説明

移動体用緩衝器及びこれを備えた移動体

【課題】移動体の衝突時の衝撃を吸収して、荷重が人を壁に挟圧したり転倒させたりしないための一定の安全値を超えない範囲にとどまるようにすることが可能な移動体用緩衝器を提供する。また、移動体用緩衝器を備え、衝突時の荷重が上記の範囲にとどまっている間に自身を安全に停止させることが可能な移動体を提供する。
【解決手段】弾性薄肉部材からなり、中空構造を有する管状体を有し、管状体一側面に加えられる衝突の衝撃を管状体他側面の座屈変形により吸収することで座屈変形中の衝突荷重の値が所定値以下となるように構成されている移動体用緩衝器を提供する。また、この移動体用緩衝器と制動器とを備え、移動体用緩衝器は、衝突を検知する手段と、検知結果を制動器に出力する手段とを有し、制動器は検知結果を取得すると移動体用緩衝器の座屈変形期間内に自動的に移動体を停止させるための制動を行う移動体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性薄肉部材からなり中空構造を有する管状体を有する移動体用緩衝器及びこれを備えた移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療・福祉分野などにおいて、様々な移動体(モービル機器)が利用されている。例えば、医療・福祉施設への入院・入居者に食事を提供するための保冷・保温機能を有する適温配膳車がその一例である。適温配膳車は、一般に車重が200kg以上、高さが1600mm以上(人の背丈ほど)あり、操作者からの死角も多く、また取り回しの不自由さから操作者、患者、見舞者などとの衝突による人身事故も起こるに至っている。これはほんの一例であるが、一般に、かかる移動体の普及に伴い、医療・福祉施設などにおいて、操作者、患者、高齢者、身体障害者、見舞者などの周辺で活動する比較的大型の低速移動体(配膳車以外の例として、医療用具運搬用ワゴン、患者搬送用ベッド、車椅子(一般道路用の電動椅子を含む)、スーパーマーケットなどで使われるカートなどが挙げられる)とこれらの者との衝突の機会は増えており、これに伴う人身事故発生の機会も増大する傾向にある。また同様に、屋外でかかる低速移動体を利用する際(例えば、運転に不慣れな高齢者が電動車椅子で屋外の人ごみの中を移動する際)に一般の歩行者に衝突することによる人身事故の危険性も増大している。
【0003】
一方、かかる移動体が人と衝突しても人身事故に至らないようにするための工夫も、従来からなされてきているところである。その代表的な方法は、移動体に緩衝器(バンパー)を備え付けることにより、該移動体が人と衝突した際に、緩衝器が大きく変形することで衝撃を吸収し、もって人に対する衝撃を和らげるという方法である。
【0004】
例えば、特許文献1では、車体に取り付けるための、断面が矩形の中空形材と、この中空形材の衝突面側の前面に取り付けられた補強形材からなるエネルギー吸収部材が開示されている。同文献によれば、かかるエネルギー吸収部材により、車両衝突時に、中空部材に対する略水平方向からの荷重に対して、中空部材の側壁の立脚方向(水平方向)に力がかかる結果、側壁が曲げ変形箇所を起点に、通常中空構造断面の外側方向に変形、座屈して中空部材が横圧壊(水平に変形)状態となり、衝撃エネルギーを吸収するという構成例が示されている(特許文献1段落[0022]、[0034]、図1参照)。
【0005】
また、衝突があった場合には、単に緩衝器により衝撃を吸収するだけでなく、移動体自身を直ちに停止させることにより、人を壁に挟圧したり床に転倒させたりすることがないようにするための、衝突時における安全な停止のためのシステムに関する技術も知られている。
【0006】
例えば、特許文献2では、カート本体下端部に設けられた電動車輪と、カート本体ベースの背面に設けられ、衝突検知センサ取付部と該衝突検知センサ取付部の両端に設けられた衝突検知センサ挿通孔とを設けたバンパースカートと、前記衝突検知センサ挿通孔に両端部が表側から裏側に向けて挿通され、中央部が前記衝突検知センサ取付部に取り付けられた衝突検知センサとを具え、衝突検知センサが衝突を検知したとき前記電動車輪を停止させるようにしたことを特徴とする配膳カートが開示されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−225761号公報
【特許文献2】特開2003−219916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、単に中空の緩衝器などのエネルギー吸収部材によって移動体の衝突時の衝撃を吸収するだけでは、荷重が人を壁に挟圧したり転倒させたりしないための一定の安全値を超えて上昇してしまい、かかる挟圧・転倒を引き起こして人に怪我をさせるおそれが解消できない。
【0008】
また、これを避けるべく、衝突があった場合には、単に緩衝器により衝撃を吸収するだけでなく、移動体自身を直ちに停止させることにより、人を壁に挟圧したり床に転倒させたりすることがないようにするための、衝突時における安全な停止のためのシステムも、従来のものは、緩衝器に別途衝突検知センサを取り付ける必要があり、構造が複雑となり、また衝突時の衝撃等により故障しやすく、すぐに復元して再使用することが困難となりがちであるといった問題があった。
【0009】
そこで、本発明の解決すべき課題は、移動体の衝突時の衝撃を吸収して、荷重が人を壁に挟圧したり転倒させたりしないための一定の安全値を超えない範囲にとどまるようにすることが可能な移動体用緩衝器を提供するとともに、かかる移動体用緩衝器を備えることにより、衝突時の荷重が人を壁に挟圧したり転倒させたりしないための一定の安全値を超えない範囲にとどまっている間に自身を安全に停止させることが可能な移動体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するため、本発明のうち、第一の発明は、弾性薄肉部材からなり、中空構造を有する管状体を有する移動体用緩衝器であって、管状体一側面に加えられる衝突の衝撃を管状体他側面の座屈変形により吸収することで座屈変形中の衝突荷重の値が所定値以下となるように構成されていることを特徴とする移動体用緩衝器を提供する。
【0011】
また、第二の発明は、第一の発明を基礎とし、前記管状体は、横断面が略矩形である移動体用緩衝器を提供する。
【0012】
また、第三の発明は、第一又は第二の発明を基礎とし、前記管状体は移動体の前後方向に2段重ねられている移動体用緩衝器を提供する。
【0013】
また、第四の発明は、第一から第三のいずれか一の発明を基礎とし、前記衝突の衝撃が加えられることを予定する前記一側面の断面2次モーメントは衝突の衝撃により座屈変形することを予定している前記他の側面の断面2次モーメントよりも大であることを特徴とする移動体用緩衝器を提供する。
【0014】
また、第五の発明は、第一から第四のいずれか一の発明の移動体用緩衝器と、制動器とを備えた移動体であって、移動体用緩衝器は、緩衝器に衝突があったことを検知する検知部と、衝突があったとの検知結果を制動器に出力する出力部とを有し、制動器は、衝突があったとの検知結果を取得すると、移動体用緩衝器の座屈変形期間内に自動的に移動体を停止させるための制動を行うことを特徴とする移動体を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、移動体の衝突時の衝撃を吸収して、荷重が人を壁に挟圧したり転倒させたりしないための一定の安全値を超えない範囲にとどまるようにすることが可能な移動体用緩衝器を提供するとともに、かかる移動体用緩衝器を備えることにより、衝突時の荷重が人を壁に挟圧したり転倒させたりしないための一定の安全値を超えない範囲にとどまっている間に自身を安全に停止させることが可能な移動体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施例を説明する。実施例と請求項の相互の関係は以下のとおりである。実施例1は主に請求項1、請求項2などに関し、実施例2は主に請求項3、請求項4などに関し、実施例3は主に請求項5などに関する。なお、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施しうる。
【実施例1】
【0017】
〈概要〉
本実施例の移動体用緩衝器は、弾性薄肉部材からなり、中空構造を有する管状体を有する移動体用緩衝器であり、管状体の一側面(例えば移動体の進行方向前面)に加えられる衝突の衝撃を管状体の他の側面(例えば移動体の進行方向上下面)の座屈変形により吸収することで座屈変形中の衝突荷重の値が所定値以下となるようにしたものである。
【0018】
〈構成〉
(全般)
図1は、本実施例の移動体用緩衝器の一例を示す。本図の移動体緩衝器0100は移動体(ここでは一部のみ示す)0110のフロントパネル0111に取り付けた状態で示したものである。本図の移動体用緩衝器は、中空構造を有する断面が略矩形の管状体0101、0102を横に二個連ねたものである。
【0019】
移動体用緩衝器を弾性薄肉部材からなるものとしたのは、後述するように、移動体用緩衝器が障害物に衝突した時に座屈変形するようにするためである。このためにどの程度の弾力性、どの程度の厚みを持たせるかは、衝突の衝撃との関係で決まる事柄である。本発明の移動体用緩衝器として典型的に念頭に置かれるものは、既述のように、医療・福祉施設で活動する比較的大型の低速移動体(適温配膳車など)である。後に詳述するように、実験結果から、衝撃値が6Nを超える場合に変形することが望ましく(これ以下で変形するような部材とすると、変形させる必要のない程度の衝撃、例えば、移動体が走行時に床や道路のちょっとしたでこぼこによって振動しただけで変形してしまい実用に不便である)、また人の身体の痛覚耐性値(後述するように100Nを設定)又は転倒値を斟酌した安全条件(後述するように55Nを設定)以上にならないように衝撃を吸収可能に変形することが望ましい。このため、部材の弾力性、厚み(板厚)が、かかる値に対応するものであることが望ましい。
【0020】
(材料)
また、弾性薄肉部材からなる移動体用緩衝器の材料は、かかる座屈変形を起こすことが容易なものであることが望ましい。好適な材料の一例としては、ポリカーボネート、ポリエチレンテフタレートなどの高弾性プラスチック、ポリエステルエストラマー、オレフィン系エストラマー、ゴムなどのエストラマーが考えられる。また、部材の板厚は0.1〜0.6mm程度であることが望ましく、さらに好適には、以下に述べる実験例から明らかなように0.3〜0.5mm程度であることが望ましい。また、かかる部材を用いることにより、これも後述するように、衝撃がなくなった後に元の形に復元するという効果が得られ、すぐに再使用することが可能となる。
【0021】
(形状)
移動体用緩衝器の形状自体は、中空構造を有する管状体のものであれば、特に限定はない。本図に示したような断面が略矩形のもののほか、異なる形状の断面を組み合わせたもの(例えば略矩形の先に略半円形を連ねた形状の断面を有するもの)であってもよい。また、管状体を連ねる個数も、本図のように二個連ねてもよいし、三個以上連ねてもよく、あるいは一個の管状体からなるものであってもよい。管状体を二個以上連ねる場合は、これらの管状体どうしを接着剤で接着させてもよいし、さらにこれに加えて管状体どうしをプラスチックビスなどで固定するようにしてもよい。また、一個の管状体からなる場合に、管の中に梯子中板を渡してプラスチックビスなどで固定することにより管内を仕切ることで梯子形状としたものであってもよい。
【0022】
図2は、移動体用緩衝器の形状の一例を示す図であって、図1に示したものと異なる形状の一例を示したものである。このうち、図2(a)の移動体用緩衝器0200は、中空構造を有する断面が略矩形の管状体0201〜0203を横に三個連ねたものである。図2(b)の移動体用緩衝器0200も中空構造を有する断面が略矩形の管状体0204〜0206を横に三個連ねたものであるが、中央の矩形部分0205の断面積が、その左右の矩形部分0204、0206の断面積に比べて大きいものの例を示す。このように、本実施例の移動体用緩衝器は異なる断面積を有する管状体を連ねたものであってもよい。さらに、図2(c)の移動体用緩衝器0200は中空構造を有する断面が略矩形の一個の管状体からなるものであるが、管の中に2枚の梯子中板0207を渡して管内を仕切ることで梯子形状としたものである。本例では、梯子中板が側面と接着するために側面を折り曲げた形状をしており、これが接着のためののりしろあるいはプラスチックビス0208などで側面に留めるための部分を形成している。また、後述するようにかかるのりしろ等を設けることで、移動体用緩衝器側面を補強する役割も果たしている。
【0023】
(衝撃を吸収して座屈変形中の衝突荷重の値を所定値以下とするための具体的構成)
次に、本実施例の移動体用緩衝器において、管状体一側面に加えられる衝突の衝撃を管状体他側面の座屈変形により吸収することで座屈変形中の衝突荷重の値が所定値以下となるようにするための具体的構成について、実験結果に基づいて説明する。本発明に際しては、異なる形状の移動体用緩衝器を用いて複数の実験を行ったところ、ここでは静的押込み実験の結果について説明する。
【0024】
図3は、静的押込み実験に用いた実験装置の概要を示す。本実験では、押込み試験機0301の下側に移動体用緩衝器0300を固定し、人の脛(すね)との接触を模擬するために上から接触半径40mmの半円柱の加圧子0302(荷重を計測するためのロードセル0303の梁部にボルト・ナットで固定)で押込み荷重を与える方法によった。本図の移動体用緩衝器は断面が略矩形の管状体を二個連ねたもの例を示したが、この移動体用緩衝器を様々な形状のものに置き換えつつ同様の実験を繰り返した。その際、押込み試験機は、コンピューター0304により制御されるサーボモーターの回転によって変位制御され上下に動くようにした。強制変位速度は準静的で0.5mm/sとし、最大変位は90mmとした。この距離は、移動体用緩衝器を取り付けた移動体が人に衝突した際の最大停止距離(後に詳述する)を想定したものである。測定方法は、移動体用緩衝器に加わる荷重を加圧子と一体となった片持ち梁式ロードセルから加圧子の反力を測定した。加圧子変位は、ロードセル上面をひずみ式電気変位計0305で測定した。ロードセルとひずみ式変位計のデータはシグナルコンディショナ0306を介して出力し、デジタル・オシロスコープ0307で記録した。
【0025】
