説明

自動二輪車のブレーキ制御装置

【課題】
車両挙動の一つである 走行時の変化する横Gを正確に検知し、転倒のおそれが高いと判断される挙動が不安定なとき、ライダーの意思如何によらず 前後輪のブレーキを作動させ 車両挙動の安定化に導く 転倒抑制のための自動二輪車の安全走行装置を提供する。
【解決手段】
自動二輪車の安全走行装置は、ハイブリッドセンサー20 に内蔵されるジャイロセンサー及び横Gセンサーから 車両挙動を判断するための条件を導き、車両のロール方向の変化がライダーのコントロールできる範囲内に常に収まるように 前後輪へのブレーキ制動を車両挙動に応じた配分を行い 不安定な状態から安定状態に遷移するようなブレーキ操作を ライダーになり変わりシステムが自動的にブレーキ補助を行う安全装置の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動二輪車 及び 車体が傾斜を伴う三輪車における 車両の挙動検出 方法 及びブレーキ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、走行中の二輪車及び三輪車において 車体が傾斜を伴う走行車両(以降、二輪車として包含して呼ぶ)の安全装置として、転倒の危険性をライダーに警報をする装置(例えば、特開平9−109967号広報等)や車体の傾斜角度に応じて乗員が掛けるブレーキ油圧の圧力上限を変更する装置(例えば、実開平7−11466号広報および特許 第2584587号 等)が存在していた。
しかしながら、ライダーへの警報だけでは、転倒防止の安全策として不十分なのは明らかである。 また、既存のABS装置に対し センサーを付加し傾斜角度の算出を行い 車両の走行速度から ブレーキ油圧のコントロール上限値を単に変更する方法 及び 車輪のスリップ率の算出を行い傾斜状態あわせ目標スリップ率を可変する方法では、 加減速に伴う荷重配分の変動、ライダー体重の変化による車両荷重の変化、傾斜走行状態における車両挙動が安定なのか不安定なのかを判断できる客観的基準が無いために、ライダーの意思を尊重することができないばかりか、ライダーによるブレーキの操作がないと機能しないため走行中に起きた車両挙動変化に応じて 自動的に車両を安定状態へ遷移することができなかった。
4輪車に比べ大きな荷重変化を伴う二輪車は 目まぐるしく変化する車両走行状態に対し 傾斜角度だけで追従する事は困難である。
【0003】
実際の走行では、左右スラロームや高速でコーナーを通過するような状況の場合 後輪だけでなく、前輪までも横すべりを起こしている場合もあり 傾斜角を検出するための横Gセンサーだけでは 実走行状態と停止時の傾斜角とは一致せず 車両挙動を正確に把握することは困難である。
【0004】
二輪車の走行時の技量は千差万別であり、転倒防止能力も運転技量に依存するものであり、運転経験の少ないライダーほど転倒の危険性に対する察知が遅れやすく、転倒を回避するための操作も 遅れたり 操作が粗くなったりして、転倒の危険性を助長させる要因になる。 ベテランライダーであっても 突然の飛び出しに対しては ブレーキと操舵操作・重心のバランスをとり 転倒回避することは難しいことであり 潜在的な問題点が存在している。
また、日本は高齢化社会の傾向であると云われており 高齢化に伴い環境への反応が悪くなっていき、適切な操作能力が低下していくことが知られている。 それは 運転経験の少ないライダー同様に遅い反応・荒い操作 が車両を不安定にする場合も少なくない。
一方、いくら運転経験を増しても傾斜限界は分り難く、傾斜限界付近を認識する為に傾斜角度をカーブ途中でさぐる様な傾斜操作を行うものであり、路面μが高い状態であれば 車体の一部(ステップにある金属製のバンクセンサー等)を路面に接地させることで車両の傾斜限界を認識したりする。
二輪車は車両構造上、倒れるという特徴を持っている。 一般的には、高速になるに従い安定し、低速になるに従い不安定となり、足を着かなければ通常倒立して停止することができない。 しかしながら、安定と言われる中高速走行時でさえも無理な操作・路面の急激な変化による車両挙動の変化に対して、二輪車は不安定となり最悪の場合転倒に至る可能性が存在している。
このような乗り物に対し、走行時の車両の挙動に対して 不安を少しでも低減することが出来るならばライダーは、安全に運転技量を身につけることができると同時に 操作に対して過度に慎重になることが不要になるため 過度な緊張から開放され周囲の状況にも配慮ができる余裕が生まれるため 安全に対する意識マージンが大幅に向上し 疲労も低減できる筈である。
二輪車は、その特徴である傾斜をコントロールして その先のカーブに合わせ車体を左右にロール(傾斜)させ 行きたい方向に曲がっていく。 時には、速度がカーブに対して過剰であったと感じられれば ブレーキによる制動などを加え スピード抑制しカーブを通過する。
【0005】
このことは、カーブ(旋回半径r)に合わせ 速度コントロールと傾斜コントロールの両方をライダーは感じとって 状態をフィードバックしてコントロールしている。
【0006】
このプロセスは、教習所の過程でもあるように、 知覚→認知→判断→操作 の一連の動作を繰り返すことで学び 運転を可能としている。
【0007】
実際のカーブを曲がる状況は、回転半径一定の一つのカーブあっても ライダーがイメージした走行ラインは無数に描けるものであり 加減速を伴うことでも旋回半径は時々刻々と変化するものであるため ライダーは複雑な状態をコントロールしていることになる。
【0008】
この複雑なコントロールをする人間の能力は、年齢を増す毎に低下傾向にあることが知られており 運転に必要な情報の90%以上は視覚に依存し、視覚機能の低下は 移動対象の知覚・認知に関係の深い動体視力や 距離判断を伴う空間認識に影響することが関係分野の研究が報告されている。
よって、高齢化社会を迎える背景にある日本では 機能低下を補う安全装置の必然性が潜在的に存在することが見てとれる。
今日では、ABSと呼ばれるシステムや コンバインドブレーキと呼ばれる前後連動ブレーキシステム が合体されたブレーキ装置 の登場により、直進走行時のブレーキによる車輪のロックを防ぐ制御システムにより直進のブレーキ安定性はかなり向上してきた。
しかしながら、走行中の傾斜角変化に応じてブレーキ油圧を加圧減圧し制御による自動減速を行いながら 車両挙動を安定化に導くための装置は存在していなかった。
また、今後時代の変化に伴って 現在は油圧によるブレーキ制動が大半であるが 今後環境への配慮など さまざまな条件により 油圧から電機モーターによるブレーキ制御が主流をしめる可能性もあり、その対応を明記しておく。
【特許文献1】特開2004−93537
【特許文献2】特開2004−155412
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、二輪車に対して様々な安全のための警報装置やライダーの掛けるブレーキを補助するABSなど提案されているが、背景技術で述べたように どれもライダーのブレーキ操作による車輪のロックを防止する 油圧コントロール装置に過ぎなかった。
【0010】
安全装置を論じる際、これまで傾斜角を検出する方式が数多く提案されてきたが 実際の車両挙動検出において、傾斜角度を横Gセンサーから算出した検知方法では 車両が停止している状況において 傾斜角は正確に計測できても、一度走り出してしまえば 車両に掛かる遠心力の作用により 検出されたGセンサーの値からでは 傾斜角度を算出することができなかった。 (特開2004−93537 の問題点)
また、同様に車両挙動検出において、角速度センサーのみにより 横方向の傾斜角が算出される積分方法では、倒立を示す絶対角度の情報(積分の初期値)がないため システムの電源が投入された状態が倒立状態として 誤認識をしてしまう可能性が対応できなかった。 (特開2004−155412 問題点)
本考案は、これまで関連づけされてこなかった 走行時の横Gセンサーと角速度センサーを関連づけし これまで正確な傾斜角の検出ができなかった諸問題を解決し 車両の走行状態での正確な横Gを検出することを可能するものである。
同時に、横Gセンサーと角速度センサーの明確な関連により 車両の挙動を把握することが可能になったことで これまで実現困難であった車両を安定化に導く自動ブレーキシステムの提案により 転倒抑制を行うことを可能とした車両挙動安定化の為の自動ブレーキ装置の実現を課題とする。
ライダーのスキルによって 走り方の限界は変化する。 傾斜角がその一つであり、現状では傾斜角が限界に近づいても車体の一部が接しなければライダーは分る術が存在していない。
天候や気温もその要因であり、雨で路面が濡れている状況下で 晴天のような勢いでコーナーを傾斜させていくと傾斜限界角度になるずっと前の傾斜の浅い状態からタイヤが滑り出し 転倒にいたる可能性も危惧される。
よって、ライダーのスキルに対応したシステムが要望される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために 二輪車の傾斜時に発生する理論横G(規範Gと呼べる)を導く理論式を明確化し 車両挙動の判断するための基準を提供する。
及び 二輪車の挙動検出の為に 少なくとも傾斜加速度センサーと傾斜から生じる横方向加速度を検出するための加速度センサーを搭載し、そのセンサーから検出される信号に基づき 走行中に発生する傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度の各値が 予め設定される閾値以下になるように ライダーの操作によらず前後輪のブレーキ圧力を 加圧減圧の全てをコントロールするための手段を提供する。
【発明の効果】
【0012】
これまで関連付けされてこなかった走行時の傾斜角と横Gの関係が明確になり、走行状態での車両挙動が評価できるようになった。 これにより、傾斜走行時に傾斜角に応じ車両を安定に制御するための基準(規範横G)が存在し計算できることが明確になった。
その結果、これまで不可能であった経験豊かなライダーの乗り方をデータとして共通解析できると供に、制御ユニットへ運転ノウハウを落とし込めることが可能であり、車両傾斜時のブレーキアシストによる車両の安定制御が可能となり ライダーの転倒抑制を行うことができる様になった。
強いては、ライダーの操作遅れによる過度な粗い操作と不安定な挙動 及び傾斜中の難しいブレーキ操作 から精神的負担が減り、次の操作へ精神的な余裕や 操作マージンが生まれるため 周囲への交通事情に配慮が可能なため 安全度が増すことを可能とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この考案は、前記課題を解決するためのであり、これまで不可能であった経験豊かなライダーから得たノウハウである 速度と傾斜角度・傾斜速度・傾斜角加速度(「速度とロールの関係」と以降呼ぶ)などの情報を解析することを可能とし 初心ライダーでもスキルライダーの運転ノウハウである 運転技術の恩恵を得られるように これまでのアンチロックブレーキでの操作領域にとどまらず 車体傾斜時のコントロールまで領域を拡大し 走行中に発生し得る不安定な挙動をライダーのブレーキ操作如何を問わず ブレーキ制御を行うことにより 安定な挙動へ遷移するためにライダーに成り代りブレーキの操作補助を行うことを目的とした 車両安定化ブレーキ制御装置を提供するものである。
【0014】
図1は 車両安定化ブレーキ制御装置のシステム搭載車の構成が示される。
図1の説明に入る。 二輪車の車体10 には、車両の挙動を検出するハイブリッドセンサー20 が搭載される。 ハイブリッドセンサー20 には、車両進行方向の加速度が測定できる加速度センサー21、進行方向の左右傾斜角速度(ロール方向の傾斜速度)を測定できる角速度センサー22(ヨーレートセンサー又はジャイロセンサーと呼ばれることがある)、及び進行方向に90度向きの異なる左右の横加速度を測定できる加速度センサー23 が内蔵される。
2つの車輪には、ホイールの回転速度を検出する前輪車輪速センサー24 及び後輪車輪側センサー25、 前輪のダンパーの距離を測定するストロークセンサー26、 後輪のダンパー距離を測定するストロークセンサー27 及び 前輪後輪へのブレーキ油圧を独立して加圧減圧できるブレーキ油圧コントロールユニット30 から構成される。
