説明

自動分析装置とその液体試料の温度上昇抑制方法

【課題】音波発生手段が発生した音波によって液体試料を撹拌する際、簡単な構造で液体試料の温度上昇を簡易に抑制することが可能な自動分析装置とその液体試料の温度上昇抑制方法を提供すること。
【解決手段】検体と試薬を含む液体試料が分注される反応容器を複数保持するキュベットホイールと、音波によって液体試料を撹拌する表面弾性波素子とを備え、検体と試薬との反応液の光学的特性をもとに検体を分析する自動分析装置とその液体試料の温度上昇抑制方法。自動分析装置は、反応容器7を冷却する冷却水を保持する冷却水保持部6bがキュベットホイール6の各反応容器に隣接する位置に形成され、表面弾性波素子18による液体試料の撹拌までに冷却水保持部へ冷却水を供給する分注装置を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置とその液体試料の温度上昇抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動分析装置は、検体と試薬の反応液の光学的特性を測定することにより、検体中の成分濃度等を分析しており、検体と試薬の均一な反応を促進させるために検体や試薬を含む液体試料を撹拌する撹拌装置を備えている。このような撹拌装置として、液体試料を撹拌棒によって接触撹拌する撹拌装置の他に、いわゆるキャリーオーバーを回避する目的から音波発生手段が発生した音波を照射することによって非接触で撹拌する撹拌装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2007−248251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、音波発生手段は、駆動に伴って熱が発生する。このため、特許文献1に開示された撹拌装置は、音波発生手段が発生する熱による液体試料の温度上昇を抑制するため、音波発生手段を冷却する発熱抑制(冷却)手段を当接させて設けている。この結果、特許文献1に開示された撹拌装置は、構造が複雑になり、故障発生の要因になるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、音波発生手段が発生した音波によって液体試料を撹拌する際、簡単な構造で液体の温度上昇を簡易に抑制することが可能な自動分析装置とその液体試料の温度上昇抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の自動分析装置は、検体と試薬を含む液体試料が分注される反応容器を複数保持するキュベットホイールと、前記各反応容器に配置され、出射する音波によって前記液体試料を撹拌する表面弾性波素子とを備え、前記検体と前記試薬との反応液の光学的特性をもとに前記検体を分析する自動分析装置であって、前記キュベットホイールは、前記反応容器を冷却する冷却水を保持する冷却水保持部が前記各反応容器に隣接する位置に形成され、前記表面弾性波素子による前記液体試料の撹拌までに前記冷却水保持部へ冷却水を供給する冷却水供給手段を備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の自動分析装置は、上記の発明において、前記冷却水供給手段は、前記試薬を分注する試薬分注装置又は前記検体を分注する検体分注装置を含む分注装置であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の自動分析装置は、上記の発明において、前記試薬を保持した試薬容器を収容する試薬保冷庫又は緊急検体を保持した検体容器を収容するスタット保冷庫を含む保冷庫を備え、前記冷却水は、前記保冷庫に収容された冷却水容器から前記分注装置によって前記冷却水保持部へ分注されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の自動分析装置は、上記の発明において、前記分注装置は、前記反応容器内の前記液体試料の液量に応じた量の冷却水を前記冷却水保持部へ分注することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の自動分析装置は、上記の発明において、分析終了後の前記反応容器から前記液体試料を吸引廃棄した後、洗浄液を吐出吸引して洗浄する洗浄装置を備え、前記冷却水保持部の冷却水は、前記液体試料の分析終了後、前記洗浄装置によって吸引廃棄されることを特徴とする。