ここでは、図2(c)に示したような中空構造を有する断面が略矩形の一個の管状体からなるものであって管の中に2枚の梯子中板を渡して管内を仕切ることで梯子形状とした移動体用緩衝器を用いた実験結果に基づいて説明する。図4にここで用いた移動体用緩衝器の断面を示す。本図では上方向(矢印A方向)が移動体の進行方向を示す。従って、実験では、進行方向にある障害物との衝突による衝撃を模擬するために、加圧子により上側から圧力を加えて当該移動体用緩衝器を変形させることになる。即ち、本例では、衝突の衝撃が加えられる「管状体一側面」は、上面0401ということになる。また座屈変形する「管状体他側面」は、本例では左右の側面0402、0403である。このように、本発明の移動体用緩衝器では、衝突の衝撃が加えられる面と座屈変形する面が異なっている点に特徴がある。
【0026】
本例の移動体用緩衝器の弾性薄肉部材の材料としては、ポリカーボネートを用いた。部材の板厚は上面0401のみ0.6mm、その余の面0402〜0404は0.3mmである。また、部材の寸法は、左右の幅(移動体に取り付けた状態でいえば上下の高さ)が50mmである。また、上下の長さ(移動体に取り付けた状態でいえば前後の長さ)が150mmであり、上下それぞれ1/3ずつに厚さ0.3mmの梯子中板0405を渡してプラスチックビス0406で留めた。
【0027】
次に、図5に静的押込み実験の結果得られた荷重変位曲線の一例を示すとともに、同図で(a)から(h)までに示した各押込み過程における移動体用緩衝器の変形状態の概要を図6(a)から(h)までに示した。図5の(a)−(h)各地点における変形状態は、図6のそれぞれ同じ符号に対応する図に示す形状である。なお、図6はあくまで概要を示す図であり、実験時における実際の形状の一例は後出の図17に示す。なお、図6は図17に示す実際の形状に基づいてその概要を示したものであり、特徴的な点を中心に模式的に示したものであるため、実際の形状とは必ずしも完全には一致していないが、当該変形状態の特徴的な点としては、各矩形の断面の角の部分が、押込みの全過程を通じてほぼ直角を保っている点を挙げることができる。
【0028】
この実験において、座屈変形中の衝突荷重の値が所定値以下となるかどうかを評価したが、ここでの所定値は次のように設定した。まず、人が移動体に衝突し、移動体と壁との間に挟まれて怪我をしたときに感じる程度の痛みに対応する荷重である「痛覚耐性値」として、一般人が感じる上記の程度の痛みに対応する値である100Nを設定した。また、人が移動体に衝突した際に転倒・並進しない荷重の上限である「安全条件」として、5歳児を模擬したダミー人形を用いた実験(ここでは医療施設などにおける典型的な衝突状況に照らしスリッパを履いた状態(床との摩擦係数μ=0.23)を模擬)に基づいて55Nを設定した。そこで、これらの値に照らして上記実験の結果得られた荷重変位曲線がこれを超えないかどうかを判断した。上述のように、最大変位の90mmは、移動体が人と衝突してから停止するまでの最大停止距離を想定したものであるから、この最大変位までの全期間を通じて荷重を痛覚耐性値以下に抑えることができれば、人が移動体と壁の間に挟まれて怪我をする前に移動体を停止させることができ、最大変位までの全期間を通じて荷重を安全条件以下に抑えることができれば、人が転倒・並進する前に移動体を停止させることができることとなる。
【0029】
以上の実験における押込み過程における変形状態における特徴的な結果を区間ごとに説明すると、以下のとおりである。
【0030】
(図5(a)−(b)区間)
横倒れを開始するまでの間、荷重は上昇し、初期剛性は3mmで10N程度であった。初期剛性で立ち上がった後、横倒れに移る前に移動体用緩衝器自体がねじれを直すように動くため、図6(b)に示すように、移動体用緩衝器はすぐには倒れない状態が保たれた。
【0031】
(図5(b)−(d)区間)
この区間では座屈変形が実現される。即ち、図6(b)−(d)に示すように、上段、下段が横倒れして、その影響により中段も弓状に変形する形で全体に変形していく。この変形により、図5(b)−(d)に示すように、荷重が20N前後に保持された状態が続く。また、図6(b)−(d)に示すように、このときの変形の特徴として、下段よりも上段の横倒れ変形の方が大きいという状態が見られる。
【0032】
(図5(d)−(f)区間)
この区間では荷重がいったん下降する。これは、(d)地点に到達すると、図6では省略したが(図17参照)、加圧子と接触する移動体用緩衝器上面が局所的に凹んで局所変形となるためである。ここで、「局所変形」とは、移動体用緩衝器の加圧子に接触する面のうち接触部分だけが他の部分より大きく凹む形で変形する状態をいい、「全体変形」とは、このような局所的な凹みを生ぜず、移動体用緩衝器の加圧子に接触する面が全体的に均一に変形していく状態をいう。
【0033】
(図5(f)−(h)区間)
この区間では荷重が再び上昇する。これは、(f)地点以降では上段がすべて倒れた状態になっていき、これに伴い移動体用緩衝器と加圧子との接触面積が大きくなっていくためである。その後、下段も横倒れしてほぼ完全に倒れた状態となるが、中段のみは梯子中板の接着用のりしろが側面を強くしているため、簡単には倒れず、これも荷重上昇の原因となっている。
【0034】
図17は、実験時における上記の各地点における変形形状の一例を示す図であって、図6に示した変形状態に右側面側から見た状態を加えたものである。本図の(a)−(h)も、図5の(a)−(h)の同じ符号の各地点における変形状態に対応するものである。図17に示す(d)の状態(負荷過程40mm)において、移動体用緩衝器上面の加圧子に接触している部分が他の部分より大きく凹み始めており、この地点において局所変形が始まった状態が示されている。このことが、上述のようにこの区間において荷重がいったん下降することの原因であるといえる。また、図17の(h)の状態では、上述したように接着用のりしろが側面を強くしているため、押込み変位が90mmに至った状態でもなお中段は上下段に比べてあまり変形が進んでいない状態が示されている。
【0035】
(本構成のメリット)
本実験から、ここで用いたような構造の移動体用緩衝器を用いることで、最高荷重を55N以下に抑えることが可能なことが判明した。つまり、本実施例の移動体用緩衝器を用いた移動体と人が衝突した場合、それがスリッパを履いた状態の平均的な5歳児であっても転倒・並進しないですむことが判明した。
【0036】
図7は、比較の参考のために、荷重変位曲線の他の一例を示す(これも実験の結果得られたものである。ちなみに、このときの実験に用いた移動体用緩衝器は、中空構造を有する断面が略円形の管状体を横に三個連ねたものである)。本図の例では、図5に示した例と異なり、一定以上の押込み変位(概ね40mm程度)を加えると、荷重が安全条件である55Nを超える状態となる。つまり、この実験に用いた移動体用緩衝器を用いた場合には、図5で示した実験に用いた移動体用緩衝器を用いた場合と異なり、人が当該移動体に衝突した場合に転倒、並進のおそれがあるということである。
【0037】
図18は、参考までにかかる中空構造を有する断面が略円形の管状体を横に三個連ねたタイプの移動体用緩衝器の外観の一例を示す。このうち(a)は斜視図、(b)は断面図を示す。本例のものは、板厚0.5mm、直径50mm、長さ440mmの円筒形の管状体を三個連ねてプラスチックビスで留めたものである。また、管状体の両端に幅30mmのガイドを取り付けつけて構造を強化している。
【0038】
本例の結果と、図5に示した結果の違いの原因として、両者の実験における移動体用緩衝器の変形状態の違いによるものであることが判明した。即ち、図5の実験結果では側面が座屈するのに対し、図7に示す実験結果の場合、(b)から加圧子と接触している部分だけがその周辺の部分より大きく押し込まれる状態で局所変形を起こし始め、(e)地点に向かって押込み変位が増加していくにつれ、荷重も比例的に増加していく。この結果、(c)地点を越えたあたりで荷重が安全条件55Nを上回ることとなった。
【0039】
図19は、静的押込み実験時における各地点における変形形状の一例を示す図であって、この中空構造を有する断面が略円形の管状体を横に三個連ねたタイプの移動体用緩衝器を用いた実験時における図7に示した各地点における変形形状の一例を示す図である。図17の例より早く、(c)地点(負荷過程30mm)以後局所変形が見られ、またその程度も図17の場合よりも大きいことが示されている。
【0040】
ただし、本例においても、押込み変位を90mmまで増加させても、荷重が痛覚耐性値100Nを超えることはないので、人が移動体に衝突しても壁との間に挟まれて痛みを感じることはなく、これでも従来のものに比べて一定の効果を奏するとは評価できる。
【0041】
これに対し、図5に示す実験結果の場合、即ち、図2(c)に示したような中空構造を有する断面が略矩形の一個の管状体からなるものであって管の中に2枚の梯子中板を渡して管内を仕切ることで梯子形状とした移動体用緩衝器を用いた場合には、既述のように押込み変位を90mmまで増加させても、荷重が安全条件55Nを超えることがなく、スリッパを履いた状態の平均的な5歳児衝突してもこれを転倒・並進させないですむことが判明したわけであるが、これは、側面が座屈して荷重が抑えられるためである。また、局所変形が開始する地点が比較的遅く、かつその程度が小さいことも寄与している。
【0042】
また、実験結果の説明は省くが、板厚を本例(図4に示す例)より厚くした(0.5mm)実験も行ったところ、両者の結果の比較から、本例のように板厚をより薄くすることで変形がより柔軟となり、図6(h)に示したように90mmまで押し込んだ場合でも、高い復元性と良好な繰返し耐久性が得られることが判明した。つまり、衝突により荷重が加わって移動体用緩衝器が大きく変形しても、荷重が加わらなくなれば元の形に復元してすぐに再使用が可能なことがわかった。
【0043】
そこで、本実施例の移動体用緩衝器を用いるとともに、制動機構と連動させて、衝撃を自動的に検知して停止するシステムを構築すれば、衝突時の荷重が人を壁に挟圧したり転倒させたりしないための一定の安全値を超えない範囲にとどまっている間に移動体を安全に停止させることも可能となる。また、衝突時の衝撃等により故障することもないので、停止後安全を確認すれば、すぐに再び元のように移動を再開することができる。かかる移動体の具体的構成については、他の実施例で後述する。
【0044】
〈効果〉
本実施例の発明により、移動体の衝突時の衝撃を吸収して、荷重が人を壁に挟圧したり転倒させたりしないための一定の安全値を超えない範囲にとどまるようにすることが可能な移動体用緩衝器を提供することが可能となる。また、かかる移動体用緩衝器は、衝突時の荷重が人を壁に挟圧したり転倒させたりしないための一定の安全値を超えない範囲にとどまっている間に自身を安全に停止させることが可能な移動体に利用することが可能である。
【実施例2】
【0045】
〈概要〉
本実施例の移動体用緩衝器は、基本的に実施例1の移動体用緩衝器と共通するが、管状体が移動体の前後方向に2段重ねられているものである。また、本実施例の移動体用緩衝器には、衝突の衝撃が加えられることを予定する一側面の断面2次モーメントが衝突の衝撃により座屈変形することを予定している他の側面の断面2次モーメントよりも大であり、これにより他の側面において座屈変形が容易に起こるようにしたものも含まれる。
【0046】
〈構成〉
(全般)
本実施例の移動体用緩衝器は、実施例1で説明した様々な形状のバリエーションのうち、中空構造の管状体が移動体の前後方向に2段重ねられている形状のものである。本実施例における「2段重ねられている」という概念には、管状体を二個連ねる場合(実施例1において三個の場合について図2(a)、(b)で示したのと同様の場合)と、一個の管状体からなる場合に、管の中に梯子中板を渡して管内を二個の空間に仕切ることで梯子形状とした場合(実施例1において三個の空間に仕切る場合について図2(c)で示したのと同様の場合)の双方が含まれる。
【0047】
さらに、本実施例の移動体用緩衝器は、好適には、衝突の衝撃が加えられることを予定する前記一側面の断面2次モーメントは衝突の衝撃により座屈変形することを予定している前記他の側面の断面2次モーメントよりも大であるものが該当する。以下では、かかる好適な例を対象として、衝突の衝撃が加えられることを予定する一側面の断面2次モーメントが衝突の衝撃により座屈変形することを予定している他の側面の断面2次モーメントよりも大であることの具体的意味を説明した上で、かかる構成により移動体の衝突時の衝撃を吸収して、荷重が人を壁に挟圧したり転倒させたりしないための一定の安全値を超えない範囲にとどまるようにすることを可能にするための具体的構成について説明する。
【0048】
(一側面の断面2次モーメントと他の側面の断面2次モーメントの相対的大小関係の具体的意味)
ここで、「断面2次モーメント」とは、断面の形状による変形し易さの程度を数値的に表現するための係数であり、具体的には、ある断面を無数の微小断面に分割した場合の微小断面積と、1つの軸から当該断面までの距離の2乗との積によって表される。一般に、断面2次モーメントが大きいほど、曲げに対する強さが大きくなり、変形しにくくなる。本例の移動体用緩衝器は、衝突の衝撃が加えられることを予定する前記一側面の断面2次モーメントが衝突の衝撃により座屈変形することを予定している前記他の側面の断面2次モーメントよりも大であるので、例えば、荷重が上から下に向かって加えられた場合には、「衝突の衝撃が加えられることを予定する前記一側面」は上に面した側面であり、「衝突の衝撃により座屈変形することを予定している前記他の側面」は、例えば左右両側の側面である。そして、上に面した側面の断面2次モーメントが、左右両側面の断面2次モーメントより大きいので、上に面した側面は変形しにくく、左右両側面が座屈変形することになる。
【0049】
図8は、本実施例の移動体用緩衝器の断面の一例を示す図であって、静的押込み実験の結果、本実施例の移動体用緩衝器として最も好適な例であることが判明したものを示す。具体的には、図8(a)に示すように、本例の移動体用緩衝器は、中空構造を有する断面が略矩形の一個の管状体からなるものであって管の中に1枚の梯子中板0805を渡して管内をほぼ同断面積の二つの空間に仕切ることで梯子形状とした移動体用緩衝器である。本例の移動体用緩衝器の弾性薄肉部材も材料としてポリカーボネートを用いた。部材の板厚はすべての面において0.3mmである。また、部材の寸法は、左右の幅(移動体に取り付けた状態でいえば上下の高さ)が50mmである。また、上下の長さ(移動体に取り付けた状態でいえば前後の長さ)が150mmであり、上下の1/2の位置に渡した梯子中板は板厚が0.3mmであり、これをプラスチックビス0806で留めた。
【0050】
