説明

自動変速機の制御装置

【課題】学習補正変動域でのトルクダウン制御による変速ショックの発生防止と、学習補正安定域でのトルクダウン制御の開始タイミングとイナーシャ相の開始タイミングの一致性確保により、変速品質の安定化要求に応えることができる自動変速機の制御装置を提供すること。
【解決手段】自動変速機の制御装置において、実物理量と目標物理量の乖離状態に基づいて、変速に関与する摩擦要素への締結指令圧の補正量を決めて記憶する変速圧学習補正制御手段(図3)と、変速時、時間管理により予め設定したイナーシャ相の開始予想タイミングになると、エンジン1のトルクを一時的に低下させる指令の出力を開始する変速トルクダウン制御手段と、変速圧学習補正が収束していると判定されるまで変速トルクダウン制御を禁止し、変速圧学習補正が収束していると判定されると変速トルクダウン制御を実行するトルクダウン切替制御手段(図4)と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速時、駆動源のトルクを一時的に低下させる変速トルクダウン制御を行う自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのトルクダウンをタイミング良く行うことで、変速ショックを緩和することを目的とし、変速時に締結される摩擦要素へ締結圧を供給する油圧回路に油圧スイッチを設け、変速開始指令の出力時点からイナーシャ相の開始時点までの間において、油圧スイッチが入った時点を基準時として設定し、該基準時からのタイマー測定時間が、イナーシャ相が開始すると予測される所定時間を経過すると、エンジントルクを一時的に低下させる指令の出力を開始するタイマートルクダウン制御を行う自動変速機の制御装置が知られている。(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−270726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の自動変速機の制御装置にあっては、締結開始位置までピストンがストロークしてからイナーシャ相が開始されるまでの時間は、自動変速機の製品毎のハード的なバラツキや経時変化等の影響を受けることによって、同じ条件下での同じ変速種類であっても一定の時間になるとは限らない。このため、油圧スイッチにより検出される基準時から予め決めておいた所定時間が経過することによりトルクダウン制御を開始しても、イナーシャ相の開始タイミングとの間にズレが生じ、突き上げショックや駆動力の引きショックを生じてしまう、という問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、学習補正変動域でのトルクダウン制御による変速ショックの発生防止と、学習補正安定域でのトルクダウン制御の開始タイミングとイナーシャ相の開始タイミングの一致性確保により、変速品質の安定化要求に応えることができる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、駆動源からのトルクを駆動輪に伝達するために摩擦要素の締結状態を切り替えて複数の変速段を達成する自動変速機の制御装置において、
今回の変速時、変速進行状況をあらわす物理量を測定し、実物理量と目標物理量の乖離状態に基づいて次回の変速時、前記摩擦要素の締結指令圧を補正する変速圧学習補正制御手段と、
変速時、変速開始から変速終了までの変速過渡期のうち、時間管理により予め設定したイナーシャ相の開始予想タイミングになると、前記駆動源のトルクを一時的に低下させる指令の出力を開始する変速トルクダウン制御手段と、
前記変速圧学習補正制御手段による変速圧学習補正の収束を判定し、変速圧学習補正が収束していると判定されるまで前記変速トルクダウン制御手段によるトルクダウン制御を禁止し、変速圧学習補正が収束していると判定されると前記変速トルクダウン制御手段によるトルクダウン制御を実行するトルクダウン切替制御手段と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明の自動変速機の制御装置にあっては、トルクダウン切替制御手段において、変速圧学習補正制御手段による変速圧学習補正の収束が判定され、変速圧学習補正が収束していると判定されるまで、時間管理により開始タイミングを決める変速トルクダウン制御が禁止される。
したがって、変速圧学習補正が収束していない学習補正変動域では、イナーシャ相の開始タイミングとトルクダウンの開始タイミングがずれることによる突き上げショックや駆動力の引きショックの発生が防止される。
そして、トルクダウン切替制御手段において、変速圧学習補正制御手段による変速圧学習補正の収束が判定され、変速圧学習補正が収束していると判定されると、時間管理により開始タイミングを決める変速トルクダウン制御が実行される。
したがって、変速圧学習補正が収束している学習補正安定域では、イナーシャ相の開始タイミングも安定することで、時間管理による変速トルクダウン制御の開始タイミングとの一致性が確保され、イナーシャ相で変速機への余分な入力トルクが有効に抑えられることで、良好な変速品質を保ちながら短時間にて素早く変速される。
この結果、学習補正変動域でのトルクダウン制御による変速ショックの発生防止と、学習補正安定域でのトルクダウン制御の開始タイミングとイナーシャ相の開始タイミングの一致性確保により、変速品質の安定化要求に応えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の自動変速機の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の自動変速機の制御装置が適用されたエンジン車でのエンジンと自動変速機の総合制御システムを示す全体図である。図2は、実施例1の自動変速機の制御装置の自動変速機コントロールユニットに設定されているアップシフト変速線の一例を示すアップシフトパターン図である。
