説明

自動二輪車用ブレーキ制御装置

【課題】後輪浮き上がりをより確実に抑制しつつ、操作フィーリングの向上を実現する。
【解決手段】自動二輪車用ブレーキ制御装置100は、自動二輪車の減速度に相関する減速度モニタ値を取得する減速度モニタ値取得手段21と、制動時の後輪浮き上がりが発生する限界減速度モニタ値に相関する制御目標値を設定する制御目標値設定手段23と、制御目標値に対する減速度モニタ値の不足分を監視し、その不足分の総和に相関する、不足分モニタ値を取得する不足分モニタ値取得手段24と、取得された不足分モニタ値が所与の第一条件を満たす場合に、ブレーキ装置の制動力の増加勾配を、制動力の増加制御開始時における増加勾配よりも大きく設定する制動力増加勾配設定手段25と、を備え、設定された増加勾配に基づいて車輪ブレーキの制動力を制動力制御手段26が制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の制動時、特に高減速の場合に荷重が前輪側に移動し、後輪が浮き上がるという所謂「後輪浮き上がり(後輪荷重抜け、ジャックナイフ、リアリフトアップなどともいう)」を、ABS制御を利用して抑制するブレーキ制御装置が知られている。
例えば、特許文献1では、後輪の接地荷重が所定値以下であることを判断する判断手段を有し、所定値以下と判断した場合には、前輪ブレーキの制動力を減衰制御する自動二輪車用ブレーキ制御装置が開示されている。また、特許文献2では、アンチロックブレーキ制御の作動前および作動中において、高G制動および急制動と判定された場合に、ABSシステムを用いて増加モードと保持モードとを断続的に切り替えることによって、増加レートを通常よりも緩やかにする技術が開示されている。
さらに、特許文献3においては、後輪浮き上がりを検出した場合、前輪の制動力を時間関数に応じて低下させる技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−24523号公報
【特許文献2】特開平6−255468号公報
【特許文献3】特開平5−201317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の後輪浮き上がりを防止する制御では、いずれも、後輪の浮き上がりを発生する条件がそろった場合に、前輪ブレーキの制動力を緩増加するようになっていたので、ブレーキを操作したときに減速感の不足を感じてしまうなど、操作フィーリングが低下するおそれがあった。そこで、単純に所定時間緩増加による制動力の制御を行った後に、増加勾配を大きくして制動力を強める手法を採ることが挙げられる。しかし、増加勾配を大きくして制動力を強める手法では、増加勾配が大きくなるのに伴って後輪浮き上がりが発生するおそれがあった。
【0005】
本発明は、前記した事情に鑑みて創案されたものであり、後輪浮き上がりを確実に抑制しつつ、操作フィーリングの向上を実現することが可能な自動二輪車用ブレーキ制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために創案された本発明は、車輪に装着されたブレーキ装置の制動力を少なくとも減少または増加するように制御する制動力制御手段を有し、制動時の車輪ロックを抑制する自動二輪車用ブレーキ制御装置であって、自動二輪車の減速度に相関する減速度モニタ値を取得する減速度モニタ値取得手段と、制動時の後輪浮き上がりが発生する限界減速度に相関する制御目標値を設定する制御目標値設定手段と、前記制御目標値に対する前記減速度モニタ値の不足分を監視し、その不足分の総和に相関する、不足分モニタ値を取得する不足分モニタ値取得手段と、取得された不足分モニタ値が所与の第一条件を満たす場合に、前記ブレーキ装置の制動力の増加勾配を、制動力の増加制御開始時における増加勾配よりも大きく設定する制動力増加勾配設定手段と、を備え、前記制動力制御手段は、設定された増加勾配に基づいて前記ブレーキ装置の制動力を制御することを特徴とする。
【0007】
かかる自動二輪車用ブレーキ制御装置によると、不足分モニタ値取得手段により、制御目標値に対する減速度モニタ値の不足分が監視され、その不足分の総和に相関する、不足分モニタ値が取得される。そして、制動力増加勾配設定手段により、不足分モニタ値が所与の第一条件を満たす場合に、制動力の増加勾配が大きく設定される。すなわち、制御目標値に対する減速度モニタ値の不足分が所与の条件を満たすほど不足した状態、つまり制御目標値に対して減速度モニタ値の不足分が多く、減速度モニタ値が制御目標値に達しない状態が長く続いて制動力を大きくしても後輪浮き上がりが生じにくい状況であるときには、制動力が増加されるようになる。これによって、後輪浮き上がりが抑制されつつ、操作フィーリングが向上される。
【0008】
また、前記制動力増加勾配設定手段は、取得された不足分モニタ値が所与の第一条件を満たす場合に、前記ブレーキ装置の制動力の増加勾配を、制動力の増加制御開始時における増加勾配よりも大きく設定するとともに、取得された不足分モニタ値が、前記第一条件を満たした後に所与の第二条件を満たす場合に、大きく設定された前記増加勾配を、これよりも小さく設定し直す構成とするのがよい。
【0009】
かかる自動二輪車用ブレーキ制御装置によると、取得された不足分モニタ値が、第一条件を満たした後に所与の第二条件を満たす場合、例えば、制御目標値に対する減速度モニタ値の不足分が少なくなるか、またはなくなる等の条件を満たす状態になって、増加勾配の大きい制動力の制御が必要とならない状態となった場合に、制動力の増加勾配が小さく設定されるようになる。つまり、制動力が大きく増加された後でも、必要に応じて、制動力の増加を小さくすることができるようになり、減速度モニタ値の不足分に対応した制動力で制動を行うことができるようになる。したがって、後輪浮き上がりを一層抑制しつつ、操作フィーリングが向上される。
【0010】
さらに、制動力増加勾配設定手段は、取得された不足分モニタ値に基づいて、所与の増加量で制動力を増加制御するとともに、取得された不足分モニタ値が前記第一条件に近いほど前記増加量を大きく設定する構成とするのがよい。また、前記制動力増加勾配設定手段は、取得された不足分モニタ値に基づいて、所与のタイムインターバルで断続的に制動力を増加制御するとともに、取得された不足分モニタ値が大きいほど増加制御中における前記タイムインターバルの割合を小さく設定する構成とするのがよい。
【0011】
かかる自動二輪車用ブレーキ制御装置によれば、制動力増加勾配設定手段は、取得された不足分モニタ値が大きいほど増加量を大きく設定し、また、取得された不足分モニタ値が大きいほどタイムインターバルを短く設定する構成であるので、不足分モニタ値が大きく、減速度モニタ値の不足分に対応した増加勾配を大きく設定する必要がある場合に、制動力の増加制御を効率よく行うことができる。
【0012】
また、前記不足分モニタ値取得手段は、前記減速度モニタ値が前記制御目標値に達していない場合にカウント値をカウントダウンし、前記減速度モニタ値が前記制御目標値に達している場合にカウント値をカウントアップするカウンタを備え、前記カウンタによるカウント値が所与のカウント値に達した場合に、前記ブレーキ装置の制動力の増加勾配を、制動力の増加制御開始時における増加勾配よりも大きく設定する構成とするのがよい。
【0013】
かかる自動二輪車用ブレーキ制御装置によれば、不足分モニタ値取得手段のカウンタにより、減速度モニタ値が制御目標値に達していないときにカウント値がカウントダウンされ、減速度モニタ値が前記制御目標値に達しているときにカウント値がカウントアップされるようになっているので、取得された減速度モニタ値の変化に追従させてカウント値を増減させることができる。そして、不足分モニタ値取得手段は、カウンタによるカウント値が所与の第一条件である所与のカウント値に達した場合に、ブレーキ装置の制動力の増加勾配を、制動力の増加制御開始時における増加勾配よりも大きく設定するようになっているので、ブレーキ装置の制動力が増加されるようになり、減速度モニタ値の変化に追従させつつ、より一層的確に後輪浮き上がりが抑制されるようになり、操作フィーリングが向上する。しかも好適な制動力の確保も実現される。
【0014】
また、前記カウンタによるカウント値が所与の前記第一条件の所与のカウント値に達した場合に、前記ブレーキ装置の制動力の増加勾配を、制動力の増加制御開始時における増加勾配よりも大きく設定し、所与の前記第二条件としての所与のカウント値に戻った場合に、大きく設定された前記増加勾配を、これよりも小さく設定する構成とするのがよい。
【0015】
かかる自動二輪車用ブレーキ制御装置によれば、カウンタによるカウント値が所与の第一条件の所与のカウント値に達した後、再び所与の第二条件としての所与のカウント値に戻った場合、つまり、制動力の増加が必要とならなくなった場合に、制動力の増加勾配が小さく設定されるようになり、これによって、増加勾配が減速度モニタ値の不足分に対応した的確な勾配に設定されるようになる。したがって、後輪浮き上がりを抑制しつつ、操作フィーリングが向上される。
【0016】
また、前記不足分モニタ値取得手段は、前記制動力制御手段による前記ブレーキ装置の制動力の制御が、増加制御から減少制御へ切り替わる際に、前記カウント値を初期値にリセットする構成とするのがよい。
【0017】
