磁気抵抗素子
【課題】書き込み電流の低減を図る。
【解決手段】実施形態による磁気抵抗素子は、膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が可変である記録層13と、膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が不変である参照層15と、記録層及び参照層間に設けられた中間層14と、記録層の中間層が設けられた面と反対面に設けられ、AlTiNを含有する下地層12と、を具備する。
【解決手段】実施形態による磁気抵抗素子は、膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が可変である記録層13と、膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が不変である参照層15と、記録層及び参照層間に設けられた中間層14と、記録層の中間層が設けられた面と反対面に設けられ、AlTiNを含有する下地層12と、を具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗素子に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直磁化膜を記録層に用いたスピン注入MRAM(Magnetic Random Access Memory)は、書き込み電流の低減及び大容量化の点において優れている。原子稠密面を有するコバルト(Co)と白金(Pt)との積層膜は、結晶磁気異方性が107erg/cm2と大きく、また低抵抗で高い磁気抵抗比(MR比)を実現することが可能である。このため、この積層膜は、大容量MRAMを実用化する技術として注目されている。
【0003】
一方、結晶整合性の観点から、CoPt合金の下地として、ルテニウム(Ru)が用いられている。しかし、Ru下地は、記録層のダンピング定数(摩擦定数、減衰定数)を上昇させる。このため、書き込み電流が大きくなることが問題となっている。垂直磁化膜を用いたスピン注入MRAMにおいて、書き込み電流は、ダンピング定数に比例、スピン分極率に反比例、面積の2乗に比例して大きくなる。このため、ダンピング定数の低減、スピン分極率の上昇、面積の低減は、書き込み電流の低減に必要な技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−232499号公報
【特許文献2】特開2009−81314号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】2010 The Japan Society of Applied Physics Express 3 (2010) 053003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
書き込み電流の低減を図ることが可能な磁気抵抗素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態による磁気抵抗素子は、膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が可変である記録層と、膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が不変である参照層と、前記記録層及び前記参照層間に設けられた中間層と、前記記録層の前記中間層が設けられた面と反対面に設けられ、AlTiNを含有する下地層と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態に係るMTJ素子を示す断面図。
【図2】第1の実施形態に係る、種々の材料の下地層を用いた場合の熱擾乱耐性Δに対するダンピング定数αの大きさを示す図。
【図3】第1の実施形態に係る下地層のAl(100−X)TiXNのTi組成(X)に対するMR比(磁気抵抗効果比)を示す図。
【図4】第1の実施形態に係る下地層のAlとTiの濃度を変化させた場合のMTJ素子の磁気特性(M−H曲線)を示す図。
【図5】第1の実施形態に係る下地層のAl(100−X)TiXNのTi組成(X)に対するRA(抵抗)を示す図。
【図6】第1の実施形態に係る、Ti濃度が0%(Al50N50)の場合とTi濃度が20%((Al80Ti20)50N50)の場合における下地層の膜厚に対するRA(抵抗)を示す図。
【図7】第1の実施形態に係るMTJ素子の変形例を示す断面図。
【図8】第2の実施形態に係るMTJ素子を示す断面図。
【図9】第2の実施形態に係るTaからなる下部電極を用い、下地層のAlとTiの濃度を変化させた場合のMTJ素子の磁気特性(M−H曲線)を示す図。
【図10】第2の実施形態に係る下地層のAlとTiの濃度を変化させた場合の記録層の飽和磁化Ms(emu/cc)、記録層の保磁力Hc(Oe)及び磁気異方性磁界Hk(Oe)を示す図。
【図11】第2の実施形態に係るMTJ素子の変形例を示す断面図。
【図12】第3の実施形態に係るMTJ素子を示す断面図。
【図13】第3の実施形態に係る、Ta、Hf、WのB、C、N、O、メタル化合物からなる下地層を用いて、記録層の垂直磁気異方性エネルギーKu−eff(erg/cc)を評価した図。
【図13A】第3の実施形態に係る、各種下地層を用いた記録層のダンピング定数を示す図。
【図13B】第3の実施形態に係る、Ta下地を用いた場合とAlTiN下地を用いた場合の磁化反転電流を比較した図。
【図14】第3の実施形態に係るMTJ素子の変形例を示す断面図。
【図15】第4の実施形態に係るMTJ素子を示す断面図。
【図16】第4の実施形態に係る3層構造の記録層において、磁性層としてFeB、CoBを用い、非磁性層としてNb、Taを用いた場合のMTJ素子の磁気特性(M−H曲線)を示す図。
【図17】第4の実施形態に係るMTJ素子の変形例を示す断面図。
【図18】第5の実施形態に係るMTJ素子を示す断面図。
【図19】第5の実施形態に係るMTJ素子の変形例を示す断面図。
【図20】第5の実施形態に係るMTJ素子の変形例を示す断面図。
【図21】第5の実施形態に係るMTJ素子の変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。但し、図面は、模式的又は概念的なものであり、各図面の寸法及び比率等は、必ずしも現実のものと同一であるとは限らないことに留意すべきである。また、図面の相互間で同じ部分を表す場合においても、互いの寸法の関係や比率が異なって表される場合もある。特に、以下に示す幾つかの実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための磁気抵抗素子を例示したものであって、構成部品の形状、構造、配置等によって、本発明の技術思想が特定されるものではない。尚、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0010】
[1]第1の実施形態
[1−1]MTJ素子10の構成
図1を用いて、第1の実施形態に係る磁気抵抗素子であるMTJ素子10の構成について説明する。
【0011】
MTJ素子10は、下から順に、下部電極11、下地層12、記録層13、中間層14、参照層15及び上部電極16が積層されて構成されている。
【0012】
記録層13及び参照層15は、それぞれ、強磁性材料からなり、膜面に垂直な方向の磁気異方性を有する。記録層13及び参照層15の容易磁化方向は、膜面に対して垂直である。すなわち、MTJ素子10は、記録層13及び参照層15の磁化方向がそれぞれ膜面に対して垂直方向を向く、垂直磁化MTJ素子である。尚、容易磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと、最も内部エネルギーが低くなる方向である。一方、困難磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと、最も内部エネルギーが大きくなる方向である。
【0013】
記録層13は、磁化(又はスピン)方向が可変である(反転する)。参照層15は、磁化方向が不変である(固着している)。参照層15は、記録層13よりも十分大きな垂直磁気異方性エネルギーを持つように設定される。磁気異方性エネルギーの設定は、材料構成や膜厚を調整することで可能である。このようにして、記録層13の磁化反転電流を小さくし、参照層15の磁化反転電流を記録層13の磁化反転電流よりも大きくする。これにより、所定の書き込み電流に対して、磁化方向が可変の記録層13と磁化方向が不変の参照層15とを備えたMTJ素子10を実現できる。
【0014】
中間層14は、非磁性材料からなり、非磁性金属、非磁性半導体、絶縁体等を用いることができる。中間層14として絶縁体を用いた場合は、トンネルバリア層と呼ばれ、中間層14として金属を用いた場合は、スペーサ層と呼ばれる。
【0015】
下地層12は、記録層13の磁気異方性を向上させる機能を有する。記録層13は、記録層13に接する材料により、ダンピング定数(摩擦定数、減衰定数)が増加する場合がある。これは、スピンポンピング効果として知られている。下地層12は、このスピンポンピング効果を低減することで、記録層13のダンピング定数を低減する機能を有する。
【0016】
下地層12は、窒素化合物からなり、例えばAlTiNからなる。AlTiNからなる下地層12は、例えば、窒素(N2)とアルゴン(Ar)とを含む混合ガスを用いて、アルミニウム(Al)とチタン(Ti)をスパッタリングして成膜する。又は、窒素(N2)とアルゴン(Ar)とを含む混合ガスを用いて、アルミニウムチタン合金をスパッタリングしてもよい。又は、アルゴン(Ar)ガスを用いて、窒化アルミニウムチタンをスパッタリングして成膜することも可能である。下地層12の構成については、以下に詳説する。
【0017】
以下に、MTJ素子10の構成例について説明する。以下の説明において、元素に付記した括弧内の数値は、膜厚を示し、膜厚の単位は、Åである。“/”は、“/”の左に記載した元素が右に記載した元素の上に積層されていることを示す。
【0018】
下部電極11は、Ta(200)/Cu(400)/Ti(100)から構成される。下地層12は、AlTiN(10)から構成される。記録層13は、FeB(14)から構成される。中間層(トンネルバリア層)14は、MgO(10)から構成される。参照層15は、TbCoFe(120)/CoFeB(4)/Ta(3)/CoFeB(15)から構成される。上部電極16は、Ru(200)/Ta(50)から構成される。
【0019】
尚、記録層13は、FeBの代わりに、CoFeやCoFeBから構成されてもよい。この場合、Feの濃度をCoの濃度よりも高くすることが望ましい。さらに、記録層13は、Feから構成されてもよい。このような記録層13は、Feの濃度がCoの濃度より高いCoFe又はCoFeB、FeB又はFeからなる場合であっても、これらの材料中に他の元素を含有してもよく、これらの材料を主成分として含有していればよい。このような材料を用いることで、記録層13の垂直磁気異方性を向上させることができる。
【0020】
[1−2]窒素化合物からなる下地層12
従来、高い垂直磁気異方性を有し、0.01を下回るダンピング定数αを得る技術は、垂直磁化膜を記録層13に用いる上で最も大きな課題の一つとされ、世界中で開発が進められているが、この技術の実現は、困難であると考えられてきた。書込み電流は、ダンピング定数αに比例するため、ダンピング定数αを低減できれば、書込み電流を低減することが可能になる。
【0021】
しかし、本発明者らは、この課題を解決することが可能な構成を見出した。すなわち、記録層13の下地層12として、AlTiNやAlN等の窒素化合物を用いることで、高い熱擾乱耐性Δを保ちつつ、ダンピング定数αを下げることが可能であることを見出した。この点について、以下に詳説する。
【0022】
図2は、種々の材料の下地層12を用いた場合の熱擾乱耐性Δに対するダンピング定数αの大きさを示す。尚、ここでは、サイズφが40nmの記録層13を用い、下地層12の材料として、AlTiN、AlN、W、Nb、Mo、Hf、Zrを用いる。
【0023】
図2から分かるように、下地層12の材料として、AlTiNやAlNを用いることで、ダンピング定数αを0.008以下にすることが可能になる。つまり、下地層12の材料をメタルから窒化物(AlTiN、AlN)に変えることで、ダンピング定数αの大きさを低減しつつ、高い熱擾乱耐性Δが保持できている。
【0024】
また、窒素化合物は、熱による耐拡散性が強いため、下地層12と記録層13との拡散を抑制でき、MTJ素子10の磁気特性のばらつきを抑制することも可能となる。
【0025】
以上の点から、下地層12の材料として、窒素化合物を用いることの有効性が理解できる。尚、下地層12として有効な窒素化合物としては、AlTiN、AlN以外に、ZrN、NbN、HfN、TaN、WN、SiN等も考えられる。しかし、AlTiNは、3d電子の数が少なくかつ絶縁性を有し自由電子が少ないため、記録層13に対してスピン軌道相互作用が小さく、記録層13中に注入されたスピン情報が下地層12中で消失し難い。以上の理由から、窒素化合物の中でもAlTiN(AlN)を、下地層12として用いることにした。
【0026】
[1−3]下地層12のAlに対するTi濃度
本実施形態では、下地層12として、AlTiN(AlN)を用いるが、ここでは、Alに対するTi濃度(AlTiの組成)を変化させ、これに伴うMTJ素子10の種々の特性変化について説明する。尚、本明細書において、[Al(100−X)TiX]Nと記載することがあるが、例えば、Al80Ti20Nは、AlとTiの元素数比が80:20であり、AlTiと窒素の元素数比が1:1であることを意味する。
【0027】
図3は、下地層12のAl(100−X)TiXNのTi組成(X)に対するMR比(磁気抵抗効果比)を示す。ここで、図3の横軸は、Alに対するTi濃度(X)(vol.%)を示し、図3の縦軸は、MTJ素子10のMR比(%)を示している。尚、ここでは、AlとTiを合わせた組成に対して窒素を50at.%含有した下地層12を用いている。“vol.%”は、体積パーセント濃度を意味する。“at.%”は、原子パーセントを意味する。