【0009】
実施例1の自動変速機の制御装置が適用されたエンジンと自動変速機の総合制御システムは、図1に示すように、エンジン1(駆動源)と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、変速機出力軸4と、エンジントルク制御アクチュエータ5と、コントロールバルブユニット6と、エンジンコントロールユニット7と、自動変速機コントロールユニット8と、相互通信線9と、を備えている。
【0010】
前記エンジン1は、アクセル操作量に応じて開閉する電制スロットル弁のスロットル開度に応じて燃料を噴射し、燃料噴射量に応じたエンジントルクにてエンジン出力軸を回転駆動させる。このエンジン1には、エンジントルク制御アクチュエータ5が設けられていて、エンジンコントロールユニット7からトルクダウン制御信号を入力した場合、アクセル操作量に優先して電制スロットル弁を閉方向に制御し、燃料噴射量を減少させることでエンジン出力を抑える。
【0011】
前記トルクコンバータ2は、エンジン1と自動変速機3の間に設置され、エンジン出力軸に連結されたポンプインペラ21と、自動変速機入力軸に連結されたタービンランナ22と、トランスミッションケースにワンウェイクラッチ23を介して設けられたステータ24と、を有する。
【0012】
前記自動変速機3は、トルクコンバータ2のタービンランナ22からの入力回転数を、図外のギヤトレーンにおけるトルク伝達経路を変えることで複数段に変速し、変速後の出力回転数を変速機出力軸4から駆動輪までの駆動系に伝達する。この自動変速機3には、アップシフト時の係合摩擦要素31やアップシフト時の解放摩擦要素32等、変速段毎にギヤトレーンの回転メンバを連結したり固定したりする摩擦要素を複数有し、変速動作を2つの摩擦要素の掛け替え変速により行う。また、自動変速機3には、変速時に複数の摩擦要素への油圧を制御する各種のバルブ(スプールバルブやソレノイドバルブ等)やアキュムレータ等を集中配置したコントロールバルブユニット6が付設されている。
【0013】
前記エンジンコントロールユニット7は、エンジン関連情報を入力しながら様々な制御アクチュエータへ制御指令を出力し、燃料噴射制御等を行う電子制御手段である。このエンジンコントロールユニット7では、自動変速機コントロールユニット8からトルクダウン指令を入力すると、トルクダウン指令に応じたトルクダウン制御信号を、エンジントルク制御アクチュエータ5へ出力する。
【0014】
前記自動変速機コントロールユニット8は、エンジンコントロールユニット7と相互通信線9により接続されていると共に、スロットル開度センサ10,車速センサ11,タービン回転数センサ12,アクセル操作量センサ13,油圧スイッチ14,他のセンサ・スイッチ類15から必要情報を入力する。
【0015】
前記油圧スイッチ14は、アップシフト時、係合摩擦要素31へ締結油圧を供給する油圧回路に設けられ、ピストンストロークが開始し、係合摩擦要素31で伝達トルクが発生し始める時点で、スイッチが入る。
【0016】
この自動変速機コントロールユニット8では、自動変速機の変速特性をあらわすシフトパターン(変速線図)を用い、車両の運転点(スロットル開度と車速にて決まる点)がシフトパターン上で、ダウンシフト線を横切ったらダウンシフト指令を出し、アップシフト線を横切ったらアップシフト指令を出して変速制御を行う。例えば、アップシフトの場合には、変速線図として、自動変速機コントロールユニット8に予め記憶設定されている図2に示すようなアップシフトパターン図を用いる。
【0017】
また、エンジンコントロールユニット7と自動変速機コントロールユニット8を相互通信線9により接続することにより、エンジン1と自動変速機3の総合制御を行っている。すなわち、一方の自動変速機コントロールユニット8側では、アップシフト中、所定のエンジントルクダウン条件が成立すると、エンジントルクダウン制御を実行し、トルクダウン指令をエンジンコントロールユニット7へ出力する。他方のエンジンコントロールユニット7側では、自動変速機コントロールユニット8から入力したトルクダウン指令に基づき、エンジン1の出力トルクを低減するトルクダウン制御を行う。
【0018】
そして、自動変速機コントロールユニット8では、変速トルクダウン制御として、タイマートルクダウン制御とギヤ比トルクダウン制御を実行すると共に、タイマー学習補正制御を実行している。
前記タイマートルクダウン制御は、変速開始指令の出力時点からイナーシャ相の開始時点までの間において基準時を設定し、該基準時からのタイマー測定時間が所定時間を経過すると、前記エンジン1のトルクを一時的に低下させる指令の出力を開始する。
前記ギヤ比トルクダウン制御は、変速中に変速進行を示すギヤ比変化を確認すると、前記エンジン1のトルクを一時的に低下させる指令の出力を開始する。
前記タイマー学習補正制御は、変速開始指令の出力時点からイナーシャ相の開始時点までに要する時間を測定し、該変速開始からのタイマー測定時間と目標時間の時間差に基づいて次回の変速時、前記摩擦要素の締結指令圧を補正する。
【0019】
さらに、自動変速機コントロールユニット8では、タイマートルクダウン制御とギヤ比トルクダウン制御のトルクダウン切替制御を行う。このトルクダウン切替制御は、タイマー学習補正制御による変速圧学習補正の収束を判定し、変速圧学習補正が収束していると判定されるまでは、ギヤ比トルクダウン制御を実行し、変速圧学習補正が収束していると判定されると、ギヤ比トルクダウン制御に代え、タイマートルクダウン制御を実行する。