ここで使用されるハイブリッドセンサー20 は、二方向の加速度を検出する加速度センサーと角速度センサーが一体化したものであり、多くの4輪車において普及を見せてきている横滑り防止装置(ESCと呼ばれるが、自動車会社によりシステム名称が異なっている)と呼ばれるシステムに使用される 半導体センサー技術を用いている。 ひとつの小型パッケージで、それら全てのセンサーが内蔵されているため、二輪車への搭載を可能にしている。 本ハイブリッドセンサー20 は、車体の重心位置近くにレイアウトさることにより 検出精度とコントロール精度を高く維持することができる。
【0015】
ブレーキ油圧コントロールユニット30 は、4輪車で既に実証されている横滑り防止装置の油圧系を基に 油圧系の規模を4チャンネルから2チャンネルに半減したもので 二輪車へのブレーキ油圧への適用を図ったものであり 図2で示す。
図2は、車両安定化ブレーキ制御装置の油圧構成であり、ECUと呼ばれるコンピューターを搭載したコントロールユニットにより 油圧コントロールがされる。
通常、制動のための油圧コントロールはライダーにより前輪はレバー入力 後輪はぺダル入力によりブレーキ力が加えられる。
前輪であれば、マスターシリンダー(MC−F)により油圧に変換され、発生した油圧は SV1(ソレノイドバルブ1)を通過し SV2を通過して BC1・BC2のブレーキシリンダーへ圧力が加えられ、ブレーキがかかる。 ブレーキが放されれば、BC1・BC2にくわえられた圧力は 圧力が加えられた順路をさかのぼり 経路たどってMC−Fを押し戻す。 ECUによるコントロールのないコンベンショナルな動きとしては、SV1・SV2の電磁ソレノイドは通常開いており、ECUからの通電によりソレノイドは閉じ油圧の往来ができなくなる。 SV3・SV4については、通常閉じておりECUからの通電によりソレノイドは開き油圧の往来が可能となる。
いま、走行中に前輪へのブレーキが必要な状況と判断されると 加圧ポンプに通電がされ電磁モーターポンプP により発生した油圧は逆流防止弁3aを通じてSV2を経由してBC1・BC2にブレーキ圧力が加圧される。 途中SV1を通電しておくことで レバー側へ圧力が逃げることを防止できる。 BC1・BC2に加圧された油圧力は、SV2に通電することでSV2は閉じ 一定の圧力を維持することができる。 走行状態に変化が生じ、ブレーキが不要となれば、加圧されたブレーキ油圧をSV3に通電することでSV3を開き 圧力のかかった油はリザーバーFへ戻され BC1・BC2の圧力は減圧する。 この一連の動作のなかで、ライダーによる意図的なブレーキがかけられた場合 MC−Fにより発生した油圧は 圧力を下げないとブレーキの固着と間違えられる可能性がありライダーをビックリさせる原因となりかねない。
【0016】
したがって、油圧センサーの圧力を検出することが可能なプレッシャーセンサー(P/S−F)の圧力をみてライダーの意思を確認することが可能で SV4への通電によりバルブを開き MC−Fにより発生した圧力を減圧させることで システムの動作をライダーに伝えることを可能としている。 上記の様なブレーキシリンダーへの油圧の加圧減圧をモーター通電・バルブへの通電を適切に繰り返すことにより、一連の油圧コントロールを目標油圧に調整できる様に動作を繰り返す制御がなされる。 逆流防止弁は、3aのほかに 1a・2aも同一のものを使用し 油圧の流れを電気によらず制限している。
【0017】
後輪についても同様であるが、ペダル入力によって発生する油圧如何を問わず モーターPの通電により油圧の発生をさせることができ ブレーキシリンダーへ圧力コントロールされた油圧を加圧減圧の調整をすることでブレーキ力のコントロールをECUにより制御される。
詳細を説明すれば、
後輪は、マスターシリンダー(MC−R)により油圧に変換され、発生した油圧は SV5(ソレノイドバルブ5)を通過し SV6を通過して BC3のブレーキシリンダーへ圧力が加えられ、ブレーキがかかる。 ブレーキが放されれば、BC3にくわえられた圧力は 圧力が加えられた順路をさかのぼり 経路たどってMC−Rを押し戻す。 ECUによるコントロールのないコンベンショナルな動きとしては、SV5・SV6の電磁ソレノイドは通常開いており、ECUからの通電によりソレノイドは閉じ油圧の往来ができなくなる。
【0018】
SV7・SV8については、通常閉じておりECUからの通電によりソレノイドは開き油圧の往来が可能となる。
いま、走行中に前輪へのブレーキが必要な状況と判断されると 加圧ポンプに通電がされ電磁モーターポンプP により発生した油圧は逆流防止弁6bを通じてSV6を経由してBC3にブレーキ圧力が加圧される。 途中SV5を通電しておくことで レバー側へ圧力が逃げることを防止できる。 BC3に加圧された油圧力は、SV6に通電することでSV6は閉じ 一定の圧力を維持することができる。 走行状態に変化が生じ、ブレーキが不要となれば、加圧されたブレーキ油圧をSV7に通電することでSV7を開き 圧力のかかった油はリザーバーへ戻され BC3の圧力は減圧する。 この一連の動作のなかで、ライダーによる意図的なブレーキがかけられた場合 MC−Rにより発生した油圧は 圧力を下げないとブレーキの固着と間違えられる可能性がありライダーをビックリさせる原因となりかねない。
【0019】
したがって、油圧センサーの圧力を検出することが可能なプレッシャーセンサー(P/S−R)の圧力をみてライダーの意思を確認することが可能で SV8への通電によりバルブを開き MC−Rにより発生した圧力を減圧させることで システムの動作をライダーに伝えることを可能とするものである。 上記の様なブレーキシリンダーへの油圧の加圧減圧をモーター通電・バルブへの通電を適切に繰り返すことにより、一連の油圧コントロールを目標油圧に調整できる様に動作を繰り返す。 逆流防止弁は、6bのほかに 4b・5bも同一のものを使用し 油圧の流れを電気によらず制限している。
【0020】
システムの電気的な構成を図3で表す。 図3は、車両安定化ブレーキ装置のECU内部ブロック構成を表したものである。
図の左側には入力信号が示されており 車両の挙動を検出する図1で示される各センサーと 図2で示される前輪後輪ブレーキの油圧系圧力を検出する圧力センサーP/S−F 及び P/S−R が入力されている。
各センサーからの信号を演算処理マイコンの各ブロックで適切な演算を行い 結果として図の右側に示されるアクチュエターへの出力として 加圧ポンプモーターPへの通電 及び SV1〜SV8のソレノイドバルブへの通電 を行う。
図2の油圧系の構成と図3のECU構成は 紙面の都合上 別々に記述されるが、近年の技術進化により、油圧バルブ・油圧ポンプなどの油圧系の小型化や 制御マイコンの処理能力の向上 通電コントロールを行う半導体の進化により 油圧コントロールユニットと電子制御ユニットの一体化が可能になってきている。
また、ブレーキ構成についても前後独立型で説明しているが 連動ブレーキによるコンバインド型との組合せに対しても応用が可能なものである。
【0021】
図2は、油圧ブレーキのコントロールにおいて 車両安定化ブレーキ制御装置を構成したものであるが 二輪車の様な非常に限られた搭載スペースでのレイアウトを考えると油圧系の配管の引き回しや現状のABSシステムとの油圧系の共有を考えると比較的小型化が可能である電機モーターによるシステム構成も可能であり、現状の油圧系のABSと平行してブレーキコントロールが可能な構成を図4に掲載しておく。 既存の油圧ABSシステムに加え 前後輪に加わる油圧を油圧センサーの使用で検出することで システムが必要なブレーキ油圧不足分を算出しモーター制御量を算出したり、ライダーへの圧力調整による動作状態を知らせることが可能であり 警告などに用いたりする応用もできる。 図4は、図2で示される油圧規模を縮小したものであり詳細については説明を省略する。
図3で示されるアクチュエター出力であるもう一方の破線で示される部位は モーターブレーキ制御系出力であり、図4で示されるモーターシステムでの構成とリンクされており、表記したものである。
【0022】
提案する二輪車の車両安定化ブレーキ制御装置は、二輪特有の車両挙動を検出し 車両の挙動である 傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度が予め想定される ライダーの操作範囲内に収まるように 車体のロール方向のコントロールをブレーキによる前後方向のブレーキ力を制御することで 挙動の安定化が図られるように 考案されたものである。
ライダーは、車両を走行させる際 多かれ少なかれバランスをとりながら走行させている。 ここで云うバランスとは、二輪特有に存在する転倒を避けるために行う重心移動や加速減速の行為であったり、積極的に車両を旋回させたりするための操作、荷重移動のことを示唆している。 バランスが崩れると時には転倒に至る場合が存在する。 安定している状態とは、このバランスが取れている状況のことを指し 不安定な状態とはバランスしている状態から外れていること ライダーの意思から外れた状態になること を意味している。 ライダーは意識の如何を問わず車両の重心位置を左右に傾斜させコーナーを通過している。
【0023】
一つの具体例として説明すれば、直進からカーブへ進入する際 ほとんどのライダーは逆操舵と呼ばれる操作により 旋回方向と反対側に一時的にハンドルを操舵し 車体を傾斜させるきっかけとして操作を行う。 この操作により、重心が旋回内側に位置するように行っているもので 重心が旋回の外側にあるとカーブ旋回に困難をきたす。
旋回に必要な逆操舵は不安定な操作とはいえない。
【0024】
さらに解析すれば、ライダーは重心の位置をコントロールすることにより旋回を行っているため その重心移動が速くなってくると操作したりバランスを取ったりすることが追いつかなくなる。
【0025】
あまりにも重心の移動が速くなりすぎるとライダーは車両に乗っていることが出来なくなり振り落とされてしまうケースもある。 すなわち、転倒するときのほとんどが 操作ができないような挙動変化で転倒に至る。
【0026】
転倒を抑制するためには、重心の移動速度をライダーの操作範囲内に常に置くことにある。 その様なことを想定して、本装置は考案されたものであり 重心の移動を 傾斜角速度、傾斜角加速度の変化から車両挙動として捕らえ、傾斜角速度と傾斜角加速度は、 傾斜角と車両の速度により異なってくるため、車両の挙動として 傾斜角、傾斜角速度、傾斜角加速度、車体速度を基本パラメーターとしている。
誤解を生じないように記述すれば、
走行中の二輪車には、外見から捕らえる鉛直方向と90度向きの異なる水平方向の遠心力が 旋回中の二輪車には加わってバランスを保ち走行しているが、車両に取り付けられたGセンサーは 水平方向の遠心力を直接計測するものではない。 車両に取り付けられたGセンサーは、傾斜された車体の横方向の力を検出するもので 遠心力と重力のベクトル合成された力を 車両の傾斜角をもって検出されたものである。
メカニズムを以下に説明する。
【0027】
【表1】

【0028】
車両特性を一般的な等速円運動の物理式で解析を行ったものである。 表1は、定常状態(一定速度)での円旋回を想定したものである。 速度(V)と旋回半径(r)の関係 及び 速度(V)と遠心力(α)との関係がまとめられている。 表の上半分は、旋回半径を算出したものであり、下半分は 遠心力を算出したものである。 表横軸には、傾斜角を示すバンク角度(Φ)、縦軸には速度が示される。
【0029】
旋回中の二輪車には、水平方向に働く遠心力(α)と 地球上の重力加速度(g)が加わってバランスしている状態でカーブを旋回している。 バランスしている状態から 傾斜を起こせば回転半径は大きくなっていき 傾斜をより深く傾斜させれば旋回半径は小さくなることが 経験的にも知られる。
【0030】
その傾斜している旋回中の二輪車に働く遠心力(α)は
α=V^2/r
の計算式で算出することができ、速度Vの二乗を旋回半径rで除したものである。
二輪車には、重力加速度(g)と 遠心力(α)が 90度の角度関係を有して働くため バンク角(Φ)に応じた、遠心力(α)と重力加速度(g) との関係を三角関数の次式で 求められる。
【0031】
tanΦ= α/g = (V^2/r)/g
となり、旋回半径(r)は
r=V^2/(g×tanΦ)
となる。
表1は、これらの関係を速度とバンク角をパラメータとして表記した。
【0032】