【0028】
図3に示すように、Alに対するTi濃度が0%から30%まで増加すると、MR比は向上し、Alに対するTiの濃度が30%から100%へとさらに増加すると、MR比は劣化する。但し、AlNにTiを添加した場合は、AlN(Ti濃度が0%)よりも、MR比は向上することが分かる。
【0029】
ここで、MRAMデバイスの性能上、MR比は、少なくとも45%以上あることが望まれる。この観点に基づいた場合、Alに対するTi濃度は、10%以上50%以下であることが望ましい。つまり、下地層12がAl(100−X)TiXNである場合、10≦X≦50の関係を満たすことが望ましい。このように、Alに対するTi濃度がMR比に影響を与える理由は、以下の通りである。AlNにおいて、Alに対するTi濃度が10%より低い場合には、AlNの抵抗が上昇し、中間層14に対してAlNが直列抵抗として付加されるため、MR比が劣化する。一方、Ti濃度が50%より高い場合には、記録層13の磁気特性が劣化するため、MR比が劣化する。さらに、10%以上50%以下の範囲において、AlTiNがアモルファス構造をとるため、下地層12が平坦になり、下地層12上に堆積した記録層13及び中間層14が平坦になり、MR比が上昇する。
【0030】
また、AlTiNからなる下地層12中のAlTiとNとの比率は、1:1であることが望ましい。AlTiのNに対する含有量が多くなると、AlTiと記録層13が拡散しやすくなり、記録層13の垂直磁気異方性が劣化する。さらに、窒素とAlTiが1:1の組成で電子が閉殻状態となり、熱的に安定化する。このため、AlTiとNとの比率は、1:1の組成が望ましい。
【0031】
尚、下地層12は、Al、Ti及びN以外の元素を含んでいてもよく、AlTiNを主成分として含有していればよい。
【0032】
[1−4]MR比の劣化に対する考察
上述するように、下地層12のTi濃度が50%以上の場合や30%未満の場合には、MR比が劣化することが分かる。ここでは、この劣化の原因について考察した結果について説明する。
【0033】
まず、図4を用いて、下地層12のTi濃度が50%以上の場合に生じるMR比の劣化の原因について説明する。
【0034】
図4は、下地層12のAlとTiの濃度を変化させた場合のMTJ素子10の磁気特性(M−H曲線)を示す。ここで、図4の横軸は、膜面垂直方向の磁場(Oe)を示し、図4の縦軸は、記録層13の膜面垂直方向の磁化(emu)を示している。尚、図4中の“E”は、10を底とする指数関数を意味する。
【0035】
図4に示すように、Ti濃度が50%以上になると、磁気特性の横軸(磁場)がゼロの時、記録層13の磁化の残留磁化比が1未満となっている。つまり、Ti濃度が50%以上になると、記録層13の垂直磁気異方性が劣化し、記録層13の残留磁化比が1未満となり、記録層13と参照層15の磁化の方向を平行方向と反平行方向にすることが出来なくなったため、MR比が劣化したと考えられる。
【0036】
次に、図5を用いて、下地層12のTi濃度が30%未満の場合に生じるMR比の劣化の原因について説明する。
【0037】
図5は、下地層12のAl(100−X)TiXNのTi組成(X)に対するRA(抵抗)を示す。図5の横軸は、Alに対するTiの濃度(X)(vol.%)を示し、図5の縦軸は、MTJ素子10の抵抗RA(Ωum2)を示している。尚、ここでは、AlとTiを合わせた組成に対して窒素を50at.%含有した下地層12を用いている。
【0038】
図5に示すように、Alに対するTi濃度が30%未満になると、下地層12の抵抗RAが増加し、MTJ素子10の中間層14の抵抗RAに対して直列抵抗が高まるため、MR比が劣化すると考えられる。
【0039】
[1−5]AlNにTiを添加することの有効性
本実施形態では、下地層12として、AlNにTiを添加したAlTiNを用いることが望ましい。理由は、以下の通りである。
【0040】
まず、図3から分かるように、Ti濃度が0%の場合、すなわち、下地層12がAlNの場合は、Tiが添加されている場合より、MR比が非常に低い。このため、MR比を高めるには、下地層12として、AlNよりも、AlNにTiが添加されたAlTiNを用いるのがよいと言える。
【0041】
図6は、Ti濃度が0%(Al50N50)の場合とTi濃度が20%((Al80Ti20)50N50)の場合における下地層12の膜厚に対するRA(抵抗)を示す。図6の横軸は、下地層12の膜厚(Å)を示し、図6の縦軸は、下地層12の抵抗RA(Ωum2)を示している。
【0042】
図6より、Ti濃度が0%の場合(Al50N50)に対して、Ti濃度が20%の場合((Al80Ti20)50N50)は、下地層12の抵抗RAを1桁程度低減することが可能になることが分かる。(Al50N50)を用いた場合には中間層14であるMgOのRAが10Ωum2で、下地層12である(Al50N50)1nmのRAが10Ωum2以上であるため、中間層14に対して下地層12の抵抗が直列に付加されるためMR比は半減以下となる。一方、Alに対してTiを20%添加した((Al80Ti20)50N50)の場合においては((Al80Ti20)50N50)1nmのRAが1Ωum2となるため、中間層14に対する下地層12の抵抗が低減し、MR比の劣化を抑制することが可能になる。下地層12に(Al50N50)を用いた場合においてMRがほぼ数%となるのは下地層12の抵抗が中間層14に対して直列に付加されたためと、下地層12の絶縁化によるラフネス増が影響したものと考えられる。
【0043】
[1−6]効果
上記第1の実施形態では、下地層12として、スピンポンピング効果を低減できる窒素化合物(AlTiN)を用いている。これにより、記録層13のダンピング定数(摩擦定数)を低減できるため、MTJ素子10の書き込み電流を低減することが可能となる。
【0044】
また、第1の実施形態では、下地層12として、熱による耐拡散性が強い窒素化合物(AlTiN)を用いている。これにより、下地層12と記録層13との拡散を抑制でき、MTJ素子10の磁気特性のばらつきを抑制することが可能となる。
【0045】
また、AlTiNからなる下地層12において、Alに対するTi濃度を10%以上50%以下にすることで、デバイス特性上、有効なMR比を確保したMTJ素子10を実現できる。
【0046】
[1−7]変形例
第1の実施形態は、図7(a)及び(b)に示すMTJ素子10の構成に変形することも可能である。
【0047】
図7(a)に示すように、記録層13と下地層12との間に、薄い下地層17を設けてもよい。下地層17としては、例えば、膜厚1nm以下のイリジウム(Ir)が挙げられる。厚いIr層は、記録層13のダンピング定数を上昇させるため、Ir層の膜厚は1nm以下が望ましい。下地層17の材料としては、イリジウム(Ir)の他に、パラジウム(Pd)及び白金(Pt)等を用いることも可能である。但し、下地層17は、記録層13のダンピング定数を上昇させない程度の薄膜化が必要である。このような図7(a)の構成によれば、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上することができる。
【0048】
図7(b)に示すように、AlTiN層は、記録層13の下地層としてではなく、記録層13のキャップ層22として用いてもよい。つまり、MTJ素子10は、下から順に、下部電極11、参照層15、中間層14、記録層13、キャップ層22、上部電極16が順に積層されて構成されている。キャップ層22は、上述した下地層12と同じ材料で構成される。図7(b)のいわゆるボトムピン構造によれば、図1のいわゆるトップピン構造と同様に、書き込み電流の低減と、MTJ素子10の垂直磁気異方性の向上及び書き込み電流ばらつきの低減の効果を得ることができる。
【0049】
尚、図7(b)の変形例において、図7(a)の構成と同様に、記録層13とキャップ層22との間に、下地層17と同じ材料からなる磁性層を挿入してもよい。これにより、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上できる。
【0050】
[2]第2の実施形態
第2の実施形態は、下地層12に接する膜の材料をコントロールすることで、下地層12としてTiNを用いることを可能にした例である。
【0051】
[2−1]MTJ素子10の構成
図8を用いて、第2の実施形態に係るMTJ素子10の構成について説明する。
【0052】
第2の実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、下地層12としてTiNを用い、下部電極11としては、大気中に下部電極11を放置すると下部電極11の表面或いは全体が室温にて酸化物を形成する、酸化し易い材料を用いている点である。下地層12を成膜する下部電極11に酸化し易い材料を用いることで、下地層12と下部電極11の濡れ性が向上し、下部電極11の平坦性が向上し、結果として均一な下地層12が形成できる。
【0053】
下部電極11の酸化し易い材料としては、例えば、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Hf、Ta、W、Ge、Ga、B及びMgの中から選択された1つの元素を含むことが望ましい。
【0054】
ここで、TiNからなる下地層12を用いた場合、酸化し易い材料からなる層は、下部電極11であることに限定されない。つまり、酸化し易い材料からなる層は、下地層12の記録層13と反対側の面に直接接している層であればよい。例えば、下地層12と下部電極11との間に、酸化し易い材料からなる層を設けてもよい。
【0055】
[2−2]TiNからなる下地層12
図9は、Taからなる下部電極11を用い、下地層12のAlとTiの濃度を変化させた場合のMTJ素子10の磁気特性(M−H曲線)を示す。ここで、図9の横軸に記載した-200から200は膜面垂直方向に印加した磁場(Oe)を示し、−5000から5000、−7000から7000は面内方向に印加した磁場(Oe)を示し、図9の縦軸は、記録層13の膜面垂直及び面内方向の磁化(emu)を示している。実線が膜面直方向に磁場を印加した場合の磁気特性を示し、点線が膜面内方向に磁場を印加した場合の磁気特性を示している。
【0056】
図9に示すように、下地層12がTiNの場合も、磁気特性の横軸(磁場)がゼロの時、膜面垂直方向の磁化が減少していない。飽和磁化と残留磁化の比である残留磁化比がほぼ1となっている。つまり、下地層12がTiNであっても、Taからなる下部電極11を用いることで、垂直磁気特性を保持することが可能になり、結果としてAlNにTiを50%以上添加してもMR比の劣化が抑制できている。
【0057】
図10(a)乃至(c)は、下地層12のAlに対するTiの濃度を変化させた場合の記録層13の飽和磁化Ms(emu/cc)、記録層13の保磁力Hc(Oe)及び磁気異方性磁界Hk(Oe)を示す。
【0058】
図10(a)乃至(c)に示すように、Tiの濃度を高くすると、飽和磁化Msはほぼ一定で、記録層13の保磁力Hcは減少し、磁気異方性磁界Hkは増加していることが分かる。これは、スピン同士の交換結合が弱くなっている、又は、粒子間の交換結合が弱くなっているためと考えられる。
【0059】
[2−3]効果
上記第2の実施形態では、下地層12として、スピンポンピング効果を低減できる窒素化合物(TiN)を用いている。これにより、記録層13のダンピング定数(摩擦定数)を低減できるため、MTJ素子10の書き込み電流を低減することが可能となる。
【0060】
また、第2の実施形態では、下地層12として、熱による耐拡散性が強い窒素化合物(TiN)を用いている。これにより、下地層12と記録層13との拡散を抑制でき、MTJ素子10の磁気特性のばらつきを抑制することが可能となる。
【0061】
また、下地層12と接する下部電極11として、Ta等の酸化し易い材料を用いている。これにより、下地層12と記録層13のラフネスを小さくすることが可能になり、垂直磁気特性の劣化を抑制でき、有効なMR比を確保することができる。
【0062】
[2−4]変形例
第2の実施形態は、図11(a)及び(b)に示すMTJ素子10の構成に変形することも可能である。
【0063】
図11(a)に示すように、記録層13と下地層12との間に、薄い下地層17を設けてもよい。下地層17としては、例えば、膜厚1nm以下のイリジウム(Ir)が挙げられる。厚いIr層は、記録層13のダンピング定数を上昇させるため、Ir層の膜厚は1nm以下が望ましい。下地層17の材料としては、イリジウム(Ir)の他に、パラジウム(Pd)及び白金(Pt)等を用いることも可能である。但し、下地層17は、記録層13のダンピング定数を上昇させない程度の薄膜化が必要である。このような図11(a)の構成によれば、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上することができる。
【0064】
図11(b)に示すように、TiN層は、記録層13の下地層としてではなく、記録層13のキャップ層22として用いてもよい。つまり、MTJ素子10は、下から順に、下部電極11、参照層15、中間層14、記録層13、キャップ層22、上部電極16が順に積層されて構成されている。キャップ層22は、上述した下地層12と同じ材料で構成される。また、キャップ層22に直接接している上部電極16は、上述した酸化し易い材料で構成される。図11(b)のいわゆるボトムピン構造によれば、図8のいわゆるトップピン構造と同様に、書き込み電流の低減と、MTJ素子10の垂直磁気異方性の向上及び書き込み電流ばらつきの低減の効果を得ることができる。
【0065】
尚、図11(b)の変形例において、図11(a)の構成と同様に、記録層13とキャップ層22との間に、下地層17と同じ材料からなる磁性層を挿入してもよい。これにより、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上できる。
