説明

繊維複合構造部材の処理装置及び繊維複合構造部材の処理方法

繊維複合構造部材102の表面部112の上に配置された未硬化繊維層104を繊維複合構造部材に連結する連結装置100を提供する。連結装置は圧力クッション390を備え、圧力クッション390は、表面部より上に配置される圧力キャップ120,308と、圧力キャップの外周縁部107に圧密に連結された圧密キャップマット106とを備え、圧力キャップ及びキャップマットにより限定された圧力領域を形成する。連結装置は、圧力領域にキャップマットを繊維層に押付ける過圧を導入する圧力導入手段302をさらに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維複合構造部材、特に、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)からつくられた構造部材の処理方法に関する。さらに、本発明は、未硬化繊維層を繊維複合構造部材に連結する装置に関する。
【0002】
本発明は、任意の繊維複合構造部材に適用可能であるが、航空機構造物の炭素繊維強化プラスチック部品に関する以下の問題を、より詳細に説明する。
【背景技術】
【0003】
航空機の部品は、重量を低減するために、繊維複合材料、特に、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)からつくられることが益々多くなっている。航空機部品は、硬化された樹脂マトリクス、特に、エポキシ樹脂マトリクスにより互いに結合された繊維レイアップの複数の層から成る構造部材を備える。従来の方法に従ってこのような部品を製造するためには、含浸された繊維レイアップの複数の層が積層装置に配置される。次いで、樹脂マトリクスが、例えば、高温及び高圧にさらされることにより硬化される。
【0004】
従来の方法によれば、部品が、圧密フォイルのバッグに密閉され、このバッグの内部が真空ポンプにより減圧される。次いで、このように密閉された部品がオートクレーブ内に入れられ、高圧にさらされる。
【0005】
公開されている特許文献1は、繊維複合部品の製造方法を記載しており、この方法において、膨張エレメントが複合材料と共に、閉鎖可能な容器内に入れられる。容器は閉鎖され、膨張エレメントが過圧されて、複合材料を容器の外壁に押し付ける。
【0006】
このような繊維複合部品に、例えば、欠陥の修正や、損傷の修復や、部品の修正等の修正作業を行う場合、従来の作業プロセスにおいては、部品の処理される面の上に、予備含浸された繊維層(プリプレグ)を、接着テープにより固定し、例えば真空バッグ等の圧密膜により覆う。この膜の下の密閉された領域を減圧し、この部品がオートクレーブ内に入れられ、硬化のために高圧にさらされる。
【0007】
しかし、局部的に限定された小規模の修正作業であっても、部品全体を十分収容できる大きさのオートクレーブが設けられなければならないといった問題がある。このため、特に、例えば胴体シェルや胴体といった比較的大きい部品の補強エレメントのために、かなりのコストを要し、また、誤り修正作業が繰り返される場合にはコストが倍増する。当の十分に大きい寸法のオートクレーブが他の目的のために使用される場合、空き待ちにより時間が浪費される。別の欠点は、多くの場合、オートクレーブ内での硬化中に、部品が製造された装置に再挿入されなければならないことである。修正作業中は、装置は製造工程に利用できない。また、取り付けられたアセンブリの修正作業においては、これらのアセンブリが大きすぎる場合や、例えば高圧で損傷される電気設備などの部品を含む場合、オートクレーブに入れることができない。
【0008】
オートクレーブを用いずに繊維層を硬化する場合、また、それにより、膜の下に密閉された領域が減圧されるだけの場合、繊維層は、内圧と外圧との0.8バール〜0.9バールの最大圧力差の間にさらされる。これらの圧力状況下では、接着フィルムが細孔を形成しやすくなり、これが部品の安定性を悪化させ、また、品質チェックに必要な超音波検査においてエラー表示を生じさせる。
【0009】
特許文献2は、繊維複合構造部材の修復中に圧力を加えるラバースタンプを開示している。しかしながら、局部的に不均一な圧力分布により、このような機械的クランプエレメントは、通常、硬化される繊維層の厚さを不均一にし、修正作業の正確性を不十分とする。さらに、特許文献2は、ベル形状の上部を、修復位置を覆う膜の上に配置し、次いで、ベル形状の上部内の過圧を前記修復位置に加えることも開示している。しかしながら、この過圧が、ベル形状の上部と膜とを互いに遠ざけようとする力をもたらすため、ベル形状の上部と膜との間の接触ラインを確実にシールすることが困難である。さらに、この方法では、修復位置をフォイルや膜で覆うことが望ましくない場合に用いることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願US2007/0080481
