説明

真空成膜装置用ケース付きリール、真空成膜装置及び薄膜積層体の製造方法

【課題】製造過程での薄膜特性の劣化を抑制することができる真空成膜装置用ケース付きリール、真空成膜装置及び薄膜積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】長尺状の基材14が巻回されるリール本体18と、リール本体18を収納するケース32と、ケース32に設けられ、ケース32内に基材14との非反応性ガスを導入可能なガス導入口36と、ケース32に設けられ、基材14がケース32の内部と外部との間で出し入れされる基材出入口38と、リール本体18に一体回転可能に設けられ、基材14上に薄膜を成膜する真空成膜装置に取り付け可能な被取付回転機構60と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成膜装置用ケース付きリール、真空成膜装置及び薄膜積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材上に、薄膜を順次成膜して、薄膜積層体を製造する薄膜積層体の製造方法が数多く提案されている。なかでも、長尺状の基材上に、中間層及び酸化物超電導層を順次成膜して、薄膜積層体としての超電導線材を製造する方法が、超電導限流器やケーブル、SMES(超電導エネルギー貯蔵装置)への応用のため期待されている。
【0003】
ところが、超電導線材を実用化するための障害となっている1つの要因として、臨界電流密度特性の向上が容易でないことが挙げられる。
【0004】
そこで、例えば特許文献1では、粒界傾角を30度以下とした酸化物からなる配向制御多結晶薄膜の上に酸化物超電導層を成膜して、当該酸化物超電導層の結晶配向性を高め、もって臨界電流密度特性の向上を図ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−290528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1では、酸化物超電導層まで含んだ薄膜積層体を成膜するまでに、高周波スパッタ装置、イオンビームスパッタ装置、及びレーザー蒸着装置等の所謂reel-to-reelの真空成膜装置を複数種使用している。
しかしながら、特許文献1のように、薄膜積層体を複数種の真空成膜装置を使用して製造する方法では、ある真空成膜装置で成膜した薄膜を他の真空成膜装置に移す間や、一時的な保管時などに薄膜が大気中に晒されて水を吸着してしまう。そして、薄膜に水が吸着すると、薄膜特性が劣化し得る。特に、成膜した膜が酸化物薄膜であると、水の吸着による薄膜特性の劣化が顕著となり、例えば酸化物超電導層の下地となる酸化物の中間層に水が吸着すると、上層の酸化物超電導層の臨界電流密度特性が劣化する。
【0007】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、製造過程での薄膜特性の劣化を抑制することができる真空成膜装置用ケース付きリール、真空成膜装置及び薄膜製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は下記の手段によって解決された。
本発明の第1態様に係る真空成膜装置用ケース付きリールは、長尺状の基材が巻回されるリール本体と、前記リール本体を収納するケースと、前記ケースに設けられ、前記ケース内にガスを導入可能なガス導入口と、前記ケースに設けられ、前記基材が前記ケースの内部と外部との間で出し入れされる基材出入口と、前記リール本体に一体回転可能に設けられ、前記基材上に薄膜を成膜する真空成膜装置に取り付け可能な被取付回転機構と、を備える。
【0009】
この真空成膜装置用ケース付きリールは、被取付回転機構を介して真空成膜装置の供給側(基材引き出し側)及び真空成膜装置の巻取り側に取り付けられる。
そして、真空成膜装置の供給側に取り付けられる真空成膜装置用ケース付きリールにガス導入口から、例えば、基材との反応性を示さない非反応性のガスを導入することにより、被取付回転機構が真空成膜装置の供給側に取り付けられる間に、リール本体に巻回された基材が大気に晒されることを抑制でき、当該基材に水が吸着することを抑制することができ、同様にその後成膜する薄膜にも基材を介して水が吸着することを抑制することができる。真空成膜装置用ケース付きリールを取り付けた後は、真空成膜装置内は真空とされるので、リール本体に巻回された基材が大気に晒されることがない。
真空とされた真空成膜装置では、供給側の真空成膜装置用ケース付きリールのリール本体に巻回された基材を、被取付回転機構でリール本体を回転しながら基材出入口を介すことでケース内から引き出すことができ、また、引き出した基材上に薄膜を成膜した後、被取付回転機構でリール本体を回転しながら巻取り側の真空成膜装置用ケース付きリールの基材出入口を介すことでケース内のリール本体で基材を巻取ることができる。
ここで、基材を巻取った後の巻取り側の真空成膜装置用ケース付きリールは、真空成膜装置から取り出されて他の成膜装置に取り付けられる間や一時保管する間に、大気中に晒されることになる。しかしながら、真空成膜装置の巻取り側に取り付けられた真空成膜装置用ケース付きリールに、大気中(真空成膜装置の外)に取り出す前にガス導入口から、例えば、基材との反応性を示さない非反応性のガスを導入することにより、真空成膜装置用ケース付きリールが大気中に晒されることになっても、リール本体に巻回された基材が大気に晒されることを抑制でき、当該基材上の薄膜に水が吸着することを抑制することができる。
以上のように、薄膜に水が吸着することを抑制することができれば、製造過程での薄膜特性の劣化を抑制することができる。
【0010】
本発明の第2態様に係る真空成膜装置用ケース付きリールは、第1態様において、前記基材出入口を開閉する基材出入口開閉手段を備える。
【0011】
この構成によれば、ガス導入口からケース内にガスを導入する際に、基材出入口を基材出入口開閉手段で閉めることにより、ケース内に導入されたガスが基材出入口を介してケース外に流出することを抑制することができる。
【0012】
本発明の第3態様に係る真空成膜装置用ケース付きリールは、第2態様において、前記ガス導入口を開閉するガス導入口開閉手段を備える。
【0013】
この構成によれば、ガス導入口からケース内にガスを導入した後に、当該ガス導入口をガス導入口開閉手段で閉めることにより、ケース内に導入されたガスがガス導入口を介してケース外に流出することを抑制することができる。また、ガス導入口をガス導入口開閉手段で閉めると共に、基材出入口を基材出入口開閉手段で閉めることにより、ケース内をより密閉状態にすることができる。
【0014】
本発明の第4態様に係る真空成膜装置用ケース付きリールは、第3態様において、前記ケース内は密閉可能とされ、前記ケース内の圧力を測定するガス圧測定器が前記ケースに取り付けられている。
【0015】
この構成によれば、真空成膜装置用ケース付きリールの保管時にてガス圧測定器でケース内の圧力を測定し、ガスによりケース内が陽圧となっているか否かを視認で確認することができる。
