説明

磁気検出素子

【課題】 特に、簡単な構造で、直流抵抗値(DCR)の上昇の抑制と、磁気的なトラック幅(Mg−Tw)の狭小化と、ノイズ発生の抑制とを可能とした磁気検出素子を提供することを目的としている。
【解決手段】 積層体23の両側に軟磁性材料で形成された電極層35と、前記電極層35と積層構造を成し、前記電極層35との間で交換結合磁界を生じさせる反強磁性層34を形成する。前記電極層35の少なくとも一部は、外部磁界に対しハイト方向に磁化成分を有する。これにより、前記電極層35の膜厚を厚く形成し、直流抵抗値の上昇を抑制した上で、磁気的なトラック幅の狭小化を適切に図ることができる。さらに、前記反強磁性層との交換結合磁界によって前記電極層35が外部磁界に敏感に反応するのを抑制し、外部磁界に対する前記電極層の磁化変動を小さくでき、これによって、ノイズの発生を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CIP(Current In the Plane)型の磁気検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
図2は従来のCIP型磁気検出素子を記録媒体との対向面と平行な方向から切断し、その切断面を示す部分断面図である。
【0003】
符号1は下部シールド層であり、前記下部シールド層1の上に絶縁材料の下部ギャップ層2が形成される。
【0004】
前記下部ギャップ層2上には、下からシード層3、反強磁性層4、固定磁性層5、非磁性材料層6、フリー磁性層7及び保護層8の順に積層された積層体9が形成される。前記積層体9のトラック幅方向(図示方向)の両側には下からバイアス下地層10、ハードバイアス層11、及び電極層12が形成される。
【0005】
図2に示すように、前記電極層12上から積層体9上にかけて上部ギャップ層13、及び上部シールド層14が形成される。
【0006】
下部シールド層1、上部シールド層14は例えばNiFe合金で形成される。下部ギャップ層2及び上部ギャップ層13は例えばAlで形成される。シード層3は例えばNiFeCr合金で形成され、反強磁性層4は例えばPtMn合金で形成され、固定磁性層5は例えばCoFe合金で形成され、非磁性材料層6は例えばCuで形成され、フリー磁性層7は例えばNiFe合金で形成され、保護層8は例えばTaで形成される。また、前記バイアス下地層10は例えばCrで形成され、ハードバイアス層11は例えばCoPt合金で形成され、電極層12は例えばAuで形成される。
【0007】
図2に示す従来のCIP型磁気検出素子の問題点は、積層体9のトラック幅方向(図示X方向)の両側の下部シールド層1と上部シールド層14間の膜厚方向(図示Z方向)の間隔T1が非常に広くなっているため、記録媒体上からの漏れ磁界がトラック幅方向(図示X方向)に広がると、再生にじみと称される磁気的なトラック幅(Mg−Tw;実効的な再生トラック幅とも言う)の増大を招くことであった。
【0008】
このような問題点を解決するため従来では、例えば、下記の特許文献1の図5に示すように、前記積層体9のトラック幅方向の近傍に形成される電極層の膜厚を薄く形成し、これによって前記間隔T1を小さくして、磁気的なトラック幅(Mg−Tw)の狭小化を図ることがなされていた。
【特許文献1】特開2002−280643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記電極層12の膜厚を薄くすると、直流抵抗値(DCR)が増大するといった問題があった。
【0010】
特許文献1では、直流抵抗値の上昇の抑制のために、前記電極層12上に、トラック幅方向(図示X方向)に広い間隔を有する電極層をもう一層、重ねて形成し、これにより、前記直流抵抗値の上昇の抑制を図っている。
【0011】
しかし、図2に示すように、積層体9の両側近傍から厚い膜厚で電極層12が形成されている形態のものに比べて、直流抵抗値は増大し、再生出力の低下など再生特性の悪化を招いた。特に、トラック幅(光学的なトラック幅Tw)が狭小化されるほど、再生特性に対する直流抵抗値の増大の影響は大きくなるため、できる限り、電極層12は従来と同様、厚い膜厚で形成して、直流抵抗値を小さくすることが必要であった。