【0020】
図3は、実施例1の自動変速機の制御装置における自動変速機コントロールユニット4にて実行されるタイマー学習補正制御処理の流れを示すフローチャートであり、以下、各ステップについて説明する(変速圧学習補正制御手段、タイマー学習補正制御手段)。
【0021】
ステップS301では、例えば、図2において、車速の上昇により運転点Eから運転点Fへと移動し、第2速→第3速のアップシフト変速指令が出力された場合、今回の油圧指令値P1を、前回の第2速→第3速のアップシフトの際に用いた油圧指令値P0に、後述する前回の学習補正値ΔPを加えたものとし、ステップS302へ移行する。
【0022】
ステップS302では、ステップS301での今回の油圧指令値P1の算出に続き、エンジン負荷として、スロットルセンサ7からエンジンのスロットル開度TVOを読み込み、ステップS303へ移行する。
【0023】
ステップS303では、ステップS302でのスロットル開度TVOの読み込みに続き、車速センサ11からの車速Vを読み込み、ステップS304へ移行する。
【0024】
ステップS304では、ステップS303での車速Vの読み込みに続き、例えば、スロットル開度TVOが設定開度以下で車速Vが設定車速以下というように学習感度が高い学習運転条件が成立する学習運転状態であるか否かを判断し、YES(学習運転条件成立)の場合はステップS305へ移行し、NO(学習運転条件非成立)の場合はエンドへ移行する。
【0025】
ステップS305では、ステップS304での学習運転条件が成立であるとの判断に続き、AT油温ATFを用い、変速開始指令の出力時点からイナーシャ相の開始時点までに要する目標のピストンストローク時間に相当する目標時間Ttを算出し、ステップS306へ移行する。
ここで、目標時間Ttは、変速種類毎に、スロットル開度TVOや車速VやAT油温ATF等に応じて、ショックや間延びがない高品質の変速を達成する時間として算出される。
【0026】
ステップS306では、ステップS305での目標時間Ttの算出に続き、変速開始指令の出力時点からイナーシャ相の開始時点までに要する実ピストンストローク時間であるタイマー時間Trを計測し、ステップS307へ移行する。
【0027】
ステップS307では、ステップ306でのタイマー時間Trの計測に続き、学習補正値ΔPを下記の式を用いて算出し、ステップS308へ移行する。
ΔP=k(Tr−Tt)
ここで、kは、時間差に対する補正量を決める定数である。なお、学習補正量ΔPには、上限値と下限値を摩擦要素毎に設定する。
【0028】
ステップS308では、ステップS307での学習補正量ΔPの算出に続き、次回の変速時の油圧指令値P1の算出情報となる油圧指令値P0と学習補正量ΔPを記憶エリアの学習運転状態に対応する記憶部に記憶し、エンドへ移行する。
ここで、油圧指令値P0と学習補正量ΔPの記憶エリアは、例えば、変速種類、スロットル開度TVO、車速V、AT油温ATF等の学習運転状態に応じたエリア細分化により複数の記憶部を予め設定しておく。
【0029】
図4は、実施例1の自動変速機コントローラ8にて実行されるトルクダウン切替制御処理の流れを示すフローチャートであり、以下、各ステップについて説明する(トルクダウン切替制御手段)。
【0030】
ステップS401では、アップシフト制御中であるか否かを判断し、YES(アップシフト制御中)の場合はステップS402へ移行し、NO(アップシフト非制御中)の場合はリターンへ移行する。
ここで、アップシフト制御中の判断は、例えば、アップシフト変速指令が出力された時点からアップシフト時の係合摩擦要素31への油圧がライン圧レベルに達した時点までにより行う。
【0031】
ステップS402では、ステップS401でのアップシフト制御中であるとの判断に続き、タイマー学習補正制御側から、今回の変速種類と同じ種類であって、かつ、変速運転状態が対応する学習補正量ΔPの情報を取得し、学習補正量ΔPから目標時間Ttとタイマー時間Trの差分値(Tt−Tr)を算出し、さらに差分値(Tt−Tr)の絶対値|Tt−Tr|が所定値未満であるか否かを判断し、YES(|Tt−Tr|<所定値)の場合はステップS405へ移行し、NO(|Tt−Tr|≧所定値)の場合はステップS403へ移行する(学習補正収束判定部)。なお、差分値(Tt−Tr)は、(Tr−Tt)=ΔP/kの式により算出される。また、所定値は、学習補正を経験することでタイマー時間Trが目標時間Ttに近づき、学習補正量ΔPもバラツキ誤差以下に安定しているとの学習補正収束判定しきい値として設定される。
【0032】
ステップS403では、ステップS402での|Tt−Tr|≧所定値であるとの判断に続き、タービン回転数センサ12からの変速機入力回転数情報と車速センサ11からの変速機出力回転数情報を用いて変速機の入出力回転数の比であるギヤ比を算出し、前回処理でのギヤ比と今回処理でのギヤ比との差をとる微分処理によりギヤ比変化量を算出し、このギヤ比変化量が所定量を超えているか否かを判断し、YES(ギヤ比変化量>所定量)の場合はステップS404へ移行し、NO(ギヤ比変化量≦所定量)の場合はリターンへ移行する。
【0033】
ステップS404では、ステップS403でのギヤ比変化量>所定量であるとの判断、あるいは、ステップS407でのタイマー値>所定値であるとの判断に続き、トルクダウン指令(例えば、エンジントルクを30%程度低下)をエンジンコントロールユニット7へ出力するエンジントルクダウン制御を実行し、リターンへ移行する。
【0034】
ステップS405では、ステップS402での|Tt−Tr|<所定値であるとの判断に続き、油圧スイッチ14がONであるか否かを判断し、YES(油圧スイッチON)の場合はステップS406へ移行し、NO(油圧スイッチOFF)の場合はリターンへ移行する。
