説明

能動型振動制御装置

【課題】より安価且つ簡単な構成で、ナックル振動と、該ナックル振動に起因して車室内に発生するこもり音とを共に低減可能な能動型振動制御装置を提供する。
【解決手段】センサ22a〜22dは、ナックル30a〜30dでのナックル振動に基づく振動検出信号e1〜e4をECU20に出力する。前記ECU20の基準信号生成手段72は、エンジンパルスに基づいて基準信号x1〜x4を生成し、制御信号生成手段70a〜70dは、前記基準信号x1〜x4及び前記振動検出信号e1〜e4に基づいて制御信号y1〜y4を生成し、アクチュエータ24a〜24dに出力する。前記アクチュエータ24a〜24dは、前記制御信号y1〜y4に基づいて重錘26a〜26dと共に振動して前記ナックル30a〜30dの側部を加振する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の振動に起因して車室内に発生する騒音を低減させる能動型振動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の振動源から発生する振動に起因して車室内に発生する騒音(以下、こもり音ともいう。)を、当該車室内の乗員の耳位置近傍に配置されたマイクロフォンで検出し、前記検出したこもり音に基づく制御信号を生成し、前記生成された制御信号に基づく相殺音をスピーカから前記車室内に出力することにより、前記こもり音を低減させる能動型騒音制御装置が既に提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
ここで、振動源としてのエンジンやトランスミッションの駆動軸のトルク等の変動に起因して車軸に発生する振動(例えば、エンジンブレーキ又はオートマティックトランスミッションのロックアップに起因して車軸に発生するねじり振動)が車軸を軸支するナックル及びサスペンションを介して車体に伝達され、車体での振動に起因して車室内にこもり音が発生する場合に、能動型騒音制御装置は、こもり音に対する相殺音をスピーカから車室内に出力して、耳位置でのこもり音を低減させる。
【0004】
【特許文献1】特開平6−59688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1に開示されている能動型騒音制御装置において、車室内の全座席に対するこもり音の低減を図ろうとすれば、全座席に対応させてマイクロフォン及びスピーカを多数配置して、こもり音の検出箇所や相殺音の出力箇所を増やすと共に、検出箇所及び出力箇所の増加に応じて、制御信号を生成する能動型騒音制御装置内のECUの処理能力を高める必要がある。この結果、装置全体が大規模化して設置コストが高騰するという問題がある。
【0006】
また、前記のような能動型騒音制御装置は、専ら、車室内のこもり音を低減させる装置であるので、車軸でのねじり振動に起因したナックル、サスペンション及び車体での振動を制振することはできない。そこで、トランスミッションの駆動軸におけるトルク変動に起因した振動を低減させるためにトランスミッション内にダンパを配置することにより、車軸でのねじり振動を低減させることが考えられるが、部品点数が増加してコストや車両の重量が増加するだけでなく、トランスミッションの配置が制約されるという問題がある。なお、以下の説明では、車軸を介してナックルに伝達されるねじり振動を含む、該ナックルにて発生する振動をナックル振動と呼称する。
【0007】
本発明は、上述した問題を考慮してなされたものであり、より安価且つ簡単な構成で、ナックル振動と、該ナックル振動に起因して車室内に発生するこもり音とを共に低減可能な能動型振動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る能動型振動制御装置は、エンジンの如き振動源から発生する振動の周波数に基づく基準信号を生成する基準信号生成手段と、前記振動源に連結された車軸を軸支するナックルで生起されたナックル振動に基づいて振動検出信号を生成する振動検出手段と、前記基準信号及び前記振動検出信号に基づいて制御信号を生成する制御信号生成手段と、前記制御信号に基づいて前記ナックル振動を低減させるように前記ナックルを加振するナックル加振手段とを有することを特徴とする。
【0009】
