説明

記憶素子及びメモリ

【課題】 スピン注入効率を向上することにより、書き込みに要する電流値を低減することができる記憶素子を提供する。
【解決手段】 情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層17に対して、中間層16を介して磁化固定層31が設けられ、中間層16が酸化マグネシウムから成り、積層方向に電流を流すことにより記憶層17の磁化M1の向きが変化して、記憶層17に対して情報の記録が行われ、記憶層17又は磁化固定層31を構成する強磁性層17,13,15のうち少なくとも一層が、ABC型ホイスラー合金から成る記憶素子3を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性層の磁化状態を情報として記憶する記憶層と、磁化の向きが固定された磁化固定層とから成り、電流を流すことにより記憶層の磁化の向きを変化させる記憶素子及びこの記憶素子を備えたメモリに係わり、不揮発メモリに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ等の情報機器では、ランダム・アクセス・メモリとして、動作が高速で、高密度なDRAMが広く使われている。
しかし、DRAMは電源を切ると情報が消えてしまう揮発性メモリであるため、情報が消えない不揮発のメモリが望まれている。
【0003】
そして、不揮発メモリの候補として、磁性体の磁化で情報を記録する磁気ランダム・アクセス・メモリ(MRAM)が注目され、開発が進められている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
MRAMは、ほぼ直交する2種類のアドレス配線(ワード線、ビット線)にそれぞれ電流を流して、各アドレス配線から発生する電流磁場によって、アドレス配線の交点にある磁気記憶素子の磁性層の磁化を反転して情報の記録を行うものである。
【0005】
一般的なMRAMの模式図(斜視図)を、図6に示す。
シリコン基板等の半導体基体110の素子分離層102により分離された部分に、各メモリセルを選択するための選択用トランジスタを構成する、ドレイン領域108、ソース領域107、並びにゲート電極101が、それぞれ形成されている。
また、ゲート電極101の上方には、図中前後方向に延びるワード線105が設けられている。
ドレイン領域108は、図中左右の選択用トランジスタに共通して形成されており、このドレイン領域108には、配線109が接続されている。
そして、ワード線105と、上方に配置された、図中左右方向に延びるビット線106との間に、磁化の向きが反転する記憶層を有する磁気記憶素子103が配置されている。この磁気記憶素子103は、例えば磁気トンネル接合素子(MTJ素子)により構成される。
さらに、磁気記憶素子103は、水平方向のバイパス線111及び上下方向のコンタクト層104を介して、ソース領域107に電気的に接続されている。
ワード線105及びビット線106にそれぞれ電流を流すことにより、電流磁界を磁気記憶素子103に印加して、これにより磁気記憶素子103の記憶層の磁化の向きを反転させて、情報の記録を行うことができる。
【0006】
そして、MRAM等の磁気メモリにおいて、記録した情報を安定に保持するためには、情報を記録する磁性層(記憶層)が、一定の保磁力を有していることが必要である。
一方、記録された情報を書き換えるためには、アドレス配線にある程度の電流を流さなければならない。
ところが、MRAMを構成する素子の微細化に従い、磁化の向きを反転させる電流値が増大する傾向を示す反面、アドレス配線が細くなるため、充分な電流が流せなくなってくる。
【0007】
そこで、より少ない電流で磁化反転が可能な構成として、スピン注入による磁化反転を利用する構成のメモリが注目されている(例えば、特許文献1参照)。
スピン注入による磁化反転とは、磁性体の中を通過してスピン偏極した電子を、他の磁性体に注入することにより、他の磁性体において磁化反転を起こさせるものである。
【0008】
例えば、巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)や磁気トンネル接合素子(MTJ素子)に対して、その膜面に垂直な方向に電流を流すことにより、これらの素子の少なくとも一部の磁性層の磁化の向きを反転させることができる。
【0009】
そして、スピン注入による磁化反転は、素子が微細化されても、電流を増やさずに磁化反転を実現することができる利点を有している。
【0010】
上述したスピン注入による磁化反転を利用する構成のメモリの模式図を図4及び図5に示す。図4は斜視図、図5は断面図である。
シリコン基板等の半導体基体60の素子分離層52により分離された部分に、各メモリセルを選択するための選択用トランジスタを構成する、ドレイン領域58、ソース領域57、並びにゲート電極51が、それぞれ形成されている。このうち、ゲート電極51は、図5中前後方向に延びるワード線を兼ねている。
ドレイン領域58は、図4中左右の選択用トランジスタに共通して形成されており、このドレイン領域58には、配線59が接続されている。
そして、ソース領域57と、上方に配置された、図4中左右方向に延びるビット線56との間に、スピン注入により磁化の向きが反転する記憶層を有する記憶素子53が配置されている。
この記憶素子53は、例えば磁気トンネル接合素子(MTJ素子)により構成される。図中61及び62は磁性層を示しており、2層の磁性層61,62のうち、一方の磁性層を磁化の向きが固定された磁化固定層として、他方の磁性層を磁化の向きが変化する磁化自由層即ち記憶層とする。
