説明

繊維強化複合材料のプリフォーム及びその製造方法

【課題】プリフォームを三次元繊維構造体で構成した場合に、形状保持性及び繊維束のほつれ防止性を付与するバインダ繊維が繊維強化複合材料の成形型に貼り付くことによる脱型不良の発生を防止する。
【解決手段】プリフォームは組糸12及び芯糸13で組織された三次元ブレイディング11で構成され、組糸12は連続繊維の繊維束14の外側にバインダ繊維15が螺旋状に巻き付けられた糸条16で形成されている。バインダ繊維15は三次元ブレイディング11の内部に位置し、かつ繊維束14に融着している。繊維束14に対するバインダ繊維15の巻き付けピッチは、組糸12が三次元ブレイディング11の表面に露出する部分12aの長さより大きく、かつ、バインダ繊維15が三次元ブレイディング11の内部側にのみ位置する巻き付け状態となるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料のプリフォーム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料の製造方法として、例えば、RTM(Resin Transfer Molding)法のように、予め所望の形状に賦形されたプリフォームを成形型内に配置した状態で、成形型内に注入孔から樹脂を注入してプリフォームに樹脂を含浸させる方法がある。プリフォームとして補強繊維を経糸及び緯糸とし、かつその経糸及び緯糸の少なくとも一方に、熱可塑性ポリマー(熱可塑性樹脂)を、線状に、かつ連続又は不連続に付着せしめてなる補強繊維織物基材の積層構成を有し、かつ相隣接する前記基材同士が前記ポリマーによって接合され、一体化されたものがある(例えば、特許文献1)。このプリフォームは、補強繊維織物基材を構成する経糸及び緯糸の少なくとも一方に、熱可塑性ポリマーが、線状に、かつ連続又は不連続に付着されているため、補強繊維織物基材を所望の形状に積層する際、あるいはプリフォームにマトリックス樹脂を含浸させる際における、補強繊維の配向や分布の乱れを防止することができる。
【0003】
また、プリフォームを、補強繊維織物基材を複数積層して構成するのではなく、所望の厚さを有する三次元織物や三次元組紐(三次元ブレイディング)等の三次元繊維構造体で構成する場合もある。その際、三次元織物や三次元組紐を構成する連続繊維からなる繊維束に熱可塑性樹脂製の繊維を巻き付けた糸条を用いてプリフォームの形状保持性、繊維束のほつれ防止性を付与することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−152637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、プリフォームを連続繊維からなる繊維束に熱可塑性樹脂製の繊維(バインダ繊維)を巻き付けた糸条を用いて形成された三次元繊維構造体で構成した場合、プリフォームの表面にバインダ繊維の一部が現れる状態になる。このようなプリフォームを成形型内に配置して繊維強化複合材料を成形する際、マトリックス樹脂の硬化温度がバインダ繊維の軟化点以上である場合、プリフォームの表面に現れたバインダ繊維が成形型に貼り付き、脱型不良が発生する。成形型の内面とプリフォームの表面との間に離型紙を配置して成形を行えば脱型不良を防止することはできる。しかし、離型紙を配置するのに手間がかかるとともに、その分、製造コストも高くなる。
【0006】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、プリフォームを三次元繊維構造体で構成した場合に、形状保持性及び繊維束のほつれ防止性を付与するバインダ繊維が繊維強化複合材料の成形型に貼り付くことによる脱型不良の発生を防止することができる繊維強化複合材料のプリフォームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、繊維強化複合材料のプリフォームであって、前記プリフォームは連続繊維の繊維束からなる糸条で組織された三次元繊維構造体で構成され、前記糸条の少なくとも一部は前記繊維束の外側にバインダ繊維が螺旋状に巻き付けられて形成され、前記糸条が前記三次元繊維構造体の表面に露出する部分では前記バインダ繊維は前記三次元繊維構造体の内部側にのみ位置し、かつ前記繊維束に融着している。ここで、「三次元繊維構造体」とは、三次元織物や三次元組紐(三次元ブレイディング)、あるいは連続繊維からなる繊維層が積層された少なくとも2軸配向となる積層繊維層が各繊維層と交差する状態の厚さ方向糸で結合されたもののように、複数の糸あるいは繊維束が交差する状態で三次元に組織された構造体を意味する。
