説明

神経細胞活性化作用を有するトリペプチド、それからなる食品製剤、化粧品及び抗認知症剤

【課題】 副作用が弱く、優れた神経細胞活性化作用を有するトリペプチド、それからなる食品製剤、化粧品及び抗認知症剤を提供する。
【解決手段】 神経細胞活性化作用を有するトリペプチドは、X−Tyr−Pheの構造を持ち、Xは、Leu、Phe、Pro、Glnの中から選択されるいずれかのアミノ酸からなるものであり、特に、Leu−Tyr−Phe又はPhe−Tyr−Pheである。また、このトリペプチドは、ニ鰓亜綱十腕目に属すイカ類の胴内より得られた神経の粉砕物とプロテアーゼを加熱して得られるものである。食品製剤は、神経細胞活性化作用を有するトリペプチド、クロロゲン酸とクロロゲン酸エステラーゼからなるものである。化粧品は、神経細胞活性化作用を有するトリペプチド、フェルラ酸とクロロゲン酸エステラーゼからなるものである。抗認知症剤は、神経細胞活性化作用を有するトリペプチドを主成分とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、認知症の改善効果又は予防効果を目的とした神経細胞活性化作用を有するトリペプチド、それからなる食品製剤、化粧品及び抗認知症剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、認知症や加齢に伴った脳機能又は神経障害に陥る日本人が高齢化社会の到来ともに、増加している。認知症や脳機能障害に対する治療剤又は予防方法が開発されているにも関わらず、完全な解決には至っていない。また、脳血管障害により、脳の神経細胞が障害を受けた場合にも、神経細胞の細胞死及び再生力の減少が生じる。これが脳の長期間の活動低下を起こし、患者の社会復帰への大きな妨げとなっている。そのため、神経細胞を活性化し、神経細胞の増殖と機能改善を目指した治療方法又は予防方法が探求されている。
【0003】
認知症改善効果又は予防効果を有する物質には脳内アセチルコリン量を増加する薬剤があり、その例として塩酸ドネペジルがある。しかし、この塩酸ドネペジルは肝臓障害、嘔吐などの副作用を高い頻度でもたらすという問題点がある(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
また、植物成分であるイチョウ葉エキスから得られるギンゴライド類も認知症の改善効果又は予防効果を目的とし、食品などに広く利用されているものの(例えば、非特許文献2参照。)、その効果は軽度であり、かつ、血管系の異常に限定される。
【0005】
自然界に存在している神経細胞を活性化する成分として神経増殖因子が知られており、この因子は神経細胞の増殖を促し、神経細胞の老化を防ぐと考えられている(例えば、非特許文献3参照。)。しかし、この神経増殖因子は、その単離と精製が困難であり、量的に大量に得られず、原材料もヒトや動物由来であり、感染症の発症など安全性にも疑義がある。さらに、化学的な合成も困難であるため、産業上の利用に至っていない。
【0006】
また、神経細胞を活性化する天然成分として、脳内タンパク質が多種類知られている(例えば、非特許文献4参照。)。また、その配列も研究されている(例えば、特許文献5参照。)。しかし、これらのタンパク質も精製が困難で、大量製造できないという問題があり、産業上利用されていない。
【0007】
さらに、ウシ、ブタ、トリなどの脳や脊髄から神経由来の物質を得る場合には、異常プリオンやウイルスなどの混入が懸念される。
【0008】
認知症の改善をもちらすペプチド又はタンパク質に関する発明として、新規タンパク質である60kDa又は180kDaのタンパク質(例えば、特許文献1参照。)、ペプチド 並びにそれを含有するプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤、機能性食品及び動物用飼料(例えば、特許文献2参照。)、ペプチドフラグメント(例えば、特許文献3参照。)、脳疾患治療剤(例えば、特許文献4参照。)、ペプチドまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、神経突起誘発剤(例えば、特許文献5参照。)、アルツハイマー病を処置する際に有用な薬物についてスクリーニングする方法(例えば、特許文献6参照。)、ならびに新規な神経伝達機能異常疾患改善剤(例えば、特許文献7参照。)などが存在するものの、優れた効果には至っていない。
【特許文献1】特願平5−11904
【特許文献2】特開平8−59697
【特許文献3】特開平9−12597
【特許文献4】特開平9−315965
【特許文献5】特開2001−226284
【特許文献6】特開2004−61494
【特許文献7】特開2004−182616
【非特許文献1】杉本八郎、日本薬理学会誌、124、163−170、2004
【非特許文献2】小内 亨、日本補完代替医療学会誌、2、23−36、2005
【非特許文献3】植田 弘師ら、日本薬理学雑誌、119、79−88、2002
【非特許文献4】岩田 修永ら、日本薬理学雑誌、122、5−14、2003
【非特許文献5】Sehgal Aら、Mol Cell Biol、8、2242−2246、1988
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記したように化学的に合成された神経細胞活性化作用を有する物質や抗認知症剤は、副作用が認められるという問題がある。また、天然物由来の神経活性化因子は、大量製造が難しく、動物由来の物質には感染症などのおそれがある。
【0010】
一方、イカ類の神経、特に、巨大神経は、イカを加工する工程で、廃棄物となり、廃棄されている。イカ類には感染症が少なく、食文化の観点からみた場合にも、安全性の高い素材である。廃棄物であるイカ類の神経を有用物へ変換し、廃棄物を削減することは産業上好ましく、資源の有効活用及び環境を保全するという点から望ましい。
【0011】
この発明は上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、副作用が弱く、優れた認知症改善効果を呈するトリペプチドを提供することにある。
【0012】
また、ニ鰓亜綱十腕目に属すイカ類の胴内より得られた神経から、副作用が弱く、優れた認知症改善効果を呈するトリペプチドを提供することにある。
【0013】
さらに、神経細胞活性化作用を有するトリペプチドからなる副作用が弱く、優れた認知症改善効果を呈する食品製剤を提供することにある。
【0014】
加えて、神経細胞活性化作用を有するトリペプチドからなる副作用が弱く、優れた認知症改善効果を呈する化粧品を提供することにある。
【0015】