【0066】
また、本実施形態による材料で構成された下部電極11を、第1の実施形態に適用することも可能である。
【0067】
[3]第3の実施形態
第3の実施形態では、下地層12としてホウ化物を用いた例である。
【0068】
[3−1]MTJ素子10の構成
図12を用いて、第3の実施形態に係るMTJ素子10の構成について説明する。
【0069】
第3の実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、下地層12の材料としてホウ化物を用いている点である。具体的には、下地層12は、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Hf、Ta、W、Ge及びGaの中から選択された1つの元素を含むホウ化物で形成されている。
【0070】
[3−2]ホウ化物からなる下地層12
本実施形態の下地層12の材料であるAl、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Hf、Ta、W、Ge及びGaの中から選択された1つの元素を含むホウ化物は、d電子が少ない遷移金属Ti、V、Cr、Zr、Nb、Hf、Ta、W、或いは非遷移金属Al、Si、Ge、Gaで形成される。このため、ダンピング定数が低減でき、さらに前記材料をホウ化物化することで自由電子を少なくし、記録層13と下地層12との間で生じるスピン軌道相互作用を低減できる。結果として、ダンピング定数の低減に有効となる。
【0071】
図13は、Ta、Hfのホウ化物(TaB2、HfB2)(図中「B」と記載)、炭化物(TaC、HfC)(図中「C」と記載)、窒化物(TaN、HfN)(図中「N」と記載)、酸化物(TaO、HfO)(図中「O」と記載)、Ta、Hf、Wのメタル(Ta、Hf、Wの単体金属)(図中「metal」と記載)からなる下地層12を用いて、記録層13の垂直磁気異方性エネルギーKu−eff(erg/cc)を評価したものである。図13から分かるように、B化合物(TaB、HfB)からなる下地層12を用いることで、記録層13の高い垂直磁気異方性を得ることができている。
【0072】
図13Aは、HfとAlTiに対して酸化、ホウ化、窒化、及び窒化とホウ化の両方用いて化合物化させた場合の各種下地層12を用いた記録層13のダンピング定数を示す。
【0073】
metal下地で比較すると、HfよりAlTiの方がダンピング定数αは小さい。これは、下地材料として軽元素を用いたこと、及び、Hfが有する5d電子をTiの3d電子に替えることで下地と記録層のスピン軌道相互作用が低減したこと、が要因であると考えられる。つまり、窒素やホウ素と混合させるmetal材は、3d遷移金属や、非遷移金属であることが望ましい。
【0074】
一方、5d遷移金属を用いても、ホウ化物や窒化物を用いれば、ダンピング定数の低減が可能になる。酸化物やメタルは、ダンピング定数が高いが、ホウ化物、窒化物及びホウ化窒素化物を用いると、ダンピング定数αが0.01以下となり、十分なダンピング定数の低減が可能となる。metalの場合において、ダンピング定数αが0.01以上と大きな値となるのは、下地と記録層の拡散、Hfが有するスピンポンピング効果と考えられる。一方、窒化、ホウ化すると、Hfが有するスピンが消失し、記録層と下地層との間のスピン軌道相互作用が低減する。結果として、スピンポンピング効果が低減し、ダンピング定数の低減が可能となる。
【0075】
さらに、ホウ化物は、図13より高い垂直磁気異方性を有するため、低ダンピング定数と高い記録保持耐性を有する記録層の製造が可能となる。
【0076】
表1は、HfBを下地に用いた場合とAlTiNを下地に用いた場合の各種特性を示す。
【0077】
HfB下地を用いることで、高いMR比を得ることが可能になる。これは、記録層にB系材料を用いているため、下地材料に同種の元素を混入させると、下地層と記録層間の界面エネルギーが低減し、記録層が平坦に製造できるようになる。結果として、トンネル障壁層が平坦に形成でき、高いMR比を得ることが可能になったと考えられる。
【表1】
【0078】
図13Bは、Ta下地を用いた場合とAlTiN下地を用いた場合の磁化反転電流を比較した図である。
【0079】
MRは、同程度の膜で比較しているため、磁化反転電流の差は、ダンピング定数の差が大きいと考えられる。Ta下地に比べAlTiN下地を用いることで、磁化反転電流は、半減以下になっていることが分かる。Ta下地の場合は、記録層と下地層が拡散による記録層のダンピング定数増加の影響と、下地層自体のスピンポンピング効果の影響で、ダンピング定数が上昇し、結果として書込み電流が上昇する。AlTiN下地は、上記拡散と、スピンポンピング効果を抑制できるので、結果として、ダンピング定数が低減され、書込み電流が低下する。つまり、metal下地より窒化物下地を用いた方が、metal下地に比べ、同程度のMRを得ることが可能で、さらに磁化反転電流の低減及び書込み電流の低減が可能となる。また、ホウ化物下地は、Ta等のmetal下地に比べ、ダンピング定数は小さくでき、かつ高いMR比を得ることが可能になる。
【0080】
以上の点から、ホウ化物からなる下地層12は、ダンピング定数を低減しつつ、記録層13の垂直磁気異方性を向上させることができると言える。
【0081】
[3−3]効果
上記第3の実施形態では、下地層12としてホウ化物を用いている。これにより、ダンピング定数を低減することで、書き込み電流の低減を図ることができる。さらに、記録層13の垂直磁気異方性も高めることができる。
【0082】
[3−4]変形例
第3の実施形態は、図14(a)及び(b)に示すMTJ素子10の構成に変形することも可能である。
【0083】
図14(a)に示すように、記録層13と下地層12との間に、薄い下地層17を設けてもよい。下地層17としては、例えば、膜厚1nm以下のイリジウム(Ir)が挙げられる。厚いIr層は、記録層13のダンピング定数を上昇させるため、Ir層の膜厚は1nm以下が望ましい。下地層17の材料としては、イリジウム(Ir)の他に、パラジウム(Pd)及び白金(Pt)等を用いることも可能である。但し、下地層17は、記録層13のダンピング定数を上昇させない程度の薄膜化が必要である。このような図14(a)の構成によれば、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上することができる。
【0084】
図14(b)に示すように、ホウ化物層は、記録層13の下地層としてではなく、記録層13のキャップ層22として用いてもよい。つまり、MTJ素子10は、下から順に、下部電極11、参照層15、中間層14、記録層13、キャップ層22、上部電極16が順に積層されて構成されている。キャップ層22は、上述した下地層12と同じ材料で構成される。図14(b)のいわゆるボトムピン構造によれば、図12のいわゆるトップピン構造と同様に、書き込み電流の低減と、MTJ素子10の垂直磁気異方性を向上することができる。
【0085】
尚、図14(b)の変形例において、図14(a)の構成と同様に、記録層13とキャップ層22との間に、下地層17と同じ材料からなる磁性層を挿入してもよい。これにより、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上できる。
【0086】
[4]第4の実施形態
第4の実施形態では、記録層13を所定の材料を用いた積層構造にすることで、記録層13の垂直磁気異方性を向上させた例である。
【0087】
[4−1]MTJ素子10の構成
図15は、第4の実施形態に係るMTJ素子10の構成例を示す断面図である。
【0088】
図15に示すように、記録層13は、下地層12側の磁性層13Aと、中間層14側の磁性層13Cと、磁性層13A及び磁性層13C間に設けられた非磁性層13Bと、を有する積層構造である。
【0089】
ここで、磁性層13Aは、Coの濃度がFeの濃度より高いCoFeが望ましい。これにより、記録層13の垂直磁気異方性を向上させることができる。ここで、CoFeからなる磁性層13AにおけるCoの濃度は、Co>50at.%が好ましく、Co≧90at.%がより好ましい。Coの濃度が50at.%より多ければ、70%以上のMR比が得られ、Coの濃度が90at.%以上であれば、100%以上のMR比が得られるからである。また、磁性層13Aは、Coの濃度がFeの濃度より高いCoFeB、Co、CoB又はFeBでもよい。
【0090】
磁性層13Cは、Feの濃度がCoの濃度より高いCoFeBが望ましい。これにより、記録層13の垂直磁気異方性を向上させることができる。これは、鉄(Fe)の結晶構造がbcc(body-centered cubic)構造であるのに対して、コバルト(Co)の結晶構造はhcp(hexagonal close-packed)構造であるので、コバルト(Co)より鉄(Fe)の方が、中間層(MgO)14に対する結晶整合性が良いことに起因する。また、磁性層13Cは、FeBでもよい。
【0091】
上記のような観点から、記録層13の下地層12側の磁性層13Aは、CoFeをCoが多い組成に、或いは、CoB、FeBに調整し、記録層13の中間層14側の磁性層13Cは、CoFeBをFeが多い組成に調整することで、高いMR比を有するMTJ素子10を形成することができる。或いは、磁性層13A及び磁性層13CがCoFeを主成分とする磁性層の場合、磁性層13CのFeの濃度を磁性層13AのFeの濃度より高くすることで、記録層13の垂直磁気異方性を向上させることができる。
【0092】
非磁性層13Bは、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、シリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の中から選択された1つの元素を含む材料を用いてもよい。この非磁性層13Bの材料は、単層構造の記録層13(図1等)や積層構造の記録層13の磁性層13A及び13C(図15等)に対して、添加材として用いてもよい。このような非磁性層13Bは、記録層13の飽和磁化Msを低減させ、隣接ビット間の漏れ磁場干渉を抑制したり、反磁界を低減させ、熱擾乱耐性を向上させたりすることが可能になる。
【0093】
磁性層13C/非磁性層13B/磁性層13Aの具体例としては、CoFeB(8)/Ta(3)/CoFe(5)、FeB/Ta/FeB、FeB/Ta/CoB、FeB/Nb/FeB、FeB/Nb/CoB、FeB/Ta/Co、FeB/Ta/Co等が挙げられる。
【0094】
尚、磁性層13A及び磁性層13C間に挟む非磁性層13Bの膜厚を増加させると、磁性層13A及び磁性層13C内でのスピン散乱が増加し、書き込み電流の増加を引き起こす。このため、非磁性層13Bの膜厚は、1nm以下が好ましい。
【0095】
また、記録層13は、図15の非磁性層13Bを無くし、磁性層13A及び磁性層13Cの2層で構成してもよい。例えば、磁性層13Aは、CoFe又はCoからなり、磁性層13Cは、CoFeB又はFeBからなる。非磁性層13Bは、磁性層の垂直磁気異方性を増加させることができ、かつMR比を増加させることができるが、逆にダンピング定数の増加を引き起こす場合がある。非磁性層13Bを無くすことで、磁性層のダンピング定数を小さくし、書き込み電流の低減を図ることが可能である。尚、非磁性層13Bを除いたことで生じる記録層13の垂直磁気異方性の劣化は、記録層13を構成する磁性層13A及び磁性層13Cの組成を調整することで防ぐことが可能である。さらに、記録層13の垂直磁気特性及びMR比は、中間層14側の磁性層13CのFeの濃度を下地層12側の磁性層13AのFeの濃度より多くすることで、向上させることが可能である。例えば、記録層13として、磁性層13CのFeの濃度が磁性層13AのFeの濃度より高いCoFeB(8)/CoFe(5)を用いたり、FeB(8)/CoFe(5)、FeCoB(8)/Co(5)、又はFeB(8)/Co(5)を用いたりすることで、記録層13の垂直磁気特性及びMR比を向上させることが可能である。
【0096】
尚、上述する磁性層13A、非磁性層13B及び磁性層13Cの材料は、上記の材料中にこの材料以外の元素を含有してもよく、上記の材料を主成分として含有していればよい。
【0097】
このような第4の実施形態における下地層12の材料としては、上記第1乃至第3の実施形態の下地層12と同様の材料を用いることができる。
【0098】
[4−2]積層構造の記録層13
図16は、3層構造の記録層13において、磁性層13AとしてFeB、CoBを用い、非磁性層13BとしてNb、Taを用いた場合のMTJ素子10の磁気特性(M−H曲線)を示す。図16の横軸に記載した−200から200は膜面垂直方向に印加した磁場(Oe)を示し、−7000から7000とは面内方向に印加した磁場(Oe)を示し、図16の縦軸は、記録層13の膜面垂直及び面内方向の磁化(emu)を示している。実線が膜面直方向に磁場を印加した場合の磁気特性を示し、点線が膜面内方向に磁場を印加した場合の磁気特性を示している。ここで、下地層12は、AlTiNからなり、磁性層13Cは、CoFeBからなり、中間層14は、MgOからなる。
【0099】
図16に示すように、下地層12としてAlTiNを用いた場合、記録層13の磁性層13C/非磁性層13B/磁性層13Aを、(a)CoFeB/Nb/FeB、(b)CoFeB/Nb/CoB、(c)CoFeB/Ta/FeB、(d)CoFeB/Ta/CoBと積層構造にすることで、いずれも高いHk(7k)を得ることができる。
【0100】
[4−3]効果
上記第4の実施形態によれば、第1乃至第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0101】
さらに、第4の実施形態では、下地層12上に設けられる記録層13を、上述した積層構造で構成する。これにより、MTJ素子10のMR比を向上させることができるとともに、記録層13の垂直磁気特性を向上させることができる。
【0102】
[4−4]変形例
