説明

自動車のリヤサスペンション装置

【課題】 サスペンションクロスメンバの回転変位を抑制して優れた操安性を得ると共に良好な乗り心地性能を得ることが出来る自動車のリヤサスペンション装置を提供する。
【解決手段】 本発明は、マルチリンク式の自動車のリヤサスペンション装置であって、サイドメンバ19,20及びクロスメンバ17,18により構成されたサスペンションクロスメンバBと、このサスペンションクロスメンバにより支持されたサスペンションリンク6-10と、サスペンションクロスメンバを車体Cに取り付ける複数の弾性マウント40,42,44と、を備え、弾性マウントにはすぐり部40d,44dが形成され、このすぐり部は、サスペンションクロスメンバの回転中心である複数の弾性マウントにより決定される仮想マウント中心点Pcと、すぐり部が設けられた弾性マウントの中心点40e,44eとを通る線L1,L3上の位置に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のリヤサスペンション装置に関し、特に、マルチリンク式の自動車のリヤサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチリンク式サスペンションは、各リンクを車輪の上下ストロークを除く5つの運動の自由度に対して最適に配設することが可能であるので、高い運動性能を得ることが出来るサスペンション形式として知られている。そして、各リンクの相互の位置関係や路面に対する位置関係が変化しないように、各リンクを剛性の高いサスペンションクロスメンバに取り付け、さらに、乗り心地を損なわないようにサスペンションクロスメンバ自体を弾性マウントにより車体に取り付けることも知られている。
【0003】
このような形式を有するサスペンション装置として、特許文献1には、車体側の端部に弾性ブッシュを備えた5本のリンクを備え、緩衝装置の上下反力を利用して各リンクの弾性ブッシュに付勢力(プリロード)を付与するようにしたマルチリンク式後輪サスペンション装置が開示されている。このサスペンション装置は、高い操縦安定性を確保しつつ十分な振動遮断性能をも得るようにしたものである。このサスペンション装置では、各リンクが連結されたサスペンションクロスメンバは、左右3点づつ合計6点の弾性マウントを介して車体に取り付けられており、それぞれのマウントの分担荷重が小さい分、相対的に柔らかな弾性マウントを採用することにより、乗り心地を向上させている。また、3点の弾性マウントを、仮想の平面を規定するように配置することにより、サスペンションクロスメンバ全体の揺動を効果的に抑制し、その揺動に起因する車輪のアライメント変化を解消するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−335117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、マルチリンク式のサスペンションでは、各リンクが独立したIアームで構成されているので、旋回時や制動時に各リンクに加わる荷重はそれぞれ異なり、さらに、各リンクに加わる荷重は、例えばタイヤの変形等による接地点の変化により変動する。一般に、サスペンションクロスメンバが車体に弾性マウントされた形式のマルチリンク式サスペンション装置では、このような荷重がサスペンションクロスメンバに加わると、弾性マウントが変形すると共にサスペンションクロスメンバは少なからず変位する。そして、本発明者らは、各リンクの荷重の偏りにより、サスペンションクロスメンバがその内方の特定の一点を中心に回転変位(揺動)し、その回転変位によりサスペンション全体がトー方向に変位してしまう現象を見出した。特に、旋回時に旋回外輪のリアロアアームに加わる横力が大きくなった場合には、サスペンションクロスメンバの回転方向が、旋回外輪側のサスペンション全体をトーアウト側に向ける方向となり、操安性の低下につながってしまう。
【0006】
また、上述した特許文献1のサスペンション装置において、乗り心地をさらに向上させるには、弾性マウントの車体前後方向の位置に所謂すぐり部を形成することが有効である。しかしながら、本発明者らは、そのようなすぐり部を設けることにより、サスペンションクロスメンバが回転し易くなり、乗り心地を確保することが出来ても、トー変化による操安性の悪化を招いてしまう懸念があることを見出した。特に、このサスペンション装置では、緩衝装置の上下反力により各リンクの弾性ブッシュが予め撓んだ状態になっているので、旋回時や制動時に、各サスペンションリンクに加わる荷重が、弾性ブッシュの撓みによる遅れなしに直接的にサスペンションクロスメンバに伝達され、或いは、緩衝装置の荷重がさらにサスペンションクロスメンバに付加されることになるので、そのような問題がより顕著となる。
【0007】
そこで、本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、サスペンションクロスメンバの回転変位を抑制して優れた操安性を得ると共に良好な乗り心地性能を得ることが出来る自動車のリヤサスペンション装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明は、マルチリンク式の自動車のリヤサスペンション装置であって、車幅方向左右両側でそれぞれ車体前後方向に延びる一対のサイドメンバ、及び、この一対のサイドメンバを互いに連結するように車幅方向に延びるクロスメンバにより構成されたサスペンションクロスメンバと、このサスペンションクロスメンバにより支持されたサスペンションリンクと、サスペンションクロスメンバを車体に取り付けるために一対のサイドメンバにそれぞれ設けられた複数の弾性マウントと、を備え、複数の弾性マウントの少なくとも1つにはすぐり部が形成され、このすぐり部は、平面視で、サスペンションクロスメンバの回転中心である複数の弾性マウントにより決定される仮想マウント中心点と、すぐり部が設けられた弾性マウントの中心点とを通る線上の位置に形成されていることを特徴としている。