表中の太線で囲まれる概ね半径150mのカーブを旋回する場合、速度が40→70→140km/h と速度が変化するにつれ必要バンク角は 5→15→45度と 深いバンク角度が必要になっていく。 遠心力とバランスする二輪車であるから当然しかるべき内容であるが、しかしながら特筆すべき内容は遠心力にある。 遠心力は、速度に依らず バンク角に一義的に定まることがわかる。
言い換えれば、遠心力は旋回半径や速度には依存せず バンク角により一律に 定まるため 走行時のバンク角と遠心力の関係をみれば車両の走行状態の推定が可能となり、 安定状態にあるのか 不安定状態で転倒の可能性が迫ってくるのか 判断できることを示唆する。
次ぎに、システムの詳細と一般的な車両構造及び運動解析の説明に移る。
現在市場で量産されている二輪車には、ライダー負担を少しでも低減できるよういろいろ工夫がされている。
【0033】
図5には、前輪の構造について記述されている。前輪を支えるダンパー付ホーク(DF)には、キャスター角と呼ばれる角度(ε)と ホークが車体フレームに取り付ける際のオフセットと呼ばれる距離(Loff)が設けられており、この2つによってトレールと呼ばれる距離(Lt) の関係が設定される。 このトレール(Lt)の発生により、前輪接地点よりも前に仮想接地を設定することが可能となり、前輪はこの仮想接地点に引っ張られて操舵されている状況が作り出されている。 この事により、直進安定性の向上が図られライダーの操作負担を軽減している。
このトレール(Lt)は、制動時には 制動により発生する荷重移動により前輪の緩衝装置(ダンパーDF)の長さが短くなり、トレール長(Lt) が短くなる様に機能する。
このトレールが短くなる現象は、ハンドルの操舵によるタイヤ接地点の移動によっても発生する。
【0034】
言い換えれば、トレールが短くなることにより直進安定性重視から横運動性能の向上に向けた準備がされる関係になっている。
【0035】
図6には、車両単体における重心位置(GB)とライダーの重心位置(GM)並びにそれら2つの合成重心(GS)及び 合成重心高(hGS)が図の様に示される。
走行時であれば、合成重心の前後にあるタイヤには走行速度、即ちホイールの回転に応じた角運動量(I・ω)が存在する。 ここで記述されるIは、タイヤ軸を中心軸とした回転による慣性モーメントであり、走行から生じたタイヤ回転速度ωであり角速度である。
前輪には I・ωf、後輪にはI・ωr とし存在し 合成重心(GS)は車輪から発生するジャイロ効果に はさまれた位置関係にあることから 車両の安定走行が可能となっている。 ジャイロ効果については、後述する。
【0036】
高さ方向に着目すれば、ホイール中心の高さ(hw)と合成重心(GS)の高さ(hGS)の関係が hw < hGS 関係にあることで 車両全体が旋回の際 慣性モーメントとして働き、車両の安定化と運動性能の向上に役立つのである。
【0037】
日本には、古くから「起き上がりこぶし」や「逆さゴマ」と呼ばれる歴史ある遊具が存在しているが、この遊具を例にとれば、回転する中心よりも回転体の重心が上位位置に位置することが回転物体における安定状態であることから説明できる。 詳しい説明は、専門書に委ねることにするが、 hw > hGS の逆の位置関係になると 一度旋回の為に車両を傾斜させその状態を維持することや、一度倒し込むと傾斜を倒立方向に起こしにくくなり 運動性能が悪化してしまうことになる。
【0038】
以上のことから、車両における重心の位置関係が ライダーのコントロールに対する負担を少しでも低減できるよう 重要な設計配慮が様々されている。
【0039】
図7は、車両走行時のブレーキによる荷重移動が示されている。
図には、合成重心(GS)から前輪タイヤ中心軸までの距離(LF)、後輪タイヤ中心軸までの距離(LR)が図示される。 この重心(GS)からタイヤ中心までの距離(LF、LR)によって重心での荷重配分が決定され、 前輪にはWNf 後輪にはWNr の荷重が発生する。
走行中の車両にブレーキが掛かると、それに伴う車両の減速G(Gαb)が発生する。
この発生する減速G(αb)に応じた力が、重心へ荷重移動する力(FB) として働き FB=GS×Gαb として働く。 この力、FBにより後から前への回転モーメント(一般的にピッチ方向と呼ばれる)として作用し 前後輪の荷重変化 ΔWBが発生する。
【0040】
ΔWB= FB×hGS/L =GS×Gαb×hGS/L
として算出できる。
【0041】
ここで、hGSは合成重心の高さであり Lはホイールベース長であり L=LF+LR で表現される。
この発生した荷重変化により、前輪には ΔWBの荷重が増え、後輪にはΔWBの荷重が減る。
【0042】
ライダーを乗せた停止車両の前輪支持点荷重をWNf、後輪支持点荷重をWNrとし、制動時の前輪支持点荷重をWf、後輪支持点荷重をWrとするとき その関係を式で表せば、 Wf=WNf+ΔWB
Wr=WNr−ΔWB
となる。
【0043】
本提案が示す実施例では、前輪後輪のアブソーバー部にアブソーバーの伸縮を測定できるストロークセンサーを取り付けた車両にて 停止時から走行時の前後荷重配分をリアルタイムに測定することが可能である構成を示している。 走行中にトータル荷重が変化することがない事を考慮すれば、 前後加速度と駆動力または制動力から荷重移動量の算出や重力の推定の算出が可能であり、ストロークセンサーを取り除くことが可能である。
【0044】
具体的な方法として、加速時の重量推定方法は 特開2002−340165、特許第3821001号、減速時の重量推定方法は 特開2006−337087 など多くの先出願が提案されており、詳細は割愛する。
【0045】
ここで説明した図7により、前記した図3 ECU内部ブロック図の負荷推定を算出することが説明される。
【0046】
図8(a)は、傾斜走行中の車両を後ろから見たものであり、重心に掛かる荷重(GS)を示したものである。
旋回中の重心点GSには、前記したように 2つの力 重力による鉛直方向の力(=GS×g)と 遠心力(αc)による力 (=GS×αc) が発生している。
【0047】
理論的には この2つの力が傾斜走行中の重心GSに掛かると考える。 この2つの力のベクトル合成の力(Frun)を表せば、バイクが倒立時に近い状態では車体中心線(GS→b)にそって荷重が路面を押しつける力 Frun となる。 しかしながら、傾斜状態となると 倒立時の路面接地点bから接地点は移動し 路面接地点aへ移動していく。 バンク角(Φ)が大きくなるほど移動距離は大きくなる。 すなわち、車両重心(GS)にかかる合成力(Frun)は バンク角に応じ角度ずれが生じる。 車両重心(GS)は、ライダーを含めた車両重心であることから ライダーが傾斜走行時にとる姿勢(リーンアウト等)により変化するため定義しにくい。
【0048】
ここで説明される 車体中心線とは、「請求項1」に記述される車体中心線と同意語である。
【0049】
図8(b)は、傾斜角について定義したものである。
車体中心線(一点破線)と重力加速度gの加わる垂直線との角度を 車体の理論傾斜角(Φ)と定め 走行時に車輪中心から車両荷重が路面接地点に加わる荷重点aによる傾斜戻り角(ρ)と定め、 Φとρの関係は 車両及びタイヤにより特有の関係が示される。 簡略化するために、ρはΦの一次関数と定義し ρ=Φ(1−Kp)として表記すれば、実傾斜角(Φ−ρ)は、 Φ−ρ=Φ・Kp と定義し 表すことができる。
【0050】
車両に搭載されるハイブリッドセンサー20 は センサー取付け高さ(hsen)での車両挙動を検出する。 前記した、傾斜角速度センサー22 は単位時間あたりの角度変化(rad/sec)を示すものであるから、時間積分を算出した値は角度を示す。
【0051】
この角度は、車体の理論傾斜角(Φ)を検出するものであり、実際の傾斜角Φeは
Φe=Φ−ρ=Φ・Kp であるため、係数をかけなければならない。 実際の角度は理論角度より小さいものであるため 実角度(Φe)<理論角度(Φ) の関係にあることから 補正係数Kpは Kp≦1 として取り扱うことができる。 ある二輪車の経験値であるが KP=0.85程度であることがわかっている。
【0052】
本説明では、戻り角度(ρ)は Φの一次関数であることから説明してきたが 幅広タイヤの場合や 車両重量が大きく変化する場合などは 角度によって比例定数とならない場合も考えられるため 必要に応じ 係数Kpを 角度Φの変数としてテーブル化した補正係数形態を用いることも可能であり 自由な補正カーブの設定が可能であることを付け加えておく。
【0053】
図8(b)で定義された、接地面の移動(b→a)距離(Δab)と図8(a)で定義された路面押付け力(Frun)の積算をとり、 オーバーターニングモーメントMotが定義でき Mot=Δab×Frun と表現できる。
【0054】
このオーバーターニングモーメントは、タイヤ幅が太くなるほど大きくなり ライダーを含めた合成重心高が低くなるほど小さくなる。 Motが大きいと 傾斜しづらいと言ったり 傾斜時に安定度が高いと言ったりして 表現される場合がある。 また、タイヤの空気圧が低いとタイヤの横ずれ量が大きくなってしまい傾斜しにくくなる。 この特性は、二輪車を傾斜していく際の傾斜フィール、安心感などの走行操縦の安定性の善し悪しを決める重要な要因になっている。 詳細については、特開平11−245615 に譲ることとする。
ここで、オーバーターニングモーメント Mot=Δab×Frun の要素Frunは、2つのベクトル 重力と遠心力の合成になっており 遠心力αcは 前記したように
αC=V^2/R に関連する。
図8(a)に戻り説明する。 図に示される遠心力(αc)を車体バンク角(Φ)で傾斜する二輪車に取り付けられた Gセンサー23 から、傾斜とGセンサーの関係を関連づけし 分析することはできない。
すなわち、実際にテストしてみると傾斜角から求めるGセンサーの値と走行時のGセンサーの値は一致しない状況に陥るが、過去多くの先願がこの方法で公開されている。
この一致しない状況において、本出願は解析し一致する演算式を導くことができた。
【0055】
図9で説明する。 図は、車両に搭載されたハイブリッドセンサー20 と センサー20 が走行時に発生する車両のロール速度、すなわち傾斜角速度(Ψ)の変化 及び 傾斜により発生するバンク角(Φ)、傾斜戻り角(ρ)、バンク角(Φ)と戻り角(ρ)から図示される実傾斜角(Φe)、と 前記されるセンサー20に搭載される 横方向の加速度センサー23 の検出を解析するベクトルが表記される。
一致しない要因は少なくても 4つ存在して折り説明する。
【0056】
第一要因として、Gセンサーから傾斜角を算出する方法の問題点として 紙面上に傾斜時のベクトルを記入する際 重力ベクトル(g)と バンク角(Φ)に応じた合成ベクトル(A)を記入する従来の方法では 実際の発生する遠心力ベクトル(B)が抜け落ちてしまい正確に表現できていないものがある。
すなわち、紙面上では 停止時の傾斜と走行時の傾斜は同一とみなしており 走行時に発生する実際の遠心力とバランスされる関係が考慮されない点にある。
もしくは、停止時の重力ベクトル(g)と遠心力ベクトル(B)は表記されても実車に搭載されるGセンサーの検出軸Gken(図中の破線)にベクトル投影する際 重力成分ベクトル(C)は投影しても 遠心力成分ベクトル(D)を投影しない ベクトルの抜けが生じるところに問題がある。
【0057】
第二要因として、要因1を解決し遠心力のベクトルをGセンサーの検出軸Gkenにベクトル投影すると重力の検出ベクトル(C)と 遠心力の検出ベクトル(D)は180度方向の異なる同一ベクトルであるため ベクトルは相殺され 検出軸Gken方向でのベクトルは発生せず「ゼロ」となり 傾斜時には検出Gは発生しないことになってしまう。
その原因は、走行時のバイクは遠心力を相殺するために傾斜バランスをしているため検出されないことと誤解されてしまい 実際に検出される出力値は誤差として扱うことがあげられる。
【0058】
第三の要因として、センサーが取り付けられている場所の高さ(hsen) 及び 車両が左右にロールした際の検出場所での速度の変化を加味しないことである。 すなわち、Gセンサーは加速度を検出するものであり 検出センサー自身が加速度の影響を直接うけるため その主要因であるロール速度(Φ)の変化を取り除かない点があげられる。
【0059】
第四の要因として、前述した 理論角度Φとタイヤに荷重の掛かる実角度Φe の違いすなわち 傾斜の戻り角(ρ)を加味しないことである。