【0016】
本発明の第5態様に係る真空成膜装置用ケース付きリールは、第1〜第4態様の何れか1つにおいて、前記真空成膜装置で成膜される薄膜は、酸化物薄膜である。
【0017】
この構成によれば、真空成膜装置で一般的に水と反応し易い酸化物薄膜が成膜されても、当該酸化物薄膜が成膜された基材が巻き取られた真空成膜装置用ケース付きリールにおいて、ガス導入口からケース内に、例えば、基材との反応性を示さない非反応性のガスを導入することで、酸化物薄膜に水が吸着することを抑制することができれば、酸化物薄膜の薄膜特性の劣化を抑制できる。
【0018】
本発明の第6態様に係る真空成膜装置用ケース付きリールは、第1〜第5態様の何れか1つにおいて、前記被取付回転機構は、複数の真空成膜装置に取り付けられ、前記基材には、前記複数の真空成膜装置で薄膜が成膜されて薄膜積層体が形成される。
【0019】
この構成によれば、複数のうちある真空成膜装置に被取付回転機構を介して取り付けられた真空成膜装置用ケース付きリールが取り出された後、複数のうち別の真空成膜装置に取り付けられて、薄膜積層体が形成される。この際、ある真空成膜装置から取り出されて別の真空成膜装置に取り付けられる間は、大気中に晒されることなるが、ガス導入口からケース内にガスを導入することで、ケース内のリール本体に巻回された基材が大気中に晒されることを抑制できる。
【0020】
本発明の第7態様に係る真空成膜装置用ケース付きリールは、第1〜第6態様の何れか1つにおいて、前記被取付回転機構は、前記ケースの外部から内部に入り込み、前記リール本体に接続され前記リール本体と共に回転可能な回転軸と、前記ケースから外部に露出した前記回転軸に設けられ、前記回転軸を回転させる前記真空成膜装置に接続するための接続部と、を備える。
【0021】
この構成によれば、真空成膜装置に接続部を介して真空成膜装置用ケース付きリールを接続した後、真空成膜装置により回転軸を回転させることで、リール本体を回転させることができる。これにより、基材出入口から基材の引き出し又は巻き取りが容易となる。
【0022】
本発明の第8態様に係る真空成膜装置用ケース付きリールは、第1〜第7態様の何れか1つにおいて、前記ケースは、底板と、前記底板の周縁部から突出する側壁と、前記底板と前記側壁とで囲まれる前記リール本体を覆う着脱可能な蓋体と、を備える。
【0023】
この構成によれば、蓋体をケースから開けることで、リール本体をケース内から取り出すことができる。
【0024】
本発明の第9態様に係る真空成膜装置用ケース付きリールは、第1〜第8態様の何れか1つにおいて、前記ケース内で前記基材出入口の周囲には、前記基材出入口から前記基材の引き出しをガイドするガイド部材が設けられている。
【0025】
この構成によれば、ガイド部材により基材出入口からの基材の引き出しがガイドされるので、容易に基材を引き出すことができる。
【0026】
本発明の第10態様に係る真空成膜装置用ケース付きリールは、前記ケースは、300℃以上の耐熱性を有する、請求項1〜請求項9の何れか1項に記載の真空成膜装置用ケース付きリール。
【0027】
この構成によれば、ケースが300℃以上の耐熱性を有するので、真空成膜装置用ケース付きリールを被取付回転機構を介して真空成膜装置に取り付けた後、成膜温度が900℃までなら、ケース付きリールは成膜領域から有る程度の距離で離れた位置にあるため、300℃以上の耐熱性を有していれば、ケースを取り外すことなくそのまま基材上に成膜することができ、特に、成膜温度が常温等の低温領域であるアモルファス薄膜の成膜時にはより好適である。
【0028】
本発明の第11態様に係る真空成膜装置用ケース付きリールは、第1〜第10態様の何れか1つにおいて、前記ケースは、透明性を有する。
【0029】
この構成によれば、ケース内のリール本体を視認することができるため、基材の出し入れなどに問題があったときに、迅速に問題発見が可能となる。
【0030】
本発明の第12態様に係る真空成膜装置は、第7態様に記載の2つの真空成膜装置用ケース付きリールが装着される真空成膜装置であって、一方の真空成膜装置用ケース付きリールに前記回転軸に設けられた接続部を介して接続され、前記リール本体を回転する第1回転駆動部と、他方の真空成膜装置用ケース付きリールに前記回転軸に設けられた接続部を介して接続され、前記リール本体を回転する第2回転駆動部と、前記基材上に薄膜を成膜する成膜部と、前記一方の真空成膜装置用ケース付きリールのリール本体に巻回された基材を、前記第1回転駆動部を回転駆動しながら前記基材出入口を介して前記ケース内から引き出して、前記成膜部で成膜しつつ、前記第2回転駆動部を回転駆動しながら前記他方の真空成膜装置用ケース付きリールの前記基材出入口を介して前記ケース内のリール本体で前記基材を巻取る制御部と、を備える。
【0031】
この構成によれば、第1回転駆動部に接続部を介して接続される一方の真空成膜装置用ケース付きリールに、ガス導入口からガスを導入することにより、一方の真空成膜装置用ケース付きリールが第1回転駆動部に接続される間に、リール本体に巻回された基材が大気に晒されることを抑制でき、当該基材に水が吸着することを抑制することができ、同様にその後成膜する薄膜にも基材を介して水が吸着することを抑制することができる。また、第2回転駆動部に接続部を介して接続され、成膜部で成膜された基材が巻回されている真空成膜装置用ケース付きリールに、大気中(真空成膜装置の外)に取り出す前にガス導入口からガスを導入することにより、真空成膜装置用ケース付きリールが大気中に晒されることになっても、リール本体に巻回された基材が大気に晒されることを抑制でき、当該基材上の薄膜に水が吸着することを抑制することができる。
【0032】
本発明の第13態様に係る薄膜積層体の製造方法は、基材が巻回されるリール本体と、前記リール本体を収納するケースと、前記ケースに設けられたガス導入口と、前記ケースに設けられた基材出入口と、を備える真空成膜装置用ケース付きリールを2つ真空成膜装置に取り付ける第1取り付け工程と、前記真空成膜装置内を真空にした後に、一方の真空成膜装置用ケース付きリールの基材を他方の真空成膜装置用ケース付きリールで巻き取りながら、前記真空成膜装置で前記基材上に酸化物薄膜を成膜する成膜工程と、前記成膜工程の後、前記他方の真空成膜装置用ケース付きリールにおいて、前記ガス導入口から前記ケース内に前記基材との非反応性ガスを導入するガス導入工程と、前記他方の真空成膜装置用ケース付きリールを前記真空成膜装置から取り出す取り出し工程と、前記他方の真空成膜装置用ケース付きリールを前記真空成膜装置と同一又は異なる真空成膜装置に取り付ける第2取り付け工程と、を有する。
【0033】
この構成によれば、成膜工程の後取り出し工程の前に、他方の真空成膜装置用ケース付きリールにおいてガス導入口からケース内に前記基材との非反応性ガスを導入するガス導入工程を行うので、取り出し工程と第2取り付け工程の間、ケース内のリール本体に巻回された基材が大気に晒されることを抑制でき、当該基材上の薄膜に水が吸着することを抑制することができる。