【0012】
また、前記電極層12の膜厚を薄くして、前記上部シールド層14と下部シールド層1間の間隔T1を狭くすると、前記フリー磁性層7と前記上部シールド層14とが積層体9のトラック幅方向(図示X方向)の両側近傍において近づくため、前記上部シールド層14の磁化制御が何もされていない場合、前記上部シールド層14が外部磁界により大きく磁化変動したときに、これがノイズ発生の原因となる場合があった。特に光学的なトラック幅Twが狭小化されればされるほど、ノイズが発生しやすくなっていた。
【0013】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、簡単な構造で、直流抵抗値(DCR)の上昇の抑制と、磁気的なトラック幅(Mg−Tw)の狭小化と、ノイズ発生の抑制とを可能とした磁気検出素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明における磁気検出素子は、
固定磁性層、非磁性材料層、及びフリー磁性層を有する積層体と、
前記積層体のトラック幅方向の両側に軟磁性材料で形成された電極層と、前記電極層と積層構造を成し、前記電極層との間で交換結合磁界を生じさせる反強磁性層と、を有し、
前記電極層の少なくとも一部は、外部磁界に対しハイト方向に磁化成分を有することを特徴とするものである。
【0015】
本発明では、前記電極層を軟磁性材料で形成している。これにより、前記電極層の膜厚を厚く形成して、直流抵抗値(DCR)の上昇を抑制した上で、磁気的なトラック幅(Mg−Tw)の狭小化を適切に図ることができる。
【0016】
また本発明では、前記電極層と反強磁性層とが積層構造を成し、前記電極層と反強磁性層との間で交換結合磁界を生じさせることで、前記電極層が外部磁界により大きく磁化変動するのを抑制する。ただし、前記電極層全体が磁化固定されてしまっては、もはや前記電極層はシールド層として適切に機能しなくなるので、本発明では、前記電極層の少なくとも一部は、外部磁界に対しハイト方向に磁化成分を有する構造となっている。
【0017】
このように本発明では、前記電極層の少なくとも一部は、外部磁界に対しハイト方向に磁化成分を有するようにし、これにより、トラック幅方向に広がる外部磁界を前記電極層により適切に吸収でき、磁気的なトラック幅(Mg−Tw)の狭小化を図れるとともに、前記反強磁性層との交換結合磁界によって前記電極層が外部磁界に敏感に反応するのを抑制し、外部磁界に対する前記電極層の磁化変動を小さくでき、これによって、ノイズの発生を抑制でき、さらに、前記電極層の膜厚を従来と同様に厚く形成できるから、直流抵抗値の増大を適切に抑制することが可能である。
【0018】
また本発明では、前記電極層の下面は、前記フリー磁性層の上面と膜厚方向において同位置か、あるいはそれよりも上側に設けられていることが好ましい。これにより、前記ノイズの発生をより効果的に抑制できる。
【0019】
また本発明では、前記積層体のトラック幅方向の両側には、前記フリー磁性層の磁化制御のためのバイアス層が設けられ、前記バイアス層の上に前記電極層が設けられ、前記バイアス層と前記電極層との間に磁気分離層が設けられることが好ましい。これにより、前記電極層が前記バイアス層からのバイアス磁界の影響を受けるのを抑制でき、前記電極層を適切にシールド層として機能させることができ、磁気的なトラック幅(Mg−Tw)の狭小化と、ノイズ発生の抑制との双方をより満足させることができる。
【0020】
また、前記磁気分離層は、前記フリー磁性層と前記電極層間に介在することが好ましい。これにより、前記ノイズの発生をより効果的に抑制できる。
【0021】
