説明

薄膜の製造方法及びその装置、並びに電子装置の製造方法

【課題】薄膜構成材料の配向性を向上させ、薄膜の膜厚の均一性及びその制御性も向上させることのできる操作性の容易な薄膜の製造方法及びその装置、並びに電子装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】CNTと界面活性剤とを混合して、CNTが分散された分散液8を調製する第1工程と、分散液8からなる分散液膜21を保持リング25に形成する第2工程と、分散液膜21と基板17とを接触させた状態で相対的に垂直に往復スライド移動させることにより、分散液8を基板17の表面に膜状に移行させる第3工程と、基板17の表面に形成された膜状の分散液8を乾燥させることを経て、CNT薄膜を形成する第4工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ等からなる薄膜の製造方法及びその装置、並びにその薄膜を有する電子装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:以下、CNTと略記する。)は、優れた電気的、機械的特性を有し、ナノテクノロジーの有力な材料として広範囲の分野での応用が期待され、基礎研究、応用研究が盛んに行われている。
【0003】
従来、CNT薄膜の製造方法としては、例えば、CNTをエタノール等の溶媒中で超音波を用いて分散させた液を、スプレー器具を用いて基板上に噴霧して溶媒を蒸発させることによって薄膜を形成するスプレー法、可溶化したCNTからなる膜を水面上に展開し、水面に対して垂直方向に基板を浸漬させて引き上げる操作を繰り返すことにより薄膜を形成するラングミュア−ブロジェット(LB)法、CNTを含む溶液を基板上に塗布する塗布法、及び、溶液中のCNTをフィルタ上に均一に堆積させて基板上にCNTを転写するフィルタ法等が知られている。
【0004】
また、「CNT含有フィルムの製造方法及びCNT含有コーティング」と題する後記の特許文献1には、以下の記述がある。
【0005】
即ち、CNT含有コーティングフィルムの製造方法は、少なくともCNTと溶媒とを含有する第1の分散液を基材の表面に塗布し、第1の分散液の溶媒を除去してCNTを3次元網目構造にし、更に、この上に、少なくとも樹脂と溶媒とを含有する第2の分散液を塗布して、この第2の分散液をCNTの3次元網目構造の中に浸透させる。
【0006】
この特許文献1に示された発明を用いて作製されたフィルムは、少ないCNT含有量であっても優れた導電性及び透明性を得ることができる。この好ましい実施形態においては、フィルム中にCNTが約0.001重量%〜約1重量%存在する。更に好ましくは、フィルム中にCNTが約0.01重量%〜約0.1重量%存在し、このために優れた透明性が得られて低ヘイズとなる。
【0007】
次に、「CNT薄膜の製造方法、電子素子の製造方法、薄膜の製造方法、構造体の製造方法及び気泡の形成方法」と題する後記の特許文献2には、以下の記述がある。
【0008】
即ち、界面活性剤を含有させたCNT分散液を調製し、これに空気を混入させることにより気泡を形成し、この気泡を基板上に堆積させたところ、従来の方法により得られるCNT薄膜に比べてはるかに均質で、しかも薄いCNT薄膜を高い膜厚制御性で形成することができることが分かった。
【0009】
これは、この気泡の表面の、CNT分散液からなる膜中に存在するCNTが、基板上に堆積してCNT薄膜が形成されたからであるといえる。
【0010】
また、後記の非特許文献1には、CVD(ケミカルベーパーデポジション)法によるシングルウォールカーボンナノチューブSWCNTアレイの形成についての記載がある。
【0011】
また、後記の非特許文献2には、(1)ナノワイヤ又はナノチューブの安定で制御された濃度のポリマ分散液(エポキシ分散液)を調製し、(2)円形ダイを用いて制御された圧力と膨張速度で気泡を膨張させるように、ポリマ分散液を膨張させ、(3)気泡を基板又は開放枠構造に移す3つの基本ステップからなる、blown−bubble fims(BBFs)法の記載がある。
【0012】
また、CNTの薄膜を形成するためのLB法は、後記の非特許文献3、4及び5に述べられている。
【0013】
【特許文献1】特許第3665969号公報(特許請求の範囲(請求項1)、段落0013)
【特許文献2】特開2006−298715号公報(段落0006)
【非特許文献1】S. J. Kang et al, “High-performance electronics using dense, perfectly aligned arrays of single-walled carbon ”, Nature Nanotechnology, 2, 230 - 236(2007)(FABRICATION OF NANOTUBE ARRAYS AND DEVICES)
【非特許文献2】G. Yu et al, “Large-area blown bubble films of aligned nanowires and carbon nanotubes”, Nature Nanotechnology,2, 372 - 377(2007)(第372頁〜第373頁、図1)
【非特許文献3】Xiaolin Li et. al., J. AM. CHEM. SOC. 2007, 129, 4890-4891
【非特許文献4】Yeji KIM et. al., Jpn. J. Appl. Phys. Vol.42(2003) 7629-7634
【非特許文献5】Jun Matsui et. al., Chemistry Letters Vol. 35, No.1(2006)42-43
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
電子機器に用いられる材料は、多くの場合に、基板上に薄膜を形成することによって、電気回路や蓄電素子又は発光素子として応用されている。
【0015】
材料として一般的な金属及び酸化物を用いる場合には、例えば、スパッタ法や蒸着法又はCVD法といった真空ドライプロセスによって均一な成膜を行うことができる。
