】製膜されるシリコン薄膜の面積を大きくしても、シリコン薄膜の膜厚分布のばらつきをおさえることができる真空処理装置、真空処理装置の給電装置、製膜方法、および製膜時における給電方法を提供する。
【解決手段】電源部17から高周波電力が給電点に供給され、対向電極に設置した基板との間にプラズマを形成する放電電極3aと、放電電極3aに供給される高周波電力の位相および振幅を、給電点のそれぞれにおいて調節する複数の整合器と、を備え、整合器には、放電電極3aに供給される高周波電力の位相を調節する位相調節コンデンサ23T及びコイル24と、高周波電力の振幅を調節する振幅調節コンデンサ25Mとからなる整合回路が複数設けられ、整合器のインピーダンスは、給電点間における高周波電力の位相差に基づいて、整合回路を切り替えることにより調節される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理装置、真空処理装置の給電装置、製膜方法、および製膜時における給電方法に関し、特に、プラズマを用いて基板に処理を行う真空処理装置、真空処理装置の給電装置、製膜方法、および製膜時における給電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜太陽電池の生産性の向上を図るため、高品質なシリコン薄膜を高速かつ大面積で製膜することが重要視されている。
そのため、高品質なシリコン薄膜を高速で製膜するために、シリコン薄膜の製膜条件を、高ガス圧(1kPaより高い圧力)化、印加する高周波電力の高周波数化、電極と基板との間の距離の狭ギャップ化する傾向にある。
【0003】
一方、シリコン薄膜の面積を大面積化するために、電極上における高周波電力の定在波がシリコン薄膜の品質低下の原因であるため、上記定在波の影響低減を目的として、電極の分割や、電極に供給される高周波電力の位相を変調する方式、つまり位相変調方式などが用いられている。
上述の位相変調方式は、1つの電極に複数の電極点を設け、各給電点に給電する高周波の位相差を時間的に変化させるものである(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第3316490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の位相変調方式では、位相変調を行っている状態であっても、電極における完全に電力の反射をなくすことができない。
【0005】
具体的には、同位相などの固定した位相でマッチングを取り、電極における高周波電力の反射を略ゼロにした場合であっても、電極に供給する高周波電力の位相差を変えると、放電位置の違いにより時間的にインピーダンスが変化するため、電極における高周波電力の反射が増加していた。つまり、最適な放電条件とならないという問題があった。
【0006】
さらに、位相変調を行う複数の整合器が同じ電極に接続されるため、自動的に位相変調を行って高周波電力の整合を取ろうとすると、高周波電力の干渉が発生し、マッチングした条件に収束しないという問題があった。
【0007】
位相変調により反射を低減できない場合には、電極に供給される高周波電力の利用効率が低くなる。すると、シリコン薄膜の製造する際のプロセスコストが高くなるという問題があった。ひいては、シリコン薄膜を用いた製品の競争力が低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、製膜されるシリコン薄膜の面積を大きくしても、シリコン薄膜の膜厚分布のばらつきをおさえることができる真空処理装置、真空処理装置の給電装置、製膜方法、および製膜時における給電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の真空処理装置は、電源部から高周波電力が給電点に供給され、対向電極に設置した基板との間にプラズマを形成する放電電極と、該放電電極に供給される高周波電力の位相および振幅を、前記給電点のそれぞれにおいて調節する複数の整合器と、を備え、前記整合器には、前記放電電極に供給される前記高周波電力の位相を調節する位相調節部と、前記高周波電力の振幅を調節する振幅調節部とからなる整合回路が複数設けられ、前記整合器のインピーダンスは、前記給電点間における前記高周波電力の位相差に基づいて前記整合回路を切り替えることにより調節されることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、給電点間における高周波電力の位相差に基づいて、整合器のインピーダンスを調節するため、放電電極における高周波電力の反射が抑制される。
そのため、高周波電力の利用効率や給電効率が向上するとともに、放電電極と基板との間の放電安定性が向上する。
そして、本発明によれば、位相調節部および振幅調節部からなる整合回路を切り替えることにより、整合器のインピーダンスの値が調節されるため、位相調節部および振幅調節部の設定値の少なくとも一方を調節する方法と比較して、より短い時間で整合器のインピーダンスの値が調節される。
つまり、整合回路の切り替えは、位相調節部および振幅調節部の設定値変更よりも動作時間が短いスイッチング素子などの素子を用いて実現される。そのため、整合回路を切り替えることにより、短い時間で整合器のインピーダンスの値を調節することができる。
【0011】
上記発明においては、前記複数の給電点に供給される高周波電力の電力は、前記給電点間における前記高周波電力の位相差に基づいて、前記給電点ごとに調節されることが望ましい。
【0012】
本発明によれば、各給電点に供給される高周波電力の電力を調節するため、電力調節を行わない場合と比較して、放電電極における反射の発生の抑制と、放電電極と基板との間の放電の均一性とを確保しやすい。
【0013】
上記発明においては、前記整合器のインピーダンスは、前記位相調節部および前記振幅調節部の少なくとも一方の前記設定値を制御することにより調節されることが望ましい。
【0014】
本発明によれば、位相調節部および振幅調節部の少なくとも一方の設定値を制御することにより、整合器のインピーダンスの値を調節することができる。
【0015】
上記発明においては、前記給電点間における前記高周波電力の位相差に対応する前記位相調節部の設定値と、前記振幅調節部の設定値とは、予め定められていることが望ましい。
【0016】
本発明によれば、給電点間における高周波電力の位相差に対応した位相調節部の設定値および振幅調節部の設定値を予め定めることにより、上記位相差に基づいて位相調節部の設定値および振幅調節部の設定値を自動調節する方法と比較して、放電電極における高周波電力の反射が確実に抑制される。
つまり、自動調節する方法では、複数の整合器の間で干渉が発生し、放電電極における高周波電力の反射が確実に抑制されない恐れがあるが、予め、給電点間における高周波電力の位相差に対応して、放電電極における高周波電力の反射が抑制される位相調節部の設定値および振幅調節部の設定値を定めておくことにより、確実に、放電電極における高周波電力の反射が抑制される。
【0017】
上記発明においては、前記位相調節部には、第1位相調節部と第2位相調節部とが設けられ、前記第1位相調節部は前記第2位相調節部と比較して、前記設定値の変更速度が遅く、かつ変更幅が広く、前記第2位相調節部は前記第1位相調節部と比較して、前記設定値の変更速度が速く、かつ変更幅が狭く、前記振幅調節部には、第1振幅調節部と第2振幅調節部とが設けられ、前記第1振幅調節部は前記第2振幅調節部と比較して、前記設定値の変更速度が遅く、かつ変更幅が広く、前記第2振幅調節部は前記第1振幅調節部と比較して、前記設定値の変更速度が速く、かつ変更幅が狭いことが望ましい。
【0018】
本発明によれば、位相調節部は、第1位相調節部と第2位相調節部とを組み合わせ、振幅調節部は、第1振幅調節部と第2振幅調節部とを組み合わせたものであるため、位相変調に対する整合器のインピーダンスの値の追従性が良くなる。
つまり、設定値の変更速度が速く、かつ変更幅の狭い第2位相調節部および第2振幅調節部を用いて、位相変調に対する整合器のインピーダンスの値の追従を行うことで、追従性がよくなる。一方で、追従性が要求されない場合には、第1位相調節部および第1振幅調節部を用いることで、第2位相調節部および第2振幅調節部では対応できない程、設定値の変更幅が広い場合にも対応できる。
【0019】
上記発明においては、前記高周波電力は、電力が供給される供給期間と、供給が停止される停止期間とを繰り返しながら供給され、前記位相調節部および前記振幅調節部の少なくとも一方は、前記停止期間の間に前記設定値が変更されることが望ましい。
【0020】
本発明によれば、整合器のインピーダンスの値、つまり位相調節部および振幅調節部の少なくとも一方の設定値の変更速度が、高周波電力における位相変調速度より遅い場合であっても、高周波電力の停止期間中に上述の設定値を変更することにより、電力が供給される供給期間に、放電電極において発生する高周波電力の反射を抑制できる。
【0021】
さらに、停止期間に位相調節部および振幅調節部の少なくとも一方の設定値を変更することから、放電電極において発生する高周波電力の反射抑制を考慮することなく設定値を変更できるため、電力が供給されている間に設定値を変更する場合と比較して、大きな範囲で設定値を変更できる。
