説明

窒化物半導体用電極および窒化物半導体装置

【課題】窒化物半導体を用いた窒化物半導体装置における電極の信頼性を向上することができる窒化物半導体用電極およびそれを含む窒化物半導体装置を提供する。
【解決手段】窒化物半導体上に形成される電極であって、窒化物半導体上に形成される金属窒化物層と、金属窒化物層上に形成される第1金属層と、第1金属層上に形成される第2金属層とを備え、第1金属層は、金属窒化物層に含まれる金属と同一の金属元素を含む窒化物半導体用電極とおよびそれを含む窒化物半導体装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物半導体用電極および窒化物半導体装置に関し、特に、窒化物半導体を用いた窒化物半導体装置における電極の信頼性を向上することができる窒化物半導体用電極およびそれを含む窒化物半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体は、絶縁破壊電界が大きく、耐熱性に優れており、また、電子の飽和ドリフト速度が速いこと等の理由から、窒化物半導体を用いた電子デバイスは、シリコン系やガリウムヒ素系の電子デバイスと比較して、高温時における動作や大電力時における動作等の点で優れた電子デバイスとすることができる。
【0003】
ところで、電子デバイスの一種である電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor)を作製するためには、窒化物半導体に対してショットキー特性を有するショットキー電極をゲート電極として用いることが必要となる。
【0004】
従来、仕事関数の大きいNi(ニッケル)、Pd(パラジウム)およびPt(白金)等の金属がp型窒化物半導体に対するオーミック電極材料であることから、n型窒化物半導体に対するショットキー電極に用いられ、良好な電気的特性が得られることが報告されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、これらの金属からなる電極は窒化物半導体に対する付着力が弱く、また、400℃以上の温度では漏れ電流が増大するため、これらの金属からなる電極を窒化物半導体上に形成した電子デバイスにおいては、高温動作時や大電力動作時における特性がきわめて悪化するという問題があった。
【0006】
そこで、たとえば特許文献1には、窒化物半導体上に形成される電極材料として窒化タングステン(WN)等の金属窒化物を用いることによって、窒化物半導体に対する付着力や温度特性を向上した電極が開示されている。
【0007】
特許文献1に開示されている電極においては、窒化物半導体上に金属窒化物を形成することによって、窒素原子を介した化学結合が形成されるため、従来の半導体/金属界面よりも強固な結合を形成することができる。
【特許文献1】特開2006−190749号公報
【非特許文献1】p型GaNにおけるPdオーミック電極の特性 vol.60, No.1(1999901) p.303 社団法人応用物理学会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、金属窒化物は、配線材料である金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)およびアルミニウム(Al)等の金属との付着力が弱いため、金属窒化物層上にAu、Ag、CuおよびAl等の金属層を堆積して電極を形成した場合には、リフトオフ時における電極の剥離やボンディング後の配線の引っ張りに対する電極の耐久性が低いという問題があった。
【0009】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、窒化物半導体を用いた窒化物半導体装置における電極の信頼性を向上することができる窒化物半導体用電極およびそれを含む窒化物半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、窒化物半導体上に形成される電極であって、窒化物半導体上に形成される金属窒化物層と、金属窒化物層上に形成される第1金属層と、第1金属層上に形成される第2金属層とを備え、第1金属層は、金属窒化物層に含まれる金属と同一の金属元素を含む窒化物半導体用電極であることを特徴とする。
【0011】
ここで、本発明の窒化物半導体用電極において、金属窒化物層に含まれる金属は、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデンおよびタングステンからなる群から選択される少なくとも1種の金属であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の窒化物半導体用電極において、金属窒化物層の比抵抗が0.001Ωcm以上0.015Ωcm以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の窒化物半導体用電極において、第2金属層は、金、銀、銅およびアルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。
【0014】
さらに、本発明は、上記のいずれかの窒化物半導体用電極を含む窒化物半導体装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、窒化物半導体を用いた窒化物半導体装置における電極の信頼性を向上することができる窒化物半導体用電極およびそれを含む窒化物半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に、本発明の窒化物半導体用電極の一例の模式的な断面図を示す。ここで、本発明の窒化物半導体用電極15は、窒化物半導体11上に形成されており、窒化物半導体11上に形成された金属窒化物層12と、金属窒化物層12上に形成された第1金属層13と、第1金属層13上に形成された第2金属層14とを備えており、第1金属層13が金属窒化物層12に含まれる金属と同一の金属元素を含むことを特徴としている。