【0011】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の自動分析装置の液体試料の温度上昇抑制方法は、上記の発明において、検体と試薬を含む液体試料が分注される反応容器を複数保持するキュベットホイールと、前記各反応容器に配置され、出射する音波によって前記液体試料を撹拌する表面弾性波素子とを備え、前記検体と前記試薬との反応液の光学的特性をもとに前記検体を分析する自動分析装置の液体試料の温度上昇抑制方法であって、前記各反応容器と隣接する位置に形成された冷却水保持部へ前記液体試料の撹拌までに冷却水を分注する分注工程と、前記冷却水保持部に冷却水が分注された後、前記表面弾性波素子が出射する音波によって前記反応容器に分注される液体試料を撹拌する撹拌工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表面弾性波素子による液体試料の撹拌までに冷却水保持部へ冷却水を供給する冷却水供給手段を備えているので、液体試料の撹拌に伴って表面弾性波素子が発熱し、この熱が反応容器に伝わっても、冷却水保持部に供給された冷却水によって反応容器が液体試料と共に冷却され、簡単な構造で液体試料の温度上昇を簡易に抑制することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の自動分析装置とその液体試料の温度上昇抑制方法にかかる実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の自動分析装置の概略構成図である。図2は、図1の自動分析装置のA部拡大断面図である。図3は、図2に示すA部におけるキュベットホイールの斜視図である。
【0014】
自動分析装置1は、血球成分を含む血液や尿等の検体を自動分析する装置であり、図1に示すように、本体2に試薬保冷庫3,4、反応槽5、検体容器移送機構13、検体分注装置15、測光装置16、洗浄装置17、第一撹拌駆動装置20及び第二撹拌駆動装置23を備えており、制御部25によって作動が制御される。
【0015】
試薬保冷庫3,4は、上部を蓋3a,4aによって覆われた内部に駆動手段によって回転される試薬トレイが配置され、内部が所定温度に保冷されている。試薬保冷庫3,4は、前記試薬トレイ上に、図1に示すように、それぞれ第一試薬の試薬容器3bと冷却水容器3c及び第二試薬の試薬容器4bと冷却水容器4cが周方向に複数配置され、駆動手段によって回転されて試薬容器3b,4bを周方向に搬送する。複数の試薬容器3b,4bは、それぞれ検査項目に応じた試薬が満たされ、外面には収容した試薬の種類,ロット及び有効期限等の試薬情報を記録した情報記録媒体(図示せず)が付加されている。ここで、試薬保冷庫3,4は、蓋3a,4aに試薬吸引のためのプローブ孔3d,4dが形成されている。また、試薬保冷庫3,4の外周には、試薬容器3b,4b及び冷却水容器3c,4cに貼付した情報記録媒体に記録された情報を読み取り、制御部25へ出力する読取装置(図示せず)が設置されている。
【0016】
反応槽5は、図1及び図2に示すように、上部を蓋5aによって覆われるキュベットホイール6と恒温槽10を備えている。ここで、蓋5aには、図1に示すように、試薬や検体を反応容器7へ吐出させるためのプローブ孔5bと、冷却水を冷却水保持部6bへ吐出させるためのプローブ孔5c〜5eが設けられている。これらのプローブ孔5c〜5eは、プローブ孔5cが試薬分注装置11による冷却水の分注に、プローブ孔5dが試薬分注装置12による冷却水の分注に、それぞれ使用される。そして、プローブ孔5eは、検体分注装置15による冷却水の分注に使用される。
【0017】