【特許文献2】DE 40 19 744 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、オートクレーブを用いずに、材料の高品質性及び精度を保ちつつ、未硬化繊維層を繊維複合構造部材に連結することを可能にする、繊維複合構造部材の処理を確実に行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、この目的は、繊維複合構造部材の表面部上に配置された未硬化繊維層を前記繊維複合構造部材に連結する請求項1に記載の特徴を備える連結装置と、繊維複合構造部材を処理する請求項14に記載の特徴を含む処理方法とにより達成される。
【0013】
本発明の基本的な概念は、圧力クッションを形成するように互いに連結された圧力キャップと圧密キャップマットとにより限定された圧力領域内に高圧を与え、前記圧力により前記キャップマットを、前記繊維複合構造部材の表面部上に配置された前記繊維層に押し付けることである。これにより、前記膜を通して前記繊維層上に表面圧を加えることを可能にする。例えば、従来の方法においては、圧力は加熱プレス機内で未硬化繊維層上に加えられ、それにより繊維層を硬化させる。前記圧力は正確に均一に加えられるため、硬化後の前記繊維層は、均一な厚さが得られる。
【0014】
前記圧力キャップと前記キャップマットとが圧力クッションの形態で互いに連結されるため、前記圧力領域は、前記表面部の幾何学的形状に関係なく、且つ、前記表面部が気密フォイルや膜により覆われているかどうかに関係なく、確実にシールすることができる。さらに、前記連結装置は、前記圧力領域のシーリングを破断することなく、異なる表面部に移動できるため、取り扱いが容易で効率的である。
【0015】
これにより、例えばオートクレーブのような、繊維複合構造部材の全体を包囲するための容器が必要でなくなることが特に有利である。用いられる圧力キャップは、前記繊維層により覆われる前記表面部上に配置できる大きさを有するだけでよく、前記圧力キャップは、前記繊維層と同じ大きさか、或いは、繊維層よりもわずかに大きいだけである。この利点は、例えば、航空機の胴体、尾翼の厚板、フラップシェルといった大きい構造部材の細部が処理される場合に特に関係がある。取り付けられたアセンブリ上での作業も円滑に実行可能であり、処理部分の外部にある感圧部品が危険にさらされることもない。圧力キャップ、及び、必要に応じてカウンタベアリングを配置及び固定するための幾何学的な前提条件が満たされていればよい。
【0016】
本発明に係る処理方法は、連続生産に用いられる大型のオートクレーブや積層装置における、高価な、しばしば限定的にのみ有効な容量を必要としないため、非常に費用効率的であるだけでなく、大型オートクレーブ及び連続装置を使用する場合の無駄な時間が省かれるため、迅速である。本発明に係る連結装置は、小型で費用効率が高く、組立が容易であるため、このような複数の装置を1つの構造物の異なる処理位置にて、同時に、又は連続して用いることができ、それにより利点をさらに増大させる。また本発明は、例えば航空機の修理時のようにオートクレーブが利用可能でない場合であっても適用することができる。
【0017】
本発明の有利な実施形態及び改良点は、従属請求項に記載されている。
【0018】
本発明に係る連結装置の好適な実施形態によれば、前記圧力クッションの前記圧力キャップと前記キャップマットとが、弾性材料により一体的に形成される。これにより、前記圧力領域の非常に確実なシーリングを達成し、装置の製造を費用効率的にし、装置の操作を容易にする。
【0019】
好適な実施形態によれば、前記圧力クッションは、前記表面部を囲むラインに沿って繊維複合構造部材に接触するシーリング領域をさらに備える。これにより、前記キャップマットと前記繊維複合構造部材との間に気密シール領域を形成することができる。このシール領域は、前記表面部を気密の膜やフォイルで覆うことなく減圧させることができる。このため、さらに容易に操作することができる。
【0020】
