説明

磁気トンネル接合装置およびその装置に対する書込み/読出し方法

本発明の装置は、第1の電極(12)と、磁性基準層(1)と、トンネルバリア(3)と、磁性記憶層(4)と、第2の電極(13)とを連続的に備えている。記憶層(4)と第2の電極(13)との間には少なくとも1つの第1の断熱層が配置され、この第1の断熱層は、その熱伝導率が5W/m/℃未満である材料から形成されている。第1の電極(12)と基準層(1)との間に配置された層によって第2の断熱層を構成することができる。書込み段階は、記憶層(4)のトンネル接合部を通じて基準層(1)へと向かう電流(l1)の循環を含んでおり、一方、読出し段階は逆方向の電流循環を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
−第1の電極と、
−基準層を形成し且つ所定の磁化を有する第1の磁性層と、トンネルバリアを形成する電気絶縁層と、記憶層を形成し且つ可逆性のある磁化方向を有する第2の磁性層とを連続的に備える磁気トンネル接合部と、
−中間層と、
−第2の電極と、
を連続的に備える磁気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
文献仏国特許第2832542号は、磁気トンネル接合部を有する磁気装置と、この磁気装置を使用して読出しおよび書込みを行なうための方法とについて記載している。図1に示されるように、トンネル接合部は、基準層1を形成し且つ所定の磁化2を有する第1の磁性層と、トンネルバリア3を形成する電気的絶縁層と、記憶層4を形成し且つ図1に2方向矢印で示される可逆磁化方向5を有する第2の磁性層とを連続して備えている。記憶層4の可逆磁化方向5は、基準層1の所定の磁化2に対して方向付けることができ、それによりそれらの磁化同士が平行または逆平行となるようにすることができる。
【0003】
記憶層4の磁化のブロッキング温度は、基準層1のブロッキング温度よりも低い。また、本装置は、電流源6と、スイッチ7と、記憶層に対して磁場を印加することにより基準層1の磁化2の向きを変えることなく記憶層4の磁化5を基準層1の磁化2に対して方向付ける手段(図示せず)とを備えている。
【0004】
書込み段階において、すなわち、外部磁場の印加による記憶層4の磁化段階においては、トンネル接合部を通じて電流Iが流され、それにより、記憶層4がその磁化5のブロッキング温度よりも高い温度に加熱される。
【0005】
読出し段階においては、基準層1の磁化方向に対する記憶層4の磁化5の方向が磁気トンネル接合部の抵抗によって測定される。この磁気トンネル接合部の抵抗は、基準層1の磁化方向に対する記憶層4の磁化5の方向に依存する。
【0006】
書込み中においては、約0.5Vの電圧が接合部の端子に印加される。これには比較的高い電力が必要とされる。また、この電力によって接合部がさらに損傷する可能性がある。読出しにおいて印加される電圧は一般に0.3Vである。その後、トンネル接合部が読出し中に加熱され、これにより、予定外の読出しを行なう危険性が高まる。
【0007】
図2は、電位差Vを受けるトンネル接合部における電子のポテンシャルエネルギ8を示している。接合部は、X0に配置されるトンネルバリアの各側に配置され且つそれぞれが上側フェルミレベルEfsおよび下側フェルミレベルEfiを有する電子放出層および電子受入層によって形成されている。フェルミレベルの差は電位差、すなわち、Efs−Efi=eVに比例している。ここで、eは電子の素電荷である。矢印9で示されるように、電子放出層によって放出される電子は、エネルギを損失することなく、トンネル効果によりトンネルバリアを通過する。その後、高いエネルギEfsから低いエネルギEfiへの電子の非弾性緩和が起こると、電子は、例えばフォノン10および/またはマグノン11の生成により電子受入層中にエネルギeVを損失し、これにより電子受入層の温度が高くなる。非弾性緩和は、特徴的な長さである平均非弾性自由行程長λinにわたって起こる。この長さは、一般に、磁気トンネル接合部で通常使用される磁性材料においては約数ナノメートルである。したがって、数ナノメートルの厚さを有し、トンネルバリアに隣接して電子受入層中に位置される領域では、トンネル電流による熱生成が最大となる。
【0008】
また、文献仏国特許第2832542号に記載されるトンネル接合部は、トンネル接合部の基準層のトンネルバリアと対向する面に配置される例えばNiMnから成る反強磁性層を備えることもできる。さらに、トンネル接合部の記憶層のトンネルバリアと対向する面には、例えばFeMnまたはIr20Mn80から成る反強磁性層を配置することもできる。反強磁性層は、記憶層および基準層の帯磁方向を保持する機能を果たす。トンネル接合部を形成する層を反強磁性層上に堆積させ、かつ、接合部のナノ構造化を行うためには、更なるステップ、例えばアライメントステップが必要となるであろう。さらに、トンネルバリア短絡の危険性が高まる。