キュベットホイール6は、図2及び図3に示すように、内周に歯車8aを形成した内歯車部材8が内側に取り付けられたリング状の部材である。キュベットホイール6は、それぞれ凹溝状に成形され、反応容器7を抜き差し自在に配置する容器保持部6aと、冷却水が分注される冷却水保持部6bとが周方向に沿って複数形成されている。容器保持部6aは、半径方向外周側に形成され、冷却水保持部6bは、半径方向内周側の容器保持部6aに隣接した位置に形成されている。冷却水保持部6bは、分注した冷却水によって反応容器7を反応容器7が保持した液体試料と共に冷却する。このため、キュベットホイール6は、容器保持部6aと冷却水保持部6bとを隔てる壁の厚さを1mm以下に設定することが望ましく、冷却水保持部6bの容器保持部6aと冷却水保持部6bとを隔てる壁を除く、恒温槽10の環状凹部10cに面する壁には断熱コーティング等の断熱処理を施す。
【0018】
キュベットホイール6は、恒温槽10内周上部にベアリング9を配置すると共に、内歯車部材8の歯車8aを駆動モータの回転軸に取り付けた歯車と噛合させる。そして、キュベットホイール6は、前記駆動モータを回転させることにより、周方向に回転することによって複数の反応容器7を周方向に搬送する。このとき、キュベットホイール6は、例えば、一周期で時計方向に(1周−1反応容器)/4回転し、四周期で(1周−1反応容器)回転する。尚、キュベットホイール6は、上面に蓋5aに形成されたピン孔5fに係合して蓋5aをキュベットホイール6に対して位置決めする位置決めピン6cが設けられている。また、キュベットホイール6は、反応容器7を測光するための測光窓6dが形成されている。
【0019】
恒温槽10は、図2に示すように、本体10aの中央に周方向に延びる環状の液流路10bが形成されると共に、本体10aの上部には環状凹部10cが形成されている。恒温槽10は、僅かな隙間をおいて環状凹部10cにキュベットホイール6外周の容器保持部6aと冷却水保持部6bの部分を配置し、液流路10bに恒温液Lhを流通させることにより容器保持部6aに配置される反応容器7を、反応容器7が保持した液体試料Lsと共に所定温度範囲に保温する。
【0020】
ここで、反応容器7は、測光装置16から出射された分析光に含まれる光の80%以上を透過する光学的に透明な素材、例えば、耐熱ガラスを含むガラス,環状オレフィンやポリスチレン等によって四角筒状に成形されたキュベットと呼ばれる容器である。各反応容器7の底面には、図2に示すように、保持した液体試料を音波によって撹拌する表面弾性波素子18が配置されている。
【0021】
試薬分注装置11,12は、それぞれ水平面内を回動すると共に、上下方向に昇降されるアーム11a,12aに試薬や冷却水を分注する分注プローブ11b,12bが設けられている。また、試薬分注装置11,12は、洗浄水によって分注プローブ11b,12bの内外を洗浄する洗浄槽11c、12cが試薬保冷庫3,4と反応槽5との間に設けられている。そして、試薬分注装置11,12は、試薬保冷庫3,4の試薬容器3b,4bから反応容器7に試薬を分注し、冷却水容器3c,4cから冷却水保持部6bに冷却水を分注する。このとき、試薬分注装置11,12は、制御部25の制御のもとに、表面弾性波素子18による反応容器7に保持された液体試料の撹拌までに冷却水保持部6bへ冷却水を供給する。このため、試薬分注装置11,12は、分注プローブ11b,12bの移動軌跡上にプローブ孔3d,4dとプローブ孔5b〜5dが位置するように配置される。
【0022】
検体容器移送機構13は、図1に示すように、ラックセット部13a、ラック搬送路13b及びラック回収部13cを有している。ラックセット部13aは、作業者が手作業によってラックRをセットする。ラックRは、検体を収容した複数の検体容器を保持する部材であり、ラックセット部13aにセットすると、矢印で示すようにラック搬送路13bを通ってラック回収部13cへ搬送される。そして、ラックRは、ラック搬送路13b上の検体分注位置Psで検体分注装置15によって検体容器から反応槽5の反応容器7へ検体が分注される。そして、ラックセット部13a、ラック搬送路13b及びラック回収部13cに囲まれた中央にスタット保冷庫14が配置されている。
【0023】