かかる自動二輪車用ブレーキ制御装置によれば、増加制御から減少制御へ切り替わる際に、カウント値が初期値にリセットされるので、増加制御から減少制御へ切り替わった際の演算処理を単純化することができ、その分、不足分モニタ値の取得を少ない演算処理負荷で実現することができる。
【0018】
また、路面摩擦係数が所与の低摩擦係数条件を満たすか否かを判定する路面摩擦係数判定手段をさらに備え、前記制動力増加勾配設定手段は、路面摩擦係数が所与の低摩擦係数条件を満たすと判定された場合に、前記ブレーキ装置の制動力の増加勾配を、制動力の増加制御開始時における増加勾配よりも大きく設定する構成とするのがよい。
【0019】
かかる自動二輪車用ブレーキ制御装置によれば、路面摩擦係数が低く後輪浮き上がりが発生しにくい場合には、ブレーキ装置の制動力の増加勾配が、制動力の増加制御開始時における増加勾配よりも大きく設定されて制動力が増加されるようになり、これによって、効率的な制動が行われるようになる。
【0020】
さらに、自動二輪車の制動開始からの経過時間が、自動二輪車の前後車輪間荷重変化が安定するのに要する基準時間以内であるか否かを判定する経過時間判定手段をさらに備え、前記制御目標値設定手段は、経過時間が基準時間以内であると判定された場合に、経過時間が基準時間を超えたと判定された場合と比べて、制御目標値を小さく設定する構成とするのがよい。
【0021】
かかる自動二輪車用ブレーキ制御装置によれば、経過時間が基準時間以内である場合には、自動二輪車の荷重が移動している状態であるため、経過時間が基準時間を超えている場合と比べて、限界減速度モニタ値(例えば、制動時の後輪浮き上がりが発生する減速度モニタ値のうち、最も小さい値)が小さくなる。したがって、経過時間が基準時間以内である場合に、経過時間が基準時間を超えている場合と比べて、制御目標値を小さく設定することにより、自動二輪車の状態によって異なる限界減速度モニタ値に対応した制御を行うことができるようになる。したがって、後輪浮き上がりを抑制しつつ、操作フィーリングが向上される。
【0022】
また、前記ブレーキ装置のうち、前輪ブレーキ装置の制動力と後輪ブレーキ装置の制動力との発生順序を判定する制動力発生順序判定手段をさらに備え、前記制御目標値設定手段は、前記前輪ブレーキ装置の制動力の発生が前記後輪ブレーキ装置の制動力の発生よりも遅いと判定された場合に、前記前輪ブレーキ装置の制動力の発生が前記後輪ブレーキ装置の制動力の発生よりも早いと判定された場合と比べて、制御目標値を大きく設定する構成とするのがよい。
【0023】
かかる自動二輪車用ブレーキ制御装置によれば、前輪ブレーキ装置の制動力の発生が後輪ブレーキ装置の制動力の発生よりも遅いまたは同時である場合には、後輪ブレーキ装置の制動力により自動二輪車の重心が下がり、後輪浮き上がりが発生しにくくなるので、前輪ブレーキ装置の制動力の発生が後輪ブレーキ装置の制動力の発生よりも早い場合と比べて、限界減速度モニタ値が大きくなる。
したがって、前輪ブレーキ装置の制動力の発生が後輪ブレーキ装置の制動力の発生よりも遅いまたは同時である場合に、前輪ブレーキ装置の制動力の発生が後輪ブレーキ装置の制動力の発生よりも早い場合と比べて、制御目標値を大きく設定することにより、自動二輪車の状態によって異なる限界減速度モニタ値に対応した制御を行うことができるようになる。したがって、後輪浮き上がりを抑制しつつ、操作フィーリングが向上される。
【0024】
また、前記前輪ブレーキ装置の制動力と前記後輪ブレーキ装置の制動力との大きさの関係を判定する制動力大きさ判定手段をさらに備え、前記制御目標値設定手段は、前記前輪ブレーキ装置の制動力が前記後輪ブレーキ装置の制動力よりも所定の条件を満たして小さいと判定された場合に、前記前輪ブレーキ装置の制動力が前記後輪ブレーキ装置の制動力よりも大きいと判定された場合と比べて、制御目標値を大きく設定する構成とするのがよい。
【0025】
かかる自動二輪車用ブレーキ制御装置によれば、前輪ブレーキ装置の制動力が後輪ブレーキ装置の制動力以下である場合には、後輪ブレーキ装置の制動力により自動二輪車の重心が下がり、後輪浮き上がりが発生しにくくなるので、このような場合に制御目標値を大きく設定することにより、自動二輪車の状態によって異なる限界減速度モニタ値に対応した制御を行うことができるようになり、後輪浮き上がりを抑制しつつ、操作フィーリングが向上される。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る自動二輪車用ブレーキ制御装置によると、後輪浮き上がりを確実に抑制しつつ、操作フィーリングを向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、説明において、同一の要素には同一の符号を用い、重複する説明は省略する。
(第1実施形態)
参照する図面において、図1は本発明の第1実施形態に係る自動二輪車用ブレーキ制御装置を備えた自動二輪車の構成図であり、図2は同じくブレーキ液圧回路図である。
【0028】
図1に示すように、自動二輪車用ブレーキ制御装置100は、自動二輪車である車両BKの前輪FTおよび後輪RT(以下、車輪FT,RTということがある)に付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御するためのものであり、油路(ブレーキ液の流路)や各種部品が設けられた液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御装置20とを主に備えている。また、この自動二輪車用ブレーキ制御装置100の制御装置20には、第一マスタシリンダM1および第二マスタシリンダM2により発生したブレーキ液圧(第一マスタシリンダ圧、第二マスタシリンダ圧)を検出する第一圧力センサ51および第二圧力センサ52(以下、圧力センサ51,52ということがある)と、前輪FTおよび後輪RTの車輪速度(前輪速度、後輪速度)を検出する前輪速度センサ53および後輪速度センサ54(以下、車輪速度センサ53,54ということがある)と、が接続されている。制御装置20は、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、各圧力センサ51,52および前輪速度センサ53,後輪速度センサ54からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各演算処理を行うことによって、制御を実行する。
【0029】
前輪FTには、第一前輪ホイールシリンダFH1および第二前輪ホイールシリンダFH2(連動ブレーキ)が設けられ、また、後輪RTには、後輪ホイールシリンダRHが設けられている。
第一前輪ホイールシリンダFH1は、第一マスタシリンダM1および自動二輪車用ブレーキ制御装置100により発生されたブレーキ液圧を前輪FTに設けられた前輪ブレーキ(前輪ブレーキ装置)FBの作動力に変換する液圧装置である。第二前輪ホイールシリンダFH2は、第二マスタシリンダM2および自動二輪車用ブレーキ制御装置100により発生されたブレーキ液圧を前輪FTに設けられた前輪ブレーキFBの作動力に変換する液圧装置である。
後輪ホイールシリンダRHは、第二マスタシリンダM2および自動二輪車用ブレーキ制御装置100により発生されたブレーキ液圧を後輪RTに設けられた後輪ブレーキ(後輪ブレーキ装置)RBの作動力に変換する液圧装置である。これらの第一前輪ホイールシリンダFH1、第二前輪ホイールシリンダFH2および後輪ホイールシリンダRHは、それぞれ配管を介して自動二輪車用ブレーキ制御装置100の液圧ユニット10に接続されている。
【0030】
(液圧ユニット10)
図2に示すように、自動二輪車用ブレーキ制御装置100の液圧ユニット10は、運転者が第一ブレーキ操作子L1および第二ブレーキ操作子L2に加えた力に応じたブレーキ液圧をそれぞれ発生する第一マスタシリンダM1および第二マスタシリンダM2と、前輪ブレーキFBおよび後輪ブレーキRBとの間に配置されており、ブレーキ液が流通する油路を有する基体であるポンプボディ10a、油路上に複数配置された入口弁11、出口弁12などから構成されている。
第一マスタシリンダM1は、ポンプボディ10aに形成された出力液圧路A1に接続され、ポンプボディ10aに形成された車輪液圧路B1が、第一前輪ホイールシリンダFH1に接続されている。第二マスタシリンダM2は、ポンプボディ10aに形成された出力液圧路A2に接続されており、ポンプボディ10aに形成された車輪液圧路B2が、第二前輪ホイールシリンダFH2および後輪ホイールシリンダRHに接続されている。
第一マスタシリンダM1に接続された油路は、通常時、第一マスタシリンダM1から第一前輪ホイールシリンダFH1まで連通しており、第一ブレーキ操作子L1に加えた操作力が前輪ブレーキFBに伝達されるようになっている。第二マスタシリンダM2に接続された油路は、通常時、第二マスタシリンダM2から第二前輪ホイールシリンダFH2および後輪ホイールシリンダRHまで連通しており、第二ブレーキ操作子L2に加えた操作力が前輪ブレーキFBおよび後輪ブレーキRBに伝達されるようになっている。
【0031】