このように構成された本発明においては、弾性マウントに形成されたすぐり部が、仮想マウント中心点と、すぐり部が設けられた弾性マウントの中心点とを通る線上の位置に形成されているので、弾性マウントは、その線上の方向に変形し易く、一方、その線上の方向と直交する方向には変形しにくい。つまり、サスペンションクロスメンバに横力が入力された場合、弾性マウントは、その横力を受けて、サスペンションクロスメンバの回転中心である仮想マウント中心点と弾性マウントの中心点とを通る線上の方向に変形し、一方、サスペンションクロスメンバの回転中心である仮想マウント中心点を中心にした回転方向(仮想マウント中心点と弾性マウントの中心点とを通る線上の方向と直交する方向)には変形しにくくなる。従って、サイドメンバ及びクロスメンバの回転によるトー変化が抑制され、特に、旋回時に旋回外輪側のサスペンション全体がトーアウト方向に向くことを抑制することが出来る。その結果、サスペンションクロスメンバの回転変位を抑制して優れた操安性を得ると共に弾性マウント自体の性能及び弾性マウントに形成したすぐり部により良好な乗り心地性能を得ることが出来る。
【0009】
本発明において、好ましくは、複数の弾性マウントは、一対のサイドメンバの前方部、中間部及び後方部にそれぞれ設けられた第1乃至第3の弾性マウントであり、すぐり部は、第1及び第3の弾性マウントに設けられている。
このように構成された本発明においては、すぐり部は、サイドメンバの前方部と後方部とにそれぞれ設けられた第1及び第3の弾性マウントに設けられているので、より確実に、サスペンションクロスメンバの回転変位を抑制することが出来る。
【0010】
本発明において、好ましくは、すぐり部は、仮想マウント中心点と弾性マウントの中心点とを通る線上の位置から、弾性マウントの中心点を通り且つ車体前後方向に延びる線上の位置まで延びる。
このように構成された本発明においては、すぐり部が車体前後方向の位置にも形成されるので、乗り心地をより向上させることが出来る。
【0011】
本発明において、好ましくは、すぐり部は、弾性マウントの中心点に対し対向して2つ設けられている。
このように構成された本発明においては、より確実に、サスペンションクロスメンバの回転変位を抑制すると共に乗り心地を向上させることが出来る。
【0012】
本発明において、好ましくは、サスペンションリンクは、その少なくとも車体側の端部にそれぞれ弾性ブッシュが配設されると共に自動車の後輪の支持部材を車体に連結し、後輪支持部材の車体内方側にはコイルバネ及びダンパを備える緩衝装置の下端部が枢着され、弾性ブッシュには、緩衝装置の上下反力を利用してプリロードが付与され、弾性ブッシュには、緩衝装置の上下反力を利用してプリロードが付与されている。
本発明においては、このような構成を有するサスペンション、即ち、車体側の端部の弾性ブッシュが予め撓んでおり、旋回時や制動時に、各サスペンションリンクに加わる荷重が、弾性ブッシュの撓みによる遅れなしに直接的にサスペンションクロスメンバに伝達され、或いは、緩衝装置の荷重がさらにサスペンションクロスメンバに付加されるような構成のサスペンションであっても、確実に、サスペンションクロスメンバの回転変位を抑制すると共に乗り心地を向上させることが出来る。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、サスペンションクロスメンバの回転変位を抑制して優れた操安性を得ると共に良好な乗り心地性能を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
先ず、図1及び図2により、本発明の実施形態によるリヤサスペンション装置の全体構成を説明する。図1は、本発明の実施形態によるリヤサスペンション装置を車体前方の斜め右側から見た斜視図であり、図2は、本実施形態によるリヤサスペンション装置を車体上方から見た平面図である。本実施形態による自動車のリヤサスペンション装置は、主に、リヤサスペンションA及びサスペンションクロスメンバ(サブフレーム)Bで構成され、サスペンションクロスメンバBが車体C(図4に一部のみ示す)に取り付けられている。
【0015】
先ず、本実施形態が適用された自動車の概略構成を説明する。
本実施形態の自動車は、図示しないが、車体前部のエンジンルームにエンジンを搭載する一方、車体後部にリヤデファレンシャル1(図2にのみ示す)を配設して後輪2(図1に車体右側のもののみ示す)を駆動するようにした後輪駆動車である。エンジンの車体後方側にはトランスミッション(図示せず)が組み付けられ、そのトランスミッションからの回転出力を、プロペラシャフト4(図2にのみ示す)を介して、リヤデファレンシャル1に伝達するようになっている。リヤデファレンシャル1からの回転出力は、ドライブシャフト5を介して後輪2に伝達される。
また、この自動車では、エンジン及びトランスミッションで構成されるパワーユニットと、リヤデファレンシャル1とを、パワープラントフレーム3(図2にのみ示す)で一体的に連結している。このパワープラントフレームは、パワーユニットとリヤデファレンシャル1とを含むパワートレインを、全体として剛性のある構造体として構成させるためのものであり、このパワープラントフレーム3により、リヤデファレンシャル1のワインドアップ振動を抑制して、アクセル操作に対する後輪2の駆動力の応答性を向上させることができる。パワープラントフレーム3は、コの字状の断面形状を有し、そのコの字の内方側にプロペラシャフトが通るように、フロアトンネル(図示せず)内に配置されている。
【0016】
次に、リヤサスペンションAの概略構成を説明する。
リヤサスペンションAは、独立した5本のIリンク6〜10によって後輪2のホイールサポート(支持部材)11を車体に対しストローク可能に連結し、緩衝装置14の上下反力を利用して各リンク6〜10の弾性ブッシュ26に付勢力(プリロード)を付与するようにしたプリロード式のマルチリンク式サスペンションである。各Iリンクは、仮想的にアッパアームを構成する車体前側及び後側の2本のアッパリンク6,7、仮想的にロワアームを構成する車体前側及び後側の2本のロワリンク8,9、及び、該仮想のアッパアーム及びロワアームの配置によって決まる仮想キングピン軸K周りの後輪2の回動変位を規制するトーコントロールリンク10である。そして、アッパリンク6,7及びロワリンク8,9がそれぞれ車体側の端部を中心に上下に揺動することによって、ホイールサポート11及び後輪2が所定の軌跡に沿って上下にストロークするようになっている。