【0035】
ステップS406では、ステップS405での油圧スイッチ14がONであるとの判断に続き、タイマー値をカウントアップし、ステップS407へ移行する。
【0036】
ステップS407では、ステップS406でのタイマー値のカウントアップに続き、油圧スイッチ14がONとなってからのタイマー値が所定値を超えているか否かを判断し、YES(タイマー値>所定値)の場合はステップS404へ移行し、NO(タイマー値≦所定値)の場合はリターンへ移行する。
ここで、所定値は、油圧スイッチ14がONとなってからイナーシャ相が開始されるまでの時間として設定されていて、この所定値も、タイマー学習補正制御での目標時間Ttと同様に、変速種類・スロットル開度TVO・車速V・AT油温ATF等に応じて最適値に設定される。
【0037】
なお、ステップS405→ステップS406→ステップS407からステップS404へと進む流れは、タイマートルクダウン制御手段に相当し、ステップS403からステップS404へと進む流れは、ギヤ比トルクダウン制御手段に相当する。
【0038】
次に、作用を説明する。
まず、「タイマートルクダウン制御に安定化が必要な理由」の説明を行い、続いて、実施例1の自動変速機の制御装置における作用を、「タイマー学習補正制御作用」、「学習補正変動域でのギヤ比トルクダウン制御作用」、「学習補正安定域でのタイマートルクダウン制御作用」に分けて説明する。
【0039】
[タイマートルクダウン制御に安定化が必要な理由]
図5は、アップシフト時に締結油圧が最適圧より高いことでイナーシャ相の開始タイミングがタイマートルクダウン制御の開始タイミングより早期となった場合のギヤ比・エンジントルク・出力軸トルクの各特性を示すタイムチャートである。図6は、アップシフト時に締結油圧が最適圧より低いことでイナーシャ相の開始タイミングがタイマートルクダウン制御の開始タイミングより遅くなった場合のギヤ比・エンジントルク・出力軸トルクの各特性を示すタイムチャートである。
【0040】
タイマートルクダウン制御装置は、アップシフト時に締結される摩擦要素へ締結圧を供給する油圧回路に油圧スイッチを設け、変速開始指令の出力時点からイナーシャ相の開始時点までの間において、図5及び図6に示すように、油圧スイッチが入った時点を基準時Tpとして設定し、該基準時Tpから測定時間であるタイマー値が、イナーシャ相が開始すると予測される所定時間Tsを経過する時点Tdにて、エンジントルクTRDを一時的に低下させる指令の出力を開始する。
【0041】
しかしながら、締結開始位置までピストンがストロークした基準時Tpからイナーシャ相が開始される時点Tiまでに要する時間は、自動変速機の製品毎のハード的なバラツキや経時変化等の影響を受けることによって、同じ条件下での同じ変速種類であっても一定の時間になるとは限らない。このため、油圧スイッチにより検出される基準時Tpから予め決めておいた所定時間Tsが経過する時点Tdにてトルクダウン制御を開始しても、イナーシャ相の開始タイミングである時点Tiとの間にズレが生じる。
【0042】
まず、アップシフト時には、エンジン1の慣性モーメントで余分に駆動力が発生し、変速中のイナーシャ相にて余分なトルクが発生することになる。このイナーシャ相にて発生する余分なトルク分を低減することで、変速品質を良好にすると共に、アップシフトで締結される摩擦要素の余分な発熱量を抑え、摩擦要素の耐久性を向上させることを目指して実行されるのがエンジントルクダウン制御である。
【0043】
これに対し、例えば、アップシフト時に締結油圧が最適圧より高いことで、図5に示すように、イナーシャ相の開始タイミングの時点Tiがタイマートルクダウン制御の開始タイミングの時点Tdより早期となった場合、イナーシャ相が開始されてからもエンジントルクTRDが低下しないことで、タイマートルクダウン制御の開始遅れ時間ΔT1の間は、変速機への入力トルクが過大となる。このため、図5の出力軸トルク特性を示すように、イナーシャ相が開始されてからエンジントルクTRDが低下するまでの間、トルク過大により突き上げショックを生じてしまう。
【0044】
例えば、アップシフト時に締結油圧が最適圧より低いことで、図6に示すように、イナーシャ相の開始タイミングの時点Tiがタイマートルクダウン制御の開始タイミングの時点Tdより遅れた場合、イナーシャ相が開始されるのに先行してエンジントルクTRDが低下することで、タイマートルクダウン制御の開始先行時間ΔT2の間は、変速機への入力トルクが過少となる。このため、図6の出力軸トルク特性を示すように、エンジントルクTRDが低下してからイナーシャ相が開始されるまでの間、トルク過少により駆動力の引きショックを生じてしまう。
【0045】
このように、タイマートルクダウン制御では、アップシフト時、締結油圧が最適圧から外れている場合、イナーシャ相の開始タイミングの時点Tiがタイマートルクダウン制御の開始タイミングの時点Tdと一致せず、タイマートルクダウン制御を実行することが却って変速品質が悪化する場合があるため、何らかの対策により、タイマートルクダウン制御を安定化させることが必要となる。
【0046】
[タイマー学習補正制御作用]
図7は、実施例1の自動変速機の制御装置においてタイマー学習補正制御を説明するためにアップシフト過渡期(変速過渡期一例)での出力トルク・ギヤ比変化率・ギヤ比・アップシフト締結油圧指令の各特性を示すタイムチャートである。
【0047】
走行時、学習運転条件が成立すると、図3のフローチャートにおいて、ステップS301→ステップS302→ステップS303→ステップS304→ステップS305→ステップS306→ステップS307→ステップS308へと進み、ステップS307では、ΔP=k(Tr−Tt)の式を用いて学習補正量ΔPが算出される。
