硬化性組成物、トレンチ埋め込み方法、硬化膜および半導体発光素子
【課題】塗布法により幅の広いトレンチに埋め込みを行った場合にも、ディンプルが生じず、はがれやにごりなどなく、均質で、平坦な表面を有する硬化膜を形成することができる硬化性組成物を提供する。
【解決手段】以下の(A)成分〜(C)成分を含有することを特徴とする硬化性組成物。(A)成分:脱離基を有するエポキシ基含有ポリシロキサンであり、該ポリシロキサン中に含まれる全Si原子の数を100mol%とするとき、前記脱離基の含有割合が35mol%以下であるエポキシ基含有ポリシロキサン。(B)成分:シリコーン系界面活性剤。(C)成分:溶剤。
【解決手段】以下の(A)成分〜(C)成分を含有することを特徴とする硬化性組成物。(A)成分:脱離基を有するエポキシ基含有ポリシロキサンであり、該ポリシロキサン中に含まれる全Si原子の数を100mol%とするとき、前記脱離基の含有割合が35mol%以下であるエポキシ基含有ポリシロキサン。(B)成分:シリコーン系界面活性剤。(C)成分:溶剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、トレンチ埋め込み方法、硬化膜および半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体素子においては、基板上に配置された回路素子が電気的に絶縁されている必要がある。このような回路素子の電気的な絶縁を行う技術として、基板上に配置された複数の回路素子の間にトレンチを形成し、トレンチ内に絶縁材料を埋め込むことにより、回路素子間の電気的分離を行うシャロートレンチアイソレーション(STI)がある。
【0003】
硬化性組成物をトレンチが形成された基板上に塗布し、硬化性組成物をトレンチに埋め込み、これを硬化させて硬化膜(分離膜)を形成する方法などが知られている。たとえば、特許文献1に、SiX4(Xは、加水分解性基を示し、同一でも異なっていてもよい)を加水分解重縮合して得られるシロキサン樹脂、熱分解又は揮発する熱分解揮発性化合物であって、ポリオキシプロピレン単位を有する化合物、および溶媒からなる塗布型シリカ系被膜形成用組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ポリシロキサン化合物とシリカ粒子との縮合反応物を、トレンチ構造を含む基板に塗布し、塗布された縮合反応物を非酸化雰囲気下において焼成するトレンチ埋め込み用絶縁膜の形成方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、ポリシロキサン化合物とシリカ粒子との縮合反応物、特定の有機溶媒を含むトレンチ埋め込み用縮合反応物が開示されている。
特許文献4には、HSiO3/2基等を40mol%以上有し、重量平均分子量が1000以上200000以下であるポリシロキサン化合物と平均一次粒径が1nm以上100nm以下であるシリカ粒子との縮合反応物を含むトレンチ埋め込み用縮合反応物が開示されている。
【0006】
特許文献5には、酸化シリコン粒子、並びに、特定構造のテトラアルキシキシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物およびジアルコキシシラン化合物を特定量含有するトレンチ埋め込み用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−256437号公報
【特許文献2】特開2010−186975号公報
【特許文献3】特開2010−186938号公報
【特許文献4】特開2010−153655号公報
【特許文献5】特開2010−080776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、トレンチ幅が広いトレンチに埋め込みを行うと、形成される硬化膜の、トレンチ上方部に大きなディンプル(へこみ)が生じることが多い。このようなディンプルが硬化膜に生じると、トレンチ内の絶縁材料の量が不十分になり、回路素子間の電気的分離が困難になる。
【0009】
本発明の課題は、塗布法により幅の広いトレンチに埋め込みを行った場合にも、ディンプルが生じず、はがれやにごりなどなく、均質で、平坦な表面を有する硬化膜を形成することができる硬化性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決する本発明は下記(1)〜(7)である。
(1)下記(A)成分〜(C)成分を含有することを特徴とする硬化性組成物。
(A)成分:脱離基を有するエポキシ基含有ポリシロキサンであり、該ポリシロキサン中に含まれる全Si原子の数を100mol%とするとき、前記脱離基の含有割合が35mol%以下であるエポキシ基含有ポリシロキサン。
(B)成分:シリコーン系界面活性剤。
(C)成分:溶剤。
【0011】
(2)前記(A)成分が、少なくとも下記化合物(a1)および下記化合物(a2)を縮合反応させて得られるポリシロキサンである前記(1)に記載の硬化性組成物。
化合物(a1):一般式R13SiR2で表わされる化合物(R1はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を示す。R2はアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基または−OSiR103で示す基を示す(R10はそれぞれ独立にアルケニル基を有する基、1〜20の炭化水素基を示す。)。)
化合物(a2):一般式REaSiR34-aで表わされる化合物(REはエポキシ基を有する基を示す。R3はそれぞれ独立にアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基または−OSiR113で示す基を示す(R11はそれぞれ独立にアルケニル基を有する基、1〜20の炭化水素基を示す。)。aは1〜3の整数を示す。)
【0012】
(3) 前記(B)成分が、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤である前記(1)または(2)に記載の硬化性組成物。
(4)下記工程Aおよび工程Bを有することを特徴とするトレンチ埋め込み方法。
工程A:前記(1)〜(3)のいずれかに記載の硬化性組成物を、トレンチ構造を有する基板にスピンコート法にて塗布して塗布膜を形成する工程。
工程B:前記塗布膜を備えた基板を加熱する工程。
(5)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の硬化性組成物から得られることを特徴とする硬化膜。
(6)前記(5)に記載の硬化膜を有することを特徴とする半導体発光素子。
(7)前記硬化膜が、半導体層の側壁面に接して形成されている前記(6)に記載の半導体発光素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明の硬化性組成物を使用して塗布法によりトレンチに埋め込みを行うと、幅の広いトレンチであっても、ディンプルが生じず、平坦な表面を有する硬化膜を形成することができ、回路素子間の電気的分離を十分に実現することができる。
【0014】
また、本発明の硬化性組成物は金属膜等に対する濡れ性に優れるので、濡れ性が低い金属膜や窒化ガリウム(GaN)膜を有するLED等の基板に対しても塗布が容易であり、トレンチに埋め込みを効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例で使用したトレンチを複数有する直径4インチのウェハの模式図である。
【図2】図2は、実施例1で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件1)の断面の走査型光学顕微鏡写真である。
【図3】図3は、実施例1で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件2)の断面の走査型光学顕微鏡写真である。
【図4】図4は、実施例1で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件3)の断面の走査型光学顕微鏡写真である。
【図5】図5は、実施例1で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件4)の断面の走査型光学顕微鏡写真である。
【図6】図6は、実施例2で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件2)の断面の走査型光学顕微鏡写真である。
【図7】図7は、比較例1で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件2)の断面の走査型光学顕微鏡写真である。
【図8】図8は、トレンチを有する基板に硬化性組成物を塗布法にて塗布して、基板上に塗布膜が形成された状態を模式的に示す断面図である。
【図9】図9は、従来のポリシロキサン系の硬化性組成物を用いて、トレンチを有する基板上に硬化膜を形成した状態を模式的に示す断面図である。
【図10】図10は、本発明の硬化性組成物を用いて、トレンチを有する基板上に硬化膜を形成した状態を模式的に示す断面図である。
【図11】図11は、トレンチを有する基板上に硬化膜を形成してなる半導体素子の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<硬化性組成物>
本発明の硬化性組成物は、(1)下記(A)成分〜(C)成分を含有することを特徴とする。
下記(A)成分〜(C)成分を含有することを特徴とする硬化性組成物。
(A)成分:脱離基を有するエポキシ基含有ポリシロキサンであり、該ポリシロキサン中に含まれる全Si原子の数を100mol%とするとき、前記脱離基の含有割合が35mol%以下であるエポキシ基含有ポリシロキサン。
(B)成分:シリコーン系界面活性剤。
(C)成分:溶剤。
【0017】
(A)成分
(A)成分は、脱離基を有するエポキシ基含有ポリシロキサンである。
「脱離基」とは、当該エポキシ基含有ポリシロキサンが縮合反応をするとき脱離する原子団または原子を意味し、具体的にはアルコキシ基、ハロゲン原子および水酸基等である。たとえば、脱離基がアルコキシ基である場合、前記縮合反応により脱離基であるアルコキシ基はアルコール分子となって脱離する。
【0018】
前記脱離基の含有割合は、前記ポリシロキサン中に含まれる全Si原子の数を100mol%とするとき、35mol%以下であり、好ましくは1〜35mol%であり、より好ましくは1〜30mol%であり、さらに好ましくは5〜30mol%である。脱離基の含有割合が35mol%以下であると、幅の広いトレンチに埋め込みを行っても、ディンプルのない、表面が平坦な硬化膜を形成できる硬化性組成物が得られる。脱離基の含有割合が35mol%を超えると、当該(A)成分を含む硬化性組成物を用いて幅の広いトレンチに埋め込みを行った場合、ディンプルが生じやすく、表面が平坦な硬化膜が得られにくい。
【0019】
(A)成分が有するエポキシ基の含有割合は、前記ポリシロキサン中に含まれる全Si原子の数を100mol%とするとき、好ましくは10〜60mol%であり、より好ましくは20〜55mol%である。エポキシ基含有割合が前記範囲内であると、エポキシ基の重合により(A)成分は十分に硬化し、強度の高い硬化膜を形成することができる。
【0020】
(A)成分が有するエポキシ基の種類は、後述の化合物(a2)が有するエポキシ基と同様である。
(A)成分は、少なくとも下記化合物(a1)および下記化合物(a2)を縮合反応させて得られるポリシロキサンであることが好ましい。
【0021】
化合物(a1):一般式R13SiR2で表わされる化合物(R1はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を示す。R2はアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基または−OSiR103で示す基を示す(R10はそれぞれ独立にアルケニル基を有する基または1〜20の炭化水素基を示す。)。)
【0022】
化合物(a2):一般式REaSiR34-aで表わされる化合物(REはエポキシ基を有する基を示す。R3はそれぞれ独立にアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基または−OSiR113で示す基を示す(R11はそれぞれ独立にアルケニル基を有する基または1〜20の炭化水素基を示す。)。aは1〜3の整数を示す。)
【0023】
化合物(a1)において、R1が表わす炭素数1〜20の炭化水素基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基等が挙げられる。R1としては、メチル基およびエチル基が好ましい。
【0024】
R2が表わすアルコキシ基としては、たとえば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基、n−ヘキソキシ基、シクロペントキシ基およびシクロヘキソキシ基等が挙げられる。R2としては、メトキシ基およびエトキシ基が好ましい。
【0025】
R10が表わすアルケニル基を有する基としては、たとえば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基およびシクロヘキセニル基等を有する基が挙げられる。これらの中でも、ビニル基、アリル基およびヘキセニル基を有する基が好ましい。
【0026】
R10が表わす1〜20の炭化水素基としては、前記R1が表わす炭素数1〜20の炭化水素基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
化合物(a2)において、R3が表わすアルコキシ基としては、R2が表わすアルコキシ基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
【0027】
R11が表わすアルケニル基を有する基としては、R10が表わすアルケニル基を有する基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
R11が表わす1〜20の炭化水素基としては、前記R1が表わす炭素数1〜20の炭化水素基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