また、そのような後輪2のストロークを許容しながら、同時に適度の付勢力及び減衰力を付与するように、コイルバネ12及びダンパ13を備えた緩衝装置14が配設されている。この緩衝装置14は、コイルバネ12とダンパ13とが略同軸に配置されて大略、上下方向に長い円筒状をなし、その上端側に配設された円筒状ブラケット15が図示しない車体に取り付けられる一方、ダンパ13の下端部(緩衝装置14の下端部)がホイールサポート11の車体内方側に枢着されている。従って、自動車の車体後部の分担荷重及び後輪2のストロークに対応するコイルバネ12及びダンパ13の反力(緩衝装置の上下反力)は直接、ホイールサポート11に作用することになる。
【0017】
次に、サスペンションクロスメンバBの概略構成について説明する。
サスペンションクロスメンバBは、大別して4つの鋼板製部材を平面視で概ね矩形枠状に組み合わせてなるもので、各々車幅方向に延びるフロントクロスメンバ17及びリヤクロスメンバ18と、それらの左右両側の端部同士を連結するように車体の左右両側において前後方向に延びる一対のサイドクロスメンバ19,20を備えている。
図2に示すように、フロントクロスメンバ17は、車体上方から見ると略真っ直ぐに車幅方向に延びていて、車幅方向の両端部がそれぞれ左右のサイドクロスメンバ19,20の各前端側に接合されている。また、図1に示すように、このフロントクロスメンバ17は、車体前後方向に見ると、長手方向の中央部分が左右両端部よりも上方に位置するように全体に亘って大きく湾曲するアーチ形状とされている。このような上方への湾曲した形状により、フロントクロスメンバ17の下方に、リヤデファレンシャル1及びパワープラントフレーム3を配置することが出来るようになっている。
【0018】
一方、図2に示すように、リヤクロスメンバ18は、車体上方から見ると略真っ直ぐに車幅方向に延びていて、車幅方向の両端部がそれぞれ左右のサイドクロスメンバ19,20の各後端側に接合されている。また、車体前後方向に見ると、上縁部の長さが下縁部よりも大きい逆台形状に形成されている(図5参照)。
このリヤクロスメンバ18の上縁部には、後側ロワリンク9の後述する取付部18aに対応する位置にそれぞれ取付部18bが配設されており、これらの取付部18bに弾性マウント21を介して取り付けられたブラケット22(図2及び図3参照)によりリヤデファレンシャル1が吊設されている。
また、図2に示すように、左右のサイドクロスメンバ19,20は、それぞれ、長手方向の中央部分が両端側に比べて車体内方に位置するよう緩やかに湾曲している。また、図1に示す斜視図から分かるように、左右のサイドクロスメンバ19,20は、車体側方視では、後端部から略中央部までが略水平に延びる一方、それよりも前側の部分が車体前方に向かって斜め下方に延びていて、中央よりも前側の部分が後側の部分よりも低くなるように配置されている。
【0019】
さらに、各サイドクロスメンバ19,20には、サスペンションクロスメンバB全体を車体に対して弾性支持するためのラバーマウント(弾性マウント)40、42、44が、それぞれ、各サイドクロスメンバ19,20の前端部、略中央部及び後端部の3点に配設されている。その略中央部のラバーマウント(第2ラバーマウント)42は、サイドクロスメンバ19,20の略中央部分から車体内方に延出するマウント取付部の上面に配置されていて、車体上方から見て該中央部のラバーマウント42と後端部のラバーマウント(第3ラバーマウント)44とを結ぶ直線が車体の前後方向の中心線L(図2にのみ示す)と略平行になるように位置付けられている。一方、前端部のラバーマウント(第1ラバーマウント)40は前記中央部のラバーマウント42及び後端部のラバーマウント44と比較して車体外方に位置している。
【0020】
つまり、前記サブフレーム3は、車体の左右両側で各々3点ずつ、合計6個のラバーマウント40、42、44により車体に連結されていて、それぞれ、サイドクロスメンバ19,20の前端、略中央及び後端に配置された3つのラバーマウント40、42、44が平面視で一直線上に並ばないように配置されている。このようにサブフレーム3を合計6個のラバーマウント40、42、44によって車体に取り付けると、一般的な4個のマウントの場合と比較して個々のラバーマウント40、42、44の分担荷重が小さくなり、相対的に柔らかな特性とすることができるので、乗り心地の改善が図られる。しかも、左右両側でそれぞれ3個のラバーマウント40、42、44により仮想の平面を規定するようにしているので、後車輪2へ横力が入力したときにサブフレーム3全体の揺動が効果的に抑制され、その揺動に起因する後車輪2のアライメント変化が実質的に解消される。
また、フロントクロスメンバ17の左右両端側からサイドクロスメンバ19,20の各前側部分に跨って補強部材24が架設され、また、その補強部材24の下端部からリヤクロスメンバ18の下縁部に亘って補強部材25が筋交い状に架設されており、これらの補強部材24、25により、サスペンションクロスメンバBの剛性が高められている。
【0021】
次に、図3乃至図5により、サスペンションリンク6〜10の取付構造及び配置を説明する。図3は、本実施形態によるリヤサスペンション装置の車体右側部分を車体上方側から見た上面図であり、図4は、本実施形態によるリヤサスペンション装置の車体右側部分を車体内方側から見た一部破断側面図であり、図5は、本実施形態によるリヤサスペンション装置の車体右側部分を車体後方側から見た後面図である。なお、本実施形態のリヤサスペンション装置は、車幅方向に対称に構成されているので、以下では、主に、その車体右側部分のみを説明し、車体左側部分については説明を省略する。
先ず、図3及び図5に示すように、フロントクロスメンバ17の左右両端側には、各々サイドクロスメンバ19,20との接合部に近接して下方に突出する取付部17aが配設されており、この各取付部17aには、ゴムブッシュ26を介してトーコントロールリンク10の車体側の端部が連結されている。図3に示すように、トーコントロールリンク10は、車体上方から見て、取付部17aから車体外方に向かって略真横(車幅方向)に延びており、その車輪側の端部がボールジョイント27によりホイールサポート11に連結されている。
【0022】