以上の4点を加味することで、車両挙動の検出として 走行時に発生する傾斜時の横方向加速度を検出する加速度センサー23 を車両挙動検出センサーとして用いることが出来るようになる。
【0060】
実際の検出を図9でさらに説明し検出式の誘導をする。
車体の挙動を検出するためにハイブリットセンサー20 が、車両倒立時の車体中心線(図中の一点破線)にレイアウトされる。 ハイブリットセンサー20 には、進行方向の加速度を検出する加速度センサー21、 進行方向ロール速度を検出する傾斜角速度センサー22 及び ロール方向の加速度を検出する加速度センサー23 が小型に内蔵されおり、ライダーの体重を含めた合成重心に近いところにレイアウトされる。 ハイブリットセンサー20 には、傾斜時に生じる理論バンク角(Φ)及び傾斜によってタイヤでの荷重接地点変化から生じる戻り角(ρ)が同時に存在している。(図8も同時参照)
センサー20 に生じる力(ベクトルA)と 実際に生じる力(ベクトルA’)とは ずれが生じている。 このずれ角(戻り角(ρ))によって、正確な横Gを検出することが解析された。
【0061】
走行中のハイブリットセンサー20 には、路面との距離hsenがあり 車両が左右にロール(ロール速度は角速度検出値(Ψ))することで センサーはタイヤを軸とする円周上の軌跡を通過することになるが 角速度センサー22 の変化は円周上の軌跡上の速度変化として発生する。 すなわち、速度変化は加速度であるから 加速度センサー23 に重畳され検出されるため 角速度による補正項を減算する必要がある。
以上のことから、走行傾斜時に検出されるべく横G(Gken)の考え方は、
Gken = (ベクトル(C))−(ベクトル(D’))−(Ψ) となる。
【0062】
それぞれのベクトルを式として表せば
Gken = (g・sinΦ)−{A’・cos(90−Φ+ρ)}・cosΦ
−(Ψ・Rsen)
式を整理し
Gken =g{sinΦ−tan(Φ−ρ)・cosΦ}−Ψ・Rsen
ρは、前記したように Φの一時関数とするとき
Gken =g{sinΦ−tan(Φ・Kp)・cosΦ}− Ψ・Rsen
を導くことができる。
【0063】
この式の g{sinΦ−tan(Φ・Kp)・cosΦ} の部分は、重力成分と遠心力成分の差分を求める構成になっているため、直接 傾斜の戻り角から求める式に変換すれば、
Gken = g・cosΦ・tanρ − Ψ・Rhen
と変形でき、シンプルな式になる。
ここで、表されるΦは 車両の理論バンク角度であり理論傾斜角でもある、 傾斜角速度センサー22 から検出される角速度Ψ(rad/sec) を時間積分して得られた角度であり、ρは傾斜戻り角であり、RはGセンサー#23の実車取付けの高さ(図8b hsen )をそれぞれ示している。
【0064】
g・cosΦ・tanρ を第一項とし、Ψ・Rhsen を第二項として説明する。
【0065】
式の内容を分析すれば、第一項は傾斜角(Φ)および 戻り角(ρ)から一義的に求められる基準横Gであり、規範横Gと呼べる。 第二項は、ロールによる補正項である。
【0066】
以上を整理しなおすと、傾斜により発生する規範横G(Gkihan)は
その式の書き方により
Gkihan = g{sinΦ−tan(Φ・Kρ)・cosΦ}
= g{sinΦ−tan(Φ−ρ)・cosΦ}
= g・cosΦ・tanρ
と変形でき 使用しやすい形態を選択すればよい。
この式を導くために、実際の二輪車に搭載した角速度センサーから 理論バンク角(Φ)を傾斜角速度(Ψ)の時間積分による説明で誘導してきたが 上記式である
Gkihan = g{sinΦ−tan(Φ−ρ)・cosΦ}
= g・cosΦ・tanρ
には、傾斜角速度のパラメータは存在しておらず 理論バンク角(Φ)と傾斜戻り角(ρ)により、一義的に求められることが明確である。
【0067】
「請求項1」で記載される、
車両に搭載された車両傾斜角度検出機能により、車体中心線と鉛直線との成す傾斜角度を検出 又は算出された理論バンク角度(Φ)及び 直進走行時のタイヤ路面接地点と傾斜走行時のタイヤ路面接地点の位置移動によって定義される理論バンク角の傾斜戻り角(ρ)より、理論バンク角から傾斜戻り角を減算した実バンク角(Φ−ρ)値を算出し、走行時に発生する左右横方向加速度の理論検出横G(Gkihan)を式、
Gkihan= g{sinΦ−tan(Φ−ρ)・cosΦ}
または
Gkihan= g・cosΦ・tanρ
から 傾斜時に発生する横Gの算出を傾斜角から求める機能を備えることを特徴とする自動二輪車の横方向加速度の規範値検出に関する検出方法。は、
上記「0066」で説明される様に 傾斜角速度のパラメータは存在しておらず 理論バンク角(Φ)と傾斜戻り角(ρ)により、一義的に求められることから一般式化している。 よって、理論バンク角を求める手段は無数に存在するため、「車両傾斜角度検出機能」と表現し、その検出方法について限定することを取り除いた。 同様の意味で、直接角度を検出できるセンサーでも 本実施例で説明してきたような角速度の時間積分により算出される角度でも角度を検出することは可能であるから、センサーの出力形態を問わず検出方法を限定する表現を取り除いた。
「車体中心線と鉛直線との成す角度」と表現したのは、直進走行時に倒立した状態を理論バンク角(Φ)ゼロ度とおき、重力加速度の向きと一致させることで、左右方向の実傾斜角(Φe)を求める際の減算(Φ−ρ)の部分の演算を単純化するために(Φ・Kρ)と置き換えるができる形態とした。
【0068】
式の本質である 傾斜時に車体に搭載された横Gセンサーに検出される規範横Gを求める Gkihan= g{sinΦ−tan(Φ−ρ)・cosΦ}
= g・cosΦ・tanρ
は、傾斜戻り角は存在するものの、表1で説明された 遠心力はバンク角度に依存する と矛盾しておらず 昔から慣れ親しんだ 遠心力 α= V^2/r の事象を捉えるものである。
【0069】
この式で表現される 傾斜戻り角(ρ)の測定方法は 様々考えられるが 二輪車の仕様によって定められるタイヤ選択から決定される因子が強い。 よって、3つの計測方式を列記しておく。
【0070】
測定方法1、 実際に車両を走行させ 様々な傾斜角にバンクさせた画像を取り込み、取り込んだ画像解析により 角度に応じた傾斜戻り角(ρ)の値を得る方法である。
【0071】
測定方法2、 式 Gkihan= g・cosΦ・tanρ を変形し、 ρ=TAN^1 (Gkihan/g・cosΦ) で変形されるアークタンジェント(TAN^1)の値を逆算し 傾斜戻り角(ρ)の値を得る方法である。
【0072】
測定方法3、 ホイールの中心軸に直接 6分力計などのセンサーを直接用いる方法である。
【0073】
続いて、制御装置として構築する方法に移る。
実際の走行傾斜時に検出される検出横G(Gken)は、傾斜角の時間的変化である傾斜角速度(Ψ)を用いた補正が必要であることから 補正後の横G(Ghosei)は
Ghosei = Gken−(Ψ・Rhsen)
として表される。
【0074】
補正項として用いている Ψ・Rhsen の部位の影響度は ゆっくりのスラローム走行で発生し得るロール速度の変化を 1秒間に 0→0.25π 「rad/sec」 (45deg/sec)変化だったと想定した場合 発生するG(Grol)は
Grol= 0.25*3.14*1 = 0.785 「m/s^2」
(但し、センサー取り付け高さ Rを1mとする。)
であり、重力加速度 9.81 「m/s^2」 との影響度は 0.785/9.81を算出すると 約8%となり制御を考える際、無視できない項目であることが分かる。
よって、補正の必要性が裏づけされる。
傾斜時の規範横G(Gkihan)と 実際に走行時に発生する補正を行った横G(Ghosei)から、目標値を得るための制御値を求めるには 偏差をとればよい。
すなわち、スムーズで安定した走行でいるときには 前記したように規範Gとなることから 補正後の検出横Gと規範Gとの差分を下記の式から 偏差G(Ghensa)を
Ghensa=Ghosei−Gkihan
求めることができる。
【0075】
車両の走行状態を この偏差分の横G(Ghensa)から、後述するアンダーステアー(U.S.)、オーバーステアー(O.S.)、ニュートラルステアー(N.S.)の判断がされ、ブレーキ配分が決定される役割をもっている。
【0076】
図10は、旋回状態の二輪車を上部から図示したものでる。
前輪軌跡(A)と後輪軌跡(B)は、旋回時のタイヤ軌跡を表している。 図中の破線は、前輪と後輪の接地面を結ぶ延長線が示してあり 後輪の駆動する方向を示している。
【0077】
前輪には、前述したように設定されたキャスター角によるトレールの設定があり 旋回時には傾斜によりタイヤ接地点の変化が生じ その為ハンドルが自動的に操舵する自動操舵機能が備わっている。 よって、表1に記述する様に 旋回時の速度と傾斜角度の関係によってバランスする操舵角度が存在している。 後輪進行方向と前輪進行方向の間には角度差β、後輪は前輪と異なり機械的操舵機構が備わらないため 駆動方向と後輪軌跡の関係に角度差βrの関係が生じ 定義できる。 βを操舵アングルと呼び、βrを後輪のスリップアングルと呼ぶ。
【0078】
前輪は、後輪から発生した駆動力とそのときの車体速度を 角度βをもって旋回外側に飛び出さない様に押さえている。 すなわち、前輪は前輪後方から押される力を操舵によって生じた角度βをつけて 進行方向の向きを変える仕組みになっている。 後輪は、前輪が角度βの角度で進行方向へ向きを変えると 後輪の駆動方向にずれが生じ スリップアングルとして 後輪もスリップ角を生じて進行方向へ向きを変える。
【0079】
一般的なドライ路での走行状態では、旋回半径と走行軌跡 及びスリップアングルに一定の関係が存在している。 バランス状態にある二輪車については、「速度とロールの関係」が存在していることから推定舵角を算出 または データとして持つ事ができ 図3で表される「オーバーターニングモーメントを算出」することが可能となる。
直進時であれば、軌跡(A)と軌跡(B)は同一軌跡を通過するためスリップアングルβrは生じないためゼロになる。 旋回状態となり、倒立状態からバンク角が次第に深くなって行くに従い、軌跡(B)は 軌跡(A)から徐々に離れていき 内側を通過するようになる。 軌跡(A)と軌跡(B)の軌跡半径の差は、走行速度が高いほど軌跡半径の差は小さく 走行速度が低くなると軌跡半径の差は大きくなってくる関係あり、走行速度によって異なってくる。 すなわち、走行速度と傾斜角がわかれば軌道推定をしたり、予めテーブルデータとして用意することが出来る。
スリップアングルβrは、軌跡半径の差が大きいほどスリップアングルが大きい関係となる。 詳細については、後述する。
【0080】
この関係を車両挙動として表現するならば、走行軌跡(A)と走行軌跡(B)が同一な場合をN.S.(ニュートラルステアー)と呼ぶことにする。 走行軌跡(A)より走行軌跡(B)が外側を通過する場合を O.S(オーバーステアー)と呼び、走行軌跡(A)より走行軌跡(B)が内側を通過する場合を U.S. (アンダーステアー)と呼ぶことがある。 そして走行時は、路面状態・速度をはじめ 加速時・減速時・ドリフト時・S字などの切替し時など 走行シィチュエーションにより 時々刻々と変化していく。
その例を図11で説明する
【0081】
図は、左旋回から右旋回へ傾斜が切り返されるときの様子を示したものである。 図のように、傾斜の切り返しがされると 前輪の軌道は目標軌跡であるターゲットラインにそってトレースすることができるが ときには逆操舵を行いながら通過するときもある。
後輪は横方向にスライドしながら落ち着くべき軌跡N.S.(ニュートラルライン)に収斂される。 これは、走行時に生じるタイヤ回転差の吸収と 後輪タイヤの荷重変化をスムーズに受止めるために発生する横すべり現象である。
【0082】
この様な車両挙動を検出するためには、ロール方向の角速度を検出するセンサー22 だけでは不十分であり、ロール方向の横加速度を検出するセンサー23 が必要となる。
前記した様に、ロール方向の角速度を時間積分して理論傾斜角度(Φ)を算出し、傾斜戻り角(ρ)による補正係数(Kp)を用いて実傾斜角(Φe)を求め、実傾斜角に基づいた横加速度の検出が可能となる。