また、上面には補強部材0807を被せた。この補強部材は板厚が0.3mm、幅は移動体用緩衝器とほぼ同じ幅(50mmにプラスチックビスの張出し分を加えた長さ)、高さが15mmである。図8(b)は、図8(a)のうち、概ね破線円0809で囲んだ部分を拡大したものである。同図に示すように、補強部材を加えた上面部分の板厚は0.6mmとなる。この補強部材は、「衝突の衝撃が加えられることを予定する前記一側面」である上面の断面2次モーメントを増して変形しにくくし、これにより左右両側面の座屈変形がより起こりやすくなるようにするためのものである。
【0051】
さらに、本例の移動体用緩衝器は、底面0804に外側に折り曲げた部分0808を設けて開脚型とした(この折り曲げ部分は左右均等になるようにし、底面全体の幅が75mmとなるようにした)。移動体用緩衝器をこのような開脚型にしたのは、後述するように、押し込み変位が大きくなったときに荷重がほとんど上昇しなくなるようにすることを可能にするためである。
【0052】
本例の場合も衝撃は上から下に向かって与えられるので、衝突の衝撃が加えられることを予定する前記一側面は、上に面した側面であり、衝突の衝撃により座屈変形することを予定している他の側面は、左右両側面である。そして上に面した側面の断面2次モーメントが左右両側面の断面2次モーメントよりも大きいため、荷重を加えると、左右両側面が座屈変形を起こして衝撃を吸収する。
【0053】
(本実施例に係る移動体用緩衝器の具体的構成)
図9に静的押込み実験の結果得られた荷重変位曲線の一例を示すとともに、同図で(a)から(h)までに示した各押込み過程における移動体用緩衝器の変形状態の概要を図10(a)から(h)までに示した。図9の(a)−(h)各地点における変形状態は、図10のそれぞれ同じ符号に対応する図に示す形状である。なお、図10はあくまで概要を示す図であり、実験時における実際の形状の一例は後出の図20に示す。なお、図10は図20に示す実際の形状に基づいてその概要を示したものであり、前出の図6と同様、特徴的な点を中心に模式的に示したものであるため、実際の形状とは必ずしも完全には一致していない。当該変形状態の特徴的な点は、図6について述べたところと同様である。そこで、次に、本実施例の移動体用緩衝器の具体的構成について、当該実験結果に基づいて説明する。なお、静的押込み実験の実施要領は実施例1の場合と同様である。
【0054】
実験における押込み過程における変形状態における特徴的な結果を区間ごとに説明すると、以下のとおりである。
【0055】
(図9(a)−(b)区間)
初期の状態から横倒れを開始するまでの間、荷重は上昇する。実施例1において図5、図6を用いて説明したところとほぼ同様の結果であり、やはり初期剛性で立ち上がった後、横倒れに移る前に移動体用緩衝器自体がねじれを直すように動くため、図10(b)に示すように、移動体用緩衝器はすぐには倒れない状態が保たれた。
【0056】
(図9(b)−(c)区間)
この区間では座屈変形が実現される。即ち、図10(b)−(c)に示すように、梯子中板の部分が外側に押し出されることにより、上段、下段が対称的に横倒れして、これにより荷重が保持されている。実施例1で示した場合と異なり、変形するスペースが多くあるために、図9(b)−(c)に現れているように荷重上昇の傾きが小さいという状態が見られる。
【0057】
(図9(c)−(e)区間)
この区間では横倒れが深く進むことにより、わずかではあるが荷重が上昇していく。これは変形のスペースが減るために荷重の上昇の傾きが大きくなったためであると考えられる。
【0058】
(図9(e)−(g)区間)
この区間でも荷重が引き続き上昇していくものの、その上昇の程度は低く抑えられる。この結果、押込み変位を90mmまで増加させても、荷重は安全条件である55Nを大きく下回る水準にとどまっている。また、図20から明らかなように、本例では局所変形は全く起こらず、全体変形のみにより、安定的に衝撃を吸収することが可能となっている。
【0059】
なお、説明は省略するが、他の実験において本例とほぼ同形状の移動体用緩衝器であって、下段の底面近くの側面にのりしろを設けたものを用いた場合(この結果、底面近くの側面部分がのりしろで補強されて変形しにくくなるため、下段の変形領域は狭まることになる)の実験結果との比較から、本例のようにかかるのりしろを設けずに下段の変形領域を広く取ることにより、荷重上昇が低く抑えられることが判明した。
【0060】
図20は、実験時における上記の各地点における変形形状を示す図であって、図9に示した変形状態に右側面側から見た状態を加えたものである。本図から、押込み過程を90mmまで進めても、本例では局所変形は全く起こらず、全体変形のみにより、安定的に衝撃を吸収することが可能であることが示されている。
【0061】
(本構成のメリット)
本実験から、ここで用いたような構造の移動体用緩衝器を用いることで、実施例1で説明したすべてのメリットが得られることに加え、さらに以下のメリットが得られることが判明した。
【0062】
即ち、本例の場合、実施例1で説明した例と異なり、荷重が途中でいったん下降した後再び上昇に転じるという現象が見られず、荷重は常に上昇していく。しかも、その上昇の程度は極めて低く、荷重がほぼ一定に保持されているといってもよい。荷重が途中でいったん下降することがないのは、移動体用緩衝器の上面が局所的に変形することがなく、常に全体変形が続いていくからである。
【0063】
実施例1の場合に局所変形が起こるのは、中段部分が上段、下段部分に比べてあまり変形しないために、衝撃が加わる部分(実験に即して言えば、加圧子と接触する部分)に荷重が集中するためである。そこで、本実施例のように管状体が移動体の前後方向に2段重ねられている構造とし、中段部分をなくすことで、局所変形をなくし、常に全体変形が保たれるようにすることができる。この結果、荷重がほぼ一定に保持される状態を実現できることとなる。このように荷重が途中で降下せずほぼ一定に保持することにより、いろいろな荷重変動・外乱に対して安定した荷重と変位の特性曲線を得ることが可能となる。
【0064】
また、上にも述べたように、本例の移動体用緩衝器は、上面に補強を被せることで断面2次モーメントを相対的に大きくして左右両側面の座屈変形を容易にし、また、底面を外側に折り曲げて開脚型とすることで、押し込み変位が大きくなったときに荷重がほとんど上昇しなくなることを実現した。
【0065】
〈効果〉
本実施例の発明により、移動体の衝突時の衝撃を吸収して、荷重が人を壁に挟圧したり転倒させたりしないための一定の安全値を超えない範囲にとどまるようにすることが可能な移動体用緩衝器を提供することが可能となる。しかも、衝撃を加えられることで移動体用緩衝器が大きく変形していっても、荷重が途中で降下せずほぼ一定に保持されるため、いろいろな荷重変動・外乱に対して安定した荷重と変位の特性曲線を得ることが可能となり、荷重がかかる安全値を超えない範囲にとどまっている間に自身を安全に停止させることが可能な移動体に利用することが一層容易になる。
【実施例3】
【0066】
〈概要〉
本実施例の移動体は、実施例1又は2の移動体用緩衝器と制動器とを備えた移動体であって、衝突があったことを検知すると、移動体用緩衝器の座屈変形期間内に自動的に自身を停止させるための制動を行うことを特徴とする移動体である。平たく言えば、本実施例の移動体は、人と衝突した場合にその人が転倒したり壁との間に挟まれて怪我をしたりしないですむように、その前に安全に停止することを可能にした移動体である。
【0067】
〈構成〉
(全般)
図11は、本実施例の移動体における移動体用緩衝器及び移動体本体との結合部分の一例を示す。このうち、(a)は、当該部分の平面図であり、(b)は、当該部分の左側面図である。本実施例の移動体としては、例えば、図12に外観の一例を示すような適温配膳車(全長1970mm、全高1755mm、前面幅770mm)が考えられ、この場合、進行方向が矢印A方向であるとすると、概ね破線1201で示す位置、即ち、適温配膳車の前後及び両側面の下肢が当たる位置に移動体用緩衝器が取り付けられることとなる。一方、図示は省略するが、移動体が電動車椅子やスーパーマーケットなどで使われるカートの場合は、移動体用緩衝器は、例えば当該移動体の前後の下肢が当たる位置に取り付けられる。
【0068】
図11に戻り、本図(a)に示すように、本例の移動体1110は、リニアブッシュ1113、フロントパネル1111を備え、該パネルに移動体用緩衝器1100が取り付けられている。また、移動体用緩衝器はフロントパネルを介して検知部を構成するロードセル1112に接続されている。また、図示を省略したが、移動体は制動器(ブレーキ)を備える。ロードセルで検知された衝突の衝撃は、制動器に対して出力される。
【0069】
「移動体」は、既述のように、医療・福祉施設などで活動する低速移動体を典型とするが、その具体的種類は問わないので、上例の適温配膳車のほか、例えば、医療用具運搬用ワゴン、患者搬送用ベッド、車椅子などあってもよい。
【0070】
本実施例の移動体は、衝突した後、人が転倒したり壁に押し付けられて怪我をしたりする前に移動体を停止させることができる点に特徴がある。そこで、次に、かかる停止を実現するための具体的構成について説明するが、その説明に先立ち、まず、衝突エネルギーの吸収にかかる一般的なストーリーについて説明する。
【0071】
(衝撃エネルギーの吸収ストーリー)
図13は、衝突エネルギーの吸収ストーリーを示す概念図である。本図に示すように、(1)移動体に取り付けられた緩衝器が人と衝突した場合、センサ(検知部)が衝撃を検知する。ただし、センサは衝撃を検知してもこの検知信号をすぐにブレーキ(制動器)に伝えることはしない。これは、誤作動を防ぐためである。そこで、(2)センサが検知した衝撃が適正に設定された閾値を上回った場合に初めてセンサが作動して、衝撃をブレーキに対して出力する。しかし、センサが作動してからブレーキが始動するまでにはタイムラグが生じるため、この時点では未だブレーキが作動を開始するわけではない。次に、(3)出力された検知信号をブレーキ側で受信して初めてブレーキがかかり始める。従って、(1)から(3)までの間は、移動体はまったく制動がかかることなく空走し、その間の衝撃エネルギーの吸収は、右欄(エネルギー吸収の構成)に示すように専ら緩衝器のみで行うこととなる。さらに、(4)ブレーキの作動により、移動体が停止する。この間の衝撃エネルギーは、主にブレーキによるタイヤと床との摩擦により吸収される。この(3)から(4)までの間にも移動体は制動を受けつつ移動する。そこで、移動体が(1)から(3)までに進む距離(空走距離)に(3)から(4)までに進む距離(制動距離)を加えた停止までに要する全体距離(停止距離)の中で、いかに、人を壁との間に挟んで怪我をさせたり、人を転倒・並進させたりすることのないレベルに荷重を抑えるかがポイントとなる。そして、実験の結果に基づけば、移動体が人に衝突してから停止するまでの最大停止距離は90mmであるので、移動体がこの距離を進む間の全期間を通じて荷重を痛覚耐性値、安全条件以下に抑えることができれば、かかる人を挟圧・転倒させることのない停止を実現できることになる。
【0072】
(本実施例の移動体の具体的構成)
そこで、以上を踏まえ、本実施例の移動体が、停止距離を進んで停止するまでの全期間を通じて衝突力(衝突により加えられる荷重)を痛覚耐性値、安全条件以下に抑えるための具体的構成について、以下の実験の結果に基づいて説明する。
【0073】
このための実験として、移動体実験機に移動体用緩衝器を取り付けたものを用いて挟圧実験及び転倒実験を実施した。このうち、挟圧実験は、人の下肢を模擬した対象物に移動体実験機を時速2.1kmで衝突させるという方法で行った。転倒試験は、5歳児を模擬したダミー人形(5歳児の平均身長1123mm、平均体重185N(18.9kg)を模擬)するとともに、床との摩擦係数μ=0.23を設定条件として、当該人形に移動体実験機を時速2.0kmで衝突させるという方法で行った。
【0074】
図21に挟圧実験の全体図を示す。(a)は実験器具の全体構成図であり、左側に見えているのが移動体用緩衝器を取り付けた移動体実験機であり、同実験機を右方向に進行させ、右側に見えている固定具に固定した下肢模擬部に衝突させて、変位ごとの衝突力を測定した。なお、ブレーキ作動の閾値は6Nとした。(b)はこのうち下肢模擬部を示したもので、本図に示すように、本実験に用いた下肢模擬部はR40の丸みを持たせたものである。
【0075】
また、図22に転倒実験の全体図を示す。(a)は実験器具の全体構成図であり、左側に見えているのが図21に示したものと同じ移動体実験機である。右側に見えているのがダミー人形であり、(b)はこのダミー人形の断面図、(c)は同側面図、(d)は同底面図である。
【0076】
これらの実験も、静的押込み実験と同様、様々なタイプの緩衝器を取り付けて実施したが、最適な緩衝器は、実施例2で説明したのと同様、中空構造を有する断面が略矩形の一個の管状体からなるものであって管の中に1枚の梯子中板を渡して管内をほぼ同断面積の二つの空間に仕切ることで梯子形状としたものであることが判明した。
【0077】
図23はかかる最適な移動体用緩衝器を移動体に取り付けた状態の一例を示す。なお、変形形状を図5に示した静的実験の結果と一致させるためにテープを用いて3mm押し込むとともに先端部を持ち上げるという初期変形を与えた。
【0078】
(衝突力を痛覚耐性値以下に抑えるための具体的構成)
図14は、挟圧実験の結果得られた衝突力変位曲線の一例を示す。その際、図5に示した静的押込み実験の結果と比較するために、当該静的実験による変位曲線と今回の動的実験である挟圧実験による変位曲線を合わせて示した。動的実験では3mmの初期変形を事前に与えているので、その分荷重が予荷重として付与されていることになる点を考えあわせると、両者はほぼ一致している。また、図24は、参考までに、変形開始以後の各変位過程(ほぼ10mmごと)における移動体用緩衝器の変形状態の概要を示す。図14からわかるように、この動的実験においても、静的実験と同様、衝突直後の急激な荷重の立ち上がりのない安定した衝突力変位曲線が得られ、また、最大停止距離である87mmまでの全期間を通じて衝突力が痛覚耐性値100N及び安全条件55N以下に押えられることが判明した。また、図24からわかるように、その間の変形形状も静的実験の場合とほぼ一致することが判明した。
【0079】
なお、この実験における衝突力と速度の時間推移は、図15に示すとおりであり、時速2.1kmで衝突し、0.01秒後に移動体実験機の検知部(ロードセル)が衝突を検知し、0.10秒後に制動器(ブレーキ)が作動を開始する。その後、ブレーキの作動によるタイヤと床の摩擦により運動エネルギーが吸収されて移動体実験機が減速していき、最大停止距離87mmに達した後、いったんリバウンドし、0.47秒後に、完全停止する。この間の最大衝突力は27.1Nである。