また、記憶素子53は、ビット線56と、ソース領域57とに、それぞれ上下のコンタクト層54を介して接続されている。これにより、記憶素子53に電流を流して、スピン注入により記憶層の磁化の向きを反転させることができる。
【0011】
このようなスピン注入による磁化反転を利用する構成のメモリの場合、図6に示した一般的なMRAMと比較して、デバイス構造を単純化することができる、という特徴も有している。
また、スピン注入による磁化反転を利用することにより、外部磁界により磁化反転を行う一般的なMRAMと比較して、素子の微細化が進んでも、書き込みの電流が増大しないという利点がある。
【0012】
ところで、MRAMの場合は、記憶素子とは別に書き込み配線(ワード線やビット線)を設けて、書き込み配線に電流を流して発生する電流磁界により、情報の書き込み(記録)を行っている。そのため、書き込み配線に、書き込みに必要となる電流量を充分に流すことができる。
【0013】
一方、スピン注入による磁化反転を利用する構成のメモリにおいては、記憶素子に流す電流によりスピン注入を行って、記憶層の磁化の向きを反転させる必要がある。
そして、このように記憶素子に直接電流を流して情報の書き込み(記録)を行うことから、書き込みを行うメモリセルを選択するために、記憶素子を選択トランジスタと接続してメモリセルを構成する。この場合、記憶素子に流れる電流は、選択トランジスタに流すことが可能な電流(選択トランジスタの飽和電流)の大きさに制限される。
このため、選択トランジスタの飽和電流以下の電流で書き込みを行う必要があり、スピン注入の効率を改善して、記憶素子に流す電流を低減する必要がある。
【0014】
また、読み出し信号を大きくするためには、大きな磁気抵抗変化率を確保する必要があり、そのためには記憶層の両側に接している中間層をトンネル絶縁層(トンネルバリア層)とした記憶素子の構成にすることが効果的である。
このように中間層としてトンネル絶縁層を用いた場合には、トンネル絶縁層が絶縁破壊することを防ぐために、記憶素子に流す電流量に制限が生じる。この観点からも、スピン注入時の電流を抑制する必要がある。
【0015】
従って、スピン注入により記憶層の磁化の向きを反転させる構成の記憶素子では、スピン注入効率を改善して、必要とする電流を減らす必要がある。
【0016】
そこで、スピン注入時の電流を抑制するための解決策として、記憶素子を、一般的な磁気トンネル接合素子である磁化固定層/中間層/記憶層という構成から、磁化固定層/中間層/記憶層/中間層/磁化固定層の積層構造を有し、かつ記憶層の上下に設けた磁化固定層の磁化の向きを反対向きにした構成に、変更することが提案されている(特許文献2参照)。
そして、上記特許文献2において、上下の磁化固定層の磁化の向きを互いに反対向きにすることにより、スピン注入効率を倍増させることが可能であることが示されている。
【0017】
【非特許文献1】日経エレクトロニクス 2001.2.12号(第164頁−171頁)
【特許文献1】特開2003−17782号公報
【特許文献2】米国特許公開第2004/0027853号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
確かに、理論的には、上記特許文献2に記載された構造を採ることにより、スピン注入効率が倍増すると考えられる。
【0019】
しかしながら、上記特許文献2に記載された構造の記憶素子を実際に作製し、この記憶素子の特性を調べた結果、理論通りの結果は得られず、充分なスピン注入効率の向上が認められなかった。
【0020】
上述した問題の解決のために、本発明においては、スピン注入効率を向上することにより、書き込みに要する電流値を低減することができる記憶素子、並びにこの記憶素子を有するメモリを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の記憶素子は、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有し、記憶層に対して、中間層を介して磁化固定層が設けられ、中間層が酸化マグネシウムから成り、積層方向に電流を流すことにより、記憶層の磁化の向きが変化して、記憶層に対して情報の記録が行われ、記憶層又は磁化固定層を構成する強磁性層のうち少なくとも一層がABC型ホイスラー合金から成るものである。
【0022】
本発明のメモリは、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有する記憶素子と、互いに交差する2種類の配線とを備え、記憶素子が上記本発明の記憶素子の構成であり、2種類の配線の交点付近かつ2種類の配線の間に記憶素子が配置され、2種類の配線を通じて、記憶素子に前記積層方向の電流が流れるものである。
【0023】
上述の本発明の記憶素子の構成によれば、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有し、この記憶層に中間層を介して磁化固定層が設けられており、積層方向に電流を流すことにより、記憶層の磁化の向きが変化して、記憶層に対して情報の記録が行われるので、積層方向に電流を流してスピン注入による情報の記録を行うことができる。
また、中間層が酸化マグネシウムからなり、記憶層又は磁化固定層を構成する強磁性層のうち少なくとも一層がABC型ホイスラー合金から成ることにより、スピン注入効率を大幅に増大させることが可能になる。これにより、スピン注入により記憶層の磁化の向きを反転させるために必要な電流量(閾値電流)を低減することができる。
【0024】
