説明

耐食導電被覆材料及びその用途

【課題】有機電解に使用しても有機物による消耗がなく、電極表面で効率良く目的物を生成でき、長期間安定的に高電導性を保持できる耐食導電被覆材料を提供すること。また、ヨウ素等に代表される腐食性物質、酸化性物質の存在雰囲気下での使用においても長時間耐えうる、安価で信頼性に優れた耐食導電被覆材料を提供すること。
【解決手段】電極基体上に、中間層として白金族金属層及び/またはその酸化物層が形成され、その上層に電極触媒物質としてπ共役系導電性高分子層が形成されていることを特徴とする耐食導電被覆材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性かつ導電性に優れ、高耐久性である耐食導電被覆材料に関するものであり、より詳しくは、酸素発生を伴う電解工程、特に有機物を電解酸化するための陽極、あるいは腐食性の電解質を具備した色素増感型太陽電池向けの電極、又は、腐食環境下に曝される固体高分子型燃料電池用セパレータ等を用途とする耐食導電被覆材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電解用電極の例を挙げ、背景技術を説明する。
【0003】
従来の有機電解用電極としては、水系で用いるものとしては主に酸素過電圧の高い貴金属やカーボンが使用されており、また、非プロトン性の有機溶媒中では耐食性の面から、主に白金が用いられている。
【0004】
しかし、白金や金などは電解中に溶解し消耗する上に、非常に高価であり、工業的に不利である。また、カーボン電極においては、陽極として機能させた場合に酸化され易く消耗が激しいため寿命が短く、長期信頼性に欠けるという問題点を有している。
【0005】
そこで、塩素酸製造用電極などで広く用いられている高耐食性のチタン等の電極基体上に、白金族の金属酸化物を含有する触媒被膜を熱分解法により形成した不溶性金属電極が知られている。しかし、この金属電極は熱分解法により触媒層を形成するため、触媒層に多数のクラックやピンホールを生じやすい。このクラックやピンホールなどから有機物が浸透すると、触媒層とチタン基体界面に酸化チタン層の成長を促進させ、電極が不導体化され、反応電流効率の低下を招き、あるいは触媒層の剥離が生じ、電極が早期に寿命を迎えるという問題点を有している。
【0006】
上記高耐久性と高電流効率とを両立すべく、電極表面を改質する方法として、電析浴中に疎水性物質の粒子を共存、溶解させながら、電極物質を電析させ、それらの粒子が電析層に取り込まれてなる複合材料層を形成し、電極とする方法が提案されている。このようにして作製された疎水性電極上では、有機分子が電極表面に吸着されやすく、結果的に電極表面上の有機物の濃度が高くなることになり、電流効率が向上する。しかし、電析法においては、電極触媒となる貴金属種によっては電析が困難なものもある。また、疎水性物質と触媒物質の組成比の制御が難しいという問題点も抱えている。
【0007】
一方、電析法ではなく、疎水性物質、触媒物質、バインダーを混合し、成形することで種々の触媒物質と疎水性物質とを任意の配合比に制御する方法があるが、この方法で作製した電極は機械的強度の点で問題を抱えている。加えて、各物質を均一に混合することが容易ではなく、疎水性能にも限界がある。
【0008】
従って、従来の有機電解用電極においては、長電極寿命と高反応電流効率との両立という観点から不十分であり、該両特性を兼ね備え、かつ安価で生産性に優れる電極材料が要望されている。
【0009】
また、色素増感太陽電池用電極に求められる性能としては、前記両特性を兼ね備えたものであり、すなわち、チタニア極側で励起された電子を効率よく伝達する良好な導電性や、直射日光下の高温下における耐久性などが挙げられる。また、一般に色素増感太陽電池の電解質には酸化還元対としてヨウ素が混合されているが、該ヨウ素は腐食性が非常に強いため、電極材料には高い耐食性が求められる。
【0010】
安価な金属基体を用いた色素増感太陽電池用電極材料は若干の事例を除きほとんど提案されていない。例えば非特許文献1に開示されているものは、耐熱性とフレキシブル性を兼備することを主眼としており、ステンレス基体上にケイ素酸化物薄膜を形成し、その上から導電性金属酸化物であるITOを被覆することで耐食性を持たせているものの、実用的な耐久性不足と材料自身の高電気抵抗により、得られる太陽電池特性が大幅に低下するという問題点がある。そのため、一般的には、ヨウ素により腐食しないITO、FTOなどの導電性金属酸化物により被覆したガラス基体電極が用いられている。又、特に対極側の電極として、酸化還元対の酸化体を還元する触媒作用を有し、かつ耐食性を有する白金を被覆した電極が用いられている。
【0011】
このような金属酸化物被覆電極には大型の設備が必要であるなど製造コストが高いという問題点があり、加えて電極の電導度も不足しているため、特に実用的な面積では大幅に性能が低下してしまうという問題点があった。また、白金被覆電極においても、材料コストが高いという問題点があり、又、水あるいは酸素存在下電解質溶媒として一般的に用いられている有機溶媒に溶解することが知られており、その使用は安定性の面からも問題があった。従って、依然としてより安価な製造コストとプロセスで作製でき、かつ良好な導電性と高い耐食性を有する色素増感太陽電池用電極材料が求められている。
【0012】
以上、有機電解合成用電極や色素増感太陽電池用電極に関する従来技術を説明したが、耐食導電被覆材料に関しては、本出願人による特許文献1が開示されている。該特許文献には金属基体に導電性中間層が形成された後、π共役系導電性高分子層が形成されてなる耐食導電被覆材料が開示されているが、導電性中間層中に含まれる絶縁性の樹脂成分により、材料自身の電気抵抗が高くなりやすい問題点を抱えていた。さらに、導電性中間層は汎用金属との密着性が不十分であり、長時間経過とともに徐々に導電性が失われるという問題もあり、さらなる特性の向上が求められている。
【0013】
【特許文献1】特開2006−167925号公報
【非特許文献1】Man Gu Kang,外4名,「A 4.2% efficient flexible dye−sensitized TiO2 solar cells using stainless steel substrate」,Solar Energy Materials & Solar Cells,2006年,90,p.574−581