【0016】
また一方で、有機分子や生体分子又はナノ材料と呼ばれるような物質を用いる場合には、めっき法、ろ過法、スプレー法又はラングミュア−ブロジェット(LB)法等の液相プロセスにより、比較的簡易な設備で成膜することができる。
【0017】
これ等の中で、真空ドライプロセスは均一性や結晶性の高い薄膜が得られる方法であることが知られているが、原子レベルの成長となるために、分子材料等には用い難い。従って、多くの分子材料は液相プロセスで成膜することが望ましいが、この場合には、分子材料を溶媒に可溶させるか又は十分に分散させる必要が生じる。また、適切な溶液が得られた場合であっても、成膜時における膜厚の制御が難しく、均一な薄膜を得ることは容易ではない。
【0018】
また、めっき法は、蓄電池の分野(電気化学分野)でよく用いられる方法である。この方法では、電極基板に材料を凝集又は析出させることにより薄膜を得る方法であるために、溶媒や電極等の条件が限られてしまう。このことから、一部の材料にのみ効果のある方法であるといえる。
【0019】
ろ過法及びスプレー法は、簡便でありかつ材料を選ばない場合が多い方法であるが、形成する薄膜の均一性が劣るために、電子機器の作製には用いられていない。
【0020】
LB法は、両親媒性の分子を液面に膜化させ、これに基板を挿入することにより基板の表面に分子膜を形成する方法である。この方法を用いて形成した有機単分子層が学術分野で数多く報告されているが、このようにして得られた薄膜の電子機器への応用はほとんど例がない。これは、2つの液相を用いるために、得られる薄膜の均一性が低下することや、両親媒性の分子薄膜の用途が限定されること等が理由であると考えられる。しかも、これに加えて、CNT等のナノ材料においては液−液界面に薄膜を形成することが難しいこと、また分散液とは異なる液への浸漬により、基板への付着が安定しないことが理由として挙げられる。そもそも、CNTのLB膜(液面上の単分子膜)を形成するには、分散性が劣っているため、成膜条件が制限されることも実用上の課題である。
【0021】
上記したような課題は、特に、CNTのような一次元性を持ったナノスケール材料の薄膜の作製においてより顕著な問題となる。特に、このような材料は、一般に揮発性及び可溶性に劣るために、上記した方法で均一な膜厚分布を持った薄膜を得ることは困難である。
【0022】
このような課題を解決するため、図18に示すように、本出願人が既に提起した特願2008−39515による先願発明は、シャボン玉状の気泡10を基板14上に成長させることにより、CNT22からなるCNT薄膜20を作製する技術である。
【0023】
このCNT薄膜20を形成するには、まず界面活性剤を含む水溶液にCNT22を分散させた分散液を調製する。図18(A)の手順(1)に示すように、この分散液の液滴をノズル12の一端に付着させ、ノズルの他端から空気16を流入させることによって、液滴を膨張させ、CNT22を含むシャボン玉状の膜からなる気泡10をノズル12の一端に形成させる。
【0024】
そして、図18(A)の手順(2)及び(3)に示すように、気泡10を基板14に接触させ、空気の流入によって更に気泡10を膨張させ、最終的には図18(A)の手順(4)の段階で気泡10を破裂させた後、乾燥して、基板14上にCNTの薄膜20を残す。
【0025】
この製造方法によれば、基板14の面上で一次元ナノ材料22を含む膜からなる気泡10を膨張させて、基板14と気泡10の膜との接触面積を増大させるので、配向性が高くて透明性及び導電性が良好であり、一次元ナノ材料22からなる薄膜20を形成することができる。また、分散液における一次元ナノ材料の濃度、又は/及び、基板と気泡の膜との接触面積を制御することによって、一次元ナノ材料からなる薄膜の厚さを制御することができ、透明性及び導電性を制御することができる。また、室温大気中でCNTの(極薄の)薄膜20を形成できると共に、あらゆる形状やサイズの基板14に応用できるという特徴もある。
【0026】
しかしながら、この方法によって得られるCNT薄膜20は、ノズル12の位置を中心として気泡10を径方向に成長(膨張)させているため、これに伴う放射状の配向性と膜厚分布を持っており、CNT薄膜20全体で見た時には、同一方向において配向性及び膜厚に高い均一性があるとは言い難い。
【0027】
また、気泡10を基板14の表面に接触させた後に、ノズル12を介して空気16を気泡10内に送ることにより気泡10を成長させているので、操作の自動化が難しく、かつ基板14の大面積化に伴って、CNT極薄膜20の膜厚分布の不均一性が目立つという問題点もある。
【0028】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、薄膜構成材料の配向性を向上させ、薄膜の膜厚の均一性及びその制御性も向上させることのできる操作性の容易な薄膜の製造方法及びその装置、並びにその薄膜を用いた電子装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
即ち、本発明は、薄膜の構成材料と界面活性剤とを混合して、前記構成材料が分散された分散液を調製する第1工程と、前記分散液からなる分散液膜を形成する第2工程と、前記分散液膜と支持体とを接触させた状態で相対的に移動(望ましくは往復スライド移動:以下、同様)させることにより、前記分散液を前記支持体の表面に膜状に移行させる第3工程と、前記支持体の表面に形成された前記膜状の分散液を乾燥させることを経て、薄膜を形成する第4工程とを有する、薄膜の製造方法に係るものである。
【0030】
本発明はまた、薄膜の構成材料と界面活性剤とを含有する分散液を貯蔵する分散液貯蔵手段と、前記分散液からなる膜を保持する分散液膜保持手段と、支持体を保持する支持体保持手段と、前記分散液膜と前記支持体とを接触させた状態で相対的に移動させる移動手段と、前記支持体の表面に移行した膜状の前記分散液の乾燥手段とを有する、薄膜の製造装置に係るものである。
【0031】