【0028】
REが表わすエポキシ基を有する基としては、たとえば、グリシドキシ基、3−グリシドキシプロピル基等のグリシドキシアルキル基、並びに3,4−エポキシシクロペンチル基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、2−(3,4−エポキシシクロペンチル)エチル基、および2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基等のエポキシシクロアルキル基等が挙げられる。前記エポキシ基を有する基としては、具体的には、下記一般式(1)〜(4)で表される基が挙げられる。化合物(a2)がこのような基を有すると、硬化膜のmmオーダーでの厚膜成形が可能になる。
【0029】
【化1】
〔一般式(1)中R13はメチレン基または2価の炭素数2〜10の直鎖状アルキレン基または炭素数3〜10の分岐鎖状アルキレン基を示す。〕
【0030】
【化2】
〔一般式(2)中R14はメチレン基または2価の炭素数2〜10の直鎖状アルキレン基または炭素数3〜10の分岐鎖状アルキレン基を示す。〕
【0031】
【化3】
一般式(3)中R15はメチレン基または2価の炭素数2〜10の直鎖状アルキレン基または炭素数3〜10の分岐鎖状アルキレン基を示す。〕
【0032】
【化4】
〔一般式(4)中R16はメチレン基または2価の炭素数2〜10の直鎖状アルキレン基または炭素数3〜10の分岐鎖状アルキレン基を示す。〕
【0033】
一般式(1)で表される基としては、具体的には、2−(3、4―エポキシシクロヘキシル)エチル基等が挙げられる。
一般式(2)で表される基としては、具体的には、グリシジル基等が挙げられる。
一般式(3)で表される基としては、具体的には、3−グリシドキシプロピル基等が挙げられる。
【0034】
一般式(4)で表される基としては、具体的には、2−(4−メチル−3、4−エポキシシクロへキシル)エチル基等が挙げられる。
aとしては、1が好ましい。
【0035】
(A)成分を合成するときに使用される化合物(a2)の配合比率は、化合物(a1)および化合物(a2)の配合量の合計を100質量%とした場合好ましくは5〜50質量%であり、より好ましくは10〜40質量%であり、さらに好ましくは15〜35質量%である。化合物(a1)の配合比率が前記範囲内であると、幅の広いトレンチに埋め込みを行っても、ディンプルのない、表面が平坦な硬化膜を形成できる硬化性組成物が得られやすい。
【0036】
化合物(a1)および化合物(a2)を縮合反応させて得られる(A)成分においては、R2およびR3が脱離基である。
さらに(A)成分は、化合物(a1)および化合物(a2)に加えて下記化合物(a3)を縮合反応させて得られるポリシロキサンであることが好ましい。
【0037】
化合物(a3):一般式R4bSiR54-bで表わされる化合物(R4は炭素数1〜20炭化水素基を示す。R5はそれぞれ独立にアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基または−OSiR123で示す基を示す(R12はそれぞれ独立にアルケニル基を有する基または1〜20の炭化水素基を示す。)。bは0〜2の整数を示す。)
化合物(a3)において、R4が表わす1〜20の炭化水素基としては、前記R1が表わす炭素数1〜20の炭化水素基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
【0038】
R5が表わすアルコキシ基としては、R2が表わすアルコキシ基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
R12が表わすアルケニル基を有する基としては、R10が表わすアルケニル基を有する基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
【0039】
R12が表わす1〜20の炭化水素基としては、前記R1が表わす炭素数1〜20の炭化水素基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
(A)成分を合成するときに使用される化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)の配合比率は、化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)の配合量の合計を100質量%とした場合、それぞれ好ましくは10〜50質量%、1〜80質量%および0〜70質量%であり、より好ましくは10〜40質量%、2〜80質量%および0〜50質量%であり、さらに好ましくは20〜30質量%、4〜70質量%および0〜30質量%である。化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)の配合比率が前記範囲内であると、幅の広いトレンチに埋め込みを行っても、ディンプルのない、表面が平坦な硬化膜を形成できる硬化性組成物が得られやすい。
【0040】
化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)を縮合反応させて得られる(A)成分においては、R2、R3およびR5が脱離基である。
(A)成分を合成するときには、上記条件が満たされる限り、化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)以外の化合物を反応させてもかまわない。このような化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)以外の化合物としては、たとえば、テトラブトキシチタンなどの金属アルコキシド等を挙げることができる。
【0041】
化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)等を反応させて(A)成分を合成する方法としては、特開平6−9659号公報、特開2007−106798号公報、特開2007−169427号公報および特開2010−059359号公報等に記載された公知の方法、たとえば、化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)等を、酸性化合物、塩基性化合物およびチタンアルコキサイドなどの反応性金属触媒の存在下、必要に応じて水を用いて加水分解縮合する方法が挙げられる。
【0042】
(A)成分は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が100〜10000の範囲にあることが好ましく、500〜5000の範囲にあることがより好ましい。(A)成分の重量平均分子量が前記範囲内にあると、本硬化性組成物を用いてトレンチ埋め込みを行う際に取扱いやすく、また本硬化性組成物から得られる硬化膜はトレンチ埋め込み材料として十分な強度および特性を有する。
【0043】
(B)成分
(B)成分はシリコーン系界面活性剤である。本発明の硬化性組成物はシリコーン系界面活性剤である(B)成分を含有していることにより、金属膜等に対する濡れ性に優れ、金属膜等を有する基板に対しても塗布が容易であり、トレンチに埋め込みを効率的に行うことができる。これは、シリコーン系界面活性剤はポリシロキサンである(A)成分と同様のシロキサン骨格を有しているため、シリコーン系界面活性剤以外の界面活性剤に比較して、(A)成分との親和性が高いことに起因するものと考えられる。なお、シリコーン系界面活性剤とは、親油性部位として、[R2SiO2/2](Rは、それぞれ独立にアルキル基またはアリール基を示す)で示すシリコーン構造を有する化合物を示す。
【0044】
(B)成分は、親水性部位として、下記式(5)に示す構造単位(B1)を有することが好ましい。(B)成分が構造単位(B1)を有すると、より、平坦性に優れた硬化性組成物となる。
【0045】
【化5】
(式(5)中、R6は炭素数1〜10のアルキル基を示す。R7はメチレン基または炭素数2〜10のアルキレン基を示す。R8はメチレン基または炭素数2〜10のアルキレン基を示す。R9は炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
式(5)中のR6が表わす炭素数1〜10のアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基およびn−ヘキシル基等が挙げられる。R6としては、メチル基およびエチル基が好ましい。
【0046】
式(5)中のR7が表わす炭素数2〜10のアルキレン基としては、たとえば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、アミレン基およびヘキシレン基等が挙げられる。R7としては、メチレン基およびエチレン基が好ましい。
【0047】
式(5)中のR8が表わす炭素数2〜10のアルキレン基としては、たとえば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、アミレン基およびヘキシレン基等が挙げられる。R8としては、メチレン基およびエチレン基が好ましい。
【0048】
式(5)中のR9が表わす炭素数1〜10のアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基およびn−ヘキシル基等が挙げられる。R6としては、メチル基およびエチル基が好ましい。
【0049】
(B)成分であるシリコーン系界面活性剤としては、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、ヒドロキシル変性シリコーンおよびリン酸変性シリコーン等を挙げることができる。これらの中でも、平坦性の点からポリエーテル変性シリコーンが特に好ましい。ポリエーテル変性シリコーンとしては、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、KF−6011〜KF−6019、KF−6026、KF−6028、KF−6038、KSG−210、KSG−310、KSG−320、KSG−330、KSG−340、KF−6100、KF−6104、KSG−710、KSG−810、KSG−820、KSG−830、KSG−840、KF−6105(商品名、信越化学工業(株)製)、BY22−008M、5200Formulation Aid、5330 Fluid、SH−28PA、SH3771M、SH3772M、SH3773M、SH3775M、9011シリコーンエラストマーブレンド(商品名、東レ・ダウコーニング(株)製)、DC−57、DC−190(商品名、ダウコーニング社製)、ポリフローKL−270(商品名、共栄社化学(株)製)CAS登録番号68037−64−9、CAS登録番号39362−51−1等を挙げることができる。アミノ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、ヒドロキシル変性シリコーンおよびリン酸変性シリコーンとしては、特開2007−291302号公報や特開2011−1419号公報に記載のシリコーン系界面活性剤を挙げることができる。
【0050】
本発明の硬化性組成物における(B)成分の含有比率は、(A)成分100質量部に対し、好ましくは0.0001〜10質量部であり、より好ましくは0.001〜10質量部であり、さらに好ましくは0.01〜10質量部である。(B)成分の含有比率が前記範囲内であると、幅の広いトレンチに埋め込みを行っても、ディンプルのない硬化膜を形成でき、さらに、金属膜等を有する基板に対しても塗布が容易で、トレンチに埋め込みを効率的に行うことができる硬化性組成物が得られる。
【0051】
(C)成分
(C)成分は溶剤である。トレンチ埋め込みをスピンコート法などの塗布法により行う場合には、組成物の粘度や溶剤の蒸発速度を適切な範囲に調整する必要がある。(C)成分は、組成物の粘度を調整するために添加される成分である。
【0052】
(C)成分である溶剤としては、このような粘度や蒸発速度の調整が可能ならば特に制限はなく、たとえば、アルコール類、芳香族炭化水素類、エーテル類、ケトン類、エステル類などを挙げることができる。上記アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、i−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレンモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコールなどを挙げることができる。芳香族炭化水素類としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを挙げることができる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどを挙げることができる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどを挙げることができる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸プロピレン、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ノルマルプロピル、乳酸イソプロピル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチルなどを挙げることができる。これらの溶剤は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。これらの溶剤のうち、成分(A)を均一に溶解しやすい点、良好な膜を得られやすい点から、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル等が好ましい。
【0053】
本発明の硬化性組成物における(C)成分の含有比率は、本発明の硬化性組成物の粘度が、塗布法により本硬化性組成物を効率的に塗布できるような粘度になるように適宜調整される。通常は、(A)成分100質量部に対し、500〜5,000質量部であり、好ましくは500〜2,500質量部である。
【0054】
その他の成分