第一マスタシリンダM1と第一前輪ホイールシリンダFH1とをつなぐ油路上には、前輪ブレーキFBに対応して一つの入口弁11、一つの出口弁12および一つのチェック弁11aが設けられている。第二マスタシリンダM2と第二前輪ホイールシリンダFH2および後輪ホイールシリンダRHとをつなぐ油路上には、前輪ブレーキFBおよび後輪ブレーキRBに対応して二つの入口弁11、二つの出口弁12および二つのチェック弁11aがそれぞれ設けられている。
また、ポンプボディ10aには、第一マスタシリンダM1および第二マスタシリンダM2に対応して二つのリザーバ13、二つのポンプ14、これらのポンプ14それぞれに設けられた吸入弁15並びに吐出弁16、二つダンパ17および二つのオリフィス17aが設けられている。また、液圧ユニット10は、二つのポンプ14を駆動するための電動モータ18を備えている。
【0032】
入口弁11は、常開型の電磁弁であり、第一マスタシリンダM1と第一前輪ホイールシリンダFH1との間(出力液圧路A1と車輪液圧路B1との間)、第二マスタシリンダM2と第二前輪ホイールシリンダFH2との間(出力液圧路A2と車輪液圧路B2との間)、および第二マスタシリンダM2と後輪ホイールシリンダRHとの間(出力液圧路A2と車輪液圧路B2との間)にそれぞれ設けられている。各入口弁11は、通常時に開いていることで、第一マスタシリンダM1から第一前輪ホイールシリンダFH1へ、第二マスタシリンダM2から第二前輪ホイールシリンダFH2および後輪ホイールシリンダRHへブレーキ液圧が伝達するのをそれぞれ許容している。また、各入口弁11は、前輪FTおよび後輪RTがロックしそうになったときに制御装置20により閉塞されることで、第一ブレーキ操作子L1から前輪ブレーキFBへ、第二ブレーキ操作子L2から前輪ブレーキFRおよび後輪ブレーキRBへ加わるブレーキ液圧を遮断する。
【0033】
出口弁12は、常閉型の電磁弁であり、第一前輪ホイールシリンダFH1とリザーバ13との間(開放路C1上)、第二前輪ホイールシリンダFH2とリザーバ13との間(開放路C2上)、および後輪ホイールシリンダRHとリザーバ13との間(開放路C2上)にそれぞれ設けられている。各出口弁12は、通常時に閉塞されているが、前輪FTおよび後輪RTがロックしそうになったときに制御装置20により開放されることで、前輪ブレーキFBおよび後輪ブレーキRBへ加わるブレーキ液圧を各リザーバ13に逃がす。
【0034】
チェック弁11aは、各入口弁11に並列に接続されている。このチェック弁11aは、第一前輪ホイールシリンダFH1から第一マスタシリンダM1側、第二前輪ホイールシリンダFH2から第二マスタシリンダM2側、および後輪ホイールシリンダRHから第二マスタシリンダM2側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁であり、第一ブレーキ操作子L1および第二ブレーキ操作子L2からの入力が解除された場合に入口弁11を閉じた状態にしたときにおいても、各ホイールシリンダFH1,FH2,RH側から各マスタシリンダM1,M2側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0035】
リザーバ13は、各出口弁12が開放されることによって逃がされるブレーキ液を吸収する機能を有している。
【0036】
各ポンプ14は、リザーバ13で吸収されているブレーキ液をそれぞれ吸入し、そのブレーキ液を各マスタシリンダM1,M2側へ戻す機能を有している。これにより、リザーバ13によるブレーキ液の吸収によって減圧された各出力液圧路A1,A2の圧力状態が回復される。
【0037】
吸入弁15は、リザーバ13とポンプ14の上流側との間に設けられており、リザーバ13側からポンプ14の上流側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁である。
【0038】
吐出弁16は、ポンプ14の下流側と各マスタシリンダM1,M2との間に設けられており、ポンプ14の下流側から各マスタシリンダM1,M2側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁である。吐出弁16を介してマスタシリンダM1,M2側へ吐出されたブレーキ液の脈動は、ダンパ17およびオリフィス17aによって吸収される。
【0039】
第二前輪ホイールシリンダFH2とそれに対応する入口弁11との間には、ディレイバルブ19が設けられている。ディレイバルブ19は、その機械的構造により、第二ブレーキ操作子L2の操作によってブレーキ液に加えられた圧力を、後輪ホイールシリンダRHよりも第二前輪ホイールシリンダFH2に対して小さく伝える機能を有する弁である。さらに、このディレイバルブ19の作用により、第二前輪ホイールシリンダFH2にブレーキ液圧が加えられ始めるタイミングが、後輪ホイールシリンダRHにブレーキ液圧が加えられ始めるタイミングよりも、少し遅れることがある。
【0040】
(制御装置20)
続いて、制御装置20について説明する。図3は、本発明の実施形態に係る自動二輪車用ブレーキ制御装置を示すブロック図である。
図3に示すように、制御装置20は、機能部として、減速度モニタ値取得手段21と、車体速度モニタ値取得手段22と、制御目標値設定手段23と、不足分モニタ値取得手段24と、制動力増加勾配設定手段25と、制動力制御手段26と、ABS判定手段30と、を備えている。
【0041】
(減速度モニタ値取得手段21)
減速度モニタ値取得手段21は、車両BKの減速度に相関する減速度モニタ値を取得する。減速度モニタ値は、特に前輪FTの減速度に相関していることが望ましく、減速度モニタ値としては、前輪FTの車輪減速度である前輪減速度、前輪ブレーキFBの制動力である前輪ホイールシリンダ圧などが挙げられる。減速度モニタ値が前輪減速度である場合には、減速度モニタ値取得手段21は、前輪速度センサ53により検出された前輪速度を時間微分することによって前輪減速度を取得する。減速度モニタ値が前輪ホイールシリンダ圧である場合には、減速度モニタ値取得手段21は、第一圧力センサ51および第二圧力センサ52により検出された各マスタシリンダ圧と、後記する制動力制御手段26による各入口弁11および各出口弁12の駆動量とに基づく演算により、前輪ホイールシリンダ圧を取得する。以下、減速度モニタ値が前輪ホイールシリンダ圧である場合を中心にして説明する。取得された減速度モニタ値は、不足分モニタ値取得手段24、制動力増加勾配設定手段25、制動力制御手段26に出力される。
【0042】
(車体速度モニタ値取得手段22)
車体速度モニタ値取得手段22は、車両BKの車体速度に相関する車体速度モニタ値を取得する。車体速度モニタ値としては、車両BKの車体の速度である車体速度などが挙げられる。車体速度モニタ値が車体速度である場合には、車体速度モニタ値取得手段22は、前輪速度センサ53および後輪速度センサ54により検出された各車輪速度に基づいて、車体速度を取得する。車体速度を取得するための算出方法としては、公知の方法を用いることが可能である。例えば、前輪速度センサ53により検出された前輪速度をV、後輪速度センサ54により検出された後輪速度をVとすると、車体速度VBKは次式(1)により得られる。
BK = (V + V)/2 …式(1)
取得された車体速度モニタ値は、ABS判定手段30,制御目標値設定手段23に出力される。
【0043】
(制御目標値設定手段23)
制御目標値設定手段23は、制動力制御手段26が前輪ブレーキFBを制御する際における減速度モニタ値の目標値である制御目標値を設定する。制御目標値は、制動時の後輪浮き上がりが発生する減速度モニタ値のうち、最も小さい値(限界減速度モニタ値)に相関する値である。
限界減速度モニタ値は、車両BKの性能、路面摩擦係数、車体速度などによって変化する値であり、各条件下における限界減速度モニタ値が予め実験などにより求められており、かかる限界減速度モニタ値に基づいて各条件下における制御目標値が決められている。制御目標値設定手段23は、各条件と当該条件下における制御目標値を関連付けて記憶している。
また、制御目標値設定手段23は、ABS制御などにおける各入口弁11、各出口弁12および電動モータ18の駆動量を制御するための目標値を設定することができる。
【0044】
(不足分モニタ値取得手段24)
不足分モニタ値取得手段24は、制御目標値設定手段23で設定された制御目標値に対する、減速度モニタ値(減速度モニタ値取得手段21)の不足分を監視し、その不足分の総和に相関する、不足分モニタ値を取得する。そのための手段として、不足分モニタ値取得手段24は、カウンタを備えている。このカウンタは、減速度モニタ値が制御目標値に達していない場合、つまり、減速度モニタ値が制御目標値に到達しないで不足している場合にカウント値CTを減算(カウントダウン)し、また、減速度モニタ値が制御目標値に達した場合、つまり、減速度モニタ値が制御目標値と同じになるか、制御目標値を超えた場合にカウント値CTを加算(カウントアップ)するようになっている。そして、このようなカウント値CTの総和を取得することで、これを不足分モニタ値として利用している。ここで、減速度モニタ値V(>0(ゼロ))、制御目標値V(>0(ゼロ))、不足分モニタ値Pの関係は、次式(2)で表される。
= V −V・・・(2)
また、P>V・・・カウントアップ、P<V・・・カウントダウン
である。
【0045】
