説明

真空処理装置

【課題】半導体処理装置を構成する部材に蓚酸系陽極酸化処理を施すことにより、前記部材からの微粒子の発塵を抑制する。
【解決手段】ウエハを真空処理する複数の真空処理室7と、該各真空処理室にウエハを搬入出する真空搬送手段8を備えた真空搬送容器6と、前記各真空処理室にウエハを搬入出するための大気雰囲気あるいは真空雰囲気に切り替え可能なロードロック室9と、ウエハを収納できる複数のカセットを載置し得るカセット載置手段10と、該カセット載置手段上の任意のカセット内からウエハを抜き取れるように構成された大気搬送手段4とを備え、前記任意のカセット内のウエハを前記大気搬送手段及び前記切り替え可能なロードロック室並びに前記真空搬送手段を介して各真空処理室に搬入し、前記各真空処理室で真空処理された処理済ウエハを搬出する真空処理装置において、前記真空搬送容器6を構成する部材の内表面には蓚酸を用いた陽極酸化処理を施した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理装置を構成する部材の表面処理技術に係り、特に異物の発生を抑制することのできる表面処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造においては、サブミクロンレベルの異物がそれぞれの製造工程に影響を及ぼすことがある。例えば、半導体デバイスを形成するウエハ上に異物が付着すると、付着した異物がマスクとなって異常な電気回路が形成されることがある。このような場合には、半導体デバイスの製造歩留まりが悪化する。
【0003】
異物は種々の要因で発生する。例えば、半導体製造装置を構成する真空搬送容器内で、ウエハを搬送中に容器壁面から微小粒子などが剥離して落下すると、ウエハ上に異物となって付着することがある。製造装置は種々の材料で構成されるが、加工が容易でかつ軽量である等の理由からアルミニウム系の材料がよく利用される。アルミニウム系の材料には、材料加工面の腐食抑制等を目的として、陽極酸化処理がしばしば施される。
【0004】
陽極酸化処理を施すと、表面は多孔形状をなすとともに、表面にはそこを這うようなマイクロクラックと呼ばれる溝が形成されることがあり、これらが異物発生の要因になると懸念されている。
【0005】
従来、この種の問題の解決策としては、部材表面の多孔形状部分あるいはマイクロクラック部をカバーして耐食性の向上を図り、さらに部材からの発塵を抑制するするため、部材の表面にPTFE(Poly Tetra Flouro Ethylene)樹脂を塗布する表面処理(PTFE樹脂処理)などが実施されていた。
【0006】
図5は、半導体製造装置の真空室部材に対し、従来の表面処理(アルミニウム基材に硫酸アルマイト処理を施したのち、PTFE樹脂を塗布する処理)を施した場合における表面観察結果を示す。図5に示すように、表面には微小な粒子が不規則かつ多層に付着していることが分かる。
【0007】
図3(b)は、従来の表面処理の手順を説明する図である。図3(b)に示すように、表面処理は、前処理(有機溶剤洗浄、脱脂、市水洗浄、酸洗浄など)、陽極酸化処理(硫酸系陽極酸化処理、純水洗浄など)、樹脂付着処理(表面にPTFE樹脂を塗布する処理)、後処理(洗浄、乾燥など)の処理を順次施すことにより行われていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、半導体製造装置においては、該半導体製造装置を構成する真空容器間で試料の受け渡しを行う。この受け渡しの際、受け渡しが行われる各室間での圧力差を解消するため、真空容器内の圧力を調節する必要がある。圧力調節に際して窒素ガスなどのガスを導入すると、このガスの流れあるいは圧力の変化に伴い、真空容器を構成する各部材には外力が作用する。
【0009】
これらの外力は真空容器内最表面部に付着している粒子に対しても作用し、粒子の一部は剥離、脱落して異物となる。
【0010】
近年では、半導体デバイスの微細化が進展し、より微細な粒子であっても異物として働くようになった。このため、前記従来の表面処理法により処理した際に部材表面に残留する程度の微細な粒子であっても、その存在が問題となってきた。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、半導体処理装置を構成する部材からのより微細な発塵を抑制することのできる表面処理技術提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決するため、次のような手段を採用した。