スタット保冷庫14は、緊急検体を収容して反応容器7へ供給するために所定温度に保冷する保冷庫であり、上部を蓋14aによって覆われた内部に駆動手段によって回転される容器トレイが配置されている。スタット保冷庫14は、前記容器トレイ上に、図1に示すように、それぞれ緊急検体を保持した検体容器14bと冷却水を保持した冷却水容器14cが配置されている。このとき、検体容器14bは、前記容器トレイの回転中心の同心円に配置されている。また、スタット保冷庫14は、蓋14aに形成されたプローブ孔14dを使用して検体容器14bから検体を反応容器7へ分注し、プローブ孔14eを使用して冷却水容器14cから冷却水保持部6bへ冷却水を分注する。
【0024】
検体分注装置15は、図1に示すように、アーム15aに検体を分注する分注プローブ15bが設けられている。検体分注装置15は、ラック搬送路13bを搬送されるラックRに保持された検体容器から反応容器7へ検体を分注する。アーム15aは、駆動機構によって昇降駆動と回動駆動される支柱に支持されている。このため、検体分注装置15は、洗浄水によって分注プローブ15bの内外を洗浄する洗浄槽15cが検体容器移送機構13と反応槽5との間に設けられると共に、分注プローブ15bの移動軌跡上にプローブ孔5b,5e、検体分注位置Ps、プローブ孔14d,14e及び洗浄槽15cが配置される。このとき、検体分注装置15は、制御部25の制御のもとに、表面弾性波素子18による反応容器7に保持された液体試料の撹拌までに冷却水保持部6bへ冷却水を供給する。
【0025】
測光装置16は、反応容器7内の液体試料に分析光を透過させて光学的特性(吸光度)を測定する装置であり、制御部25と接続されている。
【0026】
洗浄装置17は、反応容器7内の液体試料を吸引する吸引ノズルと、希釈洗剤又は洗浄水を吐出する吐出ノズルを有する複数組のノズル群と、反応容器7内の洗浄水を吸引する吸引ノズルと、乾燥空気を吐出して反応容器7内を乾燥させる空気ノズルを有している。洗浄装置17は、反応容器7内の液体試料を吸引し、希釈洗剤又は洗浄水の吐出と希釈洗剤又は洗浄水の吸引を複数回繰り返すことにより反応容器7を洗浄した後、乾燥空気によって反応容器7内を乾燥させる。また、洗浄装置17は、各反応容器7における分析終了後、キュベットホイール6の反応容器7を配置する容器保持部6aに隣接した位置に形成された冷却水保持部6b内の冷却水を吸引して廃棄する際にも使用される。
【0027】
第一撹拌駆動装置20及び第二撹拌駆動装置23は、表面弾性波素子18を駆動して音波を出射させ、この音波によって検体と試薬とを撹拌する。第一撹拌駆動装置20及び第二撹拌駆動装置23は、構成が同一であるので、第一撹拌駆動装置20について説明し、第二撹拌駆動装置23は同一の構成要素に同一の符号を使用する。
【0028】
第一撹拌駆動装置20は、図4に示すように、駆動回路21及び駆動制御部22を有している。
【0029】
ここで、第一撹拌駆動装置20によって駆動される表面弾性波素子18を説明すると、表面弾性波素子18は、エポキシ樹脂或いはジェル等の音響整合層を介して反応容器7の底面に配置される。表面弾性波素子18は、図5に示すように、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)等からなる圧電基板18a上に櫛歯状電極(IDT)からなる振動子18b、バスバー18c及び端子18dが形成されている。バスバー18cは、圧電基板18aの一方の面から、他方の面に延びて振動子18bと端子18dとの間を接続している。表面弾性波素子18は、振動子18bを反応容器7の底面に配置され、表面弾性波を出射する。但し、表面弾性波素子18は、振動子18b、バスバー18c及び端子18dを圧電基板18aの一方の面に形成し、他方の面を反応容器7の底面に当接させて配置することにより、バルク波によって液体試料を撹拌するようにしてもよい。
【0030】
駆動回路21は、駆動制御部22からの制御信号に基づいて発振周波数を変更可能な発振回路を有しており、数十MHz〜数百MHz程度の高周波電力を表面弾性波素子18へ出力する。ここで、表面弾性波素子18と駆動回路21との間は、キュベットホイール6が回転しても電力が電送されるように、接触電極Eを介して接続されている。
【0031】