上記した構成によれば、車軸からナックル及びサスペンションを経由して車体に至る振動伝達経路の略最上流に位置し且つ回転機能を伴わない車両部品であるナックルを、ナックル加振手段で直接制振することにより、車体におけるナックル振動を含む振動が低減され、この結果、該振動に起因して車室内に発生する騒音(こもり音)を低減させることができる。
【0010】
また、ナックルを直接制振するので、振動源としてのトランスミッション内にねじり振動を抑制するためのダンパを配置することが不要となり、該トランスミッションを小型化することが可能となる。
【0011】
さらに、基準信号生成手段は、ねじり振動の原因となる振動源での振動の周波数に基づいて前記基準信号を生成し、前記制御信号生成手段は、前記基準信号に基づいて前記制御信号を生成し、前記ナックル加振手段は、前記制御信号に基づいて前記ナックルを加振するので、前記周波数に対応したねじり振動を含むナックル振動を確実に低減させることができる。
【0012】
従って、車室内に配置されたマイクロフォン及びスピーカを利用してこもり音を低減する従来技術と比較して、本発明では、ナックルを直接制振することによって、より安価且つ簡単な構成でナックル振動及び車室内の全ての座席におけるこもり音を低減させることが可能となる。
【0013】
ここで、振動検出手段及びナックル加振手段を収容するケーシングがナックル近傍に配置されていることが好ましい。
【0014】
これにより、前記振動検出手段にてナックル振動を直接検出し、且つ前記ナックル加振手段にてナックルを直接制振することができるので、前記ナックル振動の検出や前記ナックルの制振を効率よく行うことが可能になるからである。
【0015】
また、前記ナックル加振手段は、前記車軸の径方向に沿って前記ナックルを加振するように前記ナックル近傍に配置され、又は、前記ナックル及び該ナックルに連結された車両部品の略重心に向かって前記ナックルを加振するように前記ナックル近傍に配置されていることが好ましい。
【0016】
これにより、ナックル加振手段からナックルに加振された振動(制御振動)における該車両の走行方向の制御振動成分によって、前記車軸でのねじり振動に基づく前記ナックルでの前記走行方向の振動を低減させることが可能となる。なお、ナックルに連結された車両部品とは、例えば、車輪、車軸をいう。
【0017】
さらに、振動検出手段は、ナックル加振手段近傍に配置され、あるいは、ナックル加振手段によるナックルの加振方向に沿って配置されることが好ましい。これにより、振動検出信号を精度よく生成することができるからである。
【0018】
またさらに、前記振動検出手段及び前記ナックル加振手段は、前記車両の走行方向に沿って配置されることが好ましい。これにより、前記ねじり振動に基づいて、前記走行方向に沿って発生する前記ナックルでの振動を確実に低減させることができる。
【0019】
上記した各発明において、さらに、重錘が前記ナックル加振手段と一体的に取り付けられていることが好ましい。
【0020】
これにより、ナックル加振手段による加振力と重錘による加振力とに基づいてナックルが加振されるので、前記ナックル振動を効率よく低減させることができるからである。
【0021】
また、上記した各発明において、前記制御信号生成手段は、前記基準信号に基づいて前記制御信号を生成する適応ノッチフィルタと、前記ナックル加振手段から前記振動検出手段までの振動伝達関数及び前記基準信号に基づいて参照信号を生成する参照信号生成手段と、前記振動検出信号及び前記参照信号に基づいて前記振動検出信号が最小となるように前記適応ノッチフィルタのフィルタ係数を更新するフィルタ係数更新手段とを有することが好ましい。これにより、前記ナックル振動を効率よく低減させることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、より安価且つ簡単な構成で、ナックル振動と、該ナックル振動に起因して車室内に発生するこもり音とを共に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る能動型振動制御装置について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0024】