次に、図4及び図5に示すように、リヤクロスメンバ18には、その下縁部の左右両端側から下方に延出する取付部18aが形成されており、この取付部18aには、ゴムブッシュ26を介して後側ロワリンク9の車体側の端部が取り付けられている。図3に示すように、後側ロワリンク9は、取付部18aから車体外方に向かって僅かに前傾して延び、その車輪側の端部がボールジョイント27によりホイールサポート11に連結されている。この後側ロワリンク9は、前側ロワリンク8よりも長い。
次に、図3に示すように、サイドクロスメンバ19,20の前側の部分には、フロントクロスメンバ17との接合部の前側に近接して下方に突出するように第1取付部19a、20a(図1及び図2参照)が配設されており、これらの第1取付部19a,20aには、それぞれ、ゴムブッシュ26を介して前側ロワリンク(ロワトレーリングリンク)8の車体側の端部が取り付けられている。図3に示すように、この前側ロワリンク8は、第1取付部19a(20a(図1及び図2参照))から、車体上方から見て、前側アッパリンク6よりも大きく後傾して車幅方向に延び、その車輪側の端部がボールジョイント27によりホイールサポート11に連結されている。この前側ロワリンク8は、アッパリンク6,7よりも長い。
【0023】
また、サイドクロスメンバ19,20の前側の部分には、フロントクロスメンバ17との接合部の後側に近接して上方に突出するように第2取付部19b,20b(図1及び図2参照)が配設されており、これらの第2取付部19b、20bには、それぞれ前側アッパリンク(アッパトレーリングリンク)6の車体側の端部が取り付けられている。図3に示すように、車体上方から見て、前側アッパリンク6は、第2取付部19b、20bから車体外方に向かうほど徐々に後方に位置するように後傾して延びており、その車輪側の端部がボールジョイント27によりホイールサポート11に連結されている。
次に、図3及び図5に示すように、各サイドクロスメンバ19,20の後側部分には、第3取付部19c,20cが配設されており、これらの第3取付部19c、20cには、ゴムブッシュ26を介して後側アッパリンク7の車体側の端部が取り付けられている。この後側アッパリンク7は、第3取付部19c、20cから車体外方に向かうほど徐々に前方に位置するように前傾して延び、車輪側の端部がボールジョイント27によりホイールサポート11に連結されている。後側アッパリンク7は、前側アッパリンク6と略同じ長さである。
次に、図5に示すように、車体後方から見ると、アッパリンク6,7は、サイドクロスメンバ19から車体外方のホイールサポート11に向かって僅かに上向きに傾斜しており、これとは反対に前側ロワリンク8は車体外方に向かって僅かに下向きに傾斜しており、さらに、後側ロワリンク9及びトーコントロールリンク10はいずれも略水平に延びている。
【0024】
次に、各リンク6〜10の配置による、サスペンションAの作用を説明する。
先ず、図3に示すように、2本のロワリンク8,9は、車体上方から見て、車体外方側に向かって互いに接近するように配置されており、この配置によって後輪2にはその車体後方への変位に伴い幾何学的にトーインが付与されるようになる(前後力コンプライアンスステア)。すなわち、例えば自動車の制動時等に路面からの制動力が後輪2に対し車体後方向きに作用すると、2本のロワリンク8,9がそれぞれゴムブッシュ26の撓みによって車体側の端部の周りに僅かに回動変位し、これにより車輪側の端部が車体後方に変位するようになる。このとき、前側ロワリンク8が車体外方に向かって後傾し、且つ後側ロワリンク9が車体外方に向かって前傾していると、それらの各リンクの回動変位に伴い、前側ロワリンク8の車輪側端部が車体内方に変位するとともに、後側ロワリンク9の車輪側端部は車体外方に変位することになるから、後輪2のアライメントはトーインの向きに変化するのである。
【0025】
次に、仮想キングピン軸Kは、後輪2の操向方向(トー方向)への回動の瞬間回転中心であり、図3のように車体上方から見ると、同図に仮想線で示すように、2つのアッパリンク6,7の軸心の交点と2つのロワリンク8,9の軸心の交点とを通る仮想の軸となる。この実施形態では、後輪2の仮想キングピン軸Kは、図4に示すように車体側方から見て上端側ほど車体後方に位置するように僅かに後傾するとともに、車体前後方向に見て上端側ほど車体外方に位置するように僅かに傾斜している(図5参照)。
また、車体側方から見た仮想キングピン軸Kの路面との交点k1(図4参照)は後輪2の接地点Gよりも車体後方に離間していて、後輪2のキャスタトレールが負値となっている。このことで、自動車の旋回時に後輪2の路面との接地点Gに作用する横力は仮想キングピン軸Kの車体前方を横切ることになり、この横力によって後輪2には直接にトーインの向きのモーメント力が作用する。
これにより、主に2本のロワリンク6,7のゴムブッシュ26が撓んで、車輪2のトーイン量が増大する(横力コンプライアンスステア)。
つまり、この実施形態のリヤサスペンションAの場合、自動車の制動時には前後力コンプライアンスステアによって左右の後輪2のトーイン量が増大し、また、自動車の旋回時には旋回外方の後輪2のトーイン量が横力コンプライアンスステアによって増大するようになっている。尚、詳しい説明は省略するが、このリヤサスペンションAでは各リンク6〜10の配置構成により、バンプ時のロールステアによっても後輪2のトーイン量が増大するようになっている。
【0026】
次に、図3乃至図5により、緩衝装置14の構成及び配置を説明する。
緩衝装置14は、図3に示すように車体上方から見て、前側のリンク6,8と後側のリンク7,9の中間を上下方向に貫通するように配置され、その軸心Xは、車体側方から見て略鉛直に延びるとともに(図4参照)、車体後方から見ると上端側ほど車体内方に位置するように傾斜している(図5参照)。この緩衝装置14の上端部では、図4にのみ破線で示すが、ダンパ13のロッド13aの上端部が円筒状ブラケット15内でその上端部にゴムブッシュ等を介して固定されており、さらに、そこから下方に向かって延びるように円筒状の樹脂製バンプストッパ28がロッド13aと同心状に配設されている。このバンプストッパ28は、サスペンションAのバンプ時にコイルバネ12が所定量以上、縮んだときにダンパ13の外筒の上端部に当接するものであり、その当接後は緩衝装置14全体としてバネ定数が一段、高くなるので、後輪2の車体側への近接変位が規制されることになる。
【0027】
