説明

角度測定装置

【課題】被測定物の角度の測定に際し、測定精度を高めることができるようにする。
【解決手段】ロータリエンコーダ41は、十字線などのレチクル42と機械的に連動して回転するように構成され、レチクル42が回転操作されると、その回転操作に応じたパルス信号を出力する。CPU31は、そのパルス信号から回転角度を算出し、その回転角度に応じた補正値を、補正テーブル保持部34の補正テーブル34aから取得し、その補正値を用いて回転角度を補正する。そして、カウント表示部33は、補正後の正確な回転角度を表示する。本発明は、例えば、顕微鏡用のデジタルプロトラクタに適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、十字線などの角度測定用の基準線が示されているレチクルの回転を検出することにより、被測定物の角度を測定するデジタルプロトラクタが普及している。
【0003】
この種のデジタルプロトラクタとしては、例えば、特許文献1や非特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−314607号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「測定顕微鏡MFシリーズ/MF−Uシリーズカタログ Catalog No.4273(15)」,株式会社ミツトヨ,2008年,p.15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のデジタルプロトラクタにおいては、ロータリエンコーダの回転中心と、レチクルの回転中心とが合致しないことに起因して、測定された角度に誤差が含まれる場合があった。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、被測定物の角度の測定に際し、測定精度を高めることができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の角度測定装置は、少なくとも一方向に延びる直線が示されているレチクルと、前記レチクルの回転に機械的に連動して回転する回転板の回転量及び回転方向を検出する検出手段と、回転による前記レチクルの姿勢の変化を示す値と、その回転による前記検出手段の出力値とを基に得られた補正情報を保持する保持手段と、保持している前記補正情報を用いて、前記検出手段の出力値を補正する補正手段とを備える。
【0009】
本発明の第2の角度測定装置は、少なくとも一方向に延びる直線が示されているレチクルと、前記レチクルの回転に機械的に連動して回転する回転板の回転量及び回転方向を検出する検出手段と、回転による前記レチクルの姿勢の変化を示す値を取得する取得手段と、前記レチクルの姿勢の変化を示す値と、その回転による前記検出手段の出力値との差分を算出する算出手段と、算出された前記差分を、補正情報として保持する保持手段とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被測定物の角度の測定に際し、測定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用したデジタルプロトラクタの一実施の形態の構成を示す図である。
【図2】デジタルプロトラクタを顕微鏡に装着したときの、顕微鏡の光学系の構成の一部を模式的に示す図である。
【図3】補正テーブル生成処理を説明するフローチャートである。
【図4】回転角度測定処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明を適用したデジタルプロトラクタの一実施の形態の構成を示す図である。
【0014】
図1に示すように、デジタルプロトラクタ11は、CPU(Central Processing Unit)31、測定部32、カウント表示部33、及び補正テーブル保持部34から構成される。
【0015】
CPU31は、所定のプログラムに従って、各種の処理を実行し、デジタルプロトラクタ11の各部の動作を制御する。CPU31が各種の処理を実行する上で必要なデータなどは、不図示のRAM(Random Access Memory)等に適宜記憶される。
【0016】
測定部32は、被測定物の測定の基準となる十字線を有するレチクル42と、そのレチクル42の回転角度を測定するためのロータリエンコーダ41から構成される。カウント表示部33は、レチクル42の回転操作に連動して回転するロータリエンコーダ41から出力される信号に応じたカウント値(回転角度)を表示する。なお、ロータリエンコーダ41及びレチクル42の詳細は図2を参照して後述する。