前輪は、後輪に比べ切返しを行っても横滑りが発生しにくいようにハンドル操舵による微調がとれるようキャンバーアングルとよばれる前輪スポーク角の設定で自動調整され、前輪ターゲットラインを通過できる。 しかしながら、前記した様に後輪は走行軌跡の距離の違いから発生するスリップ率を吸収する必要があるため、走行状態によっては横滑りを伴い 前輪ターゲットラインとは異なるもう一つのN.S.軌跡が存在している。 このN.S.ラインを走行すれば、傾斜走行時の重力と遠心力のバランスが取れた状態になることであり 車両挙動としても安定しているとみなしてもよい。 切返しからN.S.ラインまでの車両挙動をアンダーステアー(U.S.)状態、 N.S.ラインで留まらずさらに横滑りが発生する状態であればオーバーステアー(O.S.)状態と定義づけできる。
【0083】
よって、前記した傾斜規範横Gと補正後の横Gとの差分横G(Ghensa)の式からGhensa=Ghosei−Gkihan を求め 符号の向きにより、 U.S./O.Sの判断が可能になる。 アンダーステアーは、旋回外側に走行軌跡が膨らむため 横Gの発生が少なくなることから Ghosei < Gkihan の関係となり、Ghensaはマイナス符号の向きで判断できる。 逆に、プラス符号となる場合は
Ghosei > Gkihan の関係にあることから、オーバーステアー(O.S.)と判断でき 走行軌跡は小さくなっていく方向になる。
前記したように、アンダーステアーは旋回外側に走行軌跡が膨らむため 車両挙動としてバンク角が深くなる状況では前輪への配分を多くし、バンク角が浅くなる状況では後輪への配分を多くする。
【0084】
オーバーステアーは旋回内側に走行軌跡が小さくなっていくため 車両挙動としてバンク角が深くなる状況では前輪への配分を多くし、バンク角が浅くなる状況では後輪への配分を多くする。 いずれも、車両の特性に関係するところが強いことから テーブルデータによるところが強い。 (イメージを図19に表記した)
【0085】
「請求項2」に記述される、
車両に搭載された車両挙動検出用センサーとして、進行方向に対して左右横方向加速度を検出する加速度センサー 及び 進行方向に対して左右ロール方向角速度を検出する角速度センサーを少なくとも搭載する車両において、
「請求項1」の車両傾斜角度の検出を 角速度センサーから検出された角速度出力(Ψ)の値を時間積分して得られる車体の理論バンク角(Φ) 及び 直進走行時のタイヤ路面接地点と傾斜走行時のタイヤ路面接地点の位置移動によって定義される理論バンク角の傾斜戻り角(ρ)より、理論バンク角から傾斜戻り角を減算した実バンク角(Φ−ρ)値を算出し、走行時に発生する左右横方向加速度を
1)、 傾斜走行時の理論検出横G(Gkihan)を
Gkihan= g{sinΦ−tan(Φ−ρ)・cosΦ}
または
Gkihan= g・cosΦ・tanρ
の式を用いた規範G値の算出、を行う「請求項1」の具現化した算出方法
2)、 走行時に変化する実際の検出横G(Gken)を少なくとも傾斜角の時間微分 (dΦ/dt)値である傾斜角速度(Ψ)を用いた補正を行い、補正後の横G(G hosei)を
Ghosei= Gken−(Ψ・Rhsen)
の式を用いて補正した値の算出G値、
3)、 1)から求めた理論検出横G(Gkihan)と 2)から求めた補正後の 横G(Ghosei)の差分を算出した 偏差横G(Ghensa)を
Ghensa= Ghosei−Gkihan
の式を用いて偏差の値の算出G値、
上記1)、2)、3)から、3種類の横G値 Gkihan、Ghosei、Ghensa、を算出し 車両の挙動を Ghensaの値から、
Ghensa ≒ 0(ゼロ) ならば ニュートラルステアー(N.S.)
Ghensa > 0 (正)ならば オーバーステアー(O.S.)
Ghensa < 0 (負)ならば アンダーステアー(U.S.)
と判断され、 Ghensaの符号と値に基づき 演算式 又はテーブルに従って、前輪後輪へのブレーキ配分が決定される事を特徴とする二輪車のブレーキ装置、
について説明する。
【0086】
項目1) は、バンク角によって理想的な横Gが存在しており 車両が安定して走行している際には 表1で示したように安定した遠心力の発生になることから、車両のロールによる角速度の補正項を取り除いた 傾斜と遠心力とのバランス状態を検出することである。 よって、センサーからの検出G(Gken)から補正項を取り除き記述すれば
規範横Gは、 Gkihan= g・cosΦ・tanρ の様に表される。
【0087】
項目2) は、走行時の傾斜により検出された検出G(Gken)は車両のロールによる誤差が重畳されるため ロール成分を取り除くために角速度の補正を行うことが必要となる。 すなわち、センサーからの検出G(Gken)から規範G成分の部位を実際の検出される横G(Gken)に置換え、角速度による補正を行えば 規範同様にロールによる影響を排除した 補正後の制御で使用できるG(hosei)が導け、
Ghosei=Gken−(Ψ・Rhsen) の様に表される。
ここで補正項として傾斜角速度を加味している理由は、前記したように制御上無視できない要素になっているためである。 その他にもセンサー取り付け高さが加速減速による高さの変化、タイヤ空気圧、タイヤ横ずれ量 等々により変化するなど、補正項は考えられるが重要なものに絞る。
【0088】
項目3)は、制御量を求めるための記述であり 傾斜角に応じた規範横G(Gkihan)と 実際に検出される横G(Ghosei)との差分がいつも偏差を生じないように
制御値として演算することを意味している。 よって、傾斜時の規範横Gと補正後の横Gとの差分を偏差横G(Ghensa)として式で表し、
Ghensa=Ghosei−Gkihan
を求め制御偏差としている。 この偏差が大きければ、横滑りもしくは急な起きあがり事象 倒れ込み事象 が発生していることを示唆している。
【0089】
前記したように、3種類の横G値 Gkihan、Ghosei、Ghensa、を算出し 車両の挙動を Ghensaの値から、判断され 前輪後輪へのブレーキ配分が決定されることが導かれる。
また、角速度検出センサー22 から算出した傾斜角より 規範旋廻半径 Roを次の様に求めることができる。
【0090】
式「0031」を変形して、
Ro=V^2/α=V^2/(g・tanΦe)
となる。 αは、横加速度であり、 Φeは 図9で示す実傾斜角である。
誤解を招き易いため記述するが、走行中の安定した車体には表1で示される車体傾斜角に応じた遠心力が常に加わっているが、傾斜走行中の二輪車はバランスをとっているため二輪車に搭載されたGセンサーとしての検出Gは 前記の様にタイヤの傾斜戻り角(ρ)成分に関係した僅かなG値になることである。 走行中に車両が不安定になると、重力に対する傾斜角と遠心力とのバランスが崩れるため Gセンサーの検出値には車体に係るG成分が計上され大きなG値になり検出される。 Ghensaの値を監視しておくことで、走行時のバランス状態を簡単に検出することができる。
【0091】
ここで、重要なのが傾斜の基準である車体中立点 すなわち直進走行時の倒立位置での車体角度である。 車体傾斜角を算出のためのロール角速度積分値をゼロリセットすることである。
Gセンサー及びロールセンサーは、多少なりとも出力のオフセットや温度ドリフトが存在する。 このドリフトをキャンセルするために 各センサーのゼロ点をECU内で学習値として憶えこませる必要が存在する。 様々な方法が存在するが、一つの提案として 走行時からの減速を行った際、完全に停止するまでの車両挙動としてロールセンサーとGセンサーの値の変化が一定値以下ならば ロールセンサーとGセンサーの倒立学習条件が可能であることを示唆している。 なぜならば、傾斜走行を行っている傾斜角のままで減速していくと前記した速度と傾斜のバランスの関係から必ず逸脱してしまうからである。
【0092】
停車する際まで、傾斜状態で足をつき安定していることは不可能でもある。 これを何度か繰り返すことにより、基準値として正確な学習値が得られる。
次に、ブレーキの効果について説明する。
【0093】
図12は、走行中の前輪タイヤに生じる力について詳細を記述したものである。
前輪は、ハンドルの左右操舵機能が備わっているため 図10で図示した操舵アングルβ に加え 実際の進行方向とのずれ角が生じでおり タイヤスリップアングルβfを定義する事が加わってくる。
【0094】
車体の旋回に必要なタイヤグリップ力は、タイヤが傾斜することで得られるキャンバートラスト力 及び 路面とのスリップが発生することで得られるスリップ率とスリップアングル(横滑り角度)によって 旋廻に必要コーナリングフォース を得ていることが知られている。
【0095】
図12に示すように、右傾斜走行中のタイヤ(If)には 回転(ω)に応じた慣性力N=If・ω で示される運動エネルギーが保存される。 この慣性力が角運動量(ベクトルHf)として表現され ベクトルHfは、ホイール中心線を通過する(紙面)右から左への向きのベクトルとして定義される。 図中のY軸と平行関係にある。 ハンドルが固定される操舵軸上部方向をZ軸とすれば、X軸 Y軸 Z軸が設定でき 互いに90度異なる空間座標軸の関係が示せる。 操舵軸Zと ベクトルTは ハンドル支持点でオフセットされる平行関係にあり、 タイヤが受けるトルクの中心軸をベクトルTと定義すれば、Z軸とベクトルT軸の間にはハンドル支持点オフセットにより、傾斜時の自動操舵力を得ることができる。 その発生する自動操作力のトルクのことを セルフアライニングトルク と呼ばれている。
【0096】
走行中のタイヤには、タイヤの受ける力によって トレールの距離が伸縮され タイヤに掛かる荷重位置・傾斜による重力と遠心力のバランス 及び 前記ジャイロ効果によって前輪操舵が自動的に行われている。 このときのセルフアライニングトルクは、 べクトルTを軸とする回転方向の力として発生しており、走行時のライダーの操舵力とバランスする様に設定されている。
【0097】
図13は、傾斜走行時にライダーとバランスをとり 安定した傾斜状態で 走行しているときのタイヤ接地面の変化について、詳細に記述したものである。
【0098】
図13aは、 図12におけるタイヤ接地部分の部位を抜き出したものであり、タイヤに掛かる前輪接地点のたわみ形状と 荷重中心点が表現されている。 図中のポイント(j)は、接地点においてこのポイントの荷重が一番高いことを意味している。
【0099】
図13bは、前輪のブレーキ制動により 前記した様に 荷重変化(ΔWB)が発生し 前輪へ荷重が増加したことを受け接地点形状が変形したことを表現したものである。 接地点において 荷重が一番高いところをポイント(k)としている。
すなわち、制動による荷重変化とトレール距離(図5 Lt)の変化に伴い 荷重中心点の移動(j→k)が 前方方向に移動していることが表現される。
荷重ポイントの移動(j→k)は、前後方向以外にもサイドラジアスからセンターラジアス方向への横方向移動も生じる。 (センターラジアスとは、バイクが倒立時に路面接地する中央部であり、サイドラジアスとはバイクが傾斜時に路面接地する肩にあたる部分である。) このポイントの移動は、ブレーキ時のフロントダンパーの沈み込みにより いっそう発生するものである。 ポイントの移動(j→k) は、ブレーキにより路面からうけるタイヤへの外力モーメントとして働き 作用/反作用の関係から路面からの反力(k→j)をうけ 反作用のベクトルが発生すると見立てられる。 よって、ブレーキ時には ハンドルは切れ込む方向のアライメントトルクが発生する。
【0100】
この発生したトルクにより、図12で示されるハンドルが 操舵アングル(β)に加え、 Z軸方向にΔβ切れ込んだと仮定すると 前輪のタイヤには 角運動量Hfによる ジャイロ効果があるため 外力が加えられたことになる。
【0101】
つまり、高速回転しているタイヤには 歳差運動効果があり ブレーキによる反力トルクの発生が 角運動量Hfに外力として トルクが加えられ Δβの微小な方向変化が X軸周りの回転ΔΩとなって発生する。
【0102】
歳差運動は、 Ω×H=T で表わされることが 物理では既に知られている。
公転の角速度ΔΩとタイヤの角運動量Hとのベクトル積は、外部から加えられたトルクに等しいことから、角運動量Hが一定で、外部トルクにより 微小時間Δtの間に Δβの方向変化が生じたとすれば、
Δβ=Ω×Δt として、関係が導け Ω=Δβ/Δtとなる。
よって、Ω×H=T の関係から
T=Ω×Hf
=Δβ/Δt×Hf (Hf=If×ωを代入して)
=If×ω×Δβ/Δt