上述の本発明のメモリの構成によれば、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有する記憶素子と、互いに交差する2種類の配線とを備え、記憶素子が上記本発明の記憶素子の構成であり、2種類の配線の交点付近かつ2種類の配線の間に記憶素子が配置され、これら2種類の配線を通じて記憶素子に積層方向の電流が流れるものであることにより、2種類の配線を通じて記憶素子の積層方向に電流を流してスピン注入による情報の記録を行うことができる。
また、スピン注入により記憶素子の記憶層の磁化の向きを反転させるために必要な電流量(閾値電流)を低減することができる。
【発明の効果】
【0025】
上述の本発明によれば、記憶層の磁化の向きを反転させるために必要となる電流量(閾値電流)を抑制することができるため、情報の記録に必要な電流量を低減することができる。
【0026】
これにより、記憶素子の動作マージンが充分に得られ、エラーなく記憶素子を動作させることができる。
また、大きな電圧をかける必要がなくなることから、中間層である酸化マグネシウムが破壊されることがない。
【0027】
従って、安定して動作する、信頼性の高いメモリを実現することができる。
また、メモリ全体の消費電力を低減することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
まず、本発明の具体的な実施の形態の説明に先立ち、本発明の概要について説明する。
本発明は、前述したスピン注入により、記憶素子の記憶層の磁化の向きを反転させて、情報の記録を行うものである。記憶層は、強磁性層等の磁性体により構成され、情報を磁性体の磁化状態(磁化の向き)により保持するものである。
【0029】
スピン注入により磁性層の磁化の向きを反転させる基本的な動作は、巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)もしくはトンネル磁気抵抗効果素子(MTJ素子)から成る記憶素子に対して、その膜面に垂直な方向に、ある閾値以上の電流を流すものである。このとき、電流の極性(向き)は、反転させる磁化の向きに依存する。
この閾値よりも絶対値が小さい電流を流した場合には、磁化反転を生じない。
【0030】
スピン注入によって、磁性層の磁化の向きを反転させるときに、必要となる電流の閾値Icは、現象論的に、下記数1により表される(例えば、F.J.Albert他著、Appl.Phys.Lett.,77,p.3809,2000年、等を参照)。
【0031】
【数1】

【0032】
本発明では、式(1)で表されるように、電流の閾値が、磁性層の体積V、磁性層の飽和磁化M、実効的な磁気異方性の大きさを制御することにより、任意に設定することが可能であることを利用する。
そして、磁化状態により情報を保持することができる磁性層(記憶層)と、磁化の向きが固定された磁化固定層とを有する記憶素子を構成する。
【0033】
記憶層の磁化状態を変化させる電流の閾値は、実際には、例えば記憶層の厚さが2nmであり、平面パターンが120〜130nm×100nmの略楕円形の巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)において、+側の閾値+Ic=+0.6mAであり、−側の閾値−Ic=−0.2mAであり、その際の電流密度は約6×10A・cmである。これらは、上記の式(1)にほぼ一致する(屋上他著,日本応用磁気学会誌,Vol.28,No.2,p.149,2004年参照)。
【0034】
一方、電流磁場により磁化反転を行う通常のMRAMでは、書き込み電流が数mA以上必要となる。
これに対して、スピン注入により磁化反転を行う場合には、上述のように、書き込み電流の閾値が充分に小さくなるため、集積回路の消費電力を低減させるために有効であることがわかる。
また、通常のMRAMで必要とされる、電流磁界発生用の配線(図6の105)が不要となるため、集積度においても通常のMRAMに比較して有利である。
【0035】
しかしながら、前述したように、スピン注入による磁化反転を利用する構成のメモリにおいては、記憶素子に流す電流によりスピン注入を行って、記憶層の磁化の向きを反転させる必要がある。
そして、このように記憶素子に直接電流を流して情報の書き込み(記録)を行うことから、書き込みを行うメモリセルを選択するために、記憶素子を選択トランジスタと接続してメモリセルを構成する。この場合、記憶素子に流れる電流は、選択トランジスタに流すことが可能な電流(選択トランジスタの飽和電流)の大きさに制限される。
このため、選択トランジスタの飽和電流以下の電流で書き込みを行う必要があり、スピン注入の効率を改善して、記憶素子に流す電流を低減する必要がある。
【0036】
記憶層と磁化固定層との間の非磁性の中間層として、トンネル絶縁層を用いて磁気トンネル接合(MTJ)素子を構成することにより、非磁性導電層を用いて巨大磁気抵抗効果(GMR)素子を構成した場合と比較して、磁気抵抗変化率(MR比)を大きくすることができ、読み出し信号強度を大きくすることができる。
【0037】
そして、特に、このトンネル絶縁層の材料として、酸化マグネシウム(MgO)を用いることにより、酸化アルミニウムを用いた場合よりも、磁気抵抗変化率(MR比)を大きくすることができる。
また、一般に、スピン注入効率はMR比に依存し、MR比が大きいほど、スピン注入効率が向上し、磁化反転電流密度を低減することができる。
従って、中間層であるトンネル絶縁層の材料として酸化マグネシウムを用いることにより、スピン注入による書き込み閾値電流を低減することができ、少ない電流で情報の書き込み(記録)を行うことができる。また、読み出し信号強度を大きくすることができる。