また、緩衝装置14のブラケット15の下端部には特に車体前後方向に長い異形の鍔部29が設けられていて、その上面が車体の下部フレームに接合されて締結されるようになっている。一方、鍔部29の下面にはコイルバネ12の上端部を保持するアッパシートが形成されており、ダンパ13の外筒を囲むように配置されたコイルバネ12の下端部は該ダンパ13外筒の下端側に設けられたロワシート部13bによって保持されている。さらに、ダンパ13の下端部には円環状の取付部13cが突設されていて、これが後輪2のホイールサポート11から車体内方に延びる連結部30の端部に枢着されている。
詳しくは、ホイールサポート11の連結部30は、後輪2の車軸が貫通するホイールサポート11本体の内側に一体に形成されたものであり、図5に示すように車体前後方向に見て、ホイールサポート11本体の上下両端側から車体内方に向かって延びて先端部で一体となった上腕部31及び下腕部32と、該上腕部31及び下腕部32をそれぞれの車幅方向中間部にて連結するように上下方向に延びる中間腕部33とを有し、全体として横向きの略A字形状をなす。そして、そのA字の横棒である中間腕部33から、A字の上端である上腕部31及び下腕部32の先端部(連結部30の車体内方の先端部)に亘って鋼製の支軸34が配設され、その支軸34の端部が連結部30の端部よりも車体内方に突出していて、これがダンパ13の下端取付部13cに挿通された状態でゴムブッシュ等を介して固定されている。このように連結部30を略A字形状としたことで、上下方向の荷重に対して十分な剛性を確保しながら、連結部30、ひいてはホイールサポート11全体の軽量化が図られ、連結部30を設けたことによるバネ下重量の増大を抑えて、運動性能の悪化を防止することができる。
【0028】
上述した構成により、車体後部の分担荷重や緩衝装置14の上下反力はホイールサポート11の連結部30を介して直接、後輪2に作用することになる。このように、緩衝装置14から作用する反力を積極的に利用してホイールサポート11を予め所定の向きに付勢することにより、後輪2のアライメントを最適化し且つ各リンク6〜10のゴムブッシュ26にそれぞれ最適な向きの付勢力を付与するようにしている。即ち、各ゴムブッシュ26を緩衝装置14の上下反力によって最適な向きに予圧縮して、マルチリンク式サスペンションにおいてもスポーツカーに適用可能なシャープな運転感覚を得られるようにしている。
具体的には緩衝装置14の上下反力により、(1)後輪2に対して旋回時の横力にも打ち勝つように負キャンバの向きのモーメント力を作用させ、且つ、(2)旋回時の横力等が作用する以前からトーインの向きのモーメント力を付与するとともに、(3)特に乗り心地への影響が大きいロワリンク8,9のゴムブッシュ26に対して車体前方への付勢力を付与するようにしている。
【0029】
次に、図6乃至図8により、これらの3つの作用効果を説明する。
図6は、緩衝装置の上下反力による負キャンバの向きのモーメント力の説明図であり、図7は、緩衝装置の上下反力によるトーインの向きのモーメント力の説明図であり、図8は、緩衝装置の上下反力による車軸周りのモーメント力の説明図である。
まず第1に、図6に模式的に示すように、車体右側のリヤサスペンションAを後方から見て、緩衝装置14は、その軸心X方向の反力Fcがホイールサポート11を介して後輪2に十分に大きな負キャンバの向きのモーメント力Mnを発生させるように、言い換えると、緩衝装置14の上下反力によるモーメント力Mnの腕の長さが十分に大きくなるように、車体内方に比較的大きく離間して配置されている。具体的には、例えば、後輪2の中心Cから当該緩衝装置14の軸心Xに下ろした垂線の長さd(緩衝装置14反力による負キャンバのモーメント力Mnの腕の長さ)を、後輪2の半径D(横力による正キャンバのモーメント力Mpの腕の長さ)に対して予め設定した所定比率以上とするのが好ましい。
【0030】
ここで、その所定比率の設定について説明すると、まず、緩衝装置14の上下反力Fcによって後輪2に作用する負キャンバの向きのモーメント力Mnの大きさは、当該緩衝装置14の軸心Xから後輪中心Cまでの距離(モーメントの腕の長さ)と緩衝装置反力Fcとの積として表される。しかし、一般的に、自動車のリヤサスペンションAにおいては、自動車の目標とする旋回性能、例えば旋回時に目標とする最大横加速度が得られるように、旋回外方の後輪2への分担荷重、緩衝装置14のコイルバネ12の硬さ、後輪2の最大グリップ力等を設定しており、これにより緩衝装置反力Fcそのものは概ね決定されてしまう。
それ故、負キャンバの向きのモーメント力Mnを十分に大きくしようとすると、実質的にはモーメントの腕の長さを長くする必要がある。例えば、自動車の旋回時に後輪に最大の横加速度が発生している限界領域を想定し、そのときに限界の横力Fsによって後輪2に作用する正キャンバのモーメント力Mpよりも緩衝装置反力Fcによる負キャンバのモーメント力Mnが大きくなるように、上述したモーメントの腕の長さを設定すればよい。換言すれば、横力Fsの限界領域において後輪2に作用する負キャンバのモーメント力Mnが正キャンバのモーメント力Mpよりも大きくなるように、該モーメント力Mnの腕の長さdとモーメントMpの腕の長さDとの比率を実験等により設定してもよい。
【0031】
より詳しくは、一般に、自動車の旋回時には横力Fsにより旋回外方の後輪2に対し直接に正キャンバの向きのモーメント力Mpが作用し、このモーメント力Mpは横力Fsとともに増大する。一方、上述した如く緩衝装置14の上下反力Fcによって後輪2に負キャンバ方向のモーメント力Mnを作用させるようにした場合、自動車の旋回時に横加速度が増大して車体のロールが大きくなると、緩衝装置14のコイルバネ12が圧縮されてその反力Fcが増大し、この反力Fcによる負キャンバのモーメント力Mnも増大することになる。
従って、この実施形態のように緩衝装置14を配置して、該緩衝装置14の上下反力Fcによる負キャンバのモーメント力Mnの初期値(停車時、或いは一定の速度で直進走行しているときの値)をある程度、大きくすれば、旋回時に横力Fsによる正キャンバのモーメント力Mpが増大しても、これに打ち勝つだけの負キャンバのモーメント力Mnを後輪2の横力の限界領域まで発生させることができるのである。このことで、旋回外方の後輪2においてはそのキャンバ変化の方向について、即ち各リンク6〜10のゴムブッシュ26においてそれぞれ車体の横方向について、後輪2を負キャンバの向きに付勢するような一定の向きの付勢力が付与されることになり(予圧縮)、これにより、微視的な後輪2のふらつきをなくしてシャープな運転感覚を得ることができる。
