説明

薄膜形成用組成物の製造方法、薄膜形成方法及び半導体装置

【課題】貯蔵保管時にアルコキシシラン縮合物の分子量の増大が抑制されており、薄膜形成用組成物の粘度の上昇が生じ難く、従って、膜厚が均一であり、微細パターン形状を有する薄膜を高精度に形成することを可能とする薄膜形成用組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】アルコキシ基を有するアルコキシシランを水の存在下で加水分解縮合させることにより、アルコキシシラン縮合物と、水と、アルコキシ基に由来するアルコールとを含む溶液を得る工程と、溶液を加熱し、水とアルコールとを共沸させることにより、脱水し、薄膜形成用組成物を得る工程とを備え、得られた薄膜形成用組成物中に含まれているアルコキシシラン縮合物に対する残存アルコールのモル比が、アルコキシシラン縮合物の縮合速度Rに応じて図1の破線Xで囲まれている範囲内とされている、薄膜形成用組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置などの電子デバイスにおいて絶縁膜等に用いられる薄膜を形成するためのアルコキシシランの縮合物を含む薄膜形成用組成物の製造方法に関し、特に、貯蔵保管時にアルコキシシラン縮合物の分子量の増大を抑制し、膜厚が均一であり、微細パターン形状の薄膜を得ることを可能とする薄膜形成用組成物の製造方法、及び該製造方法により得られた薄膜形成用組成物を用いた薄膜形成方法及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置などの電子デバイスでは、小型化及び薄型化を図るために、絶縁性に優れた薄膜を形成することが必要である。また、半導体装置のパッシベーション膜やゲート絶縁膜などでは、微細パターン形状の絶縁膜を形成することが必要である。そこで、パターニングを必要としない薄膜を形成するための薄膜形成用組成物、あるいは微細パターン形状の薄膜を形成するための感光性を有する薄膜形成用組成物が種々提案されている。これらの薄膜形成用組成物の多くは、アルコキシシラン縮合物を含有している。
【0003】
パターニングを必要としないアルコキシシラン縮合物を含む薄膜形成用組成物を用いて、薄膜を形成するに際しては、薄膜形成用組成物をまず基板上に所定の厚みに塗布する。次に、乾燥し、さらに加熱することにより焼成し、硬質でかつ緻密な薄膜が形成されている。また、パターニングが求められる薄膜形成用組成物の場合には、感光性を有する薄膜形成用組成物を基板上に塗布した後、乾燥し、マスクを介して選択的に露光する。しかる後、露光された組成物層をアルカリ溶液により現像する。次に、現像後に、残存している組成物層を加熱することにより、硬質で緻密な微細パターン状の薄膜が形成されている。
【0004】
上述のパターニングを必要としない薄膜形成用組成物を用いた薄膜の形成方法、感光性を有する薄膜形成用組成物を用いた微細パターン形状の薄膜の形成方法のいずれにおいても、薄膜形成に際して塗工される組成物中に水分が多く含まれていると、貯蔵保管時にアルコキシシラン縮合物の縮合がさらに進行し、アルコキシシラン縮合物の分子量が増大しがちであった。その結果、薄膜形成用組成物の粘度が上昇し、薄膜形成に際し、基板上に薄膜形成用組成物を所定の厚みに塗布しようとしても、塗布厚みが変動し、最終的に得られた薄膜や微細パターン形状の薄膜において、膜厚がばらついたり、所望とするパターン形状が得られないという問題があった。そこで、薄膜形成用組成物中に含まれている水分量を低減し、貯蔵保管時にアルコキシシラン縮合物の分子量の増大を抑制するための試みがなされている。
【0005】
下記の特許文献1には、アルコキシシラン縮合物としてのアルカリ可溶性シロキサンポリマーと、光により反応促進剤を発生する化合物と、溶剤とを主成分とする感光性を有する薄膜形成用組成物が開示されている。特許文献1では、アルカリ可溶性シロキサンポリマーを得る際に、アルコキシシランに水及び触媒を加えて加水分解縮合させた反応溶液から、抽出により、あるいは脱水剤を用いて、水が除去されている。
【0006】
他方、下記の特許文献2には、アルコキシシラン縮合物としてのオルガノシロキサン系オリゴマーを含む薄膜形成用組成物が開示されている。特許文献2では、オルガノシロキサン系オリゴマーを得る際に、オルガノアルコキシシランに水及び塩基性触媒を加えて加水分解縮合させて得られた反応溶液から、抽出により、あるいは脱水剤を用いて、水が除去されている。
【特許文献1】特開平6−148895号公報
【特許文献2】特開2004−99872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2に記載のように、抽出により水を除去する場合には、その操作が煩雑であった。さらに、抽出に長時間を要したり、抽出に有機溶媒等を用いる必要があり、コストが高くつくという問題があった。