【0038】
そこで、本発明では、記憶層と磁化固定層との間の中間層を、酸化マグネシウムから成る構成(トンネル絶縁層)とする。
これにより、MR比(TMR比)を大きくして、スピン注入による書き込み閾値電流を低減することができ、少ない電流で情報の書き込み(記録)を行うことができる。また、読み出し信号強度を大きくすることができる。
【0039】
なお、酸化マグネシウム(MgO)膜から成るトンネル絶縁層は、MgO膜が結晶化していて、001方向に結晶配向性を維持していることがより望ましい。
【0040】
また、種々の検討を行った結果、MR比(抵抗変化率)が大きくなることにより記憶層の磁化反転電流密度が低減される以外に、さらに記憶層の磁化反転電流密度を飛躍的に低減させることができる磁化固定層/トンネル絶縁層(バリア層)の材料の組み合わせ条件を見出した。
【0041】
そこで、本発明では、さらに、記憶層又は磁化固定層を構成する強磁性層のうち、少なくとも一層を、ABC型ホイスラー合金から成る構成とする。
これにより、スピン注入効率を向上し、記憶層の磁化の向きを反転させるために必要となる電流密度を低減することができる。
【0042】
本発明に係るABC型ホイスラー合金において、A,B,Cの各成分には、以下に挙げる元素を用いることができる。
成分Aには、Co,Ni,Cuのうち1種以上の元素を用いることができる。
成分Bには、Mn,Fe,Crのうち1種以上の元素を用いることができる。
成分Cには、Al,Ge,Si,Sn,Sbのうち1種以上の元素を用いることができる。
このように、各成分の元素は磁性元素に限定されるものではなく、非磁性元素を用いることができる。また、3つの成分に、いずれも非磁性元素を用いても、合金とすると磁性を示す場合もある。
【0043】
なお、ABC型合金であるため、成分Aの元素の含有量は50原子%、成分Bの元素の含有量は25原子%、成分Cの元素の含有量は25原子%となるべきであるが、本発明では、ABC型合金の各成分の元素の含有量が多少ずれても、結晶構造や特性的には問題ない。
好ましくは、成分Aの元素の含有量を45〜55原子%、成分Bの元素の含有量を20〜30原子%、成分Cの元素の含有量を20〜30原子%とする。このような範囲内とすれば、体心立方(BCC)構造をベースとした規則構造を保ち、ホイスラー合金としての磁気特性を得ることができる。
【0044】
なお、一般的なMRAMの構成の記憶層の材料として、Co−Fe合金が用いられており、このCo−Fe合金のFe含有量が多くなると、確かにMR比が大きくなり、スピン注入効率が向上する傾向は認められる。
しかしながら、実際には、MR比の増大分から予想されるほどの反転電流密度の減少は得られない。
【0045】
磁化固定層の材料についても同様であり、Co−Fe合金やCo−Fe−B合金が一般的な材料であり、MR比の増大とともにスピン注入効率が向上する傾向は認められるが、飛躍的な向上は認められていない。
【0046】
ところで、これまでに、ホイスラー合金を用いた磁気トンネル接合(MTJ)素子において、以下に挙げるように、MR特性を評価した報告がなされている。
CoMnAl合金:日本応用磁気学界誌,28(2004),p.573−576参照
CoCrFeAl合金:日本応用磁気学界誌,29(2004),p.124−127参照
【0047】
しかしながら、これまでの報告では、ホイスラー合金を用いたMTJ素子の形成条件やMTJ素子の特性評価には、アルミニウム酸化物(AlOx)が用いられてきた(例えば、Journal of Magnetism and Magnetic Materials,240(2002),p.546-549や、 Thin Solid Films,425(2003),p.225-232等参照)。
そして、ホイスラー合金層のみでは充分な磁性を得ることには成功しているが、ホイスラー合金を用いたMTJ素子においては、予想よりも非常に小さなMR比しか得られていない。
【0048】
これに対して、本発明では、ホイスラー合金から成る強磁性層を用いるだけでなく、中間層のトンネル絶縁層として酸化マグネシウム(MgO)を用いたMTJ素子により記憶素子を構成する。
これにより、MTJ素子において、充分大きいMR比を実現する。
【0049】
本発明において、さらに好ましくは、ホイスラー合金から成る強磁性層と、酸化マグネシウムから成るトンネル絶縁層(中間層)とが、直接接している構成とする。
本発明者らは、このような構成とすれば、記憶素子の積層膜を形成した後にアニールを行うことにより、ホイスラー合金が体心立方(BCC)構造をベースとする適切な規則構造を形成し、MgO層との間に高いMR比が得られるような望ましい整合界面が形成されることを見い出した。
その結果、これまでにない、非常に高いMR比と、非常に小さな磁化反転電流とを得ることに成功した。
【0050】
これまで提案されている報告では、基板にMgO基板を用いることはあったが、その場合でも、電極層やPtMn,IrMn等の反強磁性層がMgO基板とホイスラー合金層との間に入り、ホイスラー合金の結晶構造制御に対して充分に効果を発揮していなかったと考えられる。
そして、AlOxから成るトンネル絶縁層(バリア層)は、アモルファス層であるために、ホイスラー合金との界面において、ホイスラー合金が期待されるハーフメタルの性質を示すことがないことから、小さなMR比しか得られなかった。
【0051】