【0080】
以上の結果から、かかる移動体用緩衝器を取り付けた移動体により、これが低速で人と衝突した場合に、人が壁との間に挟まれて怪我をする程度の痛みを感じることなく(即ち、痛覚耐性値100Nに至ることなく)、移動体を完全停止させることが可能であることが判明した。
【0081】
(衝突力を転倒に対する安全条件以下に抑えるための具体的構成)
図16は、転倒実験の結果得られた衝突力と速度の時間遷移の一例を示す。本図に示すように、移動体実験機が時速2.0kmで衝突し、0.01秒後に移動体実験機の検知部(ロードセル)が衝突を検知し、0、10秒後に制動器(ブレーキ)が作動を開始する。その後、ブレーキの作動によるタイヤと床の摩擦により運動エネルギーが吸収されて移動体実験機が減速していき、最大停止距離78mmに達した後、いったんリバウンドし、0.66秒後に、完全停止する。この間の最大衝突力は23.9Nである。
【0082】
以上の結果から、かかる移動体用緩衝器を取り付けた移動体により、これが低速で人と衝突した場合に、人を転倒・並進させることなく(即ち、安全条件55Nに至ることなく)、移動体を完全停止させることが可能であることが判明した。
【0083】
(本構成のメリット)
以上から明らかなように、実施例1で説明したのと同じ最適な移動体用緩衝器を取り付けた移動体により、これが低速で人と衝突した場合に、人を転倒・並進させることも、人が壁との間に挟まれて怪我をする程度の痛みを感じることなく、移動体を安全に停止させることが可能となる。
【0084】
なお、説明は省略するが、他のタイプの移動体用緩衝器を用いた実験により、例えば実施例1で図7を用いて説明したような、中空構造を有する断面が略円形の管状体を横に三個連ねたものを取り付けた移動体であっても、停止までの全期間を通じて衝突力を痛覚耐性値100N以下に抑えることが可能なことが判明しており、かかる様々なタイプの移動体用緩衝器を取り付けた移動体により、従来のものには見られない一定の効果が得られると評価できる。
【0085】
〈効果〉
本発明により、移動体の衝突時の衝撃を吸収して、荷重が人を壁に挟圧したり転倒させたりしないための一定の安全値を超えない範囲にとどまるようにすることが可能な移動体用緩衝器を備えることにより、衝突時の荷重が人を壁に挟圧したり転倒させたりしないための一定の安全値を超えない範囲にとどまっている間に自身を安全に停止させることが可能な移動体を提供することが可能となる。
【0086】
〈その他の実施例〉
なお、既述のように、本発明は以上に述べた実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施しうるところ、以下に、本発明のうちかかる他の実施例に関するものを含む実施例を示す。これら実施例も当然ながら本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0087】
(第1章 緒言)
(研究背景)
近年、医療・福祉施設では、さまざまな医療・福祉用モービル機器が導入されている。その中でも、入院・入居されている施設利用者が快適な生活を送るために、衛生的でおいしい食事を提供できるよう保冷・保温機能を有した適温配膳車が多く導入されている。図25に示すものがその一例である。適温配膳車は、施設内の廊下を行き来し食事を運搬するが、車重が200kg以上、高さは1600mm以上と人の背丈ほどあり、操作者からの死角も多く、また、取り回しの不自由さから操作者、患者、見舞者との衝突による人身事故が起こっている。
【0088】
(研究目的)
現在、実際に利用されている安全システムとしては、赤外線センサーなど用いて非接触で、壁などの進行方向の障害物との距離を検出して、事前に衝突を察知し車体をゆっくり停止させる安全装置を装備したものが導入されている。だが、これは主に、人間との衝突を想定した対人被害軽減の安全システムではない。また、この安全システムでは、検出方法を非接触としているため、医療・福祉施設のような、患者、見舞者、従業員等の多くの人が廊下を行き来している所では、衝突でなくとも配膳車の前を人が通り抜けることにより、安全装置が作動してしまい配膳車が停止し操作者の作業効率が低下してしまうということが懸念される。
そこで、我々の研究では、この配膳車の走行速度が操作者のとりまわせる程度の低速な点に着目し、人との衝突を緩衝器からの衝突力によって感知し、ブレーキを作動させる安全システムの提案する。車体が停止するまでの間、人への衝突力を低荷重に抑え、人との衝突エネルギーを緩衝器の大変形とブレーキの制動によるタイヤと床との摩擦によってエネルギーを吸収し、人への傷害を防ぐものとする。また、緩衝器が衝突後、除荷された場合、形状復元し緩衝器としての性能を有し、繰返し利用できる機能をもったものにする。
【0089】
このシステムでは、人間と配膳車が衝突し危険を察知したときに作動し、衝突後配膳車が停止するまで、人間に傷害を与えない程の低い衝突力となるように緩衝器を設計してあるため、誤作動が少なく、より安全に配膳車を停止できると考えられる。
【0090】
本研究では、安全システムの中で、特に接触を感知し、衝突力を低荷重にするために、重要な構成要素である、緩衝器に着目し、その開発と性能向上を目標に研究を進める。
現研究段階で直径50mm、長さ440mmのポリカーボネートを材料とした円筒を3本重ね合わせた多段円筒型緩衝器を安全システムの緩衝器として使用いているのだが、この緩衝器は、押込み変位の増加に伴い荷重が比例的に上昇してしまい、配膳車の走行速度が速くなり、押込み変位が大きくなると、高い衝突力になってしまうという欠点がある。
多段円筒型の緩衝器を用いたときの衝突力は、人間が壁と配膳車に下肢部が挟まれてしまい、その時、下肢部が痛みを感じる痛覚耐性値100N以下ではあるが、スリッパのようなあまり床との摩擦が大きくない履物を履いた子供(5歳児)と配膳車が衝突して、子供が転倒・並進してしまう衝突力として考えられる″転倒・並進しない安全条件″55Nは超えてしまっている。
そこで最高荷重を抑えられるように、新しい緩衝器を開発し、最高荷重を″転倒・並進しない安全条件″55Nよりも低くし、その低い衝突力で配膳車が停止するまで荷重が保持することができる緩衝器の開発およびその性能向上を研究目的とする。
【0091】
(第2章 安全システムのコンセプトと配膳車実験機)
(2.1 想定される事故状況)
1.1の研究背景で述べたように、配膳車は重量化かつ大型化している。そのような現状の中でモーター駆動の自走式の配膳車も導入されており、操作方法は簡単なものではあるが、操作者の経験量や施設内の廊下の幅、また、人の急な飛び出しなど衝突事故が起こる可能性は高いと考えられる。
そこで、考えられる人との事故状況としては、図26、図27に示すように、
(1) 挟圧(配膳車と構造物の間に人が挟まれること)による事故
(2) 衝突により跳ね飛ばされる事故
の二つが主であると考えられる。
【0092】
(2.2 安全の評価方法)
想定される事故状況から、人が配膳車と構造物に挟まれる場合と人が配膳車と衝突し跳ね飛ばされ転倒してしまう場合を考える必要がある。本研究では、対人安全システムの安全評価を2種類の実験から評価する。
【0093】
(挟圧実験)
人が配膳車と構造物に挟まれる場合を想定する。安全システムの安全評価の基準として、人の下肢部の痛覚耐性値である100N以下に衝突力を抑えることによって安全と評価する。
【0094】
(ダミー人形の転倒実験)
人が配膳車と衝突し跳ね飛ばされる場合を想定する。
安全システムの安全評価の基準とし「2006年度芝浦工業大学卒業論文、″ダミー人形による医療・福祉用モービル機器と人の衝突評価″ 朝倉 淳」を参考にして、人の中でも体重が軽く、危険予知能力が低い未就学児(5歳児)を衝突対象として、ダミー人形を用い衝突実験を実施し、転倒・並進しない場合を安全と評価する。
また、今回は子供が施設内でスリッパを履いている状況を想定し、ダミー人形と床との摩擦係数がμ=0.23を設定条件とし転倒実験を行い″転倒・並進しない安全条件″55Nを超えないようにし、転倒・並進させないことで安全と評価する。
5歳児の平均的な特徴は、平均身長1123mm、平均体重185N(18.9kg)である。重心位置は立位の場合、地面から55%の点とした。
【0095】
(2.3 衝突エネルギー吸収シーケンス)
配膳車が低速である点に着目し、全運動エネルギーを安全システムで吸収するのが特徴で、図28に吸収シーケンスを示す。
(1)衝突(図中丸囲み数字1に対応):
人間と緩衝器が接触する。
(2)衝突感知センサ作動(図中丸囲み数字2に対応):
車体、緩衝器の振動などによる感知センサの誤作動をなくすため、衝突力の閾値を適正に設定し、その値を上回ると、ブレーキ作動信号を送る。
(3)ブレーキ始動(図中丸囲み数字3に対応):
制御回路を通して、送られてきた信号により、ブレーキがかかり始める。この時点までのエネルギーの吸収は緩衝器のみで行なう。
(4)配膳車の停止(図中丸囲み数字4に対応):
ブレーキによって、配膳車を急制動させることにより停止させる。このとき、緩衝器では、衝突力を低荷重に抑え、転倒実験時では、″転倒・並進しない安全条件″55Nをも超えないものとし、それを満たすことにより、挟圧時における、人の下肢部の痛覚耐性値である100Nも超えないこととする。
丸囲み数字1〜4までの人間と配膳車の相対距離が安全距離である。この間に緩衝器の大変形とブレーキによるタイヤと床との摩擦により、全運動エネルギーを吸収することで、衝突による人への障害や人の転倒を防ぐ。
【0096】
(2.4 配膳車実験機の仕様と構成要素)
安全システムを実証するために、図29に示す配膳車実験機を用いた。配膳車実験機は、ウェイトによって質量と重心を調整できるようになっている。ウェエイト1枚の質量は10kgとなっている。緩衝器は、フロントパネルに取付け、フロントパネルはリニアブッシュにより実験機と結合されており、実験機と緩衝器の間にロードセルを設置し、衝突力の検出と接触感知センサの役割を果たしている。緩衝器の設置位置は、床より110mmの高さで固定されている。前輪は外径230mmのゴムタイヤ付車輪で、前輪軸に静ブレーキトルク100Nmの電磁ブレーキと速度検出用エンコーダにつながるタイミングプーリーが装着されている。後輪は左右独立したキャスター付車輪である。操作パネルは制御箱上部に設置されている。エンコーダは電磁ブレーキの軸から回転を測定し速度、移動距離を測定しているため、ブレーキがロックすると測定ができなくなる。そこで、リニアスケールを使用し、実験機のブレーキロック時の速度、移動距離のデータを測定した。制御箱にはブレーキ制御装置、衝突力・速度・移動距離のデータ記録装置が内蔵されている。制御箱の下には、実験機の安全システムを動かすためのバッテリが置かれている。また、加速度計は緩衝器を取り付けているフロントパネルに装着している。
緩衝器は、フロントパネルについているが、配膳車実験機は側面にパネルを装着して側面衝突の実験にも対応できるように設計してある。
【0097】
(2.5安全システムの構成)
図30に安全システムのブロック線図を示す。CPUは、ロードセルからの電気信号が閾値を超えたとき、ブレーキに作動信号を送る。ロードセルからの電気信号は衝突力、エンコーダからの電気信号は速度、移動距離のデータに処理される。ブレーキが作動すると前輪軸はロックし、エンコーダからデータを収集できない。そのためリニアスケールを床に貼り、配膳車実験機に搭載した検出器により速度、移動距離のデータを収集する。衝突時にロードセルにかかる慣性力を相殺するため、加速度計をフロントパネルに設置した。
【0098】
(第3章 緩衝器の設計試作)
(3.1 緩衝器の設計)
緩衝器は通常走行時、配膳車と人間との衝突を感知する触覚の役割を担い、配膳車と人との衝突からブレーキが作動し配膳車が停止するまでは、緩衝器の構造自体が大変形し、その変形によって、衝突力を低荷重に抑え、同時にエネルギーの吸収をしなくてはならない。その後、荷重が除荷されたときには形状が復元し再度利用可能になるように構造が柔軟に変形しなくてはならない。また、本研究では、5歳児がスリッパを履いている状況を想定し、床との摩擦係数がμ=0.23の時の子供が″転倒・並進しない安全条件″55Nを最高荷重が超えないことを第一に考える必要がある。以上のようなことを満たすために、次に示す試作目標を実現しなくてはならない。
【0099】
(3.2 緩衝器の試作目標)
(1)最高荷重を″転倒・並進しない安全条件″55N以下に抑える。
(2)初期剛性の高い緩衝器にする。
(3)接触後配膳車が停止するまで緩衝器自体が大変形し、人が転倒・並進しない低荷重で保持する。
(4)衝突後荷重を除荷すると復元し繰返し利用できる。
さらに、接触感知のタイムラグを少なくし、振動により起こる誤作動を防ぐため軽量にする。振動などによる衝突検出の誤作動の可能性のあるため、衝突力に閾値をとり、閾値以上の場合、ブレーキ作動信号を制御回路に送る。ブレーキ作動の閾値は6Nと設定しておく。図31に目標とする荷重変位曲線を示す。
【0100】
(3.3 緩衝器の種類)
緩衝器は、以下に示すように11種類試作した(図32参照)。(1)は円筒型、(2)は角筒型、(3)〜(11)は角筒の中に梯子中板を取り付けた梯子型緩衝器である。
(1)多段円筒型緩衝器
[概要ではモデルAに相当]
(2)角筒三連型緩衝器
(3)角筒梯子型緩衝器タイプ1
(4)角筒梯子型緩衝器タイプ2
[概要ではモデルBに相当]
(5)角筒梯子型緩衝器タイプ3
(6)角筒梯子型緩衝器タイプ4
(7)角筒梯子型緩衝器タイプ5
[概要ではモデルCに相当]
(8)角筒梯子型緩衝器タイプ6
(9)角筒梯子型緩衝器タイプ7
(10)角筒梯子型緩衝器タイプ8
(11)角筒梯子型緩衝器タイプ9
[概要ではモデルDに相当]
【0101】
(3.4緩衝器の製作方法)
緩衝器の製作材料は復元性に着目し、高分子・高弾性材料であるポリカーボネートを使用した、円筒型は市販の板厚0.5mmのものを使用し、角筒型は板厚0.5mmまたは0.3mmの板を折り曲げ形状を作った。結合には共にプラスチックビスと接着剤を併用した。
接着剤には、セメダイン社のセメダインSG−EPO〈EP−008〉(二液式常温硬化型エポキシ系接着剤)を使用した。この接着剤の特徴として、耐熱・耐衝撃・耐はく離性に優れている。
本研究では、緩衝器の接合部での剥離は絶対に避けたい問題であるため、硬化型であるエポキシ系の接着剤を選択した。
緩衝器の寸法としては、幅50mmとスパン440mmは配膳車実験機のフロントパネルの寸法が75mm×440mmであるのに合わせ、ストロークの150mmは制動距離を考慮した値となっている。