【0022】
位相調節部および振幅調節部からなる整合回路を複数設ける方法と比較して、位相調節部および振幅調節部の数を減らすことができるため、本発明の真空処理装置を用いた薄膜等の製造に要するコストの低減を図ることができる。
【0023】
上記発明においては、前記放電電極は複数設けられ、隣接する前記放電電極の一方の放電電極に前記高周波電力が供給されている間は、他方の放電電極への前記高周波電力の供給は停止され、前記一方の放電電極への前記高周波電力の供給が停止されている間は、前記他の放電電極に前記高周波電力は供給されていることが望ましい。
【0024】
本発明によれば、複数の放電電極のうち隣接する放電電極の間での放電領域が異なるため、プラズマが繋がることがなく、干渉が防止される。そのため、複数の放電電極における高周波電力の反射の発生が抑制される。
さらに、複数の放電電極と基板との間における放電分布の均一化が図られる。
【0025】
本発明の真空処理装置の給電装置は、高周波電力を放電電極の給電点に供給する電源部と、前記放電電極に供給される高周波電力の位相および振幅を、前記給電点のそれぞれにおいて調節する複数の整合器と、が設けられ、前記整合器には、前記放電電極に供給される前記高周波電力の位相を調節する位相調節部と、前記高周波電力の振幅を調節する振幅調節部とからなる整合回路が複数設けられ、前記給電点間における前記高周波電力の位相差に基づいて、前記整合回路を切り替えることにより前記整合器のインピーダンスが調節されることを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、給電点間における高周波電力の位相差に基づいて、整合器のインピーダンスを調節するため、放電電極における高周波電力の反射が抑制される。
【0027】
本発明の製膜方法は、電源部から高周波電力が給電点に供給され、対向電極に設置した基板との間にプラズマを形成する放電電極と、該放電電極に供給される高周波電力の位相および振幅を、前記給電点のそれぞれにおいて調節する複数の整合器と、を備え、前記整合器には、前記放電電極に供給される前記高周波電力の位相を調節する位相調節部と、前記高周波電力の振幅を調節する振幅調節部とからなる整合回路が複数設けられた真空処理装置を用いた製膜方法であって、前記放電電極に設けられた前記複数の給電点に供給された高周波電力の位相差であって、前記複数の給電点間における位相差を制御する位相差制御ステップと、前記複数の給電点間における位相差に基づいて、前記整合回路を切り替えることにより前記整合器のインピーダンスを調節するインピーダンス調節ステップと、を有することを特徴とする。
【0028】
本発明によれば、給電点間における高周波電力の位相差に基づいて、整合器のインピーダンスを調節するため、放電電極における高周波電力の反射が抑制される。
【0029】
本発明の製膜時における給電方法は、電源部から高周波電力が給電点に供給され、対向電極に設置した基板との間にプラズマを形成する放電電極と、該放電電極に供給される高周波電力の位相および振幅を、前記給電点のそれぞれにおいて調節する複数の整合器と、を備え、前記整合器には、前記放電電極に供給される前記高周波電力の位相を調節する位相調節部と、前記高周波電力の振幅を調節する振幅調節部とからなる整合回路が複数設けられた真空処理装置を用いた製膜方法であって、前記放電電極に設けられた前記複数の給電点に供給される高周波電力における位相差であって、前記複数の給電点間における位相差を制御する位相差制御ステップと、前記複数の給電点間における位相差に基づいて、前記整合回路を切り替えることにより前記整合器のインピーダンスを調節インピーダンス調節ステップと、を有することを特徴とする。
【0030】
本発明によれば、給電点間における高周波電力の位相差に基づいて、整合器のインピーダンスを調節するため、放電電極における高周波電力の反射が抑制される。
【発明の効果】
【0031】
本発明の真空処理装置、真空処理装置の給電装置、製膜方法、および製膜時における給電方法によれば、給電点間における高周波電力の位相差に基づいて、整合器のインピーダンスを調節するため、放電電極における高周波電力の反射が抑制されることにより、高周波電力の利用効率や給電効率が向上するという効果を奏する。また、給電が安定化するため、製膜されるシリコン薄膜の面積を大きくしても、シリコン薄膜の膜厚分布のばらつきをおさえることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る薄膜製造装置の構成を示す概略図であり、薄膜製造装置の側面から見た図である。
【図2】図1の薄膜製造装置の構成の一部を示す部分斜視図である。
【図3】図1の複数の放電電極に対する電力の供給を説明する概略図である。
【図4】図3の放電電極に対する電力の供給を説明する詳細図である。
【図5】図3の整合器の構成を説明する模式図である。
【図6】放電電極の給電点に供給される高周波電力の位相差の時間変化を示すグラフである。
【図7】図6の位相差の時間変化に対応した整合器における設定値の時間変化を示すグラフである。
【図8】図3の放電電極における高周波電力の反射パワーの時間変化を説明するグラフである。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る薄膜製造装置の整合器の構成を説明する模式図である。
【図10】図9の整合器の別の実施形態を説明する模式図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る薄膜製造装置の整合器の構成を説明する模式図である。
【図12】放電電極の給電点に供給される高周波電力の位相差の時間変化を示すグラフである。
【図13】図12の位相差の時間変化に対応した整合器における設定値の時間変化を示すグラフである。
【図14】放電電極における高周波電力の反射パワーの時間変化を説明するグラフである。
【図15】本発明の第4の実施形態に係る薄膜製造装置の給電装置の構成を説明する模式図である。
【図16】図15の放電電極の給電点に供給される高周波電力の位相差の時間変化を示すグラフである。
【図17】図16の位相差の時間変化に対応した整合器における設定値の時間変化を示すグラフである。
【図18】図15の高周波電源から供給される高周波電力のパワーにおける時間変化を示すグラフである。
【図19】本実施形態に係る薄膜製造装置の給電装置の構成を説明する模式図である。
【図20】図19の放電電極3aの給電点に供給される高周波電力の位相差の時間変化を示すグラフである。
【図21】図20の位相差の時間変化に対応した整合器における設定値の時間変化を示すグラフである。
【図22】図19の放電電極3aに供給される高周波電力のパワーにおける時間変化を示すグラフである。
【図23】図19の放電電極3bの給電点に供給される高周波電力の位相差の時間変化を示すグラフである。
【図24】図23の位相差の時間変化に対応した整合器における設定値の時間変化を示すグラフである。
【図25】図19の放電電極3bに供給される高周波電力のパワーにおける時間変化を示すグラフである。
【図26】図19の放電電極3aの給電点に供給される高周波電力の位相差の時間変化を示すグラフである。
【図27】図26の位相差の時間変化に対応した整合器における設定値の時間変化を示すグラフである。
【図28】放電電極3aにおける放電位置を示すグラフである。
【図29】図19の放電電極3bの給電点に供給される高周波電力の位相差の時間変化を示すグラフである。
【図30】図29の位相差の時間変化に対応した整合器における設定値の時間変化を示すグラフである。
【図31】放電電極3bにおける放電位置を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態について図1から図8を参照して説明する。
図1は、本実施形態の薄膜製造装置の構成を示す概略図であり、薄膜製造装置の側面から見た図である。
【0034】
本実施形態においては、本発明を製膜条件として製膜圧力が高く、電極基板間の放電距離が狭い高圧狭ギャップ条件により、アモルファス太陽電池や微結晶太陽電池や液晶ディスプレイ用TFT(Thin Film Transistor)などに用いられる非晶質シリコン、微結晶シリコン、窒化シリコン等からなる膜の高速製膜処理を行うことが可能な薄膜製造装置に適用して説明する。
【0035】
薄膜製造装置(真空処理装置)1には、図1に示すように、真空容器である製膜室6と、導電性の板である対向電極2と、対向電極2の温度分布を均一化する均熱板5と、均熱板5および対向電極2を保持する均熱板保持機構11と、対向電極2との間にプラズマを発生させる放電電極3と、膜が形成される範囲を制限する防着板4と、防着板4を支持する支持部7と、高周波電力を放電電極3に供給する給電装置9と、製膜室6内の気体を排気する高真空排気部31および低真空排気部35と、製膜室6を保持する台37と、が設けられている。
なお、本図において、ガス供給に関する構成は省略している。
【0036】
給電装置9には、高周波電力を供給する高周波電源(電源部)17と、高周波電力を放電電極3に供給する同軸給電部12a,12bと、整合器13at〜13ht,13ab〜13hbと、が設けられている。
