説明

繊維強化樹脂製円筒成形品の製造方法

【課題】 脱型が困難な円筒状の成形品を、簡易な構成の成形型によって容易に成形し、成形品形状の制約を受けることなく、寸法精度が高く、強度に優れた成形品を得ることを可能にする繊維強化樹脂製円筒成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】 抜き勾配を有しない円筒成形型1の外周面に、その肉厚方向の弾性を備えて成形品からの脱型性を高める脱型用緩衝材2を巻回しておき、この脱型用緩衝材2の外周に、成形品5と脱型用緩衝材2との離型性を高める離型シート3を巻回し、この離型シート3の外周に樹脂を含浸させた強化繊維基材を巻き付けて強化繊維基材層4を形成する。そして、硬化した円筒成形品5から円筒成形型1を脱型用緩衝材2の弾性を利用して脱型し、脱型後の円筒成形品5の内周の脱型用緩衝材2および離型シート3を除去することにより円筒成形品5を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂製円筒成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道において流域下水道の幹線は、地中の比較的深い位置に計画されており、関連公共下水道との接続点では高落差接合となっている。このため、一つのマンホール内で高落差処理を行う場合には、例えば特許文献1,2に開示されているように、マンホール内に縦管(ドロップシャフト)を配置する方法が採用される。
【0003】
この種の縦管には、垂直に配設された直管状の縦管本体に対して、下水を螺旋状に旋回させて流下させる螺旋案内路が設けられている。これにより、マンホール内に流入した下水の流下エネルギーを減衰させて、流下した下水によって縦管底部が強い衝撃や荷重を受けるのを避けるとともに、強度を確保することによって底部の摩耗も抑制しうるように形成されている。また、螺旋案内路の軸芯部には、螺旋案内路に案内される下水中に含む空気を上方に排除するために中心筒が設けられている。
【0004】
このような螺旋案内路付き管の中心筒は、螺旋案内路と同様に、繊維強化樹脂(FRP:Fiber Reinforced Plastics)により円筒状に成形されている。円筒を成形するには、芯材となる円筒状の成形型が必要であり、この成形型に強化繊維基材を積層させて成形するのが一般的であった。
【特許文献1】特開平8−41945号公報
【特許文献2】特開2000−205457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、円筒状の成形型を用いて中心筒を成形する場合、脱型時の作業を考慮して、成形型に抜き勾配を設けたり、軸心方向に円筒状の成形型が縮径しうるような構造を設けたりしなければならず、成形型が複雑になり、型精度を上げるにはコストの嵩むものとなってしまうという問題点があった。
【0006】
そこで本発明は、このような問題点にかんがみてなされたものであり、脱型が困難な円筒状の成形品を、簡易な構成の成形型によって容易に成形し、成形品形状の制約を受けることなく、寸法精度が高く、強度に優れた成形品を得ることを可能にする繊維強化樹脂製円筒成形品の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために本発明は、円筒成形型の外周面に強化繊維基材層を形成し、この強化繊維基材層に樹脂を含浸させて円筒成形品を得る繊維強化樹脂製円筒成形品の製造方法であって、抜き勾配を有しない円筒成形型の外周面には、その肉厚方向に弾性を備えて成形品からの脱型性を高める脱型用緩衝材を巻回しておき、この脱型用緩衝材の外周に成形品と脱型用緩衝材との離型性を高める離型シートを巻回し、この離型シートの外周に、樹脂を含浸させた強化繊維基材層を形成して、硬化した円筒成形品から円筒成形型を脱型用緩衝材の弾性を利用して脱型し、脱型後の円筒成形品の内周の脱型用緩衝材を除去することにより円筒成形品を得ることを特徴としている。
【0008】
このような発明により、抜き勾配を設けていない簡易な構造の円筒成形型を用いても、脱型用緩衝材の作用によって成形品を容易に脱型することが可能になる。したがって、成形品形状の制約を受けたり、複雑な構造の成形型を用意したりする必要がなく、効率よく円筒成形品を得ることができる。
【0009】