【0008】
この発明では、三次元繊維構造体を構成する繊維束がバインダ繊維で融着されているため、プリフォームの形状保持性及び繊維束のほつれ防止性が付与される。また、バインダ繊維はプリフォームの表面に現れないため、プリフォームを成形型内に配置して繊維強化複合材料を成形する際、マトリックス樹脂の硬化温度がバインダ繊維の軟化点以上であっても、バインダ繊維が成形型に貼り付くことによる脱型不良の発生を防止することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記三次元繊維構造体は三次元ブレイディングであり、前記バインダ繊維が螺旋状に巻き付けられた糸条が組糸に使用され、前記バインダ繊維の巻き付けピッチは前記組糸が前記三次元ブレイディングの表面に露出する部分の長さより大きく、かつ、前記バインダ繊維が前記三次元ブレイディングの内部側にのみ位置する巻き付け状態となるように設定されている。ここで「組糸」とは三次元ブレイディングを構成する連続繊維のうち、三次元ブレイディングの幅方向及び厚さ方向において蛇行状に折り返す状態で組織される連続繊維を意味する。
【0010】
この発明では、三次元ブレイディングの組糸にはバインダ繊維が螺旋状に巻き付けられた糸条が使用されているが、バインダ繊維の巻き付けピッチが特定のピッチに設定され、かつ、特定の巻き付け状態とされているため、バインダ繊維が三次元ブレイディングの表面に露出することがない。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記三次元ブレイディングは芯糸を有し、組糸にのみ前記バインダ繊維が巻き付けられた糸条が使用されている。ここで「芯糸」とは、三次元ブレイディングの厚さ方向及び幅方向と直交する方向へ延びる状態に配列される糸(繊維束)を意味する。この発明では、芯糸が存在するため、三次元ブレイディングの形態保持性、特に芯糸の配列方向への引っ張り力に対する形態保持性が向上する。
【0012】
請求項4に記載の発明は、連続繊維からなる繊維束で組織されるとともに少なくとも一部の繊維束には外側にバインダ繊維が螺旋状に巻き付けられた糸条が使用されている三次元繊維構造体で構成された繊維強化複合材料のプリフォームの製造方法である。そして、一部が前記三次元繊維構造体としての三次元ブレイディングの表面に露出する状態で組織される組糸となる前記糸条の前記バインダ繊維の巻き付けピッチを、前記組糸が前記三次元ブレイディングの表面に露出する部分の長さより大きく、かつ、前記バインダ繊維が前記三次元ブレイディングの内部側にのみ位置する巻き付け状態となる特定ピッチに決定する巻き付けピッチ決定工程を備えている。また、前記バインダ繊維が前記特定ピッチで巻き付けられた前記糸条を準備するバインダ繊維巻き付け工程と、前記バインダ繊維が前記特定ピッチで巻き付けられた前記糸条を組糸に使用して前記バインダ繊維が表面に露出しない組織の三次元ブレイディングを製造する三次元ブレイディング製造工程とを備えている。
【0013】
この発明の製造方法では、巻き付けピッチ決定工程において、三次元ブレイディングの組糸となる糸条に巻き付けられるバインダ繊維の巻き付けピッチが、前記組糸が前記三次元ブレイディングの表面に露出する部分の長さより大きく、かつ、前記バインダ繊維が前記三次元ブレイディングの内部側にのみ位置する巻き付け状態となるような特定のピッチに決定される。そして、バインダ繊維巻き付け工程において、バインダ繊維がその特定ピッチで巻き付けられた糸条を準備し、三次元ブレイディング製造工程において、その糸条を組糸に用いて三次元ブレイディングが製造される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プリフォームを三次元繊維構造体で構成した場合に、形状保持性及び繊維束のほつれ防止性を付与するバインダ繊維が繊維強化複合材料の成形型に貼り付くことによる脱型不良の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態を示し、(a)は三次元ブレイディングの模式斜視図、(b)は組糸の折り返し状態を示す模式図、(c)はバインダ繊維が巻き付けられた糸条の模式図。