【0009】
文献国際公開第00/79540号は、薄い層の積層により形成される磁気メモリについて記載している。この文献は、特に十分な導電率を有するがアルミニウムに対して低い熱伝導率を有する断熱層を用いてメモリセルを断熱して、キュリー温度で電気加熱電流の低減を達成可能としてメモリセルを断熱することを提案している。断熱層の材料は、例えば、タンタルと窒素との化合物(TaN)またはタングステン(W)である。
【0010】
しかしながら、そのような断熱層を導入すると、トンネル接合部との一体性の問題、すなわち、表面ラフネスの増大や、メモリドットを規定するために必要なエッチング時間の増大といった問題が更に生じてしまう。そのような断熱層は、更なる研磨ステップおよびエッチングステップを必要とするため、接合部の堆積・製造プロセスが複雑になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、これらの欠点を改善することであり、特に、記憶層を効率的に加熱することができる一方で、この加熱に必要な電力を最小限に抑える装置を実現し、それにより、装置の電力消費量を低減するとともに、トンネル接合部短絡の危険性を最小にし、同時に製造方法を簡略化することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明において、この目的は、添付の請求項によって達成され、特に、中間層が、5W/m/℃よりも低い熱伝導率を有する材料によって形成される第1の断熱層を構成するという事実により達成される。
【0013】
本発明の更なる目的は、本発明に係る磁気装置の読出し/書込み方法を提供することであり、
−書込み段階は、第2の磁性層からトンネル接合部を通して第1の磁性層へと至る電流の流れを含み、それにより、第2の磁性層の磁化のブロッキング温度よりも高い温度まで第2の磁性層が加熱され、
− 読出し段階は、第1の磁性層からトンネル接合部を通して第2の磁性層へと至る電流の流れを含んでいる。
【0014】
他の利点および特徴は、単なる非限定的な実施例として与えられ且つ添付図面に表わされる本発明の特定の実施形態の以下の説明から更に明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る磁気装置は第1および第2の電極を備えており、これらの電極間には図1に示されるようなトンネル接合部が設けられている。この場合、熱伝導率が低い材料によって形成された断熱層が、トンネル接合部の磁性層のうちの少なくとも1つと接触しており、これにより、書込み段階中にトンネル電流によって生成される熱が記憶層中に集中する。
【0016】
図3において、磁気装置は、X軸に沿って、第1の電極12と、図1に示されるようなトンネル接合部と、第1の断熱層と、第2の電極13とを連続的に備えている。第1の断熱層は、記憶層4と第2の電極13との間に配置された中間層14によって形成されている。電極12,13は、室温であり、書込み段階および読出し段階後にトンネル接合部を冷却することができる。
【0017】
本発明において、第1の断熱層を成す中間層14は、5W/m/℃未満の熱伝導率を有する材料によって形成されている。実際には、トンネル接合部を形成する層の中間層14上での堆積が簡素化すればするほど、中間層14の厚さは薄くなる。特に、薄い層14のラフネスは全体的に小さく、薄い層14上に堆積されるトンネル接合部の短絡の危険性が減少する。しかしながら、所定の熱抵抗において、中間層14は、その熱伝導率を低くするにつれて、厚さを薄くすることができる。
【0018】
この点で、従来例で使用される化合物は満足できるものではない。これは、特に、前述した文献国際公開第00/79540号で言及されたタングステン(W)の場合、または、タンタルと窒素との化合物(TaN)の場合であり、これらはそれぞれ約35W/m/℃および約173W/m/℃の熱伝導率を有している。また、これは、前述した文献仏国特許第2832542号で言及されたFeMnまたはIr20Mn80から成る反強磁性層の場合でもあり、これらはそれぞれ44W/m/℃および35.6W/m/℃の熱伝導率を有している。反強磁性層を断熱層として使用するには、厚いことが必要であり、トンネル接合部を形成する層の反強磁性層上への堆積および接合部のナノ構造化が更に難しくなる。
【0019】
また、5W/m/℃未満の熱伝導率を有する材料によっても、断熱層の低い熱キャパシタンス(熱容量)を得ることができ、これにより、非常に低い熱時定数を得ることができる。熱時定数は、断熱層の熱抵抗Rthと断熱層の熱キャパシタンスCthとの積(Rth・Cth)に対応している。熱時定数が小さくなればなるほど、書込み段階において温度勾配を素早く確立することができる。