【0017】
補正テーブル保持部34は、ロータリエンコーダ41により測定された回転角度の誤差を補正するための補正値を格納する補正テーブル34aを保持する。
【0018】
また、補正テーブル34aを生成する処理を行う場合、デジタルプロトラクタ11には、画像取得装置12が所定のインターフェースを介して接続される。画像取得装置12は、撮像部51及び画像処理部52から構成される。撮像部51は、後述する図2に示すデジタルプロトラクタ11のレンズ44に取り付けられている。そして、レンズ44からの光束を集光し、レチクル42の像及び被測定物の像を結ぶ不図示の結像光学系と、その結像光学系で結像した像を撮像する撮像素子からなる。なお、撮像部51及び画像処理部52の説明については、ここでは省略し、後述する図3の補正テーブル34aの生成処理の説明の際に併せて説明することにする。
【0019】
以上のようにして、デジタルプロトラクタ11は構成される。
【0020】
次に、図2を参照しながら、図1のデジタルプロトラクタ11を顕微鏡に装着して使用する場合の例について説明する。
【0021】
図2は、デジタルプロトラクタ11を顕微鏡101に装着したときの、顕微鏡の光学系の構成の一部を模式的に示す図である。
【0022】
デジタルプロトラクタ11を顕微鏡101に装着した状態においては、顕微鏡101の対物光学系を構成する対物レンズ112の光軸と、デジタルプロトラクタ11に設けられるレンズ44の光軸とが光軸Aで一致し、対物光学系の結像位置に、レチクル42が配置される。そして、ステージ111上に載置された被測定物102の像は、対物レンズ112により、レチクル42の位置において結像する。これにより、十字線などのレチクル42が重畳された被測定物102の像を、レンズ44により拡大して観察することが可能となる。
【0023】
そして、ユーザは、被測定物102の角度測定を行う場合、レンズ44を覗き込みながら、ロータリエンコーダ41のスケール円板41aとレチクル42を別体に保持する回転筒43を回転させる回転環(不図示)を回転操作して、被測定物102の像に重畳された十字線などの刻線をあわせる。このとき、スケール円板41aの外端の一部は、横向きの凹溝が形成されたセンサヘッド41bに所定の間隔を空けて挟まれており、回転筒43が光軸A回りを回転することにより、スケール円板41aのスケールがセンサヘッド41bの検出範囲を横切る。
【0024】
このとき、センサヘッド41bは、その凹溝の間をスケール円板41aが通過した量と方向、つまり、スケール円板41aの回転量及び回転方向を検出し、その検出結果を示す信号を、CPU31に出力する。このロータリエンコーダ41から出力される信号は、例えば、スケール円板41aの回転量をパルスの数により表し、回転方向をパルスの位相により表す。これにより、CPU31は、ロータリエンコーダ41からのパルス信号の示す回転角度を補正テーブル34aにより補正し、被測定物102の所望の辺に対する相対角度を、カウント表示部33に表示させる。
【0025】
次に、図3のフローチャートを参照して、デジタルプロトラクタ11により実行される補正テーブル生成処理について説明する。
【0026】
なお、図3に示す処理は、補正テーブル34aの生成時の処理となるので、図2の顕微鏡101に装着されたデジタルプロトラクタ11には、図1の画像取得装置12が接続され、さらに、その撮像部51は、接眼部(不図示)に取り付けられ、レチクル42の像を撮像可能となっている。
【0027】
ステップS11において、撮像部51は、レンズ44越しにレチクル42の像を撮像し、それにより得られる画像信号を画像処理部52に供給する。なお、このときのレチクル42は、基準位置に配された状態(基準姿勢)になっているものとし、その基準位置から回転するものとする。これにより、画像処理部52は、基準となる回転前のレチクル画像を取得する。
【0028】
その後、処理は、ステップS12に進み、回転操作に応じて、レチクル42が所定の角度(例えば1度や2度)だけ回転される。
【0029】
ステップS13において、撮像部51は、回転後のレチクル42の像の撮像を行うことにより、画像処理部52は、回転後のレチクル画像を取得する。
【0030】
ステップS14において、画像処理部52は、回転前のレチクル画像(ステップS11の処理で取得)と、回転後のレチクル画像(ステップS13の処理で取得)に対し、所定の画像処理を施して、レチクル42の線の傾きを求めることにより、レチクル42の回転角度を算出する。
【0031】