本発明の硬化性組成物は、本組成物の機能が阻害されない限り、前記(A)成分、(B)成分および(C)成分以外の成分を含有することができる。そのような成分としては、密着助剤、エポキシ樹脂用硬化剤、硬化促進剤、無機粒子、酸化防止剤および光安定剤等を挙げることができる。
【0055】
[密着助剤]
本発明の硬化性組成物には、密着助剤を、トレンチ埋め込み材と基板との密着性を向上させる目的で含有させることができる。
【0056】
密着助剤としては、特開2010−13619号公報に記載の化合物などを用いることができる。たとえば、次のような物質を挙げることができる。
分子中にエポキシ基を少なくとも2個含有する分子量100以上1500以下の有機化合物、たとえばエポキシシクロアルキル基等の脂環式エポキシ基含有化合物またはグリシドキシアルキル基を有する化合物の如きエポキシ基含有有機化合物;
下記式(6)で表されるエポキシ基含有アルコキシシランと、下記式(7)
【0057】
【化6】
〔式(6)中、REはエポキシ基を含有する有機基、R17およびR18はそれぞれ独立に非置換または置換の1価の炭化水素基を示し、mは1または2、nは2または3、かつm+n≦4である。〕
【0058】
【化7】
(式(7)中、R19およびR20はそれぞれ独立に非置換または置換の1価の炭化水素基を示し、pは0〜2の整数である。)
で表されるアルコキシシランとの加水分解縮合物や、シラノール基を含有しないエポキシ基含有ポリジメチルシロキサンの如き、ポリシロキサン(A)以外のエポキシ基含有ポリシロキサン; 1,4−ビス{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}ベンゼン(商品名「OXT−121」、東亜合成社製)、3−エチル−3−{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン(商品名「OXT−221」、東亜合成社製)、ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル−フェニル〕エーテル、ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル−フェニル〕プロパンの如きオキセタン化合物;
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランの如きチオール化合物;
イソシアヌル酸トリス(3−トリメトキシシリル−n−プロピル)、イソシアヌル酸トリス(2−ヒドロキシエチル)、イソシアヌル酸トリグリシジル、トリス-(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートの如きイソシアヌル環構造を有する化合物;
上述した式(18)で表されるアルコキシシランやその加水分解物、またはその縮合物の如きアルコキシシランやその加水分解物または縮合物;が挙げられる。
【0059】
密着助剤の使用量は、(A)成分100質量部に対して、通常0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。
【0060】
[エポキシ樹脂用硬化剤]
エポキシ樹脂用硬化剤は、(A)成分を硬化させる物質である。
【0061】
エポキシ樹脂用硬化剤としては、酸無水物、2級および3級アミン、金属キレート化合物等を挙げることができる。これら中で、着色なく、優れた耐熱性を有する封止材を得られる点で、特に酸無水物が好ましい。
【0062】
(酸無水物)
酸無水物としては、特に限定されないが、脂環式カルボン酸無水物などの脂環式酸無水物が好ましい。
【0063】
前記脂環式酸無水物としては、例えば、下記式(8)〜(18)で表される化合物
【0064】
【化8】
や、4−メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルナジック酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物のほか、α−テルピネン、アロオシメン等の共役二重結合を有する脂環式化合物と無水マレイン酸とのディールス・アルダー反応生成物やこれらの水素添加物等を挙げることができる。なお、前記ディールス・アルダー反応生成物やこれらの水素添加物としては、任意の構造異性体および任意の幾何異性体を使用することができる。
【0065】
また、シロキサン変性した酸無水物を使用することもできる。このような酸無水物は、例えば、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物等の一分子中に酸無水物と二重結合を含有する化合物とヒドリド基を含有するポリシロキサンとのヒドロシリレーションにより得られる。なお、前記ヒドロシリレーション反応生成物としては、任意の構造異性体および任意の幾何異性体を使用することができる。
また、前記脂環式酸無水物は、硬化反応を実質的に妨げない限り、適宜に化学的に変性させて使用することもできる。
【0066】
[硬化促進剤]
硬化促進剤は、(A)成分とエポキシ樹脂用硬化剤との硬化反応を促進する成分である。
【0067】
このような硬化促進剤としては、特開2010−13619号公報に記載の化合物などを用いることができる。例えば、
ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、シクロヘキシルジメチルアミン、トリエタノールアミンの如き3級アミン;UCAT410(サンアプロ株式会社)の如き特殊アミン;
2−メチルイミダゾール、2−n−ヘプチルイミダゾールの如きイミダゾール類;
ジフェニルフォスフィン、トリフェニルフォスフィン、亜リン酸トリフェニルの如き有機リン化合物;
ベンジルトリフェニルフォスフォニウムクロライド、テトラ−n−ブチルフォスフォニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスフォニウムテトラフルオロボレートの如き4級フォスフォニウム塩;
1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7やその有機酸塩の如きジアザビシクロアルケン;
オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫、アルミニウムアセチルアセトン錯体の如き有機金属化合物;
テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、UCAT18X(サンアプロ株式会社)の如き4級アンモニウム塩;
三フッ化ホウ素、ホウ酸トリフェニルの如きホウ素化合物;塩化亜鉛、塩化第二錫の如き金属ハロゲン化合物、
ジシアンジアミドやアミンとエポキシ樹脂との付加物等のアミン付加型促進剤等の高融点分散型潜在性硬化促進剤;
前記イミダゾール類、有機リン化合物や4級フォスフォニウム塩等の硬化促進剤の表面をポリマーで被覆したマイクロカプセル型潜在性硬化促進剤;
アミン塩型潜在性硬化剤促進剤;
ルイス酸塩、ブレンステッド酸塩等の高温解離型の熱カチオン重合型潜在性硬化促進剤等の潜在性硬化促進剤;
特開2008−192774号公報に記載の感放射線性酸発生剤;
等を挙げることができる。
【0068】
[無機粒子]
無機粒子としては、特開2010−13619号公報に記載のシリカ粒子等が挙げられる。本発明の硬化性組成物が無機粒子としてシリカ粒子を含有すると、硬化膜の強度および硬度の向上の点で好ましい。
【0069】
[酸化防止剤]
酸化防止剤は、埋め込み材の耐熱性向上の点から用いられる。酸化防止剤としては、特開2010−13619号公報に記載の化合物などを用いることができる。
【0070】
[光安定剤]
光安定剤は、埋め込み材の耐光性向上の点で用いられる。光安定剤としては、特開2010−13619号公報に記載の化合物などを用いることができる。
【0071】
硬化性組成物の調製方法
本発明の硬化性組成物は、(C)成分に(A)成分および(B)成分を添加し、さらに必要に応じてその他の成分を添加して、これらを混合することにより調製することができる。
【0072】
<トレンチ埋め込み方法>
本発明のトレンチ埋め込み方法は、下記工程Aおよび工程Bを有することを特徴とする。
工程A:前記硬化性組成物を、トレンチ構造を有する基板にスピンコート法にて塗布して塗布膜を形成する工程。
工程B:前記塗布膜を備えた基板を加熱する工程。
【0073】
工程A
工程Aでは、前記硬化性組成物を、トレンチ構造を有する基板上にスピンコート法にて塗布して,塗布膜を形成する。
【0074】
前記スピンコートにおける最高回転数は、基板のサイズにより適宜選択される。例えば、直径4インチのシリコンウェハの場合、通常、1500〜5000回転/分、好ましくは2000〜4000回転/分である。
【0075】
トレンチを良好に埋め込むには、組成物の粘度の調整などを行えばよい。組成物の粘度が高すぎると、基板の外周部でトレンチを良好に埋めることができないおそれや、トレンチ内に空隙を形成するおそれがある。一方、組成物の粘度が低すぎると、硬化膜にディンプルが形成されるおそれがある。
【0076】
本発明の硬化性組成物は、前述のとおり、平坦性に優れ、得られる硬化膜は密着性に優れる。このため、従来のトレンチ埋め込み様組成物ではスピンコート法による埋め込みが困難であった、金属膜や窒化ガリウム(GaN)膜によりトレンチ表面が形成されている基板に対しても、本発明の硬化性組成物は容易に塗布することができ、トレンチへの埋め込み性が高く、基板との間に隙間やボイドを生じさせることなく、複雑な構造を有するトレンチ内にも埋め込みを効率的に行うことができる。
【0077】
工程B
工程Bでは、工程Aで得られた塗布膜を備えた基板を加熱する。加熱温度は硬化性組成物中に含まれる、エポキシ基含有ポリシロキサン(A)に含まれるエポキシ基などの熱により架橋する基の含有量や種類、硬化剤や硬化促進剤を含む場合はこれらの成分の含有量により決まる硬化性組成物の硬化性により適宜決められる。本発明の硬化性組成物において、硬化剤や硬化促進剤など、エポキシ基含有ポリシロキサン(A)以外に硬化性に大きく寄与する成分が含まれない場合には、加熱温度は、通常、250℃以上、好ましくは250℃〜500℃、より好ましくは250〜400℃の温度範囲である。
【0078】
特に、加熱中に硬化性組成物による分解物を低減でき、加熱装置を汚染することを防止できることから、硬化性組成物中に、硬化剤や硬化促進剤などエポキシ基含有ポリシロキサン(A)以外に硬化性に大きく寄与する成分はできるだけ少ない方が好ましい。
【0079】
加熱時間は、塗布膜が十分に硬化できるように適宜決定され、通常30〜120分間である。
上記の加熱においては、段階的に加熱を行うことができる。たとえば50〜200℃で加熱して、その後上記のように250℃以上で加熱してもよい。このように段階的に加熱を行うと、硬化膜の強度が増し、回路素子間の電気的分離をより確実に行うことができる。
【0080】
加熱装置には特に制限はなく、たとえばホットプレートやオーブンなどを用いることができる。
上記トレンチ埋め込み方法により得られた硬化膜は、基板表面との間に隙間を生じさせることなく、またトレンチ内部に空洞を生じさせることなく形成される。さらに、トレンチ幅が広いトレンチに埋め込みを行った場合でも、ディンプルが生じにくいことから平坦性に優れた硬化膜を得ることができる。
【0081】
図8は、トレンチを有する基板に硬化性組成物をスピンコート法などの塗布法にて塗布して、基板上に塗布膜が形成された状態を模式的に示す断面図である。図8においては、基板1は、トレンチ幅が広いトレンチ2を有している。図8においてトレンチ2の左右方向が幅を表わす。基板1上には、硬化性組成物からなる塗布膜3が形成されている。硬化性組成物はトレンチ2内に充填されており、塗布膜3の上面は平坦である。使用される硬化性組成物が、本発明の硬化性組成物であっても、従来の硬化性組成物であっても、スピンコート法により図8に示したような塗布膜3を形成することは容易である。
【0082】
図9は、従来のポリシロキサン系の硬化性組成物を用いて図8に示すように形成された塗布膜を加熱して、トレンチを有する基板上に硬化膜を形成した状態を模式的に示す断面図である。図9においては、基板1の上に硬化膜4が形成されており、硬化膜4は、トレンチ2上方部にディンプル5を有している。
【0083】
塗布膜を加熱すると、組成物中の溶剤が蒸発し、溶剤の蒸気が塗布膜から大気中に放出される。さらに、ポリシロキサン分子間で、脱離基が水酸基やアルコキシ基の場合、脱アルコール反応等が起こり、塗布膜は硬化し、脱アルコール反応等により生じたアルコール分子等が塗布膜から大気中に放出される。
【0084】
従来のポリシロキサン系の硬化性組成物においては、ポリシロキサン分子がアルコキシ基等を多量に有しているので、加熱時の脱アルコール反応等によりアルコール分子等が多量に生成され、生成されたアルコール分子等が塗布膜から大気中に放出される。つまり、従来のポリシロキサン系の硬化性組成物においては、塗布膜の硬化時の歩留まりが悪い。このため、硬化膜の体積が大幅に収縮され、その結果、図2に示すようなディンプルが形成されると考えられる。
【0085】
図10は、本発明の硬化性組成物を用いて図8に示すように形成された塗布膜を加熱して、トレンチを有する基板上に硬化膜を形成した状態を模式的に示す断面図である。図10においては、基板1の上に硬化膜6が形成されており、硬化膜6は、トレンチ2上方部にディンプルを有していない。
【0086】
本発明の硬化性組成物においても、塗布膜を加熱すると、組成物中の溶剤が蒸発し、溶剤の蒸気が塗布膜から大気中に放出される。さらに、ポリシロキサン分子間で脱アルコール反応等およびエポキシ基の開環重合起こり、塗布膜は硬化する。脱アルコール反応等により生じたアルコール分子等が塗布膜から大気中に放出される。
【0087】
しかし、本発明の硬化性組成物においては、ポリシロキサンである(A)成分は、アルコキシ基等の脱離基の含有量が少ない。このため、加熱時の脱アルコール反応等により生成されるアルコール分子等の量が少なく、塗布膜から大気中に放出されるアルコール分子等の量も少ない。つまり、本発明の硬化性組成物においては、塗布膜の硬化時の歩留まりが良い。このため、硬化膜の体積収縮が小さく、その結果、本発明の硬化性組成物を使用した場合には、図9に示すようなディンプルが形成されないと考えられる。