【0048】
つまり、目標時間Ttに対しイナーシャ相(=イナーシャフェーズ)の開始が遅く、Tr>Ttとなる場合は、図7の実線特性に示す前回の油圧指令値P0を、k(Tr−Tt)の分だけ増加させて、図7の1点鎖線特性に示すように変更し、次回のアップシフト時にタイマー時間Trを目標時間Ttに出来る限り近づけるようにする。
【0049】
一方、目標時間Ttに対しイナーシャ相の開始が早く、Tr<Ttとなる場合は、図7の実線特性に示す前回の油圧指令値P0を、k(Tr−Tt)の分だけ減少させて、図7の点線特性に示すように変更し、次回のアップシフト時にタイマー時間Trを目標時間Ttに出来る限り近づけるようにする。
【0050】
上記のように、実施例1では、変速時の締結油圧のバラツキを摩擦要素毎に補正する学習補正手法として、タイマー学習補正制御手法を採用した。このため、アップシフト時の締結油圧が最適値に近づけられ、変速開始からイナーシャ相が開始されるまでの摩擦要素のピストンストローク時間(変速時間)を、ほぼ一定時間に保つように管理することができる。その結果、タイマー学習補正制御の経験を重ねることで、アップシフト時、間延び変速感の防止と変速ショックの低減を両立させた変速品質とすることができる。
【0051】
[学習補正変動域でのギヤ比トルクダウン制御作用]
図8は、実施例1の自動変速機の制御装置において学習補正変動域にて実行されるギヤ比トルクダウン制御でのギヤ比(Gr)・エンジントルク(TRD)・解放圧(POUT)・締結圧(PIN)・出力軸トルク(TOUT)の各特性を示すタイムチャートである。
【0052】
アップシフト制御中であり、かつ、目標時間Ttとタイマー時間Trの差分絶対値|Tt−Tr|が所定値以上である学習補正変動域では、図4のフローチャートにおいて、ステップS401→ステップS402→ステップS403へと進み、ステップS403にてギヤ比変化量≦所定量と判断されている間は、ステップS401→ステップS402→ステップS403へと進む流れが繰り返される。そして、ステップS403にてギヤ比変化量>所定量と判断されると、ステップS403からステップS404→リターンへと進む流れが繰り返され、ステップS404では、トルクダウン指令がエンジンコントロールユニット7へ出力される。なお、ギヤ比の変化が終了し、再び、ステップS403にてギヤ比変化量≦所定量と判断されると、ステップS401→ステップS402→ステップS403へと進む流れが繰り返される。
【0053】
ここで、目標時間Ttとタイマー時間Trの差分絶対値|Tt−Tr|が所定値以上である学習補正変動域としては、例えば、変速経験が少なくタイマー学習補正制御が収束していないとき、あるいは、変速経験はあるが極低油温等のように過去に経験していないような学習運転状態のとき、あるいは、変速油圧制御系や変速電子制御系や変速ハード機構系等に外乱が入力したとき、等がある。
【0054】
そして、アップシフト制御中であり、かつ、学習補正変動域においては、図8に示すように、ギヤ比トルクダウン制御が実行されることになる。このギヤ比トルクダウン制御では、アップシフトの変速開始指令の出力時点T0から、スタンバイ相およびトルク相を経過して時間Tiのタイミングにてイナーシャ相が開始される。イナーシャ相が開始されるとギヤ比Grが低下を開始し、時間Tdのタイミングにてギヤ比変化量>所定量と判断されると、エンジントルクTRDの低下を開始し、ギヤ比変化量≦所定量と判断されるまでエンジントルクTRDの低下が維持される。
【0055】
したがって、アップシフト時に締結される摩擦要素の締結圧(PIN)特性は、イナーシャ相の開始時点TiからエンジントルクTRDの低下開始時点Tdまでは勾配RA2により上昇し、エンジントルクTRDの低下開始時点Tdからギヤ比Grが変速後のギヤ比なるまでは、勾配RA2より緩やかな勾配RA3により上昇する。そして、出力軸トルク(TOUT)の特性をみると、イナーシャ相の開始時点TiからエンジントルクTRDの低下開始時点Tdまでは、エンジントルク低下タイミングの遅れにより、少し突き上げショックが出るものの、仮に学習補正変動域においてトルクダウン制御を全く実行しない場合に比べ、出力軸トルクの変動幅が小さく抑えられ、変速品質が良好となる。また、ギヤ比トルクダウン制御の場合、必ずイナーシャ相の開始タイミングよりトルクダウン制御の開始タイミングが遅れる関係になるため、ショックの出方が一定となり、同じ変速の種類でありながら、引き込みショックとなったり、突き上げショックとなったりすることでの違和感も与えない。
【0056】
[学習補正安定域でのタイマートルクダウン制御作用]
図9は、実施例1の自動変速機の制御装置において学習補正安定域にて実行されるタイマートルクダウン制御でのギヤ比(Gr)・エンジントルク(TRD)・解放圧(POUT)・締結圧(PIN)・出力軸トルク(TOUT)の各特性を示すタイムチャートである。
【0057】
アップシフト制御中であり、かつ、目標時間Ttとタイマー時間Trの差分絶対値|Tt−Tr|が所定値未満である学習補正安定域では、図4のフローチャートにおいて、ステップS401→ステップS402→ステップS405へと進み、ステップS405で油圧スイッチ14がOFFである間は、ステップS401→ステップS402→ステップS405→リターンへと進む流れが繰り返される。そして、ステップS405で油圧スイッチ14がONになると、ステップS405からステップS406→ステップS407へと進み、ステップS407でタイマー値が所定値以下である間は、ステップS401→ステップS402→ステップS405→ステップS406→ステップS407→リターンへと進む流れが繰り返される。そして、ステップS407でタイマー値が所定値を超えると、ステップS407からステップS404→リターンへと進む流れが繰り返され、ステップS404では、トルクダウン指令が、タイマー値が所定値を超えた時点からイナーシャ相を終了する時点まで、エンジンコントロールユニット7へ出力される。