【0020】
図4において、装置は、第1の断熱層に加えて、第1の電極12と基準層1との間に配置された層15によって形成される第2の断熱層を備えている。
【0021】
記憶層4は、磁性材料から成る単一の層または複数層によって形成され、その強制磁場は、20℃〜250℃の範囲の温度区間においては、温度が増加する際に急速に減少する。例えば、記憶層の材料は、記憶層4とトンネルバリア3との間の界面近傍でコバルトを多く含むテルビウム(Tb)とコバルト(Co)との合金であっても良く、これにより、トンネルバリア3を通過する電子の分極(偏向)を高めることができる。TbとCoとの合金は、室温に近いブロッキング温度を有している。また、記憶層4は、層の面に対して垂直な磁化を有する反復多層構造によって形成されていても良く、例えばそれぞれが0.5nmおよび2nmの厚さを有するコバルト(Co)および白金(Pt)の2つの層が交互に繰り返される多層構造によって形成されても良い。
【0022】
好ましくは、記憶層4は、強磁性層と反強磁性層とを積み重ねることにより形成され、例えば、FeMn等の鉄とマンガンとの化合物から成り、あるいは、イリジウムとマンガンとの化合物から成る。この場合、イリジウムとマンガンとの化合物は、例えば20%のIrと80%のMnとを含み、130℃〜250℃の範囲のブロッキング温度を有する。
【0023】
第1および/または第2の断熱層は、断熱層の電気抵抗がトンネルバリア3の電気抵抗よりも十分に低くなるように、好ましくは少なくとも10のファクタ(a factor ten)分だけ低くなるような導電率を有していることが好ましい。断熱層はトンネルバリア3と直列に接続されており、実際には、磁気抵抗信号が弱くなればなるほど、断熱層の電気抵抗が高くなる。
【0024】
第1および/または第2の断熱層の材料は、一方で、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)から選択される少なくとも1つの元素を含み、他方で、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)から選択される少なくとも1つの元素を含む少なくとも1つの合金を含んでいることが好ましい。したがって、断熱層の材料は、約1.5W/m/℃の非常に低い熱伝導率において約1.75mΩcmという比較的良好な導電率を示すビスマス(Bi)とテルル(Te)との合金、例えばBiTeまたはBiTeであっても良い。断熱層の材料における他の例は、タリウムとスズとテルルとの合金、例えばTlSnTe、タリウムとビスマスとテルルとの合金、例えばTlBiTe、ストロンチウム(Sr)とガリウムとゲルマニウムとの合金、例えばSrGa16Ge30、ストロンチウムとユウロピウム(Eu)とガリウムとゲルマニウムとの合金、例えばSrEuGa16Ge30である。なお、ビスマスとテルルとの合金は、しばしば非常に低い熱伝導率を示す熱電材料の一部を成す。
【0025】
また、断熱層の材料は、室温で結晶相とアモルファス相とで存在することができる相変化材料であっても良い。一般に、アモルファス状態は高い電気抵抗を示すが、結晶状態は低い電気抵抗を示す。第1および/または第2の断熱層において使用される相変化材料の場合、材料はその結晶状態でなければならない。相変化材料の熱伝導率は、一般に、アモルファス状態および結晶状態で5W/m/℃である。例えば、ゲルマニウム、アンチモン、テルルの合金であるGeSbTeおよびSbTeはそれぞれ、約0.3W/m/℃および約12W/m/℃の熱伝導率を有する。結晶状態の層を得るためには、一般に、熱処理を行なわなければならない。この熱処理は、トンネル接合部を形成する層の堆積前に行なわれることが有益である。
【0026】
また、第1および/または第2の断熱層の材料は、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)から選択される少なくとも1つの元素を含むとともに、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、亜鉛(Zn)から選択される少なくとも1つの元素を含む少なくとも1つの合金、例えば合金ZnSbおよびCoFeSb12を含んでいる材料であっても良い。更に、第1および/または第2の断熱層の材料は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、トリウム(Th)、ウラニウム(U)から選択される少なくとも1つの元素を含んでいても良く、例えば合金Yb0.2CoSb12、LaThFeCoSb12、EuCoSb12、およびEuCoSb12Ge0.5であっても良い。