【0034】
本発明の第14態様に係る薄膜積層体の製造方法は、第13態様において、前記ガス導入工程では、前記リール本体内に非反応性ガスを充填して前記リール本体内を陽圧にし、前記第2取り付け工程の前まで前記陽圧を維持する。
【0035】
この構成によれば、ガス導入工程では、他方の真空成膜装置用ケース付きリールにおいてガス導入口からケース内に非反応性ガスを充填してリール本体内を陽圧にするので、取り出し工程と第2取り付け工程の間、ケース内に外気が侵入することを確実に抑制でき、もって基材上の薄膜に水が吸着することを抑制することができる。
【0036】
本発明の第15態様に係る薄膜積層体の製造方法は、第13又は第14態様において、前記第2取り付け工程から取り付けた真空成膜装置にて成膜する前までの間、前記一方の真空成膜装置用ケース付きリールにおいて、前記ガス導入口から前記ケース内に前記基材との非反応性ガスを導入する取り付け後ガス導入工程、を有する。
【0037】
この構成によれば、第2取り付け工程から取り付けた真空成膜装置にて成膜する前までの間に、一方の真空成膜装置用ケース付きリールが大気に晒されることになっても、ガス導入口から前記ケース内に前記基材との反応性を示さない非反応性ガスを導入する取り付け後ガス導入工程を行うことで、ケース内のリール本体に巻回された基材が大気に晒されることを抑制でき、当該基材に水が吸着することを抑制することができる。
【0038】
本発明の第16態様に係る薄膜積層体の製造方法は、第13〜第15態様のいずれか1つにおいて、前記第2取り付け工程の後に、薄膜積層体の最表層として保護層を成膜する仕上げ工程、を有する。
【0039】
この構成によれば、薄膜積層体が大気に晒されても、最表層として保護層があるため、保護層よりも内側にある薄膜に水が吸着することを抑制できる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、製造過程での薄膜特性の劣化を抑制することができる真空成膜装置用ケース付きリール、真空成膜装置及び薄膜積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る真空成膜装置の概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る真空成膜装置用ケース付きリールの一部切り欠いた斜視図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係る真空成膜装置用ケース付きリールの平面図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態に係る真空成膜装置用ケース付きリールの縦断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態に係る薄膜積層体の製造方法によって製造される薄膜積層体の一例である超電導線材の積層構造を示す図である。
【図6】図6は、ガス導入工程を行う際の巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bの概略的な状態図である。
【図7】図7は、ガス導入工程を行う際の巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bの概略的な状態図の変形例1である。
【図8】図8は、ガス導入工程を行う際の巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bの概略的な状態図の変形例2である
【図9】図9は、本発明の実施形態に係る真空成膜装置用ケース付きリールの変形例を一部切り欠いた斜視図である。
【図10】図10は、本発明の実施形態に係る真空成膜装置用ケース付きリールの変形例の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る真空成膜装置用ケース付きリール、真空成膜装置及び薄膜製造方法について具体的に説明する。なお、図中、同一又は対応する機能を有する部材(構成要素)には同じ符号を付して適宜説明を省略する。
【0043】
<真空成膜装置>
図1は、本発明の実施形態に係る真空成膜装置の概略構成図である。
【0044】
本発明の実施形態に係る真空成膜装置10は、2つの真空成膜装置用ケース付きリール12が装着され、真空成膜装置室内を真空にして長尺状の基材14上に薄膜を成膜する所謂reel-to-reelの真空成膜装置である。真空成膜装置10の種類としては、特に限定されることはなく、例えばスパッタリング装置、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置、PVD(Physical Vapor Deposition)装置、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)装置、及びレーザー蒸着装置等を挙げることができる。なお、「真空」とは、厳密な意味での真空のみを意味するのではなく、大気圧よりも圧力の低い(減圧された)空間または状態をも意味するものとし、具体的に好ましくは10−1Pa〜10−8Pa、より好ましくは10−2Pa〜10−5Pa程度の真空を言う。また、以降から適宜、2つの真空成膜装置用ケース付きリール12のうち、真空成膜装置10の供給側(基材14引き出し側)の真空成膜装置用ケース付きリール12を、供給側真空成膜装置用ケース付きリール12Aと称し、真空成膜装置10の巻取り側の真空成膜装置用ケース付きリール12を、巻取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bと称す。
【0045】
この真空成膜装置10は、CPUやメモリ等で構成され装置全体を制御する制御部16を備えている。制御部16には、供給側真空成膜装置用ケース付きリール12Aに接続され、そのリール本体18を回転する第1回転駆動部20と、巻取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bに接続され、そのリール本体18を回転する第2回転駆動部22と、基材14上に薄膜を成膜する成膜部24と、基材14を搬送する搬送ローラ26を含む搬送部(不図示)と、が信号線28を介して電気的に接続されている。
【0046】
そして、この制御部16は、ユーザからの成膜指示を受け付けると、室内を真空にし、供給側真空成膜装置用ケース付きリール12Aのリール本体に巻回された基材14を、第1回転駆動部20を回転駆動しながら供給側真空成膜装置用ケース付きリール12Aから引き出して、成膜部24で成膜しつつ、第2回転駆動部22を回転駆動しながら巻取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bで基材14を巻取る制御を行う。
【0047】
<真空成膜装置用ケース付きリール>
図2は、本発明の実施形態に係る真空成膜装置用ケース付きリール12の一部切り欠いた斜視図である。