また、このようなカウンタによらず、制御目標値Vと減速度モニタ値Vとの差分を抽出して時間で積分することで不足分モニタ値Pを取得するように構成してもよい。この場合には、不足分モニタ値Pが制御目標値Vと減速度モニタ値Vとの差分の時間積分値となっているので、減速度モニタ値Vの変化に追従した値が得られるようになり、後記する高レートの増加勾配の設定精度を高めることができる。
【0046】
(制動力増加勾配設定手段25)
制動力増加勾配設定手段25は、制御目標値Vと減速度モニタ値Vとの関係に基づいて、前輪ブレーキFBの制動力の増加勾配を設定する。本実施形態では、制動力増加勾配設定手段25が勾配の異なる少なくとも二種類以上の制動力の増加勾配を設定することができるようになっている。少なくともその一つの増加勾配は、後輪RTの浮き上がりを防止するための緩い増加勾配、つまり、制動力の増加制御開始時に設定される増加勾配であって、通常よりも小さい所定の増加勾配(例えば、いわゆる緩増加勾配)であり、他の一つの増加勾配は、本実施形態の特徴的部分である、前記緩増加勾配よりも勾配が大きく設定された高レートの増加勾配である。
【0047】
緩増加勾配は、制動開始後の車体減速度および車体減速度の時間変化量がそれぞれの所定値を超えたときに設定されるようになっており、前記したように、後輪RTの浮き上がりを防止する目的で設定される。つまり、運転者のブレーキ操作により車両BKが急減速されて荷重(重心)が前輪FT側に移動し、後輪RTの浮き上がりが生じそうになったときに、これを防止する目的で制動力の増加勾配が緩増加勾配に設定される。したがって、前輪ブレーキFBには、通常の制動力よりも弱い制動力がかけられることとなるので、運転者の操作フィーリングが損なわれる可能性がでてくる。そこで、この損なわれがちな操作フィーリングを向上させるために、制動力増加勾配設定手段25により制動力の増加勾配が高レートの増加勾配に設定されるようになっている。
【0048】
高レートの増加勾配は、取得された不足分モニタ値Pが所与の第一条件を満たす場合に設定されるようになっており、制動力の増加制御開始時における増加勾配、つまり、前記緩増加勾配よりも増加勾配が大きく設定される。本実施形態では、不足分モニタ値取得手段24における不足分モニタ値Pとしてのカウント値CTが、所与の第一条件としての所定値に達したか否かを制動力増加勾配設定手段25が判定し、達したと判定された場合に、緩増加勾配を高レートの増加勾配に設定するようになっている。このような高レートの増加勾配は、所与の第一条件としての所定値に達している間、繰り返し設定される。また、高レートの増加勾配に設定された後、カウント値CTが前記所定値に達しない状態となった場合には、前輪ブレーキFBの制動力の増加勾配が、高レートの増加勾配から再び緩増加勾配に設定される。なお、高レートの増加勾配に一旦設定された場合には、所定時間、カウント値CTの値にかかわらず、高レートの増加勾配が維持されるように構成してもよい。
【0049】
また、所定値は、段階的に複数設定されるように構成してもよく、カウント値CTが各所定値に達したか否かで高レートの増加勾配が段階的に勾配を変えて複数種類設定されるようにしてもよい。
高レートの増加勾配は、後記する増圧パルス(パルス信号の開信号の量)およびタイムインターバル(パルス信号の開信号の間隔)を走行状況等によって可変することで設定されるようになっている。なお、複数種類のパターンを制動力増加勾配設定手段25に予め記憶しておいて、走行状況等に基づいて適宜これを取得して設定するようにしてもよい。例えば、増加勾配を高めるには、タイムインターバルを短く、あるいは増圧パルスを長くすることで、または増加制御中のタイムインターバルの比率を下げることでも実現できる。
【0050】
(制動力制御手段26)
制動力制御手段26は、各入口弁11、各出口弁12および電動モータ18の駆動量を制御することにより、前輪ブレーキFBおよび後輪ブレーキRBの制動力を制御する。また、制動力制御手段26は、減速度モニタ値Vを制御目標値Vに近づけるように前輪ブレーキFBの制動力を制御するものであり、制動力増加勾配設定手段25により設定された増加勾配(緩増加勾配、高レートの増加勾配)に基づいて、前輪ブレーキFBの制動力を制御(増加制御)する。
具体的に、制動力制御手段26は、前輪制動開始後に、車体減速度および車体減速度の時間変化量がそれぞれの所定値を超えると、緩増加勾配に基づいて前輪ブレーキFBの制動力を制御し、その後、不足分モニタ値取得手段24のカウンタによりカウントされたカウント値CTが所定値に達したときに高レートの増加勾配に基づいて前輪ブレーキFBの制動力を制御する。また、カウント値CTが所定値に達していない状態に戻ったときには、緩増加勾配に基づいて前輪ブレーキFBの制動力を制御する。したがって、後輪Rの浮き上がりの発生を抑制しつつ、前輪ブレーキFBの制動力を強く作用させて操作フィーリングの向上を実現することができる。
【0051】
(ABS判定手段30)
ABS判定手段30は、各車輪速度センサ53,54により検出された各車輪速度と、車体速度モニタ値取得手段22により取得された車体速度モニタ値とに基づいて、各車輪ブレーキFB,RBのABS制御が必要であるか否かについて判定する。判定結果は、制御目標値設定手段23および制動力制御手段26に出力される。
【0052】
(前輪ブレーキFBの制動力の制御方法)
続いて、本実施形態に係る自動二輪車用ブレーキ制御装置100を用いた、前輪ブレーキFBの制動力の制御方法について説明する。図4は本実施形態に係る自動二輪車用ブレーキ制御装置100を用いた、前輪ブレーキFBの制動力の制御方法を説明するためのフローチャートである。図5は、図4のステップS5のサブルーチンである。以下、図1から図3も適宜参照して説明する。
【0053】
図4に示すように、運転者が前輪ブレーキFBへの操作入力を行い、前輪ブレーキFBが制動力を発生すると、まず、ステップS1に示すように、各種モニタ値が制御装置20により取得される。そして、ステップS2に進み、ABS判定手段30により、前輪ブレーキFBの制動力をABS制御する必要があるか否かが判定される。
【0054】
ステップS2において、ABS判定手段30により、前輪ブレーキFBの制動力をABS制御する必要がある(Yes)と判定された場合には、制御装置20の制動力制御手段26が、ABS制御により前輪ホイールシリンダ圧を減圧する(ステップS3)。これとともに、ステップS4に進んで、カウント値CTが初期値にリセットされる。
【0055】
一方、ステップS2において、前輪ブレーキFBの制動力をABS制御する必要がない(No)と判定された場合には、ステップS5に進んで、制御装置20が、前輪ブレーキFBに対して後輪浮き上がり抑制制御を実行する。
【0056】
制御装置20は、これらの制御を前輪ブレーキFBへの操作入力が解除される(ステップS6でYes)まで、繰り返し実行する。
【0057】
ここで、ステップS5における後輪浮き上がり抑制制御についてさらに詳しく説明する。
図5に示すように、まず、制御装置20の制動力増加勾配設定手段25により、制動開始後の車体減速度および車体減速度の時間変化量がそれぞれの所定値を超えたか否かが判断され、所定値を超えたと判断された場合(ステップS10でYes)に、制動力制御手段26に信号を出力する。これにより、制動力制御手段26が、所定の増加勾配に基づいて前輪ホイールシリンダ圧を緩増加制御する(ステップS11)。
【0058】
次に、ステップS12に進んで、制御目標値設定手段23が、制御目標値Vを基準制御目標値に設定する。ここで、基準制御目標値は、例えば、限界減速度モニタ値よりも所定量だけ小さい値に設定される。
【0059】
その後、ステップS13に進んで、不足分モニタ値取得手段24により、減速度モニタ値Vが制御目標値V以下であるか否かが判定される。ステップS13において、減速度モニタ値Vが制御目標値V以下である(Yes、減速度が不足している)と判定されると、ステップS14に進んで、不足分モニタ値取得手段24のカウンタがカウント値CTをカウントダウン(−1)し、また、減速度モニタ値Vが制御目標値Vを超えている(No、減速度が足りている)と判定されると、ステップS15に進んで、不足分モニタ値取得手段24のカウンタがカウント値CTをカウントアップ(+1)する。
【0060】
次に、ステップS16に進んで、制動力増加勾配設定手段25により、カウント値CTが所定値D以下であるか、つまり、カウント値CTが所定値Dに達したか否かが判定される。ステップS16でカウント値CTが所定値D以下である(Yes、不足分が多い)と判定されると、ステップS17に進んで、制動力増加勾配設定手段25が、高レートの増加勾配で前輪ホイールシリンダ圧を増圧する。また、ステップS16でカウント値CTが所定値Dに達していない(No、不足分が少ない)と判定されると、ステップS10に戻って以下のステップを繰り返す。
【0061】
ステップS17では、図6(a)(b)に示すように、制動力増加勾配設定手段25により、タイムインターバルの計算と、増圧パルスの計算が行われる。基本的に、制動力増加勾配設定手段25は、取得された不足分モニタ値Pに基づいて、所与の増加量で制動力を増加制御するとともに、取得された不足分モニタ値Pが大きいほど増加量を大きく設定するようになっている。また、制動力増加勾配設定手段25は、取得された不足分モニタ値Pに基づいて、所与のタイムインターバルで断続的に制動力を増加制御するとともに、取得された不足分モニタ値Pが大きいほどタイムインターバルを短く設定するようになっている。