好適な実施形態によれば、前記圧力クッションは、前記シーリング領域により取り囲まれた凹部をさらに備える。このように、前記凹部は、これらの繊維層が圧縮されていない状態で繊維複合構造部材の表面レベルより上に著しく隆起している場合であっても収容することができる。また、前記キャップマット、前記繊維複合構造部材及び前記シーリング領域により画成された低圧領域を減圧するための減圧手段が、さらに設けられることが好ましい。これにより、外部の減圧装置を用いる必要がなくなる。
【0021】
好適な実施形態によれば、前記キャップマットは半剛性の形態で設けられる。このようにすることで、前記圧力キャップと前記繊維複合構造部品との間の距離を保つことを可能にし、本発明の装置は、繊維複合構造部材の様々な形状の(例えば湾曲した)表面部に用いることができる。また、前記キャップマットは、その縁部が、その中央部よりも高い剛性を備えた半剛性形態で設けられていることが好ましい。このようにすることで、キャップマットは、その中央部においては前記表面部の形状に柔軟に適合する(例えば、前記繊維複合構造部材より上の膜と接触する)。一方、繊維複合構造部材と接触しない縁部の、より高い剛性が、前記過圧による前記縁部の膨張を防止する。
【0022】
また、前記キャップマットは、前記圧力領域における前記過圧下で、前記繊維複合構造部材の外形に沿って、前記膜が殆ど完全に前記外形に嵌合するように設けられることが好ましい。このようにすることで、繊維層は、例えば、階段状の表面部のように起伏の多い外形でも、この表面部とは逆の外形を有するキャップマットを作成することで連結することができる。このため、マットを、例えば航空機のスキンの内側のストリンガのような補剛外形の間に用いようとする場合には、マットをマスターモデルからキャスト成形することにより、側圧を加えることも可能である。
【0023】
また、好適な実施形態によれば、前記圧力キャップを前記キャップマットと共に前記表面部の上に押し付ける押圧アセンブリがさらに設けられていることが好ましい。このようにすることで、前記表面部への確実な押圧が実現する。また、前記押圧アセンブリは、前記処理される表面部とは反対側の面である前記繊維複合構造部材を支持するカウンタベアリングを備えることが好ましく、これにより、前記繊維複合構造部材に加えられる応力を低くした状態で、高い押圧が実現する。或いは、前記押圧アセンブリは、前記繊維複合構造部材の前記表面部付近の支持部上で支持する少なくとも1つのサクションカップをさらに備える。これにより、片側からのみアクセス可能な構造物の表面部を処理することができる。
【0024】
好適な実施形態によれば、前記圧力キャップは、前記外周縁部がその上に形成された剛性フレームを備える。このようにすることで、前記圧力キャップに特別な安定性をもたらす。また、前記剛性フレームの内側に柔軟なキャップマットが詰められていることが好ましい。このようにすることで、軽量で容易に変更可能な構造を得ることができるため、有利である。
【0025】
本発明に係る連結装置の好適な実施形態によれば、過圧を供給するコンプレッサがさらに設けられる。このようにすることで、圧力を発生させる外部手段を用いる必要がなく、これにより装置の輸送が容易になり、また装置の柔軟な使用が可能になる。
【0026】
好適な実施形態によれば、前記繊維層を昇温により硬化させる加熱エレメントがさらに設けられる。これは、前記繊維層がその特定の樹脂マトリクスにより要求される高温で硬化できるようにするものである。また、加熱エレメントは、熱が前記繊維層の真近で発生できるように、前記繊維層を覆う前記膜や前記キャップマットと共に1つの部品から構成されることが好ましい。
【0027】
好適な実施形態によれば、本発明に係る方法は、圧力クッションを前記繊維複合構造部材上に押し付けるステップをさらに備える。これにより、所与の表面圧を未硬化繊維層全体に確実に加えることが達成される。
【0028】
好適な実施形態によれば、前記繊維複合構造部材より上に配置されたキャップマットにより限定された低圧領域がシールされ且つ減圧されるステップをさらに備える。これにより、別個の気密のフォイルや膜を空気クッションの下に配置することを必要とせずに、前記膜の両面の圧力差を、さらに0.8バールから0.9バール上昇させることができるため、有利である。また、前記キャップマット下の、例えば孔隙における残留空気を吸い出すことにより処理の質をさらに高めることができる。また、前記過圧を、対応する値だけ低下させることができる。このようにすることで、例えば前記圧力キャップをより軽量に且つ容易に設計することができる。
【0029】
前記低圧領域のシーリングは、前記キャップマットを、前記圧力キャップにより前記繊維複合構造部材上に押し付けることにより実行されることが好ましい。このようにすることで、別個のシーリングステップが不要となる。