図1は、本実施形態に係る能動型振動制御装置10を車両11に適用した概略ブロック図である。図2は、ドライブシャフト(車軸)34a〜34dを軸支するナックル30a〜30dに、能動型振動制御装置10を構成するセンサ(振動検出手段)(図1参照)22a〜22d及びアクチュエータ(ナックル加振手段)24a〜24dを収容するケーシング16a〜16dを配置した状態を示す車体12の模式的平面図である。図3は、図2のタイヤ14a、14c側からタイヤ14b、14d側を視たときのナックル30a〜30dに対するケーシング16a〜16dの配置を示した部分拡大側面図であり、説明を容易にするために、該ケーシング16a〜16dをセンサ22a〜22d及びアクチュエータ24a〜24dを囲曉するブロックで図示している。図4は、中心軸58に略直交する径方向の軸線56上にセンサ22a〜22d及びアクチュエータ24a〜24dを配置した状態を示す部分拡大側面図である。図5は、図1の能動型振動制御装置10の概略制御ブロック図である。
【0025】
なお、本実施形態では、代表的に、4WD(4輪駆動)の車両11に能動型振動制御装置10を適用した一例を示しているが、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)、FR(フロントエンジン・リアドライブ)、RR(リアエンジン・リアドライブ)又はMR(ミッドシップエンジン・リアドライブ)の車両にも、当該能動型振動制御装置10が適用可能であることは勿論である。
【0026】
本実施形態に係る能動型振動制御装置10は、図1〜図3及び図5に示すように、基本的には、ケーシング16a〜16d内に収容されたセンサ22a〜22d及びアクチュエータ24a〜24dと、ECU20と、電源18とを有する。この場合、前記各ケーシング16a〜16dは、それぞれ、タイヤ14a〜14d、ホイール15a〜15d及びブレーキ32a〜32d近傍に配置され且つドライブシャフト34a〜34dを軸支するナックル30a〜30dの側部(ナックル30a〜30dの後方側(図3の右側))に配置されている。
【0027】
なお、車両11前方側のタイヤ14a、14b及びホイール15a、15bは、ドライブシャフト34a、34bを介してエンジン28に接続されたトランスミッション29に連結され、後方側のタイヤ14c、14d及びホイール15c、15dは、ドライブシャフト34c、34d、ディファレンシャルギヤ31及びプロペラシャフト33を介して前記トランスミッション29に連結されている(図2参照)。
【0028】
ナックル30a〜30dは、図3に示すように、略中央部分にベアリング38が配置され、このベアリング38の貫通孔36にドライブシャフト34a〜34dが挿通されている。すなわち、前記ナックル30a〜30dは、前記ベアリング38を介してドライブシャフト34a〜34dを軸支している。また、ナックル30a〜30dには、前記中央部分から車両11上方に向かう第1突出部40と、前記中央部分から車両11後方(図3の右方向)に向かう第2突出部48と、前記中央部分から車両11下方に向かう第3突出部44とがそれぞれ形成されている。この場合、前記第1突出部40には、アッパーアーム(又はストラットダンパ)42が連結され、前記第2突出部48には、タイロッド50が連結され、前記第3突出部44には、ロアアーム46が連結されている。
【0029】
なお、本実施形態では、ケーシング16a〜16dは、前記第2突出部48と第3突出部44との間に配置されているが、第1突出部40と第2突出部48との間や、第1突出部40と第3突出部44との間にも配置することが可能である。
【0030】
ケーシング16a〜16d内に配置されたセンサ22a〜22dは、図3に示すように、アクチュエータ24a〜24d近傍に配置された加速度センサであり、ナックル30a〜30dに発生する振動(ナックル振動)に基づいて、振動検出信号(車両12の上下方向を示す軸線54に沿った加速度成分と、走行方向を示す軸線52に沿った加速度成分との2軸の加速度信号)e1〜e4(図5参照)を生成し、ECU20に出力する。
【0031】
なお、エンジンブレーキ又はオートマティックトランスミッション(トランスミッション29)のロックアップに起因して、エンジン28及びトランスミッション29(図2参照)の駆動軸にトルク変動が発生した場合、前記エンジン28のクランクシャフト、前記トランスミッション29(図2参照)の駆動軸及びドライブシャフト34a〜34dには、前記トルク変動に起因した振動(ねじり振動)が発生することがある。当該ねじり振動は、前記ドライブシャフト34a〜34dを軸支するナックル30a〜30dに伝達されるので、前記ナックル振動は、該ナックル30a〜30dに伝達される前記ねじり振動も含む振動である。