ここで製作した緩衝器のについて製作方法を示す、大きく分けて3つの型に分けられるので一つづつ説明していく。
(1)多段円筒型緩衝器(図33参照)
(ア)市販の板厚0.5mmの直径50mm、長さ440mmの円筒に変形形状がわかりやすいように線をひく
(イ)プラスチックビスによって接合するための穴開けをする。
(ウ)円筒の表面にエポキシ系接着剤を線状にぬり三段重ね24時間硬化する。
(エ)最後に円筒に端に幅30mmのガイドを接着剤とプラスチックビスで結合する。
(2)多段角筒型緩衝器(図34参照)
(ア)0.5mm厚のPC板を200mm×440mmと50mm×440mmに切り出す。
(イ)一辺が50mmの正方形角筒ができるように冶具とプラスチックハンマーを用いて、叩き曲げる。
(ウ)折り曲げた角筒の上面を結合させるために、50mm×44.0mmの板を上側に貼り付ける。
(エ)その後は円筒と同じように三段重ね結合しガイドをつける。
(3)角筒梯子型緩衝器(図35参照)
(ア)0.5mmまたは0.3mm厚のPC板を400mm×440mmと80mm×440mmと50mm×440mmに切り出す。
(イ)150mm×50mmの矩形角筒ができるように叩き曲げる。
(ウ)折り曲げた角筒の上面を結合させるために、50mm×44.0mmの板を貼り付ける
(エ)次に80mm×440mmの板をのりしろ15mmとなるように折り曲げ梯子中板を作る
(オ)矩形角筒の中に梯子中板を接合する。
(カ)タイプ6からタイプ9のものには、さらに補強を貼り付けた。
【0102】
(第4章 静的押込み実験)
(4.1 実験方法と実験装置)
試作した緩衝器が試作目標を達成したかを検討するため静的押し込み実験を行った。装置の下側に緩衝器を固定し、人の脛と接触模擬するために、上から接触半径40mmの半円柱の加圧子で、押込み荷重を与える静的押込み実験を行う。
図36に示すような押込み実験機は、コンピューター制御されるサーボモーターの回転によって変位制御され上下方向に動く。強制変位速度は準静的で0.5mm/sとし最大変位は90mmとする。測定方法は緩衝器に加わる荷重を加圧子と一体となった片持ち梁式ロードセルから加圧子の反力を測定した。加圧子変位は、ロードセル上面を電気変位計で測定する。また、緩衝器の変形形状を把握するために緩衝器の正面と側面をカメラによって変位5mmずつ撮影を行う。
押込みに使用する加圧子は、人と緩衝器の接触する位置の関係から、人の下肢に相当する半径40mmの半円柱とした。加圧子はロードセルの梁部にL形アングル材を介してボルト・ナットで装着した。加圧子を図37に示す。
静的押込み実験に使用した計測機器を図38に示す。ロードセルとひずみ式電気変位計のデータはシグナルコンディショナ(共和電業製 CDV−700A)を介し出力を、またデジタル・オシロスコープ(SONY製)で記録した。
【0103】
(4.2 実験結果)
それぞれ試作した緩衝器についての実験結果と考察を述べていく。
(4.2.1 多段円筒型緩衝器)(図39参照)
この緩衝器は円筒が持つ高弾性を利用し高い復元性および繰返し耐久性を期待し昨年度、開発され現在も研究に用いている。
直径50mmの円筒を平行に3本重ねた緩衝器であり、両端についているガイドは、配膳車実験機に装着した際に、下方へたわむことを改善するために取り付けてある。
実験より得られた荷重変位曲線を図40に示し、変形形状の写真を図41に示す。
ア)変形形状について
a−b区間
・緩衝器と加圧子が接触することにより荷重が上昇し始める、変形の形状としては、加圧子と接触した部分から局所的な変形をしている。
b−e区間
・局所的に変形していた部分から、円筒長手方向に対して、くの字型に折れ曲がることにより変位の増加に伴い荷重も比例的に上昇していく。
e−h区間
・e地点を過ぎると一旦、曲線がなだらかになるがこれは、上段が屈服座屈を起こし耐力を失ったためである、その後中段の変形が大きくなり再び剛性が大きくなる。
また、緩衝効率ηを下式より計算をすると、
η=平均荷重/最高荷重×100=48.9% となる。
【0104】
イ)考察
・メリット
この緩衝器は復元性が高いことが上げられる。これは、断面が円形であることにより、押込んだ後も癖がつきづらいためであると考えられる。
・要改善点
この緩衝器は、図41の変形形状の写真に示すように、加圧子と緩衝器が接触すると、その部分から円筒長手方向に対し、くの字型に変形する。局所的に変形することにより変位の増加に伴い荷重も比例的に上昇していってしまう。
その結果、人の下肢部が壁と配膳車に挟まれたときの、下肢部の痛覚耐性値100Nは超えていないが、配膳車が人と衝突した時の、特に5歳児がスリッパを履いている状況を想定し、床との摩擦係数がμ=0.23の時の″転倒・並進しない安全条件″55Nは超えてしまっている。最高荷重を″転倒・並進しない安全条件″55N以下にすることは要改善点である。
また、第3章3.2の試作目標に示したように、緩衝器は、荷重保持ができるものを開発しようとしているので、この緩衝器の要改善点としては荷重保持区間が存在しないということも要改善点である。
【0105】
(4.2.2 多段(三段)角筒型緩衝器)(図42参照)
円筒型緩衝器より高性能な緩衝器の開発にあたり、角型の横倒れ変形を利用し、高性能な緩衝器を試作しようと考えた。
角型の横倒れ変形を利用することにより高い初期剛性が得られ、また、荷重保持区間が得られることを期待し試作した。
寸法としては、円筒型と角筒型の形の違いが結果としてわかるように、円筒型の直径と角筒の正方形の一辺を同じ長さにし、できる限り多段円筒型緩衝器と同じ大きさにした。
【0106】
ここで、上から1/3づつの部分を上段、中段、下段と呼ぶことにする。
実験より得られた荷重変位曲線を図43に示し、変形形状の写真を図46に示す。
ア)変形形状
a−b区間
・上段、下段が横倒れを開始するまで荷重は上昇する。
b−c区間
・緩衝器に全体変形が起こり、上段下段が横倒れすることにより荷重が保持される。
c−d区間
・上段の上面の角部がなくなることにより荷重が急激に落ち込む。
d−e区間
・上段は角部が潰れるが、再度横倒れをし、完全に倒れるまで荷重保持している。
e−f区間
・下段が安定した横倒れを開始するまで荷重は上がっていく。
f−gの区間
・下段が安定した横倒れをすることにより荷重は保持して行く。
g−hの区間
・ここでの上昇は、中段が倒れないことにより上昇する。
また、緩衝効率ηを下式より計算をすると、
η=平均荷重/最高荷重×100=53.4% となる。
【0107】
イ)考察
・メリット
この緩衝器は、円筒型から角筒型に変えることでどのような効果があるのかということを知るために試作したのだが、その結果として以下のようなメリットがあると言える。
(1)角筒は、接触した所から局所的な変形ではなく、全体的な横倒れ変形を起こしている。このことにより、荷重がほぼ一定で変位が増える荷重保持区間が得られる。円筒型では、比例的に荷重が上昇していったが、角筒型は、全体的な横倒れ変形を誘起することで、荷重保持ができる見通しが立てれた(図44、図45参照)。
(2)角筒は、丸筒に比べて高い初期剛性が得られる。
(3)角筒は、底面の面積が広いためにしっかりと取り付け台に固定できろ安定した緩衝器が作れる。
このように角筒型にすることにより、多くのメリットがあることがわかった。
・要改善点
改善点としては、この緩衝器は最高荷重が″転倒・並進しない安全条件″55N、および痛覚耐性値100Nよりも大きく超えてしまっている点と荷重保持の区間が小さいというところに要改善点があると考えられる。
最高荷重が大きくなってしまった原因として、角筒を1本1本の重ね合わせたために、それぞれの結合部分の板厚が1.5mmと厚くなり緩衝器としての剛性が高くなり、最高荷重が大きくなりすぎたと考えられる。このことにより、図46の変形形状をみてわかるように、押込み変位が大きくなっても中段があまり変形していないことが荷重上昇の原因となっていると考えられる。
荷重保持区間が短い原因として、緩衝器自体の剛性が大きいことにより、加圧子と緩衝器上面の接触している部分が局所的に凹むことによって荷重が減少してしまい荷重保持区間が短くなってしまっている。
【0108】
(4.2.3 角筒梯子型緩衝器タイプ1)(図47参照)
多段角筒型緩衝器においては、角筒を1本1本作り、重ね合わせたために、板厚が厚く強度が強くなってしまい″転倒・並進しない安全条件″55Nを越えてしまった。また、中段においては、90mm押し込んでもあまり変形をしていなかった。
その点を改良するために、寸法は同じで、側面を一続きにして、側面の変形をしやすく、特に中段の側面が変形をしやすくなるようにと考え緩衝器を試作した。この緩衝器は矩形角筒の中に梯子状となるように板(梯子中板と呼ぶ)を結合させた、この緩衝器を梯子型緩衝器と呼び、以下この緩衝器をもとに改良をしていったのでタイプ1から9に分け、この緩衝器をタイプ1とする。
実験より得られた荷重変位曲線を図48に示し、変形形状の写真を図50に示す。
ア)変形形状
a−b区間
・全体的に変形を開始するまでの間、荷重の上昇が生じる。
b−c区間
・cに到達するまで上昇の割合は低くなるが、a−b間と同じ理由で荷重が上昇する。
cの地点において荷重の落ち込みが見られるが、これは、ガイドがずれることによって下がっている。
c−e区間
・上段、下段が横倒れ変形し、中段が弓状に変形することで全体変形が起こり荷重保持区間(プラトー領域)が得られた。しかしeの地点において荷重の落ち込みが生じているが、これは、加圧子と接触している緩衝器上面の角部が局所的に凹むことにより荷重の低下が起こっている。
e−h区間
・この区間荷重が上昇していくのは、下段は横倒れを続け荷重保持をしようとするのだが、上段は、角部を失ったことにより横倒れ変形をせず、下方へ押しつぶされていくような変形をし荷重が上昇する。またeからhの区間において荷重変位曲線がぶれているがこれは梯子中板が矩形角筒から剥がれたことによるものである。
また、緩衝効率ηを下式より計算をすると、
η=平均荷重/最高荷重×100=67.27% となる。
【0109】
イ)考察
・メリット
側面を一続きにすることにより変形形状が上段・下段は、横倒れし、中段も側面が弓状に変形するようになった。そのことにより、荷重保持区間を多段(三段)角筒型のものよりも長くさせることができた。
・要改善点
この緩衝器は、梯子中板を接着した結合部分が弱く押し込み変位を増やしていくと図49に示すように、梯子中板が矩形角筒から剥がれてしまい、荷重変位曲線に急激な荷重の低下を生じてしまった。
緩衝器上面と加圧子との接触している部分の局所的な凹みは大きな荷重の低下を導くことがわかっていたのだが、この緩衝器においてもまだ、e地点において局所的に凹んでしまい、まだ改善はされていない。
多段(三段)角筒型緩衝器と比べると、初期剛性の高さ、荷重保持区間の長さの点において、この緩衝器の方が優れており、この緩衝器をもとに梯子中板の枚数、梯子中板の取り付け高さ、板厚、補強の有無などの改善していくことにする。
【0110】
(4.2.4 角筒梯子型緩衝器タイプ2)(図51参照)
梯子型緩衝器タイプ1の改良点のひとつとして、梯子中板の接合面がはがれてしまうということがあり、荷重変位曲線が滑らかでなく、また、はがれてしまうことにより復元性にも影響を及ぼすと考えられたので、ポリトジビスの数をひとつの梯子部に8個付けていたものを14個に増やした緩衝器を試作した。製作方法はタイプ1のもと同様である。
実験より得られた荷重変位曲線を図52に示し、変形形状の写真を図55に示す。
ア)変形形状
a−b区間
・加圧子が緩衝器に接触し、全体変形が始まるまで荷重は上昇していく。
b−d区間
・上段、下段が横倒れをし、中段は側面が弓状に曲がることにより全体変形し荷重保持される。
d−f区間
・加圧子と接触している緩衝器上面の角部が局所的に凹むことにより荷重の低下が起こっている。
f−hの区間
・この区間荷重が上昇していくのは、下段は横倒れを続け荷重保持をしようとするのだが、上段は、角部を失ったことにより横倒れ変形をせず、下方へ押しつぶされていくような変形をし荷重が上昇する。
また、緩衝効率ηを下式より計算をすると、
η=平均荷重/最高荷重×100=76.3% となる。
【0111】
イ)考察
・メリット
ポリトジビスの数を増やすことにより、タイプ1では剥がれていた梯子中板の部分が剥がれなくなった。その結果として、荷重変位曲線は、タイプ1のものよりもプラトー領域の長い安定した曲線が得られた。また、初期剛性が高く、プラトー領域も長いものが得られているので、緩衝効率ηは、本研究で製作した緩衝器の中で最も高い値を示した。
・要改善点
この緩衝器においても、最高荷重が″転倒・並進しない安全条件″55Nを超えてしまっていて改善が必要である。
プラトー領域についても、緩衝器上面が凹み、変位50mm付近から落ち込みが生じている点は改善が必要である。
緩衝器の試作目標として繰り返し耐久性も要求されるのだが、この緩衝器は、1回目と2、3回目の荷重変位曲線は大きく異なっていて、2回目になると荷重が低下してしまうという繰返し耐久性の低いということが改善点としてあげられた。次頁の図53に1、2、3回目の荷重変位曲線を示す。
1回目と2、3回目の荷重変位曲線を比べると、2、3回目の方が荷重が下がっていることがわかる。
その原因として考えられることは、1回目の押し込みによって緩衝器自体に塑性変形が生じてしまい、その癖によって初期剛性が低下し、全体的に荷重も下がったと考えられる。
図54に示したように、2回目の緩衝器には、癖が残り軽く曲がってしまっている。
【0112】
(4.2.5 梯子型緩衝器タイプ3(半円)(図56参照)
角、丸の融合として考えた緩衝器であり、タイプ2において2、3回目の荷重変位曲線で全体的に荷重が低くなってしまい、繰返し耐久性が低いという要改良点が生じたので、繰返し耐久性の高い円筒型の丸みを梯子型に組み合わせた緩衝器を試作した。
また、この緩衝器よりガイドを取り外したのだが、それは、梯子型の緩衝器とすることで底面の安定性が増したためガイドを付けなくても、影響が少ないことが予測できたのでタイプ3より取り外した。
実験より得られた荷重変位曲線を図57に示し、変形形状の写真を図58に示す。
ア)変形形状
a−b区間
・加圧子と緩衝器が接触し荷重が上昇していくのだが、梯子型のような全体変形をするのではなく、円筒型のように接触した部分から局所的に変形していくため初期剛性が低い。
b−d区間
・上段の半円の部分が押込まれていくのだが、変位の上昇に伴い、接触面積も増加していき、さらに荷重が比例的に上昇していく。
d−c区間