【0037】
製膜室6は真空容器であり、その内部で基板8に微結晶シリコンi層など製膜するものである。製膜室6は台37上に角度αだけ傾けて保持される。傾きの角度αはz方向(鉛直方向)に対して7°から12°までの範囲内の所定角度である。
製膜室6を傾けて保持することで、対向電極2における基板8における製膜処理面の法線が、x方向に対して角度αだけ上(z方向)に向く。このように基板8を垂直から僅かに傾けることは、装置の設置スペースの増加を抑えながら基板8の自重を利用して少ない手間で基板8を保持することができ、更に基板8と対向電極2の密着性を向上して基板8の温度分布と電位分布とを均一化することができて好ましい。
【0038】
対向電極2は、基板8を保持可能な保持手段(図示せず)を有する非磁性材料の導電性の板である。セルフクリーニングを行う場合は耐フッ素ラジカル性を備えることが好ましく、ニッケル合金やアルミやアルミ合金の板を使用することが望ましい。
対向電極2は、放電電極3に対向する電極(例えば接地側電極)となる。対向電極2は、一方の面が均熱板5の表面と密接し、製膜時に他方の面が基板8の表面と密接する。
【0039】
均熱板5は、内部に温度制御された熱媒体を循環したり、または温度制御されたヒーターを組み込んだりすることで、自身の温度を制御して、全体が概ね均一な温度を有し、接触している対向電極2の温度を均一化する機能を有する。
上述の熱媒体は非導電性媒体であり、水素やヘリウムなどの高熱伝導性ガス、フッ素系不活性液体、不活性オイル、及び純水等が熱媒体として使用できる。中でも150℃から250℃の範囲でも圧力が上がらずに制御が容易であることから、フッ素系不活性液体(例えば商品名:ガルデン、F05など)の使用が好適である。
【0040】
均熱板保持機構11は、均熱板5及び対向電極2を製膜室6の側面(図1の右側の側面)に対して略平行となるように保持するとともに、均熱板5、対向電極2および基板8を、放電電極3に接近離間可能に保持するものである。
均熱板保持機構11は、製膜時に均熱板5等を放電電極3に接近させて、基板8を放電電極3から、例えば3mmから10mmの範囲内に位置させることができる。
【0041】
防着板4は、接地されプラズマの広がる範囲を抑えることにより、膜が製膜される範囲を制限するものである。本実施形態の場合、図1に示すように、製膜室6の内側における防着板4の後ろ側(基板8と反対の側)の壁に膜が製膜されないようにしている。
【0042】
支持部7は、製膜室6の側面(図1における左側の側面)から内側へ垂直に延びている部材である。支持部7は防着板4と結合され、放電電極3における対向電極2と反対側の空間を覆うように防着板4を保持している。それと共に、支持部7は放電電極3と絶縁的に結合され、放電電極3を製膜室6の側面(図1における左側の側面)に対して略平行に保持している。
【0043】
高真空排気部31は、粗引き排気された製膜室6内の気体をさらに排気して、製膜室6内を高真空とする高真空排気用の真空ポンプである。弁32は、高真空排気部31と製膜室6との経路を開閉する弁である。
低真空排気部35は、初めに製膜室6内の気体を排気して、製膜室6内を低真空とする粗引き排気用の真空ポンプである。弁34は、低真空排気部35と製膜室6との経路を開閉する。
【0044】
台37は、上面に配置された保持部36を介して製膜室6を保持するものである。台37の内部には低真空排気部35が配置される領域が形成されている。
【0045】
図2は、図1の薄膜製造装置の構成の一部を示す部分斜視図である。図3は、図1の複数の放電電極に対する電力の供給を説明する概略図である。
本実施形態においては、1つの製膜室6について8個の放電電極3を備えた薄膜製造装置1に適用して説明するが、放電電極3の数は8個よりも多くてもよいし、少なくてもよく、特に限定するものではない。
放電電極3のサイズは、真空中およびプラズマ生成時の高周波波長による定在波の影響が生ずるサイズである。具体的には、放電電極3のサイズをL、波長をλとすると、L>λ/4の関係が成立するサイズであることが望ましい。
【0046】
製膜室6には、図2および図3に示すように、8個の放電電極3a,3b,3c,3d,3e,3f,3g,3h(以下、放電電極3a〜3hと表記する。)が備えられている。
放電電極3aの給電点(端部)53側には、整合器13atと、高周波給電伝送路14aと、同軸給電部12aと、熱媒体供給管15aおよび原料ガス配管16aが設けられている。また、給電点(端部)54側には、整合器13abと、高周波給電伝送路14bと、同軸給電部12bと、熱媒体供給管15bおよび原料ガス配管16bが設けられている。
【0047】
同様に、放電電極3b〜3hのそれぞれに対して、給電点53側には、整合器13bt〜13htと、高周波給電伝送路14aと、同軸給電部12aと、熱媒体供給管15aおよび原料ガス配管16aがそれぞれ設けられている。また、給電点54側には、整合器13bb〜13hbと、高周波給電伝送路14bと、同軸給電部12bと、熱媒体供給管15bおよび原料ガス配管16bがそれぞれ設けられている。
なお、図2においては、図を見やすくするために整合器13at,13ab,13htのみを表示し、他の整合器の表示を省略している。図3においては、放電電極3aについてのみ電力の供給系統を示している。
【0048】
放電電極3a〜3hの給電点53の近傍には、原料ガス配管16aが接続されている。同様に、放電電極3a〜3hの給電点54の近傍には、原料ガス配管16bが接続されている。原料ガス配管16a,16bからは、放電電極3a〜3hに原料ガスが供給され、放電電極3a〜3hは、この原料ガスを対向電極2側(図2中の右側)へ略均一に放出している。
【0049】
放電電極3aの給電点53および給電点54には、図3に示すように、高周波電源17から分配器19により分配された高周波電力が供給されている。
分配器19と給電点53との間には、分配器19側から順に、位相器20、増幅器21aおよび整合器13atが配置されている。一方、分配器19と給電点54との間には、分配器19側から順に、増幅器21bおよび整合器13abが配置されている。
なお、放電電極3b〜3hについても、放電電極3aと同様に分配器19などが配置されている。
【0050】
位相器20は、高周波電源17から給電点53に供給される高周波電力の位相を制御するものであり、制御部22により制御されるものである。なお、位相器20の構成としては、公知の構成を用いることができ、特に限定するものではない。
増幅器21a,21bは、それぞれ高周波電源17から給電点53および給電点54に供給される高周波電力の振幅を制御するものであり、制御部22におり制御されるものである。なお、増幅器21a,21bの構成としては、公知の構成を用いることができ、特に限定するものではない。
【0051】
制御部22は、位相器20および増幅器21a,21bを制御することにより、放電電極3a〜3hに供給される高周波電力の位相や振幅を制御するとともに、整合器13at〜13ht,13ab〜13hbにおけるインピーダンスの値を制御するものである。
制御部22における整合器13at〜13ht,13ab〜13hbのインピーダンスの値の制御については、下記の薄膜製造装置1における給電方法の説明において説明する。
【0052】
図1に示すように、電極3a〜3hと平行な位置には、基板8を乗せる対向(接地)電極2が配置され、電極3a〜3hと対向(接地)電極2との間には、高周波電力が給電されることによりプラズマが生成される。
具体的には、高周波電源17から分配器19、位相器20、高周波給電伝送路14a、増幅器21a、整合器13at〜13ht、同軸給電部12aの順に介して放電電極3a〜3hの給電点53にそれぞれ高周波電力が供給される。同様に、高周波電源17から分配器19、高周波給電伝送路14b、増幅器21b、整合器13ab〜13hb、同軸給電部12bの順に介して放電電極3a〜3hの給電点54にそれぞれ高周波電力が供給される。
【0053】
図4は、図3の放電電極に対する電力の供給を説明する詳細図である。
同軸給電部12aと同軸給電部12bとは、図4に示すように、ループ回路20により電気的に接続されている。ループ回路20を構成するものとしては、例えば同軸ケーブルなどを挙げることができるが、これに限定するものではない。
放電電極3aは、複数のショートバー21およびアースバー22を介して防着板4と電気的に接続され、防着板4は接地されている。
対向電極2は放電電極3aに対向して設けられ、対向電極2は接地されている。
なお、図4では、放電電極3aについてのみ示しているが、放電電極3b〜3hについても同様に、ループ回路20などが設けられている。
【0054】
図5は、図3の整合器の構成を説明する模式図である。
整合器13atには、図5に示すように、高周波電力の周波数を調整する位相調節コンデンサ(位相調節部)23Tおよびコイル24と、高周波電力の振幅を調整する振幅調節コンデンサ(振幅調節部)25Mと、が設けられている。
【0055】
位相調節コンデンサ23Tおよび振幅調節コンデンサ25Mは、ともに可変容量コンデンサであり、位相調節コンデンサ23Tの容量Ctおよび振幅調節コンデンサ25Mの容量Cmを調節することにより、整合器13atのインピーダンスの値が調節される。位相調節コンデンサ23Tの容量Ctおよび振幅調節コンデンサ25Mの容量Cmは、制御部22の制御信号に基づいて調節されている。
位相調節コンデンサ23Tおよび振幅調節コンデンサ25Mとしては、モータなどの駆動源により容量が調節されるものであってもよいし、電子的に容量が調節されるものであってもよく、特に限定するものではない。
【0056】
位相調節コンデンサ23Tおよびコイル24は、高周波給電伝送路14aおよび同軸給電部12aの間、または、高周波給電伝送路14bおよび同軸給電部12bの間に直列に配置されている。また、振幅調節コンデンサ25Mの一方の端部は、高周波給電伝送路14aまたは高周波給電伝送路14bと電気的に接続され、他方の端部は整合器13atの筐体を介して接地されている。
【0057】
なお、図5では、整合器13atについてのみ示しているが、整合器13bt〜13ht,13ab〜13hbについても同様に、位相調節コンデンサ23Tおよび振幅調節コンデンサ25Mなどが設けられている。
【0058】
整合器13ab〜13hbには、図2に示すように、熱媒体供給装置(図示せず)から熱媒体供給管15bを介して熱媒体が供給される。供給された熱媒体は同軸給電部12bを介して放電電極3a〜3hへ供給される。そして、熱媒体は放電電極3a〜3hから同軸給電部12aを介して整合器13at〜13htに流入し、整合器13at〜13htから熱媒体供給管15aを介して熱媒体供給装置(図示せず)へ送出される。
熱媒体は上述のように、下側の整合器13ab〜13hbから上側の整合器13at〜13htへ向って流されることが好ましい。このように流すことで滞留箇所や未到達の箇所が発生することなく、熱媒体を放電電極3内に行き渡らせることができるからである。
【0059】
なお、整合器13at〜13ht,13ab〜13hbは、図2に示すように、それぞれ放電電極3a〜3hにおける給電点53および給電点54の直近に配置されていてもよいし、高周波電源17の直近や、給電点53と高周波電源17との中間および給電点54と高周波電源17との中間に配置されていてもよく、特に限定するものではない。
さらに、複数の整合器をシリーズに繋いでもよく、特に限定するものではない。
【0060】
同軸給電部12a,12bは、図3に示すように、整合器13at〜13ht,13ab〜13hbから供給される高周波電力を放電電極3へ供給するものである。同軸給電部12a,12bは、一方を放電電極3a〜3hに電気的に接続され、他方を整合器13at〜13ht,13ab〜13hbに電気的に接続されている。
【0061】
高周波電源17は高周波電力、例えばVHF(Very High Frequency:30MHzから300MHz)の周波数帯域の電力、より好ましくは40MHzから100MHz程度の周波数を有する電力を供給するものである。また、高周波電源17は、供給する高周波電力の周波数を変動可能に、例えば、60MHzの高周波電源においては、周波数を58.5MHzから59.9MHz、または、60.1MHzから61.5MHzのように変動可能に構成されている。
【0062】
次に、本実施形態に係る薄膜製造装置1における給電方法について説明する。
なお、以下では説明の容易化のため、放電電極3aおける給電方法について説明するが、他の放電電極3b〜3hについても同様に給電されている。
【0063】
図3に示すように、放電電極3aにおける給電点53および給電点54には、高周波電源17から高周波電力が供給される。給電点53には、位相器20により位相が調整された高周波電力が供給され、給電点54には、高周波電源17から高周波電力が位相を調整されることなく供給される。
位相器20による高周波電力の位相調整は、制御部22から出力される制御信号に基づいて行われる。
【0064】
図6は、放電電極の給電点に供給される高周波電力の位相差の時間変化を示すグラフである。
位相器20により、給電点53に供給される高周波電力の位相が調整される(位相差制御ステップ)。言い換えると位相が変調されるため、図6に示すように、給電点53に供給される高周波電力と、給電点54に供給される高周波電力との間には位相差(以下、給電点間位相差と表記する。)が生じる。制御部22は、時間の経過とともに給電点間位相差が変化するように制御を行う。
図6に示す例では、時間の経過に比例して給電点間位相差が変化する場合であって、時刻t11において給電点間位相差が極大となる場合を示している。
【0065】
このとき同時に、制御部22は図3に示すように整合器3at,3abにインピーダンスの設定値(以下、整合器設定値と表記する。)を調節する制御信号を出力する(インピーダンス調節ステップ)。具体的には、整合器3at,3abの位相調節コンデンサ23Tの容量Ctおよび振幅調節コンデンサ25Mの容量Cmの設定値を調節する制御信号を出力する(図5参照。)。制御部22により、位相調節コンデンサ23Tの容量Ctおよび振幅調節コンデンサ25Mの容量Cmの設定値が調節されると、それにともなって整合器設定値が調節される。
【0066】
給電点間位相差の変化速度、つまり、位相器20による高周波電力の位相変調の速度は、整合器3at,3abのインピーダンスの値が、変化に追従できる速度であることが望ましい。言い換えると、整合器3at,3abの位相調節コンデンサ23Tの容量Ctおよび振幅調節コンデンサ25Mの容量Cmの設定値が、給電点間位相差の変化速度に追従できる速度であることが望ましい。
【0067】
整合器3at,3abのインピーダンスの値の変化に要する時間は、機械式の位相調節コンデンサ23Tおよび振幅調節コンデンサ25Mを備える整合器3at,3abの場合は、100msから数秒の範囲であり、電子式の位相調節コンデンサ23Tおよび振幅調節コンデンサ25Mを備える整合器3at,3abの場合は、1ms程度である。
【0068】
図7は、図6の位相差の時間変化に対応した整合器における設定値の時間変化を示すグラフである。
制御部22による整合器設定値の制御は、図6および図7に示すように、給電点間位相差と対応して行われる。具体的には、給電点間位相差と同様に、時間の経過に比例して整合器設定値が変化し、時刻t11において整合器設定値が極大となるように制御される。
【0069】
制御部22には、給電点間位相差に対する最適な整合器設定値を表す近似式、または、給電点間位相差およびそれに対する最適な整合器設定値からなる連続データが記憶されており、制御部22はこの近似式または連続データに基づいて制御信号を出力する。
【0070】
上述の近似式は、薄膜製造装置1による製膜を行う前に、予め、試験運転などを行って得られたデータに基づいて求められた式である。例えば、複数の給電点位相差において放電電極3aにおける反射が最低となる位相調節コンデンサ23Tの容量Ct(チューン)の値と、振幅調節コンデンサ25Mの容量Cm(マッチ)の値を調べ、これらの値に基づいて得られた近似式である。
上述の連続データは、近似式から算出された給電点間位相差およびそれに対する最適な整合器設定値であってもよいし、実際に試験運転などにより得られた給電点間位相差およびそれに対する最適な整合器設定値であってもよい。
【0071】
このように整合器設定値を制御することでは、各時刻における給電点間位相差に対して整合状態が最適な値となる。言い換えると、放電電極3aにおける高周波電力の反射が略ゼロ、または、反射による影響が無視できる値となる。
【0072】
図8は、図3の放電電極における高周波電力の反射パワーの時間変化を説明するグラフである。
整合器3at,3abにおける整合器設定値が、給電点間位相差にともなって最適に調節されると、図8に示すように、放電電極3aにおける高周波電力の反射が略ゼロ、または、反射による影響が無視できる値となる。その結果、給電効率および放電安定性が向上する。
【0073】
ここで、給電点間位相差に対する整合器設定値の最適化は、給電点間位相差の位相変調範囲および位相変調方式を制御して行われる。位相変調方式の制御とは、位相変調の形状の制御を意味する。具体的には、sin波状や、三角波状や、階段状などに変調形状を制御する方法を例示することができる。
【0074】
給電点間位相差に対する整合器設定値が最適か否かの判断は、高周波電力の電力分布や、プラズマによる発光の分布や、プラズマ密度分布や、製膜された薄膜の膜分布などに基づいて判断される。膜分布としては、膜厚分布や、膜質分布や、太陽電池などの半導体としての特性などの分布を例示することができる。
【0075】
さらに、制御部22は、図3に示すように、増幅器21a,21bを制御して、給電点53および給電点54に供給される高周波電力の電力を調節してもよい。
このように高周波電力の電力を調節することで、放電電極3aにおける高周波電力の反射の低減と、放電電極3aと基板8との間における放電の均一性とを両立することができる。
【0076】
上記の構成によれば、給電点53と給電点54と間における高周波電力の位相差、つまり給電点間位相差に基づいて、整合器13at〜13ht,13ab〜13hbのインピーダンスの値を調節するため、放電電極3a〜3hにおける高周波電力の反射が抑制される。
【0077】