これに対して、ホイスラー合金層とMgOから成るトンネル絶縁層(バリア層)が直接接する構成とすることにより、ホイスラー合金とトンネル絶縁層(バリア層)との界面における結晶構造が、期待されるハーフメタルとなっており、しかもMgOの結晶性に影響を受けることにより、高いMR比が得られる整合界面が形成されたと考えられる。
【0052】
なお、通常の結晶成長では、後に形成される上側の層が先に形成されている下側の層の結晶成長性に従うと考えられるが、本発明の場合、ホイスラー合金層が先に形成されて下側にあって、その上にMgO層が形成された場合でも、ホイスラー合金層が上にあるMgO層の結晶性に従う傾向が認められている。
即ち、MgO層に対して、ホイスラー合金層を、下層側又は上層側のいずれで接する構成としても、同様に、本発明の効果を得ることができる。
【0053】
記憶素子の積層膜を成膜した後のアニール温度は、260℃から430℃までの範囲内が適当である。この範囲よりも低い温度の場合、磁化固定層の磁化の向きが充分に固定されなくなる。また、この範囲よりも高い温度、強磁性層が熱劣化を開始し、磁気特性が損なわれるようになる。
【0054】
また、ホイスラー合金層は、500℃程度の高温で形成されることが望ましい。これも既に報告されていることである。
しかしながら、これまでは、400℃以上の高温で形成しないと、ホイスラー合金層の磁化が充分に得られなかった。
これに対して、ホイスラー合金層とMgOから成るトンネル絶縁層(バリア層)が直接接する構成とすることにより、基板加熱を特に行うことなく、スパッタ中の温度上昇(〜200℃)だけでも、後で適正な条件でアニールすれば、ホイスラー合金層において充分な磁気特性が得られる。
【0055】
上述したように、MgOバリア層とホイスラー合金層とを組み合わせることにより、さらに好ましくは、これらを直接接した構成として、適正条件でアニールすることにより、これまでに報告されたことのない非常に優れた高いMR比と、低いスピン注入磁化反転電流を得ることができる。
【0056】
ところで、記憶素子に充分な書き込み電流を流すためには、トンネル絶縁層(トンネルバリア層)の面積抵抗値を小さくする必要がある。
トンネル絶縁層の面積抵抗値は、スピン注入により記憶層の磁化の向きを反転させるために必要な電流密度を得る観点から、数十Ωμm程度以下に制御する必要がある。
そして、MgO膜から成るトンネル絶縁層では、面積抵抗値を上述の範囲とするために、MgO膜の膜厚を1nm以下に設定する必要がある。
【0057】
また、記憶層の磁化の向きを、小さい電流で容易に反転できるように、記憶素子を小さくすることが望ましい。
従って、好ましくは、記憶素子の面積を0.04μm以下とする。
【0058】
本発明は、記憶層又は磁化固定層を構成する強磁性層のうち少なくとも一層を、上述したABC型のホイスラー合金から成る構成とする。
即ち、記憶層を構成する強磁性層のうちの一層或いは全ての層が、上述したABC型のホイスラー合金から成る構成、磁化固定層を構成する強磁性層のうちの一層或いは全ての層が、上述したABC型のホイスラー合金から成る構成、記憶層を構成する強磁性層のうちの一層或いは全ての層及び磁化固定層を構成する強磁性層のうちの一層或いは全ての層が、上述したABC型のホイスラー合金から成る構成が挙げられる。
【0059】
なお、上述したABC型のホイスラー合金から成る構成の強磁性層と、材料又は組成範囲の異なる他の強磁性層とを直接積層させることも可能であり、このように積層させた場合でも、本発明の効果が得られる。
【0060】
また、記憶素子の膜構成は、記憶層が磁化固定層の上側に配置される構成でも、下側に配置される構成でも全く問題はない。
【0061】
なお、記憶素子の記憶層に記録された情報を読み出す方法としては、記憶素子の記憶層に薄い絶縁膜を介して、情報の基準となる磁性層を設けて、絶縁層を介して流れる強磁性トンネル電流によって読み出してもよいし、磁気抵抗効果により読み出してもよい。
【0062】
続いて、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の一実施の形態として、メモリの概略構成図(斜視図)を図1に示す。
このメモリは、互いに直交する2種類のアドレス配線(例えばワード線とビット線)の交点付近に、磁化状態で情報を保持することができる記憶素子が配置されて成る。
即ち、シリコン基板等の半導体基体10の素子分離層2により分離された部分に、各メモリセルを選択するための選択用トランジスタを構成する、ドレイン領域8、ソース領域7、並びにゲート電極1が、それぞれ形成されている。このうち、ゲート電極1は、図中前後方向に延びる一方のアドレス配線(例えばワード線)を兼ねている。
ドレイン領域8は、図中左右の選択用トランジスタに共通して形成されており、このドレイン領域8には、配線9が接続されている。
【0063】
そして、ソース領域7と、上方に配置された、図中左右方向に延びる他方のアドレス配線(例えばビット線)6との間に、記憶素子3が配置されている。この記憶素子3は、スピン注入により磁化の向きが反転する強磁性層から成る記憶層を有する。
また、この記憶素子3は、2種類のアドレス配線1,6の交点付近に配置されている。
この記憶素子3は、ビット線6と、ソース領域7とに、それぞれ上下のコンタクト層4を介して接続されている。
これにより、2種類のアドレス配線1,6を通じて、記憶素子3に上下方向の電流を流して、スピン注入により記憶層の磁化の向きを反転させることができる。
【0064】
また、本実施の形態のメモリの記憶素子3の断面図を図2に示す。
図2に示すように、この記憶素子3は、スピン注入により磁化M1の向きが反転する記憶層17に対して、下層に磁化固定層31を設けている。磁化固定層31の下に反強磁性層12が設けられ、この反強磁性層12により、磁化固定層31の磁化の向きが固定される。