さらには、神経細胞活性化作用を有するトリペプチドからなる副作用が弱く、優れた認知症改善効果を呈する抗認知症剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、X−Tyr−Pheの構造を持ち、Xは、Leu、Phe、Pro、Glnの中から選択されるいずれかのアミノ酸からなる神経細胞活性化作用を有するトリペプチドに関するものである。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明のうち、XがLeuであり、Leu−Tyr−Pheの構造を持つ神経細胞活性化作用を有するトリペプチドに関するものである。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明のうち、XがPheであり、Phe−Tyr−Pheの構造を持つ神経細胞活性化作用を有するトリペプチドに関するものである。
【0019】
請求項4に記載の発明は、ニ鰓亜綱十腕目に属すイカ類の胴内より得られた神経の粉砕物1重量に対し、プロテアーゼ0.03〜0.5重量を添加し、加熱して得られる請求項1又は請求項2又は請求項3に記載の神経細胞活性化作用を有するトリペプチドに関するものである。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4に記載の神経細胞活性化作用を有するトリペプチド1重量に、クロロゲン酸0.1〜4重量、クロロゲン酸エステラーゼ0.0002〜0.02重量を添加し、加温して得られる組成物からなる食品製剤に関するものである。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4に記載の神経細胞活性化作用を有するトリペプチド1重量に、フェルラ酸0.3〜8重量、クロロゲン酸エステラーゼ0.0003〜0.03重量を添加し、加温して得られる組成物からなる化粧品に関するものである。
【0022】
請求項7に記載の発明は、請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4に記載の神経細胞活性化作用を有するトリペプチドからなる抗認知症剤に関するものである。
【発明の効果】
【0023】
この発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4に記載の神経細胞活性化作用を有するトリペプチドによれば、副作用が弱く、優れた認知症改善効果が発揮される。
【0024】
請求項5に記載の食品製剤によれば、副作用が弱く、優れた認知症改善効果が発揮される。
【0025】
請求項6に記載の化粧品によれば、副作用が弱く、優れた認知症改善効果が発揮される。
【0026】
請求項7に記載の抗認知症剤によれば、副作用が弱く、優れた認知症改善効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
まず、本実施形態の神経細胞活性化作用を有するトリペプチドは、X−Tyr−Pheの構造を持ち、Xは、Leu、Phe、Pro、Glnの中から選択されるいずれかのアミノ酸からなるものである。これらのトリペプチドは、脳神経細胞、脊髄神経細胞、末梢神経細胞、感覚神経細胞、自律神経細胞などの神経細胞に作用し、正常な形で神経細胞を増殖させ、かつ、その働きを活性化させる物質である。
【0028】
特に、脳神経細胞に作用し、障害を受けた神経細胞又は正常な神経細胞を増殖させることにより、認知症や神経障害のある方に改善効果又は予防効果を発揮する。前記のトリペプチドは、神経細胞の細胞膜の表面に存在する神経成長因子受容体に働く。神経成長因子受容体には、Trk、TrkA、p75NTR(ニューロトロピン受容体)、NGFRなどが存在している。前記のX−Tyr−Pheからなるトリペプチドが神経成長因子受容体と神経成長因子の結合部分の近傍に、結合することにより、神経成長因子が結合しやすくする。この結果、神経細胞が活性化される。
【0029】
この神経成長因子の結合により目的とする神経細胞は増殖し、さらに、神経細胞内の情報伝達系が活性化して神経伝導を改善する。
【0030】
この神経細胞の増殖により認知症の場合には死滅した神経細胞を再生し、又は神経細胞の死を抑制する。さらに、神経伝導の改善により、神経の反応が増加して神経機能が亢進される。これらの作用により認知症が改善され、又は予防される。
【0031】
前記の神経細胞活性化作用を有するトリペプチドは、X−Tyr−Pheの構造を持ち、Xは、Leu、Phe、Pro、Glnの中から選択されるいずれかのアミノ酸からなるものである。
【0032】
XがLeuの場合、目的とするトリペプチドは、Leu−Tyr−Pheの構造を持つ。このような構造は、Leuのメチル基が電子吸引的に働き、神経成長因子の結合部分の近傍で、神経成長因子より高い親和性で結合できるために、好ましい。
【0033】
XがPheの場合、目的とするトリペプチドは、Phe−Tyr−Pheの構造を持つ。このような構造は、Pheのフェニル基が神経成長因子の結合部分に直接作用し、受容体の親和性が高くなるために、好ましい。
【0034】
XがProの場合、目的とするトリペプチドは、Pro−Tyr−Pheの構造を持つ。このような構造は、Proのアミノ酸の側鎖が神経成長因子の結合部分に直接作用し、結合エネルギーを低くするために、好ましい。
【0035】
XがGlnの場合、目的とするトリペプチドは、Gln−Tyr−Pheの構造を持つ。このような構造は、Glnの側鎖のアミノ基が神経成長因子の結合部分に直接作用し、結合力を高くするために、好ましい。
【0036】
前記のトリペプチドは食経験もあり、蓄積性もなく、過剰量は尿として排泄されることから、副作用の発現が少なく、安全性が高い。
【0037】
前記の神経細胞活性化作用を有するトリペプチドは、アミノ酸を原料としてFmoc法、Fmoc−tBu法、t−Boc法などの製造方法に従い、ペプチド合成装置、たとえば、PSSM−8(島津製作所製)、ペプチド合成装置(システムインスツルメンツ製)、433Aペプチドシンセサイザ(アプライドバイオシステムズ)などにより合成される。
【0038】
また、天然の素材から抽出し、あるいは、精製することにより得ることができる。天然の素材には、植物、海藻、キノコ、食用動物、魚類、軟体動物、昆虫、甲殻類などがある。特に、軟体動物のうち、イカ、コウイカ、ヤリイカは、神経組織が発達し、巨大な神経である巨大神経として存在しているため加工しやすい特徴がある。これらの巨大神経はイカの加工時に除去され、廃棄物として廃棄されており、利用されていない。このイカの巨大神経を原料として抽出、又は、精製することは廃棄物を有効に利用し、廃棄物の量を軽減することから好ましい。
【0039】