【0088】
なお、本発明の硬化性組成物においては、脱アルコール反応等に寄与するアルコキシ基等は少ないが、開環重合に寄与するエポキシ基を含有するので、得られる硬化膜は十分に硬化し、十分な強度を有する。
また、上記のトレンチ幅が広いトレンチとは、概ね幅が1〜1,000μmであるトレンチをいう。
【0089】
<硬化膜>
本発明の硬化膜は硬化性組成物から得られる。本発明の硬化膜は、前記トレンチ埋め込み方法により形成することができるが、その形成方法には制限はない。
【0090】
本発明の硬化膜は、トレンチを有する基板上に設けられることにより、回路素子間の電気的分離を確実に実現できる。本発明の硬化膜は、半導体発光素子などに好適に用いられる。
【0091】
<半導体発光素子>
トレンチが形成された基板に硬化性組成物を塗布して塗膜を形成する場合には、トレンチが形成されていない平坦な基板に硬化性組成物の塗膜を塗布する場合よりも、硬化性組成物と基板との濡れ性(親和性)を高くする必要がある。特に、LEDの場合には、金属膜や窒化ガリウム(GaN)膜を有する基板が使用される。このような基板は、半導体トランジスタ(フィールドエミッションタイプのトランジスタ)などに使用される基板に比較して濡れ性が低い。このため、LED基板の埋め込みに使用される絶縁材料は、半導体トランジスタなどの埋め込みに通常使用される絶縁材料であるTEOSなどに比べて、より濡れ性が高いことが要求される。
【0092】
本発明の半導体発光素子は、上記の硬化性組成物から形成された硬化膜を有することを特徴とする。硬化膜は、半導体発光素子基板上に形成され、基板の設けられたトレンチはこの硬化膜の一部によって埋め込まれている。
【0093】
半導体発光素子の電極の構成や形状としては、例えば、上部電極と下部電極が対向するような通常型、および、上部電極と下部電極が同じ向きにあるトレンチ型などが挙げられる。また、半導体発光素子の半導体層の構成や形状としては、例えば、ダブルへテロ接合型および量子井戸接合型などが挙げられる。
【0094】
半導体発光素子の構成や形状の具体的例としては、例えば、特開2009−170655号公報、特開2007−173530号公報、特開2007−157778号公報、特開2005−294870号公報、特開2004−296979号公報、特開2004−047662号公報、特開2003−243703号公報、特開2003−86841号公報、特開2002−329885号公報、特開2002−064221号公報、特開2001−274456号公報、特開2001−196629号公報、特開2001−177147号公報、特開2001−068786号公報、特開2000−261029号公報、特開2000−124502号公報、特開平10−294531号公報、特開平09−312442号公報および特開平09−237916号公報に記載の構成や形状が挙げられる。
【0095】
図11に、トレンチを有する基板上に硬化膜を形成してなる半導体素子の一具体例の断面模式図を示す。図11(a)は、基板11の断面図を示す。基板11は、SiCなどからなる基板部12と、その上部に一定間隔ごとに設けられた複数の半導体層13とを有している。隣り合う2つの半導体層13の間にトレンチ14が形成される。各半導体層13の上面に上部電極15が設けられている。各トレンチ14の、基板部12上に下部電極16が設けられている。図11(b)は、基板11上に本発明の硬化性組成物で形成された硬化膜17を形成してなる半導体素子18の断面図である。図11(c)は、半導体素子18を、半導体層13の図面左側面に沿ってダイシングして得られるチップ19の断面図である。図11(b)および(c)においては、硬化膜17が半導体層13の側壁面20に接している。
【0096】
このように、硬化膜が半導体層の側壁面に接して形成されていると、硬化膜を半導体層の保護膜としても用いることが可能であることから好ましい。
【実施例】
【0097】
1.ポリシロキサンの合成
1−1.重量平均分子量(Mw)
重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により下記条件で測定し、ポリスチレン換算値として求めた。
【0098】
装置:HLC−8120C(東ソー社製)
カラム:TSK−gel MultiporeHXL−M(東ソー社製)
溶離液:THF、流量0.5mL/min、負荷量5.0%、100μL
【0099】
1−2.脱離基およびエポキシ基の含有割合
29Si NMRおよび/または13C NMRにてポリシロキサン中に含まれる脱離基の含有割合を算出した。
【0100】
1−2.ポリシロキサンの合成
[合成例1]ポリシロキサン(A1)の合成
反応容器に、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(a2−1)5部、フェニルトリメトキシシラン(a3−1)60部、メチルトリメトキシシラン(a3−3)を10部、ジアザビシクロウンデセン5部および水50部を含む混合溶液を入れ、25℃で3時間加熱した。
【0101】
加熱後の混合液に、6質量%シュウ酸水溶液を190部加え、さらに、イソプロピルアルコールを加えて、水層および有機層からなる2層液を得た。前記2層液の有機層を取り出し、この有機層を水で3回洗浄した。洗浄後の有機層に、エトキシトリメチルシラン(a1−1)25部およびジアザビシクロウンデセン5部を含む混合溶液を加えて、50℃で2時間加熱した。その後、プロピレングリコールモノメチルエーテルを400部加え、減圧蒸留し、ポリシロキサン(A1)を含むプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液を得た。このポリシロキサン(A1)の重量平均分子量Mwは1800であった。
【0102】
[合成例2〜4]ポリシロキサン(A2)〜(A4)の合成
下記表1に示す化合物を、表1に示す割合で用いた以外は、合成例1と同様の手法にて、ポリシロキサン(A2)〜(A4)を得た。なお、表中の化合物の詳細は以下の通りである。
【0103】
【表1】
a1−1:エトキシトリメチルシシラン。
a2−1:2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン。
a3−1:フェニルトリメトキシシラン。
a3−2:テトラエトキシシラン。
a3−3:メチルトリメトキシシラン。
【0104】
[合成例5]ポリシロキサン(AR1)の合成
反応容器に、シュウ酸0.05部、メチルトリメトキシシラン20部、テトラエトキシシラン7部、フェニルトリメトキシシラン29部および1−メトキシ−2−プロパノール25部を入れ、攪拌した後、得られた溶液の温度を60℃に加熱した。次いで、蒸留水18部を滴下し、滴下終了後、溶液を100℃にて3時間攪拌した。この反応液を室温まで戻してポリシロキサン(AR1)の溶液を得た。
【0105】
2.硬化性組成物の調製
[実施例1〜7、比較例1および2]
下記表2に示す成分を、表2に示す含有量となるよう混合し、実施例1〜7、比較例1および2の硬化性組成物を調製した。各成分の詳細は以下の通りである。
【0106】
【表2】
B1:シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名「SH−28PA」)
B2:シリコーン系界面活性剤(共栄社化学(株)製、商品名「ポリフローKL−270」)
BR1:フッ素系界面活性剤((株)ネオス製、商品名「FTX−218」)
C1:プロピレングリコールモノメチルエーテル
D1:トリス-(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート(商品名「Y−11597」、モメンティブ社製)
【0107】
3.評価
3−1.硬化膜の形成
表面が金スパッタ膜で覆われた、図1に示す大きさのトレンチパターンを複数有する、直径4インチのシリコンウェハ(以下、「トレンチウェハ」ともいう)上に、硬化性組成物4mlを滴下し、スピンコート法(スピンコート法のシーケンスは下記条件1〜4)にて塗膜を形成した。スピンコート後のトレンチウェハをホットプレート上で、110℃で3分間加熱後、300℃で1時間加熱し、硬化膜を形成した。
【0108】
条件1:トレンチウェハ回転数を300rpm/分で10秒間、次いでトレンチウェハ回転数を2000rpm/分で30秒間回転。
条件2:トレンチウェハ回転数を300rpm/分で10秒間、次いでトレンチウェハ回転数を3000rpm/分で30秒間回転。
【0109】
条件3:トレンチウェハ回転数を300rpm/分で10秒間、次いでトレンチウェハ回転数を4000rpm/分で30秒間回転。
条件4:トレンチウェハ回転数を300rpm/分で10秒間、次いでトレンチウェハ回転数を5000rpm/分で30秒間回転。
【0110】
3−2.平坦性
「3−1.硬化膜の形成」で得られた硬化膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、以下の基準にて平坦性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0111】
A:硬化膜の、ライン上に形成された部分の最大膜厚とラインの高さとの合計と、トレンチ上に形成された部分の最小膜厚との差が、0.15μm以下の場合。
B:硬化膜の、ライン上に形成された部分の最大膜厚とラインの高さとの合計と、トレンチ上に形成された部分の最小膜厚との差が、0.15μmより大きい場合。
【0112】
また、実施例1で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件1〜4)、実施例2で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件2)および比較例1で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件2)の断面の光学顕微鏡写真をそれぞれ図2〜7に示す。
【0113】
図2〜7において、段差により一段低くなっている部分がトレンチである。実施例である図2〜6においては、トレンチに硬化膜がきれいに埋め込まれていることがわかる。図2〜6においては、硬化膜の、トレンチ上方の部分においてディンプルがほとんど現れていない。比較例である図7においては、トレンチに硬化膜がきれいに埋め込まれていないことがわかる。
【0114】
3−3.密着性
「3−1.硬化膜の形成」で得られた硬化膜を走査型光学顕微鏡で観察し、以下の基準にて密着性を評価した。評価結果を表3に示す。
A:均一な膜が形成されており、膜の剥がれなどが観察される場合。
B:均一な膜が形成されておらず、膜の剥がれなどが観察される場合。
【0115】
3−4.耐溶剤性
「3−1.硬化膜の形成」で得られた硬化膜の、ライン上に形成された部分の最大膜厚を走査型電子顕微鏡で測定した。この硬化膜をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに5分間浸漬し、硬化膜の、ライン上に形成された部分の最大膜厚を走査型電子顕微鏡で測定した。下記基準にて耐溶剤性を評価した。評価結果を表3に示す。
A:浸漬後の最大膜厚が、浸漬前の最大膜厚の90%以上の場合。
B:浸漬後の最大膜厚が、浸漬前の最大膜厚の90%未満の場合。
【0116】
3−5.透明性
トレンチのない、平坦な石英基板上に、硬化性組成物2mlを滴下し、スピンコート法(スピンコート法のシーケンスは上記条件1〜4と同様である。)にて塗膜を形成した。スピンコート後の石英基板をホットプレート上で、110℃で3分間加熱後、300℃で1時間加熱し、硬化膜(2μm)を形成した。この硬化膜の波長400〜700nmの分光透過率を紫外可視分光光度計により測定した。以下の基準にて透明性を評価した。評価結果を表3に示す。
A:光透過率が90%T以上の場合。
B:光透過率が90%T未満の場合。
【0117】
【表3】
【符号の説明】
【0118】
1 基板
2 トレンチ
3 塗布膜
4 硬化膜
5 ディンプル
6 硬化膜
11 基板
12 基板部
13 半導体層
14 トレンチ
15 上部電極
16 下部電極
17 硬化膜
18 半導体素子
19 チップ
20 側壁面
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、トレンチ埋め込み方法、硬化膜および半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体素子においては、基板上に配置された回路素子が電気的に絶縁されている必要がある。このような回路素子の電気的な絶縁を行う技術として、基板上に配置された複数の回路素子の間にトレンチを形成し、トレンチ内に絶縁材料を埋め込むことにより、回路素子間の電気的分離を行うシャロートレンチアイソレーション(STI)がある。
【0003】
硬化性組成物をトレンチが形成された基板上に塗布し、硬化性組成物をトレンチに埋め込み、これを硬化させて硬化膜(分離膜)を形成する方法などが知られている。たとえば、特許文献1に、SiX4(Xは、加水分解性基を示し、同一でも異なっていてもよい)を加水分解重縮合して得られるシロキサン樹脂、熱分解又は揮発する熱分解揮発性化合物であって、ポリオキシプロピレン単位を有する化合物、および溶媒からなる塗布型シリカ系被膜形成用組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ポリシロキサン化合物とシリカ粒子との縮合反応物を、トレンチ構造を含む基板に塗布し、塗布された縮合反応物を非酸化雰囲気下において焼成するトレンチ埋め込み用絶縁膜の形成方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、ポリシロキサン化合物とシリカ粒子との縮合反応物、特定の有機溶媒を含むトレンチ埋め込み用縮合反応物が開示されている。
特許文献4には、HSiO3/2基等を40mol%以上有し、重量平均分子量が1000以上200000以下であるポリシロキサン化合物と平均一次粒径が1nm以上100nm以下であるシリカ粒子との縮合反応物を含むトレンチ埋め込み用縮合反応物が開示されている。
【0006】