【0032】
第2に、この実施形態のリヤサスペンションAでは、図4に示すように車体側方から見て僅かに後傾する後輪2の仮想キングピン軸Kに対して、緩衝装置14の軸心Xを略鉛直方向に延びるように位置付けるともに、この緩衝装置軸心Xを仮想キングピン軸Kよりも車体内方において(図5参照)当該仮想キングピン軸Kと非平行であり且つ交わらないように位置付けている。このことで、図7に模式的に示すように車体右側の後輪2を車体上方から見ると、緩衝装置14の上下反力Fcは仮想キングピン軸Kの周りに反時計回りのモーメント力、即ちトーインの向きのモーメント力Mtを発生させることになる。つまり、緩衝装置14の上下反力を利用して、自動車に横方向の加速度や姿勢変化が生じる以前(初期状態)からその後輪2をトーインの向きに付勢するようにしているので、旋回初期に後輪2に横力が作用してトーインが付与されるときに、各リンク6〜10のゴムブッシュ26の撓みに因る遅れが発生しなくなり、このことによっても、剛性感や応答性の高いシャープな運転感覚が得られるものである。
【0033】
第3に、この実施形態のリヤサスペンションAでは、図8に模式的に示すように、緩衝装置14をその軸心Xが後輪2の車体内方において後輪2の中心Cよりも車体後方に位置付け、且つ略鉛直方向に延びるように配置している。このことで、図示の如く車体左側から見て、緩衝装置14の上下反力Fcが後輪2の中心Cよりも車体後方(図の右側)でホイールサポート11に対し略鉛直上方から作用して、時計回りのモーメント力Mwを発生させることになる。これにより、アッパリンク6,7がそれぞれ車体後方に付勢されて、その各リンク6,7のゴムブッシュ26に車体後方への付勢力が作用するとともに、ロワリンク8,9はそれぞれ車体前方に付勢されて、その各リンク8,9のゴムブッシュ26に車体前方への付勢力が作用するようになる。
【0034】
そうして、アッパリンク6,7のゴムブッシュ26がいずれも極めて硬いものとされ、一方、ロワリンク8,9のゴムブッシュ26は、それが比較的柔らかなものとされている。すなわち、相対的に乗り心地への影響が大きいロワリンク8,9についてそれぞれゴムブッシュ26を比較的柔らかなものにするとともに、このゴムブッシュ26を緩衝装置14の上下反力によって予め車体前方へ予圧縮しているのである。この状態では、ゴムブッシュ26には車体前方への撓み代が殆ど残されていないので、後輪2へ車体前方への力(例えば駆動力)が作用したときにはゴムブッシュ26が殆ど撓むことなく、車体への力の伝達が行われる。
一方、上述したようにゴムブッシュ26を予め車体前方へ予圧縮した状態で、後輪2へ車体後方への力(例えば不整路面からのショック)が入力した場合、この入力によってゴムブッシュ26に作用する力が上述した付勢力よりも大きくなって合力の向きが反転すると、当該ゴムブッシュ26が初期の状態とは反対に後ろ向きに撓んで、後輪2が車体後方へ変位することになる。つまり、後ろ向きの入力は後輪2から車体への伝達が遅れるか、或いは吸収されることになる。
【0035】
次に、図9により、仮想マウント中心点、サスペンションクロスメンバBに作用する力及びその力により生じうる回転変位について説明する。図9は、仮想マウント中心点、サスペンションクロスメンバBに作用する力及びその力により生じうる回転変位を説明するための図2と同様に示す上面図である。
サスペンションクロスメンバBには、旋回時や制動時に、後輪2(図1参照)から各リンク6〜10を介して、横荷重が加わる。各リンク6〜10から加えられるこのような荷重の大きさは、走行状況により異なるが、主に、後側ロワリンク9からの車幅方向内方に向く力が大きい。このことを考慮すると、各リンクの力の合力として、サスペンションクロスメンバBには、一例として図9中Fで示すような位置及び向きの荷重がおよそ加わると考えられる。
【0036】
ここで、複数個の弾性マウントで車体に連結されたサスペンションクロスメンバは、平面視で、車幅方向や車体前後方向の力を受けると、車幅方向や車体前後方向へ変位するだけでなく、複数個のマウントの内方のある特定の1点を中心に回転しようとする特性を有し、このような特定の1点が仮想マウント中心点である。この仮想マウント中心点は、各弾性マウントの弾性率(ばね定数)及び各弾性マウント間の相対距離等をパラメータとして、車幅方向、前後方向及び回転方向における力の釣り合いを考慮して定めることが出来る。本実施形態では、図9に示す点Pcが仮想マウント中心点となっている。
なお、この仮想マウント中心点Pcは、実在する複数の弾性マウントを、或る1つの弾性マウント(仮想の弾性マウント)で置き換え、その仮想の弾性マウントをある特定の位置におけば、実在する複数の弾性マウントと等価(或る荷重に対し同じ変位方向及び同じ変位量)となる作用を得ることが出来る場合に、その特定の位置を、仮想マウント中心点として規定することも可能である。
【0037】
本実施形態では、サスペンションクロスメンバBは、ラバーマウント40、42、44を介して車体に連結されているので、その全体が車体に対してラバーマウントの変形量に応じて変位することになる。この変位には、仮想マウント中心点Pcを中心にしてサスペンションクロスメンバB全体が回転するような回転変位成分も含まれうる。即ち、例えば、このような仮想マウント中心点Pcを有するサスペンションクロスメンバBに対し、図9中Fで示すような荷重が加わると、サスペンションクロスメンバBには、仮想マウント中心点Pcを中心に、図9中Tで示す方向に回転変位しようとするのである。
このような回転変位成分は、サスペンションAのトー変化を招くことから問題となるため、本実施形態では、第1及び第3のラバーマウント40、44に、このような回転変位を抑制すると共に乗り心地を向上させるようにすぐり部40d、44dを設け、第2のラバーマウント42には、乗り心地を向上させることを主目的としてすぐり部42dを設けている。
【0038】