【0017】
一般に、金属窒化物層と金属層との付着力は、金属−金属間の付着力に比べて弱いという問題がある。そこで、本発明者が鋭意検討した結果、金属窒化物層と金属層との間に、金属窒化物層に含まれる金属と同一の金属元素を含む金属層を挿入して、段階的に電極材料を変化させることによって、電極を構成する層間の付着力が強化されて電極の信頼性が改善されることを見いだし、本発明を完成するに至ったものである。
【0018】
図1において、窒化物半導体11は、窒化物半導体装置の最上層を構成している。ここで、窒化物半導体11としては、たとえば、III族元素の窒化物からなる結晶を用いることができ、AlxGayInzN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z≠0)の組成式で表わされる窒化物半導体結晶等を用いることができる。なお、上記の組成式において、Alはアルミニウムを示し、Gaはガリウムを示し、Inはインジウムを示し、Nは窒素を示す。また、xはAlの組成比を示し、yはGaの組成比を示し、zはInの組成比を示す。また、窒化物半導体11は、n型またはp型の導電型を有していてもよい。また、本発明における窒化物半導体装置は窒化物半導体からなる層を少なくとも1層含んでいればよい。
【0019】
また、金属窒化物層12に含まれる金属は、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。金属窒化物層12に含まれる金属として、高融点材料であるZr、Hf、V、Nb、Ta、MoおよびWからなる群から選択される少なくとも1種の金属を用いた場合には、高温環境下においても優れた特性を有する窒化物半導体用電極15の形成が可能となる。
【0020】
ここで、金属窒化物層12の比抵抗は0.001Ωcm以上0.015Ωcm以下であることが好ましい。金属窒化物層12の比抵抗が0.001Ωcm未満である場合にはリーク電流が増大し、0.015Ωcmを超える場合には絶縁体としての特性が現れ、閾値の制御が困難となる傾向にある。なお、上記の金属窒化物層の比抵抗は、25℃における金属窒化物層の比抵抗の値のことを意味する。また、金属窒化物層12は単層となる構成だけでなく、複数層となる構成となっていてもよい。
【0021】
また、第1金属層13は、金属窒化物層12に含まれる金属と同一の金属元素を含むことが必要である。このような構成とすることによって、金属窒化物層12、第1金属層13および第2金属層14の間で段階的に電極材料を変化させて、窒化物半導体用電極15を構成する層間の付着力を高めることができるため、窒化物半導体の窒化物半導体11上に形成される窒化物半導体用電極15の信頼性を向上することができる。
【0022】
また、第2金属層14は、Au、Ag、CuおよびAlからなる群から選択された少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。第2金属層14がAu、Ag、CuおよびAlからなる群から選択された少なくとも1種の金属を含む場合には第2金属層14の比抵抗の値が小さくなって、配線を接続するためのパッド電極としての機能が優れる傾向にある。
【0023】
図2に、本発明の窒化物半導体装置の一例の模式的な断面図を示す。ここで、窒化物半導体装置は、基板の一例であるサファイア基板21と、サファイア基板21上に形成された窒化物半導体バッファ層22と、窒化物半導体バッファ層22上に形成されたn型GaN層23と、n型GaN層23の端部に形成されたオーミック電極29と、n型GaN層23の中央部に形成されたショットキー電極28とを有している。
【0024】
ここで、サファイア基板21としては、たとえば、成長面となる表面に(0001)面を有するサファイア基板を用いることができる。また、基板としては、サファイア基板21に限定されず、たとえば、シリコン(Si)基板、アルミナ(Al23)基板、酸化亜鉛(ZnO)基板、酸化マグネシウム(MgO)基板若しくは炭化ケイ素(SiC)基板等の半導体結晶基板、またはガリウムヒ素(GaAs)基板若しくはインジウムヒ素(InAs)基板等のIII−V族化合物半導体結晶基板、またはセレン化亜鉛(ZnSe)等のII−VI族化合物半導体結晶基板、または石英ガラス若しくはMESAガラス等のガラス基板を用いることができる。
【0025】
また、ここでは、窒化物半導体バッファ層22としては、厚さ20nmの低温成長窒化アルミニウム(AlN)を用いている。なお、窒化物半導体バッファ層22としては、たとえば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、シリコン(Si)若しくは炭化ケイ素(SiC)等からなるアモルファス層、または窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)若しくは炭化ケイ素(SiC)等からなる単結晶層を用いることができる。
【0026】
また、ここでは、キャリア濃度が2×1018cm-3であって、厚さが1μmのn型GaN層23を積層した構成を採用しているが、この構成に限定されるものではない。
【0027】
また、オーミック電極29としては、たとえば、Al、またはTi/Al、Ti/Al/Ti/Au、Hf/Al/Hf/Au等の少なくとも1種の4族元素を含んだ多層金属若しくは合金等を用いることができる。
【0028】
また、ここでは、ショットキー電極28は、n型GaN層23上に、成膜時の圧力を5.0Paとして堆積した第1のWN(窒化タングステン)層24、成膜時の圧力を0.5Paとして堆積した第2のWN(窒化タングステン)層25、W(タングステン)層26およびAu(金)層27が順次積層された構成となっている。このような構成としたショットキー電極28は、n型GaN層23に対してショットキー特性を有することになる。
【0029】
ここで、ショットキー電極28はたとえば反応性スパッタ法により形成することができる。この反応性スパッタ法は、たとえば以下のように行なうことができる。