【0032】
ECU20は、振動源としてのエンジン28の駆動軸(クランクシャフト)の回転に同期した信号(エンジンパルス)の周波数に基づく調波の基準信号xを生成する基準信号生成手段72と、前記基準信号x及び前記振動検出信号e1〜e4に基づいて制御信号y1〜y4をアクチュエータ24a〜24dに出力する制御信号生成手段70a〜70dとで構成される。
【0033】
この場合、エンジン28に配置された図示しないホール素子は、例えば、クランクシャフトの回転に応じたパルスを前記エンジンパルスとして検出し、前記検出したエンジンパルスを基準信号生成手段72に出力する。ここで、車両11(図1参照)の走行時に前記エンジンブレーキが作動すると、前記クランクシャフトの回転速度が低下して該クランクシャフトのトルク変動が発生し、この結果、前記クランクシャフトにねじり振動が発生するので、前記エンジンパルスは、前記トルク変動、前記ねじり振動に応じたパルスとなる。さらに付言すれば、基準信号生成手段72で生成される基準信号xは、前記トルク変動に起因して前記クランクシャフト、トランスミッション29の駆動軸及びドライブシャフト34a〜34dに発生するねじり振動に対応した信号である。
【0034】
制御信号生成手段70a〜70d(図5参照)は、適応ノッチフィルタ74a〜74dと、参照信号生成手段76a〜76dと、フィルタ係数更新手段78a〜78dとで構成される。
【0035】
適応ノッチフィルタ74a〜74dは、基準信号生成手段72a〜72dから入力された基準信号x1〜x4及びフィルタ係数w1〜w4に基づいて、所定周波数の制御信号y1〜y4を生成しアクチュエータ24a〜24dに出力する。
【0036】
参照信号生成手段76a〜76dは、アクチュエータ24a〜24dからナックル30a〜30dを経由してセンサ22a〜22dに至るまでの振動伝達関数c1〜c4を有し、基準信号生成手段72a〜72dから入力された基準信号x1〜x4及び前記振動伝達関数c1〜c4に基づいて、所定周波数の参照信号r1〜r4を生成しフィルタ係数更新手段78a〜78dに出力する。
【0037】
フィルタ係数更新手段78a〜78dは、LMS(最小2乗法)アルゴリズム演算器から構成され、参照信号生成手段76a〜76dから入力された参照信号r1〜r4及びセンサ22a〜22dから入力された振動検出信号e1〜e4に基づいて、フィルタ係数w1〜w4の適応演算処理(前記振動検出信号e1〜e4が最小となるようなフィルタ係数w1〜w4を前記最小2乗法に基づき算出する演算処理)を行い、この演算結果に基づいて適応ノッチフィルタ74a〜74dの前記フィルタ係数w1〜w4を更新する。
【0038】
アクチュエータ24a〜24dは、例えば、図示しないソレノイドコイル、リニアモータ、積層型ピエゾアクチュエータ又は超磁歪素子アクチュエータで構成され、その可動部分は、前記制御信号y1〜y4の周波数で、且つセンサ22a〜22dで検出した前記ナックル振動に対して逆方向(逆位相)に振動し、この振動(制御振動)にてナックル30a〜30dの側部(図3参照)を加振する。
【0039】
この場合、アクチュエータ24a〜24dは、ドライブシャフト34a〜34dの中心軸58と略直交する径方向の軸線56に沿って配置されているので、前記可動部分は、前記軸線56に沿ってナックル30a〜30dを加振する。換言すれば、前記ナックル30a〜30dに対するアクチュエータ24a〜24dの加振方向は、前記軸線56に沿った方向となる。
【0040】
また、アクチュエータ24a〜24dには、軸線56に沿って重錘26a〜26dが連結されている。この場合、前記アクチュエータ24a〜24dの可動部分が前述した周波数で振動すれば、前記重錘26a〜26dも一体的に振動し、この結果、前記アクチュエータ24a〜24dによる加振力と前記重錘26a〜26dによる加振力とによって前記制御振動が増大する。
【0041】