記憶層17と磁化固定層31との間には、トンネルバリア層(トンネル絶縁層)となる絶縁層16が設けられ、記憶層17と磁化固定層31とにより、MTJ素子が構成されている。
【0065】
また、反強磁性層12の下には下地層11が形成され、記憶層17の上にはキャップ層18が形成されている。
【0066】
磁化固定層31は、積層フェリ構造となっている。
具体的には、磁化固定層31は、2層の強磁性層13,15が、非磁性層14を介して積層されて反強磁性結合した構成である。
【0067】
磁化固定層31の各強磁性層13,15が積層フェリ構造となっているため、強磁性層13の磁化M13が右向き、強磁性層15の磁化M15が左向きとなっており、互いに反対向きになっている。
これにより、磁化固定層31の各強磁性層13,15から漏れる磁束が、互いに打ち消し合う。
【0068】
本実施の形態においては、特に、特に、記憶層17及び磁化固定層31を構成する強磁性層、即ち、記憶層17と、磁化固定層31の強磁性層13,15とのうち、少なくとも一層を、ABC型ホイスラー合金から成る構成とする。
さらに、中間層である絶縁層16を、酸化マグネシウム層とする。
【0069】
記憶層17を上述したホイスラー合金から成る構成としない場合には、記憶層17の構成材料は特に限定されない。
この場合、例えば、コバルト、鉄、ニッケル、ガドリウムの1種もしくは2種以上から成る合金材料を用いることができる。さらに、モリブデン、マンガン、銅、ニオブ、ジルコニウム等の遷移金属元素やB等の軽元素を含有させることもできる。
また、例えばCoFe/NiFe/CoFeの積層膜といったように、材料が異なる複数の膜を直接(非磁性層を介さずに)積層して、記憶層17を構成してもよい。
【0070】
磁化固定層31の強磁性層13,15の構成材料は、強磁性層13,15を上述したホイスラー合金から成る構成としない場合には、特に限定されない。
この場合例えば、鉄、ニッケル、コバルト、ガドリウムの1種もしくは2種以上から成る合金材料を用いることができる。さらに、Nb,Zr等の遷移金属元素やB,C等の軽元素を含有させることもできる。
【0071】
磁化固定層31の積層フェリを構成する非磁性層14の材料としては、ルテニウム、銅、クロム、金、銀等が使用できる。非磁性層14の膜厚は、材料によって変動するが、好ましくは、ほぼ0.5nmから2.5nmの範囲で使用する。
反強磁性層12の材料としては、鉄、ニッケル、白金、イリジウム、ロジウム等の金属元素とマンガンとの合金、コバルトやニッケルの酸化物等が使用できる。
【0072】
磁化固定層31の強磁性層13,15の膜厚は、1nm以上10nm以下が適当である。
【0073】
本実施の形態の記憶素子3は、下地層11からキャップ層25までを真空装置内で連続的に形成して、その後エッチング等の加工により記憶素子3のパターンを形成することにより、製造することができる。
【0074】
上述の本実施の形態によれば、記憶素子3の記憶層17又は磁化固定層31を構成する強磁性層17,13,15のうち、少なくとも一層を、ABC型ホイスラー合金から成る構成としたことにより、高いMR比を確保することができると共に、スピン注入効率を向上させて、スピン注入により記憶層17の磁化M1の向きを反転させるために必要な電流密度を著しく低減することが可能となる。
【0075】
さらに、本実施の形態によれば、中間層である絶縁層16を、酸化マグネシウム層としたことにより、磁気抵抗変化率(MR比)を高くすることができる。
このようにMR比を高くすることによっても、スピン注入の効率を向上して、記憶層17の磁化M1の向きを反転させるために必要な電流密度を低減することができる。
【0076】
従って、安定して動作する信頼性の高いメモリを実現することができ、記憶素子3を備えたメモリにおいて、消費電力を低減することができる。
【0077】
なお、上述の実施の形態の記憶素子3において、記憶層17又は磁化固定層31を構成する強磁性層17,13,15のうち、酸化マグネシウムから成る絶縁層16に接する強磁性層17,15において、絶縁層16側にABC型のホイスラー合金を用いて、絶縁層16とは反対側に磁性材料(例えば、強磁性層13と同じ材料)を用いて、これらを積層した構成としても良い。
【0078】
次に、本発明の他の実施の形態として、メモリを構成する記憶素子の断面図を図3に示す。
この記憶素子30は、スピン注入により磁化M1の向きが反転する記憶層17に対して、下層に磁化固定層31を設け、上層に磁化固定層32を設けている。即ち、記憶層17に対して、上下2つの磁化固定層31,32を設けた構成である。
【0079】
上層の磁化固定層32は、単層の強磁性層20のみを有する構成である。
記憶層17と上層の磁化固定層32との間には、トンネルバリア層(トンネル絶縁層)となる絶縁層18が設けられ、記憶層17と磁化固定層32とにより、MTJ素子が構成されている。
そして、磁化固定層32の上に反強磁性層21が設けられ、この反強磁性層21により磁化固定層32の強磁性層20の磁化M20の向きが固定される。
また、反強磁性層21の上にキャップ層18が形成されている。
【0080】
本実施の形態においては、特に、記憶層17及び磁化固定層31,32を構成する強磁性層、即ち、記憶層17と、磁化固定層31の強磁性層13,15と、磁化固定層32の強磁性層20のうち、少なくとも一層を、ABC型ホイスラー合金から成る構成とする。
さらに、中間層である絶縁層16を、酸化マグネシウム層とする。
【0081】