【図2】組糸の折り返し状態とバインダ繊維の巻き付け位置との関係を示す模式図。
【図3】別の実施形態の三次元ブレイディングの模式断面図。
【図4】別の実施形態における組糸の折り返し状態とバインダ繊維の巻き付け位置との関係を示し、(a)は芯糸層が奇数層の場合の模式図、(b)は芯糸層が偶数層の場合の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1及び図2にしたがって説明する。
プリフォームは、三次元繊維構造体としての三次元ブレイディング11で構成され、図1(a),(b)に示すように、三次元ブレイディング11は、組糸12及び芯糸13で組織されている。組糸12は図1(b)に示すように、三次元ブレイディング11の幅方向(図1(b)における左右方向)及び厚さ方向(図1(b)における上下方向)において蛇行状に折り返す状態で配列され、この実施形態では組糸12は三次元ブレイディング11の表面のみで折り返すように配列されている。芯糸13は三次元ブレイディング11の厚さ方向及び幅方向と直交する方向(図1(b)において紙面と直交する方向)へ延びる状態に配列されている。図1(b)においては、三次元ブレイディング11として、芯糸13が4層に配列され、組糸12が芯糸層を挟むように5層に配列された構成を示している。なお、図1(b)では、図示の都合上、組糸12が同一平面上で折り返すように配列して描いているが、実際は同一平面上に配列されてはおらず、紙面と交差する方向に延びるように配列(組織)されている。また、図1(b)では、バインダ繊維15の図示を省略している。
【0017】
図1(c)示すように、組糸12には、連続繊維からなる繊維束14の外側にバインダ繊維15が螺旋状に巻き付けられた糸条16が使用されている。芯糸13には連続繊維からなる繊維束14が使用されている。糸条16は、繊維束14が扁平な状態で三次元ブレイディング11を組織する。繊維束14はボビンや三次元ブレイディング11を製造する三次元ブレイダーのガイド部材等に押圧されることにより扁平になって幅が拡がるが、バインダ繊維15のピッチがあまり狭くなると繊維束14が拡がり難くなる。そのため、バインダ繊維15の巻き付けピッチは繊維束14が拡がるのを妨げない大きさに設定される。
【0018】
繊維束14としては軽量で破断強度が高く、弾性率の大きい例えば炭素繊維の無撚りの繊維束(ロービング)が使用される。炭素繊維束は細い繊維が数百〜数万本束ねられて1本の繊維束が構成されており、要求性能に適した繊維の本数の繊維束が選択される。
【0019】
バインダ繊維15には、三次元ブレイディング11を賦形型で賦形する際の加熱温度で溶融可能な熱可塑性樹脂製繊維(熱融着糸)が使用される。熱可塑性樹脂製繊維としては、例えば、ナイロン繊維、ポリエステル繊維が挙げられる。
【0020】
繊維束14に対するバインダ繊維15の巻き付けピッチは組糸12が三次元ブレイディング11の表面に露出する部分12aの長さよりも大きく、かつ、部分12aでバインダ繊維15が三次元ブレイディング11の内部側のみに位置する巻き付け状態となるように設定されている。この実施形態では、バインダ繊維15の巻き付けピッチは、組糸12が三次元ブレイディング11の表面に露出する部分12aに対応する部分のピッチが、組糸12が三次元ブレイディング11の表面に露出しない部分のピッチより大きく設定されている。
【0021】