また本発明では、下から前記バイアス層、前記磁気分離層、前記反強磁性層及び前記電極層の順に積層されることが、前記フリー磁性層を適切に磁化制御しやすく、また、磁気的なトラック幅(Mg−Tw)の狭小化と、ノイズ発生の抑制とをより満足させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、積層体のトラック幅方向の両側に軟磁性材料で形成された電極層と、前記電極層と積層構造を成し、前記電極層との間で交換結合磁界を生じさせる反強磁性層と、を有し、前記電極層の少なくとも一部は、外部磁界に対しハイト方向に磁化成分を有する。
【0023】
これにより、前記電極層の膜厚を厚く形成し、直流抵抗値(DCR)の上昇を抑制した上で、磁気的なトラック幅(Mg−Tw)の狭小化を適切に図ることができる。さらに、前記反強磁性層との交換結合磁界によって前記電極層が外部磁界に敏感に反応するのを抑制し、外部磁界に対する前記電極層の磁化変動を小さくでき、これによって、ノイズの発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は本実施形態のスピンバルブ型薄膜素子(磁気検出素子)を備えた再生磁気ヘッドを、記録媒体との対向面と平行な方向から切断した部分断面図である。
【0025】
図1に示すスピンバルブ型薄膜素子は、CIP(Current In the Plane)型と呼ばれる構造である。CIP型とは、電流が積層体9の各層の界面に平行に流れる構造を言う。
【0026】
前記スピンバルブ型薄膜素子は、ハードディスク装置に設けられた浮上式スライダのトレーリング側端部などに設けられて、ハードディスクなどの記録磁界を検出するものである。なお、図中においてX方向は、トラック幅方向、Y方向は、磁気記録媒体からの洩れ磁界の方向(ハイト方向)、Z方向は、ハードディスクなどの磁気記録媒体の移動方向及び前記シングルスピンバルブ型薄膜素子の各層の積層方向、である。各方向は残り2つの方向に対し直交する関係となっている。「記録媒体との対向面」とは、X−Z平面と平行な方向の面である。
【0027】
図1の最も下に形成されているのは、NiFe合金等の磁性材料で形成された下部シールド層20である。
【0028】
前記下部シールド層20上にはAlやSiO等の絶縁材料で形成された下部ギャップ層21が形成されている。
【0029】
前記下部ギャップ層21の上に、スピンバルブ型薄膜素子22が形成されている。前記スピンバルブ型薄膜素子22は、感磁部としての積層体23と前記積層体23のトラック幅(図示X方向)の両側に形成された側方領域24,24とで構成される。
【0030】
前記積層体23のうち最も下には、シード層25が設けられる。前記シード層25は、例えばNiFeCrによって形成される。前記シード層25をNiFeCrによって形成すると、前記シード層25は、面心立方(fcc)構造を有し、膜面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向しているものになる。
【0031】
前記シード層25と下部ギャップ層21の間に、Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち1種または2種以上の元素などの非磁性材料で形成された下地層(図示しない)が形成されていてもよい。
【0032】
前記シード層25の上に形成された反強磁性層26は、元素X(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されることが好ましい。
【0033】
これら白金族元素を用いたX−Mn合金は、耐食性に優れ、またブロッキング温度も高く、さらに交換結合磁界(Hex)を大きくできるなど反強磁性材料として優れた特性を有している。
【0034】
また前記反強磁性層26は、元素Xと元素X′(ただし元素X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されてもよい。
【0035】
前記反強磁性層26上には固定磁性層27が形成される。前記固定磁性層27は、例えば、下から第1固定磁性層、非磁性中間層、第2固定磁性層からなる積層フェリ構造で形成される。前記反強磁性層26との界面での交換結合磁界及び前記非磁性中間層を介した反強磁性的交換結合磁界(RKKY的相互作用)により前記第1固定磁性層と第2固定磁性層の磁化は、一方がハイト方向(図示Y方向)に他方がハイト方向と逆方向に固定される。この構成により前記固定磁性層27の磁化を安定した状態にでき、また前記固定磁性層27と反強磁性層26との界面で発生する交換結合磁界を見かけ上大きくすることができる。