【0030】
好適な実施形態によれば、前記少なくとも1つの繊維層の硬化は、例えば前記膜に埋め込まれ、又は、追加で重畳されたマットに埋めこまれている加熱エレメントを用いて加熱により実行される。前記繊維層の硬化は、使用される樹脂マトリクスに応じて、125℃〜180℃の温度まで加熱されることが好ましい。
【0031】
好適な実施形態によれば、加えられる前記過圧は、少なくとも1バールである。このようにすることで、前記圧力領域と前記繊維層の領域との圧力差を、真空バッグのみを用いた場合に得られる圧力差よりも大きくすることができるためである。前記過圧は、前記圧力キャップ及び他の部品の比較的容易な設計を可能にする、1バール〜2バールであることが好ましい。
【0032】
以下に、本発明を、添付図面を参照しつつ、実施形態を用いてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】連結装置の断面の概略図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る連結装置の斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る連結装置の断面の概略図である。
【図3A】本発明の一実施形態に係る連結装置の断面の概略図である。
【図3B】本発明の一実施形態に係る連結装置の断面の概略図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る連結装置の側面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る連結装置の側面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る処理方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図面において、同一の参照符号は、特段の記載がない限り、同等の、又は機能的に同等の部品を示す。
【0035】
図1は、初期の未硬化繊維層104を繊維複合構造部材102に連結している状態における連結装置100の断面の概略図である。このために、繊維層104は表面部112上に配置されており、且つ、圧密膜(例えば真空フォイルやゴムマット)108により覆われている。膜108は、繊維複合構造部材102を完全に取り囲む真空バッグの外殻の一部により形成することもできる。
【0036】
圧力キャップ106,120は、表面部112より上に配置される。圧力キャップ106は、柔軟なキャップマット106から、例えばゴムマットで形成され、圧力キャップ120は剛性フレーム120から形成され、フレーム120は、キャップマット106の上面に、キャップマット106の縁部107に沿って延在する。フレーム120は、キャップマット106の縁部107と共に、繊維複合部品102の上に、前記フレームの外周に沿って規則的な距離を有して配置されたねじクランプにより押し付けられる。また、周縁に延在するガスケット116は、キャップマット106の縁部107と繊維複合構造部材102との間に、気密に閉鎖された圧力領域110がキャップマット106と膜108との間に形成されるように挿入される。
【0037】
しかしながら、膜108の上でガスケット116が膜108の全長にわたって延在する場合には、フレーム120の表面圧により過圧領域110のシーリングを可能にするだけでなく、低圧領域114のシーリングをも可能にするため、膜108を真空バッグや非接着性の膜に替えることができる。
【0038】
弁ノズル116は、キャップマット106に、圧力領域110に過圧を生じさせるために設置される。装置の初期動作中、圧力領域110は上記の方法でシールされる。次いで、弁ノズル116は、コンプレッサ(図示せず)に接続され、コンプレッサは、過圧が圧力領域110に蓄積されるように切り替える。
【0039】
矢印で示すように、過圧は境界に圧縮力を加える。図示されるように、キャップマット106に対して向けられている力は、キャップマット106をアーチ状に湾曲させる。膜108に対して向けられている力は、膜108、及び、膜108の下に取り囲まれる繊維層104を繊維複合部品102に押し付け、それにより繊維層104が圧縮される。
【0040】