さらに、電源18(図1参照)は、ECU20、センサ22a〜22d及びアクチュエータ24a〜24dに対して電力の供給を行う。ここで、図1では、電源18からセンサ22a〜22d及びアクチュエータ24a〜24dに対する電力の供給を示す矢印を省略している。
【0042】
なお、図3では、アクチュエータ24a〜24d近傍にセンサ22a〜22dを配置した状態を示しているが、図4に示すように、アクチュエータ24a〜24dによるナックル30a〜30dの略加振方向(軸線56)に沿って且つ前記ナックル30a〜30dの反対位置に配置することも可能である。
【0043】
本実施形態に係る能動型振動制御装置10は、以上のように構成されるものであり、次に、前記能動型振動制御装置10の作用効果について、図1〜図5を参照しながら説明する。
【0044】
車両11の走行時に、電源18からECU20、センサ22a〜22d及びアクチュエータ24a〜24dに電力が供給されている状態において、エンジンブレーキ(又はトランスミッション29のロックアップ)の作動に起因してエンジン28のクランクシャフト及びトランスミッション29の駆動軸にトルク変動が発生する。このトルク変動に起因して前記クランクシャフト、前記駆動軸及びドライブシャフト34a〜34dにねじり振動が発生し、前記ドライブシャフト34a〜34dを介して前記ねじり振動がナックル30a〜30dに伝達された場合に、センサ22a〜22dは、前記ねじり振動を含む前記ナックル振動に基づく振動検出信号e1〜e4を生成してECU20に出力する。
【0045】
一方、前記ホール素子は、エンジン28の駆動軸(クランクシャフト)の回転に応じたパルスを前記エンジンパルスとして検出し、前記検出したエンジンパルスを基準信号生成手段72に出力する。前記基準信号生成手段72は、入力された前記エンジンパルスの周波数に基づく調波の基準信号xを生成して適応ノッチフィルタ74a〜74d及び参照信号生成手段76a〜76dに出力する。
【0046】
適応ノッチフィルタ74a〜74dは、入力された前記基準信号x1〜x4及びフィルタ係数w1〜w4に基づいて、所定周波数の制御信号y1〜y4を生成しアクチュエータ24a〜24dに出力する。
【0047】
アクチュエータ24a〜24dは、制御信号y1〜y4の前記周波数にて、重錘26a〜26dと一体的に前記ナックル振動に対し逆方向(逆位相)に振動してナックル30a〜30dの側部を加振する。
【0048】
この場合、アクチュエータ24a〜24dからナックル30a〜30dに加えられる制御振動は、中心軸58に略直交する車両11の上下方向に沿った軸線54の制御振動成分と、該中心軸58及び前記軸線54に略直交する車両11の走行方向に沿った軸線52の制御振動成分とに分けることができるので、前記ナックル振動の軸線54方向に沿う加速度成分に応じたナックル振動成分と、軸線52方向に沿う加速度成分に応じたナックル振動成分とがそれぞれ低減される。
【0049】
一方、参照信号生成手段76a〜76dは、入力された基準信号x1〜x4及び振動伝達関数c1〜c4に基づいて、所定周波数の参照信号r1〜r4を生成しフィルタ係数更新手段78a〜78dに出力する。前記フィルタ係数更新手段78a〜78dは、入力された参照信号r1〜r4及び振動検出信号e1〜e4に基づいて、前記振動検出信号e1〜e4が最小となるようなフィルタ係数w1〜w4を演算して適応ノッチフィルタ74a〜74dのフィルタ係数w1〜w4を更新する。
【0050】
このように、本実施形態に係る能動型振動制御装置10によれば、エンジン28、トランスミッション29、ドライブシャフト34a〜34d、ナックル30a〜30d及びサスペンションを経由して車体12に至る振動伝達経路の略最上流に位置し且つ回転機能を伴わない車両部品である前記ナックル30a〜30dをアクチュエータ24a〜24dで直接制振することにより、車体12におけるナックル振動を含む振動が低減され、この結果、該振動に起因して車室内に発生するこもり音を低減させることができる。
【0051】
また、ナックル30a〜30dを直接制振するので、トランスミッション29内にねじり振動を抑制するためのダンパを配置することが不要となり、該トランスミッション29を小型化することが可能となる。
【0052】