・dの地点において上段の半円の部分が全て潰れてしまい、変形をしていなかった中段、下段が変形していくのだが、すぐには横倒れせずに、中段は側面が内側に下段は側面が外側に変形することで、横倒れせずにいることで荷重が上昇し、その後、下段が横倒れするのだが、荷重保持はせずに上昇していく。
f−h区間
【0113】
・fの地点において側面が両方とも内側に変形していた中段が、片方の側面が外側へ変形することにより荷重が低下する。その後再度上昇しd地点まで到達する。
また、緩衝効率ηを下式より計算をすると、
【0114】
η=平均荷重/最高荷重×100=58.8% となる。
【0115】
イ)考察
・メリット
多段円筒型緩衝器に続き、局所的に変形をしてしまうと、荷重保持区間がなく、比例的に荷重が上昇していってしまうということの確認ができた。
・要改善点
繰返し耐久性があがることを期待して、加圧子と接触する部分を、半円形にしたのだが、接触部が多段円筒型と同じように局所的に変形し、変位の増加に伴い、荷重も比例的に上昇していってしまう曲線となった。
タイプ2のものと比較すると、タイプ2では、上段、下段が横倒れをし、中段が弓なりに変形することで、荷重保持区間を作り出していたのだが、このタイプ3では、中段が変位80mmまで弓なりの変形をしなかったために荷重が大きく上昇したと考えられる。
【0116】
(4.2.6 角筒梯子型緩衝器タイプ4)(図59参照)
タイプ3において繰返し耐久性の期待した結果が得られなかったために、タイプ2の下側の梯子中板を1本減らすことで、押し込まれたとき、緩衝器同士が内側で接触せずに変形できるスペースを確保し、一度押し込んだときの塑性変形を起きづらくして、高い繰返し耐久性を得たいと考えタイプ4を試作した。また、最高荷重の低下も期待した緩衝器である。
下側の梯子中板を減らしたのは中板取り付け高さを変えず、中板を1本減らした時の影響のみを見たかったためであり、上側ではなく下側を取り除いたのは、下段の変形を大きくしたほうが、最高荷重が下がるのではないかと考えたためである。
実験より得られた荷重変位曲線を図60に示し、変形形状の写真を図62に示す。
ア)変形形状
a−c区間
・緩衝器が初期の状態から全体的に横倒れを開始するまでの間、荷重が上昇をする。
梯子中板が2本のものに比べると、これは下段のスペースが大きいために横倒れがしやすく、初期剛性の傾きはやや小さくなるが十分な値はある。
c−e区間
・c点付近において荷重が上昇から下降に変わるのは緩衝器上面が加圧子に対し斜めになり、加圧子との接触が右上の角部のみになることによって起こる。cからeへ荷重が保持下降していくのは、下段の横倒れ変形によって起こっている。
e−g区間
・下段の片方の側面が反対側の側面に接触することにより荷重変位曲線が上昇へと変る。
荷重が上昇していくと同時に、ここまであまり変形していなかった上段が変形をし始める、g地点から、加圧子と緩衝器との接触部において、局部的な反転が起きることにより荷重が下がってしまう。
g−h区間
・再度荷重が上昇する。
また、緩衝効率ηを下式より計算をすると、
η=平均荷重/最高荷重×100=68.2% となる。
【0117】
イ)考察
・メリット
この緩衝器で実験を行うことにより、中板取り付け高さは、変形形状に大きな影響を及ぼし、その重要性を知ることができた。
・要改善点
今回は、上から1/3の高さのところに梯子中板を取り付けたのだが、それでは、図62に示すように、下段の変形が予想以上に大きくなり、また緩衝器の上面がその変形の影響を大きく受け、斜めになってしまった。
緩衝器の試作をする上で安定した荷重変位曲線を得るためには上下対称に変形していく変形形状がいいと考えられ、そのためには梯子の枚数および高さを適切に設定することが必要であると考えられる。図61の梯子中板枚数と予測される変形形状を示した。梯子中板を取り付ける高さにより図61に示すような変形形状を誘起できると考えられる。
緩衝器は、梯子中板を付けた枚数と高さによって変形形状が大きく変わってくると考えられる、横倒れ変形を多く起こしたいのであれば、梯子中板の枚数は奇数枚にすべきであり、荷重変位曲線において、荷重を幾分か上げたいのであれば、中段に弓状の変形が起きるように、梯子中板の枚数を偶数枚にしたほうがいいと考えられる。
また、梯子中板を多くしてジャバラ状に緩衝器を変形させることでいい緩衝性能が期待できるが、そのような変形形状を起こすように初期の段階で、ジャバラ変形を誘起するのは難しいと考えられる。
【0118】
(4.2.7 角筒梯子型緩衝器タイプ5)(図63参照)
タイプ4では、梯子中板を1枚少なくすることで最高荷重の低下を狙ったが、タイプ5では、板厚を0.5mmから0.3mmへと薄くして、変形がより柔軟となることにより最高荷重が低下するのを狙った。また、板厚が薄いことにより押し込んでも癖がつかず、高い復元性および高い繰返し耐久性が得られると考えた。
実験より得られた荷重変位曲線を図64に示し、変形形状の写真を図65に示す。
ア)変形形状
a−b区間
・横倒れを開始するまでの間、荷重は上昇し初期剛性は、3mmで10Nほどである。
・初期剛性でたちあがった後、横倒れに移る前に緩衝器自体がねじれを直すように動き、すぐには倒れない。
b−d区間
・この区間では全体変形をしていく、上段、下段は共に横倒れをして、その影響により中段も弓状に変形していくこの変形により荷重の保持が続く。このときの変形の特徴として、下段よりも上段の横倒れ変形のほうが大きい。
d−f区間
d地点に到達すると、加圧子と接触する緩衝器上面が局所的に凹み局所変形となり荷重がf地点まで低下する、その後、上段が全て倒れ、加圧子と側面との接触面積が大きくなっていくと荷重が再び上昇しh地点まで到達する。
そこからは、下段のみが横倒れをしていくが梯子中板の接着用のりしろが側面を強くしているために簡単には倒れず、荷重が上昇の原因となっている。
また、緩衝効率ηを下式より計算をすると、
η=平均荷重/最高荷重×100=57.6% となった。
【0119】
ア)考察
・メリット
この緩衝器は狙い通り最高荷重を″転倒・並進しない安全条件″55N以下に抑えることができた。また、板厚を薄くすることにより変形形状もより柔軟になり90mm押込んだときに癖が残りづらく復元性も繰り返し耐久性もいい結果を得ることができた。
・要改善点
この緩衝器の改善点としては、変位55mm付近において緩衝器上面が局所的に凹み荷重の落ち込みが生じてしまった、これは、中段が上段下段に比べあまり変形しないことにより接触部分に荷重が集中し、起こると考えられる。
【0120】
(4.2.8 角筒梯子型緩衝器タイプ6)(図66参照)
タイプ5において、上面の角部が局所的な反転をしてしまうと荷重が落ちてしまうという考察が得られてので、上面および角部を補強することにより、緩衝器が局所的に凹まず、荷重が保持していくことを期待した。また、タイプ5では、上段下段に比べ中段があまり変形していなかったので梯子中板の間隔を広くすることにより、中段の変形をしやすくした。
中段の間隔を広くすることにより、荷重が低下してしまうという予測が立てられたので、梯子中板を0.5mm厚とすることで形状を安定させ、緩衝器の剛性を高くしようとした。
実験より得られた荷重変位曲線を図67に示し、変形形状の写真を図68に示す。
ア)変形形状
a−b区間
・上段、下段は変形をせずに、中段が開くような変形により荷重が上昇する。
b−c区間
・b地点より中段のみが横倒れのような変形をし始めるが、上段、下段は変形をしない。
c−d区間
・cからdにかけて、加圧子と緩衝器の接触部分がすべり、上段と下段でズレたような形状になり滑る、滑ると同時に荷重が下がってしまい、d点を過ぎても再び滑ってしまう。
d−f区間
・上段と加圧子が滑った後も少しづつ滑りながら、中段の側面が横倒れすることにより荷重が保持されていく。f点において中段の片方の側面が、反対側の側面に接触することにより荷重が再び上昇していく。
f−h区間
・側面同士が接触して変形領域がなくなっている中で押し込まれていくことにより、外へ逃げていく力が強くなり、h地点に到達したときに加圧子から外れてしまう。
また、緩衝効率ηを下式より計算をすると、
η=平均荷重/最高荷重×100=33.3% となる。
【0121】
イ)考察
・メリット
上面が局所的に凹んでしまうことの対策として、補強を被せた。この補強は上下対称に潰れるように上と下に被せてある、補強の効果として上面の板厚を厚くしただけでなく、角部の厚さも増したことにより角部が強くなり、局所的な変形が起きづらくなったことがわかる。
・要改善点
梯子中板の厚さを0.5mmとしたことと、中段の間隔を広げすぎたことにより上段下段が横倒れを起こさない状況を作ってしまい、結果として、中段が弓状の変形を起こさず、横倒れしてしまい、上段が加圧子から滑ってしまったと考えられる。
【0122】
(4.2.9 角筒梯子型緩衝器タイプ7)(図69参照)
タイプ6では、上下面の補強と中板高さと中板厚さの三つのパラメータをふった緩衝器を試作したが、上下段の間隔が狭くなりすぎたことと、梯子中板を0.5mmと厚くしたため、上段、下段があまり変形しないという要改善点が生じた。そこで、今回はタイプ5に補強を付けた時の効果を見たいと考え試作した。
また、タイプ5において中段があまり変形をしていなかったので、タイプ7では、上側の梯子中板の取り付け方を今までと上下反対にして中段の変形がしやすくなるように全体で上下対称の緩衝器とした。
実験より得られた荷重変位曲線を図70に示し、変形形状の写真を図71に示す。
ア)変形形状
a−b区間
・初期の状態から横倒れを開始するまでのb地点まで荷重が上昇する。
b−d区間
・b地点から横倒れをしていくのだが、この緩衝器は、上側にある梯子中板を上下反対につけることにより、中段の変形を誘起しているので、中段の変形が大きい。また、上段下段も、横倒れをしているので荷重は保持している。
d−f区間
・上下対称の形状を試作したためにb地点まで対称に変形をしていくのだが、d地点において緩衝器上面が斜めになり加圧子から離れることにより、荷重が低下する。
f−h区間
・f地点において荷重が、減少から上昇に転換するが、これは中段の片方の側面が下側の梯子中板に接触することによるもので、この状態のままh地点まで荷重は上昇していく。
また、緩衝効率ηを下式より計算をすると、
【0123】
η=平均荷重/最高荷重×100=73.6% となる。
【0124】
イ)考察
・メリット
緩衝器に必要な形状として、上下対称の形状は要求されていないということがわかった。これは、荷重を負荷している状況が大きく影響していると考えられ、緩衝器の下側は、完全に固定され、上から半径40mmの半円柱緩衝器を押込んでいく時には、緩衝器に要求される形状は上下対称ではなく、下段が安定している緩衝器であるといえる。
・要改善点
図71に示すように、緩衝器中段が大きく変形することにより、緩衝器上面が加圧子から離れてしまい、荷重変位曲線が不安定になっている点が要改善点である。
【0125】
(4.2.10 角筒梯子型緩衝器タイプ8)(図72参照)
タイプ5において中段があまり変形していなかったために、タイプ6では、中段の間隔を広くすることにより変形させようとし、タイプ7では、梯子中板を上下反対にすることで変形させようとした、だが共にいい結果は得られなかった。
そこで、このタイプ8では、中段そのものをなくし、梯子中板を中央部に設置することにより、その部分が外側に飛び出して行き、上、下段とで横倒れが起こり、プラトー領域が長く続くことを期待した緩衝器を試作した。
補強を付けずに行うと以前行った梯子中板2枚のものより低い荷重になることが予想できたので補強は付けておいた。
実験より得られた荷重変位曲線を図73に示し、変形形状の写真を図74に示す。
ア)変形形状
a−b区間
・初期の状態から横倒れを開始するまでのb地点まで荷重が上昇する。
b−c区間
・梯子中板の部分が外側へ押し出されることにより、上段、下段が対称的に横倒れをすることにより荷重保持されている。変形するスペースが多くあるために、荷重上昇の傾きが小さい。
c−e区間
・横倒れが、深く進むことによりわずかではあるが荷重が上昇していく。これは、変形のスペースが減るために荷重の上昇の傾きが大きくなったと考えられる。
e−h区間
・底面に取り付けている、補強ののり代の影響で荷重がわずかだが上昇していく。
この緩衝器によって荷重変位曲線が落ち込むことなく90mmまで到達することができ、復元性の高い緩衝器である
また、緩衝効率ηを下式より計算をすると、
η=平均荷重/最高荷重×100=64.7% となる。
【0126】
イ)考察
・メリット
この緩衝器は、梯子中板を一枚にし、中板取り付け高さを中央としたことで、緩衝器の内側が互いに接触することが少なく、大きく横倒れが安定して進んでいくためにプラトー領域が長いものが得られ、落ち込むことなく90mmまで到達することができた。
・要改善点
押込み変位が大きくなっていくと下側に取り付けている補強の影響で荷重がなだらかに上昇していってしまうので、その部分を改善させることによりさらにいい緩衝器が得られると考えられる。
【0127】
(4.2.11 角筒梯子型緩衝器タイプ9)(図75参照)
前回の改善点である押込み変位70mm付近において、荷重がなだらかに上昇してしまう点を改善するために、0.3mm厚のPC板で開脚型にすることにより押込み変位が大きくなったときに荷重が上昇しなくなることを期待した。また、上面には、動的実験において、固定モデルと接触したときに滑らないようにするために、滑り止めシートを貼り付けた。
実験より得られた荷重変位曲線を図76に示し、変形形状の写真を図78に示す。
ア)変形形状
a−b区間
・初期の状態から横倒れを開始するまでのb地点まで荷重が上昇する。
b−c区間
・梯子中板の部分が外側へ押し出されることにより、上段、下段が対称的に横倒れをすることにより荷重保持されている。変形するスペースが多くあるために、荷重上昇の傾きが小さい。
c−e区間
・横倒れが、深く進むことによりわずかではあるが荷重が上昇していく。これは、変形のスペースが減るために荷重の上昇の傾きが大きくなったと考えられる。
e−g区間
・タイプ8にはあった底面ののりしろの部分がなくなったことにより下段の変形領域が広くなり、荷重上昇を抑えられた。
また、緩衝効率ηを下式より計算をすると、
η=平均荷重/最高荷重×100=72.4% となる。
【0128】
イ)考察
・メリット
タイプ8の改善点を改良するために下段に取り付けた補強をはずし、さらに、緩衝器底面が内側に織り込んでいたものを外側に開き、大きく押し込んでいっても荷重を平坦にする事ができた。
また、板厚が0.3mmで柔軟であるために、図77に示すように繰返し耐久性を高くすることができた。
【0129】
(4.2.12 静的押込み実験のまとめ)
図79に緩衝器の試作目標達成までの流れとして示す。
【0130】