その他の構成は、図2に示した記憶素子3と同様であるので、同一符号を付して重複説明を省略する。
【0082】
また、本実施の形態の記憶素子30を用いて、図1に示したメモリと同様の構成のメモリを構成することができる。
即ち、記憶素子30を2種類のアドレス配線の交点付近に配置してメモリを構成し、2種類のアドレス配線を通じて記憶素子30に上下方向(積層方向)の電流を流して、スピン注入により記憶層17の磁化M1の向きを反転させて、記憶素子30に情報の記録を行うことができる。
【0083】
上述の本実施の形態によれば、記憶素子30の記憶層17又は磁化固定層31,32を構成する強磁性層17,13,15,20のうち、少なくとも一層を、ABC型ホイスラー合金から成る構成としたことにより、高いMR比を確保することができると共に、スピン注入効率を向上させて、スピン注入により記憶層17の磁化M1の向きを反転させるために必要な電流密度を著しく低減することが可能となる。
【0084】
さらに、本実施の形態によれば、中間層である絶縁層16,19を、酸化マグネシウム層としたことにより、磁気抵抗変化率(MR比)を高くすることができる。
このようにMR比を高くすることによっても、スピン注入の効率を向上して、記憶層17の磁化M1の向きを反転させるために必要な電流密度を低減することができる。
【0085】
さらにまた、本実施の形態では、記憶層17に対して、下層側と上層側に絶縁層16,19を介して、それぞれ磁化固定層31,32が設けられているため、この構成の作用によっても、記憶層17の磁化M1の向きを反転させるために必要となる電流を低減することができる。
【0086】
従って、安定して動作する信頼性の高いメモリを実現することができ、記憶素子30を備えたメモリにおいて、消費電力を低減することができる。
【0087】
なお、上述の実施の形態の記憶素子30において、記憶層17又は磁化固定層31,32を構成する強磁性層17,13,15,20のうち、酸化マグネシウムから成る絶縁層16,19に接する強磁性層17,15,20において、絶縁層16,19側にABC型のホイスラー合金を用いて、絶縁層16,19とは反対側に磁性材料(例えば、強磁性層13と同じ材料)を用いて、これらを積層した構成としても良い。
【0088】
(実施例)
ここで、本発明の記憶素子の構成において、具体的に各層の材料や膜厚等を選定して、特性を調べた。
実際には、メモリには、図1や図4に示したように、記憶素子以外にもスイッチング用の半導体回路等が存在するが、ここでは、記憶層の磁気抵抗特性を調べる目的で、記憶素子のみを形成したウエハにより検討を行った。
【0089】
厚さ0.575mmのシリコン基板上に、厚さ2μmの熱酸化膜を形成し、その上に図2に示した構成の記憶素子3を形成した。
具体的には、図2に示した構成の記憶素子3において、各層の材料及び膜厚を、下地膜11を膜厚3nmのTa膜、反強磁性層12を膜厚20nmのPtMn膜、磁化固定層31を構成する強磁性層13を膜厚2nmのCoFe膜、強磁性層15を膜厚1.5nmのCoFe膜と膜厚2.0nmのホイスラー合金膜との積層膜、積層フェリ構造の磁化固定層31を構成する非磁性層14を膜厚0.8nmのRu膜、トンネル絶縁層となる絶縁層(バリア層)16を膜厚0.8nmの酸化マグネシウム膜、記憶層17を膜厚3nmのCoFeB膜、キャップ層18を膜厚5nmのTa膜と選定し、また下地膜11と反強磁性層12との間に図示しない膜厚100nmのCu膜(後述するワード線となるもの)を設けて、各層を形成した。
上記膜構成で、PtMn膜の組成はPt50Mn50(原子%)、CoFe膜の組成はCo90Fe10(原子%)とした。
酸化マグネシウム膜から成る絶縁層16以外の各層は、DCマグネトロンスパッタ法を用いて成膜した。
酸化マグネシウム(MgO)膜から成る絶縁層16は、RFマグネトロンスパッタ法を用いて成膜した。
強磁性層15のホイスラー合金をスパッタ法にて形成する際には、基板の温度を450℃まで加熱した。
さらに、記憶素子3の各層を成膜した後に、磁場中熱処理炉で、10kOe・350℃・4時間の熱処理を行い、MgO/ホイスラー合金層の結晶構造・界面制御と反強磁性層12のPtMn膜の規則化熱処理を行った。
【0090】
次に、ワード線部分をフォトリソグラフィによってマスクした後に、ワード線以外の部分の積層膜に対してArプラズマにより選択エッチングを行うことにより、ワード線(下部電極)を形成した。この際に、ワード線部分以外は、基板の深さ5nmまでエッチングされた。
【0091】
その後、電子ビーム描画装置により記憶素子3のパターンのマスクを形成し、積層膜に対して選択エッチングを行い、記憶素子3を形成した。記憶素子3部分以外は、ワード線のCu層直上までエッチングした。
なお、特性評価用の記憶素子には、磁化反転に必要なスピントルクを発生させるために、記憶素子に充分な電流を流す必要があるため、トンネル絶縁層の抵抗値を抑える必要がある。そこで、記憶素子3のパターンを、短軸0.09μm×長軸0.18μmの楕円形状として、記憶素子3の面積抵抗値(Ωμm2)が20Ωμmとなるようにした。
【0092】
次に、記憶素子3部分以外を、厚さ100nm程度のAlのスパッタリングによって絶縁した。
その後、フォトリソグラフィを用いて、上部電極となるビット線及び測定用のパッドを形成した。
このようにして、記憶素子3の試料を作製した。
【0093】
上述の製造方法により、それぞれ磁化固定層31の強磁性層15のホイスラー合金の組成(使用元素)を変えた、記憶素子3の各試料を作製した。