さらに、基準信号生成手段72は、ドライブシャフト34〜34dでのねじり振動の原因となるエンジン28のクランクシャフトでのトルク変動(ねじり振動)に応じたエンジンパルスの周波数に基づいて基準信号x1〜x4を生成し、制御信号生成手段70a〜70dは、前記基準信号x1〜x4及び振動検出信号e1〜e4に基づいて制御信号y1〜y4を生成し、アクチュエータ24a〜24dは、前記制御信号y1〜y4に基づいてナックル30a〜30dを加振するので、前記周波数に対応したねじり振動を含むナックル振動を確実に低減させることができる。
【0053】
従って、前記車室内に配置されたマイクロフォン及びスピーカを利用してこもり音を低減させる従来技術と比較して、本実施形態では、ナックル30a〜30dを直接制振することによって、より安価且つ簡単な構成で前記ナックル振動及び車室内の全ての座席におけるこもり音を低減させることが可能となる。
【0054】
また、センサ22a〜22d及びアクチュエータ24a〜24dをケーシング16a〜16d内に収容してナックル30a〜30d側部に配置することにより、前記センサ22a〜22dにて前記ナックル振動を直接検出すると共に、前記アクチュエータ24a〜24dにて前記ナックル30a〜30dを直接制振することができるので、前記ナックル振動の検出(振動検出信号e1〜e4の生成)やナックル30a〜30dの制振を効率よく行うことが可能になる。
【0055】
また、アクチュエータ24a〜24dは、中心軸58に略直交する軸線56に沿って配置され、この軸線56に沿ってナックル30a〜30dを加振するので、該ナックル30a〜30dに加振された制御振動における該車両11の走行方向(軸線52)の制御振動成分によって、ドライブシャフト34〜34dでのねじり振動に基づく前記ナックル30a〜30dでの前記走行方向(軸線52)の振動を低減させることが可能となる。
【0056】
さらに、センサ22a〜22dは、アクチュエータ24a〜24d近傍に配置され、あるいは、前記アクチュエータ24a〜24dによるナックル30a〜30dの加振方向(軸線56の方向)に配置されているので、振動検出信号e1〜e4を精度よく生成することができる。
【0057】
またさらに、重錘26a〜26dがアクチュエータ24a〜24dと一体的に取り付けられていることにより、ナックル30a〜30dの加振の際に、前記アクチュエータ24a〜24dによる加振力と、前記重錘26a〜26dによる加振力とが合成されて前記ナックル30a〜30dが逆位相で加振されるので、前記ナックル振動を効率よく低減させることができる。
【0058】
さらにまた、制御信号生成手段70a〜70dを、適応ノッチフィルタ74a〜74dと参照信号生成手段76a〜76dとフィルタ係数更新手段78a〜78dとで構成すれば、前記フィルタ係数更新手段78a〜78dは、振動検出信号e1〜e4が最小となるように前記適応ノッチフィルタ74a〜74dのフィルタ係数w1〜w4を更新するので、ナックル振動を効率よく低減することが可能となる。
【0059】
また、上述した説明では、センサ22a〜22d及びアクチュエータ24a〜24dが軸線56上に配置されているが、車両11の走行方向(軸線52)に沿って配置すると好適である。すなわち、前記センサ22a〜22dは、前記軸線52に沿った振動成分に対応する振動検出信号e1〜e4を生成し、前記アクチュエータ24a〜24dは、ナックル30a〜30dに対して、前記振動検出信号e1〜e4に基づく制御振動を軸線52に沿って加振するので、該走行方向に発生する前記ねじり振動を含むナックル振動を確実に低減させることができるからである。
【0060】
さらに、上述した説明では、ドライブシャフト34a〜34dの中心軸58に略直交する軸線56に沿ってナックル30a〜30dを加振しているが、ナックル30a〜30d及び該ナックル30a〜30dに連結された車両部品(例えば、タイヤ14a〜14d、ホイール15a〜15d、ブレーキ32a〜32d、ドライブシャフト34a〜34d、ストラットダンパ42、ロアアーム46、タイロッド50)の略重心に向かってナックル30a〜30dを加振することも可能である。この場合でも、前記ナックル30a〜30dに加振された制御振動は、車両11の上下方向(軸線54)の制御振動成分と、該車両11の走行方向(軸線52)の制御振動成分とに分けることができるので、前記ナックル振動を低減させることが可能である。
【0061】