【0062】
具体的に、タイムインターバルTIの計算は、図6(a)のステップS20に示すように、サイクル中補正値SHが、次式(3)により得られる。
SH = (所与の設定値1−カウント値CT)×係数1・・・(3)
ここで、所与の設定値1および係数1は、車両BKの種類や走行状態等に応じて適宜設定される。また、サイクル中補正値SHは、0(ゼロ)以上に設定される。
次に、ステップS21に進んで、インターバル目安値αが、次式(4)により得られる。
α = 制御目標値V−減速度モニタ値V+サイクル中補正値S・・・(4)
その後、ステップS22に進んで、インターバル目安値αに対応するタイムインターバルTIが取得される。ここで、インターバル目安値αが大きいほどタイムインターバルTIは短くなるように設定されている。
【0063】
また、増圧パルスPZの計算は、図6(b)のステップS23に示すように、はじめに基本増圧パルスPBが、走行状態等に基づいて決定され、ステップS24に進んで、パルス補正値βが、次式(5)により得られる。
β = (所与の設定値2−カウント値CT)×係数2・・・(5)
ここで、所与の設定値1および係数1は、車両BKの種類や走行状態等に応じて適宜設定される。また、パルス補正値βは、0(ゼロ)以上に設定される。
その後、ステップS25に進んで、増圧パルスPZが次式(6)により得られる。
PZ = 基本増圧パルスPB+パルス補正値β・・・(6)
このようにして求められたタイムインターバルTIおよび増圧パルスPZに基づいて、高レートの増加勾配が設定され前輪ブレーキ装置FBの制動力が制御される。
【0064】
次に、図7に示すタイムチャートを参照して、本実施形態に係る自動二輪車用ブレーキ制御装置100の動作の一例について説明する。なお、適宜、各図を参照する。
はじめに、運転者のブレーキ操作により車両BKが急減速されて荷重(重心)が前輪FT側に移動し、後輪RTの浮き上がりが生じそうになると、緩増加制御が必要であると判断され(ステップS10、Yes)、緩増加制御が開始されて(ステップS11)、図7(a)に示すように、車体速度VBKに対して車輪速度Vが変化する。これとともに、図7(b)に示すように、制御目標値Vが設定され(ステップS12)、制御目標値Vに対する減速度モニタ値Vの差分がカウント値CTとして、加算あるいは減算される(ステップS13からステップS15)。ここで、カウント値CTは、図7(c)に示すように、予め設定された初期値(リセットされた状態)を有しており、この初期値からカウント値CTが加算あるいは減算されるようになっている。この例では、図7(b)に示すように、緩増加制御が開始されてから時刻t1で減速度モニタ値Vが制御目標値Vに到達しているので、図7(c)に示すように、時刻0(ゼロ、初期値)から時刻t1までは、カウント値CTがカウントダウン(−1)される。
【0065】
その後、図7(b)に示すように、時刻t1から時刻t2にかけて減速度モニタ値Vが制御目標値Vを超えた状態となっているので、この間は、図7(c)に示すように、カウント値CTがカウントアップ(+1)される。以降、同様にして、図7(b)に示すように、制御目標値Vに対して減速度モニタ値Vが達しているか否かによって、図7(c)に示すように、カウント値CTがカウントダウン(−1)され、あるいは、カウントアップ(+1)される。このようなカウント値CTの増減が繰り返されるなかで、カウント値CTが所定値Dに到達する(時刻t7a、ステップS16、Yes)と、前輪ブレーキFBの制動力の増加勾配が、緩増加勾配から高レートの増加勾配に設定されて、前輪ホイールシリンダ圧が増圧される(ステップS17)。つまり、制御目標値Vと減速度モニタ値Vとの差分に相関するカウント値CTで表される不足分が所与の条件を満たすほど不足した状態、つまり制御目標値Vに対して減速度モニタ値Vの不足分が多く、減速度モニタ値Vが制御目標値Vに達しない状態が長く続いて制動力を大きくしても後輪浮き上がりが生じにくい状況であるときには、制動力が増加されるようになる。これによって、後輪浮き上がりが抑制されつつ、制動性が確保され、操作フィーリングが向上される。
【0066】
その後、時刻t7bにおいて、カウント値CTが所定値Dを超える状態(所定値Dに達していない状態)になる(ステップS16、No)と、前輪ブレーキFBの制動力の増加勾配が、高レートの増加勾配から緩増加勾配に設定し直されて、緩増加制御が実行される。
【0067】
ここで、図8の各図を参照して、このような制動力の増加勾配が緩増加勾配から高レートの増加勾配に設定される過程における増圧パルスと、車輪速度と、減速度と、液圧との関係について説明する。
図8(d)に示すように、運転者のブレーキ操作後、時刻t11において、緩増加制御が開始されると、図8(a)に示すように、緩増加勾配を実施するための所定のタイムインターバルで増圧パルスP1が生成される。これにより、図8(d)に示すように、第一マスタシリンダ圧Pに対して第一前輪ホイールシリンダ圧PFH1が低く制御される。これとともに、図8(c)に示した制御目標値Vと減速度モニタ値Vとの差分に相関して、図8(d)に示すように、カウント値CTが初期値からカウントダウンされ、あるいは、カウントアップされる。
【0068】
その後、時刻t12において、図8(b)に示すように、車輪速度Vと車輪速度Vとの差が開くと、ABS制御が必要と判断され(図4のステップS2、Yes)、増加制御から減少制御に切り替わる(ステップS3)。これに伴って、図8(d)に示すように、時刻t12において、カウント値CTが初期値にリセットされる(ステップS4)。時刻t12以降に、ABS制御が必要とならなくなる(ステップS2、No)と、後輪浮き上がり抑制制御に再び移行する(ステップS5)。その後、時刻t13から時刻t14の間に示すように、カウント値CTが所定値(不図示)に達すると、図8(a)に示すように、所定の短いタイムインターバルで増圧パルスP2が生成され、高レートの増加勾配で制動力が制御される。これにより、図8(d)に示すように、時刻t13から時刻t14の間において、第一前輪ホイールシリンダ圧PFH1がカーブを描くように上昇し、前輪ブレーキFBの制動性が高められる。なお、時刻t14から時刻t15の間は、図8(c)に示すように、制御目標値Vと減速度モニタ値Vとの差分に相関してカウント値CTのカウントダウンおよびカウントアップが繰り返され、図8(a)に示すように、増圧パルスの生成は少ないものとなっている。また、車両BKの停止間際である時刻t15から時刻t16では、図8(c)に示すように、時刻t15を過ぎたあたりで制御目標値Vと減速度モニタ値Vとが同じ値となり、図8(d)に示すように、カウント値CTが所定値(不図示)に達して、制動力の増加勾配が高レートの増加勾配に設定される。これによって、増圧パルスP3が生成される。そして、その後、車両BKが停止する。
【0069】
以上説明した本実施形態の自動二輪車用ブレーキ制御装置100によれば、不足分モニタ値Vの不足分が所与の条件を満たすほど不足して制動力を大きくしても後輪浮き上がりが生じにくい状況であるときには、不足分モニタ値取得手段24により、制動力の増加勾配が高レートの増加勾配に設定されるようになる。これによって、後輪浮き上がりが抑制されつつ、操作フィーリングが向上される。
【0070】
また、高レートの増加勾配による制動力の制御が必要とならない状態となった場合には、制動力の増加勾配が小さく設定されるので、減速度モニタ値Vの不足分に対応した制動力で制動を行うことができるようになる。したがって、後輪浮き上がりを一層抑制しつつ、操作フィーリングが向上される。
【0071】
制動力増加勾配設定手段25は、取得された不足分モニタ値P(カウント値CT)が大きいほど増圧パルスPZを大きく設定し、また、取得された不足分モニタ値Pが大きいほどタイムインターバルTIを短く設定する構成であるので、不足分モニタ値Pが大きく、減速度モニタ値Vの不足分に対応した増加勾配を大きく設定する必要がある場合に、制動力の増加制御を効率よく行うことができる。
【0072】
不足分モニタ値取得手段24のカウンタにより、減速度モニタ値Vが制御目標値Vに達していないときにカウント値CTがカウントダウンされ、減速度モニタ値Vが制御目標値Vに達しているときにカウント値CTがカウントアップされるようになっているので、取得された減速度モニタ値Vの変化に追従させてカウント値CTを増減させることができる。そして、不足分モニタ値取得手段24は、カウンタによるカウント値CTが所定値Dに達した場合に、前輪ブレーキ装置FBの制動力の増加勾配を、緩増加勾配(制動力の増加制御開始時における増加勾配)よりも大きく設定するようになっているので、前輪ブレーキ装置FBの制動力が増加されるようになり、減速度モニタ値Vの変化に追従させつつ、より一層的確に後輪浮き上がりが抑制されるようになり、操作フィーリングが向上される。しかも好適な制動力の確保が実現される。
【0073】
また、不足分モニタ値取得手段24は、カウント値CTが所定値Dに達した後、再び所定値Dに達しない状態に戻った場合、つまり、制動力の増加が必要とならなくなった場合に、制動力の増加勾配が小さく設定するので、増加勾配が減速度モニタ値Vの不足分に対応した的確な勾配に設定されるようになる。したがって、後輪浮き上がりを抑制しつつ操作フィーリングが向上される。