(4.3 多段円筒型緩衝器と角筒梯子型緩衝器タイプ9との比較)
図80に多段円筒型と角筒梯子型タイプ9との荷重変位曲線を示し、図81に最高荷重Pmaxとηの値を示し比較した。
緩衝器の評価の基準として、(1)最高荷重Pmaxのコントロールができること、(2)緩衝効率ηの値が多きこと、(3)緩衝ストロークが高いことがあげられます。今回、角筒梯子型タイプ9を製作し、多段円筒型緩衝器と比較したのですが、(3)の緩衝ストロークはともに90mm押込んでいるので違いはないが、(1)、(2)については最高荷重Pmaxを59.5N低下させることができ、緩衝効率ηも23.5%上昇させることができた。
本研究において、多段円筒型緩衝器に変わる新しい緩衝器を作るにあたり、最高荷重Pmaxが″転倒・並進しない安全条件″55Nを下回り、荷重が一定である荷重保持区間を実現させることができた。角筒梯子型緩衝器タイプ9により試作目標を満たす緩衝器を開発することができた。
【0131】
(第5章 挟圧実験)
壁と配膳車に足が挟まれることを想定し、挟圧実験を行った。ここで用いる緩衝器は第4章において、目標とする荷重変位曲線が得られた、角筒梯子型緩衝器タイプ9を配膳車実験機に装着して実験を行った。
【0132】
(5.1 挟圧実験方法)
図82に鳥瞰図を示し、実験機は衝突する十分手前で手を離し、床に固定したR40の丸みをもつ下肢モデルに衝突させた。0.01sごとにデータ計測し、時間軸は緩衝器と下肢モデルの接触時を原点、このときの速度を衝突速度とし、ブレーキ作動の閾値を6Nとした。
緩衝器は、静的押込み実験において、試作目標を達成した角筒型緩衝器タイプ9を使用した、配膳車実験機に装着している写真を図83に示す、配膳車実験機のフロントパネル部分に両面テープを張り緩衝器を貼り付け、その上からボルトで固定し、さらに緩衝器の端の部分をクリップで完全に固定した。これにより、配膳車実験機から緩衝器がずれたり、剥がれたりしないようにした。また、緩衝器と固定モデルが衝突接触する部分には滑り止めシートを貼り付け衝突時に先端部がずれないようにしてある。
この緩衝器は先端部分に補強を取り付け、そのためにプラスチックビスを多く使用しているために先端部分が重くなっている。よって、図84に示すように、配膳車実験機に装着すると、下方にたわんでしまっている、
【0133】
(5.2 実験結果(初期変形を与えない場合))
タイプ9をそのまま用いると荷重変位曲線が静的実験と異なり(a)から(c)の区間において荷重が不安定の曲線となってしまった(図85参照)。
これは、変形の挙動が静的の変形挙動とは異なったため生じたと考えられる。
次に(a)から(c)地点までで、なぜ静的と一致しなかったのかを考察をする。
(o)から(a)までの荷重上昇区間
図86に変位10mmまでに相当する、0sから0.02sまでの変形形状を示した。
丸囲み数字1から11に示すように丸で囲んだ緩衝器側面が波打つように上下し、安定した横倒れ変形をしないことにより荷重が上昇していってしまう。
上昇から下降への遷移区間
変位10mm付近になると、上段部分が横倒れを開始するような変形形状を示すのだが、今度は緩衝器先端が下方へ滑ってしまい荷重の低下へと移っていく。図87に0.018sから0.02sの緩衝器先端部分が滑っている図を示す。
(a)から(b)までの荷重下降区間
この区間では図88の丸囲み数字12から16に示すように固定モデルと接触している緩衝器上面が下方へ滑ってしまうことにより、緩衝器下段の横倒れ変形のみ起こることにより荷重が低下する。
(b)から(c)までの荷重上昇区間
図89に示すように、上段の側面が波打ちながら多少横倒れすることにより荷重が上昇する。
【0134】
(5.3 実験結果(初期変形を3mm与えた場合))
角筒型緩衝器タイプ9をそのまま用いると、横倒れをうまくすることができず変形形状が、静的の場合と一致しなかった。そのために、緩衝器へ横倒れを誘起するために予めテープを用いて3mm押込んだ初期変形を与えた。また、静的実験の実験条件に極力近づけるために、緩衝器先端部が下方へたわまないように先端部を持ち上げた状態になるように初期変形を与えた。 その初期変形3mm与えた緩衝器を図90に示す。
初期変形3mm与えることにより、荷重変位曲線は、衝突した直後の急激な荷重の上がり下がりがない安定した荷重変位曲線が得られた。図91に静的実験と動的実験の荷重変位曲線を示してある。動的の方が10N程低い値になっているのだが、これは、初期変形3mmを与えたことによるものである。また、図92に変形形状を示してあるが、これにより動的の変形形状は、静的の変形形状と一致している事がわかる。
衝突力と速度の時間遷移を図93に示す。このときの衝突速度は、2.1km/hであった。0.01sで衝突を感知し、ブレーキが作動してタイヤと床の摩擦により、運動エネルギーが吸収され実験機は減速する。経過時間0.22s後、実験機は最大停止距離87mmとなり、その後、リバウンドし減衰して0.47sで配膳車実験機は完全に停止した。
リバウンド現象は、緩衝器の形状復元力やゴムタイヤ弾性復元力などの影響によって発生したと考えられる。
実験機が完全に停止する間の最大衝突力は27.1Nとなり、挟圧実験の安全目標である痛覚耐性値100Nを満たした。
また、緩衝効率ηを下式より計算をすると、
η=平均荷重/最高荷重×100=20.1N/27.1N×100=74.2% となり、高い緩衝効率ηを得たことがわかる。
安全システムによるエネルギー吸収線図を図94に示す。第2章2.2節で示したエネルギー吸収シーケンスと同様のストーリーとなった。図中丸囲み数字1〜2では、緩衝器が衝突し、衝突力を感知するまでの経過時間であり、0.01sとなった。丸囲み数字3から、運動エネルギーの曲線の勾配が大きくなっているのは、ブレーキの制動によって、運動エネルギーが吸収されるためである。この間の丸囲み数字3〜4は制動距離となる。丸囲み数字1〜3の間のエネルギー吸収は、緩衝器とメカニカルロスであり、ここは空走距離である。丸囲み数字4は、最大移動距離で、実験機のリバウンドを除いた停止距離であり87mmとなった。停止距離の内訳としては、空走距離が58mmで停止距離の66.7%となり、大きな割合を占めている。空走距離はブレーキの特性の影響が大きく、停止距離を短くするには、空走距離を短くする必要がある。衝突から停止までの全運動エネルギーは25.9Jとなった。緩衝器でのエネルギー吸収は1.9Jとなっており、エネルギー吸収量はあまり大きいものでないことがわかる。
また、衝突実験後、緩衝器から衝突力を除荷すると形状復元することを確認した。
【0135】
(5.4 多段円筒型緩衝器と角筒梯子型緩衝器タイプ9との比較)(図95参照)
多段円筒型緩衝器を用い、衝突速度2.0km/hとして、同様の挟圧実験を行い比較した。多段円筒型緩衝器を用いると最大衝突力は90Nに達し、最大停止距離は85mmであった。 大きな違いとしては、図96に示すように、角筒梯子型緩衝器タイプ9では緩衝器のエネルギー吸収が多段円筒型緩衝器に比べ下がったことがわかる。だがこれは、衝突力を低くしたためで、衝突力を63N程低下させた事の方がメリットは大きく、また、吸収エネルギーについてはブレーキの空走距離を短くすることにより補うことも考えられている。以上のように、角筒梯子型緩衝器タイプ9を用いる事によって最大停止距離を長くすることなく、挟圧実験の安全目標である痛覚耐性値100N、かつ多段円筒型緩衝器を用いたときよりも衝突力を低く抑えることができた。
【0136】
(第6章 転倒実験)
(6.1 転倒実験方法)
人が配膳車と衝突し跳ね飛ばされる場合を想定し図97に示すような転倒実験を行った。
安全システムの安全評価の基準として、人の中でも体重が軽く、危険予知能力が低い未就学児(5歳児)を衝突対象として、ダミー人形を用いて、転倒実験を実施して転倒・並進しなかった場合安全だと評価する。
5歳児の平均的な特徴は、平均身長1123mm、平均体重185N(18.9kg)である。重心位置は立位の場合、地面から55%の点とした。また、今回は子供が施設内でスリッパを履いている状況を想定し、ダミー人形と床との摩擦係数がμ=0.23を設定条件として転倒実験を行った。
【0137】
(6.2 実験結果)
衝突力と速度の時間遷移を図99に示す。このときの衝突速度は、2.0km/hであった。0.01sで衝突を感知し、ブレーキが作動してタイヤと床の摩擦により、運動エネルギーが吸収し実験機は減速する。経過時間0.2s後、実験機は最大停止距離78mmとなり、その後、リバウンドし減衰して0.66sで配膳車実験機は完全に停止した。
実験機が完全に停止する間の最大衝突力は23.9Nとなり、転倒実験の安全目標であるダミー人形が″転倒並進しない安全条件″55Nを満たした。
安全システムによるエネルギー吸収線図を図100に示す。図中丸囲み数字1〜2では、緩衝器が衝突し、衝突力を感知するまでの経過時間であり、0.01sとなった。丸囲み数字3から、運動エネルギーの曲線の勾配が大きくなっているのは、ブレーキの制動によって、運動エネルギーが吸収されるためである。この間の丸囲み数字3〜4は制動距離となる。丸囲み数字1〜3の間のエネルギー吸収は、緩衝器とメカニカルロスであり空走距離である。丸囲み数字4は、最大移動距離で、実験機のリバウンドを除いた停止距離であり78mmとなった。停止距離の内訳としては、空走距離が50mmとなり、大きな割合を占めている。衝突から停止までの全運動エネルギーは23.0Jとなった。緩衝器でのエネルギー吸収は1.68Jとなっており、エネルギー吸収量はあまり多くない事がわかる。
また、衝突実験後、緩衝器から衝突力を除荷すると形状復元することを確認した。
【0138】
(6.3 多段円筒型緩衝器と角筒梯子型緩衝器タイプ9との比較)
図101に転倒実験における、多段円筒型と梯子型タイプ9の衝突速度が共に2.0km/hである時の衝突力−押込み変位曲線を示した。多段円筒型では、変位の増加に伴い衝突力が79.2Nまで上昇し、ダミー人形は転倒してしまった。一方、 梯子型タイプ9では、最高衝突力を多段円筒型より55.3N低い23.9 Nに抑え、ダミー人形は転倒しなかった。今回の設定条件では衝突力が安全条件55Nを超えると転倒・並進することがわかっており、梯子型タイプ9を用いることで、最高衝突力を抑え、転倒・並進を引き起こさない緩衝器を開発することができた。
図102に転倒と非転倒の様子を示す。
【0139】
(第7章 結言)
(7.1 結言(試作・静的実験において))
・多段円筒型緩衝器から角筒型の緩衝器に形状を変えることで、変形が局所的な変形から全体変形になり、初期剛性が高くなり、また、全体的に横倒れ変形することにより荷重が保持する荷重変位曲線を得られた。
・多段(三段)角筒緩衝器から側面を一続きにした梯子型緩衝器にすることにより、変形が上、中、下段で起こり、荷重保持区間を長くすることができた。
・繰返し耐久性を高くするためには、板厚を薄くすること、また、梯子中板の枚数を減らすことにより、変形形状が柔軟になることによって、繰返し耐久性をあげられる事がわかった。
・梯子中板の枚数、梯子中板取り付け高さにより変形形状を操作し、試作目標の荷重変位曲線に近づけられることがわかった。
・補強を緩衝器上面(衝突面)へ被せることにより、緩衝器上面が局所的に凹み荷重変位曲線の荷重保持区間に落ち込みが生じていたものを解消することができた。
・角筒型の緩衝器とすることにより、初期剛性が高く、荷重保持区間を長くすることができたので緩衝効率の高い緩衝器を作ることができた。
【0140】
(動的実験において)
・角筒梯子型緩衝器タイプ9をそのまま用いると、静的実験と変形形状が異なってしまい、荷重変位曲線が安定しないものになってしまったが、初期変形3mm与えることにより安定した荷重変位曲線を得ることができた。
・挟圧実験において、角筒梯子型緩衝器タイプ9に初期変形3mm与えた緩衝器を用いる事により、最高衝突力を痛覚耐性値以下に抑えることができ、安全であることが示せた。
【0141】
・転倒実験において、角筒梯子型緩衝器タイプ9に初期変形3mm与えた緩衝器を用いる事により、衝突力を低荷重にし、転倒・並進を防ぐことができたので、この開発した緩衝器を用いることで、安全であることが示せた。
【0142】
(7.2 今後の課題)
(角筒梯子型緩衝器タイプ9を用いて、今後、必要とされる実験)
・繰返し実験
【0143】
角筒梯子型緩衝器タイプ9の緩衝器において、静的の繰返し実験は3回しか行っていないので、今後、複数回の繰返し実験を行い繰返し耐久性がどの程度もつのか調べる必要があります。
・オフセット衝突実験
角筒梯子型緩衝器タイプ9の緩衝器において、静的・動的実験において中央部分に衝突することを想定しての実験は行ってきたのだが、緩衝器の端部に衝突するオフセット衝突に対する実験は行っていないので、今後、静的・動的ともにオフセット衝突を考慮した実験を行う必要があります。
・足の甲など衝突する時に角度があるときの衝突実験
図103に示すように、緩衝器と人との衝突は垂直な状態だけではないと考えられます、そこで、固定下肢モデルに角度をつけ衝突させる実験を行う必要があります。
・解析
角筒梯子型緩衝器タイプ9の緩衝器において、有限要素法を用いた解析によって緩衝器を更なる性能向上させることが今後必要であると考えられます。
・テープの取り扱い
今回はテープによって初期変形3mmを与えたが、テープでは繰返し使っていくうちに接着力が落ち弱くなってしまうことが考えられ、テープに変わる初期変形を与える手段を考えなくてはいけないと考えられます。
【0144】
(角筒梯子型緩衝器タイプ9に更なる改良を加え、より性能のよい緩衝器を完成させるために)
角筒梯子型緩衝器タイプ9の緩衝器は、今回設定した速度や最高荷重等の設定条件内においてはその要求を満たす緩衝器を完成させられたと考えられる、だが、さらに性能のよい緩衝器を製作するときや、違った設定条件が与えられた緩衝器を製作するとき、以下に示すパラメータを変化させることでいい緩衝器が得られると考えられ、製作していく必要があると考えられます。
・パラメータ
(1)梯子中板枚数:中板の枚数により、枚数が多いと剛性を高くすることができる。
(2)PC板厚:板厚を薄くすることにより、繰返し耐久性を高くし、最高荷重を抑えることができる。
(3)緩衝器幅:緩衝器の幅を広くすることで板厚を薄くした時と同じような効果が得られると考えられます。
(4)底辺の閉脚と開脚:開脚型にすることにより荷重の上昇を抑えることができる。
(5)補強の有無・補強のやり方:補強のやり方としては、今回のようにコの字型のものを被せたのと、縦通材を用いて行う方法があると考えられ、補強をすることにより、全体変形を長く続かせることができる。
(6)梯子板取り付け高さ:取り付け高さを変えることにより、変形形状が大きく変わるので適切に高さを決める必要がある。