【0008】
また、脱水剤を用いて水を除去する場合には、薄膜形成用組成物中に脱水剤が残存しがちであった。脱水剤が残存していると、薄膜形成用組成物を用いて薄膜を形成した際に、電気的特性等が劣化することがあった。
【0009】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、アルコキシシラン縮合物を含む薄膜形成用組成物の製造方法であって、貯蔵保管時にアルコキシシラン縮合物の分子量の増大が抑制されており、薄膜形成用組成物の粘度の上昇が生じ難く、従って、膜厚が均一であり、微細パターン形状を有する薄膜を高精度に形成することを可能とする薄膜形成用組成物の製造方法、及び該製造方法により得られた薄膜形成用組成物を用いた薄膜形成方法及び半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る薄膜形成用組成物の製造方法は、アルコキシ基を有するアルコキシシランを水の存在下で加水分解縮合させることにより、アルコキシシラン縮合物と、水と、前記アルコキシ基に由来するアルコールとを含む溶液を得る工程と、前記溶液を加熱し、前記水と前記アルコールとを共沸させることにより、脱水し、薄膜形成用組成物を得る工程とを備え、前記溶液を加熱する工程を行わずに、前記溶液を1日間放置したときの前記アルコキシシラン縮合物の重量平均分子量(Mw1)及び7日間放置したときの前記アルコキシシラン縮合物の重量平均分子量(Mw7)を測定し、得られた重量平均分子量の比(Mw7/Mw1)を前記アルコキシシラン縮合物の縮合速度Rとしたときに、前記共沸及び脱水により得られた薄膜形成用組成物中に含まれている前記アルコキシシラン縮合物と残存している前記アルコールとのモル比(残存アルコール/アルコキシシラン縮合物)が、前記縮合速度Rに応じて図1の破線Xで囲まれている範囲内とされていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る薄膜形成用組成物の製造方法では、前記アルコキシ基を有するアルコキシシランとしては、様々なアルコキシシランを用いることができるが、好ましくは、下記式(1)で表されるアルコキシシランが用いられる。
【0012】
Si(R(R(R4−p−q・・・式(1)
【0013】
上述した式(1)中、Rは水素又は炭素数が1〜30である非加水分解性の有機基を表し、Rはアルコキシ基を表し、Rはアルコキシ基以外の加水分解性基を表し、pは0〜3の整数を表し、qは1〜4の整数を表し、p+q≦4である。pが2又は3であるとき、複数のRは同一であってもよく異なっていてもよい。qが2〜4であるとき、複数のRは同一であってもよく異なっていてもよい。p+q≦2であるとき、複数のRは同一であってもよく異なっていてもよい。
【0014】
本発明に係る薄膜形成方法は、本発明の薄膜形成用組成物の製造方法により得られた薄膜形成用組成物を基板上に塗工し、薄膜形成用組成物層を形成する工程と、前記薄膜形成用組成物層を乾燥する工程とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る薄膜形成方法では、好ましくは、上記乾燥に際し、あるいは乾燥後に薄膜形成用組成物層が加熱され、それによって、より一層緻密な薄膜を得ることができる。
【0016】
本発明に係る半導体装置では、ゲート絶縁膜、パッシベーション膜及び層間絶縁膜からなる群から選択された少なくとも1種の膜を備えており、該膜が本発明の薄膜形成用組成物の製造方法により得られた薄膜形成用組成物を用いて形成された膜とされている。
【0017】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0018】
本発明に係る薄膜形成用組成物の製造方法では、先ず、アルコキシ基を有するアルコキシシランを水の存在下で加水分解縮合させることにより、アルコキシシラン縮合物と、水と、アルコキシ基に由来するアルコールとを含む溶液を得る。本発明では、アルコキシ基を有するアルコキシシランの加水分解縮合により、アルコールが生成される。よって、アルコールを別途添加しなくても、溶液中にはアルコールが含まれている。
【0019】
上記アルコキシ基を有するアルコキシシランを水の存在下で加水分解縮合させる条件としては、特に限定されないが、例えば、酸触媒または塩基媒などの存在下で加熱攪拌等すればよい。
【0020】
上記アルコキシ基を有するアルコキシシランとしては、特に限定されないが、好ましくは、下記式(1)で表されるアルコキシシランが用いられる。
【0021】
Si(R(R(R4−p−q・・・式(1)
【0022】