また、本発明において、脱型用緩衝材は、約120°〜130°の耐熱性材料からなることが好ましい。これは成形時に強化繊維基材層に含浸される樹脂の温度によっても、変形せず特性を発揮しうるだけの耐熱性を有することが望ましいからである。
【0010】
また、本発明において、脱型用緩衝材は、段ボールまたは片面段ボールであることが好ましい。また、脱型用緩衝材は、気泡シートであってもよい。このような脱型用緩衝材は、比較的廉価であり、その扱いも容易であるので、円筒成形型への巻回を簡単に行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
上述のように構成される本発明の繊維強化樹脂円筒成形品の製造方法によれば、脱型が困難な円筒状の成形品を、成形型に抜き勾配等を設けない簡易な構成で容易に脱型することを可能にし、コストを抑えて製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る繊維強化樹脂円筒成形品の製造方法を実施するための最良の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1および図2は本発明に係る繊維強化樹脂円筒成形品の製造方法の一例を示し、図1は成形品の成形工程を模式的に示す軸方向断面図、図2は成形品の脱型工程を模式的に示す軸方向断面図である。
【0014】
例示の形態では、マンホール内に配置する縦管(ドロップシャフト)の上部に設置されて螺旋案内路が設けられる中心筒を成形するのに、本発明の製造方法を適用した場合について説明する。かかる用途の円筒成形品は、マンホール内に設置される直管状の縦管内において、縦管の約1/3の口径を有する中心筒となり、縦管と同心となるように配設される。この中心筒の外周面と、縦管の内周面との間には、螺旋状に形成された案内板が配設されて螺旋案内路が形成される構成である。
【0015】
中心筒は、図1に示すような円筒形の成形型1を用いて形成される。この円筒成形型1には、抜き勾配は設けられている必要はなく、例えば塩化ビニル樹脂等の合成樹脂製の直管状の円筒体である。円筒成形型1は、適宜の回転機に設置されて内周面が支持され、円筒体の軸心を中心として回転可能とされている。
【0016】
この円筒成形型1の外周面には、脱型用緩衝材2が巻回される。脱型用緩衝材2は、その肉厚方向に弾性を有し、この弾性によって、形成された成形品からの脱型性を高めるものである。また、脱型用緩衝材2は、成形過程で作用する熱の影響を抑えるため耐熱性材料からなることが好ましく、具体的には約120°〜130°の耐熱性を有することが望ましい。例えば、脱型用緩衝材2には、長尺で形成された段ボールまたは片面段ボールを用いることが可能である。
【0017】
段ボールまたは片面段ボールは、波状成形して段繰られた中芯の両面または片面にライナを貼合してシート状に形成された緩衝材であり、特に片面段ボールが好適である。片面段ボールを脱型用緩衝材2として用いる場合は、露出した中芯面を円筒成形型1の外周面に当て、回転機によって回転させた円筒成形型1に対して端部から順に螺旋状に巻回する。
【0018】
また、脱型用緩衝材2として、段ボールの他には、耐熱性を有する適宜のシート状樹脂発泡体や、気泡シート等を用いることも可能であり、緩衝材2自体がその弾性によって変形することで脱型を容易にしうる材料であれば、どのようなものであってもよい。
【0019】
次に、巻回した脱型用緩衝材2の外周に離型シート3(ピールプライ)を巻回する。離型シート3は、樹脂が硬化した後、成形品の内周に配設されている脱型用緩衝材2との離型性を高めるものであり、成形樹脂に対して非接着性の材料からなるシート材であることが好ましい。この離型シート3も長尺で形成されて、回転機によって回転させた円筒成形型1の外側に、端部から順に螺旋状に巻回していく。
【0020】
次に、離型シート3が巻回された円筒成形型1の外周に、強化繊維基材層4を形成する。強化繊維基材層4は、シート状の長尺の強化繊維基材を、回転する円筒成形型1に対して螺旋状に巻回し、一層または複数層に形成して、適宜の厚みを有するようにして設けられる。巻回する強化繊維基材としては、例えば、ガラスロービングクロス等のガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維などの繊維、または織物あるいは不織布等が用いられる。
【0021】