【0036】
前記第1固定磁性層及び第2の固定磁性層は、例えば、CoFe、NiFe,CoFeNiなどの強磁性材料で形成されている。また前記非磁性中間層は、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuなどの非磁性導電材料で形成される。
【0037】
前記固定磁性層27の上には非磁性材料層28が形成されている。前記非磁性材料層28は、Cu、Au、またはAgで形成されている。Cu、Au、またはAgで形成された非磁性材料層28は、面心立方(fcc)構造を有し、膜面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向している。
【0038】
前記非磁性材料層28上にはフリー磁性層29が形成されている。前記フリー磁性層29は、例えば、NiFe合金やCoFe合金等の磁性材料で形成される軟磁性層と、前記軟磁性層と前記非磁性材料層28との間に形成されたCoやCoFeなどからなる拡散防止層とで構成される。前記フリー磁性層29は、固定磁性層27と同様に積層フェリ構造で形成されてもよい。また前記フリー磁性層29のトラック幅方向(図示X方向)の上面の幅寸法でトラック幅Tw(光学的なトラック幅Opti−Tw)が決められる。前記フリー磁性層29の磁化はトラック幅方向(図示X方向)に揃えられている。符号30は非磁性材料で形成された保護層である。
【0039】
前記積層体23は、トラック幅方向(図示X方向)における幅寸法が下側から上側に向かうにしたがって徐々に小さくなる略台形状で形成される。
【0040】
図1に示すように、前記積層体23のトラック幅方向(図示X方向)の両側端面上から前記下部ギャップ層21上にかけてバイアス下地層31が設けられている。前記バイアス下地層31は、例えばCrや、CrTi、Ta/CrTi等で形成される。前記バイアス下地層31は、ハードバイアス層32の特性(保磁力Hcや角形比S)を向上させるために設けられたものである。
【0041】
前記バイアス下地層31上には、ハードバイアス層32が設けられている。前記ハードバイアス層32は、CoPt合金やCoCrPt合金で形成される。
【0042】
前記ハードバイアス層32上には、中間層33が形成され、前記中間層33上には反強磁性層34が形成されている。さらに前記反強磁性層34上には軟磁性材料で形成された電極層35が形成される。図1に示す実施形態では、前記中間層33の上面が前記積層体23の上面23aと同じ平面で形成されている。
【0043】
前記電極層35のハイト方向後方には、従来と同様に、非磁性材料で形成された電極バイパス層(あるいは主電極層とも呼ぶ)が電気的に直接接続されている。前記電極バイパス層のトラック幅方向の幅寸法及びハイト方向への長さ寸法は、いずれも前記電極層35より大きい。前記電極バイパス層は、図1に示す薄膜磁気ヘッドの最上部に露出する端子部と電気的に接続されており、電流は、前記端子部から前記電極バイパス層を介して前記電極層35に流れるようになっている。
【0044】
前記中間層33は、前記ハードバイアス層32と反強磁性層34/電極層35間を磁気的に分断する層(磁気分離層)として機能している。また図1に示す実施形態では、前記中間層33は前記反強磁性層34の下に設けられ、前記中間層33は前記反強磁性層34/電極層35の結晶配向を整える層(結晶配向調整層)としても機能している。
【0045】
前記中間層33は、Ta、あるいは、NiFeCr等で形成される。前記ハードバイアス層32は例えば稠密六方(hcp)構造であるが、前記中間層33をTaで形成すると、前記反強磁性層34を、前記ハードバイアス層32の結晶配向に影響を受けずに形成できる。あるいは、前記中間層33をNiFeCrで形成した場合、NiFeCrは面心立方(fcc)構造を有するため、その上に形成される前記反強磁性層34及び電極層35を、面心立方(fcc)構造で適切に形成できる。