前記のトリペプチドを微生物や酵母を用いた発酵により得ることは神経細胞の栄養成分である糖質も混入していることから好ましい。この場合、用いる微生物としては、納豆菌、乳酸菌、紅麹、枯草菌があり、酵母としてはビール酵母や酒精酵母があり、これらはいずれも使用経験が豊富で安全性も担保されていることから好ましい。
【0040】
前記の発酵は大豆や牛乳などの発酵ベースに前記の微生物又は酵母を添加して発酵タンクを用いて実施される。この発酵後、微生物又は酵母と発酵液の混合物から目的とする前記のトリペプチドを得ることができる。また、緑茶、コーヒー、タンポポ、大麦若葉、葛の花、トウガラシ、ローヤルゼリー、プロポリスなどを加えて前記のように発酵させて目的とするトリペプチドを得ることができる。
【0041】
植物から抽出する場合、大豆、ギジギシ、カンゾウ、ツリフネソウ、ハナイカダ、大麦若葉、葛の花、トウガラシ、カキ、梨、栗、緑茶、タラ、ワサビ、ワラビ、稲、小麦、トウモロコシ、ダイコン、菜の花、サクラ、マツ、アオキ、アカネ、アカメガシワ、アケビ、アマチャズル、アマドコロ、アロエ、イカリソウ、イタドリ、イノコズチ、イブキジャコウソウ、ウコギ、ウツボグサ、ウド、ウメ、ウラジロガシ、エビスグサ、オウレン、オオバコ、オケラ、オクラ、オトギリソウ、オナモミ、オミナエシ、カキドオシ、カラスウリ、カラスビシャク、カワラケツメイ、カワラナデシコ、カンアオイ、キクイモ、キキョウ、キササゲ、キハダ、キランソウ、キンミズヒキ、クガイソウ、クコ、クサボケ、クズ、クチナシ、コウホネ、コブシ、サイカチ、サボンソウ、サルトリイバラバッケツ、サンシュユ、ジャノヒゲ、シラン、スイカズラ、セリ、センブリ、タムシバ、タラノキ、タンポポ、チガヤ、ツリガネニンジン、ツワブキ、ドクダミ、トチノキ、トチバニンジン、ナンテン、ノイバラ、ハコベ、ハトムギ、ハハコグサ、ヒキオコシ、ヒシ、ヒトツバ、ビワ、フキ、フクジュソウ、フジ、マタタビ、メハジキ、ヤマノイモ、ユキノシタ、ヨモギ、リンドウ、レンギョウ、ロウバイ、ワレモコウの葉、花又は根は、入手しやすいことから好ましい。
【0042】
藻類から抽出する場合、アオサ、アオノリ、アマノリ、アラメ、イワノリ、エゴノリ、オゴノリ、カワノリ、エナガオニコンブ、ガゴメコンブ、ナガコンブ、ホソメコンブ、マコンブ、ミツイシコンブ、リシリコンブ、スイゼンジノリ、テングサ、トサカノリ、ヒジキ、ヒトエグサ、フノリ、マツモ、ムカデノリ、オキナワモズク、モズク、ワカメ、クキワカメ、メカブワカメの葉部、茎又は根は、入手しやすいことから好ましい。
このようにして神経細胞活性化作用を有するトリペプチドは、液体又は粉末として得られる。得られたトリペプチドは神経細胞活性化作用を活かして医薬品、食品製剤又は化粧品に利用される。
【0043】
医薬品としては、抗認知症剤、アルツハイマー病治療剤、神経障害改善薬、精神安定薬、しびれ防止薬、末梢神経改善剤、腰痛改善薬、ムチウチ症改善薬、自律神経失調症又はそれぞれの神経疾患の予防薬などに利用される。
【0044】
食品製剤としては、認知症の改善、認知症の予防、神経障害の予防、末梢神経改善及び予防、腰痛予防、自律神経の予防の目的などで使用される。化粧品としては、神経異常による皮膚の筋肉の過剰収縮に起因したシワやタルミの治療及び予防目的で医薬部外品、化粧品として利用される。
【0045】
次に、前記のX−Tyr−Pheからなるトリペプチドのうち、XがLeuであるLeu−Tyr−Pheの構造を持つ神経細胞活性化作用を有するトリペプチドについて説明する。
【0046】
このトリペプチドも前記の機序により、神経細胞を活性化させ、増殖させる。Leu−Tyr−Pheの構造を有することから、Leuのメチル基が神経成長因子の結合部分の近傍により親和性が高く結合できる特徴を有する。
【0047】
前記のトリペプチドは食経験もあり、蓄積性もなく、過剰量は尿として排泄されることから、安全性が高い。
【0048】
このLeu−Tyr−Pheは化学合成されるか、又は、天然の素材から抽出、精製することにより、又は発酵により得られる。天然の素材としては、植物、海藻、キノコ、食用動物、魚類、軟体動物、昆虫、甲殻類などがある。特に、軟体動物のうち、イカ、コウイカ、ヤリイカには、神経組織が発達し、巨大神経として存在している。これらの巨大神経はイカの加工時に除去され、廃棄物として廃棄されており、利用されていない。このイカの巨大神経から抽出し、精製することは廃棄物が有効利用されることから好ましい。
【0049】
このLeu−Tyr−Pheからなる神経細胞活性化作用を有するトリペプチドは、液体又は粉末として得られる。得られたトリペプチドは神経細胞活性化作用を活用して医薬品、食品製剤又は化粧品に利用される。
【0050】
次に、前記のX−Tyr−Pheからなるトリペプチドのうち、XがPheであるPhe−Tyr−Pheの構造を持つ神経細胞活性化作用を有するトリペプチドについて説明する。
【0051】
このトリペプチドも前記の機序により、神経細胞を活性化させる。このトリペプチドは、Phe−Tyr−Pheの構造を持つ。Pheのフェニル基が神経成長因子の結合部分に直接作用し、受容体の親和性が高くなるために、好ましい。
【0052】
前記のトリペプチドは食経験もあり、蓄積性もなく、過剰量は尿として排泄されることから、安全性が高い。
【0053】
このPhe−Tyr−Pheは化学合成されるか、又は、天然の素材から抽出、精製すること、又は発酵により得られる。天然の素材としては、植物、海藻、キノコ、食用動物、魚類、軟体動物、昆虫、甲殻類などがある。特に、軟体動物のうち、イカ、コウイカ、ヤリイカには、神経組織が発達し、巨大神経として存在している。これらの巨大神経はイカの加工時に除去され、廃棄物として廃棄されており、利用されていない。このイカの巨大神経から抽出し、精製することは廃棄物が有効利用されることから好ましい。
【0054】
このPhe−Tyr−Pheからなる神経細胞活性化作用を有するトリペプチドは、液体又は粉末として得られる。得られたトリペプチドは神経細胞活性化作用を活用して医薬品、食品製剤又は化粧品に利用される。
【0055】
次に、ニ鰓亜綱十腕目に属すイカ類の胴内より得られた神経の粉砕物1重量に対し、プロテアーゼ0.03〜0.5重量を添加し、加熱して得られる神経細胞活性化作用を有するトリペプチドについて説明する。
【0056】
ここで得られる神経細胞活性化作用を有するトリペプチドとは、X−Tyr−Pheの構造を持ち、Xは、Leu、Phe、Pro、Glnの中から選択されるいずれかのアミノ酸からなるものである。
【0057】
その作用機序としては、前記の通りであり、神経細胞の増殖の亢進及び神経細胞の伝導を改善することにある。
【0058】