有利なことには、膜108の下に取り囲まれている部分114が、例えば真空ポンプ304によりさらに減圧される。真空ポンプ304は、例えば、図示されるように、真空ホース122により低圧領域114に接続され、真空ホース122は、ダクト124によりキャップマット106を通して誘導される。或いは、真空ホースは、例えばガスケット116の付近や、弁ノズル118の付近等の異なる位置を通して導入される。また、例えば圧力領域110のシーリング前の作業のために真空ポンプ304を設ける場合には、ダクト124を設けなくてもよい。低圧領域の減圧により、約1.8〜2.2バールの有効硬化圧力が加えられる。有効硬化圧力は、低圧領域114における約0.8バールの低圧(大気圧よりも低い圧力)と、圧力領域110における約1〜2バールの過圧とから成る。
【0041】
図2は、圧力キャップ120,106を備える別の連結装置100の斜視図である。圧力キャップ120,106は、図示される連結装置100の動作状態において、繊維複合構造部材102の表面部112よりも上に配置される。圧力キャップ120,106は、キャップカバーとしてのゴムキャップマット106と、例えばスチールやアルミニウムからつくられた剛性フレーム120とから成り、フレーム120は、フレーム120と繊維複合部品102との間のゴムマットの縁部107を押し潰すように複数のねじクランプ200を用いてゴムマット106を押圧する。例えばフレーム120はキャップマット106に接着してしっかりと連結することができる。図示される配置においては、フレーム120とキャップマット106とが別々の部品として形成できるよう、ねじクランプ200の圧力はあらかじめキャップマット106にしっかりと連結される。
【0042】
フレーム120を保持しているねじクランプ200は、バー202により担持される。バー202は、繊維複合構造部材102の下側にて支持される。(その様子はここでは図示せず。)
【0043】
図3は、本発明の一実施形態に係る連結装置の断面の概略図である。図示される動作状態では、図1と同様、初期には未硬化繊維層104が繊維複合部品102の表面部の上に配置されており、また、膜108により覆われている。膜108と繊維複合エレメント102とが低圧室114を取り囲んでおり、膜108と繊維複合エレメント102との間に位置する低圧室114は、真空ポンプ304により減圧される。
【0044】
このように準備された繊維複合部品102の表面部の上に、剛性圧力キャップ308を備えた圧力クッション390が配置され、圧力キャップ308の下側において、固定エレメント310、周縁ガスケット116、及びフレーム120によりキャップマット106が連結される。この連結は、前記キャップマットが圧力キャップ308のプレートと協働して、気密に閉鎖され且つ恒久的に固定された圧力領域110を圧力クッション390の内側に取り囲むように行われる。コンプレッサ302により、圧力領域110に圧力導入ノズル118を介して過圧される。電気加熱エレメント306は、キャップマット106の外側又は内側に配置されるか、或いは、キャップマット106内に埋め込まれる。加熱エレメントは、繊維層104を硬化するために加熱される。
【0045】
装置100の動作において、低圧領域114は真空ポンプ304により減圧される。圧力領域110では、矢印により示される過圧がコンプレッサ302により加えられ、この過圧によりキャップマット106を膨張させる。ねじクランプ200(又は他の装置、例えばこの目的を達成する圧力スピンドルや圧力シリンダ)が適切な方法で調節されると、過圧はキャップマット106を膜108により覆われた繊維層104に押し付け、繊維層を圧縮する。加熱エレメント306は、繊維層104の最終的な硬化のために作動する。
【0046】
図3Aは、さらなる実施形態に係る連結装置の図である。この実施形態は、圧力キャップ308とキャップマット106が、例えばゴムのような弾性材料により一体的に形成されるという点で図3の実施形態とは異なる。すなわち、圧力領域110を構成する圧力クッション390は単一の部品で形成され、これにより連結装置を提供するコストを削減し、操作を非常に容易にする。圧力クッション390は、非使用時の状態では平坦で中空のマット形態を呈し、この中空マットの内側に位置する圧力領域110が収縮するように形成される。このため、圧力クッション390を効率的に保管することができる。
【0047】