(7)梯子板の取り付け方:方法としては中板の上向きと下向きの2種類だが、その付け方によっても大きく変形形状が変わるので、適切に取り付ける必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】実施例1の移動体用緩衝器の一例を示す図
【図2】実施例1の移動体用緩衝器の形状の一例を示す図
【図3】静的押込み実験に用いた実験装置の概要を示す図
【図4】実施例1の移動体用緩衝器の断面を示す図
【図5】実施例1に係る静的押込み実験の結果得られた荷重変位曲線の一例を示す図
【図6】図5に示す各押込み過程における移動体用緩衝器の変形状態の概要を示す図
【図7】静的押込み実験の結果得られた荷重変位曲線の一例を示す図
【図8】実施例2の移動体用緩衝器の断面の一例を示す図
【図9】実施例2に係る静的押込み実験の結果得られた荷重変位曲線の一例を示す図
【図10】同9に示す各押込み過程における移動体用緩衝器の変形状態の概要を示す図
【図11】実施例3の移動体における移動体用緩衝器及び移動体本体との結合部分の一例を示す図
【図12】実施例3の移動体の一例である適温配膳車の外観の一例を示す図
【図13】衝突エネルギーの吸収ストーリーを示す概念図
【図14】実施例3に係る挟圧実験の結果得られた衝突力変位曲線の一例を示す図
【図15】実施例3に係る挟圧実験における衝突力と速度の時間推移の一例を示す図
【図16】実施例3に係る転倒実験の結果得られた衝突力と速度の時間遷移の一例を示す図
【図17】実験時における各地点における変形形状の一例を示す図
【図18】中空構造を有する断面が略円形の管状体を横に三個連ねた移動体用緩衝器の外観の一例を示す図
【図19】静的押込み実験時における各地点における変形形状の一例を示す図
【図20】静的押込み実験時における各地点における変形形状の一例を示す図
【図21】挟圧実験の全体図
【図22】転倒実験の全体図
【図23】最適な移動体用緩衝器を移動体に取り付けた状態の一例を示す図
【図24】変形開始以後の各変位過程における移動体用緩衝器の変形状態の概要を示す図
【図25】エレクター株式会社製温冷配膳車を示す図
【図26】壁と配膳車に挟まれる状況を示す図
【図27】配膳車に衝突され転倒してしまう図
【図28】安全システムのエネルギー吸収シーケンスを示す図
【図29】配膳車実験機の一例を示す図
【図30】安全システムのブロック線図
【図31】目標とする荷重変位曲線を示す図
【図32】11種類試作した緩衝器を示す図
【図33】多段円筒型緩衝器を示す図
【図34】多段角筒型緩衝器を示す図
【図35】角筒梯子型緩衝器を示す図
【図36】押込み実験機を示す図
【図37】加圧子を示す図
【図38】静的押込み実験に使用した計測機器を示す図
【図39】多段円筒型緩衝器を示す図
【図40】多段円筒型緩衝器についての実験より得られた荷重変位曲線を示す図
【図41】多段円筒型緩衝器の変形形状の写真を示す図
【図42】多段(三段)角筒型緩衝器を示す図
【図43】多段(三段)角筒型緩衝器についての実験より得られた荷重変位曲線を示す図
【図44】角筒型で荷重保持ができる見通しが立てれたことを示す参照図
【図45】角筒型で荷重保持ができる見通しが立てれたことを示す参照図
【図46】多段(三段)角筒型緩衝器の変形形状の写真を示す図
【図47】角筒梯子型緩衝器タイプ1を示す図
【図48】角筒梯子型緩衝器タイプ1についての実験より得られた荷重変位曲線を示す図
【図49】角筒梯子型緩衝器タイプ1の梯子中板が矩形角筒から剥がれてしまうことを示す図
【図50】角筒梯子型緩衝器タイプ1の変形形状の写真を示す図
【図51】角筒梯子型緩衝器タイプ2を示す図
【図52】角筒梯子型緩衝器タイプ2についての実験より得られた荷重変位曲線を示す図
【図53】角筒梯子型緩衝器タイプ2についての実験の1、2、3回目の荷重変位曲線を示す図
【図54】角筒梯子型緩衝器タイプ2に癖が残り軽く曲がってしまっていることを示す図
【図55】角筒梯子型緩衝器タイプ2の変形形状の写真を示す図
【図56】梯子型緩衝器タイプ3(半円)を示す図
【図57】梯子型緩衝器タイプ3(半円)についての実験より得られた荷重変位曲線を示す図
【図58】梯子型緩衝器タイプ3(半円)の変形形状の写真を示す図
【図59】角筒梯子型緩衝器タイプ4を示す図
【図60】角筒梯子型緩衝器タイプ4についての実験より得られた荷重変位曲線を示す図
【図61】梯子中板枚数と予測される変形形状を示す図
【図62】角筒梯子型緩衝器タイプ4の変形形状の写真を示す図
【図63】角筒梯子型緩衝器タイプ5を示す図
【図64】角筒梯子型緩衝器タイプ5についての実験より得られた荷重変位曲線を示す図
【図65】角筒梯子型緩衝器タイプ5の変形形状の写真を示す図
【図66】角筒梯子型緩衝器タイプ6を示す図
【図67】角筒梯子型緩衝器タイプ6についての実験より得られた荷重変位曲線を示す図
【図68】角筒梯子型緩衝器タイプ6の変形形状の写真を示す図
【図69】角筒梯子型緩衝器タイプ7を示す図
【図70】角筒梯子型緩衝器タイプ7についての実験より得られた荷重変位曲線を示す図
【図71】角筒梯子型緩衝器タイプ7の変形形状の写真を示す図
【図72】角筒梯子型緩衝器タイプ8を示す図
【図73】角筒梯子型緩衝器タイプ8についての実験より得られた荷重変位曲線を示す図
【図74】角筒梯子型緩衝器タイプ8の変形形状の写真を示す図
【図75】角筒梯子型緩衝器タイプ9を示す図
【図76】角筒梯子型緩衝器タイプ9についての実験より得られた荷重変位曲線を示す図
【図77】角筒梯子型緩衝器タイプ9の1、2、3回目の繰返し耐久性の比較を示す図
【図78】角筒梯子型緩衝器タイプ9の変形形状の写真を示す図
【図79】緩衝器の試作目標達成までの流れを示す図
【図80】多段円筒型と角筒梯子型タイプ9との荷重変位曲線の比較を示す図
【図81】多段円筒型と梯子型タイプ9との比較を示す図
【図82】挟圧実験全体図
【図83】下肢モデルを示す図
【図84】角筒型緩衝器タイプ9を配膳車実験機に装着している様子を示す図
【図85】挟圧実験の実験結果(初期変形を与えない場合)を示す図
【図86】挟圧実験(初期変形を与えない場合)における(o)から(a)までの変形形状を示す図
【図87】挟圧実験(初期変形を与えない場合)における緩衝器先端部分のすべりを示す図
【図88】挟圧実験(初期変形を与えない場合)における(a)から(b)までの変形形状を示す図
【図89】挟圧実験(初期変形を与えない場合)における(b)から(c)までの変形形状を示す図
【図90】初期変形を3mm与えた緩衝器を示す図
【図91】静的実験と動的実験の荷重変位曲線を示す図
【図92】挟圧実験(初期変形を3mm与えた場合)における変形形状を示す図
【図93】衝突力と速度の時間推移を示す図
【図94】安全システムによるエネルギー吸収線図
【図95】円筒と角筒の衝突力速度の時間遷移の比較を示す図
【図96】円筒と角筒の吸収エネルギーの比較を示す図
【図97】転倒実験全体図
【図98】ダミー人形を示す図
【図99】衝突力と速度の時間遷移を示す図
【図100】エネルギー吸収線図
【図101】円筒と角筒の吸収エネルギーの比較を示す図
【図102】円筒と角筒の転倒・非転倒の様子を示す図
【図103】固定モデルに角度をつけて衝突させている状態を示す図
【図104】緩衝器のパラメーターを示す図
【符号の説明】
【0146】
0100 移動体用緩衝器
0110 移動体(一部)
0111 フロントパネル
0101 管状体
0102 管状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性薄肉部材からなり、中空構造を有する管状体を有する移動体用緩衝器であって、
管状体一側面に加えられる衝突の衝撃を管状体他側面の座屈変形により吸収することで座屈変形中の衝突荷重の値が所定値以下となるように構成されていることを特徴とする
移動体用緩衝器。
【請求項2】
前記管状体は、横断面が略矩形である請求項1に記載の移動体用緩衝器。
【請求項3】
前記管状体は移動体の前後方向に2段重ねられている請求項1又は2に記載の移動体用緩衝器。
【請求項4】
前記衝突の衝撃が加えられることを予定する前記一側面の断面2次モーメントは衝突の衝撃により座屈変形することを予定している前記他の側面の断面2次モーメントよりも大であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一に記載の移動体用緩衝器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一に記載の移動体用緩衝器と、
制動器とを備えた移動体であって、
移動体用緩衝器は、緩衝器に衝突があったことを検知する検知部と、
衝突があったとの検知結果を制動器に出力する出力部と、を有し、
制動器は、衝突があったとの検知結果を取得すると、移動体用緩衝器の座屈変形期間内に自動的に移動体を停止させるための制動を行うことを特徴とする
移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【図67】
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【図68】
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【図69】
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【図70】
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【図71】
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【図72】
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【図73】
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【図74】
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【図75】
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【図76】
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【図77】
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【図78】
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【図79】
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【図80】
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【図81】
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【図82】
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【図83】
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【図84】
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【図85】
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【図86】
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【図87】
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【図88】
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【図89】
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【図90】
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【図91】
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【図92】
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【図93】
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【図94】
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【図95】
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【図96】
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【図97】
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【図98】
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【図99】
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【図100】
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【図101】
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【図102】
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【図103】
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【図104】
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【公開番号】特開2009−1256(P2009−1256A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191418(P2007−191418)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年2月8日 芝浦工業大学 工学部 機械工学科発行の「2006年度 卒業計画論文概要集」に発表
【出願人】(599016431)学校法人 芝浦工業大学 (109)
【Fターム(参考)】