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
有機電解に使用しても有機物による消耗がなく、電極表面で効率良く目的物を生成でき、長期間安定的に高電導性を保持できる耐食導電被覆材料を提供することを目的とする。また、ヨウ素等に代表される腐食性物質、酸化性物質の存在雰囲気下での使用においても長時間耐えうる、安価で信頼性に優れた耐食導電被覆材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0016】
(1)基体上に、白金族金属層及び/またはその酸化物層からなる中間層が形成され、その上層にπ共役系導電性高分子層が形成されていることを特徴とする耐食導電被覆材料。
【0017】
(2)前記基体が、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、アルミニウム、鉄からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属基体及び/又はそれらの合金であることを特徴とする前記(1)に記載の耐食導電被覆材料。
【0018】
(3)前記白金族金属層及び/またはその酸化物層からなる中間層が、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金からなる群から選ばれる少なくとも一つの白金族金属及び/またはその酸化物を含むことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の耐食導電被覆材料。
【0019】
(4)前記白金族金属層及び/またはその酸化物層が、
含白金族金属有機化合物のアルコール溶液からなる塗布液を塗布、乾燥、焼成してなる白金族金属層及び/またはその酸化物層であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかにに記載の耐食導電被覆材料。
【0020】
(5)前記π共役系導電性高分子層が、ポリピロール又はその誘導体、ポリアニリン又はその誘導体、ポリチオフェン又はその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の耐食導電被覆材料。
【0021】
(6)用途が電解用電極であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の耐食導電被覆材料。
【0022】
(7)用途が色素増感型太陽電池用電極であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の耐食導電被覆材料。
【0023】
(8)用途が燃料電池用セパレータであることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の耐食導電被覆材料。
【0024】
(9)基体上に、含白金族金属有機化合物のアルコール溶液からなる塗布液を塗布、乾燥、焼成し、白金族金属層及び/またはその酸化物層を形成する工程、次いで、該層上においてπ共役系導電性高分子モノマーを重合し、π共役系導電性高分子層を前記白金族金属層及び/またはその酸化物層上に形成する工程を包含することを特徴とする耐食導電被覆材料の製造方法。
【0025】
(10)前記焼成工程が、350℃以上の熱処理による焼成工程であることを特徴とする前記(9)に記載の耐食導電被覆材料の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、特定の金属基体とπ共役系導電性高分子層との間に、熱処理によって形成された白金族金属層及び/またはその酸化物層が形成されることにより、金属基体とπ共役系導電性高分子層との密着性が向上し、導通性と耐食性が著しく改善する。
【0027】
すなわち、熱処理によって金属基体表層に形成される導電性金属酸化物層と白金族金属層及び/またはその酸化物層は、耐食性と導電性に優れ、π共役系導電性高分子膜と金属基材の導電経路を長期間にわたり良好に保持、維持することができる。この結果、該π共役系導電性高分子層が電極表層の触媒として有効に作用し、反応物と電極との接触効率が向上するため、特に有機電解などで高い電流効率を達成することが可能となる。
【0028】
さらに、色素増感型太陽電池用電極においては、電解質に対して電極との接触効率が向上し、発電特性を低下させることなく、量産性に優れる金属基材を用いることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の耐食導電被覆材料において、使用する基体は金属基体であり、特に陽極として使用した場合に、酸化性の使用環境に対する耐食性の観点からチタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、アルミ、鉄およびそれを主成分とする合金からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属基体であることが好ましい。この基体とπ共役系導電性高分子層との密着性を強化するため、事前に該基体表面を、ブラストやエッチング処理等を行い、表面積拡大、表面粗化を行ったものを使用することが好ましい。
【0030】
ブラストやエッチング処理後、表面の選択エッチングを行い清浄化及び活性化を行う。この清浄化における酸洗浄として代表的なものは、硫酸、塩酸及びフッ酸などであり、これらの液に前記金属基体を浸漬し表面の一部を溶解することにより活性化を行うことができる。
【0031】
次いで、活性化した金属基体表面に、中間層である白金族金属層及び/またはその酸化物層を形成する。該白金族金属層及び/またはその酸化物層は熱分解法やゾルゲル法などの方法で形成することが好ましい。
【0032】
前記白金族金属層及び/またはその酸化物層の成分としては、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金からなるであることが好ましく、各金属の有機金属化合物や塩化物をアルコールなどの溶媒に溶解させて塗布液を調製する。
【0033】
さらに、前記塗布液にチタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、アルミニウム、錫の有機金属化合物または塩化物を添加し伝導性と耐食性を高めることが好ましい。添加する割合として、前記塗布液中に、タンタル、アルミニウム、ニオブでは20〜48モル%、チタン、ジルコニウム、錫では5〜20モル%となるように調製することが好ましい。