特許文献5には、酸化シリコン粒子、並びに、特定構造のテトラアルキシキシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物およびジアルコキシシラン化合物を特定量含有するトレンチ埋め込み用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−256437号公報
【特許文献2】特開2010−186975号公報
【特許文献3】特開2010−186938号公報
【特許文献4】特開2010−153655号公報
【特許文献5】特開2010−080776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、トレンチ幅が広いトレンチに埋め込みを行うと、形成される硬化膜の、トレンチ上方部に大きなディンプル(へこみ)が生じることが多い。このようなディンプルが硬化膜に生じると、トレンチ内の絶縁材料の量が不十分になり、回路素子間の電気的分離が困難になる。
【0009】
本発明の課題は、塗布法により幅の広いトレンチに埋め込みを行った場合にも、ディンプルが生じず、はがれやにごりなどなく、均質で、平坦な表面を有する硬化膜を形成することができる硬化性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決する本発明は下記(1)〜(7)である。
(1)下記(A)成分〜(C)成分を含有することを特徴とする硬化性組成物。
(A)成分:脱離基を有するエポキシ基含有ポリシロキサンであり、該ポリシロキサン中に含まれる全Si原子の数を100mol%とするとき、前記脱離基の含有割合が35mol%以下であるエポキシ基含有ポリシロキサン。
(B)成分:シリコーン系界面活性剤。
(C)成分:溶剤。
【0011】
(2)前記(A)成分が、少なくとも下記化合物(a1)および下記化合物(a2)を縮合反応させて得られるポリシロキサンである前記(1)に記載の硬化性組成物。
化合物(a1):一般式R13SiR2で表わされる化合物(R1はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を示す。R2はアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基または−OSiR103で示す基を示す(R10はそれぞれ独立にアルケニル基を有する基、1〜20の炭化水素基を示す。)。)
化合物(a2):一般式REaSiR34-aで表わされる化合物(REはエポキシ基を有する基を示す。R3はそれぞれ独立にアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基または−OSiR113で示す基を示す(R11はそれぞれ独立にアルケニル基を有する基、1〜20の炭化水素基を示す。)。aは1〜3の整数を示す。)
【0012】
(3) 前記(B)成分が、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤である前記(1)または(2)に記載の硬化性組成物。
(4)下記工程Aおよび工程Bを有することを特徴とするトレンチ埋め込み方法。
工程A:前記(1)〜(3)のいずれかに記載の硬化性組成物を、トレンチ構造を有する基板にスピンコート法にて塗布して塗布膜を形成する工程。
工程B:前記塗布膜を備えた基板を加熱する工程。
(5)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の硬化性組成物から得られることを特徴とする硬化膜。
(6)前記(5)に記載の硬化膜を有することを特徴とする半導体発光素子。
(7)前記硬化膜が、半導体層の側壁面に接して形成されている前記(6)に記載の半導体発光素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明の硬化性組成物を使用して塗布法によりトレンチに埋め込みを行うと、幅の広いトレンチであっても、ディンプルが生じず、平坦な表面を有する硬化膜を形成することができ、回路素子間の電気的分離を十分に実現することができる。
【0014】
また、本発明の硬化性組成物は金属膜等に対する濡れ性に優れるので、濡れ性が低い金属膜や窒化ガリウム(GaN)膜を有するLED等の基板に対しても塗布が容易であり、トレンチに埋め込みを効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例で使用したトレンチを複数有する直径4インチのウェハの模式図である。
【図2】図2は、実施例1で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件1)の断面の走査型光学顕微鏡写真である。
【図3】図3は、実施例1で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件2)の断面の走査型光学顕微鏡写真である。
【図4】図4は、実施例1で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件3)の断面の走査型光学顕微鏡写真である。
【図5】図5は、実施例1で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件4)の断面の走査型光学顕微鏡写真である。
【図6】図6は、実施例2で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件2)の断面の走査型光学顕微鏡写真である。
【図7】図7は、比較例1で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件2)の断面の走査型光学顕微鏡写真である。
【図8】図8は、トレンチを有する基板に硬化性組成物を塗布法にて塗布して、基板上に塗布膜が形成された状態を模式的に示す断面図である。
【図9】図9は、従来のポリシロキサン系の硬化性組成物を用いて、トレンチを有する基板上に硬化膜を形成した状態を模式的に示す断面図である。
【図10】図10は、本発明の硬化性組成物を用いて、トレンチを有する基板上に硬化膜を形成した状態を模式的に示す断面図である。
【図11】図11は、トレンチを有する基板上に硬化膜を形成してなる半導体素子の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<硬化性組成物>
本発明の硬化性組成物は、(1)下記(A)成分〜(C)成分を含有することを特徴とする。
下記(A)成分〜(C)成分を含有することを特徴とする硬化性組成物。
(A)成分:脱離基を有するエポキシ基含有ポリシロキサンであり、該ポリシロキサン中に含まれる全Si原子の数を100mol%とするとき、前記脱離基の含有割合が35mol%以下であるエポキシ基含有ポリシロキサン。
(B)成分:シリコーン系界面活性剤。
(C)成分:溶剤。
【0017】
(A)成分
(A)成分は、脱離基を有するエポキシ基含有ポリシロキサンである。
「脱離基」とは、当該エポキシ基含有ポリシロキサンが縮合反応をするとき脱離する原子団または原子を意味し、具体的にはアルコキシ基、ハロゲン原子および水酸基等である。たとえば、脱離基がアルコキシ基である場合、前記縮合反応により脱離基であるアルコキシ基はアルコール分子となって脱離する。
【0018】
前記脱離基の含有割合は、前記ポリシロキサン中に含まれる全Si原子の数を100mol%とするとき、35mol%以下であり、好ましくは1〜35mol%であり、より好ましくは1〜30mol%であり、さらに好ましくは5〜30mol%である。脱離基の含有割合が35mol%以下であると、幅の広いトレンチに埋め込みを行っても、ディンプルのない、表面が平坦な硬化膜を形成できる硬化性組成物が得られる。脱離基の含有割合が35mol%を超えると、当該(A)成分を含む硬化性組成物を用いて幅の広いトレンチに埋め込みを行った場合、ディンプルが生じやすく、表面が平坦な硬化膜が得られにくい。
【0019】
(A)成分が有するエポキシ基の含有割合は、前記ポリシロキサン中に含まれる全Si原子の数を100mol%とするとき、好ましくは10〜60mol%であり、より好ましくは20〜55mol%である。エポキシ基含有割合が前記範囲内であると、エポキシ基の重合により(A)成分は十分に硬化し、強度の高い硬化膜を形成することができる。
【0020】
(A)成分が有するエポキシ基の種類は、後述の化合物(a2)が有するエポキシ基と同様である。
(A)成分は、少なくとも下記化合物(a1)および下記化合物(a2)を縮合反応させて得られるポリシロキサンであることが好ましい。
【0021】
化合物(a1):一般式R13SiR2で表わされる化合物(R1はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を示す。R2はアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基または−OSiR103で示す基を示す(R10はそれぞれ独立にアルケニル基を有する基または1〜20の炭化水素基を示す。)。)
【0022】
化合物(a2):一般式REaSiR34-aで表わされる化合物(REはエポキシ基を有する基を示す。R3はそれぞれ独立にアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基または−OSiR113で示す基を示す(R11はそれぞれ独立にアルケニル基を有する基または1〜20の炭化水素基を示す。)。aは1〜3の整数を示す。)
【0023】
化合物(a1)において、R1が表わす炭素数1〜20の炭化水素基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基等が挙げられる。R1としては、メチル基およびエチル基が好ましい。
【0024】
R2が表わすアルコキシ基としては、たとえば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基、n−ヘキソキシ基、シクロペントキシ基およびシクロヘキソキシ基等が挙げられる。R2としては、メトキシ基およびエトキシ基が好ましい。
【0025】
R10が表わすアルケニル基を有する基としては、たとえば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基およびシクロヘキセニル基等を有する基が挙げられる。これらの中でも、ビニル基、アリル基およびヘキセニル基を有する基が好ましい。
【0026】
R10が表わす1〜20の炭化水素基としては、前記R1が表わす炭素数1〜20の炭化水素基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
化合物(a2)において、R3が表わすアルコキシ基としては、R2が表わすアルコキシ基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
【0027】
R11が表わすアルケニル基を有する基としては、R10が表わすアルケニル基を有する基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
R11が表わす1〜20の炭化水素基としては、前記R1が表わす炭素数1〜20の炭化水素基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
【0028】
REが表わすエポキシ基を有する基としては、たとえば、グリシドキシ基、3−グリシドキシプロピル基等のグリシドキシアルキル基、並びに3,4−エポキシシクロペンチル基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、2−(3,4−エポキシシクロペンチル)エチル基、および2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基等のエポキシシクロアルキル基等が挙げられる。前記エポキシ基を有する基としては、具体的には、下記一般式(1)〜(4)で表される基が挙げられる。化合物(a2)がこのような基を有すると、硬化膜のmmオーダーでの厚膜成形が可能になる。
【0029】
【化1】
〔一般式(1)中R13はメチレン基または2価の炭素数2〜10の直鎖状アルキレン基または炭素数3〜10の分岐鎖状アルキレン基を示す。〕
【0030】
【化2】
〔一般式(2)中R14はメチレン基または2価の炭素数2〜10の直鎖状アルキレン基または炭素数3〜10の分岐鎖状アルキレン基を示す。〕
【0031】
【化3】
一般式(3)中R15はメチレン基または2価の炭素数2〜10の直鎖状アルキレン基または炭素数3〜10の分岐鎖状アルキレン基を示す。〕
【0032】
【化4】
〔一般式(4)中R16はメチレン基または2価の炭素数2〜10の直鎖状アルキレン基または炭素数3〜10の分岐鎖状アルキレン基を示す。〕
【0033】
一般式(1)で表される基としては、具体的には、2−(3、4―エポキシシクロヘキシル)エチル基等が挙げられる。
一般式(2)で表される基としては、具体的には、グリシジル基等が挙げられる。
一般式(3)で表される基としては、具体的には、3−グリシドキシプロピル基等が挙げられる。
【0034】
一般式(4)で表される基としては、具体的には、2−(4−メチル−3、4−エポキシシクロへキシル)エチル基等が挙げられる。
aとしては、1が好ましい。
【0035】
(A)成分を合成するときに使用される化合物(a2)の配合比率は、化合物(a1)および化合物(a2)の配合量の合計を100質量%とした場合好ましくは5〜50質量%であり、より好ましくは10〜40質量%であり、さらに好ましくは15〜35質量%である。化合物(a1)の配合比率が前記範囲内であると、幅の広いトレンチに埋め込みを行っても、ディンプルのない、表面が平坦な硬化膜を形成できる硬化性組成物が得られやすい。
【0036】
化合物(a1)および化合物(a2)を縮合反応させて得られる(A)成分においては、R2およびR3が脱離基である。
さらに(A)成分は、化合物(a1)および化合物(a2)に加えて下記化合物(a3)を縮合反応させて得られるポリシロキサンであることが好ましい。
【0037】
化合物(a3):一般式R4bSiR54-bで表わされる化合物(R4は炭素数1〜20炭化水素基を示す。R5はそれぞれ独立にアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基または−OSiR123で示す基を示す(R12はそれぞれ独立にアルケニル基を有する基または1〜20の炭化水素基を示す。)。bは0〜2の整数を示す。)