第4の実施形態は、図17(a)及び(b)に示すMTJ素子10の構成に変形することも可能である。
【0103】
図17(a)に示すように、記録層13と下地層12との間に、薄い下地層17を設けてもよい。下地層17としては、例えば、膜厚1nm以下のイリジウム(Ir)が挙げられる。厚いIr層は、記録層13のダンピング定数を上昇させるため、Ir層の膜厚は1nm以下が望ましい。下地層17の材料としては、イリジウム(Ir)の他に、パラジウム(Pd)及び白金(Pt)等を用いることも可能である。但し、下地層17は、記録層13のダンピング定数を上昇させない程度の薄膜化が必要である。このような図17(a)の構成によれば、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上することができる。
【0104】
図17(b)に示すように、AlTiN層、TiN層又はホウ化物層は、記録層13の下地層としてではなく、記録層13のキャップ層22として用いてもよい。つまり、MTJ素子10は、下から順に、下部電極11、参照層15、中間層14、記録層13、キャップ層22、上部電極16が順に積層されて構成されている。キャップ層22は、上述した下地層12と同じ材料で構成される。図17(b)のいわゆるボトムピン構造によれば、図15のいわゆるトップピン構造と同様に、書き込み電流の低減と、MTJ素子10の垂直磁気異方性の向上及び書き込み電流ばらつきの低減の効果を得ることができる。
【0105】
尚、図17(b)の変形例において、図17(a)の構成と同様に、記録層13とキャップ層22との間に、下地層17と同じ材料からなる磁性層を挿入してもよい。これにより、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上できる。
【0106】
[5]第5の実施形態
第5の実施形態は、参照層15から漏れる磁場を低減する機能を有するバイアス層31を新たに追加し、この漏れ磁場に起因する記録層13のスイッチング磁場のシフトを防ぐ。
【0107】
[5−1]MTJ素子10の構成
図18を用いて、第5の実施形態に係るMTJ素子10の構成について説明する。
【0108】
第5の実施形態のMTJ素子10は、図1の構成に、バイアス層31及び非磁性層32が新たに追加されている。
【0109】
バイアス層31は、参照層15から漏れる磁場の影響で記録層13のスイッチング磁場がシフトし、参照層15と記録層13との磁化配列が平行状態と反平行状態との間で熱安定性が変化するのを防ぐために設けられている。バイアス層31は、参照層15と同じ垂直磁化材料を用いることが可能である。
【0110】
非磁性層32は、バイアス層31及び参照層15の磁化方向が反平行となる反強磁性結合させることが望ましい。また、非磁性層32は、バイアス層31と参照層15とが熱工程によって混ざらない耐熱性、及びバイアス層31を形成する際の結晶配向を制御する機能を有している。非磁性層32としては、ルテニウム(Ru)、銀(Ag)、又は銅(Cu)からなる非磁性金属を用いることができる。
【0111】
また、バイアス層31と非磁性層32との間、及び参照層15と非磁性層32との間にそれぞれ、CoFe、Co、Fe、CoFeB、CoB、又はFeB等からなる磁性層を挟むようにしてもよい。これにより、非磁性層32を介したバイアス層31及び参照層15の反強磁性結合を強化することが可能となる。
【0112】
尚、第5の実施形態では、下地層12の材料としては、上記第1乃至第3の実施形態の下地層12と同様の材料を用いることができる。また、記録層13は、第4の実施形態と同様の構成にすることも可能である。
【0113】
[5−2]効果
上記第5の実施形態によれば、第1乃至第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0114】
さらに、第5の実施形態では、バイアス層31によって参照層15から漏れる磁場を低減することができる。これにより、この漏れ磁場に起因する記録層13のスイッチング磁場がシフトするのを低減できる。この結果、MTJ素子10間での記録層13の反転磁界のばらつきを低減することが可能となる。また、バイアス層31を設けることで、参照層15の磁化を一方向に強固に固定することができる。
【0115】
[5−3]変形例
第5の実施形態は、図19から図21(a)及び(b)に示すMTJ素子10の構成に変形することも可能である。
【0116】
図19に示すように、バイアス層31は、下部電極11と下地層12との間に設けてもよい。この場合、バイアス層31の磁化の方向を参照層15に対して逆向きに設置することによって、参照層15から漏れる磁場を低減することができる。
【0117】
図20(a)及び(b)に示すように、記録層13と下地層12との間に、薄い下地層17を設けてもよい。下地層17としては、例えば、膜厚1nm以下のイリジウム(Ir)が挙げられる。厚いIr層は、記録層13のダンピング定数を上昇させるため、Ir層の膜厚は1nm以下が望ましい。下地層17の材料としては、イリジウム(Ir)の他に、パラジウム(Pd)及び白金(Pt)等を用いることも可能である。但し、下地層17は、記録層13のダンピング定数を上昇させない程度の薄膜化が必要である。このような図20(a)及び(b)の構成によれば、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上することができる。
【0118】
図21(a)及び(b)に示すように、AlTiN層、TiN層又はホウ化物層は、記録層13の下地層としてではなく、記録層13のキャップ層22として用いてもよい。つまり、図21(a)のMTJ素子10は、下から順に、下部電極11、バイアス層31、非磁性層32、参照層15、中間層14、記録層13、キャップ層22、上部電極16が順に積層されて構成されている。図21(b)のMTJ素子10は、下から順に、下部電極11、参照層15、中間層14、記録層13、キャップ層22、バイアス層31、上部電極16が順に積層されて構成されている。キャップ層22は、上述した下地層12と同じ材料で構成される。図21(a)及び(b)の構造によれば、図18の構造と同様に、書き込み電流の低減と、MTJ素子10の垂直磁気異方性の向上及び書き込み電流ばらつきの低減の効果を得ることができる。
【0119】
尚、図21(a)及び(b)の変形例において、図20(a)及び(b)の構成と同様に、記録層13とキャップ層22との間に、下地層17と同じ材料からなる磁性層を挿入してもよい。これにより、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上できる。
【0120】
[6]第6の実施形態
第6の実施形態では、酸素が含有されている下地層12を用いることで、MR比の向上を図る。
【0121】
[6−1]下地層12の構成及び製造方法
第6の実施形態では、下部電極11上に下地層12が形成される際、次のような製造方法が実施される。
【0122】
例えば、下部電極11としてのTa層を5nm成膜し、Ta層の表面に対しラジカル酸化処理が100秒行われ、TaO層が形成される。次に、TaO層の表面のエッチング処理が行われる。次に、下地層12としてのAlTiN層が成膜される。このような製造方法の実施により、酸素が含有された下地層12(例えば、AlTiNO層)が形成される。
【0123】
第6の実施形態では、上述するように、下地層12の成膜前に酸化処理を行い、酸化物を形成することに限定されない。例えば、下部電極11が成膜された後、この下部電極11の表面に、窒化処理、ホウ化処理及び炭化処理のいずれかの処理が実施され、窒化物、ホウ化物又は炭化物が形成さてもよい。この場合、下地層12には、N、B又はCが含有される。従って、本実施形態では、下地層12は、O、N、B及びCの中から選択された1つの元素を含有していてもよい。さらに、下地層12及び下部電極11のうち少なくとも一方は、O、N、B及びCの中から選択された1つの元素を含有していてもよい。
【0124】
尚、第6の実施形態における下地層12の材料としては、上記第1乃至第3の実施形態の下地層12と同様の材料を用いることができる。また、記録層13は、第4の実施形態と同様の構成にすることも可能である。また、第5の実施形態のようにバイアス層を設けることも可能である。さらに、各実施形態の変形例を適用することも可能である。
【0125】
[6−2]効果
第6の実施形態によれば、上記第1乃至第5の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0126】
さらに、第6の実施形態では、下地層12の成膜前に、酸化処理、窒化処理、ホウ化処理及び炭化処理のいずれかの処理を施すことにより、酸素、窒素、ホウ素又は炭素を含有する下地層12を形成することができる。これにより、下地層12であるAlTiN層の成膜時の界面エネルギーを低減することができ、下地層12の平坦性を向上することが可能になる。さらに、TaO層の表面をエッチング処理することにより、下部電極11の平坦性を向上することが可能になる。結果として、記録層13および中間層14の平坦性を向上できる。このため、MR比をさらに向上することができる。
【0127】
以上のように、上述した実施形態の磁気抵抗素子によれば、MTJ素子10の下地層12を、ダンピング定数を低減できる構成にする。これにより、書き込み電流の低減を図ることが可能である。
【0128】
尚、本明細書中における「窒化物」、「ホウ化物」、「炭化物」、「酸化物」は、B、N、O、又はCが混入してもよく、「窒素含有物」、「ホウ素含有物」、「炭素含有物」、「酸素含有物」であればよい。
【0129】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0130】
10…MTJ素子、11…下部電極、12…下地層、13…記録層、13A…磁性層、13B…非磁性層、13C…磁性層、14…中間層、15…参照層、16…上部電極、17…下地層、22…キャップ層、31…バイアス層、32…非磁性層。
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗素子に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直磁化膜を記録層に用いたスピン注入MRAM(Magnetic Random Access Memory)は、書き込み電流の低減及び大容量化の点において優れている。原子稠密面を有するコバルト(Co)と白金(Pt)との積層膜は、結晶磁気異方性が107erg/cm2と大きく、また低抵抗で高い磁気抵抗比(MR比)を実現することが可能である。このため、この積層膜は、大容量MRAMを実用化する技術として注目されている。
【0003】
一方、結晶整合性の観点から、CoPt合金の下地として、ルテニウム(Ru)が用いられている。しかし、Ru下地は、記録層のダンピング定数(摩擦定数、減衰定数)を上昇させる。このため、書き込み電流が大きくなることが問題となっている。垂直磁化膜を用いたスピン注入MRAMにおいて、書き込み電流は、ダンピング定数に比例、スピン分極率に反比例、面積の2乗に比例して大きくなる。このため、ダンピング定数の低減、スピン分極率の上昇、面積の低減は、書き込み電流の低減に必要な技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−232499号公報
【特許文献2】特開2009−81314号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】2010 The Japan Society of Applied Physics Express 3 (2010) 053003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
書き込み電流の低減を図ることが可能な磁気抵抗素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態による磁気抵抗素子は、膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が可変である記録層と、膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が不変である参照層と、前記記録層及び前記参照層間に設けられた中間層と、前記記録層の前記中間層が設けられた面と反対面に設けられ、AlTiNを含有する下地層と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態に係るMTJ素子を示す断面図。
【図2】第1の実施形態に係る、種々の材料の下地層を用いた場合の熱擾乱耐性Δに対するダンピング定数αの大きさを示す図。
【図3】第1の実施形態に係る下地層のAl(100−X)TiXNのTi組成(X)に対するMR比(磁気抵抗効果比)を示す図。
【図4】第1の実施形態に係る下地層のAlとTiの濃度を変化させた場合のMTJ素子の磁気特性(M−H曲線)を示す図。
【図5】第1の実施形態に係る下地層のAl(100−X)TiXNのTi組成(X)に対するRA(抵抗)を示す図。
【図6】第1の実施形態に係る、Ti濃度が0%(Al50N50)の場合とTi濃度が20%((Al80Ti20)50N50)の場合における下地層の膜厚に対するRA(抵抗)を示す図。
【図7】第1の実施形態に係るMTJ素子の変形例を示す断面図。
【図8】第2の実施形態に係るMTJ素子を示す断面図。
【図9】第2の実施形態に係るTaからなる下部電極を用い、下地層のAlとTiの濃度を変化させた場合のMTJ素子の磁気特性(M−H曲線)を示す図。
【図10】第2の実施形態に係る下地層のAlとTiの濃度を変化させた場合の記録層の飽和磁化Ms(emu/cc)、記録層の保磁力Hc(Oe)及び磁気異方性磁界Hk(Oe)を示す図。
【図11】第2の実施形態に係るMTJ素子の変形例を示す断面図。
【図12】第3の実施形態に係るMTJ素子を示す断面図。