【0048】
本発明の実施形態に係る真空成膜装置用ケース付きリール12は、基材14が巻回されるリール本体18と、当該リール本体18を収納するケース32と、を備えている。
【0049】
リール本体18は、金属やプラスチック等で構成され、基材14が巻回される円柱状の芯18Aの両端に鍔18Bが付いている。このリール本体18に巻回される基材14の形状は、長尺状のものであれば特に限定さることはないが、本実施形態ではテープ状のものが用いられる。
【0050】
ケース32は、平面視(後述する蓋体32C側が上側、底板32Aが下側とする)が四角形状の箱型のものであり、真空成膜装置10で成膜する際にケース32を取り外すことなく成膜できるという観点から300℃以上の耐熱性を有していることが好ましく、真空成膜装置用ケース付きリール12を用いて基材14上の薄膜全てを成膜できるという観点から、900℃以上の耐熱性を有していることがより好ましい。ケース32は、基材14の出し入れなどに問題があったときに、迅速に問題発見が可能となるという観点から透明性を有することが好ましい。ケース32の材料は、プラスチック、アクリル、ステンレス、アルミ又はガラス等が挙げられる。なかでも、900℃以上の耐熱性を有する耐熱ガラスを用いることが好ましい。
【0051】
このようなケース32は、矩形平板状の底板32Aと、当該底板32Aの周縁部から突出する4つの壁からなる側壁32Bと、当該側壁32Bと底板32Aとで囲まれるリール本体18を覆う蓋体32Cと、を備えケース内を密閉可能な構成とされている。この蓋体32Cは、側壁32Bの一壁に不図示の取付金具により取り付けられており、側壁32Bの残りの壁に係合金具34により係合されてリール本体18を覆うようになっている。また、係合金具34の係合状態を解除すると、蓋体32Cをケース32から開けることができるようになっており、リール本体18をケース32内から取り出すことができる。
【0052】
ケース32の側壁32Bには、例えば、基材14との反応性を示さない非反応性ガスをケース32内に導入可能なガス導入口36と、基材14がケース32の内部と外部との間で出し入れされる基材出入口38とが設けられている。なお、「非反応性ガス」とは、HeやNe、Ar等の希ガス、N、又は湿度30%以下の乾燥空気等を意味する。
【0053】
図3は、本発明の実施形態に係る真空成膜装置用ケース付きリール12の平面図である。
【0054】
ガス導入口36には、当該ガス導入口36を開閉する開閉バルブ50が設けられており、また基材出入口38には、当該基材出入口38を開閉する開閉蓋52がOリング54を介して設けられている。
【0055】
ケース32内で前記基材出入口38の周囲には、当該基材出入口38から基材14の引き出しをガイドするガイドローラ56が設けられている。
【0056】
図4は、本発明の実施形態に係る真空成膜装置用ケース付きリール12の縦断面図である。
【0057】
リール本体18には、当該リール本体18に一体回転可能に設けられ、基材14上に薄膜を成膜する真空成膜装置10を含め複数の真空成膜装置に取り付け可能な被取付回転機構60が設けられている。なお、この複数の真空成膜装置で成膜される薄膜の少なくとも一部は、一般的に水と反応し易い酸化物薄膜であることが本発明を有効に適用できるという点で好ましい。
【0058】
具体的に、本実施形態の被取付回転機構60は、底板32Aに設けられた開口部32Dを介してケース32の外部から内部に入り込み、リール本体18に接続され当該リール本体18と共に回転可能な回転軸62と、ケース32から外部に露出した回転軸62に設けられ、当該回転軸62を回転させる真空成膜装置10の第1回転駆動部20又は第2回転駆動部22にある駆動軸64に接続するためのシャフト状の接続部66と、を備える。なお、この接続部66は、ケース32の内側(蓋体32C側)から挿入し易いように、回転軸62によりも径が細くされている。
【0059】
回転軸62とリール本体18の接続は、リール本体18の貫通穴68からボルト70を差し込んで、回転軸62から外周方向に固着した円盤72に設けられたネジ穴74まで捩りこむことにより行うことができる。なお、ケース32には、内部に開口部32Dを形成し、ケース32の底板32Aから接続部66側に向かって垂直に突出する筒状部32Eが設けられており、回転軸62と筒状部32Eとの間には、回転軸62の回転に伴ってケース32が回転せず、且つ左右にずれないように2つのベアリング76が配置されている。さらに、ベアリング76の隣(回転軸62の軸方向外側隣)には、当該ベアリング76を固定するための治具77が設けられている。さらに、回転軸62と筒状部32Eとの間は
Oリング79によりシールされており、開口部32Dから外気が進入することがなく、また、ケース32内の非反応性ガスが漏れることなく、ケース32を回転させずにリール本体18のみを回転することができる。
【0060】
接続部66には、駆動軸64に設けられた爪部78が係合する係合部80が設けられており、この係合部80に爪部78が係合すると、回転軸62が駆動軸64にトルク伝達可能となる。
【0061】
<超電導線材(薄膜積層体)>
図5は、本発明の実施形態に係る薄膜積層体の製造方法によって製造される薄膜積層体の一例である超電導線材100の積層構造を示す図である。
図5に示すように、超電導線材100は、基材14上に中間層110、酸化物超電導層120、保護層130が順に形成された積層構造を有している。
【0062】
基材14は、低磁性の金属基材やセラミックス基材を用いる。金属基材としては、例えば、強度及び耐熱性に優れた、Cu、Ni、Ti、Mo、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Ag等の金属又はこれらの合金を用いることができる。特に好ましいのは、耐食性及び耐熱性の点で優れているステンレス、ハステロイ(登録商標)、その他のニッケル系合金である。また、これら各種金属材料上に各種セラミックスを配してもよい。また、セラミックス基材としては、例えば、MgO、SrTiO、又はイットリウム安定化ジルコニア等を用いることができる。
【0063】
中間層110は、酸化物超電導層120において高い面内配向性を実現するために基材14上に形成される層であり、熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が基材14と酸化物超電導層120を構成する酸化物超電導体との中間的な値を示す。また、中間層110は、単層膜で構成されていても多層膜で構成されていてもよい。中間層110の材料としては、GdZr7−δ(0≦δ<1)、YAlO(イットリウムアルミネート)、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、Y、Gd、Al、B、Sc、Cr、REZrO及びRE、MgOやLaMnO3+δ(0≦δ<1)、CeO、PrO等が挙げられる。
【0064】