【0046】
また前記中間層33は単層構造でなくてもよく、例えば、TaとNiFeCr合金との積層構造、TaとCoFe合金との積層構造、TaとNiCr合金との積層構造等を提供できる。いずれの積層構造もTaが下側(ハードバイアス層32側に)に形成され、Taに磁気分離層としての機能を持たせ、その上に形成されたNiFeCr合金等に反強磁性層34/電極層35の結晶配向性を整える(向上させる)機能を持たせている。
【0047】
前記反強磁性層34は、元素X(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料、あるいは、元素Xと元素X′(ただし元素X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成される。
【0048】
前記反強磁性層34と前記電極層35との界面では、磁場中熱処理が施されることにより交換結合磁界(Hex)が発生している。前記電極層35はトラック幅方向(図示X方向)に磁化方向が揃えられている。
【0049】
前記電極層35上から前記積層体23上にかけてAlやSiO等の絶縁材料で形成された上部ギャップ層36が設けられている。また前記上部ギャップ層36上にはNiFe合金等で形成された上部シールド層37が形成されている。前記上部シールド層37は、前記電極層35間に入り込み、前記積層体23方向に向けて凸型形状を成している。
【0050】
図1の実施形態の特徴的部分について説明する。
図1に示すスピンバルブ型薄膜素子では、前記電極層35が軟磁性材料で形成されている。これにより前記電極層35は電極層として機能するのみならず磁気シールドとしても機能している。図1に示すように、前記積層体23のトラック幅方向(図示X方向)の両側に広がる下部シールド層20と上部シールド層37の膜厚方向(図示Z方向)への間隔T2は、図2に示す従来技術と同じかあるいはそれよりも広い。しかし、図1に示す実施形態では、前記電極層35がシールドとして機能するため、実際、前記積層体23のトラック幅方向の両側における側方領域24でのシールド間隔は、前記下部シールド層20と前記電極層35間の膜厚方向(図示Z方向)への間隔T3であり、本実施形態では、前記間隔T3を図2における間隔T1よりも狭く出来る。
【0051】
したがって、本実施形態では、電極層35を軟磁性材料で形成することで、前記電極層35の膜厚を従来と同じ程度かあるいはそれよりも厚く形成して、直流抵抗値(DCR)の上昇を抑制した上で、磁気的なトラック幅(Mg−Tw)の狭小化を従来に比べて適切に図ることが可能である。
【0052】
特に、前記電極層35を軟磁性材料で形成した結果、従来のように非磁性導電材料で前記電極層35を形成していた場合に比べて、前記電極層35の比抵抗が増大する場合には、前記電極層35の膜厚を従来(図2)より厚く形成して、直流抵抗値(DCR)の増大を抑制し、しかも、このように膜厚を厚くしても、シールド間隔T3は変わらないから、磁気的なトラック幅(Mg−Tw)が広がる等の不具合は生じない。
【0053】
本実施形態では前記電極層35は、NiFe合金、CoFe合金、CoNi合金、CoFeNi合金、Co等で形成される。Ni82at%Fe18at%の比抵抗は、20μΩ・cm程度であり、従来、電極層として使用されていたAuの比抵抗は、5.5〜5.7μΩ・cm程度、Crの比抵抗は、20〜25μΩ・cm程度であるから、前記電極層35をNiFe合金で形成すると、Auで形成した場合に比べて比抵抗は劣るが、前記電極層35の膜厚を厚くすることで、出来る限り直流抵抗値(DCR)の上昇を抑制することが出来るし、しかも電極層35の膜厚を厚くしても、適切なシールド効果を得られる。
【0054】
さらに図1に示す実施形態では、前記電極層35の下側に反強磁性層34が設けられている。そして、前記電極層35と前記反強磁性層34との間で交換結合磁界(Hex)が生じている。また前記電極層35は外部磁界に対しハイト方向(図示Y方向)に磁化成分を有している。
【0055】