【0074】
また、増加制御から減少制御へ切り替わる際に、カウント値CTが初期値にリセットされるので、増加制御から減少制御へ切り替わった際の演算処理を単純化することができ、その分、不足分モニタ値Pの取得を少ない演算処理負荷で実現することができる。
【0075】
(第2実施形態)
図9は本発明の第2実施形態に係る自動二輪車用ブレーキ制御装置を示すブロック図、図10は要部を示すブロック図である。本実施形態が前記第1実施形態と異なるところは、制御装置20が路面摩擦係数判定手段26A、経過時間判定手段27、制動力発生順序判定手段28、制動力大きさ判定手段29を備えて構成されている点にあり、その他の点に変わりはない。
【0076】
(路面摩擦係数判定手段26A)
路面摩擦係数判定手段26Aは、車両BKの走行中の路面が、所与の低摩擦係数条件を満たすか否かを判定する。路面摩擦係数判定手段26Aは、減速度モニタ値Vの時間変化率が大きいほど摩擦係数が高い値となることを利用して、走行中の路面と各車輪FT,RTとの間の摩擦係数(路面摩擦係数)を推定するものであり、減速度モニタ値Vの時間変化率と路面摩擦係数との関係をグラフ、テーブルなどとして予め記憶しており、かかる関係を用いて路面摩擦係数を推定する。そして、路面摩擦係数判定手段26Aは、推定された路面摩擦係数の大きさが所与の値以下である場合に、走行中の路面が所与の低摩擦係数条件を満たすと判定し、推定された路面摩擦係数の大きさが所与の値よりも大きい場合に、走行中の路面が所与の低摩擦係数条件を満たさないと判定する。判定結果は、制動力制御手段26に出力される。なお、路面摩擦係数の推定方法は、その他の公知の方法などにより代替可能である。
【0077】
制動力制御手段26は、路面摩擦係数判定手段26Aの判定結果に基づいて、走行中の路面が所与の低摩擦係数条件を満たしていると判定された場合に、所与の高レートの増加勾配に基づいて前輪ブレーキFBの制動力を制御する。路面摩擦係数が低い場合には、後輪浮き上がりが発生しにくい。したがって、制動力制御手段26は、路面摩擦係数が低い場合には所与の高レートの増加勾配に基づいて前輪ブレーキFBの制動力を増加することにより、より効率的な制動を行うことができる。
【0078】
(経過時間判定手段27)
経過時間判定手段27は、車両BKの制動開始からの経過時間を計測する。そして、制動開始からの経過時間が後記する基準時間以内であるか否かを判定する。判定結果は、制御目標値設定手段23に出力される。
なお、経過時間判定手段27は、車両BKの制動開始、詳しくは、各車輪ブレーキFB,RBの制動開始を、後記する制動力発生順序判定手段28と同様の手法により検知し、検知された制動開始からの経過時間を計測する。
【0079】
基準時間は、車両BKが制動を開始してから車両BKの前後間荷重変化が安定するまでに要する時間である。車両BKがフロントフォーク式ステアリング機構を備えている場合には、車両BKが減速を開始してからフロントフォークのサスペンションが縮み終えるまでに要する時間が基準時間となる。
【0080】
制御目標値設定手段23は、経過時間判定手段27の判定結果に基づいて、経過時間が基準時間以内であると判定された場合に、経過時間が基準時間を超えたと判定された場合と比べて、制御目標値Vを小さく設定する。経過時間が基準時間以内である場合には、車両BKの前後間荷重変化が不安定な状態であるため、経過時間が基準時間を超えている場合と比べて、限界減速度モニタ値が小さくなる。したがって、経過時間が基準時間以内である場合に、経過時間が基準時間を超えている場合と比べて、制御目標値Vを小さく設定することにより、車両BKの状態によって異なる限界減速度モニタ値に対応した制御を行い、前輪ブレーキFBの制動力の減少を抑制しつつ後輪浮き上がりの発生を抑制することができる。
【0081】
(制動力発生順序判定手段28)
制動力発生順序判定手段28は、前輪ブレーキFBの制動力と後輪ブレーキRBの制動力との発生順序を判定する。これらの発生順序は、各車輪ブレーキFB,RBへの操作入力の入力順序に相関しており、本実施形態では、各圧力センサ51,52の検出値に基づいて判定される。例えば、前輪ブレーキFBへの操作入力が先であれば、第一圧力センサ51の検出値が先に0(ゼロ)から大きくなり、後輪ブレーキRBへの操作入力が先であれば、第二圧力センサ52の検出値が先に0(ゼロ)から大きくなる。制動力発生順序判定手段28は、各圧力センサ51,52の検出値のどちらが先に0(ゼロ)から大きくなったかを判定することにより、各車輪ブレーキFB,RBの制動力の発生順序を判定する。本実施形態の液圧ユニット10は、ディレイバルブ19を備えているので、制動力発生順序判定手段28は、第二圧力センサ52の検出値が0(ゼロ)から大きくなった場合には、前輪ブレーキFBの制動力の発生が後輪ブレーキRBの制動力の発生よりも遅いと判定することができる。判定結果は、制御目標値設定手段23に出力される。
【0082】
制御目標値設定手段23は、制動力発生順序判定手段28の判定結果に基づいて、前輪ブレーキFBの制動力の発生が後輪ブレーキRBの制動力の発生よりも遅いまたは同時と判定された場合に、前輪ブレーキFBの制動力の発生が後輪ブレーキRBの制動力の発生よりも早いと判定された場合と比べて、制御目標値Vを大きく設定する。
前輪ブレーキFBの制動力の発生が後輪ブレーキRBの制動力の発生よりも遅いまたは同時である場合には、後輪ブレーキRBの制動力により車両BKの重心が下がり、後輪浮き上がりが発生しにくくなるので、前輪ブレーキFBの制動力の発生が後輪ブレーキRBの制動力の発生よりも早い場合と比べて、限界減速度モニタ値が大きくなる。
したがって、前輪ブレーキFBの制動力の発生が後輪ブレーキRBの制動力の発生よりも遅いまたは同時である場合に、前輪ブレーキFBの制動力の発生が後輪ブレーキRBの制動力の発生よりも早い場合と比べて、制御目標値Vを大きく設定することにより、車両BKの状態によって異なる限界減速度モニタ値に対応した制御を行い、前輪ブレーキFBの制動力の減少を抑制しつつ後輪浮き上がりの発生を抑制することができる。
【0083】
(制動力大きさ判定手段29)
制動力大きさ判定手段29は、前輪ブレーキFBで発生している制動力と、後輪ブレーキRBで発生している制動力との大きさの関係を判定する。制動力の大きさ、すなわち、各車輪ブレーキFB,RBに作用するホイールシリンダ圧は、圧力センサ51,52の検出結果と、制動力制御手段26による各入口弁11及び各出口弁12の駆動量とに基づいて算出される。なお、各車輪ブレーキFB,RBの近傍となる車輪液圧路B1,B2に圧力センサを別途設けることにより、各車輪ブレーキFB,RBに作用しているホイールシリンダ圧を直接検出する構成であってもよい。判定結果は、制御目標値設定手段23に出力される。
【0084】
制御目標値設定手段23は、制動力大きさ判定手段29の判定結果に基づいて、前輪ブレーキFBの制動力が後輪ブレーキRBの制動力以下であると判定された場合に、前輪ブレーキFBの制動力が後輪ブレーキRBの制動力よりも大きいと判定された場合と比べて、制御目標値Vを大きく設定する。
前輪ブレーキFBの制動力が後輪ブレーキRBの制動力以下である場合には、後輪ブレーキRBの制動力により車両BKの重心が下がり、後輪浮き上がりが発生しにくくなるので、前輪ブレーキFBの制動力が後輪ブレーキRBの制動力よりも大きい場合と比べて、限界減速度モニタ値が大きくなる。
したがって、前輪ブレーキFBの制動力が後輪ブレーキRBの制動力以下である場合に、前輪ブレーキFBの制動力が後輪ブレーキRBの制動力よりも大きい場合と比べて、制御目標値Vを大きく設定することにより、車両BKの状態によって異なる限界減速度モニタ値に対応した制御を行い、前輪ブレーキFBの制動力の減少を抑制しつつ後輪浮き上がりの発生を抑制することができる。
【0085】
ここで、本実施形態に係る制御目標値設定手段23及び経過時間判定手段27の詳細な構成について説明する。
図10に示すように、制御目標値設定手段23は、機能部として、基準制御目標値設定部23aと、経過時間対応補正部23b、制動力発生順序対応補正部23b及び制動力大きさ対応補正部23bを有する制御目標値補正部23bと、を備えている。また、経過時間判定手段27は、機能部として、基準時間設定部27aと、経過時間判定部27bと、を備えている。
【0086】
まず、経過時間判定手段27の詳細な構成について説明する。
基準時間設定部27aは、車体速度VBKに基づいて、予め記憶された車体速度VBKと基準時間との関係を利用して、車体速度VBKに対応する基準時間を設定する。基準時間は、制動開始時の車体速度モニタ値に相関しており、制動開始時の車体速度モニタ値が大きいほど基準時間が短くなるといった特徴を有している。基準時間設定部27aは、車両BKにおける制動開始時の車体速度モニタ値と基準時間との関係を予め記憶している。
【0087】
経過時間判定部27bは、基準時間設定部27aにより設定された基準時間に基づいて、経過時間が基準時間以内であるか否かを判定する。
【0088】
続いて、制御目標値設定手段23の詳細な構成について説明する。