【0034】
中間層を形成するための塗布方法として特に限定されず従来公知のものを使用することができ、スプレー塗布法、ディップ塗布法、刷毛塗法、スピンコート法などを用いることができる。
【0035】
塗布液を塗布した金属基体を50〜100℃で10分程度乾燥させた後、350℃以上、より好ましくは380〜550℃の範囲で熱処理を行う熱分解法により白金族金属層及び/またはその酸化物層を形成する。
【0036】
上記の熱分解工程では、金属基体も高温で熱するために、金属基体の最表に極薄い絶縁性の金属酸化物も同時に生成する。しかし、該金属酸化物層中へ、熱処理によって形成される白金族金属層及び/またはその酸化物粒子が熱拡散によって浸透する。すなわち、該金属酸化物層中に白金族金属層及び/またはその酸化物粒子が分散した混合層が形成され、該白金族金属層及び/またはその酸化物粒子を介することで、絶縁性の金属酸化物層に導電経路が形成される。この結果、金属基体と白金族金属層及び/またはその酸化物との良好な導電性が保持できるようになる。
【0037】
白金族金属層及び/またはその酸化物層、該金属酸化物層中に白金族金属層及び/またはその酸化物粒子が分散した混合層は、金属基体を保護する機能を持つ。しかし、塗布から熱分解の工程を複数回繰り返すと、該白金族金属層及び/またはその酸化物層の厚みが増し、基体金属表層の酸化物層も同時に成長するうえ、ピンホールやクラックが多く発生し耐食性導電被覆材料の導電性や耐食性に悪影響を及ぼしてしまう。逆に、薄すぎると基体金属への保護機能が低下してしまうため、導電性と保護機能が高く発現できるように厚みは5nm〜200nmの範囲が好ましいが、経済的観念から5nm〜100nmの範囲がより好ましい。
【0038】
次いで、金属基体および白金族金属層及び/またはその酸化物層の耐食性と導電性をさらに向上させ、かつ耐食性導電被覆材料の表面を疎水性にして有機化合物との接触を効率的にするために、π共役系導電性高分子被膜を形成させる。π共役系導電性高分子の被膜形成方法には、化学重合法、電解重合法、溶液法など多くの方法があるが、目的とするπ共役系導電性高分子の種類やその形態によって適切な方法を選択できる。
【0039】
本発明に用いるπ共役系導電性高分子の種類としては、特に制限されないが、ポリピロール又はその誘導体、ポリアルキルチオフェン、ポリアルキレンジオキシチオフェン等のポリチオフェン又はその誘導体、ポリアニリン又はその誘導体が好適である。
【0040】
高い電気伝導性と腐食環境下から基体を保護するバリアー効果を大きく得るには、ポリピロールまたはその誘導体では電解重合法または溶液法が好適であり、ポリアルキルチオフェンまたはその誘導体では電解重合法または溶液法または化学重合法が好適であり、ポリアルキレンジオキシチオフェンまたはその誘導体では化学重合法が好適であり、ポリアニリンまたはその誘導体では電解重合法または溶液法が好適である。特に、電解重合法により形成されるπ共役系導電性高分子膜は、ドーピング率が高いために電気伝導度が高く、他の形成法に比べて配向性が高く緻密なπ共役系導電性高分子膜を容易に得ることができるので最も好適である。
【0041】
また、金属が腐食される環境下としては、硫酸水溶液などの酸性雰囲気だけではない。例えば、色素増感太陽電池では電解質であるヨウ素によって同様に酸化性雰囲気に、また燃料電池内の酸素極側では酸素ガスによって酸化性雰囲気となる。そのような環境下では、ある種のドーパントでは、π共役系導電性高分子の電気伝導性が失われる恐れが生じる。そのため、酸化性腐食環境下では、π共役系導電性高分子のドーパントであるアニオン化合物が耐酸化性に優れている必要がある。そのため、高い電気伝導度を発現させ、耐酸化性に優れ、かつ耐食性の高いπ共役系導電性高分子膜のドーパントとしては、スルホン酸基またはヘテロポリ酸基を有するアニオン化合物を用いるのが好適である。また化合物中のスルホン酸基またはヘテロポリ酸基の数は、特に限定されない。
【0042】
アニオン化合物の分子量が240未満である場合、すなわち分子が小さいと容易に脱ドーピング作用が生じ易く、π共役系導電性高分子の電気伝導性が失われてしまう。この現象を防ぐには、分子が大きいアニオン化合物が適しており、その分子量は240以上であることが好ましい。1つ以上のスルホン酸基またはヘテロポリ酸基を有し、分子量が240以上のアニオン化合物としては、具体的に、アルキルナフタレンスルホン酸イオン、リグニンスルホン酸イオン、モリブド燐酸イオン、タングスト燐酸イオンなどを例示することができる。また、このようなアニオン化合物を含有するπ共役系導電性高分子被膜は緻密となり、腐食環境と基体とを遮断するバリアー効果が大きく好適である。
【0043】
上述した、スルホン酸基またはヘテロポリ酸基を有し分子量が240以上のアニオン化合物をドーパントとするπ共役系導電性高分子膜の形成法としては、例えばポリピロール膜を成膜する場合には、単量体であるピロールと支持電解質であるアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムやモリブド燐酸テトラエチルアンモニウム等を水溶液中に溶解させ、白金族金属層及び/またはその酸化物層を形成した金属基体を陽極、ステンレス基体などを陰極として電解する電解重合法により、ポリピロール膜を得ることができる。ポリピロールやポリアニリンの成膜における電解重合法は、緻密で規則性の高い電気伝導度を有するπ共役系導電性高分子膜が得やすく、バリアー性に優れるために耐食性に優れる。
【0044】
化学重合法においては、基体表面上で目的とするπ共役系導電性高分子の単量体と酸化剤溶液を接触させることで、耐食性の高いπ共役系導電性高分子膜を形成することができる。例えばポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン被膜を形成する場合には、白金族金属層及び/またはその酸化物層を形成した金属基体上で、単量体である3,4−エチレンジオキシチオフェンと酸化剤であるナフトキノンスルホン酸鉄(III)を含むブタノール−水混合溶液を接触させることによって、ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン被膜を得ることができる。ポリチオフェンの成膜における化学重合法は、微細な粒子が緻密に充填されたπ共役系導電性高分子膜が得やすく、バリアー性に優れるために耐食性に優れる。