上述した式(1)中、Rは水素又は炭素数が1〜30である非加水分解性の有機基を表し、Rはアルコキシ基を表し、Rはアルコキシ基以外の加水分解性基を表し、pは0〜3の整数を表し、qは1〜4の整数を表し、p+q≦4である。pが2又は3であるとき、複数のRは同一であってもよく異なっていてもよい。qが2〜4であるとき、複数のRは同一であってもよく異なっていてもよい。p+q≦2であるとき、複数のRは同一であってもよく異なっていてもよい。
【0023】
上記アルコキシ基R及びアルコキシ基以外の加水分解性基Rは、通常、過剰の水の共存下、無触媒で、室温(25℃)〜100℃の温度範囲内で加熱することにより、加水分解されてシラノール基を生成することができる基、またはさらに縮合してシロキサン結合を形成することができる基である。
【0024】
上記アルコキシ基Rとしては、特に限定されないが、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基等が挙げられる。
【0025】
上記アルコキシ基以外の加水分解性基Rとしては、特に限定されないが、具体的には、塩素、臭素等のハロゲノ基、アミノ基、ヒドロキシル基又はカルボキシル基等が挙げられる。
【0026】
上記非加水分解性の有機基Rとしては、特に限定されないが、加水分解を起こし難く、安定な疎水基である炭素数1〜30の有機基が挙げられる。安定な疎水基である炭素数1〜30の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ペンチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基及びエイコシル基等の炭素数1〜30のアルキル基、アルキル基のフッ素化物、塩素化物、臭素化物等のハロゲン化アルキル基(例えば、3−クロロプロピル基、6−クロロプロピル基、6−クロロヘキシル基および、6,6,6−トリフルオロヘキシル基等)、ハロゲン置換ベンジル基等の芳香族置換アルキル基(例えば、ベンジル基、4−クロロベンジル基及び4−ブロモベンジル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、メシチル基、ナフチル基等)、ビニル基やエポキシ基を含む有機基、アミノ基を含む有機基、チオール基を含む有機基等が挙げられる。
【0027】
上記アルコキシシランの具体例としては、例えば、トリフェニルエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、エチルジメチルメトキシシラン、メチルジエチルメトキシシラン、エチルジメチルエトキシシラン、メチルジエチルエトキシシラン、フェニルジメチルメトキシシラン、フェニルジエチルメトキシシラン、フェニルジメチルエトキシシラン、フェニルジエチルエトキシシラン、メチルジフェニルメトキシシラン、エチルジフェニルメトキシシラン、メチルジフェニルエトキシシラン、エチルジフェニルエトキシシラン、tert−ブトキシトリメチルシラン、ブトキシトリメチルシラン、ジメチルエトキシシラン、メトキシジメチルビニルシラン、エトキシジメチルビニルシラン、ジフェニルジエトキシラン、フェニルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジアセトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、3−クロロポロピルジメトキシメチルシラン、クロロメチルジエトキシメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジアセトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ジエトキシジエチルシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチル−トリ−n−プロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチル−トリ−n−プロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピル−トリ−n−プロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリプロポキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリプロポキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリプロポキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリプロポキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリプロポキシシラン、テトラデシルトリメトキシシラン、テトラデシルトリエトキシシラン、テトラデシルトリプロポキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリプロポキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリプロポキシシラン、エイコシルデシルトリメトキシシラン、エイコシルトリエトキシシラン、エイコシルトリプロポキシシラン、6−クロロヘキシルトリメトキシシラン、6,6,6−トリフルオロヘキシルトリメトキシシラン、ベンジルトリメトキシシラン、4−クロロベンジルトリメトキシシラン、4−ブロモベンジルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、N−β−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、トリ−n−プロポキシシラン、トリアセトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラアセトキシシラン等が挙げられる。アルコキシシラン縮合物を得るに際しては、少なくとも1種のアルコキシシランが用いられていればよく、従って2種以上のアルコキシシランが用いられていてもよい。
【0028】
アルコキシシランの加水分解縮合に際しては、触媒や、溶剤が用いられてもよい。
【0029】
上記触媒としては、特に限定されないが、シュウ酸、ベンゼンスルホン酸、マレイン酸、クエン酸などの有機酸;酢酸、蟻酸、塩酸、硝酸等の無機酸触媒;トリメチルアミン等の有機塩基性触媒;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基性触媒等が挙げられる。
【0030】
上記溶剤としては、アルコキシシランを溶解し得る適宜の溶媒を用いることができる。すなわち、アルコキシシランを溶解し、さらに必要に応じて、添加される他の成分を溶解し得る適宜の溶剤を用いることができる。
【0031】
上記溶剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンゼン、キシレン、トルエン、エチルベンゼン、スチレン、トリメチルベンゼン、ジエチルベンゼンなどの芳香族炭化水素化合物;シクロヘキサン、シクロヘキセン、ジペンテン、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、イソヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、イソノナン、n−デカン、イソデカン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロナフタレン、スクワランなどの飽和または不飽和炭化水素化合物;ジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジ−イソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、p−メンタン、o−メンタン、m−メンタン;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、メチルアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルセロソルブ、酢酸エチルセロソルブ、酢酸ブチルセロソルブ、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、乳酸イソアミル、ステアリン酸ブチルなどのエステル類、クロロホルム、プロピレンオキシドなどが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
本発明では、次に、上記加水分解縮合により得られた溶液、すなわちアルコキシシラン縮合物と、水と、アルコールとを含む溶液を加熱し、水とアルコールとを共沸させる。これにより、脱水されて、薄膜形成用組成物が得られる。水とアルコールとを共沸させることにより、脱水するので、水を効率的に除去することができ、水分量が低減された薄膜形成用組成物を得ることができる。さらに、脱水剤などを用いていないので、薄膜を形成したときに、脱水剤による薄膜の電気的特性の劣化を防ぐことができる。
【0033】
上記溶液を加熱し、水とアルコールとを共沸させる条件としては、特に限定されないが、例えば、100℃以上のオイルバス上で加熱攪拌もしくは減圧雰囲気下で加熱攪拌等すればよい。
【0034】
本発明では、上記共沸及び脱水により得られた薄膜形成用組成物中に含まれているアルコキシシラン縮合物と残存しているアルコールとのモル比(残存アルコール/アルコキシシラン縮合物)が、アルコキシシラン縮合物の縮合速度Rに応じて図1の破線Xで囲まれている範囲内とされている。