すると、高周波電力の利用効率や給電効率が向上するとともに、放電電極3a〜3hと基板との間の放電安定性が向上する。そのため、薄膜製造装置1により製膜される薄膜、例えばシリコン薄膜の面積を大きくしても、シリコン薄膜の膜厚分布のばらつきをおさえることができる。
【0078】
給電点間位相差に対応した位相調節コンデンサ23Tの容量Ctの設定値および振幅調節コンデンサ25Mの容量Cmの設定値を予め定め、制御部22に記憶させておくことにより、給電点間位相差に基づいて位相調節コンデンサ23Tの容量Ctの設定値および振幅調節コンデンサ25Mの容量Cmの設定値を自動調節する方法と比較して、放電電極3a〜3hにおける高周波電力の反射を確実に抑制することができる。
【0079】
つまり、自動調節する方法では、複数の整合器13at〜13ht,13ab〜13hbの間で干渉が発生し、放電電極3a〜3hにおける高周波電力の反射が確実に抑制されない恐れがあるが、予め、給電点間位相差に対応して、放電電極3a〜3hにおける高周波電力の反射が抑制される位相調節コンデンサ23Tの容量Ctの設定値および振幅調節コンデンサ25Mの容量Cmの設定値を定めておくことにより、確実に、放電電極3a〜3hにおける高周波電力の反射を抑制することができる。
【0080】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について図9および図10を参照して説明する。
本実施形態の薄膜製造装置の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、整合器の構成が異なっている。よって、本実施形態においては、図9および図10を用いて整合器の構成のみを説明し、その他の構成要素等の説明を省略する。
図9は、本実施形態に係る薄膜製造装置の整合器の構成を説明する模式図である。
なお、第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0081】
薄膜製造装置(真空処理装置)101には、図9に示すように、対向電極2との間にプラズマを発生させる放電電極3a〜3hと、高周波電力を放電電極3に供給する給電装置109と、が設けられている。
給電装置109には、高周波電力を供給する高周波電源17と、高周波電力を放電電極3に供給する同軸給電部12a,12bと、整合器113at〜113ht,113ab〜113hbと、が設けられている。
なお、図9においては説明の容易化のため、整合器113atのみを図示している。以後は、整合器113atについて説明するが、その他の整合器113bt〜113ht,113ab〜113hbについても同様な構成が設けられている。
【0082】
整合器113atには、図9に示すように、高周波電力の周波数を調整する第1位相調節コンデンサ(第1位相調節部)123TA,第2位相調節コンデンサ(第2位相調節部)123TBおよびコイル24と、高周波電力の振幅を調整する第1振幅調節コンデンサ(第1振幅調節部)125MAおよび第2振幅調節コンデンサ(第2振幅調節部)125MBと、が設けられている。
【0083】
第1位相調節コンデンサ123TAおよび第1振幅調節コンデンサ125MAは、ともに可変容量コンデンサであり、粗調整に用いられる素子である。一方、第2位相調節コンデンサ123TBおよび第2振幅調節コンデンサ125MBは、ともに可変容量コンデンサであり、微調整に用いられる素子である。
【0084】
第1位相調節コンデンサ123TAおよび第1振幅調節コンデンサ125MAは、微調整に用いられる第2位相調節コンデンサ123TBおよび第2振幅調節コンデンサ125MBと比較して、容量Ctおよび容量Cmの設定値の変更速度は遅いが、設定値の変化幅、変化範囲が広いものである。
【0085】
逆に、第2位相調節コンデンサ123TBおよび第2振幅調節コンデンサ125MBは、粗調整に用いられる第1位相調節コンデンサ123TAおよび第1振幅調節コンデンサ125MAと比較して、容量Ctおよび容量Cmの設定値の変更速度は速いが、設定値の変化幅、変化範囲が狭いものである。
なお、第2位相調節コンデンサ123TBの容量Ct、および、第2振幅調節コンデンサ125MBの容量Cmの変化幅や、変化範囲は、給電点間位相差の変化に対応できる範囲等になっている。
【0086】
本実施形態では、図9に示すように、第1位相調節コンデンサ123TAに対して第2位相調節コンデンサ123TBが並列に配置され、第1振幅調節コンデンサ125MAに対して第2振幅調節コンデンサ125MBが並列に配置されている例に適用して説明する。
【0087】
第1位相調節コンデンサ123TAの容量Ct,第2位相調節コンデンサ123TBの容量Ct、および、第1振幅調節コンデンサ125MAの容量Ct,第2振幅調節コンデンサ125MBの容量Ctを調節することにより、整合器13atのインピーダンスの値が調節される。第1位相調節コンデンサ123TAの容量Ct,第2位相調節コンデンサ123TBの容量Ct、および、第1振幅調節コンデンサ125MAの容量Ct,第2振幅調節コンデンサ125MBの容量Ctは、制御部22の制御信号に基づいて調節されている。
【0088】
次に、本実施形態に係る薄膜製造装置101における給電方法について説明するが、整合器設定値の制御に係る作用以外については、第1の実施形態における作用と同様であるので、その説明を省略する。
なお、以下では説明の容易化のため、放電電極3aおける給電方法について説明するが、他の放電電極3b〜3hについても同様に給電されている。
【0089】
ここでは、整合器設定値の調整のうち、第1の実施形態と異なる点について説明する。
整合器103atにおいて、給電点間位相差に対応して整合器設定値を調節する場合には、第2位相調節コンデンサ123TBの容量Ct、および、第2振幅調節コンデンサ125MBの容量Cmが調節される。
第2位相調節コンデンサ123TBの容量Ct、および、第2振幅調節コンデンサ125MBの容量Cmの調節方法は、第1の実施形態における調節方法と同様であるので、その説明を省略する。
【0090】
上記の構成によれば、整合器113at〜113ht,113ab〜113hbは、第1位相調節コンデンサ(第1位相調節部)123TAと第2位相調節コンデンサ(第2位相調節部)123TBとを組み合わせ、第1振幅調節コンデンサ(第1振幅調節部)125MAと第2振幅調節コンデンサ(第2振幅調節部)125MBとを組み合わせたものであるため、位相変調に対する整合器113at〜113ht,113ab〜113hbのインピーダンスの値の追従性が良くなる。
【0091】
つまり、設定値の変更速度が速く、かつ変更幅の狭い第2位相調節コンデンサ123TBおよび第2振幅調節コンデンサ125MBを用いて、位相変調に対する整合器113at〜113ht,113ab〜113hbのインピーダンスの値の追従を行うことで、追従性がよくなる。一方で、追従性が要求されない場合には、第1位相調節コンデンサ123TAおよび第1振幅調節コンデンサ125MAを用いることで、第2位相調節コンデンサ123TBおよび第2振幅調節コンデンサ125MBでは対応できない程、設定値の変更幅が広い場合にも対応できる。
【0092】
なお、整合器113atは、図9に示すように放電電極3aにおける給電点53の直近に配置されていてもよいし、高周波電源17の直近に配置されていてもよいし、放電電極3aと高周波電源17との間に配置されていてもよく、特に限定するものではない。
さらに、放電電極3aと高周波電源17との間に複数の整合器を配置してもよく、特に限定するものではない。
【0093】
なお、第1位相調節コンデンサ123TAおよび第1振幅調節コンデンサ125MAは、上述のように可変容量コンデンサなどの可変素子であってもよいし、容量などが変化しない固定素子であってもよく、特に限定するものではない。
【0094】
図10は、図9の整合器の別の実施形態を説明する模式図である。
なお、上述の実施形態のように、第1位相調節コンデンサ123TAおよび第1振幅調節コンデンサ125MAに対して、第2位相調節コンデンサ123TBおよび第2振幅調節コンデンサ125MBがそれぞれ並列に配置されていてもよいし、図10に示すように、第1位相調節コンデンサ123TAに対して第2位相調節コンデンサ123TBが直列に配置され、第1振幅調節コンデンサ125MAに対して第2振幅調節コンデンサ125MBが直列に配置されていてもよく、特に限定するものではない。
【0095】
図9に示すように、第1位相調節コンデンサ123TAおよび第1振幅調節コンデンサ125MAに対して、第2位相調節コンデンサ123TBおよび第2振幅調節コンデンサ125MBがそれぞれ並列に配置されている場合には、整合器13atのインピーダンス値の計算がしやすいため、整合器設定値の制御が容易となる。
【0096】
一方、図10に示すように、第1位相調節コンデンサ123TAおよび第1振幅調節コンデンサ125MAに対して、第2位相調節コンデンサ123TBおよび第2振幅調節コンデンサ125MBがそれぞれ直列に配置されている場合には、整合器13atのインピーダンス値の調整範囲を広くすることができる。
【0097】
なお、図9および図10に示すように、整合器113atは、逆L型に構成されていてもよいし、π型に構成されていてもよく、特に限定するものではない。
【0098】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態について図11から図14を参照して説明する。