ここでいう原料となるニ鰓亜綱十腕目に属すイカ類は、日本近海、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカの海で捕獲又は採取されるイカであり、スルメイカ、マイカ、カミナリイカ、トラフコウイカ、コウイカ、ハリイカ、コブシメ、シシイカ、サガミコウイカ、ボウズコウイカ、ヒメコウイカ、ヒョウモンコウイカ、エゾハリイカ、スジコウイカ、ミサキコウイカ、ウスベニコウイカ、テナガコウイカ、ウデボソコウイカ、トサウデボソコウイカ、ハクテンコウイカ、コノハコウイカ、ヨーロッパコウイカ、アジアコウイカ、アミモンコウイカ、オーストラリアコウイカ、シリヤケイカ、ボウズイカ、ワタゾコボウズイカ、ヤワラボウスイカ、ギンオビイカ、ダンゴイカ、ヒメダンゴイカ、ミミイカ、ニヨリミミイカ、チョウチンイカ、アオリイカ、ヤリイカ、ケンサキイカ、ジンドウイカ、ヒメジンドウイカ、ウイジンドウイカ、ベイカ、ミナミホタルイカモドキ、ヤスジホタルイカモドキ、ハワイホタルイカモドキ、ニヨリナンヨウホタルイカ、ナンヨウホタルイカ、ニセホタルイカ、カリフォルニアホタルイカ、ホタルイカ、ツメイカ、コガタツメイカ、ニュウドウイカ、カギイカ、ミナミニュウドウイカ、アフリカニュウドウイカ又はスベスベニュウドウイカと称されるイカである。
【0059】
前記のイカは、生きたままでも、冷凍されたものでも、いずれでも良い。前記のイカの胴体より神経が採取される。神経は巨大神経とも称され。胴部中央を横切り、頭部から足部に向けて1本ないし2本存在するものである。
【0060】
この神経は生きたまま又は凍結したイカ又は焼いた又は煮沸したイカから採取される。煮沸した神経を用いることは、たんぱく質が変性し、プロテアーゼが効率的に働き、目的とするトリペプチドが大量に採取できる点から好ましい。
【0061】
この神経は採取後に、洗浄されることが好ましい。また、内臓と神経と同時に採取する場合、内臓を除去し、神経を水で洗浄することが好ましい。
【0062】
採取された神経は洗浄されることが好ましい。採取された神経は、乾燥することも、生のまま用いることも、煮沸することもできる。乾燥することにより保存性が向上することから好ましい。中山技術研究所製のミニ乾燥機CHにより乾燥することは好ましい。
【0063】
採取された神経は粉砕される。粉砕は、水とともに、乾燥したままの水分を含まないままのいずれでも良い。粉砕は、ハサミ、スリコギ、家庭用ミキサー、業務用ミキサー、粉砕機を用いて行われる。このうち、中山技術研究所製DM−6、卓上両用型粉砕機FDS、両用型粉砕機FMなどの業務用ミキサーを用いることは、大量の製造のために好ましい。粉砕物の大きさは、10〜10000μmが好ましい。粉砕された粉砕物は懸濁され、粉末粉砕物として凍結されて保存されることは好ましい。
【0064】
さらに、前記の粉砕物にプロテアーゼを添加し加熱して目的とするトリペプチドが得られる。
【0065】
ここで用いるプロテアーゼは、中性、酸性、塩基性プロテアーゼのいずれも用いられ、酸性、塩基性プロテアーゼに比して中和工程の手間を省くことができるため、中性プロテアーゼが好ましい。
【0066】
前記の中性プロテアーゼとしては、熱に対する安定性の点から、プロテアーゼA、プロテアーゼN、プロテアーゼM、スミチームFP、スミチームLP、デナチームAPが好ましく、特に、処理能力が高い点から、天野エンザイム製プロテアーゼN、スミチームLPがより好ましい。これらのプロテアーゼは、組み合わせて用いることもできる。
【0067】
ニ鰓亜綱十腕目に属すイカ類の胴内より得られた神経の粉砕物1重量に対し、プロテアーゼの添加量は0.03〜0.5重量である。
【0068】
前記のプロテアーゼの添加量が0.03倍量を下回る場合、プロテアーゼ処理が十分に行われない場合があり、0.5倍量を上回る場合、プロテアーゼが高価であるため、経済的に価格が高くなるおそれがある。
【0069】
前記の粉砕物とプロテアーゼの混合物は加熱される。
【0070】
前記の処理温度は、20〜40℃である。この処理温度が20℃を下回る場合、プロテアーゼによる処理が進行しないおそれがある。また、この処理温度が40℃を上回る場合、ペプチドやタンパク質が変質し、ペプチドとしての働きが低下するおそれがある。このプロテアーゼ処理温度は、25〜38℃がより好ましく、30℃〜37℃はさらに好ましい。
【0071】
前記のプロテアーゼ処理は、処理の効率的な実施のため、攪拌状態で行われる。攪拌速度は、10〜100回/分が好ましく、30〜80回/分がより好ましく、30〜70回/分がさらに好ましい。
【0072】
前記のプロテアーゼで処理された後、ろ過されることが好ましい。ろ過は、ろ紙によるろ過が用いられ、時間が短縮できる点から吸引ろ過が好ましい。
【0073】
ろ過された液は、80〜95℃で、5〜20分間煮沸された後、冷却されることが好ましい。この煮沸の温度が80℃を下回る場合、プロテアーゼの不活性化が実施されないおそれがある。また、95℃を上回る場合、得られるトリペプチドの活性が低下するおそれがある。
【0074】
このようにして目的とした神経細胞活性化作用を有するトリペプチドが液体として得られる。また、このまま又は濃縮液又は凍結乾燥された状態でトリペプチドを保存することは好ましい。得られたトリペプチドは、種々のペプチドの混合物である。その容量を少なし、ペプチドの安定性を持続する点から、凍結乾燥がより好ましい。
【0075】
さらに、凍結又は低温で保管されることは、安定性を維持する点から好ましい。さらに、目的とするトリペプチドの純度を高めるために、含有する抽出物より分離し、精製することは好ましい。高純度のトリペプチドが得られることから少量の添加で効果を発揮することから好ましい。
【0076】
その手段としては、常法に従い、上記のトリペプチドを含有する抽出物を抽出用溶媒に混合し、抽出用溶媒により抽出された抽出物を分離用担体又は樹脂に供し、分離用溶媒により溶出させることは好ましい。溶出された画分は濃縮液又は粉末として利用される。
【0077】
次に、神経細胞活性化作用を有するトリペプチド1重量に、クロロゲン酸0.1〜4重量、クロロゲン酸エステラーゼ0.0002〜0.02重量を添加し、加温して得られる組成物からなる食品製剤について説明する。
【0078】
ここでいう神経細胞活性化作用を有するトリペプチドとは、前記に記載のトリペプチドである。このトリペプチドは製造された混合物、抽出して精製された純度の高い物質のいずれもでもよい。
【0079】
クロロゲン酸とは、植物、ハーブに含まれ、特に、コーヒー、カカオ、緑茶や紅茶に含有されるキナ酸とカフェ酸の結合物であり、強い抗酸化作用、血管拡張作用を有する。
【0080】