【0045】
溶液法においては、π共役系導電性高分子の単量体、酸化剤溶液、ドーパント溶液を接触させて重合させ、得られた重合物を乾燥後、有機溶媒に溶解させ塗布液とする。該塗布液を、白金族金属層及び/またはその酸化物層を形成した金属基体上に塗布、乾燥すれば目的の耐食性の高いπ共役系導電性高分子膜を形成することができる。例えば、3−ヘキシルチオフェンの被膜を形成する場合には、3−ヘキシルチオフェン、酸化剤であるペルオキソ二硫酸アンモニウム、ドーパントであるフェロセンスルホン酸ナトリウムをエタノール−水混合溶液中で溶解、攪拌しながら重合反応を進め、得られたポリ−3−ヘキシルチオフェンチオフェンを乾燥後にトルエンに溶解させることで塗布液を得ることができる。該塗布液を、導電性微粒子をエッチング孔内へ埋め込んだ金属基体上に塗布後乾燥させることでポリアルキルチオフェン膜を得ることができる。
【0046】
溶液法によるπ導電性高分子膜の形成法としては、従来周知の方法が利用でき、特に限定はされない。例えば、スクリーン印刷法、ディップコート法、ロールコート法、噴霧法、カーテンフローコート法、バーコート法、ドクターブレード法等、刷毛塗布法などがあり、簡便で生産性が高いディップコート法、刷毛塗布法が好ましい。
【0047】
上述のように、導電性高分子膜の形成は酸化反応により進行する。そのため、該導電性高分子形成時には金属基体表面は酸化雰囲気に晒されるために、なにも処理しない金属基体表層には絶縁性の基材由来の金属酸化物層が形成され、導電材料として働かなくなる。しかし、本発明では、焼成工程で形成された白金族金属層及び/またはその酸化物層、導電経路が形成された基体由来の酸化物層により、金属基体から耐食性導電被覆材料表面へ電子を伝える経路が形成される。そのため、導電性高分子膜形成時に導電性の金属酸化物層が形成され、導電材料として働かなくなることはなく、金属の持つ良好な電気特性を保持できる。
【0048】
以上のようにπ共役系導電性高分子膜を白金族金属層及び/またはその酸化物層上に被覆することで、導電性と耐食性を飛躍的に向上することができる。該白金族金属層及び/またはその酸化物層は非常に薄く、また島状に点在しているため導電性に劣る。しかしながら、π共役系導電性高分子膜で被覆されることにより材料全面が導電性を帯びることで導電性が向上し、かつ熱処理工程で生じたピンホールやクラックを該π共役系導電性高分子膜が覆うことで耐食性も向上するためである。
【0049】
また、あらかじめ基体にプレス加工等の曲げ加工、切削加工、エッチング加工等の機械加工後に、π共役系導電性高分子の形成工程を行うことによって、複雑な形状の基体形成時にπ共役系導電性高分子膜を損傷することなく、該π共役系導電性高分子膜の効果を確実に得ることができる。例えば、π共役系導電性高分子膜の形成に関し、上記のように加工後の基体を電極として電解重合を行えば、加工によって基体表面が凹凸状態にあっても、均一にπ共役系導電性高分子膜を形成することが可能となり、安定した性能を得ることができる。
【0050】
形成するπ共役系導電性高分子層の厚みは、0.001μm〜100μmが適当であるが、経済的観点から、0.01μm〜50μmがより好ましく、0.1μm〜35μmが最も好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は実施例によりなんら限定されるものではない。なお、本実施例中wt%とあるのは質量%を指す。
【0052】
(実施例1)
金属基体としてTi基材(JIS2種)を用いた。Ti基体は大きさが20×30mm、厚さが0.5mmの圧延材である。該基体に、ジルコンショットを用いたショットブラスト加工により、梨地仕上げを行った。次に、有機溶媒による脱脂処理後、3N塩酸中に30秒間浸漬させて酸化被膜除去を行い、Ti基体表面処理工程を終了した。
【0053】
三塩化イリジウム三水和物3.00g、チタニウムテトラ−n−ブトキシド0.51g、6N塩酸2ml、ブタノール45ml、アセチルアセトン3mlを混ぜて、窒素雰囲気下で3時間攪拌することで中間層用塗布液を調整した。表面処理工程を終了したTi基体をデッィプ法により塗布後、420℃で1時間の熱処理を行うことで、厚み90nmのIrO−TiO層および導電経路が形成されたTiO層を形成した。
【0054】
次に、該基体上に、電解重合法によってスルホン基を有する化合物をドーパントとして含むπ共役系導電性高分子膜を形成する。溶媒を純水とし、単量体としてピロール0.5mol/L、支持電解質として2,7−ナフタレンジスルホン酸ナトリウム0.30mol/Lを含む電解液を用いて、中間層を形成したTi基体を陽極、SUS304を陰極、電解重合時間は1時間、電流密度を1mA/cmとして電解重合を行い、25μm厚みのポリピロール膜を形成し、耐食導電被覆材料を合計10枚作製した。
【0055】
(実施例2)
金属基体としてTi基材(JIS2種)を用いた。Ti基体は大きさが20×30mm、厚さが0.5mmの圧延材である。該基体に、ジルコンショットを用いたショットブラスト加工により、梨地仕上げを行った。次に、有機溶媒による脱脂処理後、3N塩酸中に30秒間浸漬させて酸化被膜除去を行い、Ti基体表面処理工程を終了した。
【0056】
三塩化イリジウム三水和物2.82g、五塩化タンタル1.43g、12N塩酸10ml、ブタノール40mlを混ぜて、窒素雰囲気下で3時間攪拌することで中間層用塗布液を調整した。表面処理工程を終了したTi基体をデッィプ法により塗布後、420℃で1時間の熱処理を行うことで、厚み50nmのIrO−Ta層および導電経路が形成されたTiO層を形成した。
【0057】
次に、電解重合法によってヘテロポリ酸基を有する化合物をドーパントとして含むπ共役系導電性高分子膜を形成する。溶媒を純水とし、単量体としてピロール0.5mol/L、支持電解質としてケイタングステン酸0.30mol/Lを含む電解液を用いて、中間層を形成したTi基体を陽極、SUS304を陰極、電解重合時間は2時間、電流密度を0.25mA/cmとして電解重合を行い、18μm厚みのポリピロール膜を形成し、耐食導電被覆材料を合計10枚作製した。
【0058】
(実施例3)