本発明はまた、薄膜の構成材料と界面活性剤とを混合して、前記構成材料が分散された分散液を調製する第1工程と、前記分散液からなる分散液膜を形成する第2工程と、前記分散液膜と支持体とを接触させた状態で相対的に移動させることにより、前記分散液を前記支持体の表面に膜状に移行させる第3工程と、前記支持体の表面に形成された前記膜状の分散液を乾燥させることを経て、薄膜を形成する第4工程とを有する、電子装置の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、前記分散液膜と前記支持体とを接触させた状態で相対的に移動させることにより、前記分散液を前記支持体の表面に膜状に移行させる工程を有するので、前記分散液膜と前記支持体との相対的移動方向に沿って前記分散液膜を前記支持体上で流動させ、これに伴って前記分散液中の前記構成材料を一方向に配向させ易くなり、高配向で均一膜厚の薄膜を作製することができ、かつ配向方向に異方性を持った電気特性及び光学特性を有する基板面内配線や線偏光板等に応用することができ、またこれらを組み込んだ電子装置を得ることができる。
【0033】
また、前記相対的移動の回数を制御することにより、薄膜の厚さを制御することができ、その導電性及び透明性等を制御することができる。
【0034】
しかも、室温、大気中で前記薄膜を操作性良く形成することができ、大面積の前記支持体上への成膜も可能となり、支持体材料として特定のものを選択しなくても成膜可能となり、更に成膜時の材料劣化も生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明においては、前記構成材料の配向性を高めるために、前記移動方向に前記構成材料を配向させるのが望ましい。
【0036】
また、前記薄膜のより良好な導電性及び透明性等の性能向上のために、前記乾燥の後に前記支持体を洗浄し、不要な残留物を除去するのが望ましい。
【0037】
また、前記薄膜の導電性及び透明性等を制御するために、少なくとも前記第2工程から前記第4工程までを繰り返すことにより、前記薄膜の膜厚制御を行うことができる。
【0038】
これによって、高い導電性、特に表面抵抗が500Ω/sq以下の前記薄膜を製造することができる。或いは、透明電極等に使用する高い光透過性、特に光透過率が80%以上の前記薄膜を製造することができる。
【0039】
また、配向性の高い前記構成材料からなる前記薄膜を前記支持体上に形成するために、前記分散液膜に対して交差する方向、特に直交する方向に、前記分散液膜に対して前記支持体を相対的に移動させるのが望ましい。
【0040】
また、前記第3工程後に、前記分散液保持手段に残った分散液膜をエアブロー等で破裂させ、しかる後に前記第2工程を再び行えば、前記分散液膜保持手段を繰り返し使用することができる。
【0041】
また、前記支持体として透明な高分子基板を用いるのが望ましい。このような構成によれば、フレキシブルな前記高分子基板を使用できるので、これに前記一次元ナノ材料等からなる薄膜を電極又は配線(導電線路)として形成したフレキシブルな(屈曲性又は柔軟性のある)電極体又は配線(導電線路)体を製造することができる。
【0042】
また、前記構成材料が一次元ナノ材料、例えばCNT(カーボンナノチューブ)であるのが望ましい。
【0043】
また、前記薄膜のより良好な導電性及び透明性を得るために、前記薄膜の配向性を保持しながら前記支持体を洗浄することが望ましく、このためには純水等による洗浄手段を有するのが望ましい。
【0044】
更に、本発明によって得られる電子装置は、液晶装置、エレクトロルミネッセンス装置、エレクトロクロミック装置、電界効果トランジスタ、タッチパネル及び太陽電池の何れかであってよい。
【0045】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に詳細に説明する。
【0046】
第1の実施の形態
図1〜図5は、本発明の第1の実施の形態を詳細に説明するものである(図1(a)、(b)及び(c)は、図5のA−A’線に沿う断面に相当する各操作段階を示す)。
【0047】
まず、図5について、本実施の形態による薄膜製造装置24aを説明する。この薄膜製造装置20aは、基板(支持体又は透明な高分子基板)17を支持する基板保持部(支持体保持手段)6と、分散液膜(CNT分散液からなる膜)21を保持する分散液膜保持リング(分散液膜保持手段)25と、この保持リング25の支持部7と、CNT分散液8を貯蔵する分散液貯蔵部(分散液貯蔵手段)9とから構成されている。また、基板保持部6とリング支持部7とは、上下鉛直方向に別々に直線移動可能な移動手段15、15’に固定され、この移動手段15、15’と共に上下鉛直方向に別々に直線移動するように構成されている。
【0048】
なお、図5においては、分散液膜保持リング25は、分散液膜21を保持した状態を理解し易くするために、下方からの斜視図にて示す。また、基板17上へ移行した分散液膜の乾燥手段や、保持リング25に残存した分散液膜の破裂手段などは図示省略している。
【0049】
次に、この薄膜製造装置24aを用いて基板17の表面上に薄膜18を製造する方法を説明する。
【0050】
この製造プロセスは、図4にフローで示し、図1及び図2にその主要段階を断面で示すが、まず、CNT(薄膜構成材料又は一次元ナノ材料)22と界面活性剤とを混合することによって、CNT22が分散された分散液8を調製し、これを分散液貯蔵部9に貯蔵する(第1工程)。
【0051】
次に、分散液膜保持リング25を下方に移動させて分散液貯蔵部9内の分散液8に浸漬し、更に上方へ引き上げることにより、図1(a)に明示するように、分散液8からなる分散液膜21(シャボン膜)を分散液膜保持リング25の内側に形成する(第2工程)。分散液膜21は、それ自身の表面張力によってリング25内に膜状に保持される。
【0052】