【図13】第3の実施形態に係る、Ta、Hf、WのB、C、N、O、メタル化合物からなる下地層を用いて、記録層の垂直磁気異方性エネルギーKu−eff(erg/cc)を評価した図。
【図13A】第3の実施形態に係る、各種下地層を用いた記録層のダンピング定数を示す図。
【図13B】第3の実施形態に係る、Ta下地を用いた場合とAlTiN下地を用いた場合の磁化反転電流を比較した図。
【図14】第3の実施形態に係るMTJ素子の変形例を示す断面図。
【図15】第4の実施形態に係るMTJ素子を示す断面図。
【図16】第4の実施形態に係る3層構造の記録層において、磁性層としてFeB、CoBを用い、非磁性層としてNb、Taを用いた場合のMTJ素子の磁気特性(M−H曲線)を示す図。
【図17】第4の実施形態に係るMTJ素子の変形例を示す断面図。
【図18】第5の実施形態に係るMTJ素子を示す断面図。
【図19】第5の実施形態に係るMTJ素子の変形例を示す断面図。
【図20】第5の実施形態に係るMTJ素子の変形例を示す断面図。
【図21】第5の実施形態に係るMTJ素子の変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。但し、図面は、模式的又は概念的なものであり、各図面の寸法及び比率等は、必ずしも現実のものと同一であるとは限らないことに留意すべきである。また、図面の相互間で同じ部分を表す場合においても、互いの寸法の関係や比率が異なって表される場合もある。特に、以下に示す幾つかの実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための磁気抵抗素子を例示したものであって、構成部品の形状、構造、配置等によって、本発明の技術思想が特定されるものではない。尚、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0010】
[1]第1の実施形態
[1−1]MTJ素子10の構成
図1を用いて、第1の実施形態に係る磁気抵抗素子であるMTJ素子10の構成について説明する。
【0011】
MTJ素子10は、下から順に、下部電極11、下地層12、記録層13、中間層14、参照層15及び上部電極16が積層されて構成されている。
【0012】
記録層13及び参照層15は、それぞれ、強磁性材料からなり、膜面に垂直な方向の磁気異方性を有する。記録層13及び参照層15の容易磁化方向は、膜面に対して垂直である。すなわち、MTJ素子10は、記録層13及び参照層15の磁化方向がそれぞれ膜面に対して垂直方向を向く、垂直磁化MTJ素子である。尚、容易磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと、最も内部エネルギーが低くなる方向である。一方、困難磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと、最も内部エネルギーが大きくなる方向である。
【0013】
記録層13は、磁化(又はスピン)方向が可変である(反転する)。参照層15は、磁化方向が不変である(固着している)。参照層15は、記録層13よりも十分大きな垂直磁気異方性エネルギーを持つように設定される。磁気異方性エネルギーの設定は、材料構成や膜厚を調整することで可能である。このようにして、記録層13の磁化反転電流を小さくし、参照層15の磁化反転電流を記録層13の磁化反転電流よりも大きくする。これにより、所定の書き込み電流に対して、磁化方向が可変の記録層13と磁化方向が不変の参照層15とを備えたMTJ素子10を実現できる。
【0014】
中間層14は、非磁性材料からなり、非磁性金属、非磁性半導体、絶縁体等を用いることができる。中間層14として絶縁体を用いた場合は、トンネルバリア層と呼ばれ、中間層14として金属を用いた場合は、スペーサ層と呼ばれる。
【0015】
下地層12は、記録層13の磁気異方性を向上させる機能を有する。記録層13は、記録層13に接する材料により、ダンピング定数(摩擦定数、減衰定数)が増加する場合がある。これは、スピンポンピング効果として知られている。下地層12は、このスピンポンピング効果を低減することで、記録層13のダンピング定数を低減する機能を有する。
【0016】
下地層12は、窒素化合物からなり、例えばAlTiNからなる。AlTiNからなる下地層12は、例えば、窒素(N2)とアルゴン(Ar)とを含む混合ガスを用いて、アルミニウム(Al)とチタン(Ti)をスパッタリングして成膜する。又は、窒素(N2)とアルゴン(Ar)とを含む混合ガスを用いて、アルミニウムチタン合金をスパッタリングしてもよい。又は、アルゴン(Ar)ガスを用いて、窒化アルミニウムチタンをスパッタリングして成膜することも可能である。下地層12の構成については、以下に詳説する。
【0017】
以下に、MTJ素子10の構成例について説明する。以下の説明において、元素に付記した括弧内の数値は、膜厚を示し、膜厚の単位は、Åである。“/”は、“/”の左に記載した元素が右に記載した元素の上に積層されていることを示す。
【0018】
下部電極11は、Ta(200)/Cu(400)/Ti(100)から構成される。下地層12は、AlTiN(10)から構成される。記録層13は、FeB(14)から構成される。中間層(トンネルバリア層)14は、MgO(10)から構成される。参照層15は、TbCoFe(120)/CoFeB(4)/Ta(3)/CoFeB(15)から構成される。上部電極16は、Ru(200)/Ta(50)から構成される。
【0019】
尚、記録層13は、FeBの代わりに、CoFeやCoFeBから構成されてもよい。この場合、Feの濃度をCoの濃度よりも高くすることが望ましい。さらに、記録層13は、Feから構成されてもよい。このような記録層13は、Feの濃度がCoの濃度より高いCoFe又はCoFeB、FeB又はFeからなる場合であっても、これらの材料中に他の元素を含有してもよく、これらの材料を主成分として含有していればよい。このような材料を用いることで、記録層13の垂直磁気異方性を向上させることができる。
【0020】
[1−2]窒素化合物からなる下地層12
従来、高い垂直磁気異方性を有し、0.01を下回るダンピング定数αを得る技術は、垂直磁化膜を記録層13に用いる上で最も大きな課題の一つとされ、世界中で開発が進められているが、この技術の実現は、困難であると考えられてきた。書込み電流は、ダンピング定数αに比例するため、ダンピング定数αを低減できれば、書込み電流を低減することが可能になる。
【0021】
しかし、本発明者らは、この課題を解決することが可能な構成を見出した。すなわち、記録層13の下地層12として、AlTiNやAlN等の窒素化合物を用いることで、高い熱擾乱耐性Δを保ちつつ、ダンピング定数αを下げることが可能であることを見出した。この点について、以下に詳説する。
【0022】
図2は、種々の材料の下地層12を用いた場合の熱擾乱耐性Δに対するダンピング定数αの大きさを示す。尚、ここでは、サイズφが40nmの記録層13を用い、下地層12の材料として、AlTiN、AlN、W、Nb、Mo、Hf、Zrを用いる。
【0023】
図2から分かるように、下地層12の材料として、AlTiNやAlNを用いることで、ダンピング定数αを0.008以下にすることが可能になる。つまり、下地層12の材料をメタルから窒化物(AlTiN、AlN)に変えることで、ダンピング定数αの大きさを低減しつつ、高い熱擾乱耐性Δが保持できている。
【0024】
また、窒素化合物は、熱による耐拡散性が強いため、下地層12と記録層13との拡散を抑制でき、MTJ素子10の磁気特性のばらつきを抑制することも可能となる。
【0025】
以上の点から、下地層12の材料として、窒素化合物を用いることの有効性が理解できる。尚、下地層12として有効な窒素化合物としては、AlTiN、AlN以外に、ZrN、NbN、HfN、TaN、WN、SiN等も考えられる。しかし、AlTiNは、3d電子の数が少なくかつ絶縁性を有し自由電子が少ないため、記録層13に対してスピン軌道相互作用が小さく、記録層13中に注入されたスピン情報が下地層12中で消失し難い。以上の理由から、窒素化合物の中でもAlTiN(AlN)を、下地層12として用いることにした。
【0026】
[1−3]下地層12のAlに対するTi濃度
本実施形態では、下地層12として、AlTiN(AlN)を用いるが、ここでは、Alに対するTi濃度(AlTiの組成)を変化させ、これに伴うMTJ素子10の種々の特性変化について説明する。尚、本明細書において、[Al(100−X)TiX]Nと記載することがあるが、例えば、Al80Ti20Nは、AlとTiの元素数比が80:20であり、AlTiと窒素の元素数比が1:1であることを意味する。
【0027】
図3は、下地層12のAl(100−X)TiXNのTi組成(X)に対するMR比(磁気抵抗効果比)を示す。ここで、図3の横軸は、Alに対するTi濃度(X)(vol.%)を示し、図3の縦軸は、MTJ素子10のMR比(%)を示している。尚、ここでは、AlとTiを合わせた組成に対して窒素を50at.%含有した下地層12を用いている。“vol.%”は、体積パーセント濃度を意味する。“at.%”は、原子パーセントを意味する。
【0028】
図3に示すように、Alに対するTi濃度が0%から30%まで増加すると、MR比は向上し、Alに対するTiの濃度が30%から100%へとさらに増加すると、MR比は劣化する。但し、AlNにTiを添加した場合は、AlN(Ti濃度が0%)よりも、MR比は向上することが分かる。
【0029】
ここで、MRAMデバイスの性能上、MR比は、少なくとも45%以上あることが望まれる。この観点に基づいた場合、Alに対するTi濃度は、10%以上50%以下であることが望ましい。つまり、下地層12がAl(100−X)TiXNである場合、10≦X≦50の関係を満たすことが望ましい。このように、Alに対するTi濃度がMR比に影響を与える理由は、以下の通りである。AlNにおいて、Alに対するTi濃度が10%より低い場合には、AlNの抵抗が上昇し、中間層14に対してAlNが直列抵抗として付加されるため、MR比が劣化する。一方、Ti濃度が50%より高い場合には、記録層13の磁気特性が劣化するため、MR比が劣化する。さらに、10%以上50%以下の範囲において、AlTiNがアモルファス構造をとるため、下地層12が平坦になり、下地層12上に堆積した記録層13及び中間層14が平坦になり、MR比が上昇する。
【0030】
また、AlTiNからなる下地層12中のAlTiとNとの比率は、1:1であることが望ましい。AlTiのNに対する含有量が多くなると、AlTiと記録層13が拡散しやすくなり、記録層13の垂直磁気異方性が劣化する。さらに、窒素とAlTiが1:1の組成で電子が閉殻状態となり、熱的に安定化する。このため、AlTiとNとの比率は、1:1の組成が望ましい。
【0031】
尚、下地層12は、Al、Ti及びN以外の元素を含んでいてもよく、AlTiNを主成分として含有していればよい。
【0032】
[1−4]MR比の劣化に対する考察
上述するように、下地層12のTi濃度が50%以上の場合や30%未満の場合には、MR比が劣化することが分かる。ここでは、この劣化の原因について考察した結果について説明する。
【0033】
まず、図4を用いて、下地層12のTi濃度が50%以上の場合に生じるMR比の劣化の原因について説明する。
【0034】
図4は、下地層12のAlとTiの濃度を変化させた場合のMTJ素子10の磁気特性(M−H曲線)を示す。ここで、図4の横軸は、膜面垂直方向の磁場(Oe)を示し、図4の縦軸は、記録層13の膜面垂直方向の磁化(emu)を示している。尚、図4中の“E”は、10を底とする指数関数を意味する。
【0035】
図4に示すように、Ti濃度が50%以上になると、磁気特性の横軸(磁場)がゼロの時、記録層13の磁化の残留磁化比が1未満となっている。つまり、Ti濃度が50%以上になると、記録層13の垂直磁気異方性が劣化し、記録層13の残留磁化比が1未満となり、記録層13と参照層15の磁化の方向を平行方向と反平行方向にすることが出来なくなったため、MR比が劣化したと考えられる。
【0036】
次に、図5を用いて、下地層12のTi濃度が30%未満の場合に生じるMR比の劣化の原因について説明する。
【0037】
図5は、下地層12のAl(100−X)TiXNのTi組成(X)に対するRA(抵抗)を示す。図5の横軸は、Alに対するTiの濃度(X)(vol.%)を示し、図5の縦軸は、MTJ素子10の抵抗RA(Ωum2)を示している。尚、ここでは、AlとTiを合わせた組成に対して窒素を50at.%含有した下地層12を用いている。
【0038】
図5に示すように、Alに対するTi濃度が30%未満になると、下地層12の抵抗RAが増加し、MTJ素子10の中間層14の抵抗RAに対して直列抵抗が高まるため、MR比が劣化すると考えられる。
【0039】
[1−5]AlNにTiを添加することの有効性
本実施形態では、下地層12として、AlNにTiを添加したAlTiNを用いることが望ましい。理由は、以下の通りである。
【0040】
まず、図3から分かるように、Ti濃度が0%の場合、すなわち、下地層12がAlNの場合は、Tiが添加されている場合より、MR比が非常に低い。このため、MR比を高めるには、下地層12として、AlNよりも、AlNにTiが添加されたAlTiNを用いるのがよいと言える。
【0041】
図6は、Ti濃度が0%(Al50N50)の場合とTi濃度が20%((Al80Ti20)50N50)の場合における下地層12の膜厚に対するRA(抵抗)を示す。図6の横軸は、下地層12の膜厚(Å)を示し、図6の縦軸は、下地層12の抵抗RA(Ωum2)を示している。
【0042】