金属基体としてNb基体を用いた。Nb基体は大きさが20×30mm、厚さが0.1mmの圧延材である。該基体に、ジルコンショットを用いたショットブラスト加工により、梨地仕上げを行った。次に、有機溶媒による脱脂処理後、1Nフッ酸中に1分間浸漬させて酸化被膜除去を行い、Nb基体表面処理工程を終了した。
【0059】
三塩化ルテニウムn水和物2.03g、チタニウムテトラ−n−ブトキシド0.34g、6N塩酸2ml、ブタノール45ml、アセチルアセトン3mlを混ぜて、窒素雰囲気下で8時間攪拌することで中間層用塗布液を調整した。表面処理工程を終了したNb基体をデッィプ法により塗布後、490℃で1時間の熱処理を行うことで、厚み80nmのRuO−TiO層および導電経路が形成されたNbO層を形成した。
【0060】
次に、電解重合法によってスルホン酸基を有する化合物をドーパントとして含む耐食性の高いπ共役系導電性高分子膜を形成する。溶媒を純水とし、単量体としてアニリン0.1mol/L、支持電解質としてポリビニルスルホン酸0.15mol/Lを含む電解液を用いて、Auを陰極、銀/塩化銀(飽和KCl)を参照電極、電極電解重合時間は1時間、電解電圧を0.5V(vs銀/塩化銀参照電極)として定電位電解重合を10分間行い、31μm厚みのポリアニリン膜を形成し、耐食導電被覆材料を合計10枚作製した。
【0061】
(参考例1)
実施例3において、π共役系導電性高分子膜を形成する工程において、支持電解質としてポリビニルカルボン酸を用いた以外は、同様に実施してポリアニリン膜を形成し、被覆材料を合計10枚作製した。
【0062】
(実施例4)
金属基体としてFe系基体であるSS330基体を用いた。SS330基体は大きさが20×30mm、厚さが0.1mmの圧延材である。該基体に、ジルコンショットを用いたショットブラスト加工により、梨地仕上げを行った。次に、有機溶媒による脱脂処理後、1Nフッ酸中に1分間浸漬させて酸化被膜除去を行い、SS330基体表面処理工程を終了した。
【0063】
三塩化ルテニウムn水和物2.03g、アルミニウムトリ−n−ブトキシド1.48g、6N塩酸2ml、ブタノール45ml、アセチルアセトン3mlを混ぜて、窒素雰囲気下で8時間攪拌することで中間層用塗布液を調整した。表面処理工程を終了したFe基体を刷毛塗法により塗布後、1%酸素を含有する窒素雰囲気において450℃で1時間の熱処理を行うことで、厚み80nmのRuO−Al層および導電経路が形成されたFe層を形成した。
【0064】
アニリン9.3gに水150gと濃塩酸10.1gを加え、温度0〜10℃に保ちながら、過硫酸アンモニウム22.8gを水40gに溶解した溶液を2時間で滴下した後、3時間攪拌した。その後、濃アンモニア水41gを1時間で滴下し、さらに5時間攪拌した後、ろ別し、水洗及びメタ ノール洗浄を繰り返した後、真空乾燥して銅色のポリアニリン8.3gを得た。得られた銅色のポリアニリンをメタノール200mlに分散し、ヒドラジン一水和物20gを加え、室温で15時間攪拌した後、ろ別し、水及びメタノールで洗浄し、真空乾燥して灰青色の可溶性ポリアニリン7.5gを得た。さらに、インジゴトリスルホン酸3.5wt%及びポリアニリン2.0wt%となるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、ドーパントを含むポリアニリン溶液を得た。
【0065】
次に、溶液法によって耐食性の高いπ共役系導電性高分子膜を形成する。先に調製したポリアニリン溶液中に、中間層を形成したSS330基体を浸漬し、温度150℃で10分間乾燥する工程を2回繰り返すことで、24μm厚みのポリアニリン膜を形成し、耐食導電被覆材料を合計10枚作製した。
【0066】
(参考例2)
金属基体としてNb基体を用いた。Nb基体は大きさが20×30mm、厚さが1mmの圧延材である。該基体に、ジルコンショットを用いたショットブラスト加工により、梨地仕上げを行った。次に、有機溶媒による脱脂処理後、1Nフッ酸中に1分間浸漬させて酸化被膜除去を行い、Nb基体表面処理工程を終了した。
【0067】
三塩化ルテニウムn水和物2.03g、アルミニウムトリ‐n‐ブトキシド1.48g、6N塩酸2ml、ブタノール45ml、アセチルアセトン3mlを混ぜて、窒素雰囲気下で8時間攪拌することで中間層用塗布液を調整した。表面処理工程を終了したNb基体を刷毛塗法により塗布後、450℃で1時間の熱処理を行うことで、厚み80nmのRuO−Al層および導電経路が形成されたNbO層を形成した。
【0068】
次に、化学重合法によってπ共役系導電性高分子であるポリアニリン膜を形成した。アニリン9.3gに水150gと濃塩酸10.1gを加え、温度0〜10℃に保ちながら、過硫酸アンモニウム22.8gを水40gに溶解した溶液を2時間で滴下した後、3時間攪拌した。その後、濃アンモニア水41gを1時間で滴下し、さらに5時間攪拌した後、ろ別し、水洗及びメタノール洗浄を繰り返した後、真空乾燥して銅色のポリアニリン8.3gを得た。得られた銅色のポリアニリンをメタノール200mlに分散し、ヒドラジン一水和物20gを加え、室温で15時間攪拌した後、ろ別し、水及びメタノールで洗浄し、真空乾燥して灰青色の可溶性ポリアニリン7.5gを得た。さらに、インジゴトリスルホン酸3.5wt%及びポリアニリン2.0wt%、ドデシルベンゼンスルホン酸1.0wt%となるようにトルエン溶媒に加え、ドーパントを含むポリアニリン分散液を得た。
【0069】
前述で調整されたポリアニリン分散液中に、中間層を形成したNb基体を浸漬し、温度150℃で5分間乾燥する工程を10回繰り返すことで、ポリアニリン膜を形成し、被覆材料を合計10枚作製した。
【0070】
(実施例5)
金属基体としてZr基材を用いた。Zr基体は大きさが20×30mm、厚さが0.1mmの圧延材である。該基体に、ジルコンショットを用いたショットブラスト加工により、梨地仕上げを行った。次に、有機溶媒による脱脂処理後、6N塩酸中に1分間浸漬させて酸化被膜除去を行い、Zr基体表面処理工程を終了した。
【0071】
塩化白金酸六水和物4.40g、四塩化すず五水和物0.53g、6N塩酸2ml、ブタノール40ml、シクロヘキサノール10mlを混ぜて、窒素雰囲気下で8時間攪拌することで中間層用塗布液を調整した。表面処理工程を終了したZr基体を刷毛塗法により塗布後、500℃で1時間の熱処理を行うことで、厚み75nmのPt−SnO層および導電経路が形成されたZrO層を形成した。
【0072】