【0030】
(i)まず、ターゲットにW(タングステン)を用い、アルゴン流量をたとえば16.8sccmとし、窒素流量をたとえば50sccmとして、成膜室内にアルゴンおよび窒素をそれぞれ導入し、成膜時の圧力をたとえば5.0Paとし、投入電力をたとえば300Wとした条件で反応性スパッタを行なう。これにより、たとえば厚さ50nmの第1のWN(窒化タングステン)膜24をn型GaN層23上に形成する。
【0031】
(ii)次に、ターゲットとしてW(タングステン)を用い、アルゴン流量をたとえば16.8sccmとし、窒素流量をたとえば50sccmとして、成膜室内にアルゴンおよび窒素をそれぞれ導入し、成膜時の圧力をたとえば0.5Paとし、投入電力をたとえば300Wとした条件で反応性スパッタを行なう。これにより、たとえば厚さ10nmの第2のWN(窒化タングステン)膜25を第1のWN(窒化タングステン)膜24上に形成する。
【0032】
(iii)次に、ターゲットとしてW(タングステン)を用い、アルゴン流量をたとえば50sccmとして、成膜室内にアルゴンを導入し、投入電力をたとえば300Wとした条件で反応性スパッタを行なう。これによりたとえば厚さ10nmのW(タングステン)膜26を第2のWN(窒化タングステン)膜25上に形成する。
【0033】
(iv)次に、ターゲットとしてAu(金)を用い、アルゴン流量をたとえば50sccmとして、投入電力をたとえば100Wとした条件で反応性スパッタを行なう。これにより、たとえば厚さ200nmのAu(金)膜27をW(タングステン)膜26上に形成する。
【0034】
ここで、実施例として、上記の(i)〜(iv)の条件で反応性スパッタにより、4層構造(第1のWN膜24/第2のWN膜25/W膜26/Au膜27)のショットキー電極28を100個形成した。
【0035】
一方、比較例として、WN膜上に直接Au膜を堆積した2層構造のショットキー電極を100個形成した。
【0036】
そして、100個の実施例のショットキー電極と100個の比較例のショットキー電極のそれぞれにAuワイヤーによるボンディングを行なった結果、実施例の4層構造のショットキー電極においては、ショットキー電極の各膜の界面での剥離が生じず、各膜の界面における強い付着力が確認された。
【0037】
一方、比較例の2層構造のショットキー電極においては、100個中32個でWN膜とAu膜との界面で剥離を生じた。
【0038】
図3に、比較例の2層構造のショットキー電極において、Auワイヤーによるボンディングの際にWN膜とAu膜との界面で剥離が生じたときの写真を示す。
【0039】
また、図4に、実施例の4層構造のショットキー電極において、Auワイヤーによるボンディングを行なった際に、ショットキー電極の各膜の界面での剥離が生じなかったときの写真を示す。
【0040】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、窒化物半導体を用いた窒化物半導体装置における電極の信頼性を向上することができる窒化物半導体用電極およびそれを含む窒化物半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の窒化物半導体用電極の一例の模式的な断面図である。
【図2】本発明の窒化物半導体装置の一例の模式的な断面図である。
【図3】比較例の2層構造のショットキー電極において、Auワイヤーによるボンディングの際にWN膜とAu膜との界面で剥離が生じたときの写真である。
【図4】実施例の4層構造のショットキー電極において、Auワイヤーによるボンディングを行なった際に、ショットキー電極の各膜の界面での剥離が生じなかったときの写真である。
【符号の説明】
【0043】
11 窒化物半導体、12 金属窒化物層、13 第1金属層、14 第2金属層、15 窒化物半導体用電極、21 サファイア基板、22 窒化物半導体バッファ層、23 n型GaN層、24 第1のWN層、25 第2のWN層、26 W層、27 Au層、28 ショットキー電極、29 オーミック電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体上に形成される電極であって、
前記窒化物半導体上に形成される金属窒化物層と、
前記金属窒化物層上に形成される第1金属層と、
前記第1金属層上に形成される第2金属層と、
を備え、
前記第1金属層は、前記金属窒化物層に含まれる金属と同一の金属元素を含むことを特徴とする、窒化物半導体用電極。
【請求項2】
前記金属窒化物層に含まれる金属は、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデンおよびタングステンからなる群から選択される少なくとも1種の金属であることを特徴とする、請求項1に記載の窒化物半導体用電極。
【請求項3】
前記金属窒化物層の比抵抗が0.001Ωcm以上0.015Ωcm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の窒化物半導体用電極。
【請求項4】
前記第2金属層は、金、銀、銅およびアルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種の金属を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の窒化物半導体用電極。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の窒化物半導体用電極を含む、窒化物半導体装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−130047(P2009−130047A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301914(P2007−301914)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】