図3Bは、さらなる実施形態に係る連結装置の図である。この実施形態では、図3Aに係る実施形態と同様、圧力キャップ308及びキャップマット106を備えた圧力クッション390は、例えばゴムのような弾性材料により一体的に形成されている。さらに、圧力クッション390はシーリング領域392を備え、シーリング領域392は、連結装置の使用中に、表面部112を取り囲む外周に沿って繊維複合構造部材102に接触する。シーリング領域392の存在により、表面部112を覆う圧密膜を別個に設けることなく、繊維層104の位置で低圧領域114を形成することができる。低圧領域114が形成される位置において、圧力クッションは浅い凹部398を備えている。減圧ダクト394は、低圧領域114から圧力クッション390の外周まで延在する。これにより、圧力クッション390が繊維複合構造部材102上に押し付けられた後、低圧領域114を真空ポンプ304により減圧することが可能となる。シーリング性能を高めるため、表面部112を取り囲む外周に沿って延在しているガスケット396(より柔軟な材料からつくられている)がシーリング領域に設けられている。
【0048】
図4は、本発明の一実施形態に係る連結装置の側面図である。この実施形態において、キャップマット106(図3と同様)は、圧力キャップ308に恒久的に連結されて一体的な圧力クッション390を構成し、この一体的な圧力クッション390は、バー202により支持される。バー202は、圧力キャップ308をキャップマット106とともに処理する繊維複合構造部材102の表面部112上に押し付けることを可能にする。この手段により、圧力キャップ308とキャップマット106との間の全体にかかる過圧が、表面部に間接的に加えられる。
【0049】
バー202はC字状の形状を有し、バー202の圧力キャップとは反対側の端部にカウンタベアリング400を有する。カウンタベアリング400は、繊維複合構造部材102を、処理される表面部112とは反対側の裏面402で支持するのに適した外形を有する。例として示される繊維複合構造部材102は、その裏面にカウンタベアリング400のキャビティに対応して嵌まり込む多数のストリンガ406を有する。高さ調節部404は、カウンタベアリングの高さを繊維複合構造部材102の厚さに適合させることを可能にし、また、キャップマット106の所望の表面圧力に適合させることを可能にする。
【0050】
カウンタベアリング400と同様、キャップマット106についても、圧力分布を改善し、キャップマット106の伸縮可能性が最適となるように、処理される表面部112の外形に応じて設計することができる。このようなキャップマット106は、例えば対応する形状を有するマスターパターン上で製造される。
【0051】
図5は、本発明の一実施形態に係る連結装置の側面図であり、この実施形態も、圧力キャップ308及びキャップマット106から一体ユニットとして構成された圧力クッション390を備える。また、圧力クッション390は、処理される繊維複合構造部材102の表面部112より上において、バー202により保持されている。この実施形態においては、バー202は繊維複合構造部材102の表面の支持部502上において、処理される表面部112付近に配置されたサクションカップ500により支持されている。
【0052】
図6は、例えば上記の連結装置のいずれか1つにより実行可能な、本発明の一実施形態に係る繊維複合構造部材の処理方法を示すフローチャートである。
【0053】
この方法では、第1のステップ600において、未硬化繊維層が繊維複合構造部材の表面部上に配置される。次いで、ステップ602において、繊維層が、例えば1回限り使用可能な真空フォイルや再利用可能なゴムマットのような圧密膜により覆われる。そして、ステップ614において、膜及び繊維複合構造部材により画成された低圧領域がシールされる。次いで、ステップ616において低圧領域が減圧される。
【0054】
さらに、ステップ604において、圧力キャップ及び圧密キャップマットを備える圧力クッションが表面部よりも上に配置される。圧密キャップマットは、圧力キャップの外周縁部に、キャップマットが圧力キャップと共に圧力領域を限定するように圧密に連結される。圧力キャップ604及び膜602の配置は、圧力キャップの一部領域やキャップマットの一部領域(例えば、圧力キャップの縁部やキャップマットの中央)が繊維複合構造部材に押し付けられるように圧力キャップを繊維複合構造部材に押圧する。
【0055】
さらに、ステップ608において、膜を繊維層に押し付ける過圧が圧力領域にて発生する。ステップ606及びステップ608を本発明による方法の最初に実行することも可能である。これは、例えば圧力クッションに圧縮空気などの圧力媒体を予め充填することにより行われる。
【0056】
圧力キャップ604の配置と過圧の発生ステップ608との協働により、圧力キャップは、キャップマットと共に膜で覆われた繊維複合構造部材にキャップマットの一部分(例えばキャップマットの中央部)を繊維複合構造部材に押し付けるように押圧する612。