次に、図3、図9及び図10により、各ラバーマウント40、42、44の構造を説明する。図10は、サイドクロスメンバに設けられた第1ラバーマウントを示す部分拡大上面図(a)及び第3ラバーマウントを示す部分拡大上面図(b)である。
先ず、図10(a)に示すように、第1ラバーマウント(前端部のラバーマウント)40は、車体側に固定される金属製の内筒40a及びサイドクロスメンバ20に固定される金属製の外筒40bを備え、それらの内筒40a及び外筒40bは、車体上下方向に中心軸線40e(図10では、車体上方から見ているため、一点である)を有するように上下方向に延びている。これらの内筒40a及び外筒40bの間には、その全周にわたって、荷重を受けて弾性変形するラバーブッシュ40cが設けられ、このラバーブッシュ40cは、その内周面が内筒40aに、その外周面が外筒40bに、それぞれ接着されている。
【0039】
ここで、図9及び図10(a)に示す仮想線L1は、上述した仮想マウント中心点Pcと、第1ラバーマウント40の取付中心点(中心軸線)40eとを通る線であり、図10(a)に示す仮想線L5は、仮想線L1に直交する線であり、仮想線L9は、第1ラバーマウント40の車体前後方向の軸線を示す線である。
図10(a)に示すように、ラバーブッシュ40cには、第1ラバーマウント40の中心点40eに対し対称な位置に互いに対向するように2つのすぐり部40dが形成されている。これらのすぐり部40dは、ラバーブッシュ40cの仮想線L5上の部分以外の部分に設けられており、本実施形態では、2つのすぐり部40dは、それぞれ、仮想線L1上の位置から仮想線L9上の位置まで円周方向に延びている。
次に、図3に示すように、第2ラバーマウント(中央部のラバーマウント)42は、第1ラバーマウントと同様に、内筒42a、外筒42b及びそれらの間に設けられたラバーブッシュ42cを備え、車体上下方向に中心軸線を有するように上下方向に延びている。この第2ラバーマウント42には、車体前後方向の位置(その第2ラバーマウントの車体前後方向に延びる軸線上)に対向して2つのすぐり部42dが形成されている。
【0040】
次に、図10(b)に示すように、第3ラバーマウント(後端部のラバーマウント)44は、第1ラバーマウントと同様に、内筒44a、外筒44b及びそれらの間に設けられたラバーブッシュ44cを備え、車体上下方向に中心軸線を有するように上下方向に延びている。
ここで、図9及び図10(b)に示す仮想線L3は、上述した仮想マウント中心点Pcと、第3ラバーマウント44の取付中心点(中心軸線)44eとを通る線であり、図10(b)に示す仮想線L7は、仮想線L3に直交する線であり、仮想線L11は、第3ラバーマウント44の車体前後方向の軸線を示す線である。
図10(b)に示すように、ラバーブッシュ44cには、第3ラバーマウント44の中心点44eに対し対称な位置に互いに対向するように2つのすぐり部44dが形成されている。これらのすぐり部44dは、ラバーブッシュ44cの仮想線L7上の部分以外の部分に設けられており、本実施形態では、2つのすぐり部44dが、それぞれ、仮想線L3上の位置から仮想線L11上の位置まで円周方向に延びている。
本実施形態では、各すぐり部40d、42d、44dは、各ラバーブッシュ40c、42c、44cの車体上方側の面から所定深さまで延びる孔部として構成されており、平面視で、それぞれ、円弧状に延びている。なお、すぐり部40d、42d、44dは、車体上下方向に貫通する貫通孔でも良い。
【0041】
次に、すぐり部40d及び44dの作用効果を説明する。
先ず、第1ラバーマウント40には、仮想線L1上の位置から軸線L9上の位置まで延びるすぐり部40dが形成されているので、仮想線L1の方向(仮想線L1に沿って仮想マウント中心点Pcに向かう方向或いは仮想マウント中心点Pcから離れる方向)及び車体前後方向に変形し易く、特に、中心点40eに対し仮想線L1、L9に挟まれた鋭角な領域の方向に変形し易くなっている。さらに、仮想線L1と直交する方向の仮想線L5上には、すぐり部40dが形成されていないので、その仮想線L5の方向には、変形しにくくなっている。ここで、この仮想線L5の方向は、仮想マウント中心点Pcを中心としたサスペンションクロスメンバBの回転方向である。従って、図9中Tで示すような方向の回転変位は生じにくくなる。
【0042】
ここで、サスペンションクロスメンバBには、回転変位の原因となる上述したような荷重(図9中F)が加わる場合であっても、同時に、各リンクからサスペンションクロスメンバBを車幅方向或いは車体前後方向に変位させる荷重も加わる。従って、ラバーブッシュ40cは、そのような荷重を受ければ、仮想線L1、L9に挟まれた鋭角な領域の方向に変形することになる。このとき、ラバーブッシュ40cが撓むことにより、その変形方向に圧縮応力或いは引張応力が生じる。一方、ラバーブッシュ40cは、そのような変形方向と直交する方向(仮想線L5の方向を含む方向)に広がり或いは縮もうとするが、ラバーブッシュ40cの全周が内筒40a或いは外筒40bに拘束されているので、仮想線L5を含む方向にも圧縮応力或いは引張応力が生じる。つまり、サスペンションクロスメンバBを回転変位させるような力(例えば図9中F)が加わり、その結果ラバーブッシュ40cに仮想線L5の方向の力が加わったとしても、ラバーブッシュ40cの仮想線L5を含む方向の圧縮応力或いは引張応力に打ち勝たなければならない。従って、サスペンションクロスメンバBの回転変位が抑制されると考えることも出来る。
【0043】
次に、第3ラバーマウント44には、仮想線L3上の位置から軸線L11上の位置まで延びるすぐり部44dが形成され、このすぐり部44dは、仮想線L3と直交する方向の仮想線L7上には形成されていないので、上述した第1ラバーマウント40の作用と同様に、図9中Tで示すような方向の回転変位は生じにくくなる。また、上述した第1ラバーマウント40の作用と同様に、すぐり部44dにより、ラバーブッシュ44cを、特に、仮想線L3、L11に挟まれた鋭角な領域の方向に変形させて、サスペンションクロスメンバBの回転変位を抑制することが出来ると考えられる。