図6より、Ti濃度が0%の場合(Al50N50)に対して、Ti濃度が20%の場合((Al80Ti20)50N50)は、下地層12の抵抗RAを1桁程度低減することが可能になることが分かる。(Al50N50)を用いた場合には中間層14であるMgOのRAが10Ωum2で、下地層12である(Al50N50)1nmのRAが10Ωum2以上であるため、中間層14に対して下地層12の抵抗が直列に付加されるためMR比は半減以下となる。一方、Alに対してTiを20%添加した((Al80Ti20)50N50)の場合においては((Al80Ti20)50N50)1nmのRAが1Ωum2となるため、中間層14に対する下地層12の抵抗が低減し、MR比の劣化を抑制することが可能になる。下地層12に(Al50N50)を用いた場合においてMRがほぼ数%となるのは下地層12の抵抗が中間層14に対して直列に付加されたためと、下地層12の絶縁化によるラフネス増が影響したものと考えられる。
【0043】
[1−6]効果
上記第1の実施形態では、下地層12として、スピンポンピング効果を低減できる窒素化合物(AlTiN)を用いている。これにより、記録層13のダンピング定数(摩擦定数)を低減できるため、MTJ素子10の書き込み電流を低減することが可能となる。
【0044】
また、第1の実施形態では、下地層12として、熱による耐拡散性が強い窒素化合物(AlTiN)を用いている。これにより、下地層12と記録層13との拡散を抑制でき、MTJ素子10の磁気特性のばらつきを抑制することが可能となる。
【0045】
また、AlTiNからなる下地層12において、Alに対するTi濃度を10%以上50%以下にすることで、デバイス特性上、有効なMR比を確保したMTJ素子10を実現できる。
【0046】
[1−7]変形例
第1の実施形態は、図7(a)及び(b)に示すMTJ素子10の構成に変形することも可能である。
【0047】
図7(a)に示すように、記録層13と下地層12との間に、薄い下地層17を設けてもよい。下地層17としては、例えば、膜厚1nm以下のイリジウム(Ir)が挙げられる。厚いIr層は、記録層13のダンピング定数を上昇させるため、Ir層の膜厚は1nm以下が望ましい。下地層17の材料としては、イリジウム(Ir)の他に、パラジウム(Pd)及び白金(Pt)等を用いることも可能である。但し、下地層17は、記録層13のダンピング定数を上昇させない程度の薄膜化が必要である。このような図7(a)の構成によれば、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上することができる。
【0048】
図7(b)に示すように、AlTiN層は、記録層13の下地層としてではなく、記録層13のキャップ層22として用いてもよい。つまり、MTJ素子10は、下から順に、下部電極11、参照層15、中間層14、記録層13、キャップ層22、上部電極16が順に積層されて構成されている。キャップ層22は、上述した下地層12と同じ材料で構成される。図7(b)のいわゆるボトムピン構造によれば、図1のいわゆるトップピン構造と同様に、書き込み電流の低減と、MTJ素子10の垂直磁気異方性の向上及び書き込み電流ばらつきの低減の効果を得ることができる。
【0049】
尚、図7(b)の変形例において、図7(a)の構成と同様に、記録層13とキャップ層22との間に、下地層17と同じ材料からなる磁性層を挿入してもよい。これにより、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上できる。
【0050】
[2]第2の実施形態
第2の実施形態は、下地層12に接する膜の材料をコントロールすることで、下地層12としてTiNを用いることを可能にした例である。
【0051】
[2−1]MTJ素子10の構成
図8を用いて、第2の実施形態に係るMTJ素子10の構成について説明する。
【0052】
第2の実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、下地層12としてTiNを用い、下部電極11としては、大気中に下部電極11を放置すると下部電極11の表面或いは全体が室温にて酸化物を形成する、酸化し易い材料を用いている点である。下地層12を成膜する下部電極11に酸化し易い材料を用いることで、下地層12と下部電極11の濡れ性が向上し、下部電極11の平坦性が向上し、結果として均一な下地層12が形成できる。
【0053】
下部電極11の酸化し易い材料としては、例えば、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Hf、Ta、W、Ge、Ga、B及びMgの中から選択された1つの元素を含むことが望ましい。
【0054】
ここで、TiNからなる下地層12を用いた場合、酸化し易い材料からなる層は、下部電極11であることに限定されない。つまり、酸化し易い材料からなる層は、下地層12の記録層13と反対側の面に直接接している層であればよい。例えば、下地層12と下部電極11との間に、酸化し易い材料からなる層を設けてもよい。
【0055】
[2−2]TiNからなる下地層12
図9は、Taからなる下部電極11を用い、下地層12のAlとTiの濃度を変化させた場合のMTJ素子10の磁気特性(M−H曲線)を示す。ここで、図9の横軸に記載した-200から200は膜面垂直方向に印加した磁場(Oe)を示し、−5000から5000、−7000から7000は面内方向に印加した磁場(Oe)を示し、図9の縦軸は、記録層13の膜面垂直及び面内方向の磁化(emu)を示している。実線が膜面直方向に磁場を印加した場合の磁気特性を示し、点線が膜面内方向に磁場を印加した場合の磁気特性を示している。
【0056】
図9に示すように、下地層12がTiNの場合も、磁気特性の横軸(磁場)がゼロの時、膜面垂直方向の磁化が減少していない。飽和磁化と残留磁化の比である残留磁化比がほぼ1となっている。つまり、下地層12がTiNであっても、Taからなる下部電極11を用いることで、垂直磁気特性を保持することが可能になり、結果としてAlNにTiを50%以上添加してもMR比の劣化が抑制できている。
【0057】
図10(a)乃至(c)は、下地層12のAlに対するTiの濃度を変化させた場合の記録層13の飽和磁化Ms(emu/cc)、記録層13の保磁力Hc(Oe)及び磁気異方性磁界Hk(Oe)を示す。
【0058】
図10(a)乃至(c)に示すように、Tiの濃度を高くすると、飽和磁化Msはほぼ一定で、記録層13の保磁力Hcは減少し、磁気異方性磁界Hkは増加していることが分かる。これは、スピン同士の交換結合が弱くなっている、又は、粒子間の交換結合が弱くなっているためと考えられる。
【0059】
[2−3]効果
上記第2の実施形態では、下地層12として、スピンポンピング効果を低減できる窒素化合物(TiN)を用いている。これにより、記録層13のダンピング定数(摩擦定数)を低減できるため、MTJ素子10の書き込み電流を低減することが可能となる。
【0060】
また、第2の実施形態では、下地層12として、熱による耐拡散性が強い窒素化合物(TiN)を用いている。これにより、下地層12と記録層13との拡散を抑制でき、MTJ素子10の磁気特性のばらつきを抑制することが可能となる。
【0061】
また、下地層12と接する下部電極11として、Ta等の酸化し易い材料を用いている。これにより、下地層12と記録層13のラフネスを小さくすることが可能になり、垂直磁気特性の劣化を抑制でき、有効なMR比を確保することができる。
【0062】
[2−4]変形例
第2の実施形態は、図11(a)及び(b)に示すMTJ素子10の構成に変形することも可能である。
【0063】
図11(a)に示すように、記録層13と下地層12との間に、薄い下地層17を設けてもよい。下地層17としては、例えば、膜厚1nm以下のイリジウム(Ir)が挙げられる。厚いIr層は、記録層13のダンピング定数を上昇させるため、Ir層の膜厚は1nm以下が望ましい。下地層17の材料としては、イリジウム(Ir)の他に、パラジウム(Pd)及び白金(Pt)等を用いることも可能である。但し、下地層17は、記録層13のダンピング定数を上昇させない程度の薄膜化が必要である。このような図11(a)の構成によれば、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上することができる。
【0064】
図11(b)に示すように、TiN層は、記録層13の下地層としてではなく、記録層13のキャップ層22として用いてもよい。つまり、MTJ素子10は、下から順に、下部電極11、参照層15、中間層14、記録層13、キャップ層22、上部電極16が順に積層されて構成されている。キャップ層22は、上述した下地層12と同じ材料で構成される。また、キャップ層22に直接接している上部電極16は、上述した酸化し易い材料で構成される。図11(b)のいわゆるボトムピン構造によれば、図8のいわゆるトップピン構造と同様に、書き込み電流の低減と、MTJ素子10の垂直磁気異方性の向上及び書き込み電流ばらつきの低減の効果を得ることができる。
【0065】
尚、図11(b)の変形例において、図11(a)の構成と同様に、記録層13とキャップ層22との間に、下地層17と同じ材料からなる磁性層を挿入してもよい。これにより、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上できる。
【0066】
また、本実施形態による材料で構成された下部電極11を、第1の実施形態に適用することも可能である。
【0067】
[3]第3の実施形態
第3の実施形態では、下地層12としてホウ化物を用いた例である。
【0068】
[3−1]MTJ素子10の構成
図12を用いて、第3の実施形態に係るMTJ素子10の構成について説明する。
【0069】
第3の実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、下地層12の材料としてホウ化物を用いている点である。具体的には、下地層12は、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Hf、Ta、W、Ge及びGaの中から選択された1つの元素を含むホウ化物で形成されている。
【0070】
[3−2]ホウ化物からなる下地層12
本実施形態の下地層12の材料であるAl、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Hf、Ta、W、Ge及びGaの中から選択された1つの元素を含むホウ化物は、d電子が少ない遷移金属Ti、V、Cr、Zr、Nb、Hf、Ta、W、或いは非遷移金属Al、Si、Ge、Gaで形成される。このため、ダンピング定数が低減でき、さらに前記材料をホウ化物化することで自由電子を少なくし、記録層13と下地層12との間で生じるスピン軌道相互作用を低減できる。結果として、ダンピング定数の低減に有効となる。
【0071】
図13は、Ta、Hfのホウ化物(TaB2、HfB2)(図中「B」と記載)、炭化物(TaC、HfC)(図中「C」と記載)、窒化物(TaN、HfN)(図中「N」と記載)、酸化物(TaO、HfO)(図中「O」と記載)、Ta、Hf、Wのメタル(Ta、Hf、Wの単体金属)(図中「metal」と記載)からなる下地層12を用いて、記録層13の垂直磁気異方性エネルギーKu−eff(erg/cc)を評価したものである。図13から分かるように、B化合物(TaB、HfB)からなる下地層12を用いることで、記録層13の高い垂直磁気異方性を得ることができている。
【0072】
図13Aは、HfとAlTiに対して酸化、ホウ化、窒化、及び窒化とホウ化の両方用いて化合物化させた場合の各種下地層12を用いた記録層13のダンピング定数を示す。
【0073】
metal下地で比較すると、HfよりAlTiの方がダンピング定数αは小さい。これは、下地材料として軽元素を用いたこと、及び、Hfが有する5d電子をTiの3d電子に替えることで下地と記録層のスピン軌道相互作用が低減したこと、が要因であると考えられる。つまり、窒素やホウ素と混合させるmetal材は、3d遷移金属や、非遷移金属であることが望ましい。
【0074】
一方、5d遷移金属を用いても、ホウ化物や窒化物を用いれば、ダンピング定数の低減が可能になる。酸化物やメタルは、ダンピング定数が高いが、ホウ化物、窒化物及びホウ化窒素化物を用いると、ダンピング定数αが0.01以下となり、十分なダンピング定数の低減が可能となる。metalの場合において、ダンピング定数αが0.01以上と大きな値となるのは、下地と記録層の拡散、Hfが有するスピンポンピング効果と考えられる。一方、窒化、ホウ化すると、Hfが有するスピンが消失し、記録層と下地層との間のスピン軌道相互作用が低減する。結果として、スピンポンピング効果が低減し、ダンピング定数の低減が可能となる。
【0075】
さらに、ホウ化物は、図13より高い垂直磁気異方性を有するため、低ダンピング定数と高い記録保持耐性を有する記録層の製造が可能となる。
【0076】
表1は、HfBを下地に用いた場合とAlTiNを下地に用いた場合の各種特性を示す。
【0077】
HfB下地を用いることで、高いMR比を得ることが可能になる。これは、記録層にB系材料を用いているため、下地材料に同種の元素を混入させると、下地層と記録層間の界面エネルギーが低減し、記録層が平坦に製造できるようになる。結果として、トンネル障壁層が平坦に形成でき、高いMR比を得ることが可能になったと考えられる。
【表1】
【0078】
図13Bは、Ta下地を用いた場合とAlTiN下地を用いた場合の磁化反転電流を比較した図である。
【0079】
MRは、同程度の膜で比較しているため、磁化反転電流の差は、ダンピング定数の差が大きいと考えられる。Ta下地に比べAlTiN下地を用いることで、磁化反転電流は、半減以下になっていることが分かる。Ta下地の場合は、記録層と下地層が拡散による記録層のダンピング定数増加の影響と、下地層自体のスピンポンピング効果の影響で、ダンピング定数が上昇し、結果として書込み電流が上昇する。AlTiN下地は、上記拡散と、スピンポンピング効果を抑制できるので、結果として、ダンピング定数が低減され、書込み電流が低下する。つまり、metal下地より窒化物下地を用いた方が、metal下地に比べ、同程度のMRを得ることが可能で、さらに磁化反転電流の低減及び書込み電流の低減が可能となる。また、ホウ化物下地は、Ta等のmetal下地に比べ、ダンピング定数は小さくでき、かつ高いMR比を得ることが可能になる。
【0080】