次に、図1(b)に明示するように、分散液膜保持リング25の内側に形成された分散液膜21と基板17とを接触させた状態で、直交する方向に基板17を相対的に下方へ移動(スライド移動)させ、更に上方へ移動(スライド移動)させることにより、換言すれば、分散液膜21に対して基板17を上下方向に相対的に往復スライド移動させることにより、保持リング25の分散液膜21から分散液8を基板17の表面に膜状に移行させる(第3工程)。一例として、この往復スライド移動回数は10回でよく、また保持リング25を図5の位置に位置固定して基板17を上下移動させることができる。
【0053】
こうして、図2(d)に明示するように、分散液8を基板17の表面上に積層状態で膜状に移行させ、基板17と分散液膜21とを分離した後に、基板17の表面に形成された膜状の分散液8を乾燥手段、例えば温風の吹き付けによって乾燥させることにより、図2(e)に明示するように、スライド移動方向にCNT22が配向された薄膜18を形成する(第4工程)。図3は、CNT22の配向状態を平面図で示す。
【0054】
次に、分散液膜保持リング25に残存する分散液膜をエアブロー等により破裂させて除去する(第5工程)。しかる後に、この保持リング25は上記第2工程に再び使用する。
【0055】
次に、基板17を純水による水洗で洗浄し、残存水分等の不要な残留物を除去する(第6工程)。この結果、基板17上には、残留物のないCNT薄膜18を形成できる。
【0056】
更に、上記の少なくとも第2工程から第4工程(更には、第5及び第6工程)までを少なくとも1回行い、望ましくは2〜6回繰り返すことにより、基板17上に最終的に成膜される薄膜18の膜厚を制御することができる。
【0057】
電極や配線として好適な高い導電性を有する薄膜18を得るためには、表面抵抗が500Ω/sq以下の薄膜18を製造するのが望ましい。また、透明電極のような高い光透過性を有する薄膜18を得るためには、光透過率が80%以上の薄膜18を製造するのが望ましい。これらの特性を有する薄膜18は、薄膜制御によって実現でき、このためには、上記した第3工程におけるスライド移動回数、又は/及び、少なくとも第2工程〜第4工程の繰り返し回数を制御して、膜厚を設定すればよい。
【0058】
また、CNT薄膜18は、上記の方法では、基板17の両面に形成されることになるが、片面だけに形成したい場合には、例えば基板17を2枚の基板の貼り合わせで作成し、これらの各基板をCNT薄膜の形成後に分離すればよい。
【0059】
上述の高分子基板17の材質は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルサルフォン(PES)及びこれ等の誘導体の何れかとすることができる。
【0060】
例えば、CNTからなる薄膜18が形成される高分子基板17が使用される目的、用途及び使用環境に対応して、光学的特性、電気的特性及び機械的特性に応じた高分子基板17の材質を適宜選択することができる。
【0061】
次に、CNT22及び界面活性剤からなる分散液8について説明する。
【0062】
CNT22には、例えば、アーク放電、レーザアブレーション、化学的気相成長(CVD)法等によって作製されたものを使用することができる。これらのCNT22を、例えば、高温の熱処理、硫酸、塩酸、硝酸、過酸化水素水等によって酸処理、水酸化ナトリウム等によってアルカリ処理することによって、非晶質炭素等の不純物を除去できるので、精製された純度の高いCNTを使用することができる。
【0063】
また、CNT22としては、例えば、単層構造のシングルウォールCNT(SWCNT)、2層構造のダブルウォールCNT(DWCNT)、多層構造のマルチウォールCNT(MWCNT)等を用いることができる。また、CNT22の長さは特に制限はないが、良好な分散性を得るためには、例えば、1μm程度以下のものが望ましい。
【0064】
次に、界面活性剤としては、例えば、陰イオン(アニオン)界面活性剤、陽イオン(カチオン)界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤等を用いることができる。
【0065】
陰イオン界面活性剤としては、例えば、C817SO3-Na+、C1021SO3-Na+、C1225SO3-Na+、C1429SO3-Na+、C1633SO3-Na+、C817SO4-Na+、C1021SO4-Na+、C1123SO4-Na+、C1225SO4-Na+、C1225SO4-Li+、C1225SO4-+、(C1225SO4-2Ca2+、C1225SO4-N(CH34+、C1225SO4-N(C254+、C1225SO4-N(C494+、C1327SO4-Na+、C1429SO4-Na+、C1531SO4-Na+、C1633SO4-Na+、C1225CH(SO4-Na+)C37、C1021CH(SO4-Na+)C511、C1327CH(CH3)CH2SO4-Na+、C1225CH(C25)CH2SO4-Na+、C1123CH(C37)CH2SO4-Na+、C1021CH(C49)CH2SO4-Na+、C1225OC24SO4-Na+、C1225(OC242SO4-Na+、C1225(OC244SO4-Na+、C817OOC(CH22SO3-Na+、C1021OOC(CH22SO3-Na+、C1225OOC(CH22SO3-Na+、C1429OOC(CH22SO3-Na+、p-n-C81764SO3-Na+、p-n-C102164SO3-Na+、p-n-C122564SO3-Na+、C715COO-+、C715COO-Na+、(CF32CF(CF24COO-Na+、n-C817SO3-Li+等を用いることができる。
【0066】
また、陽イオン界面活性剤としては、例えば、C817N(CH33+Br-、C1021N(CH33+Br-、C1225N(CH33+Br-、C1429N(CH33+Br-、C1633N(CH33+Br-、C1225Pyr+Br-、C1225Pyr+Cl-、C1225Pyr+Cl-、C1633Pyr+Cl-、C1225+(C25)(CH32Br-、C1225+(C817)(CH32Br-、C1429+(C253Br-、C1429+(C493Br-等を用いることができる。
【0067】