クロロゲン酸エステラーゼとは、クロロゲン酸のキナ酸又はカフェ酸の水酸基と他の物質のカルボキシル基とを反応させ、エステルを形成させる酵素である。ここでクロロゲン酸エステラーゼは、クロロゲン酸と前記に記載のトリペプチドとのエステル結合体を生成させる目的で添加される。このクロロゲン酸エステラーゼはキッコーマン製のコウジ菌より生成されたものを用いることは、純度が高く、安定性が高いことから好ましい。また、このクロロゲン酸エステラーゼはコーヒーから抽出して用いることができる。
【0081】
神経細胞活性化作用を有するトリペプチドに、クロロゲン酸、クロロゲン酸エステラーゼが添加された後、加温される。この加温の条件として温度は30〜40℃であり、加温時間は6〜36時間である。加温温度が30℃を下回る場合、十分なエステル反応が生じないおそれがある。加温温度が40℃を上回る場合、酸化により生成されたエステルが褐色に変色するおそれがある。加温時間が6時間を下回る場合、十分なエステル反応が生じないおそれがある。加温時間が36時間を上回る場合、酸化により生成されたエステルが褐色に変色するおそれがある。
【0082】
前記の神経細胞活性化作用を有するトリペプチド1重量に、クロロゲン酸0.1〜4重量、クロロゲン酸エステラーゼ0.0002〜0.02重量である。
【0083】
トリペプチド1重量に対し、クロロゲン酸が0.1重量を下回る場合、クロロゲン酸が不足し、十分なエステル生成物が得られないおそれがあり、クロロゲン酸が4重量を上回る場合、クロロゲン酸が高価であることから、生成物が高価になり、経済的ではない。
【0084】
トリペプチド1重量に対し、クロロゲン酸エステラーゼが0.0002重量を下回る場合、酵素活性が不足し、十分なエステル生成物が得られないおそれがあり、クロロゲン酸エステラーゼが0.02重量を上回る場合、クロロゲン酸エステラーゼが高価であることから、経済的ではない。
【0085】
このように構成することにより、神経細胞活性化作用を有するトリペプチドがクロロゲン酸の抗酸化力により安定に維持されて自然酸化による分解や変性が抑制される。さらに、種々のペプチダーゼやプロテアーゼによる分解のおそれを減少させ、吸収を向上させ、体内の維持を促し、神経活性化作用が持続される。
【0086】
これにより神経細胞活性化作用を有するトリペプチド、クロロゲン酸とクロロゲン酸エステラーゼからなる組成物が得られる。
【0087】
さらに、前記の組成物が他の原料とともに加工され、食品製剤になる。この場合、種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって、例えば、粉末状、錠剤状、液状(ドリンク剤等)、カプセル状等の形状の食品製剤にすることができる。また、基材、賦形剤、添加剤、副素材、増量剤等を適宜添加してもよい。
【0088】
前記の食品製剤は、1日数回に分けて経口摂取される。1日の摂取量は0.2〜10gが好ましく、0.3〜5gがより好ましく、0.5〜3gがさらに好ましい。1日の摂取量が、0.2gを下回る場合、十分な神経活性化作用が発揮されないおそれがある。1日の摂取量が、10gを越える場合、コストが高くなるおそれがある。上記の他に、飴、せんべい、クッキー、飲料等の形態で使用することができる。
【0089】
ここでいう食品製剤とは、人間が食する保健機能食品、健康補助食品、一般食品、病院で用いる病院用食品、また、動物用の飼料又はペット用サプリメント、ペットフードである。
【0090】
この食品製剤は認知症の予防又は改善の目的で、しびれや麻痺などの末梢神経の異常を予防したい方、又は、神経症状を改善する目的で、自律神経失調気味の方、精神状態が不安定な方、むちうち症状が心配な方、筋肉痛や神経痛がある方などに適用される。
【0091】
次に、神経細胞活性化作用を有するトリペプチド1重量に、フェルラ酸0.3〜8重量、クロロゲン酸エステラーゼ0.0003〜0.03重量を添加し、加温して得られる組成物からなる化粧品について説明する。
【0092】
神経細胞活性化作用を有するトリペプチドとは、前記に記載のトリペプチドである。このトリペプチドは製造された混合物、抽出して精製された高い純度の物質のいずれも用いることができる。
【0093】
フェルラ酸とは、植物、ハーブなど、特に、プロポリス、コーヒー、カカオ、緑茶や紅茶に含有されるケイヒ酸誘導体であり、強い抗酸化作用を有する。
【0094】
クロロゲン酸エステラーゼとは、フェルラ酸の水酸基に、他の物質のカルボキシル基を導入してエステルを形成させる酵素である。ここでは、クロロゲン酸エステラーゼは、フェルラ酸と前記に記載のトリペプチドと反応させ、エステル結合体を生成させる目的で添加される。このクロロゲン酸エステラーゼはキッコーマン製のコウジ菌より生成される酵素を用いることは、純度が高いことから好ましい。また、このクロロゲン酸エステラーゼはコーヒーから抽出して用いることができる。
【0095】
神経細胞活性化作用を有するトリペプチドとフェルラ酸とクロロゲン酸エステラーゼは、加温される。加温の前に、混合されることは好ましい。加温条件として温度は25〜45℃であり、加温時間は8〜48時間である。加温温度が25℃を下回る場合、十分なエステル反応が生じないおそれがある。加温温度が45℃を上回る場合、酸化により生成されたエステルが褐色に変色するおそれがある。加温時間が8時間を下回る場合、十分なエステル反応が生じないおそれがある。加温時間が48時間を上回る場合、酸化により生成されたエステルが褐色に変色するおそれがある。
【0096】
前記の神経細胞活性化作用を有するトリペプチド1重量に対し、フェルラ酸0.3〜8重量、クロロゲン酸エステラーゼ0.0003〜0.03重量である。
【0097】
トリペプチド1重量に対し、フェルラ酸が0.3重量を下回る場合、フェルラ酸が不足し、十分なエステル生成物が得られないおそれがあり、フェルラ酸が8重量を上回る場合、フェルラ酸が高価であることから、生成物が高価になり、経済的ではない。
【0098】
トリペプチド1重量に対し、クロロゲン酸エステラーゼが0.0003重量を下回る場合、酵素が欠乏し、十分なエステル生成物が得られないおそれがあり、クロロゲン酸エステラーゼが0.03重量を上回る場合、クロロゲン酸エステラーゼが高価であることから、経済的ではない。
【0099】
このように構成することにより、神経細胞活性化作用を有するトリペプチドがフェルラ酸の抗酸化力により安定に維持されて酸化による分解が抑制される。さらに、種々のペプチダーゼやプロテアーゼによりトリペプチドが分解されるおそれを減少させ、体内に維持されやすく、吸収率を向上して神経活性化作用が持続される。
【0100】
上記により神経細胞活性化作用を有するトリペプチド、フェルラ酸とクロロゲン酸エステラーゼからなる組成物が得られる。
【0101】