化合物(a3)において、R4が表わす1〜20の炭化水素基としては、前記R1が表わす炭素数1〜20の炭化水素基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
【0038】
R5が表わすアルコキシ基としては、R2が表わすアルコキシ基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
R12が表わすアルケニル基を有する基としては、R10が表わすアルケニル基を有する基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
【0039】
R12が表わす1〜20の炭化水素基としては、前記R1が表わす炭素数1〜20の炭化水素基で挙げた基と同様の基を挙げることができる。
(A)成分を合成するときに使用される化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)の配合比率は、化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)の配合量の合計を100質量%とした場合、それぞれ好ましくは10〜50質量%、1〜80質量%および0〜70質量%であり、より好ましくは10〜40質量%、2〜80質量%および0〜50質量%であり、さらに好ましくは20〜30質量%、4〜70質量%および0〜30質量%である。化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)の配合比率が前記範囲内であると、幅の広いトレンチに埋め込みを行っても、ディンプルのない、表面が平坦な硬化膜を形成できる硬化性組成物が得られやすい。
【0040】
化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)を縮合反応させて得られる(A)成分においては、R2、R3およびR5が脱離基である。
(A)成分を合成するときには、上記条件が満たされる限り、化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)以外の化合物を反応させてもかまわない。このような化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)以外の化合物としては、たとえば、テトラブトキシチタンなどの金属アルコキシド等を挙げることができる。
【0041】
化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)等を反応させて(A)成分を合成する方法としては、特開平6−9659号公報、特開2007−106798号公報、特開2007−169427号公報および特開2010−059359号公報等に記載された公知の方法、たとえば、化合物(a1)、化合物(a2)および化合物(a3)等を、酸性化合物、塩基性化合物およびチタンアルコキサイドなどの反応性金属触媒の存在下、必要に応じて水を用いて加水分解縮合する方法が挙げられる。
【0042】
(A)成分は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が100〜10000の範囲にあることが好ましく、500〜5000の範囲にあることがより好ましい。(A)成分の重量平均分子量が前記範囲内にあると、本硬化性組成物を用いてトレンチ埋め込みを行う際に取扱いやすく、また本硬化性組成物から得られる硬化膜はトレンチ埋め込み材料として十分な強度および特性を有する。
【0043】
(B)成分
(B)成分はシリコーン系界面活性剤である。本発明の硬化性組成物はシリコーン系界面活性剤である(B)成分を含有していることにより、金属膜等に対する濡れ性に優れ、金属膜等を有する基板に対しても塗布が容易であり、トレンチに埋め込みを効率的に行うことができる。これは、シリコーン系界面活性剤はポリシロキサンである(A)成分と同様のシロキサン骨格を有しているため、シリコーン系界面活性剤以外の界面活性剤に比較して、(A)成分との親和性が高いことに起因するものと考えられる。なお、シリコーン系界面活性剤とは、親油性部位として、[R2SiO2/2](Rは、それぞれ独立にアルキル基またはアリール基を示す)で示すシリコーン構造を有する化合物を示す。
【0044】
(B)成分は、親水性部位として、下記式(5)に示す構造単位(B1)を有することが好ましい。(B)成分が構造単位(B1)を有すると、より、平坦性に優れた硬化性組成物となる。
【0045】
【化5】
(式(5)中、R6は炭素数1〜10のアルキル基を示す。R7はメチレン基または炭素数2〜10のアルキレン基を示す。R8はメチレン基または炭素数2〜10のアルキレン基を示す。R9は炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
式(5)中のR6が表わす炭素数1〜10のアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基およびn−ヘキシル基等が挙げられる。R6としては、メチル基およびエチル基が好ましい。
【0046】
式(5)中のR7が表わす炭素数2〜10のアルキレン基としては、たとえば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、アミレン基およびヘキシレン基等が挙げられる。R7としては、メチレン基およびエチレン基が好ましい。
【0047】
式(5)中のR8が表わす炭素数2〜10のアルキレン基としては、たとえば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、アミレン基およびヘキシレン基等が挙げられる。R8としては、メチレン基およびエチレン基が好ましい。
【0048】
式(5)中のR9が表わす炭素数1〜10のアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基およびn−ヘキシル基等が挙げられる。R6としては、メチル基およびエチル基が好ましい。
【0049】
(B)成分であるシリコーン系界面活性剤としては、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、ヒドロキシル変性シリコーンおよびリン酸変性シリコーン等を挙げることができる。これらの中でも、平坦性の点からポリエーテル変性シリコーンが特に好ましい。ポリエーテル変性シリコーンとしては、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、KF−6011〜KF−6019、KF−6026、KF−6028、KF−6038、KSG−210、KSG−310、KSG−320、KSG−330、KSG−340、KF−6100、KF−6104、KSG−710、KSG−810、KSG−820、KSG−830、KSG−840、KF−6105(商品名、信越化学工業(株)製)、BY22−008M、5200Formulation Aid、5330 Fluid、SH−28PA、SH3771M、SH3772M、SH3773M、SH3775M、9011シリコーンエラストマーブレンド(商品名、東レ・ダウコーニング(株)製)、DC−57、DC−190(商品名、ダウコーニング社製)、ポリフローKL−270(商品名、共栄社化学(株)製)CAS登録番号68037−64−9、CAS登録番号39362−51−1等を挙げることができる。アミノ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、ヒドロキシル変性シリコーンおよびリン酸変性シリコーンとしては、特開2007−291302号公報や特開2011−1419号公報に記載のシリコーン系界面活性剤を挙げることができる。
【0050】
本発明の硬化性組成物における(B)成分の含有比率は、(A)成分100質量部に対し、好ましくは0.0001〜10質量部であり、より好ましくは0.001〜10質量部であり、さらに好ましくは0.01〜10質量部である。(B)成分の含有比率が前記範囲内であると、幅の広いトレンチに埋め込みを行っても、ディンプルのない硬化膜を形成でき、さらに、金属膜等を有する基板に対しても塗布が容易で、トレンチに埋め込みを効率的に行うことができる硬化性組成物が得られる。
【0051】
(C)成分
(C)成分は溶剤である。トレンチ埋め込みをスピンコート法などの塗布法により行う場合には、組成物の粘度や溶剤の蒸発速度を適切な範囲に調整する必要がある。(C)成分は、組成物の粘度を調整するために添加される成分である。
【0052】
(C)成分である溶剤としては、このような粘度や蒸発速度の調整が可能ならば特に制限はなく、たとえば、アルコール類、芳香族炭化水素類、エーテル類、ケトン類、エステル類などを挙げることができる。上記アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、i−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレンモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコールなどを挙げることができる。芳香族炭化水素類としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを挙げることができる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどを挙げることができる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどを挙げることができる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸プロピレン、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ノルマルプロピル、乳酸イソプロピル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチルなどを挙げることができる。これらの溶剤は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。これらの溶剤のうち、成分(A)を均一に溶解しやすい点、良好な膜を得られやすい点から、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル等が好ましい。
【0053】
本発明の硬化性組成物における(C)成分の含有比率は、本発明の硬化性組成物の粘度が、塗布法により本硬化性組成物を効率的に塗布できるような粘度になるように適宜調整される。通常は、(A)成分100質量部に対し、500〜5,000質量部であり、好ましくは500〜2,500質量部である。
【0054】
その他の成分
本発明の硬化性組成物は、本組成物の機能が阻害されない限り、前記(A)成分、(B)成分および(C)成分以外の成分を含有することができる。そのような成分としては、密着助剤、エポキシ樹脂用硬化剤、硬化促進剤、無機粒子、酸化防止剤および光安定剤等を挙げることができる。
【0055】
[密着助剤]
本発明の硬化性組成物には、密着助剤を、トレンチ埋め込み材と基板との密着性を向上させる目的で含有させることができる。
【0056】
密着助剤としては、特開2010−13619号公報に記載の化合物などを用いることができる。たとえば、次のような物質を挙げることができる。
分子中にエポキシ基を少なくとも2個含有する分子量100以上1500以下の有機化合物、たとえばエポキシシクロアルキル基等の脂環式エポキシ基含有化合物またはグリシドキシアルキル基を有する化合物の如きエポキシ基含有有機化合物;
下記式(6)で表されるエポキシ基含有アルコキシシランと、下記式(7)
【0057】
【化6】
〔式(6)中、REはエポキシ基を含有する有機基、R17およびR18はそれぞれ独立に非置換または置換の1価の炭化水素基を示し、mは1または2、nは2または3、かつm+n≦4である。〕
【0058】
【化7】
(式(7)中、R19およびR20はそれぞれ独立に非置換または置換の1価の炭化水素基を示し、pは0〜2の整数である。)
で表されるアルコキシシランとの加水分解縮合物や、シラノール基を含有しないエポキシ基含有ポリジメチルシロキサンの如き、ポリシロキサン(A)以外のエポキシ基含有ポリシロキサン; 1,4−ビス{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}ベンゼン(商品名「OXT−121」、東亜合成社製)、3−エチル−3−{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン(商品名「OXT−221」、東亜合成社製)、ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル−フェニル〕エーテル、ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル−フェニル〕プロパンの如きオキセタン化合物;
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランの如きチオール化合物;
イソシアヌル酸トリス(3−トリメトキシシリル−n−プロピル)、イソシアヌル酸トリス(2−ヒドロキシエチル)、イソシアヌル酸トリグリシジル、トリス-(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートの如きイソシアヌル環構造を有する化合物;
上述した式(18)で表されるアルコキシシランやその加水分解物、またはその縮合物の如きアルコキシシランやその加水分解物または縮合物;が挙げられる。
【0059】
密着助剤の使用量は、(A)成分100質量部に対して、通常0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。
【0060】
[エポキシ樹脂用硬化剤]
エポキシ樹脂用硬化剤は、(A)成分を硬化させる物質である。
【0061】