また、両性界面活性剤としては、例えば、C817+(CH32CH2COO-、C1021+(CH32CH2COO-、C1225+(CH32CH2COO-、C1429N+(CH32CH2COO-、C1633+(CH32CH2COO-、C1021CH(Pyr+)COO-、C1429CH(Pyr+)COO-等を用いることができる。
【0068】
また、非イオン界面活性剤としては、例えば、C817CHOHCH2OH、C1225CHOHCH2CH2OH、C817(OC243OH、C1021(OC244OH、C1123(OC248OH、C1225(OC242OH、C1225(OC244OH、C1225(OC246OH、C1225(OC248OH、C1327(OC248OH、C1429(OC248OH、C1531(OC248OH、p-t-C81764O(C24O)2H、p-t-C81764O(C24O)8H、n-オクチル-β-D-グルコシド、n-デシル-β-D-グルコシド等を用いることができる。
【0069】
上記の界面活性剤の内、陰イオン界面活性剤であるCH3(CH211SO4-Na+(硫酸ドデシルナトリウム(SDS:Sodium Dodecyl Sulfate))を使用することが、CNT22の分散を良好にする上で特に好ましいが、これに限定されるものではない。また、上記の界面活性剤を2種類以上混合して使用することもできる。
【0070】
また、薄膜18の厚さを100μm以下とすることにより、この薄膜18が高い透明性を有することになるので、高い透明性が要求される透明電極に使用できる。
【0071】
上述のように、予め作製したCNT22等を含んだ分散液膜21と基板17とを相対的にスライド移動させることにより、厚さが均一な薄膜18が半自動的に得られる。
【0072】
この方法は、分散液膜21と基板17とを接触状態で相対的にスライド移動させることにより、分散液膜21の相対的スライド移動方向に配向した極薄の薄膜18を形成できるという点に特徴があるが、これは従来のLB法とは大きく異なっている。
【0073】
即ち、既述したように、LB法による成膜では、薄膜の電気的及び光学的特性は単一のCNT特性と比べて著しく劣るが、これは、既述したLB法自体の課題に加えて、CNT22等の一次元ナノ材料において液−液界面に薄膜を形成することが難しいこと、また、分散液とは異なる液への浸漬により、基板への付着が安定しないことが理由として挙げられる。また、そもそも、CNT22のLB膜(液面上の単分子膜)を形成させるには、分散性が劣っているために、成膜条件が制限されることも実用上の課題である。
【0074】
これに対し、本実施の形態によれば、液−液界面を形成しないCNT分散液を用いて、分散液膜21と基板17とを相対的にスライド移動させているので、そのスライド移動方向に沿って高配向に配向された均一膜厚の薄膜18を容易かつ確実に安定して基板17上に形成することができ、配向方向に異方性を持った電気特性及び光学特性を有した基板面内配線や線偏光板等を作成できる。
【0075】
また、往復スライド移動回数を制御することにより、薄膜18の膜厚を制御して、その導電性及び透明性を容易に制御することができる。
【0076】
その他、単分子層レベルの極薄膜18を作製できるため、透明性に優れる。或いは、薄膜の積層化及び高密度化が容易となる。
【0077】
また、基板17の材質やサイズ等の条件を選ばずに成膜が可能であると共に、成膜時の材料劣化がほとんどなく、室温大気中での成膜が可能であり、装置の構造が簡便であり、自動化が容易であり、更には薄膜の大面積化が容易である。
【0078】
本実施の形態による薄膜18は、表面抵抗が小さく、光透過率が大きく、電気的特性、光学的特性に優れており、例えば、液晶装置、エレクトロルミネッセンス装置、エレクトロクロミック装置、太陽電池における透明電極として好適である。
【0079】
また、導電線路、電界効果トランジスタ又はタッチパネルを構成することもできる。
【0080】
第2の実施の形態
図6は、本発明の第2の実施の形態を示すものである(図6(A)は平面図、図6(B)は正面図、図6(C)は左側面図である)。
【0081】
本実施の形態における薄膜製造装置24bは、主として、水平駆動用の溝11及び垂直駆動用の溝26を有する基板17保持用の台座部13及び分散液膜保持部19から構成されること以外は、上述した第1の実施の形態と同様である。
【0082】
分散液膜保持部19は下方が開放しコ字状の枠型の構造であり、両端側の脚部が水平駆動用の溝11に沿って水平方向に移動すると共に、垂直駆動用の溝26に沿って垂直(鉛直)方向に移動する。垂直方向の移動によって、例えば保持部19の高さを制御できる。
【0083】
分散液膜21は、図示省略した分散液供給手段によって、分散液膜保持部19の内側と台座部13の上面との間に形成される。そして、基板17を台座部13上に固定し、分散液膜保持部19を水平方向へ移動させ、これに伴って分散液膜21が基板17上をスライド移動すること(実際には、繰り返しの往復スライド移動)により、分散液膜21に含まれる分散液8を台座部13上に載置された基板17の表面に所定の厚さで膜状に移行させることができる。
【0084】
本実施の形態によれば、基板17を垂直方向に移動させるのが困難な状況にある場合に、基板17上に薄膜18を形成することが可能となる。なお、上記とは逆に、分散液保持部19を固定し、台座部13(即ち基板17)を水平方向へ移動させてもよいし、或いは両者を共に移動させてもよい。要は、相対的にスライド移動させればよい(このことは、上述した第1の実施の形態でも同様である)。
【0085】
その他、本実施の形態においても、上述した第1の実施の形態で述べたと同様の作用及び効果が得られる。
【0086】
第3の実施の形態
図7は、CNT薄膜を電子装置に適用した本発明の第3の実施の形態を示すものである(図7(A)は、CNT薄膜の導電特性を説明するための模式的平面図、図7(B)はCNT薄膜を用いたバックゲート型電界効果トランジスタの断面図である)。
【0087】