【0013】
ウエハを真空処理する複数の真空処理室と、該各真空処理室にウエハを搬入出する真空搬送手段を収容した真空搬送容器と、前記各真空処理室にウエハを搬入出するための大気雰囲気あるいは真空雰囲気に切り替え可能なロードロック室と、ウエハを収納できる複数のカセットを載置し得るカセット載置手段と、該カセット載置手段上の任意のカセット内からウエハを抜き取れるように構成された大気搬送手段とを備え、前記任意のカセット内のウエハを前記大気搬送手段及び前記切り替え可能なロードロック室並びに前記真空搬送手段を介して各真空処理室に搬入し、前記各真空処理室で真空処理された処理済ウエハを搬出する真空処理装置において、前記真空搬送容器を構成する部材の内表面には蓚酸を用いた陽極酸化処理を施す。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以上の構成を備えるため、半導体処理装置を構成する部材からのより微細な発塵を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、最良の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態にかかる半導体処理装置を説明する図である。
【0016】
図1に示すように、半導体処理装置1は、カセット3が設置される大気側処理部30および真空側処理部20を備える。真空側処理部20はウエハ2(2a、2b、2c)を搬送処理する真空搬送ロボットを備えた真空搬送容器6、複数の真空処理室7(7a、7b、7c、7d)、前記真空処理室7にウエハ2を搬入出する為の大気雰囲気および真空雰囲気に切り替え可能なロードロック室9(9a、9b)を備える。
【0017】
真空処理室7(7a、7b、7c、7d)およびロードロック室9(9a、9b)は、それぞれその内側が真空搬送容器6内部と同等の真空度まで減圧されて圧力が維持できる真空容器で構成されている。真空処理室7の内部には、その上面に処理対象のウエアが載置される載置面を備えた試料台11が配置される。なお、ウエハ2は真空処理室7(7a、7b、7c、7c)内に配置された載置台12(12a、12b、12c、12d)上に載置された状態で処理される。
【0018】
真空搬送容器6内には、各真空処理室7(7a、7b、7c、7d)内に配置された載置台12(12a、12b、12c、12d)およびロードロック室9(9a、9b)内に配置された試料台14(14a、14b)との間で試料を搬入出するための真空搬送ロボット8が配置されている。
【0019】
真空搬送ロボット8は二つのロボットアーム(8a、8b)を備え、それぞれのアームはその上面にウエハを載置して搬送し各載置台との間でウエハをやりとりする。
【0020】
真空処理室7(7a、7b、7c、7d)およびロードロック室9(9a、9b)と真空搬送容器6との間には、これらの間を仕切るゲートおよび該ゲートを開閉するゲートバルブを有するゲートユニット16(16a,16b、16c、16d,16e、16f)が配置されており、試料が前記ゲートの開口部を介して搬送される。
【0021】
大気側処理部20は、大気圧下に配置され、複数のカセット載置台10(10a、10b、10c)をその前面に備える。また、カセット載置台10(10a、10b、10c)の上面にはそれぞれ複数のウエハを収納可能なカセット3(3a、3b、3c)が載せられる。また、大気搬送処理部20は、内部にウエハが搬送される空間を形成する大気搬送容器11、該大気搬送容器11内に配置され、カセット戴置台10に戴置されるカセット内のウエハを挿入出可能となるような上下方向、左右方向に移動可能に構成されたロボットアームなどの大気搬送手段4、ウエハの位置合わせを行う機構5、および前記大気搬送処理部20の背面に取り付けられ真空搬送容器6と大気搬送容器11とを連結し大気圧と真空圧とに切り替え可能な複数のロードロック室9a、9bとを備える。
【0022】