即ち、ABC型ホイスラー合金として、CoMnSi,CoMnAl,CuMnAl,CoMnGe,CoMnSn,CoCrFeAlを磁化固定層31の強磁性層15に用いた、試料をそれぞれ作製して、本発明の実施例とした。
また、本発明に対する比較例として、ホイスラー合金の代わりに磁性材料をCoFe膜上に積層して磁化固定層31の強磁性層15を形成した、記憶素子3の各試料を作製した。
即ち、磁性材料として、CoFe,NiFe,Feを磁化固定層31の強磁性層15に用いた、試料をそれぞれ作製して、比較例とした。
【0094】
これら実施例及び比較例の作製した記憶素子3の各試料に対して、それぞれ以下のようにして特性の評価を行った。
測定に先立ち、反転電流のプラス方向とマイナス方向の値を対称になるように制御することを可能にするため、記憶素子3に対して、外部から磁界を与えることができるように構成した。また、記憶素子3に流す電流量が、絶縁層16が破壊しない範囲内の1mAまでとなるように設定した。
【0095】
(反転電流値の測定)
記憶素子3に電流を流して、その後の記憶素子3の抵抗値を測定した。記憶素子3の抵抗値を測定する際には、温度を室温25℃として、ワード線の端子とビット線の端子にかかるバイアス電圧が10mVとなるように調節した。さらに、記憶素子3に流す電流量を変化させて、この記憶素子3の抵抗値の測定を行い、測定結果から抵抗−電流曲線を得た。
この抵抗−電流曲線から、抵抗値が変化する電流値を求めて、これを磁化の向きを反転させる反転電流値とした。なお、この抵抗−電流曲線を得る測定は、両極性(プラス方向及びマイナス方向)の電流について行い、両極性の反転電流値を求めた。
そして、両極性の反転電流値の絶対値の平均値を計算した。
【0096】
得られた測定結果を、まとめて表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
各試料とも記憶層17は同じ構成であるため、この測定結果から、スピン注入効率を単純に比較することができる。
表1より、各実施例のように、磁化固定層31の強磁性層15の一部にホイスラー合金層、トンネル絶縁層16に酸化マグネシウム層を用いることにより、反転電流が飛躍的に低減されることがわかり、また、MR比も大きく改善されることがわかる。
【0099】
従って、ABC型ホイスラー合金を用いた、本発明の構成とすることにより、優れた磁化反転特性が得られることがわかる。
そして、上記各実施例の構成とすることにより、0.4mA以下の比較的小さい電流値で情報の書き込みを行うことが可能な記憶素子を作製することができ、これまでにない低消費電力型の磁気メモリを実現することが可能になる。
【0100】
本発明では、上述の各実施の形態で示した記憶素子3,30の膜構成に限らず、様々な膜構成を採用することが可能である。
【0101】
上述の各実施の形態では、磁化固定層31が2層の強磁性層13,15と非磁性層14から成る積層フェリ構造となっているが、例えば、磁化固定層を単層の強磁性層により構成してもよい。
【0102】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の一実施の形態のメモリの概略構成図(斜視図)である。
【図2】図1の記憶素子の断面図である。
【図3】本発明の他の実施の形態の記憶素子の断面図である。
【図4】スピン注入による磁化反転を利用したメモリの概略構成図(斜視図)である。
【図5】図4のメモリの断面図である。
【図6】従来のMRAMの構成を模式的に示した斜視図である。
【符号の説明】
【0104】
3,30 記憶素子、11 下地層、12,21 反強磁性層、13,15,20 強磁性層、14 非磁性層、16,19 絶縁層、17 記憶層、18 キャップ層、31,32 磁化固定層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有し、
前記記憶層に対して、中間層を介して磁化固定層が設けられ、
前記中間層が、酸化マグネシウムから成り、
積層方向に電流を流すことにより、前記記憶層の磁化の向きが変化して、前記記憶層に対して情報の記録が行われ、
前記記憶層又は前記磁化固定層を構成する強磁性層のうち少なくとも一層が、ABC型ホイスラー合金から成ることを特徴とする記憶素子。
【請求項2】
前記記憶層又は前記磁化固定層を構成する強磁性層のうち、前記ABC型ホイスラー合金から成る強磁性層が、前記中間層に接していることを特徴とする請求項1に記載の記憶素子。
【請求項3】
情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有する記憶素子と、
互いに交差する2種類の配線とを備え、
前記記憶素子は、前記記憶層に対して、中間層を介して磁化固定層が設けられ、前記中間層が、酸化マグネシウムからなり、積層方向に電流を流すことにより、前記記憶層の磁化の向きが変化して、前記記憶層に対して情報の記録が行われ、前記記憶層又は前記磁化固定層を構成する強磁性層のうち少なくとも一層が、ABC型ホイスラー合金からなり、
前記2種類の配線の交点付近かつ前記2種類の配線の間に、前記記憶素子が配置され、
前記2種類の配線を通じて、前記記憶素子に前記積層方向の電流が流れる
ことを特徴とするメモリ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−295001(P2006−295001A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116128(P2005−116128)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】