図7(A)は、多数のCNT32(上述のCNT22に相当)が連接した状態で基板31(上述の基板17に相当)上に二次元に密着して配列する場合、CNT32からなる高密度配向膜の軸方向における導電特性を説明する図である。このCNT配向膜の抵抗値は、CNT1本当りの長さ方向の抵抗値(線抵抗)、CNT相互の接触抵抗、CNT1本当りの長さ、CNT配向膜の長さ及び幅、その他の因子によって、推定することができる。
【0088】
また、CNT配向膜の光透過率は、膜厚とCNTの光吸収係数から推定することができ、例えば、CNT32の軸方向の線抵抗33を2,400Ω/μm、CNT32の壁面間の接触抵抗34を50,000Ω、CNT32の先端部間の接触抵抗35を50,000Ω(その他の要因は省略する。)等とする時、2分子層が積層されてなるCNT薄膜の波長550nmにおける光透過率は96%、電極30aと30bの間の抵抗値は約140Ωとなる。
【0089】
図7(B)は、CNT薄膜をチャネル43に用いたバックゲート型電界効果トランジスタ(FET)の概略構成を示すものであって、例えば、基板46(上述の基板17に相当)面にゲート電極45が積層され、このゲート電極45に、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)又はポリイミドワニス等によるゲート絶縁物層44が積層され、この絶縁物層44にチャネル43が積層され、このチャネル43にソース電極41及びドレイン電極42がそれぞれ積層されている。
【0090】
このような構成において、基板46、ゲート電極45、絶縁物層44、チャネル43、ソース電極41及びドレイン電極42を、それぞれ透明層によって形成することにより、光学的に透明なFETを実現することができる。
【0091】
そして、上記のFETにおいて、ゲート電極45、ソース電極41及びドレイン電極42を金属性のCNTによって形成する一方、チャネル43を半導体性のCNTによって形成することができる。
【0092】
これらのCNTはいずれも、上述した第1又は第2の実施の形態で述べた方法で高配向及び均一膜厚に形成することによって、必要な導電性又は透明性を付与することができる。
【0093】
なお、CNT薄膜を用いたFETは、上記のバックゲート型電界効果トランジスタのみならず、トップゲート型の構成としてもよい。
【0094】
第4の実施の形態
図8は、透明導電膜を使用したタッチパネルに適用した本発明の第4の実施の形態を示すものである。
【0095】
通常、タッチパネルはLCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)に重ねて配置されるため、可視光領域において80%以上の光透過率が必要であり、抵抗膜式タッチパネルのアナログ方式においては、電極を構成する膜の抵抗の均一性が要求される。
【0096】
図8(a)の断面図に示すように、透明タッチパネルは、透明導電膜1aが上部電極として形成された変形可能なPET基板(上部基板)2aと、表面に電気絶縁性のドットスペーサ3が形成された透明導電膜1bが下部電極として形成されたガラス基板(下部基板)2bとから構成され、上部基板2aと下部基板2bとは、僅かな隙間(空間)5を保ちながら両電極1a、1bを対向させ、電気絶縁層4を介して接合されている。
【0097】
例えば、上部基板2aと下部基板2bとの間隔5は、100μm〜300μmであり、この間隔5に対してドットスペーサ3の高さは、上部電極1aと下部電極1bが常時接触してON状態となることを防止してパネルに表示される画像に影響を与えないように、5μm〜50μm程度とされる。両電極がタッチしていない状態では、微小なドットスペーサ3によって両電極が接触しないので、電流は流れない。なお、上部電極1aはITO(インジウムドープの酸化錫)膜によって形成されているが、下部電極1bもITOによって形成されてもよい。
【0098】
図8(b)は、指又は専用ペンによってPET基板2a側の所定箇所を押圧することにより、PET基板2aのタッチされた部分が変形して下側にたわみ、透明導電膜1aと1bとが接触して電気が流れ、スイッチ動作が生じ、入力が検知される。
【0099】
上記のタッチパネルにおいて、例えば透明導電膜1aを(更には、下部電極1bも)上述したCNT薄膜で構成し、このCNT薄膜を上述した第1又は第2の実施の形態で述べた方法で高配向及び均一膜厚に形成することによって、必要な導電性又は透明性を付与することができる。
【実施例】
【0100】
以下、本発明を具体的な実施例について詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0101】
実施例1
1.本実施例においては、上述した第1の実施の形態に基づいて、まず、厚さ180μm、サイズ40mm×60mmのPET基板17を1分間水洗した。
【0102】
2.次に、SDS(Sodium Dodecyl Sulfate)水溶液中にCNT(単層CNT:SWCNT)22を添加し、超音波式ホモジナイザーにて、出力50Wで10分間ホモジナイズ処理を行って分散液8を作成した。SWCNTはCarbon Solutions Inc.製のP3−SWNTを用いた。
【0103】
3.次に、分散液膜保持リング25を分散液8に浸漬させ、引き上げることにより、分散液膜21を形成した。
【0104】
4.次に、基板17を分散液膜21に対して垂直方向上方に配置した。
【0105】
5.次に、基板17が分散液膜21を通過するように垂直下方に50mmスライド移動させた。この時のスライド移動速度は20mm/secであった。
【0106】
6.次に、基板17を分散液膜から引き戻すように垂直上方に50mmスライド移動させた。この時のスライド移動速度も20mm/secであった。
【0107】
7.そして、上記5及び6のスライド移動を10往復繰り返した。
【0108】
8.次に、基板17を分散液膜21から離し、乾燥させた。
【0109】
9.次に、基板17を純水に10分間浸漬させた後、残存水滴を除去した。
【0110】
10.保持リング25に残存した分散液膜をエアブローによって破裂させ、再使用に備えた。
【0111】
11.そして、上記3〜10を12回繰り返した(往復スライド移動回数は合計で120回)。
【0112】