これらの結果、第1及び第3ラバーマウント40、44に設けたすぐり部40d、44d及びにより、サスペンションクロスメンバBの回転変位を抑制することが出来、その結果、後輪2の制動時或いは旋回時のトーアウトを抑制することが出来る。また、すぐり部40d、44dは、車体前後方向の位置まで延びるように形成されているので、乗り心地を向上させることが出来る。なお、このように配置されたすぐり部40d、44dを、第1ラバーマウント40或いは第3ラバーマウント44のいずれか一方のみに形成しても良く、また、第2ラバーマウント42にも形成しても良い。
次に、第2ラバーマウント42には、車体前後方向の位置にすぐり部42dが設けられているので、乗り心地を向上させることが出来る。
【0044】
次に、図11(a)及び(b)に変形例を示すように、第1及び第3ラバーマウント40、44のすぐり部40f、44fを、それぞれ、仮想線L1上の位置に設けるようにしても良い。この変形例では、その他の構成は上述した実施形態と同様である。
この変形例によっても、上述した実施形態による作用効果と同様の作用効果が得られる。特に、上述した実施形態よりも乗り心地は若干劣ると考えられるが、サスペンションクロスメンバBの回転をより確実に抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態によるリヤサスペンション装置を車体前方の斜め右側から見た斜視図である。
【図2】本実施形態によるリヤサスペンション装置を車体上方から見た平面図である。
【図3】本実施形態によるリヤサスペンション装置の車体右側部分を車体上方側から見た上面図である。
【図4】本実施形態によるリヤサスペンション装置の車体右側部分を車体内方側から見た一部破断側面図である。
【図5】本実施形態によるリヤサスペンション装置の車体右側部分を車体後方側から見た後面図である。
【図6】緩衝装置の上下反力による負キャンバの向きのモーメント力の説明図である。
【図7】緩衝装置の上下反力によるトーインの向きのモーメント力の説明図である。
【図8】緩衝装置の上下反力による車軸周りのモーメント力の説明図である。
【図9】仮想マウント中心点、サスペンションクロスメンバに作用する力及びその力により生じうる回転変位を説明するための図2と同様に示す上面図である。
【図10】本実施形態のサスペンションクロスメンバ構造の第1ラバーマウントを示す部分拡大上面図(a)及び第3ラバーマウントを示す部分拡大上面図(b)である。
【図11】本実施形態の変形例によるサスペンションクロスメンバ構造の第1ラバーマウントを示す部分拡大上面図(a)及び第3ラバーマウントを示す部分拡大上面図(b)である。
【符号の説明】
【0046】
A リヤサスペンション
B サスペンションクロスメンバ
C 車体
2 後輪
6 前側アッパリンク
7 後側アッパリンク
8 前側ロワリンク
9 後側ロワリンク
10 トーコントロールリンク
11 ホイールサポート(支持部材)
14 緩衝装置
17 フロントクロスメンバ
18 リヤクロスメンバ
19、20 サイドクロスメンバ
30 ホイールサポートの連結部
40、42、44 第1、第2及び第3のラバーマウント
40c、42c、44c ラバーブッシュ
40d、42d、44d すぐり部
40f、44f 変形例によるすぐり部
40e、44e 中心軸線(取付中心点)
K 仮想キングピン軸
X 緩衝装置の軸心
Pc 仮想マウント中心点
L1 仮想中心点Pcと、第1ラバーマウント40の中心点とを通る仮想線
L3 仮想中心点Pcと、第3ラバーマウント44の中心点とを通る仮想線
L5 仮想線L1に直交する仮想線
L7 仮想線L3に直交する仮想線
L9 第1ラバーマウント40の車体前後方向の軸線を示す仮想線
L11 第3ラバーマウント44の車体前後方向の軸線を示す仮想線
F リヤスペンションからサスペンションクロスメンバに加わる荷重の位置及び方向の一例
T 荷重Fにより従来生じていたサスペンションクロスメンバBの回転の方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチリンク式の自動車のリヤサスペンション装置であって、
車幅方向左右両側でそれぞれ車体前後方向に延びる一対のサイドメンバ、及び、この一対のサイドメンバを互いに連結するように車幅方向に延びるクロスメンバにより構成されたサスペンションクロスメンバと、
このサスペンションクロスメンバにより支持されたサスペンションリンクと、
上記サスペンションクロスメンバを車体に取り付けるために上記一対のサイドメンバにそれぞれ設けられた複数の弾性マウントと、を備え、
上記複数の弾性マウントの少なくとも1つにはすぐり部が形成され、このすぐり部は、平面視で、上記サスペンションクロスメンバの回転中心である上記複数の弾性マウントにより決定される仮想マウント中心点と、上記すぐり部が設けられた弾性マウントの中心点とを通る線上の位置に形成されていることを特徴とする自動車のリヤサスペンション装置。
【請求項2】
上記複数の弾性マウントは、上記一対のサイドメンバの前方部、中間部及び後方部にそれぞれ設けられた第1乃至第3の弾性マウントであり、
上記すぐり部は、上記第1及び第3の弾性マウントに設けられている請求項1記載の自動車のリヤサスペンション装置。
【請求項3】
上記すぐり部は、上記仮想マウント中心点と上記弾性マウントの中心点とを通る線上の位置から、上記弾性マウントの中心点を通り且つ車体前後方向に延びる線上の位置まで延びる請求項1又は請求項2記載の自動車のリヤサスペンション装置。
【請求項4】
上記すぐり部は、上記弾性マウントの中心点に対し対向して2つ設けられている請求項1乃至3のいずれか1項記載の自動車のリヤサスペンション装置。
【請求項5】
上記サスペンションリンクは、その少なくとも車体側の端部にそれぞれ弾性ブッシュが配設されると共に上記自動車の後輪の支持部材を上記車体に連結し、上記後輪支持部材の車体内方側にはコイルバネ及びダンパを備える緩衝装置の下端部が枢着され、上記弾性ブッシュには、上記緩衝装置の上下反力を利用してプリロードが付与されている請求項1乃至4のいずれか1項記載の自動車のリヤサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−347338(P2006−347338A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175386(P2005−175386)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】