基準制御目標値設定部23aは、基準状態における制御目標値V(以下、基準制御目標値Vということがある)を設定する。基準状態とは、後記する経過時間対応補正部23b、制動力発生順序対応補正部23bおよび制動力大きさ対応補正部23bによる補正が必要ない状態、すなわち、経過時間が基準時間以上であり、前輪ブレーキFBへの操作入力の方が早く、かつ、前輪ブレーキFBの制動力が後輪ブレーキRBの制動力以上である状態である。設定された基準制御目標値(V;V>0(ゼロ))は経過時間対応補正部23bに出力される。
【0089】
制御目標値補正部23bは、経過時間判定手段27、制動力発生順序判定手段28及び制動力大きさ判定手段29の各判定結果に基づいて制御目標値(基準制御目標値V)を補正するものであり、経過時間対応補正部23b、制動力発生順序対応補正部23b及び制動力大きさ対応補正部23bから構成されている。
【0090】
経過時間対応補正部23bは、経過時間判定部27bによる判定結果に基づいて、制御目標値(V)を補正する。本実施形態では、経過時間対応補正部23bは、経過時間が基準時間以内である場合に、制御目標値を所定値α1(0(ゼロ)<α1<V)だけ小さく補正する。得られた制御目標値(VまたはV−α1)は、制動力発生順序対応補正部23bに出力される。
【0091】
制動力発生順序対応補正部23bは、制動力発生順序判定手段28による判定結果に基づいて、制御目標値(VまたはV−α1)を補正する。本実施形態では、制動力発生順序対応補正部23bは、前輪ブレーキFBの制動力の発生が後輪ブレーキRBの制動力の発生よりも遅いまたは同時であると判定された場合に、制御目標値(VまたはV−α1)を所定値α2だけ大きく補正する。得られた制御目標値(V、V−α1、V+α2またはV−α1+α2)は、制動力大きさ対応補正部23bに出力される。
【0092】
制動力大きさ対応補正部23bは、制動力大きさ判定手段29による判定結果に基づいて、制御目標値(V、V−α1、V+α2、または、V−α1+α2)を補正する。本実施形態では、制動力大きさ対応補正部23bは、前輪ブレーキFBの制動力が後輪ブレーキRBの制動力以下であると判定された場合に、制御目標値(V、V−α1、V+α2、または、V−α1+α2)を所定値α3だけ大きく補正する。得られた制御目標値(V、V−α1、V+α2、V+α3、V−α1+α2、V−α1+α3、V+α2+α3、または、V−α1+α2+α3)は、制動力増加勾配設定手段25に出力される。
【0093】
かかる制御目標値補正部23bは一例であり、補正の順序は適宜変更可能(どの順番でも良く、同時も可)である。また、基準制御目標値設定部23aにより設定される基準制御目標値の基準状態も、適宜変更可能であり、制御目標値補正部23bは、適宜設定された基準制御目標値に対応して制御目標値Vを補正する。
【0094】
(前輪ブレーキFBの制動力の制御方法)
続いて、本実施形態に係る自動二輪車用ブレーキ制御装置100を用いた、前輪ブレーキFBの制動力の制御方法について説明する。図11は、本発明の実施形態に係る自動二輪車用ブレーキ制御装置を用いた、前輪ブレーキの制動力の制御方法を説明するためのフローチャートである。図12は、図11のステップ32のサブルーチンである。なお、適宜各図を参照する。
【0095】
図11に示すように、本実施形態では、ステップS2でABS制御が必要ではない(No)と判定された場合に、ステップS30に進んで、路面摩擦係数判定手段26Aにより、路面摩擦係数が低摩擦係数条件を満たすか否かが判定されるようになっている。そして、ステップS30で満たす(Yes)と判定された場合に、ステップS31に進んで、高レートの増加勾配で前輪ホイールシリンダ圧が増加制御される。これによって、効率的な制動が行われるようになる。一方、ステップS30で満たさない(No)と判定された場合には、ステップS32に進んで、前記第1実施形態と同様に後輪浮き上がり抑制制御に移行する。
【0096】
図12に示すように、本実施形態の後輪浮き上がり抑制制御においては、ステップS40において、制御目標値補正が行われるようになっている点が前記第1実施形態と異なっている。この制御目標値補正は、図13に示すように、まず、ステップS41で経過時間が基準時間以内であるか否かが判定されることによりプログラムが開始される。
経過時間判定手段27により、経過時間が基準時間以内であると判定された場合には(ステップS41でYes)、制御装置20の制御目標値設定手段23が、制御目標値Vを補正し(ステップS42)、ステップS43に進む。
また、経過時間判定手段27により、経過時間が基準時間を超えていると判定された場合には(ステップS41でNo)、制御装置20の制御目標値設定手段23が、制御目標値Vを補正することなく、ステップS43に進む。
ここで、経過時間が基準時間以内である場合には、自動二輪車の荷重が移動しつつある状態のため、経過時間が基準時間を超えている場合と比べて、限界減速度モニタ値が小さくなる。したがって、経過時間が基準時間以内である場合に、経過時間が基準時間を超えている場合と比べて、制御目標値Vを小さく設定することにより、自動二輪車の状態によって異なる限界減速度モニタ値に対応した制御を行うことができるようになる。したがって、後輪浮き上がりを抑制しつつ好適な制動力の確保が実現される。
【0097】
続いて、制動力発生順序判定手段28により、前輪ブレーキFBの制動力の発生が後輪ブレーキRBの制動力の発生よりも遅いまたは同時であると判定された場合には(ステップS43でYes)、制御装置20の制御目標値設定手段23が、制御目標値Vを補正し(ステップS44)、ステップS45に進む。
また、制動力発生順序発生手段28により、前輪ブレーキFBの制動力の発生が後輪ブレーキRBの制動力の発生よりも早いと判定された場合には(ステップS43でNo)、制御装置20の制御目標値設定手段23が、制御目標値Vを補正することなく、ステップS45に進む。
【0098】
前輪ブレーキ装置FBの制動力の発生が後輪ブレーキ装置RBの制動力の発生よりも遅いまたは同時である場合には、後輪ブレーキ装置RBの制動力により自動二輪車の重心が下がり、後輪浮き上がりが発生しにくくなるので、前輪ブレーキ装置FBの制動力の発生が後輪ブレーキ装置RBの制動力の発生よりも早い場合と比べて、限界減速度モニタ値が大きくなる。
したがって、前輪ブレーキ装置FBの制動力の発生が後輪ブレーキ装置RBの制動力の発生よりも遅いまたは同時である場合に、前輪ブレーキ装置FBの制動力の発生が後輪ブレーキ装置RBの制動力の発生よりも早い場合と比べて、制御目標値Vを大きく設定することにより、自動二輪車の状態によって異なる限界減速度モニタ値に対応した制御を行うことができるようになる。したがって、後輪浮き上がりを抑制しつつ好適な制動力の確保が実現される。
【0099】
続いて、制動力大きさ判定手段29により、前輪ブレーキFBの制動力が後輪ブレーキRBの制動力以下であると判定された場合には(ステップS45でYes)、制御装置20の制御目標値設定手段23が、制御目標値Vを補正し(ステップS46)、図12のステップS13に進む。
また、制動力大きさ判定手段29により、前輪ブレーキFBの制動力が後輪ブレーキRBの制動力よりも大きいと判定された場合には(ステップS45でNo)、制御装置20の制御目標値設定手段23が、制御目標値Vを補正することなく、図12のステップS13に移行する。
【0100】
前輪ブレーキ装置FBの制動力が後輪ブレーキ装置RBの制動力以下である場合には、後輪ブレーキ装置RBの制動力により自動二輪車の重心が下がり、後輪浮き上がりが発生しにくくなるので、このような場合に制御目標値Vを大きく設定することにより、自動二輪車の状態によって異なる限界減速度モニタ値に対応した制御を行うことができるようになり、後輪浮き上がりを抑制しつつ好適な制動力の確保が実現され、操作フィーリングが向上する。
【0101】
続いて、前記第1実施形態と同様に不足分モニタ値取得手段24により、減速度モニタ値Vが制御目標値V以下であるか否かが判定され、不足分モニタ値取得手段24のカウンタによりカウント値CTがカウントダウン(−1)され、あるいは、カウント値CTがカウントアップ(+1)されて、以下のステップに進む。
【0102】
このような自動二輪車用ブレーキ制御装置100によれば、後輪浮き上がりをより確実に抑制しつつ、操作フィーリングの向上を図ることができる。また、路面摩擦係数、制動開始からの経過時間、各車輪ブレーキFB,RBの制動力の発生順序、各車輪ブレーキ装置FB,RBの制動力の大きさを考慮した前輪ブレーキFBの制動力の増加勾配を設定し、かかる増加勾配に基づく前輪ブレーキFBの増加制御を行うことにより、各状況に応じ、後輪浮き上がりの抑制と高い制動性をバランス良く実現することができる。
【0103】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。
例えば、前記実施形態では、前輪ブレーキ装置FBの制動力を中心に説明したが、後輪ブレーキ装置RBが連動して制御が行われた場合にも同様に適用することができる。
また、前記実施形態では、第一圧力センサ51および第二圧力センサ52によって第一マスタシリンダ圧および第二マスタシリンダ圧をそれぞれ検出しているが、これに限られることはなく、各マスタシリンダ圧は公知の手法によって推定されたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の第1実施形態に係る自動二輪車用ブレーキ制御装置を備えた自動二輪車の構成図である。