酸化物超電導層120は、中間層110上に形成され、酸化物超電導体、特に銅酸化物超電導体で構成されている。この銅酸化物超電導体としては、REBaCu7−δ(RE−123と称す),BiSrCaCu8+δ(BiサイトにPbドープしたものも含む),BiSrCaCu10+δ(BiサイトにPbドープしたものも含む),(La,Ba)CuO4−δ,(Ca,Sr)CuO2−δ[CaサイトはBaであってもよい],(Nd,Ce)CuO4−δ,(Cu,Mo)Sr(Ce,Y)CuO [(Cu,Mo)−12s2と称し、s=1、2、3,4である],Ba(Pb,Bi)O又はTlBaCan−1Cu2n+4(nは2以上の整数である)等の組成式で表される結晶材料を用いることができる。また、銅酸化物超電導体は、これら結晶材料を組み合わせて構成することもできる。
【0065】
以上の結晶材料の中でも、超電導特性が良くて結晶構造が単純であるという理由から、REBaCu7−δを用いることが好ましい。また、結晶材料は、多結晶材料であっても単結晶材料であってもよい。
【0066】
なお、上記REBaCu7−δ中のREは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、YbやLuなどの単一の希土類元素又は複数の希土類元素であり、これらの中でもREサイトとBaサイトが置換せずストイキオメトリーで作製しやすいという理由でYであることが好ましい。また、δは、酸素不定比量であり、例えば0以上1以下であり、超電導転移温度が高いという観点から0に近いほど好ましい。
また、REBaCu7−δ以外の結晶材料のδも酸素不定比量を表し、例えば0以上1以下である。
【0067】
酸化物超電導層120の膜厚は、特に限定されないが、例えば500nm以上3000nm以下である。
【0068】
酸化物超電導層120の形成(成膜)方法としては、例えばTFA−MOD法、PLD法、CVD法、MOCVD法、又はスパッタ法などが挙げられる。これら成膜方法の中でも、高真空を必要としない、大面積、複雑な形状の基材14にも成膜可能、量産性に優れているという理由からMOCVD法を用いることが好ましい。また、REBaCu7−δや(La,Ba)CuO4−δの成膜時には、酸素不定比量δを小さくして超電導特性を高めるという観点から、酸素ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0069】
この酸化物超電導層120の上面には、例えばスパッタ法により銀からなる保護層130が成膜されている。また、保護層130を成膜して超電導線材100を製造した後、超電導線材100に熱処理を施してもよい。
【0070】
<薄膜積層体の製造方法>
次に、本発明の実施形態に係る薄膜積層体の製造方法の一例として、以上のような薄膜積層体としての超電導線材100を製造する製造方法について説明する。
【0071】
−準備工程−
本発明の実施形態に係る薄膜積層体の製造方法は、まず上述した真空成膜装置用ケース付きリール12を2つ準備する準備工程を行う。一方は、例えば200mの基材14が巻回された供給側真空成膜装置用ケース付きリール12Aであり、他方は、例えば2m〜3mのダミーとなる基材が巻回された巻取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bである。
【0072】
−第1取り付け工程−
次に、2つの真空成膜装置用ケース付きリール12を真空成膜装置10に取り付ける第1取り付け工程を行う。この第1取り付け工程では、供給側真空成膜装置用ケース付きリール12Aを、例えばIBAD装置等の真空成膜装置10の供給側に取り付ける。具体的には、図1及び図2に示すように、被取付回転機構60としての接続部66を第1回転駆動部20にある駆動軸64に接続する。また、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bを、真空成膜装置10の巻き取り側に取り付ける。具体的には、図1及び図2に示すように、被取付回転機構60としての接続部66を第2回転駆動部22にある駆動軸64に接続する。そして、供給側真空成膜装置用ケース付きリール12Aにおいて、基材出入口38を介して基材14をケース32から引き出す。最後に、基材14を、成膜部24を通して、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bまで導き、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bのダミー基材に接続する。
【0073】
−成膜工程−
次に、基材14上に薄膜を成膜する成膜工程を行う。この成膜工程では、まず真空成膜装置10の扉を閉めて真空成膜装置10内を真空引きする。所定の真空度まで真空引きを行った後、供給側真空成膜装置用ケース付きリール12Aの基材14を、基材出入口38を介して第1回転駆動部20、第2回転駆動部22及び搬送ローラ26で搬送し、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bで基材出入口38を介して巻き取りながら、成膜部24にて適正な条件で基材14上に例えばMgO等の酸化物からなる中間層110の全部又は一部の層を成膜する。その後、基材14すべてをケース32に入れる。
【0074】
−ガス導入工程−
成膜工程の後、ガス導入工程を行う。図6は、ガス導入工程を行う際の巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bの概略的な状態図である。
ガス導入工程では、図6(A)に示すように、ガス導入口36と基材出入口38を開状態としたままで、真空成膜装置10の真空状態から大気圧に戻すため、真空成膜装置10内に基材14との反応性を示さない非反応性ガスを導入する。これにより、ガス導入口36等から非反応性ガスが導入されて、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bのケース32内は非反応性ガスでほぼ満たされた状態となる。
非反応性ガスの導入を続けて真空成膜装置10内が大気圧となったら、真空成膜装置10の扉を開ける。
そして、扉を開けて巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bのケース32内から非反応性ガスが無くなる前までに、図6(B)に示すように、開閉バルブ50によりガス導入口36を閉状態にし、且つ、開閉蓋52により基材出入口38を閉状態にする。これにより、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bのケース32内は、扉を開けてからガス導入口36と基材出入口38を閉めるまで多少の空気が入る場合があるものの、非反応性ガスを含んだ状態を保つことができる。
【0075】
−取り出し工程−
次に、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bを、真空成膜装置10から取り出す取り出し工程を行う。
【0076】
−第2取り付け工程−