駆動制御部22は、駆動回路21の作動を制御し、表面弾性波素子18による液体試料の撹拌動作を制御する。駆動制御部22は、例えば、表面弾性波素子18が発する音波の特性(周波数,強度,位相等)、波形(正弦波,三角波,矩形波,バースト波等)或いは変調(振幅変調,周波数変調等)等を制御する。また、駆動制御部22は、内蔵したタイマに従って駆動回路21が発振する発振信号の周波数を切り替えることができる。
【0032】
制御部25は、例えば、マイクロコンピュータ等が使用される。制御部25は、試薬保冷庫3,4、反応槽5、試薬分注装置11,12、検体容器移送機構13、検体分注装置15、測光装置16、洗浄装置17、撹拌駆動装置20,23、入力部26及び出力部27等と接続され、これら各部の作動を制御する。制御部25は、測光装置16が測定した光学的特性(吸光度)をもとに検体に含まれる特定成分の濃度等を算出する。
【0033】
このとき、自動分析装置1は、制御部25から入力される分析項目や分析条件に基づいて試薬分注装置11,12及び検体分注装置15が反応容器7に分注する試薬や検体を含む液体試料の液量(分注量)と、その液量で表面弾性波素子18を駆動して撹拌した際の液体試料の初期温度と上昇温度の関係を測定しておく。そして、測定した液体試料の液量(分注量)と上昇温度の関係から液体試料の液温を所定温度範囲(37℃±α)に保持するのに必要な冷却水の水量を計算し、予め制御部25に液体試料の液量(分注量)と冷却水の水量との関係式又はテーブルとして記憶させておく。制御部25は、分析の際に試薬分注装置11,12及び検体分注装置15へ入力する試薬や検体の分注量と冷却水の水量との関係をもとに、反応容器7が保持する試薬や検体を含む液体試料の液量に応じた量の冷却水を冷却水保持部6bへ分注するよう試薬分注装置11,12及び検体分注装置15に制御信号を出力する。
【0034】
入力部26は、制御部25へ検査項目や検体の分注手順等に関する入力操作を行う部分であり、例えば、キーボードやマウス等が使用される。出力部27は、分析内容、分析結果或いは警報等を表示する部分であり、ディスプレイパネル等が使用される。この他、出力部27は、分析結果を一覧表等にしてプリントアウトするプリンタ(図示せず)を備えている。
【0035】
以上のように構成される自動分析装置1は、回転するキュベットホイール6によって周方向に沿って搬送されてくる複数の反応容器7に試薬分注装置11が試薬容器3bから第一試薬を順次分注する。第一試薬が分注された反応容器7は、検体分注装置15によってラックRに保持された複数の検体容器から順次検体が分注される。
【0036】
検体が分注された反応容器7は、キュベットホイール6が停止する都度、第一撹拌駆動装置20によって第一試薬と検体が撹拌されて反応する。第一試薬と検体が撹拌された反応容器7は、試薬分注装置12によって試薬容器4bから第二試薬が順次反応液へ分注された後、キュベットホイール6の停止時に第二撹拌駆動装置23によって撹拌され、更なる反応が促進される。
【0037】
次いで、キュベットホイール6が再び回転すると、キュベットホイール6は、反応容器7が測光装置16に対して順次相対移動し、反応容器7が測光装置16を通過する。これにより、測光装置16が制御部25に測光光量に対応した測定信号を波長ごとに出力する。
【0038】
制御部25は、測光装置16から入力される測光量に対応した測定信号をもとに各反応容器7内の液体試料の波長ごとの吸光度を求め、検体に含まれる特定成分の濃度等を算出する。この際、制御部25は、特定成分の濃度等の分析結果を記憶し、分析結果を出力部27に表示する。また、反応容器7は、第一試薬の分注後、反応終了後までの間に合計36の測定点で測光装置16によって測光される。このようにして、分析が終了した反応容器7は、洗浄装置17によって洗浄された後、再度検体の分析に使用される。
【0039】
このとき、自動分析装置1は、液体試料の温度上昇抑制方法によって反応容器7が保持している液体試料の温度上昇が抑制される。以下、本発明の自動分析装置の液体試料の温度上昇抑制方法を図6に示すフローチャートを参照して説明する。ここで、自動分析装置1においては、複数の反応容器7のそれぞれにおいて異なる処理が並行して実行される。このため、図6に示すフローチャートは、説明を簡略化するため、1つの反応容器7について説明し、各ステップの間に存在するキュベットホイール6が回転するステップを省略して説明している。