【0057】
ステップ616における低圧領域の減圧と過圧の発生により、約1.8バール〜2.8バールの有効硬化圧力が加えられる。この圧力は、低圧領域における大気圧よりも低い約0.8バールの低圧と、圧力領域における約1バール〜2バールの過圧とから成る。
【0058】
ステップ602及びステップ614に替わる別の方法として、キャップマット上に設けられたシール領域を繊維複合構造部材に押し付けることをステップ608と共に行うことで低圧領域をシールすることも可能である。このようにすることで、得られる低圧領域はキャップマットと繊維複合構造部材とにより画成される。この場合においては、ステップ616をステップ608の後に実行してもよい。
【0059】
最終ステップ610において、繊維層は、例えば加熱エレメントによる加熱により硬化される。加熱エレメントは膜やキャップマットと一体化することができ、或いは、膜やキャップマットに取り付けることもできる。
【0060】
本発明は、好適な実施形態を用いて説明してきたが、これらの実施形態に限定されることはなく、様々に変更可能である。
【0061】
例えば、未硬化繊維層を異なるタイプの構造部材及び部品に連結することもできる。従って、上記の方法により、繊維ガラス補強プラスチックの層をアルミニウムから成る部品に連結することが可能である。さらに、繊維層の代わりに、例えば粒状物のような異なるタイプの材料を用いることができる。また、剛性エレメントを、基盤構造部材に、埋め込み接着フィルム層で連結することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
100 連結装置
102 繊維複合構造部材
104 繊維層
106 キャップマット
107 縁部
108 圧密膜
110 圧力領域
112 表面部
114 低圧領域
116 ガスケット
118 圧力導入手段
120 フレーム
200 ねじクランプ
202 バー
300 中間部
302 コンプレッサ
304 真空ポンプ
306 加熱エレメント
308 キャッププレート
310 固定エレメント
390 圧力クッション
392 シーリング領域
394 減圧ダクト
396 ガスケット
398 凹部
400 カウンタベアリング
402 裏面
404 高さ調節部
406 ストリンガ
500 真空キャップ
502 支持部
600 繊維層の配置
602 繊維層の被覆
604 圧力キャップの配置
608 過圧の発生
610 繊維層の硬化
612 圧力キャップの押圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面部(112)よりも上に配置される圧力キャップ(120,380)、及び、前記圧力キャップ(120,308)の外周縁部(107)に圧密に連結された圧密キャップマット(106)を備え、それにより、前記圧力キャップ(120,308)と前記キャップマット(106)とにより限定された圧力領域を形成する圧力クッション(390)と、
前記圧力領域に過圧を導入する圧力導入手段(118)と、
前記過圧により前記キャップマット(106)を繊維層(104)に押し付けるように前記圧力クッション(390)を繊維複合構造部材(102)上に押し付ける押圧アセンブリ(200,400,500)と、を備え、
前記押圧アセンブリ(200,400,500)は、前記表面部(112)とは反対側の面(402)である前記繊維複合構造部材(102)を支持するカウンタベアリング(400)を備える、繊維複合構造部材(102)の表面部(112)上に配置された未硬化繊維層(104)を繊維複合構造部材に連結する連結装置(100)。
【請求項2】
前記圧力クッション(390)の前記圧力キャップ(380)と前記キャップマット(106)とが、弾性材料により一体的に形成されることを特徴とする請求項1に記載の連結装置。
【請求項3】
前記圧力クッション(390)は、前記表面部(112)を囲むラインに沿って前記繊維複合構造部材(102)に接触するシーリング領域(392)をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の連結装置。
【請求項4】
前記圧力クッション(390)は、前記シーリング領域により取り囲まれた凹部(398)をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の連結装置。
【請求項5】