さらに、化粧品として前記の組成物が他の原料とともに加工される。その後、常法に従って油分、界面活性化剤、ビタミン剤、紫外線吸収剤、増粘剤、保湿剤、副素材等とともに用いることができる。化粧水、クリーム、軟膏、ローション、乳液、パック、オイル、石鹸、洗顔料、香料、オーディコロン、浴用剤、シャンプー、リンス等の形態とすることができる。化粧品製剤の形態は任意であり、溶液状、クリーム状、ペースト状、ゲル状、ジェル状、固形状又は粉末状として用いることができる。
【0102】
化粧品として皮膚に1日数回に分けて塗布される。1日の塗布量は0.01〜10gが好ましく、0.05〜3gがより好ましく、0.1〜1gがさらに好ましい。1日の塗布量が、0.01gを下回る場合、シワやタルミの治療または防止効果が発揮されないおそれがある。1日の塗布量が、10gを越える場合、コストが高くなるおそれがある。
【0103】
ここでいう化粧品とは、人間に用いる化粧品である基礎化粧品、美白化粧品、毛髪洗浄剤、トリートメント剤、染め剤、育毛剤、養毛剤、ボディウォッシュ、医薬部外品である。その他に、動物に用いる皮膚改善剤又はペット用シャンプー、ボディウォッシュである。
【0104】
この化粧品は皮膚の神経細胞の異常に起因したシワやタルミの改善又は予防に効果がある。つまり、皮膚は神経に支配される筋肉、たとえば、顔面の場合、皮筋により維持されているが、神経異常により筋肉が障害を受けると、皮膚のシワやタルミを生じる。前記の化粧品は、神経細胞の機能を正常に改善又は維持することにより、皮膚のシワやタルミを改善又は予防する。
【0105】
次に、神経細胞活性化作用を有するトリペプチドからなる抗認知症剤について説明する。神経細胞活性化作用を有するトリペプチドとは、前記に記載のトリペプチドである。このトリペプチドは製造された混合物、抽出して精製された高い純度の物質、ペプチド合成装置により合成されたトリペプチドのいずれも用いることができる。
【0106】
医薬品として用いる場合には、不純物による影響を除去することが必要となるために、ペプチド合成装置により合成され、溶媒の残留の少ない前記の構造のトリペプチドを用いることが好ましい。
【0107】
医薬品として経口剤又は非経口剤として利用され、医薬部外品としては、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、石鹸、歯磨き粉等に配合されて利用される。
【0108】
経口剤としては、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、ドリンク剤等が挙げられる。前記の錠剤及びカプセル剤に混和される場合には、結合剤、賦形剤、膨化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤等とともに用いることができる。前記の錠剤は、シェラック又は砂糖で被覆することもできる。また、前記のカプセル剤の場合には、上記の材料にさらに油脂等の液体担体を含有させることができる。前記のシロップ剤及びドリンク剤の場合には、甘味剤、防腐剤、色素香味剤等を含有させることができる。
【0109】
非経口剤としては、軟膏剤、クリーム剤、水剤等の外用剤の他に、注射剤が挙げられる。外用剤の基材としては、ワセリン、パラフィン、油脂類、ラノリン、マクロゴールド等が用いられ、通常の方法によって軟膏剤やクリーム剤等とすることができる。注射剤には、液剤があり、その他、凍結乾燥剤がある。これは使用時、注射用蒸留水や生理食塩液等に無菌的に溶解して用いられる。
【0110】
ここでいう抗認知症剤は、認知症の改善又は予防を目的とした医薬品又は医薬部外品製剤である。認知症は、神経細胞が死滅するアルツハイマー病、アミロイドたんぱく質の異常による老人性認知症、血管障害による脳卒中による神経細胞の減少に大きく分類される。
【0111】
発症の原因は異なるが最終的には、神経細胞の減少が認知症の発症の原因であることから、前記の抗認知症剤は障害を受けていない正常な神経細胞を増殖させることにより障害を受けた神経細胞を代替し、認知症を改善、又は予防する。また、生活習慣病などにより神経細胞が障害を受る危険性がある場合に、神経細胞を事前に増殖させておくことにより、前記の抗認知症剤は認知症の発症を事前に予防する。
【0112】
以下、前記実施形態を実施例及び試験例を用いて具体的に説明する。
【実施例1】
【0113】
ニ鰓亜綱十腕目に属すイカ類としてスルメイカを原料として用いた。すなわち、宮城県沖で収穫されたスルメイカを漁獲後、船内で直ちに凍結した。これを解体場で解凍し、煮沸した寸胴に入れて100℃で、15分間煮沸した。水により水洗した後、胴体を切断し、頭部と胴部と足部を解体した。
【0114】
胴部より巨大神経を採取し、水洗後、凍結して冷凍庫に保存した。これを水により解凍し、中山技術研究所製のミニ乾燥機CHにより1時間乾燥した。乾燥後、中山技術研究所製DM−6にて、平均100μm径に粉砕し、粉砕物1kgを得てこれを水3.5Lとともに寸胴に入れた。
【0115】
これに、天野エンザイム製プロテアーゼNの粉末を50g添加し、攪拌器により60回/分の割合で攪拌しながら、24時間電気釜内で30〜32℃に加温した。加温終了後、布製のろ過用袋を用いてろ過し、未消化の大きな塊を除外して、ろ過されたろ過液を得た。このろ過液を90℃で、20分間煮沸し、直ちに水冷した。
【0116】
前記の水冷したろ液を凍結乾燥機(東洋理工製)にて凍結乾燥し、目的とする神経細胞活性化作用を有するトリペプチドの粉末105gを得た。
【0117】
以下に、神経細胞活性化作用を有するトリペプチドの精製について説明する。
【実施例2】
【0118】
前記の実施例1で得られた神経細胞活性化作用を有するトリペプチドの粉末100gを精製水1000mLに溶解した。水で平衡化したDEAEセルロース(ワコウゲル、和光純薬)にこの溶液を供した。このカラムを水で洗浄後、0.3M塩化ナトリウム水溶液を1L流した。この画分を採取した。
【0119】
この溶液を理水化学製電気透析装置EDRに供し、塩類を除去した。得られた溶液を限外ろ過膜を装着したペプチド分離用のUFディスクに供して分子量を選択することにより、トリペプチド分画を得た。得られた液を凍結乾燥機(東洋理工製)にて凍結乾燥し、目的とする神経細胞活性化作用を有するトリペプチドの粉末を20g得た。
【0120】
以下に、神経細胞活性化作用を有するトリペプチドの化学合成について説明する。
【実施例3】
【0121】
市販のアミノ酸(味の素製)を原料としてFmoc法及びFmoc−tBu法により、ペプチド合成装置PSSM−8(島津製作所製)を用いてLeu−Tyr−Phe、Phe−Tyr−Phe、Pro−Tyr−Phe及びGln−Tyr−Pheの4種類のトリペプチドを合成した。
【0122】
以下に示すように、ヒト由来神経細胞の増殖性を指標として神経細胞活性化作用を有するトリペプチドを検出し、精製及び分離のための試験を実施した。