そのため、図2に示すように、バインダ繊維15は、組糸12が三次元ブレイディング11の表面に露出する部分12aにおいては、繊維束14の表面に露出する部分と反対側(内部側)にのみ位置する状態になる。なお、図2においては、組糸12を構成する糸条16に巻き付けられたバインダ繊維15の巻き付け位置(ピッチ)と、組糸12の三次元ブレイディング表面での折り返し位置との関係をわかり易くするため、一部の組糸12についてのみ糸条16を構成する繊維束14及びバインダ繊維15を図示している。他の組糸12については繊維束14及びバインダ繊維15を省略している。
【0022】
バインダ繊維15の繊維束14に対する割合は、0.5〜5重量%の範囲が好ましい。バインダ繊維15の割合が0.5%より小さくなると、プリフォームを取り扱う際に形態安定性が不十分になる。また、バインダ繊維15の割合が5%より大きくなると、そのプリフォームを使用した繊維強化複合材の物性に悪影響を与え易くなる。
【0023】
次に前記のように構成されたプリフォームの製造方法を説明する。プリフォームの製造方法は、巻き付けピッチ決定工程と、バインダ繊維巻き付け工程と、三次元ブレイディング製造工程と、賦形工程とを備えている。巻き付けピッチ決定工程では、一部が三次元ブレイディング11の表面に露出する状態で組織される組糸12となる糸条16の繊維束14に対するバインダ繊維15の巻き付けピッチを、組糸12が三次元ブレイディング11の表面に露出する部分12aの長さより大きく、かつ、バインダ繊維15が三次元ブレイディング11の内部側のみに位置する巻き付け状態となる特定ピッチに決定する。
【0024】
バインダ繊維巻き付け工程では、繊維束14に対してバインダ繊維15を巻き付けピッチ決定工程で決定された特定ピッチで巻き付けて糸条16を形成する。例えば、それぞれボビンに巻かれた状態の繊維束14及びバインダ繊維15を準備し、ボビンに巻かれた状態の繊維束14を別のボビンに巻き返す際に、バインダ繊維15をボビンから繰り出して繊維束14に対して特定ピッチの螺旋状に巻き付けながら別のボビンに巻き返す。
【0025】
三次元ブレイディング製造工程では、組糸12にはバインダ繊維15が特定ピッチで巻き付けられた糸条16を使用し、芯糸13にはバインダ繊維15が巻き付けられていない繊維束14を使用して三次元ブレイディング11が組織される。三次元ブレイディング装置として、例えば、特公平3−64619号公報、特公平4−13463号公報等に開示されている三次元ブレーダ(ロータ・キャリア方式三次元織物織機)が使用される。そして、組糸12にバインダ繊維15が特定ピッチで巻き付けられた糸条16を使用し、特定ピッチでバインダ繊維15が巻き付けられた部分が三次元ブレイディング11の内部側に位置するように組織することにより、バインダ繊維15が表面に露出しない組織の三次元ブレイディング11が製造される。
【0026】
賦形工程では、三次元ブレイディング製造工程で製造された三次元ブレイディング11が賦形型により加圧・加熱されて目的の形状に賦形される。賦形の際の加熱温度で、バインダ繊維15が軟化溶融されて繊維束14に融着される。その結果、形状保持性及び繊維束のほつれ防止性が付与されたプリフォームが得られる。
【0027】
プリフォームは、樹脂含浸硬化工程において熱硬化性樹脂が含浸硬化されて繊維強化複合材料が形成される。樹脂の含浸硬化は、例えば、RTM法で行われる。繊維強化複合材料のマトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が使用される。
【0028】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)プリフォームは連続繊維の繊維束からなる糸条で組織された三次元繊維構造体で構成され、一部の糸条は繊維束14の外側にバインダ繊維15が螺旋状に巻き付けられた糸条16で形成され、バインダ繊維15は、組糸12が三次元ブレイディング11の表面に露出する部分12aでは常に内部側に位置し、かつ繊維束14に融着している。したがって、プリフォームの形状保持性及び繊維束のほつれ防止性が付与される。また、バインダ繊維15はプリフォームの表面に現れないため、プリフォームを成形型内に配置して繊維強化複合材料を成形する際、マトリックス樹脂の硬化温度がバインダ繊維15の軟化点以上であっても、バインダ繊維15が成形型に貼り付くことによる脱型不良の発生を防止することができる。