【図2】自動二輪車用ブレーキ制御装置のブレーキ液圧回路図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る自動二輪車用ブレーキ制御装置を示すブロック図である。
【図4】前輪ブレーキの制動力の制御方法を説明するためのフローチャートである。
【図5】(a)(b)は図4のステップS5のサブルーチンである。
【図6】図5のステップS17のサブルーチンである。
【図7】第1実施形態に係る自動二輪車用ブレーキ制御装置の動作の一例を模式的に示すタイムチャートである。
【図8】同じく動作の一例を模式的に示すタイムチャートである。
【図9】本発明の第2実施形態に係る自動二輪車用ブレーキ制御装置を示すブロック図である。
【図10】同じく自動二輪車用ブレーキ制御装置の要部を示すブロック図である。
【図11】前輪ブレーキの制動力の制御方法を説明するためのフローチャートである。
【図12】図11のステップS31のサブルーチンである。
【図13】図12のステップS40のサブルーチンである。
【符号の説明】
【0105】
10 液圧ユニット
20 制御装置
21 減速度モニタ値取得手段
22 車体速度モニタ値取得手段
23 制御目標値取得手段
24 不足分モニタ値取得手段
25 制動力増加勾配設定手段
26 制動力制御手段
26A 路面摩擦係数判定手段
27 経過時間判定手段
28 制動力発生順序判定手段
29 制動力大きさ判定手段
100 自動二輪車用ブレーキ制御装置
FB 前輪ブレーキ(装置)
RB 後輪ブレーキ(装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に装着されたブレーキ装置の制動力を少なくとも減少または増加するように制御する制動力制御手段を有し、制動時の車輪ロックを抑制する自動二輪車用ブレーキ制御装置であって、
自動二輪車の減速度に相関する減速度モニタ値を取得する減速度モニタ値取得手段と、
制動時の後輪浮き上がりが発生する限界減速度に相関する制御目標値を設定する制御目標値設定手段と、
前記制御目標値に対する前記減速度モニタ値の不足分を監視し、その不足分の総和に相関する、不足分モニタ値を取得する不足分モニタ値取得手段と、
取得された不足分モニタ値が所与の第一条件を満たす場合に、前記ブレーキ装置の制動力の増加勾配を、制動力の増加制御開始時における増加勾配よりも大きく設定する制動力増加勾配設定手段と、
を備え、
前記制動力制御手段は、設定された増加勾配に基づいて前記ブレーキ装置の制動力を制御することを特徴とする自動二輪車用ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記不足分モニタ値取得手段は、前記減速度モニタ値が前記制御目標値に達していない場合にカウント値をカウントダウンし、前記減速度モニタ値が前記制御目標値に達している場合にカウント値をカウントアップするカウンタを備え、
前記カウンタによるカウント値が所与の前記第一条件としての所与のカウント値に達した場合に、前記ブレーキ装置の制動力の増加勾配を、制動力の増加制御開始時における増加勾配よりも大きく設定することを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車用ブレーキ制御装置。
【請求項3】
車輪に装着されたブレーキ装置の制動力を減少または増加するように制御する制動力制御手段を有し、制動時の車輪ロックを抑制する自動二輪車用ブレーキ制御装置であって、
自動二輪車の減速度に相関する減速度モニタ値を取得する減速度モニタ値取得手段と、
制動時の後輪浮き上がりが発生する限界減速度に相関する制御目標値を設定する制御目標値設定手段と、
前記制御目標値に対する前記減速度モニタ値の不足分を監視し、その不足分の総和に相関する、不足分モニタ値を取得する不足分モニタ値取得手段と、
取得された不足分モニタ値が所与の第一条件を満たす場合に、前記ブレーキ装置の制動力の増加勾配を、制動力の増加制御開始時における増加勾配よりも大きく設定するとともに、取得された不足分モニタ値が、前記第一条件を満たした後に所与の第二条件を満たす場合に、大きく設定された前記増加勾配を、これよりも小さく設定し直す制動力増加勾配設定手段と、
を備え、
前記制動力制御手段は、設定された増加勾配に基づいて前記ブレーキ装置の制動力を制御することを特徴とする自動二輪車用ブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記不足分モニタ値取得手段は、前記減速度モニタ値が前記制御目標値に達していない場合にカウント値をカウントダウンし、前記減速度モニタ値が前記制御目標値に達している場合にカウント値をカウントアップするカウンタを備え、
前記カウンタによるカウント値が所与の前記第一条件の所与のカウント値に達した場合に、前記ブレーキ装置の制動力の増加勾配を、制動力の増加制御開始時における増加勾配よりも大きく設定し、所与の前記第二条件としての所与のカウント値に戻った場合に、大きく設定された前記増加勾配を、これよりも小さく設定することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の自動二輪車用ブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記制動力増加勾配設定手段は、取得された不足分モニタ値に基づいて、所与の増加量で制動力を増加制御するとともに、取得された不足分モニタ値が前記第一条件に近いほど前記増加量を大きく設定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の自動二輪車用ブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記制動力増加勾配設定手段は、取得された不足分モニタ値に基づいて、所与のタイムインターバルで断続的に制動力を増加制御するとともに、取得された不足分モニタ値が大きいほど増加制御中における前記タイムインターバルの割合を小さく設定することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の自動二輪車用ブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記不足分モニタ値取得手段は、前記制動力制御手段による前記ブレーキ装置の制動力の制御が、増加制御から減少制御へ切り替わる際に、前記カウント値を初期値にリセットすることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の自動二輪車用ブレーキ制御装置。
【請求項8】
路面摩擦係数が所与の低摩擦係数条件を満たすか否かを判定する路面摩擦係数判定手段をさらに備え、
前記制動力増加勾配設定手段は、路面摩擦係数が所与の低摩擦係数条件を満たすと判定された場合に、前記ブレーキ装置の制動力の増加勾配を、制動力の増加制御開始時における増加勾配よりも大きく設定することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の自動二輪車用ブレーキ制御装置。
【請求項9】
自動二輪車の制動開始からの経過時間が、自動二輪車の前後車輪間荷重変化が安定するのに要する基準時間以内であるか否かを判定する経過時間判定手段をさらに備え、
前記制御目標値設定手段は、経過時間が基準時間以内であると判定された場合に、経過時間が基準時間を超えたと判定された場合と比べて、制御目標値を小さく設定することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の自動二輪車用ブレーキ制御装置。
【請求項10】
前記ブレーキ装置のうち、前輪ブレーキ装置の制動力と後輪ブレーキ装置の制動力との発生順序を判定する制動力発生順序判定手段をさらに備え、
前記制御目標値設定手段は、前記前輪ブレーキ装置の制動力の発生が前記後輪ブレーキ装置の制動力の発生よりも遅いと判定された場合に、前記前輪ブレーキ装置の制動力の発生が前記後輪ブレーキ装置の制動力の発生よりも早いと判定された場合と比べて、制御目標値を大きく設定することを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の自動二輪車用ブレーキ制御装置。
【請求項11】
前記前輪ブレーキ装置の制動力と前記後輪ブレーキ装置の制動力との大きさの関係を判定する制動力大きさ判定手段をさらに備え、
前記制御目標値設定手段は、前記前輪ブレーキ装置の制動力が前記後輪ブレーキ装置の制動力よりも所定の条件を満たして小さいと判定された場合に、前記前輪ブレーキ装置の制動力が前記後輪ブレーキ装置の制動力よりも大きいと判定された場合と比べて、制御目標値を大きく設定することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の自動二輪車用ブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−326412(P2007−326412A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157711(P2006−157711)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】