その結果、図9に部分平面図で示すSEM(走査電子顕微鏡)像と、表面凹凸分布(基板表面上の高さプロファイルのトータル分布)を示すCNT薄膜18が得られた。これによれば、線状のCNTがほぼ一方向に沿って配向した部分が存在していることが分る(以下の実施例でも同様)。
【0113】
実施例2
本実施例では、往復スライド移動回数を合計で100回としたこと以外は、上記の実施例1と同様であった。その結果、図10に示すSEM像及び凹凸分布のCNT薄膜が得られた。
【0114】
実施例3
本実施例では、スライド移動回数を合計で70回としたこと以外は、上記の実施例1と同様であった。その結果、図11に示すSEM像及び凹凸分布のCNT薄膜が得られた。
【0115】
実施例4
本実施例では、往復スライド移動回数を合計で30回としたこと以外は、上記の実施例1と同様であった。その結果、図12に示すSEM像及び凹凸分布のCNT薄膜が得られた。これによれば、線状のCNTの配向性が向上していることが分る。
【0116】
実施例5
本実施例では、往復スライド移動回数を合計で50回としたこと以外は、上記の実施例1と同様であった。その結果、図13に示すSEM像及びA−A線に沿う凹凸分布のCNT薄膜が得られた。これによれば、CNTの配向性は良好である。
【0117】
実施例6
本実施例では、往復スライド移動回数を合計で10回としたこと以外は、上記の実施例1と同様であった。その結果、図14(A)及び図14(B)に示すSEM像及びB−B線、C−C線に沿う各凹凸分布のCNT薄膜が得られた。CNTの配向性は良好であることが分る。
【0118】
実施例7
本実施例では、往復スライド移動回数を合計で500回としたこと以外は、上記の実施例1と同様であった。その結果、図15(A)及び図15(B)に示す各SEM像(倍率が異なる。)のCNT薄膜が得られた。なお、このCNT薄膜の膜厚は平均で数10nmであった。
【0119】
以上の各実施例でのデータを含め、往復スライド移動回数(回)とCNT薄膜のシート抵抗(ohm/sq)との関係は図16に示す通りであった。
【0120】
これによれば、往復スライド移動回数が増加するとシート抵抗値が減少する。これは、往復スライド移動回数が増加したことにより、基板17に形成されるCNT薄膜18の膜厚が大きくなってその導電性が向上した結果である。
【0121】
図17は、上記に基づいて、CNT薄膜のシート抵抗値(ohm/sq)と光透過率(%)との関係を示すものである。
【0122】
これによれば、シート抵抗値が500ohm/sq以下でありかつ光透過率が80%以上である条件を満たすには、往復スライド移動回数を40回〜60回にするのが好ましいことが分る。その他、往復スライド移動回数の制御によって、シート抵抗値又は光透過率を任意に制御できることが分る。
【0123】
以上、本発明を実施の形態及び実施例について説明したが、これらの例は本発明の技術的思想に基いて種々に変形が可能である。
【0124】
例えば、上述した基板の材質や形状、厚さ、薄膜を構成する物質の種類、分散液中の界面活性剤の種類及び濃度等の条件は、必要に応じて任意に適切に設定することができる。
【0125】
また、基板を分散液膜に対し往復スライド移動させたが、この逆であってもよいし、或いは両者を異なる速度で共に移動させてもよい。分散液膜に対する基板の移動方向は垂直方向でなくても、互いに交差する方向であれば任意の角度をなしていてよい。
【0126】
薄膜を構成する物質の種類については、一次元ナノ材料として、単層のCNTだけではなく、2層又は多層のCNT、フラーレンの重合体(連結体)、又はCu、Ag、Au、Ni、Co、Sn等の金属ナノワイヤ、TiO2、SnO2、ZnO等の酸化物ナノワイヤ、セルロース等の有機物ナノファイバーを用いることができる。
【0127】
また、上述の例においては、基板の両面に同時に薄膜が形成されるが、例えば、基板を2枚の基板を貼り合わせた構造として薄膜の形成を行った後、各基板を分離すれば、片面にだけ薄膜を形成した基板を得ることができる。或いは、基板の一方の面をマスキングして薄膜を成膜した後に、マスクを剥せば、片面にのみ成膜された基板を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、一次元ナノ材料を配向させることにより、各種電子装置に好適な透明性及び光透過率が良好な透明電極又は配線等を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるCNT薄膜の製造工程を順次示す概略断面図である。
【図2】同、CNT薄膜の製造工程を示す断面図である。
【図3】同、CNT薄膜の概略平面図である。
【図4】同、CNT薄膜の製造工程を示すフローチャートである。
【図5】同、薄膜製造装置の概略正面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態による薄膜製造装置の概略構成図であって、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は左側面図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態によるCNT薄膜の導電特性を示す概略平面図(A)及び電子装置への応用例の概略断面図(B)である。
【図8】本発明の第4の実施の形態による透明導電膜を使用したタッチパネルの無押圧時の断面図(a)及び押圧時の断面図(b)である。
【図9】本発明の実施例による往復スライド移動回数が120回の時のCNT薄膜のSEM像及び凹凸分布図である。
【図10】同、往復スライド移動回数が100回の時のCNT薄膜のSEM像及び凹凸分布図である。
【図11】同、往復スライド移動回数が70回の時のCNT薄膜のSEM像及び凹凸分布図である。
【図12】同、往復スライド移動回数が30回の時のCNT薄膜のSEM像及び凹凸分布図である。
【図13】同、往復スライド移動回数が50回の時のCNT薄膜のSEM像と断面における凹凸分布図である。
【図14】同、往復スライド移動回数が10回の時のCNT薄膜のSEM像と異なる断面での凹凸分布図である。