【0040】
制御部25は、試薬分注装置11に第一試薬を反応容器7へ分注させる(ステップS100)。次に、制御部25は、検体分注装置15に検体を反応容器7へ分注させる(ステップS102)。このとき、反応容器7内の第一試薬と検体とを含む液体試料Lsの量を図7に示す。
【0041】
次いで、制御部25は、検体分注装置15に冷却水を反応容器7と隣接する位置にある冷却水保持部6bに分注させる(ステップS104)。このとき、検体分注装置15は、スタット保冷庫14内の冷却水容器14cから冷却水を分注する。検体分注装置15は、分注された第一試薬と検体の分注量をもとに制御部25から出力される制御信号に応じて第一試薬と検体の分注量に対応した量の冷却水Wcを分注する(図8参照)。その後、制御部25は、第一撹拌駆動装置20に制御信号を出力し、駆動制御部22の制御のもとに表面弾性波素子18を駆動し、反応容器7内の第一試薬と検体を撹拌させる(ステップS106)。
【0042】
このとき、撹拌に伴って表面弾性波素子18が発熱し、この熱が反応容器7へ伝わる。しかし、反応容器7は、隣接する冷却水保持部6bに冷却水が分注され、冷却水保持部6b側から冷却されている。このため、反応容器7は、表面弾性波素子18から伝わる熱が冷却水保持部6b側へと流れ、冷却水内の第一試薬と検体の反応液の温度上昇が抑えられる。
【0043】
次に、制御部25は、試薬分注装置12に第二試薬を反応容器7へ分注させる(ステップS108)。これにより、反応容器7は、図9に示すように、液体試料Lsの量が増加する。次いで、制御部25は、冷却水保持部6bに冷却水を追加分注させる(ステップS110)。これにより、冷却水保持部6bには、第二試薬の分注量に対応した量の冷却水が分注され、冷却水の水位が図10に示す位置まで上昇する。
【0044】
このとき、冷却水を追加分注するのは、分注対象の冷却水保持部6bの位置がプローブ孔5c〜5eの位置に一致し、或いはキュベットホイール6を回転させて一致させることができれば、試薬分注装置11,12又は検体分注装置15のどれから分注してもよい。また、冷却水保持部6bへ分注することによって冷却水が減少した場合、冷却水容器3c,4c,14cには、それぞれ試薬分注装置11,12や検体分注装置15が使用している分注プローブ11b,12b,15bから内洗水を補充し、冷却水とする。
【0045】
その後、制御部25は、第二撹拌駆動装置23に制御信号を出力し、駆動制御部22の制御のもとに表面弾性波素子18を駆動し、反応容器7内の反応液と第二試薬とを撹拌させる(ステップS112)。そして、このようにして試薬と検体との反応が終了後、制御部25は、測光装置16から入力される測定信号をもとに算出した吸光度から、制御部25は、検体に含まれる特定成分の濃度等を分析結果として算出する(ステップS114)。
【0046】
次に、制御部25は、洗浄部17に反応容器7を洗浄させ(ステップS116)、冷却水保持部6b内の冷却水を吸引廃棄させる(ステップS118)。次いで、制御部25は、洗浄部17に反応容器7を乾燥させる(ステップS120)。
【0047】
その後、制御部25は、総ての反応容器7の分析が終了したか否かを判定する(ステップS122)。このとき、制御部25は、入力部26から入力される分析依頼をもとに判定する。判定の結果、分析が終了していない場合(ステップS122,No)、制御部25は、ステップS100へ戻る。一方、分析が終了している場合(ステップS122,Yes)、制御部25は、自動分析装置の液体試料の温度上昇抑制方法を終了する。
【0048】
(実施例1)
ここで、本発明による液体試料の温度抑制効果を確認するため、自動分析装置1において、反応容器7に第一試薬と検体とを分注して液体試料の容量を180μLとし、反応容器7に隣接する冷却水保持部6bに同量の冷却水を分注した後、反応容器7内の液体試料を第一撹拌駆動装置20で表面弾性波素子18を駆動して撹拌した。次に、第一試薬と検体の反応液に更に第二試薬を100μL分注し、冷却水保持部6bに同量の冷却水を追加分注した後、反応容器7内の液体試料を第二撹拌駆動装置23で表面弾性波素子18を駆動して撹拌した。