【0058】
すなわち、本発明者は、タイマートルクダウン制御により変速品質の安定化を目指すという技術課題に対し、変速圧学習補正制御を併用する場合、学習補正変動域では変速圧学習補正制御が有効に働き、学習補正安定域ではタイマートルクダウン制御が有効に働く点に着目した。この着目点にしたがって、学習補正変動域では、変速品質を悪化させる可能性のあるタイマートルクダウン制御を禁止しておき、変速圧学習補正制御の働きが低くなる学習補正安定域に入ると、タイマートルクダウン制御を開始する構成を採用した。そして、学習補正変動域では、変速時トルクダウン制御として、変速品質を悪化させることのないギヤ比トルクダウン制御を実行しておき、学習補正安定域に入ると、ギヤ比トルクダウン制御からタイマートルクダウン制御に受け渡すようにした。
【0059】
このように、実施例1の自動変速機の制御装置にあっては、図4に示すトルクダウン切替制御において、ステップS402にて、目標時間Ttとタイマー時間Trの差分絶対値|Tt−Tr|が所定値未満である学習補正安定域と判断されるまで、タイマー管理により開始タイミングを決めるタイマートルクダウン制御を禁止し、タイマートルクダウン制御に代えて上記のようにギヤ比トルクダウン制御が実行される。
【0060】
したがって、変速圧学習補正が収束していない学習補正変動域では、タイマートルクダウン制御を実行することを原因とし、イナーシャ相の開始タイミングとトルクダウンの開始タイミングがずれることによる突き上げショックや駆動力の引きショックの発生が防止される。
【0061】
そして、図4に示すトルクダウン切替制御において、ステップS402にて、目標時間Ttとタイマー時間Trの差分絶対値|Tt−Tr|が所定値未満である学習補正安定域と判断されると、タイマー管理により開始タイミングを決めるタイマートルクダウン制御が実行される。
【0062】
したがって、変速圧学習補正が収束している学習補正安定域では、図9に示すように、イナーシャ相の開始時間Tiが安定することで、タイマー管理によるタイマートルクダウン制御の開始時間Tdとの一致性が確保される。このため、イナーシャ相で変速機への余分な入力トルクが有効に抑えられることで、図9の出力軸トルク(TOUT)の特性に示すように、出力軸トルクの変動幅が小さく抑えられ、良好な変速品質を保つことができる。加えて、イナーシャ相で変速機への余分な入力トルクが有効に抑えられることで、図9のギヤ比(Gr)の特性に示すように、大きな勾配にてギヤ比が変化するというように、短時間にて素早く変速され、摩擦要素の熱負荷が軽減され、摩擦要素の耐久信頼性も確保される。
【0063】
次に、効果を説明する。
実施例1の自動変速機の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0064】
(1) 駆動源(エンジン1)からのトルクを駆動輪に伝達するために摩擦要素の締結状態を切り替えて複数の変速段を達成する自動変速機の制御装置において、今回の変速時、変速進行状況をあらわす物理量を測定し、実物理量と目標物理量の乖離状態に基づいて次回の変速時、前記摩擦要素の締結指令圧を補正する変速圧学習補正制御手段(図3)と、変速時、変速開始から変速終了までの変速過渡期のうち、時間管理により予め設定したイナーシャ相の開始予想タイミングになると、前記駆動源(エンジン1)のトルクを一時的に低下させる指令の出力を開始する変速トルクダウン制御手段(ステップS405→ステップS406→ステップS407からステップS404へと進む流れ)と、前記変速圧学習補正制御手段による変速圧学習補正の収束を判定し(ステップS402)、変速圧学習補正が収束していると判定されるまで前記変速トルクダウン制御手段によるトルクダウン制御を禁止し、変速圧学習補正が収束していると判定されると前記変速トルクダウン制御手段によるトルクダウン制御を実行するトルクダウン切替制御手段(図4)と、を備えた。このため、学習補正変動域でのトルクダウン制御による変速ショックの発生防止と、学習補正安定域でのトルクダウン制御の開始タイミングとイナーシャ相の開始タイミングの一致性確保により、変速品質の安定化要求に応えることができる。
【0065】
(2) 前記変速圧学習補正制御手段は、変速開始指令の出力時点からイナーシャ相の開始時点までに要する時間を測定し、該変速開始からのタイマー測定時間と目標時間の時間差に基づいて、変速に関与する摩擦要素への締結指令圧の補正量を決めて記憶するタイマー学習補正制御手段(図3)であり、前記変速トルクダウン制御手段は、変速開始指令の出力時点からイナーシャ相の開始時点までの間において基準時を設定し、該基準時からのタイマー測定時間が所定時間を経過すると、前記駆動源(エンジン1)のトルクを一時的に低下させる指令の出力を開始するタイマートルクダウン制御手段(ステップS405→ステップS406→ステップS407からステップS404へと進む流れ)である。このため、変速圧学習補正制御を精度良く行うことができると共に、学習補正制御とトルクダウン制御を同じ時間管理の制御とすることで、トルクダウン制御の開始タイミングとイナーシャ相の開始タイミングの一致性を高めることができる。
【0066】