エポキシ樹脂用硬化剤としては、酸無水物、2級および3級アミン、金属キレート化合物等を挙げることができる。これら中で、着色なく、優れた耐熱性を有する封止材を得られる点で、特に酸無水物が好ましい。
【0062】
(酸無水物)
酸無水物としては、特に限定されないが、脂環式カルボン酸無水物などの脂環式酸無水物が好ましい。
【0063】
前記脂環式酸無水物としては、例えば、下記式(8)〜(18)で表される化合物
【0064】
【化8】
や、4−メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルナジック酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物のほか、α−テルピネン、アロオシメン等の共役二重結合を有する脂環式化合物と無水マレイン酸とのディールス・アルダー反応生成物やこれらの水素添加物等を挙げることができる。なお、前記ディールス・アルダー反応生成物やこれらの水素添加物としては、任意の構造異性体および任意の幾何異性体を使用することができる。
【0065】
また、シロキサン変性した酸無水物を使用することもできる。このような酸無水物は、例えば、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物等の一分子中に酸無水物と二重結合を含有する化合物とヒドリド基を含有するポリシロキサンとのヒドロシリレーションにより得られる。なお、前記ヒドロシリレーション反応生成物としては、任意の構造異性体および任意の幾何異性体を使用することができる。
また、前記脂環式酸無水物は、硬化反応を実質的に妨げない限り、適宜に化学的に変性させて使用することもできる。
【0066】
[硬化促進剤]
硬化促進剤は、(A)成分とエポキシ樹脂用硬化剤との硬化反応を促進する成分である。
【0067】
このような硬化促進剤としては、特開2010−13619号公報に記載の化合物などを用いることができる。例えば、
ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、シクロヘキシルジメチルアミン、トリエタノールアミンの如き3級アミン;UCAT410(サンアプロ株式会社)の如き特殊アミン;
2−メチルイミダゾール、2−n−ヘプチルイミダゾールの如きイミダゾール類;
ジフェニルフォスフィン、トリフェニルフォスフィン、亜リン酸トリフェニルの如き有機リン化合物;
ベンジルトリフェニルフォスフォニウムクロライド、テトラ−n−ブチルフォスフォニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスフォニウムテトラフルオロボレートの如き4級フォスフォニウム塩;
1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7やその有機酸塩の如きジアザビシクロアルケン;
オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫、アルミニウムアセチルアセトン錯体の如き有機金属化合物;
テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、UCAT18X(サンアプロ株式会社)の如き4級アンモニウム塩;
三フッ化ホウ素、ホウ酸トリフェニルの如きホウ素化合物;塩化亜鉛、塩化第二錫の如き金属ハロゲン化合物、
ジシアンジアミドやアミンとエポキシ樹脂との付加物等のアミン付加型促進剤等の高融点分散型潜在性硬化促進剤;
前記イミダゾール類、有機リン化合物や4級フォスフォニウム塩等の硬化促進剤の表面をポリマーで被覆したマイクロカプセル型潜在性硬化促進剤;
アミン塩型潜在性硬化剤促進剤;
ルイス酸塩、ブレンステッド酸塩等の高温解離型の熱カチオン重合型潜在性硬化促進剤等の潜在性硬化促進剤;
特開2008−192774号公報に記載の感放射線性酸発生剤;
等を挙げることができる。
【0068】
[無機粒子]
無機粒子としては、特開2010−13619号公報に記載のシリカ粒子等が挙げられる。本発明の硬化性組成物が無機粒子としてシリカ粒子を含有すると、硬化膜の強度および硬度の向上の点で好ましい。
【0069】
[酸化防止剤]
酸化防止剤は、埋め込み材の耐熱性向上の点から用いられる。酸化防止剤としては、特開2010−13619号公報に記載の化合物などを用いることができる。
【0070】
[光安定剤]
光安定剤は、埋め込み材の耐光性向上の点で用いられる。光安定剤としては、特開2010−13619号公報に記載の化合物などを用いることができる。
【0071】
硬化性組成物の調製方法
本発明の硬化性組成物は、(C)成分に(A)成分および(B)成分を添加し、さらに必要に応じてその他の成分を添加して、これらを混合することにより調製することができる。
【0072】
<トレンチ埋め込み方法>
本発明のトレンチ埋め込み方法は、下記工程Aおよび工程Bを有することを特徴とする。
工程A:前記硬化性組成物を、トレンチ構造を有する基板にスピンコート法にて塗布して塗布膜を形成する工程。
工程B:前記塗布膜を備えた基板を加熱する工程。
【0073】
工程A
工程Aでは、前記硬化性組成物を、トレンチ構造を有する基板上にスピンコート法にて塗布して,塗布膜を形成する。
【0074】
前記スピンコートにおける最高回転数は、基板のサイズにより適宜選択される。例えば、直径4インチのシリコンウェハの場合、通常、1500〜5000回転/分、好ましくは2000〜4000回転/分である。
【0075】
トレンチを良好に埋め込むには、組成物の粘度の調整などを行えばよい。組成物の粘度が高すぎると、基板の外周部でトレンチを良好に埋めることができないおそれや、トレンチ内に空隙を形成するおそれがある。一方、組成物の粘度が低すぎると、硬化膜にディンプルが形成されるおそれがある。
【0076】
本発明の硬化性組成物は、前述のとおり、平坦性に優れ、得られる硬化膜は密着性に優れる。このため、従来のトレンチ埋め込み様組成物ではスピンコート法による埋め込みが困難であった、金属膜や窒化ガリウム(GaN)膜によりトレンチ表面が形成されている基板に対しても、本発明の硬化性組成物は容易に塗布することができ、トレンチへの埋め込み性が高く、基板との間に隙間やボイドを生じさせることなく、複雑な構造を有するトレンチ内にも埋め込みを効率的に行うことができる。
【0077】
工程B
工程Bでは、工程Aで得られた塗布膜を備えた基板を加熱する。加熱温度は硬化性組成物中に含まれる、エポキシ基含有ポリシロキサン(A)に含まれるエポキシ基などの熱により架橋する基の含有量や種類、硬化剤や硬化促進剤を含む場合はこれらの成分の含有量により決まる硬化性組成物の硬化性により適宜決められる。本発明の硬化性組成物において、硬化剤や硬化促進剤など、エポキシ基含有ポリシロキサン(A)以外に硬化性に大きく寄与する成分が含まれない場合には、加熱温度は、通常、250℃以上、好ましくは250℃〜500℃、より好ましくは250〜400℃の温度範囲である。
【0078】
特に、加熱中に硬化性組成物による分解物を低減でき、加熱装置を汚染することを防止できることから、硬化性組成物中に、硬化剤や硬化促進剤などエポキシ基含有ポリシロキサン(A)以外に硬化性に大きく寄与する成分はできるだけ少ない方が好ましい。
【0079】
加熱時間は、塗布膜が十分に硬化できるように適宜決定され、通常30〜120分間である。
上記の加熱においては、段階的に加熱を行うことができる。たとえば50〜200℃で加熱して、その後上記のように250℃以上で加熱してもよい。このように段階的に加熱を行うと、硬化膜の強度が増し、回路素子間の電気的分離をより確実に行うことができる。
【0080】
加熱装置には特に制限はなく、たとえばホットプレートやオーブンなどを用いることができる。
上記トレンチ埋め込み方法により得られた硬化膜は、基板表面との間に隙間を生じさせることなく、またトレンチ内部に空洞を生じさせることなく形成される。さらに、トレンチ幅が広いトレンチに埋め込みを行った場合でも、ディンプルが生じにくいことから平坦性に優れた硬化膜を得ることができる。
【0081】
図8は、トレンチを有する基板に硬化性組成物をスピンコート法などの塗布法にて塗布して、基板上に塗布膜が形成された状態を模式的に示す断面図である。図8においては、基板1は、トレンチ幅が広いトレンチ2を有している。図8においてトレンチ2の左右方向が幅を表わす。基板1上には、硬化性組成物からなる塗布膜3が形成されている。硬化性組成物はトレンチ2内に充填されており、塗布膜3の上面は平坦である。使用される硬化性組成物が、本発明の硬化性組成物であっても、従来の硬化性組成物であっても、スピンコート法により図8に示したような塗布膜3を形成することは容易である。
【0082】
図9は、従来のポリシロキサン系の硬化性組成物を用いて図8に示すように形成された塗布膜を加熱して、トレンチを有する基板上に硬化膜を形成した状態を模式的に示す断面図である。図9においては、基板1の上に硬化膜4が形成されており、硬化膜4は、トレンチ2上方部にディンプル5を有している。
【0083】
塗布膜を加熱すると、組成物中の溶剤が蒸発し、溶剤の蒸気が塗布膜から大気中に放出される。さらに、ポリシロキサン分子間で、脱離基が水酸基やアルコキシ基の場合、脱アルコール反応等が起こり、塗布膜は硬化し、脱アルコール反応等により生じたアルコール分子等が塗布膜から大気中に放出される。
【0084】
従来のポリシロキサン系の硬化性組成物においては、ポリシロキサン分子がアルコキシ基等を多量に有しているので、加熱時の脱アルコール反応等によりアルコール分子等が多量に生成され、生成されたアルコール分子等が塗布膜から大気中に放出される。つまり、従来のポリシロキサン系の硬化性組成物においては、塗布膜の硬化時の歩留まりが悪い。このため、硬化膜の体積が大幅に収縮され、その結果、図2に示すようなディンプルが形成されると考えられる。
【0085】
図10は、本発明の硬化性組成物を用いて図8に示すように形成された塗布膜を加熱して、トレンチを有する基板上に硬化膜を形成した状態を模式的に示す断面図である。図10においては、基板1の上に硬化膜6が形成されており、硬化膜6は、トレンチ2上方部にディンプルを有していない。
【0086】
本発明の硬化性組成物においても、塗布膜を加熱すると、組成物中の溶剤が蒸発し、溶剤の蒸気が塗布膜から大気中に放出される。さらに、ポリシロキサン分子間で脱アルコール反応等およびエポキシ基の開環重合起こり、塗布膜は硬化する。脱アルコール反応等により生じたアルコール分子等が塗布膜から大気中に放出される。
【0087】
しかし、本発明の硬化性組成物においては、ポリシロキサンである(A)成分は、アルコキシ基等の脱離基の含有量が少ない。このため、加熱時の脱アルコール反応等により生成されるアルコール分子等の量が少なく、塗布膜から大気中に放出されるアルコール分子等の量も少ない。つまり、本発明の硬化性組成物においては、塗布膜の硬化時の歩留まりが良い。このため、硬化膜の体積収縮が小さく、その結果、本発明の硬化性組成物を使用した場合には、図9に示すようなディンプルが形成されないと考えられる。
【0088】
なお、本発明の硬化性組成物においては、脱アルコール反応等に寄与するアルコキシ基等は少ないが、開環重合に寄与するエポキシ基を含有するので、得られる硬化膜は十分に硬化し、十分な強度を有する。
また、上記のトレンチ幅が広いトレンチとは、概ね幅が1〜1,000μmであるトレンチをいう。
【0089】
<硬化膜>
本発明の硬化膜は硬化性組成物から得られる。本発明の硬化膜は、前記トレンチ埋め込み方法により形成することができるが、その形成方法には制限はない。
【0090】
本発明の硬化膜は、トレンチを有する基板上に設けられることにより、回路素子間の電気的分離を確実に実現できる。本発明の硬化膜は、半導体発光素子などに好適に用いられる。
【0091】
<半導体発光素子>
トレンチが形成された基板に硬化性組成物を塗布して塗膜を形成する場合には、トレンチが形成されていない平坦な基板に硬化性組成物の塗膜を塗布する場合よりも、硬化性組成物と基板との濡れ性(親和性)を高くする必要がある。特に、LEDの場合には、金属膜や窒化ガリウム(GaN)膜を有する基板が使用される。このような基板は、半導体トランジスタ(フィールドエミッションタイプのトランジスタ)などに使用される基板に比較して濡れ性が低い。このため、LED基板の埋め込みに使用される絶縁材料は、半導体トランジスタなどの埋め込みに通常使用される絶縁材料であるTEOSなどに比べて、より濡れ性が高いことが要求される。
【0092】
本発明の半導体発光素子は、上記の硬化性組成物から形成された硬化膜を有することを特徴とする。硬化膜は、半導体発光素子基板上に形成され、基板の設けられたトレンチはこの硬化膜の一部によって埋め込まれている。
【0093】
半導体発光素子の電極の構成や形状としては、例えば、上部電極と下部電極が対向するような通常型、および、上部電極と下部電極が同じ向きにあるトレンチ型などが挙げられる。また、半導体発光素子の半導体層の構成や形状としては、例えば、ダブルへテロ接合型および量子井戸接合型などが挙げられる。
【0094】
半導体発光素子の構成や形状の具体的例としては、例えば、特開2009−170655号公報、特開2007−173530号公報、特開2007−157778号公報、特開2005−294870号公報、特開2004−296979号公報、特開2004−047662号公報、特開2003−243703号公報、特開2003−86841号公報、特開2002−329885号公報、特開2002−064221号公報、特開2001−274456号公報、特開2001−196629号公報、特開2001−177147号公報、特開2001−068786号公報、特開2000−261029号公報、特開2000−124502号公報、特開平10−294531号公報、特開平09−312442号公報および特開平09−237916号公報に記載の構成や形状が挙げられる。
【0095】
図11に、トレンチを有する基板上に硬化膜を形成してなる半導体素子の一具体例の断面模式図を示す。図11(a)は、基板11の断面図を示す。基板11は、SiCなどからなる基板部12と、その上部に一定間隔ごとに設けられた複数の半導体層13とを有している。隣り合う2つの半導体層13の間にトレンチ14が形成される。各半導体層13の上面に上部電極15が設けられている。各トレンチ14の、基板部12上に下部電極16が設けられている。図11(b)は、基板11上に本発明の硬化性組成物で形成された硬化膜17を形成してなる半導体素子18の断面図である。図11(c)は、半導体素子18を、半導体層13の図面左側面に沿ってダイシングして得られるチップ19の断面図である。図11(b)および(c)においては、硬化膜17が半導体層13の側壁面20に接している。