【0049】
このとき、赤外線温度計を使用し、第一試薬の分注後、反応終了後までの合計36の測光点(P0〜P35)で測光と併せて反応容器7内の液体試料の温度を測定した。温度の測定結果を実施例1として図11に示す。図11において、反応容器7内の液体試料は、測光点P0〜P1の間に第一撹拌駆動装置20が駆動した表面弾性波素子18によって撹拌され、測光点P19〜P20の間に第二撹拌駆動装置23が駆動した表面弾性波素子18によって撹拌されている。
【0050】
(比較例1,2)
一方、比較のため、冷却水保持部6bに冷却水を分注せずに合計36の測光点(P0〜P35)で実施例1と同様に測定した反応容器7内の液体試料の温度測定結果を図11に比較例1として示す。また、冷却水保持部6bには冷却水を分注せず、反応容器7に第一試薬と検体とを分注した容量80μLの液体試料を第一撹拌駆動装置20で表面弾性波素子18を駆動して撹拌し、更に第二試薬を15μL分注した液体試料を第二撹拌駆動装置23で表面弾性波素子18を駆動して撹拌した際の実施例1と同様に測定した反応容器7内の液体試料の温度測定結果を図11に比較例2として示す。
【0051】
表面弾性波素子18によって撹拌した場合、自動分析装置1は、表面弾性波素子18が発熱しても、冷却水保持部6bに分注した冷却水によって反応容器7を冷却する。このため、本発明方法によれば、簡単な構造でありながら、図11に示すように、反応容器7に保持された液体試料の温度上昇を簡易に抑制し、液体試料の温度を所定温度に保持することができる。このため、自動分析装置1は、信頼性の高い分析結果を得ることができる。しかし、冷却水保持部6bに分注した冷却水によって反応容器7を冷却しないと、表面弾性波素子18による撹拌の際に、反応容器7内の液体試料の温度が、所定温度範囲を簡単に超えてしまい、測定結果の信頼性に不安がある。
【0052】
また、自動分析装置1は、音波発生素子18を冷却する発熱抑制(冷却)手段を設けず、冷却水保持部6bに分注した冷却水によって反応容器7を簡易に冷却するので、反応槽5の構造が簡単になり、故障発生の要因になるという問題が回避されるほか、製造コストを低減することができるという利点を有している。
【0053】
尚、上記実施の形態は、冷却水保持部6bに分注した冷却水を洗浄装置17によって吸引して廃棄した。しかし、冷却水保持部6bに分注した冷却水は、試薬分注装置11,12の分注プローブ11b,12bによって吸引し、洗浄槽11c、12cへ廃棄し、又は検体分注装置15の分注プローブ15bによって吸引し、洗浄槽15cへ廃棄してもよい。
【0054】
また、冷却水保持部へ冷却水を供給する冷却水供給手段は、試薬分注装置11,12、検体分注装置15又は洗浄装置17とは別に設けてもよく、この場合、冷却水保持部から冷却水を廃棄する手段を冷却水供給手段と一体に設けても、或いは冷却水供給手段と別個に設けてもよい。
【0055】
更に、上記実施の形態は、検体が試験管形状の容器に保持されている場合について説明した。しかし、検体は、例えば、マイクロプレートに保持されていてもよい。この場合、検体を分注する検体分注装置15は、アーム15aが伸縮するか、屈曲する構成とする。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の自動分析装置の概略構成図である。
【図2】図1の自動分析装置のA部拡大断面図である。
【図3】図2に示すA部におけるキュベットホイールの斜視図である。
【図4】図1の自動分析装置において反応容器内の液体試料を撹拌する表面弾性波素子を駆動する撹拌駆動装置の概略構成図である。
【図5】表面弾性波素子の構造を拡大して示す斜視図である。
【図6】本発明の自動分析装置の液体試料の温度上昇抑制方法を説明するフローチャートである。
【図7】図2に示す反応容器に第一試薬と検体とを含む液体試料を分注した状態を示す図である。
【図8】冷却水保持部に第一試薬と検体の分注量に対応した量の冷却水を分注した状態を示す図である。
【図9】図7に示す反応容器に第二試薬を分注した状態を示す図である。