前記キャップマット(106)、前記繊維複合構造部材(102)及び前記シーリング領域(392)により画成された低圧領域(114)を減圧する減圧手段(304)がさらに設けられることを特徴とする請求項3又は4に記載の連結装置。
【請求項6】
前記キャップマット(106)は、その縁部(107)が、中央部(300)よりも高い剛性を備えた半剛性形態で設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の連結装置。
【請求項7】
前記キャップマット(106)は、前記圧力領域における過圧下で、前記繊維複合構造部材(102)の外形に沿って前記外形に殆ど完全に嵌合するように設けられていることを特徴とする請求項6に記載の連結装置。
【請求項8】
前記圧力キャップ(106,102,308)は、前記外周縁部(107)がその上に形成された剛性フレーム(120)を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の連結装置。
【請求項9】
前記過圧を供給するコンプレッサ(302)がさらに設けられることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の連結装置。
【請求項10】
前記繊維層(104)を昇温により硬化させる加熱エレメント(306)がさらに設けられることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の連結装置。
【請求項11】
前記加熱エレメント(306)は、前記キャップマット(106)と一体的に形成されることを特徴とする請求項9に記載の連結装置。
【請求項12】
少なくとも1つの未硬化繊維層(104)を繊維複合構造部材(102)の表面部上に配置させるステップ(600)と、
圧力キャップ(106,120,308)、及び、前記圧力キャップと共に圧力領域を限定するように前記圧力キャップ(106,120,308)の外周縁部(107)に圧密に連結される圧密キャップマット(106)を備える圧力クッション(390)とを、前記表面部(112)より上に配置させるステップ(604)と、
圧力領域(110)に過圧を発生させるステップ(608)と、
前記繊維複合構造部材(102)を、前記繊維複合構造部材(102)の、前記表面部(112)に対向する側面(402)で支持した状態で、前記過圧が前記キャップマット(106)を少なくとも1つの前記繊維層(104)に対して押し付けるように、前記圧力クッション(390)を前記繊維複合構造部材(102)の上に押圧するステップ(612)と、
少なくとも1つの前記繊維層(104)を硬化させるステップ(610)と、を備える繊維複合構造部材(102)の処理方法。
【請求項13】
少なくとも1つの前記繊維層(104)を前記キャップマット(106)により覆うステップ(602)と、
前記キャップマット(106)と前記繊維複合構造部材(102)とにより限定された低圧領域(114)をシーリングするステップ(614)と、
前記低圧領域(114)を減圧するステップ(616)と、をさらに備えることを特徴とする請求項12に記載の処理方法。
【請求項14】
前記低圧領域(114)をシーリングする前記ステップ(614)は、前記キャップマット(106)を前記圧力キャップ(106,120,308)により前記繊維複合構造部材(102)上に押し付けることにより実行されることを特徴とする請求項13に記載の処理方法。
【請求項15】
少なくとも1つの前記繊維層(104)を硬化させるステップ(610)は、前記繊維層(104)の樹脂マトリクスに応じて、特に125℃〜180℃の温度に前記繊維層(104)を加熱することにより実行されることを特徴とする請求項12から14のいずれかに記載の処理方法。
【請求項16】
加えられる前記過圧(608)は、大気圧よりも少なくとも1バール高い圧力であることを特徴とする請求項12から15のいずれかに記載の処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−528899(P2010−528899A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510807(P2010−510807)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057010
【国際公開番号】WO2008/148850
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(504467484)エアバス・オペレーションズ・ゲーエムベーハー (268)
【Fターム(参考)】