ここで「外部磁界」とは、記録媒体から前記スピンバルブ型薄膜素子に向けて発生する微弱な信号磁界のことであり、前記外部磁界は、数十Oe程度の磁界強度を有している。
【0056】
前記反強磁性層34を設けて前記電極層35との間で交換結合磁界を生じさせることで、前記電極層35の磁化変動を鈍化させる(磁化変動を小さくする)ことができる。このとき、前記電極層35の磁化が完全に前記交換結合磁界によって固定されてしまってはシールド層として機能しなくなるため、前記電極層35の膜厚を適正化する等して、前記電極層35の少なくとも一部は、外部磁界に対しハイト方向に磁化成分を有するようにしたのである。これにより、磁気的なトラック幅(Mg−Tw)の狭小化を図ることが出来るとともに、ノイズ発生を従来に比べて抑制できる。
【0057】
以上のように本実施形態では、直流抵抗値(DCR)の上昇の抑制、磁気的なトラック幅(Mg−Tw)の狭小化、及びノイズ発生の抑制を従来に比べて適切に図ることができ、再生特性の向上を図ることが可能になる。
【0058】
なお、磁気的なトラック幅(Mag−Tw;実効的な再生トラック幅)は、マイクロトラックプロファイル法にて測定することが可能である。
【0059】
図1に示す実施形態では、前記電極層35の下面35aが、前記フリー磁性層29の上面29aよりも、上方に(図示Z方向に)形成されている。これにより、前記電極層35と前記フリー磁性層29とがトラック幅方向(図示X方向)にて重なることなく(オーバーラップせず)、膜厚方向(図示Z方向)に距離的に離れるため、ノイズ発生をより適切に抑制できる。ノイズは前記電極層35とフリー磁性層29が近づくほど、特に、軟磁性材料で形成された電極層35が、フリー磁性層29と薄いバイアス下地層31を介してトラック幅方向(図示X方向)にて対向すると、大きくなりやすいので、少なくとも前記電極層35の下面35aは、前記フリー磁性層29の上面29aと膜厚方向(図示Z方向)において同位置か、あるいは図1のように、前記フリー磁性層29の上面29aよりも上方に形成されることが好ましい。
【0060】
しかも図1に示す実施形態では、前記フリー磁性層29と電極層35との間には、側方領域24に形成された中間層33が介在している。前記中間層33は例えばTa等で形成され、前記ハードバイアス層32と前記反強磁性層34/電極層35間を磁気的に分離する役割を有するが、前記中間層33は、前記フリー磁性層29と電極層35間も適切に磁気的に分離している。これにより、前記電極層35が外部磁界により磁化変動しても、その影響は、前記フリー磁性層29には及ばず、夫々、独自の磁性層として(磁気的な相互作用が適切に遮断された状態で)働いており、より適切にノイズの発生を抑制することが可能になる。
【0061】
図1に示すように、前記電極層35の上面35bは、トラック幅方向(図示X方向)にて相対向する電極層35間のトラック幅方向の間隔H1が下側から上側に向かうほど徐々に広がる傾斜面で形成されている。このような傾斜面は、特にリフトオフ用レジストを用いて、前記電極層35を形成することで形成されるものである。前記電極層35の上面35bが傾斜面で形成されていると、前記積層体23のトラック幅方向(図示X方向)の近傍での前記電極層35の膜厚T4は、前記積層体23から離れた位置での前記電極層35の膜厚T5より薄くなる。したがって前記積層体23の近傍での前記電極層35は、前記積層体23から離れた位置での電極層35に比べて、前記反強磁性層34との交換結合磁界によって外部磁界に対する磁化変動がより鈍化しており、このようにフリー磁性層29に近い位置の電極層35が磁化変動をより制限されることで、ノイズ発生をより効果的に低減することが可能である。一方、前記積層体23から離れた位置での電極層35が、外部磁界によって磁化変動しやすくなっていても、前記フリー磁性層29から離れているため、ノイズ発生が増大するといった不具合を生じることはない。
【0062】