【0035】
上記アルコキシシラン縮合物の縮合速度Rは、上記加水分解縮合により得られた溶液を加熱せずに、すなわち共沸及び脱水を行わずに、上記溶液を1日間(24時間)放置したときのアルコキシシラン縮合物の重量平均分子量(Mw1)及び7日間放置したときのアルコキシシラン縮合物の重量平均分子量(Mw7)を測定し、得られた重量平均分子量の比(Mw7/Mw1)で定義される。
【0036】
本発明の特徴は、上記溶液を加熱し、水とアルコールとを共沸させ、脱水する工程を備え、さらに薄膜形成用組成物中におけるモル比(残存アルコール/アルコキシシラン縮合物)が、上記縮合速度Rに応じて図1の破線Xで囲まれている範囲内とされていることにある。これにより、水分を効果的に除去することができ、さらにアルコキシシラン縮合物の分子量の増大を効果的に抑制することができること、それによって膜厚が均一であり、微細パターン形状を有する薄膜を高精度に形成することができることを、本願発明者らは後述の実験により初めて見出した。
【0037】
得られた薄膜形成用組成物には、塗工性を高めるために、上述した溶剤がさらに添加されてもよい。さらに、薄膜形成用組成物には、必要に応じて、他の添加剤がさらに添加されてもよい。
【0038】
上記添加剤としては、充填剤、顔料、染料、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、分散剤、分散助剤、表面改質剤、可塑剤、可塑促進剤、タレ防止剤などが挙げられる。
【0039】
また、好ましくは、薄膜形成用組成物は、パターン形状の薄膜の形成に用いられるものであってもよい。その場合には、薄膜形成用組成物には、光の照射により酸または塩基を発生する化合物を添加することが好ましい。このような化合物としては、適宜の光酸発生剤及び光塩基発生剤を用いることができる。
【0040】
上記光酸発生剤としては、特に限定されないが、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホナート、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンアンチモナート、トリフェニルスルホニウムベンゾスルホナート、シクロヘキシルメチル(2−オキソシクロヘキシル)スルホニウムトリフルオロメタンスルホナート、ジシクロヘキシル(2−オキソシクロヘキシル)スルホニウムトリフルオロメタンスルホナート、ジシクロヘキシルスルホニルシクロヘキサノン、ジメチル(2−オキソシクロヘキシル)スルホニウムトリフルオロメタンスルホナート等のスルホニウム塩化合物、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート等のヨードニウム塩、N−ヒドロキシスクシンイミドトリフルオロメタンスルホナート等が挙げられる。光酸発生剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0041】
上記光塩基発生剤としては、特に限定されないが、例えば、オニウム塩などが挙げられる。より具体的には、ジアゾニウム、ホスホニウム、及びヨードニウムのBF、PF、SBF、ClOなどの塩や、その他、有機ハロゲン化合物、有機金属、及び有機ハロゲン化物などが挙げられる。
【0042】
(薄膜形成方法)
薄膜形成用組成物を用いて薄膜を形成するに際しては、先ず、薄膜形成用組成物を基板上に所定の厚みに塗工する。この塗工方法は特に限定されず、スピンコーティング、ダイコーティング、スクリーン印刷などの適宜の方法を用いることができる。いずれにしても、薄膜形成用組成物では、貯蔵保管時に、アルコキシシランの縮合物の分子量の増大が抑制され、薄膜形成用組成物の粘度の上昇が抑制されているので、均一な厚みにかつ安定に薄膜形成用組成物層を容易に塗工することができる。
【0043】
次に、薄膜形成用組成物層を乾燥し、必要に応じて、乾燥するに際し、あるいは乾燥後に加熱する。それによって、緻密でかつ硬質の薄膜を得ることができる。上記加熱に際しては、特に限定されないが、例えば、60℃〜200℃の温度に1秒〜10分程度維持すればよい。
【0044】
また、上述した光酸発生剤及び光塩基発生剤を用いてパターニングを行う場合には、加熱に先立って、露光及びアルカリ溶液等を用いた現像工程を実施すればよい。その場合においても、貯蔵保管時に、アルコキシシランの縮合物の分子量の増大が抑制され、薄膜形成用組成物の粘度の上昇が抑制されているので、薄膜形成用組成物の塗工厚みのばらつきを低減でき、微細パターン形状の薄膜を高精度に形成することができる。
【0045】
(半導体装置)