また、強化繊維基材には、成形樹脂を満たした含浸槽を潜らせることによって成型樹脂を含浸させている。成形樹脂としては、例えば、低粘度系のビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が好ましい。そして、このように成型樹脂を含浸させた強化繊維基材が、回転機によって回転する円筒成形型1の外周に巻回されている。
【0022】
このような強化繊維基材層4を形成し、含浸した成形樹脂を硬化させたのち、円筒成形型1の外周面から円筒成形品5を脱型する。このとき、円筒成形型1を脱型用緩衝材2の弾性を利用して軸心方向に引き抜き、円筒成形型1と円筒成形品5とを離間させる。円筒成形型1と円筒成形品5との間には、脱型用緩衝材2が介在しているので、引き抜き方向の力が作用することにより脱型用緩衝材2が変形して脱型を容易にすることが可能となる。脱型後の円筒成形品5の内周には脱型用緩衝材2および離型シート3が配設されているので、これを順次除去することにより、円筒成形品5を得ることができる。
【0023】
このような円筒成形品の製造方法により、円筒成形型1に抜き勾配が設けられていなくても、円筒成形品5の脱型を容易に行うことができ、成形品形状の制約を受けることなく、寸法精度の高い、強度に優れた円筒成形品5を得ることができる。また、だけ起用緩衝材2には段ボール等の比較的廉価で扱いの容易な材料を用いることが可能であるので、製造コストを低廉化し、作業手間を軽減して加工時間の短縮化を図ることも可能になる。
【0024】
なお、上記説明において本発明の製造方法を、縦管(ドロップシャフト)の上部に設置されて螺旋案内路が設けられる中心筒の成形に適用した例を示したが、本発明はこれに限定されず、直管状の円筒体の繊維強化樹脂製成形品であればどのような成形品の製造にも適用することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、例えば下水道において下水全量を流下させることのできる高落差接合のマンホールに設置する螺旋案内路式ドロップシャフトの中心筒を成形するのに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る繊維強化樹脂円筒成形品の製造方法の一工程を模式的に示す軸方向断面図である。
【図2】本発明における成形品の脱型工程を模式的に示す軸方向断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 円筒成形型
2 脱型用緩衝材
3 離型シート
4 強化繊維基材層
5 円筒成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒成形型の外周面に強化繊維基材層を形成し、この強化繊維基材層に樹脂を含浸させて円筒成形品を得る繊維強化樹脂製円筒成形品の製造方法であって、
抜き勾配を有しない円筒成形型の外周面に、その肉厚方向に弾性を備えて成形品からの脱型性を高める脱型用緩衝材を巻回しておき、この脱型用緩衝材の外周に、成形品と脱型用緩衝材との離型性を高める離型シートを巻回し、この離型シートの外周に、樹脂を含浸させた強化繊維基材層を形成して、
硬化した円筒成形品から円筒成形型を脱型用緩衝材の弾性を利用して脱型し、脱型後の円筒成形品の内周の脱型用緩衝材および離型シートを除去することにより円筒成形品を得ることを特徴とする繊維強化樹脂製円筒成形品の製造方法。
【請求項2】
脱型用緩衝材は、約120°〜130°の耐熱性材料からなることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂製円筒成形品の製造方法。
【請求項3】
脱型用緩衝材は、段ボールまたは片面段ボールであることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維強化樹脂製円筒成形品の製造方法。
【請求項4】
脱型用緩衝材は、気泡シートであることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維強化樹脂製円筒成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−62471(P2008−62471A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241643(P2006−241643)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】