本実施形態の薄膜製造装置の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、整合器の構成が異なっている。よって、本実施形態においては、図11から図14を用いて整合器の構成のみを説明し、その他の構成要素等の説明を省略する。
図11は、本実施形態に係る薄膜製造装置の整合器の構成を説明する模式図である。
なお、第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0099】
薄膜製造装置(真空処理装置)201には、図11に示すように、対向電極2との間にプラズマを発生させる放電電極3a〜3hと、高周波電力を放電電極3に供給する給電装置209と、が設けられている。
給電装置209には、高周波電力を供給する高周波電源17と、高周波電力を放電電極3に供給する同軸給電部12a,12bと、整合器213at〜213ht,213ab〜213hbと、が設けられている。
なお、図11においては説明の容易化のため、整合器213atのみを図示している。以後は、整合器213atについて説明するが、その他の整合器213bt〜213ht,213ab〜213hbについても同様な構成が設けられている。
【0100】
整合器213atには、図11に示すように、高周波電力の周波数を調整する位相調節コンデンサ23TAおよびコイル24と、高周波電力の振幅を調整する振幅調節コンデンサ25MAとからなる整合回路が複数設けられ、これらの整合回路を切り替え選択するスイッチ部226が設けられている。
【0101】
本実施形態では、整合器213atに3つの位相調節コンデンサ23TA、コイル24および振幅調節コンデンサ25MAからなる整合回路S1,S2,S3が設けられている例に適用して説明する。
【0102】
これら整合回路S1,S2,S3における整合器設定値はそれぞれ異なって設定されている。具体的には、それぞれ異なる給電点間位相差に対して最適な整合器設定値となるように、各整合回路S1,S2,S3における位相調節コンデンサ23TAの容量Ctと、振幅調節コンデンサ25MAの容量Cmとが設定されている。
【0103】
スイッチ部226は、制御部22の制御信号に基づいて、高周波電源17および放電電極3aと、整合回路S1,S2,S3との接続および離間を制御するものである。
なお、スイッチ部226としては、公知のスイッチ素子を用いることができ、特に限定するものではない。
【0104】
次に、本実施形態に係る薄膜製造装置201における給電方法について説明するが、整合器設定値の制御に係る作用以外については、第1の実施形態における作用と同様であるので、その説明を省略する。
なお、以下では説明の容易化のため、放電電極3aおける給電方法について説明するが、他の放電電極3b〜3hについても同様に給電されている。
【0105】
図12は、放電電極の給電点に供給される高周波電力の位相差の時間変化を示すグラフである。図13は、図12の位相差の時間変化に対応した整合器における設定値の時間変化を示すグラフである。
放電電極3aに供給される高周波電力は、第1の実施形態と同様に、給電点間位相差が時間とともに変調される(図12参照。)。
このとき同時に、整合器213atは、制御部22により、給電点間位相差に基づいて整合器設定値が図13に示すように調節される。例えば、給電点間位相差が0°から30°までは、整合器213atの整合器設定値は、整合回路S1の整合器設定値とされ、30°から60°までは、整合回路S2の整合器設定値とされ、60°から90°までは、整合回路S3の整合器設定値とされる。
【0106】
図12および図13を用いて説明すると、時刻t21までは、スイッチ部226と整合回路S1とが接続され、整合器213atの整合器設定値は整合回路S1の整合器設定値となる。言い換えると、整合器213atの整合回路S1と、高周波電源17および放電電極3aとが接続され、整合回路S2,S3は、高周波電源17および放電電極3aとから切り離されている。
その後、時刻t21からt22までは、スイッチ部226と整合回路S2との接続に切り替えられ、整合器213atの整合器設定値は、整合回路S2の整合器設定値となる。
さらに、時刻t22からt23までは、スイッチ部226と整合回路s3との接続に切り替えられ、整合器213atの整合器設定値は、整合回路S3の整合器設定値となる。
【0107】
以後順に、時刻t23からt24までは、スイッチ部226と整合回路S2との接続に切り替えられ、時刻t24以後は、スイッチ部226と整合回路S1との接続に切り替えられる。
このように整合回路S1,S2,S3を切り替えることにより、整合器設定値を離散的に変更している。
【0108】
これらの整合回路S1,S2,S3における整合器設定値は、対応する給電点間位相差において、放電電極3aにおける高周波電力の反射が最も小さくなる値に設定されている。
整合器設定値の設定は、位相調節コンデンサ23Tの容量Ctおよび振幅調節コンデンサ25Mの容量Cmの値を調節することにより行われる。
【0109】
図14は、放電電極における高周波電力の反射パワーの時間変化を説明するグラフである。
上述のように整合器213atの整合器設定値が制御されると、放電電極3aにおける高周波電力の反射パワーは図14に示すような時間変化を示す。
つまり、図14に示す例では、整合器213atにおける整合回路S1,S2,S3が切り替えられた直後は、整合器213atの整合器設定値は、給電点間位相差に対して最適な値であり、反射パワーは略ゼロとなっている。そこから時間が経過すると、給電点間位相差が変調するため、反射パワーが徐々に上昇する。
そして、給電点間位相差が所定量だけ変調すると、整合回路が切り替えられ、再び反射パワーは略ゼロとなる。
【0110】
上記の構成によれば、位相調節コンデンサ23TAおよび振幅調節コンデンサ25MAを有する整合回路S1,S2,S3を切り替えることにより、整合器213bt〜213ht,213ab〜213hbのインピーダンスの値が調節されるため、位相調節コンデンサ23TAおよび振幅調節コンデンサ25Mの設定値の少なくとも一方を調節する方法と比較して、より短い時間で整合器213bt〜213ht,213ab〜213hbのインピーダンスの値を調節することができる。
【0111】
つまり、整合回路S1,S2,S3の切り替えは、位相調節コンデンサ23TAおよび振幅調節コンデンサ25Mの設定値変更よりも動作時間が短いスイッチング素子などの素子を用いて実現される。そのため、整合回路S1,S2,S3を切り替えることにより、短い時間で整合器213bt〜213ht,213ab〜213hbのインピーダンスの値を調節することができる。
【0112】
特に、給電点間位相差の位相変調速度に下限がある場合、例えば、製膜される薄膜の膜質を確保するために給電点間位相差の位相変調速度を所定の速度以上に保つ必要がある場合であって、位相調節コンデンサ23TAおよび振幅調節コンデンサ25Mの設定値変更では対応できない場合であっても、本実施形態であれば対応することができ、放電電極3a〜3hにおける高周波電力の反射を最小化することができる。
【0113】
なお、上述の実施形態では、整合器213atに設けられる位相調節コンデンサ23TAおよび振幅調節コンデンサ25MAを可変容量コンデンサに適用して説明しているが、可変容量コンデンサに限定されることなく、固定容量コンデンサであってもよく、特に限定するものではない。
【0114】
〔第4の実施形態〕
次に、本発明の第4の実施形態について図15から図18を参照して説明する。
本実施形態の薄膜製造装置の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、整合器設定値の制御方法が異なっている。よって、本実施形態においては、図15から図18を用いて整合器設定値の制御方法のみを説明し、その他の構成要素などの説明を省略する。
図15は、本実施形態に係る薄膜製造装置の給電装置の構成を説明する模式図である。
なお、第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0115】
薄膜製造装置(真空処理装置)301には、図15に示すように、対向電極2との間にプラズマを発生させる放電電極3a〜3hと、高周波電力を放電電極3に供給する給電装置309と、が設けられている。
給電装置309には、高周波電力を供給する高周波電源317と、高周波電力を放電電極3に供給する同軸給電部12a,12bと、整合器13at〜13ht,13ab〜13hbと、が設けられている。
なお、図15においては説明の容易化のため、整合器13atおよび整合器13abのみを図示している。以後は、整合器13atおよび整合器13abについて説明するが、その他の整合器13bt〜13ht,13bb〜13hbについても同様な構成が設けられている。
【0116】
高周波電源317は放電電極3aに高周波電力を供給するものであって、放電電極3aへの電力の供給と、供給の停止を繰り返すものである。以後、放電電極3aへ高周波電力を供給している期間を供給期間T1、電力の供給を停止している期間を停止期間T2と表記する。
【0117】