ロードロック室9(9a、9b)は大気搬送容器11に接続されている。このロードロック室9(9a、9b)内部は装置外部の雰囲気圧(大気圧)と同等の圧力から真空搬送容器6内と同等の圧力までの間で圧力を変更することができるように構成されている。
【0023】
ロードロック室9(9a、9b)と大気搬送容器11との間には、それぞれゲートユニット18(18a、18b)が配置されており、このゲートユニット18(18a、18b)内のゲートバルブを開閉することによりロードロック室と大気搬送容器との間が連通し、遮断される。
【0024】
図2は、真空搬送容器6、ロードロック室9a、9bの構成を説明する図である。図2に示すように、真空搬送容器6は真空搬送容器本体6a、蓋6b、および真空搬送ロボット8を備える。また、真空搬送容器6にはロードロック室9(9a、9b)との間で試料のやり取りを行うための真空側ゲートユニット16(16e、16f)が設置される。また、前記ロードロック室9(9a、9b)の他端には大気搬送装置との間で試料のやり取りを行うための大気側ゲートユニット18(18a、18b)が設置される。
【0025】
次に、図1に示す半導体処理装置を用いて行われるウエハ処理の一例を説明する。まず、大気搬送手段4により、被処理ウエハ2aをカセット載置台10aに載置されたカセット3aから1枚取り出し、取り出したウエハをウエハ位置合わせ機構5上に載置する。ウエハ位置合わせ機構5において位置合わせされたウエハは、大気搬送手段4により、大気側ゲートユニット18aを介して大気圧に調圧されたロードロック室9aのウエハ載置台14a上に載置される。
【0026】
次に、ロードロック室9aは、図示しない排気手段により減圧排気され、予め所定の圧力まで減圧排気されている真空搬送容器6と同等の圧力まで減圧される。その後、真空ロボット8により、真空側ゲートユニット16eを介して、ウエハをロードロック室内のウエハ載置台14a上から取り出し、取り出したウエハを、例えば真空側ゲートユニット16bを介して真空処理室7b内のウエハ載置台12b上に載置する。
【0027】
真空処理室7b内で所定の条件で処理されたウエハは、真空搬送ロボット8により真空処理室7b内のウエハ載置台12b上から取り出し、取り出したウエハを例えば真空側ゲートユニット16fを介してロードロック室9bのウエハ載置台14b上に載置する。
【0028】
その後、ロードロック室9bは図示しないパージ手段により大気圧に戻される。大気圧に戻されたロードロック室9b内のウエハは、大気搬送手段4により大気側ゲートユニット18bを介してロードロック室9b内のウエハ載置台14b上から搬出され、例えばカセット載置台10cに載置されたカセット3cに収納される。
【0029】
図3は、表面処理の手順等を従来例と比較して説明する図であり、図3(a)は、ウエハの搬送経路を構成する室あるいは容器、すなわちロードロック室、真空搬送容器、真空処理室を構成する基材(アルミニウム)の内面等に蓚酸系陽極酸化処理(蓚酸アルマイト処理)を施す手順を説明する図である。図3(a)に示すように、蓚酸系陽極酸化処理に際しては、前処理(基材を有機溶剤などで洗浄、脱脂した後、酸洗浄、市水洗浄など)、陽極酸化処理(蓚酸を用いた陽極酸化処理、純水洗浄など)、後処理(洗浄、乾燥など)の各種処理を順次施す。なお、本実施形態では、基材表面には蓚酸系陽極酸化処理のみを施す(PTFEを塗布する処理は行わない)。
【0030】
図4は、基材に蓚酸系陽極酸化処理を施した後の、前記基材を電子顕微鏡により表面観察した結果を示す図である。図4に示すように、(PTFEを塗布する処理を行わなくとも)表面には微小な粒子をほとんど見ることができない。
【0031】
例えば、真空搬送室6を構成する部材の蓋6bの内面に蓚酸系陽極酸化処理を施すことにより、表面に微小な粒子が付着することはほぼなくなる。このため、真空搬送室内へのガス導入に伴う流体力あるいは室内の真空圧力調整時の圧力変動に伴い応力が作用しても、真空搬送室蓋などから微小な粒子が剥離、落下して異物となることを大幅に低減することができる。このため、信頼性の高く、生産効率の良い半導体デバイスを製造することができる。
【0032】