なお、本発明に係る能動型振動制御装置は、上述の実施形態に限らず、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本実施形態に係る能動型振動制御装置を車両に適用した概略ブロック図である。
【図2】ドライブシャフトを軸支するナックルにケーシングを配置した状態を示す車体の概略平面図である。
【図3】ナックルに対するケーシングとアクチュエータ及び重錘との配置状態を示した部分拡大側面図である。
【図4】アクチュエータ及びセンサをドライブシャフトに直交する軸線上に配置した状態を示す部分拡大側面図である。
【図5】図1の能動型振動制御装置の概略制御ブロック図である。
【符号の説明】
【0063】
10…能動型振動制御装置 11…車両
12…車体 16a〜16d…ケーシング
20…ECU 22a〜22d…センサ
24a〜24d…アクチュエータ 26a〜26d…重錘
28…エンジン 29…トランスミッション
30a〜30d…ナックル 34a〜34d…ドライブシャフト
52、54、56…軸線 58…中心軸
70a〜70d…制御信号生成手段 72a〜72d…基準信号生成手段
74a〜74d…適応ノッチフィルタ 76a〜76d…参照信号生成手段
78a〜78d…フィルタ係数更新手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの如き振動源から発生する振動の周波数に基づく基準信号を生成する基準信号生成手段と、
前記振動源に連結された車軸を軸支するナックルで生起されたナックル振動に基づいて振動検出信号を生成する振動検出手段と、
前記基準信号及び前記振動検出信号に基づいて制御信号を生成する制御信号生成手段と、
前記制御信号に基づいて前記ナックル振動を低減させるように前記ナックルを加振するナックル加振手段と、
を有する
ことを特徴とする能動型振動制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の能動型振動制御装置において、
前記振動検出手段及び前記ナックル加振手段を収容するケーシングが前記ナックル近傍に配置されている
ことを特徴とする能動型振動制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の能動型振動制御装置において、
前記ナックル加振手段は、前記車軸の略径方向に沿って前記ナックルを加振するように前記ナックル近傍に配置され、又は、前記ナックル及び該ナックルに連結された車両部品の略重心に向かって前記ナックルを加振するように前記ナックル近傍に配置されている
ことを特徴とする能動型振動制御装置。
【請求項4】
請求項3記載の能動型振動制御装置において、
前記振動検出手段は、前記ナックル加振手段近傍に配置され、あるいは、前記ナックル加振手段による前記ナックルの加振方向に沿って配置される
ことを特徴とする能動型振動制御装置。
【請求項5】
請求項4記載の能動型振動制御装置において、
前記振動検出手段及び前記ナックル加振手段は、前記車両の走行方向に沿って配置される
ことを特徴とする能動型振動制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の能動型振動制御装置において、
重錘が前記ナックル加振手段と一体的に取り付けられている
ことを特徴とする能動型振動制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の能動型振動制御装置において、
前記制御信号生成手段は、前記基準信号に基づいて前記制御信号を生成する適応ノッチフィルタと、前記ナックル加振手段から前記振動検出手段までの振動伝達関数及び前記基準信号に基づいて参照信号を生成する参照信号生成手段と、前記振動検出信号及び前記参照信号に基づいて前記振動検出信号が最小となるように前記適応ノッチフィルタのフィルタ係数を更新するフィルタ係数更新手段とを有する
ことを特徴とする能動型振動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−269158(P2007−269158A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96854(P2006−96854)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】