【0027】
第1の断熱層が磁性層、例えば反強磁性層によって形成される場合には、記憶層4から磁性断熱層を分離するために、図5に示されるように、層14によって形成される第1の断熱層と記憶層4との間に磁気分離層19を配置することができる。磁気分離層19の材料は、タンタル、クロム、バナジウム、マンガン、および白金から選択される非磁性材料であっても良い。第2の断熱層が反強磁性体である場合には、第2の断熱層と基準層との間に磁気分離層は不要である。これは、基準層の磁化が閉じ込められる(trapped)からである。
【0028】
図5に示される特定の実施形態においては、トンネルバリア3自体によって第3の断熱層が形成される。例えば、トンネルバリアは、シリコン酸化膜(SiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)または酸化チタン(TiO)から成っていても良い。酸化ジルコニウムおよび酸化チタンの熱伝導率はそれぞれ、1.5W/m/℃および7.4W/m/℃である。
【0029】
従来例に係る装置の温度変化を検討した。したがって、図6は、従来例に係る磁気トンネル接合部を備える磁気装置において、記憶層4から基準層1へと電流が流れる場合(曲線17)および反対方向に電流が流れる場合(曲線18)のそれぞれの場合における2つの理論的な温度分布を示している。電流の流れによって生成される温度プロファイルの対称性を引き出すため、この例の構造は、意図的に選択された対称性を有している。装置は、X軸に沿って、第1の電極12と第2の電極13との間に、
−図6のX1〜X2の間に含まれる隙間に配置された厚さ5nmのタンタル(Ta)から成る層と、
−基準層1を形成するNiFeから成る3nm厚の層とIrMnから成る5nm厚の層との積層体(X2−X0)と、
−トンネルバリア3を形成するアルミナから成る0.6nm厚の層であって、その厚みに基づいてX0に配置された破線により示されている層と、
−記憶層4を形成するIrMnから成る5nm厚の層とNiFeから成る3nm厚の層との積層体(X0−X3)と、
−5nmの厚さのTaから成る層(X3−X4)と、
を連続的に備えている。
【0030】
この場合、本装置は、座標X0に対して対称であり、断熱層を備えていない。曲線17,18は、室温に維持され且つ0.5Vの電位差を有する2つの銅電極に対してこれらの端子で接続されたトンネル接合部に関して得られる。
【0031】
図6では、温度分布17および18の非対称性を観察することができる。記憶層4から基準層1へと流れる電流(曲線17)は、実際には、基準層1から記憶層4へと向かう電子の移動(図中の右方向)に対応しており、これは、記憶層4(X0−X3)中における、すなわち、図2に示されるトンネルバリア(X0)の右側に位置する領域中における電子のエネルギの散逸(損失)を示している。これは曲線17の振幅によって示され、この振幅は、Xの値がX0よりも低い値における場合よりも、X0よりも高い場合の方が大きい。曲線18は、図6の右から左へと流れる電子の移動に対応しており、したがって、X0よりも低い値において多くの熱が生成される。
【0032】
したがって、所与の電流においては、電流の方向が、接合部内で最も熱くなっている磁性層1または4を規定することができる。このようにすることで、本発明に係る磁気装置の読出し/書込み方法を実行することができる。書込み段階は、記憶層4からトンネル接合部を通じて基準層1へと至る電流l1の流れ(図5)を含んでおり、それにより、記憶層4の磁化5のブロッキング温度よりも高い温度まで記憶層4が加熱される。これに対し、読出し段階は、トンネル接合部を通じた反対方向の電流l2の流れ(図5)、すなわち、基準層1から記憶層4への電流の流れを含んでいる。したがって、記憶層4は、書込み段階中に効率的に加熱されるが、読出し段階中の記憶層4の加熱は低減される。例えば電流l1,l2は可逆発電機16によって生成され得る。
【0033】
本発明に係る装置における温度変化が図7〜図9に示されている。図7〜図9に示される理論的な温度分布(曲線K1〜K5)は、記憶層4から基準層1への電流方向において、すなわち、基準層1から記憶層4への電子の移動において得られるものであり、したがって、書込み段階に対応している。
【0034】
曲線K1〜K5および曲線17,18は、持続時間が500psで且つ強度が250mA/μmの電流パルスの終わりにおける温度分布を示しており、トンネル接合部の抵抗Rとトンネル接合の表面積Sとの積RS=2Ωμmに対応している。パルスの持続時間にわたって、接合部の温度は、急速に増大して、最大温度に対応する恒久的な状態(a permanent regime)に達する。その後、電流が解消されると、サーモスタットの機能を果たす外部電極12および13への熱拡散により、温度が元の室温まで急速に降下する。