(3) 前記変速トルクダウン制御手段として、前記タイマートルクダウン制御手段に加え、変速中に変速進行を示すギヤ比変化を確認すると、前記駆動源(エンジン1)のトルクを一時的に低下させる指令の出力を開始するギヤ比トルクダウン制御手段(ステップS403からステップS404へと進む流れ)を設け、前記トルクダウン切替制御手段(図4)は、前記タイマー学習補正制御手段(図3)による変速圧学習補正の収束を判定し(ステップS402)、変速圧学習補正が収束していると判定されるまでは、前記ギヤ比トルクダウン制御手段によるギヤ比トルクダウン制御を実行し、変速圧学習補正が収束していると判定されると、ギヤ比トルクダウン制御に代え、前記タイマートルクダウン制御手段(ステップS405→ステップS406→ステップS407からステップS404へと進む流れ)によるタイマートルクダウン制御を実行する。このため、タイマートルクダウン制御を禁止する学習補正変動域において、ギヤ比トルクダウン制御により変速ショックを小さく抑えることができる。
【0067】
(4) 前記トルクダウン切替制御手段(図4)は、前記変速圧学習補正制御手段から実物理量と目標物理量を取得し、実物理量と目標物理量の差分値の絶対値が所定値未満になると、変速圧学習補正が収束していると判定する学習補正収束判定部(ステップS402)を有する。このため、変速圧学習補正の収束を、学習補正値を決める実物理量と目標物理量の差分値により精度良く判定することができると共に、イナーシャ相の開始タイミングが安定しないことが予測される外乱入力時にも、実物理量が目標物理量から乖離することで、変速圧学習補正が収束していないと判定することができる。
【0068】
以上、本発明の自動変速機の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0069】
実施例1では、学習補正量を、変速過渡期の測定したタイマー時間Trを目標時間Ttに一致させるピストンストローク時間のタイマー学習により得る例を示した。しかし、学習補正量を、イナーシャフェーズでのギヤ比変化率を目標変化率に一致させるギヤ比変化率学習により得る例としても良い。さらに、学習補正量を、タイマー学習とギヤ比変化率学習を共に用いた学習により得る例としても良い。
【0070】
実施例1におけるタイマー学習補正制御では、求めた学習補正量ΔPを、変速種類やスロットル開度等の学習運転状態に応じて細分化された記憶エリアに記憶し、次回この記憶エリアに対応する変速が行われるときにのみ記憶した学習補正量ΔPを用いて締結指令圧の補正を行う例を示した。しかし、学習補正量ΔPを求めるときとは異なる変速状況であっても学習補正量ΔPに基づいて次回変速時における締結指令圧を補正するようにしても良い。この場合、締結指令圧の補正量は、例えば、学習補正量ΔPにスロットル開度等の今回変速時の運転状態に基づいて設定される係数を掛けることで算出するようにする。
そして、上記のようなタイマー学習補正制御を行う場合には、学習収束判定補正部は、今回の変速種類と同じ種類であって、かつ、変速運転状態が対応する学習補正量ΔPに基づいて学習の収束判定を行うことはせずに、前回学習時における学習補正量に基づいて学習の収束判定を行うようにする。
【0071】
実施例1では、変速トルクダウン制御手段として、油圧スイッチがONとなる時点からイナーシャ相が開始される時点までの所要時間をタイマー値により管理するタイマートルクダウン制御手段を用いる例を示した。しかし、変速開始指令の時点からイナーシャ相が開始される時点までの所要時間をタイマー値により管理するタイマートルクダウン制御手段を用いても良い。
【0072】
実施例1では、ギヤ比トルクダウン制御手段として、ギヤ比変化率を監視し、ギヤ比変化率が所定値を超えるとトルクダウン制御を開始する例を示した。しかし、ギヤ比を監視し、ギヤ比が変速前ギヤ比から変速後ギヤ比側に所定量変化するとトルクダウン制御を開始するようにしても良い。
【0073】
実施例1では、トルクダウン切替制御手段の学習補正収束判定部として、変速圧学習補正制御側からタイマー時間Trを目標時間Ttを取得し、タイマー時間Trを目標時間Ttの差分値の絶対値|Tr−Tt|が所定値未満になると、変速圧学習補正が収束していると判定する例を示した。しかし、変速圧学習補正制御側から学習補正値を取得し、学習補正値が所定値未満になると、変速圧学習補正が収束していると判定するようにしても良いし、また、変速圧学習補正制御側から学習補正経験回数情報を取得し、学習補正経験回数が設定回数以上であれば、変速圧学習補正が収束していると判定するようにしても良い。
【0074】
実施例1では、エンジントルクの低減制御として、エンジン1の電制スロットル弁を閉方向に制御する例を示した。しかし、スロットル開度はそのままで燃料噴射量を低減する制御としたり、燃料噴射を行う気筒数を変更する燃料カット制御としたり、点火時期を遅角制御するリタード制御とする例としても良い。さらに、駆動源として、モータを有する場合には、モータ駆動電流値を低下させる制御であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0075】
実施例1では、エンジン車に適用された自動変速機の制御装置の例を示した。しかし、駆動源としてエンジンとモータを併載したハイブリッド車や駆動源としてモータを搭載した電気自動車等に対しても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例1の自動変速機の制御装置が適用されたエンジン車でのエンジンと自動変速機の総合制御システムを示す全体図である。
【図2】実施例1の自動変速機の制御装置の自動変速機コントロールユニットに設定されているアップシフト変速線の一例を示すアップシフトパターン図である。