すなわち、ここでは、レチクル42の動きを直接確認するために、回転前と回転後のレチクル42の像をレンズ44越しに撮像し、それにより得られる2枚のレチクル画像を比べることでレチクル42の回転角度を求めている。従って、この画像処理で得られる回転角度は、ずれのない信頼値となる。
【0032】
また、このとき、ロータリエンコーダ41では、レチクル42の回転に機械的に連動して回転するスケール円板41aの回転量及び回転方向が、センサヘッド41bにより検出されるので、ステップS15において、CPU31は、その検出結果を示すパルス信号に基づいて、ロータリエンコーダ41により測定された回転角度を取得する。
【0033】
ステップS16において、CPU31は、画像処理部52による画像処理により得られた回転角度と、ロータリエンコーダ41により測定された回転角度との差分を算出する。
【0034】
すなわち、ロータリエンコーダ41の出力から得られた回転角度には、ロータリエンコーダ41の回転中心と、レチクル42の回転中心とが合致しないことに起因する誤差が含まれている場合があるので、ここでは、その誤差を、信頼値となる画像処理で得られる回転角度との差分により求めている。
【0035】
ステップS17において、CPU31は、算出した回転角度の差を、補正値として補正テーブル34aに格納する。
【0036】
そして、処理は、ステップS18に進み、1回転(360度)分の補正情報を取得したか否かが判定される。
【0037】
ステップS18において、1回転分の補正情報を取得していないと判定された場合、処理は、ステップS12に戻り、ステップS12ないしS18の処理が繰り返される。すなわち、十字線などのレチクル42を所定の角度ずつ(例えば1度や2度)回転させることで、その角度ごとに、画像処理により得られる回転角度(n回目とn+1回目のステップS13の処理で得られる2枚のレチクル画像に対する画像処理により得られる回転角度)と、ロータリエンコーダ41の出力から得られる回転角度とが順次取得され、その差分により補正値が得られる。そして、ステップS18において、1回転分の補正情報を取得したと判定された場合、補正テーブル34aには、1回転分の補正情報が、ロータリエンコーダ41により測定される回転角度ごとに格納されたことになるので、図3の補正テーブル生成処理は終了する。
【0038】
なお、この補正テーブル34aに格納される補正値で示される誤差は、例えば、レチクル42を1回転、つまり、360度回転させた場合に得られる0度から360度の範囲における回転角度に対する誤差を示す正弦波として表される。また、補正テーブル34aを保持する代わりに、補正情報として、回転角度をパラメータとする所定の関数により誤差を求められるようにしてもよい。
【0039】
以上のように、本実施の形態においては、理想的な回転をさせたときの補正情報を取得するために、レチクル画像の画像処理から回転角度の信頼値を求め、その信頼値と、誤差を含んで測定される回転角度との差分を算出し、その差分により表される誤差を、補正値として回転角度に対応させて保持するようにしている。
【0040】
なお、この補正テーブル34aを生成するタイミングであるが、基本的には、デジタルプロトラクタ11の使用開始前に1回だけ生成し、その後は、同じ補正テーブル34aを使い続けることになる。
【0041】
次に、このようにして生成された補正テーブル34aを用いて、ロータリエンコーダ41により測定された回転角度を補正する処理について、図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0042】
なお、図4に示す処理では、回転角度測定処理の開始時のレチクル42は、基本姿勢になっており、基準位置から測定が開始されるものとする。また、この場合、測定時であるので、当然ながら、図1の画像取得装置12は取り外されている。
【0043】
ステップS31において、ユーザにより、レチクル42の回転操作が行われたか否かが判定される。
【0044】
ステップS31において、回転操作が行われたと判定された場合、CPU31は、ステップS32において、ロータリエンコーダ41から、回転操作による回転に応じたパルス信号を取得し、ステップS33において、そのパルス信号から回転角度を算出する。
【0045】
ステップS34において、CPU31は、算出した回転角度に応じた補正値を、補正テーブル34aから取得する。すなわち、補正テーブル34aには、ロータリエンコーダ41により測定される回転角度に対応させた補正値が1回転分格納されているので、所定の回転角度を指定することにより、指定した回転角度により特定される補正値が得られる。
【0046】