次に、本実施形態に係る薄膜製造装置301における給電方法について説明する。なお、第1の実施形態における給電方法と同一の部分についてはその説明を省略する。
なお、以下では説明の容易化のため、放電電極3aおける給電方法について説明するが、他の放電電極3b〜3hについても同様に給電されている。
【0118】
図16は、図15の放電電極の給電点に供給される高周波電力の位相差の時間変化を示すグラフである。図17は、図16の位相差の時間変化に対応した整合器における設定値の時間変化を示すグラフである。図18は、図15の高周波電源から供給される高周波電力のパワーにおける時間変化を示すグラフである。
高周波電源317は、図18に示すように、時刻0からt31まで、t32からt33まで、t34からt35までの期間は、高周波電力を放電電極3aに供給し(供給期間T1)、時刻t31からt32まで、t33からt34までの期間は、高周波電力の供給を停止している(停止期間T2)。
高周波電源317の状態は制御部22に入力され、制御部22は、給電点間位相差および高周波電源317の状態に基づいて整合器設定値を調節する制御信号を出力する。
【0119】
給電点間位相差は、図16に示すように、高周波電源317の状態とは関係なく連続的に制御されている。
【0120】
一方、整合器設定値は、図17に示すように、供給期間T1の間は一定値とされ、停止期間T2の間に値の変更がなされている。
具体的には、整合器13atの整合器設定値は、時刻0からt31までの間は、同時刻の給電点間位相差に対応した値とされ、その後の時刻t31からt32までの間に、次ぎの整合器設定値に向けてその値が調節される。同様にして、時刻t32からt33までの間は、同時刻の給電点間位相差に対応した値とされ、その後の時刻t33からt34までの間に、次ぎの整合器設定値に向けてその値が調節される。以後、同様な制御が繰りかえされる。
【0121】
なお、整合器設定値の制御方法は、第1の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0122】
上記の構成によれば、整合器13at〜13ht,13ab〜13hbの整合器設定値の変更速度が、給電点間位相差の変調速度より遅い場合であっても、高周波電力の停止期間T2中に整合器設定値を変更することにより、電力が供給される供給期間T1に、放電電極3a〜3hにおいて発生する高周波電力の反射を抑制することができる。
【0123】
さらに、停止期間T2に整合器設定値を変更することから、放電電極3a〜3hにおいて発生する高周波電力の反射抑制を考慮することなく整合器設定値を変更できるため、高周波電力が供給されている間に設定値を変更する場合と比較して、大きな範囲で整合器設定値を変更することができる。
【0124】
第3の実施形態のように複数の整合回路S1,S2,S3を複数設ける方法と比較して、位相調節コンデンサ23Tおよび振幅調節コンデンサ25Mの数を減らすことができるため、本実施形態の真空処理装置301を用いた薄膜等の製造に要するコストの低減を図ることができる。
【0125】
特に、給電点間位相差の位相変調速度に下限がある場合、例えば、製膜される薄膜の膜質を確保するために給電点間位相差の位相変調速度を所定の速度以上に保つ必要がある場合であって、位相調節コンデンサ23TAおよび振幅調節コンデンサ25Mの設定値変更では対応できない場合であっても、本実施形態であれば対応することができ、放電電極3a〜3hにおける高周波電力の反射を最小化することができる。
【0126】
〔第5の実施形態〕
次に、本発明の第5の実施形態について図19から図25を参照して説明する。
本実施形態の薄膜製造装置の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、整合器設定値の制御方法が異なっている。よって、本実施形態においては、図19から図25を用いて整合器設定値の制御方法のみを説明し、その他の構成要素などの説明を省略する。
図19は、本実施形態に係る薄膜製造装置の給電装置の構成を説明する模式図である。
なお、第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0127】
薄膜製造装置(真空処理装置)401には、図19に示すように、対向電極2との間にプラズマを発生させる放電電極3a〜3hと、高周波電力を放電電極3に供給する給電装置409と、が設けられている。
給電装置409には、高周波電力を供給する高周波電源417と、高周波電力を放電電極3に供給する同軸給電部12a,12bと、整合器13at〜13ht,13ab〜13hbと、が設けられている。
【0128】
なお、図15においては説明の容易化のため、整合器13at,13btおよび整合器13ab,13bbのみを図示している。以後は、整合器13at,13btおよび整合器13ab,13bbについて説明するが、その他の整合器13ct〜13ht,13cb〜13hbについても同様な構成が設けられている。
【0129】
高周波電源417は放電電極3a,3bに高周波電力を供給するものであって、放電電極3a,3bへの電力の供給と、供給の停止を繰り返すものである。以後、放電電極3aへ高周波電力を供給している期間を供給期間Ta1、電力の供給を停止している期間を停止期間Ta2と表記する。一方、放電電極3bへ高周波電力を供給している期間を供給期間Tb1、電力の供給を停止している期間を停止期間Tb2と表記する。
【0130】
次に、本実施形態に係る薄膜製造装置401における給電方法について説明する。なお、第1の実施形態における給電方法と同一の部分についてはその説明を省略する。
なお、以下では説明の容易化のため、放電電極3a,3bおける給電方法について説明するが、他の放電電極3c〜3hについても同様に給電されている。
【0131】
図20は、図19の放電電極3aの給電点に供給される高周波電力の位相差の時間変化を示すグラフである。図21は、図20の位相差の時間変化に対応した整合器における設定値の時間変化を示すグラフである。図22は、図19の放電電極3aに供給される高周波電力のパワーにおける時間変化を示すグラフである。
高周波電源417は、図22に示すように、時刻0からt41まで、t42からt43まで、t44からt45までの期間は、放電電極3aに高周波電力を供給し(供給期間Ta1)、時刻t41からt42まで、t43からt44までの期間は、高周波電力の供給を停止している(停止期間Ta2)。
【0132】
図23は、図19の放電電極3bの給電点に供給される高周波電力の位相差の時間変化を示すグラフである。図24は、図23の位相差の時間変化に対応した整合器における設定値の時間変化を示すグラフである。図25は、図19の放電電極3bに供給される高周波電力のパワーにおける時間変化を示すグラフである。
一方、高周波電源417は、図25に示すように、時刻t41からt42まで、t43からt44までの期間は、放電電極3bに高周波電力を供給し(供給期間Tb1)、時刻0からt41まで、t42からt43まで、t44からt45までの期間は、高周波電力の供給を停止している(停止期間Tb2)。
【0133】
つまり、放電電極3aに高周波電力が供給されている期間Ta1には、放電電極3bへの高周波電力の供給は停止され(Tb2)、放電電極3bへの高周波電力が供給されている期間Ta2には、放電電極3bには高周波電力が供給されている(Tb1)。言い換えると、隣接する放電電極の一方にのみ高周波電力が供給され、同時に高周波電力が供給されることはない。
【0134】
放電電極3a,3bに対する高周波電力の供給状態は制御部22に入力され、制御部22は、各放電電極3a,3bにおける給電点間位相差および高周波電源417の状態に基づいて整合器設定値を調節する制御信号を出力する。
【0135】
放電電極3a,3bにおける給電点間位相差は、図20および図23に示すように、高周波電源417の状態とは関係なく連続的に制御されている。
【0136】
整合器13at,13abに係る整合器設定値は、図21に示すように、供給期間Ta1の間は一定値とされ、停止期間Ta2の間に値の変更がなされている。一方、整合器13bt,13bbに係る整合器設定値は、図24に示すように、供給期間Tb1の間は一定値とされ、停止期間Tb2の間に値の変更がなされている。
【0137】
具体的には、整合器13at,13abに係る整合器設定値は、時刻0からt41までの間は、同時刻の給電点間位相差に対応した値とされ、その後の時刻t41からt42までの間に、次ぎの整合器設定値に向けてその値が調節される。同様にして、時刻t42からt43までの間は、同時刻の給電点間位相差に対応した値とされ、その後の時刻t43からt44までの間に、次ぎの整合器設定値に向けてその値が調節される。以後、同様な制御が繰りかえされる。
【0138】
一方、整合器13bt,13bbに係る整合器設定値は、時刻0からt41までの間に、次ぎの整合器設定値に向けてその値が調節され、その後の時刻t41からt42までの間は、同時刻の給電点間位相差に対応した値とされる。
同様にして、時刻t42からt43までの間に、次ぎの整合器設定値に向けてその値が調節され、その後の時刻t43からt44までの間は、同時刻の給電点間位相差に対応した値とされる。以後、同様な制御が繰りかえされる。
【0139】