なお、本発明の薄膜形成用組成物の製造方法により得られた薄膜形成用組成物は、様々な半導体装置において、薄膜を形成するのに好適に用いられるが、層間絶縁膜の形成に好適に用いられる。半導体装置の層間絶縁膜として、上記薄膜形成用組成物を用いて薄膜を形成することにより、層間絶縁膜の膜厚を均一にすることができる。このような電子機器の絶縁保護膜の例としては、例えば、液晶表示素子において、薄膜トランジスタ(TFT)を保護するためのTFT保護膜や、カラーフィルタにおいてフィルタを保護する保護膜などが挙げられる。
【0046】
さらに、上記薄膜は、薄膜トランジスタのゲート絶縁膜やパッベーション膜としても好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明に係る薄膜形成用組成物の製造方法では、アルコキシ基を有するアルコキシシランを水の存在下で加水分解縮合させることにより、アルコキシシラン縮合物と、水と、アルコキシ基に由来するアルコールとを含む溶液を得る工程と、溶液を加熱し、水とアルコールとを共沸させることにより、脱水し、薄膜形成用組成物を得る工程とを備えているので、しかも得られた薄膜形成用組成物中に含まれているアルコキシシラン縮合物に対する残存アルコールのモル比が、縮合速度Rに応じて図1の破線Xで囲まれている範囲内とされているので、薄膜形成用組成物の貯蔵保管中にアルコキシシラン縮合物の縮合が進行し難く、アルコキシシランの縮合物の分子量の増大が抑制される。それによって、薄膜形成用組成物の粘度変化が抑制され、薄膜形成用組成物を塗工して薄膜を形成するに際し、塗工厚みがばらつき難くなり、膜厚が均一であり、微細パターン形状の薄膜を高精度に形成することができる。
【0048】
よって、経時による分子量増大に伴う粘度上昇が少ないため、長期間、貯蔵保管したとしても、例えば半導体装置の層間絶縁膜のように膜厚が高精度に制御されていることが求められる絶縁膜等を形成するのに最適な薄膜形成用組成物及び薄膜形成方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明をより明らかにする。
【0050】
(実施例1)
冷却管をつけた100mlのフラスコに、アルコキシ基を有するアルコキシシランとしてのフェニルトリエトキシシラン50重量部と、溶剤としてのPEGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)50重量部とを加え、これに水20重量部と、触媒としてのシュウ酸2重量部とをさらに加えた。これを30℃で6時間加熱攪拌し、フェニルトリエトキシシランを加水分解縮合することにより、アルコキシシラン縮合物としてのフェニルトリエトキシシランの縮合物と、水と、エトキシ基に由来するエタノール(アルコール)とを含む溶液を得た。
【0051】
得られた溶液を6時間放置した後、ロータリーエバポレーターを用いて、圧力10hPa、温度40℃の条件で、溶液を加熱しつつ、水とエタノール(アルコール)とを共沸させることにより、脱水し、薄膜形成用組成物を得た。
【0052】
(実施例2〜33及び比較例1〜18)
使用したアルコキシ基を有するアルコキシシラン、溶剤及び触媒の種類及び配合量、並びに共沸条件を下記表1〜4に示すように変更したことを除いては、実施例1と同様にして薄膜形成用組成物を得た。
【0053】
(評価)
(1)薄膜形成用組成物中におけるモル比(残存アルコール/アルコキシシラン縮合物)
共沸及び脱水により得られた薄膜形成用組成物中に含まれているアルコキシシランの縮合物と、残存しているアルコールとのモル比(残存アルコール/アルコキシシラン縮合物)を測定した。モル比は、重アセトン溶媒を用いたHNMR測定により得られた共鳴線の積分面積から求めた。
【0054】
(2)アルコキシシラン縮合物の縮合速度R
実施例及び比較例の各薄膜形成用組成物を得るに際し、上記溶液を加熱する工程を行わずに、すなわち共沸及び脱水を行わずに、溶液を1日間(24時間)放置したときのアルコキシシラン縮合物の重量平均分子量(Mw1)及び7日間放置したときのアルコキシシラン縮合物の重量平均分子量(Mw7)を測定した。得られた重量平均分子量の比(Mw7/Mw1)をアルコキシシランの縮合速度Rとした。
【0055】
(3)薄膜形成用組成物中に含まれている水分量
共沸及び脱水により得られた薄膜形成用組成物中に含まれている水分量(重量%)は、カールフィッシャー法を用いて測定した。
【0056】
(4)薄膜のL/Sの評価
得られた薄膜形成用組成物100重量部と、光酸発生剤としてスルホニウム塩系光酸発生剤(Naphtalimide camphorsulfonate(CASNo.83697−56−7)、ミドリ化学社製、商品名:NAI−106)5重量部とを混合し、1日間(24時間)放置した後、薄膜形成用組成物をシリコンウエハー基板上に回転数1250rpm、20秒でスピン塗工した。塗工後、100℃のホットプレートで2分間乾燥させ、塗膜を形成した。次に、1μmから20μmのL/S形状のパターンを有するフォトマスクを介して、紫外線照射装置を用い、塗膜に365nmの波長の紫外線を、照射エネルギーが500mJ/cmとなるように100mW/cmの紫外線照度で0.5秒間照射した。紫外線を照射した後、塗膜を100℃のホットプレートで2分間加熱した。しかる後、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの2.38%水溶液に、塗膜を浸漬して現像し、薄膜L1を得た。