ωはタイヤの回転速度である。
【0103】
さらに、ブレーキによる微小時間あたりの減速度 dHf/dtを加味すると
dHf=If×dω/dt と記述でき、トルク変化 ΔTは
ΔT=If×dω/dt×Δβ/dt
となる。
ここで、Ifは タイヤの慣性モーメントであり 実際にはタイヤとホイールの重量が該当する。 dω/dtは、ホイールの角速度の変化であり、路面とのスリップが起きていないとすれば ブレーキによるフロント車輪の減速度でもある。
車体の実減速度は、Gセンサー21 で検出しているため差分が求めることができるのでスリップ率の算出が可能である。
【0104】
すなわち、ブレーキによりライダーが Δβの角度変化を発生しないように反力を発生することができれば、X軸方向の回転ΔΩのトルクは発生しないが、ブレーキによる反力がなければ ハンドルの切れ込みが発生する。 X軸方向の回転ΔΩは、前輪を倒立させるためのトルクが発生することになる。 ブレーキによる減速度が大きければトルクの立ち上がりは急となり 操舵に対して一層の注意が必要なことを示唆している。
以上が前輪ブレーキの車体に与える影響である。
【0105】
続いて、後輪ブレーキの車体に与える影響を図14で説明する。
図14は、車両が直進(倒立)で走行している状況を右側面から見た図であり、後輪周辺の構造とブレーキ時の作用を図示したものである。 後輪のシャフト中心軸は、図示されているようにリヤアームに固定されており 車体フレーム支持点aを中心とする上下方向の運動が可能なように制限されている。 リヤアームは、ダンパーを経由し車体フレームに接続される。 リヤブレーキにより、路面にブレーキ摩擦力(FBr)が発生し車体には 反力として逆方向の力の発生とホイール回転速ωに −Δωの変化が生じ、リヤアーム(Larm)長による沈み込みモーメントが発生し、リヤのダンパーを 図の矢印(P)の方向へ縮め 重心を下げる方向に機能する。
【0106】
後輪には、ブレーキの他に、エンジンの駆動力を伝える機能があり、この駆動力が車輪に加わるとタイヤは加速する+Δωとして駆動力が伝達される。 この駆動力の伝達は、 前輪ブレーキの際 説明した荷重移動が発生することを説明したが ブレーキとは逆向きの方向に働く。 すなわち、後輪への荷重増加が発生するため ブレーキ時同様リヤアームを押し下げるモーメントとしての効果が発生し、 図の矢印(P)の方向へ縮め 重心を下げる方向に機能し 荷重の増加に伴う クーロン摩擦円が大きくとれ グリップ力を向上させる効果が期待できる。 よって、後輪には 後輪ブレーキに依る制動 及び エンジン駆動 どちらにおいても後輪への荷重を増加させ 車体を沈め 路面にタイヤを押し付ける効果が備わっており 効率的に駆動力・制動力を伝達する仕組みになっている。
【0107】
次に、旋回時の後輪の作用について 図10に戻り説明する。
図10は、前記したように 旋回時の前輪タイヤの軌跡(A)と後輪タイヤの軌跡(B)が示してある。 直進時は、軌跡(A)と軌跡(B)が ほぼ同一軌跡を通ることは明らかである。 しかし 車体速度を一定とした旋回の場合 バンク角が深くなるに従い 旋回半径が小さくなっていき 軌跡(A)と軌跡(B)の軌跡の 距離がはなれていくことは前記した。
【0108】
前輪の操舵機能を考えた際、後輪からの慣性力を抑え 旋回外側に飛び出さないような動きとなることから 前輪を軸として 後輪は旋回半径に応じで 旋回内側に入る軌道となることが解析される。 前後輪の走行軌跡は、旋回半径で表すことも可能であり、車体速度と傾斜角で決定されることは前記した。
つまり、前輪と後輪の傾斜走行の軌跡距離は異なり、旋回に必要なタイヤ回転速度も前輪と後輪では異なってくる。 通常のグリップ走行と呼ばれる安定した走行の場合、後輪が前輪の軌跡内側を走るアンダーステアー状態での走行になる。 後輪の速度の方が旋回内側に位置しているため 旋回半径の小さい後輪の速度は前輪速度に対して若干遅い必要性が発生する。
この前後輪の軌跡差 及び 速度差は、コーナー進入時の車体速度と傾斜の仕方に関係するところがある。
【0109】
前輪は、エンジンによる加速減速がないこと 及び 前輪を軸とした操舵のため荷重もかかりやすくなること 傾斜に伴うジャイロ効果により路面を押し付ける効果が得られること により荷重がかかるため、コーナー侵入時の車体速度と車輪速度との差分は発生しにくく、順応しやすい。 しかし後輪は、エンジンによる加速減速による回転慣性力(イナーシャます)の影響に加え、後輪は直進方向へ車体の慣性効果がタイヤのスリップアングルとして働くため傾斜する際 荷重が抜けやすい状況にある。 前輪に、傾斜に必要な入力が操作されると 進行方向変更に伴う荷重変化が発生し その後時間遅れを伴い車体の傾きが始まり 重心位置も旋回内側へ移動される。 車体の傾斜は、後輪タイヤの慣性モーメントである角運動量の外力として働き 前輪同様ジャイロ効果により前輪を軸とした車体全体のモーメントとして働き(図11 ΔΩrと同一の意味)、 後輪を旋回外側へ押し遣る車体挙動の力が発生する。 この様な車体構造上の特性は、車体の速度が遅ければ前者のタイヤ速度の変化を吸収することが支配的となるが 車体の速度が速ければ後者の慣性モーメントとして現れ、傾斜に必要な荷重が掛かるまでの時間を要し 速度変化への順応性が悪いため 速度に応じて考慮する必要性が発生する。
【0110】
その表れ方は、傾斜が大きくなる旋回状況(転倒方向)と傾斜が小さくなっていく旋回状況(倒立方向)とで状況が異なる。 図10で説明する。
【0111】
直進からコーナーへの進入に際し、同一速度から 徐々に傾斜角度が増す旋廻をしたケースでは、後輪は旋回半径が徐々に小さくなっていくため 前輪速度よりも徐々に遅い速度に強いられるため 旋回半径の差による回転差を吸収するために タイヤのスリップの発生により 回転差を吸収するよう効果的に機能する。 ここでのタイヤのスリップをスリップアングルとスリップ率の2つに分けて理論解析することができる。 ある程度のスリップアングルとスリップ率は、摩擦抵抗の増大によりグリップ(又は、コーナリングフォース)を生むが 程度を越すと摩擦抵抗は減少し グリップを失う。 一般的には、μ(ミュー)カーブ特性のことを意味している。
【0112】
もしその発生が、図11の切返し時のような場合、速い傾斜変化は、回転差の発生が大きいため 短時間に大きな回転吸収が強いられ 車体が加速される側のスリップが発生し リヤ輪の安定を欠く原因となる。
このような状態で、誤ってアクセルを開けると駆動力によるスリップが発生しやすく後輪の慣性モーメント(図11 Hr)及び スリップ率の向上によるジャイロ効果が発生し 副作用として旋回外側に押しやるモーメント力(図11 ΔΩr)として挙動に現れ 後輪の挙動が不安定となり、簡単に転倒に至る場合がある。 通常、経験的にこのような状況にならないように 傾斜角が増していく旋回状態では後輪ブレーキを軽く作動させながらコーナーへ進入し タイヤと路面とのスリップ率を下げるようにすることで 後輪の挙動を安定化させたりしている。
【0113】
最近では、燃料噴射コントロールの電子化により エンジン制御もマイクロコンピューターによって制御される技術進化により、傾斜角が増えていく時にリヤ輪のスリップ率が大きく発生する様な状況では、一時的に燃料制限をする手段を併用することで より自然でマイルドな車体挙動に仕立てることができると供に 車両挙動を安定化することができる。
【0114】
コーナーから直進への脱出に際し、同一速度で徐々に傾斜角度が小さくなる倒立していく旋回ケースでは、 前輪は車体速度に合致するように タイヤ回転が徐々に増加し順応する。 しかし後輪は、傾斜角によって旋回半径が徐々に大きくなっていくため 後輪タイヤは徐々に前輪速度に追いつくよう速い回転に引きずられることを強いられる。 この際、エンジンブレーキのかかる状況と同じとなり、この旋廻半径の差か生じる回転差を吸収するために タイヤと路面の間には 車体にブレーキがかかる側の力が発生し スリップアングルとスリップ率の発生により車体に対してブレーキがかかり後輪への荷重移動となって、リヤダンパーの沈み込み発生させる。 通常、経験的にこのような状況にならないように コーナー後半の脱出は アクセルを開け気味の緩加速状態で タイヤと路面とのスリップ率を吸収するようにすることで 後輪の挙動を安定化させたりしている。
傾斜からの早い起き上がり及び逆方向への切り返しは、旋回中の遠心力によるダンパーの圧縮と掛かる荷重がバランスをしていたものが 傾斜による遠心力が低下するとダンパーは伸張とロール方向の遠心力により早い切替し が可能となる。 しかしながら、その早い切替しは 倒立点通過時の荷重抜けの原因となってしまい挙動の安定性を欠く原因となる。 これは、ロールによる作用・反作用の力が関わっており 倒立開始から中立点まではロールによる作用が路面(旋回中心側への求心力方向)を押し付けることができるため反作用が働くが 中立点から先の傾斜時になるとロールの反作用は路面を押し付けることができない。
【0115】
通常であれば、倒立点通過時のロール速度を下げるか 後輪ブレーキをかけ荷重ぬけを防止するようにコントロールすることで、ダンパーを再び圧縮させることができ路面押し付け力が機能し前輪が横滑りしないように抑制される。 減速により遠心力Gが低減できるため、ロール速度をさげることができる。
後輪ブレーキは、路面との実傾斜角により車両のコントロールが変化する点に留意しなければならない 特異点があり 図15で説明する。
【0116】
図15は、傾斜走行時の荷重重心点(GS)がタイヤを通じ路面を押し付ける力について表記したものである。 傾斜走行時には、旋回による遠心力と重力による合成力Frunによってバランスが保たれている。 この状況において、後輪ブレーキを掛けると 図14で説明したように 後輪への荷重移動が発生し FBrの押し付け力が発生し 路面a点を押しつける力が上昇する。 ここでは、FBrを0.2G相当の荷重変化が発生すると仮定し 路面aにおける荷重増加(Fbr)を 傾斜角 30度、45度、60度の比較で遠心力成分と重力成分に分離し説明する。
【0117】
ブレーキによる減速が生じないと仮定すれば、実傾斜角 Φe=45度 の場合 2つの成分である 遠心力と重力の関係は一致し 遠心力=重力 であり、荷重変化に伴う車両挙動の変化は生じにくい。 実傾斜が30度の場合、遠心力と重力の関係は 遠心力(y30)>重力(x30) の関係となり、 60度の場合 遠心力(y60)<重力(x60)の関係となる。
すなわち、後輪ブレーキによる効果は 実傾斜角Φeが45度を境に 45度より傾斜角が浅ければ 倒立方向に働き、45度より傾斜角が深ければ転倒方向の傾斜角が深くなるように働く。 言い換えれば、傾斜角が45度を超えるような深い傾斜での走行は、前記のように路面を押し付ける重力方向の力よりも タイヤを横滑りさせる遠心力成分の力が大きくなるため タイヤブリップの限界を超える可能性もあり 横滑りを引き起こす原因になるため 習熟が必要となってくる。
ただし、これはブレーキによる荷重変化に対して説明したものであり、実際には路面状況の変化に加え ブレーキに伴う車両の速度の減速 及び 重心GSが路面を押し付ける遠心力と重力の関係(図13上のベクトルFrun)が連続的に変化するため 複雑になってくるため、さまざま補正を必要とする。
【0118】
必要以上に強い後輪ブレーキは、スリップの増大によるグリップ力の低下や荷重ぬけ 及び 後輪ロックによる車両の安定性を欠くことになりかねない。 と同時に、後輪は車両の安定性を確保する上で重要な位置づけではあるが、前輪ほどシビアな状況下にはなく ロックしてもライダーはコントロールできる状況下であることが多いとされている。
また、後輪ブレーキは ブレーキ力による後輪の沈み込みによる荷重移動が発生し 前輪荷重を低減する効果があり、車体としては弱い減速を行うことができるため 前輪がブレーキを掛けることのできない状況下でも 前輪の負担を軽減させることが可能であり、前後輪の連携したブレーキが効果的であることがここからの伺い知ることができる。
【0119】
以上の様な効果があることから、ブレーキが車両挙動に与える効果について纏めれば
1)直進状態から車体を傾斜させていく場合、傾斜しにくい状況下ではリヤブレーキを かけ傾斜しやすいようにブレーキによるアシストをおこない、傾斜し過ぎる状況下で はフロントブレーキをかけ傾斜しづらいよう ブレーキによるアシストを行う。