次に、新しい真空成膜装置用ケース付きリール12を1つと、取り出し工程で取り出した巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bを1つと、を真空成膜装置10とは異なる真空成膜装置(例えばスパッタリング装置:ただし、真空成膜装置10と同じ構成を有している)に取り付ける第2取り付け工程を行う。
この第2取り付け工程では、取り出し工程で取り出した巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bのガス導入口36にガス管を接続し、このガス管に基材14との非反応性ガスを充填したガスボンベを接続する。そして、開閉蓋52により基材出入口38を閉状態にしたまま、開閉バルブ50によりガス導入口36を開状態にして、非反応性ガスをケース32内へ導入する(取り付け後ガス導入工程)。次に、非反応性ガスをケース32内に常に導入したまま、取り出し工程で取り出した巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bを、例えばIBAD装置等の真空成膜装置の供給側に取り付ける。なお、第1取り付け工程では真空成膜装置用ケース付きリール12Aが供給側、真空成膜装置用ケース付きリール12Bが巻き取り側であったが、第2取り付け工程では12Bが供給側、12Aが巻き取り側である。具体的には、図1及び図2に示すように、被取付回転機構60としての接続部66を第2回転駆動部22にある駆動軸64に接続する。また、新しい真空成膜装置用ケース付きリール12を巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bとして、真空成膜装置10の巻き取り側に取り付ける。具体的には、図1及び図2に示すように、被取付回転機構60としての接続部66を第1回転駆動部20にある駆動軸64に接続する。そして、供給側真空成膜装置用ケース付きリール12Bにおいて、開閉蓋52により基材出入口38を基材14が最低限通るサイズ程度開状態にして、基材出入口38を介して基材14をケース32から引き出す。最後に、基材14を、成膜部24を通して、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Aまで導き、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Aのダミー基材に接続する。なお、この際、非反応性ガスは、供給側真空成膜装置用ケース付きリール12Bにおいて、ガス導入口36を介してケース32内に導入し続けている。
【0077】
以上の成膜工程から第2取り付け工程までを、中間層110を構成する全ての層が完成するまで繰り返す。
【0078】
中間層110が完成した後、異なる真空成膜装置において、上記と同様の順序で成膜工程を行い、YBCO等の酸化物超電導層120を成膜する。そして、上記同様のガス導入工程及び取り出し工程を行って、非反応性ガスで満たされた状態の巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12B(又は12A)を異なる真空成膜装置から取り出す。最後に、さらに異なる真空成膜装置に取り付けて超電導線材100の最表層としての保護層130を成膜する仕上げ工程を行う。
【0079】
<効果>
以上、本発明の実施形態に係る薄膜積層体の製造方法によれば、成膜工程の後取り出し工程の前に、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12B(又は12A)においてガス導入口36からケース32内に基材14との反応性を示さない非反応性ガスを導入するガス導入工程を行うので、取り出し工程と第2取り付け工程の間、ケース32内のリール本体18に巻回された基材14が大気に晒されることを抑制でき、当該基材14上の薄膜(中間層110や酸化物超電導層120)に水が吸着することを抑制することができる。
【0080】
また、第2取り付け工程から取り付けた真空成膜装置10にて成膜する前までの間に、供給側真空成膜装置用ケース付きリール12Bが大気に晒されることになっても、ガス導入口36からケース32内に基材14との非反応性ガスを導入する取り付け後ガス導入工程を行うことで、ケース32内のリール本体18に巻回された基材14が大気に晒されることを抑制でき、当該基材14に水が吸着することを抑制することができ、同様にその後成膜する薄膜(中間層110等)にも基材14を介して水が吸着することを抑制することができる。
以上のように、薄膜に水が吸着することを抑制することができれば、製造過程での薄膜特性、超電導線材100では具体的に臨界電流密度特性の劣化を抑制することができる。特に、薄膜がMgO等の酸化物であれば水と反応し易いため(MgO+HO→Mg(OH))、本発明を有効に適用できる。
【0081】
また、保護層130を成膜する仕上げ工程を有するので、超電導線材100が大気に晒されても、最表層として保護層があるため、保護層130よりも内側にある薄膜(酸化物超電導層120や中間層110)に水が吸着することを抑制できる。
【0082】
<変形例>
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであり、例えば上述の複数の実施形態は、適宜、組み合わせて実施可能である。また、以下の変形例同士を、適宜、組み合わせてもよい。
【0083】
例えばガス導入工程では、真空成膜装置10内に非反応性ガスを導入し続けて真空成膜装置10内が大気圧となったら真空成膜装置10の扉を開け、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bのケース32内から非反応性ガスが無くなる前までにガス導入口36を閉状態にし、且つ、基材出入口38を閉状態にする場合を説明したが、以下(1)又は(2)のような方法を用いることもできる。図7及び図8は、ガス導入工程を行う際の巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bの概略的な状態図の変形例である。
(1)変形例1:図7(A)に示すように、ガス導入口36と基材出入口38を開状態としたままで、真空成膜装置10の真空状態から大気圧に戻すため、真空成膜装置10内に非反応性ガスを導入する。大気圧になったら、真空成膜装置10の扉を開けて、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bにおいて、ガス導入口36にガス管を接続し、このガス管に基材14との非反応性ガスを充填したガスボンベを接続する。
次に、図7(B)に示すように、ガスボンベを用いてガス導入口36から非反応性ガスの導入を開始し、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bの中が非反応性ガスで満たされるまで導入を続ける。