【0123】
(試験例1)
ヒト由来神経細胞として、ATCCより購入したヒト由来神経細胞、HCN−2(ATCC番号:CRL−10742)を用いた。ヒト由来神経細胞の培養キットとして、R&Dシステム社製のNeural Stem Cell Expansion Kitを用いた。このヒト由来神経細胞は、神経細胞の増殖因子を検索する際の検出法として利用され、既に試験報告も豊富である。
【0124】
培養されたヒト由来神経細胞10000個を培養液に懸濁し、35mm径プラスチックシャーレ(ファルコン)に播種し、37℃で、5%炭酸ガス下、24時間培養した。これに実施例1又は実施例2で得られた試験検体又は実施例3で得られたトリペプチド、又は溶媒対照として水を添加して、さらに、72時間培養した。培養後、シャーレをトリプシン溶液で処理して細胞を集め、細胞数を計数した。
【0125】
溶媒対照の細胞数に対する実施例1又は実施例2で得られた試験検体又は実施例3で得られたトリペプチドを添加した場合の細胞数を計数し、神経細胞活性化作用を有するトリペプチドが溶媒対照の値の2倍になる試験検体の濃度を求めた。
【0126】
その結果、実施例1で得られた神経細胞活性化作用を有するトリペプチドが溶媒対照の値の2倍になる添加濃度は、36mg/mlであった。
【0127】
また、実施例2で得られた神経細胞活性化作用を有する精製されたトリペプチドが溶媒対照の値の2倍になる添加濃度は、14mg/mlであった。
【0128】
さらに、実施例3で得られたLeu−Tyr−Phe、Phe−Tyr−Phe、Pro−Tyr−Phe及びGln−Tyr−Pheについて溶媒対照の値の2倍になる添加濃度は、それぞれ、0.87mg/ml、0.79mg/ml、1.13mg/ml及び2.09mg/mlであった。
【0129】
これらの結果から、実施例1及び実施例2で得られたトリペプチド、ならびに実施例3で得られたLeu−Tyr−Phe、Phe−Tyr−Phe、Pro−Tyr−Phe及びGln−Tyr−Pheは、いずれも、ヒト由来神経細胞に対して神経細胞の増殖を示し、神経細胞活性化作用を有することが判明した。
【0130】
前記のようにして得られた実施例1及び実施例2の神経細胞活性化作用を有するトリペプチドについて高速液体クロマトグラフィ(HPLC)及び核磁気共鳴装置(NMR)を用いて以下のように分析した。
【0131】
(試験例2)
前記の実施例1及び実施例2で得られた神経細胞活性化作用を有するトリペプチドをフォトダイオードアレイ(島津製作所製)を装着したHPLCに供して解析を行った。
【0132】
その結果、分子量200〜500の部分に、神経細胞活性化作用を有するトリペプチドが存在することが判明した。
【0133】
また、実施例1及び実施例2で得られた神経細胞活性化作用を有するトリペプチドをCAPCELLPACKC18カラムによるHPLCを実施した。
【0134】
さらに、NMR(バリアン製)による解析の結果、Leu−Tyr−Phe、Phe−Tyr−Phe、Pro−Tyr−Phe及びGln−Tyr−Pheが同定された。
【0135】
実施例1のトリペプチドの粉末において、Leu−Tyr−Phe、Phe−Tyr−Phe、Pro−Tyr−Phe及びGln−Tyr−Pheの含有量は、それぞれ、6.4%、5.3%、2.3%及び3.1%であった。さらに、実施例2で得られた精製されたトリペプチドの粉末において、Leu−Tyr−Phe、Phe−Tyr−Phe、Pro−Tyr−Phe及びGln−Tyr−Pheの含有量は、それぞれ、36.6%、30.4%、9.4%及び8.7%であった。
【0136】
以下に、神経細胞活性化作用を有するトリペプチド、クロロゲン酸及びクロロゲン酸エステラーゼからなる食品製剤について説明する。
【実施例4】
【0137】
ステンレス製寸胴に、実施例1で得られた神経細胞活性化作用を有するトリペプチド100gに、コーヒーより抽出したクロロゲン酸100g、クロロゲン酸エステラーゼ(キッコーマン製)1gを添加し、関東混合機製のSS型116を用いて混合した。
【0138】
混合後、寸胴を35℃の恒温室に入れ、24時間加温した。これをV型混合機(徳寿工作所製)に移し、異性化糖300g、食用セルロース600g、アスコルビン酸1g及び食用コーヒー香料9g混合した。これを常法により混合し、ブタ由来ゼラチン製カプセル(1号、カプスゲルジャパン)に充填し、食品製剤として0.3g入りのカプセルを得た。
【0139】
以下に、食品製剤を用いた神経機能の改善効果試験について示す。
(試験例3)
軽度の認知症と判定された男性及び女性各3名(65歳〜85歳)に、実施例4で得られた食品製剤を毎食後3カプセルずつ、1日あたりでは9カプセルを摂取させた。30日間連続して摂取させ、認知症のスコアを改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R)により計測した。
【0140】
その結果、摂取前には6名のスコアの平均は11であったが、30日間摂取後には6名のスコアの平均は23となり、スコアの改善が認められた。また、日常行動においても、失禁及び夜間徘徊の出現数が減少し、見当識も改善した。一方、この食品製剤の摂取による副作用は認められず、安全性が確認された。
【0141】
以下に、神経細胞活性化作用を有するトリペプチド、フェルラ酸及びクロロゲン酸エステラーゼからなる化粧品について説明する。
【実施例5】
【0142】
ステンレス製寸胴に、実施例1で得られた神経細胞活性化作用を有するトリペプチド100gに、フェルラ酸(築野食品工業製)40g、クロロゲン酸エステラーゼ(キッコーマン製)1gを添加し、関東混合機製のSS型116を用いて混合した。混合後、寸胴を32℃の恒温室に入れ、18時間加温した。
【0143】
これにモノステアリン酸ポリエチレングリコール100g、親油型モノステアリン酸グリセリン100g、馬油エステル200g及びオレイン酸150gを溶解して添加した。さらに、プロピレングリコール20g、α−トコフェロール1g及び精製水700gを添加した。これらを関東混合機製のSS型116を用いて混合した後、冷却して乳液を得た。
【0144】
(試験例4)
実施例5で得られた乳液を使用して、健常人を対象に、シワに対する改善試験を行なった。すなわち、年齢52〜77才の女性6例を対象として、前記の乳液を1日当たり1gずつ、顔面左側のみに7日間塗布させた。顔面右側には、トリペプチドを含有しない基材だけからなる乳液を同様に塗布させた。塗布前及び塗布期間終了後に、顔面のシワの本数と長さを計数した。
【0145】