【0029】
(2)三次元繊維構造体は三次元ブレイディング11であり、繊維束14の外側にバインダ繊維15が螺旋状に巻き付けられた糸条16が組糸12に使用され、バインダ繊維15の巻き付けピッチは、組糸12が三次元ブレイディング11の表面に露出する部分12aの長さより大きく、かつ、部分12aでバインダ繊維15が三次元ブレイディング11の内部側のみに位置する巻き付け状態となるように設定されている。即ち、三次元ブレイディング11の組糸12にはバインダ繊維15が螺旋状に巻き付けられた糸条16が使用されているが、バインダ繊維15の巻き付けピッチが特定のピッチであり、かつ特定の巻き付け状態に設定されているため、バインダ繊維15が三次元ブレイディング11の表面に露出することがない。
【0030】
(3)バインダ繊維15の巻き付けピッチは、繊維束14の全ての範囲において一定とせずに、組糸12が三次元ブレイディング11の表面に露出する部分12aに対応する部分のピッチが、組糸12が三次元ブレイディング11の表面に露出しない部分のピッチより大きく設定されている。したがって、バインダ繊維15の巻き付けピッチを繊維束14の全ての範囲において一定とする場合に比べて、バインダ繊維15の巻き付けピッチの決定の自由度が大きくなる。例えば、三次元ブレイディング11の表面に露出する部分12aにおける特定ピッチでその他の部分にもバインダ繊維15を巻き付けた場合には、バインダ繊維15の繊維束14に対する割合が小さくなり過ぎる場合が起こり得るが、三次元ブレイディング11の表面に露出する部分12aのピッチのみを大きくすれば充分なバインダ繊維15の量を確保することができる。
【0031】
(4)三次元ブレイディング11は芯糸13を有しているため、三次元ブレイディング11の形態保持性、特に芯糸13の配列方向への引っ張り力に対する形態保持性が向上する。
【0032】
(5)芯糸13にはバインダ繊維15が巻き付けられていない繊維束14が使用されるため、バインダ繊維15が巻き付けられた糸条16を使用する場合に比べて、製造コストが低くなる。なお、芯糸13は組糸12で挟まれているため、賦形の際に組糸12のバインダ繊維15が溶融すると、芯糸13の繊維束14もバインダ繊維15に融着されてほつれが抑制される。
【0033】
(6)プリフォームの製造方法は、一部が三次元ブレイディング11の表面に露出する状態で組織される組糸12となる糸条16のバインダ繊維15の巻き付けピッチを、組糸12が三次元ブレイディング11の表面に露出する部分12aでバインダ繊維15が三次元ブレイディング11の内部側のみに位置する巻き付け状態となる特定ピッチを決定する巻き付けピッチ決定工程を備えている。そして、バインダ繊維巻き付け工程でバインダ繊維15が前記特定ピッチで巻き付けられた糸条16を準備し、三次元ブレイディング製造工程ではバインダ繊維15が前記特定ピッチで巻き付けられた糸条16を組糸12に使用し、特定ピッチでバインダ繊維15が巻き付けられた部分が三次元ブレイディング11の内部側に位置するように組織して三次元ブレイディング11を製造する。その結果、バインダ繊維15が表面に露出しない組織の三次元ブレイディング11を製造することができる。
【0034】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば次のように構成してもよい。
○ プリフォームを構成する三次元ブレイディング11は、全ての組糸12が三次元ブレイディング11の厚さ方向の両端及び幅方向の両端で折り返すものに限らない。例えば、図3に示すように、組糸12が最外層又は最内層の芯糸層のみを貫通して折り返すように組織されたものと、2層の芯糸層を貫通して折り返すように組織されたものとからなるように組織されたものとしてもよい。この構成では一部の組糸12は三次元ブレイディング11の表面で折り返す部分が存在しない状態になる。このような組糸12はバインダ繊維15の巻き付けピッチは自由になる。なお、バインダ繊維15の図示を省略している。
【0035】