その後、開閉蓋52により基材出入口38を閉状態にし、そして、非反応性ガスを導入し続けることで、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bのケース32内が陽圧となったら、開閉バルブ50によりガス導入口36を閉状態にする。これにより、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bのケース32内は非反応性ガスで満たされた状態を保つことができる。
(2)変形例2:この変形例2では、図8(A)に示すように、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bのケース32にさらに真空引き口200を設けたものを用いることを前提とする。
そして、ガス導入工程では、図8(A)に示すように、ガス導入口36と基材出入口38と真空引き口200とを開状態としたままで、真空成膜装置10の真空状態から大気圧に戻すため、真空成膜装置10内に非反応性ガスを導入する。大気圧になったら、真空成膜装置10の扉を開けて、図8(B)に示すように、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bにおいて、開閉バルブ50によりガス導入口36を閉状態にし、且つ、開閉蓋52により基材出入口38を閉状態にする。そして、真空用ガス管201を真空引き口200に接続し、真空排気装置を用いて真空引き口200を介し、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bのケース32内を真空引きする。
次に、図8(C)に示すように、開閉バルブ202により真空引き口200を閉じる。
次に、図8(D)に示すように、ガス導入口36にガス管203を接続し、このガス管203に基材14との非反応性ガスを充填したガスボンベを接続し、開閉バルブ50によりガス導入口36を開状態にする。そして、当該ガスボンベを用いてガス導入口36から非反応性ガスを導入する。非反応性ガスを導入し続けることで、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bのケース32内が陽圧となったら、開閉バルブ50によりガス導入口36を閉状態にする。これにより、巻き取り側真空成膜装置用ケース付きリール12Bのケース32内は、他の方法に比べて限りなく空気を減らした状態で非反応性ガスが満たされた状態を保つことができる。
【0084】
また、ケース32の側壁32Bには、基材14との非反応性ガスをケース32内に導入可能なガス導入口36と、基材14がケース32の内部と外部との間で出し入れされる基材出入口38とが設けられている場合を説明したが、図9に示すように、真空成膜装置用ケース付きリール12のケース32の側壁32Bには、さらにケース32内の圧力を測定するガス圧測定器40が設けられていてもよい。これにより、取り出し工程後第2取り付け工程の間の保管時にてガス圧測定器40を用いてケース32内の圧力を測定することで、ケース32内が非反応性ガスで陽圧状態が保たれているか否か等を目視で確認することができる。
【0085】
また、本実施形態の被取付回転機構60には、回転軸62と筒状部32Eとの間に、回転軸62の回転に伴ってケース32が回転せず、且つ左右にずれないように2つのベアリング76が配置され、さらに、ベアリング76の隣(回転軸62の軸方向外側隣)には、当該ベアリング76を固定するための治具が設けられている場合を、図4を参照して説明した。変形例ではこのように構成に変えて、例えば図10に示す真空成膜装置用ケース付きリール300の被取付回転機構302のような構成とする。
具体的に、変形例の被取付回転機構302は、本実施形態と同様に、底板32Aに設けられた開口部32Dを介してケース32の外部から内部に入り込み、リール本体18に接続され当該リール本体18と共に回転可能な回転軸62と、ケース32から外部に露出した回転軸62に設けられ、当該回転軸62を回転させる真空成膜装置10の第1回転駆動部20又は第2回転駆動部22にある駆動軸64に接続するためのシャフト状の接続部304と、を備えている。なお、この接続部304は、図4で説明した実施形態の接続部66と異なり、回転軸62よりも径が太くされている。
回転軸62とリール本体18の接続は、リール本体18の貫通穴68からボルト70を差し込んで、回転軸62から外周方向に固着した円盤72に設けられたネジ穴74まで捩りこむことにより行うことができる。なお、ケース32には、内部に開口部32Dを形成し、ケース32の底板32Aから接続部304側に向かって垂直に突出する筒状部32Eが設けられており、回転軸62と筒状部32Eとの間には、回転軸62の回転に伴ってケース32が回転しないようにOリング306がシールされており、リール本体18の回転機構がOリングシール方式となっている。したがって、開口部32Dから外気が進入することがなく、また、ケース32内の非反応性ガスが漏れることなく、ケース32を回転させずにリール本体18のみを回転することができる。
【0086】
また、ガス導入口36はケース32の側壁32Bに設けられている場合を説明したが、底板32Aや蓋体32Cに設けられてもよい。基材出入口38についても同様である。また、これらの口を開閉する開閉バルブ50や開閉蓋52は省略することもできる。ただし、この場合、真空の場合を除き非反応性ガスをケース32内に常に導入し続けることになる。
【0087】
また、被取付回転機構60がリール本体18に設けられる場合を説明したが、ケース32やリール本体18とケース32の両方に設けられていてもよい。また、被取付回転機構60は、異なる真空成膜装置に取付可能とされていたが、少なくとも真空成膜装置10単体にのみ取付可能とされてもよい。この場合であっても、真空成膜装置用ケース付きリール12を、真空成膜装置10から一旦取り出して、再度真空成膜装置10に取り付けるようなときに、本発明は有効に適用できる。
【0088】
また、ケース32は、平面視が四角形状の箱型のものである場合を説明したが、特に形状に限定はなく、平面視が三角形状や丸形形状、台形形状等であってもよい。
【0089】
また、リール本体18の回転機構が、ベアリング76で回転軸62を軸受けし且つ回転軸62と筒状部32Eをシールしながら回転する方式である場合を説明したが、図10のようなOリングシール方式等、特に回転機構に限定はなく、マグネットカップリングシール式やベローズシール式、磁性流体シール式、オイルシール式等であってもよい。
【0090】
また、超電導線材100の中間層110や保護層130は省略することもできる。
なお、本発明の実施形態に係る薄膜積層体の製造方法により得られる超電導線材100は、様々な機器に応用することができる。例えば、SMES(Superconducting Magnetic Energy Storage)、超電導トランス、NMR(核磁気共鳴)分析装置、超電導限流器、単結晶引き上げ装置、リニアモーターカー、磁気分離装置等の機器に広く応用することができる。ただし、本発明の実施形態に係る薄膜積層体の製造方法は、上述した超電導線材100を製造する場合に限定されず、トランジスタ素子やMEMS素子等を製造する場合にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0091】