以上の点から、ホウ化物からなる下地層12は、ダンピング定数を低減しつつ、記録層13の垂直磁気異方性を向上させることができると言える。
【0081】
[3−3]効果
上記第3の実施形態では、下地層12としてホウ化物を用いている。これにより、ダンピング定数を低減することで、書き込み電流の低減を図ることができる。さらに、記録層13の垂直磁気異方性も高めることができる。
【0082】
[3−4]変形例
第3の実施形態は、図14(a)及び(b)に示すMTJ素子10の構成に変形することも可能である。
【0083】
図14(a)に示すように、記録層13と下地層12との間に、薄い下地層17を設けてもよい。下地層17としては、例えば、膜厚1nm以下のイリジウム(Ir)が挙げられる。厚いIr層は、記録層13のダンピング定数を上昇させるため、Ir層の膜厚は1nm以下が望ましい。下地層17の材料としては、イリジウム(Ir)の他に、パラジウム(Pd)及び白金(Pt)等を用いることも可能である。但し、下地層17は、記録層13のダンピング定数を上昇させない程度の薄膜化が必要である。このような図14(a)の構成によれば、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上することができる。
【0084】
図14(b)に示すように、ホウ化物層は、記録層13の下地層としてではなく、記録層13のキャップ層22として用いてもよい。つまり、MTJ素子10は、下から順に、下部電極11、参照層15、中間層14、記録層13、キャップ層22、上部電極16が順に積層されて構成されている。キャップ層22は、上述した下地層12と同じ材料で構成される。図14(b)のいわゆるボトムピン構造によれば、図12のいわゆるトップピン構造と同様に、書き込み電流の低減と、MTJ素子10の垂直磁気異方性を向上することができる。
【0085】
尚、図14(b)の変形例において、図14(a)の構成と同様に、記録層13とキャップ層22との間に、下地層17と同じ材料からなる磁性層を挿入してもよい。これにより、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上できる。
【0086】
[4]第4の実施形態
第4の実施形態では、記録層13を所定の材料を用いた積層構造にすることで、記録層13の垂直磁気異方性を向上させた例である。
【0087】
[4−1]MTJ素子10の構成
図15は、第4の実施形態に係るMTJ素子10の構成例を示す断面図である。
【0088】
図15に示すように、記録層13は、下地層12側の磁性層13Aと、中間層14側の磁性層13Cと、磁性層13A及び磁性層13C間に設けられた非磁性層13Bと、を有する積層構造である。
【0089】
ここで、磁性層13Aは、Coの濃度がFeの濃度より高いCoFeが望ましい。これにより、記録層13の垂直磁気異方性を向上させることができる。ここで、CoFeからなる磁性層13AにおけるCoの濃度は、Co>50at.%が好ましく、Co≧90at.%がより好ましい。Coの濃度が50at.%より多ければ、70%以上のMR比が得られ、Coの濃度が90at.%以上であれば、100%以上のMR比が得られるからである。また、磁性層13Aは、Coの濃度がFeの濃度より高いCoFeB、Co、CoB又はFeBでもよい。
【0090】
磁性層13Cは、Feの濃度がCoの濃度より高いCoFeBが望ましい。これにより、記録層13の垂直磁気異方性を向上させることができる。これは、鉄(Fe)の結晶構造がbcc(body-centered cubic)構造であるのに対して、コバルト(Co)の結晶構造はhcp(hexagonal close-packed)構造であるので、コバルト(Co)より鉄(Fe)の方が、中間層(MgO)14に対する結晶整合性が良いことに起因する。また、磁性層13Cは、FeBでもよい。
【0091】
上記のような観点から、記録層13の下地層12側の磁性層13Aは、CoFeをCoが多い組成に、或いは、CoB、FeBに調整し、記録層13の中間層14側の磁性層13Cは、CoFeBをFeが多い組成に調整することで、高いMR比を有するMTJ素子10を形成することができる。或いは、磁性層13A及び磁性層13CがCoFeを主成分とする磁性層の場合、磁性層13CのFeの濃度を磁性層13AのFeの濃度より高くすることで、記録層13の垂直磁気異方性を向上させることができる。
【0092】
非磁性層13Bは、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、シリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の中から選択された1つの元素を含む材料を用いてもよい。この非磁性層13Bの材料は、単層構造の記録層13(図1等)や積層構造の記録層13の磁性層13A及び13C(図15等)に対して、添加材として用いてもよい。このような非磁性層13Bは、記録層13の飽和磁化Msを低減させ、隣接ビット間の漏れ磁場干渉を抑制したり、反磁界を低減させ、熱擾乱耐性を向上させたりすることが可能になる。
【0093】
磁性層13C/非磁性層13B/磁性層13Aの具体例としては、CoFeB(8)/Ta(3)/CoFe(5)、FeB/Ta/FeB、FeB/Ta/CoB、FeB/Nb/FeB、FeB/Nb/CoB、FeB/Ta/Co、FeB/Ta/Co等が挙げられる。
【0094】
尚、磁性層13A及び磁性層13C間に挟む非磁性層13Bの膜厚を増加させると、磁性層13A及び磁性層13C内でのスピン散乱が増加し、書き込み電流の増加を引き起こす。このため、非磁性層13Bの膜厚は、1nm以下が好ましい。
【0095】
また、記録層13は、図15の非磁性層13Bを無くし、磁性層13A及び磁性層13Cの2層で構成してもよい。例えば、磁性層13Aは、CoFe又はCoからなり、磁性層13Cは、CoFeB又はFeBからなる。非磁性層13Bは、磁性層の垂直磁気異方性を増加させることができ、かつMR比を増加させることができるが、逆にダンピング定数の増加を引き起こす場合がある。非磁性層13Bを無くすことで、磁性層のダンピング定数を小さくし、書き込み電流の低減を図ることが可能である。尚、非磁性層13Bを除いたことで生じる記録層13の垂直磁気異方性の劣化は、記録層13を構成する磁性層13A及び磁性層13Cの組成を調整することで防ぐことが可能である。さらに、記録層13の垂直磁気特性及びMR比は、中間層14側の磁性層13CのFeの濃度を下地層12側の磁性層13AのFeの濃度より多くすることで、向上させることが可能である。例えば、記録層13として、磁性層13CのFeの濃度が磁性層13AのFeの濃度より高いCoFeB(8)/CoFe(5)を用いたり、FeB(8)/CoFe(5)、FeCoB(8)/Co(5)、又はFeB(8)/Co(5)を用いたりすることで、記録層13の垂直磁気特性及びMR比を向上させることが可能である。
【0096】
尚、上述する磁性層13A、非磁性層13B及び磁性層13Cの材料は、上記の材料中にこの材料以外の元素を含有してもよく、上記の材料を主成分として含有していればよい。
【0097】
このような第4の実施形態における下地層12の材料としては、上記第1乃至第3の実施形態の下地層12と同様の材料を用いることができる。
【0098】
[4−2]積層構造の記録層13
図16は、3層構造の記録層13において、磁性層13AとしてFeB、CoBを用い、非磁性層13BとしてNb、Taを用いた場合のMTJ素子10の磁気特性(M−H曲線)を示す。図16の横軸に記載した−200から200は膜面垂直方向に印加した磁場(Oe)を示し、−7000から7000とは面内方向に印加した磁場(Oe)を示し、図16の縦軸は、記録層13の膜面垂直及び面内方向の磁化(emu)を示している。実線が膜面直方向に磁場を印加した場合の磁気特性を示し、点線が膜面内方向に磁場を印加した場合の磁気特性を示している。ここで、下地層12は、AlTiNからなり、磁性層13Cは、CoFeBからなり、中間層14は、MgOからなる。
【0099】
図16に示すように、下地層12としてAlTiNを用いた場合、記録層13の磁性層13C/非磁性層13B/磁性層13Aを、(a)CoFeB/Nb/FeB、(b)CoFeB/Nb/CoB、(c)CoFeB/Ta/FeB、(d)CoFeB/Ta/CoBと積層構造にすることで、いずれも高いHk(7k)を得ることができる。
【0100】
[4−3]効果
上記第4の実施形態によれば、第1乃至第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0101】
さらに、第4の実施形態では、下地層12上に設けられる記録層13を、上述した積層構造で構成する。これにより、MTJ素子10のMR比を向上させることができるとともに、記録層13の垂直磁気特性を向上させることができる。
【0102】
[4−4]変形例
第4の実施形態は、図17(a)及び(b)に示すMTJ素子10の構成に変形することも可能である。
【0103】
図17(a)に示すように、記録層13と下地層12との間に、薄い下地層17を設けてもよい。下地層17としては、例えば、膜厚1nm以下のイリジウム(Ir)が挙げられる。厚いIr層は、記録層13のダンピング定数を上昇させるため、Ir層の膜厚は1nm以下が望ましい。下地層17の材料としては、イリジウム(Ir)の他に、パラジウム(Pd)及び白金(Pt)等を用いることも可能である。但し、下地層17は、記録層13のダンピング定数を上昇させない程度の薄膜化が必要である。このような図17(a)の構成によれば、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上することができる。
【0104】
図17(b)に示すように、AlTiN層、TiN層又はホウ化物層は、記録層13の下地層としてではなく、記録層13のキャップ層22として用いてもよい。つまり、MTJ素子10は、下から順に、下部電極11、参照層15、中間層14、記録層13、キャップ層22、上部電極16が順に積層されて構成されている。キャップ層22は、上述した下地層12と同じ材料で構成される。図17(b)のいわゆるボトムピン構造によれば、図15のいわゆるトップピン構造と同様に、書き込み電流の低減と、MTJ素子10の垂直磁気異方性の向上及び書き込み電流ばらつきの低減の効果を得ることができる。
【0105】
尚、図17(b)の変形例において、図17(a)の構成と同様に、記録層13とキャップ層22との間に、下地層17と同じ材料からなる磁性層を挿入してもよい。これにより、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上できる。
【0106】
[5]第5の実施形態
第5の実施形態は、参照層15から漏れる磁場を低減する機能を有するバイアス層31を新たに追加し、この漏れ磁場に起因する記録層13のスイッチング磁場のシフトを防ぐ。
【0107】
[5−1]MTJ素子10の構成
図18を用いて、第5の実施形態に係るMTJ素子10の構成について説明する。
【0108】
第5の実施形態のMTJ素子10は、図1の構成に、バイアス層31及び非磁性層32が新たに追加されている。
【0109】
バイアス層31は、参照層15から漏れる磁場の影響で記録層13のスイッチング磁場がシフトし、参照層15と記録層13との磁化配列が平行状態と反平行状態との間で熱安定性が変化するのを防ぐために設けられている。バイアス層31は、参照層15と同じ垂直磁化材料を用いることが可能である。
【0110】
非磁性層32は、バイアス層31及び参照層15の磁化方向が反平行となる反強磁性結合させることが望ましい。また、非磁性層32は、バイアス層31と参照層15とが熱工程によって混ざらない耐熱性、及びバイアス層31を形成する際の結晶配向を制御する機能を有している。非磁性層32としては、ルテニウム(Ru)、銀(Ag)、又は銅(Cu)からなる非磁性金属を用いることができる。
【0111】
また、バイアス層31と非磁性層32との間、及び参照層15と非磁性層32との間にそれぞれ、CoFe、Co、Fe、CoFeB、CoB、又はFeB等からなる磁性層を挟むようにしてもよい。これにより、非磁性層32を介したバイアス層31及び参照層15の反強磁性結合を強化することが可能となる。
【0112】
尚、第5の実施形態では、下地層12の材料としては、上記第1乃至第3の実施形態の下地層12と同様の材料を用いることができる。また、記録層13は、第4の実施形態と同様の構成にすることも可能である。
【0113】
[5−2]効果
上記第5の実施形態によれば、第1乃至第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0114】
さらに、第5の実施形態では、バイアス層31によって参照層15から漏れる磁場を低減することができる。これにより、この漏れ磁場に起因する記録層13のスイッチング磁場がシフトするのを低減できる。この結果、MTJ素子10間での記録層13の反転磁界のばらつきを低減することが可能となる。また、バイアス層31を設けることで、参照層15の磁化を一方向に強固に固定することができる。
【0115】
[5−3]変形例
第5の実施形態は、図19から図21(a)及び(b)に示すMTJ素子10の構成に変形することも可能である。
【0116】
図19に示すように、バイアス層31は、下部電極11と下地層12との間に設けてもよい。この場合、バイアス層31の磁化の方向を参照層15に対して逆向きに設置することによって、参照層15から漏れる磁場を低減することができる。
【0117】
図20(a)及び(b)に示すように、記録層13と下地層12との間に、薄い下地層17を設けてもよい。下地層17としては、例えば、膜厚1nm以下のイリジウム(Ir)が挙げられる。厚いIr層は、記録層13のダンピング定数を上昇させるため、Ir層の膜厚は1nm以下が望ましい。下地層17の材料としては、イリジウム(Ir)の他に、パラジウム(Pd)及び白金(Pt)等を用いることも可能である。但し、下地層17は、記録層13のダンピング定数を上昇させない程度の薄膜化が必要である。このような図20(a)及び(b)の構成によれば、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上することができる。