○ バインダ繊維15の巻き付けピッチを繊維束14の全ての範囲において一定(等ピッチ)としてもよい。しかし、この場合、組糸12が三次元ブレイディング11の厚さ方向の両端で折り返す構成では、芯糸層を奇数層とする必要がある。なぜならば、図4(a)に示すように、芯糸層が奇数層であれば、巻き付けピッチが等ピッチでもバインダ繊維15は三次元ブレイディング11の表面に露出しない。しかし、図4(b)に示すように、芯糸層が偶数層の場合は、巻き付けピッチが等ピッチではバインダ繊維15の一部が三次元ブレイディング11の表面に露出する状態になる。なお、図4(a),(b)においては一本の組糸12についてのみ組糸12の糸条16を構成する繊維束14及びバインダ繊維15を図示し、他の組糸12についてはそれらの図示を省略している。
【0036】
○ 三次元ブレイディング11を構成する組糸12及び芯糸13の全てに、繊維束14にバインダ繊維15が巻き付けられた糸条16を使用してもよい。
○ 芯糸層と組糸層とが交互に配置された三次元ブレイディング11において、芯糸13にのみ繊維束14にバインダ繊維15が巻き付けられた糸条16を使用し、組糸12にはバインダ繊維15が巻き付けられていない繊維束14を使用してもよい。芯糸層は組糸層で挟まれているため、賦形の際に芯糸13のバインダ繊維15が溶融すると、組糸12の繊維束14もバインダ繊維15に融着されてほつれが抑制される。
【0037】
○ 三次元ブレイディング11は、芯糸層と組糸層とが交互に積層された構成に限らず、芯糸層と組糸層が交互に積層された部分と、組糸層が連続して積層された部分とが混在する構成としてもよい。また、三次元ブレイディング11を組糸12のみで組織された構成としてもよい。
【0038】
○ 三次元ブレイディング11を構成する組糸12にバインダ繊維15が巻き付けられた糸条16を使用する場合、半分の組糸12にはバインダ繊維15が巻き付けられた糸条16を使用し、半分の組糸12にはバインダ繊維15が巻き付けられていない繊維束14を使用する。そして、バインダ繊維15が巻き付けられていない繊維束14と、バインダ繊維15が巻き付けられた糸条16とが均等に配置される状態で三次元ブレイディング11を組織する。この構成においては、組糸12の半分にバインダ繊維15が巻き付けられていない繊維束14を使用しても、賦形の際に他の組糸12のバインダ繊維15が溶融することにより、その溶融したバインダ繊維15に、バインダ繊維15が巻き付けられていない繊維束14が融着されてほつれが抑制される。
【0039】
○ プリフォームは三次元繊維構造体で構成されていればよく、三次元ブレイディング11に限らず、例えば、多層織物で構成してもよい。多層織物としては二重織りを構成するように配列された経糸及び緯糸で織られた織り組織が複数層に配置され、その織り組織を構成する隣接する緯糸の間を通過するように、かつ織物の厚さ方向に折り返すように配列された結合糸で複数層の織り組織が結合されているものが挙げられる。そして、経糸、緯糸及び結合糸のうち、繊維束14の外側にバインダ繊維15が巻き付けられた糸条16が使用される糸は、糸条16が多層織物の外面に露出する部分においてはバインダ繊維15が多層織物の外面に露出しないようにバインダ繊維15の巻き付けピッチが設定される。
【0040】
○ 繊維束14は炭素繊維製に限らない。例えば、ガラス繊維やセラミック繊維等の無機繊維、あるいは、アラミド繊維、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の高強度の有機繊維等を使用してもよく、要求性能に応じて適宜選択される。例えば、プリフォームに対する剛性・強度の要求性能が高い場合は、炭素繊維が好ましい。繊維束14に安価なガラス繊維を用いると低コストとなる。
【0041】
○ バインダ繊維15は、三次元繊維構造体を賦形型により加熱・加圧して賦形する際の加熱温度により繊維束14と融着可能な軟化溶融可能であればよい。バインダ繊維をエンジニアリングプラスチック(エンプラ)製やスーパーエンプラ製とした場合はプリフォームの靭性が向上する。
【0042】