【0057】
また、得られた薄膜形成用組成物を7日間放置した後、上記薄膜L1と同様にして、薄膜L7を形成した。
【0058】
このようにして得られた薄膜L1及び薄膜L7のL/S、すなわち解像度について、下記評価基準で評価した。
【0059】
〔L/Sの評価基準〕
○:6μm以下
△:6μmを超え、かつ10μm以下
×:10μmを超える
結果を下記の表1〜4に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
図1に、実施例及び比較例の各薄膜形成用組成物中に含まれているアルコキシシラン縮合物と残存アルコールとのモル比(残存アルコール/アルコキシシラン縮合物)と、縮合速度Rとの関係において、薄膜L1及び薄膜L7のL/Sの評価結果がいずれも「○」又は「△」であった場合に丸印を付して示し、薄膜L1及び薄膜L7のL/Sの評価結果がいずれか一つでも「×」であった場合に×印を付して示した。その結果、図1に示す波線Xで囲まれている範囲内では、薄膜L1及び薄膜L7のL/Sの評価結果がいずれも「○」又は「△」であった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、薄膜形成用組成物中に含まれているアルコキシシラン縮合物と残存アルコールとのモル比(残存アルコール/アルコキシシラン縮合物)と、縮合速度Rとの関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシ基を有するアルコキシシランを水の存在下で加水分解縮合させることにより、アルコキシシラン縮合物と、水と、前記アルコキシ基に由来するアルコールとを含む溶液を得る工程と、
前記溶液を加熱し、前記水と前記アルコールとを共沸させることにより、脱水し、薄膜形成用組成物を得る工程とを備え、
前記溶液を加熱する工程を行わずに、前記溶液を1日間放置したときの前記アルコキシシラン縮合物の重量平均分子量(Mw1)及び7日間放置したときの前記アルコキシシラン縮合物の重量平均分子量(Mw7)を測定し、得られた重量平均分子量の比(Mw7/Mw1)を前記アルコキシシラン縮合物の縮合速度Rとしたときに、
前記共沸及び脱水により得られた薄膜形成用組成物中に含まれている前記アルコキシシラン縮合物と残存している前記アルコールとのモル比(残存アルコール/アルコキシシラン縮合物)が、前記縮合速度Rに応じて図1の破線Xで囲まれている範囲内とされていることを特徴とする、薄膜形成用組成物の製造方法。
【請求項2】
前記アルコキシ基を有するアルコキシシランとして、下記式(1)で表されるアルコキシシランを用いる、請求項1に記載の薄膜形成用組成物の製造方法。
Si(R(R(R4−p−q・・・式(1)
上記式(1)中、Rは水素又は炭素数が1〜30である非加水分解性の有機基を表し、Rはアルコキシ基を表し、Rはアルコキシ基以外の加水分解性基を表し、pは0〜3の整数を表し、qは1〜4の整数を表し、p+q≦4である。pが2又は3であるとき、複数のRは同一であってもよく異なっていてもよい。qが2〜4であるとき、複数のRは同一であってもよく異なっていてもよい。p+q≦2であるとき、複数のRは同一であってもよく異なっていてもよい。
【請求項3】
請求項1または2に記載の薄膜形成用組成物の製造方法により得られた薄膜形成用組成物を基板上に塗工し、薄膜形成用組成物層を形成する工程と、
前記薄膜形成用組成物層を乾燥する工程とを備えることを特徴とする、薄膜形成方法。
【請求項4】
前記乾燥に際し、あるいは乾燥後に前記薄膜形成用組成物を加熱する工程を備える、請求項3に記載の薄膜形成方法。
【請求項5】
ゲート絶縁膜、パッシベーション膜及び層間絶縁膜からなる群から選択された少なくとも1種の膜を備え、該膜が請求項1または2に記載の薄膜形成用組成物の製造方法により得られた薄膜形成用組成物を用いて形成された膜であることを特徴とする、半導体装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−73964(P2009−73964A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245057(P2007−245057)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】