なお、整合器設定値の制御方法は、第1の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0140】
上記の構成によれば、放電電極3a〜3hのうち隣接する放電電極の間での放電領域が異なるためプラズマが繋がることなく、干渉が防止される。そのため、複数の放電電極3a〜3hにおける高周波電力の反射の発生を抑制することができる。
さらに、複数の放電電極3a〜3hと基板8との間における放電分布の均一化を両立させることができる。
【0141】
例えば、複数の放電電極3a〜3hを用いる際に、複数の整合器13at〜13ht,13ab〜13hbを同時に設定変更する場合に、個体差などによりインピーダンス変化が同一とならない場合がある。このような場合に、隣り合う放電電極間に電位差が生じて、相互干渉によりプラズマ分布や製膜された膜質分布などの均一性が低下する場合がある。そのため、高周波電力の反射を最小化するように複数の整合器13at〜13ht,13ab〜13hbを制御することは困難であった。
しかしながら、本実施形態の薄膜製造装置401であれば、数の放電電極3a〜3hにおける高周波電力の反射の発生の抑制と、放電分布の均一化とを両立させることができる。
【0142】
なお、上述の実施形態のように、高周波電力の電力パワーや給電点間位相差を変化させてもよいし、「隣り合う放電電極において、同時刻に、同位置で放電させない」ことを満たせば、どのようなパターンで変化させてもよく、特に限定するものではない。隣り合う放電電極において、同時刻に、同位置で放電させなければ、上述の実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0143】
例えば、図26および図29に示すように、隣り合う放電電極3a,3bに供給される高周波電力の給電点間位相差が互いに異なり、放電電極3a,3bに対応する整合器13at,13abおよび整合器13bt,13bbの整合器設定値が、図27および図30に示すように、給電点間位相差に対応して変化する場合であっても、上述の実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0144】
このときの、放電電極3aにおける放電位置が図28に示され、放電電極3bにおける放電位置が図31に示されている。図28および図31に示されているように、隣り合う放電電極3a,3bにおいて、同時刻に、同位置で放電はされていない。
【符号の説明】
【0145】
1,101,201,301,401 薄膜製造装置(真空処理装置)
2 対向電極
3 放電電極
8 基板
9,109,309,409 給電装置
17,317,417 高周波電源(電源部)
13at〜13ht,13ab〜13hb、113at〜113ht,113ab〜113hb、213at〜213ht,213ab〜213hb 整合器
23T 位相調節コンデンサ(位相調節部)
25M 振幅調節コンデンサ(振幅調節部)
53,54 給電点
123TA 第1位相調節コンデンサ(第1位相調節部)
123TB 第2位相調節コンデンサ(第2位相調節部)
125MA 第1振幅調節コンデンサ(第1振幅調節部)
125MB 第2振幅調節コンデンサ(第2振幅調節部)
S1,S2,S3 整合回路
T1 供給期間
T2 停止期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源部から高周波電力が給電点に供給され、対向電極に設置した基板との間にプラズマを形成する放電電極と、
該放電電極に供給される高周波電力の位相および振幅を、前記給電点のそれぞれにおいて調節する複数の整合器と、を備え、
前記整合器には、前記放電電極に供給される前記高周波電力の位相を調節する位相調節部と、前記高周波電力の振幅を調節する振幅調節部とからなる整合回路が複数設けられ、
前記整合器のインピーダンスは、前記給電点間における前記高周波電力の位相差に基づいて、前記整合回路を切り替えることにより調節されることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
前記複数の給電点に供給される高周波電力の電力は、前記給電点間における前記高周波電力の位相差に基づいて、前記給電点ごとに調節されることを特徴とする請求項1記載の真空処理装置。
【請求項3】
前記整合器のインピーダンスは、前記位相調節部および前記振幅調節部の少なくとも一方の前記設定値を制御することにより調節されることを特徴とする請求項1または2に記載の真空処理装置。
【請求項4】
前記給電点間における前記高周波電力の位相差に対応する前記位相調節部の設定値と、前記振幅調節部の設定値とは、予め定められていることを特徴とする請求項3記載の真空処理装置。
【請求項5】
前記位相調節部には、第1位相調節部と第2位相調節部とが設けられ、前記第1位相調節部は前記第2位相調節部と比較して、前記設定値の変更速度が遅く、かつ変更幅が広く、前記第2位相調節部は前記第1位相調節部と比較して、前記設定値の変更速度が速く、かつ変更幅が狭く、
前記振幅調節部には、第1振幅調節部と第2振幅調節部とが設けられ、前記第1振幅調節部は前記第2振幅調節部と比較して、前記設定値の変更速度が遅く、かつ変更幅が広く、前記第2振幅調節部は前記第1振幅調節部と比較して、前記設定値の変更速度が速く、かつ変更幅が狭いことを特徴とする請求項3または4に記載の真空処理装置。
【請求項6】
前記高周波電力は、電力が供給される供給期間と、供給が停止される停止期間とを繰り返しながら供給され、
前記位相調節部および前記振幅調節部の少なくとも一方は、前記停止期間の間に前記設定値が変更されることを特徴とする請求項5記載の真空処理装置。
【請求項7】
前記放電電極は複数設けられ、
隣接する前記放電電極の一方の放電電極に前記高周波電力が供給されている間は、他方の放電電極への前記高周波電力の供給は停止され、
前記一方の放電電極への前記高周波電力の供給が停止されている間は、前記他の放電電極に前記高周波電力は供給されていることを特徴とする請求項6記載の真空処理装置。
【請求項8】
高周波電力を放電電極の給電点に供給する電源部と、
前記放電電極に供給される高周波電力の位相および振幅を、前記給電点のそれぞれにおいて調節する複数の整合器と、が設けられ、
前記整合器には、前記放電電極に供給される前記高周波電力の位相を調節する位相調節部と、前記高周波電力の振幅を調節する振幅調節部とからなる整合回路が複数設けられ、
前記給電点間における前記高周波電力の位相差に基づいて、前記整合回路を切り替えることにより前記整合器のインピーダンスが調節されることを特徴とする真空処理装置の給電装置。
【請求項9】
電源部から高周波電力が給電点に供給され、対向電極に設置した基板との間にプラズマを形成する放電電極と、
該放電電極に供給される高周波電力の位相および振幅を、前記給電点のそれぞれにおいて調節する複数の整合器と、を備え、
前記整合器には、前記放電電極に供給される前記高周波電力の位相を調節する位相調節部と、前記高周波電力の振幅を調節する振幅調節部とからなる整合回路が複数設けられた真空処理装置を用いた製膜方法であって、
前記放電電極に設けられた前記複数の給電点に供給された高周波電力の位相差であって、前記複数の給電点間における位相差を制御する位相差制御ステップと、
前記複数の給電点間における位相差に基づいて、前記整合回路を切り替えることにより前記整合器のインピーダンスを調節するインピーダンス調節ステップと、
を有することを特徴とする製膜方法。
【請求項10】
電源部から高周波電力が給電点に供給され、対向電極に設置した基板との間にプラズマを形成する放電電極と、
該放電電極に供給される高周波電力の位相および振幅を、前記給電点のそれぞれにおいて調節する複数の整合器と、を備え、
前記整合器には、前記放電電極に供給される前記高周波電力の位相を調節する位相調節部と、前記高周波電力の振幅を調節する振幅調節部とからなる整合回路が複数設けられた真空処理装置を用いた製膜方法であって、
前記放電電極に設けられた前記複数の給電点に供給される高周波電力における位相差であって、前記複数の給電点間における位相差を制御する位相差制御ステップと、
前記複数の給電点間における位相差に基づいて、前記整合回路を切り替えることにより前記整合器のインピーダンスを調節インピーダンス調節ステップと、
を有することを特徴とする製膜時における給電方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2011−181959(P2011−181959A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115224(P2011−115224)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【分割の表示】特願2007−232586(P2007−232586)の分割
【原出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電システム未来技術研究開発 大面積/高効率多接合薄膜シリコン太陽電池高生産製膜技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】