○ 繊維束14にバインダ繊維15が巻き付けられた糸条16は、プリフォームが賦形されるときに初めて軟化溶融可能な温度以上に加熱されるのではなく、繊維束14に対してバインダ繊維15が巻き付けられて形成された糸条16をボビンに巻き取る前に加熱して、バインダ繊維15が繊維束14に融着した状態で糸条16を巻き取ってもよい。この場合、組糸12を三次元ブレイディング11に組織する際にバインダ繊維15の巻き付けピッチが変化したり、繊維束14がほつれたりすることを防止できる。
【0043】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項1に記載の発明において、前記三次元繊維構造体は芯糸を有する三次元ブレイディングであり、前記芯糸にのみバインダ繊維が螺旋状に巻き付けられた糸条が使用されている。
【0044】
(2)請求項2に記載の発明において、前記バインダ繊維の巻き付けピッチは前記糸条が前記三次元ブレイディングの表面に露出する部分に対応する部分のピッチが、前記糸条が前記三次元ブレイディングの表面に露出しない部分のピッチより大きく設定されている。
【0045】
(3)請求項2に記載の発明において、前記三次元ブレイディングの組糸は、三次元ブレイディングの表面のみで折り返すものと、少なくとも一部が三次元ブレイディングの内部で折り返すものとを含んでいる。
【符号の説明】
【0046】
11…三次元ブレイディング、12…組糸、12a…部分、13…芯糸、14…繊維束、15…バインダ繊維、16…糸条。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化複合材料のプリフォームであって、前記プリフォームは連続繊維の繊維束からなる糸条で組織された三次元繊維構造体で構成され、前記糸条の少なくとも一部は前記繊維束の外側にバインダ繊維が螺旋状に巻き付けられて形成され、前記糸条が前記三次元繊維構造体の表面に露出する部分では前記バインダ繊維は前記三次元繊維構造体の内部側にのみ位置し、かつ前記繊維束に融着していることを特徴とする繊維強化複合材料のプリフォーム。
【請求項2】
前記三次元繊維構造体は三次元ブレイディングであり、前記バインダ繊維が螺旋状に巻き付けられた糸条が組糸に使用され、前記バインダ繊維の巻き付けピッチは前記組糸が前記三次元ブレイディングの表面に露出する部分の長さより大きく、かつ、前記バインダ繊維が前記三次元ブレイディングの内部側にのみ位置する巻き付け状態となるように設定されている請求項1に記載の繊維強化複合材料のプリフォーム。
【請求項3】
前記三次元ブレイディングは芯糸を有し、組糸にのみ前記バインダ繊維が巻き付けられた糸条が使用されている請求項2に記載の繊維強化複合材料のプリフォーム。
【請求項4】
連続繊維からなる繊維束で組織されるとともに少なくとも一部の繊維束には外側にバインダ繊維が螺旋状に巻き付けられた糸条が使用されている三次元繊維構造体で構成された繊維強化複合材料のプリフォームの製造方法であって、
一部が前記三次元繊維構造体としての三次元ブレイディングの表面に露出する状態で組織される組糸となる前記糸条の前記バインダ繊維の巻き付けピッチを、前記組糸が前記三次元ブレイディングの表面に露出する部分の長さより大きく、かつ、前記バインダ繊維が前記三次元ブレイディングの内部側にのみ位置する巻き付け状態となる特定ピッチに決定する巻き付けピッチ決定工程と、
前記バインダ繊維が前記特定ピッチで巻き付けられた前記糸条を準備するバインダ繊維巻き付け工程と、
前記バインダ繊維が前記特定ピッチで巻き付けられた前記糸条を組糸に使用して前記バインダ繊維が表面に露出しない組織の三次元ブレイディングを製造する三次元ブレイディング製造工程と
を備えている繊維強化複合材料のプリフォームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−73402(P2011−73402A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229841(P2009−229841)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】