そして、CPU31は、ステップS35において、取得した補正値を用いて、ロータリエンコーダ41により測定された回転角度を補正し、ステップS36において、補正した回転角度を出力する。これにより、カウント表示部33には、補正後の正確な回転角度が表示される。
【0047】
以上のように、ロータリエンコーダ41とレチクル42とは、機械的に連動していてもそれぞれ異なった誤差を持っているため、ロータリエンコーダ41の出力には誤差が含まれることになるが、本発明によれば、それらの誤差を補正する補正テーブル34aを予め用意しておくことにより、被測定物102の角度の測定時には、その補正テーブル34aを用いて、ロータリエンコーダ41の出力値を補正することができる。その結果、被測定物の角度の測定に際し、測定精度を高めることができる。
【0048】
また、芯出し調整を行うことにより、ロータリエンコーダ41の回転中心と、レチクル42の回転中心との誤差をなくす方法も考えられるが、その調整には時間がかかってしまう。一方、本発明によれば、芯出し調整を行わずに、誤差を補正することができるので、その調整時間を短縮できるといったメリットもある。
【0049】
なお、本実施の形態においては、レチクル42の回転角度の信頼値を求める方法として、レチクル画像に対する画像処理から算出する方法を一例にして説明したが、レチクル42の動きを直接確認できる方法であればよく、例えば、レチクル42の回転を計測する専用のエンコーダ(不図示)を配置して、そのエンコーダにより信頼値を求めるようにしてもよい。
【0050】
また、レチクル42に示される測定用の線は、必ずしも十字線である必要はなく、少なくとも一方向に延びる直線が示されていればよい。
【0051】
なお、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
11 デジタルプロトラクタ, 12 画像取得装置, 31 CPU, 32 測定部, 33 カウント表示部, 34 補正テーブル保持部, 34a 補正テーブル, 41 ロータリエンコーダ, 41a スケール円板, 41b センサヘッド, 42 レチクル, 43 回転筒, 44 レンズ, 51 撮像部, 52 画像処理部, 101 顕微鏡, 102 被測定物, 111 ステージ, 112 対物レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方向に延びる直線が示されているレチクルと、
前記レチクルの回転に機械的に連動して回転する回転板の回転量及び回転方向を検出する検出手段と、
回転による前記レチクルの姿勢の変化を示す値と、その回転による前記検出手段の出力値とを基に得られた補正情報を保持する保持手段と、
保持している前記補正情報を用いて、前記検出手段の出力値を補正する補正手段と
を備えることを特徴とする角度測定装置。
【請求項2】
前記レチクルの姿勢の変化を示す値は、回転前と回転後の前記レチクルの像を撮像して得られる画像に対し、所定の画像処理を施すことにより得られる第1の回転角度である
ことを特徴とする請求項1に記載の角度測定装置。
【請求項3】
前記補正情報は、前記第1の回転角度と、前記検出手段の出力値である第2の回転角度との誤差を、前記第2の回転角度に対応付けた補正テーブルである
ことを特徴とする請求項2に記載の角度測定装置。
【請求項4】
少なくとも一方向に延びる直線が示されているレチクルと、
前記レチクルの回転に機械的に連動して回転する回転板の回転量及び回転方向を検出する検出手段と、
回転による前記レチクルの姿勢の変化を示す値を取得する取得手段と、
前記レチクルの姿勢の変化を示す値と、その回転による前記検出手段の出力値との差分を算出する算出手段と、
算出された前記差分を、補正情報として保持する保持手段と
を備えることを特徴とする角度測定装置。
【請求項5】
前記取得手段は、回転前と回転後の前記レチクルの像を撮像して得られる画像に対し、所定の画像処理を施すことによって、前記レチクルの姿勢の変化を示す値である第1の回転角度を取得する
ことを特徴とする請求項4に記載の角度測定装置。
【請求項6】
前記補正情報は、前記第1の回転角度と、前記検出手段の出力値である第2の回転角度との誤差を、前記第2の回転角度に対応付けた補正テーブルである
ことを特徴とする請求項5に記載の角度測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−261805(P2010−261805A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112674(P2009−112674)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】