図3(c)は、異物の発生個数を評価した結果を示す図である。図に示すように、本実施形態の蓚酸系陽極酸化処理法(真空搬送室の蓋に蓚酸系陽極酸化処理(封孔処理なし)を施す)を施した場合における異物(80nm以上)の発生個数は17個であり、従来の硫酸系陽極酸化処理法(硫酸系陽極酸化処理を施した後PTFE樹脂処理を施す)を施した場合における異物(80nm以上)の発生個数は50個である。このように本実施形態のよれば、発生する異物を64%低減することができる。なお、異物評価については、図1、図2に示した処理装置内に鏡面シリコンウエハを搬送して評価した。異物数については、レーザ式の異物検査装置を用い、シリコンウエハは300mm径のものを用いた。
【0033】
以上説明したように、本実施形態よれば、真空搬送容器等の真空室を構成する部材に表面処理として蓚酸系陽極酸化処理を施すことにより、該表面処理により残留する微小粒子を大幅に低減することができるため、微少異物による問題点(被処理基板表面への微小粒子の付着等による歩留まり低下等)を解消することができる。また、これにより、信頼性の高い生産効率の良い半導体デバイスを製造することができる。さらに、本発明による表面処理を真空搬送室の蓋部材に適用することにより蓋部材の耐食性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施形態にかかる半導体処理装置を説明する図である。
【図2】真空搬送容器、ロードロック室の構成を説明する図である。
【図3】表面処理の手順等を従来例と比較して説明する図である。
【図4】蓚酸系陽極酸化処理を施した後の表面観察結果を示す図である。
【図5】従来の表面処理を施した後の表面観察結果を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 半導体処理装置
2 ウエハ
3 カセット
4 大気搬送手段
5 ウエハ位置合わせ機構
6 真空搬送容器
7 真空処理室
8 真空搬送ロボット
9 ロードロック室
10 カセット載置台
11 大気搬送容器
14,14ウエハ載置台
16,18ゲートユニット
20 真空側処理部
30 大気側処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエハを真空処理する複数の真空処理室と、該各真空処理室にウエハを搬入出する真空搬送手段を収容した真空搬送容器と、前記各真空処理室にウエハを搬入出するための大気雰囲気あるいは真空雰囲気に切り替え可能なロードロック室と、ウエハを収納できる複数のカセットを載置し得るカセット載置手段と、該カセット載置手段上の任意のカセット内からウエハを抜き取れるように構成された大気搬送手段とを備え、
前記任意のカセット内のウエハを前記大気搬送手段及び前記切り替え可能なロードロック室並びに前記真空搬送手段を介して各真空処理室に搬入し、前記各真空処理室で真空処理された処理済ウエハを搬出する真空処理装置において、
前記真空搬送容器を構成する部材の内表面には蓚酸を用いた陽極酸化処理を施してあることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の真空処理装置において、
前記真空搬送容器を構成する部材の内表面は蓚酸を用いた陽極酸化処理のみを施してあることを特徴とする真空処理装置。
【請求項3】
請求項1記載の真空処理装置において、
前記真空搬送容器を構成する蓋部材の表面は蓚酸を用いた陽極酸化処理のみを施してあることを特徴とする真空処理装置。
【請求項4】
カセット内のウエハを大気雰囲気あるいは真空雰囲気に切り替え可能なロードロック室および真空搬送手段を介して各真空処理室に搬入し、前記各真空処理室で真空処理された処理済ウエハを前記真空搬送手段および大気雰囲気あるいは真空雰囲気に切り替え可能なロードロック室を介して搬出する真空処理装置の製造方法において、前記真空搬送手段を収容する真空搬送容器を構成する部材の内表面に蓚酸を用いた陽極酸化処理のみを施すことを特徴とする真空処理装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−50405(P2010−50405A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215618(P2008−215618)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】