【図3】実施例1の自動変速機コントローラ8にて実行されるタイマー学習補正制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施例1の自動変速機コントローラ8にて実行されるトルクダウン切替制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】アップシフト時に締結油圧が最適圧より高いことでイナーシャ相の開始タイミングがタイマートルクダウン制御の開始タイミングより早期となった場合のギヤ比・エンジントルク・出力軸トルクの各特性を示すタイムチャートである。
【図6】アップシフト時に締結油圧が最適圧より低いことでイナーシャ相の開始タイミングがタイマートルクダウン制御の開始タイミングより遅くなった場合のギヤ比・エンジントルク・出力軸トルクの各特性を示すタイムチャートである。
【図7】実施例1の自動変速機の制御装置においてタイマー学習補正制御を説明するためにアップシフト過渡期(変速過渡期一例)での出力トルク・ギヤ比変化率・ギヤ比・アップシフト締結油圧指令の各特性を示すタイムチャートである。
【図8】実施例1の自動変速機の制御装置において学習補正変動域にて実行されるギヤ比トルクダウン制御でのギヤ比(Gr)・エンジントルク(TRD)・解放圧(POUT)・締結圧(PIN)・出力軸トルク(TOUT)の各特性を示すタイムチャートである。
【図9】実施例1の自動変速機の制御装置において学習補正安定域にて実行されるタイマートルクダウン制御でのギヤ比(Gr)・エンジントルク(TRD)・解放圧(POUT)・締結圧(PIN)・出力軸トルク(TOUT)の各特性を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0077】
1 エンジン(駆動源)
2 トルクコンバータ
3 自動変速機
31 アップシフト時の係合摩擦要素(摩擦要素)
32 アップシフト時の解放摩擦要素(摩擦要素)
4 変速機出力軸
5 エンジントルク制御アクチュエータ
6 コントロールバルブユニット
7 エンジンコントロールユニット
8 自動変速機コントロールユニット
9 相互通信線
10 スロットル開度センサ
11 車速センサ
12 タービン回転数センサ
13 アクセル操作量センサ
14 油圧スイッチ
15 他のセンサ・スイッチ類

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からのトルクを駆動輪に伝達するために摩擦要素の締結状態を切り替えて複数の変速段を達成する自動変速機の制御装置において、
今回の変速時、変速進行状況をあらわす物理量を測定し、実物理量と目標物理量の乖離状態に基づいて次回の変速時、前記摩擦要素の締結指令圧を補正する変速圧学習補正制御手段と、
変速時、変速開始から変速終了までの変速過渡期のうち、時間管理により予め設定したイナーシャ相の開始予想タイミングになると、前記駆動源のトルクを一時的に低下させる指令の出力を開始する変速トルクダウン制御手段と、
前記変速圧学習補正制御手段による変速圧学習補正の収束を判定し、変速圧学習補正が収束していると判定されるまで前記変速トルクダウン制御手段によるトルクダウン制御を禁止し、変速圧学習補正が収束していると判定されると前記変速トルクダウン制御手段によるトルクダウン制御を実行するトルクダウン切替制御手段と、
を備えたことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された自動変速機の制御装置において、
前記変速圧学習補正制御手段は、変速開始指令の出力時点からイナーシャ相の開始時点までに要する時間を測定し、該変速開始からのタイマー測定時間と目標時間の時間差に基づいて、変速に関与する摩擦要素への締結指令圧の補正量を決めて記憶するタイマー学習補正制御手段であり、
前記変速トルクダウン制御手段は、変速開始指令の出力時点からイナーシャ相の開始時点までの間において基準時を設定し、該基準時からのタイマー測定時間が所定時間を経過すると、前記駆動源のトルクを一時的に低下させる指令の出力を開始するタイマートルクダウン制御手段であることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された自動変速機の制御装置において、
前記変速トルクダウン制御手段として、前記タイマートルクダウン制御手段に加え、変速中に変速進行を示すギヤ比変化を確認すると、前記駆動源のトルクを一時的に低下させる指令の出力を開始するギヤ比トルクダウン制御手段を設け、
前記トルクダウン切替制御手段は、前記タイマー学習補正制御手段による変速圧学習補正の収束を判定し、変速圧学習補正が収束していると判定されるまでは、前記ギヤ比トルクダウン制御手段によるギヤ比トルクダウン制御を実行し、変速圧学習補正が収束していると判定されると、ギヤ比トルクダウン制御に代え、前記タイマートルクダウン制御手段によるタイマートルクダウン制御を実行することを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載された自動変速機の制御装置において、
前記トルクダウン切替制御手段は、前記変速圧学習補正制御手段から実物理量と目標物理量を取得し、実物理量と目標物理量の差分値の絶対値が所定値未満になると、変速圧学習補正が収束していると判定する学習補正収束判定部を有することを特徴とする自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−235974(P2009−235974A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82431(P2008−82431)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】