【0035】
図7に表わされる3つの曲線K1,K2およびK3は、異なる層14を備える図3に係る磁気装置における温度分布の変化を示している。上記磁気装置もそれぞれ、図7のX1〜X2の間に含まれる隙間に配置されたタンタルから成る層を備えている(図3には示されていない)。
【0036】
したがって、曲線K1における磁気装置の層14は、5nmの厚さのBiTeから成る層(X3−X4)と5nmの厚さのTaから成る層(X4−X5)との積層膜を記憶層4と第2の電極13との間に連続的に設けることにより形成される。
【0037】
曲線K2における層14は、5nmの厚さのTaから成る層(X3−X4)と5nmの厚さのBiTeから成る層(X4−X5)との積層膜を記憶層4と第2の電極13との間に連続的に設けることにより形成される。
【0038】
曲線K3に対応する層14は、5nmの厚さのTaから成る層(X3−X4)と10nmの厚さのBiTeから成る層(X4−X6)との積層膜を記憶層4と第2の電極13との間に連続的に設けることにより形成される。
【0039】
実際には、断熱層の使用により、磁性層(X0−X3)内で100℃〜175℃の間に含まれる温度に達する。したがって、この温度は、従来例に係る装置で得られる温度よりも高い(図6において、曲線17は常に100℃よりも実質的に低い)。断熱層の効率は、その厚さが大きくなればなるほど益々良くなる。確かに、曲線K3は曲線K2よりも大きい。しかしながら、断熱層の厚さは、電流が無くなると温度減少速度を制限する。
【0040】
さらに、加熱に必要な電力消費量を減らすため、記憶層4は、薄く、例えば約8nmの厚さを有していることが好ましい。
【0041】
曲線K1〜K3によって示される温度分布は、アルミナトンネルバリア3において得られる。アルミナは良好な熱電導体であるため、記憶層4で生じる熱は、トンネルバリア3および基準層1を通じて第1の電極12へと移動する。加熱効率に悪影響を及ぼすこの熱損失を制限するためには、図4に示される第2の断熱層を挿入して、熱をできる限り記憶層4内に閉じ込めることが有益である。
【0042】
図8に示される曲線K4は、層14および層15によってそれぞれ形成される第1および第2の断熱層を備えた装置の温度分布を示している。層15は、5nm厚のTaから成る層(X7−X1)と5nm厚のBiTeから成る層(X1−X2)との積層を第1の電極12と基準層1との間に連続的に設けることにより形成される。層14は、曲線K1に対応する層14と同一である。記憶層4(X0−X3)における温度は約300℃であり、したがって、第1の断熱層だけを使用する場合(曲線K1)よりも高い。
【0043】
図9は、トンネルバリア3自体によって形成される第3の断熱層と層14によって形成される第1の断熱層とを備えた装置において得られた温度分布(曲線K5)を示している。トンネルバリア3は、0.6nmの厚さのシリカ層によって形成されている。層14および基準層1はそれぞれ曲線K2に対応する層と同一である。記憶層4(X0−X3)における温度は約175℃(曲線K5)であり、したがって、温度が150℃を超えないアルミナトンネルバリア3を有する装置の温度(曲線K2)よりも高い。確かに、シリカは、アルミナ(36.7W/m/℃)よりも低い熱伝導率(1.5W/m/℃)を有しており、したがって、熱を更に効率的に記憶層4内に閉じ込めることができる。
【0044】
本発明は前述した実施形態に限定されない。特に、第1、第2および第3の断熱層の任意の組み合わせが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】従来技術に係る磁気トンネル接合部を備える装置を示している。
【図2】電位差を受ける従来技術に係るトンネル接合部における電子のエネルギ変化を示している。
【図3】本発明に係る磁気装置の特定の実施形態を示している。
【図4】本発明に係る磁気装置の特定の実施形態を示している。
【図5】本発明に係る磁気装置の特定の実施形態を示している。
【図6】磁気トンネル接合部において、記憶層から基準層へと電流が流れる場合および反対方向に電流が流れる場合のそれぞれにおける2つの理論的な温度分布を示している。
【図7】図3に示された実施形態に対応する理論的な温度分布を示している。
【図8】図4に示された実施形態に対応する理論的な温度分布を示している。
【図9】図5に示された実施形態に対応する理論的な温度分布を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−第1の電極(12)と、