続いて、pHが7に調整されたエタノール・水混合溶媒中に、3−ヘキシルチオフェン0.4mol/L、酸化剤およびドーパント剤として作用する2,6−アントラキノンジスルホン酸鉄(III)0.20mol/Lを氷浴温度下で6時間攪拌した。その溶液をろ過後、得られた粉末に対して減圧乾燥を行って完全に溶媒を除去し、その粉末をトルエン溶液に溶解させてポリ−3−ヘキシルチオフェン溶液を得た。
【0073】
次に、溶液法によって耐食性の高いπ共役系導電性高分子膜を形成する。先に調整した塗布液を噴霧法によって均一に中間層を形成したZr基体上に塗布後、70℃の乾燥機中でトルエンを除去する工程を繰り返し、15μm厚みのポリ−3−ヘキシルチオフェン膜を形成し、耐食導電被覆材料を10枚作製した。
【0074】
(参考例3)
実施例5において、中間層の熱処理温度を200℃にした以外は、同様に実施してポリチオフェン膜を形成し、被覆材料を合計10枚作製した。
【0075】
(実施例6)
金属基体としてTa基体を用いた。Ta基体は大きさが20×30mm、厚さが0.1mmの圧延材である。該基体に、ジルコンショットを用いたショットブラスト加工により、梨地仕上げを行った。次に、有機溶媒による脱脂処理後、1Nフッ酸中に1分間浸漬させて酸化被膜除去を行い、Ta基体表面処理工程を終了した。
【0076】
酢酸ロジウム1.99g、ペンタ−n−ブトキシニオブ0.46g、6N酢酸2ml、ブタノール40ml、アセチルアセトン8mlを混ぜて、窒素雰囲気下で24時間攪拌することで中間層用塗布液を調整した。表面処理工程を終了したTa基体をスピンコート法により塗布後、500℃で1時間の熱処理を行うことで、厚み47nmのRh−NbO層および導電経路が形成されたTaO層を形成した。
【0077】
次に、耐食性の高いπ共役系導電性高分子膜を化学重合法により形成する。中間層を形成したTa基体表面上に、単量体であるポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェンとドーパント剤であるポリスチレンスルホン酸テトラエチルアンモニウム(平均分子量100,000)を含むエタノール−水混合溶液を塗布後、酸化剤溶液である塩化鉄(III)水溶液を噴霧し、50℃で10分間乾燥する工程を繰り返し、厚みが21μmであるポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン膜を形成し、耐食導電被覆材料を10枚作製した。
【0078】
(参考例4)
実施例6において、中間層の形成温度を250℃、π共役系導電性高分子膜を形成する工程において、ドーパント剤としてスチレンスルホン酸テトラエチルアンモニウムを用いた以外は、同様に実施してポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン膜を形成し、被覆材料を合計10枚作製した。
【0079】
(実施例7)
金属基体としてAL7050基体を用いた。AL7050基体は大きさが20×30mm、厚さが1.0mmの圧延材である。該基体を、#120番の耐水研磨紙によって梨地仕上げを行った。次に、有機溶媒による脱脂処理後、0.1N塩酸中に1分間浸漬させて酸化被膜除去を行い、AL7050基体表面処理工程を終了した。
【0080】
パラジウムアセチルアセトナート2.83g、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド0.22g、ブタノール45ml、アセチルアセトン4.5ml、水0.5mlを混ぜて、窒素雰囲気下で80℃にて24時間攪拌することで中間層用塗布液を調整した。表面処理工程を終了したAL7050基体をスピンコート法により塗布後、1%酸素を含有する窒素雰囲気において390℃で10分間の熱処理を行うことで、厚み28nmのPd−ZrO層および導電経路が形成されたAl層を形成した。
【0081】
π共役系導電性高分子膜を化学重合法により形成する。中間層を形成したAL7050基体表面上で、単量体であるピロールと酸化剤である2,7−ナフタレンジスルホン酸鉄(III)を含む水溶液を塗布後、50℃で10分間乾燥する工程を繰り返し、厚みが3μmであるポリピロール膜を形成した。
【0082】
続いて、耐食性の高いπ共役系導電性高分子膜を電解重合法により形成する。溶媒を純水とし、単量体としてピロール0.5mol/L、支持電解質としてドデシルベンゼンスルホン酸0.30mol/Lを含む電解液を用いて、化学重合ポリピロールが被覆されている、AL7050基体を陽極、SUS304を陰極、電解重合時間は1時間、電流密度を1mA/cmとして電解重合を行い、厚みが18μmのポリピロール膜を形成し、耐食導電被覆材料を合計10枚作製した。
【0083】
(比較例1)
実施例1において、中間層を形成しなかった以外は、同様に実施してポリピロール膜を形成し、被覆材料を合計10枚作製した。
【0084】
(比較例2)
実施例2において、ヘキサブロモイリジウム酸ナトリウム0.055mol/dm、ホウ酸0.30mol/dm、シュウ酸ナトリウム0.30mol/dm、アンモニア水にてpH4に調整した、良温85℃のめっき液を用い、電流密度1.0mA/cmの条件下、表面処理工程を終えたTi基体上に厚み88nmのIrめっき層を形成した以外は、同様に実施してポリピロール膜を形成し、被覆材料を合計10枚作製した。
【0085】
(比較例3)
実施例7と同様にAL7050基体に表面処理を施した後に、中間層を市販のカーボンペースト剤により55nmのカーボン層を形成し、中間層を形成したAL7050基体を作製した。
【0086】
続いて、π共役系導電性高分子膜を化学重合法により形成する。中間層を形成したAL7050基体表面上で、単量体であるピロールと酸化剤である2,7−ナフタレンジスルホン酸鉄(III)を含む水溶液を塗布後、50℃で10分間乾燥する工程を繰り返し、厚みが27μmであるポリピロール膜を形成し、耐食導電被覆材料を合計10枚作製した。
【0087】
(各材料の用途評価)
1:有機電解用電極としての評価
このようにして作製した本発明にかかる耐食導電被覆材料および比較例で作製した材料に対して、電解用電極として作用させてクロロブロモフェノール誘導体を、アルゴンガスを電解液中にバブリングすることでアルゴン雰囲気にして電解酸化し、比較した(反応式1)。実施例および比較例で作製した耐食導電被覆材料を陽極、陰極には白金板、溶媒としてメタノール、支持電解質として過塩素酸リチウム、塩基性添加剤としてピリジン、基質濃度として0.5mMに調整された電解液を用い、100mA/cmの定電流電解にて通電量3.0F/molとなるように陽極酸化反応をバッチ方式で実施した。反応終了後、生成物をGC−MSにて分析し、電流効率を算出した結果を表1に示した。さらに比較のため、焼成法により作製した寸法安定性電極である白金電極を用いた場合についても表1に示した。さらに、実施例1〜3、比較例1〜2、参考例1にかかる耐食性導電被覆材料に対して、前述の電解試験を1000回実施し、各試験回数時における電流効率と電極間電圧を測定した結果を表2に示した。