【図15】同、往復スライド移動回数が500回の時のCNT薄膜のSEM像(倍率の異なる2種)である。
【図16】同、CNT薄膜のシート抵抗値と往復スライド移動回数との関係を示すグラフである。
【図17】同、CNT薄膜のシート抵抗値と光透過率との関係を示すグラフである。
【図18】先願発明による薄膜の形成手順を示す正面及び平面図(A)、斜視図(B)及び断面詳細図(C)である。
【符号の説明】
【0130】
1a、1b…透明導電膜、2a、2b、14、17、31、46…基板、
3…ドットスペーサ、4…電気絶縁層、5…空間(隙間)、6…基板保持部、
7…リング支持部、8…分散液、9…分散液貯蔵部、10…気泡、
11…水平駆動用の溝、12…ノズル、13…基板保持用の台座部、
15、15’…移動手段、16…空気、18、20…CNT薄膜、
19…分散液膜保持部、21…分散液膜、22、32…CNT、
24a、24b…薄膜製造装置、25…分散液膜保持リング、26…垂直駆動用の溝、
30a、30b…電極、41…ソース電極、42…ドレイン電極、43…チャネル、
44…ゲート絶縁物層、45…ゲート電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜の構成材料と界面活性剤とを混合して、前記構成材料が分散された分散液を調製 する第1工程と、
前記分散液からなる分散液膜を形成する第2工程と、
前記分散液膜と支持体とを接触させた状態で相対的に移動させることにより、前記分 散液を前記支持体の表面に膜状に移行させる第3工程と、
前記支持体の表面に形成された前記膜状の分散液を乾燥させることを経て、薄膜を形 成する第4工程と
を有する、薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記移動方向に前記構成材料を配向させる、請求項1に記載した薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥の後に前記支持体を洗浄し、不要な残留物を除去する、請求項1に記載した薄膜の製造方法。
【請求項4】
少なくとも前記第2工程から前記第4工程までを繰り返すことにより、前記薄膜の膜厚制御を行う、請求項1に記載した薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記分散液膜に対して交差する方向に、前記分散液膜に対して前記支持体を相対的に移動させる、請求項1に記載した薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記第3工程後に、前記分散液膜の保持手段に残った分散液膜を破裂させ、しかる後に前記第2工程を再び行う、請求項1に記載した薄膜の製造方法。
【請求項7】
表面抵抗が500Ω/sq以下の前記薄膜を製造する、請求項1に記載した薄膜の製造方法。
【請求項8】
光透過率が80%以上の前記薄膜を製造する、請求項1に記載した薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記支持体として透明な高分子基板を用いる、請求項1に記載した薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記構成材料が一次元ナノ材料である、請求項1に記載した薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記一次元ナノ材料がカーボンナノチューブである、請求項10に記載した薄膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載した薄膜の製造方法に用いられる製造装置であって、薄膜の構成材料と界面活性剤とを含有する分散液を貯蔵する分散液貯蔵手段と、前記分散液からなる膜を保持する分散液膜保持手段と、支持体を保持する支持体保持手段と、前記分散液膜と前記支持体とを接触させた状態で相対的に移動させる移動手段と、前記支持体の表面に移行した膜状の前記分散液の乾燥手段とを有する、薄膜の製造装置。
【請求項13】
前記支持体の洗浄手段を有する、請求項12に記載した薄膜の製造装置。
【請求項14】
前記分散液膜保持手段に残った分散液膜を破裂させる手段を有する、請求項12に記載した薄膜の製造装置。
【請求項15】
薄膜の構成材料と界面活性剤とを混合して、前記構成材料が分散された分散液を調製 する第1工程と、
前記分散液からなる分散液膜を形成する第2工程と、
前記分散液膜と支持体とを接触させた状態で相対的に移動させることにより、前記分 散液を前記支持体の表面に膜状に移行させる第3工程と、
前記支持体の表面に形成された前記膜状の分散液を乾燥させることを経て、薄膜を形 成する第4工程と
を有する、電子装置の製造方法。
【請求項16】
請求項2〜請求項11のいずれか1項に記載した製造方法によって前記薄膜が形成される、請求項15に記載した電子装置の製造方法。
【請求項17】
前記薄膜を導電性及び光透過性を有する透明電極として使用する、請求項15に記載した電子装置の製造方法。
【請求項18】
液晶装置、エレクトロルミネッセンス装置、エレクトロクロミック装置、電界効果トランジスタ、タッチパネル及び太陽電池のいずれかとして構成される電子装置を製造する、請求項15に記載した電子装置の製造方法。
【請求項19】
前記薄膜を導電線路として使用する、請求項15に記載した電子装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図16】
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【図17】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−292664(P2009−292664A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145916(P2008−145916)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】