−基準層を形成し且つ所定の磁化(2)を有する第1の磁性層(1)と、トンネルバリア(3)を形成する電気絶縁層と、記憶層を形成し且つ可逆的に方向を変更できる磁化(5)を有する第2の磁性層(4)と、を連続的に備える磁気トンネル接合部と、
−中間層(14)と、
−第2の電極(13)と、
を連続的に備え、
前記中間層(14)は、5W/m/℃よりも低い熱伝導率を有する材料によって形成される第1の断熱層を構成することを特徴とする磁気装置。
【請求項2】
前記第1の電極(12)と前記第1の磁性層(1)との間に設けられた層(15)によって第2の断熱層が形成されることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1および/または第2の断熱層の材料は、前記断熱層の電気抵抗が前記トンネルバリア(3)の電気抵抗よりも十分に低くなるような導電率を有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記第1および/または第2の断熱層の材料は、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、スズおよび鉛から選択される少なくとも1つの元素を含むとともに、硫黄、セレン、テルル、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびタリウムから選択される少なくとも1つの元素を含む少なくとも1つの合金を含んでいることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記第1および/または第2の断熱層の材料は、リン、ヒ素およびアンチモンから選択される少なくとも1つの元素を含むとともに、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウムおよび亜鉛から選択される少なくとも1つの元素を含む少なくとも1つの合金を含んでいることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記第1および/または第2の断熱層の材料は、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、ツリウム、イッテルビウム、トリウムおよびウラニウムから選択される少なくとも1つの元素を含んでいることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記第1の断熱層は反強磁性層によって形成され、
前記第1の断熱層と前記第2の磁性層(4)との間に設けられた磁気分離層(19)を備えていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記磁気分離層(19)の材料は、タンタル、クロム、バナジウム、マンガンおよび白金から選択されることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記トンネルバリア(3)によって第3の断熱層が形成されることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記トンネルバリア(3)の材料は、シリコン酸化膜、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンから選択されることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の磁気装置の読出し/書込み方法であって、
−書込み段階は、前記第2の磁性層(4)から前記トンネル接合部を通じて前記第1の磁性層(1)へと至る電流(l1)の流れを含み、それにより、前記第2の磁性層(4)の磁化(5)のブロッキング温度よりも高い温度まで前記第2の磁性層(4)が加熱され、
− 読出し段階は、前記第1の磁性層(1)から前記トンネル接合部を通じて前記第2の磁性層(4)へと至る電流(l2)の流れを含んでいることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−509489(P2007−509489A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530418(P2006−530418)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002517
【国際公開番号】WO2005/036559
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(502142323)コミサリア、ア、レネルジ、アトミク (195)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【Fターム(参考)】