【0096】
このように、硬化膜が半導体層の側壁面に接して形成されていると、硬化膜を半導体層の保護膜としても用いることが可能であることから好ましい。
【実施例】
【0097】
1.ポリシロキサンの合成
1−1.重量平均分子量(Mw)
重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により下記条件で測定し、ポリスチレン換算値として求めた。
【0098】
装置:HLC−8120C(東ソー社製)
カラム:TSK−gel MultiporeHXL−M(東ソー社製)
溶離液:THF、流量0.5mL/min、負荷量5.0%、100μL
【0099】
1−2.脱離基およびエポキシ基の含有割合
29Si NMRおよび/または13C NMRにてポリシロキサン中に含まれる脱離基の含有割合を算出した。
【0100】
1−2.ポリシロキサンの合成
[合成例1]ポリシロキサン(A1)の合成
反応容器に、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(a2−1)5部、フェニルトリメトキシシラン(a3−1)60部、メチルトリメトキシシラン(a3−3)を10部、ジアザビシクロウンデセン5部および水50部を含む混合溶液を入れ、25℃で3時間加熱した。
【0101】
加熱後の混合液に、6質量%シュウ酸水溶液を190部加え、さらに、イソプロピルアルコールを加えて、水層および有機層からなる2層液を得た。前記2層液の有機層を取り出し、この有機層を水で3回洗浄した。洗浄後の有機層に、エトキシトリメチルシラン(a1−1)25部およびジアザビシクロウンデセン5部を含む混合溶液を加えて、50℃で2時間加熱した。その後、プロピレングリコールモノメチルエーテルを400部加え、減圧蒸留し、ポリシロキサン(A1)を含むプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液を得た。このポリシロキサン(A1)の重量平均分子量Mwは1800であった。
【0102】
[合成例2〜4]ポリシロキサン(A2)〜(A4)の合成
下記表1に示す化合物を、表1に示す割合で用いた以外は、合成例1と同様の手法にて、ポリシロキサン(A2)〜(A4)を得た。なお、表中の化合物の詳細は以下の通りである。
【0103】
【表1】
a1−1:エトキシトリメチルシシラン。
a2−1:2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン。
a3−1:フェニルトリメトキシシラン。
a3−2:テトラエトキシシラン。
a3−3:メチルトリメトキシシラン。
【0104】
[合成例5]ポリシロキサン(AR1)の合成
反応容器に、シュウ酸0.05部、メチルトリメトキシシラン20部、テトラエトキシシラン7部、フェニルトリメトキシシラン29部および1−メトキシ−2−プロパノール25部を入れ、攪拌した後、得られた溶液の温度を60℃に加熱した。次いで、蒸留水18部を滴下し、滴下終了後、溶液を100℃にて3時間攪拌した。この反応液を室温まで戻してポリシロキサン(AR1)の溶液を得た。
【0105】
2.硬化性組成物の調製
[実施例1〜7、比較例1および2]
下記表2に示す成分を、表2に示す含有量となるよう混合し、実施例1〜7、比較例1および2の硬化性組成物を調製した。各成分の詳細は以下の通りである。
【0106】
【表2】
B1:シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名「SH−28PA」)
B2:シリコーン系界面活性剤(共栄社化学(株)製、商品名「ポリフローKL−270」)
BR1:フッ素系界面活性剤((株)ネオス製、商品名「FTX−218」)
C1:プロピレングリコールモノメチルエーテル
D1:トリス-(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート(商品名「Y−11597」、モメンティブ社製)
【0107】
3.評価
3−1.硬化膜の形成
表面が金スパッタ膜で覆われた、図1に示す大きさのトレンチパターンを複数有する、直径4インチのシリコンウェハ(以下、「トレンチウェハ」ともいう)上に、硬化性組成物4mlを滴下し、スピンコート法(スピンコート法のシーケンスは下記条件1〜4)にて塗膜を形成した。スピンコート後のトレンチウェハをホットプレート上で、110℃で3分間加熱後、300℃で1時間加熱し、硬化膜を形成した。
【0108】
条件1:トレンチウェハ回転数を300rpm/分で10秒間、次いでトレンチウェハ回転数を2000rpm/分で30秒間回転。
条件2:トレンチウェハ回転数を300rpm/分で10秒間、次いでトレンチウェハ回転数を3000rpm/分で30秒間回転。
【0109】
条件3:トレンチウェハ回転数を300rpm/分で10秒間、次いでトレンチウェハ回転数を4000rpm/分で30秒間回転。
条件4:トレンチウェハ回転数を300rpm/分で10秒間、次いでトレンチウェハ回転数を5000rpm/分で30秒間回転。
【0110】
3−2.平坦性
「3−1.硬化膜の形成」で得られた硬化膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、以下の基準にて平坦性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0111】
A:硬化膜の、ライン上に形成された部分の最大膜厚とラインの高さとの合計と、トレンチ上に形成された部分の最小膜厚との差が、0.15μm以下の場合。
B:硬化膜の、ライン上に形成された部分の最大膜厚とラインの高さとの合計と、トレンチ上に形成された部分の最小膜厚との差が、0.15μmより大きい場合。
【0112】
また、実施例1で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件1〜4)、実施例2で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件2)および比較例1で得られた硬化性組成物から形成された硬化膜(スピンコート法条件2)の断面の光学顕微鏡写真をそれぞれ図2〜7に示す。
【0113】
図2〜7において、段差により一段低くなっている部分がトレンチである。実施例である図2〜6においては、トレンチに硬化膜がきれいに埋め込まれていることがわかる。図2〜6においては、硬化膜の、トレンチ上方の部分においてディンプルがほとんど現れていない。比較例である図7においては、トレンチに硬化膜がきれいに埋め込まれていないことがわかる。
【0114】
3−3.密着性
「3−1.硬化膜の形成」で得られた硬化膜を走査型光学顕微鏡で観察し、以下の基準にて密着性を評価した。評価結果を表3に示す。
A:均一な膜が形成されており、膜の剥がれなどが観察される場合。
B:均一な膜が形成されておらず、膜の剥がれなどが観察される場合。
【0115】
3−4.耐溶剤性
「3−1.硬化膜の形成」で得られた硬化膜の、ライン上に形成された部分の最大膜厚を走査型電子顕微鏡で測定した。この硬化膜をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに5分間浸漬し、硬化膜の、ライン上に形成された部分の最大膜厚を走査型電子顕微鏡で測定した。下記基準にて耐溶剤性を評価した。評価結果を表3に示す。
A:浸漬後の最大膜厚が、浸漬前の最大膜厚の90%以上の場合。
B:浸漬後の最大膜厚が、浸漬前の最大膜厚の90%未満の場合。
【0116】
3−5.透明性
トレンチのない、平坦な石英基板上に、硬化性組成物2mlを滴下し、スピンコート法(スピンコート法のシーケンスは上記条件1〜4と同様である。)にて塗膜を形成した。スピンコート後の石英基板をホットプレート上で、110℃で3分間加熱後、300℃で1時間加熱し、硬化膜(2μm)を形成した。この硬化膜の波長400〜700nmの分光透過率を紫外可視分光光度計により測定した。以下の基準にて透明性を評価した。評価結果を表3に示す。
A:光透過率が90%T以上の場合。
B:光透過率が90%T未満の場合。
【0117】
【表3】
【符号の説明】
【0118】
1 基板
2 トレンチ
3 塗布膜
4 硬化膜
5 ディンプル
6 硬化膜
11 基板
12 基板部
13 半導体層
14 トレンチ
15 上部電極
16 下部電極
17 硬化膜
18 半導体素子
19 チップ
20 側壁面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分〜(C)成分を含有することを特徴とする硬化性組成物。
(A)成分:脱離基を有するエポキシ基含有ポリシロキサンであり、該ポリシロキサン中に含まれる全Si原子の数を100mol%とするとき、前記脱離基の含有割合が35mol%以下であるエポキシ基含有ポリシロキサン。
(B)成分:シリコーン系界面活性剤。
(C)成分:溶剤。
【請求項2】
前記(A)成分が、少なくとも下記化合物(a1)および下記化合物(a2)を縮合反応させて得られるポリシロキサンである請求項1に記載の硬化性組成物。
化合物(a1):一般式R13SiR2で表わされる化合物(R1はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を示す。R2はアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基または−OSiR103で示す基を示す(R10はそれぞれ独立にアルケニル基を有する基、1〜20の炭化水素基を示す。)。)
化合物(a2):一般式REaSiR34-aで表わされる化合物(REはエポキシ基を有する基を示す。R3はそれぞれ独立にアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基または−OSiR113で示す基を示す(R11はそれぞれ独立にアルケニル基を有する基、1〜20の炭化水素基を示す。)。aは1〜3の整数を示す。)
【請求項3】
前記(B)成分が、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤である請求項1または請求項2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
下記工程Aおよび工程Bを有することを特徴とするトレンチ埋め込み方法。
工程A:請求項1〜請求項3のいずれかに記載の硬化性組成物を、トレンチ構造を有する基板にスピンコート法にて塗布して塗布膜を形成する工程。
工程B:前記塗布膜を備えた基板を加熱する工程。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の硬化性組成物から得られることを特徴とする硬化膜。
【請求項6】
請求項5に記載の硬化膜を有することを特徴とする半導体発光素子。
【請求項7】
前記硬化膜が、半導体層の側壁面に接して形成されている請求項6に記載の半導体発光素子。
【請求項1】
下記(A)成分〜(C)成分を含有することを特徴とする硬化性組成物。
(A)成分:脱離基を有するエポキシ基含有ポリシロキサンであり、該ポリシロキサン中に含まれる全Si原子の数を100mol%とするとき、前記脱離基の含有割合が35mol%以下であるエポキシ基含有ポリシロキサン。
(B)成分:シリコーン系界面活性剤。
(C)成分:溶剤。
【請求項2】
前記(A)成分が、少なくとも下記化合物(a1)および下記化合物(a2)を縮合反応させて得られるポリシロキサンである請求項1に記載の硬化性組成物。
化合物(a1):一般式R13SiR2で表わされる化合物(R1はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を示す。R2はアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基または−OSiR103で示す基を示す(R10はそれぞれ独立にアルケニル基を有する基、1〜20の炭化水素基を示す。)。)
化合物(a2):一般式REaSiR34-aで表わされる化合物(REはエポキシ基を有する基を示す。R3はそれぞれ独立にアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基または−OSiR113で示す基を示す(R11はそれぞれ独立にアルケニル基を有する基、1〜20の炭化水素基を示す。)。aは1〜3の整数を示す。)
【請求項3】
前記(B)成分が、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤である請求項1または請求項2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
下記工程Aおよび工程Bを有することを特徴とするトレンチ埋め込み方法。
工程A:請求項1〜請求項3のいずれかに記載の硬化性組成物を、トレンチ構造を有する基板にスピンコート法にて塗布して塗布膜を形成する工程。
工程B:前記塗布膜を備えた基板を加熱する工程。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の硬化性組成物から得られることを特徴とする硬化膜。
【請求項6】
請求項5に記載の硬化膜を有することを特徴とする半導体発光素子。
【請求項7】
前記硬化膜が、半導体層の側壁面に接して形成されている請求項6に記載の半導体発光素子。
【図1】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2012−193232(P2012−193232A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56340(P2011−56340)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】
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