2)傾斜走行から車体が直進状態への起き上がり または さらに逆傾斜方向への速い 切り替えしが発生する場合、リヤブレーキをかけ後輪への荷重増加 および リヤタ イヤのスリップ率の向上によるグリップ力の低減効果により、起き上がりしづらいよ うブレーキによるライダーのアシストを行う。
3)車両としてのバランスを保つために、前輪だけ、後輪だけのブレーキだけではなく 前後輪効果的に連続的に配分することで 自然な減速感とマイルドな車体挙動にな るようコントロールするために 前後輪へのブレーキ力配分が必要となる。
【0120】
「請求項3」で記述される、
車両に搭載されるABS(アンチロックブレーキシステム)システムのブレーキ加圧をライダーの操作に依らず 加圧制御できる油圧ポンプ付ABSシステム搭載車において、搭載される車両挙動検出用センサーにより、前後輪荷重、前後輪速度、車体速度、車体加速度 及び 傾斜角度、傾斜角速度、傾斜角加速度、などの車両挙動・走行状態の演算処理を行うブレーキ制御ユニット(ECU)は、
走行中に発生した、傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度の各値が 予め設定される閾値を超える状態が検出された場合、車両が転倒する危険性が高まっていると判断され、車両挙動の 傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度が予め設定される閾値以下になる様に 車体減速度の演算 又はテーブルによる演算より 目標減速度の算出を行い ブレーキ圧力の加圧減圧のコントロール 及び「請求項2」により決定される油圧配分コントロールが決定される 自動加圧制御付きABS装置車両の提供。は、
車両の挙動把握として 車両速度・傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度 の検出に必要な 車両進行方向の加速度が測定できる加速度センサー21、進行方向の左右傾斜角速度(ロール速度)を測定できる角速度センサー22 及び 進行方向に90度向きの異なる左右の横加速度(ロール方向)を測定できる加速度センサー23 及び 前後輪のホイール回転速度センサー24・25 及び 前輪後輪のダンパーの距離を測定するストロークセンサー26・27 などの制御に必要なセンサーを車両に搭載し、それらの情報から必要な演算処理をすることで、 傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度の各値が得られ 予め設定される閾値を超える状態が検出された場合、その車両挙動が予め設定される閾値以下になる様に 傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度の各値と「請求項2」による車両の状態把握(U.S.か、O.S.) 及び車両の速度によってブレーキ制御量・ブレーキ制御配分量が決定され 決定された前後輪の制御量に基づき 前後輪ブレーキのブレーキ力の加減コントロールを行い、車両が安定走行状態に復帰できるよう ライダーへのアシストブレーキを行うものである。
【0121】
「傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度の各値が 予め設定される閾値を超える状態が検出された場合」と表現していることについて説明すると、前記しているように傾斜走行中の二輪車は 安定状態で走行できるようにバランスしているため 傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度の各値が 閾値を越えたことでシステムが急に作動したのではバランスが崩れる可能性がある。 表現上、閾値を越える状況がある場合と記述しているのは 必要に応じてスムーズに制動をかけるとの意味であり、傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度を制御する対象と考える以上 いつも車両挙動をフィードバックしているこが前提になっている。 傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度が急な変化であれば、出力である制動力 及び 制動力配分も急になり、傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度が緩やかな変化であれば、出力である制動力 及び 制動力配分も緩やかであることは必須である。
【0122】
同様に、「傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度が予め設定される閾値以下になる様に」
と表現していることは、ライダーへのアシスト(補助)として 自動加圧制御付きABS装置の出力である制動力 及び 制動力配分が行われた場合には 危険な状況・不安定な状況に隣接される状況にあることから その状況から安定な状況へ遷移するためにある程度 制御状態を続ける意味が込められている。
【0123】
言い換えれば、制動力 及び制動力配分が行われた場合には 傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度の各値に対して、幅をもたせ機能を持続させることであり すぐに動作アシストを止めない 一定時間続けることを意味する。 一定時間続けることで、危険な状況・不安定な状況に隣接される状況から安定な状況へ遷移することを確実に機能できる。
言うなれば、動作に対して、ヒステリシスを持たせる、閾値に幅をもたせる、動作停止時間を遅らせる、ことを表現したものである。
【0124】
車両挙動について説明すれば、
予め設定してある車両挙動である「速度とロールの関係」を超える状況が発生すると走行速度と走行時の傾斜変化に合せ ライダーの意思に依らず 前後輪のブレーキを掛けるシステムであり ブレーキを掛けることにより 車両の減速の仕方をコントロールするが 車両にかかる遠心力をコントロールすることになり 車両の左右ロールモーメントのコントロールを行うものである。 車両の傾斜角の変化が、所定の「速度とロールの関係」の範囲内になれば システムによる自動ブレーキは終了となり 今まで通りのライダーによるコンベンショナルなブレーキが活かされるライダーをアシストするブレーキを提供するものである。
【0125】
もし、ここで仮にライダーの意思がシステムの前輪ブレーキコントロールによる傾斜抑制で発生するハンドルの切れ込むトルクに反し 意図的に操舵力をコントロールした場合 傾斜抑制は、直接的に傾斜抑制する形ではなく前後輪へのバランス保ったブレーキ力を増す制御となり 車両の減速を制御することになるため 結果的に「速度とロールの関係」に収まるような動作となり 挙動はいずれにしても安定状態に遷移し 自動ブレーキは終了となり コンベンショナルなブレーキになる。
【0126】
前輪ブレーキ及び後輪ブレーキでの傾斜抑制を説明したが、前輪ブレーキだけではハンドルの巻き込みトルクも大きく車両の挙動変化への影響も大きいため 後輪ブレーキを効果的に活用することでハンドルの巻き込みを伴わないスムーズな傾斜抑制効果を最大限引出すことが可能となる。 そこ結果、車両の転倒に纏わる「速度とロールの関係」から 逸脱した状況に陥ることが少なくなり、転倒抑制の効果が期待できる。
【0127】
以上のようにブレーキによる効果を 順を追って原理説明してきたが、実際の動きに照らし合わせ説明しておく。 図16の波形は、走行時 左旋回した場合のロール角速度Ψ 及び 傾斜理論角Φ の時間的変化をグラフ化したものである。 この例では、旋回カーブに対して傾斜角40度をターゲット理論傾斜角として図示されている。
図16 a)は、一定速度での走行状態において スムーズに左旋回が行われたときの 傾斜角とロール速度の変化の時間的経過で表したものである。 傾斜角度の時間変化であるロール速度Ψは 約5deg/sec(0.0278π 「rad/sec」)であり 低くスムーズな傾斜角の変化であることがみて取れる。
b)は、傾斜中盤(約4~7秒のところ)に急激な傾斜角変化が発生し車両が不安定になった状況を表現したものである。
ある程度傾斜している状況下で、急激な傾斜速度の変化が生じた場合 その発生した状況に伴い傾斜角が増えいくと 同時に理論傾斜角は深くなっていくためターゲット傾斜をオーバーした傾斜に至ってしまう。 ロールのエネルギーは、急に止まったり・逆方向にはならないため 最大傾斜速度が傾斜角度ごとに固有に存在しており それは速度により変化する。 一般的には、倒立付近では 速い傾斜角速度Ψの変化が生じても不安定にならないが、 傾斜角が深くなっていくに従い傾斜角速度が緩やかになるのが通常といえる。
【0128】
すなわち、ある傾斜角に対して通過する際の角速度には 車両に応じた一定の関係 「角度とロールの関係」が存在している。
その傾斜角度と傾斜角速度は、速度により変化し 車両の速度が高いほど前進方向の慣性力が大きくなるため傾斜し難くなっていく。 よって、「速度とロールの関係」も存在する。
【0129】
図16 b)の例をとれば、序盤に早く倒しすぎたため このままでは、このカーブの狙い傾斜角40度を行き過ぎる可能性があるので 中盤(7〜10秒)にかけゆっくり 倒し過ぎた傾斜を修正し 再び 終盤(13〜16秒)のところで傾斜角は不安定となり ようやく 一定傾斜角の40度に行き着いている。
図の△付線は、制御ありの場合を表したもので、 本装置が作動したときの傾斜角と傾斜角速度の変化で、予め設定してある 「角度と速度の関係」「角速度と速度の関係」の閾値を越える状況下(部位Ψ1)になると システムは自動ブレーキを作動させ傾斜角速度が一定値以下になるまで作動する。 しかしながら、さらに傾斜が深くなっていくと 再び「角度と速度の関係」の閾値を越える状況下(部位Ψ2)になり、自動ブレーキを作動させ傾斜角速度が一定値以下になるまで繰返し作動する。
【0130】
図はモードの設定等で、40度がリミッターとして機能した場合の例が含まれている。 すなわち、傾斜角度が深くなっていくとロールΨの設定値が低くなってくるように予め設定してあるため、「角度とロールの関係」「速度とロールの関係」の範囲内に収まるように車両のロール速度Ψをコントロールするように前後のブレーキは作動する。 車両安定化ブレーキ制御装置のアシストにより、この車両での限界角の40度(仮)とし それ以上傾斜することで一律に制限をかけることも設定可能である。 ライダーは、システムが作動すると速度変化と傾斜角・ロール角の制限がされるため 作動の認識することが可能である。 傾斜限界の角度に近づくとロール速度に制限がかかるため ライダーはコーナー途中でバンク角を探りながら走るようなことをせずに走行できる。
【0131】
また、a)で示すように、傾斜し始めの傾斜速度(ロール速度Ψ)を時間微分 dΨ/dt した角加速度を検知(図中ΔΨの部位)することによりロール速度の変化より 早いタイミングで車両の危険状態を検出することが可能となる。
図17、図18は、 図3ECU内部ブロック構成における 「規範ライダーモデル」 及び 「オーバーターニングモーメント算出」に関し、記述したものであり、MAPデータ化でイメージし易いよう図示も加えた。
図17は、目標制動力を求めるために 傾斜する方向(傾斜側か倒立側か)から理論バンク角(Φ)の時間変化 dΦ/dt から算出した符号によって制御データを切換えている。 本実施例においては、傾斜方向による角速度制御データと傾斜角加速度から得られた角加速度データとを加算し 目標制動力を求めている。 車両によっては、角加速度データを傾斜方向 又は倒立方向でそれぞれ別テーブルとして設ける必要が存在する。
それぞれの制御データは、ロール角速度(Ψ)・理論傾斜角度(Φ)・車体速度(VS)・ロール角加速度から実車特性を加味しセッティングして得られたデータを基に制御量が決定されている。
【0132】
図18は、オーバーターニングモーメント(OTM)を算出するためのブロックで 車体理論角度とタイヤ特性に合せた実傾斜角補正を行い 横移動量のパラーメータ(Δab)を基本式に 軸に掛かる荷重補正と 車体速度と傾斜角から求められる推定舵角による補正を行い OTMを求める一例を記述している。 ここで図示した理論傾斜角度(Φ)と荷重点における実傾斜角(Φe)との関係は 一次式の直線関係で示しているが、タイヤトレッド部のワイド化に伴い 補正を行えるよう 自由なカーブ設定が可能であるよう テーブルデータ化することを付加えて置く。
【0133】