また、前記電極層35間のトラック幅方向における最小間隔H2は、前記積層体23の上面23aのトラック幅方向の長さと等しいかあるいは、それよりも長くなっている。前記電極層35の一部が前記積層体23上にオーバーラップすると、オーバーラップした電極層35はあたかも積層体23中に占めるフリー磁性層として機能してしまう。すなわち積層体23中にはフリー磁性層29のほかに、オーバーラップした電極層35もフリー磁性層として機能してしまう。電極層35は反強磁性層34によって外部磁界に対する磁化変動が抑制されてはいるが、外部磁界に対し全く磁化変動しないわけでないため、オーバーラップした電極層35が外部磁界に対し磁化変動が鈍いフリー磁性層のように振る舞い、このようにフリー磁性層として予期していない層がフリー磁性層のように機能することで、磁気的な不安定性の増大及びノイズの増大が引き起こされる。したがって、上記のように、最小間隔H2を制御することが好ましい。
【0063】
また前記反強磁性層34と前記電極層35との間で発生する交換結合磁界(Hex)は、200Oe〜1500Oe(約15900A/m〜119250A/m 1Oe=79.5A/mで計算)の範囲内であることが好ましい。
【0064】
前記交換結合磁界(Hex)を得るために、反強磁性層34及び電極層35の膜厚を調整する。ただし電極層35は、直流抵抗値(DCR)の増大を抑制すべく、従来(図2)と同様の膜厚かあるいはそれ以上の膜厚で形成することが必要であり、前記電極層35は、その上面35bが、前記積層体23からトラック幅方向(図示X方向)に離れるに向けて膜厚が徐々に厚くなるように、連続する傾斜面で形成され、前記積層体23からトラック幅方向(図示X方向)に向けて0.1μmの範囲内(X1)での平均膜厚が0.03μm(300Å)程度で形成される。
【0065】
また上記した大きさの交換結合磁界を生じさせるために、前記反強磁性層34を50Å以上150Å以下で形成することが好ましい。
【0066】
上記のように、前記電極層35の膜厚、及び前記交換結合磁界が適切に調整された状態では、前記電極層35の少なくとも一部は、外部磁界に対しハイト方向に磁化成分を有した状態となる。また前記電極層35がハイト方向に磁化成分を有する状態となっているか否かは、前記電極層35と反強磁性層34とが設けられた実施形態の磁気検出素子と、非磁性で形成された従来型の電極層を有する形態1の磁気検出素子と、軟磁性材料で形成された前記電極層35は設けられているが前記反強磁性層34は設けられていない形態2の磁気検出素子を用意し、実施形態の磁気検出素子は、形態1の磁気検出素子に比べて磁気的なトラック幅(Mag−Tw)を小さくでき、形態2の磁気検出素子に比べて、再生出力レベルが同等であるときのスペクトラルノイズレベルを小さくできる場合、実施形態の磁気検出素子の軟磁性層18の少なくとも一部は、外部磁界に対しハイト方向に磁化成分を有することを実証できる。ここで、磁気的なトラック幅(Mag−Tw;実効的な再生トラック幅)はマイクロトラックプロファイル法にて測定できる。また、スペクトラルノイズレベルとは、出力をスペクトラムアナライザーを用いて信号、ノイズの周波数成分に分解し、前記ノイズのレベルを示す値である。
【0067】
また、前記交換結合磁界(Hex)を増大させるために、前記反強磁性層34と前記電極層35との間に、交換結合磁界増強層(図示しない)が設けられていてもよい。前記電極層35がNiFe合金で形成されるとき、前記交換結合磁界増強層はCoFe、CoFeNi、あるいは、Coのいずれか1種により形成されることが好ましい。前記交換結合磁界増強層の膜厚は5Å〜20Åの範囲内で形成されることが好ましい。
【0068】
また、光学的なトラック幅が、0.05μm〜0.15μmの範囲内であると特に、磁気的なトラック幅(Mg−Tw)の狭小化と、ノイズ発生の抑制という効果を大いに期待できる。また、本実施形態では、電極層12を従来と同様、厚い膜厚で形成するので、直流抵抗値を小さくすることができ、光学的なトラック幅Twが狭小化されても、再生特性に対する直流抵抗値の影響が大きくなるのを抑制できる。
【0069】