10 真空成膜装置
12 真空成膜装置用ケース付きリール
12A 供給側真空成膜装置用ケース付きリール(一方の真空成膜装置用ケース付きリール:巻取り側真空成膜装置用ケース付きリールの場合も有)
12B 巻取り側真空成膜装置用ケース付きリール(他方の真空成膜装置用ケース付きリール:供給側真空成膜装置用ケース付きリールの場合も有)
14 基材
16 制御部
18 リール本体
20 第1回転駆動部
22 第2回転駆動部
24 成膜部
32 ケース
32A 底板
32B 側壁
32C 蓋体
36 ガス導入口
38 基材出入口
40 ガス圧測定器
50 開閉バルブ(ガス導入口開閉手段)
52 開閉蓋(基材出入口開閉手段)
56 ガイドローラ(ガイド部材)
60 被取付回転機構
62 回転軸(被取付回転機構)
64 駆動軸
66 接続部(被取付回転機構)
100 超電導線材(薄膜積層体)
110 中間層(薄膜)
120 酸化物超電導層(薄膜)
130 保護層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の基材が巻回されるリール本体と、
前記リール本体を収納するケースと、
前記ケースに設けられ、前記ケース内にガスを導入可能なガス導入口と、
前記ケースに設けられ、前記基材が前記ケースの内部と外部との間で出し入れされる基材出入口と、
前記リール本体に一体回転可能に設けられ、前記基材上に薄膜を成膜する真空成膜装置に取り付け可能な被取付回転機構と、
を備える真空成膜装置用ケース付きリール。
【請求項2】
前記基材出入口を開閉する基材出入口開閉手段を備える、
請求項1に記載の真空成膜装置用ケース付きリール。
【請求項3】
前記ガス導入口を開閉するガス導入口開閉手段を備える、
請求項2に記載の真空成膜装置用ケース付きリール。
【請求項4】
前記ケース内は密閉可能とされ、前記ケース内の圧力を測定するガス圧測定器が前記ケースに取り付けられている、
請求項3に記載の真空成膜装置用ケース付きリール。
【請求項5】
前記真空成膜装置で成膜される薄膜は、酸化物薄膜である、
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の真空成膜装置用ケース付きリール。
【請求項6】
前記被取付回転機構は、複数の真空成膜装置に取り付けられ、
前記基材には、前記複数の真空成膜装置で薄膜が成膜されて薄膜積層体が形成される、
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の真空成膜装置用ケース付きリール。
【請求項7】
前記被取付回転機構は、
前記ケースの外部から内部に入り込み、前記リール本体に接続され前記リール本体と共に回転可能な回転軸と、
前記ケースから外部に露出した前記回転軸に設けられ、前記回転軸を回転させる前記真空成膜装置に接続するための接続部と、
を備える請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の真空成膜装置用ケース付きリール。
【請求項8】
前記ケースは、
底板と、
前記底板の周縁部から突出する側壁と、
前記底板と前記側壁とで囲まれる前記リール本体を覆う着脱可能な蓋体と、
を備える請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の真空成膜装置用ケース付きリール。
【請求項9】
前記ケース内で前記基材出入口の周囲には、前記基材出入口から前記基材の引き出しをガイドするガイド部材が設けられている、
請求項1〜請求項8の何れか1項に記載の真空成膜装置用ケース付きリール。
【請求項10】
前記ケースは、300℃以上の耐熱性を有する、
請求項1〜請求項9の何れか1項に記載の真空成膜装置用ケース付きリール。
【請求項11】
前記ケースは、透明性を有する、
請求項1〜請求項10の何れか1項に記載の真空成膜装置用ケース付きリール。
【請求項12】
請求項7に記載の2つの真空成膜装置用ケース付きリールが装着される真空成膜装置であって、
一方の真空成膜装置用ケース付きリールに前記回転軸に設けられた接続部を介して接続され、前記リール本体を回転する第1回転駆動部と、
他方の真空成膜装置用ケース付きリールに前記回転軸に設けられた接続部を介して接続され、前記リール本体を回転する第2回転駆動部と、
前記基材上に薄膜を成膜する成膜部と、
前記一方の真空成膜装置用ケース付きリールのリール本体に巻回された基材を、前記第1回転駆動部を回転駆動しながら前記基材出入口を介して前記ケース内から引き出して、前記成膜部で成膜しつつ、前記第2回転駆動部を回転駆動しながら前記他方の真空成膜装置用ケース付きリールの前記基材出入口を介して前記ケース内のリール本体で前記基材を巻取る制御部と、
を備える真空成膜装置。
【請求項13】
基材が巻回されるリール本体と、前記リール本体を収納するケースと、前記ケースに設けられたガス導入口と、前記ケースに設けられた基材出入口と、を備える真空成膜装置用ケース付きリールを2つ真空成膜装置に取り付ける第1取り付け工程と、
前記真空成膜装置内を真空にした後に、一方の真空成膜装置用ケース付きリールの基材を他方の真空成膜装置用ケース付きリールで巻き取りながら、前記真空成膜装置で前記基材上に酸化物薄膜を成膜する成膜工程と、
前記成膜工程の後、前記他方の真空成膜装置用ケース付きリールにおいて、前記ガス導入口から前記ケース内に前記基材との非反応性ガスを導入するガス導入工程と、
前記他方の真空成膜装置用ケース付きリールを前記真空成膜装置から取り出す取り出し工程と、
前記他方の真空成膜装置用ケース付きリールを前記真空成膜装置と同一又は異なる真空成膜装置に取り付ける第2取り付け工程と、
を有する薄膜積層体の製造方法。
【請求項14】
前記ガス導入工程では、前記リール本体内に非反応性ガスを充填して前記リール本体内を陽圧にし、前記第2取り付け工程の前まで前記陽圧を維持する、
請求項13に記載の薄膜積層体の製造方法。
【請求項15】
前記第2取り付け工程から取り付けた真空成膜装置にて成膜する前までの間、前記一方の真空成膜装置用ケース付きリールにおいて、前記ガス導入口から前記ケース内に前記基材との非反応性ガスを導入する取り付け後ガス導入工程、
を有する請求項13又は請求項14に記載の薄膜積層体の製造方法。
【請求項16】
前記第2取り付け工程の後に、薄膜積層体の最表層として保護層を成膜する仕上げ工程、
を有する請求項13〜請求項15の何れか1項に記載の薄膜積層体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−28824(P2013−28824A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163626(P2011−163626)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】