図19は、 図3ECU内部ブロック構成における 目標前後輪油圧値を算出するためのロジックに関し、記述したものである。 前記に説明した目標制動力とOTMにより基本制御量を算出し、車両の重量補正及び 加減速時の軸力配分補正を行い目標油圧値を求める。 車両の走行挙動を表す Ghensaによって、 U.S./O.S.の走行状態が判断され 前輪後輪への油圧系での配分比の決定から油圧指令値が定まると、ライダーの意思に関わらずブレーキ圧力が印加できるよう 油圧ポンプ用のモーターPへ通電が行われる。 油圧指令値の決定に基づき、前輪後輪のP.I.D.コントローラは 指令値になるよう 前輪であれば電磁ソレノイドバルブSV1〜SV4、後輪であれば電磁ソレノイドバルブSV5〜SV8へ 最適にバルブ通電を繰り返し、制御を行うものである。
【0134】
図19の中で示される、破線部で囲まれるブロックは 油圧電流変換Fと油圧電流変換R 及び モーターへの通電F 及び 通電R は、図4で示されている 油圧系での自動ブレーキをモーターに置換えて実現するためのブロック図である。
モーターへの通電によるブレーキは、油圧により発生するブレーキ力に加え モーターで発生するブレーキ力との合算で制御されるため、 図3 ECU内部ブロック図の構成の破線部で示される「前後輪の油圧減速特性の掌握」を行うためのロジックがより必要となってくる。 モーターでのメリットは、現状のABSシステムに対しては ほとんどハード的な変更をする必要がない事から追加的処置で自動ブレーキを付帯できることであること。
【0135】
モーターによるブレーキは、作動及び周囲温度による特性変化が少ないことで安定した制御特性を実現できることにあり 油圧系と供に実現手段を併記しておく。
よって、前後輪のブレーキ油圧の加圧・減圧及び油圧配分を 走行速度と傾斜状態に応じて作動させることにより「速度とロールの関係」を逸脱しないようにコントロールできるので 車両挙動を常に安定化させることが可能となる。
ライダーへのブレーキアシストを行う上でもう一つ重要なのが、路面状況やライダーのスキルを考慮することが重要となってくる。 過剰アシストは、ライダーにとって憂鬱な存在であるため ライダーに合せて動作状況を変化させる必要性が生じる。
【0136】
天候とライダーのスキル判定は難しく、正しく判断できてもライダーの心理状況、疲労状況までマッチさせることは皆無である。 この様な状況に対応する為に、外部からのスイッチ入力(図20)の選択により動作モードを切り替えできる様に いくつかのセッティングを入れておくDATA切り替えを行うことができる様に工夫しておく。 本実施例については、DATA1 と DATA2 の2種類で図示されるが WET路面からサーキット走行等まで考慮すると 車両の性格付けにもよるが5種類程度必要と考えられる。
【0137】
「請求項3」で提供される自動加圧制御ABS装置車両において、ライダーが外部からの選択スイッチによって 走行中の車両速度に応じた、傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度の各値 を外部スイッチによる動作モードの閾値選択を可能とする自動加圧制御付きABS装置車両の提供。
は、前記したように 天候状況やライダーのスキルを考慮し動作モードの変更を実施することができる様に施したものである。
【0138】
この選択スイッチにより、路面が濡れている状況下やスキルの低いライダーが乗車している場合には 「速度とロールの関係」を早い段階からアシストできるように設定ができる。 路面がドライの状況下やスキルの高いライダーには なるべくアシストしなくて良い条件になるように設定しておくことができる。
ここでは、ABSの動作については説明していないが 直進・旋回の如何を問わず常に車輪ロックしないように働いていることを前提としている。 但し、旋回中のスリップ率の変更などは施している。
【0139】
本実施例として、図2で示される油圧回路において バルブ(SV1〜SV8)は通電・非通電の切り替えを行う開閉バルブの例で示されるが 四輪車と異なり二輪車の場合
油圧系のコントロールを早く操作してもON/OFFによる油圧系の脈動変化が生じる状況が車両制御において 無視できない商品性もあるため より自然な車両挙動を得られるように リニアバルブ(図示しない)と呼ばれる 通電電流に比例した安定した油圧出力を得られる部品(リニアソレノイドバルブと呼ぶ場合もある)を使用することで、油圧系の代替方法として可能である。
【0140】
「請求項2」で表現される、「走行中に発生した、傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度の各値が 予め設定される閾値を超える状態が検出された場合、車両が転倒する危険性が高まっていると判断され〜」と記述されているが、閾値を越えない状況でライダーが意図的に強いブレーキをかける状況が発生した場合、前記した「Ghensaの符号と値に基づき 演算式 又はテーブルに従って、前輪後輪へのブレーキ配分が決定される」ロジックに対しては有効に配分されるように機能を組み込むことが可能である。
【0141】
車両挙動が安定している状態であれば、前後の配分すら行われずに済む動作ケースも当然ある。
以上 本発明の実施例を詳述したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記述された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【実施例1】
【0142】
図1は、車両安定化ブレーキ制御装置全体の構成を表したものである。
図2は、車両安定化ブレーキ制御装置の油圧構成を示したものである。
図3は、安定化ブレーキ制御装置の制御ユニットの内部ブロック構成である。
【実施例2】
【0143】
図4は、図2で示される 車両安定化ブレーキ制御装置の油圧構成を電機モーターによる構成にしたものである。
【産業上の利用可能性】
【0144】
ジェットコースターと呼ばれる遊具などの実測/解析などにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】車両安定化ブレーキ制御装置の全体構成
【図2】車両安定化ブレーキ制御装置の油圧構成
【図3】制御ユニット(ECU)の内部ブロック構成
【図4】車両安定化ブレーキ制御装置のモーター構成
【図5】前輪の構造と規定
【図6】車両の重心位置と安定化の為の工夫
【図7】ブレーキ時の車両モーメントと荷重移動
【図8】傾斜走行時のタイヤ荷重の位置変化と傾斜角の規定
【図9】車両につけたGセンサーの検出原理
【図10】前輪と後輪の走行軌跡
【図11】切返し時の走行軌跡
【図12】前輪タイヤに発生するモーメント
【図13】前輪タイヤの接地面荷重の移動
【図14】後輪周辺の構造と加減速時に発生する力
【図15】後輪ブレーキが発生する力の成分
【図16】実走行を模試した波形
【図17】規範ライダーのモデル
【図18】オーバーターニングモーメント算出
【図19】目標前後輪制動力算出
【図20】モード切替えスイッチの一例
【図21】停車時のGセンサーが示す傾斜角出力特性
【図22】角速度センサーが示す傾斜角速度出力特性
【符号の説明】
【0146】
10 車体
20 ハイブリットセンサー
24 前輪車輪速度センサー
25 後輪車輪速度センサー
26 前輪ストロークセンサー
27 後輪車輪速度センサー
30 ブレーキ油圧コントロールユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された車両傾斜角度検出機能により、車体中心線と鉛直線との成す傾斜角度を検出 又は算出された理論バンク角度(Φ)及び 直進走行時のタイヤ路面接地点と傾斜走行時のタイヤ路面接地点の位置移動によって定義される理論バンク角の傾斜戻り角(ρ)より、理論バンク角から傾斜戻り角を減算した実バンク角(Φ−ρ)値を算出し、走行時に発生する左右横方向加速度の理論検出横G(Gkihan)を式、
Gkihan= g{sinΦ−tan(Φ−ρ)・cosΦ}
または
Gkihan= g・cosΦ・tanρ
から 傾斜時に発生する横Gの算出を傾斜角から求める機能を備えることを特徴とする自動二輪車の横方向加速度の規範値検出に関する検出方法。
gは、重力加速度9.81(メートル毎秒毎秒、以降 m/s^2と省略する)
【請求項2】
車両に搭載された車両挙動検出用センサーとして、進行方向に対して左右横方向加速度を検出する加速度センサー 及び 進行方向に対して左右ロール方向角速度を検出する角速度センサーを少なくとも搭載する車両において、
「請求項1」の車両傾斜角度の検出を 角速度センサーから検出された角速度出力(Ψ)の値を時間積分して得られる車体の理論バンク角(Φ) 及び 直進走行時のタイヤ路面接地点と傾斜走行時のタイヤ路面接地点の位置移動によって定義される理論バンク角の傾斜戻り角(ρ)より、理論バンク角から傾斜戻り角を減算した実バンク角(Φ−ρ)値を算出し、走行時に発生する左右横方向加速度を
1)、 傾斜走行時の理論検出横G(Gkihan)を
Gkihan= g{sinΦ−tan(Φ−ρ)・cosΦ}
または
Gkihan= g・cosΦ・tanρ
の式を用いた規範G値の算出、を行う「請求項1」の具現化した算出方法
2)、 走行時に変化する実際の検出横G(Gken)を少なくとも傾斜角の時間微分 (dΦ/dt)値である傾斜角速度(Ψ)を用いた補正を行い、補正後の横G(G hosei)を
Ghosei= Gken−(Ψ・Rhsen)
の式を用いて補正した値の算出G値、
3)、 1)から求めた理論検出横G(Gkihan)と 2)から求めた補正後の 横G(Ghosei)の差分を算出した 偏差横G(Ghensa)を
Ghensa= Ghosei−Gkihan
の式を用いて偏差の値の算出G値、
上記1)、2)、3)から、3種類の横G値 Gkihan、Ghosei、Ghensa、を算出し 車両の挙動を Ghensaの値から、
Ghensa ≒ 0(ゼロ) ならば ニュートラルステアー(N.S.)
Ghensa > 0 (正)ならば オーバーステアー(O.S.)
Ghensa < 0 (負)ならば アンダーステアー(U.S.)
と判断され、 Ghensaの符号と値に基づき 演算式 又はテーブルに従って、前輪後輪へのブレーキ配分が決定される事を特徴とする二輪車のブレーキ装置。
式で使用される gは重力加速度9.81「m/s^2」、 Ψはセンサー出力「rad/sec」、 Rhsenはセンサーの実車倒立時の取付け高さ「m」、をそれぞれ意味する
【請求項3】
車両に搭載されるABS(アンチロックブレーキシステム)システムのブレーキ加圧をライダーの操作に依らず 加圧制御できる油圧ポンプ付ABSシステム搭載車において、搭載される車両挙動検出用センサーにより、前後輪荷重、前後輪速度、車体速度、車体加速度 及び 傾斜角度、傾斜角速度、傾斜角加速度、などの車両挙動・走行状態の演算処理を行うブレーキ制御ユニット(ECU)は、
走行中に発生した、傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度の各値が 予め設定される閾値を超える状態が検出された場合、車両が転倒する危険性が高まっていると判断され、車両挙動の 傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度が予め設定される閾値以下になる様に 車体減速度の演算 又はテーブルによる演算より 目標減速度の算出を行い ブレーキ圧力の加圧減圧のコントロール 及び「請求項2」により決定される油圧配分コントロールが行われる 自動加圧制御付きABS装置車両の提供。
【請求項4】
「請求項3」で提供される自動加圧制御ABS装置車両において、ライダーが外部からの選択スイッチによって 走行中の車両速度に応じた、傾斜角度・傾斜角速度・傾斜角加速度の各値 を外部スイッチによる動作モードの閾値選択を可能とする自動加圧制御付きABS装置車両の提供。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−12903(P2010−12903A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173908(P2008−173908)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(308022715)
【Fターム(参考)】