【0088】
【化1】

R:(CHOAc
【0089】
2:色素増感太陽電池用電極としての評価
次に、作製した本発明にかかる耐食導電被覆材料と比較例で作製した材料に対して、太陽電池作動環境に近い模擬液である50℃に保持された4wt%Iおよびヨウ化物塩含有アセトニトリル溶液を用いて浸漬試験を30日間実施し、金属基体から模擬液中に溶出された金属イオン濃度をシーケンシャル形高周波プラズマ発光分析装置によって測定し、耐食性を比較した結果を表3に示す。また集電特性を図るために、図2に示した表面抵抗測定によって、初期表面抵抗と浸漬試験実施後表面処理抵抗の比較を行った結果を表4に示す。比較のため、本試験では基体がTiである膜厚2μm厚みの焼成白金電極を用いた場合についても示した。
【0090】
さらに、実施例4および参考例2における電極を対極として用いて色素増感太陽電池セルを作製した。さらに、実施例4および参考例2に対して、太陽電池作動環境に近い模擬液である50℃に保持された4wt%Iおよびヨウ化物塩含有アセトニトリル溶液を用いて浸漬試験を30日間実施後、同様にセルを作製し、浸漬試験前後における太陽電池特性の変化について評価した結果について表5に示す。
すなわち、透明導電膜付きの透明基体としてFTOガラス(日本板ガラス製25mm×50mm)を用い、その表面に二酸化チタンペースト(昭和電工製)をバーコーターで塗布し、乾燥後450℃で30分焼成してそのまま室温となるまで放置し、10μmの厚さの多孔質酸化チタン半導体電極を形成した。
【0091】
続いて色素吸着工程に移った。増感色素として、一般にN3dyeと呼ばれるビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ジイソチオシアネートルテニウム錯体を使用し、色素濃度0.5mmol/Lとなるよう調製したエタノール溶液中に、一旦150℃まで加熱した前記多孔質酸化チタン半導体電極を浸漬し、遮光下1晩静置した。その後エタノールにて余分な色素を洗浄してから風乾することで太陽電池の半導体電極を作製した。さらに、得られた半導体電極の酸化チタン投影面積が25mm2になるよう、半導体層を研削した。
【0092】
前記のように作製した半導体電極と、実施例4もしくは参考例2において作製した電極を対極として該半導体電極に対向するよう設置し、電解質を毛管現象にて両電極間に含浸させた。電解質としては、溶媒をメトキシアセトニル、還元剤としてヨウ化リチウム、酸化剤としてヨウ素、添加剤としてt−ブチルピリジン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドを含む溶液を用いた。
上記の太陽電池セルについて、5mm角の窓をつけた光照射面積規定用マスクを装着させた上で、光量100mW/cm2の擬似太陽光を照射して開放電圧(以下、「Voc」と略記する。)、短絡電流密度(以下、「Jsc」と略記する。)、形状因子(以下、「FF」と略記する。)、および光電変換効率を評価した。
「Voc」、「Jsc」、「FF」及び光電変換効率の各測定値については、より大きい値が太陽電池セルの性能として好ましいことを表す。
【0093】
3:固体高分子型燃料電池用セパレータとしての評価
さらに、実施例7および参考例1に記載の方法により中間層を形成後、プレス加工にてガス流路を形成し、ポリピロール膜を成膜させてセパレータを製造した。両極に触媒を担持した固体電解質膜、ガス拡散電極、前述のセパレータを用いて単電池を組み立て、燃料として高純度水素ガスおよび空気を用いて発電を行い、I−V特性を調べた。続いて、1000時間の連続発電試験を実行した後に同様にI−V特性を調べた結果を図1に示した。
【0094】
その表1の結果によれば、本発明にかかる各耐食性導電被覆材料は、有機電解酸化反応において従来から用いられてきた焼成法によるPt電極より高い電流効率を得ることができ、有機電解用電極として優れていることが認められた。さらに、同様に行った参考例2、比較例3では、π共役系導電性高分子が電解酸化反応中に脱落し、電解途中で電極として機能しなくなることが確認された。
【0095】
その表2によれば、本発明にかかる各耐食性導電被覆材料は、有機電解酸化反応において従来から用いられてきた焼成法によるPt電極より長い寿命を得られ、耐久性にも優れることがわかった。さらに、同様に行った比較例1では、中間層を設けずに電極として作用させたため、絶縁性の酸化被膜層が徐々に形成されることで電解電圧が上昇し、10Vに達し電極寿命となった。比較例2では、加熱処理を行わずに金属中間層を設けたため、徐々に金属中間層から導電性金属酸化物へと結晶構造が変化することにより歪みが生じ、最終的には中間層およびπ共役系導電性高分子膜が基体より脱落して電極寿命となった。参考例1では、π共役系導電性高分子膜中のドーパントが酸化性雰囲気によって破壊されてしまい、電解途中でπ共役系導電性高分子の導電性が消失してしまい、電極寿命となった。
【0096】
その表3の結果によれば、本発明にかかる各導電耐食被覆材料は、浸漬試験30日後においても全く変化することなく基体を保護し、色素増感太陽電池用途に必要な耐食特性に優れていることが認められた。これに対し、同様に浸漬試験を行った比較例1および比較例2では、熱処理による中間層が形成されていないために基体を腐食環境下から保護する機能が劣ることがわかった。参考例1では、π共役系導電性高分子膜中のドーパントが耐酸化性に劣るため該π共役系導電性高分子膜が破壊されることがわかった。参考例2では、π共役系導電性高分子膜の形成法が適切ではないためにヨウ素の浸透によって中間層および基体の腐食が進行した。参考例3、4では、中間層の形成温度が低いために白金族酸化物の結晶化が促進されず基材を腐食環境下から保護する機能が劣ることがわかった。比較例3では、π共役系導電性高分子膜が多孔質となり、該π共役系導電性高分子膜中のドーパントが電解液中に脱ドーピングし易く、さらに導電性中間層に用いたカーボンペースト層が電解液中のヨウ素によって破壊されたため、基体の腐食が最も進行した結果となった。また焼成白金電極では、ピンポールやクラックから徐々に電解液中のヨウ素が浸透し、基体のTiが腐食し、30日の試験終了後ではPt層の厚みも0.5μmとなり、Ptが溶解することがわかった。