【図10】図8に示す冷却水保持部に冷却水を追加分注した状態を示す図である。
【図11】実施例1及び比較例1,2の結果を示す反応容器内の液体試料の温度変化図である。
【符号の説明】
【0057】
1 自動分析装置
2 本体
3,4 試薬保冷庫
3a,4a 蓋
3b,4b 試薬容器
3c,4c 冷却水容器
3d,4d プローブ孔
5 反応槽
5a 蓋
5b〜5e プローブ孔
5f ピン孔
6 キュベットホイール
6a 容器保持部
6b 冷却水保持部
6c 位置決めピン
6d 測光窓
7 反応容器
8 内歯車部材
9 ベアリング
10 恒温槽
10a 本体
10b 液流路
10c 環状凹部
11,12 試薬分注装置
13 検体容器移送機構
14 スタット保冷庫
14a 蓋
14b 検体容器
14c 冷却水容器
14d,14e プローブ孔
15 検体分注装置
16 測光装置
17 洗浄装置
18 表面弾性波素子
20 第一撹拌駆動装置
21 駆動回路
22 駆動制御部
23 第二撹拌駆動装置
25 制御部
26 入力部
27 出力部
E 接触電極
Lh 恒温液
Ls 液体試料
R ラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と試薬を含む液体試料が分注される反応容器を複数保持するキュベットホイールと、前記各反応容器に配置され、出射する音波によって前記液体試料を撹拌する表面弾性波素子とを備え、前記検体と前記試薬との反応液の光学的特性をもとに前記検体を分析する自動分析装置であって、
前記キュベットホイールは、前記反応容器を冷却する冷却水を保持する冷却水保持部が前記各反応容器に隣接する位置に形成され、
前記表面弾性波素子による前記液体試料の撹拌までに前記冷却水保持部へ冷却水を供給する冷却水供給手段を備えることを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
前記冷却水供給手段は、前記試薬を分注する試薬分注装置又は前記検体を分注する検体分注装置を含む分注装置であることを特徴とする請求項1に記載の自動分析装置。
【請求項3】
前記試薬を保持した試薬容器を収容する試薬保冷庫又は緊急検体を保持した検体容器を収容するスタット保冷庫を含む保冷庫を備え、
前記冷却水は、前記保冷庫に収容された冷却水容器から前記分注装置によって前記冷却水保持部へ分注されることを特徴とする請求項2に記載の自動分析装置。
【請求項4】
前記分注装置は、前記反応容器内の前記液体試料の液量に応じた量の冷却水を前記冷却水保持部へ分注することを特徴とする請求項3に記載の自動分析装置。
【請求項5】
分析終了後の前記反応容器から前記液体試料を吸引廃棄した後、洗浄液を吐出吸引して洗浄する洗浄装置を備え、
前記冷却水保持部の冷却水は、前記液体試料の分析終了後、前記洗浄装置によって吸引廃棄されることを特徴とする請求項4に記載の自動分析装置。
【請求項6】
検体と試薬を含む液体試料が分注される反応容器を複数保持するキュベットホイールと、前記各反応容器に配置され、出射する音波によって前記液体試料を撹拌する表面弾性波素子とを備え、前記検体と前記試薬との反応液の光学的特性をもとに前記検体を分析する自動分析装置の液体試料の温度上昇抑制方法であって、
前記各反応容器と隣接する位置に形成された冷却水保持部へ前記液体試料の撹拌までに冷却水を分注する分注工程と、
前記冷却水保持部に冷却水が分注された後、前記表面弾性波素子が出射する音波によって前記反応容器に分注される液体試料を撹拌する撹拌工程と、
を含むことを特徴とする自動分析装置の液体試料の温度上昇抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−217050(P2010−217050A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65227(P2009−65227)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(510005889)ベックマン コールター, インコーポレイテッド (174)
【Fターム(参考)】