その結果、塗布前の顔面左側についてシワの本数の平均値は19本、その長さの平均値は、3.9cmであったが、実施例5の塗布後の顔面左側についてはシワの本数の平均値は、12本、その長さの平均値は、2.5cmとなり、シワの本数と長さが減少した。
【0146】
一方、塗布前の顔面右側についてシワの本数の平均値は21本、その長さの平均値は、3.7cmであり、基材のみの塗布後の顔面右側についてはシワの本数の平均値は、21本、その長さの平均値は、3.6cmとなり、シワの本数及び長さともに、ほとんど変化なかった。これらの結果、実施例5で得られた乳液にはシワの改善効果が認められた。この乳液による副作用は認められず、安全性が確認された。
【0147】
以下に、神経細胞活性化作用を有するトリペプチドを有するからなる抗認知症剤について説明する。
【実施例6】
【0148】
実施例3で得られたLeu−Tyr−Phe8g、乳糖50g及び高級脂肪酸エステル40gを混合した。これを常法によりブタ由来ハードカプセル(カプスゲルジャパン製)に充填し、1粒350mgのハードカプセル剤を得た。
【0149】
同様に、実施例3で得られたPhe−Tyr−Phe8g、乳糖50g及び高級脂肪酸エステル40gを混合した。これを常法によりブタ由来ハードカプセル(カプスゲルジャパン製)に充填し、1粒350mgのハードカプセル剤を得た。
【0150】
以下に、Leu−Tyr−Pheからなるハードカプセル剤を用いた認知症の改善効果試験について示す。
【0151】
(試験例5)
軽度の認知症と判定された男性3名及び女性5名(63歳〜88歳)に、実施例6で得られたLeu−Tyr−Pheからなるハードカプセル剤を毎食後3カプセルずつ一日に9カプセルを摂取させた。30日間連続して摂取させ、認知症のスコアを改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R)により計測した。
【0152】
その結果、摂取前にはスコアの平均は9であったが、30日摂取後にはスコアの平均は22となり、スコアの改善が認められた。また、日常行動においても、失禁及び夜間徘徊の出現数が減少し、見当識も改善した。一方、このハードカプセル剤の摂取により、臨床症状、尿検査値、血液検査値、血液生化学検査値、体温、呼吸、心拍及び血圧のいずれにも、製剤の摂取による異常は認められなかった。これらの結果、実施例6で得られたLeu−Tyr−Pheからなるハードカプセル剤は、優れた認知症の改善効果を発揮することが判明した。
【0153】
以下に、Phe−Tyr−Pheからなるハードカプセル剤を用いた認知症の改善効果試験について示す。
【0154】
(試験例6)
軽度の認知症と判定された男性6名及び女性9名(65歳〜79歳)に、実施例6で得られたPhe−Tyr−Pheからなるハードカプセル剤を毎食後3カプセルずつ一日に9カプセルを摂取させた。30日間連続して摂取させ、認知症のスコアを改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R)により計測した。
【0155】
その結果、摂取前にはスコアの平均は8であったが、30日摂取後にはスコアの平均は23となり、スコアの改善が認められた。また、日常行動においても、失禁及び夜間徘徊の出現数が減少し、見当識も改善した。一方、このハードカプセル剤の摂取により、臨床症状、尿検査値、血液検査値、血液生化学検査値、体温、呼吸、心拍及び血圧のいずれにも、製剤摂取による異常は認められなかった。これらの結果、Phe−Tyr−Pheからなるハードカプセル剤は、優れた認知症の改善効果を発揮することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明である認知症改善効果を目的とした副作用の弱い優れた神経細胞活性化作用を有するトリペプチドは、脳神経細胞、末梢神経細胞を活性化することにより、種々の神経障害に苦しむ患者のQOLを改善する。
【0157】
また、ニ鰓亜綱十腕目に属すイカ類の胴内より得られた神経は、イカ類の加工処理工程で廃棄物として処理されている。本発明によれば、この廃棄物を有効に利用できる点から、漁業資源の有効利用が期待され、漁業産業の活性化も予測される。
【0158】
神経細胞活性化作用を有するトリペプチドからなる食品製剤によれば、神経障害や認知症を予防し、国民生活の質的向上に寄与できる。
【0159】
さらに、神経細胞活性化作用を有するトリペプチドからなる化粧品によれば、神経機能の低下によるシワに対して改善し、高齢者やシワに悩む方の生活を向上させる。神経細胞活性化作用を有するトリペプチドからなる抗認知症剤によれば、新規医療分野の開拓が望まれ、医薬品業界の活性化に寄与できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X−Tyr−Pheの構造を持ち、Xは、Leu、Phe、Pro、Glnの中から選択されるいずれかのアミノ酸からなる神経細胞活性化作用を有するトリペプチド。
【請求項2】
XがLeuであり、Leu−Tyr−Pheの構造を持つ請求項1に記載の神経細胞活性化作用を有するトリペプチド。
【請求項3】
XがPheであり、Phe−Tyr−Pheの構造を持つ請求項1に記載の神経細胞活性化作用を有するトリペプチド。
【請求項4】
ニ鰓亜綱十腕目に属すイカ類の胴内より得られた神経の粉砕物1重量に対し、プロテアーゼ0.03〜0.5重量を添加し、加熱して得られる請求項1又は請求項2又は請求項3に記載の神経細胞活性化作用を有するトリペプチド。
【請求項5】
請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4に記載の神経細胞活性化作用を有するトリペプチド1重量に、クロロゲン酸0.1〜4重量、クロロゲン酸エステラーゼ0.0002〜0.02重量を添加し、加温して得られる組成物からなる食品製剤。
【請求項6】
請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4に記載の神経細胞活性化作用を有するトリペプチド1重量に、フェルラ酸0.3〜8重量、クロロゲン酸エステラーゼ0.0003〜0.03重量を添加し、加温して得られる組成物からなる化粧品。
【請求項7】
請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4に記載の神経細胞活性化作用を有するトリペプチドからなる抗認知症剤。

【公開番号】特開2006−347951(P2006−347951A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175826(P2005−175826)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(504447198)
【Fターム(参考)】