【0097】
その表4の結果によれば、本発明にかかる各導電耐食被覆材料は、浸漬試験30日後においても全く変化することなく基体を保護し、色素増感太陽電池用途に必要な導電特性に優れていることが認められた。これに対し、同様に浸漬試験を行った比較例1では中間層が形成されていないため初期表面抵抗が高く、浸漬時間が長くなるにつれて徐々に表面抵抗が高くなる傾向が見られた。比較例2では中間層であるIrめっき層と基体との密着性が悪いために、浸漬時間が長くなるにつれて中間層が剥離し、導電性高分子膜にマイクロクラックが発生して表面抵抗が高くなる傾向が見られた。
参考例1では、π共役系導電性高分子膜中のドーパントが耐酸化性に劣るため該π共役系導電性高分子膜が破壊され、表面抵抗が非常に高くなった。参考例2では、徐々にπ共役系導電性高分子膜の脱落が生じ、ヨウ素の浸透によって中間層および基体の腐食が進行し、表面抵抗も高くなった。参考例3、4では中間層の形成温度が低いために、導電性経路が形成されず初期表面抵抗が非常に高かった。比較例3では、カーボンペースト層の抵抗が高いために初期抵抗が高く、ヨウ素の侵入とともに急激に表面抵抗が高くなる結果となった。
【0098】
表5の結果によれば、本発明における耐食導電被覆材料は、浸漬試験後30日においても良好な太陽電池特性を維持できていることが認められた。これに対し、同様に浸漬試験を行なった参考例2では、浸漬時間の経過とともに金属基体からπ共役系導電性高分子膜が剥離し、中間層および金属基体の溶解が始まるとともに、電解液との接触により短絡して発電が不可能になることが確認できた。
【0099】
図1によれば、実施例7のI−V特性曲線は良好な発電特性を示したが、比較例3では実施例7に比べて耐食導電被覆材料の抵抗が高いために、取り出せる電流密度が小さくなることがわかった。
また、1000時間の連続発電試験を実施後のI−V特性曲線を比較すると、実施例7において性能の劣化はほとんど見られず、耐食導電被覆材料が良好な集電性能を維持され、優れた発電特性を確認した。それに対して比較例3では、耐食導電被覆材料のアルミ基体が腐食して抵抗が高くなったうえに、溶解した金属イオンがプロトン伝導性電解質膜に悪影響を与えた結果、I−V特性の低下が見られ、耐食導電被覆材料として劣っていた。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の耐食導電被覆材料は、有機電解合成用電極、色素増感太陽電池用電極、燃料電池用金属セパレータを主たる用途とするが、電気接点、端子へ好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】実施例7および比較例3の作成法に従い製作したセパレータを用いた単電池の電池特性(I−V特性曲線)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、白金族金属層及び/またはその酸化物層からなる中間層が形成され、その上層にπ共役系導電性高分子層が形成されていることを特徴とする耐食導電被覆材料。
【請求項2】
前記基体が、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、アルミニウム、鉄からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属基体及び/又はそれらの合金であることを特徴とする請求項1に記載の耐食導電被覆材料。
【請求項3】
前記白金族金属層及び/またはその酸化物層からなる中間層が、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金からなる群から選ばれる少なくとも一つの白金族金属及び/またはその酸化物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の耐食導電被覆材料。
【請求項4】
前記白金族金属層及び/またはその酸化物層が、
含白金族金属有機化合物のアルコール溶液からなる塗布液を塗布、乾燥、焼成してなる白金族金属層及び/またはその酸化物層であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかにに記載の耐食導電被覆材料。
【請求項5】
前記π共役系導電性高分子層が、ポリピロール又はその誘導体、ポリアニリン又はその誘導体、ポリチオフェン又はその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の耐食導電被覆材料。
【請求項6】
用途が電解用電極であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の耐食導電被覆材料。
【請求項7】
用途が色素増感型太陽電池用電極であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の耐食導電被覆材料。
【請求項8】
用途が燃料電池用セパレータであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の耐食導電被覆材料。
【請求項9】
基体上に、含白金族金属有機化合物のアルコール溶液からなる塗布液を塗布、乾燥、焼成し、白金族金属層及び/またはその酸化物層を形成する工程、次いで、該層上においてπ共役系導電性高分子モノマーを重合し、π共役系導電性高分子層を前記白金族金属層及び/またはその酸化物層上に形成する工程を包含することを特徴とする耐食導電被覆材料の製造方法。
【請求項10】
前記焼成工程が、350℃以上の熱処理による焼成工程であることを特徴とする請求項9に記載の耐食導電被覆材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−266744(P2008−266744A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113482(P2007−113482)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】