【0118】
図21(a)及び(b)に示すように、AlTiN層、TiN層又はホウ化物層は、記録層13の下地層としてではなく、記録層13のキャップ層22として用いてもよい。つまり、図21(a)のMTJ素子10は、下から順に、下部電極11、バイアス層31、非磁性層32、参照層15、中間層14、記録層13、キャップ層22、上部電極16が順に積層されて構成されている。図21(b)のMTJ素子10は、下から順に、下部電極11、参照層15、中間層14、記録層13、キャップ層22、バイアス層31、上部電極16が順に積層されて構成されている。キャップ層22は、上述した下地層12と同じ材料で構成される。図21(a)及び(b)の構造によれば、図18の構造と同様に、書き込み電流の低減と、MTJ素子10の垂直磁気異方性の向上及び書き込み電流ばらつきの低減の効果を得ることができる。
【0119】
尚、図21(a)及び(b)の変形例において、図20(a)及び(b)の構成と同様に、記録層13とキャップ層22との間に、下地層17と同じ材料からなる磁性層を挿入してもよい。これにより、記録層13の垂直磁気異方性をさらに向上できる。
【0120】
[6]第6の実施形態
第6の実施形態では、酸素が含有されている下地層12を用いることで、MR比の向上を図る。
【0121】
[6−1]下地層12の構成及び製造方法
第6の実施形態では、下部電極11上に下地層12が形成される際、次のような製造方法が実施される。
【0122】
例えば、下部電極11としてのTa層を5nm成膜し、Ta層の表面に対しラジカル酸化処理が100秒行われ、TaO層が形成される。次に、TaO層の表面のエッチング処理が行われる。次に、下地層12としてのAlTiN層が成膜される。このような製造方法の実施により、酸素が含有された下地層12(例えば、AlTiNO層)が形成される。
【0123】
第6の実施形態では、上述するように、下地層12の成膜前に酸化処理を行い、酸化物を形成することに限定されない。例えば、下部電極11が成膜された後、この下部電極11の表面に、窒化処理、ホウ化処理及び炭化処理のいずれかの処理が実施され、窒化物、ホウ化物又は炭化物が形成さてもよい。この場合、下地層12には、N、B又はCが含有される。従って、本実施形態では、下地層12は、O、N、B及びCの中から選択された1つの元素を含有していてもよい。さらに、下地層12及び下部電極11のうち少なくとも一方は、O、N、B及びCの中から選択された1つの元素を含有していてもよい。
【0124】
尚、第6の実施形態における下地層12の材料としては、上記第1乃至第3の実施形態の下地層12と同様の材料を用いることができる。また、記録層13は、第4の実施形態と同様の構成にすることも可能である。また、第5の実施形態のようにバイアス層を設けることも可能である。さらに、各実施形態の変形例を適用することも可能である。
【0125】
[6−2]効果
第6の実施形態によれば、上記第1乃至第5の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0126】
さらに、第6の実施形態では、下地層12の成膜前に、酸化処理、窒化処理、ホウ化処理及び炭化処理のいずれかの処理を施すことにより、酸素、窒素、ホウ素又は炭素を含有する下地層12を形成することができる。これにより、下地層12であるAlTiN層の成膜時の界面エネルギーを低減することができ、下地層12の平坦性を向上することが可能になる。さらに、TaO層の表面をエッチング処理することにより、下部電極11の平坦性を向上することが可能になる。結果として、記録層13および中間層14の平坦性を向上できる。このため、MR比をさらに向上することができる。
【0127】
以上のように、上述した実施形態の磁気抵抗素子によれば、MTJ素子10の下地層12を、ダンピング定数を低減できる構成にする。これにより、書き込み電流の低減を図ることが可能である。
【0128】
尚、本明細書中における「窒化物」、「ホウ化物」、「炭化物」、「酸化物」は、B、N、O、又はCが混入してもよく、「窒素含有物」、「ホウ素含有物」、「炭素含有物」、「酸素含有物」であればよい。
【0129】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0130】
10…MTJ素子、11…下部電極、12…下地層、13…記録層、13A…磁性層、13B…非磁性層、13C…磁性層、14…中間層、15…参照層、16…上部電極、17…下地層、22…キャップ層、31…バイアス層、32…非磁性層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が可変である記録層と、
膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が不変である参照層と、
前記記録層及び前記参照層間に設けられた中間層と、
前記記録層の前記中間層が設けられた面と反対面に設けられ、AlTiNを含有する下地層と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項2】
膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が可変である記録層と、
膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が不変である参照層と、
前記記録層及び前記参照層間に設けられた中間層と、
前記記録層の前記中間層が設けられた面と反対面に設けられ、TiNからなる下地層と、
前記下地層の前記記録層が設けられた面と反対面に設けられ、前記下地層の前記反対面と直接接し、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Hf、Ta、W、Ge、Ga、B及びMgの中から選択された1つの元素を含む下部電極と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項3】
膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が可変である記録層と、
膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が不変である参照層と、
前記記録層及び前記参照層間に設けられた中間層と、
前記記録層の前記中間層が設けられた面と反対面に設けられ、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Hf、Ta、W、Ge及びGaの中から選択された1つの元素を含むボロンからなる下地層と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記記録層は、Feの濃度がCoの濃度より高いCoFe又はCoFeB、FeB又はFeを含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記記録層は、Nb、Hf、W、Zr、Ti、Al、Si、Ta、Y及びLaの中から選択された1つの元素を含有する非磁性層を有する、又は、Nb、Hf、W、Zr、Ti、Al、Si、Ta、Y及びLaの中から選択された1つの元素を含有する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記記録層は、
前記下地層側に設けられ、FeB、CoB又はCoの濃度がFeの濃度より高いCoFeBを含有する第1の磁性層と、
前記中間層側に設けられ、FeB、Feの濃度がCoの濃度より高いCoFeBを含有する第2の磁性層と、
を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項7】
前記下地層の前記記録層が設けられた面と反対面に設けられ、前記下地層の前記反対面と直接接し、Mg、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Hf、Ta、W、Ge及びGaの中から選択された1つの元素を含む下部電極をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項8】
前記下地層のAlTiN中のAlTiとNとの比率は、1:1であることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項9】
前記下地層がAl(100−X)TiXNである場合、10≦X≦50の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項10】
前記下地層及び前記下部電極のうち少なくとも一方は、O、N、B及びCの中から選択された1つの元素を含有することを特徴とする請求項1乃至3、7のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項1】
膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が可変である記録層と、
膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が不変である参照層と、
前記記録層及び前記参照層間に設けられた中間層と、
前記記録層の前記中間層が設けられた面と反対面に設けられ、AlTiNを含有する下地層と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項2】
膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が可変である記録層と、
膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が不変である参照層と、
前記記録層及び前記参照層間に設けられた中間層と、
前記記録層の前記中間層が設けられた面と反対面に設けられ、TiNからなる下地層と、
前記下地層の前記記録層が設けられた面と反対面に設けられ、前記下地層の前記反対面と直接接し、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Hf、Ta、W、Ge、Ga、B及びMgの中から選択された1つの元素を含む下部電極と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項3】
膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が可変である記録層と、
膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、磁化方向が不変である参照層と、
前記記録層及び前記参照層間に設けられた中間層と、
前記記録層の前記中間層が設けられた面と反対面に設けられ、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Hf、Ta、W、Ge及びGaの中から選択された1つの元素を含むボロンからなる下地層と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記記録層は、Feの濃度がCoの濃度より高いCoFe又はCoFeB、FeB又はFeを含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記記録層は、Nb、Hf、W、Zr、Ti、Al、Si、Ta、Y及びLaの中から選択された1つの元素を含有する非磁性層を有する、又は、Nb、Hf、W、Zr、Ti、Al、Si、Ta、Y及びLaの中から選択された1つの元素を含有する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記記録層は、
前記下地層側に設けられ、FeB、CoB又はCoの濃度がFeの濃度より高いCoFeBを含有する第1の磁性層と、
前記中間層側に設けられ、FeB、Feの濃度がCoの濃度より高いCoFeBを含有する第2の磁性層と、
を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項7】
前記下地層の前記記録層が設けられた面と反対面に設けられ、前記下地層の前記反対面と直接接し、Mg、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Hf、Ta、W、Ge及びGaの中から選択された1つの元素を含む下部電極をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項8】
前記下地層のAlTiN中のAlTiとNとの比率は、1:1であることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項9】
前記下地層がAl(100−X)TiXNである場合、10≦X≦50の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項10】
前記下地層及び前記下部電極のうち少なくとも一方は、O、N、B及びCの中から選択された1つの元素を含有することを特徴とする請求項1乃至3、7のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2013−48210(P2013−48210A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−105812(P2012−105812)
【出願日】平成24年5月7日(2012.5.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年5月7日(2012.5.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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