図1に示す実施形態では、下から、ハードバイアス層32、中間層33、前記反強磁性層34、及び前記電極層35の順に形成されている。これにより前記ハードバイアス層32を適切にフリー磁性層29のトラック幅方向の両側に位置させることが出来るので、前記フリー磁性層29の磁化を適切に図示X方向に揃えることが出来る。また、前記反強磁性層34は前記電極層35の上側に設けられてもよい。ただし、前記電極層35の上面35bは傾斜面であり、前記傾斜面上に反強磁性層34を形成し、図示X方向に磁場中熱処理を施しても、前記電極層35の磁化方向を適切に図示X方向に制御することが難しい。また前記反強磁性層34を前記電極層35の上側に形成すると、前記電極層35と前記フリー磁性層29とが距離的に近づくので、より適切に、ノイズ発生を抑制するには、図1に示すように、前記電極層35の下に反強磁性層34を設け、前記電極層35と前記フリー磁性層29とを距離的に離すことが好ましい。
【0070】
図1に示す磁気検出素子の製造方法について簡単に説明する。まず前記積層体23を、リフトオフ用レジストを用いて、記録媒体との対向面と平行な方向からの断面が図1に示す略台形状になるように、形成した後、前記積層体23の両側に、バイアス下地層31、ハードバイアス層32、中間層33、反強磁性層34、電極層35を夫々、スパッタ法等で成膜する。そして前記リフトオフ用レジストを除去する。製造方法における注意点としては、固定磁性層27と反強磁性層26間に交換結合磁界を生じさせるために行われる磁場中熱処理の磁場の強さ及び熱処理温度に比べて、反強磁性層34と電極層35間に交換結合磁界を生じさせるために行われる磁場中熱処理の磁場の強さ及び熱処理温度を低く設定することである。これにより、ハイト方向(図示Y方向)と平行な方向に磁化固定されている前記固定磁性層27の磁化を揺るがすことなく、前記電極層35の磁化をトラック幅方向(図示X方向)に適切に、揃えることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本実施形態のスピンバルブ型薄膜素子(磁気検出素子)を備えた再生磁気ヘッドを、記録媒体との対向面と平行な方向から切断した部分断面図、
【図2】従来のスピンバルブ型薄膜素子(磁気検出素子)を備えた再生磁気ヘッドを、記録媒体との対向面と平行な方向から切断した部分断面図、
【符号の説明】
【0072】
20 下部シールド層
21 下部ギャップ層
23 積層体
29 フリー磁性層
31 バイアス下地層
32 ハードバイアス層
33 中間層
34 反強磁性層
35 電極層
36 上部ギャップ層
37 上部シールド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定磁性層、非磁性材料層、及びフリー磁性層を有する積層体と、
前記積層体のトラック幅方向の両側に軟磁性材料で形成された電極層と、前記電極層と積層構造を成し、前記電極層との間で交換結合磁界を生じさせる反強磁性層と、を有し、
前記電極層の少なくとも一部は、外部磁界に対しハイト方向に磁化成分を有することを特徴とする磁気検出素子。
【請求項2】
前記電極層の下面は、前記フリー磁性層の上面と膜厚方向において同位置か、あるいはそれよりも上側に設けられている請求項1記載の磁気検出素子。
【請求項3】
前記積層体のトラック幅方向の両側には、前記フリー磁性層の磁化制御のためのバイアス層が設けられ、前記バイアス層の上に前記電極層が設けられ、前記バイアス層と前記電極層との間に磁気分離層が設けられる請求項1又は2に記載の磁気検出素子。
【請求項4】
前記磁気分離層は、前記フリー磁性層と前記電極層間に介在する請求項3記載の磁気検出素子。
【請求項5】
下から前記バイアス層、前記磁気分離層、前記反強磁性層及び前記電極層の順に積層される請求項3又は4に記載の磁気検出素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−173508(P2007−173508A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369050(P2005−369050)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】